説明

ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物およびその製造方法

【課題】樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性を損ないにくいホスファゼン化合物の提供。
【解決手段】下記の式で表されるホスファゼン化合物。


nは3〜15の整数を示す。Aの一例は、下記の式で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホスファゼン化合物およびその製造方法、特に、ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用および民生用の機器並びに電気製品などの分野において、合成樹脂は、その加工性、耐薬品性、耐候性、電気的特性および機械的強度等の点で他の材料に比べて優位性を有するため多用されており、また、使用量が増加している。しかし、合成樹脂は、燃焼し易い性質を有するため、難燃性の付与が求められており、近年その要求性能が次第に高まっている。このため、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に使用されている樹脂組成物、例えばエポキシ樹脂組成物は、難燃化するために、ハロゲン含有化合物やハロゲン含有化合物と酸化アンチモンなどのアンチモン化合物との混合物が一般的な難燃剤として添加されている。ところが、このような難燃剤を配合した樹脂組成物は、燃焼時や成形時等において、環境汚染のおそれがあるハロゲン系ガスを発生する可能性がある。また、ハロゲン系ガスは、電子部品の電気的特性や機械的特性を阻害する可能性がある。そこで、最近では、合成樹脂用の難燃剤として、燃焼時や成形時等においてハロゲン系ガスが発生しにくい非ハロゲン系のもの、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物系難燃剤やリン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン酸アミド系、ポリリン酸アンモニウム系およびホスファゼン系などのリン系難燃剤が多用されるようになっている。
【0003】
このうち、金属水和物系難燃剤は、脱水熱分解の吸熱反応とそれに伴う水の放出が合成樹脂の熱分解や燃焼開始温度と重複した温度領域で起こることで難燃化効果を発揮するが、その効果を高めるためには樹脂組成物に対して多量に配合する必要がある。このため、この種の難燃剤を含む樹脂組成物の成形品は、機械的強度が損なわれるという欠点がある。一方、リン系難燃剤のうち、リン酸エステル系および縮合リン酸エステル系のものは、可塑効果を有するため、難燃性を高めるために樹脂組成物に対して多量に添加すると、樹脂成形品の機械的強度が低下するなどの欠点が生じる。また、リン酸エステル系、リン酸アミド系およびポリリン酸アンモニウム系のものは、容易に加水分解することから、機械的および電気的な長期信頼性が要求される樹脂成形品の製造用材料においては実質的に使用が困難である。これらに対し、ホスファゼン系の難燃剤は、他のリン系難燃剤に比べて可塑効果および加水分解性が小さく、樹脂組成物に対する添加量を大きくすることができるため、特許文献1〜5に記載のように、合成樹脂用の有効な難燃剤として多用されつつあるが、樹脂組成物に対する添加量を増やすと、高温下における樹脂成形品の信頼性を損なう可能性がある。具体的には、熱可塑性樹脂系の樹脂組成物の場合は、高温下においてその樹脂成形体からホスファゼン系の難燃剤がブリードアウト(溶出)し易く、また、熱硬化性樹脂系の樹脂組成物の場合は、高温下においてその樹脂成形品にフクレ等の変形が発生し、当該樹脂成形品が積層基板等の電気・電子分野において用いられる場合は変形によるショートを引き起こす可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−103939号公報
【特許文献2】特開2004−83671号公報
【特許文献3】特開2004−210849号公報
【特許文献4】特開2005−8835号公報
【特許文献5】特開2005−248134号公報
【0005】
そこで、ホスファゼン系の難燃剤は、高温下での樹脂成形品の信頼性(高温信頼性)を高めるための改良が検討されており、その例として特許文献6〜10には、ヒドロキシル基を有するホスファゼン系の難燃剤およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物が開示されている。この種のホスファゼン系難燃剤は、樹脂組成物に対して多量に添加した場合であっても樹脂成形品の高温信頼性を損ないにくいが、添加量を増しても樹脂成形品の難燃性を効果的に高めるのが困難という、それが要求される本質的効果の点で不十分であり、また、樹脂成形品の機械的特性(特に、高いガラス転移温度)を損なうことにもなる。
【0006】
【特許文献6】特開平6−247989号公報
【特許文献7】特開平10−259292号公報
【特許文献8】特開2003−342339号公報
【特許文献9】特開2004−143465号公報
【特許文献10】特開2004−143466号公報
【0007】
本発明の目的は、樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性を損ないにくいホスファゼン化合物を実現することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく研究を重ねた結果、ヒドロキシル基を有する新規なホスファゼン化合物を含む樹脂組成物からなる成形体が優れた機械的特性および難燃性を示し、同時に高温下での信頼性が高いことを見出した。
【0009】
本発明のホスファゼン化合物は、下記の式(1)で表されるヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物である。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、nは3〜15の整数を示す。また、Aは、下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示しかつ少なくとも一つがA3基である。
A1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
A2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
A3基:下記の式(2)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基、下記の式(3)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基、下記の式(4)で示されるヒドロキシフェニル置換インダンオキシ基および下記の式(5)で示されるヒドロキシインダン置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
式(3)中、Yは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示す。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
式(4)および式(5)中、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示す。
【0018】
このヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)において、2n個のAのうちの2〜(2n−2)個がA3基である。また、このヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)のnが3若しくは4である。さらに、このヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)のnが異なる二種以上のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を含んでいる。
【0019】
本発明に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法は、次の工程Aと工程Bとを含んでいる。
[工程A]
下記の式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、環状ホスホニトリル置換体を製造する工程。
【0020】
【化6】

式(6)中、nは3〜15の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【0021】
E1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
E2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
E3基:下記の式(7)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(8)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(9)で示される置換インダンオキシ基および下記の式(10)で示される置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
式(7)、式(8)、式(9)および式(10)中のZは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示す。式(8)中のYは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示す。式(9)および式(10)中のRおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示す。
【0027】
[工程B]
工程Aにおいて得られた環状ホスホニトリル置換体のE3基から保護基(Z)を脱離させる工程。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物とを含んでいる。樹脂成分は、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選ばれたものであるである。
【0029】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物からなるものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、上述のような特定の構造を有するものであるため、樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性を損ないにくい。
【0031】
本発明に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法は、上述のような工程Aおよび工程Bを含むものであるため、本発明に係る上述のような特定の構造を有するヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を製造することができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を難燃剤として含むため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性の高い樹脂成形体を得ることができる。
【0033】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物からなるため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物
本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、下記の式(1)で表されるものである。
【0035】
【化11】

【0036】
式(1)において、nは、3から15の整数を示しているが、3から8の整数が好ましく、3若しくは4が特に好ましい。すなわち、このヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物として特に好ましいものは、nが3のヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン(3量体)およびnが4のヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン(4量体)である。また、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、nが異なる二種以上のものの混合物であってもよい。
【0037】
また、式(1)において、Aは、下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示している。但し、Aのうちの少なくとも一つはA3基である。
【0038】
[A1基]
炭素数が1〜8のアルコキシ基。このアルコキシ基は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、エテニルオキシ基、1−プロペニルオキシ基、2−プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、2−メチル−2−プロペニルオキシ基、4−ペンテニルオキシ基、2−ヘキセニルオキシ基、1−プロピル−2−ブテニルオキシ基、5−オクテニルオキシ基、ベンジルオキシ基および2−フェニルエトキシ基等を挙げることができる。このうち、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロペニルオキシ基およびベンジルオキシ基が好ましく、エトキシ基およびn−プロポキシ基が特に好ましい。
【0039】
[A2基]
炭素数が6〜20のアリールオキシ基。このアリールオキシ基は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、エチルメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、n−プロピルフェノキシ基、イソプロピルフェノキシ基、イソプロピルメチルフェノキシ基、イソプロピルエチルフェノキシ基、ジイソプロピルフェノキシ基、n−ブチルフェノキシ基、sec−ブチルフェノキシ基、tert−ブチルフェノキシ基、n−ペンチルフェノキシ基、n−ヘキシルフェノキシ基、エテニルフェノキシ基、1−プロペニルフェノキシ基、2−プロペニルフェノキシ基、イソプロペニルフェノキシ基、1−ブテニルフェノキシ基、sec−ブテニルフェノキシ基、1−ペンテニルフェノキシ基、1−ヘキセニルフェノキシ基、フェニルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基およびフェナントリルオキシ基等を挙げることができる。このうち、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、2−プロペニルフェノキシ基、フェニルフェノキシ基およびナフチルオキシ基が好ましく、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基およびナフチルオキシ基が特に好ましい。
【0040】
[A3基]
下記の式(2)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基(すなわち、4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基)、下記の式(3)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基、下記の式(4)で示されるヒドロキシフェニル置換インダンオキシ基および下記の式(5)で示されるヒドロキシインダン置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
式(3)において、Yは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示す。したがって、式(3)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基は、具体的には、4’−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルチオ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシベンジル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルエチリデン−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニル(1’−メチルプロピリデン)−4−フェニルオキシ基若しくは4’−ヒドロキシベンゾイル−4−フェニルオキシ基である。
【0044】
【化14】

【0045】
【化15】

【0046】
式(4)および式(5)において、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示しており、アルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基の場合は、それぞれ、結合している環構造に対して同種若しくは異種のものが複数個結合していてもよい。
【0047】
式(4)で示されるヒドロキシフェニル置換インダンオキシ基および式(5)で示されるヒドロキシインダン置換フェニルオキシ基としては、例えば、1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−iso−プロピル−1−(4−ヒドロキシ−3−iso−プロピルフェニル)インダン−6−オールおよび1,3,3―トリメチル―5−フェニル−1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)インダン−6−オール等のインダン化合物が有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基を挙げることができる。すなわち、式(4)で示されるヒドロキシフェニル置換インダンオキシ基としては、例えば、上述の各種インダン化合物において、インダンの6位に結合しているヒドロキシル基から水素を除いた残基を挙げることができる。式(5)で示されるヒドロキシインダン置換フェニルオキシ基としては、例えば、上述の各種インダン化合物において、インダンの1位に結合しているフェノール基のヒドロキシル基から水素を除いた残基を挙げることができる。
【0048】
上述のA3基として好ましいものは、4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルチオ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシベンゾイル−4−フェニルオキシ基並びに1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールおよび1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基である。このうち、4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基および1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基が特に好ましい。
【0049】
式(1)において、Aは、2n個含まれており、このうちの少なくとも一つがA3基である。したがって、式(1)で表される本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、次の形態に大別することができる。
【0050】
[形態1]
2n個の全てのAがA3基のものである。この場合、Aは、全てが同じA3基であってもよいし、二種以上のA3基であってもよい。
【0051】
このような形態のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の具体例としては、式(1)のnが3であるヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるヒドロキシル基含有シクロペンタホスファゼン化合物および式(1)のnが6であるヒドロキシル基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aの全てが4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルチオ−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基、4’−ヒドロキシベンゾイル−4−フェニルオキシ基並びに1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールおよび1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基からなるA3基群から選ばれた一種のA3基であるものおよびAの全てが当該A3基群から選ばれた二種以上のA3基であるもの並びにこれらの任意の混合物を挙げることができる。
【0052】
[形態2]
2n個のAのうちの一部(すなわち、少なくとも一つ)がA3基であり、他のAがA1基およびA2基から選ばれた基のものである。この場合、A3基以外の他のAは、全てが同じA1基若しくはA2基であってもよいし、二種以上のA1基若しくはA2基または一種若しくは二種以上のA1基とA2基とが混在した状態であってもよい。
【0053】
この形態のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物として好ましいものは、2n個のAのうちの2個〜(2n−2)個がA3基のものである。特に、式(1)のnが3であるヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるヒドロキシル基含有シクロペンタホスファゼン化合物および式(1)のnが6であるヒドロキシル基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、2n個のAのうちの2個〜(2n−2)個がA3基のもの並びにこれらの任意の混合物である。この種のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、本発明の他のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物に比べ、高温信頼性および機械的強度(特に、ガラス転移温度)がより優れた樹脂成形体を実現可能な点において有利である。
【0054】
なお、2n個のAのうちの2個〜(2n−2)個がA3基であるか否かは、ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物若しくはその製造過程における中間体のTOF−MS分析により確認することができる。
【0055】
このような形態のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の具体例としては、式(1)のnが3であるヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるヒドロキシル基含有シクロペンタホスファゼン化合物若しくは式(1)のnが6であるヒドロキシル基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aが、A3基である4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物を挙げることができる。
【0056】
このうち、式(1)のnが3であるヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるヒドロキシル基含有シクロペンタホスファゼン化合物、式(1)のnが6であるヒドロキシル基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aが、A3基である4’−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物が好ましい。特に、また、式(1)のnが3であるヒドロキシル基含有シクロトリホスファゼン化合物若しくは式(1)のnが4であるヒドロキシル基含有シクロテトラホスファゼン化合物であって、Aが、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である4’−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールが有する二つのヒドロキシル基のうちの一つのヒドロキシル基から水素を除いた残基とA2基であるフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物が好ましい。
【0057】
上述のような本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、A3基のヒドロキシル基によって互いに架橋されたものではない。すなわち、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物間での架橋構造を全く有していないものである。本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、このような特徴の点において新規であり、従来のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物とは異なる。
【0058】
ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法
本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、次のような方法により製造することができる。
【0059】
先ず、下記の式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドを用意する。
【化16】

【0060】
式(6)において、nは、3から15の整数を示している。また、Xは、ハロゲン原子を示し、好ましくはフッ素原子若しくは塩素原子である。因みに、ここで用意する環状ホスホニトリルジハライドは、nが異なる数種類のものの混合物であってもよい。
【0061】
このような環状ホスホニトリルジハライドの製造方法その他は、各種の文献、例えば、下記のような非特許文献1、2に記載されている。
【0062】
【非特許文献1】PHOSPHORUS−NITROGEN COMPOUNDS、H.R.ALLCOCK著、1972年刊、ACADEMIC PRESS社
【非特許文献2】PHOSPHAZENES、A WORLDWIDE INSIGHT、M.GLERIA、R.DE JAEGER著、2004年刊、NOVA SCIENCE PUBLISHERS INC.社
【0063】
これらの文献に記載されているように、式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドは、通常、重合度が3から15程度の環状ホスホニトリルジハライドと鎖状ホスホニトリルジハライドとの混合物として得られる。このため、式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドは、上記各文献に記載されているように、当該混合物から溶媒への溶解度の差を利用して鎖状ホスホニトリルジハライドを取り除いて入手するか、或いは、当該混合物から環状ホスホニトリルジハライドを蒸留又は再結晶によって分離して入手する必要がある。
【0064】
この製造方法において用いる環状ホスホニトリルジハライドとして好ましいものは、例えば、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン(nが3のもの)、オクタフルオロシクロテトラホスファゼン(nが4のもの)、デカフルオロシクロペンタホスファゼン(nが5のもの)、ドデカフルオロシクロヘキサホスファゼン(nが6のもの)、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼンとオクタフルオロシクロテトラホスファゼンとの混合物、nが3から15の環状ホスホニトリルジフルオリドの混合物、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(nが3のもの)、オクタクロロシクロテトラホスファゼン(nが4のもの)、デカクロロシクロペンタホスファゼン(nが5のもの)、ドデカクロロシクロヘキサホスファゼン(nが6のもの)、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物等である。このうち、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物がより好ましく、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物が特に好ましい。
【0065】
また、上述の環状ホスホニトリルジハライドと反応させる化合物として、次の化合物B1、化合物B2および化合物B3を用意する。
【0066】
[化合物B1]
炭素数が1〜8のアルコール類。
このアルコール類は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノ−ル、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、ビニルアルコール、1−プロペン−1−オール、2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)、1−メチル−1−エテン−1−オール、3−ブテン−1−オール、2−メチル−2−プロペン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−ヘプテン−4−オール、5−オクテン−1−オール、ベンジルアルコールおよびフェネチルアルコール等を挙げることができる。このうち、メタノール、エタノール、n−プロパノール、アリルアルコールおよびベンジルアルコールが好ましく、エタノールおよびn−プロパノールが特に好ましい。
【0067】
[化合物B2]
炭素数が6〜20のフェノール類。
このフェノール類は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノール、エチルフェノール、エチルメチルフェノール、ジエチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、イソプロピルエチルフェノール、ジイソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、n−ペンチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、ビニルフェノール、1−プロペニルフェノール、2−プロペニルフェノール、イソプロペニルフェノール、1−ブテニルフェノール、sec−ブテニルフェノール、1−ペンテニルフェノール、1−ヘキセニルフェノール、フェニルフェノール、ナフトール、アントラノールおよびフェナントラノール等を挙げることができる。このうち、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノール、ジエチルフェノール、2−プロペニルフェノール、フェニルフェノールおよびナフトールが好ましく、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノールおよびナフトールが特に好ましい。
【0068】
[化合物B3]
次の化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4の四種類の保護ジフェノール類。
【0069】
◎化合物B3−1
下記の式(11)で表される、一方のヒドロキシル基が保護基により保護された保護ジフェノール類。
【化17】

式(11)中、Zは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示している。
【0070】
このジフェノール類は、下記の式(12)で表されるジフェノール化合物、すなわち、4,4’−ジフェノールの一方のヒドロキシル基を上記保護基により保護することで得ることができる。
【化18】

【0071】
◎化合物B3−2
下記の式(13)で表される、一方のヒドロキシル基が保護基により保護された保護ジフェノール類。
【化19】

式(13)中、Zは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示している。また、Yは、次に説明する式(14)中のYと同じである。
【0072】
この保護ジフェノール類は、下記の式(14)で表されるジフェノール化合物の一方のヒドロキシル基を上記保護基により保護することで得ることができる。
【化20】

式(14)中、Yは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示す。式(14)で表されるジフェノール類は、具体的には、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオジフェノール、4,4’−スルホニルジフェノール(ビスフェノール−S)、4,4’−メチレンジフェノール(ビスフェノール−F)、4,4’−エチリデンジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノール−A)、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ジフェノール(ビスフェノール−B)および4,4−ジヒドロキシベンゾフェノンである。
【0073】
◎化合物B3−3
下記の式(15)で表される、一方のヒドロキシル基、すなわち、インダンの1位に位置する4−ヒドロキシフェニル基のヒドロキシル基が保護基により保護された保護ジフェノール類。
【化21】

式(15)中、Zは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示している。また、RおよびRは、それぞれ、次に説明する式(16)中のRおよびRと同じである。
【0074】
この保護ジフェノール類は、下記の式(16)で表されるジフェノール化合物において、インダンの1位に位置する4−ヒドロキシフェニル基のヒドロキシル基を上記保護基により保護することで得ることができる。
【化22】

式(16)中、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示し、当該アルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基の場合は、結合している環構造に対して同種若しくは異種のものが複数個結合していてもよい。式(16)で表されるジフェノール類は、p−イソプロペニルフェノールの線状二量体、すなわち、2,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−ペンテン−1および2,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−ペンテン−2の混合物を酸触媒の存在下に環化反応させて得た、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オールまたはそのアルキル、シクロアルキル若しくはフェニル誘導体である。具体的には、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−iso−プロピル−1−(4−ヒドロキシ−3−iso−プロピルフェニル)インダン−6−オール、1,3,3―トリメチル―5−フェニル−1−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)インダン−6−オール等を挙げることができる。
【0075】
◎化合物B3−4
下記の式(17)で表される、一方のヒドロキシル基、すなわち、インダンの6位に位置するヒドロキシル基が保護基により保護された保護ジフェノール類。
【化23】

式(17)中、Zは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示している。また、RおよびRは、それぞれ、上記式(16)中のRおよびRと同じである。
【0076】
この保護ジフェノール類は、上記式(16)で表されるジフェノール化合物において、インダンの6位に位置するヒドロキシル基を上記保護基により保護することで得ることができる。
【0077】
上述の化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4の四種類の保護ジフェノール類、すなわち、式(11)、式(13)、式(15)および式(17)で示される保護ジフェノール類において、Zで示される保護基の種類は、下記の非特許文献3および非特許文献4等の多数の公知文献に記載されている。また、式(12)、式(14)および式(16)で示されるジフェノール類から式(11)、式(13)および式(15)若しくは式(17)で示される保護ジフェノール類を選択的に調製する方法も、これらの非特許文献において記載されている。
【0078】
【非特許文献3】PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS、T.W.GREENE、P.G.M.WUTS著、1999年刊、WILEY−INTERSCIENCE社
【非特許文献4】PROTECTING GROUP CHEMISTRY(OXFORD CHEMISTRY PRIMERS)、J.ROBERTSON著、2000年刊、OXFORD UNIVERSITY PRESS社
【0079】
Zで示される保護基の具体例としては、メチル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、2−メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、1−エトキシエチル基、tert−ブチル基、アリル基、ベンジル基、o−ニトロベンジル基、トリフェニルメチル基、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリベンジルシリル基およびトリイソプロピルシリル基等を挙げることができる。これらの保護基のうち、メチル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、tert−ブチル基、アリル基、ベンジル基およびtert−ブチルジメチルシリル基が好ましく、メチル基、メトキシメチル基、tert−ブチル基、アリル基およびベンジル基が特に好ましい。
【0080】
上述の化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4として好ましいものの具体例は、次の通りである。
[化合物B3−1]
4’−メトキシフェニル−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニル−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニル−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニル−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニル−4−フェノール等。
【0081】
[化合物B3−2]
4’−メトキシフェニルオキシ−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニルオキシ−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニルオキシ−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニルオキシ−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニルオキシ−4−フェノール、4’−メトキシフェニルチオ−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニルチオ−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニルチオ−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニルチオ−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニルチオ−4−フェノール、4’−メトキシフェニルスルホニル−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニルスルホニル−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール、4’−メトキシベンジル−4−フェノール、4’−メトキシメトキシベンジル−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシベンジル−4−フェノール、4’−アリルオキシベンジル−4−フェノール、4’−ベンジルオキシベンジル−4−フェノール、4’−メトキシフェニルエチル−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニルエチル−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニルエチル−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニルエチル−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニルエチル−4−フェノール、4’−メトキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール、4’−メトキシフェニル(1−メチルプロピリデン)−4−フェノール、4’−メトキシメトキシフェニル(1−メチルプロピリデン)−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシフェニル(1−メチルプロピリデン)−4−フェノール、4’−アリルオキシフェニル(1−メチルプロピリデン)−4−フェノール、4’−ベンジルオキシフェニル(1−メチルプロピリデン)−4−フェノール、4’−メトキシベンゾイル−4−フェノール、4’−メトキシメトキシベンゾイル−4−フェノール、4’−tert−ブチルオキシベンゾイル−4−フェノール、4’−アリルオキシベンゾイル−4−フェノール、4’−ベンジルオキシベンゾイル−4−フェノール等。
【0082】
[化合物B3−3]
1,3,3−トリメチル−1−(4−メトキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3−トリメチル−1−(4−メトキシメトキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3−トリメチル−1−(4−tert−ブチルオキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3−トリメチル−1−(4−アリルオキシフェニル)インダン−6−オール、1,3,3−トリメチル−1−(4−ベンジルオキシフェニル)インダン−6−オール等。
【0083】
[化合物B3−4]
1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−6−メトキシインダン、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−6−メトキシメトキシインダン、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−6−tert−ブチルオキシインダン、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−6−アリルオキシインダン、1,3,3−トリメチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−6−ベンジルオキシインダン等。
【0084】
化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4は、いずれも、市販のものや、上述の非特許文献3、4に記載の方法などの公知の方法に従って製造したものを使用することができる。
【0085】
本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法では、先ず、上述の式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドと上述の化合物B1〜B3とを反応させることにより、環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、環状ホスホニトリル置換体を製造する(工程A)。
【0086】
[E1基]
炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも1種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
この基は、化合物B1によりハロゲン原子と置換されるものであり、既述のA1基に該当する。
【0087】
[E2基]
炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも1種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
この基は、化合物B2によりハロゲン原子と置換されるものであり、既述のA2基に該当する。
【0088】
[E3基]
下記の式(7)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(8)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(9)で示される置換インダンオキシ基および下記の式(10)で示される置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0089】
【化24】

【0090】
【化25】

【0091】
【化26】

【0092】
【化27】

【0093】
式(7)〜(10)中、Zは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示し、具体的には上述の化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4の四種類の保護ジフェノール類に関して説明したものと同じである。また、式(8)中、Yは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示している。さらに、式(9)および式(10)中、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示している。
【0094】
この製造工程では、製造するヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の種類、すなわち、上述の形態1に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合と、上述の形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合とで、化合物B1〜B3を適宜選択して使用する。具体的には次の通りである。
【0095】
[形態1のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合]
この場合は、環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドのハロゲン原子(以下、活性ハロゲン原子という場合がある)の全てを化合物B3に由来のE3基で置換する。ここで用いられる化合物B3は、上述の化合物B3−1、化合物B3−2、化合物B3−3および化合物B3−4の四種類の保護ジフェノール類のうちの一種若しくは二種以上である。環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの全ての活性ハロゲン原子をE3基で置換する方法としては、次のいずれかの方法を採用することができる。
【0096】
<方法1−A>
環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3のアルカリ金属塩とを反応させる。
この方法による場合、化合物B3のアルカリ金属塩の使用量は、通常、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0097】
<方法1−B>
環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを、ハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させる。
この方法による場合、化合物B3の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。また、塩基の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.1〜2.1当量に設定するのが好ましく、1.1〜1.4当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.1当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.1当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0098】
[形態2のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合]
この場合は、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3のうちの少なくとも一種と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの一部の活性ハロゲン原子を化合物B3に由来のE3基で置換し、残りの他の活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つの基で置換する。このための方法としては、次のいずれかの方法を採用することができる。
【0099】
<方法2−A>
環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3のアルカリ金属塩と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩との混合物を反応させ、活性ハロゲン原子の全てを置換する。当該混合物において、化合物B3のアルカリ金属塩の割合は、製造するヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0100】
この方法による場合、上述の混合物の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0101】
<方法2−B>
環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物との混合物を、ハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させ、活性ハロゲン原子の全てを置換する。当該混合物において、化合物B3の割合は、製造するヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0102】
この方法による場合、上述の混合物の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。また、塩基の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.1〜2.1当量に設定するのが好ましく、1.1〜1.4当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.1当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.1当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0103】
<方法2−C>
先ず、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B3を反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B3に由来のE3基により置換した部分置換体を得る(第一工程)。次に、得られた部分置換体に対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物を反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換する(第二工程)。
【0104】
この方法の第一工程は、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B3のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。また、第二工程は、第一工程で得られた部分置換体に対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、第一工程で得られた部分置換体に対し、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。
【0105】
<方法2−D>
先ず、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物を反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換した部分置換体を得る(第一工程)。次に、得られた部分置換体に対して化合物B3を反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B3に由来のE3基により置換する(第二工程)。
【0106】
この方法の第一工程は、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。また、第二工程は、第一工程で得られた部分置換体に対して化合物B3のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、第一工程で得られた部分置換体に対し、化合物B3をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。
【0107】
上述の各方法において用いられるアルカリ金属塩は、通常、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩およびセシウム塩が好ましい。特に、リチウム塩およびナトリウム塩が好ましい。このようなアルカリ金属塩は、化合物B1〜B3と、金属リチウム、金属ナトリウム若しくは金属カリウム等との脱水素反応、または、化合物B1〜B3と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物との混合物からの脱水反応によって得ることができる。
【0108】
また、上述の各方法において用いられる塩基は、特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジイソプロピルアニリン、ピリジン、4,4−ジメチルアミノピリジン、4,4−ジエチルアミノピリジンおよび4−ジイソプロピルアミノピリジン等の脂肪族若しくは芳香族アミン類、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物等が好ましい。特に、トリエチルアミン、ピリジンおよび水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0109】
上述の環状ホスホニトリルジハライドと化合物B1〜B3との反応は、上述のいずれの方法についても、無溶媒で実施することができ、また、溶媒を使用して実施することもできる。溶媒を使用する場合、溶媒の種類は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、通常、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジエトキシエタンおよびジフェニルエーテル等のエーテル系、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、キシレン、エチルベンゼンおよびイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系、クロロホルムおよび塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ウンデカンおよびドデカン等の脂肪族炭化水素系、ピリジン等の複素環式芳香族炭化水素系、第三級アミン系並びにシアン化合物系等の有機溶媒を用いるのが好ましい。このうち、分子内にエーテル結合を有し、かつ、化合物B1〜B3およびそれらのアルカリ金属塩の溶解度が高いエーテル系の有機溶媒および水との分離が容易である芳香族炭化水素系の有機溶媒を用いるのが特に好ましい。
【0110】
上述の環状ホスホニトリルジハライドと化合物B1〜B3とを反応させる際の反応温度は、上述のいずれの方法によるか、或いは、反応生成物の熱安定性等を考慮して適宜設定することができる。但し、溶媒を用いて当該反応を実施する場合は、通常、0℃から溶媒の沸点までの温度範囲に反応温度を設定するのが好ましい。一方、無溶媒で当該反応を実施する場合、反応温度は、通常、40〜200℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0111】
なお、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物として上述の形態2に係るもの、特に、式(1)における2n個のAのうちの2個〜(2n−2)個がA3基のものを製造する場合は、上述の方法2−C若しくは方法2−Dを採用するのが好ましい。
【0112】
ここで、方法2−Cを採用する場合は、先ず、環状ホスホニトリルジハライドのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を調製する。そして、この溶媒溶液に対し、化合物B3のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B3とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、−20〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、同温度範囲で1〜24時間反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B3に由来のE3基により置換した部分置換体を製造する。次に、得られた部分置換体のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液に対し、化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、0〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、0℃から溶媒の沸点までの温度で反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換する。
【0113】
一方、方法2−Dを採用する場合は、先ず、環状ホスホニトリルジハライドのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を調製する。そして、この溶媒溶液に対し、化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、−20〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、同温度範囲で1〜24時間反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換した部分置換体を製造する。次に、得られた部分置換体のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液に対し、化合物B3のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B3とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、0〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、0℃から溶媒の沸点までの温度で反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B3に由来のE3基により置換する。
【0114】
本発明の製造方法では、次に、上述の工程Aにより得られた環状ホスホニトリル置換体のE3基から保護基(Z)を脱離させ、E3基の−OZ基部分を−OH基に変換する(工程B)。保護基を脱離させるための方法は、上述の非特許文献3、4等の多数の公知文献に記載されており、保護基の種類および保護基の安定性等に応じて各種の脱保護反応から選択することができる。例えば、保護基がメチル基の場合、環状ホスホニトリル置換体を三フッ化ホウ素、ヨウ化トリメチルシラン若しくはピリジン塩酸塩と反応させるのが好ましい。また、保護基がtert−ブチル基の場合、環状ホスホニトリル置換体をトリフルオロ酢酸、臭化水素若しくはヨウ化トリメチルシランと反応させるのが好ましい。さらに、保護基がベンジル基の場合、環状ホスホニトリル置換体を水素/Pd−C、金属ナトリウム/アンモニア、ヨウ化トリメチルシラン、水素化リチウムアルミニウム、三臭化ホウ素若しくは三フッ化ホウ素と反応させるのが好ましい。
【0115】
このような保護基の脱離により得られる、目的とするヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、濾過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィーおよび再結晶等の通常の方法によって、反応系から単離精製することができる。
【0116】
本発明の製造方法では、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の全て若しくは一部を工程AにおいてE3基に置換し、当該E3基の保護基を次の工程Bにおいて脱離させているため、得られるヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、既述の通り、ヒドロキシル基によるヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物間での架橋構造を全く有していない新規なものになる。
【0117】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と樹脂成分とを含むものである。本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、一種類のものが用いられてもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。また、樹脂成分としては、各種の熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂を使用することができる。これらの樹脂成分は、天然のものであってもよいし、合成のものであってもよい。
【0118】
ここで利用可能な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(MABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン並びに液晶ポリマー等を挙げることができる。変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリフェニレンエーテルの一部または全部に、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、無水ジカルボキシル基などの反応性官能基を、グラフト反応や共重合などの何らかの方法により導入したものが用いられる。なお、本発明の樹脂組成物を電子機器用途、特に、OA機器、AV機器、通信機器および家電製品用の筐体や部品用の材料として用いる場合は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル若しくはポリアミド等を用いるのが好ましい。
【0119】
一方、ここで利用可能な熱硬化性樹脂の具体例としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコン樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドおよびポリエステルイミド等のポリイミド系樹脂並びにエポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、本発明の樹脂組成物を電子部品用途、特に、各種IC素子の封止材、配線板の基板材料、層間絶縁材料や絶縁性接着材料等の絶縁材料、導電材料および表面保護材料として用いる場合は、熱硬化性樹脂として、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド系樹脂若しくはエポキシ樹脂等を用いるのが好ましい。
【0120】
上述の各種樹脂成分は、それぞれ単独で用いられてもよいし、必要に応じて二種以上のものが併用されてもよい。
【0121】
本発明の樹脂組成物において、ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の使用量は、樹脂成分の種類、樹脂組成物の用途等の各種条件に応じて適宜設定することができるが、通常、固形分換算での樹脂成分100重量部に対して0.1〜50重量部に設定するのが好ましく、0.5〜40重量部に設定するのがより好ましく、1〜30重量部に設定するのがさらに好ましい。ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の使用量が0.1重量部未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。逆に、50重量部を超えると、樹脂成分本来の特性を損ない、当該特性による樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
【0122】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の種類や樹脂組成物の用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、モリブデン酸亜鉛、マイカ、タルク、ガラス繊維およびチタン酸カリウム繊維等の無機充填剤、シランカップリング剤などの充填材の表面処理剤、ワックス類、脂肪酸およびその金属塩、酸アミド類およびパラフィン等の離型剤、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、リン酸アミド、リン酸アミドエステル、リン酸アンモニウム、赤リン、塩素化パラフィン、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メロンおよびサクシノグアナミン等の窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤並びに臭素系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のドリッピング防止剤、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化剤、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤並びに帯電防止剤等を挙げることができる。
【0123】
本発明の樹脂組成物を電気・電子分野用の材料、具体的には、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に用いる場合、樹脂成分は、エポキシ樹脂が好ましい。利用可能なエポキシ樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂等の、フェノール類とアルデヒド類との反応により得られるノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビスフェノール−F型エポキシ樹脂、ビスフェノール−AD型エポキシ樹脂、ビスフェノール−S型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、アルキル置換ビフェノール型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン等のフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン、オリゴプロピレングリコールおよび水添ビスフェノール−A等のアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる脂肪族エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸若しくはフタル酸とエピクロルヒドリン若しくは2−メチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル系エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンやアミノフェノール等のアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン系エポキシ樹脂、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られる複素環式エポキシ樹脂、グリシジル基を有するホスファゼン化合物、エポキシ変性ホスファゼン樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂並びにウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂およびトリス(ヒドロキシフェニル)メタンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。
【0124】
樹脂成分として上述のエポキシ樹脂を用いる場合(以下、「エポキシ樹脂組成物」という場合がある)、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能し得る。また、エポキシ樹脂組成物は、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と共に、他の硬化剤を併せて含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物が、硬化剤として本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と他の硬化剤とを併用している場合、硬化剤の合計量(すなわち、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と他の硬化剤との合計量)に占める本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の割合は、0.1〜80重量%が好ましく、0.5〜70重量%がより好ましい。ヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の割合が0.1重量%未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。逆に、80重量%を超えると、樹脂成分本来の特性を損ない、当該特性による樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
【0125】
本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と併用され得る他の硬化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンおよびポリアミドポリアミン等のポリアミン系硬化剤、無水ヘキサヒドロフタル酸および無水メチルテトラヒドロフタル酸等の酸無水物系硬化剤、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラック等のフェノール系硬化剤、他の水酸基を有するホスファゼン化合物(本発明以外の、ヒドロキシル基含有ホスファゼン化合物)、三フッ化ホウ素等のルイス酸およびそれらの塩類並びにジシアンジアミド類等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0126】
エポキシ樹脂組成物において、硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.5当量になるよう設定するのが好ましく、0.6〜1.2当量になるよう設定するのがより好ましい。
【0127】
エポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでいてもよい。利用可能な硬化促進剤は、公知の種々のものであり、特に限定されるものではないが、例えば、2−メチルイミダゾールおよび2−エチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3アミン系化合物、トリフェニルホスフィン化合物等を挙げることができる。硬化促進剤を用いる場合、その使用量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜15重量部に設定するのが好ましく、0.1〜10重量部に設定するのがより好ましい。
【0128】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて公知の反応性希釈剤や添加剤が配合されていてもよい。利用可能な反応性希釈剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテル等の脂肪族アルキルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートおよび3級カルボン酸グリシジルエステル等のアルキルグリシジルエステル、スチレンオキサイドおよびフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテルおよびノニルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族アルキルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの反応性希釈剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。一方、添加剤としては、既述のようなものを用いることができる。
【0129】
上述のエポキシ樹脂組成物等の本発明の樹脂組成物は、各成分を均一に混合することにより得られる。この樹脂組成物は、樹脂成分に応じて100〜250℃程度の温度範囲で1〜36時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。例えば、エポキシ樹脂組成物は、通常、150〜250℃の温度で2〜15時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。このような硬化過程において、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、そのヒドロキシル基が樹脂成分と反応し、硬化物中において安定に保持されることになるため、当該硬化物の高温信頼性を損ないにくい。また、本発明のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物は、そのような硬化物の機械的特性(特に、ガラス転移温度)を損なわずに、その難燃性を高めることができ、また、硬化物に対して低発煙性を付与することができる。このため、本発明の樹脂組成物は、各種の樹脂成形体の製造用材料、塗料用、接着剤用およびその他の用途用として、広く用いることができる。特に、本発明の樹脂組成物は、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルム、カバーインク)形成用等の電気・電子部品の製造用材料として好適である。
【実施例】
【0130】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下において、「unit mol」の「unit」は、環状ホスファゼン化合物の最小構成単位、例えば、一般式(1)については(PNA)を意味し、一般式(6)については(PNX)を意味する。一般式(6)において、Xが塩素の場合、その1unit molは115.87gである。
また、以下においては、特に断りがない限り、「%」および「部」とあるのは、それぞれ「重量%」および「重量部」を意味する。
【0131】
実施例等で得られたホスファゼン化合物は、H−NMRスペクトルおよび31P−NMRスペクトルの測定、CHN元素分析、アルカリ溶融後の硝酸銀を用いた電位差滴定法による塩素元素(残留塩素)の分析、マイクロウエーブ湿式分解後のICP−AESによるリン元素の分析並びにTOF−MS分析の結果に基づいて同定した。また、水酸基当量は、JIS K 0070−1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」において規定された水酸基価測定方法の中和滴定法に従い測定し、水酸基価mgKOH/gの値を水酸基当量g/eq.に変換した。エポキシ当量は、JIS K 7236−1995「エポキシ樹脂のエポキシ当量試験方法」の電位差滴定法に従い測定した。
【0132】
実施例1(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Cによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中に48%NaOH水溶液41.7g(0.50mol)、トルエン1,000mlおよび4’−メトキシフェニル−4−フェノール100.1g(0.50mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約30ml)、4’−メトキシフェニル−4−フェノールのナトリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、テトラヒドロフラン(THF)500mlを仕込んで均一溶液とした。
【0133】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中にヘキサクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、THF500ml〕を仕込み、上記4’−メトキシフェニル−4−フェノールのナトリウム塩溶液を撹拌下5℃で6時間かけて滴下した後、還流下(85℃)で撹拌反応を12時間行った。反応終了後、反応液を約700mlまで濃縮し、トルエン300mlと水500mlとを加えて反応物を溶解し、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後、水−トルエンを共沸脱水し、無水状態の4’−メトキシフェニル−4−フェノキシ部分置換体のトルエン溶液を得た。
【0134】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に上記無水状態の4’−メトキシフェニル−4−フェノキシ部分置換体のトルエン溶液、n−プロパノール39.1g(0.65mol)、トリエチルアミン111.3ml(0.80mol)およびジメチルアミノピリジン0.6g(5mmol)を仕込み、還流温度(103℃)で10時間撹拌反応を行った。反応終了後、反応液を約700mlまで濃縮し、トルエン300mlと水500mlとを加えて内容物を溶解させた後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を2%塩酸で2回洗浄し、次に水での洗浄を3回行った後、トルエンを留去したところ、淡褐色粘稠液体の生成物122.7g(収率:84%)が得られた。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0135】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH 0.9(3H),−CH− 1.6(2H),−CH− 3.6(2H),―CH 3.7(3H),フェニルC−H 6.5〜7.8(8H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 12.3
◎CHNP元素分析:
理論値 C:62.5%,H:6.1%,N:4.8%,P:10.6%
実測値 C:62.3%,H:6.2%,N:4.9%,P:10.4%
◎残存塩素分析:
<0.01%
◎TOF−MS(m/z):
771,911,1051
【0136】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−COCH(OCHCHCH]、[N=P(OC−COCH(OCHCHCH]、[N=P(OC−COCH(OCHCHCH]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OC−COCH0.92(OCHCHCH1.08であることを確認した。
【0137】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物87.6g(0.30unit mol)とトルエン650mlを仕込んだ。これに窒素雰囲気下で47%三フッ化ホウ素エチルエーテル75.5ml(0.28mol)を5〜10℃で1時間かけて滴下し、同温度で2時間撹拌熟成した。反応後、反応液を水400mlに添加し、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にトルエンを留去したところ、淡褐色粘稠液体の生成物76.2g(収率:91%)が得られた。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0138】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH 0.9(3H),−CH− 1.6(2H),−CH− 3.3(2H),フェニルC−H 6.5〜7.9(8H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.8
◎CHNP元素分析:
理論値 C:61.6%,H:5.4%,N:5.0%,P:11.1%
実測値 C:61.4%,H:5.7%,N:4.9%,P:10.9%
◎水酸基当量:
276g/eq.(理論値279g/eq.)
【0139】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−COH)0.92(OCHCHCH1.08であることを確認した。
【0140】
実施例2(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Cによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた500ミリリットルのフラスコ中に48%KOH水溶液58.4g(0.50mol)、クロルベンゼン200mlおよび4’−イソプロピルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール146.2g(0.50mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約39ml)、4’−イソプロピルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF200mlを仕込んで均一溶液とした。
【0141】
一方、撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液87.7g(0.75mol)、クロルベンゼン500mlおよびフェノール70.6g(0.75mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約59ml)、フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF300mlを仕込んで均一溶液とした。
【0142】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中にヘキサクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、THF250ml〕を仕込み、上記4’−イソプロピルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下5℃で6時間かけて滴下し、同温度で撹拌反応を4時間行った。続いて、この反応液に上記フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下、45℃以下で0.5時間かけて滴下し、還流下(85℃)で撹拌反応を5時間行った。反応終了後、反応液を約700mlまで濃縮し、クロルベンゼン300mlと水500mlとを加えて内容物を溶解させ、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水での洗浄を3回行った後、クロルベンゼンを留去したところ、淡黄色固体の生成物184.3g(収率:90%)が得られた。この生成物の融点(融解ピーク温度)は68℃であった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0143】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
―CH 1.4(6H),−CH< 4.8(1H),フェニルC−H 6.7〜7.3(9H),7.8〜8.0(4H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.6
◎CHNP元素分析:
理論値 C:58.9%,H:4.7%,N:3.4%,P:7.6%
実測値 C:58.8%,H:4.9%,N:3.4%,P:7.3%
◎残存塩素分析:
<0.01%
◎TOF−MS(m/z):
1091,1289,1488
【0144】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COCH(CH(OC]、[N=P(OC−SO−COCH(CH(OC]、[N=P(OC−SO−COCH(CH(OC]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OC−SO−COCH(CH0.90(OC1.10であることを確認した。
【0145】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物122.9g(0.30unit mol)および酢酸450mlを仕込んだ。これに対し、窒素雰囲気下で30%臭化水素酸/酢酸溶液218.5g(0.81mol)を5〜10℃で1時間かけて滴下した後、50℃で16時間撹拌熟成した。反応終了後、反応液を濃縮して過剰の臭化水素酸と酢酸とを留去し、残留物にメチルイソブチルケトン(MIBK)300mlと水200mlとを添加して溶解した後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にMIBKを留去したところ、薄茶色固体の生成物102.6g(収率:92%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0146】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 6.8〜7.3(9H),7.7〜7.9(4H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.6
◎CHNP元素分析:
理論値 C:56.2%,H:3.7%,N:3.8%,P:8.3%
実測値 C:56.0%,H:3.9%,N:3.8%,P:8.1%
◎水酸基当量:
375g/eq.(理論値372g/eq.)
【0147】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COH)0.90(OC1.10であることを確認した。
【0148】
実施例3(形態1に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法1−Aによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた5リットルのフラスコ中に48%NaOH水溶液50.0g(0.60mol)、48%KOH水溶液70.1g(0.60mol)、トルエン3,000mlおよび4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール348.4g(1.20mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約84ml)、4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのナトリウム/カリウム塩を調製した。これに、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、トルエン300ml〕を撹拌下20〜25℃で1時間かけて滴下した後、還流下(108℃)で8時間撹拌して反応を行った。反応終了後、反応液に水1,000mlを加えて内容物を溶解させ、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硝酸で中和し、更に水で3回洗浄した後、トルエンを留去したところ、白色固体の生成物286.1g(収率:92%)が得られた。この生成物の融点(融解ピーク温度)は164℃であった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0149】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH− 4.6(4H),=CH5.3〜5.4(4H),−CH= 6.0(2H),フェニルC−H 6.8〜7.1(8H),7.8〜8.0(8H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N)8.5
◎CHNP元素分析:
理論値 C:57.8%,H:4.2%,N:2.2%,P:5.0%
実測値 C:57.9%,H:4.4%,N:2.1%,P:4.9%
◎残存塩素分析:
<0.01%
【0150】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COCHCH=CHであることを確認した。
【0151】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物187.1g(0.30unit mol)および酢酸1,000mlを仕込み、窒素雰囲気下で30%臭化水素酸/酢酸溶液323.6g(1.20mol)を5〜10℃で2時間かけて滴下した後、50℃で8時間撹拌熟成した。反応終了後、反応液を濃縮して過剰の臭化水素酸と酢酸とを留去し、残留物にMIBK500mlと水500mlとを添加して溶解した後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にMIBKを留去したところ、白色固体の生成物141.9g(収率:87%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0152】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 7.0〜7.2(8H),7.8〜8.0(8H),−OH 9.5(2H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 8.5
◎CHNP元素分析:
理論値 C:53.0%,H:3.3%,N:2.6%,P:5.7%
実測値 C:52.8%,H:3.6%,N:2.5%,P:5.6%
◎水酸基当量:
270g/eq.(理論値272g/eq.)
【0153】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COH)であることを確認した。
【0154】
実施例4(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Dによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液58.4g(0.50mol)、クロルベンゼン450mlおよびフェノール47.1g(0.50mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約39ml)、フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF200mlを仕込んで均一溶液とした。
【0155】
一方、撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液76.0g(0.65mol)、クロルベンゼン800mlおよび4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール188.8g(0.65mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約51ml)、4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF300mlを仕込んで均一溶液とした。
【0156】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中にヘキサクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、THF200ml〕を仕込み、上記フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下5℃で10時間かけて滴下し、25℃で撹拌反応を5時間行った。続いて、この反応液に上記4’−アリルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下25℃で1時間かけて滴下し、還流下(86℃)で撹拌反応を10時間行った。反応終了後、反応液を約1,000mlまで濃縮し、クロルベンゼン600mlと水600mlとを加えて内容物を溶解させた後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水での洗浄を3回行った後、クロルベンゼンを留去したところ、淡黄色固体の生成物207.1g(収率:96%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0157】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−CH− 4.6(2H),=CH5.3〜5.4(2H),−CH= 6.0(1H),フェニルC−H 6.8〜7.2(9H),7.8〜8.0(4H)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
三量体(P=N) 8.5
◎CHNP元素分析:
理論値 C:58.9%,H:4.2%,N:3.2%,P:7.2%
実測値 C:58.7%,H:4.4%,N:3.1%,P:7.0%
◎残存塩素分析:
<0.01%
◎TOF−MS(m/z):
1087,1283,1480
【0158】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COCHCH=CH(OC]、[N=P(OC−SO−COCHCH=CH(OC]、[N=P(OC−SO−COCHCH=CH(OC]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OC−SO−COCHCH=CH1.02(OC0.98であることを確認した。
【0159】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物129.4g(0.30unit mol)および酢酸500mlを仕込み、窒素雰囲気下で30%臭化水素酸/酢酸溶液161.8g(0.60mol)を5〜10℃で2時間かけて滴下した後、50℃で8時間撹拌熟成した。反応終了後、反応液を濃縮して過剰の臭化水素酸と酢酸とを留去し、残留物にMIBK400mlと水400mlとを添加して溶解した後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にMIBKを留去したところ、黄褐色固体の生成物99.6g(収率:85%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0160】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 6.8〜7.2(9H),7.2〜7.8(4H), −OH 9.5(1H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.5
◎CHNP元素分析:
理論値 C:55.7%,H:3.6%,N:3.6%,P:7.9%
実測値 C:55.5%,H:3.7%,N:3.5%,P:7.7%
◎水酸基当量:
394g/eq.(理論値391g/eq.)
【0161】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COH)1.02(OC0.98であることを確認した。
【0162】
実施例5(形態1に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法1−Aによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液152.0g(1.30mol)、トルエン2,000mlおよび4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール442.5g(1.30mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約102ml)、4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF400mlを仕込んで均一溶液とした。
【0163】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた5リットルのフラスコ中にクロロホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン52.2g(0.45unit mol)、オクタクロロシクロテトラホスファゼン5.8g(0.05unit mol)、THF300ml〕を仕込み、上記4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下25℃で1時間かけて滴下した後、還流下(86℃)で8時間撹拌して反応を行った。反応終了後、反応液を約1,500mlまで濃縮し、トルエン500mlと水1,000mlとを加えて内容物を溶解させた後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水で3回洗浄した後、トルエンを留去したところ、白色固体の生成物314.8g(収率:87%)が得られた。この生成物の融点(融解ピーク温度)は149℃であった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0164】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH− 5.0(4H),フェニルC−H 6.8〜7.9(26H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.5,四量体(P=N) −12.4
◎CHNP元素分析:
理論値 C:63.1%,H:4.2%,N:1.9%,P:4.3%
実測値 C:62.8%,H:4.4%,N:2.1%,P:4.2%
◎残存塩素分析:
<0.01%
【0165】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COCHおよび[N=P(OC−SO−COCHであることを確認した。
【0166】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物217.1g(0.30unit mol)および酢酸800mlを仕込み、窒素雰囲気下で30%臭化水素酸/酢酸溶液323.6g(1.20mol)を5〜10℃で2時間かけて滴下した後、50℃で8時間撹拌熟成した。反応終了後、反応液を濃縮して過剰の臭化水素酸と酢酸とを留去し、残留物にMIBK700mlと水600mlとを添加して溶解した後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にMIBKを留去したところ、白色固体の生成物145.1g(収率:89%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0167】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 6.8〜7.9(16H), −OH 9.5(2H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):三量体(P=N) 9.5,四量体(P=N) −12.4
◎CHNP元素分析:
理論値 C:53.0%,H:3.3%,N:2.6%,P:5.7%
実測値 C:52.8%,H:3.6%,N:2.5%,P:5.6%
◎水酸基当量:
274g/eq.(理論値272g/eq.)
【0168】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COH)および[N=P(OC−SO−COH)であることを確認した。
【0169】
実施例6(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Cによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に48%NaOH水溶液41.7g(0.50mol)、トルエン1,200mlおよび4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノール170.2g(0.50mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約30ml)、4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのナトリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF600mlを仕込んで均一溶液とした。
【0170】
一方、撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液87.7g(0.75mol)、トルエン550mlおよびフェノール70.6g(0.75mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約58ml)、フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF200mlを仕込んで均一溶液とした。
【0171】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた5リットルのフラスコ中にヘキサクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、THF300ml〕を仕込み、上記4’−ベンジルオキシフェニルスルホニル−4−フェノールのナトリウム塩溶液を撹拌下5℃で6時間かけて滴下し、25℃で撹拌反応を4時間行った。続いて、この反応液に上記フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下、25℃で1時間かけて滴下し、還流下(103℃)で撹拌反応を2時間行った。反応終了後、反応液を約1,000mlまで濃縮し、トルエン200mlと水400mlとを加えて内容物を溶解させた後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水での洗浄を3回行った後、トルエンを留去したところ、淡黄色固体の生成物201.1g(収率:87%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0172】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−CH− 5.1(2H),フェニルC−H 6.7〜7.0(4H),7.0〜7.2(5H),7.3〜7.4(5H),7.6〜7.9(4H)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.3
◎CHNP元素分析:
理論値 C:62.9%,H:4.2%,N:3.0%,P:6.7%
実測値 C:62.9%,H:4.2%,N:3.1%,P:6.9%
◎残存塩素分析:
<0.01%
◎TOF−MS(m/z):
1187,1434,1680
【0173】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COCH(OC]、[N=P(OC−SO−COCH(OC]、[N=P(OC−SO−COCH(OC]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OC−SO−COCH0.95(OC1.05であることを確認した。
【0174】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた2リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物139.5g(0.30unit mol)とトルエン800mlとを仕込み、窒素雰囲気下で三臭化ホウ素26.9ml(0.29mol)を5〜10℃で4時間かけて滴下した後、25〜30℃で12時間撹拌熟成した。反応後、反応液を水800mlに添加し、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄した後にトルエンを留去したところ、茶色固体の生成物105.9g(収率:93%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0175】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 6.8〜7.3(9H),7.7〜7.9(4H),−OH 9.5(1H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.6
◎CHNP元素分析:
理論値 C:56.0%,H:3.4%,N:3.7%,P:8.2%
実測値 C:55.7%,H:3.7%,N:3.8%,P:8.4%
◎水酸基当量:
378g/eq.(理論値380g/eq.)
【0176】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−SO−COH)0.95(OC1.05であることを確認した。
【0177】
実施例7(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Dによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた1リットルのフラスコ中に48%NaOH水溶液41.7g(0.50mol)、トルエン250mlおよびフェノール47.1g(0.50mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約29ml)、フェノールのナトリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF200mlを仕込んで均一溶液とした。
【0178】
一方、撹拌機、温度計、還流冷却管、水分離用受器および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に48%KOH水溶液87.7g(0.75mol)、トルエン1,500mlおよび4’−ベンジルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノール238.8g(0.75mol)を仕込んだ。これを窒素雰囲気下で撹拌加熱して共沸脱水によりフラスコ内の水分を除去し(回収水:約59ml)、4’−ベンジルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノールのカリウム塩を調製した。このスラリー溶液を20℃に冷却し、THF500mlを仕込んで均一溶液とした。
【0179】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた5リットルのフラスコ中にヘキサクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン58.0g(0.50unit mol)、THF500ml〕を仕込み、上記フェノールのナトリウム塩溶液を撹拌下5℃で6時間かけて滴下し、25℃で撹拌反応を2時間行った。続いて、この反応液に上記の4’−ベンジルオキシフェニルイソプロピリデン−4−フェノールのカリウム塩溶液を撹拌下25℃で1時間かけて滴下し、還流下(85℃)で撹拌反応を14時間行った。反応終了後、反応液を約1,000mlまで濃縮し、トルエン500mlと水1,000mlを加えて内容物を溶解させた後、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水での洗浄を3回行った後、トルエンを留去したところ、茶色固体の生成物221.9g(収率:96%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0180】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−CH 1.6(6H),−CH− 5.0(2H),フェニルC−H 6.8〜6.9(5H),7.0〜7.1(8H),7.2〜7.4(5H)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.9
◎CHNP元素分析:
理論値 C:74.0%,H:5.8%,N:3.0%,P:6.7%
実測値 C:74.2%,H:5.8%,N:2.9%,P:6.6%
◎残存塩素分析:
<0.01%
◎TOF−MS(m/z):
1143,1368,1592
【0181】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−C(CH−COCH(OC]、[N=P(OC−C(CH−COCH(OC]、[N=P(OC−C(CH−COCH(OC]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OC−C(CH−COCH1.03(OC0.97であることを確認した。
【0182】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物138.7g(0.30unit mol)、Pd/C(Degussa社製、“E 101 NE/W”:10%Pd)3.8gおよびメタノール2,500mlを仕込み、水素雰囲気下50℃で5時間撹拌反応した。反応終了後、反応液を濾過してPd/Cを除去し、この濾液を濃縮してメタノールを留去した。そして、残留物にMIBK1,000mlと水700mlとを添加して溶解し、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄し、MIBKを留去したところ、茶色固体の生成物96.4g(収率:87%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0183】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH 1.7(6H),フェニルC−H 6.8〜6.9(4H),6.9〜7.2(5H),7.2〜7.3(4H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 10.0
◎CHNP元素分析:
理論値 C:69.2%,H:5.5%,N:3.8%,P:8.4%
実測値 C:69.3%,H:5.3%,N:3.8%,P:8.3%
◎水酸基当量:
371g/eq.(理論値369g/eq.)
【0184】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−C(CH−COH)1.03(OC0.97であることを確認した。
【0185】
実施例8(形態2に係るヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法2−Aによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に窒素雰囲気下で1,2−ジメトキシエタン(DME)500mlおよび60%NaH/油性44.0g(1.10mol)を仕込んだ。これに撹拌下でp−クレゾールおよび1,3,3−トリメチル−1−(4−ベンジルオキシフェニル)インダン−6−オール(45%)と1,3,3−トリメチル−1−(4−ビドロキシフェニル)−6−ベンジルオキシインダン(55%)との混合物のDME溶液〔p−クレゾール54.1g(0.50mol)、1,3,3−トリメチル−1−(4−ベンジルオキシフェニル)インダン−6−オール96.7g(0.27mol)、1,3,3−トリメチル−1−(4−ビドロキシフェニル)−6−ベンジルオキシインダン118.8g(0.33mol)、DME1,000ml〕を5℃以下で2時間かけて滴下した後、50℃で2時間撹拌し、上記p−クレゾールとインダン誘導体とのナトリウム塩を調製した。
【0186】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中にシクロホスファゼンのDME溶液〔ヘキサクロロシクロトリホスファゼン46.4g(0.40unit mol)、オクタクロロシクロテトラホスファゼン5.8g(0.05unit mol)、デカクロロシクロペンタホスファゼン2.9g(0.025unit mol)、ドデカクロロシクロヘキサホスファゼン1.7g(0.015unit mol)、テトラデカクロロシクロヘプタホスファゼン以上の大環状物1.2g(0.01unit mol)、DME500ml〕を仕込み、上記のp−クレゾールとインダン誘導体とのナトリウム塩溶液を撹拌下25℃で1時間かけて滴下し、還流下(75℃)で撹拌反応を8時間行った。反応終了後、反応液を約1,000mlまで濃縮し、トルエン500mlと水500mlとを加えて内容物を溶解させ、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を5%NaOH水溶液で2回洗浄し、次に2%硫酸で中和し、更に水での洗浄を3回行った後、DMEおよびトルエンを留去したところ、黄色固体の生成物228.4g(収率:89%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0187】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH1.0〜1.6(12H),−CH− 2.1〜2.4(2H),−CH− 5.0(2H),フェニルC−H 6.8〜7.9(11H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.5,四量体(P=N) −12.4,五、六量体(P=N)5,6 −17.0,七量体以上(P=N)≧7 −18.0〜−23.0
◎CHNP元素分析:
理論値 C:75.5%,H:6.4%,N:2.7%,P:6.0%
実測値 C:75.2%,H:6.6%,N:2.7%,P:5.8%
◎残存塩素分析:
<0.01%
【0188】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−Indane−OCH1.05(OCCH0.95]nおよび[N=P(O−Indane−COCH0.98(OCCH1.02]nの混合物であることを確認した。
【0189】
[工程2:脱保護基工程]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのフラスコ中に工程1で得られた生成物154.0g(0.30unit mol)およびトルエン1,000mlを仕込んだ。これに窒素雰囲気下でヨウ化トリメチルシラン120.1g(0.60mol)を5〜10℃で10時間かけて滴下した後、25〜30℃で12時間撹拌反応した。反応終了後、反応液を水1,000mlに投入し、分液ロートにて有機層を分液した。この有機層を水で3回洗浄し、トルエンを留去したところ、黄色固体の生成物113.9g(収率:90%)が得られた。この生成物はガラス状固体のため明確な融点を示さなかった。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0190】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH1.0〜1.6(12H),−CH− 2.1〜2.4(2H),−CH− 5.0(2H),フェニルC−H 6.8〜7.9(11H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.5,四量体(P=N) −12.4,五、六量体(P=N)5,6 −17.0,七量体以上(P=N)≧7 −18.0〜−23.0
◎CHNP元素分析:
理論値 C:71.6%,H:6.3%,N:3.3%,P:7.3%
実測値 C:70.2%,H:6.2%,N:3.3%,P:7.1%
◎水酸基当量:
418g/eq.(理論値422g/eq.)
【0191】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OC−Indane−OH)1.05(OCCH0.95]nおよび[N=P(O−Indane−COH)0.98(OCCH1.02]nの混合物であることを確認した。
【0192】
比較例1(環状ホスファゼン化合物の製造)
PHOSPHORUS−NITROGEN COMPOUNDS、H.R.ALLCOCK著、1972年刊、151頁、ACADEMIC PRESS社に記載されている方法に従い、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン81%とオクタクロロシクロテトラホスファゼン19%とのシクロホスファゼン混合物を用いて[N=P(OCと[N=P(OCとの混合物(白色固体/融点:65〜112℃)を得た。
【0193】
実施例9〜17および比較例2、3(樹脂組成物の調製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1001(ジャパン・エポキシ・レジン社製:エポキシ当量456g/eq.、樹脂固形分70%)651部、クレゾールノボラックエポキシ樹脂であるYDCN−704P(東都化成株式会社製:エポキシ当量210g/eq.、樹脂固形分70%)300部、水酸化アルミニウム361部および2−エチル−4−メチルイミダゾール0.9部に対し、実施例1〜3、5、7、8で製造したヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物若しくは比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物並びにノボラック型フェノール樹脂であるBRG−558(昭和高分子株式会社製:水酸基当量106g/eq.、樹脂固形分70%)を表1に示す割合で添加し、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を加えて樹脂固形分65%のエポキシ樹脂ワニスを調製した。
【0194】
次に、調製したエポキシ樹脂ワニスを180μmガラス織布に塗布して含浸させ、160℃の温度で乾燥してプリプレグを製造した。こうして得られた180μmガラス織布プリプレグを8枚積層し、これを170℃の温度、4MPaの圧力で100分間加熱・加圧して厚さ1/16インチのガラスエポキシ積層板を得た。
【0195】
このガラスエポキシ積層板から長さ5インチ、幅0.5インチ、厚さ1/16インチの試験片を切り出し、この試験片について燃焼性、ガラス転移温度および耐熱性を調べた。各項目の評価方法は次の通りである。結果を表1に示す。
【0196】
(燃焼性)
アンダーライターズラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験に基づき、10回接炎時の合計燃焼時間と燃焼時の滴下物による綿着火の有無により、V−0、V−1、V−2および規格外の四段階に分類した。評価基準を以下に示す。難燃性レベルはV−0>V−1>V−2>規格外の順に低下する。
【0197】
V−0:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が50秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が5秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは30秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0198】
V−1:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0199】
V−2:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)試験片5本のうち、少なくとも1本は、滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がある。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0200】
(ガラス転移温度)
JIS K 7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」に準じ、DSCによって測定した。
【0201】
(耐熱性)
試験片を290℃で20分間処理し、外観の変化を観察した。表1において、「有」は、環状ホスファゼン化合物のブリードアウトによる外観変化がないことを示す。また、「無」は、環状ホスファゼン化合物のブリードアウトによる外観変化があることを示している。
【0202】
【表1】

【0203】
表1から明らかなように、実施例9〜17の樹脂組成物からなるガラスエポキシ積層板(樹脂成形体)は、比較例2、3のものに比べ、難燃性に優れ、また、ガラス転移温度が高いことから機械的物性が優れており、しかも、耐熱性で評価した環状ホスファゼン化合物のブリードアウトが実質的に見られない。
【0204】
実施例18〜24および比較例4、5(樹脂組成物の調製)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であるESCN−195XL(住友化学株式会社製:エポキシ当量200g/eq.)10部、球状溶融シリカ(龍森株式会社製:平均粒径20μm)100部、カルナバワックス(東亜化成株式会社製)0.5部およびDBU(1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7)0.5部の混合物に対し、実施例1〜3、5、7若しくは8で製造したヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物または比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物並びにフェノールノボラック樹脂であるDL−92(明和化成株式会社製:フェノール性水酸基当量110)を表2に示す割合で配合して常温で混合した。そして、これを90〜95℃で混練した後に冷却粉砕し、成形材料を製造した。この成形材料からなる成形品について、燃焼性および高温放置信頼性を評価した。評価方法は下記の通りである。結果を表2に示す。
【0205】
(燃焼性)
成形材料を175℃に加熱した金型内にトランスファー注入して8時間の後硬化処理をし、長さ5インチ、幅0.5インチ、厚さ1/32インチの成形品(封止品)を得た。この成形品について、実施例9〜17および比較例2、3の場合と同じく、UL−94規格垂直燃焼試験に準拠して燃焼性を評価した。
【0206】
(高温放置信頼性)
上述の混合物に対して添加したヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物等の安定性評価のため、次のような試験を行った。成形材料を用いて2本のアルミ配線を有するシリコン製チップ(テスト素子)を通常の42アロイフレームに接着し、これを170℃で4分間トランスファー成形した後、170℃において4時間後硬化処理した。このようにして得られた20個の成形品を、30℃,60%,100時間の吸湿処理した後、250℃の半田浴に10秒間浸漬した。その後、200℃における高温放置試験を2,000時間実施し、アルミニウム配線のオープン・ショートをしたものを不良成形品として評価した。
【0207】
【表2】

【0208】
表2より明らかなように、実施例18〜24の成形材料は、比較例4、5のものに比べ、難燃性および高温放置信頼性に優れた樹脂成形品を形成することができる。
【0209】
合成例1(可溶性ポリイミド樹脂の合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのガラス製フラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン277.7g(0.95mol)および3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル10.7g(0.05mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)700mlを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌溶解した。次に、フラスコ内の溶液を窒素雰囲気下で撹拌し、4、4’−(4、4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビスフタル酸無水物(IPBP)のDMF溶液[IPBP520.5g(1.00mol)、DMF1,100ml]を5〜10℃で2時間かけて滴下し、さらに室温で3時間撹拌してポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液2,500gをフッ素樹脂(PTFE)でコートしたトレイに移し、真空オーブンで減圧加熱(条件:200℃、5.7hPa以下、6時間)することによって、可溶性ポリイミド樹脂750gを得た。
【0210】
合成例2(2官能PPEオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および空気導入管を備えた2リットルのガラス製フラスコ中にCuCl1.3g(0.012mol)、ジ−n−ブチルアミン70.7g(0.55mol)およびメチルエチルケトン500mlを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予めメチルエチルケトン1,000mlに溶解させた4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)45.4g(0.16mol)と2,6−ジメチルフェノール58.6g(0.48mol)とを2リットル/分の空気のバブリングを行いながら2時間かけて滴下し、その後、1時間、2リットル/分の空気のバブリングを続けながら撹拌を行った。そして、これにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。その後、3%塩酸水溶液で3回洗浄を行った後、イオン交換水でさらに洗浄を行った。得られた溶液を濃縮し、さらに減圧乾燥を行い、両末端にヒドロキシル基を有する2官能PPEオリゴマーを101.3g得た。このオリゴマーは、数平均分子量が860、重量平均分子量が1,150、水酸基当量が455g/eq.であった。
【0211】
実施例25(樹脂組成物の調製)
合成例1で得られた可溶性ポリイミド樹脂50.0g、ジシクロペンタジエン系エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社の商品名“HP7200”:エポキシ当量277g/eq.)25.0g、実施例2で製造した環状ホスファゼン化合物(水酸基当量375g/eq.)33.8gおよび硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル(四国化成株式会社の商品名“2E4MZ”)0.3gをジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0212】
得られた樹脂溶液を、125μm厚PETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分間加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚み50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度180℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧した後、銅箔積層体(単層の樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。このようにして得られた、両面に銅箔層を有する銅箔積層体について、半田耐熱性を評価した。また、得られた銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去し、硬化シートを得た。得られた硬化シートについて、実施例9〜17および比較例2、3と同様にして燃焼性およびガラス転移温度を測定した。結果を表3に示す。なお、半田耐熱性の評価方法は次の通りである。
【0213】
銅箔積層体から長さ30mm、幅15mmの試験片を切り出し、この試験片を温度22.5〜23.5℃、湿度39.5〜40.5%の環境下で24時間放置した。そして、270℃の溶融半田に試験片を1分間ディップし、片側の銅箔のみをエッチングした。その後、目視にて樹脂部分を観察し、発泡や膨れ等の異常がなければ合格とし、20検体中の不合格数を調べた。
【0214】
実施例26〜28(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造した環状ホスファゼン化合物に代えて、表3に示した環状ホスファゼン化合物を同表に表示の配合量で使用した点を除いて実施例25と同様に操作し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて実施例25と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および燃焼性を評価した。結果を表3に示す。
【0215】
比較例6(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造した環状ホスファゼン化合物に代えて、比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物30.0gおよびフェノールノボラック型フェノール樹脂(群栄化学株式会社の商品名“PSM−4324”:水酸基当量104g/eq.)9.4gを使用した点を除き、実施例25と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて実施例25と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および難燃性を評価した。結果を表3に示す。
【0216】
【表3】

【0217】
実施例29(樹脂組成物の調製)
合成例1で得られた可溶性ポリイミド樹脂50g、ビスフェノールA系シアン酸エステル化合物である2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)28.0gおよび実施例2で得られた環状ホスファゼン化合物(水酸基当量=375g/eq.)33.8gをジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0218】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚み50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度200℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層の樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。そして、この銅箔積層体について、実施例25と同様の方法で半田耐熱性を評価した。また、銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去して得られた硬化シートについて、実施例25と同様の方法により燃焼性およびガラス転移温度を測定した。結果を表4に示す。
【0219】
実施例30〜32(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造した環状ホスファゼン化合物に代えて、表4に示した環状ホスファゼン化合物を同表に表示の配合量で使用した点を除いて実施例29と同様に操作し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて実施例29と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および燃焼性を評価した。結果を表4に示す。
【0220】
比較例7(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造した環状ホスファゼン化合物に代えて、比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物30.0gとフェノールノボラック型フェノール樹脂(群栄化学株式会社の商品名“PSM−4324”:水酸基当量104g/eq.)9.4gとを使用した点を除き、実施例29と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例29と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および燃焼性を評価した。結果を表4に示す。
【0221】
【表4】

【0222】
実施例33(樹脂組成物の調製)
合成例2で得られた2官能PPEオリゴマー(水酸基当量:455g/eq)22.8g、実施例1で得られた環状ホスファゼン化合物(水酸基当量276g/eq.)13.8gおよび ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパン・エポキシ・レジン株式会社の商品名“Epikote828”:エポキシ当量188g/eq.)18.8gをジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0223】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分間加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚みは50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度180℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。そして、この銅箔積層体について、実施例25と同様の方法で半田耐熱性を評価した。また、銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去して得られた硬化シートについて、実施例25と同様の方法により燃焼性およびガラス転移温度を測定した。結果を表5に示す。
【0224】
実施例34〜36(樹脂組成物の調製)
実施例1で製造した環状ホスファゼン化合物に代えて、表5に示した環状ホスファゼン化合物を同表に表示の配合量で使用した点を除いて実施例33と同様に操作し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例33と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および燃焼性を評価した。結果を表5に示す。
【0225】
比較例8(樹脂組成物の調製)
実施例1で製造した環状ホスファゼン化合物とビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて、比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物15.0gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパン・エポキシ・レジン株式会社の商品名“Epikote828”:エポキシ当量188g/eq.)9.4gを使用した点を除き、実施例33と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例33と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、ガラス転移温度および燃焼性を評価した。結果を表5に示す。
【0226】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物。
【化1】

(式(1)中、nは3〜15の整数を示し、Aは下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示しかつ少なくとも一つがA3基である。
A1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
A2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
A3基:下記の式(2)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基、下記の式(3)で示されるヒドロキシフェニル置換フェニルオキシ基、下記の式(4)で示されるヒドロキシフェニル置換インダンオキシ基および下記の式(5)で示されるヒドロキシインダン置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【化2】

【化3】

式(3)中、Yは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示す。
【化4】

【化5】

式(4)および式(5)中、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示す。)
【請求項2】
式(1)において、2n個のAのうちの2〜(2n−2)個がA3基である、請求項1に記載のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項3】
式(1)のnが3若しくは4である、請求項1または2に記載のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項4】
式(1)のnが異なる二種以上のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物を含む、請求項1から3のいずれかに記載のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項5】
下記の式(6)で表される環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、環状ホスホニトリル置換体を製造する工程と、
【化6】

(式(6)中、nは3〜15の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
E1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
E2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
E3基:下記の式(7)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(8)で示される置換フェニルオキシ基、下記の式(9)で示される置換インダンオキシ基および下記の式(10)で示される置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

(式(7)、式(8)、式(9)および式(10)中のZは、脱離したときにOH基を形成可能な保護基を示し、式(8)中のYは、O、S、SO、CH、CHCH、C(CH、C(CH)CHCH若しくはCOを示し、式(9)および式(10)中のRおよびRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基若しくはフェニル基を示す。)
前記環状ホスホニトリル置換体のE3基から前記保護基を脱離させる工程と、
を含むヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法。
【請求項6】
樹脂成分と、
請求項1から4のいずれかに記載のヒドロキシル基含有環状ホスファゼン化合物と、
を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂成分がエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選ばれたものである、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−153747(P2007−153747A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347360(P2005−347360)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【Fターム(参考)】