説明

ヒートシンク

【課題】放熱といった受動的機能の他にサーモスタットのような温度調節といった能動的機能をも兼ね備えたヒートシンクを提供する。
【解決手段】ヒートシンク11−1〜11−3は、形状記憶合金の第1部材と放熱用の第2部材とで螺旋状構造部を形成してなるヒートシンク本体部と、螺旋状構造部の一部が自身に触れたことを検知する検知部と、温度上昇に応じて螺旋状構造部が変態し該螺旋状構造部の一部が検知部に触れたとき、該検知をトリガとして所定の信号を送る信号送出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒートシンクに関し、特に電子部品や電気機器を放熱するために用いられ、温度に応じて放熱面積を可変する形状記憶合金を用いたヒ−トシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
電気部品や電気機器等は、動作する際に熱を生じるが、部品や機器本体で放熱しきれない高温に達すると、破損や異常動作につながる場合がある。それを防ぐため従来よりヒートシンク、例えば放熱フィンが用いられてきた。
【0003】
一般にヒ−トシンクは熱伝導率に優れるアルミ等の金属で形成され、放熱能力は主にその表面積によってが決まる。つまり、ヒートシンク毎に表面積は定まるため、ヒートシンク毎の放熱能力も定まる。また、ヒ−トシンクは放熱以外の機能はもたないものが一般的である。
【0004】
ところで、公共事業で治水や利水を目的としたダム設備の放流警報システムでは高発熱体である無線設備や警報・放送設備等を用いるが、連続送信や連続放送等は行わず間欠的使用を条件に放熱能力の小さいヒートシンクを使用するケースが多い。
【0005】
放熱能力の小さいヒートシンクを使用しているため、無線設備の送信時間延長、警報・放送設備の放送時間延長等の仕様変更が生じた場合、もしくは万一無線送信や放送が終了されず連続送信・連続放送に陥る不測の事態が発生した場合、無線設備や警報・放送設備等の破損や火災が発生する虞がある。
【0006】
しかるに、以下に記すように、ある温度以下で変形してもその温度以上に加熱すると元の形状に回復する性質をもつ形状記憶合金を利用した発明が開示されている。形状記憶合金を利用した、ヒ−トシンクに関する発明が特許文献1〜3に、コイルバネ素子に関する発明が特許文献4に、アクチュエータに関する発明が特許文献5に、それぞれ開示されている。
【0007】
特許文献1は、放熱フィンに形状記憶合金製の短冊板を組み合わせてファンによる気流を乱流とすることで同じ所要体積での放熱効率を向上させる構造の冷却装置を開示するものである。
【0008】
特許文献2は、熱源(電子素子等)と熱源の伝熱面に密着したヒ−トシンクとの間に充填された熱伝達促進剤への面圧を、形状記憶合金製のバネ力で加圧して安定させ、熱抵抗を低減することで、放熱効率の向上を図る構造の電子素子装着装置を開示するものである。
【0009】
特許文献3は、トランジスタの放熱量が小さい場合送風の邪魔にならないようにするため、トランジスタの放熱部を形状記憶合金からなるヒートシンク(放熱部材)と結合し、受熱量が増すほど放熱効果が高くなるように変形(放熱板を立たせるように)する構造の風量制御トランジスタの放熱装置を開示するものである。
【0010】
特許文献4は、小容積で2方向性のコイルバネを実現するため形状記憶合金製コイルバネと形状を記憶していない金属のコイルバネとを二重螺旋とする構造の2方向性形状記憶コイルバネ素子を開示するものである。
【0011】
特許文献5は、形状記憶合金をコイル型にし、絶縁材を介してコイルに接触する熱電素子によるコイルの加熱/冷却によってコイルを伸縮させ、高い伸縮出力を得る構造のアクチュエータを開示するものである。コイルには渦巻スパイラル型も含まれている。
【0012】
ところで、ヒ−トシンクの放熱能力は主に素材とその表面積で決まり可変ができなかったが、特許文献3に記載の発明では、放熱部材を形状記憶合金で構成し、熱量に応じて放熱部材の姿勢を変化させることで放熱効率を変化させている。前述の放送設備や警報設備で使用する高発熱機器の動作時間が仕様変更等によって延長された場合、ヒートシンクに形状記憶合金を用いれば、任意の温度を基準に表面積を可変することが可能となるため予め動作時間の延長分を見込んで最大放熱能力が高めのものを実装しておくことにより、仕様変更に対しヒ−トシンク自体の交換作業を行なうこと無く対応できる。
【0013】
一方、特許文献5に記載の発明では、形状記憶合金をコイル型にし、これに与える熱量に応じてコイルを伸縮させることで、高い伸縮出力を得るアクチュエータを提供している。
【0014】
【特許文献1】特開平10−190268号公報(段落[0003]、[0004] 、[0009]、図1および要約書参照)
【特許文献2】特開平10−173112号公報(段落[0003]、[0004] 、[0009]、図2および要約書参照)
【特許文献3】特開昭59−087844号公報(特許請求の範囲、第1頁の右欄の第19行目〜第2頁の左欄の第3行目、図3参照)
【特許文献4】特開平08−312705号公報(段落[0005]〜[0009]、[0019]、図1および要約書参照)
【特許文献5】特開2001−099206号公報(請求項1、30、段落[0002]〜[0005]、[0023]、[0055]、図1および要約書参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1〜5に記載の発明を含む従来技術による形状記憶合金を利用したヒートシンク等の部材には、一般的に、部材そのものの機能以外の機能を含むものはない。例外として、ヒートシンクには放熱機能の他にフレームとしての構造的機能を有するものはあるものの、これら機能は何れも受動的なものである。そこで、本発明はヒートシンクに放熱といった受動的機能の他にサーモスタットのような温度調節といった能動的機能をも兼ね備えたヒートシンクを提供することを目的とする。
【0016】
本発明はまた、ヒートシンクにより冷却される電子部品または電気機器の温度異常を段階的に検出する手段を備えたヒートシンクを提供することを他の目的とする。
【0017】
本発明は垂直方向に伸長し得るスペースを有するヒートシンクを提供することをその他の目的とする。
【0018】
本発明は水平方向に伸長し得るスペースを有するヒートシンクを提供することをその他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成する本発明の第一形態によるヒートシンクは、形状記憶合金の第1部材と放熱用の第2部材とで螺旋状構造部を形成してなるヒートシンク本体部と、前記螺旋状構造部の一部が自身に触れたことを検知する検知部と、温度上昇に応じて前記螺旋状構造部が変態し該螺旋状構造部の一部が前記検知部に触れたとき、該検知をトリガとして所定の信号を送る信号送出部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成する本発明の第二形態によるヒートシンクは、上記ヒートシンクにおいて、前記ヒートシンク本体部と前記検知部との対を複数備え、前記ヒートシンク本体部の各々は当該螺旋状構造部の変態温度が異なり、前記複数の検知部の各々は当該螺旋状構造部それぞれの所定の変態温度での変化に応じて温度の検知を行う。
【0021】
上記目的を達成する本発明の第三形態によるヒートシンクは、上記ヒートシンクにおいて、前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部はつる巻状に形成される。
【0022】
上記目的を達成する本発明の第四形態によるヒートシンクは、上記ヒートシンクにおいて、前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部は渦巻状に形成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第一形態のヒ−トシンクによれば、任意の温度をヒートシンクの変態温度に設定し、該変態温度に設定した所定の温度を境に変態する事でその放熱面積を大きくし、放熱能力を可変する冷却機能の他に、所定の温度以上になった場合に警告信号等を送出する構成により、危険温度に至るなどの温度異常を検出し設定温度を保持するサーモスタットの機能を兼ね備えることができる。また、送出した信号を警報通知や強制冷却ファンの始動等に用いることにより、保安・保護機能としての役割も兼ねることができる。
【0024】
また、第一形態のヒ−トシンクによれば、不測の事態等で放熱対象の電子部品及び電気機器の温度が、当初の設計温度より上昇した場合、リミット温度を変態温度として設定しておくことで温度ヒュ−ズのような保安機能をも実現できる。
【0025】
本発明の第二形態は、各種ヒートシンク毎に異なる温度で変態し、温度上昇を段階的に検出する手段を設ける。具体的にはヒートシンク本体部と検知部との対を複数備え、それぞれのヒートシンク本体部の動作は、所定の変態温度毎に異なるものであり、それゆえどのヒートシンク本体部が変態(伸長)したかに応じて温度異常を段階的に検出でき、複数段階の温度制御ができる。
【0026】
本発明の第三形態によれば、ヒートシンクの水平方向にスペースがなく、垂直方向にスペースがある場合に好適なヒートシンクを提供することができる。
【0027】
本発明の第四形態によれば、ヒートシンクの垂直方向にスペースがなく、水平方向にスペースがある場合に好適なヒートシンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るヒートシンクを備えた電気機器の概要を示す構成図である。図1全体に示す電気機器1の動作を以下に説明する。電機機器1(以下、単に機器1と記す)は異なる温度で変態する形状記憶合金を使用した複数のヒートシンク11−1、11−2および11−3を含む。
【0029】
ステップS1:機器1が設計温度範囲内で動作している時は、ヒートシンク11−1および11−2は、縮まっていて通常の放熱動作を行なう。
【0030】
ステップS2:機器1の温度が上昇し、機器1の設計温度を超過した領域(T℃)に入るとヒートシンク11−1が変態して放熱面積を増加し放熱効果を高める。
【0031】
ステップS3:機器1が不測の事態等で、機器1の温度上昇が継続し、破壊や火災に至る危険温度領域(T+α℃)に達すると、ヒートシンク11−2が変態し、更に放熱面積を増加、放熱効果を高める。同時にヒートシンク11−2の変態を、ヒートシンクの螺旋状の第1部材の先端が触れたことを検知する検知部により、温度上昇に応じて螺旋状の第1部材が伸長し先端が検知部に触れると、該検知をトリガとして所定の信号を送出し、サーモスタットのように電気的スイッチを閉じ、電動の冷却FAN15等を起動し、強制空冷にて機器1を冷却する。
【0032】
ステップS4:不測の事態が収拾し、機器1の温度が下降するとヒートシンク11−2が通常の形状に戻る。これをトリガにして冷却FAN15を停止し自然空冷に復帰する。
【0033】
ステップS5:更に機器1の温度が下降するとヒートシンク11−1は通常の形状に戻り、通常運転に復帰する。
なお、さらにヒートシンク11−3の変態温度を前記T、前記T+α℃とは異なる温度に設定すれば、前述のようなヒートシンク11−1および11−2による二段階の温度検知ではなく、これにヒートシンク11−3をあわせた三段階の温度検知が可能になる。
【0034】
従来は放熱機能、サーモスタット機能及び保安機能を実現するためには、各機能毎に設備を必要としたが、本発明によれば、一連の機能を1つの設備で実現することが可能であり設備の省スペ−ス化、省電力化、低コスト化が実現できる。
【0035】
また、放熱機能、サーモスタット機能および保安・保護機能の3つの機能を備えたヒートシンクにおいて、サーモスタット機能および保安・保護機能の特性を利用し、電動の冷却ファンを付加したシステムとして実現することで、従来より信頼性の高い保安が可能となる。
【0036】
変態温度の異なるヒ−トシンクを段階的に動作させて、上昇する温度によって放熱効率を上げていき、最終段のヒ−トシンクの動作をトリガにして電動の冷却ファンの駆動及びアラ−ムの発報動作を行なうことで、信頼性を高めた保安・保護システムを実現できる。
【0037】
このように、本発明のヒートシンクは単独で下記の3つの機能を有するので機器のスペ−ス、コストおよびメンテナンスの全ての面においてメリットがある。
1.放熱機能
2.温度検出機能
3.想定外の温度上昇時における機器の保安・保護機能
【0038】
さらに、上記3つの機能を実現するのために動作用電源を設けなくてもよく、電気的な故障のリスクを縮小することができる。
【0039】
本発明によれば、従来のヒ−トシンク機能に加えて、任意の温度条件で放熱能力を可変する機能を併せ持つことで、熱源の温度を一定に保とうとする特性を得ることができる。この特性は、サーモスタットとしての使用が可能であることを示しており、本来の機能である放熱動作と組合わせて利用すれば、受動的な機能のみであった従来のヒートシンクに対し、温度を制御するという能動的な機能を持たせることが可能となる。
【0040】
本発明によれば、ヒートシンクの変態温度を設定温度≦危険温度の条件で設定しておくことで、ヒートシンクの放熱面積の増加に伴う放熱効果の向上で、無線設備や警報・放送設備等の破損や火災を回避することが可能となる。
【0041】
本発明の実施形態に係るヒートシンクは本体部が螺旋状構造となっており、つる巻状または渦巻状に形成されている。最初に、つる巻状に形成されたヒートシンクの実施例を以下に説明する。
【0042】
図2は本発明による第1実施例のヒートシンクの構成を示す斜視図である。図2に示すヒートシンク21は電子部品22の上に付着され、形状記憶合金製つる巻バネの形で構成される。形状記憶合金製つる巻バネは第1部材23と第2部材24とを有し、冷却FAN25からのエアーにより空冷される。
【0043】
ヒートシンク21は形状記憶合金製つる巻バネの温度変化による変態特性を利用し、放熱面積を変化させる構造とすることで、従来のヒートシンクが持ち得なかった付加機能であるサーモスタット機能およびヒートシンクを搭載した部品または機器の保安機能を実現できる。
【0044】
図3は図2に示す形状記憶合金製つる巻バネで構成されたヒートシンクの概要を示す図であり、形状記憶合金製つる巻バネを構成する(A)は材料を、(B)は第1部材を、(C)は第2部材をそれぞれ示す。
【0045】
第1部材23の典型例は形状記憶合金(Ni-Ti)であり、Ni-Ti合金は熱伝導率がステンレスと同程度で、放熱を目的とした用途には直接使用された例が無い。使用の主な目的はバイアス発生用、すなわち付勢をつけるためであり、ヒートシンクとして冷却機能を発揮するために放熱部を別途設ける必要があり余分なスペースが必要となる。
【0046】
上記ヒートシンクによれば、つる巻バネの構造を、第1部材23であるバイアス発生用の形状記憶合金(Ni-Ti)バネと第2部材24である放熱用の熱伝導率の高い異種金属(Cu、Al等)とによるバネとの二重螺旋構造とすることで、形状記憶合金の熱伝導率の悪さ(ステンレスと同程度)を補い放熱効果を高め、その結果同じ容積でより高い放熱効率を実現できる。
【0047】
また、上記ヒートシンクによれば、従来分離されていた放熱部とバイアス部とを一体化することで省スペ−ス化が可能となり、単位容積あたりの放熱効率向上を実現できる。
【0048】
図4は図2に示すヒートシンクを構成するつる巻バネの巻線比率を変えた実施例を示す図である。つる巻バネを構成するバイアス発生用バネと放熱用バネの巻線比率を変え、形状記憶合金からなるバイアス発生用バネより放熱用バネの表面積を大きくし放熱面積を増大することで、同じ容積でより高い放熱効果を実現することが可能となり、ヒ−トシンクの放熱効率を向上できる。
【0049】
図5は形状記憶合金製つる巻バネを構成する(A)第1部材を、(B)は第2部材をそれぞれ示す図である。
【0050】
ヒートシンクの容積に対する放熱効果をより高める目的で第1部材(Ni-Ti)のバイアス用バネを細線で、第2部材(Cu、Al等)の放熱用バネを帯状とすることでヒートシンクの放熱面積を増大し、同じ容積でより高い放熱効果を実現するヒートシンクが提供できる。
【0051】
また、形状記憶合金を使用したバネの製造例はつる巻状のものが最も多く、製造が容易でありかつ安価である。更に形状記憶合金製バネを構成するバイアス発生用バネを細線で構成することにより形状記憶合金製バネの製造を容易かつ安価にすることが可能となる。
【0052】
図6はつる巻バネを熱伝導率の高い金属板に複数個装着しモジュール化したヒートシンクの実施例を示す図である。図6に示すように複数個のつる巻バネを金属板60に装着してモジュール化することにより広範な汎用性を持たせることが可能となる。特に大きな装置を冷却するための放熱に公的である。
【0053】
また、複数のつる巻バネを装着した金属板60を装置に固定する際、装置側の熱源との接触部位に粘着性の熱伝導シ−トで貼り付け金属板60を固定することで特殊な加工を必要とせず後付けが容易となり汎用性を持たせることができる。
【0054】
図7は図6に示すヒートシンクの上蓋に金属を用いた例を示す図である。図7に示すように、金属製の上蓋をすることで、放熱効果を高めると同時に外からの接触や衝撃によるヒートシンク本体の破損を回避することができる。
【0055】
図8は図6に示すヒートシンクの上蓋に網目状の蓋を用いた例を示す図である。図8に示すヒートシンクには熱伝導率の高い金属(Cu、Al等)を素材とした網目構造の上蓋を用いることで、放熱効率を向上させることができる。
【0056】
図9は図6に示すヒートシンクの上蓋に太目の四角形の棒状とし荒めの網目とした構造の蓋を用いた例を示す図である。このような構造により、通気面積を大とすることで冷却対象物が空気に触れる面積が大となるので放熱効率を向上させることができる。
【0057】
図10は図1全体に示す電気機器を冷却するヒートシンクと上蓋との接触部位に放熱シートを貼り付けた構造を示す図である。図10に示すように複数のつる巻バネによるヒートシンクと上蓋との接触部位に放熱プレート16を貼り付けることにより、ヒートシンクと上蓋との間の接触面積を増やし、放熱効率を向上させることができる。
【0058】
図11は図1全体に示す電気機器を冷却するヒートシンクと上蓋との接触部位に熱伝導シートを貼り付けた構造を示す図である。図11に示すように複数のつる巻バネによるヒートシンクとの接触部位に熱伝導性が大きい熱伝導シート17を貼り付けることにより、熱伝導シート17の熱伝導性が大きいので熱抵抗を下げ、放熱効率を向上させることができる。
【0059】
図12は本発明によるつる巻バネ構造のヒートシンクのサーモスタット機能の特性を示す図である。従来は、熱発生源(部品・機器等)の温度を一定に保とうとした時、熱源の温度をセンサ等により監視し、予め設定した温度に達した時点でセンサ信号により電動の冷却ファンを起動して冷却していた。これに対し、本発明は、これら一連の機能(センサ機能・冷却機能)をヒ−トシンクのみで実現しようとするものである。また従来は、サーモスタットと連携した冷却機能を有する機器には、動作に電源が必要であったが、本発明によるヒートシンクには、冷却機能を有する機器用の電源が不要となるというメリットもある。
【0060】
本発明によるヒートシンクは温度が上昇した場合、予め設定した変態温度を境に伸長して放熱面積を大きくし、逆に温度が下降した場合、同変態温度を境に収縮して放熱面積を小さくするようヒートシンクの形状を可変するので、結果として熱源を変態温度付近に保とうとする特性をヒートシンク単体で得ることができる。ヒートシンクのこの特性は、サ−モスタットの機能を代替えするものである。この機能を利用した具体的例として次のものを挙げる。熱発生源である部品及び機器等の温度上昇によるヒートシンクの変態をヒートシンクの螺旋状の第1部材の先端が触れたことを検知する検知部により、温度上昇に応じて螺旋状の第1部材が伸長し先端が検知部に触れると、該検知をトリガとして所定の信号を送出し、サーモスタットのように電気的スイッチを閉じ、電動の冷却FAN15等を起動し、強制空冷にて熱発生源である機器1を冷却する。
【0061】
図13は本発明によるつる巻バネ構造のヒートシンクの保安機能の特性を示す図である。従来は、熱発生源である部品及び機器等が動作中に不測の事態(外部温度上昇等)で温度上昇し当初の設計値を超過した場合に下記のように対策していた。
(1)センサ連動の電動ファン等で強制空冷する。
(2)温度ヒュ−ズ等の保安部品を実装する。
【0062】
しかしながら、上記対策(1)および(2)は以下の問題を内包している。
対策(1)では電動ファンが故障する二重障害が発生した場合は対処できず、機器の破損や火災につながる恐れがある。
【0063】
上記対策(1)の問題を解決するため温度ヒュ−ズを用いる対策(2)がある。しかし、温度ヒュ−ズは、発熱の根本原因である電力の供給を断ってしまうので、部品や機器の動作を止めてしまい、機器によっては、連続運転が必須で停止が許されないものも存在するが、この場合対処できない。
【0064】
これに対して本発明は、予めヒ−トシンクの変態温度を熱発生源である部品や機器のリミット温度に設定することで、不測の事態による温度超過時に二重障害が発生した場合でも、部品や機器の運転を止めずに放熱することが可能となる。
【0065】
次に、渦巻状に形成されたヒートシンクの実施例を以下に説明する。
図14は本発明による第2実施例のヒートシンクの構成を示す斜視図である。図14に示すヒートシンク121は電子部品122の上に付着され、形状記憶合金製渦巻バネの形で構成される。形状記憶合金製渦巻バネは第1部材123を有し、冷却FAN125からのエアーにより空冷される。
【0066】
後述するように、本発明は、形状記憶合金製渦巻バネの温度変化による変態特性を利用し、放熱面積を変化させる構造で、従来のヒートシンクが持ち得なかった付加機能を実現することができる。
【0067】
図15は図14に示す渦巻バネ構造のヒートシンクを部品に取付けた状態を示す図であり、(A)はヒートシンクを部品に垂直に取付けた状態を示し、(B)はヒートシンクを部品に水平に取付けた状態を示す図である。
【0068】
図15の(A)に示すように、渦巻バネ構造のヒートシンクの第1部材123Aの角度を電子部品122に垂直とし、ヒートシンクの第1部材123Aの側面から冷却ファン125等により強制空冷する。
【0069】
図15の(B)に示すように、渦巻バネ構造のヒートシンクの別の態様の第2部材123Bの角度を電子部品122に水平とし、放熱体である電子部品122からの熱対流を妨げることなく効率的に自然放熱する。
【0070】
図16はヒ−トシンク基部を可動式とし渦巻バネ角度を可変できるようにする構造を示す図である。この構造により、ヒ−トシンクの設置条件によらず最適な放熱効率で使用することが可能となる。
【0071】
図17は渦巻バネの二重巻き構造の具体例を示す図である。形状記憶合金(Ni-Ti)は、熱伝導率がステンレスと同程度で、放熱を目的とした用途には直接使用されることなく、主に形状を可変するために用いられる。この形状記憶合金をヒートシンクに適用する場合、従来では放熱部を別途設ける必要があり、占有スペースが必要となる。それゆえ、本発明は、渦巻バネの構造を、形状可変用の形状記憶合金(Ni-Ti)バネと放熱用の熱伝導率の高い金属(Cu、Al等)とによる二重巻き構造とすることで、同じ体積でより高い放熱効率を実現するものである。
【0072】
形状記憶合金の特性の1つである低熱伝導率(ステンレスと同程度)をカバ−するために熱伝導率の高い金属(CuまたはAl)の渦巻バネを並行して巻き込む構造とする。このように、放熱部と形状可変部を一体化することで省スペ−ス化が可能となり、単位体積あたりの放熱効率を向上させることができる。
【0073】
図18は渦巻バネの二重巻き構造の他の具体例を示す図である。図17に示す形状可変用バネをつる巻バネとし、放熱用バネを帯状とすることにより、形状記憶合金製の渦巻バネの製造を容易にすることができる。形状記憶合金を使用したバネの製造例はつる巻状のものが最も多く、製造が技術的に容易であると同時に安価である。
【0074】
図19は本発明による渦巻バネ構造のヒートシンクのサーモスタット機能の特性を示す図である。図19は図12に示すつる巻バネ構造のヒートシンクを渦巻バネ構造のヒートシンクに置換えたときのサーモスタット機能の特性を示す。
【0075】
図20は本発明による渦巻バネ構造のヒートシンクの保安機能の特性を示す図である。図19は図13に示すつる巻バネ構造のヒートシンクを渦巻バネ構造のヒートシンクに置換えたときの保安機能の特性を示す。
【0076】
図21は渦巻バネ構造のヒートシンクを収容する金属製ケ−スの斜視図であり、(A)は渦巻バネが閉じた状態を示し、(B)は渦巻バネが開いた状態を示す図である。渦巻バネ構造のヒートシンク221の中心Cをケ−ス228の底部に固定し、ヒートシンク221を金属製のケ−ス228内に収容することで、外からの接触や衝撃によるヒートシンク221の本体の破損を回避することができる。また、このケ−ス228を、熱伝導率の高い金属(Cu、Al等)で製造することで、同じ体積でも放熱効果を高めることができる。
【0077】
図21の(A)に示すように、ヒートシンク221は、渦巻バネ223と金属ケ−ス228の接触部位に熱伝導材227を充填した構造であり、熱伝導材227により、熱抵抗を下げ、放熱効率を向上させることができる。
【0078】
図21の(A)に示す構造により、渦巻バネを構成する第1部材223が開いた時に金属製のケ−ス228と接触する部位に熱伝導材227を貼り付ける構造とすることで、熱抵抗を下げ放熱効率を向上させることができる。
【0079】
図22は渦巻バネと金属ケ−ス間に熱伝導材を充填した構造を示す図であり、(A)は上面図であり、(B)は側面図である。
【0080】
図22の(A)に示すように、ヒートシンク221は、渦巻バネを構成する第1部材223と金属ケ−ス228間に熱伝導材227を充填した構造(渦巻バネの最外周の曲線(R)に合わせて熱伝導材227を充填した構造)で、放熱効率を向上させることができる。
【0081】
図23は金属ケ−ス構造に熱伝導率の高い金属(Cu、Al等)を素材としたメッシュ構造の上蓋230を具備する構造を示す図である。放熱効率を向上させることができる。
【0082】
図24は図23に示すケースの上蓋を、押えバネ付きネジにより加圧する構造を示す図であり、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は押えバネ付きネジの詳細図である。ケース228のアルミメッシュ製の上蓋230Aを、押えバネ付きネジ240により適度な圧力で押える事で、ヒ−トシンクの変態を妨げることなく熱抵抗を下げ放熱効率を向上させることができる。図24の(A)〜(C)に示すように、押えバネ付きネジ240はヒートシンクとケース228下部の熱伝導材227との間の密着性を高める。押えバネ付きネジ240は適度な圧力を発生させる為のバネ241とワッシャ242とネジタップ242とをもつ。
【0083】
図25は本発明の渦巻バネ式形状記憶合金を用いた第1具体例のヒートシンクにおける温度変化に応じて変化する渦巻バネの形状を示す図であり、(A)は常温時の形状、(B)は設定温度時の形状、(C)は上限温度時の形状をそれぞれ示す図である。
【0084】
つる巻バネ式と異なり渦巻バネ式の形状記憶合金を用いたヒートシンクはヒートシンクの本体を固定しないでも機能を発揮できるので、設置後にヒートシンクの数を調整して、放熱効率を上げたり下げたりすることができる。
【0085】
また、サ−モスッタット機能においても、つる巻バネ式では一度設置したら後で容易に調整はできないが、渦巻バネ式では変態温度の異なるヒ−トシンクを適宜追加または削除する事で設置後の調整が容易となる。
【0086】
図25の(A)に示すように、渦巻バネ式形状記憶合金はケースの上方挿入部から供給され、ケースの下方取出し部から取り出すことができる。ケース内の渦巻バネ式形状記憶合金がそれぞれ異なる変態温度を持つ場合、常温時の形状では放熱効果は低く、図25の(B)に示すように、最初の設定温度到達時は設定温度時の形状となり、放熱効果は中位であり、図25の(C)に示すように、最終温度到達時は上限温度時の形状となり、放熱効果は最大となる。
【0087】
図26は本発明の渦巻バネ式形状記憶合金を用いた第2具体例のヒートシンクを示す図である。つる巻バネ式のヒートシンクでは放熱対象面積が広範囲に亘る場合、多数のヒートシンクを固定した構造としなくてはならず、機構が複雑化し製造コストが嵩む。これに対し渦巻きバネ式のヒートシンクは水平方向にスペ−スがあれば狭小なスペ−ス環境においても、巻き数と幅を調整する事で、機能を最大限に発揮させる事ができるので、スペ−ス的な制約が厳しい実装の場合、特に有効的に利用できる。
【0088】
渦巻バネ式のヒートシンクはつる巻バネ式と比較した場合、製造時に巻き数とサイズを調整する事で少数のヒートシンクで同じ機能を実現できる。
【0089】
(付記1)
形状記憶合金の第1部材と放熱用の第2部材とで螺旋状構造部を形成してなるヒートシンク本体部と、
前記螺旋状構造部の一部が自身に触れたことを検知する検知部と、
温度上昇に応じて前記螺旋状構造部が変態し該螺旋状構造部の一部が前記検知部に触れたとき、該検知をトリガとして所定の信号を送る信号送出部と、
を備えたことを特徴とするヒートシンク。
(付記2)
前記ヒートシンク本体部と前記検知部との対を複数備え、
前記ヒートシンク本体部の各々は当該螺旋状構造部の変態温度が異なり、
前記複数の検知部の各々は当該螺旋状構造部それぞれの所定の変態温度での変化に応じて温度の検知を行う、
付記1に記載のヒートシンク。
(付記3)
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部はつる巻状に形成される、
付記1または2に記載のヒートシンク。
(付記4)
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部は渦巻状に形成される、
付記1または2に記載のヒートシンク。
【0090】
(付記5)
形状記憶合金に放熱用金属を沿わせた螺旋状構造部により構成されるヒートシンク本体部と、
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部の先端が触れたことを検知する検知部と、
温度上昇に応じて前記螺旋状構造部が伸長し該螺旋状構造部の先端が前記検知部に触れると、該検知をトリガとして所定の信号を送る信号送出部と、
を備えたことを特徴とするヒートシンク。
(付記6)
前記ヒートシンク本体部と前記検知部の対を複数備え、それぞれのヒートシンク本体部は変態温度が異なり、
前記複数の検知部は前記複数のヒートシンク本体部のそれぞれ所定の変態温度での変化に応じて温度の検知を段階的に行う、
付記5に記載のヒートシンク。
(付記7)
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部はつる巻状に形成される、
付記5または6に記載のヒートシンク。
(付記8)
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部は渦巻状に形成される、
付記5または6に記載のヒートシンク。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒートシンクを備えた電気機器の概要を示す構成図である。
【図2】本発明による第1実施例のヒートシンクの構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示す形状記憶合金製つる巻バネで構成されたヒートシンクの概要を示す図であり、形状記憶合金製つる巻バネを構成する(A)は材料を、(B)は第1部材を、(C)は第2部材をそれぞれ示す。
【図4】図2に示すヒートシンクを構成するつる巻バネの巻線比率を変えた実施例を示す図である。
【図5】形状記憶合金製つる巻バネを構成する(A)第1部材を、(B)は第2部材をそれぞれ示す図である。
【図6】つる巻バネを熱伝導率の高い金属板に複数個装着しモジュール化したヒートシンクの実施例を示す図である。
【図7】図6に示すヒートシンクの上蓋に金属を用いた例を示す図である。
【図8】図6に示すヒートシンクの上蓋に網目状の蓋を用いた例を示す図である。
【図9】図6に示すヒートシンクの上蓋に太目の四角形の棒状とし荒めの網目とした構造の蓋を用いた例を示す図である。
【図10】図1全体に示す電気機器を冷却するヒートシンクと上蓋との接触部位に放熱シートを貼り付けた構造を示す図である。
【図11】図1全体に示す電気機器を冷却するヒートシンクと上蓋との接触部位に熱伝導シートを貼り付けた構造を示す図である。
【図12】本発明によるつる巻バネ構造のヒートシンクのサーモスタット機能の特性を示す図である。
【図13】本発明によるつる巻バネ構造のヒートシンクの保安機能の特性を示す図である。
【図14】本発明による第2実施例のヒートシンクの構成を示す斜視図である。
【図15】図14に示す渦巻バネ構造のヒートシンクを部品に取付けた状態を示す図であり、(A)はヒートシンクを部品に垂直に取付けた状態を示し、(B)はヒートシンクを部品に水平に取付けた状態を示す図である。
【図16】ヒ−トシンク基部を可動式とし渦巻バネ角度を可変できるようにする構造を示す図である。
【図17】渦巻バネの二重巻き構造の具体例を示す図である。
【図18】渦巻バネの二重巻き構造の他の具体例を示す図である。
【図19】本発明による渦巻バネ構造のヒートシンクのサーモスタット機能の特性を示す図である。
【図20】本発明による渦巻バネ構造のヒートシンクの保安機能の特性を示す図である。
【図21】渦巻バネ構造のヒートシンクを収容する金属製ケ−スの斜視図であり、(A)は渦巻バネが閉じた状態を示し、(B)は渦巻バネが開いた状態を示す図である。
【図22】渦巻バネと金属ケ−スの接触部位以外の箇所に熱伝導材を充填した構造を示す図であり、(A)は上面図であり、(B)は側面図である。
【図23】金属ケ−ス構造に熱伝導率の高い金属(Cu、Al等)を素材としたメッシュ構造の上蓋230を具備する構造を示す図である。
【図24】図23に示すケースの上蓋を、押えバネ付きネジにより加圧する構造を示す図であり、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は押えバネ付きネジの詳細図である。
【図25】本発明の渦巻バネ式形状記憶合金を用いた第1具体例のヒートシンクにおける温度変化に応じて変化する渦巻バネの形状を示す図であり、(A)は常温時の形状、(B)は設定温度時の形状、(C)は上限温度時の形状をそれぞれ示す図である。
【図26】本発明の渦巻バネ式形状記憶合金を用いた第2具体例のヒートシンクを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 電気機器
11−1、11−2、11−3、21、121、221 ヒートシンク
15、25、125 冷却ファン
16 放熱プレート
17 熱伝導シート
22、122 電子部品
23、123、223 第1部品
24、224 第2部品
60 金属板
227 熱伝導材
228 ケース
230 上蓋
240 押えバネ付きネジ
241 押さえバネ
242 ワッシャ
243 ネジタップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金の第1部材と放熱用の第2部材とで螺旋状構造部を形成してなるヒートシンク本体部と、
前記螺旋状構造部の一部が自身に触れたことを検知する検知部と、
温度上昇に応じて前記螺旋状構造部が変態し該螺旋状構造部の一部が前記検知部に触れたとき、該検知をトリガとして所定の信号を送る信号送出部と、
を備えたことを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
前記ヒートシンク本体部と前記検知部との対を複数備え、
前記ヒートシンク本体部の各々は当該螺旋状構造部の変態温度が異なり、
前記複数の検知部の各々は当該螺旋状構造部それぞれの所定の変態温度での変化に応じて温度の検知を行う、
請求項1に記載のヒートシンク。
【請求項3】
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部はつる巻状に形成される、
請求項1または2に記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記ヒートシンク本体部の螺旋状構造部は渦巻状に形成される、
請求項1または2に記載のヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−117809(P2008−117809A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296970(P2006−296970)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】