説明

ヒートパイプ回路基板

【課題】電子部品から発せられる熱の放熱を高めるために、回路基板自身が冷却機能を有するヒートパイプ回路基板を提供する。
【解決手段】ヒートパイプと、少なくとも一層の絶縁層と、前記絶縁層の表面又は内部に設けられた回路パターンと、前記絶縁層を介して前記ヒートパイプに搭載された電子部品を備えるヒートパイプ回路基板。前記ヒートパイプが、少なくとも一方の板材に作動液の流路となる凹部を設けた二枚の板材を、摩擦攪拌接合法によって接合したものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品から発せられる熱の放熱性能を高めるため、回路基板自身が冷却機能を有するヒートパイプ回路基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
【0003】近年、パーソナルコンピュータの発達に代表されるように、CPU、電子素子、その他の電子部品(以下、電子部品と称する。)は小型化され、またその性能は著しい進化をとげている。この電子部品の高性能化に伴って、電子部品から発せられる発熱量も増大の一途をたどっている。従って、電子部品から発せられる熱をいかに効率よく放熱させて、いかに電子部品の温度上昇を抑え、電子部品の性能を保つことができるかということは、現在、最も重要な技術的な課題のひとつとなっている。
【0004】電子部品は、多くの場合、プリント基板に搭載されて、他の電子部品と所定の電子回路を構成する。プリント基板は絶縁材料からなる薄板であり、プリント基板の表面には、銅等の電気伝導率の高い金属が、所定の回路を構成するようにプリントされている。またプリント基板には、電子部品が取り付けられる位置に穴等も明けられ、電子部品は、はんだ付やその他の接合方法によって、プリント基板に接合され、所定の電子回路を構成する。しかし、プリント基板自体は、熱伝導率も低く、特別の冷却機能等は有していない。
【0005】電子部品の発熱量があまり大きくない場合には、特別な冷却装置を備えずに、自然対流による冷却でも放熱可能であるが、発熱量がある程度以上になる場合には、積極的な放熱手段を加える必要がある。従来、最も一般的な放熱手段としては、熱伝導度の高い金属でできたヒートシンクを接続させる方法がある。また、更に、冷却ファンによる冷却を組み合わせることも多く用いられる。
【0006】しかし、現在、電子部品の小型化、高性能化によって、より省スペースで、放熱効率の高い放熱方法が求められるようになり、代表的な冷却方法または熱伝達の方法として、ヒートパイプの利用が挙げられる。電子部品がある程度の大きさがある場合には、ヒートパイプを直接、電子部品へ接触させることが考えられるが、電子部品が小型の場合には、電子部品が搭載されたプリント基板にヒートパイプを接触させることが多く採られている。
【0007】以下に、従来技術の代表的な例として、プリント基板に電子部品が搭載された回路基板に、ヒートパイプを接続させて冷却する方法を説明する。ヒートパイプは、銅やアルミニウムのような比較的熱伝導率の高い金属で作られるのが一般的である。プリント基板とヒートパイプの間には、電気的に絶縁を保ちながら、良好な熱伝導を得るために、極力熱伝導率の高い絶縁物質が装入される。また、プリント基板とヒートパイプの接合は、機械的な接合方法、接着剤等による接合方法がある。接着剤による接合方法の場合には、接着剤も上記の熱伝導性を有する絶縁物質の役割も果たすこととなる。
【0008】電子部品で発生した熱は、プリント基板、及び、プリント基板とヒートパイプの間に挿入された絶縁物質を通過し、接続されたヒートパイプの受熱部外壁へ伝わる。熱は更に、ヒートパイプの受熱部の外壁から内壁へ熱伝導されて、ヒートパイプ作動液流路中の受熱部に溜まった作動液に熱伝達される。作動液は、伝達された熱によって気化し、気化した作動液は移動し、放熱部へ到達する。ヒートパイプの放熱部の外壁には放熱フィン等が設けられ、外部へ放熱がされる。
【0009】気化した作動液は、放熱部のヒートパイプ内壁と接触して抜熱され、奪った熱は、ヒートパイプの内壁から外壁へ熱伝導し、外部の冷却フィン等から、大気中へ放熱される。放熱の効率を高めるために、冷却ファンが設置されることもある。放熱部で抜熱された作動液は、気体から液体に戻る。液体に戻った作動液は、重力または毛管力によって作動流路を流れ受熱部へ戻る。ここで、ふたたび上記のサイクルを繰り返すこととなる。
【0010】ヒートパイプの利用は、作動液の蒸発熱を利用するため、非常に効率よく熱伝達を行なうことができる方法である。しかし、電子部品から発生した熱は、プリント基板を通してヒートパイプに伝達される。プリント基板自体は、金属等と異なり、熱伝導率は高くないので、電子部品とヒートパイプの間には、かなりの熱抵抗が存在し、いくら高性能のヒートパイプを設置しても、この熱抵抗のために、電子部品で発生した熱が、効率よく抜熱できない可能性がある。
【0011】ヒートパイプの製造方法としては、平板的な形状のヒートパイプの場合には、少なくとも一方に、機械加工、曲げ加工等によって設けられた作動液流路となる凹部を有する2枚の金属平板を接合し、前記の凹部に作動液を封入する方法が一般的である。
【0012】金属平板の接合方法としては、溶接、ろう付け、圧着等が考えられる。溶接の場合には、母材を溶融させて接合するために、金属板へ与える熱量は大きく、その結果、熱による歪が金属板に生ずる。また、溶接部分には、盛り上がりが生じて平滑とはならない。
【0013】従って、プリント基板との接触面を平滑に保つことが難しく、プリント基板からヒートパイプへの熱伝達が妨げられる。また、溶接時には高熱にさらされるので、事前に上記の金属板に絶縁物を装着したり、プリント基板を装着したりした後に、金属板どうしを接合するようなことは不可能である。
【0014】更に、スパッタや溶接ガスの発生があり、投入エネルギも大きいため、現在の電子部品を扱うクリーンな環境に反し、適切な環境作りに、よけいなコストや手間がかかる恐れがある。また、溶接には、溶接棒、シールディングガス等の副資材が必要となる。
【0015】ろう付けの接合の場合には、母材を溶融させないが、摂氏600度以上の高温プロセスであり、溶接ほどではないが、金属板に歪は生じる。また、ろう付け部分は、盛り上がりを生じて平滑とはならない。従って、基本的には、上記の溶接の場合と同様な問題が発生する。
【0016】圧着の接合の場合には、上記のような、高熱にさらされることによる歪や、溶接等による盛り上がりの問題は生じない。しかし、接合の強度は上記に比べて弱く、内部の作動液の液漏れ等の恐れがある。従って、振動や衝撃等にさらされる状況で使用する場合には適しない。
【発明が解決しようとする課題】上記で説明したように、従来技術であるヒートパイプを回路基板に接触させて冷却する方法には、以下の問題点がある。
【0017】電子部品から発生した熱は、絶縁物質からなるプリント基板の熱抵抗が大きいため、接続されたヒートパイプへの熱伝達が妨げられる。従って、今後増大する電子部品からの発熱の冷却に十分対応できなくなっていく恐れがある。
【0018】更に、溶接やろう付けで作成されたヒートパイプは、歪や盛り上がり等が生じ、回路基板とヒートパイプの密着性を高めることができず、電子部品で発生した熱を効率よくヒートパイプへ伝えることができない。
【0019】更に、上記の溶接やろう付けによる製作方法では、高温にさらされるため、あらかじめヒートパイプを構成する部材に回路基板等を装着してから接合することは不可能である。
【0020】更に、上記の溶接やろう付けによる製作方法は、スパッタや溶接ガスの発生があり、投入エネルギも大きいため、現在の電子部品を扱う環境には適しないため、環境設定のために、よけいな手間やコストがかかる可能性がある。
【0021】更に、圧着によって製作されたヒートパイプは、上記の溶接やろう付けによるもののような、歪、盛り上がり、接合時の熱による問題、及び、環境問題は発生しないが、接合強度は他の方法に比べて弱く、衝撃や振動のかかる環境での使用には適さない。
【0022】従って、この発明の目的は、従来の問題点を解決して、電子部品から発生する熱を効率よく冷却でき、衝撃や振動にも強い冷却装置を備えた回路基板を提供することにある。
【0023】
【問題を解決するための手段】本発明者は、上述した従来の問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、以下に示すヒートパイプ回路基板によって、従来に比べて、電子部品から発生する熱を効率よく冷却装置に伝え、冷却性能を高めることが可能であることを知見した。また、接合時に高熱の発生しない摩擦攪拌接合法による接合方法の採用によって、予め電子部品等を登載した後に接合を行なうヒートパイプ回路基板の製作方法も知見した。
【0024】この発明のヒートパイプ回路基板の第一の態様は、ヒートパイプと、少なくとも一層の絶縁層と、前記絶縁層の表面又は内部に設けられた回路パターンと、前記絶縁層を介して前記ヒートパイプに搭載された電子部品を備えるヒートパイプ回路基板である。
【0025】この発明のヒートパイプ回路基板の第二の態様は、前記ヒートパイプが、少なくとも一方の板材に作動液の流路となる凹部を設けた二枚の板材を、摩擦攪拌接合法によって接合したものであるヒートパイプ回路基板である。
【0026】この発明のヒートパイプ回路基板の第三の態様は、少なくとも一層の前記絶縁層が、シート状又は板状であるヒートパイプ回路基板である。
【0027】この発明のヒートパイプ回路基板の第四の態様は、少なくても一層の前記絶縁層が、コーティングによるものであるヒートパイプ回路基板である。
【0028】この発明のヒートパイプ回路基板の第五の態様は、少なくとも一層の前記絶縁層が、単独で前記電子部品を支える強度を有するヒートパイプ回路基板である。
【0029】この発明のヒートパイプ回路基板の第六の態様は、前記ヒートパイプが冷却面を備え、該冷却面が、前記ヒートパイプと他の部材を接合する接合ブラケットの役割を果たすヒートパイプ回路基板である。
【0030】この発明のヒートパイプ回路基板の製作方法の第一の態様は、少なくとも一方の板材に作動液の流路となる凹部を設けた二枚の板材のうち、少なくとも一枚に絶縁層を介して電子部品を搭載した後に、前記板材どうしを摩擦攪拌接合法によって接合するヒートパイプ回路基板の製作方法である。
【0031】この発明のヒートパイプ回路基板のその他の態様は、前記板材の二枚ともに、前記絶縁層を介して前記電子部品が搭載されたヒートパイプ回路基板である。
【0032】この発明のヒートパイプ回路基板のその他の態様は、前記板材の一枚のみに、前記絶縁層を介して前記電子部品が搭載されたヒートパイプ回路基板である。
【0033】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1及び図2に、本発明の実装例を示す。図1は、ヒートパイプ1の上に、回路パターンを備えた絶縁層2を介して、比較的小型の電子部品3が、搭載されている実施例である。図2の場合は、ヒートパイプ4の上に、回路パターンを備える絶縁層5を介して、比較的大形の電子部品6と比較的小型な電子部品7を搭載する実施例である。
【0034】ヒートパイプ回路基板の構造を、図3と図4の断面図に示す。両方の実施例共に、二枚の金属板のうち少なくとも一枚の金属板に作動液の流路を設けられた金属板を、摩擦攪拌接合法で接合したヒートパイプを有する。図3の実施例は、二枚の板材からなるヒートパイプのうち、片方にのみ電子部品等が登載された実施例である。電子部品11は、絶縁層12と絶縁層13を介して、ヒートパイプ17に搭載されている。
【0035】ヒートパイプ17は、板材14と板材15が接合されて一体になったものである。板材14と板材15の材料としては、銅、アルミ等の熱伝導率の高い金属が通常用いられるが、プラスチック等の樹脂類も考えられる。板材14には、作動液の流路となる凹部が形成されている。凹部は、機械加工や曲げ加工、鍛造等によって形成される。本実施例では、板材14にのみに凹部が形成されているが、板材14と板材15の両方に凹部を設けてもよい。
【0036】板材14と板材15は、摩擦攪拌接合法によって接合される。摩擦攪拌接合法による板材の詳細な接合方法は、後述する。板材14または板材15のうち少なくとも一方には、作動液を作動液の流路へ注入する注入口が設けられている。注入口から所定量の作動液が注入され、注入口は上記の摩擦攪拌接合法にて封印され、真空状態にて作動流路は密封される。
【0037】絶縁層12の表面又は内部には、各々の回路設計に応じて、所定の電子部品間を電気的に接続して電子回路を構成するための、回路パターンが設けられている。回路パターンは、銅等の電気伝導率の高い導電物質からなる。絶縁層12は、シート状のものや、板状のもの、更に、絶縁物質のコーティングによるものが考えられる。特に、この回路基板が自動車等に搭載される場合には、熱的条件が厳しく、衝撃加重も大きく、振動も多く発生するため絶縁層12自体で、電子部品を支える強度を有することが必要である。電子部品11は、はんだ付け、機械的接合等によって、上記の回路パターンと電気的に接合される。
【0038】絶縁層13は、絶縁層12の板材14に接する側の表面に、電子部品や回路パターンの導電性部分が露出している場合に、該導電部分と板材14を絶縁する働きを有する。また、導電性部分が露出していなくても、絶縁層12と板材14を接着する接着剤としての機能や、密着性を増して熱伝達率を高める機能等を有する。
【0039】電子部品11で発生した熱は、絶縁層12及び絶縁層13を介して、板材14へ熱伝達される。従来のプリント基板にヒートパイプを接触させる方法に比べて、熱抵抗が少なく、発生した熱を効率よく冷却することが可能である。
【0040】熱は板材14を熱伝導で伝わり、作動流路中に溜まった作動液16に熱伝達される。作動液16は、伝達された熱により気化して移動し、板材15内面へ接触する。板材15の外面は、冷却板18となっている。必要に応じて冷却板18に放熱フィンを設けたり、ヒートシンクを接続させたり、その他、冷却板18を放熱するための他の部材と接触させることも可能である。従って、板材15の内面は、気化した作動液16の温度よりも低く、気化した作動液16は、板材15の内面に接した時に熱を奪われる。奪われた熱は、板材15を熱伝導して外面へ伝わり、放熱板18の表面から放熱される。
【0041】気化した作動液16は、板材15に熱を奪われて再び液化する。液化した作動液は、重力または毛管力により作動液流路をつたって作動液の溜まった元の位置へ戻る。そして、再び板材14の内面からの熱伝達で加熱されて気化し、同様のヒートサイクルを繰り返す。
【0042】図4は、2枚の板材からなる冷却装置付基板の両方に電子部品等が搭載された実施例である。この金属板は、電子部品等を搭載する部分だけでなく、当該部分に引き続いて、冷却面の働きをする部分を有する。また、実施例では、冷却面の部分が、当該冷却装置付基板自体を、他の部材に取り付ける取り付けブラケットも兼ねるようになっている。
【0043】図3の例と同様に、電子部品21は、絶縁層22と絶縁層23を介して、ヒートパイプ26に搭載されている。ヒートパイプ26は、板材24と板材25が接合されて一体になったものである。本実施例では、板材24と板材25は、それぞれL字型の形状をしており、電子部品等を搭載する部分と冷却面としての部分に分かれる。本実施例では、板材24と板材25の両方に、冷却面の部分を有するが、どちらか一方のみに設けることも可能である。
【0044】板材24と板材25の材料としては、銅、アルミ等の熱伝導率の高い金属が用いられるが、プラスチック等の樹脂類等も考えられる。板材24には、作動液の流路となる凹部が形成されている。作動液の流路は、電子部品が搭載される部分のみならず、冷却面の部分にも設けられている。凹部は、機械加工や曲げ加工、鍛造等によって形成される。本実施例では、板材24にのみに凹部が形成されているが、板材24と板材25の両方に凹部を設けてもよい。
【0045】板材24と板材25は、摩擦攪拌接合法によって接合される。摩擦攪拌接合法による板材の接合方法の詳細は、後述する。板材24または板材25の少なくとも一方には、作動液を作動液流路へ注入する注入口が設けられている。注入口から所定の作動液が注入された後、注入口は上記の摩擦攪拌接合法にて封印されて、真空状態にて作動液の流路は密封される。
【0046】絶縁層22の表面又は内部には、各々の回路設計に応じて、所定の電子部品間を電気的に接続して電子回路を構成するための、回路パターンが設けられている。回路パターンは、銅等の電気伝導率の高い導電物質からなる。絶縁層22は、シート状のものや、板状のもの、更に、絶縁物質のコーティングによるものが考えられる。特に、自動車等に搭載される場合には、熱的条件が厳しく、衝撃加重も大きく、振動も多く発生するため絶縁層22自体で、電子部品を支える強度を有することが必要とされる。電子部品21は、はんだ付け、機械的接合等によって、上記の回路パターンと電気的に接合される。
【0047】絶縁層23は、絶縁層22の板材24に接する側の表面に、電子部品や回路パターンの導電性部分が露出している場合に、該導電部分と板材24を絶縁する働きを有する。また、導電性部分が露出していなくても、絶縁層22と板材24を接着する接着剤としての機能や、密着性を増して熱伝達率を高める機能等を有する場合がある。
【0048】本実施例では、板材24だけでなく、板材25にも、電子部品27が絶縁層28、及び絶縁層29を介して搭載される。搭載の仕方は、上記の板材24の場合と同様である。絶縁層28には、絶縁層22と同様に回路パターンが備えられる。絶縁層29は、絶縁層23と同様の働きをする。
【0049】電子部品21又は電子部品27で発生した熱は、それぞれ、絶縁層22及び絶縁層23を介して、又は絶縁層28及び絶縁層29を介して、板材24又は板材25へ熱伝達される。図3の実施例と同様に、従来のプリント基板にヒートパイプを接触させる方法に比べて、熱抵抗が少なく、発生した熱を効率よく冷却することが可能である。
【0050】熱は板材24又は板材25を熱伝導で伝わり、作動流路中に溜まった作動液30に熱伝達される。作動液30は、伝達された熱により気化して作動液流路を上昇し、冷却面部分31へ移動する。そして冷却面部分31の金属板内面と接触する。冷却面部分31の外面は、大気中への放熱、及び、冷却面部分31に接続された本体側の部材32への放熱によって、冷却されるようになっている。必要に応じて冷却面部分31へ、更に細かいフィン等を設けることも可能である。従って、冷却面部分31の内面は、気化した作動液30の温度よりも低く、気化した作動液30は、冷却面部分31の内面に接した時に熱を奪われる。奪われた熱は、冷却面部分31を熱伝導して外面へ伝わり放熱される。
【0051】気化した作動液30は、冷却面部分31の内面によって熱を奪われて再び液化する。液化した作動液は、重力または毛管力により作動液の流路をつたって作動液の溜まった元の位置に戻る。そして、再び板材24または板材25の内面からの熱伝達で加熱され気化され、同様のヒートサイクルを繰り返す。この冷却面部分31は、ヒートパイプ26を本体に取り付ける取り付けブラケットの役割を果たし、絶縁の施されたボルトナット33によって、本体側の部材32に接続される。
【0052】次に摩擦攪拌接合法による板材の接合方法を、図5と図6を参照しながら説明する。接合する材料としては、金属だけではなく、プラスチック等の樹脂類も可能である。以下では、金属を例にとって説明する。図5に示す例は、二枚の金属板のうち一方の金属板に機械加工で、作動液の流路となる凹部を設け、二枚の金属板を重ね合わせて接合した場合の接合の例である。図6に示す例は、一方の金属板に作動液の流路となる凹部を機械加工、曲げ加工等で作成し、二枚の板を突き合わせ接合した例である。
【0053】まず、図5を用いて、摩擦攪拌接合法の基本的な接合方法を説明する。摩擦攪拌接合を行なう接合装置は、プローブ42とショルダー43を有するツール41を、回転させながら(図5で示す矢印Aの方向)、溶接線の方向(図5で示す矢印Bの方向)へ動かす稼動装置と、金属板44と45が重ね合わされたところへ、プローブ42を差し込んだ時に、金属板どうしが動いたり、離されたりしないように、両金属板をクランプするクランプ装置(図示していない。)を備える。
【0054】プローブ42とショルダー43からなるツール41は回転しながら、プローブ42の先端が、重ね合わされた金属板44と45において、上方の金属板45の上面から差し込まれる。プローブ42が金属板44と45中に差し込まれる過程で、プローブ42、ショルダー43と金属板44,45の間の摺接により発生する摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって、プローブ42が差し込まれた近傍の金属板44、45は、温度が融点温度の約80%前後に達し、軟化される。
【0055】更に、プローブ42の回転によって軟化された金属は攪拌される。プローブ42は回転しながら、ツール41と共に溶接線に沿って(図5で示す矢印Bの方向)移動する。この移動による流体圧力効果によって、攪拌された金属は、プローブ42の通過した溝を埋めるように、プローブ42の進行方向の後方へ流動する。流動した金属は、摩擦熱を失って、再び固化する。ここで金属板の表面に接しながら回転、移動するショルダー43は、軟化した金属材料が飛び出すことを防ぐ役割と、摩擦熱の発生、維持をする役割を果たす。
【0056】図5に示す例では、金属板45には、あらかじめ機械加工で作動液の流路となる凹部が設けられている。金属板44と45は、二枚の金属板が重ね合わせる形で接合される。図6に示す例では、金属板55は、あらかじめ機械加工、曲げ加工等によって、作動液の流路が設けられている。金属板54と金属板55は、重ね合わせはせず、接合部は突き合わせの形となる。
【0057】摩擦攪拌接合を行なう接合装置は、プローブ52とショルダー53を有するツール51を、回転させながら(図6で示す矢印Cの方向)、溶接線の方向(図6で示す矢印Dの方向)へ動かす稼動装置と、金属板54と金属板55がつき合わされたところへ、プローブ52が差し込まれた時に、金属板どうしが動いたり、離されたりしないように、両金属板をクランプするクランプ装置(図示していない。)を備える。
【0058】プローブ52とショルダー53からなるツール51は回転しながら、プローブ52の先端が、突き合わされた金属板54と55の接合面に差し込まれる。プローブ52が金属板54と55中に差し込まれる過程で、プローブ52、ショルダー53と金属板54,55の間の摺接により発生する摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって、プローブ52が差し込まれた近傍の金属板54、55は、温度が融点温度の約80%前後に達し、軟化される。
【0059】更に、プローブ52の回転によって軟化された金属は攪拌される。プローブ52は回転しながら、ツール51と共に溶接線に沿って(図6で示す矢印Dの方向)移動する。この移動による流体圧力効果によって、攪拌された金属は、プローブ52の通過した溝を埋めるように、プローブ52の進行方向の後方へ流動する。流動した金属は、摩擦熱を失って、再び固化する。ここで金属板の表面に接しながら回転、移動するショルダー53は、軟化した金属材料が飛び出すことを防ぐ役割と、摩擦熱の発生、維持をする役割を果たす。
【0060】上述したように、摩擦攪拌接合法ではプローブの差し込まれた近傍の金属は、融点の約80%前後の温度に上昇するが、温度上昇する部分は、非常に限定された領域のみであり、その他の領域の温度上昇は非常に少ない。従って、溶接やろう付けのような接合方法に比べて、接合する金属板全体の温度上昇は、非常に小さいので、あらかじめ金属板の上に電子部品や絶縁層を搭載し、その後に、摩擦攪拌接合法によって金属板どうしを接合することも可能である。従って、従来にない柔軟性のある回路基板の製作方法が可能となる。
【0061】次に本発明であるヒートパイプ回路基板の温度分布と、従来型の電子機器の搭載されたプリント基板にヒートパイプを接続した場合の温度分布をシミュレーションした結果を、図7及び図8に示す。
【0062】図7は、本発明であるヒートパイプ回路基板の温度分布を示す。図8は、図7の電子部品の発熱状態と同じ状態における、従来型の回路基板にヒートパイプを接触させた場合の温度分布をシミュレーションした結果である。
【0063】以上のシミュレーション結果から明らかなように、本発明であるヒートパイプ回路基板の場合には、従来技術に比べて、温度分布を均一化させる効果が大きいため、特に温度の高い部分がなくなっていることがわかる。従って、今後、電子部品の小型化、高性能化によって、電子部品の冷却能力を高める必要があるが、本発明によれば、十分対応が可能である。
【0064】
【発明の効果】上述したように、本発明によって、以下の効果を得ることができる。従来技術であるヒートパイプを回路基板に接触させて冷却する方法に較べて、本発明であるヒートパイプ回路基板によれば、電子機器が発する熱の冷却能力を大幅に高めることが可能である。従って、今後、電子機器の小型化、高性能化によって、電子機器から発せられる熱量の増加が予想されるが、本発明によれば、十分対応が可能になると思われる。
【0065】更に、回路基板へ接触させて冷却する従来型のヒートパイプは、通常、溶接やろう付けによって製作されていた。従って、歪や盛り上がり等が生じ、回路基板とヒートパイプの密着性を高めることができず、電子部品で発生した熱を効率よくヒートパイプへ伝えることができない。一方、本発明では、摩擦攪拌接合法によって回路基板を構成するヒートパイプを作製するため、従来技術に較べて、歪や盛り上がりの少ない表面を有するヒートパイプを得ることができる。従って、搭載される電子機器や絶縁層との密着性も高く、高い冷却性能を備えることが可能となる。
【0066】更に、本発明である摩擦攪拌接合法によるヒートパイプの製作方法では、溶接やろう付けと異なり、接合時に高熱にさらされることはない。従って、あらかじめ電子機器や絶縁層をヒートパイプに搭載した後に、接合することも可能となり、従来にない柔軟性のある製作を行なうことが可能である。
【0067】更に、本発明である摩擦攪拌接合法によるヒートパイプの製作方法では、溶接やろう付けのようなスパッタや溶接ガスの発生はなく、投入エネルギも少ない。従って、電子部品を扱う環境に適した製作方法であり、環境設定のためのよけいな手間やコストをかける必要はない。
【0068】更に、本発明である摩擦攪拌接合法によるヒートパイプの製作方法では、圧着等による製作方法に比べて接合強度が高く、衝撃や振動のかかる環境での使用にも適した製作方法である。
【0069】従って、この発明の目的は、従来の問題点を解決して、電子部品から発生する熱を効率よく冷却するヒートパイプ回路基板を提供することにある
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ヒートパイプに回路パターンを備えた絶縁層を介して、比較的小型の電子部品が搭載された実施例を示すスケッチである。
【図2】図2は、ヒートパイプに回路パターンを備えた絶縁層を介して、比較的大形の電子部品と比較的小型の電子部品を搭載された実施例を示すスケッチである。
【図3】図3は、ヒートパイプ回路基板の構造の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、図3とは異なるヒートパイプ回路基板の構造の一例を示す断面図である。
【図5】図5は、摩擦攪拌接合法による接合方法の一例を示す図面である。
【図6】図6は、図5とは異なる、摩擦攪拌接合法による接合方法の一例を示す図面である。
【図7】図7は、本発明であるヒートパイプ回路基板の温度分布をシミュレーションした結果を示す温度分布図である。
【図8】図8は、従来技術である回路基板にヒートパイプを接触させて冷却した場合の温度分布をシミュレーションした結果を示す温度分布図である。
【符号の説明】
1 ヒートパイプ
2 回路パターンを備えた絶縁層
3 電子部品(小型)
4 ヒートパイプ
5 回路パターンを備えた絶縁層
6 電子部品(大型)
7 電子部品(小型)
11 電子部品
12 絶縁層
13 絶縁層
14 板材
15 板材
16 作動液
17 ヒートパイプ
18 冷却板
21 電子部品
22 絶縁層
23 絶縁層
24 板材
25 板材
26 ヒートパイプ
27 電子部品
28 絶縁層
29 絶縁層
30 作動液
31 冷却面部
32 本体側の部材
33 ボルトナット
41 ツール
42 プローブ
43 ショルダー
44 金属板
45 金属板
51 ツール
52 プローブ
53 ショルダー
54 金属板
55 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒートパイプと、少なくとも一層の絶縁層と、前記絶縁層の表面又は内部に設けられた回路パターンと、前記絶縁層を介して前記ヒートパイプに搭載された電子部品を備えるヒートパイプ回路基板。
【請求項2】 前記ヒートパイプが、少なくとも一方の板材に作動液の流路となる凹部を設けた二枚の板材を、摩擦攪拌接合法によって接合したものである請求項1に記載のヒートパイプ回路基板。
【請求項3】 少なくとも一層の前記絶縁層が、シート状又は板状である請求項1または2に記載のヒートパイプ回路基板。
【請求項4】 少なくても一層の前記絶縁層が、コーティングによるものである請求項1または2に記載のヒートパイプ回路基板。
【請求項5】 少なくとも一層の前記絶縁層が、単独で前記電子部品を支える強度を有する請求項1から4の何れか1項に記載のヒートパイプ回路基板。
【請求項6】 前記ヒートパイプが冷却面を備え、該冷却面が、前記ヒートパイプと他の部材を接合する接合ブラケットの役割を果たす請求項2から5の何れか1項に記載のヒートパイプ回路基板。
【請求項7】 少なくとも一方の板材に作動液の流路となる凹部を設けた二枚の板材のうち、少なくとも一枚に絶縁層を介して電子部品を搭載した後に、前記板材どうしを摩擦攪拌接合法によって接合するヒートパイプ回路基板の製作方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−329379(P2003−329379A)
【公開日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−135936(P2002−135936)
【出願日】平成14年5月10日(2002.5.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】