説明

ビカルタミドおよびそのアナログの製造方法

【課題】前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用な、ビカルタミドまたはそのアナログをラセミ体または光学活性体の形態で効率良く製造し得る方法を提供する。
【解決手段】式(II)と、式(III)で表される化合物とを


溶媒中で反応させることにより行われる。これにより、効率良くビカルタミドまたはそのアナログを得ることができる。得られたビカルタミドまたはそのアナログは、例えば、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビカルタミドおよびそのアナログの製造方法に関し、より詳細には、ビカルタミドおよびそのアナログを簡易かつ優れた収率で製造し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンドロゲン遮断は、前立腺癌患者のための一般的な治療方法である。種々の非ステロイド抗アンドロゲン剤が前立腺癌を治療する際に使用することが知られている。ビカルタミド(N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−(4−フルオロフェニルスルホニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパンアミド]は、例えば、非ステロイド抗アンドロゲン剤の1つであり、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)として世界的に典型的に使用されている。
【0003】
ビカルタミドは、以下のような構造:
【0004】
【化1】

【0005】
を有する。上記構造におけるプロパンアミドのα−炭素はキラル炭素であるため、ビカルタミドはキラルな物質である。
【0006】
上記前立腺肥大治療薬としての使用においては、例えば、ビカルタミドはR体がS体の約60倍もの活性を示すことが報告されており(非特許文献1)、当該分野においてはR体のビカルタミドを効率良く製造するための研究開発が多く行われてきた。
【0007】
例えば、非特許文献1〜5は、上記ビカルタミドおよびそのアナログをそれぞれ効率良く、あるいは新規な合成ルートを通じて製造するための方法を開示している。しかし、これらの文献に記載の方法はいずれも、上記ビカルタミドを得るためには、比較的多くの反応工程を要する、充分な収率で製造することが困難である、などの工業的観点からの問題が指摘されている。また、これらの文献のうち、非特許文献1および3で製造され得るビカルタミドはラセミ体となるため、当該ビカルタミドを得た後に当該分野において公知の手段を用いて光学分割することが事実上必須となり、この工程を通じて所望の(R)−ビカルタミドのみを取り出さざるを得ない。
【0008】
一方、特許文献1は、(R)−ビカルタミドのみを選択的に合成する手法として(R)−プロリンを出発物質に使用することを開示している。しかし、(R)−プロリンは一般に入手し難く、高価な物質である。このため、(R)−ビカルタミドの工業的製造においては生産性(価格効率)の観点から、当該技術は必ずしも適切なものともいえない。
【0009】
さらに、特許文献2は、上記(R)−プロリンの使用に代えて、例えば、4−フルオロベンゼンチオールに所定のブロモラクトンを反応させることなどの工程を通じて、所望の(R)−ビカルタミドを製造する方法が開示されている。しかし、当該方法によっても、目的のビカルタミドを工業的観点から効率よく製造し得るものであるということができない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,019,957号明細書
【特許文献2】特表2003−512351号公報
【非特許文献1】タッカー,エイチ.(Tucker,H.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),1988年,31巻、p.885−887
【非特許文献2】タッカー,エイチ.(Tucker,H.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),1988年,31巻、p.954−959
【非特許文献3】ジェイムス,ケイ.(James,K.)ら、「シンセシス(Synthesis),2002年,第7号、p.850−852
【非特許文献4】ネア,ヴィ.(Nair,V.)ら、「テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters),2004年,第45号、p.9475−9477
【非特許文献5】マーエフカ,シー.(Marhefka,C.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),2004年,47巻、p.993−998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用な、ビカルタミドまたはそのアナログをラセミ体または光学活性体の形態で効率良く製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の式(I):
【0013】
【化2】

【0014】
で表されるビカルタミドまたはそのアナログの製造方法であって、
以下の式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
で表される化合物を、溶媒中、以下の式(III):
【0017】
【化4】

【0018】
で表される化合物と反応させる工程;
を包含し、
は、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0019】
【化5】

【0020】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、硫黄原子、酸素原子、または−NH−であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法である。
【0021】
本発明はまた、以下の式(II):
【0022】
【化6】

【0023】
で表される化合物の製造方法であって、
以下の式(IV):
【0024】
【化7】

【0025】
で表される化合物を脱保護する工程;および
該脱保護して得られた生成物をさらに脱アセチル化する工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法である。
【0026】
本発明はまた、以下の式(IV):
【0027】
【化8】

【0028】
で表される化合物の製造方法であって、
以下の式(V):
【0029】
【化9】

【0030】
で表される化合物を、縮合剤および溶媒の存在下、以下の式(VI):
【0031】
【化10】

【0032】
で表される化合物と反応させ、かつアセチル化する工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法である。
【0033】
本発明はまた、光学活性な、以下の式(IX):
【0034】
【化11】

【0035】
で表されるジオールの製造方法であって、
以下の式(VII):
【0036】
【化12】

【0037】
で表されるエポキシドのラセミ体に、エポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させて、該ラセミ体の一方の鏡像体を加水分解することにより、第一のジオールを生成する工程;
該加水分解の工程によって残存した他方の鏡像体を酸で処理することにより、該第一のジオールと同様のジオールを生成する工程;
該第一のジオールと該酸処理工程で生成したジオールとを合わせ、溶媒中でトシル化することにより、トシル体を生成する工程;
該トシル体に塩基を作用させることにより鏡像体が偏って存在するエポキシドを生成する工程;および
該鏡像体が偏って存在するエポキシドを、該エポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させる工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
*は不斉中心であり;そして
該微生物が、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、バチルス・リケニホルミスATCC39307株、ノカルディア・フスカNBRC14340株、ステノトロホモナス・マルトフィリアJCM1975株、バチルス・プミリスNBRC14358株、ミクロバクテリウム・ラクチカムJCM1379株、シュードモナス・クロロラフィスJCM2778株、ノカルディア・アステロイデスNBRC3384株、ゴルドナ・テラエJCM3206株、バチルス・アネウリノリティカスIAM1077株、クレブシエラ・オキシトカSNSM−87(微工研菌寄第12953号)株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、キャンディダ・インタメディアNBRC0761株、サッカロマイセス・セレビシエJCM2223株、スポリジオボラス・サルモニカラNBRC1035株、キャンディダ・クルセイNBRC0011株、ロドスポリジウム・ジオボバタムNBRC0688株、ピチア・ブルトニJCM3708株、キャンディダ・アンタラクチカJCM3941株、ロドトルラ・ルブラJCM8117株、キャンディダ・グイリエルモンジNBRC0566株、キャンディダ・ケフィアNBRC10287株、ロドトルラ・ミヌタNBRC0879株、およびキャンディダ・パラプシロシスJCM1785株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が挙げられる。特に、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株である、方法である。
【0038】
1つの実施態様では、上記微生物は、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株である。
【0039】
1つの実施態様では、上記微生物はデンプン含有培地で培養された微生物である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、目的に応じ、ラセミ体または光学活性体としてのビカルタミドまたはそのアナログを効率良く製造することができる。特に、本発明の方法によれば、製造工程で副生成物が生じる可能性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明について詳述する。
【0042】
本発明の方法を用いて製造され得る化合物は以下の式(I):
【0043】
【化13】

【0044】
(ここで、Rは、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0045】
【化14】

【0046】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である)で表されるビカルタミドまたはそのアナログである。
【0047】
上記式(I)で表される化合物は、以下の式(II):
【0048】
【化15】

【0049】
(ここで、 Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そしてRおよびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である)で表されるビカルタミドまたはそのアナログである)で表される化合物を、溶媒中、以下の式(III):
【0050】
【化16】

【0051】
(ここで、Rは、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0052】
【化17】

【0053】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;そしてRは、硫黄原子、酸素原子、または−NH−である)で表される化合物と反応させることにより製造され得る。
【0054】
本発明に用いられる式(II)の化合物は、光学活性な化合物またはラセミ体の化合物のいずれを用いることもできる。本発明の方法により製造される式(I)のビカルタミドまたはその誘導体を、光学活性体(すなわち、R体またはS体のいずれか)の形態で得ることを所望する場合は、式(II)の化合物は光学活性体(すなわち、R体またはS体のいずれか)であることが好ましい。
【0055】
本発明に用いられる式(II)の化合物は、例えば、以下の方法を用いて製造することができる。以下、本発明の用いられる式(II)の化合物を製造するための方法の一例について説明する。
【0056】
本発明に用いられる式(II)の化合物は、後述するような方法を用いて製造された式(IV):
【0057】
【化18】

【0058】
(ここで、Rは保護基(例えば、ベンジル、4−メトキシフェニルメチル、メトキシメチル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、アセチル、ベンゾイル、および9−フルオレニルメトキシカルボニルが包含される)であり、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そしてRおよびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である)で表される化合物を脱保護し、かつその後、当該脱保護して得られた生成物をさらに脱アセチル化することによって製造され得る。
【0059】
上記脱保護および脱アセチル化に要する反応条件等は当該分野において周知であり、当業者によって任意に設定することができる。
【0060】
上記式(IV)の化合物はまた、例えば、以下の式(V):
【0061】
【化19】

【0062】
(ここで、Rは保護基であり、そしてRは、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基である)で表される化合物を、縮合剤および溶媒の存在下、以下の式(VI):
【0063】
【化20】

【0064】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である)で表される化合物と反応させ、かつアセチル化することによって製造され得る。
【0065】
上記に使用される縮合剤は、縮合反応一般に用いられる縮合剤であれば特に限定されないが、例えば、塩化チオニル、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド ヒドロクロリド)(EDCl)およびそれらの組合せが挙げられる。反応性に優れ、式(IV)の化合物をさらに効率良く製造することができる点から塩化チオニルを用いることが好ましい。当該縮合剤の量は、当業者によって適宜設定され得る。
【0066】
上記縮合剤とともに使用される溶媒には、有機溶媒として任意の溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミドなど)が使用され得る。しかし、式(IV)の化合物をさらに効率よく製造することを考慮すれば、テトラヒドロフランを使用することが好ましい。
【0067】
また、上記式(VI)で表される化合物は、好ましくは以下の式(VI’):
【0068】
【化21】

【0069】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して上記に定義した基と同様である)で表される化合物であり、具体的な例としては、4−シアノ−3−トリフルオロメチル−アニリンが挙げられる。
【0070】
式(VI)の化合物の使用量は、特に限定されないが、例えば、式(V)の化合物と当モルまたはそれ以上の量が使用され得る。
【0071】
これらに対し、式(V)の化合物は、将来的に製造が所望されるビカルタミドまたはそのアナログが光学活性体であるかあるいはラセミ体であるかに応じて、任意の絶対配置を有する化合物(光学活性体またはラセミ体)が選択される。以下、光学活性な式(V)の化合物を得るための方法について、例として2つの方法を示し、説明する。
【0072】
第一の方法として、当該光学活性な式(V)の化合物を得るにあたっては、まず、例えば、以下の式(VII):
【0073】
【化22】

【0074】
(ここで、Rは保護基(例えば、ベンジル、4−メトキシフェニルメチル、4−メトキシフェニル、メチルメトキシメチル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、アセチル、ベンゾイル、および9−フルオレニルメトキシカルボニルが包含される)であり;そしてRは、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基である)で表されるキラルなエポキシドのラセミ体(これは当該分野において当業者に周知の方法を用いて製造することができ、あるいは市販されている)をエポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させて、該ラセミ体の一方の鏡像体を加水分解すること、ならびに当該加水分解後に得られた反応液を酸で処理することによって入手可能である。
【0075】
ここで、上記微生物または上記酵素を産生する微生物の例としては、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、バチルス・リケニホルミスATCC39307株、ノカルディア・フスカNBRC14340株、ステノトロホモナス・マルトフィリアJCM1975株、バチルス・プミリスNBRC14358株、ミクロバクテリウム・ラクチカムJCM1379株、シュードモナス・クロロラフィスJCM2778株、ノカルディア・アステロイデスNBRC3384株、ゴルドナ・テラエJCM3206株、バチルス・アネウリノリティカスIAM1077株、クレブシエラ・オキシトカSNSM−87(微工研菌寄第12953号)株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、キャンディダ・インタメディアNBRC0761株、サッカロマイセス・セレビシエJCM2223株、スポリジオボラス・サルモニカラNBRC1035株、キャンディダ・クルセイNBRC0011株、ロドスポリジウム・ジオボバタムNBRC0688株、ピチア・ブルトニJCM3708株、キャンディダ・アンタラクチカJCM3941株、ロドトルラ・ルブラJCM8117株、キャンディダ・グイリエルモンジNBRC0566株、キャンディダ・ケフィアNBRC10287株、ロドトルラ・ミヌタNBRC0879株、およびキャンディダ・パラプシロシスJCM1785株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が挙げられる。特に、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が好ましい。
【0076】
上記微生物に由来する酵素とは、上記のエポキシド加水分解活性を有する微生物から得られたエポキシド加水分解活性を有する酵素をいう。例えば、上記の菌体を超音波などで破砕した後、不溶物を除去して得られる破砕上清液を、粗酵素液として用いることができる。あるいは、この粗酵素液から、さらに当業者が通常用いる精製方法、例えば、カラムクロマトグラフィーなどの手段によって精製または単離されたエポキシドハイドロラーゼ(EH)であってもよい。あるいは、エポキシド加水分解活性を発揮し得るならば、上記の天然のEHの改変体または誘導体であってもよい。ここで、「改変体」とは、天然のEHと、少なくとも70、または少なくとも80、あるいは少なくとも90パーセントのアミノ酸配列相同性を有し、かつEH活性を有するタンパク質をいう。例えば、天然のEHにおいて、1以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するタンパク質が挙げられる。「誘導体」とは、天然のEHと他のペプチドとの融合タンパク質をいう。融合される他のペプチドは、EHの基本的な折りたたみおよびコンホメーション構造を妨害しない。
【0077】
上記微生物は、上記微生物に由来するエポキシド加水分解活性を有するならば、野生型または形質転換体のいずれであってもよい。例えば、形質転換体は、上記の酵素(例えば、EH)をコードする遺伝子が組み込まれている他の宿主微生物(例えば、大腸菌、枯草菌など)であってもよい、さらに、例えば、EHの発現を促進するように、適切なプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの発現調節因子が導入されている形質転換体であってもよい。
【0078】
これらの微生物は、デンプン含有培地で培養することにより、より高いエポキシド加水分解活性を示す。ここで、デンプン含有培地とは、当業者が微生物の培養に通常用いる培地よりも、デンプンを豊富に含有する培養培地をいう。含有されるデンプンは、どのような由来のものであってもよい。デンプンの液化は、当業者に公知の方法(例えば、α−アミラーゼで処理する方法)によって行われ得る。培地中のデンプンの濃度は、特に制限はなく、4w/v%〜20w/v%であり得、あるいは8w/v%〜12w/v%であり得る。
【0079】
あるいは、上記においてエポキシド加水分解活性を有する微生物は、バチルス属、クロモバクテリウム属、ノカルディア属、ステノトロホモナス属、ミクロバクテリウム属、シュードモナス属、ゴルドナ属、クレブシエラ属、キャンディダ属、ガラクトマイセス属、サッカロマイセス属、スポリジオボラス属、ロドスポリジウム属、ピチア属、またはロドドルラ属に属し、かつ上記のデンプン含有培地で培養された微生物であり得る。
【0080】
これらの微生物は、どのような形態で使用してもよい。例えば、培地などに懸濁した菌液、乾燥菌体、固定化菌体、または固定化乾燥菌体の形態で使用され得る。これらはいずれも、当業者が通常行う手段によって調製され得る。例えば、乾燥菌体は、凍結乾燥、風乾、アセトン乾燥などによって調製され得る。乾燥菌体を調製する場合、安定性を向上させる目的で、20w/v%グリセロールとともに乾燥させてもよい。固定化菌体は、アクリルアミド、カラギーナン、アルギン酸カルシウムなどを用いて調製し得る。さらに、固定化菌体は、ポリエチレンイミンとグルタルアルデヒドとの組合せまたはヘキサメチレンジアミンとグルタルアルデヒドとの組合せを用いて架橋することによって、さらに安定化させることもできる。固定化乾燥菌体は、当業者が通常用いる手段を用いて、固定化菌体を乾燥させることによって調製され得る。固定化乾燥菌体は、反復使用することが可能である。例えば、少なくとも10回繰り返して使用しても、固定化乾燥菌体の活性の低下は認められない。
【0081】
上記の微生物または該微生物由来の酵素によって、上記式(VII)で表されるエポキシドのラセミ体の一方の鏡像体のみが加水分解を受ける。そのため、加水分解によって光学活性なジオールが生じ、そして加水分解されなかった(微生物または酵素の作用を受けなかった)もう一方の鏡像体であるエポキシドが残存する。
【0082】
この工程は、具体的には、適切な緩衝液または培地に微生物または酵素を添加し、さらに上記式(VII)で表されるエポキシドのラセミ体を添加して、攪拌または振盪することによって行われる。この工程における反応液中の基質(エポキシド)濃度と、菌体量または酵素量とは、適宜決定され得る。使用する微生物または酵素は、単独でもちいてもよく、あるいは数種の微生物または異なる起源の酵素を混合して用いてもよい。また、通常、反応液の至適pHは約6.5〜8.0であり、そして反応温度は約30℃〜35℃である。反応時間は特に限定されず、通常は少なくとも5分であり、30分間〜96時間であってもよく、3時間〜72時間であってもよく、6時間〜48時間であってもよい。
【0083】
次いで、上記の酵素反応液から目的の式(VII)で表される光学活性なエポキシドが回収される。上記の酵素を作用させる工程においては、上記の微生物または該微生物由来の酵素によってエポキシドのラセミ体の一方の鏡像体のみが立体選択的に加水分解される。そのため、酵素反応液中には加水分解によって生じた光学活性なジオールと加水分解されなかった光学活性なエポキシドとが存在し得るので、ここでは、目的の光学活性なエポキシドを当業者が通常用いる適切な手段によって回収する。具体的には、酵素反応液に適切な有機溶媒を加えてエポキシドおよびジオールを有機層に抽出し、抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどに供することによって、これらを分離して回収することができる。なお後述のように、エポキシドとジオールとの分離は必ずしも必要ではなく、混合物のまま酸で処理することによって、酵素反応で生じたジオールと同じ立体配置を有する光学活性ジオールに変換することもできる。
【0084】
その後、加水分解されなかった光学活性なエポキシドについて、所定濃度(例えば、約0.1M)に調製された無機酸(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、過塩素酸など)を用いて処理すれば、酵素の作用によって生じたジオールと同じ立体配置をもつジオールを生成する。同様の反応は、酵素反応で得られた光学活性なエポキシドと光学活性なジオールの混合物に対しても実施することができる。この場合、当該混合物が、酵素反応で生じたジオールと同じ立体配置を有する光学活性ジオールに変換される。これを当該酸処理反応液にアルカリ性溶液を添加して中和した後、適切な有機溶媒で抽出し、例えば、TEMPO(2,2,6,6,−テトラメチルピペラジニル−1−オキシ)の存在下、亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムで処理することによって光学活性な式(V)の化合物を得ることができる。上記酵素反応で生じたジオールについても同様の方法を行うことによって光学活性な式(V)の化合物を得ることができる。
【0085】
あるいは、より光学純度の高い式(V)の化合物を得るための方法としては、例えば、以下の反応スキーム(工程A〜E)に基づく第二の方法(いわゆる、二重光学分割方法)が挙げられる。
【0086】
【化23】

【0087】
当該第二の方法としては、まず工程Aとして、上記式(VII)で表されるキラルなエポキシドのラセミ体(例えば(±)−2)を、上記第一の方法と同様にして、所定の微生物または該微生物由来の酵素と作用させ光学活性なジオール(例えば、(R)−3)が生成する。
【0088】
次いで、上記工程Aで光学活性なジオールが生成した結果、当該工程Aで生成した光学活性なエポキシド(例えば、(R)−2)を希硫酸などの酸と作用させることにより、構造内に立体反転を生じさせ、光学活性なジオール(例えば、(R)−3)が生成する。
【0089】
その後、上記工程AおよびBでそれぞれ生成した光学活性なジオールは、好ましくは合わせて一緒にされ、その後、ピリジンなどの有機溶媒中でトシル化されることにより、光学活性なトシル体(例えば、(R)−8)が生成される(工程C)。このトシル体を、さらにメタノールなどの溶媒中、塩基で処理することによって、一方の鏡像体に偏った基質であるエポキシド(例えば、(S)体を過剰に含む2)が生成する。
【0090】
最終的に、工程Eとして、この一方の鏡像体に偏った基質を、上記第一の方法と同様にして、所定の微生物または該微生物由来の酵素と作用させることによって、光学活性なジオール(例えば、(R)−3)が生成される。
【0091】
このような工程A〜Eを経て生成される光学活性なジオールでは、上記第一の方法により生成するジオールまたは上記工程Aのみを経て生成されるジオールと比較して、光学純度を著しく高めることができる。
【0092】
次いで、光学純度が著しく高められたジオールは、上記第一の方法と同様にして、例えば、TEMPO(2,2,6,6,−テトラメチルピペラジニル−1−オキシ)の存在下、亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムで処理することによって、光学純度が著しく高められた、光学活性な式(V)の化合物を得ることができる。
【0093】
このように、上記第一の方法または第二の方法を用いて得られた式(V)の化合物を用い、かつ上述の操作を行うことで、光学活性な式(IV)の化合物を得ることができ、その結果上記操作を通じて本発明に用いられる式(II)の化合物を光学活性体として得ることができる。
【0094】
再び、本発明の式(I)で表されるビカルタミドまたはそのアナログの製造方法について説明すると、上記のようにして得られた式(II)の化合物に対応して使用される、式(III)の化合物は、好ましくは式(III’):
【0095】
【化24】

【0096】
(ここで、RおよびRはそれぞれ独立して、上記に定義される基と同様である)で表される化合物である。式(III)の化合物の具体的な例としては、具体的な例としては、4−フルオロベンゼンチオールが挙げられる。
【0097】
本発明のビカルタミドまたはそのアナログの製造方法において、上記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応に使用される溶媒は、好ましくは有機溶媒である。使用可能な有機溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0098】
本発明における上記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応は、必ずしも限定されないが、上記式(II)の化合物の1級水酸基をトシラートなどの脱離基に変換した後、不活性な溶媒中、塩基の存在下に上記式(III)の化合物を作用させて行なわれ得る。上記式(II)の化合物の1級水酸基をトシラートなどの脱離基に変換する反応は、−10℃〜25℃、より好ましくは−5℃〜25℃の範囲の温度下で行われ得る。当該反応の生成物と上記式(III)の化合物との反応は、−10℃〜25℃、より好ましくは−5℃〜25℃の範囲の温度下で行われ得るさらに、上記二つの反応は、必ずしも限定されないが、好ましくは30分間〜12時間、より好ましくは1時間〜5時間かけて行われ得る。
【0099】
上記反応後、生成物を有機層に抽出し、洗浄および乾燥を経て粗生成物を得、必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの手段を用いて精製が行われる。なお、本発明において製造するビカルタミドまたはそのアナログについて、上記式(I)のR基を−SO−にすることが所望される場合は、上記式(III)の化合物のうち、Rが硫黄原子である化合物(例えば、4−フルオロベンゼンチオール)を使用し、上記反応により得られた化合物を当該分野において周知方法を用いて酸化条件に付すことにより、目的の化合物を得ることができる。
【0100】
このようにして、目的のビカルタミドまたはそのアナログを良好な収率で製造することができる。
【0101】
反応後、得られたビカルタミドまたはそのアナログは、必要に応じ、当業者に周知の方法および手段を用いて、有機層への抽出、洗浄、精製が行われてもよい。
【0102】
なお、本発明では、上記式(II)の化合物としてラセミ体がそのまま使用された場合、得られた当該ビカルタミドまたはそのアナログは、ラセミ体を構成する。その後、当該分野において周知の光学分割方法を用いることにより、(R)−ビカルタミドのような光学活性な化合物のみを取り出すことができる。
【0103】
あるいは、本発明において上記式(II)の化合物として光学活性体が使用された場合、その絶対配置は反応を通じて引き継がれ、同様の絶対配置を有する光学活性なビカルタミドまたはそのアナログを得ることができる。このことにより、後に得られた生成物に対して光学分割などの操作が不要となり、結果として、所望の絶対配置を有するビカルタミドまたはそのアナログを効率良く製造することができる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0105】
<参考例1:3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸(10)(ラセミ体)の合成>
【0106】
【化25】

【0107】
3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール(3)(0.510g,2.60mmol;ラセミ体)をアセトニトリル(13mL)、リン酸緩衝溶液(pH6.7,0.67M,9.7mL)に溶解し、TEMPO(2,2,6,6,−テトラメチルピペラジニル−1−オキシ(28.4mg,0.182mmol)を添加して、室温にて撹拌した。この混合物を、35℃まで加熱し、亜塩素酸ナトリウム水溶液(80%NaClO588mgを2.6mLの水に溶解したもの,5.20mmolを含む)、および次亜塩素酸ナトリウム水溶液(39.2μL,10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.4mLに希釈したもの、2.0mol%)を、互いに混合することなく、それぞれ全体量の1/5を別々に添加した後、残り(すなわち、それぞれ全体量の4/5づつ)を1時間かけて同時に滴下した。24時間撹拌した後、TEMPO(28.4mg,0.182mmol)、上記の、亜塩素酸ナトリウム水溶液(2.6mL)、および次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1.4mL) を同様に添加し、35℃にて24時間撹拌を継続した。次いで、再び同様の試薬を同量追加し、さらに35℃にて24時間撹拌した。温度を35℃から室温まで低下させ、25mLの水を添加し、2N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整した。氷冷した亜硫酸ナトリウム水溶液(2.1g,16.7mmolを40mLの水に溶解したもの)を氷浴下にて添加した後(水層を20℃以下、pH8.5〜9.0の範囲に保持した)、室温で30分間撹拌した。3mLのMTBE(メチルt−ブチルエーテル)を加え抽出し、有機層を分離した。この有機層に2N塩酸を加え、pHを2まで低下させ、さらにMTBEで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧濃縮し、標題の3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸(10)(0.531g,2.52mmol;ラセミ体)を収率97%で得た。
【0108】
本参考例で得られた化合物の分析結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
<実施例1:N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド(11)(ラセミ体)の合成>
【0111】
【化26】

【0112】
参考例1で得られた3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸(10)(32.6mg,0.155mmol;ラセミ体)を0.160mLのTHFで希釈し、塩化チオニル(0.113mL,1.56mmol)を0℃で滴下した。この混合物を0℃で2時間撹拌し、0.180mLのTHFに溶解した4−シアノ−3−トリフルオロメチルアニリン(34.6mg,0.186mmol)を滴下した。さらに2時間後、4−ジメチルアミノピリジン(56.8mg,0.465mmol)を添加し、4日間撹拌した。
【0113】
次いで、この混合物を、ダイヤフラムポンプで減圧し、系内の塩化チオニルとTHFを除去した後、0.8mLの無水酢酸と0.8mLのピリジンとを添加し、反応系内をそのままアセチル化した。24時間後、氷を添加し、反応を終了した。混合物を酢酸エチルによって抽出し、有機層を1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮し、120.3mgの粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1,2:1,1:2(容量比)の順;シリカゲル体積25mL)により精製して、標題のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド(11)(54.1mg,0.129mmol;ラセミ体)を収率83%で得た。
【0114】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
<実施例2:N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(12)(ラセミ体)の合成>
【0117】
【化27】

【0118】
実施例1で得られたN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド(11)(37.5mg,0.0892mmol;ラセミ体)に、3mLのエタノールを添加し、アルゴン気下で撹拌した。この混合物に、水酸化パラジウム(15mg,アルドリッチ社製、ウェット,デグッサタイオプ(Degussa type))を添加し、水素で置換した後、48時間室温で撹拌した。さらに15mgの水酸化パラジウムを添加し、24時間撹拌後、原料が消失したことを確認し、桐山漏斗用いて、ろ紙(No.5C)で濾過し、濾液を濃縮した後、標題のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(12)(13.6mg,0.0411mmol;ラセミ体)を収率46%で得た。
【0119】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表3に示す。
【0120】
【表3】

【0121】
<実施例3:N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(13)(ラセミ体)の合成>
【0122】
【化28】

【0123】
溶媒としての0.2mLのメタノールに、実施例2で得られたN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(12)(9.0mg,0.0273mmol;ラセミ体)および炭酸カリウム(7mg,0.0506mmol)を添加し、3時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を添加した後、反応を終了し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して、4.3mgの粗生成物を得た。この粗生成物をプレパラティブTLC(ヘキサン:酢酸エチル=1:2(容量比))により精製して、標題のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(13)(6.7mg,0.0232mmol;ラセミ体)を収率85%で得た。また、これと合わせて、原料である化合物(12)(0.7mg、回収率8%)で回収した。
【0124】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表4に示す。
【0125】
【表4】

【0126】
<実施例4:N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド(1))(ラセミ体)の合成>
【0127】
【化29】

【0128】
10mLのヘキサンで3回洗った55%NaH(0.218g,4.99mmol)を6.2mLのTHFに懸濁し、10分間撹拌する。次いで、4−フルオロベンゼンチオール(0.49ml,4.59mmol)を溶媒希釈することなくそのまま滴下し、室温で90分間撹拌する。さらに、これに6.2mLのTHFに溶解した実施例3で得られたN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(13)(4.16mmol;ラセミ体)を添加し、24時間室温で撹拌する。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で中和した後、酢酸エチルで抽出する。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧濃縮し、粗生成物を得る。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1(容量比),ゲル体積50mL)により精製する。
【0129】
次いで、この精製した化合物に、30%過酸化水素水を添加し、所定量の酢酸を氷浴下にて滴下する。この混合物を60℃にまで昇温し、24時間撹拌する。次いで、1N水酸化ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルによって抽出する。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後減圧濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1(容量比))により精製して、標題のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ラセミ体)を得る。
【0130】
得られた化合物(1)について、1H−NMRによりビカルタミド(1)であることを確認する。
【0131】
<実施例5−A:光学純度が高められた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)を得るための準備工程(工程A)>
【0132】
【化30】

【0133】
5mLのLB培地にバチルス・サブチリスJCM10629株を摂取し、30℃で終夜前培養を行った。前培養液(1mL)を、デンプン培地に添加し、30℃にて160rpmで92時間培養した。培養菌体を遠心分離(3000rpm,20分間)によって濃縮し、半量の標準緩衝液(50mM,pH8,トリス緩衝液)に再懸濁し、二倍の濃縮菌体を調製した。反応容器に、2倍濃縮菌体2mL、終濃度約20%(v/v)になるように調製したグリセロール(8mL)、および2− ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン(2)(1.5g,8.42mmol;ラセミ体)を添加し、室温で7日間反応させた。食塩で飽和した後、酢酸エチルを添加して充分撹拌し、桐山漏斗を用いてセライト濾過を行った。濾液を酢酸エチルによって抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して、1.89gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1(容量比),ゲル体積200mL)により精製して、化合物((R)−3)((R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール)(0.83g,4.23mmol)を収率50%で得、かつ化合物((R)−2)((R)−2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン)(0.52g,2.94mmol)を収率35%で得た。
【0134】
本実施例で得られた化合物((R)−3および(R)−2))の分析結果を表5に示す。
【0135】
【表5】

【0136】
<実施例5−B:光学純度が高められた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)を得るための準備工程(工程B)>
【0137】
【化31】

【0138】
実施例5−Aで得られた(R)−2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン((R9−2)(0.26g,1.46mmol)に44mLの水を添加し、氷浴で撹拌しながら濃硫酸(3.4mL)を添加した。10分間氷上で撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。冷却した飽和炭酸ナトリウム水溶液(26mL)を添加した後、水を加え、酢酸エチルによって抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して、0.26gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1、2:1、1:1の順(容量比),ゲル体積23mL)により精製して、化合物((R)−3)((R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール)(0.24g,1.22mmol)を収率83%で得た。
【0139】
<実施例5−C:光学純度が高められた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)を得るための準備工程(工程C)>
【0140】
【化32】

【0141】
実施例5−Aで得られた1,2−ジオール((R)−3)(0.42g,2.12mmol)と、実施例5−Bで得られた1,2−ジオール((R)−3)(0.24g,1.22mmol)とを合わせた基質(0.65g,3.31mmol,90.7%ee(Chiralcel OD−H,ヘキサン/イソプロピルアルコール=15/1(容量比)))に、14mLの脱水ピリジン、モレキュラーシーブス4A(1g)を添加し、2時間撹拌した。次いで、この混合物に、p−トルエンスルホニルクロリド(2.85g,14.9mmol)を氷浴下にて添加し、室温で24時間反応した。その後、氷浴下にて水を添加し、酢酸エチルによって抽出した。有機層を1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。それを減圧濃縮して、1.20gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1、1:1の順(容量比),ゲル体積50mL)により精製して、化合物((R)−8)((R)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル−p−トルエンスルホナート)(1.15g,3.27mmol)を収率98%で得た。
【0142】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表6に示す。
【0143】
【表6】

【0144】
<実施例5−D:光学純度が高められた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)を得るための準備工程(工程D)>
【0145】
【化33】

【0146】
実施例5−Cで得られた化合物((R)−8)((R)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル−p−トルエンスルホナート(0.107g,0.305mmol)を、4mLのメタノールに溶解し、炭酸カリウム(0.36g,2.56mmol)を添加し、室温で48時間撹拌した。次いで、pH7のリン酸緩衝液を入れ、冷却したヘキサンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後減圧濃縮し、0.0790gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン:酢酸エチル=3:1、2:1、1:1の順(容量比),ゲル体積6mL)により精製して、S体過剰の化合物((S)−2)((S)−2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン)(47.3mg,0.265mmol)を収率87%で得た。
【0147】
<実施例5−E:光学純度が高められた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)の合成(工程E)>
【0148】
【化34】

【0149】
5mLのLB培地にバチルス・サブチリスJCM10629株を摂取し、30℃で終夜前培養を行った。前培養液(1mL)を、デンプン培地に添加し、30℃にて160rpmで92時間培養した。培養菌体を遠心分離(3000rpm,20分間)によって濃縮し、半量の標準緩衝液(50mM,pH8,トリス緩衝液)に再懸濁し、二倍の濃縮菌体を調製した。反応容器に、2倍濃縮菌体0.063mL、終濃度約20%(v/v)になるように調製したグリセロール(0.32mL)、および実施例5−Dで得られた化合物((S)−2)((S)−2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン)(47.3mg,0.265mmol)を添加し、室温で7日間反応させた。食塩で飽和した後、酢酸エチルを入れて充分撹拌し、桐山漏斗を用いてセライト濾過を行った。濾液を酢酸エチルによって抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧濃縮し、0.0319gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー((ヘキサン:酢酸エチル=2:1(容量比),ゲル体積3mL)により精製して標題の化合物((R)−3)((R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール)(27.6mg,0.143mmol)を収率53%で得た。
【0150】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表7に示す。
【0151】
【表7】

【0152】
<参考例2:光学活性な3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸((R)−10)の合成>
参考例1で使用したラセミ体の3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール(3)の代わりに、同量の実施例5−Eで得られた(R)−3−ベンジルオキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−3)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、(R)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸((R)−10)を得る。
【0153】
<実施例6:光学活性なN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−11)の合成>
参考例1で得られたラセミ体の3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸(10)の代わりに、同量の参考例2で得られた(R)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸((R)−10)を用い、かつ得られた粗生成物を適切なHPLC条件にて精製することにより、(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−11)を得る。
【0154】
<実施例7:光学活性なN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−12)の合成>
実施例1で得られたラセミ体のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド(11)の代わりに、同量の実施例6で得られた(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−ベンジルオキシ−2−アセトキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−11)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−12)を得る。
【0155】
<実施例8:光学活性なN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−13)の合成>
実施例2で得られたラセミ体のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(12)の代わりに、同量の実施例7で得られた(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−12)を用い、かつ得られた粗生成物を適切な条件下クロマトグラフィーにて精製することにより、(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−13)を得る。
【0156】
<実施例9:光学活性なN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−1)((R)−ビカルタミド((R)−1))の合成>
実施例3で得られたラセミ体のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(13)の代わりに、同量の実施例8で得られたN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]2,3,−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−13)を用い、かつ得られた粗生成物を適切な条件下クロマトグラフィーにて精製することにより、(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−1)((R)−ビカルタミド((R)−1))を得る。
【0157】
上記のように、本発明の方法を用いて、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)として有用な(R)−ビカルタミドを、特に光学分割等の手法を用いることなく、直接合成し得たことを確認する。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明を用いて得られたビカルタミドまたはそのアナログは、例えば、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

で表されるビカルタミドまたはそのアナログの製造方法であって、
以下の式(II):
【化2】

で表される化合物を、溶媒中、以下の式(III):
【化3】

で表される化合物と反応させる工程;
を包含し、
は、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【化4】

(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、硫黄原子、酸素原子、または−NH−であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法。
【請求項2】
以下の式(II):
【化5】

で表される化合物の製造方法であって、
以下の式(IV):
【化6】

で表される化合物を脱保護する工程;および
該脱保護して得られた生成物をさらに脱アセチル化する工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法。
【請求項3】
以下の式(IV):
【化7】

で表される化合物の製造方法であって、
以下の式(V):
【化8】

で表される化合物を、縮合剤および溶媒の存在下、以下の式(VI):
【化9】

で表される化合物と反応させ、かつアセチル化する工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法。
【請求項4】
光学活性な、以下の式(IX):
【化10】

で表されるジオールの製造方法であって、
以下の式(VII):
【化11】

で表されるエポキシドのラセミ体に、エポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させて、該ラセミ体の一方の鏡像体を加水分解することにより、第一のジオールを生成する工程;
該加水分解の工程によって残存した他方の鏡像体を酸で処理することにより、該第一のジオールと同様のジオールを生成する工程;
該第一のジオールと該酸処理工程で生成したジオールとを合わせ、溶媒中でトシル化することにより、トシル体を生成する工程;
該トシル体に塩基を作用させることにより鏡像体が偏って存在するエポキシドを生成する工程;および
該鏡像体が偏って存在するエポキシドを、該エポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させる工程;
を包含し、
ここで、
は保護基であり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
*は不斉中心であり;そして
該微生物が、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、バチルス・リケニホルミスATCC39307株、ノカルディア・フスカNBRC14340株、ステノトロホモナス・マルトフィリアJCM1975株、バチルス・プミリスNBRC14358株、ミクロバクテリウム・ラクチカムJCM1379株、シュードモナス・クロロラフィスJCM2778株、ノカルディア・アステロイデスNBRC3384株、ゴルドナ・テラエJCM3206株、バチルス・アネウリノリティカスIAM1077株、クレブシエラ・オキシトカSNSM−87(微工研菌寄第12953号)株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、キャンディダ・インタメディアNBRC0761株、サッカロマイセス・セレビシエJCM2223株、スポリジオボラス・サルモニカラNBRC1035株、キャンディダ・クルセイNBRC0011株、ロドスポリジウム・ジオボバタムNBRC0688株、ピチア・ブルトニJCM3708株、キャンディダ・アンタラクチカJCM3941株、ロドトルラ・ルブラJCM8117株、キャンディダ・グイリエルモンジNBRC0566株、キャンディダ・ケフィアNBRC10287株、ロドトルラ・ミヌタNBRC0879株、およびキャンディダ・パラプシロシスJCM1785株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が挙げられる。特に、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株である、方法。
【請求項5】
前記微生物が、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物がデンプン含有培地で培養された微生物である、請求項4または5に記載の方法。

【公開番号】特開2007−204421(P2007−204421A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24988(P2006−24988)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】