説明

ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法

【課題】 磁性ガーネットの挿入損を低く且つ安定にできる製造方法を提供すること。
【解決手段】 一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはEu,Gd,Ho,Yb,Yの中から選ばれた少なくとも1種、MはAl,Gaまたはその両方を示し、Mの量はゼロを含む)で表され、単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成されるビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法において、PbO−Bi23−B23からなる融材に、ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の原料を溶解した融液を、約1000℃における保持および厚膜育成温度760〜780℃までの降温過程で攪拌した後、厚膜単結晶を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相エピタキシャル成長法による、ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信や光情報処理において、ファラデー回転を応用したデバイスが開発、実用化されている。半導体レーザー発振器を使用した光通信装置では、光ファイバーケーブルやコネクタなどの端部からの反射光がレーザー発振器に戻ると、ノイズが増加し、発振が不安定になる。このような戻り光を遮断し、安定した発振状態を確保するために、ファラデー回転の非相反性を利用した光アイソレータが使用されている。
【0003】
現在、光ファイバーケーブルを用いた通信システムにおいては、波長が1.3μm〜1.6μmの帯域が利用されており、このような帯域で用いられる近赤外用ファラデー回転素子材料として、厚膜状のビスマス置換希土類鉄系ガーネット単結晶(以下磁性ガーネットと記す)がある。厚膜単結晶として実用化されているものとしては、希土類元素にEu,Tb,Gd,Ho,Ybなどを用いたものがある(特許文献1など)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−308696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性ガーネットに求められる特性として、ファラデー回転効果以外に、低い挿入損、すなわち磁性ガーネット内での光の減衰が少ないことが挙げられる。従来の磁性ガーネットでは、例えば一般式Gd2.1Bi0.9Fe4.5Al0.3Ga0.212のものでは、挿入損が波長λ=1.55μmで0.03〜0.15dBと、ばらつきが大きく、安定した挿入損が得られていなかった。
【0006】
そこで、本発明者は上記問題に鑑み、磁性ガーネットの挿入損を低く且つ安定にできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者による種々の検討の結果、PbO−Bi23−B23の融材に磁性ガーネット成分を溶解した融液において、Pt治具による攪拌を、約1000℃の保持から厚膜単結晶の育成開始温度まで連続して行い、続けて厚膜単結晶育成を行うことにより、挿入損を低下させ、且つ再現性良い、磁性ガーネットが得られることが分かった。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはY,Eu,Gd,Ho,Ybから選ばれた少なくとも1種、MはAl,Gaまたはその両方を示し、Mの量はゼロを含む)で表され、単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成される磁性ガーネットの製造方法において、PbO−Bi23−B23からなる融材に、該磁性ガーネット原料を溶解した融液を、約1000℃における保持から厚膜単結晶の育成開始温度760〜780℃まで攪拌することにより、安定した低挿入損の磁性ガーネットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態でのビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法は以下のようである。
【0010】
第1の工程では、所定量の金属酸化物粉末原料を秤量する。第2の工程では、(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはEu,Gd,Ho,Yb,Yの中から選ばれた少なくとも1種、MはAl,Gaまたはその両方を示し、Mの量はゼロを含む)で表されるビスマス置換希土類鉄系ガーネットの原料粉末を、PbO−Bi23−B23系フラックスの粉末とともに、雰囲気ガスの酸素濃度を設定しながら溶融する。第3の工程では、それぞれの組成に対応して、980〜1020℃の温度で保持しながら、板状のPtにより融液の攪拌を行う。第4の工程では、前工程と同様の攪拌を継続しながら、それぞれの組成に対応した厚膜育成開始温度760〜780℃まで降温する。第5の工程では、格子定数のマッチングをはかった基板上にLPE法(液相エピタキシャル成長法)により厚膜単結晶を育成する。第6の工程では、基板を研磨により除去し、本実施の形態のビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶を得る。
【0011】
次に特定組成のビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶に限定した実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
純度99.99%の酸化ガドリニウムGd23、酸化第二鉄Fe23、酸化アルミニウムAl23、酸化ガリウムGa23、および純度99.9%の酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi23、酸化硼素B23の粉末を使用し、PbO−Bi23−B23系をフラックスとして、LPE法にて、直径2インチの格子定数a=1.2509nmのNdGa12(以下、NGGと記す)基板に、一般式Gd2.1Bi0.9Fe4.5Al0.312の磁性系ガーネットを厚さ600〜660μm育成した。
【0013】
このとき、育成中の雰囲気ガスの酸素濃度は18%とした。また、Pt治具による攪拌は、1000℃で8時間と、厚膜育成温度765℃までの降温中の3時間30分とを連続して行った。育成後、11mm×11mmに切断した後、NGG基板を研磨により除去し、厚膜単結晶試料を得た。
【0014】
次に、1.55μmでファラデー回転角が45degとなる厚さ500μmに化学機械研磨(以下、MC研磨と記す)により両面を鏡面に仕上げ、波長1.55μm用の無反射コート膜を両面に施し、挿入損失を測定した。
【0015】
比較例として、従来方法である1000℃・8時間の攪拌により得た厚膜単結晶(すなわち、1000℃から厚膜育成開始温度までの降温中は攪拌を行わなかった場合)の挿入損の結果を表1および図1に示す。尚、実施例1および比較例ともに、5台の液相エピタキシャル育成炉で10回育成した、計50ロットの結果である。
【0016】
【表1】

【0017】
表1および図1のように、実施例1では0.02〜0.04dBと低い挿入損が安定して得られているが、比較例では0.03〜0.13dBと挿入損のばらつきが大きく不安定である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1と比較例の挿入損のヒストグラムを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはEu,Gd,Ho,Yb,Yの中から選ばれた少なくとも1種、MはAl,Gaまたはその両方を示し、Mの量はゼロを含む)で表され、単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成されるビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法において、PbO−Bi23−B23からなる融材に該ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の原料を溶解した融液を、980〜1020℃の保持温度において攪拌すると共に前記保持温度から厚膜育成開始温度760〜780℃まで降温しながら攪拌することを特徴とする、ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−308327(P2007−308327A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138651(P2006−138651)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】