説明

ビニルエステル混合重合体の非粘着性の固体樹脂

本発明の対象は、少なくとも2つの異なるガラス転移段階を有するビニルエステル混合重合体を基礎とする非粘着性の固体樹脂であって、
a)コモノマーM及びMの全量に対して50〜97質量%の、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM並びに場合により1種又は複数種のα−オレフィン(その際、モノマーMは、ガラス転移温度Tg<40℃を有する単独重合体をもたらす)と、
b)コモノマーM及びMの全量に対して3〜50質量%の、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸及びそのエステルもしくはそのアミド又はアクリルニトリルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM(その際、コモノマーMは、ガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらす)とを、
c)コモノマーMとコモノマーMとの共重合について、共重合パラメータr<0.2かつr>2.0で、かつ
d)コモノマーMを、重合の開始前に完全に又は部分的にかつ少なくともコモノマーM及びMの全量に対して3質量%の量で初充填して、
塊状で又は溶液中でラジカル重合することによって得られる非粘着性の固体樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエステル混合重合体の非粘着性の固体樹脂、その製造方法並びにその使用に関する。
【0002】
ビニルエステルポリマー又は、特にビニルエステル−エチレン−コポリマーの固体樹脂は、しばしば粘着の傾向がある。EP−A959114号から、ビニルエステル−エチレン−コポリマーの表面接着性をプロピレンとの共重合によって低減できることが知られている。更に、シリコーンは良好な離型特性を有する、つまり接着物質との付着を防止する表面を有することは知られている。ビニルエステル固体樹脂とシリコーンとの混合物もしくはブレンドは、しかしながら不十分な特性を有する:ビニルエステルポリマーとシリコーンとの非相溶性に基づき、相分離が起こり、あるいはシリコーンドメインが形成するため、固体樹脂に混濁が起こる。シリコーンドメインの形成及び拘束されないシリコーンの存在は、更にマイグレーション効果をもたらす。WO03/085035号A1から、例えばシリコーン割合を有するビニルエステル重合体を基礎とする非粘着性の固体樹脂を得る方法が知られている。
【0003】
本発明の課題は、シリコーン割合の共重合を避けて、粘着傾向を示さず、更に有機溶剤中で相分離を示さないポリビニルエステルを基礎とする固体樹脂を提供することであった。
【0004】
驚くべきことに、これは、ビニルエステルとコモノマーとの共重合により、少なくとも2つの異なるガラス転移段階を有するコポリマーとすることによって成功する。従って、EP381122号A2で、ビニルアセテートと不相容性のコモノマー、例えばメチルメタクリレートの共重合は、耐ブロッキング性の改善をもたらさないことを記載しており、かつDE4142104号A1では、ビニルアセテートとアクリル酸の共重合は産業上実施されておらず、かかるコポリマーでは不均質性と相分離が生ずるため非常に不利な特性を有する生成物をもたらすことを教示していることから驚くべきことである。
【0005】
本発明の対象は、少なくとも2つの異なるガラス転移段階を有するビニルエステル混合重合体を基礎とする非粘着性の固体樹脂であって、
a)コモノマーM及びMの全量に対して50〜97質量%の、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM並びに場合により1種又は複数種のα−オレフィン(その際、モノマーMは、ガラス転移温度Tg<40℃を有する単独重合体をもたらす)と、
b)コモノマーM及びMの全量に対して3〜50質量%の、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸及びそのエステルもしくはそのアミド又はアクリルニトリルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM(その際、コモノマーMは、ガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらす)とを、
c)コモノマーMとコモノマーMとの共重合について、共重合パラメータr<0.2かつr>2.0で、かつ
d)コモノマーMを、重合の開始前に完全に又は部分的にかつ少なくともコモノマーM及びMの全量に対して3質量%の量で初充填して、
塊状で又は溶液中でラジカル重合することによって得られる非粘着性の固体樹脂である。
【0006】
有利なビニルエステルMは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1−メチルビニルアセテート、ビニルピバレート及び、5〜11個の炭素原子を有するα−分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)又はVeoVa10(登録商標)(シェル社の商標名、(9又は10個の炭素原子を有するα−分枝したモノカルボン酸のビニルエステル))である。特にビニルアセテートが好ましい。有利なオレフィンは、エチレン及びプロピレンである。特にエチレンが好ましい。
【0007】
一般に、コモノマーMのビニルエステル割合は、コモノマーMの全質量に対して70〜100質量%である。コモノマーMとして、ビニルアセテート又はビニルアセテートとコモノマーMの全質量に対して1〜30質量%のエチレンとからなる混合物を使用することが好ましい。
【0008】
有利なコモノマーMは、アクリル酸及びメタクリル酸並びに、1〜15個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸及びメタクリル酸のエステル並びにアクリルアミド及びメタクリルアミドであり、その際、該エステル残基又はアミド残基は、官能基又は荷電基を有していてもよく、これらの有利なコモノマーMは、それぞれガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらす。好適な官能基及び荷電基は、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、スルホネート基、カルボキシル基、グリシジル基、シラン基及びアンモニウム基である。特に、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート(MMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルニトリル、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)及びN−メチロールアクリルアミド(NMA)が好ましい。アクリル酸、メタクリル酸及びメチルメタクリレートが最も好ましい。コモノマーMの量は、有利にはコモノマーM及びMの全量に対して3〜40質量%である。共重合パラメータ(Copolymerisationsparameter)r及びrは、各モノマー組M及びMについて特徴的な大きさであり、それは文献から公知である:例えばJ.Brandrup et al.Polymer Handbookから公知である。
【0009】
モノマーM及びMの他に、場合により、1〜15個の炭素原子を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル(そのホモポリマーのTgは50℃未満である)、ジエン及びビニルハロゲン化物を含む群からの1種又は複数種の更なる補助モノマーを更に使用できる。有利な(メタ)アクリル酸エステルは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−、イソ−及びt−ブチルアクリレート並びに2−エチルヘキシルアクリレートである。特に、メチルアクリレート、n−、イソ−及びt−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。好適なジエンは、1,3−ブタジエン及びイソプレンである。ビニルハロゲン化物の群からは、通常は、塩化ビニル、塩化ビニリデン又はフッ化ビニル、有利には塩化ビニルが使用される。
【0010】
補助モノマーのための更なる例は、エチレン性不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸、有利にはクロトン酸、フマル酸及びマレイン酸;他のエチレン性不飽和のカルボン酸アミド及び−ニトリル、有利にはN−ビニルホルムアミド;また環状アミドであってその窒素上に不飽和基を有するアミド、例えばN−ビニルピロリドン;フマル酸及びマレイン酸のモノエステル及びジエステル、例えばジエチルエステル及びジイソプロピルエステル並びに無水マレイン酸、エチレン性不飽和のスルホン酸もしくはそれらの塩、有利にはビニルスルホン酸である。補助モノマーとしては、カチオン性モノマー、例えばジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミドクロリド(MAPTAC)及び2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートクロリドも適している。更に、補助モノマーとしては、ビニルエーテル及びビニルケトンも適している。
【0011】
好適な補助モノマーは、また他の重合可能なシランもしくはメルカプトシランである。γ−アクリル−もしくはγ−メタクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン、α−メタクリルオキシメチルトリ(アルコキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピル−メチルジ(アルコキシ)シラン、ビニルアルキルジ(アルコキシ)シラン及びビニルトリ(アルコキシ)シランが好ましく、その際、アルコキシ基としては、例えばメトキシ−、エトキシ−、メトキシエチレン−、エトキシエチレン基、メトキシプロピレングリコールエーテル−もしくはエトキシプロピレングリコールエーテル基を使用することができる。このための例は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(1−メトキシ)−イソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、トリスアセトキシビニルシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物シランである。また、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0012】
更なる例は、官能化されたアクリレート及び官能化されたビニルエーテルもしくはアリルエーテル、特にエポキシ官能性、例えばグリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル又はヒドロキシアルキル官能性のアクリレート、例えばヒドロキシエチルアクリレート又は置換もしくは非置換のアミノアルキルアクリレートである。
【0013】
更なる例は、予備架橋性コモノマー、例えば多エチレン性不飽和のコモノマー、例えばジビニルアジペート、ジアリルマレエート、アリルメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート又はトリアリルシアヌレート、又は後架橋性コモノマー、例えばアクリルアミドグリコール酸(AGA)、メチルアクリルアミドグリコール酸メチルエステル(MAGME)、N−メチロールアクリルアミド(NMA)、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアリルカルバメート、アルキルエーテル、例えばイソブトキシエーテル又はN−メチロールアクリルアミドの、N−メチロールメタクリルアミドの及びN−メチロールアリルカルバメートのエステルである。
【0014】
これらの補助モノマーの割合は、コモノマーM及びMの全量に対して0〜30質量%である。
【0015】
該固体樹脂の製造は、塊状重合法又は溶液重合法、有利には溶液重合によって行われる。溶液重合に際して、一般にアルコール性溶液中で行われる。有利な溶剤は、メタノール、エタノール、t−ブタノール、エチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアセテート及びイソプロパノールであるが、その際、種々の溶剤の混合物も使用することができる。該反応は、一般に、沸騰冷却(Siedekuehlung)を用いて反応熱を排出するために、還流条件下で、一般に30℃〜140℃の重合温度で実施される。これは、常圧でも、軽い過圧下でも行うことができる。気体状のコモノマー、例えばエチレン又は塩化ビニルの共重合に際して、より高い圧力、一般に1〜100バールで実施することができる。
【0016】
開始剤としては、有機ペルオキシド又はアゾ化合物が使用される。例えばジアシルペルオキシド、例えばジラウロイルペルオキシド、ペルオキソエステル、例えばt−ブチルペルオキソピバレート、t−ブチルペルネオデカノエート又はt−ブチルペルオキソ−2−エチルヘキサノエート、ヒドロペルオキシド、例えばt−ブチルヒドロペルオキシド又はペルオキソジカーボネート、例えばジエチルペルオキソジカーボネート又はアゾ開始剤、例えばAIBNが適している。開始剤量は、一般にモノマーに対して0.01〜5.0質量%である。開始剤は、初充填しても、配量してもよい。この場合に、必要な開始剤量の一部を初充填して、残りを反応の間に連続的に配量することが有効であると実証された。初充填される部分量は、この場合に、モノマーが初充填される量で決まる。分解性が異なる開始剤を、反応の種々の時点で配量することが好ましいこともある。分解性の低い開始剤を開始時に、そしてより高い温度で崩壊する開始剤を反応の最後に、場合により高められた圧力で配量することが好ましいこともある。
【0017】
コモノマーMは、完全に又は部分的に、重合の開始前に初充填してよく、その際、重合の開始とは、該バッチが開始剤の存在下に重合温度に加熱された時点を表す。コモノマーM及びMの全量に対して5〜60質量%のコモノマーMを初充填し、そして残りを計量供給することが好ましい。コモノマーMは、完全に又は部分的に、かつ少なくともコモノマーM及びMの全量に対して3質量%の量で初充填される。コモノマーM及びMの全量に対して3〜30質量%のコモノマーMを初充填することが好ましく、それにより得られた樹脂に粘着安定性挙動がもたらされる。コモノマーM及びMの全量に対して3〜20質量%のコモノマーMを初充填し、そして残りを計量供給することが好ましい。コモノマーM及びMの全量に対して5〜10質量%のコモノマーMを初充填し、そして残りを計量供給することが最も好ましい。
【0018】
該反応は、温度増大と場合により開始剤添加とによって開始される。発熱反応が終わった後に、有利には残りの遊離のモノマー、調節剤及び、必要であれば溶剤を蒸留により除去する。非常に低いVOC含量を得るために、内部温度を70℃〜160℃の温度に高め、そして引き続き真空を印加する。
【0019】
固体樹脂は、固体形で又は有機溶剤中の溶液として使用することができる。該樹脂は、一般にバインダーとして、例えば塗料中でのバインダーとして適しており、かつ接着剤、熱封止可能な被覆並びに積層剤(Kaschiermittel)の製造のために適している。更なる使用分野は、仕上剤(Appretur)及びチューインガム材料のための原料としての用途である。該固体樹脂は、更に、低収縮性の領域(low profile Bereich)のために、消音領域(防音)又は低収縮性添加剤として適している。該樹脂は、塗料領域又は粉末塗料領域で、例えば木材、金属、プラスチック、例えばシート又はガラスの被覆のために有利に使用することができる。テキスタイル領域のためにも、該樹脂は最適である。更に、該樹脂は、化粧品において、例えばヘアースプレー又は一般にヘアースタイリング領域で有利に使用される。
【0020】
官能基が該樹脂中に導入されている場合に、例えば官能性モノマー、例えばグリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、シラン含有モノマー又はアクリル酸を使用する場合には、該樹脂は架橋させることができる。この場合に、該樹脂は、場合により好適な触媒を添加することでそれ自体でともに架橋することができるが、又は2種の異なる樹脂の架橋性混合物を混合することもでき、その際、例えば一方の樹脂はカルボン酸官能を有し、もう一方の樹脂はエポキシ官能を有する。
【0021】
全ての場合において、本発明によるポリビニルエステルを基礎とする樹脂は、非常に高い粘着安定性の点で優れており、これは特に貯蔵及び輸送に際しても付随してかなりの利点をもたらす。その樹脂中になおも官能基が存在するのであれば、それにより更に所定の基体に対する付着性も高まる。
【0022】
以下の実施例は、本発明の更なる説明に役立つが、本発明を何ら制限するものではない。
【0023】
実施例:
比較例1:
還流冷却器と配量装置とアンカー型撹拌機とを有する120リットルの撹拌槽(無圧)中で、17.26kgのメタノールと、39.33kgのビニルアセテートと、7.87gのPPV(t−ブチルペルピバレート、脂肪族化合物中75%、半値時間=74℃で1時間)とを初充填した。撹拌槽を、約60℃に加熱した。軽い還流に達した時に、開始剤配量(70.8gのPPV+3.93kgのメタノール)を開始した。開始剤配量は、4時間にわたって1000g/hの速度で行った。開始剤配量後に、該バッチをなおも60分間その温度で続けた。この後反応時間の後に、撹拌槽を加熱して蒸留し、そこで30分ごとに留去された量に相当する新たなメタノールを該撹拌槽中に入れた(モノマー除去)。
【0024】
固体樹脂分析:
FG:30.2%;粘度(ヘップラー − DIN53015に従ってエチルアセテート中10%):11.32mPas;酸価(SZ、メタノール):1.68mgKOH/g;残留ビニルアセテート:470ppm;K値 アセトン中1%:42.9;ガラス転移段階Tg:39.1℃
実施例2:
還流冷却器と配量装置とアンカー型撹拌機とを有する120リットルの撹拌槽(無圧)中で、17.40kgのメタノールと、35.68kgのビニルアセテートと、3.96kgのアクリル酸と、7.93gのPPV(t−ブチルペルピバレート、脂肪族化合物中75%、半値時間=74℃で1時間)とを初充填した。撹拌槽を、約60℃に加熱した。軽い還流に達した時に、開始剤配量(71.36gのPPV+3.96kgのメタノール)を開始した。開始剤配量は、4時間にわたって1010g/hの速度で行った。開始剤配量後に、該バッチをなおも60分間その温度で続けた。この後反応時間の後に、撹拌槽を加熱して蒸留し、そこで30分ごとに留去された量に相当する新たなメタノールを該撹拌槽中に入れた(モノマー除去)。
【0025】
固体樹脂分析:
FG:44.3%;SZ(メタノール):84.15mgKOH/g;残留ビニルアセテート:610ppm;K値 アセトン中1%:42.4;ガラス転移段階Tg:40.6℃、Tg:93.3℃
比較例3:
還流冷却器と配量装置とアンカー型撹拌機とを有する120リットルの撹拌槽(無圧)中で、17.40kgのメタノールと、7.14kgのビニルアセテートと、792.88gのアクリル酸と、7.93gのPPV(t−ブチルペルピバレート、脂肪族化合物中75%、半値時間=74℃で1時間)とを初充填した。撹拌槽を、約60℃に加熱した。軽い還流に達した時に、開始剤配量(71.36gのPPV+3.96kgのメタノール)を開始した。開始剤配量は、310分にわたって782g/hの速度で行った。開始剤配量の開始10分後に、モノマー配量を7.93kg/hの速度で始めた。モノマー配量は、28.54kgのビニルアセテート及び3.17kgのアクリル酸を含有していた。モノマー配量の配量時間は、240分であった。開始剤配量後に、該バッチをなおも60分間その温度で続けた。この後反応時間の後に、撹拌槽を加熱して蒸留し、そこで30分ごとに留去された量に相当する新たなメタノールを該撹拌槽中に入れるた(モノマー除去)。
【0026】
固体樹脂分析:
FG:29.5%;SZ(メタノール):89.76mgKOH/g;残留ビニルアセテート:250ppm;K値 アセトン中1%:47.8;ガラス転移段階Tg:39.9℃、Tg:60.7℃
実施例4:
還流冷却器と配量装置とアンカー型撹拌機とを有する120リットルの撹拌槽(無圧)中で、17.40kgのメタノールと、17.84kgのビニルアセテートと、1.98kgのアクリル酸と、7.93gのPPV(t−ブチルペルピバレート、脂肪族化合物中75%、半値時間=74℃で1時間)とを初充填した。撹拌槽を、約60℃に加熱した。軽い還流に達した時に、開始剤配量(71.36gのPPV+3.96kgのメタノール)を開始した。開始剤配量は、310分にわたって782g/hの速度で行った。開始剤配量の開始10分後に、モノマー配量を4.96kg/h(17.84kgのビニルアセテート+1.98kgのアクリル酸)の速度で始めた。モノマー配量の配量時間は、240分であった。開始剤配量後に、該バッチをなおも60分間その温度で続けた。この後反応時間の後に、撹拌槽を加熱して蒸留し、そこで30分ごとに留去された量に相当する新たなメタノールを該撹拌槽中に入れた(モノマー除去)。
【0027】
固体樹脂分析:
FG:38.5%;SZ(メタノール):91.44mgKOH/g;残留ビニルアセテート:270ppm;K値 アセトン中1%:40.9;ガラス転移段階Tg:40.3℃、Tg:84.6℃
実施例5:
還流冷却器と配量装置とアンカー型撹拌機とを有する120リットルの撹拌槽(無圧)中で、17.53kgのメタノールと、15.98kgのビニルアセテートと、4.00kgのアクリル酸と、7.99gのPPV(t−ブチルペルピバレート、脂肪族化合物中75%、半値時間=74℃で1時間)とを初充填した。撹拌槽を、約60℃に加熱した。軽い還流に達した時に、開始剤配量(71.93gのPPV+4.00kgのメタノール)を開始した。開始剤配量は、310分にわたって788g/hの速度で行った。開始剤配量の開始10分後に、モノマー配量を5.0kg/h(15.98kgのビニルアセテート+4.00kgのアクリル酸)の速度で始めた。モノマー配量の配量時間は、240分であった。開始剤配量後に、該バッチをなおも60分間その温度で続けた。この後反応時間の後に、撹拌槽を加熱して蒸留し、そこで30分ごとに留去された量に相当する新たなメタノールを該撹拌槽中に入れた(モノマー除去)。
【0028】
固体樹脂分析:
FG:41.5%;SZ(メタノール):95.37mgKOH/g;残留ビニルアセテート:800ppm;K値 アセトン中1%:38.8;ガラス転移段階Tg:41.8℃、Tg:57.3℃、Tg:98.0℃
比較例6:
Wacker Polymer Systems社製の、約30のK値を有し、かつ約5質量%のクロトン酸、約95質量%のポリビニルアセテートを有する市販の酸官能化された固体樹脂(商標名:Vinnapas(登録商標)C305)。
【0029】
応用技術的調査:
粘着試験:
粘着安定性もしくは粘着傾向の測定のために、実施例と比較例とからの樹脂を、まず同等の粒度を有する粉末へと粉砕した。その後、該粉末を、内径49mmと高さ3cmを有する真鍮カップ中に入れた。真鍮カップが約1/3まで満たされる量で粉末状の樹脂を添加した、すなわち該粉末は該カップ中で約1cmの高さであった。引き続き、1kgの質量と直径47mmを有する真鍮シリンダを、真鍮カップ中の粉末上に(平らにした表面)載せた。その装置を、乾燥チャンバ中に50℃で1時間置いた。前記の時間後に、その装置を乾燥チャンバから取り出し、シリンダを取り除いた。真鍮カップ中の圧縮された粉末を、へらを用いてその粘着性について試験した。その評価は、以下の評点系で行った:
1: 粉末は粘着せず、へらでたやすく分けることができる
2: 粉末はごく僅か粘着し、へらでまだ問題なく分けることができる
3: 粉末は軽く粘着し、へらで軽い労力をもって分けることができる
4: 粉末は中程度の粘着を示し、へらでより大きな労力をもって分けることができる
5: 粉末は明らかに粘着を示し、へらで非常に大きな労力をもってのみ分けることができる
6: 粉末は一体として粘着を示し(可塑化され)、へらでもはや最も大きな労力をもっても分けることができない。
【0030】
第1表:粘着試験の条件:50℃/1時間/1kg(粉末)
【0031】
【表1】

【0032】
前記の粘着試験を、粉末ではなく、その樹脂から溶液(例えばメタノール)から製造されたフィルムを用いて実施することで、類似の結果が得られた。
【0033】
この場合に、約2mm×2mmの寸法を有する樹脂のフィルム2枚を重ね合わせ、そして前記粘着装置中に置き、2kgの重しを載せ(2つの真鍮シリンダ)、そして乾燥チャンバ中で55℃で1時間付した。引き続き、それらのフィルムを手で引き離した。
【0034】
以下の評点系で評価した:
1: フィルムは互いに結合しておらず、互いにたやすく分離できる
2: フィルムは互いに軽く結合しているが、互いにたやすく分離できる
3: フィルムは互いに目立って結合しているが、少ない労力で互いに分離できる
4: フィルムは互いに明らかに結合しているが、より高い労力で互いに分離できる
5: フィルムは互いに非常に強く結合しており、非常に高い労力でのみ互いに分離できる
6: フィルムは互いに一体として結合(粘着)しており、もはや最大の労力をもってしても互いに分離できない。
【0035】
第2表:粘着試験の条件:55℃/1時間/2kg(フィルム)
【0036】
【表2】

【0037】
第1表から、樹脂の粘着安定性は粉末形においては、硬質モノマー(ここではアクリル酸)を本発明による方法で導入した場合に、明らかに高められていることが明らかである(実施例2、4及び5)。その際、その効果は、既に樹脂中に3質量%以上(ここでは5質量%)の少量の硬質モノマーにより、該モノマーを初充填物に添加した場合に現れる。実施例2及び4と比較例3(全ては樹脂中に全体で10質量%のアクリル酸を有する)との比較は、初充填物中により多量の硬質モノマーを添加した場合にのみ樹脂で粘着安定性挙動が達成できることを示している。このように、2質量%のみのアクリル酸(それぞれ全モノマー量に対して)のみを初充填物中に有する比較例3では、粘着評価5(高い粘着傾向)が得られるが、一方で、実施例4(初充填物中5質量%のアクリル酸)及び実施例2(初充填物中10質量%のアクリル酸)では、粘着評価2(非常に低い粘着傾向)が得られた。つまり、硬質モノマーの量が同じであるにもかかわらず、重合法(初充填、配量)は、粘着挙動に決定的な効果を及ぼす。
【0038】
硬質樹脂を有さない樹脂は、前記試験条件で完全に粘着を示す(粘着評価6、比較例1)。ビニルアセテートとの共重合性が非常に悪い硬質モノマーの代わりに、ビニルアセテートとの共重合性がより優れた同量のモノマーを使用した場合に、粘着安定性の改善は達成されない(アクリル酸の代わりにクロトン酸を用いた比較例6、粘着評価5)。つまり、重合法の他に、コモノマーの共重合パラメータも、互いに粘着傾向に関して決定的な役割を担う。
【0039】
実施例と比較例とからの樹脂のフィルムでの応用技術的測定においては類似の結果が得られた。全ての本発明による樹脂は、前記の2つ又はそれより多いガラス転移段階Tgを有したにもかかわらず、有機溶剤中又は溶融物において相分離を示さなかった。また、これらの挙動は、本発明による重合法によってのみ達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるガラス転移段階を有するビニルエステル混合重合体を基礎とする非粘着性の固体樹脂であって、
a)コモノマーM及びMの全量に対して50〜97質量%の、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM並びに場合により1種又は複数種のα−オレフィン(その際、モノマーMは、ガラス転移温度Tg<40℃を有する単独重合体をもたらす)と、
b)コモノマーM及びMの全量に対して3〜50質量%の、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸及びそのエステルもしくはそのアミド又はアクリルニトリルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM(その際、コモノマーMは、ガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらす)とを、
c)コモノマーMとコモノマーMとの共重合について、共重合パラメータr<0.2かつr>2.0で、かつ
d)コモノマーMを、重合の開始前に完全に又は部分的にかつ少なくともコモノマーM及びMの全量に対して3質量%の量で初充填して、
塊状で又は溶液中でラジカル重合することによって得られる非粘着性の固体樹脂。
【請求項2】
少なくとも2つの異なるガラス転移段階を有するビニルエステル混合重合体を基礎とする非粘着性の固体樹脂の製造方法において、
a)コモノマーM及びMの全量に対して50〜97質量%の、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM並びに場合により1種又は複数種のα−オレフィン(その際、モノマーMは、ガラス転移温度Tg<40℃を有する単独重合体をもたらす)と、
b)コモノマーM及びMの全量に対して3〜50質量%の、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸及びそのエステルもしくはそのアミド又はアクリルニトリルを含む群からの1種又は複数種のコモノマーM(その際、コモノマーMは、ガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらす)とを、
c)コモノマーMとコモノマーMとの共重合について、共重合パラメータr<0.2かつr>2.0で、かつ
d)コモノマーMを、重合の開始前に完全に又は部分的にかつ少なくともコモノマーM及びMの全量に対して3質量%の量で初充填して、
塊状で又は溶液中でラジカル重合する製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、コモノマーMとしてビニルアセテート又はビニルアセテートと、コモノマーMの全質量に対して1〜30質量%のエチレンとからの混合物を使用することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載の方法において、コモノマーMとして、アクリル酸及びメタクリル酸並びに1〜15個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸及びメタクリル酸のエステル並びにアクリルアミド及びメタクリルアミドを含む群からの1種又は複数種を使用し、その際、エステル残基又はアミド残基は、官能基又は荷電基を有してよく、その際、コモノマーMは、それぞれガラス転移温度Tg>50℃を有する単独重合体をもたらすことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、コモノマーMとして、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルニトリル、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸及びN−メチロールアクリルアミドを含む群からの1種又は複数種を使用することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2から5までのいずれか1項記載の方法において、コモノマーM及びMの全量に対して5〜60質量%のコモノマーMを初充填し、そして残りを計量供給することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2から6までのいずれか1項記載の方法において、コモノマーM及びMの全量に対して3〜30質量%のコモノマーMを初充填し、そして残りを計量供給することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により製造される生成物を、塗料中のバインダーとして及び接着剤を製造するために用いる使用。
【請求項9】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により得られた生成物を、仕上剤及びチューインガムの原料として用いる使用。
【請求項10】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により製造される生成物を、低収縮性の領域のために、防音用添加剤として又は低収縮性添加剤として用いる使用。
【請求項11】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により製造される生成物を、木材、金属、プラスチック及びガラスの被覆のための塗料領域及び粉末塗料領域で用いる使用。
【請求項12】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により製造される生成物を、テキスタイル領域で用いる使用。
【請求項13】
請求項1記載の非粘着性の固体樹脂及び請求項2から7までのいずれか1項記載の方法により製造される生成物を、化粧品において用いる使用。

【公表番号】特表2008−502744(P2008−502744A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513754(P2007−513754)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005413
【国際公開番号】WO2005/118660
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(300006412)ワッカー ポリマー システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (29)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Polymer Systems GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Johannes−Hess−Strasse 24, D−84489 Burghausen, Germany
【Fターム(参考)】