説明

ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤

【課題】 重合時の分散安定性に優れるため、粒度分布がシャープでかさ密度が大きい塩化ビニル系重合体粒子が得られ、ウェットフォームが少なく、ドライフォームに起因する重合体スケールや泡状重合体が形成されにくく、さらに、着色が少なく、耐熱性に優れた塩化ビニル系重合体粒子を製造することができるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤を提供すること。
【解決手段】側鎖に1,2−ジオール成分を有し、かつケン化度が65〜87モル%であるPVA系樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤、特に塩化ビニルの懸濁重合用分散安定剤に関し、更に詳しくは、重合時の分散安定性に優れるため、得られる塩化ビニル重合体粒子の粒度分布がシャープで、かさ密度が大きく、水溶液の発泡性が低いため重合時のウェットフォームの発生が抑制され、さらに、ドライフォームの発生量も低減されるためフィッシュアイの原因となる重合体スケールや泡状重合体の発生が抑制され、さらに、着色が少なく、耐熱性に優れた塩化ビニル系重合体粒子を製造することができる、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂の工業的な製造法は、水性媒体中に分散安定剤の存在下で塩化ビニル系モノマーを分散させ、油溶性の重合開始剤を用いて重合を行う、バッチ式懸濁重合が一般的である。一般に、塩化ビニル系樹脂の品質の支配要因としては、重合率、水−モノマー比、重合温度、重合開始剤量、重合槽の形式、撹拌速度、分散安定剤の種類および量などが挙げられるが、これらの中でも分散安定剤の影響が最も大きいと言われている。
【0003】
塩化ビニル系樹脂の懸濁重合用分散安定剤に要求される性能としては、(a)少量の使用で充分な保護コロイド力、分散力を示し、得られる塩化ビニル系重合体粒子の粒度分布をシャープにする働きのあること、(b)可塑剤の吸収速度を大きくして成形加工性を容易にするために、塩化ビニル系重合体粒子を多孔性にしたり、スキン層の形成を抑制する働きのあること、(c)多孔性粒子中に残存する塩化ビニル系モノマーの除去あるいは成形品中のフィッシュアイ等の生成を防止するために、塩化ビニル系重合体粒子の空隙率をほぼ一定の範囲内に収斂させる働きのあること、(d)加工効率を向上させるため、塩化ビニル系重合体粒子のかさ密度を上げる働きのあること等が挙げられる。
【0004】
上記の分散安定剤としては、一般にポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する)、セルロース誘導体、ゼラチン、などが単独あるいは組み合わされて使用されており、中でもPVA系樹脂が最も広く使用されているが、上述の要求性能を十分満たしているとは言えず、それらの性能を高めるために、様々な試みがなされている。
【0005】
また、最近では、生産性向上のため重合に要する時間の短縮が求められており、重合反応熱の除熱速度を上げるためにリフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いたり、昇温時間短縮のために、予め加熱した水性媒体を仕込む方法(ホットチャージ法)が提案されている。
【0006】
しかしながら、リフラックスコンデンサー付きの重合槽を用いる場合には、塩化ビニル系モノマー蒸気の凝縮によってリフラックスコンデンサー付近の圧力が低下することから、ウェットフォームやドライフォームの発生が激しくなるという問題があった。ウェットフォームとは、主としてPVA系樹脂の界面活性能に起因する水を主成分とする発泡であり、重合槽内の有効容積減少による生産性低下の要因となる。また、ドライフォームとは、主として重合の中期から後期に発生する、塩化ビニル系樹脂粒子や塩化ビニル系モノマーを主成分とする発泡であり、泡状重合体となったり、重合槽内壁やリフラックスコンデンサー内に重合体スケールとして付着し、重合時の除熱を阻害したり、製品内に混入してフィッシュアイの原因になるなどの問題となっていた。
【0007】
かかる課題への対策として、0.1重量%水溶液の紫外吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a)が0.1より大、320nmの吸光度(b)が0.3以上、(a)/(b)が0.3未満、ブロックキャラクターが0.4以上であるPVA系重合体からなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤(例えば、特許文献1参照。)、ケン化度が60モル%以上、ブロックキャラクターが0.3〜0.6であるPVA系重合体を、酸素濃度8000ppm以下の雰囲気下、90〜180℃で0.5〜20時間熱処理してなるPVA系重合体からなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤(例えば、特許文献2参照。)、0.1重量%水溶液の紫外吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(c)が0.1より大、320nmの吸光度(d)が0.07以上、(c)/(d)が0.7以上、1重量%水溶液のYIが40以下、0.1重量%水溶液の30℃における波長500nmでの透過度が80%以上、ブロックキャラクターが0.35以上、Mw/Mnが2.1〜4.9であるPVA系重合体からなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開平8−283313号公報
【特許文献2】特開2004−189888号公報
【特許文献3】特開2004−189889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の懸濁重合用分散安定剤は、重合時の発泡は抑制されるものの、分散安定性の面では不充分であり、塩化ビニル系樹脂の粗粒が生成することがあり、特許文献2および3に記載の懸濁重合用分散安定剤は、熱処理等の手段によってPVA系樹脂中に二重結合を導入したものであるため、得られた塩化ビニル系樹脂の耐熱性の不足による着色や、バリウム−亜鉛系安定剤を使用した際の亜鉛焼けの問題があり、まだまだ改良の余地があることが判明した。
すなわち、重合時の分散安定性に優れることで粗粒の生成量が少なく、水溶液の発泡が少ないためウェットフォームの発生が抑制され、また、ドライフォームの発生量も低減されるため、フィッシュアイの原因となる重合槽内壁への重合体スケールの付着や、泡状重合体の形成が抑制され、さらに、耐熱性に優れ、着色や亜鉛焼けが少なく、かさ比重が高い塩化ビニル系重合体粒子を製造することができる、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、側鎖に1,2−ジオール成分を含有し、かつケン化度が65〜87モル%であるPVA系樹脂からなることを特徴とするビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が、上記目的に合致することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、側鎖に1,2−ジオール成分、特に1級水酸基を有するPVA系樹脂を懸濁重合用分散安定剤用途に適用したことをを最大の特徴とするものであり、それによって、本発明特有の効果が得られたものである。
【0010】
なお、かかる側鎖に1,2−ジオール成分を含有するPVA系樹脂は、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂であることが好ましい。
【化1】


[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す]
【発明の効果】
【0011】
本発明のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤は、重合時の分散安定性に優れるため、粒度分布がシャープでかさ密度が大きいビニル系重合体粒子が得られ、ウェットフォームが少なく、ドライフォームに起因する重合体スケールの重合槽内壁への付着や泡状重合体の生成量が少なく、さらに、着色や軟質配合処方で時々見られる亜鉛焼けが少なく、耐熱性に優れたビニル系重合体粒子が得られることから、工業的に極めて有用である。
また、従来技術による懸濁重合用分散安定剤に用いられるPVA系樹脂がいずれもその製造過程で熱処理工程を必要とするものであるのに対し、本発明で用いられるPVA系樹脂は熱処理を必要としないため、製造コストの点でもメリットは大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明で用いられるPVA系樹脂は、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂であり、一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
【化2】

【0014】
なお、かかるPVA系樹脂の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は、0.3〜20モル%程度であることが好ましく、残る部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ケン化度相当量のビニルアルコール構造単位とそれ以外の酢酸ビニル構造単位からなる。
【0015】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR1〜R3、及びR4〜R6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基で置換されていてもよく、その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0016】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは代表的には単結合であるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、あるいは−CH2OCH2−が好ましい。
【0017】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法が好適に用いられる。
【化3】


[式中、R1、R2、及びR3、はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【0018】
また、(i)以外の製造法として、
(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、
【化4】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法を用いてもよい。
【化5】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0019】
なお、本発明で用いられるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
以下、かかる(i)、(ii)、及び(iii)の方法について説明する。
【0020】
[(i)の方法]
(i)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(2)で示される化合物とを共重合したのちケン化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
かかる上記一般式(2)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9は、アルキル基、好ましくはメチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。
【0021】
式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH2OCH2−あるいは−OCH2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、などが挙げられる。
【0022】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取り扱いにおいて優れるという点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素、Xが単結合、R7、R8がR9−CO−でありR9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、そのなかでも特にR9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。なお、酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1―ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701、であり、これは後述のビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0023】
なお、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、工業生産用ではイーストマンケミカル社、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。また、1,4―ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することも出来る。
【0024】
かかるビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物とを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用されるが、一般式(2)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させられる点から滴下重合が好ましく、特には前述の酢酸ビニルとの反応性比を用いたHANNA法に基づく重合方法が好ましい。
【0025】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0026】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、コモノマーの種類や触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.01〜0.7モル%が好ましく、特には0.02〜0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度で行われ、より具体的には、35〜150℃、好ましくは40〜75℃の範囲で行われる。
【0027】
得られた共重合体は次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては上記で得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0028】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び式(4)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位の合計量1モルに対して0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0029】
[(ii)の方法]
(ii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(3)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱炭酸して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(3)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0030】
ビニルエステル系モノマーと一般式(3)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−ジオール構造に変換される。
また、一定圧力下(常圧〜1×107Pa)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0031】
[(iii)の方法]
(iii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱ケタール化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(4)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R10、R11はそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。かかるアルキル基は共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、R10、R11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適である。
【0032】
ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、更に酸触媒を用いて水系溶媒(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。その場合の酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等が挙げられる。
また、ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
【0033】
また、本発明に用いるPVA系樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲において各種不飽和モノマーを共重合したものを用いることができる。かかる不飽和モノマーの導入量としては、一概にはいえないが、導入量が多すぎると水溶性が損なわれたり、ガスバリアー性が低下することがあるため、好ましくない。
かかる不飽和モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、アセトアセチル基含有モノマー等が挙げられる。
【0034】
更に、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。
又、重合温度を100℃以上にすることにより、PVA主鎖中に1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度導入したものを使用することが可能である。
【0035】
かくして得られるPVA系樹脂のケン化度は、65〜87モル%、さらには68〜83モル%、特には69〜81モル%であることが好ましく、かかるケン化度が低すぎると、コモノマーとして3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを用いた場合、側鎖のジアシロキシ部分のケン化が不十分となる場合が生じたり、水溶性が低下する場合があり好ましくない。また、かかるケン化度が高すぎたり、低すぎる場合には、塩化ビニル系樹脂の粗粒が生成したり、粒度分布が大きくなったりして好ましくない。尚、本発明でのケン化度は3,4−ジアシロキシ−1−ブテン由来の様な変性基部分と、酢酸ビニル等のビニルエステルの総計(モル)に対する水酸基のモル数と定義する。
【0036】
本発明のPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は400〜850、さらには500〜850、特には600〜830のものが好ましく、かかる平均重合度が小さすぎると保護コロイド力が不足し、逆に大きすぎると、得られた塩化ビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低くなる場合があるため好ましくない。
【0037】
また、本発明のPVA系樹脂中の1,2−ジオール成分の含有量は1〜20モル%、さらには1〜8モル%、特には1〜6モル%、殊には2〜6モル%のものが好ましく、かかる含有量が少なすぎると塩化ビニルの懸濁重合初期にウェットフォームが発生したり、重合中期以降にドライフォームが発生し、重合槽内壁へのスケール付着の原因となる。該スケールは、重合反応の除熱を阻害し、生産性を低下させる。また、塩化ビニル系樹脂製品中に重合槽内壁から剥離したスケールが混入し、成形時のフィッシュアイの原因となるため、好ましくない。また、かかる含有量が多すぎると懸濁重合の条件によっては重合が不安定となり、塩化ビニル系樹脂の粗粒が生成したり、塩ビの可塑剤吸収性等の品質が低下する場合があるため好ましくない。
【0038】
なお、PVA系樹脂に1,2−ジオール成分を導入する手段としては、本発明のような共重合によるものと、前述のように重合を高温で行い、頭−頭結合の割合を増やすことで主鎖に導入する方法が挙げられるが、後者の方法ではその導入量に限界があり、3モル%以上の導入は事実上不可能であるが、本発明のPVA系樹脂は前者の方法によるものであるため、1,2−ジオール成分の含有量を上述の範囲内で任意に制御することが可能である。
【0039】
また、本発明で使用されるPVA系樹脂は、異なる他のPVA系樹脂との混合物であってもよく、かかる他のPVA系樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
【0040】
さらに、本発明のPVA系樹脂は、分子内にカルボニル基を含有したPVA系樹脂であることが好ましい。かかる分子内にカルボニル基を有するPVA系樹脂の製造方法は、とくに限定されず、上述の方法によって得られたPVA系樹脂を過酸化水素などの酸化剤で酸化処理する方法や、アルデヒドやケトンなどのカルボニル基を含有する連鎖移動剤の共存下に上述の重合を行い、次いでケン化を行なう方法、1−メトキシビニルアセテートなどの共存下で上述の重合を行い、これをケン化する方法、上述の重合時に系内にエアを吹き込んでポリ酢酸ビニルを得た後ケン化を行なう方法などが挙げられる。工業的には、アルデヒド類やケトン類などのカルボニル基含有連鎖移動剤の共存下で重合し、得られたポリ酢酸ビニルをケン化してカルボニル基を含有するPVA系樹脂を得る方法が特に有利である。
【0041】
連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどのケトン類があげられる。これらの中でも、酢酸ビニルのカルボニル化合物への連鎖移動の制御の容易さより、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒドが好ましい。連鎖移動剤は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数や目的とするPVA系樹脂の重合度などにより調整されるが、通常、酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル系モノマーに対して0.05〜5重量%、さらには0.1〜3重量%が好ましい。また、連鎖移動剤は、重合初期に一括で仕込んでもよく、重合途中で仕込んでもよい。連鎖移動剤を任意の方法で仕込むことにより、PVA系樹脂の分子量分布のコントロールを行なうことができる。
【0043】
本発明のPVA系樹脂中に含有されるカルボニル基量は0.005〜0.3モル%、さらには0.01〜0.2モル%、特には0.03〜0.15モル%であるものが好ましく、かかるカルボニル基の含有量が少なすぎると分散剤としての保護コロイド力が低下し、逆に過剰量のカルボニル基を導入しようとすると、PVA系樹脂の重合度が極端に低下するため、好ましくない。
【0044】
また、かかるカルボニル基に隣接するビニルアルコールや酢酸ビニル構造単位の脱水・脱酢酸によって生成する共役二重結合の量によって、懸濁重合用安定剤として使用した場合の保護コロイド力のコントロールが可能であり、その指標としては、通常、PVA系樹脂の0.1重量%水溶液の紫外線吸収スペクトルによる215nm[−CO−CH=CH−の構造に帰属],280nm[−CO−(CH=CH)2−の構造に帰属],320nm[−CO−(CH=CH)3−の構造に帰属]のそれぞれの吸光度が用いられるが、本発明のPVA系樹脂は、上記280nmの吸光度が0.005以上、さらには0.01以上であるものが好ましく、かかる吸光度が低すぎると懸濁重合時の重合安定性が不十分となり、粗粒が生成したり、粒度分布が大きくなったりするため好ましくない。
【0045】
また、本発明のPVA系樹脂を製造するにあたり、ポリ酢酸ビニルのケン化工程において、誘電率が32以下となるような溶媒の存在下でアルカリケン化を行なうことが好ましく、より好ましい誘電率は6〜29、特に好ましい誘電率は12〜28である。誘電率が32を超えると、PVA系樹脂中の脂肪酸エステル基残存酢酸基のブロック性が低下し、塩化ビニル系樹脂懸濁重合用安定剤としての保護コロイド力が不足する場合があり、塩化ビニル系樹脂の粗粒が精製したり、粒度分布が大きくなったりするため、好ましくない。
【0046】
誘電率が32以下の溶媒としては、メタノール(31.2)、酢酸メチル/メタノール=1/3(27.1)、酢酸メチル/メタノール=1/1(21.0)、酢酸メチル/メタノール=3/1(13.9)、酢酸メチル(7.03)、イソプロピルアセテート(6.3)、トリクロロエチレン(3.42)、キシレン(2.37)、トルエン(2.38)、ベンゼン(2.28)、アセトン(21.4)などがあげられる。これらの中では、酢酸メチル/メタノールの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0047】
つぎに、塩化ビニル系モノマーを例にとって、本発明の分散安定剤を用いたビニル系化合物の懸濁重合方法について説明する。なお、塩化ビニル系モノマーとは、塩化ビニル単独のほか、塩化ビニル50重量%以上およびこれと共重合し得る他のモノマーとの混合物を包含するものである。
【0048】
本発明の分散安定剤を用いた懸濁重合方法は、塩化ビニル系モノマーの通常の懸濁重合において用いられるいかなる方法も採用することができる。
【0049】
懸濁重合において、本発明の分散安定剤であるPVA系樹脂の重合系への添加方法は、PVA系樹脂を粉末のまま、あるいは溶液状で、重合の初期に一括仕込みしても、重合の途中で分割して添加することもできる。
【0050】
PVA系分散剤の使用量は、特に制限はないが、通常塩化ビニル系モノマー100重量部に対して5重量部以下が好ましく、0.01〜1重量部がより好ましく、さらに好ましくは、0.02〜0.2重量部が好ましい。
【0051】
懸濁重合において、本発明の分散安定剤は、種々の公知の分散助剤を併用することも可能である。
【0052】
分散助剤としては、ケン化度65モル%未満、平均重合度100〜750、なかでもケン化度30〜60モル%で平均重合度180〜900の低ケン化度PVA系樹脂が好適に用いられる。
【0053】
また、分散助剤は、水溶性または水分散性であり、カルボン酸やスルホン酸のようなイオン性基などを低鹸化度のPVA系樹脂の側鎖、ないし末端に導入することにより自己乳化性が付与された分散助剤であってもよい。具体的には、「ゴーセーファイマーLL−02」、「ゴーセーファイマーL−5407」、「ゴーセーファイマーL−7514」、「ゴーセーファイマーLW100」、「ゴーセーファイマーLW200」、「ゴーセーファイマーLW300」、「ゴーセーファイマーLS210」など(日本合成化学工業社製)の分散助剤や「LM−20」、「LM−25」、「LM−10HD」(クラレ社製)、「Alcotex 55−002H」、「Alcotex‐WD100」、「Alcotex WD200」、「Alcotex 55−002P」(シンソマー社製)、「Sigma404W」、「Sigma202」(シグマ社製)、CIRS社製の各種分散助剤があげられる。
【0054】
本発明のPVA系分散安定剤と分散助剤の添加量の重量比は、分散剤の種類などによって一概に言えないが、90/10〜30/70の範囲が好ましく、特に80/20〜50/50が好ましい。
【0055】
分散助剤を併用することにより、得られる塩化ビニル系樹脂粒子表面の厚いスキン層の形成を防止すると共に、粒子内部の1〜数ミクロンオーダーの基本粒子(1次粒子)の凝集を制御することができ、得られる塩化ビニル系樹脂のポロシティー分布、可塑剤吸収性、脱モノマー性などの物性がさらに改善される。
【0056】
懸濁重合触媒としては、油溶性の触媒であればいずれでもよく、たとえばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α・α’−アゾビスイソブチロニトリル、α・α’−アゾビス−2,4−ジメチル−バレロニトリル、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイドあるいはこれらの混合物などの塩化ビニル系モノマーの通常の懸濁重合において用いられている触媒を使用することができる。触媒は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、本発明の分散安定剤は、その他の公知の分散剤、例えばビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として従来より用いられている高分子物質を併用することも可能である。かかるその他の分散安定剤としては、たとえば、平均重合度100〜4500、ケン化度65〜100モル%のPVA系樹脂などの、本発明によるPVA系樹脂以外のPVA系樹脂またはその誘導体があげられる。PVA系樹脂の誘導体としては、PVAのホルマール化物、アセタール化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸、カルボン酸などとのエステル化物などがあげられる。さらにビニルエステルとそれと共重合可能なモノマーとの共重合体ケン化物があげられ、共重合可能なモノマーとしてはエチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセンなどのオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステルなど、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホンなどのオレフィンスルホン酸あるいはその塩類、アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどがあげられる。ただし、PVA系分散安定剤はこれらに限られるものではない。
【0058】
また、分散剤として知られている、上記のPVA系樹脂以外の高分子物質としては、たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸またはその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸またはその塩、ポリメタアクリル酸またはその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸など不飽和酸との共重合体、スチレンと上記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体および前記共重合体の塩類またはエステル類があげられる。
【0059】
懸濁重合時に助剤として各種界面活性剤あるいは無機分散剤などを適宜併用することも可能である。さらには、ケン化度が65モル%未満の場合には、本発明のPVA系樹脂を助剤として使用することも可能である。
【0060】
また、懸濁重合において、塩化ビニル系モノマーの通常の懸濁重合において従来より用いられている連鎖移動剤、たとえばメルカプトエタノール、四塩化炭素などを使用することができる。
【0061】
塩化ビニル系モノマーの懸濁重合において用いる水性媒体の温度は、特に制限はないが、20℃程度の常温水はもとより、97℃程度の温水も用いられるが、重合時の昇温時間を短縮するために、重合時に常温の水の代わりにあらかじめ加温された水を用いる方法(ホットチャージ法)が好ましく、該方法をとる場合には、水はあらかじめ40〜97℃に加温され、好ましくは40〜85℃に加温されたものが好適に用いられる。
【0062】
懸濁重合時の重合温度は、当業者周知の範囲から、目的とするビニル系樹脂の重合度に応じて任意に選択され、通常30〜80℃であることが好ましい。懸濁重合は、モノマー/水の重量比が通常の0.5〜1.2の範囲で実施されるが、重合中に水の追加注入を行なって重合に伴う体積収縮による液面低下を補うこともでき、その方が、フィッシュアイの生成を抑制することができるので好ましい。
【0063】
また、懸濁重合時の重合圧力も当業者周知の範囲から、目的とするビニル系樹脂の重合度や重合温度に応じて任意に選択される。
【0064】
懸濁重合時の撹拌は、特殊なものではなく、従来塩化ビニル系モノマーの懸濁重合方法で一般に採用されている公知の撹拌装置を使用することができる。撹拌翼としては、ファウドラー翼、パドル翼、タービン翼、ファンタービン翼、ブルマージン翼など汎用的に用いられているものでよいが、特にファウドラー翼が好ましく用いられる。またバッフルとの組み合わせも特に制限はなく、バッフルとしては板型、円筒型、D型、ループ型およびフィンガー型などがあげられる。
【0065】
塩化ビニル系モノマーの懸濁重合においては、塩化ビニルの単独重合のみではなく、これと共重合可能なモノマーとの共重合も行なわれる。共重合可能なモノマーとしてはハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステル、マレイン酸またはその無水物、エチレン、プロピレン、スチレンなどがあげられる。
【0066】
また、塩化ビニル系モノマーの懸濁重合時には、従来より適宜使用されている重合調整剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、PH調整剤などを添加することも任意である。
【0067】
本発明の分散剤を用いることにより懸濁重合時の発泡を抑制することができ、しかも、重合中の仕込み温水の温度に塩化ビニル系樹脂の品質特性(粒径、粒径分布、可塑剤吸収性など)が影響されることなく優れた特性を有する塩化ビニル系樹脂が得られる。
【0068】
以上、本発明のPVA系樹脂による分散安定剤を用いる懸濁重合を主として塩化ビニル系モノマーの重合について説明したが、本発明のPVA系分散安定剤は必ずしも塩化ビニル系モノマー用に限定されるものではなく、スチレン、アクリレート、メタクリレート、酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニルなど任意のビニル系化合物の懸濁重合用にも使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0070】
実施例1
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール100g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン80g(4モル%)、アセトアルデヒド5.8gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90.5%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
【0071】
得られたPVA系樹脂の各特性値を下記の方法で求めた。結果を表1に示す。
[ケン化度]
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニル構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量から求めた。
[平均重合度]
得られたPVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に従って求めた。
[1,2−ジオール構造単位の含有量]
得られたPVA系樹脂の1,2−ジオール構造単位の含有量は、かかるPVA系樹脂を完全ケン化した後、1H−NMRで測定して算出した。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【0072】
[カルボニル基含有量]
高分子化学、第15巻、第156号、p.249−254(1958年)記載の方法に基づき、得られたPVA系樹脂を完全ケン化し、p−ニトロフェニルヒドラジンによりPVA−ヒドラゾン体とした後、かかる水溶液の405nmの吸光度より算出して求めた。
[吸光度]
得られたPVA系樹脂の0.1重量%の280nmの吸光度は、日本分光社製「紫外可視近赤外分光光度計V−560」を用い、厚さ1cmの試料容器(セル)を用いて求めた。
【0073】
つぎに、得られたPVA系樹脂について、以下の評価を行った。
<水溶液の発泡性>
PVA系樹脂の1%水溶液200mlを容量1Lのメスシリンダーに入れ、40℃に調温後、ディフューザーストーンを液底部に入れ、空気を0.2L/minで5分間通気して発泡させ、通気停止後、泡が完全に消えるまでの時間を測定し、以下の通り評価した。結果を表1に示す。
◎・・・8分以内に消失。
○・・・8分を超え、10分以内に消失。
△・・・10分を超え、30分以内に消失。
×・・・30分以内に消失せず。
【0074】
<塩化ビニルの懸濁重合>
内容積2000Lのリフラックスコンデンサー付き重合槽に、得られたPVA系樹脂450g、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート260g、脱イオン水900kg、塩化ビニルモノマー600kgを仕込み、撹拌しながら、ジャケットに熱水を通して57℃まで昇温し、重合を開始した。重合開始時の重合槽内の圧力は、7.0kg/cm2Gであった。重合槽内の圧力が6.0kg/cm2Gに低下したところで、未反応モノマーを回収し、重合体スラリーを器外に取り出し、脱水、乾燥を行なって、塩化ビニル系樹脂を得た。
得られた塩化ビニル系樹脂を用い、下記の特性について評価した。結果を表2に示す
【0075】
[粒度分布]
得られた塩化ビニル系樹脂20kgをJIS標準ふるい(JIS Z 8801)を用い、42メッシュ上の粗粒、および250メッシュ下の微細粒子の含有量(重量%)を求めた。
【0076】
[スケール付着状態(ドライフォームの発生状態)]
重合槽内のドライフォームの発生状態を、リフラックスコンデンサーへのスケールの付着状態を観察し、以下の通り評価した。
○・・・スケールの付着が見られなかった。
△・・・スケールの付着が少量見られた。
×・・・スケールの付着が多量に見られた。
【0077】
[泡状重合体の量]
粒度分布測定後の塩化ビニル系樹脂10kgを、JIS標準ふるい(JIS Z 8801)を用い、48メッシュ上の粗粒含有量(重量%)を求めた。
【0078】
[かさ比重]
得られた塩化ビニル系樹脂のかさ比重をJIS K 6721に準じて測定を行なった。
【0079】
[初期着色性、耐熱性]
得られた塩化ビニル系樹脂100部、DOP(ジオクチルフタレート)35部、エポキシ化大豆油1部、およびバリウム−亜鉛系安定剤2部を140℃で10分間ロール練りを行った後、押出機で0.65mm厚のシートを作製し、次に、該シートを8枚重ね合わせて180℃で5分間熱プレス成形して、プレス板を作製し、該プレス板表面の着色の有無を目視により観察し、以下の通り評価した(初期着色性)。
さらに、該プレス板を190℃のギアオーブン中に50分間静置し、その着色の有無を同様に評価した(耐熱性)。
○・・・全く着色が認められなかった。
△・・・わずかに着色が認められた。
×・・・着色が認められた。
【0080】
実施例2
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール100g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン164g(8.2モル%)、アセトアルデヒド1.6gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が91.5%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0081】
実施例3
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール100g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン18g(0.9モル%)、アセトアルデヒド8.6gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が95.0%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0082】
実施例4
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール400g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン90g(4.5モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.08モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が94.7%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0083】
実施例5
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール500g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン70g(3.5モル%)、アセトアルデヒド12.1gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が96.2%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度50%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0084】
実施例6
実施例1において、共重合体のケン化時に、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して7ミリモルとなる割合で加えた以外は、実施例1と同様にしてPVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0085】
実施例7
実施例1において、共重合体のケン化時に、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して4ミリモルとなる割合で加えた以外は、実施例1と同様にしてPVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0086】
実施例8
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1200g、メタノール60g、グリセリンモノアリルエーテル117g(6.5モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が74.2%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)で希釈し、濃度50%(ケン化溶媒の誘電率31.2)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0087】
実施例9
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール450g、ビニルエチレンカーボネート20g(1.5モル%)、アセトアルデヒド3.3g、を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が94.8%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシー1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して7ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0088】
実施例10
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1200g、メタノール60g、2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン98g(5.5モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が70%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)で希釈し、濃度50%(ケン化溶媒の誘電率31.2)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して4ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。かかるケン化物を3Nの塩酸(水/メタノール=1/1の混合溶媒)中に分散させ、60℃で脱ケタール化を行い、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0089】
比較例1
実施例1において、共重合体のケン化時に、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えた以外は、実施例1と同様にしてPVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0090】
比較例2
実施例1において、共重合体のケン化時に、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して3.5ミリモルとなる割合で加えた以外は、実施例1と同様にしてPVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0091】
比較例3
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール160g、アセトアルデヒド5.8gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.04モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が96.3%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量を添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノール(誘電率31.2)および酢酸メチル(誘電率7.03)
で希釈し、濃度45%(ケン化溶媒の誘電率24.0)に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂の特性値を表1に、実施例1と同様に評価を行った結果を表2に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤は、塩化ビニルの懸濁重合時の分散安定性に優れるため、粒度分布がシャープでかさ密度が大きい塩化ビニル系重合体粒子が得られ、水溶液の発泡性が低いため、重合時のウェットフォームが少なく、ドライフォームの発生量も低減されるため、フィッシュアイの原因となる重合体スケールや泡状重合体の発生が抑制され、さらに、着色が少なく、耐熱性に優れたビニル系重合体粒子が得られることから、工業的に極めて有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に1,2−ジオール成分を含有し、かつケン化度が65〜87モル%であるポリビニルアルコール系樹脂からなることを特徴とするビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂が、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を含有することを特徴とする請求項1記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル系モノマーと、一般式(2)で表される化合物との共重合体をケン化して得られたことを特徴とする請求項1又は2記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【化2】


[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【請求項4】
一般式(2)で表される化合物が、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンであることを特徴とする請求項3に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項5】
ポリビニアルコール系樹脂が、ビニルエステル系モノマーとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化して得られたことを特徴とする請求項1又は2記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル系モノマーと、一般式(3)で表される化合物との共重合体をケン化および脱炭酸して得られたことを特徴とする請求項1又は2記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【化3】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項7】
一般式(3)で表される化合物がビニルエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項6記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル系モノマーと、一般式(4)で表される化合物との共重合体をケン化および脱炭酸して得られたことを特徴とする請求項1又は2記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【化4】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項9】
一般式(4)で表される化合物が2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランであることを特徴とする請求項8に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系樹脂が、誘電率32以下である溶媒の共存下でケン化してなるものであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項11】
ポリビニルアルコール系樹脂が、分子内にカルボニル基を含有するものであることを特徴とする請求項1〜10いずれか記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項12】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が68〜83モル%であることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項13】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が、400〜850であることを特徴とする請求項1〜12いずれか記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項14】
ポリビニルアルコール系樹脂中の1,2−ジオール成分の含有量が1〜8モル%であることを特徴とする請求項1〜13いずれか記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか記載のポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする懸濁重合用分散安定剤用ポリビニルアルコール系樹脂。



【公開番号】特開2006−241448(P2006−241448A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25219(P2006−25219)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】