説明

ピストンピンの潤滑構造

【課題】コンロッドの小端部の軸孔の内周とピストンピンの外周との間に潤滑油膜を好適に形成できるようにする。
【解決手段】コンロッド1とピストン3とを連結する全浮動型のピストンピン2の潤滑構造において、コンロッド1に小端部に向けて延伸し小端部の軸孔12内に連通する潤滑油路13を設け、この油路13の出口132をコンロッド1の中心軸Lから軸孔12の周方向に沿って偏倚した箇所に開口させるとともに、ピストンピン2の外周面における前記出口132に臨む部位に凹部21を成形することとした。これにより、ピストンピン2が、潤滑油路13を通じて小端部の軸孔12に到達した潤滑油の油圧を凹部21で受けて、軸孔12内で恒常的に回動する状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のコンロッドとピストンとを連結する全浮動型のピストンピンの潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、ピストンの往復運動をコンロッド(コネクティングロッド)を介してクランクシャフトに伝達し、回転駆動力として出力している。コンロッドの小端部とピストンとは、ピストンピンによって連結する。全浮動型のピストンピンは、コンロッドの小端部の軸孔及びピストンのボス部のピン孔に挿入され、コンロッドに対してもピストンに対しても回動可能となっている。
【0003】
ピストンを円滑に往復運動させるには、ピストンピンを適切に潤滑しなければならない。そのために、コンロッドの内部に、小端部に向けて延伸し小端部の軸孔内に連通する潤滑油路を設けておくことが行われる。加えて、下記特許文献に開示されているものでは、円筒状をなすピストンピンの外周と内周とを連通せしめる導入孔を穿ち設けており、潤滑油を導入孔を介してピストンピンの内空に導き入れて、ピストンピンの軸端部及びピストンのボス部にも供給するようにしている。
【0004】
しかしながら、このような構造であると、コンロッドの揺動運動により小端部の軸孔に対するピストンピンの相対回動の速度が一時的に0となり、軸孔の内周とピストンピンの外周との間に潤滑油膜をうまく形成できないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンロッドの小端部の軸孔の内周とピストンピンの外周との間に潤滑油膜を好適に形成できるようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、内燃機関のコンロッドとピストンとを連結する全浮動型のピストンピンの潤滑構造において、コンロッドに小端部に向けて延伸し小端部の軸孔内に連通する潤滑油路を設け、この油路の出口をコンロッドの中心軸から軸孔の周方向に沿って偏倚した箇所に開口させるとともに、コンロッドの小端部の軸孔及びピストンのピン孔に挿入するピストンピンの外周面における前記出口に臨む部位に凹部を成形することとした。これにより、ピストンピンが、潤滑油路を通じて小端部の軸孔に到達した潤滑油の油圧を凹部で受けて、軸孔内で恒常的に回動する状態となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンロッドの小端部の軸孔の内周とピストンピンの外周との間に潤滑油膜を好適に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の潤滑構造を示す正断面図。
【図2】同実施形態の潤滑構造の側断面図。
【図3】本発明の変形例を示す正断面図。
【図4】本発明の変形例を示す正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1及び図2に示す本実施形態の潤滑構造において、コンロッド1の大端部にはクランクシャフト(図示せず)のクランクピンを挿入する軸孔11が、小端部にはピストンピン2を挿入する軸孔12が存在している。大端部の軸孔11にはコンロッドベアリング111を装着しており、小端部の軸孔12にはブッシュ121を装着している。
【0011】
コンロッド1の内部には、潤滑油を小端部の軸孔12へと導くための潤滑油路13を設けてある。潤滑油路13は、大端部の軸孔11内と小端部の軸孔12内とを連通せしめるもので、入口131が大端部の軸孔11の内周面に開口し、出口132が小端部の軸孔12の内周面に開口している。図1に示しているように、潤滑油路13の出口132の位置は、コンロッド1の中心軸L、換言すれば大端部の軸孔11の中心と小端部の軸孔12の中心とを通る直線から、軸孔12の周方向に沿ってオフセットしている。
【0012】
コンロッド1の小端部とピストン3とを相対回動可能に連結するピストンピン2は、概略円筒状をなしているが、前記潤滑油路13の出口132に臨む中間部位の外周面には、周方向に沿って間欠的に複数の凹部21を成形してある。
【0013】
ピストン3は、前後に対向するボス部を備え、両ボス部にそれぞれ貫通したピン孔31を同心軸上に穿ち設けており、両ボス部の間隙にコンロッド1の小端部が収まる。
【0014】
コンロッド1とピストン3とを連結するにあたっては、小端部の軸孔12及びピストン3のピン孔31にピストンピン2を挿入した上、ボス部の前後からピストンピン2の軸端にスナップリング22を嵌め付ける。スナップリング22は、ピストンピン2の軸心方向への移動を規制し、ピストンピン2が軸孔12及びピン孔31から抜出することを抑止する一方、ピストンピン2の軸孔12及びピン孔31に対する回動は許容する。
【0015】
コンロッド1の大端部の軸孔11に供給された潤滑油は、コンロッド1内部の潤滑油路13を経由して小端部の軸孔12内へと至る。その油圧は、潤滑油路13の出口132に摺接するピストンピン2の中間部位に成形した凹部21に入り込み、ピストンピン2をコンロッド1及びピストン3に対して一定方向(図1における反時計回り)に回転させる。この回転により、ピストンピン2の外周を常時潤滑することが可能となる。潤滑油路13は大端部の軸孔11から小端部の軸孔12まで略直進して伸びており、潤滑油圧を効率よくピストンピン2に伝えることができる。
【0016】
本実施形態によれば、内燃機関のコンロッド1とピストン3とを連結する全浮動型のピストンピン2の潤滑構造において、コンロッド1に小端部に向けて延伸し小端部の軸孔12内に連通する潤滑油路13を設け、この油路13の出口132をコンロッド1の中心軸Lから軸孔12の周方向に沿って偏倚した箇所に開口させるとともに、コンロッド1の小端部の軸孔12及びピストン3のピン孔31に挿入するピストンピン2の外周面における前記出口132に臨む部位に凹部21を成形したため、ピストンピン2が潤滑油路13を通じて小端部の軸孔12に到達した潤滑油の油圧を凹部21で受けて、軸孔12内で恒常的に回動する状態となる。従って、コンロッド1の小端部の軸孔12の内周とピストンピン2の外周との間に潤滑油膜を好適に形成でき、小端部とピストンピン2との摩擦が低減し、燃費の向上に寄与することができる。
【0017】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ピストンピン2の外周に沿って凹部21を間欠的に設けていたが、図3に示すように、凹部21を略連続して設けるようにしてもよい。
【0018】
上記実施形態では、潤滑油路13をコンロッド1の中心軸Lに対して略平行に延伸させていたが、図3に示しているように、潤滑油路13を中心軸Lに対して傾倒させて、その出口132を中心軸Lから偏倚させてもよい。
【0019】
また、上記実施形態では、潤滑油路13を直線状としていたが、図4に示しているように、潤滑油路13を中途で湾曲ないし屈曲させ、その出口132をコンロッド1の中心軸Lから偏倚させてもよい。
【0020】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…コンロッド
12…小端部の軸孔
13…潤滑油路
132…出口
2…ピストンピン
21…凹部
3…ピストン
31…ピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のコンロッドとピストンとを連結する全浮動型のピストンピンの潤滑構造であって、
コンロッドに小端部に向けて延伸し小端部の軸孔内に連通する潤滑油路を設け、この油路の出口をコンロッドの中心軸から軸孔の周方向に沿って偏倚した箇所に開口させるとともに、
コンロッドの小端部の軸孔及びピストンのピン孔に挿入するピストンピンの外周面における前記出口に臨む部位に凹部を成形していることを特徴とするピストンピンの潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−132405(P2012−132405A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286964(P2010−286964)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】