説明

ピペットチップ、液体受構造、及び、液体供給装置

【課題】劣化を抑制し、流路への液体供給を適切に行う。
【解決手段】ピペットチップ50を凹部49Aへ挿入して流路部材44へ向かって押圧すると、軟質材料で構成された円筒部材44Bの上端部分が変形して、ピペットチップ50の先端部51が食い込み、ピペットチップ50の外周段差部52Aと受部49の内周段差部49Dとが当接する。また、第1内壁部49Eはピペットチップ50の先端部51に沿った形状とされており、ピペットチップ50の開口51Aが液体流路45の出入口43と連通される位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出、吸入するピペットチップ、このピペットチップを用いて液体の入出が行われる液体受構造、及び、前記ピペットチップと前記液体受構造を備えた液体供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ピペットチップを用いて、液体を供給したり吸入したりすることが行われている。例えば、特許文献1では、測定装置において被検体の固定された流路にセンシング物質を含んだ試薬を供給する際、流路の入口及び出口にピペットチップの先端を差し込み、入口側のピペットチップから試薬を吐出すると共に、出口側のピペットチップで流路内のバッファー液を吸引して行っている。
【0003】
特許文献1のように、流路にピペットチップの先端を差し込んで液体の供給を行う場合、差し込み動作と引き抜き動作を繰り返し行うと、劣化によりピペットチップの先端や、流路の差込口付近が変形してしまうことがある。
【0004】
また、流路へのピペットチップ先端部の差し込みにより流路が押し広げられ、注入量が不安定になるため、ピペットチップを引き抜いた後の液面高さが不安定になることもある。
【0005】
さらに、流路に差し込まれたピペットチップを引き抜く際に、引き抜きの抵抗により、液体供給のノズルに取り付けられているピペットチップがノズルから外れてしまい、流路に差し込まれたまま残ってしまうということもある。
【特許文献1】特開2006−064514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、劣化しにくく、流路への液体供給を適切に行うことの可能なピペットチップ、このピペットチップにより供給される液体を受ける液体受構造、及び、前記ピペットチップ及び液体受構造を備えた液体供給装置、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様のピペットチップは、液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、を備えている。
【0008】
本発明のピペットチップは、先端部と本体部との間の外周に本体部側を大径とする外周段差部が形成されている。この外周段差部を用いて流路の開口との間の位置決めを行えば、ピペットチップの先端を流路に差し込むことなく流路への液体供給を行うことができる。
【0009】
したがって、ピペットチップの抜き差しによるピペットチップの先端部の劣化が抑制される。また、ピペットチップを流路へ差し込まないので、流路が押し広げられることがなく、注入量を安定させることができ、ピペットチップを引き抜いた後の液面高さを一定にすることができる。
【0010】
なお、本発明のピペットチップの前記外周段差部は、前記先端部側が小径のテーパー状とされていること、を特徴とすることができる。
【0011】
上記構成によれば、先端部分から流路に向かって進入するピペットチップの外周段差部が、他の部材と衝突しても、差し込み方向に傾斜がつけられているため、スムーズに進入させることができる。
【0012】
本発明の第2の態様の液体受構造は、液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、を備えたピペットチップを用いて液体の入出が行われる液体受構造であって、前記液体の入出が行われる出入口が形成され、前記出入口と連通された流路を構成する流路部材と、前記流路部材の外側に設けられ、前記出入口と連通する凹部が構成された受部材と、を備え、前記凹部は、前記流路部材側に配置され前記ピペットチップの前記先端部に沿った形状とされ前記ピペットチップの挿入方向の長さが前記先端部の前記ピペットチップの挿入方向の長さよりも短い第1内壁部、及び、前記第1内壁部よりも内径が大きく前記第1内壁部との間に内周段差部を構成する第2内壁部により構成され、前記ピペットチップの先端面が前記流路部材の前記出入口が形成された端面に押し当てられることにより前記ピペットチップの開口と前記流路部材の出入口とが連通されると共に、前記ピペットチップの先端面または前記流路部材の端面のいずれか一方が変形して前記内周段差部に前記外周段差部が当接されること、を特徴としている。
【0013】
本発明の液体受構造は、流路部材及び受部材を備えている。流路部材は、液体の供給または排出の行われる出入口を有している。受部材は、流路部材の外側に設けられており、流路部材の出入口と連通する凹部が構成されている。
【0014】
この凹部の内側は、第1内壁部及び第2内壁部により構成されている。第1内壁部は、流路部材側に配置されており、ピペットチップの先端部に沿った形状とされている。第1内壁部で囲まれた部分に、ピペットチップの先端部が進入する。また、第2内壁部は、第1内壁部よりも内径が大きく、第1内壁との間に内周段差部を構成している。
【0015】
第1内壁部はピペットチップの挿入方向の長さが前記先端部のピペットチップの挿入方向の長さよりも短いため、ピペットチップの先端面が流路部材の出入口端面に当接されただけでは、ピペットチップの外周段差部と受部材の内周段差部とは当接されない。ピペットチップの先端面を前記端面に押し当てることにより、ピペットチップの先端面または流路部材の端面のいずれか一方が変形して内周段差部と外周段差部が当接される。これにより、ピペットチップの開口と流路部材の出入口とが連通されると共に、挿入方向の位置決めも行われ、この状態でピペットチップにより液体の吐出、吸入を行うことができる。
【0016】
上記液体受構造によれば、ピペットチップの先端を流路に差し込むことなく流路への液体供給を行うことができる。したがって、ピペットチップの抜き差しによるピペットチップの先端部及び流路部材出入口付近の劣化が抑制される。また、ピペットチップを流路へ差し込まないので、流路が押し広げられることがなく、注入量を安定させることができ、ピペットチップを引き抜いた後の液面高さを一定にすることができる。
【0017】
なお、本発明の液体受構造は、前記ピペットチップの前記外周段差部の前記先端部側が小径のテーパー状とされ、前記受部材の前記内周段差部が前記外周段差部に沿ったテーパー状とされていること、を特徴とすることができる。
【0018】
上記構成によれば、先端部分から流路に向かって進入するピペットチップの外周段差部が、液体受部材の内周段差部と衝突しても、差し込み方向に傾斜がつけられているため、凹部の流路部材側へスムーズに進入させることができる。
【0019】
また、本発明の液体受構造は、前記流路部材が、前記ピペットチップが押し当てられた際に変形可能な軟質材料で構成されていること、を特徴とすることができる。
【0020】
流路部材を軟質材料で構成することにより、ピペットチップの先端面が押しつけられた時に容易に流路部材を変形させることができる。
【0021】
本発明の第3の態様の液体供給装置は、液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、を備えたピペットチップと、液体の入出が行われる出入口が形成され、前記出入口と連通された流路を構成する流路部材と、前記流路部材の外側に設けられ、前記出入口と連通する凹部が構成された受部材と、を有し、前記凹部は、前記ピペットチップの前記先端部に沿った形状とされると共に前記ピペットチップの挿入方向の長さが前記先端部の前記ピペットチップの挿入方向の長さよりも短い第1内壁部、及び、前記第1内壁部よりも内径が大きく前記第1内壁部との間に内周段差部を構成する第2内壁部により構成され、前記ピペットチップの先端面が前記流路部材の前記出入口が形成された端面に押し当てられることにより前記ピペットチップの先端面または前記流路部材の端面のいずれか一方が変形して前記内周段差部に前記外周段差部が当接されること、を特徴とする。
【0022】
本発明の液体供給装置は、第1の態様のピペットチップ及び第2の態様の液体受構造を備えているので、ピペットチップを流路に差し込むことなく、ピペットチップでの流路への液体供給を行うことができる。したがって、ピペットチップの抜き差しによるピペットチップの先端部及び流路部材出入口付近の劣化が抑制される。また、ピペットチップを流路へ差し込まないので、流路が押し広げられることがなく、注入量を安定させることができ、ピペットチップを引き抜いた後の液面高さを一定にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、ピペットチップ、及び、ピペットチップにより液体の供給される流路を構成する流路部材の劣化を抑制できるとともに、流路への液体供給を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
本発明の液体供給装置は、バイオセンサー10に適用されている。バイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモン共鳴を利用して、リガンドDとアナライトAとの相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。
【0026】
図1に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54、及び、制御部60を備えている。
【0027】
トレイ保持部12は、載置台12A、及び、ベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、トレイTが載置される。トレイTには、センサースティック40が収納されている。センサースティック40は、リガンドDの固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げる、押上機構12Dが配置されている。
【0028】
センサースティック40は、図2及び図3に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、及び、保持部材46、で構成されている。
【0029】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42A、及び、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aと一体的に形成された被保持部42Bを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、金属膜57が形成されている。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜57との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0030】
金属膜57の表面には、図4に示すように、リンカー層57Aが形成されている。リンカー層57Aは、タンパクTaを金属膜57上に固定化するための層である。
【0031】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材46と係合される係合凸部42Cが形成されている。また、プリズム部42Aの下側には、側端辺に沿って図示しない搬送用レールと係合されるフランジ部42Dが形成されている。
【0032】
図3に示すように、流路部材44は、6個のベース部44Aを備え、ベース部44Aの各々に4本の円筒部材44Bが立設されている。ベース部44Aは、3個のベース部44A毎に、立設された円筒部材44Bのうちの1本の上部が連結部材44Dによって連結されている。流路部材44は、軟質で弾性変形可能な材料、例えば非晶質ポリオフィレンエラストマーで構成されている。
【0033】
ベース部44Aには、図5及び図6に示すように、底面側に略S字状の2本の流路溝44Cが形成されている。流路溝44Cは、端部の各々が1の円筒部材44Bの中空部と連通されている。ベース部44Aは、底面が誘電体ブロック42の上面と密着され、流路溝44Cと誘電体ブロック42の上面との間に構成される空間と前記中空部とで、液体流路45が構成される。1個のベース部44Aには、2本の液体流路45が構成される。各々の液体流路45において、円筒部材44Bの上端面に液体流路45の出入口43が構成される。
【0034】
ここで、2本の液体流路45のうち、1本は測定流路45Aとして用いられ、他の1本は参照流路45Rとして用いられる。測定流路45Aの金属膜57上にはタンパクTaが固定され、参照流路45Rの金属膜57上にはタンパクTaが固定されない状態で測定が行われる。測定流路45A及び参照流路45Rには、図5に示すように、各々光ビームL1、L2が入射される。光ビームL1、L2は、図6に示すように、ベース部44Aの中心線M上に配置されるS字の屈曲部分に照射される。以下、流路45Aにおける光ビームL1の照射領域を測定領域E1、流路45Rにおける光ビームL2の照射領域を参照領域E2という。参照領域E2は、タンパクTaの固定された測定領域E1から得られるデータを補正するための測定を行う領域である。
【0035】
保持部材46は、長尺とされ、上面部材47及び2枚の側面板48が蓋状に構成された形状とされている。側面板48には、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔48C、及び、光ビームL1、L2の光路に対応する部分に窓48Dが形成されている。保持部材46は、係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。なお、流路部材44は、後述するように保持部材46と一体成形されており、保持部材46と誘電体ブロック42の間に配置される。
【0036】
上面部材47には、流路部材44の円筒部材44Bに対応する位置に、受部49が形成されている。受部49は、図4に示すように、略円筒状とされ、中空の下部分に円筒部材44Bが配置されている。また、前記中空の円筒部材44Bよりも上側に、出入口43と連通する凹部49Aが構成されている。凹部49Aには、ピペットチップ50が挿入される。
【0037】
保持部材46は、流路部材44よりも硬質の材料、例えば、晶質ポリオフィレンで構成されている。
【0038】
ピペットチップ50は、図7に示すように、略錐筒状とされ、先端部51、本体部52、及び保持部53で構成されている。先端部51は円筒状とされ、挿入方向の最先端に液体を吐出または吸入する開口51Aが構成されている。本体部52は、先端部51より外周が大径の錐筒状とされ、先端部51との間に外周段差部52Aが構成されている。外周段差部52Aは、先端部51側が小径のテーパー状とされている。保持部53は、本体部52よりも外周が大径とされ、本体部52との間に保持段差部53Aが構成されている。保持段差部53Aは、不図示の保持孔の構成された上面板を有するピペットチップストッカにピペットチップ50を保持する際に用いられる部分である。
【0039】
受部49の凹部49Aは、流路部材44側の第1内壁部49B及び、第2内壁部49Cで囲まれて構成されている。第1内壁部49Bは、ピペットチップ50の挿入方向Zが、ピペットチップ50の先端部51の同方向の長さよりも僅かに短く、先端部51の外径よりも僅かに大径とされ、先端部51に沿った形状とされている。
【0040】
第2内壁部49Cは、第1内壁部49Bとの間の内周段差部49D、内周段差部49Dと隣接する中央内壁部49E、最上部の上部内壁部49Fで構成されている。内周段差部49Dは、第1内壁部49Bから連続され、ピペットチップ50の外周段差部52Aに沿って上方が大径となるテーパー状とされている。中央内壁部49Eは、内周段差部49Dと連続され、ピペットチップ50の上方が大径となるテーパー状とされている。上部内壁部49Fは、中央内壁部49Eと連続され、ピペットチップ50の上方がさらに大径となるテーパー状とされている。
【0041】
保持部材46と流路部材44とは、同一金型内で異材料同士を組み合わせて成形する、いわゆる二色成形法(ダブルモールド)によって一体成形されている。
【0042】
図1に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B、及び、スティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40のフランジ部42Dと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。また、測定部56には、測定時にセンサースティック40を押さえる押さえ部材58が備えられている。押さえ部材58は、図示しない駆動機構によりZ方向に移動可能とされ、測定部56に配置されたセンサースティック40を上側から押圧する。
【0043】
容器載置台16には、アナライト溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃液容器19が載置されている。アナライト溶液プレート17は、マトリクス状に区画されており、各種のアナライト溶液がストックされている。バッファー液ストック容器18は、複数の容器で構成されており、複数種類の異なる屈折率のバッファー液がストックされている。バッファー液ストック容器18には、後述するピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。廃液容器19は、複数の容器で構成されており、バッファー液ストック容器と同様にピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。
【0044】
液体吸排部20は、図1に示すように、ヘッド24、及び、吸排駆動部26を含んで構成されている。ヘッド24は、図示しない搬送レールに沿って矢印Y方向(図1参照)に移動可能とされている。また、ヘッド24は、ヘッド24内部の図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。
【0045】
ヘッド24は、図8にも示すように、一対のノズル24Bを備えている。ノズル24Bには、弾性リング23を介してピペットチップ50が取り付けられる。なお、ここでの弾性リングは、いわゆるOリングを含むがこれに限定されず、弾性を有しノズルとピペットチップとに接触してシーリングの機能を有するものであれば、いかなるものであってもよい。
【0046】
吸排駆動部26は、不図示のポンプを備えており、加圧または減圧により、ピペットチップ50から液体を吐出させたり、ピペットチップ50内へ液体を吸引したりする。ノズル24Bには、ピペットチップ50からの力を受けるばね24Cが取り付けられている。
【0047】
光学測定部54は、図9に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54E、を含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜57と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜57との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1及び参照領域E2の全反射減衰角のデータ(以下「全反射減衰角データ」という)が求められる。この全反射減衰角データが制御部60へ出力される。
【0048】
次に、バイオセンサー10での、測定について説明する。測定は、測定流路45AにタンパクTaの固定されたセンサースティック40へアナライト溶液YAを供給し、その時の測定領域E1における信号変化を検出することにより行われる。
【0049】
センサースティック40が搬送されて測定部56に配置されると、測定領域E1、参照領域E2の各々に、光ビームL1、L2が各々照射される。これらの光ビームL1、L2は、測定領域E1、参照領域E2で全反射され、発散しながら誘電体ブロック42のプリズム面を通って外部に射出される。外部に射出された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1及び参照領域E2の全反射減衰角データが求められ、全反射減衰角データが制御部60へ出力される。
【0050】
ここで、液体流路45に上記タンパクTaと反応しない液体を流した場合の測定領域E1における全反射減衰角データと参照領域E2における全反射減衰角データとは略等しくなる。液体流路45にアナライト溶液YAを流したときの、測定領域E1における全反射減衰角データの変化分から、参照領域E2における全反射減衰角データの変化分を差し引いた角度差が、測定領域E1のタンパクTaとアナライト溶液YAのアナライトAとの結合量に対応する。
【0051】
信号処理部54Eからは、連続的に制御部60へ全反射減衰角データが出力され、制御部60では、この全反射減衰角データに基づいて、結合量としての測定データが算出され記憶されている。
【0052】
なお、測定データの値は、測定領域E1のタンパクTaとアナライトAとの単位面積当りの結合量を示すものであり、その測定データの値の単位はRU(レゾナンス・ユニット)である。この結合量を示す測定データの取得に関しては、{永田和宏、半田宏 共編、「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法」、発行所:シュプリンガー・フェアラー
ク東京株式会社}等を参照することができる。
【0053】
測定部56にセンサースティック40が配置され、光ビームL1、L2の照射が行われて全反射減衰角データの出力が開始されると、アナライト溶液プレート17に収容されたアナライト溶液YAを、ヘッド24に取り付けられた一方のピペットチップ50に吸入する。そして、図10(A)に示すようにピペットチップ50をセンサースティック40上に移動して、図10(B)に示すように、ピペットチップ50を、受部49の凹部49Aへ挿入する。
【0054】
このとき、凹部49Aの最上部を構成する上部内壁部49F、及び、中央内壁部49Eは、テーパー状とされているので、図11(A)に示すように、ピペットチップ50の差し込み位置が多少ずれても、先端部51側からスムーズに中央へ誘い込むことができる。また、内周段差部49Dもテーパー状とされているので、図11(B)に示すように先端部51と内周段差部49Dとの接触による衝撃を小さくすることができ、先端部51をスムーズに流路部材44側へ挿入することができる。
【0055】
ピペットチップ50を凹部49Aへ挿入して流路部材44へ向かって押圧すると、図11(C)に示すように、軟質材料で構成された円筒部材44Bの上端部分が変形して、ピペットチップ50の先端部51が食い込み、外周段差部52Aと内周段差部49Dとが当接する。また、第1内壁部49Eはピペットチップ50の先端部51に沿った形状とされており、ピペットチップ50の開口51Aが液体流路45の出入口43と連通される位置に配置される。このようにして、ピペットチップ50の開口51Aと液体流路45の出入口43との間の上下方向、及び、面方向の位置決めが行われ、ピペットチップ50の内部と液体流路45との間でアナライト溶液YA等の液体を吐出、吸入するための連通路が構成される。この状態で、図10(B)に示すように、一方のピペットチップ50からアナライト溶液YAを吐出すると共に、他方のピペットチップ50で液体流路45内のバッファー液を吸入することにより、液体流路45へアナライト溶液YAを供給することができる。
【0056】
本実施形態では前述のように、ピペットチップ50を液体流路45内に差し込まず、第1内壁部49E内へ先端部51を挿入して、内周段差部49Dと外周段差部52Aとを当接させることにより位置決めを行い、液体流路45の出入口43にピペットチップ50の開口51Aを配置して液体の供給を行う。したがって、ピペットチップ50を液体流路45に差し込んで液体を供給する場合に生じる、抜き差しによる先端部51の劣化が抑制される。
【0057】
また、ピペットチップ50を液体流路45へ差し込まないので、液体流路45が押し広げられることがなく、注入量を安定させることができ、ピペットチップ50を引き抜いた後の液面高さを一定にすることができる。
また、流路部材44が軟質材料で構成され、ピペットチップ50の先端部51により押圧されて変形するので、ピペットチップ50と受部49とを密着させることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、流路部材44を軟質材料で構成し、ピペットチップ50をこれよりも硬質の材料で構成した例について説明したが、流路部材44を硬質材料で構成し、ピペットチップ50を軟質材料で構成して、ピペットチップ50側を変形させてもよい。
【0059】
また、ピペットチップ50を液体流路45へ差し込まないので、ピペットチップ50が液体流路45に差し込まれたままになり、ノズル24A、24Bから外れてしまうということも防止することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、バイオセンサーに本発明の液体供給装置を適用した例について説明したが、他の装置、特に、少量の液体をピペットチップを用いて流路へ供給するあらゆる装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態のバイオセンサーの全体斜視図である。
【図2】本実施形態のセンサースティックの斜視図である。
【図3】本実施形態のセンサースティックの分解斜視図である。
【図4】本実施形態のセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図5】本実施形態のセンサースティックへ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図6】本実施形態の1の流路部材の下面図である。
【図7】本実施形態のピペットチップの斜視図である
【図8】本実施形態の液体吸排部の概略構成図である。
【図9】本実施形態のバイオセンサーの光学測定部付近の概略図である。
【図10】本実施形態の1の受部にピペットチップが(A)挿入される前、(B)は挿入された状態を示す図である。
【図11】本実施形態の受部にピペットチップが挿入される過程の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 バイオセンサー
20 液体吸排部
23 リング
40 センサースティック
43 出入口
44 流路部材
44A ベース部
44B 円筒部材
44D 連結部材
45 液体流路
49 受部
49A 凹部
49B 第1内壁部
49C 第2内壁部
49D 内周段差部
49E 中央内壁部
49F 上部内壁部
50 ピペットチップ
52A 外周段差部
52 本体部
D リガンド
E1 測定領域
E2 参照領域
K 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、
外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、
を備えたピペットチップ。
【請求項2】
前記外周段差部は、前記先端部側が小径のテーパー状とされていること、を特徴とする請求項1に記載のピペットチップ。
【請求項3】
液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、を備えたピペットチップを用いて液体の入出が行われる液体受構造であって、
前記液体の入出が行われる出入口が形成され、前記出入口と連通された流路を構成する流路部材と、
前記流路部材の外側に設けられ、前記出入口と連通する凹部が構成された受部材と、
を備え、
前記凹部は、前記流路部材側に配置され前記ピペットチップの前記先端部に沿った形状とされ前記ピペットチップの挿入方向の長さが前記先端部の前記ピペットチップの挿入方向の長さよりも短い第1内壁部、及び、前記第1内壁部よりも内径が大きく前記第1内壁部との間に内周段差部を構成する第2内壁部により構成され、
前記ピペットチップの先端面が前記流路部材の前記出入口が形成された端面に押し当てられることにより前記ピペットチップの開口と前記流路部材の出入口とが連通されると共に、前記ピペットチップの先端面または前記流路部材の端面のいずれか一方が変形して前記内周段差部に前記外周段差部が当接されること、
を特徴とする液体受構造。
【請求項4】
前記ピペットチップの前記外周段差部は前記先端部側が小径のテーパー状とされ、前記受部材の前記内周段差部は前記外周段差部に沿ったテーパー状とされていること、を特徴とする請求項3に記載の液体受構造。
【請求項5】
前記流路部材は、前記ピペットチップが押し当てられた際に変形可能な軟質材料で構成されていること、を特徴とする請求項3または請求項4に記載の液体受構造。
【請求項6】
液体を吐出または吸引する開口の形成された筒状の先端部と、外周が前記先端部よりも大径の筒状とされ、前記先端部との間に外周段差部を構成する本体部と、を備えたピペットチップと、
液体の入出が行われる出入口が形成され、前記出入口と連通された流路を構成する流路部材と、前記流路部材の外側に設けられ、前記出入口と連通する凹部が構成された受部材と、
を有し、
前記凹部は、前記ピペットチップの前記先端部に沿った形状とされると共に前記ピペットチップの挿入方向の長さが前記先端部の前記ピペットチップの挿入方向の長さよりも短い第1内壁部、及び、前記第1内壁部よりも内径が大きく前記第1内壁部との間に内周段差部を構成する第2内壁部により構成され、前記ピペットチップの先端面が前記流路部材の前記出入口が形成された端面に押し当てられることにより前記ピペットチップの先端面または前記流路部材の端面のいずれか一方が変形して前記内周段差部に前記外周段差部が当接されること、を特徴とする液体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−292737(P2007−292737A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66050(P2007−66050)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】