ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡および搬送方法
【課題】 ピンセットの基板への接触、試料の把持検出、試料の形状測定ができるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の提供。
【解決手段】ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、探針部が形成された第1のアームと、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータ6が有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器91と利得調整手段95を有し、第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部93とを備える。
【解決手段】ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、探針部が形成された第1のアームと、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータ6が有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器91と利得調整手段95を有し、第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部93とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡、および、そのピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)において、観察機能と把持機能の両方を有するカンチレバーを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。カンチレバーの先端に2本のカーボンナノチューブを固定し、一方のカーボンナノチューブを探針として微小物体の観察に用いる。そして、2本のカーボンナノチューブの先端部を静電力などにより開閉させて、把持を行うようにしている。一方、静電アクチュエータを走査型プローブ顕微鏡の検出器に使用する例が記載されている(例えば、特許文献2参照:非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−252900号公報
【特許文献2】特開2007−93231号公報
【非特許文献1】Katsuyori Suzuki, Kenjiro Ayano, Gen Hashiguchi, IEEJ Trans. SM, P.148, Vol.127, No.3, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブを備えた走査型プローブ顕微鏡では試料との接触や試料の把持を検知できず、接触や把持を確認するのが難しかった。また、静電アクチュエータを備える走査型プローブ顕微鏡では、探針が形成されたプローブを一定の微小振幅で感度良く共振振動させるのが困難であるとともに、検出系も複雑であり、走査型プローブ顕微鏡のZ制御検出器としては実用上問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、探針部が形成された第1のアームと、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器と、第2のアームの物体への接触による振動の変化を検出する振動変化検出部とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、自励発振により振動する第2のアームの振幅が非接触時に一定となるように、増幅器の利得を調整する利得調整手段を備えたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態検出部で検出された振動状態の変化に基づき、第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態の変化を、第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つとしたものである。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、静電アクチュエータは、静止櫛歯電極部と、第2のアームに連結されて第2のアームを駆動する可動櫛歯電極部とを有するものである。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、探針部を観察対象に対して走査する走査手段と、探針部と観察対象との相互作用に関連する振動状態変化を検出する手段と、振動状態変化の量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系とを有し、観察対象の形状および位置を測定するようにしたものである。
請求項7の発明は、請求項6に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、第1のアームをその固有振動で観察対象方向に撓み振動させる励振手段を備えたものである。
請求項8の発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、第1のアームと、探針部が形成され、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器と、自励発振の増幅器の利得を調整する利得調整手段と、第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部と、探針部を観察対象に対して走査する走査手段とを備えたピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、第2のアームを自励発振による微小振動した状態で観察対象に近接させ、探針部と観察対象との相互作用に関する外力の影響による第2のアームの振動状態の変化が一定となるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、走査手段による走査を行い、観察対象表面の凹凸情報を得ることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項8に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態検出部で検出された振動状態の変化に基づき、第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたものである。
請求項10は、請求項8または9に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態の変化を、第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つとしたものである。
請求項11の発明は、請求項6〜10のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法であって、試料に対して探針部を走査して試料の位置を求め、位置に基づいて第1および第2のアームを試料を挟む位置に移動し、第2のアームを閉じて第1および第2のアームにより試料を把持し、試料を把持した第1および第2のアームを移動して試料を搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第2のアームの振動状態の変化、例えば、共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つを検出することにより、第2のアームによる接触、把持の検出が可能になる。さらに、請求項8の発明によれば、第2アームを静電アクチュエータと自動利得調整機構の付いた増幅器で共振振動させることにより、試料の形状測定が可能となり、従来の光テコ等の変位検出系なしで形状の測定が行える。以上により、ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、確実な把持と簡便な試料の形状測定が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
―第1の実施の形態―
図1は本発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)の一実施の形態を示す図であり、まず第1のアームで形状観察するための光テコ系を構成する従来と類似の原子間力顕微鏡装置(以下、AFM装置と言う)の概略構成を模式的に示す図である。
【0008】
AFM装置100は、櫛歯駆動型AFMピンセット1と、レーザ光源2と、フォトダイオード3と、制御部4と、励振部5と、静電アクチュエータ6と、3次元ステージ8と、駆動回路部9とを備えている。なお、フォトダイオード3には、2分割あるいは4分割フォトダイオードが用いられる。AFMピンセット1は、支持体25に一体に形成された固定アーム10および可動アーム20を有し、後述するように、フォトリソグラフィー技術を利用してSOIウエハを加工することにより形成される。
【0009】
固定アーム10は、レバー10Aと、レバー10Aの先端に設けられた探針部10Bとを有している。AFMピンセット1を用いてAFM観察を行う際には、固定アーム10を観察プローブとして使用する。可動アーム20は、レバー20Aと、レバー20Aの先端に設けられた把持部20Bとを有している。ほぼ平行に配置された探針部10Bと把持部20Bとは、所定間隔を隔てて設けられている。可動アーム20は、櫛歯型の静電アクチュエータ6により開閉駆動される。
【0010】
支持体25は、AFM装置100に設けられたホルダー(不図示)に着脱可能に保持されている。支持体25が保持されるホルダーは、AFM装置100に設けられた3次元ステージ8に固定される。3次元ステージ8を駆動することにより、AFMピンセット1の全体を、x方向、y方向およびz方向のそれぞれの方向に移動させることができる。なお、支持体25のホルダーへの装着方法としては、例えば、ホルダーに形成された溝部または凹部に支持体25をスライドさせて嵌め込んだり、ホルダーに取り付けられた板バネで支持体25を挟持するなど、種々の方法がある。
【0011】
上記では、ピンセット側を3次元移動して走査を行う例を示したが、試料側に3次元ステージ8を設けてもよい。また、AFMピンセット1をZステージ(アクチュエータ)に取り付け、試料側にXYステージ(アクチュエータ)を設けた構造でも良い。いずれの場合も、光テコ系の検出結果に基づいてZサーボ系を動作させる。
【0012】
レーザ光源2のレーザ光は固定アーム10の上面に照射され、その反射レーザ光がフォトダイオード3によって検出される。2分割あるいは4分割フォトダイオード3からの検出信号は、装置全体の制御を行う制御部4に入力される。制御部4は、検出信号に基づいて固定アーム10の振動状態変化(振幅、周波数、位相などの変化)を算出し、試料の表面形状を演算する。その演算結果はモニタ等(不図示)に表示される。図示していないが、励振部5には、AFMピンセット1の全体をz方向に振動させて固定アーム10を励振させるためのピエゾ素子と、ピエゾ素子を駆動する駆動部とが設けられている。
【0013】
図2はAFMピンセット1の概略構造を示す図であり、AFMピンセット1を裏面側から(−z方向から)見た斜視図である。静電アクチュエータ6は、支持体25上に固定された櫛歯形状の固定電極60と、可動アーム20に連結される櫛歯形状の可動電極61とを有している。固定電極60と可動電極61との間には、駆動回路部9により直流のアーム開閉電圧が印加される。
【0014】
可動電極61は、弾性支持部62によって支持体25上に支持されている。弾性支持部62は、連結部材63によって可動アーム20に連結されている。そのため、アーム開閉電圧を制御して可動電極61をx方向に駆動すると、可動アーム20はAFMピンセット1を閉じる方向に駆動される。それによって、探針部10Bと把持部20Bとの間に試料を把持することができる。
【0015】
AFMピンセット1は、探針部10Bと把持部20Bとの間に試料を把持して搬送するピンセットとしての機能と、試料をAFM観察する観察プローブの機能とを備えている。探針部10Bおよび把持部20Bは、y方向の長さ、x方向の幅、z方向の高さのすべてが等しく設定されており、それらの形状は、−z方向に先細りとなったウェッジ型形状をしている。
【0016】
探針部10Bおよび把持部20Bの断面形状は直角三角形になっており、裏面側が尖っている。探針部10Bおよび把持部20Bの互いに対向する把持面は垂直な平行面となっているので、試料を容易に把持することができる。また、探針部10Bの先端が尖っているので、AFM観察がし易い。
【0017】
《観察動作》
まず、AFMピンセット1を用いた観察動作について説明する。AFM観察を行う場合には、励振部5に設けられたピエゾ素子を駆動して、AFMピンセット1の全体をz方向に振動する。
【0018】
図3は、探針部10Bおよび把持部20Bの拡大図である。励振部5によりAFMピンセット1の全体をz方向に振動する場合、振動の周波数を固定アーム10の固有振動数である共振周波数に設定する。そして、固定アーム10の共振周波数を、図4に示すように可動アーム20の共振周波数よりも高く設定することにより、固定アーム10のみをz方向に大きく共振させることができる。
【0019】
図4は固定アーム10の共振周波数を説明する図であり、縦軸は振幅を、横軸は周波数をそれぞれ表している。図4において、V1は固定アーム10の振動曲線であり、V2は可動アーム20の振動曲線である。励振部5により加える振動の周波数がf1のときに、固定アーム10は共振して振幅のピークが発生する。この周波数f1が固定アーム10の共振周波数である。
【0020】
一方、可動アーム20の共振周波数はf2であり、周波数f2に振幅のピークが現れる。周波数がf2よりも高くなると振幅は急激に小さくなり、可動アーム20の周波数f1における振幅量kは固定アーム10の振幅に比べてはるかに小さい値となる。このように、固定アーム10の共振周波数f1が可動アーム20の共振周波数f2よりも高くなるようにレバー10A、20Aを設計することにより、固定アーム10のみを大きく振動させることができる。
【0021】
図3は、固定アーム10が共振周波数f1で大きく振動している場合を示したもので、探針部10Bの振幅に比べて把持部20Bの振幅は非常に小さい。AFM観察においては、図3に示すように探針部10Bを励振させつつAFMピンセット1をXY方向に走査して、観察対象の形状を計測する。この方式は、一般にダイナミックフォースモードと呼ばれる。このとき、固定アーム10の探針部10Bを試料表面に対して原子オーダーの距離に近接させた上で、上下に振動させながら観察対象の全体を走査する。
【0022】
試料表面の凹凸により、探針部10Bの先端と観察対象との距離(探針部10Bは振動しているので平均距離)が変化すると、観察対象の表面と探針部10Bとの間の相互作用の変化によってレバー10Aの振幅が変化する。この振幅の変化量をレーザ光源2とフォトダイオード(2分割あるは4分割フォトダイオード)3とを利用した光テコ方式の計測方法により測定する。
【0023】
光テコ方式の計測方法では、図1に示したように、レーザ光源2からのレーザ光をレバー10Aの上面に入射させ、レバー10Aの上面からの反射光を受光部であるフォトダイオード3で受光する。フォトダイオード3は、その受光位置に応じた検出信号を制御部4へ送出する。制御部4は、2分割あるいは4分割フォトダイオードで構成されるフォトダイオード3からの検出信号に基づいてレバー10Aの振動状態の変化量を算出し、さらに、振動状態の変化量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、観測対象の試料表面をXY走査することにより、表面形状(表面凹凸像)を得ている。この表面形状は不図示のモニタ等に表示される。
【0024】
《把持動作》
次に、把持動作について説明する。本実施の形態のAFMピンセット1では、上述したように直流のアーム開閉電圧を印加し、その電圧値を制御することで可動アーム20の開閉動作を行うようにしている。さらに、静電アクチュエータ6を自励発振させて可動アーム20を微小振動させ、試料を把持した際の微小振動状態の変化によりAFMピンセット1による把持を検出するようにした。
【0025】
まず、アーム開閉電圧により電気系と機械系とが結合された静電アクチュエータ6が、交流電圧を印加することにより所定の振動数で発振すること、すなわち、静電アクチュエータ6が振動子として機能することを説明する。
【0026】
図5は、静電アクチュエータ6における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。一般に、電気・機械結合系においては、電気的エネルギーおよび機械的エネルギーの保存則が成立し、ここでは、アーム開閉電圧が小さく、可動電極61の変位量や電荷量の変動は小さいとしてモデル化して考える。
【0027】
固定電極60および可動電極61の各対向部は複数の凹凸が形成された櫛歯形状になっており、電極60,61は一方の凸部が他方の凹部に入り込むように配置されている。電極間に生じる静電容量C0は、各凹凸間の容量の総和であるトータルの静電容量を表している。また、mは可動部(可動アーム20および可動電極61)の質量、kはバネ定数、rfは機械抵抗、vは可動部の振動速度を表している。Aは、アーム開閉電圧E0を印加することによる機械系と電気系との間の結合係数である。振動を励起するための交流電圧を印加すると、電気系に電流i2が流れて静電アクチュエータ6が駆動される。
【0028】
図5の等価回路で示される静電アクチュエータ6に関して、線形近似基本方程式は式(1),(2)のように表される。なお、CSは浮遊容量であり、図5の等価回路のC0をC0+CSと置き換えて式を立てた。
i1=jω(C0+CS)e1+(E0C0/X0)ν1 (1)
f1=jωmν1+rfν1+kν1/jω+E0C0e1/X0 (2)
但し、i1は交流電流値、e1は入力交流電圧の振幅、ν1は可動部の振動速度であり、f1は可動部に作用する外力を表している。また、X0は初期状態の櫛歯間距離である。
【0029】
式(1),(2)より、外力が零の場合、静電アクチュエータ6のアドミッタンスの絶対値|Y|と角周波数ωとの関係は式(3)のように表すことができる。ここで、A=E0C0/X0である。
【数1】
【0030】
図6は、アドミッタンス値|Y|の角周波数依存性を表すアドミッタンス曲線を示したものである。このアドミッタンス曲線は、電気・機械結合系の特性曲線になっている。一方、|Y|=ω(C0+CS)で表される直線(破線)は、機械系がない電気系のみの場合の特性曲線であり、式(3)において次式(4)が成り立つ場合の特性曲線を表している。
A2−2ω(C0+CS)(ωm−k/ω)=0 (4)
【0031】
式(4)を満たす角周波数ωを発振角周波数ω1と呼ぶと、発振角周波数ω1は、アドミッタンス曲線と|Y|=ω(C0+CS)で表される直線との交点における角周波数である。発振角周波数ω1は共振角周波数ω0に近い値であり、発振角周波数ω1で静電アクチュエータ6を駆動すると、上述したように機械系の特性がキャンセルされ、電気系のみのアドミッタンス計測が可能となる。
【0032】
なお、共振角周波数ω0は、アドミッタンス曲線のピーク角周波数をωpより僅かに高いところに位置しており、アドミッタンス曲線のピーク角周波数をωp、凹カーブを示す部分のボトムの角周波数をωbとすれば、共振角周波数ω0と発振角周波数ω1との関係は、式(5)で表すことができる。
【数2】
【0033】
このように、静電アクチュエータ6は共振回路として機能することが解った。そこで、本実施の形態では、静電アクチュエータ6と増幅器とを用いて自励発振駆動機構を構成するようにした。
【0034】
図7は、静電アクチュエータ6を駆動するための駆動回路部9を示したブロック図である。本図において、静電アクチュエータ6は、櫛歯ドライブ(COMB-DRIVE)が本来的に有しているL,C,R共振回路に基づいて描いてある。すなわち、櫛歯ドライブ(COMB-DRIVE)を受動2端子素子とみなして駆動回路9を示したのが図7である。
【0035】
駆動回路部9は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を帰還回路として有する増幅器91と、増幅器91の出力電圧V0を基準電圧Vrと比較してゲイン制御電圧Vcを発生するAGC(自動ゲイン制御)回路95と、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6に対してバイアス直流電圧E0を印加するDC電源92を含んでいる。このバイアス印加用DC電源92は、静電アクチュエータの機能に着目した場合、「アーム開閉用DC電源」と呼ぶことができる。
【0036】
櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を増幅器91の帰還回路に挿入する際、本実施の形態では、以下の点に注意を払っている。
【0037】
第1に、バイアス直流電圧E0を印加するDC電源92の内部抵抗は非常に小さいので、帰還信号がDC電源92側を通過しないようにする必要がある。そこで、本実施の形態では、高抵抗RhighをDC電源と直列に挿入してある。このことにより、バイアス用DC電源92が帰還パスに影響を与えないようにしている。
【0038】
第2に、バイアス印加用DC電源92が、増幅器91を含んだ回路系統からDC回路としてフローティング状態にすると同時に、増幅器91の端子(出力端子&入力端子)にDC電圧が直接印加されないよう、ブロッキング・コンデンサCBを挿入してある。
【0039】
次に、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6における各端子の電圧V1,V2について説明する。電圧V1は、増幅器91におけるDCバイアス回路の設計値により得られる値であり、一般的に、片電源電圧(+B)のみを用いる場合には、V1=+B/2とする。他方、両電源電圧(±B)を用いる場合には、V1=0とする。
【0040】
電圧V2は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6の等価回路から明らかなようにDC電流を通過させないので、V2=E0となる。ここでE0は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6に対して印加されているバイアス直流電圧E0である。このようにして設定された電圧V1と電圧V2との差に従って、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6が開閉される。換言すると、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を開閉するために必要な端子間電位差は、|V1−V2|である。
【0041】
静電アクチュエータ6の電極60,61には、アーム開閉用DC電源92によりアーム開閉電圧E0が印加される。このアーム開閉電圧E0を制御することで、可動アーム20の開閉動作が行われる。増幅器91からの出力信号は、接触/把持検出回路93に供給される。接触/把持検出回路93は、試料の接触状態あるいは把持状態を検出するために、例えば電圧コンパレータあるいは周波数コンパレータを内蔵している(図示せず)。すなわち、電圧コンパレータを用いて増幅器91の出力電圧値をモニタすることにより、試料の接触/把持を検出する。周波数コンパレータを用いた場合には、増幅器91から出力される信号の周波数をモニタすることにより、試料の接触/把持を検出する。
【0042】
増幅器91と櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6とで発振回路を構成することにより、静電アクチュエータ6に電圧を印加すると可動アーム20は共振周波数で振動することになる。この振動している可動アーム20が試料や他の物に接触すると等価回路のR,C,Lが変化し、振動の振幅および周波数が変化する。本実施の形態では、この振動・周波数の変化を接触/把持検出回路93で検出することにより、可動アーム20による試料の把持や、試料が載置されている基板面等への可動アーム20の接触を検出するようにした。
【0043】
しかしながら、アーム開閉電圧を変えて可動アーム20の開閉動作を行うと、アーム開閉電圧の大きさによって、すなわち、可動アーム20の開き具合によって振動の振幅および周波数が変化することが分かった。また、十分な接触検出の精度を得るためには、可動アーム20の振幅を100nm程度まで小さくする必要がある。しかし、振幅が小さくなると空気の粘性等が原因して振動が不安定になり、不安定から振幅が小さくなった場合でも把持と誤判定してしまうおそれがあった。また、外来電気雑音に起因して、動作が不安定になる場合もあった。
【0044】
そこで、本実施の形態では、AGC回路95により増幅器91の利得を調整することで、アーム開閉によって入力V1が変化しても、増幅器91からの出力電圧V0が一定となるようにした。そのため、AFMピンセット1が何も把持していないフリーな状態では、可動アーム20は一定の振幅で振動するようになる。但し、接触/把持検出回路93により上記接触あるいは把持の状態を検出可能とするために、AGC回路95が有しているゲイン制御機能は、予め適切な値に設定しておく。このゲイン設定については、設計事項であるので詳細な記載は省略する。
【0045】
図7では、増幅器91に電圧制御型可変利得増幅器を使用し、出力レベル検出器(図示せず)、誤差検出回路(図示せず)および制御回路(図示せず)によりAGC回路95を構成するようにした。すなわち、増幅器91の出力電圧V0を出力レベル検出器(図示せず)で監視し、出力レベル検出器(図示せず)から出力される直流電圧と予め設定されている基準電圧Vrとを誤差検出回路(図示せず)で比較する。誤差検出回路(図示せず)は、比較結果として誤差信号kを制御回路(図示せず)に出力する。制御回路(図示せず)は、誤差信号k(図示せず)がゼロとなるようなゲイン制御電圧Vcを増幅器91の制御端子に供給する。増幅器91は、入力されたゲイン制御電圧Vcに応じた利得で入力電圧V1を増幅し、出力電圧V0を出力する。本実施の形態では、出力電圧V0の増加に伴ってゲイン制御電圧Vcを大きくし、増幅器91の利得が小さくなるように制御して出力電圧V0が一定になるように制御する。
【0046】
図8は、AGC回路95の一例を示したものである。増幅器91の出力電圧V0は全波整流され、後段のオペアンプからは全波整流した電圧と基準電圧−Vrとを比較した結果ゲイン制御電圧Vcが出力される。ゲイン制御電圧VcはFET97のゲートに入力され、ゲート電圧を変化させることで増幅器91の利得を変化させる。ゲイン制御電圧Vcは誤差信号kがゼロになるように制御されるので、一定振幅の出力電圧V0が得られることになる。
【0047】
図9はAGC機能を説明する図であり、アーム開閉電圧E0およびゲイン制御電圧Vcを変えたときの可動アーム20の振幅を、レーザードップラー振動計を用いて測定したデータである。縦軸は振幅、横軸はゲイン制御電圧Vcを示しており、4種類の開閉電圧16,18,20,22Vに対して曲線L1〜L4が得られた。例えば、ゲイン制御電圧VcをVc=1Vに固定してAGC機能を働かせなかった場合、開閉電圧を16Vに設定すると可動アーム20の振幅は約3μmとなり、開閉電圧を18Vに増加して可動アーム20を閉じると振動の振幅は約7μmに増加する。
【0048】
そこで、アーム開閉に関わらず振幅を一定に保つためには、開閉電圧の変化に同期してゲイン制御電圧Vcを変化させれば良い。例えば、開閉電圧を16V、18V、20Vと変化させてアームを閉じる場合に、その変化に同期させてゲイン制御電圧Vcを1V、1.2V、1.3Vと変化させることで、振幅を約3μmに保持することができる。
【0049】
可動アーム20が振動しながら試料や他の物に接触したり、可動アーム20で試料を把持したり、可動アーム20と固定アーム10が接触するまで閉じたりすると、等価回路のR,C,Lが変化して振動の振幅や周波数が変化するので、その変化を接触/把持検出回路93で検出する。例えば、接触前後において、出力電圧V0は図10(a)の状態から図10(b)に示す状態へと変化する。この出力電圧V0を直流信号に変換してその大きさを基準値と比較し、基準値以下となったならば接触状態や把持状態となったと判断する。
【0050】
また、可動アーム20が試料に接触したり、試料を把持したりすると、可動アーム20の振幅を所定値に維持しようとAGC回路95が働き、増幅器91の制御端子に供給されるゲイン制御電圧Vcが変化する。そこで、増幅器91に供給されるゲイン制御電圧Vcの変化から振動の変化を検出し、それによって接触を検出するようにしても良い。ゲイン制御電圧Vcの変化は振幅や周波数の変化に先立って検出されるので、より高感度な接触検出ができる。
【0051】
図7に示した駆動回路部9および接触/把持検出回路93は、振動振幅を検出することにより櫛歯ドライブの接触・把持状態を検出するものである。しかし、櫛歯ドライブの接触・把持状態を検出するためには、周波数検出に基づいて接触・把持状態を検出すること、あるいは位相検出に基づいて接触・把持状態を検出することも可能である。以下、周波数検出系を備えた接触・把持検出回路、および、位相検出系を備えた接触・把持検出回路について説明する。
【0052】
図11は、振動周波数検出系を備えた接触・把持検出回路である。本図において、図7と同様の構成要素には、図7と同様の符号を付してある。本図では、図7と異なり、増幅器91の正帰還路中にバンドパスフィルタBPFおよび位相シフタPSを含んでいる。位相シフタPSを調整することにより、発振周波数の微調整を行うことができる。FMデモジュレータFMDMは、基準周波数f0に対する周波数シフト量を検出して周波数偏差信号を出力する。この周波数偏差信号は接触/把持検出回路93Aに入力され、図示されていない閾値回路による判定結果に基づいて、試料との接触あるいは把持状態が検出される。
【0053】
図12は、位相検出系を備えた接触・把持検出回路である。本図において、図7と同様の構成要素には、図7と同様の符号を付してある。本図では、上記図11の場合と同様、増幅器91の正帰還路中にバンドパスフィルタBPFおよび位相シフタPSを含んでいる。位相シフタPSを調整することにより、発振周波数の微調整を行うことができる。本図では、位相検出器PHDETを備えており、予め調整した任意の位相(フリー状態の位相を用いる)を零位相として、位相シフト量を電圧に変換する。位相検出器PHDETの出力信号は接触/把持検出回路93Bに入力され、図示されていない閾値回路による判定結果に基づいて、試料との接触あるいは把持状態が検出される。
【0054】
《試料搬送動作》
上述した動作説明では、AFM観察動作および把持動作を個別に説明したが、実際には、AFM観察と把持動作との両方を行うことで試料搬送動作を行う。図13,14は試料搬送動作における一連の動作を説明する図である。なお、図13,14では、AFMピンセット1の先端部(探針部10Bおよび把持部20B)のみを示した。
【0055】
まず、アーム開閉電圧を印加しないで可動アーム20を開いた状態とするとともに、励振部5を駆動して励振により固定アーム10を振動させる。そして、図13(a)に示すように、固定アーム10を振動させつつAFMピンセット1を降下させる。試料300が載置されている台302を検出したならば、AFMピンセット1の降下を停止する。
【0056】
その後、図13(b)に示すように台302上を固定アーム10で走査し、試料300を探す。すなわち、台302上をAFM観察する。破線Lは探針部10Bの先端の軌跡を示しており、走査により試料300の形状が観察され、試料300の位置を検出することができる。
【0057】
固定アーム10の走査により試料300の位置が検出されたならば、図13(c)に示すようにAFMピンセット1を台302から上昇させた後、探針部10Bおよび把持部20Bを試料300の上方に移動する。この場合、試料300の位置が探針部10Bと把持部20Bとの間に来るように移動する。探針部10Bおよび把持部20Bを試料300の上方に移動したならば、図14(a)に示すように、台302を検出するまでAFMピンセット1を降下させる。台302を検出したならば、降下を停止する。
【0058】
次いで、励振部5を停止して固定アーム10の振動を止めるとともに、アーム開閉電圧を印加する。アーム開閉電圧の印加により静電アクチュエータ6が発振し、図14(b)に示すように可動アーム20が開閉方向に振動する。そして、アーム開閉電圧を上昇させて、可動アーム20を閉じるように駆動する。
【0059】
把持部20Bが試料300に接触すると、接触時の振幅変化から接触したことが検出される。さらに、図14(c)に示すように、試料300が探針部10Bと把持部20Bとの間に把持されると、把持部20Bの動きが拘束されて振幅が小さくなり、可動アーム20の振動が止まる。振動が止まったことが検出されたならば、すなわち把持が検出されたならば、アーム開閉電圧の上昇を停止して把持検出時の電圧に保持する。その後、3次元ステージ8を駆動して、図14(d)に示すように試料300を把持した状態でAFMピンセット1を移動し、試料300を所望の位置へと搬送する。
【0060】
《製造方法》
次に、図1に示したAFMピンセット1の製造方法について説明する。AFMピンセット1は、SOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。後述するように、支持体25は、SOIウエハを構成する上部Si層、SiO2層および下部Si層で形成されている。固定アーム10、可動アーム20、静電アクチュエータ6は、上部Si層に形成される。本実施の形態では、上部Si層、SiO2層および下部Si層の厚さが順に6μm,1μm,300μmであるSOIウエハが用いられているが、このような寸法組み合わせに限定されるものではない。
【0061】
図15〜21は、本実施の形態のAFMピンセット1の製造工程を示す図であり、工程aからgまで順に処理される。図15の(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(a1)は斜視図、(a2)は断面図である。工程aでは、上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33から成るSOIウエハ30を用意し、上部Si層31の上に厚さ50nmの窒化珪素(SiN)膜34を形成する。なお、SOIウエハ30の上部Si層31は、表面がSi単結晶の主面Si(001)となるように構成されている。
【0062】
図15の(b1)および(b2)は工程bを説明する図であり、(b1)は斜視図、(b2)はR−R断面図である。工程bでは、図16に示すマスクM1を用いて、C2F6によるRIE(Reactive Ion Etching)でSiN膜34を部分的にエッチング除去し、上部Si層31の一部(白抜きの領域A1)を露出させる。SiN膜34がエッチング除去された領域A1は、固定アーム10、可動アーム20、静電アクチュエータ6が形成される領域である。これら固定アーム10、可動アーム20の先端が延在する方向には、上部Si層31の<110>方向を選んでいる。
【0063】
なお、図16に示したマスクM1は支持体25の領域も含めたマスクとなっており、図15(b1)に示す部分は、図16のR1−R1線よりも上側の領域が関係している。以下の説明では、R1−R1線よりも上側の領域について説明する。
【0064】
図15の(c1),(c2)に示す工程cでは、領域A1の上部Si層31の表面に厚さ0.1μmの酸化膜35を形成する。酸化方法にはウェット酸化法(水蒸気酸化)を用いている。
【0065】
図17の(a1),(a2)は工程dを説明する図であり、(a2)は(a1)のR2−R2断面図である。また、図17(a1)に示した部分は、図18に示すマスクM2のR3−R3線より上部領域に対応している。工程dでは、図18に示すマスクM2を用いて、AFMピンセット1の外形のパターニングを行う。なお、櫛歯形状もここの工程で形成する。パターニング後、ICP−RIE(Inductively coupled plasma - Reactive Ion Etching)によりSiO2層32までエッチングを行う。このエッチングにより、固定アーム10と可動アーム20の先端となる箇所に細いスリットSL1(上部Si層31の<110>方向)が形成される。このスリットSL1は基板面に対して垂直にエッチングされる。
【0066】
図17の(b1),(b2),(b3)は工程eを説明する図であり、(b2)は(b1)のR4−R4断面図、(b3)は(b1)のR5−R5断面図である。工程eでは、露出している上部Si層31をウェット酸化法で酸化する。その後、図19の(a1),(a2)に示す工程fにおいて、SiN膜34をC2F6によるRIEでエッチング除去し、SiN膜34の下層に残っている上部Si層31を露出させる。なお、図19(a2)はR6−R6断面図である。
【0067】
なお、ウェット酸化で形成された酸化膜35は、このエッチングの際の上部Si層31の保護膜として機能する。このときのRIE条件としてC2F6のガス圧力を高めることで、SiN膜34と酸化膜35の選択比を調整し、図19(a2)に示すようにSiN膜34だけを除去する。その結果、保護のため形成した酸化膜35は残り、SiN膜34の下の上部Si層31のみが露出される状態になる。
【0068】
図19の(b1),(b2)は工程gを説明する図であり、(b2)はR7−R7断面図である。工程gでは、露出した上部Si層31に対して、30%KOH水溶液を用いて異方性エッチングする。酸化膜で保護された箇所はエッチングされず、上部Si層31のみが異方性エッチングされて斜面310が形成される。その結果、三角形の断面形状を有する探針部10B,把持部20Bに相当する部分が形成される。前述したように、上部Si層31の表面を単結晶Siの主面(001)に選んでいるので、異方性エッチングによって形成される斜面310は単結晶Siの{111}面になっている。
【0069】
次いで、図20(a)に示すマスクM3を用いたICP−RIEによりエッチングを行い、不要部を除去する。その後、酸化膜をエッチング除去する。このマスクM3を用いたエッチングにより、探針部10Bおよび把持部20Bの長さを調節することができる。最後に、図20(b)に示すマスクM4を用いてSOIウエハの裏面から下部S1層33側の不要部分をICP−RIEによりエッチング除去する。このエッチングはSiO2層32で停止する。そして、フッ酸溶液によりSiO2層の不要部分を除去すれば、図21に示すような静電駆動型AFMピンセット1の形状(裏面側から見た形状)となる。
【0070】
上記の製造工程では、1個のAFMピンセット1についての一連の作製手順を説明したが、実際の製造工程は、SOIウエハ単位で行われる、いわゆるバッチ処理である。このバッチ処理では、フォトリソグラフィー法により、1枚のSOIウエハから多数のAFMピンセット1を一括で作製することができ、大幅な製造コストの削減をもたらすものである。
【0071】
上述したように、第1の実施の形態では、AFMピンセット1の可動アーム20を開閉駆動することで、固定アーム10と可動アーム20との間に試料等を把持することができるとともに、固定アーム10を用いてAFM観察を行うことができる。さらに、可動アーム20を静電アクチュエータ6で振動させ、その可動アーム20が試料に接触したときの振動状態の変化(例えば、振幅の変化あるいは周波数の変化あるいは位相の変化など)を検出することにより、AFMピンセット1による把持の検出が可能となった。
【0072】
また、AFMピンセット観察時にAFMピンセット1をステージ方向に降下動作をする際に、振動状態の変化により試料またはステージへの接近や接触を検知することができるので、降下させすぎてアームを破損するようなことを防止することができる。さらに、AGC回路95を設けたことで、外乱により振動が不安定となるのを防止することができ、振動振幅を小さくして接触検出や把持検出の精度を向上させることができる。
【0073】
また、AFM観察動作と把持動作と組み合わせて用いることで、微小試料の検出と、検出した微小試料を把持して所望の位置に搬送する動作とを一括して行うことができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0074】
なお、固定アーム10によるAFM観察の観察モードとして、ダイナミックフォースモードに限定して説明したが、コンタクトモードで観察する方式も適用できる。この場合、固定アーム10の下端の位置を、可動アーム20の下端の位置よりもわずかに下方となるように形成して、固定アーム10によるAFM観察に支障がないようにする。あるいは、可動アーム20をバイモルフ構造のリフトアップ機構に接続し、試料観察時は、バイモルフを駆動して可動アーム20を試料から離れるようにしてもよい。バイモルフ構造も上記プロセスで製作することができる。
【0075】
―第2の実施の形態―
図22は本発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第2実施の形態を示す図である。上述した第1の実施の形態では、固定アーム10の先端を探針として用い、固定アーム10の振動状態の変化(振幅変化、周波数変化、位相変化)を光テコ系により検出し、その検出信号に基づいてAFM観察の際のZサーボ系を動作させた。一方、第2の実施の形態では、静電アクチュエータ6により共振振動する可動アーム20を用いてAFM観察を行うようにした。そのため、図22では、図1に記載されていた形状観察のための光テコ系(レーザ光源2、フォトダイオード3)よび励振部5が不要である。櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を駆動するための駆動回路部の主要構成部分は、第1の実施の形態と同様である(図7の駆動回路部9参照)。
【0076】
前述したように可動アーム20を、その機械的共振周波数で共振振動させる。この共振の振幅は、静電アクチュエータ6のQ値と静電アクチュエータ6のばね定数と増幅器91とAGC回路95から構成される正帰還系の利得(励振電圧)によって決定される。可動アーム20は、構造上試料面に対して平行方向(横方向)に振動している。従って、AFMの像分解能とZ方向の検出感度を得るために、できるだけ小さな振動振幅(例えば振幅0.1〜100nm)で持続的振動を行うようにAGC回路95を調整する必要がある。
【0077】
ここで、図7に示したAGC回路95の制御出力Vcを用いて、Zサーボ制御について説明する。図23は、上記制御出力VcをZ軸制御信号としてピエゾ素子を駆動する際の構成を模式的に示した図である。すなわち、既定のセットポイント値と比較するために、Z軸制御信号(Vc)をコンパレータCOMPに入力する。その後、PID制御器および高圧電源を介してピエゾ素子を駆動する。このピエゾ素子は、図22の3次元ステージ中のZステージと同等の動作を行う。なお、Z信号およびX,Y信号に基づいて画像表示を行う手法については、本発明と直接関係がないので、詳細な説明は省略する。
【0078】
振動状態の可動アーム20を試料面に近接させると、可動アーム20の横方向の振動振幅は、試料と可動アーム20の先端に働く横方向の相互作用力(シアフォース)により減衰を受ける。この横方向振動の振幅減衰量が一定になるように図23に示すZサーボ系を制御して、探針・試料間の距離制御を行う。この制御信号とXYステージ走査信号(記載していない)より、試料の3次元形状信号が得られる。また静電櫛歯アクチュエータの機械的剛性が低い場合は静電櫛歯アクチュエータの高次の共振モードも利用できる。
【0079】
振幅のズレ量を検出することによる構成は上述した通りであるが、同様に第2のアームを試料面に近接させると、横方向振動の周波数、あるいは、位相にずれが生じる。これらのずれ量を検出して電圧に変換し、ずれ量が一定となるようにZサーボ系を動作させることにより、同様に試料の形状が求まる。
【0080】
図24は、周波数検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。本図は、先に説明した図11と同様の回路構成を有しているので、詳細な説明は省略する。ここでは、FMデモジュレータFMDMから出力された周波数偏差信号をZサーボ出力として用いる。このZサーボ出力により、Zデータ信号を形成する。
【0081】
図25は、位相検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。本図は、先に説明した図12と同様の回路構成を有しているので、詳細な説明は省略する。ここでは、位相検出器PHDETから出力された位相シフト量検出信号をZサーボ出力として用いる。このZサーボ出力により、Zデータ信号を形成する。
【0082】
上述した第2の実施の形態では、可動アーム20を共振振動させて、その振動状態の変化を検出することでAFM観察を行うようにした。その結果、図1に示した光テコ系および励振部5が(レーザ2、フォトダイオード3)不要となり、装置構成の簡素化およびコスト低減を図ることができる。さらに、AGC回路95により利得調整を行うことにより外乱による振動振幅の変化を低減するようにしたので、環境変化に関わらず持続的振動を行わせることができる。なお、振動状態変化による試料の接触および把持検出に関しては、上述した第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0083】
一方、上述した特許文献2や非特許文献1に記載の従来の走査型プローブ顕微鏡では、静電アクチュエータを走査型プローブ顕微鏡の検出器に使用しているが、第2の実施の形態のようなAGC機能を有していない。静電アクチュエータは微小なアクチュエータであり、空気の流れなどの外乱の影響を非常に受けやすい。そのため、プローブを一定の微小振幅で感度良く振動させるのが困難であった。一方、本実施の形態では、AGC回路95を設けたことにより、このような問題を解決することができるようになった。
【0084】
なお、上述した第2の実施の形態では、AFMピンセット1の可動アーム20をAFM観察に用いる構成であったが、非特許文献1に記載のようなAFM用プローブを静電アクチェータ6で振動させる構成とし、それに本実施の形態のようなAGC回路を設け、振動の振幅の変化あるいは周波数の変化あるいは位相の変化が一定となるようにZサーボ系を動作させるようにしても良い。この場合、把持機能は有していないが、AFM観察に関しては第2の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0085】
上述した実施の形態では、シリコン基板を加工してAFMピンセット1を形成したが、このような形成方法に限らず、種々の形成方法によりAFMピンセット1を形成しても良い。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施の形態におけるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】AFMピンセット1の概略構造を示す図である。
【図3】探針部10Bおよび把持部20Bの拡大図である。
【図4】固定アーム10の共振周波数を説明する図である。
【図5】静電アクチュエータ6における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。
【図6】アドミッタンス値|Y|の角周波数依存性を表すアドミッタンス曲線を示す図である。
【図7】駆動回路部9を説明するブロック図である。
【図8】AGC回路95の一例を示す図である。
【図9】開閉電圧およびゲイン制御電圧Vcを変えたときのアーム3A,3Bの振幅の測定データを示す図である。
【図10】接触前後における出力電圧V0の一例を示す図であり、(a)は接触前の信号を、(b)は接触後の信号をそれぞれ示す。
【図11】振動周波数検出系を備えた接触・把持検出回路を示す図である。
【図12】位相検出系を備えた接触・把持検出回路を示す図である。
【図13】試料搬送動作を説明する図であり、(a)は降下動作を、(b)は走査動作を、(c)は移動動作をそれぞれ示す。
【図14】試料搬送動作を説明する図であり、(a)は降下動作を、(b)は閉駆動動作を、(c)は把持動作を、(d)は搬送動作をそれぞれ示す。
【図15】(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(b1),(b2)は工程bを説明する図であり、(c1),(c2)は工程cを説明する図である。
【図16】マスクM1を示す図である。
【図17】(a1),(a2)は工程dを説明する図であり、(b1)〜(b3)は工程eを説明する図である。
【図18】マスクM2を示す図である。
【図19】(a1),(a2)は工程fを説明する図であり、(b1),(b2)は工程gを説明する図である。
【図20】(a)はマスクM3を示す図で、(b)はマスクM4を示す図である。
【図21】最終的なAFMピンセット1を示す図である。
【図22】本実施の形態におけるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第2の実施の形態を示す図である。
【図23】AGC回路から出力される制御出力VcをZ軸制御信号としてピエゾ素子を駆動する際の構成を模式的に示した図である。
【図24】周波数検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。
【図25】位相検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。
【符号の説明】
【0087】
1:AFMピンセット、2:レーザ光源、3:2あるいは4分割フォトダイオード、4:制御部、5:励振部、6:静電アクチュエータ、8:3次元ステージ、9:駆動回路部、10:固定アーム、10B:探針部、20:可動アーム、20B:把持部、60:固定電極、61:可動電極、91:増幅器、93:接触/把持検出回路、95:AGC回路、100:AFM装置、300:試料、
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡、および、そのピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)において、観察機能と把持機能の両方を有するカンチレバーを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。カンチレバーの先端に2本のカーボンナノチューブを固定し、一方のカーボンナノチューブを探針として微小物体の観察に用いる。そして、2本のカーボンナノチューブの先端部を静電力などにより開閉させて、把持を行うようにしている。一方、静電アクチュエータを走査型プローブ顕微鏡の検出器に使用する例が記載されている(例えば、特許文献2参照:非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−252900号公報
【特許文献2】特開2007−93231号公報
【非特許文献1】Katsuyori Suzuki, Kenjiro Ayano, Gen Hashiguchi, IEEJ Trans. SM, P.148, Vol.127, No.3, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブを備えた走査型プローブ顕微鏡では試料との接触や試料の把持を検知できず、接触や把持を確認するのが難しかった。また、静電アクチュエータを備える走査型プローブ顕微鏡では、探針が形成されたプローブを一定の微小振幅で感度良く共振振動させるのが困難であるとともに、検出系も複雑であり、走査型プローブ顕微鏡のZ制御検出器としては実用上問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、探針部が形成された第1のアームと、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器と、第2のアームの物体への接触による振動の変化を検出する振動変化検出部とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、自励発振により振動する第2のアームの振幅が非接触時に一定となるように、増幅器の利得を調整する利得調整手段を備えたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態検出部で検出された振動状態の変化に基づき、第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態の変化を、第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つとしたものである。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、静電アクチュエータは、静止櫛歯電極部と、第2のアームに連結されて第2のアームを駆動する可動櫛歯電極部とを有するものである。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、探針部を観察対象に対して走査する走査手段と、探針部と観察対象との相互作用に関連する振動状態変化を検出する手段と、振動状態変化の量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系とを有し、観察対象の形状および位置を測定するようにしたものである。
請求項7の発明は、請求項6に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、第1のアームをその固有振動で観察対象方向に撓み振動させる励振手段を備えたものである。
請求項8の発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡は、第1のアームと、探針部が形成され、第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、開閉駆動電圧が印加され、第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により第2のアームを振動させる増幅器と、自励発振の増幅器の利得を調整する利得調整手段と、第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部と、探針部を観察対象に対して走査する走査手段とを備えたピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、第2のアームを自励発振による微小振動した状態で観察対象に近接させ、探針部と観察対象との相互作用に関する外力の影響による第2のアームの振動状態の変化が一定となるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、走査手段による走査を行い、観察対象表面の凹凸情報を得ることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項8に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態検出部で検出された振動状態の変化に基づき、第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたものである。
請求項10は、請求項8または9に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、振動状態の変化を、第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つとしたものである。
請求項11の発明は、請求項6〜10のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法であって、試料に対して探針部を走査して試料の位置を求め、位置に基づいて第1および第2のアームを試料を挟む位置に移動し、第2のアームを閉じて第1および第2のアームにより試料を把持し、試料を把持した第1および第2のアームを移動して試料を搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第2のアームの振動状態の変化、例えば、共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つを検出することにより、第2のアームによる接触、把持の検出が可能になる。さらに、請求項8の発明によれば、第2アームを静電アクチュエータと自動利得調整機構の付いた増幅器で共振振動させることにより、試料の形状測定が可能となり、従来の光テコ等の変位検出系なしで形状の測定が行える。以上により、ピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、確実な把持と簡便な試料の形状測定が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
―第1の実施の形態―
図1は本発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)の一実施の形態を示す図であり、まず第1のアームで形状観察するための光テコ系を構成する従来と類似の原子間力顕微鏡装置(以下、AFM装置と言う)の概略構成を模式的に示す図である。
【0008】
AFM装置100は、櫛歯駆動型AFMピンセット1と、レーザ光源2と、フォトダイオード3と、制御部4と、励振部5と、静電アクチュエータ6と、3次元ステージ8と、駆動回路部9とを備えている。なお、フォトダイオード3には、2分割あるいは4分割フォトダイオードが用いられる。AFMピンセット1は、支持体25に一体に形成された固定アーム10および可動アーム20を有し、後述するように、フォトリソグラフィー技術を利用してSOIウエハを加工することにより形成される。
【0009】
固定アーム10は、レバー10Aと、レバー10Aの先端に設けられた探針部10Bとを有している。AFMピンセット1を用いてAFM観察を行う際には、固定アーム10を観察プローブとして使用する。可動アーム20は、レバー20Aと、レバー20Aの先端に設けられた把持部20Bとを有している。ほぼ平行に配置された探針部10Bと把持部20Bとは、所定間隔を隔てて設けられている。可動アーム20は、櫛歯型の静電アクチュエータ6により開閉駆動される。
【0010】
支持体25は、AFM装置100に設けられたホルダー(不図示)に着脱可能に保持されている。支持体25が保持されるホルダーは、AFM装置100に設けられた3次元ステージ8に固定される。3次元ステージ8を駆動することにより、AFMピンセット1の全体を、x方向、y方向およびz方向のそれぞれの方向に移動させることができる。なお、支持体25のホルダーへの装着方法としては、例えば、ホルダーに形成された溝部または凹部に支持体25をスライドさせて嵌め込んだり、ホルダーに取り付けられた板バネで支持体25を挟持するなど、種々の方法がある。
【0011】
上記では、ピンセット側を3次元移動して走査を行う例を示したが、試料側に3次元ステージ8を設けてもよい。また、AFMピンセット1をZステージ(アクチュエータ)に取り付け、試料側にXYステージ(アクチュエータ)を設けた構造でも良い。いずれの場合も、光テコ系の検出結果に基づいてZサーボ系を動作させる。
【0012】
レーザ光源2のレーザ光は固定アーム10の上面に照射され、その反射レーザ光がフォトダイオード3によって検出される。2分割あるいは4分割フォトダイオード3からの検出信号は、装置全体の制御を行う制御部4に入力される。制御部4は、検出信号に基づいて固定アーム10の振動状態変化(振幅、周波数、位相などの変化)を算出し、試料の表面形状を演算する。その演算結果はモニタ等(不図示)に表示される。図示していないが、励振部5には、AFMピンセット1の全体をz方向に振動させて固定アーム10を励振させるためのピエゾ素子と、ピエゾ素子を駆動する駆動部とが設けられている。
【0013】
図2はAFMピンセット1の概略構造を示す図であり、AFMピンセット1を裏面側から(−z方向から)見た斜視図である。静電アクチュエータ6は、支持体25上に固定された櫛歯形状の固定電極60と、可動アーム20に連結される櫛歯形状の可動電極61とを有している。固定電極60と可動電極61との間には、駆動回路部9により直流のアーム開閉電圧が印加される。
【0014】
可動電極61は、弾性支持部62によって支持体25上に支持されている。弾性支持部62は、連結部材63によって可動アーム20に連結されている。そのため、アーム開閉電圧を制御して可動電極61をx方向に駆動すると、可動アーム20はAFMピンセット1を閉じる方向に駆動される。それによって、探針部10Bと把持部20Bとの間に試料を把持することができる。
【0015】
AFMピンセット1は、探針部10Bと把持部20Bとの間に試料を把持して搬送するピンセットとしての機能と、試料をAFM観察する観察プローブの機能とを備えている。探針部10Bおよび把持部20Bは、y方向の長さ、x方向の幅、z方向の高さのすべてが等しく設定されており、それらの形状は、−z方向に先細りとなったウェッジ型形状をしている。
【0016】
探針部10Bおよび把持部20Bの断面形状は直角三角形になっており、裏面側が尖っている。探針部10Bおよび把持部20Bの互いに対向する把持面は垂直な平行面となっているので、試料を容易に把持することができる。また、探針部10Bの先端が尖っているので、AFM観察がし易い。
【0017】
《観察動作》
まず、AFMピンセット1を用いた観察動作について説明する。AFM観察を行う場合には、励振部5に設けられたピエゾ素子を駆動して、AFMピンセット1の全体をz方向に振動する。
【0018】
図3は、探針部10Bおよび把持部20Bの拡大図である。励振部5によりAFMピンセット1の全体をz方向に振動する場合、振動の周波数を固定アーム10の固有振動数である共振周波数に設定する。そして、固定アーム10の共振周波数を、図4に示すように可動アーム20の共振周波数よりも高く設定することにより、固定アーム10のみをz方向に大きく共振させることができる。
【0019】
図4は固定アーム10の共振周波数を説明する図であり、縦軸は振幅を、横軸は周波数をそれぞれ表している。図4において、V1は固定アーム10の振動曲線であり、V2は可動アーム20の振動曲線である。励振部5により加える振動の周波数がf1のときに、固定アーム10は共振して振幅のピークが発生する。この周波数f1が固定アーム10の共振周波数である。
【0020】
一方、可動アーム20の共振周波数はf2であり、周波数f2に振幅のピークが現れる。周波数がf2よりも高くなると振幅は急激に小さくなり、可動アーム20の周波数f1における振幅量kは固定アーム10の振幅に比べてはるかに小さい値となる。このように、固定アーム10の共振周波数f1が可動アーム20の共振周波数f2よりも高くなるようにレバー10A、20Aを設計することにより、固定アーム10のみを大きく振動させることができる。
【0021】
図3は、固定アーム10が共振周波数f1で大きく振動している場合を示したもので、探針部10Bの振幅に比べて把持部20Bの振幅は非常に小さい。AFM観察においては、図3に示すように探針部10Bを励振させつつAFMピンセット1をXY方向に走査して、観察対象の形状を計測する。この方式は、一般にダイナミックフォースモードと呼ばれる。このとき、固定アーム10の探針部10Bを試料表面に対して原子オーダーの距離に近接させた上で、上下に振動させながら観察対象の全体を走査する。
【0022】
試料表面の凹凸により、探針部10Bの先端と観察対象との距離(探針部10Bは振動しているので平均距離)が変化すると、観察対象の表面と探針部10Bとの間の相互作用の変化によってレバー10Aの振幅が変化する。この振幅の変化量をレーザ光源2とフォトダイオード(2分割あるは4分割フォトダイオード)3とを利用した光テコ方式の計測方法により測定する。
【0023】
光テコ方式の計測方法では、図1に示したように、レーザ光源2からのレーザ光をレバー10Aの上面に入射させ、レバー10Aの上面からの反射光を受光部であるフォトダイオード3で受光する。フォトダイオード3は、その受光位置に応じた検出信号を制御部4へ送出する。制御部4は、2分割あるいは4分割フォトダイオードで構成されるフォトダイオード3からの検出信号に基づいてレバー10Aの振動状態の変化量を算出し、さらに、振動状態の変化量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、観測対象の試料表面をXY走査することにより、表面形状(表面凹凸像)を得ている。この表面形状は不図示のモニタ等に表示される。
【0024】
《把持動作》
次に、把持動作について説明する。本実施の形態のAFMピンセット1では、上述したように直流のアーム開閉電圧を印加し、その電圧値を制御することで可動アーム20の開閉動作を行うようにしている。さらに、静電アクチュエータ6を自励発振させて可動アーム20を微小振動させ、試料を把持した際の微小振動状態の変化によりAFMピンセット1による把持を検出するようにした。
【0025】
まず、アーム開閉電圧により電気系と機械系とが結合された静電アクチュエータ6が、交流電圧を印加することにより所定の振動数で発振すること、すなわち、静電アクチュエータ6が振動子として機能することを説明する。
【0026】
図5は、静電アクチュエータ6における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。一般に、電気・機械結合系においては、電気的エネルギーおよび機械的エネルギーの保存則が成立し、ここでは、アーム開閉電圧が小さく、可動電極61の変位量や電荷量の変動は小さいとしてモデル化して考える。
【0027】
固定電極60および可動電極61の各対向部は複数の凹凸が形成された櫛歯形状になっており、電極60,61は一方の凸部が他方の凹部に入り込むように配置されている。電極間に生じる静電容量C0は、各凹凸間の容量の総和であるトータルの静電容量を表している。また、mは可動部(可動アーム20および可動電極61)の質量、kはバネ定数、rfは機械抵抗、vは可動部の振動速度を表している。Aは、アーム開閉電圧E0を印加することによる機械系と電気系との間の結合係数である。振動を励起するための交流電圧を印加すると、電気系に電流i2が流れて静電アクチュエータ6が駆動される。
【0028】
図5の等価回路で示される静電アクチュエータ6に関して、線形近似基本方程式は式(1),(2)のように表される。なお、CSは浮遊容量であり、図5の等価回路のC0をC0+CSと置き換えて式を立てた。
i1=jω(C0+CS)e1+(E0C0/X0)ν1 (1)
f1=jωmν1+rfν1+kν1/jω+E0C0e1/X0 (2)
但し、i1は交流電流値、e1は入力交流電圧の振幅、ν1は可動部の振動速度であり、f1は可動部に作用する外力を表している。また、X0は初期状態の櫛歯間距離である。
【0029】
式(1),(2)より、外力が零の場合、静電アクチュエータ6のアドミッタンスの絶対値|Y|と角周波数ωとの関係は式(3)のように表すことができる。ここで、A=E0C0/X0である。
【数1】
【0030】
図6は、アドミッタンス値|Y|の角周波数依存性を表すアドミッタンス曲線を示したものである。このアドミッタンス曲線は、電気・機械結合系の特性曲線になっている。一方、|Y|=ω(C0+CS)で表される直線(破線)は、機械系がない電気系のみの場合の特性曲線であり、式(3)において次式(4)が成り立つ場合の特性曲線を表している。
A2−2ω(C0+CS)(ωm−k/ω)=0 (4)
【0031】
式(4)を満たす角周波数ωを発振角周波数ω1と呼ぶと、発振角周波数ω1は、アドミッタンス曲線と|Y|=ω(C0+CS)で表される直線との交点における角周波数である。発振角周波数ω1は共振角周波数ω0に近い値であり、発振角周波数ω1で静電アクチュエータ6を駆動すると、上述したように機械系の特性がキャンセルされ、電気系のみのアドミッタンス計測が可能となる。
【0032】
なお、共振角周波数ω0は、アドミッタンス曲線のピーク角周波数をωpより僅かに高いところに位置しており、アドミッタンス曲線のピーク角周波数をωp、凹カーブを示す部分のボトムの角周波数をωbとすれば、共振角周波数ω0と発振角周波数ω1との関係は、式(5)で表すことができる。
【数2】
【0033】
このように、静電アクチュエータ6は共振回路として機能することが解った。そこで、本実施の形態では、静電アクチュエータ6と増幅器とを用いて自励発振駆動機構を構成するようにした。
【0034】
図7は、静電アクチュエータ6を駆動するための駆動回路部9を示したブロック図である。本図において、静電アクチュエータ6は、櫛歯ドライブ(COMB-DRIVE)が本来的に有しているL,C,R共振回路に基づいて描いてある。すなわち、櫛歯ドライブ(COMB-DRIVE)を受動2端子素子とみなして駆動回路9を示したのが図7である。
【0035】
駆動回路部9は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を帰還回路として有する増幅器91と、増幅器91の出力電圧V0を基準電圧Vrと比較してゲイン制御電圧Vcを発生するAGC(自動ゲイン制御)回路95と、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6に対してバイアス直流電圧E0を印加するDC電源92を含んでいる。このバイアス印加用DC電源92は、静電アクチュエータの機能に着目した場合、「アーム開閉用DC電源」と呼ぶことができる。
【0036】
櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を増幅器91の帰還回路に挿入する際、本実施の形態では、以下の点に注意を払っている。
【0037】
第1に、バイアス直流電圧E0を印加するDC電源92の内部抵抗は非常に小さいので、帰還信号がDC電源92側を通過しないようにする必要がある。そこで、本実施の形態では、高抵抗RhighをDC電源と直列に挿入してある。このことにより、バイアス用DC電源92が帰還パスに影響を与えないようにしている。
【0038】
第2に、バイアス印加用DC電源92が、増幅器91を含んだ回路系統からDC回路としてフローティング状態にすると同時に、増幅器91の端子(出力端子&入力端子)にDC電圧が直接印加されないよう、ブロッキング・コンデンサCBを挿入してある。
【0039】
次に、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6における各端子の電圧V1,V2について説明する。電圧V1は、増幅器91におけるDCバイアス回路の設計値により得られる値であり、一般的に、片電源電圧(+B)のみを用いる場合には、V1=+B/2とする。他方、両電源電圧(±B)を用いる場合には、V1=0とする。
【0040】
電圧V2は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6の等価回路から明らかなようにDC電流を通過させないので、V2=E0となる。ここでE0は、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6に対して印加されているバイアス直流電圧E0である。このようにして設定された電圧V1と電圧V2との差に従って、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6が開閉される。換言すると、櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を開閉するために必要な端子間電位差は、|V1−V2|である。
【0041】
静電アクチュエータ6の電極60,61には、アーム開閉用DC電源92によりアーム開閉電圧E0が印加される。このアーム開閉電圧E0を制御することで、可動アーム20の開閉動作が行われる。増幅器91からの出力信号は、接触/把持検出回路93に供給される。接触/把持検出回路93は、試料の接触状態あるいは把持状態を検出するために、例えば電圧コンパレータあるいは周波数コンパレータを内蔵している(図示せず)。すなわち、電圧コンパレータを用いて増幅器91の出力電圧値をモニタすることにより、試料の接触/把持を検出する。周波数コンパレータを用いた場合には、増幅器91から出力される信号の周波数をモニタすることにより、試料の接触/把持を検出する。
【0042】
増幅器91と櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6とで発振回路を構成することにより、静電アクチュエータ6に電圧を印加すると可動アーム20は共振周波数で振動することになる。この振動している可動アーム20が試料や他の物に接触すると等価回路のR,C,Lが変化し、振動の振幅および周波数が変化する。本実施の形態では、この振動・周波数の変化を接触/把持検出回路93で検出することにより、可動アーム20による試料の把持や、試料が載置されている基板面等への可動アーム20の接触を検出するようにした。
【0043】
しかしながら、アーム開閉電圧を変えて可動アーム20の開閉動作を行うと、アーム開閉電圧の大きさによって、すなわち、可動アーム20の開き具合によって振動の振幅および周波数が変化することが分かった。また、十分な接触検出の精度を得るためには、可動アーム20の振幅を100nm程度まで小さくする必要がある。しかし、振幅が小さくなると空気の粘性等が原因して振動が不安定になり、不安定から振幅が小さくなった場合でも把持と誤判定してしまうおそれがあった。また、外来電気雑音に起因して、動作が不安定になる場合もあった。
【0044】
そこで、本実施の形態では、AGC回路95により増幅器91の利得を調整することで、アーム開閉によって入力V1が変化しても、増幅器91からの出力電圧V0が一定となるようにした。そのため、AFMピンセット1が何も把持していないフリーな状態では、可動アーム20は一定の振幅で振動するようになる。但し、接触/把持検出回路93により上記接触あるいは把持の状態を検出可能とするために、AGC回路95が有しているゲイン制御機能は、予め適切な値に設定しておく。このゲイン設定については、設計事項であるので詳細な記載は省略する。
【0045】
図7では、増幅器91に電圧制御型可変利得増幅器を使用し、出力レベル検出器(図示せず)、誤差検出回路(図示せず)および制御回路(図示せず)によりAGC回路95を構成するようにした。すなわち、増幅器91の出力電圧V0を出力レベル検出器(図示せず)で監視し、出力レベル検出器(図示せず)から出力される直流電圧と予め設定されている基準電圧Vrとを誤差検出回路(図示せず)で比較する。誤差検出回路(図示せず)は、比較結果として誤差信号kを制御回路(図示せず)に出力する。制御回路(図示せず)は、誤差信号k(図示せず)がゼロとなるようなゲイン制御電圧Vcを増幅器91の制御端子に供給する。増幅器91は、入力されたゲイン制御電圧Vcに応じた利得で入力電圧V1を増幅し、出力電圧V0を出力する。本実施の形態では、出力電圧V0の増加に伴ってゲイン制御電圧Vcを大きくし、増幅器91の利得が小さくなるように制御して出力電圧V0が一定になるように制御する。
【0046】
図8は、AGC回路95の一例を示したものである。増幅器91の出力電圧V0は全波整流され、後段のオペアンプからは全波整流した電圧と基準電圧−Vrとを比較した結果ゲイン制御電圧Vcが出力される。ゲイン制御電圧VcはFET97のゲートに入力され、ゲート電圧を変化させることで増幅器91の利得を変化させる。ゲイン制御電圧Vcは誤差信号kがゼロになるように制御されるので、一定振幅の出力電圧V0が得られることになる。
【0047】
図9はAGC機能を説明する図であり、アーム開閉電圧E0およびゲイン制御電圧Vcを変えたときの可動アーム20の振幅を、レーザードップラー振動計を用いて測定したデータである。縦軸は振幅、横軸はゲイン制御電圧Vcを示しており、4種類の開閉電圧16,18,20,22Vに対して曲線L1〜L4が得られた。例えば、ゲイン制御電圧VcをVc=1Vに固定してAGC機能を働かせなかった場合、開閉電圧を16Vに設定すると可動アーム20の振幅は約3μmとなり、開閉電圧を18Vに増加して可動アーム20を閉じると振動の振幅は約7μmに増加する。
【0048】
そこで、アーム開閉に関わらず振幅を一定に保つためには、開閉電圧の変化に同期してゲイン制御電圧Vcを変化させれば良い。例えば、開閉電圧を16V、18V、20Vと変化させてアームを閉じる場合に、その変化に同期させてゲイン制御電圧Vcを1V、1.2V、1.3Vと変化させることで、振幅を約3μmに保持することができる。
【0049】
可動アーム20が振動しながら試料や他の物に接触したり、可動アーム20で試料を把持したり、可動アーム20と固定アーム10が接触するまで閉じたりすると、等価回路のR,C,Lが変化して振動の振幅や周波数が変化するので、その変化を接触/把持検出回路93で検出する。例えば、接触前後において、出力電圧V0は図10(a)の状態から図10(b)に示す状態へと変化する。この出力電圧V0を直流信号に変換してその大きさを基準値と比較し、基準値以下となったならば接触状態や把持状態となったと判断する。
【0050】
また、可動アーム20が試料に接触したり、試料を把持したりすると、可動アーム20の振幅を所定値に維持しようとAGC回路95が働き、増幅器91の制御端子に供給されるゲイン制御電圧Vcが変化する。そこで、増幅器91に供給されるゲイン制御電圧Vcの変化から振動の変化を検出し、それによって接触を検出するようにしても良い。ゲイン制御電圧Vcの変化は振幅や周波数の変化に先立って検出されるので、より高感度な接触検出ができる。
【0051】
図7に示した駆動回路部9および接触/把持検出回路93は、振動振幅を検出することにより櫛歯ドライブの接触・把持状態を検出するものである。しかし、櫛歯ドライブの接触・把持状態を検出するためには、周波数検出に基づいて接触・把持状態を検出すること、あるいは位相検出に基づいて接触・把持状態を検出することも可能である。以下、周波数検出系を備えた接触・把持検出回路、および、位相検出系を備えた接触・把持検出回路について説明する。
【0052】
図11は、振動周波数検出系を備えた接触・把持検出回路である。本図において、図7と同様の構成要素には、図7と同様の符号を付してある。本図では、図7と異なり、増幅器91の正帰還路中にバンドパスフィルタBPFおよび位相シフタPSを含んでいる。位相シフタPSを調整することにより、発振周波数の微調整を行うことができる。FMデモジュレータFMDMは、基準周波数f0に対する周波数シフト量を検出して周波数偏差信号を出力する。この周波数偏差信号は接触/把持検出回路93Aに入力され、図示されていない閾値回路による判定結果に基づいて、試料との接触あるいは把持状態が検出される。
【0053】
図12は、位相検出系を備えた接触・把持検出回路である。本図において、図7と同様の構成要素には、図7と同様の符号を付してある。本図では、上記図11の場合と同様、増幅器91の正帰還路中にバンドパスフィルタBPFおよび位相シフタPSを含んでいる。位相シフタPSを調整することにより、発振周波数の微調整を行うことができる。本図では、位相検出器PHDETを備えており、予め調整した任意の位相(フリー状態の位相を用いる)を零位相として、位相シフト量を電圧に変換する。位相検出器PHDETの出力信号は接触/把持検出回路93Bに入力され、図示されていない閾値回路による判定結果に基づいて、試料との接触あるいは把持状態が検出される。
【0054】
《試料搬送動作》
上述した動作説明では、AFM観察動作および把持動作を個別に説明したが、実際には、AFM観察と把持動作との両方を行うことで試料搬送動作を行う。図13,14は試料搬送動作における一連の動作を説明する図である。なお、図13,14では、AFMピンセット1の先端部(探針部10Bおよび把持部20B)のみを示した。
【0055】
まず、アーム開閉電圧を印加しないで可動アーム20を開いた状態とするとともに、励振部5を駆動して励振により固定アーム10を振動させる。そして、図13(a)に示すように、固定アーム10を振動させつつAFMピンセット1を降下させる。試料300が載置されている台302を検出したならば、AFMピンセット1の降下を停止する。
【0056】
その後、図13(b)に示すように台302上を固定アーム10で走査し、試料300を探す。すなわち、台302上をAFM観察する。破線Lは探針部10Bの先端の軌跡を示しており、走査により試料300の形状が観察され、試料300の位置を検出することができる。
【0057】
固定アーム10の走査により試料300の位置が検出されたならば、図13(c)に示すようにAFMピンセット1を台302から上昇させた後、探針部10Bおよび把持部20Bを試料300の上方に移動する。この場合、試料300の位置が探針部10Bと把持部20Bとの間に来るように移動する。探針部10Bおよび把持部20Bを試料300の上方に移動したならば、図14(a)に示すように、台302を検出するまでAFMピンセット1を降下させる。台302を検出したならば、降下を停止する。
【0058】
次いで、励振部5を停止して固定アーム10の振動を止めるとともに、アーム開閉電圧を印加する。アーム開閉電圧の印加により静電アクチュエータ6が発振し、図14(b)に示すように可動アーム20が開閉方向に振動する。そして、アーム開閉電圧を上昇させて、可動アーム20を閉じるように駆動する。
【0059】
把持部20Bが試料300に接触すると、接触時の振幅変化から接触したことが検出される。さらに、図14(c)に示すように、試料300が探針部10Bと把持部20Bとの間に把持されると、把持部20Bの動きが拘束されて振幅が小さくなり、可動アーム20の振動が止まる。振動が止まったことが検出されたならば、すなわち把持が検出されたならば、アーム開閉電圧の上昇を停止して把持検出時の電圧に保持する。その後、3次元ステージ8を駆動して、図14(d)に示すように試料300を把持した状態でAFMピンセット1を移動し、試料300を所望の位置へと搬送する。
【0060】
《製造方法》
次に、図1に示したAFMピンセット1の製造方法について説明する。AFMピンセット1は、SOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。後述するように、支持体25は、SOIウエハを構成する上部Si層、SiO2層および下部Si層で形成されている。固定アーム10、可動アーム20、静電アクチュエータ6は、上部Si層に形成される。本実施の形態では、上部Si層、SiO2層および下部Si層の厚さが順に6μm,1μm,300μmであるSOIウエハが用いられているが、このような寸法組み合わせに限定されるものではない。
【0061】
図15〜21は、本実施の形態のAFMピンセット1の製造工程を示す図であり、工程aからgまで順に処理される。図15の(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(a1)は斜視図、(a2)は断面図である。工程aでは、上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33から成るSOIウエハ30を用意し、上部Si層31の上に厚さ50nmの窒化珪素(SiN)膜34を形成する。なお、SOIウエハ30の上部Si層31は、表面がSi単結晶の主面Si(001)となるように構成されている。
【0062】
図15の(b1)および(b2)は工程bを説明する図であり、(b1)は斜視図、(b2)はR−R断面図である。工程bでは、図16に示すマスクM1を用いて、C2F6によるRIE(Reactive Ion Etching)でSiN膜34を部分的にエッチング除去し、上部Si層31の一部(白抜きの領域A1)を露出させる。SiN膜34がエッチング除去された領域A1は、固定アーム10、可動アーム20、静電アクチュエータ6が形成される領域である。これら固定アーム10、可動アーム20の先端が延在する方向には、上部Si層31の<110>方向を選んでいる。
【0063】
なお、図16に示したマスクM1は支持体25の領域も含めたマスクとなっており、図15(b1)に示す部分は、図16のR1−R1線よりも上側の領域が関係している。以下の説明では、R1−R1線よりも上側の領域について説明する。
【0064】
図15の(c1),(c2)に示す工程cでは、領域A1の上部Si層31の表面に厚さ0.1μmの酸化膜35を形成する。酸化方法にはウェット酸化法(水蒸気酸化)を用いている。
【0065】
図17の(a1),(a2)は工程dを説明する図であり、(a2)は(a1)のR2−R2断面図である。また、図17(a1)に示した部分は、図18に示すマスクM2のR3−R3線より上部領域に対応している。工程dでは、図18に示すマスクM2を用いて、AFMピンセット1の外形のパターニングを行う。なお、櫛歯形状もここの工程で形成する。パターニング後、ICP−RIE(Inductively coupled plasma - Reactive Ion Etching)によりSiO2層32までエッチングを行う。このエッチングにより、固定アーム10と可動アーム20の先端となる箇所に細いスリットSL1(上部Si層31の<110>方向)が形成される。このスリットSL1は基板面に対して垂直にエッチングされる。
【0066】
図17の(b1),(b2),(b3)は工程eを説明する図であり、(b2)は(b1)のR4−R4断面図、(b3)は(b1)のR5−R5断面図である。工程eでは、露出している上部Si層31をウェット酸化法で酸化する。その後、図19の(a1),(a2)に示す工程fにおいて、SiN膜34をC2F6によるRIEでエッチング除去し、SiN膜34の下層に残っている上部Si層31を露出させる。なお、図19(a2)はR6−R6断面図である。
【0067】
なお、ウェット酸化で形成された酸化膜35は、このエッチングの際の上部Si層31の保護膜として機能する。このときのRIE条件としてC2F6のガス圧力を高めることで、SiN膜34と酸化膜35の選択比を調整し、図19(a2)に示すようにSiN膜34だけを除去する。その結果、保護のため形成した酸化膜35は残り、SiN膜34の下の上部Si層31のみが露出される状態になる。
【0068】
図19の(b1),(b2)は工程gを説明する図であり、(b2)はR7−R7断面図である。工程gでは、露出した上部Si層31に対して、30%KOH水溶液を用いて異方性エッチングする。酸化膜で保護された箇所はエッチングされず、上部Si層31のみが異方性エッチングされて斜面310が形成される。その結果、三角形の断面形状を有する探針部10B,把持部20Bに相当する部分が形成される。前述したように、上部Si層31の表面を単結晶Siの主面(001)に選んでいるので、異方性エッチングによって形成される斜面310は単結晶Siの{111}面になっている。
【0069】
次いで、図20(a)に示すマスクM3を用いたICP−RIEによりエッチングを行い、不要部を除去する。その後、酸化膜をエッチング除去する。このマスクM3を用いたエッチングにより、探針部10Bおよび把持部20Bの長さを調節することができる。最後に、図20(b)に示すマスクM4を用いてSOIウエハの裏面から下部S1層33側の不要部分をICP−RIEによりエッチング除去する。このエッチングはSiO2層32で停止する。そして、フッ酸溶液によりSiO2層の不要部分を除去すれば、図21に示すような静電駆動型AFMピンセット1の形状(裏面側から見た形状)となる。
【0070】
上記の製造工程では、1個のAFMピンセット1についての一連の作製手順を説明したが、実際の製造工程は、SOIウエハ単位で行われる、いわゆるバッチ処理である。このバッチ処理では、フォトリソグラフィー法により、1枚のSOIウエハから多数のAFMピンセット1を一括で作製することができ、大幅な製造コストの削減をもたらすものである。
【0071】
上述したように、第1の実施の形態では、AFMピンセット1の可動アーム20を開閉駆動することで、固定アーム10と可動アーム20との間に試料等を把持することができるとともに、固定アーム10を用いてAFM観察を行うことができる。さらに、可動アーム20を静電アクチュエータ6で振動させ、その可動アーム20が試料に接触したときの振動状態の変化(例えば、振幅の変化あるいは周波数の変化あるいは位相の変化など)を検出することにより、AFMピンセット1による把持の検出が可能となった。
【0072】
また、AFMピンセット観察時にAFMピンセット1をステージ方向に降下動作をする際に、振動状態の変化により試料またはステージへの接近や接触を検知することができるので、降下させすぎてアームを破損するようなことを防止することができる。さらに、AGC回路95を設けたことで、外乱により振動が不安定となるのを防止することができ、振動振幅を小さくして接触検出や把持検出の精度を向上させることができる。
【0073】
また、AFM観察動作と把持動作と組み合わせて用いることで、微小試料の検出と、検出した微小試料を把持して所望の位置に搬送する動作とを一括して行うことができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0074】
なお、固定アーム10によるAFM観察の観察モードとして、ダイナミックフォースモードに限定して説明したが、コンタクトモードで観察する方式も適用できる。この場合、固定アーム10の下端の位置を、可動アーム20の下端の位置よりもわずかに下方となるように形成して、固定アーム10によるAFM観察に支障がないようにする。あるいは、可動アーム20をバイモルフ構造のリフトアップ機構に接続し、試料観察時は、バイモルフを駆動して可動アーム20を試料から離れるようにしてもよい。バイモルフ構造も上記プロセスで製作することができる。
【0075】
―第2の実施の形態―
図22は本発明によるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第2実施の形態を示す図である。上述した第1の実施の形態では、固定アーム10の先端を探針として用い、固定アーム10の振動状態の変化(振幅変化、周波数変化、位相変化)を光テコ系により検出し、その検出信号に基づいてAFM観察の際のZサーボ系を動作させた。一方、第2の実施の形態では、静電アクチュエータ6により共振振動する可動アーム20を用いてAFM観察を行うようにした。そのため、図22では、図1に記載されていた形状観察のための光テコ系(レーザ光源2、フォトダイオード3)よび励振部5が不要である。櫛歯ドライブ(静電アクチュエータ)6を駆動するための駆動回路部の主要構成部分は、第1の実施の形態と同様である(図7の駆動回路部9参照)。
【0076】
前述したように可動アーム20を、その機械的共振周波数で共振振動させる。この共振の振幅は、静電アクチュエータ6のQ値と静電アクチュエータ6のばね定数と増幅器91とAGC回路95から構成される正帰還系の利得(励振電圧)によって決定される。可動アーム20は、構造上試料面に対して平行方向(横方向)に振動している。従って、AFMの像分解能とZ方向の検出感度を得るために、できるだけ小さな振動振幅(例えば振幅0.1〜100nm)で持続的振動を行うようにAGC回路95を調整する必要がある。
【0077】
ここで、図7に示したAGC回路95の制御出力Vcを用いて、Zサーボ制御について説明する。図23は、上記制御出力VcをZ軸制御信号としてピエゾ素子を駆動する際の構成を模式的に示した図である。すなわち、既定のセットポイント値と比較するために、Z軸制御信号(Vc)をコンパレータCOMPに入力する。その後、PID制御器および高圧電源を介してピエゾ素子を駆動する。このピエゾ素子は、図22の3次元ステージ中のZステージと同等の動作を行う。なお、Z信号およびX,Y信号に基づいて画像表示を行う手法については、本発明と直接関係がないので、詳細な説明は省略する。
【0078】
振動状態の可動アーム20を試料面に近接させると、可動アーム20の横方向の振動振幅は、試料と可動アーム20の先端に働く横方向の相互作用力(シアフォース)により減衰を受ける。この横方向振動の振幅減衰量が一定になるように図23に示すZサーボ系を制御して、探針・試料間の距離制御を行う。この制御信号とXYステージ走査信号(記載していない)より、試料の3次元形状信号が得られる。また静電櫛歯アクチュエータの機械的剛性が低い場合は静電櫛歯アクチュエータの高次の共振モードも利用できる。
【0079】
振幅のズレ量を検出することによる構成は上述した通りであるが、同様に第2のアームを試料面に近接させると、横方向振動の周波数、あるいは、位相にずれが生じる。これらのずれ量を検出して電圧に変換し、ずれ量が一定となるようにZサーボ系を動作させることにより、同様に試料の形状が求まる。
【0080】
図24は、周波数検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。本図は、先に説明した図11と同様の回路構成を有しているので、詳細な説明は省略する。ここでは、FMデモジュレータFMDMから出力された周波数偏差信号をZサーボ出力として用いる。このZサーボ出力により、Zデータ信号を形成する。
【0081】
図25は、位相検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。本図は、先に説明した図12と同様の回路構成を有しているので、詳細な説明は省略する。ここでは、位相検出器PHDETから出力された位相シフト量検出信号をZサーボ出力として用いる。このZサーボ出力により、Zデータ信号を形成する。
【0082】
上述した第2の実施の形態では、可動アーム20を共振振動させて、その振動状態の変化を検出することでAFM観察を行うようにした。その結果、図1に示した光テコ系および励振部5が(レーザ2、フォトダイオード3)不要となり、装置構成の簡素化およびコスト低減を図ることができる。さらに、AGC回路95により利得調整を行うことにより外乱による振動振幅の変化を低減するようにしたので、環境変化に関わらず持続的振動を行わせることができる。なお、振動状態変化による試料の接触および把持検出に関しては、上述した第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0083】
一方、上述した特許文献2や非特許文献1に記載の従来の走査型プローブ顕微鏡では、静電アクチュエータを走査型プローブ顕微鏡の検出器に使用しているが、第2の実施の形態のようなAGC機能を有していない。静電アクチュエータは微小なアクチュエータであり、空気の流れなどの外乱の影響を非常に受けやすい。そのため、プローブを一定の微小振幅で感度良く振動させるのが困難であった。一方、本実施の形態では、AGC回路95を設けたことにより、このような問題を解決することができるようになった。
【0084】
なお、上述した第2の実施の形態では、AFMピンセット1の可動アーム20をAFM観察に用いる構成であったが、非特許文献1に記載のようなAFM用プローブを静電アクチェータ6で振動させる構成とし、それに本実施の形態のようなAGC回路を設け、振動の振幅の変化あるいは周波数の変化あるいは位相の変化が一定となるようにZサーボ系を動作させるようにしても良い。この場合、把持機能は有していないが、AFM観察に関しては第2の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0085】
上述した実施の形態では、シリコン基板を加工してAFMピンセット1を形成したが、このような形成方法に限らず、種々の形成方法によりAFMピンセット1を形成しても良い。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施の形態におけるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】AFMピンセット1の概略構造を示す図である。
【図3】探針部10Bおよび把持部20Bの拡大図である。
【図4】固定アーム10の共振周波数を説明する図である。
【図5】静電アクチュエータ6における電気・機械結合系の等価回路を示す図である。
【図6】アドミッタンス値|Y|の角周波数依存性を表すアドミッタンス曲線を示す図である。
【図7】駆動回路部9を説明するブロック図である。
【図8】AGC回路95の一例を示す図である。
【図9】開閉電圧およびゲイン制御電圧Vcを変えたときのアーム3A,3Bの振幅の測定データを示す図である。
【図10】接触前後における出力電圧V0の一例を示す図であり、(a)は接触前の信号を、(b)は接触後の信号をそれぞれ示す。
【図11】振動周波数検出系を備えた接触・把持検出回路を示す図である。
【図12】位相検出系を備えた接触・把持検出回路を示す図である。
【図13】試料搬送動作を説明する図であり、(a)は降下動作を、(b)は走査動作を、(c)は移動動作をそれぞれ示す。
【図14】試料搬送動作を説明する図であり、(a)は降下動作を、(b)は閉駆動動作を、(c)は把持動作を、(d)は搬送動作をそれぞれ示す。
【図15】(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(b1),(b2)は工程bを説明する図であり、(c1),(c2)は工程cを説明する図である。
【図16】マスクM1を示す図である。
【図17】(a1),(a2)は工程dを説明する図であり、(b1)〜(b3)は工程eを説明する図である。
【図18】マスクM2を示す図である。
【図19】(a1),(a2)は工程fを説明する図であり、(b1),(b2)は工程gを説明する図である。
【図20】(a)はマスクM3を示す図で、(b)はマスクM4を示す図である。
【図21】最終的なAFMピンセット1を示す図である。
【図22】本実施の形態におけるピンセット付き走査型プローブ顕微鏡の第2の実施の形態を示す図である。
【図23】AGC回路から出力される制御出力VcをZ軸制御信号としてピエゾ素子を駆動する際の構成を模式的に示した図である。
【図24】周波数検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。
【図25】位相検出系の回路構成に基づいてZサーボ出力を得るための回路構成図である。
【符号の説明】
【0087】
1:AFMピンセット、2:レーザ光源、3:2あるいは4分割フォトダイオード、4:制御部、5:励振部、6:静電アクチュエータ、8:3次元ステージ、9:駆動回路部、10:固定アーム、10B:探針部、20:可動アーム、20B:把持部、60:固定電極、61:可動電極、91:増幅器、93:接触/把持検出回路、95:AGC回路、100:AFM装置、300:試料、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針部が形成された第1のアームと、
前記第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、
開閉駆動電圧が印加され、前記第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により前記第2のアームを振動させる増幅器と、
前記第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部とを備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記自励発振により振動する前記第2のアームの振幅が非接触時に一定となるように、前記増幅器の利得を調整する利得調整手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態検出部で検出された前記振動状態の変化に基づき、前記第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態の変化は、前記第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つであることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記静電アクチュエータは、静止櫛歯電極部と、前記第2のアームに連結されて該第2のアームを駆動する可動櫛歯電極部とを有することを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針部を観察対象に対して走査する走査手段と、
前記探針部と観察対象との相互作用に関連する振動状態変化を検出する手段と、
前記振動状態変化の量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系とを有し、
前記観察対象の形状および位置を測定することを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記第1のアームをその固有振動で観察対象方向に撓み振動させる励振手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
第1のアームと、
探針部が形成され、前記第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、
開閉駆動電圧が印加され、前記第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により前記第2のアームを振動させる増幅器と、
前記自励発振の前記増幅器の利得を調整する利得調整手段と、
前記第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部と、
前記探針部を観察対象に対して走査する走査手段とを備えたピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記第2のアームを自励発振による微小振動した状態で観察対象に近接させ、前記探針部と観察対象との相互作用に関連する外力の影響による前記第2のアームの振動状態の変化が一定となるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、前記走査手段による走査を行い、観察対象表面の凹凸情報を得ることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項8に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態検出部で検出された前記振動状態の変化に基づき、前記第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
請求項8または9に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態の変化は、前記第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つであることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法であって、
前記試料に対して前記探針部を走査して前記試料の位置を求め、
前記位置に基づいて前記第1および第2のアームを前記試料を挟む位置に移動し、
前記第2のアームを閉じて前記第1および第2のアームにより前記試料を把持し、
前記試料を把持した前記第1および第2のアームを移動して前記試料を搬送することを特徴とする試料の搬送方法。
【請求項1】
探針部が形成された第1のアームと、
前記第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、
開閉駆動電圧が印加され、前記第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により前記第2のアームを振動させる増幅器と、
前記第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部とを備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記自励発振により振動する前記第2のアームの振幅が非接触時に一定となるように、前記増幅器の利得を調整する利得調整手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態検出部で検出された前記振動状態の変化に基づき、前記第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態の変化は、前記第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つであることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記静電アクチュエータは、静止櫛歯電極部と、前記第2のアームに連結されて該第2のアームを駆動する可動櫛歯電極部とを有することを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針部を観察対象に対して走査する走査手段と、
前記探針部と観察対象との相互作用に関連する振動状態変化を検出する手段と、
前記振動状態変化の量を一定になるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系とを有し、
前記観察対象の形状および位置を測定することを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記第1のアームをその固有振動で観察対象方向に撓み振動させる励振手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
第1のアームと、
探針部が形成され、前記第1のアームに対して開閉自在に設けられた第2のアームと、
開閉駆動電圧が印加され、前記第2のアームを開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータが有する電気的等価回路を帰還回路として用いることにより自励発振させ、その自励発振により前記第2のアームを振動させる増幅器と、
前記自励発振の前記増幅器の利得を調整する利得調整手段と、
前記第2のアームの物体への接触による振動状態の変化を検出する振動状態検出部と、
前記探針部を観察対象に対して走査する走査手段とを備えたピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記第2のアームを自励発振による微小振動した状態で観察対象に近接させ、前記探針部と観察対象との相互作用に関連する外力の影響による前記第2のアームの振動状態の変化が一定となるように探針・試料間の距離制御を行うZサーボ系を動作させながら、前記走査手段による走査を行い、観察対象表面の凹凸情報を得ることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項8に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態検出部で検出された前記振動状態の変化に基づき、前記第1および第2のアームによる試料の把持を検出する把持検出手段を備えたことを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
請求項8または9に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡において、
前記振動状態の変化は、前記第2のアームの物体への接触による共振振動の振幅の変化、周波数の変化および位相の変化のいずれか一つであることを特徴とするピンセット付き走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載のピンセット付き走査型プローブ顕微鏡における試料の搬送方法であって、
前記試料に対して前記探針部を走査して前記試料の位置を求め、
前記位置に基づいて前記第1および第2のアームを前記試料を挟む位置に移動し、
前記第2のアームを閉じて前記第1および第2のアームにより前記試料を把持し、
前記試料を把持した前記第1および第2のアームを移動して前記試料を搬送することを特徴とする試料の搬送方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2009−8671(P2009−8671A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144623(P2008−144623)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
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