説明

ファイバレーザ装置用光ファイバ及びファイバレーザ装置

【課題】光ファイバ自体に断線検知機能を持たせたファイバレーザ装置用光ファイバを提供する。
【解決手段】中実のコア2とクラッド3を備えて高出力のレーザ光を伝送するファイバレーザ装置用光ファイバ1において、クラッド3に隣接して金属層6が形成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとクラッドを備えて高出力のレーザ光を伝送するファイバレーザ装置用光ファイバ及びファイバレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途への適用を目的として、より高出力で安価な光源の開発が求められている。これらの要求に対し、ファイバレーザおよび光増幅器は、高効率でしかもシングルモードのレーザ光を容易に取り出すことができるという理由で注目を集めている。
【0003】
現在開発されているファイバレーザの一般的な構成を図6に示す。図6に示すファイバレーザ装置71では、半導体レーザ(LD)72からの励起光は、励起光コンバイナ73を介して希土類イオン(希土類元素)が添加されたファイバレーザ用光ファイバ74へ入射される。高出力を得るために、LD72はファイバレーザ用光ファイバ74に複数個接続される。
【0004】
希土類元素が添加されたファイバレーザ用光ファイバ74の励起光が入射される側には、励起光波長に対しては透過し、発振光波長に対しては高い反射率を有するファイバグレーティング(FBG)75が形成されている。また励起光入射側とは反対側には、部分的に発振光を反射する別のFBG76が形成されている。この2つのFBG75,76は、レーザ共振器の全反射鏡および出力鏡として働き、レーザ発振光Lが出力される。
【0005】
ファイバレーザ装置71は、グレーティングによる共振器構造を形成せず、誘導放出光の波長に一致する信号光を励起光と重畳させて伝搬させれば、光増幅器としても機能する。
【0006】
希土類イオンが添加されたファイバレーザ用光ファイバ74としては、図7に示すようなダブルクラッド型光ファイバを一般に使用している。ダブルクラッド型光ファイバのコア領域77にはNd、Yb、Er、Th等の希土類元素が添加されている。クラッドはコア領域77より屈折率が低い第1クラッド領域78と、これよりもさらに屈折率が低い第2クラッド領域79とからなる。なお、図示されていないが第2クラッド領域79の周囲には、慣用の材料からなる被覆層等が設けられる。
【0007】
励起光Leは第1クラッド領域78内をマルチモードで伝搬し、次第に中心のコア領域71に吸収されて減衰する。このようなダブルクラッド構造の光ファイバを用いた端面励起方式のファイバ型レーザは、励起光Leからレーザ発振光Lへの変換効率が高く、年々出力を増大させ、10kW級の発振も実現している。
【0008】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0009】
【特許文献1】特表2002−541507号公報
【特許文献2】特開2000−35521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、ファイバレーザは優れたビーム品質を持ち、さらに、最近は高出力化も進んでおり、10kW級のファイバレーザが実現されるに至っている。そのため、各種加工用途、特に、金属材等の溶接や切断用のレーザ光発振源としての期待が高まっている。このように高出力化したファイバレーザを実用化する際の課題として、安全対策の問題が挙げられる。
【0011】
中でも、ファイバ断線時のレーザ光遮断機能はファイバレーザ装置では必須の機能である。仮にファイバが断線すると、その断線個所からエネルギー密度の高いレーザ光が出射し、周囲のものを破壊することもある。通常このような状態を回避するために、ファイバレーザ本体やファイバレーザ用光ファイバの断線を検知するシステムが導入されている。
【0012】
具体的には、ファイバレーザ用光ファイバ本体ではなく、ファイバレーザ用光ファイバが組み込まれているケーブル構造に工夫が施されている。例えば、図8に示すようなファイバレーザ断線検知用ケーブル81は、ファイバレーザ用光ファイバ82を螺旋状に取り巻くように金属製のテープ83をケーブル外皮84の内側に設け、その金属テープ83に通電し、ファイバレーザ用光ファイバ82が断線してレーザ光が漏れ、金属テープ83を断線させることで検知する仕組みである。
【0013】
この構造では、ファイバレーザ用光ファイバ82とケーブル外皮84との間に金属テープ83をフレキシブルに組み込み、かつ金属テープ83同士が接しても、そこで短絡しないような絶縁処理を施す必要があるため、製造が難しく、手間がかかるなどの問題点がある。
【0014】
また、ファイバレーザ用光ファイバ82の外周に、金属テープ83が必要となるため、ケーブル全体の構造も複雑であり、外径が太くなるので重量も増し、ファイバレーザ伝送系のケーブルの取り回しがしにくくなるといった問題点があった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、光ファイバ自体に断線検知機能を持たせたファイバレーザ装置用光ファイバを提供することにある。
【0016】
また、本発明の別の目的は、上記ファイバレーザ装置用光ファイバを用いることで、光ファイバ断線時に、瞬時にレーザ発振を停止することができるファイバレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、中実のコアとクラッドを備えて高出力のレーザ光を伝送するファイバレーザ装置用光ファイバにおいて、上記クラッドに隣接して金属層が形成されているファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0018】
請求項2の発明は、上記ファイバレーザ装置用光ファイバは、上記コアに希土類イオンを添加し、所定の励起を行うことで発光する発光機能を有し、その発光した光を反射励振させることでレーザ発振媒体となる金属被覆ファイバレーザ用光ファイバである請求項1記載のファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0019】
請求項3の発明は、上記金属層は、内部金属層と外部金属層からなる請求項1又は2記載のファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0020】
請求項4の発明は、上記内部金属層と外部金属層のうち、一方の金属層は上記クラッドと密着性が高い金属からなり、かつ厚さが1〜3μmであり、他方の金属層は導電性が高い金属からなり、かつ厚さが5〜15μmである請求項3記載のファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0021】
請求項5の発明は、最外層に絶縁被覆層をさらに形成した請求項1〜4いずれかに記載のファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0022】
請求項6の発明は、上記絶縁被覆層は、ポリイミド樹脂からなる請求項5記載のファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0023】
請求項7の発明は、コアとクラッドを備えて高出力のレーザ光を伝送するためのファイバレーザ装置用光ファイバに励起光を入射し、その励起光を上記ファイバレーザ装置用光ファイバで反射励振させてレーザ発振光を出力するファイバレーザ装置において、
上記ファイバレーザ装置用光ファイバとして請求項1〜7いずれかに記載のファイバレーザ装置用光ファイバを用い、そのファイバレーザ装置用光ファイバに常時通電する通電手段と、上記ファイバレーザ装置用光ファイバの通電状況を監視する監視手段とを備えたファイバレーザ装置である。
【0024】
請求項8の発明は、4上記ファイバレーザ装置用光ファイバの通電が遮断されたとき、上記励起光を遮断する遮断手段をさらに備えた請求項7記載のファイバレーザ装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光ファイバ自体に断線検知機能を持たせたファイバレーザ装置用光ファイバを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0027】
図1は、本発明の好適な第1実施形態を示すファイバレーザ装置用光ファイバの横断面図である。
【0028】
図1に示すように、第1実施形態に係るファイバレーザ装置用光ファイバとしての金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、中実のコア2と、クラッド3とを備え、高出力のレーザ光を伝送するための光ファイバである。コア2は、純粋石英にNd、Yb、Er、Th等の希土類イオンを添加してなる。
【0029】
金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、コア2に希土類イオンを添加しているため、所定の励起を行うことで発光する発光機能を有し、図5で後述するように、発光した光を反射励振させることでレーザ発振媒体ともなる。
【0030】
クラッド3は、コア2の周囲に形成されてコア2よりも実効的に屈折率が低い第1クラッド部(第1クラッド層)3aと、その第1クラッド部3aの外側に形成される第2クラッド部(第2クラッド層)3bとを備える。第1および第2クラッド部3a,3bは、例えば純粋石英にFを添加して形成される。
【0031】
第1クラッド部3a内でコア2の周囲には、実効的な屈折率をコア2よりも低くするために、コア2の長さ方向に沿って屈折率が1となる空孔4が、横断面視で散点状(あるいはハニカム状)となるように複数個形成される。
【0032】
第1クラッド部3aと第2クラッド部3bの境界には、コア2に添加されている希土類イオンを励起して光を発光させるための励起光を第1クラッド部3a内に効率的に閉じこめるため、複数個の空孔4が横断面視で六角形状に配列されてなる空孔層5が形成される。
【0033】
クラッド3に隣接する部分として、第2クラッド部3bの外周には、金属層6が形成される。この金属層6は、内部金属層6aと外部金属層6bとからなる。
【0034】
内部金属層6aは、Niなどのクラッド3と密着性が高い金属からなり、かつ厚さが1〜3μmである。外部金属層6bは、Au、Pt、Cu、Agなどの導電性が高い金属からなり、厚さが5〜15μmである。
【0035】
すなわち、金属層6の材質としては、Au、Pt、Ni、Cu、Agなどを適用し、それらの金属をメッキ法によって多層にした構造とする。石英ファイバ上に無電解メッキを施すことから、石英ファイバ直上の金属被覆にはNiメッキを施し、その上にAu、Pt、Cu、Agなどの金属メッキを施す。また、酸化などの影響を受けて金属が変質することを考慮し、Niの上にAuあるいはPtを施すことが望ましい。
【0036】
さらに、金属層6において、Niの上に被覆する金属の厚さが5μmよりも薄いと、石英ファイバの強度保証の点で問題があり、また、15μmよりも厚い場合は、金属層6の金属剛性が強くなり、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1が曲げにくくなってしまうことや、材料コストも高くなるなどの理由から、Niの上に被覆する金属の厚さを5〜15μmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
この金属層6についてより詳細に説明する。
【0038】
まず、被覆金属材としては腐食も酸化することもなく、展性の高いAuが最適であるが、第2クラッド部3bにAuを直接被覆するにはスパッタリング法を用いなくてはならず、長尺の光ファイバを製造することが困難である。
【0039】
そこで、石英ガラス表面に無電解メッキが可能なNi層を第1層目(内部金属層6a)とし、Ni層の形成による導電性により、Au層を第2層目(外部金属層6b)に電解メッキする構造とした。
【0040】
ここで、無電解メッキによるNi層の厚さは1〜3μm程度が望ましい。1μm以上のNi層が必要な理由は、まず、次工程のAu電解メッキではNi層に電極を接しながら通電し、Auメッキ膜を形成する。具体的には、シアン化金カリウム液層に浸しながらAu層の形成を行うので、Ni層が1μm未満になると電極との接点において、Niメッキ光ファイバが傷つき、断線する可能性が高いからである。
【0041】
Ni層の厚さを3μm以下とする理由は、無電解法によるNiメッキはその安定化が難しく、本発明者らの実験によると、3μmを超える厚膜化ではメッキ層の割れによる剥離の頻度が多発し、歩留りが著しく低下するからである。Niを電解メッキしてさらに厚膜化する方法もあるが、Ni層は酸化しやすく、酸化したNi層はもろく剥離しやすい。そこで、酸化しないAu層をNi層上に電解法でメッキした。
【0042】
金属層6の形成にメッキを用いたのは、スパッタリング法を用いると、大抵の金属を石英表面に被覆(蒸着)することもできるが、製造コストが高くなり、金属層の厚膜化、長尺化が困難なので、現実的ではないからである。
【0043】
また、本実施形態では、Au層の厚さは5μmとした。これはNi層とAu層のトータル膜厚が薄いと、金属層6に電気(後述する監視用電流)を流した際に、その電気抵抗による自己発熱で膜質が劣化(発熱によって金属層が劣化)し、最終的に金属層が断線することがあるからである。
【0044】
ここで、厚さ1.5μmのNi層の上にAu層を2,5,8μmメッキした金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ(ガラスファイバ部の直径(第2クラッド部3bの外径)125μm)1の金属層6に、監視用電流としては十分な0.6〜1.6A程度の電流を流した際の電流とファイバ断線時間の実験結果を図2に示す。図2より、Au層厚が5μm以上あれば、0.6A程度の電流を10万時間通電しても断線しないという結論が得られた。
【0045】
第2クラッド部3bの外周となる最外層には、絶縁被覆層7が形成される。絶縁被覆層7としては、耐熱絶縁性のあるポリイミド樹脂からなるものを使用する。
【0046】
金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、通常、図3(a)に示すようなボビン31に巻き取られた状態で保持されたり、ボビンなしで図3(b)に示すようなコイル32にされて保持されたりする。
【0047】
その際、通電を行う光ファイバの金属層同士が接触すると電気的な短絡を起こし、導通によるファイバ断線監視が不可能となるばかりか、場合によっては短絡時に発生する火花による発熱で、金属層が損傷し、最悪の場合、断線を起こすこともある。
【0048】
そこで、ファイバ同士が接触しても短絡を生じないようにするために、金属層6の外周に、最外層となる絶縁被覆層7を形成するとよい。高出力レーザ光を発振または伝送する際に、レーザ光の持つエネルギーの一部が熱に変わり、ファイバ本体(金属層6の内側部分)の温度が上昇することも予想されるので、特に大出力のシステムにおいては、金属層6の上に耐熱絶縁性に優れる(例えば、ポリイミド樹脂)樹脂を施し、これを絶縁被覆層7とすることが有効な手段となる。
【0049】
また、絶縁被覆層7としては、一般的に光ファイバによく用いられている紫外線硬化型樹脂や熱硬化型のシリコーン樹脂等を用いてもよい。これらの樹脂も一般に絶縁性は良好である。
【0050】
すなわち、金属層6の上に絶縁被覆層7を形成することで、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1を巻き取ったり、コイル状に収納したりする際に、ファイバ同士が接触してもその接触点での電気的な絶縁状態を保つことができる。
【0051】
本実施形態では、第2クラッド部3bの上に、内部金属層6aとしてNi層を1.5μm無電解メッキ法でメッキし、さらにその外周に外部被覆層6bとしてAu層を8μm電解メッキ法によりメッキし、さらに耐熱性に優れたポリイミド樹脂からなる絶縁被覆層7を最外層部に厚さ15μm被覆した。金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の外径は、一般に使用されているファイバレーザ用光ファイバの外径とほぼ同じである。
【0052】
次に、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1を用いたファイバレーザ装置を、図5で説明する。
【0053】
図5に示すように、本実施形態に係るファイバレーザ装置51は、レーザ発振光Lを出力するための光学部52と、光学部52を構成する光ファイバの断線を検知するための検知部53とで主に構成される。
【0054】
光学部52は、高出力の励起光を得るための複数個の励起光源54と、これら励起光源52にそれぞれ接続された複数本の励起光用光ファイバ55と、これら励起光用光ファイバ55と共に束ねられ、所定の励起を行うことで発光する発光機能を有し、その発光した光を反射励振させることでレーザ発振媒体となる金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1と、その金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1に接続され、レーザ発振光Lを伝送する第2の実施形態に係るファイバレーザ装置用光ファイバとしてのファイバレーザ伝送用光ファイバ41と、これと金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1を光学的に接続する接続器56とからなる。
【0055】
励起光源54としては、LDを用いる。複数本の励起光用光ファイバ57と金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1が束ねられた部分は、励起コンバイナ57となる。
【0056】
金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の励起光の入射側(励起コンバイナ57よりも下流側の端部)には、励起光波長に対しては透過し、発振光波長に対しては高い反射率を有するFBG58が形成される。また、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1のレーザ発振光Lの出射側(接続器56よりも上流側の端部)には、部分的に発振光を反射する別のFBG59(FBG58とは格子間隔が異なる)が形成される。これら2つのFBG58,59は、レーザ共振器の全反射鏡および出力鏡として働く。FBG58,59は、図1の金属層6を形成する前に予め形成しておく。
【0057】
金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1のうち、励起コンバイナ57になる部分には金属層6を形成しないか、あるいは励起コンバイナ57になる部分にある金属層6を剥離しておく。
【0058】
また、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の出射側端部には、接続器56を介してレーザ発振光Lを伝送させるためのファイバレーザ伝送用ファイバ41が接続されている。
【0059】
ファイバレーザ伝送用光ファイバ41は、図4に示すように、純粋石英からなる中実のコア42と、そのコア42の外周に設けられ、純粋石英にFが添加されてなるクラッド43と、そのクラッド43の外周に設けられた図1の金属層6と、最外層の絶縁被覆層7とからなる。
【0060】
本実施形態では、コア42の直径を400μm、クラッド43の外径を600μmとした。金属層6、絶縁被覆層7、外径は図1の金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1と同じ寸法にした。
【0061】
検知部53は、全ての励起光源54に接続されて励起光源54を駆動する駆動・制御装置60と、その駆動・制御装置60に接続され、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の金属層6に流す監視用電流(検知電流)を測定する電流センサとしての電流測定器61と、金属層6に検知電流を流して常時通電する通電手段(通電装置)としての電流供給装置62と、これら電流測定器61と電流供給装置62とを接続すると共に、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1,ファイバレーザ光伝送用光ファイバ41に沿って設けられる通電用のツイストメタルコード63とからなる。
【0062】
駆動・制御装置60には、電流測定器61で測定した検知電流測定値により、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の通電状況を監視する監視手段と、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の通電が遮断されたとき、励起光を遮断する遮断手段とを備える。
【0063】
電流供給装置62としては、直流、交流どちらの電源でも差し支えはなく、また、その出力も微弱でよい。10Aを超えるような電流では、省エネの観点から無駄なエネルギーを使用することとなり、ごくわずかな電流では制御しにくいことから、1A程度の電流を検知電流として用いることが好ましい。
【0064】
つまり、市販のテスターで金属層6の導通を監視する程度の検知電流でも十分である。ただし、望ましくは導通状態を簡単な電気信号として出力する仕組みが備わっていれば、その出力信号を励起光制御用のモニタ信号として使用できるので都合がよい。
【0065】
光学部52と検知部53の接続は、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の励起コンバイナ57とFBG58間に位置する励起光入力部Eにおいて、ツイストメタルコード63と金属層6を電気的に接続することで行う。
【0066】
ツイストメタルコード63は、一端が電流測定器61、電流供給装置62、励起光入力部Eにそれぞれ接続され、接続器56で電気的にも接続されて延長され、他端がファイバレーザ伝送用光ファイバ41の出力端64に接続される。
【0067】
これにより、ファイバレーザ装置51では、電流供給装置62の出力端子から供給される電流は、ツイストメタルコード63、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の金属層6、ファイバレーザ伝送用光ファイバ41の金属層6、その出射端64で折り返されてツイストメタルコード63、再び電流供給装置62の入力端子に達するような電気回路が区画形成される。
【0068】
第1実施形態の作用をファイバレーザ装置51の動作と共に説明する。
【0069】
駆動・制御装置60により、各励起光源52を駆動すると、各励起光源52から励起光が出射され、励起コンバイナ57、励起光入力部Eを介して金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1に入射される。
【0070】
入射した励起光は、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の内部で増幅され、さらにFBG59,59がレーザ共振器の全反射鏡および出力鏡として働くことで、レーザ発振光Lが生成され、これがファイバレーザ伝送用光ファイバ41の出射端64から出力される。
【0071】
このレーザ発振時に、ファイバレーザ装置51の駆動・制御装置60は、電流供給装置62を制御して金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1に常時通電を行い、設定した検知電流を金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の金属層6に流す。検知電流は、上述した電気回路を巡って再び電流供給装置62に達し、そのときの値が電流測定器61で測定され、駆動・制御装置60にフィードバックされる。
【0072】
駆動・制御装置60は、検知電流測定値により、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の通電状況を監視し、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の断線の有無を判別する。
【0073】
より詳細には、駆動・制御装置60は、検知電流測定値が予め設定したしきい値を超えているとき、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1が断線なしの健全状態であると判断し、ファイバレーザ装置51の運転を継続する。
【0074】
一方、駆動・制御装置60は、検知電流測定値が予め設定したしきい値以下になったとき、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の断線や、その金属層6が損傷・劣化が発生した異常時と判断する。
【0075】
異常時、駆動・制御装置60は、電流供給装置62を停止し、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1の通電を遮断し、これと同時に励起光源54への通電も遮断して励起光源54の駆動を停止し、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1への励起光の入射を停止し、励起光を遮断する。これにより、駆動・制御装置60はファイバレーザ装置51を停止する。
【0076】
また、ファイバレーザ装置51では、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1に接続器56を介してファイバレーザ伝送用光ファイバ41を接続しており、その金属層6にも検知電流が流れるため、上述と同様にして、ファイバレーザ伝送用光ファイバ41の通電状況を監視し、ファイバレーザ伝送用光ファイバ41の断線の有無も判別できる。
【0077】
このように、ファイバレーザ装置51は、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1とファイバレーザ伝送用光ファイバ41を用いて光学部52を構成し、その光学部52に検知部53を接続し、ファイバ自体に通電を行っている。
【0078】
このため、ファイバレーザ装置51は、両ファイバの金属層6に流した検知電流を監視することで、どちらかのファイバの異常時を判断できる。
【0079】
さらに、ファイバレーザ装置51では、検知部53を構成する駆動・制御装置60により、ファイバ異常時に、瞬時にレーザ発振を停止するので、ファイバレーザ装置51の安全性を保証できる。
【0080】
しかも、第1実施形態に係る金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1と、第2実施形態に係るファイバレーザ伝送用光ファイバ41とは、基本的には光ファイバ金属層6を備えた簡単な構成であり、検知部53の構成も簡単なので、ファイバレーザ装置51の安全システムを簡単にかつ安価に構築できる。
【0081】
つまり、本実施形態に係るファイバレーザ装置51によれば、光ファイバの金属層6に常時通電を行い、その通電状況を監視することで、光ファイバの健全性(断線なし状態、あるいは断線あり状態など)が判断でき、ファイバ異常時に励起光源54の駆動を停止すれば、ファイバレーザ装置51の運転を停止することができるので、ファイバレーザ装置51の安全性を保証できる。
【0082】
また、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、クラッド3に隣接する部分の1つである第2クラッド部3bの外周に薄い金属層6を形成しており、光ファイバ自体に断線検知のための金属層6を備えており、光ファイバ自体に断線検知機能を持たせたファイバレーザ装置用光ファイバである。
【0083】
このため、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、図8の従来のファイバレーザ断線検知用ケーブル81と比べて、ケーブル自体の細径化、軽量化、柔軟性の確保が可能となり、フレキシブルで低コスト化も可能である。
【0084】
ここで、ケーブルの細径、軽量化のより詳細な根拠を説明する。
【0085】
従来のファイバレーザ断線検知用ケーブル81は、ファイバレーザ用光ファイバ82の外周に、絶縁被覆を施した金属テープ83を取り囲むように螺旋状に配置させる必要がある。螺旋状にする理由は、ケーブルにフレキシブルな特性を持たせるためである。
【0086】
金属テープ83をファイバレーザ用光ファイバ82に直接巻き付けると、ケーブルを曲げた際に、金属テープ83からファイバレーザ用光ファイバ82に側圧がかかり、光伝送特性に悪影響を与える可能性がある。また、ファイバ被覆を傷つけてファイバレーザ用光ファイバ82を断線させたりする可能性もある。そのために、螺旋状の金属テープ83とファイバレーザ用光ファイバ82の間には空間が必要で、かつその空間形状を保持する必要もある。
【0087】
以上の点を保証するためには、ケーブル構造の再設計が必要で、かつ空間部を確保するためにはケーブル外径が太くなる。ケーブル外径が太くなると曲げ剛性も大きくなるので、曲げにくく、曲げ径も大きくなり、フレキシブル特性が劣化してしまう。
【0088】
これに対し、第1実施形態に係る金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1と、第2実施形態に係るファイバレーザ伝送用光ファイバ41とは、通常の光ファイバの構造(直径)とほぼ同じであり、通電機能を有しているので、通常の光ファイバと同じ使い勝手でケーブル構造を設計することが可能である。
【0089】
さらに、金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1は、ファイバレーザ装置51に用いた場合に断線検知用の電流を流せ、しかも高出力の励起光やレーザ発振光を金属層6の内側に閉じこめることができる。金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1のこれら作用効果は、ファイバレーザ伝送用光ファイバ41についても同じである。
【0090】
上記実施形態の金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ1では、クラッド3に隣接する部分の1つとして、第2クラッド部3bの外周に薄い金属層6を形成した例で説明したが、クラッド3に隣接する部分としては、空孔4の1つに金属層6と同様の2層構造の金属層を形成してもよい。この場合、外部被覆層をクラッド3と密着性が高い金属で形成し、内部被覆層を導電性が高い金属で形成する。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の好適な第1実施形態を示すファイバレーザ装置用光ファイバ(金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ)の横断面図である。
【図2】図1に示した金属被覆ファイバレーザ用光ファイバの通電による断線発生時間の金属層厚依存性を示す図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、図1に示した金属被覆ファイバレーザ用光ファイバの収納状態を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るファイバレーザ装置用光ファイバ(ファイバレーザ伝送用光ファイバ)の横断面図である。
【図5】本実施形態に係るファイバレーザ装置の概略図である。
【図6】従来のファイバレーザ装置の概略図である。
【図7】従来のファイバレーザ用ダブルクラッド光ファイバの概略図である。
【図8】従来のファイバレーザ断線検知用ケーブルの構造例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1 金属被覆ファイバレーザ用光ファイバ(ファイバレーザ装置用光ファイバ)
2 コア
3 クラッド
3a 第1クラッド部
3b 第2クラッド部
6 金属層
6a 内部金属層
6b 外部金属層
7 絶縁被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実のコアとクラッドを備えて高出力のレーザ光を伝送するファイバレーザ装置用光ファイバにおいて、上記クラッドに隣接して金属層が形成されていることを特徴とするファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項2】
上記ファイバレーザ装置用光ファイバは、上記コアに希土類イオンを添加し、所定の励起を行うことで発光する発光機能を有し、その発光した光を反射励振させることでレーザ発振媒体となる金属被覆ファイバレーザ用光ファイバである請求項1記載のファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項3】
上記金属層は、内部金属層と外部金属層からなる請求項1又は2記載のファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項4】
上記内部金属層と外部金属層のうち、一方の金属層は上記クラッドと密着性が高い金属からなり、かつ厚さが1〜3μmであり、他方の金属層は導電性が高い金属からなり、かつ厚さが5〜15μmである請求項3記載のファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項5】
最外層に絶縁被覆層をさらに形成した請求項1〜4いずれかに記載のファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項6】
上記絶縁被覆層は、ポリイミド樹脂からなる請求項5記載のファイバレーザ装置用光ファイバ。
【請求項7】
コアとクラッドを備えて高出力のレーザ光を伝送するためのファイバレーザ装置用光ファイバに励起光を入射し、その励起光を上記ファイバレーザ装置用光ファイバで反射励振させてレーザ発振光を出力するファイバレーザ装置において、
上記ファイバレーザ装置用光ファイバとして請求項1〜7いずれかに記載のファイバレーザ装置用光ファイバを用い、そのファイバレーザ装置用光ファイバに常時通電する通電手段と、上記ファイバレーザ装置用光ファイバの通電状況を監視する監視手段とを備えたことを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項8】
上記ファイバレーザ装置用光ファイバの通電が遮断されたとき、上記励起光を遮断する遮断手段をさらに備えた請求項7記載のファイバレーザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−141066(P2008−141066A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327359(P2006−327359)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】