説明

ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色の単結晶CVDダイヤモンドの製造方法及び得られた製品

ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVDダイヤモンド材料の製造方法を開示する。本方法は、CVDプロセスで成長した単結晶ダイヤモンド材料に電子を照射して、ダイヤモンド材料中に孤立空孔を導入する工程を含み、照射されたダイヤモンド材料は(又はさらなる照射後処理後に)、全空孔濃度[VT]×経路長Lが少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmになるような全空孔濃度[VT]及び経路長Lを有し、かつダイヤモンド材料はファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色になる。ファンシーな淡い青色のダイヤモンドをも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、CVD(化学蒸着)プロセスによって製造されたダイヤモンド材料を照射することによってファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のダイヤモンド材料を製造する方法に関する。本発明は、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のダイヤモンド材料自体にも関する。本発明はさらに、ファンシーな青色〜青色/緑色の範囲内の所望の色のダイヤモンド材料を製造できるシステムを提供する。
【背景技術】
【0002】
用語「ファンシーな色の(fancy-coloured)ダイヤモンド」は確立した宝石取引分類であり、珍しい色のダイヤモンドを表すために使われる。マンセル色票(Munsell Colour charts)の使用を含め、ファンシーな色のダイヤモンド宝石用原石の等級付けに有用な歴史及び背景は、Kingらによって、Gems & Gemology, Vol. 30, No. 4, 1994(pp.220-242)に示されている。
明確な量の色を示すダイヤモンドは、当該分野では「ファンシー」な色のダイヤモンドとして知られる。このような明確な色を示さない他のダイヤモンド材料は、米国宝石学会(Gemological Institute of America (GIA))スケールを用いて等級付けされ得る。当該スケールは、ダイヤモンド材料をアルファベット順にD〜Zに等級付けする。GIAスケールは周知である。Dは、GIAスケールで最高等級かつ最も無色のダイヤモンド材料を表し、Zは、GIAスケールで最低等級を表し、等級Zのダイヤモンド材料は裸眼には明るい黄色に見える。より高い等級のダイヤモンド材料(GIAスケールで等級Dに近い材料)は、宝石取引でも工業用途でも一般的により低い等級のダイヤモンド材料(等級Zに近い材料)より望ましいとみなされる。ダイヤモンド材料の色がZ等級より強烈な場合、その色が何であれそれは「ファンシー」ダイヤモンドと呼ばれる。しかし、青色のような魅力的な色がダイヤモンド材料に見られると、その彩度がダイヤモンド材料をZより前のアルファベットで等級付けするような彩度であるにもかかわらず、該ダイヤモンド材料をファンシーな色のダイヤモンドと表現することが多い。GIAスケールによって等級付けする場合、ダイヤモンド評価者は、D、E、F等、Zまでの等級で、無色(Fまでの全ての等級)から淡い黄色を経てより暗い黄色(G〜Z)に及ぶ色のダイヤモンド石のマスターセットを使用する。等級付けすべきダイヤモンド材料をマスターセットと比較し、次にその彩度に応じてマスターセット内のその最も近い石に位置付ける。それが等級付けすべきダイヤモンドの色等級文字、例えばH又はKを定める。当該色等級文字を定めた後、G〜Zの等級については、色評価者は、その色等級文字に伴う色をも決めるであろう。この色は、例えば、褐色、黄色、又は青色であり得る。従って、例えば、石の彩度が、その石を、無色〜暗い黄色の石の色評価者のマスターセット内のH石に最も近いとみなし、かつその石が顕著な褐色着色を有する場合、その石はH等級(褐色)であろう。色の名称の観点から、褐色石は0°〜90°未満の範囲の色相角を有し、黄色石は90°〜130°の範囲の色相角を有する。
【0003】
天然に存在する青色ダイヤモンドは知られている。実質的に窒素を含まないが、ホウ素を含むIIb型ダイヤモンド材料は、赤色、橙色及び黄色の光を吸収する。従って、このダイヤモンド材料は通常は青色に見える。EP0615954A (Sumitomo)の序文は、IIb型の天然の青色ダイヤモンドを含め、種々の天然の未加工ダイヤモンドの原色を示す表を包含する。
最初は青色でないダイヤモンドを処理することによって、青色を含め、ファンシーな色のダイヤモンドを形成することも知られている。例えば、John Walkerによる“Optical Absorption and Luminescence”(“Reports on Progress in Physics”, Volume 42, 1979)は、とりわけ、いずれのダイヤモンドの照射も吸収スペクトルの赤色及び紫色部の吸収バンドに起因する青-緑着色をもたらすことを述べている。このいわゆるGR1吸収バンドは、ダイヤモンド構造内の中性孤立空孔V0によって起こると理解されており、各孤立空孔は「GR1中心」として知られている。GR1バンドの強度は照射線量と線形関係があり、GR1中心が純粋な格子欠陥であり、ダイヤモンド内のいずれの不純物とも関係していないことを示唆している。照射によって引き起こされたダイヤモンド材料の青-緑着色は、Walkerの出版物に例示されている。
EP0615954A及びEP0316856Aは、結晶に格子欠陥(侵入型及び孤立空孔)形成するための電子ビーム又は中性子ビームによる高圧/高温(HPHT)合成ダイヤモンド材料の照射について記載している。その後、ダイヤモンド結晶を所定温度範囲でアニールして色中心を形成する。これらの公報は紫色及び赤/ピンク色のダイヤモンド材料の製造について記載している。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVDダイヤモンド材料を製造する方法であって、以下の工程:
(i)CVDプロセスで成長した単結晶ダイヤモンド材料を用意する工程(このダイヤモンド材料は1ppm未満の[Ns0]濃度を有し、用意されたCVDダイヤモンド材料は無色であるか、或いは無色でない場合は褐色又は黄色の色等級であり、かつ褐色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カット(Round Brilliant Cut)ダイヤモンド石についてG(褐色)又はそれより良い色等級を有し、黄色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石についてT(黄色)又はそれより良い色等級を有する);及び
(ii)前記用意されたCVDダイヤモンド材料に電子を照射して、この段階で、又はさらなる照射後処理後に、照射されたダイヤモンド材料内の全空孔濃度と経路長の積([VT]×L)が、少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmになるように、前記ダイヤモンド材料に孤立空孔を導入する工程(これによって、前記ダイヤモンド材料が、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色になる)
を含む方法を提供する。
【0005】
用語Ns0は、ダイヤモンド材料内の単置換型窒素原子を表す。
いずれの特定のダイヤモンド石の知覚色もダイヤモンドのサイズとカットによって決まる。従って、ダイヤモンド材料の色等級に基準を与える場合、本技術分野では、標準的サイズ、通常0.5カラット(ct)、及び標準的カット、通常ラウンド・ブリリアント・カット(RBC又はrbcとして知られることが多い)に関してこれを見積もるのが普通である。いずれの所定のダイヤモンド石についても、たとえ0.5カラットより大きいか又は小さく、或いはラウンド・ブリリアント・カット又はいずれの他のカットであっても、モデルを利用して、標準的なサイズとカットについての当該色等級に色等級を調整することができる。従って、本発明の第1の態様の方法で使われる用意されたダイヤモンド材料はいずれのサイズ又はカットを有してもよいが、規定されている場合のその色等級は、標準的な0.5カラットのサイズ、及び標準的なラウンド・ブリリアント・カットの当該ダイヤモンド材料についての色等級に調整してある。
【0006】
孤立空孔濃度と経路長の積の限界は以下のように表すことができる。
0.36ppm・cm≧[VT]×L≧0.072ppm・cm
1ppm=1.76×1017cm-3ということが分かっているので、これを代わりに以下のように書くことができる。
2.04×10-18cm-2≧[VT]×L≧4.09×10-19cm-2
ラウンド・ブリリアント研磨加工した宝石の経路長を石の深さの2倍と仮定する。例えば、0.3cmの石深さ、ひいては0.6cmの平均経路長を有する0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド材料では、限界は以下の通りであろう。
0.6ppm≧[VT]≧0.12ppm
【0007】
本発明の第1の態様の方法の工程(i)で用意されるCVDダイヤモンドをこの明細書では「用意されたダイヤモンド」と呼ぶ。実際にCVDダイヤモンド材料を成長させる工程は本発明の実施形態の方法の一部を形成しても形成しなくてもよい。CVDダイヤモンド材料を用意する工程は単に、例えば予め成長したCVDダイヤモンド材料を選択することを意味することがある。
本発明の方法における用意されたCVDダイヤモンド材料は、1ppm未満の[Ns0]濃度(単置換型窒素欠陥の濃度である)を有する。用意されたCVDダイヤモンド材料の色は[Ns0]濃度、及びダイヤモンド材料が成長した様式によって異なり得る。[Ns0]欠陥自体は、特に0.3ctのrbcより大きい石において0.3ppmより高い濃度で、ダイヤモンド材料に黄色着色を導入することが知られている。
CVD成長環境における低濃度の窒素の存在は、ダイヤモンド材料が成長するにつれて、CVD合成ダイヤモンド材料に取り込まれる他の欠陥の性質と濃度に影響を与え得ること、及びこれらの他の欠陥の少なくともいくつかがCVDダイヤモンド材料の色に寄与し、典型的にダイヤモンド材料に褐色着色を導入する色中心をもたらすことも知られている。
【0008】
低濃度の窒素の存在下で成長したCVDダイヤモンド材料の褐色着色に寄与するこれらの色中心は、単結晶CVDダイヤモンド、又は単結晶CVDダイヤモンドの層からカット若しくは生成された断片に特有であることも知られている。さらにCVDダイヤモンドの褐色着色に寄与する色中心は、天然ダイヤモンドで観察されるいずれの褐色着色に寄与する当該色中心とも異なることが知られている。なぜならCVDダイヤモンド材料の欠陥は、成長したCVDダイヤモンド材料の吸収スペクトルに天然ダイヤモンドの吸収スペクトルでは見られない吸収バンドを生じさせるからである。このことの証拠は、褐色の天然ダイヤモンドでは観察されない、赤外励起源(例えば785nm又は1064nm)によって観察可能な非ダイヤモンド炭素からのラマン散乱に由来する。さらに、天然ダイヤモンド材料のこれらの色中心は異なる温度でCVDダイヤモンド材料の当該色中心にアニールすることが知られている。
【0009】
低濃度の窒素が導入されるプロセスで成長したCVD合成ダイヤモンドで見られる褐色着色に寄与している色中心のいくつかは、単結晶CVDダイヤモンド内のダイヤモンド結合の局在性破壊に関係があると考えられる。欠陥の正確な性質は完全には理解されていないが、電子常磁性共鳴(EPR)及び光吸収分光法を使用して欠陥の性質を研究し、我々の理解をいくらか改善した。成長したCVD合成ダイヤモンド材料中の窒素の存在は、成長したCVDダイヤモンド材料の吸収スペクトルを調べることによって証明することができ、これらのスペクトルの解析は、存在する異なるタイプの欠陥の相対比率の何らかの示唆を与える。合成環境に添加された窒素とともに成長したCVD合成ダイヤモンド材料の典型的スペクトルは約270nmにピークを示し、このピークはダイヤモンド格子内の中性単置換型窒素(Ns0)原子の存在によって生成される。さらに、他の欠陥特性に対応し、かつCVD合成ダイヤモンド材料に特有のピークが約350nm及び約510nmで観察され、さらに、形c×λ-3(ここで、cは定数であり、λは波長である)の上昇性背景である、いわゆる「勾配(ramp)」が観察された。Ns0はその270nmのピークによって主に同定できるが、Ns0は、より高い波長、特にスペクトルの可視部の波長(一般的に波長範囲350nm〜750nmにわたるとみなされる)の吸収スペクトルにもより少ない量で寄与する。
【0010】
ダイヤモンド材料の知覚色に影響を与えるのは、CVDダイヤモンド材料の吸収スペクトルの可視部において明らかな特徴、すなわち(a)該スペクトルの可視部におけるNs0の寄与、(b)350nmのピーク、(c)510nmのピーク及び(d)勾配特徴の組合せであり、これらの特徴が窒素ドープCVD合成ダイヤモンド材料で典型的に見られる褐色の原因であると考えられる。350nm及び510nmのピークは天然ダイヤモンドの吸収スペクトルでは見られず、他の合成ダイヤモンド、例えばEP615954Aに記載のタイプの合成HPHTダイヤモンドの吸収スペクトルでも見られない。この明細書の目的では、我々が350nm、510nm及び勾配の特徴として上述した、スペクトルの可視部の吸収スペクトルに寄与するNs0欠陥以外の全ての欠陥をまとめて「X欠陥」と称する。上述したように、現時点では、これらの欠陥の原子レベルの構造上の性質は解明されておらず、成長したダイヤモンド材料の吸収スペクトルにそれらが影響を及ぼすことが分かっているだけである。本発明を決して束縛するものではないが、褐色着色の原因である欠陥の性質は、水素/メタン(H2/CH4)原料ガスのプラズマへの窒素の添加と同時に、大きい成長速度で増大する多空孔クラスター(各クラスターは数十、例えば30若しくは40又はそれより多い空孔で構成されている)の存在に関係があり得ると考えられる。このようなクラスターは熱的に不安定であり、高温処理(すなわちアニーリング)によって、ある程度まで除去され得る。より小さい空孔関連欠陥、例えばNVH-(窒素-空孔-水素)欠陥(窒素と水素及び炭素原子損失(missing carbon atom)で構成される)が部分的に褐色の原因であるかもしれず、これらの欠陥も高温処理で除去され得ると考えられる。
【0011】
製造方法、及び[Ns0]濃度に応じて、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料は、無色、ほぼ無色、淡い黄色、又は淡い褐色に見え得る。本発明の方法によれば、用意されたCVDダイヤモンド材料の色は無色又は褐色又は黄色の等級であり、米国宝石学会(GIA)スケールを用いて、褐色の場合はG(褐色)又はそれより良い等級であり、黄色の場合はT(黄色)又はそれより良い等級(0.5カラットのラウンド・ブリリアント・カット−RBCについて)である。上述したように、当該スケールはダイヤモンド材料をアルファベット順にD〜Zに等級付けし、制御された照明及び正確な観測条件下で既知彩度の石に対するダイヤモンド材料の色の強度又は彩度(実際の色相−例えば黄色又は褐色ではなく)を比較することによってダイヤモンド材料の色を等級付けする。Dは、GIAスケールの最高等級で、最も無色のダイヤモンド材料を表し、ZはGIAスケールの最低等級を表し、等級Zのダイヤモンド材料は、裸眼には典型的に淡い黄色又は褐色に見える。より高い等級のダイヤモンド材料(GIAスケールで等級Dにより近い材料)は、宝石取引でも工業用途でも一般的により低い等級のダイヤモンド材料(等級Zに近い材料)より望ましいとみなされ;従って等級G又はそれより良いと言う場合は、等級G又はアルファベットでGより前の文字の等級を意味する。黄色又は褐色の色相を有するダイヤモンド材料は同スケールに基づき、かつ各色等級についてのダイヤモンドの同マスターセットに対してアルファベット順に等級付けされる。従って、G(褐色)という等級は、何らかの色があり、その色成分が褐色であることを意味する。等級G(黄色)のダイヤモンド材料は、等級G(褐色)のダイヤモンド材料と同量の色を有するであろうが、色成分が褐色ではなく黄色であろう。典型的に褐色ダイヤモンド材料は<90°の色相角を有し、黄色ダイヤモンド材料は90°〜130°の色相角を有する。F又はそれより良い等級のダイヤモンド材料は目に見える色を持たず、アルファベット順にのみ等級付けされ、或いはアルファベットの後に括弧で「無色」と付記される。ダイヤモンド材料が、Z等級より強い黄色又は褐色の色相の色を有する場合、それは「ファンシー」な色のダイヤモンド材料の領域に入る。上述したように、黄色又は褐色以外の検出可能な色相、例えば青色を有するダイヤモンド材料(記録するのに十分強い色を有する)も「ファンシー」であると呼ばれる。従って、青色の色相を有するダイヤモンド材料は、色の強度が黄色又は褐色のダイヤモンドの場合より低いときに「ファンシー」と呼ばれるであろう。
【0012】
本発明によれば、いずれの褐色の用意されたダイヤモンド材料にとっても、照射後にファンシーな淡い青色のダイヤモンド材料を得るためには、G又はそれより良い色等級が有利である。他方、いずれの黄色の用意されたダイヤモンド材料にとっても、T又はそれより良い色等級が有利であり、これは照射後にファンシーな淡い青色/緑色のダイヤモンド材料をもたらす。用意されたダイヤモンド材料内の黄色の量は、X欠陥、及びそれらに関連する褐色着色を増やすことなく、[Ns0]濃度を増やすことができれば、増加し得る。我々は、有利なことに、X欠陥の濃度を最小限に維持しながら、低くかつ制御されたレベルの窒素とともにCVDダイヤモンドを成長させることができた。これはCVD成長にとっては自明でない。それは有利なことに、形態学的理由のため有利であり得る窒素をCVD成長プロセスに供給するのみならず、いくつかの実施形態では、用意されたダイヤモンドに黄色の色相を与えるのに十分な窒素の存在をも可能にし、本発明の照射後に淡い青色/緑色のダイヤモンド材料をもたらす。我々は有利なことに、低濃度の褐色欠陥を維持しながら、CVDダイヤモンド中の窒素濃度を目標の20%以内に制御できることを発見した。これは、有利なことに、処理された(照射された)ダイヤモンド材料の色相角を、青色〜青色-緑色の範囲で要望通りに制御できるようにする。
【0013】
用意されたCVDダイヤモンド材料の色を定義する別の又は追加の方法は、その室温吸収スペクトルに関してである。それは、上記X欠陥が最小限であり、用意されたダイヤモンド材料の吸収スペクトルにほとんど寄与しない場合に有利である。典型的に、用意されたダイヤモンド材料中の[Ns0]濃度が0.1ppmより高いが、1ppm未満の場合、350nm〜750nmの可視範囲内の、Ns0以外の欠陥に起因しうる全積分吸収が90%未満である、すなわち褐色誘導X欠陥が最小限であることが好ましい。[Ns0]濃度がゼロ又は非常に低い、例えば0.1ppmの場合、350nm〜750nmの可視範囲内の、Ns0以外の欠陥に起因しうる全積分吸収は、褐色誘導X欠陥が非常に低い場合でさえ、単に[Ns0]濃度のみがゼロ又は非常に低いだけなので、90%より高い可能性がある。これらの場合、吸収係数(スペクトルを800nmで0cm-1に正規化した場合)が350nmで0.5cm-1未満であり、かつ510nmで0.3cm-1であれば有利であり、これらの低い吸収係数は、ダイヤモンド材料中の低レベルの褐色誘導X欠陥を示唆している。[Ns0]濃度が0.1ppmより高い場合、[X欠陥]濃度が低いときでさえ、Ns0欠陥自体からの350nm及び510nmの波長における吸収スペクトルへの寄与のため、350nm及び510nmにおける吸収係数の絶対値がそれぞれ0.5cm-1及び0.3cm-1より高い可能性があることに注意する。
【0014】
本発明の別の態様は、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する方法であって、以下の工程:
(i)CVDプロセスで成長した単結晶ダイヤモンド材料を用意する工程(このダイヤモンド材料は1ppm未満の[Ns0]濃度を有し、350nm〜750nmの可視範囲内の、Ns0以外の欠陥に起因しうる全積分吸収が90%より高い場合、350nmにおける吸収係数が0.5cm-1未満であり、かつ510nmにおける吸収係数が0.3cm-1未満である);及び
(ii)前記用意されたCVDダイヤモンドに電子を照射して、この段階で、又はさらなる照射後処理後に、照射されたダイヤモンド材料内の全空孔濃度と経路長の積、[VT]×Lが、少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmになるように、前記ダイヤモンド材料に孤立空孔を導入する工程(これによって、前記ダイヤモンド材料が、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色になる)
を含む方法を提供する。
【0015】
この明細書で使われる全ての実施例では、用意されたCVDダイヤモンドの吸収の、この明細書で引用されるNs0以外の欠陥に起因しうる割合を計算するために使われる吸収ピーク高さ及び積分吸収値は、合成CVDダイヤモンドの室温で取ったUV/可視吸収スペクトルを用いて測定される。
本明細書で言及される全ての室温吸収スペクトルは、Perkin Elmer Lamda-19分光計を用いて収集された。スペクトル(「測定されたスペクトル」)に記録されたデータを以下のように加工して、Ns0に起因しうる、350nm〜750nmの範囲で測定された吸収の比率及び他の欠陥(X欠陥)に起因しうる、測定された吸収の比率についての情報を与えた。
a. 平行面を持つプレートの反射損について表形式の屈折率データ及び標準式を用いて反射損スペクトルを作製した。ピーターの方程式(Peter's equation)[Z. Phys., 15 (1923), 358-368]に従って屈折率を決定し、引き続き標準的なフレネル方程式(Fresnel equation)を用いて反射損を導いた。
b. 測定された吸光度データから反射損スペクトルを差し引き、結果として生じるスペクトルから該例の吸収係数スペクトルを作製する。
c. 測定されたスペクトルの、Ns0に起因しうる成分を決定するため、Ib型HPHT合成ダイヤモンド(その吸収はNs0にのみ起因する)の吸収スペクトルを、それが実質的に除去されるまで、それから差し引かれたときに測定されたスペクトルから270nmのピークを率に合わせて減じた(scaled)。このスケーリング(scaling)により窒素濃度を決定することができる。
d. 350nm(すなわち3.2618eV)〜750nm(すなわち1.6527eV)に広がるスペクトルの可視領域を用いて、可視領域内の積分吸収を、測定された例スペクトル及びそのNs0に起因しうる成分について決定し、Ns0欠陥に起因しうる積分吸収の割合を計算した。
e. 実際には反射損は一般的に理論値より大きく、このことが波長特有の熱量測定法に頼らずに絶対吸収係数値を決定するのを困難にする。吸収に直接関係しない追加損を補正するために以下のルーチンを使用した。より低いエネルギーに向かって、特定のエネルギー以下では、測定された吸収がエネルギーによってもはや有意な変動を示さないことが一般的であった。吸収係数が800nmでゼロになるように吸収係数データをシフトさせた。
本発明の方法の様々な実施形態によれば、用意されたCVDダイヤモンドはNs0を含んでも含まなくてもよい。それがNs0を含む場合、本発明の合成CVDダイヤモンド材料中に存在する[Ns0]濃度は、<5×1015cm-3のレベルについてはEPRを用いて、より高い濃度についてはUV可視光吸収技術を用いて測定することができる。
【0016】
中性電荷状態の[Ns0]含量は、電子常磁性共鳴(EPR)を利用して測定し得る。この方法は技術上周知であるが、完全を期してここに要約する。EPRを用いて行なわれる測定では、特定の常磁性欠陥(例えば中性単置換型窒素欠陥)の存在量は、当該中心に由来する全てのEPR吸収共鳴線の積分強度に比例する。このため、マイクロ波力飽和の影響を阻止又は補正することに気を付けるという条件で、その積分強度を基準サンプルから観察される積分強度と比較することによって、欠陥の濃度を決定することができる。連続波EPRスペクトルは磁場変調を用いて記録されるので、EPR強度、ひいては欠陥濃度を決定するためには二重積分が必要である。二重積分に伴う誤差を最小限にするため、基線補正、積分の有限極限など、特に重なりEPRスペクトルが存在する場合には、スペクトルフィッティング法(Nelder-Meadシンプレックスアルゴリズム(J. A. Nelder and R. Mead, The Computer Journal, 7 (1965), 308)を用いる)を利用して、問題の例に存在するEPR中心の積分強度を決定する。これは、該例に存在する欠陥のシミュレートしたスペクトルによる実験スペクトルのフィッティング及び該シミュレーションからそれぞれの積分強度を決定することを必要とする。実験的には、ローレンツ型(Lorentzian)線形もガウス型(Gaussian)線形も実験EPRスペクトルに良くフィットしないことが観察されるので、Tsallis関数を用いてシミュレートスペクトルを生成する(D.F. Howarth, J.A. Weil, Z. Zimpel, J. Magn, Res., 161 (2003), 215)。さらに、低い窒素濃度の場合、変調増幅アプローチを利用するか又はEPR信号の線幅を超えて良い信号対雑音比を達成する(合理的な時間枠内で正確な濃度決定を可能にする)必要があることが多い。従って、記録されたEPRスペクトルに良くフィットさせるため、Tsallis線形と共に、擬似変調を利用する(J.S. Hyde, M. Pasenkiewicz-Gierula, A. Jesmanowicz, W.E. Antholine, Appl. Magn. Reson, 1 (1990), 483)。この方法を用いて、±5%より良い再現性で濃度(ppmで)を決定することができる。
【0017】
より高い[Ns0]濃度を測定するためのUV可視吸収分光測定の方法は技術上周知であり、ダイヤモンド材料の吸収スペクトルの270nmのピークを使用する測定を含む。
窒素は正電荷状態(N+)で存在することもあり、N+の濃度はFTIRスペクトルの1332cm-1における特徴のピーク高さを測定することによって分かる。濃度が検出限界以内であれば、SIMS技法を用いてダイヤモンド材料の全窒素濃度を得ることもできる。
上述したように、いずれの褐色の用意されたダイヤモンド材料にとってもG又はそれより良い色等級が有利であり、いずれの黄色の用意されたダイヤモンド材料にとってもT又はそれより良い色等級が受け入れられる。同様に上述したように、原料ガス、ひいては用意されたダイヤモンド材料中に少量の窒素が存在する場合、これは一般的に、CVDダイヤモンド材料に褐色着色を導入するいわゆX欠陥の導入をも伴う。本発明の特定の実施形態によれば、CVDダイヤモンド材料に少量の窒素が存在する場合、如何なる褐色着色(これらのX欠陥に起因すると考えられる)をも回避され、又は少なくとも最小限にされる、用意されたCVDダイヤモンド材料をもたらすために特殊の方法を行なう。このようにして該褐色着色が最小限にされる場合、Ns0欠陥自体の存在の結果として生じるいずれの黄色着色も、T(黄色)又はそれより良い色等級を与えるNs0レベルをもたらすので、[Ns0]濃度が1ppmを超えてよい。実際にはガス純度又はダイヤモンド特性の理由のため、或いは青の色相よりむしろ青-緑の色相を得ることが望ましい場合、1ppmの上限に向かう[Ns0]濃度を有することが有利かもしれない。
【0018】
特に、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料が1ppmの上限に向かう[Ns0]濃度を有する場合、吸収スペクトルは350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を有し得る(この積分吸収の90%未満がNs0欠陥以外の欠陥に起因しうる、すなわち褐色着色の原因であると考えられるいわゆるX欠陥が、可視範囲内の積分吸収の90%未満に寄与するように)。
この明細書では、[NS0]が存在しないか、又は非常に少量しか存在しない用意されたCVDダイヤモンド材料を使用することも予想される。これらの場合、非常に少量の[NS0]しか存在しないので、一般に結果として同様にX欠陥が非常に少ないか又は存在せず、結果として褐色着色がほとんどないか又は存在しない(特定条件下ではこうでないかもしれないが)。吸収スペクトル350nm及び510nmの絶対係数がそれぞれ0.5cm-1及び0.3cm-1未満であると特定することによって、これを定量化することができる。そのため[NS0]がほとんど存在しないか又は存在しない場合、ダイヤモンド材料のいずれの着色もいずれかの少量の褐色(Ns0自体によって生じる黄色ではなく)に起因する可能性があり、この場合、用意されたCVDダイヤモンド材料は色等級G(褐色)又はそれより良い等級を有する。有利には、該材料はその吸収スペクトルに以下の特性を有し得る。
【0019】

【0020】
CVDダイヤモンド材料の成長方法はよく確立されており、特許その他の文献、例えばWO03/052177に広範に記載されている。これらの以前に記述されたCVDダイヤモンド材料の成長方法は、350nm〜750nmの可視範囲に全積分吸収がある吸収スペクトル(該スペクトルの可視部への他の欠陥の寄与が90%を超えるように)を有するダイヤモンド材料をもたらすと考えられている。これらの他の欠陥は、窒素を含むCVDダイヤモンドの特徴的な褐色着色につながることが分かっているので、これらの公知先行技術のCVD成長プロセスは、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料を直接成長させるには適していない。
如何なる褐色着色(上記X欠陥に起因すると考えられる)をも回避する用意されたCVDダイヤモンド材料をもたらすために実施可能な上記特殊な方法の1つは、原料ガスが、より常套的な炭素、水素及び窒素ではなく、炭素、水素、窒素及び酸素を含むCVD成長プロセスを利用する方法である。例えば、酸素をプロセスガスに、気相中少なくとも10000ppmの濃度で添加してよい。特に、本発明の第1の態様の方法の工程(i)で用意されるCVDダイヤモンド材料を、GB出願GB0922449.4及びUS仮出願USSN61/289,282(これらの全開示内容を参照によって本明細書で援用する)に記載のプロセスで直接成長させてよい。詳細には、本方法は、基体を用意する工程;原料ガスを用意する工程;及び基体上でのホモエピタキシャルダイヤモンド合成を可能にする工程を含み;ここで、合成環境は約0.4ppm〜約50ppmの原子濃度で窒素を含み;かつ原料ガスは以下の原子分率:(a)約0.4〜約0.75の水素の原子分率Hf;(b)約0.15〜約0.3の炭素の原子分率Cf;(c)約0.13〜約0.4の酸素の原子分率Ofを含み;ここで、Hf+Cf+Of=1;ここで、炭素の原子分率と酸素の原子分率の比Cf:Ofが、約0.45:1<Cf:Of<約1.25:1を満たし;ここで、原料ガスは、存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の0.05〜0.4の原子分率で水素分子H2として添加された水素原子を含み;かつ原子分率Hf、Cf及びOfは、原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率である。このCVDダイヤモンド材料の成長方法を本明細書では「添加酸素CVD成長プロセス」と呼ぶものとする。
【0021】
使用する正確なプロセスパラメーター(例えば使用する成長基体、使用する圧力、及び原料ガス中の窒素の量)に応じて、上記添加酸素CVD成長プロセスが直接、350nm〜750nmの可視領域内の積分吸収の90%未満がNs0欠陥以外の欠陥(X欠陥)に起因しうるか又はそうでないダイヤモンド材料を与えることとなるであろう。一般に添加酸素CVD成長プロセスは、熟練労働者が、褐色着色につながるX欠陥の数を減らしながら、標準的CVDプロセスによって可能であろうより高い割合の窒素を導入できるようにする。従って、本発明は、添加酸素CVD成長プロセスを使用してこのような高濃度の窒素を導入するので、他の欠陥の数も有意であり、かつ結果として成長したダイヤモンド材料が、350nm〜750nmの可視スペクトルに、X欠陥に起因しうる90%より多くの積分吸収を有することをも予想する。そして、このような用意されたダイヤモンド材料を後述するようにその後のアニールによって処理することができる。所望のダイヤモンド材料の欠陥濃度、及び結果としての吸収スペクトルを生じさせるように添加酸素CVD成長プロセスを調整することは、当業者にとっては簡単な実験上の問題であろう。
【0022】
添加酸素CVD成長プロセスによって成長したCVDダイヤモンド材料は、本発明の方法における用意されたCVDダイヤモンド材料として直接使用し得る。このCVD成長段階から、用意されたダイヤモンド材料の形成への経路を添付図面の図1に「経路A」として示す。
本発明の方法における用意されたダイヤモンド材料として直接使用する代わりに、添加酸素CVD成長プロセスによって成長したCVDダイヤモンド材料を添加酸素CVD成長前駆体ダイヤモンド材料であるとみなして、用意されたCVDダイヤモンド材料を形成するため少なくとも1600℃、又は少なくとも約1800℃、又は少なくとも約2000℃の温度での高温アニールにさらしてよい。添加酸素CVD成長プロセスで作られ、次に高温アニーリングプロセスにさらされたCVDダイヤモンド材料は、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンドを形成し得る。この用意されたCVDダイヤモンド材料への経路を図2に「経路B」として示す。この予備的高温アニーリングプロセスは、成長したCVDダイヤモンド材料内のいずれのX欠陥をもさらに減少させる得ると考えられ、これは特定の実施形態にとって有利であろう。成長したまま又は加工した石に高温アニーリング工程を行なってよい。
【0023】
別の可能性は、例えばWO03/052177に開示されているタイプのより慣習的なCVDプロセスを用いて前駆体CVDダイヤモンド材料を成長させることである。上述したように、該プロセスは、350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収(該積分吸収の90%より多くが、望ましくない褐色着色するX欠陥に起因しうるように)がある吸収スペクトルを有するダイヤモンド材料をもたらし得る。我々は、この明細書ではこのダイヤモンド材料を「伝統的CVD成長前駆体ダイヤモンド材料」と呼ぶものとし、この前駆体という単語を用いて、それが本発明の方法によって定義される「用意されたCVDダイヤモンド材料」とは異なり、かつそれより前に存在する、成長したCVDダイヤモンド材料であることを示す。伝統的という単語を用いて、このCVD成長前駆体材料への経路を上記経路Bについて述べたものと区別する。我々は、伝統的CVD成長前駆体ダイヤモンド材料を上記高温アニーリングプロセスにさらせば、それは、積分吸収の90%未満がNs0欠陥以外の欠陥(褐色誘導X欠陥)に起因しうるダイヤモンド材料をもたらし得ることを見い出した。この用意されたダイヤモンド材料への経路を図1に「経路C」として示す。
【0024】
本発明では、用意されたダイヤモンド材料として、非常に低い、例えば0.1ppm未満の[Ns0]濃度を含む材料を使用することをも予想する。原料ガス中の窒素濃度が非常に低いか又はゼロのプロセスを利用してこれらの材料を成長させてよい。その結果として成長したCVDダイヤモンド材料は結果的にX欠陥を含まないか又は最小限のX欠陥を含み(これらのX欠陥は、ダイヤモンド原子構造中の窒素の結果としてのダイヤモンド材料の構造及び電荷の変化から生じると考えられるので);窒素が存在しないか又は最小限であれば、当該構造変化は起こらないか又は最小限の程度に起こる。従って、本発明の方法の特定の実施形態は、0.1ppm未満の[Ns0]濃度を有する用意されたCVDダイヤモンド材料を使用する。
非常に低いか又はゼロの[Ns0]濃度を含むCVDダイヤモンド材料の製造方法は技術上周知である。例えば、それらは参照によってその開示全体を本明細書で援用するWO/019663A1、WO/019664A1、WO2010/010352A1、及びWO2010/010344A1に記載されている。
例えば、WO/019663A1は、いずれの単一の不純物のレベルも5ppm以下であり、かつ全不純物含量が10ppm以下である電子工学的用途に特に適したCVDダイヤモンド材料について記載している。好ましくはいずれの不純物のレベルも0.5〜1ppm以下であり、全不純物含量が2〜5ppm以下である(ここで、「不純物」は水素及びその同位体形を除外する)。WO/019663A1に記載の方法では、CVD成長が起こる環境の不純物含量は、実質的に窒素を含まない、すなわち300ppb未満の窒素雰囲気の存在下で成長するように制御され、好ましくは100ppb未満のモル分率の全ガス量を有し、かつ基体(その上でCVDダイヤモンドが成長する)が実質的に欠陥を含まない。
例えば、WO2010/010352A1は、スピントロニクス用途で使うのに適した高い化学純度及び高い等方性純度のダイヤモンド材料の製造方法を記載している。特に、CVD成長方法は、実質的に結晶欠陥のない表面を有するダイヤモンド基体を用意する工程と、窒素濃度が約300ppb以下である高純度ガスを含む原料ガス混合物、及び固体炭素源(該源の全炭素含量の少なくとも99%の量で12Cを含む)を用意する工程と、原料ガス及び固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程と、基体の表面上でのホモエピタキシャルダイヤモンド成長を可能にする工程を含む。
上記プロセス、例えば実質的に窒素を使用しない、WO/019663A1、WO/019664A1、WO2010/010352A1、及びWO2010/010344A1に記載のタイプのプロセスで製造されたCVDダイヤモンド材料を以後「高純度CVDダイヤモンド材料成長プロセス」と呼ぶ。これらのプロセスは、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料を形成するのに適している。そのようにして形成された高純度の用意されたCVDダイヤモンド材料は実質的に窒素を含まず、結果的に実質的にX欠陥を含まないので、これらの高純度方法製の用意されたCVDダイヤモンド材料は無色、ほぼ無色又は淡い褐色であろう。
【0025】
照射されたダイヤモンド材料の色は、もしあれば、用意されたダイヤモンド材料の出発色と、孤立空孔を導入するための照射工程によって導入された色との組合せである。特定の実施形態では、用意されたダイヤモンド材料に色を導入し得る他の不純物を最小限にすることができる。例えば、非補償型ホウ素(孤立ホウ素)はそれ自体がダイヤモンド材料に青色を導入し得る。いくつかの実施形態では、用意されたダイヤモンド材料内のホウ素濃度[B]が5×1015cm-3未満である。
ダイヤモンド材料内に非補償型ホウ素がある場合、照射して孤立空孔を導入すると、該孤立空孔がホウ素と結合することによって非補償型ホウ素が補償されるので、ホウ素も、当該補償孤立空孔もダイヤモンド材料に如何なる色をも付与しないことが知られている。そのため本発明のいくつかの実施形態では、ダイヤモンド材料が非補償型ホウ素(例えば>5×1015cm-2の濃度で)を含む場合、照射工程を行なって、ホウ素と結合するのみならず、規定の孤立空孔濃度[VT]をも達成するのに十分な孤立空孔を導入することができる。当業者は、ホウ素補償に必要な追加照射のレベルを経験的に決定することができる。
【0026】
褐色誘導X欠陥を同時に導入しない方法(例えば上記酸素プロセス)を用いて、或いは当該欠陥を排除することによって(例えば高温アニーリング工程によって)、用意されたダイヤモンド材料に、より多くの窒素を添加することによって、用意されたCVDダイヤモンド材料に、より多くの黄色を導入することができるので、照射工程後に青色/緑色のダイヤモンド材料が生じる。これは、材料中のNS0の存在がV0からV-への電荷移動をもたらすためと考えられる。例えば、相対的に低い[NS0]濃度の場合、用意されたダイヤモンド材料に存在するほとんどの空孔は、青色を与える傾向がある中性空孔V0である。相対的に高い[NS0]濃度の場合、用意されたダイヤモンド材料にはより多くの負の空孔V-が存在し、これらは青色/緑色を与える傾向がある。従って、本発明は、[Ns0]濃度の簡単な変更よって、照射されたダイヤモンド材料を淡い青色〜淡い青色/緑色の全て色調にわたって調整する便利な手段を提供する。有利なことに、用意されたダイヤモンド材料中の様々な窒素濃度で出発してV-/V0の比を制御することは、色相角を変えて所望の色(青色〜緑色)が得られることを意味する。本発明のいくつかの実施形態は、用意されたダイヤモンド材料に目標V-/V0比を与えるように、用意されたダイヤモンド材料の[Ns0]濃度を選択する工程を含む。異なるV-/V0比によって付与される青色〜青色/緑色の差異に加えて、いずれかの残存窒素由来の黄色色相が残ることもあり、処理後により緑色の青色/緑色のダイヤモンド材料をもたらす傾向もあるであろう。
【0027】
本発明の別の態様は、100°〜270°の範囲内の色相角を有するファンシーな青色〜青色/緑色の範囲内のダイヤモンド材料の所望の色を選択し、かつ作り出すことができるシステムを提供する。該システムは以下の工程:
(a)成長したCVDダイヤモンド材料について、当該成長したCVDダイヤモンド材料の照射後に前記所望の色をもたらすであろう目標[Ns0]濃度を予め決定する工程;
(b)前記成長したCVDダイヤモンド材料で前記目標[Ns0]濃度を達成するのに十分な窒素をプロセスガスに導入する工程を含むCVDプロセスによってダイヤモンド材料を成長させる工程(このCVDダイヤモンド材料は、方法請求項1の工程(i)に記載の用意されたダイヤモンド材料の特性を有する);次に
(c)前記成長したCVDダイヤモンド材料に、方法請求項1の工程(ii)に記載の照射工程を行なう工程
を含む。
【0028】
本発明の第1態様の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料は、単成長セクターから形成された合成CVDダイヤモンド材料の体積の好ましくは少なくとも約50%、或いは少なくとも約80%、或いは少なくとも約90%、或いは少なくとも約95%を有し得る。この単成長セクターは好ましくは{100}又は{110}成長セクターである。単成長セクターの材料は好ましくは、該成長セクターの体積の約50%超え、或いは該成長セクターの体積の約60%超え、或いは該成長セクターの体積の約80%超えの平均の±10%以内のNs0レベルを有する。単成長セクターから成長した用意された合成CVDダイヤモンド材料を使用すると、該CVDダイヤモンド材料は、結晶方位が異なる表面(異なる成長セクターに対応する表面である)をほとんど持たないので有利である。結晶方位が異なる表面は窒素不純物の非常に差動的な取込みを示すので、より多くの成長セクターを含む合成CVDダイヤモンド材料は、異なる成長セクター内のNs0の異なる濃度の結果として生じる異なる色を有する、より望ましくないゾーンを示す傾向がある。
本発明の方法が、用意されたCVDダイヤモンドを成長させる予備プロセスを含む場合、これらの方法は、好ましくは単成長セクターから生じた上記割合を有するようにダイヤモンド材料を成長させる工程を含む。
主に単成長セクター由来の用意されたCVDダイヤモンドを有することの別の利点は、異なる成長セクターでは、異なる量、分布及びタイプの欠陥が存在し得ることである。
【0029】
いくつかの理由のため、天然ダイヤモンド又はHPHT合成ダイヤモンド材料ではなくCVD合成ダイヤモンド材料を用いて淡い青色のダイヤモンドを生成するのが有利である。例えば、天然ダイヤモンドはその特性にばらつきがあるので、装飾的に使うため一緒に合わせるべき調和したダイヤモンドを見つけることをより困難にする。天然ダイヤモンド材料を超えるCVDダイヤモンド材料の利点は、利用可能なものを受け入れなければならないのではなく、合成CVDプロセス及び成長後処理を調整して、所望の正確な色相及び彩度を獲得できることである。別の例として、HPHT合成技術を利用して生成されたダイヤモンド材料は、合成中に生じる結晶方位が異なる表面(異なる成長セクターに対応する表面である)上で非常に差動的な窒素不純物の取込みを示す。HPHTは、普通は単一の主要成長セクターをもたず、CVDでは典型的に達成されるのとは異なる。従って、ダイヤモンド材料は、成長セクターによって異なる窒素不純物濃度に起因する異なる色を有するゾーンを示す傾向がある。さらに、合成されたダイヤモンド材料内の単成長セクターでさえその全体に均一かつ所望の窒素濃度を与えるのに十分にHPHTダイヤモンド材料合成プロセスを制御するのは困難である。さらに、HPHTダイヤモンド材料合成では典型的に、合成プロセス及び使用触媒の結果生じる不純物−例はコバルト又はニッケルを含む含有物であろう−(局在化した不均一な歪みをもたらすことがあり、光学的及び熱的特性を劣化させる特徴)が見られる。対照的に、CVDダイヤモンド材料は、天然又はHPHT合成ダイヤモンド材料よりずっと色が均一であり、かつ金属包有物に関する如何なる問題もない。
【0030】
合成CVDダイヤモンド材料は、HPHT技術を用いて転位構造によって合成された合成ダイヤモンド材料とは明解に区別され得る。合成CVDダイヤモンドでは、転位は一般的に基体の初期成長表面にほぼ垂直な方向に進む。すなわち基体が(001)基体である場合、転位は[001]方向にほぼ平行に整列される。HPHT技術を用いて合成された合成ダイヤモンド材料では、種晶の表面(多くの場合{001}に近い表面)上に核形成する転位は典型的に<110>方向に成長する。従って、例えば、X線トポグラフで観察されるそれらの異なる転位構造によってこれら2タイプの材料を区別することができる。天然ダイヤモンドはこれらの明白な平行転位を示さないので、これは、天然のIIa型からCVDを区別する経路をも与える。
しかし、X線トポグラフを得るのは面倒な仕事であり、明確な区別を可能にする、あまり面倒でない代替方法が明らかに望ましいであろう。
HPHT合成材料中の、合成プロセスの結果として組み込まれる金属包有物の存在によって、合成CVDダイヤモンド材料をHPHT技術を用いて合成された合成ダイヤモンド材料から確実に区別することができる。該包有物は溶剤触媒金属として使われる金属、例えばFe、Co、Ni等で構成される。包有物は1μm未満から100μm超えまでサイズが異なり得る。より大きい包有物は立体顕微鏡(例えばZeiss DV4)を用いて観察され;より小さい包有物は冶金顕微鏡(例えばZeiss「Axiophot」)で透過光を用いて観察され得る。
CVD及びHPHT法によって生成された合成ダイヤモンド間に明確な区別を与えるために使用できるさらなる方法はフォトルミネセンス分光法(PL)である。HPHT合成材料の場合、合成プロセスで使用する触媒金属(典型的に遷移金属)(例えばNi、Co、又はFeなど)由来の原子を含む欠陥が存在することが多く、PLによる該欠陥の検出は、該材料がHPHT法によって合成されたことを明確に示す。
【0031】
本発明の方法の工程(ii)は、用意されたダイヤモンドに電子を照射する工程を含む。この照射工程が作用して、前述したようにダイヤモンドに孤立空孔Vを導入する。
我々は、電子線以外の放射線をダイヤモンド材料に照射してもファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のダイヤモンドをもたらさないことを見い出した。特に我々は、中性子による照射が黄色緑色のダイヤモンドを生じさせることを見い出した。
一般に、照射線量が多いほど、生成される孤立空孔の数が多い。照射線量及びいずれの照射後処理のレベルも[VT]×Lが少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmとなるように選択される。典型的に0.5ctのrbcでは、これは0.12〜0.6ppmの[VT]の濃度範囲に相当する。
本発明のいくつかの実施形態では、照射されたダイヤモンド材料に少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmの[VT]×Lを導入するように、電子線量を選択する。これらの場合、ダイヤモンド材料中の孤立空孔濃度に有意に影響を与える照射後処理をダイヤモンド材料にさらに施さないことが好ましい。
【0032】
最終の所望濃度より多い孤立空孔を導入するようにダイヤモンド材料を照射することが可能である。これらの場合、引き続き照射後処理工程で孤立空孔の濃度を減らすことができる。我々は、該照射後工程で約50%までだけ孤立空孔の濃度を減らせることを見い出した。照射後工程は、サンプルを例えば少なくとも300℃の温度、又は多くても600℃の温度でアニールすることを含み得る。アニール時間は短くてよく、例えば温度を室温からアニール温度に単純に上昇させてから、サンプルを再び冷ますか、或いはサンプルを2〜3時間又は数時間、例えば2時間の間、アニール温度で維持してよい。如何なる場合にも本発明を限定するものではないが、我々は、この温度でのアニーリングが材料に存在するいずれの侵入型原子をも移動させ、ひいては拡散させていくつかの孤立空孔と再結合し、結果的に孤立空孔の濃度を減少させると考える。この過剰照射(過剰の孤立空孔を生成するため)後の当該過剰の孤立空孔を除去するためのアニールは不利なことに余分な工程を伴うが、特定の状況ではそれを使用することがあり、結果としての処理後の孤立空孔濃度が規定限界内であれば、本発明の範囲に入る。
【0033】
従って、本発明の方法の他の実施形態は、照射されたダイヤモンド材料の[VT]×Lが少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmとなるように、照射されたダイヤモンド材料を照射後処理する追加工程を含む。この照射後処理工程は、照射されたダイヤモンド材料を少なくとも300℃、多くても600℃の温度でアニールすることを含む。これらの実施形態では、照射後アニールは50%までだけ孤立空孔の濃度を減少させ得るので、照射されたダイヤモンド材料に多くても0.72ppm・cmの[VT]×Lを導入するように電子の初期線量を選択することができる。
CVDダイヤモンド材料を照射することのさらなる利点は、未処理CVDダイヤモンドに比べて、典型的に低温アニーリング及びUV光への曝露に対して材料の色がより安定することである。この安定化効果は、GB出願第0911075.0号及びUS出願第61/220,663号(両方とも2009年6月26日に出願された)、並びにGB出願第0917219.8号及びUS出願第61/247,735号(両方とも2009年10月1日に出願された)で考察されている。これらの全開示内容を参照によって本明細書で援用する。従って、本発明の利点は、青色又は青緑色のダイヤモンド材料をもたらすことであり、本発明の方法の照射工程がない場合は、その吸収特性の少なくとも1つに、第1の状態と第2の状態で測定可能な差異を示すであろうが(第1の状態は少なくとも5.5eVのエネルギーを有する放射線への曝露後の状態であり、第2の状態は525℃(798K)での熱処理後の状態である)、本発明の方法に従うと、第1の状態と第2の状態時に、侵入型の濃度が最小限になったことを前提として、ほとんど又は全く色の変化を示さないダイヤモンド材料をもたらす。有利なことに、いくつかの実施形態では、照射後に第1及び第2の状態間の彩度値C*の変化が、照射を受けなかったダイヤモンド材料と比べて少なくとも0.5だけ減少する。いくつかの実施形態では、照射後、第1及び第2の状態間のC*の変化が<1である。いくつかの実施形態では、照射されたダイヤモンド材料、又はさらなる照射後処理後の照射されたダイヤモンド材料は、-196℃(77K)で741nmの波長にて測定された少なくとも0.01cm-1の吸収係数;又は-196℃(77K)で394nmの波長にて測定された少なくとも0.01cm-1の吸収係数を有し得る。
【0034】
照射のエネルギーが照射の浸透を決めることが知られている。電子ビームのエネルギーの追加MeV毎に概算としてさらに0.7mmのダイヤモンドに浸透する。典型的な電子照射源は1.5MeV及び4.5MeVで利用可能であり、典型的な大きさのダイヤモンド、例えば約3mmの厚さを有する0.5カラットのダイヤモンドに所望の浸透を果たすための照射には4.5MeVの電子源を使用するのが好ましいことを見い出した。典型的に、例えばIstron plcで使われる設備では電子ビーム源は50%のスキャン幅及び20mAの電流を有し得る。
電子照射は典型的に0.8MeV〜12MeVのエネルギー範囲のビーム源を用いて行なわれる。必要に応じて、使用するエネルギーは、Nドープダイヤモンド材料内にほぼ均一濃度の孤立空孔を導入しながら、カスケード損傷、例えば空孔鎖の形成を最小限にするエネルギーである。ここで報告する最適結果のためには、4.5MeVがこれらの2つの因子間の良い妥協点をもたらすことが分かった。
必要に応じて、かつより大きいサンプルでは特に、照射中のサンプルの回転、又は反復回転後の照射を利用して、石の体積全体に生成される孤立空孔の均一性を達成するのを補助することができる。
【0035】
ダイヤモンド温度、ビームエネルギー、ビームフラックス等の因子、及び出発ダイヤモンドの特性でさえ、定型的実験照射手順及び時間のために生成される[VT]に影響を与え得る。照射は典型的に周囲条件下、約27℃(300K)でマウントしたサンプルを用いて行なわれ、照射線量にわたって最小限の温度のみが上昇する(例えば100K未満)。しかしながら、ビームエネルギー及びビームフラックス等の因子はサンプル加熱をもたらす可能性がある。好ましくはサンプルをできる限り低温(ある状況下で有利な-196℃(77K)で低温貯蔵冷却しながらでさえ)で維持して、温度制御を妥協することなく高い線量率を可能にし、ひいては照射時間を最小限にする。これは商業上の理由のため有利である。導入される[VT]濃度についてこれらの限界を満たすために使用される特定の用意されたダイヤモンドのために生成される孤立空孔に対して施される線量の較正は、本発明の方法を実施する前の当業者の責任の一部を形成するであろう。該較正技術は当業者にとってルーチン的である。
【0036】
我々は、照射時間が、ダイヤモンド材料に取り込まれる孤立空孔の数に影響を与え、かつ孤立空孔取込み率は様々な出発材料及び出発温度によって異なることをも見い出した。
0.5ctのrbcダイヤモンド石のための典型的照射線量は、サンプル温度が約77℃(350K)の場合、1×1017〜1×1018e-cm-2である。
0.5ctのrbcダイヤモンド石のための典型的照射時間は、サンプル温度が約77℃(350K)の場合、Istron plcで見られる機器のような機器を用いて、4.5MeV、20mA及び50%のスキャン幅で5〜30分である。
【0037】
孤立空孔の濃度を測定するためこの明細書全体を通じて、液体窒素を用いてサンプルを冷却して-196℃(77K)でスペクトルを得る。当該温度では741nm及び394nmの鋭いピークがそれぞれ中性及び負に荷電した孤立空孔に起因しうると考えられるからである。本明細書で孤立空孔濃度の計算のめに使用する係数は、下表1に詳細に示すように、G. DaviesによってPhysica B, 273-274 (1999), 15-23に示されている当該係数である。
【0038】
表1

【0039】
表1中、「A」は、-196℃(77K)で測定された、cm-1での吸収係数及びmeVでの光子エネルギーを有する遷移のゼロフォノンラインの積分吸収(meV cm-1)である。濃度は、cm-3の濃度である。
我々の方法によれば、照射後、又はさらなる照射後処理後の[VT]×Lは、少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmである。
本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料、また本発明の方法の結果として生じる照射されたCVDダイヤモンド材料は、より大きいダイヤモンド材料片の一部を形成してもしなくてもよい。例えば、より大きいダイヤモンド材料片の一部のみを照射して青色に変えてよく、及び/又はより大きいダイヤモンド材料片の一部のみが、規定の吸収特性を有してよい。当業者には明らかなように、複数の層を照射することもでき、及び/又は複数の層が所要の吸収特性を有することがあるので、本発明の方法で使われる用意されたCVDダイヤモンド材料が一部、例えばより大きいダイヤモンド材料片の1つ又は複数の層を形成し得る。照射の浸透深さは照射のエネルギーによって決まることは周知である。そのため好ましい実施形態では、照射がCVDダイヤモンド材料の深さの一部のみに浸透するように照射エネルギーを選択する。これは、照射されたCVDダイヤモンド材料の浸透部内のみに孤立空孔が導入され、ひいてはCVDダイヤモンド材料の当該浸透部が、本発明の方法で形成された「ダイヤモンド材料」であることを意味する。
【0040】
上述したように、用意されたCVDダイヤモンド材料がより大きいダイヤモンド材料片の一部のみと規定する場合、当該用意されたCVDダイヤモンド材料のみが本発明の特定実施形態について記載した有利な光学特性を有し得る。従って、例えばより大きいCVDダイヤモンド材料片の最上層又は又は埋め込み層(複数可)が淡い青色又は淡い青色/緑色着色を有し得る。いずれの他の淡い青色又は淡い青色/緑色でない層も実質的に無色の場合、より大きいダイヤモンド材料片の色は淡い青色又は淡い青色/緑色の層に支配される。
本発明のいくつかの実施形態では、ダイヤモンド石の少なくとも50%又は少なくとも60%又は少なくとも70%又は少なくとも80%又は少なくとも90%又は実質的にダイヤモンド石全体が実質的に同色を有し得る。
本発明の他の実施形態では、ダイヤモンド石が同色のダイヤモンド材料の層又はポケットを含み得る。
特有の窒素濃度を有する、すなわち実質的に無色又は淡い色のCVDダイヤモンド材料で出発すること、及びCVDダイヤモンド材料に電子を照射することによって、淡い青色又は淡い青色/緑色のダイヤモンド材料を生成できることが本発明の利点である。窒素濃度を制御することによって正確な色(青色〜緑色)を変えることができる。有利なことに、低レベルのその他すべてのもの、例えば他の色を導入するかもしれない他の元素は維持される。照射を制御して、特定濃度の孤立空孔をダイヤモンド材料に導入し、これによってファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色を導入する。これらの色のダイヤモンド材料は、宝石用原石として、又は着色フィルターとして又は切削工具、例えばメスとして等の特定の用途を見い出すことができる。用語「無色」及び「白色」は、宝石用原石のダイヤモンド材料の色を表現するために当該技術分野では同義に使用されることがあることに留意すべきである。
【0041】
本発明は、本発明の第1の態様の方法によって製造されたいずれのダイヤモンド材料をも提供する。
色がホウ素のみに由来するのではないか、又は全くホウ素に由来しないファンシーな淡い青色又は淡い青色/緑色のCVDダイヤモンド材料は、それ自体も新しい。従って、本発明の第2の態様は、[B]<1×1015cm-3又は[N]-[B]<1ppm及び下記色特性を有するファンシーな淡い青色、又はファンシーな淡い青色/緑色のCVD合成単結晶ダイヤモンド材料を提供する。
【0042】

【0043】
照射及びアニールされたダイヤモンドの色は、「CIE L*a*b*色度座標」を利用して、確立された方法で定量化が可能である。ダイヤモンドにおけるCIE L*a*b*色度座標の使用は、参照によって開示全体を本明細書で援用するWO2004/022821に記載されている。この方法は、ダイヤモンド材料のプレート又はブロックの色を評価するのに特に有用である。ラウンド・ブリリアント研磨加工されたダイヤモンドの色は、平面がキューレット上に研磨加工されて、これら2つの平行な研磨加工面を通じて測定できる場合、訓練を受けた人による目によってか又はCIE L*a*b*色度座標を用いて評価が可能である。a*及びb*をグラフのx軸及びy軸としてプロットし、正のa*軸から正のb*軸に向けて色相角を測定する。従って90°より大きく、180°未満の色相角はa*b*グラフの左上象限にある。色を描写するためのこのスキームでは、L*が明度であり、第4座標C*が彩度である。
物体の知覚色は、物体の透過率/吸光度スペクトル、照明光源のスペクトルパワー分布及び観察者の目の応答曲線によって決まる。以下に述べるように、本明細書で引用するCIE L*a*b*色度座標(ひいては色相角)を導いた。標準的なD65照明スペクトル並びに目の標準的な(赤、緑及び青)応答曲線を用いて(G. Wyszecki and W. S. Stiles, John Wiley, New York-London-Sydney, 1967)、平行面のある平板ダイヤモンドのCIE L*a*b*色度座標を、その透過率スペクトルから、1nmのデータ間隔で350nm〜800nmの下記関係を利用して導いた。
Sλ=波長λでの透過率
Lλ=照明のスペクトルパワー分布
xλ=目の赤応答関数
yλ=目の緑応答関数
zλ=目の青応答関数
X=Σλ[SλxλLλ]/Y0
Y=Σλ[SλyλLλ]/Y0
Z=Σλ[SλzλLλ]/Y0
ここで、Y0λyλLλ
L*=116(Y/Y0)1/3-16=明度 (Y/Y0>0.008856について)
a*=500[(X/X0)1/3-(Y/Y0)1/3] (X/X0>0.008856、Y/Y0>0.008856について)
b*=200[(Y/Y0)1/3-(Z/Z0)1/3] (Z/Z0>0.008856について)
C*=(a*2+b*2)1/2=彩度
hab=逆正接(b*/a*)=色相角
【0044】
Y/Y0、X/X0及びZ/Z0の限界外では、これらの式の修正バージョンを使用しなければならない。修正バージョンはCommission Internationale de L’Eclairage (Colorimetry (1986))によって作成された技術報告に与えられている。
a*をx軸に対応させ、b*をy軸に対応させて、a*及びb*座標をグラフにプロットするのが標準的である。正のa*及びb*値は色相のそれぞれ赤成分及び黄成分に対応する。負のa*及びb*値はそれぞれ緑成分及び青成分に対応する。従ってグラフの正象限は黄色〜橙色〜赤色の範囲の色相をカバーし、開始点からの距離で彩度(C*)が与えられる。
光路長が異なるにつれて、所定の吸収係数スペクトルを有するダイヤモンドのa*b*座標がどのように変化するかを予測することができる。これを行なうためには、測定された吸光度スペクトルからまず反射損を差し引かなければならない。次に異なる光路長を斟酌するため吸光度を率に合わせて決め(scaled)、除外していた反射損を加え戻す。次に吸光度スペクトルを透過率スペクトルに変換し、これを用いて新たな厚さについてCIE L*a*b*座標を導く。このようにして光路長に対する色相、彩度及び明度の依存性をモデル化して、単位厚当たり所定の吸収特性を有するダイヤモンドの色が、どのように光路長に依存するかを理解することができる。
【0045】
明度L*は、CIE L*a*b*色空間の三次元目を形成する。特定の光吸収特性を有するダイヤモンドでは光路長が変わるにつれて明度及び彩度が変化する状況を理解するのが重要である。先行パラグラフで述べた方法を用いて、所定の吸収係数スペクトルを有するダイヤモンドのL*C*座標がどのように光路長に依存するかを予測することもできる。
【0046】
C*(彩度)数を10のC*単位の彩度範囲に分割し、以下のように記述用語を割り当てることができる。
0-10 弱い
10-20 弱い〜中程度
20-30 中程度
30-40 中程度〜強い
40-50 強い
50-60 強い〜非常に強い
60-70 非常に強い
70-80+ 非常に非常に強い
同様にL*数を以下の明度範囲に分割することができる。
5-15 非常に非常に暗い
15-25 非常に暗い
25-35 暗い
35-45 中間/暗い
45-55 中間
55-65 明るい/中間
65-75 明るい
75-85 非常に明るい
85-95 非常に非常に明るい
明度と彩度の以下の組合せで定義される4つの基本的な色調がある。
鮮やか:明るく、彩度が高い、
淡い:明るく、彩度が低い、
深い:彩度が高く、暗い、
鈍い:彩度が低く、暗い。
ここで、添付図面及び実施例を参照しながら、例として本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】淡い青色又は淡い青色/緑色のダイヤモンド材料を得るための本発明の方法の経路を示す流れ図である。
【図2】室温で測定された吸収スペクトルA、B及びCであり、Aは、実施例2〜4及び9で用いた出発ダイヤモンド材料のスペクトルであり、Bは、実施例1及び8で用いた出発材料のスペクトルであり、Cは、実施例5〜7で用いた出発材料のスペクトルである。
【図3】-196℃(77K)で測定されたUV可視吸収スペクトルA、B及びCであり、A、B及びCは、それぞれ実施例2、3及び4について、規定通りの照射後にそれぞれ示した吸収スペクトルである。
【図4】それぞれ実施例2及び6について照射後に-196℃(77K)で測定された吸収スペクトルA及びBであり、それぞれV-及びV0欠陥を示唆するND1及びGR1ピークを示す。
【実施例】
【0048】
本発明の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の合成に適したHPHTダイヤモンド基体をレーザーソーで切断し、粗研磨(lapped)して基体とし、研磨加工して欠陥密度が5×103/mm2未満、通常102/mm2未満になるように表面下の欠陥を最小限にした。研磨加工したHPHTプレート(3.6mm×3.6mmの四角形で厚さ500μm、この段階で全面{100}が1nm未満の表面粗さRQを有する)を耐火金属ディスク上にマウントし、CVDダイヤモンド成長反応器に導入した。
【0049】
(成長段階)
1) CVDダイヤモンド反応器を使用清浄器の先端に予め適合させて、入ってくるガス流中の意図しない混入種を80ppb未満に減らした。
2) 50/40/3000sccm(毎秒標準立方センチメートル)のO2/Ar/H2及び760℃の基体温度を用いてin situ酸素プラズマエッチングを行なった。
3) これを中断せずにガス流からO2を除去して水素エッチングに移行した。
4) 炭素源(この場合CH4)及びドーパントガスを添加して、これを成長プロセスに移行した。これらの実施例では、165sccmでCH4が流れ、窒素は実施例によって異なるレベルでプロセスガス中に存在し、例えばAr中の空気又はH2中のN2として100ppbのN2を含む原料の較正原料から供給され、いくつかの実施例ではプロセスガス中にO2も存在した。
5)

【0050】
6) 成長時間が完了したら、基体を反応器から取り出し、レーザーソーによる切断及び機械的研磨加工術によって基体からCVDダイヤモンド層を除去した。
7) これが約3.1×5×5mmの典型的寸法及び6mmの光の典型的な平均経路長を有するCVDサンプルをもたらした。
この成長したCVDダイヤモンドが、本出願の請求項によって規定される「用意されたダイヤモンド」である。
【0051】
図2は、吸収スペクトルA、B及びCであり、スペクトルAは、実施例2〜4及び9で用いた出発ダイヤモンド材料の吸収スペクトルであり、高純度CVD成長プロセスで成長したダイヤモンド材料を表す。これらの実施例では、用意されたCVDダイヤモンドの可視スペクトルにおけるNS0以外の欠陥に起因しうる積分吸収の割合が>90%である。これらの実施例では、これは、270nmに明確なピークがないという事実によって分かるように、絶対[NS0]濃度が低いためである。この材料は、510及び350nmでの吸収がそれぞれ<0.5及び0.3cm-1であるように褐色着色を持たない。これらの高純度材料は無色であり、本発明の方法の照射に適した用意されたCVDダイヤモンド材料である。図2中、スペクトルBは実施例1及び8で用いた出発材料のスペクトルである。この出発材料は原料ガスに酸素を含まない伝統的CVD成長プロセスで成長したCVDダイヤモンド材料である。これらの実施例では出発CVDダイヤモンド材料の可視スペクトルにおけるNS0以外の欠陥に起因しうる積分吸収の割合が>90%であり、さらに510nm及び350nmでの吸収がそれぞれ>0.5cm-1及び0.3cm-1である。従って、実施例1及び8の出発ダイヤモンド材料は、本発明の照射方法に適した未処理出発材料ではなく、照射前は淡い褐色である。しかしながら、処理、例えば実施例8で示すように照射前にHPHTアニールされれば、それらは本発明の照射方法に適した前駆体ダイヤモンド材料である。図2中、スペクトルCは、原料ガスに酸素を添加したCVD成長プロセスで成長したダイヤモンド材料である、実施例5〜7で用いた出発材料のスペクトルである。このスペクトルでは、510nm及び350nmでの吸収がそれぞれ>0.5cm-1及び0.3cm-1であるが、用意されたCVDダイヤモンドの可視スペクトルにおけるNS0以外の欠陥に起因しうる積分吸収の割合が、<90%である。これらの実施例は、本発明の方法の照射に適した出発材料であり、照射前は淡い黄色である。
50%のスキャン幅及び20mAのビーム電流について4.5MeVの電子ビームを利用して全サンプルの電子照射を行なった。照射すべきダイヤモンドサンプルを水冷銅ブロック上のインジウムにマウントしてサンプルが77℃(350K)より高く加熱されるのを阻止した。
【0052】
表3は、CVD成長プロセス(又は当てはまる場合、図1に示すように、用意されたCVDダイヤモンド材料への経路)、上述したように用意されたダイヤモンド材料サンプルについてNS0濃度(ppmで)、NS0欠陥に起因しうる全積分吸収の割合、270nm、350nm及び510nmでの吸収係数、照射線量、全孤立空孔濃度(並びに中性及び負の孤立空孔濃度の内訳)、並びに照射前後の色を示す。
表3は、いくつかの比較例を含む。表3の各例を順次考察すると、実施例1(比較例である)は伝統的に成長したCVDダイヤモンド材料を示し、用意されたダイヤモンドの、NS0以外の欠陥に起因しうる積分吸収の割合が91.6%であり、かつその吸収係数が350nmで1.19cm-1であり、510nmで0.45cm-1であり;その照射前の色が淡い褐色であり、換言すると、この用意されたCVDダイヤモンド材料は、方法工程(i)に示す基準の範囲外である。照射後に観察された該ダイヤモンド材料の色は鈍い褐色がかった青色であり、本発明の所望のファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色ではない。実施例番号1の色特性も本発明の主な物品請求項によって規定される当該物品の範囲外である。実施例1は実施例8で示すようにHPHTアニールして、淡い青色/青緑色の材料を生じさせるのに適するようにできるであろうが、未処理では不適である。
実施例2、4、5及び7(この場合もやはり比較例)は、本発明の方法請求項の工程1の範囲内に入る用意されたダイヤモンドを使用するが、少なくとも0.072ppm・cmという所要の最小値より低いか(実施例2及び5)又は最大値0.36ppm・cmより高い(実施例4及び7)、全孤立空孔濃度と経路長の積を導入する。これらの実施例の照射後の色は、所望のファンシーな淡い青色及びファンシーな淡い青色/緑色ではなく、かつ色特性は主な物品請求項によって規定される当該特性の範囲外である。
【0053】
図3は、照射後に-196℃(77K)で取ったUV可視スペクトルA、B及びCを示し、スペクトルAは実施例2のスペクトルであり、本発明に望まれる所望のファンシーな淡い青色/青緑色を付与するには低すぎる孤立空孔濃度を示し(GR1ピークの高さによって);スペクトルBは実施例3のスペクトルであり、請求項の範囲内であり、かつ本発明に望まれる所望のファンシーな淡い青色/青-緑色を付与するであろう孤立空孔濃度を示し、スペクトルCは実施例4のスペクトルであり、本発明に望まれる所望のファンシーな淡い青色/青-緑色を付与するには高すぎる孤立空孔濃度を示す。これらの実施例の照射後の孤立空孔濃度の別の指標を表3に示す。表3は、照射後のV0及びV-濃度(ppmで)を示す欄を含み、このデータはそれぞれGR1及びND1ピーク下の面積を積分することによって計算された。
実施例9(この場合もやはり比較例)は、電子照射ではなく中性子照射を使用する。これは照射後にビビッドな黄色のダイヤモンド材料をもたらし、C*及びL*値はこの特許の請求項の限界外である。
実施例の比較は、用意されたダイヤモンド中のNS0の濃度を変えることによって、どのように請求範囲内で色相角(ひいては正確な知覚色)を変更できるかをも示す。実施例3及び6は両方とも淡い青色/淡い青緑色をもたらすが、異なる濃度のNS0を導入することによって、正確な色相角が変更された。
【0054】
実施例3及び6について照射後に取った吸収スペクトルである図4は、異なる濃度のNS0を含む出発材料について同照射後に形成されたV0欠陥とV-欠陥の異なる比を示す。低い[NS0]濃度を含む実施例3のスペクトルであるスペクトルAは、394nmに実質的にND1ピークを示さない(該サンプルが実質的にV-欠陥を含まないことを示唆している)。対照的に、より高い[NS0]濃度を含む実施例6のスペクトルであるスペクトルBは、394nmに大きい高さのND1ピークを示す(V-欠陥が多く存在することを示唆している)。両スペクトルA及びBは、匹敵するGR1ピークを示すので、V0欠陥:V-欠陥の比を示すGR1ピーク:ND1ピークの比は、スペクトルB(実施例6)についてよりスペクトルA(実施例3)についての方が高い。
【0055】
表3

【0056】
(表3続き)

【0057】
(表3続き)

* 比較例
【0058】
(表3続き)

【0059】
(表3続き)

【0060】
(表3続き)

* 比較例
【0061】
(表3続き)

【0062】
(表3続き)

【0063】
(表3続き)

* 比較例
【0064】
(表3続き)

【0065】
(表3続き)

【0066】
(表3続き)

* 比較例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVD単結晶ダイヤモンド材料を製造する方法であって、
(i)CVDプロセスで成長した単結晶ダイヤモンド材料を用意する工程、ここで、このダイヤモンド材料は1ppm未満の[Ns0]濃度を有し、用意されたCVDダイヤモンド材料は無色であるか、或いは無色でない場合は褐色又は黄色の色等級であり、かつ褐色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石についてG(褐色)又はそれより良い色等級を有し、黄色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石についてT(黄色)又はそれより良い色等級を有する;及び
(ii)前記用意されたCVDダイヤモンド材料に電子を照射して、この段階で、又はさらなる照射後処理後に、照射されたダイヤモンド材料内の全空孔濃度と経路長の積、[VT]×Lが、少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmになるように、前記ダイヤモンド材料に孤立空孔を導入する工程、これによって、前記ダイヤモンド材料が、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色になる、
を含む方法。
【請求項2】
前記用意されたダイヤモンド材料が褐色又は黄色の色等級であり、かつ褐色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石について0°〜90°未満の範囲の色相角を有し、黄色の色等級の場合は0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石について90°〜130°の範囲の色相角を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらなる照射後処理がなく、かつ少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmの、前記照射されたダイヤモンド材料内の全孤立空孔濃度と経路長の積、[VT]×Lを導入するように電子線量を選択する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記全孤立空孔の積及び多くても0.36ppm・cmを達成するように、前記照射されたダイヤモンド材料を照射後処理する追加工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記照射後処理工程が、前記照射されたダイヤモンド材料を少なくとも300℃、多くても600℃の温度でアニールする工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記照射後処理工程前に多くても0.72ppm・cmの、前記照射されたダイヤモンド材料内の全孤立空孔濃度と経路長の積、[VT]×Lを導入するように、前記電子線量を選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記用意されたダイヤモンド材料について、Ns0以外の欠陥に起因しうる、350nm〜750nmの可視範囲内の全積分吸収が90%より多い場合、350nmでの吸収係数が0.5cm-1未満であり、かつ510nmでの吸収係数が0.3cm-1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
直接、又はさらなる処理後に前記用意されたダイヤモンド材料として使用するための前駆体ダイヤモンド材料を成長させる工程を含み、この前駆体ダイヤモンド材料は、前記積分吸収の多くても90%が[Ns0]以外の欠陥に起因しうるように350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収がある吸収スペクトルを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記CVDプロセスが、プロセスガスに、該気相内の酸素分子>10000ppmの濃度で酸素を添加する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体ダイヤモンド材料を成長させる工程が、基体及び原料ガスを用意する工程;及び前記基体上でホモエピタキシャルダイヤモンド合成を可能にする工程を含み、ここで、前記合成環境は約0.4ppm〜約50ppmの原子濃度で窒素を含み;かつ前記原料ガスは下記分率:(a)約0.4〜約0.75の水素の原子分率Hf;(b)約0.15〜約0.3の炭素の原子分率Cf;(c)約0.13〜約0.4の酸素の原子分率Ofを含み;ここで、Hf+Cf+Of=1であり;炭素の原子分率と酸素の原子分率の比Cf:Ofが約0.45:1<Cf:Of<約1.25:1を満たし;前記原料ガスが、水素分子H2として添加された水素原子(存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の原子分率0.05〜0.4で)を含み;かつ原子分率Hf、Cf及びOfは、前記原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率である、
請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記照射されたダイヤモンド材料の所望の最終色に応じて目標[Ns0]濃度を予め決定し、かつ前記用意されたCVDダイヤモンド材料の実際の[Ns0]濃度を前記目標[Ns0]濃度の20%以内に制御する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前駆体ダイヤモンド材料を成長させ、次にこの成長したダイヤモンド材料を少なくとも1600℃の温度でアニールして、工程(i)で用意される前記CVDダイヤモンドを生成する工程を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記照射されたダイヤモンド材料、又はさらなる照射後処理後の照射されたダイヤモンド材料が、(i)-196℃(77K)で741nmの波長にて測定された少なくとも0.01cm-1の吸収係数;又は-196℃(77K)で394nmの波長にて測定された少なくとも0.01cm-1の吸収係数を有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(i)の前記用意されたCVDダイヤモンド材料が、少なくとも5×1015原子/cm3のホウ素濃度[B]を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記用意されたダイヤモンド材料に>5×1015cm-3の濃度で非補償型ホウ素が存在し、かつ前記照射工程が、照射後、又はさらなる照射後処理後に、孤立空孔濃度と経路長の過剰積が少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmになるのに十分な孤立空孔を前記ダイヤモンド材料に導入する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記用意されたCVDダイヤモンドの少なくとも50%が単成長セクターから形成された、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記照射線量が、0.5ctのラウンド・ブリリアント・カットダイヤモンド石では1×1017〜1×1018e-cm-2である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記用意されたダイヤモンド材料が、その吸収特性の少なくとも1つに、第1の状態と第2の状態で測定可能な差異を示し、ここで、前記第1の状態は少なくとも5.5eVのエネルギーを有する放射線への曝露後の状態であり、第2の状態は525℃(798K)での熱処理後の状態である、かつ照射後に前記第1の状態と第2の状態の前記ダイヤモンド材料間の彩度値C*の変化が、少なくとも0.5減少する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
照射後、前記第1の状態と第2の状態の前記ダイヤモンド材料のC*の変化が1未満であり、前記第1の状態は少なくとも5.5eVのエネルギーを有する放射線への曝露後の状態であり、第2の状態は525℃(798K)での熱処理後の状態である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記用意されたダイヤモンド材料内の目標V-/V0比を与えるように、前記用意されたダイヤモンド材料の[Ns0]濃度を選択する工程を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法によって製造されたCVDダイヤモンド材料。
【請求項22】
<5×1015原子/cm3のホウ素濃度[B]及び以下の色特性を有する、ファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVD合成単結晶ダイヤモンド。

【請求項23】
少なくとも0.072ppm・cm、多くても0.36ppm・cmの、全空孔濃度と経路長の積、[VT]×Lを有する、請求項20又は21に記載のファンシーな淡い青色又はファンシーな淡い青色/緑色のCVD合成単結晶ダイヤモンド材料。
【請求項24】
(i)少なくとも0.01cm-1の、-196℃(77K)で741nmの波長にて測定された吸収係数;及び(ii)少なくとも0.01cm-1の、-196℃(77K)で394nmの波長にて測定された吸収係数を有する、請求項21〜23のいずれか1項に記載のダイヤモンド材料。
【請求項25】
宝石用原石である、請求項21〜24のいずれか1項に記載のダイヤモンド材料。
【請求項26】
宝石用原石としての、請求項21〜25のいずれか1項に記載のCVDダイヤモンド材料の使用。
【請求項27】
100°〜270°の範囲内の色相角を有するファンシーな青色〜青色/緑色の範囲内のダイヤモンド材料の所望の色を選択し、かつ作り出すことができるシステムであって、以下の工程:
(a)成長したCVDダイヤモンド材料について、当該成長したCVDダイヤモンド材料の照射後に前記所望の色をもたらすであろう目標[Ns0]濃度を予め決定する工程;
(b)前記成長したCVDダイヤモンド材料で前記目標[Ns0]濃度を達成するのに十分な窒素をプロセスガスに導入する工程を含むCVDプロセスによってダイヤモンド材料を成長させる工程、ここで、このCVDダイヤモンド材料は、方法請求項1の工程(i)に記載の用意されたダイヤモンド材料の特性を有する;次に
(c)前記成長したCVDダイヤモンド材料に、方法請求項1の工程(ii)に記載の照射工程を行なう工程
を含むシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530677(P2012−530677A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516769(P2012−516769)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059084
【国際公開番号】WO2010/149779
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】