説明

ファンモータ

【課題】省エネに役立つファンモータを提供する。
【解決手段】送風機11のファン11aに接続されるシャフト21やシャフト21を回転駆動するモータ本体22、シャフト21の回転を制御する駆動回路23を備えるファンモータ1である。駆動回路23は、外部からの指示に基づいてシャフト21の回転を停止させる停止制御プログラム31を有している。停止制御プログラム31は、モータ本体22への電流の供給を遮断してシャフト21の回転を停止させる完全停止プログラム32と、シャフト21の回転を減速させながら所定期間が経過した後に、モータ本体22への電流の供給を遮断してシャフト21の回転を停止させる減速停止プログラム33とを含む。完全停止プログラム32は、急停止指示を受けた場合にのみ作動し、それ以外の場合は減速停止プログラム33が作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に全空気方式(ダクト方式)の空調設備に用いられるファンモータに関し、中でもその停止制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の空調設備では、空調装置で作られる冷気や熱気がダクトを通じて所望の空調室に供給され、冷暖房される(例えば、特許文献1)。従って、全空気方式は、熱交換器や送風機等で構成された空調装置を集中配置できる利点があり、ビルや劇場などの比較的大きな建築物に採用されている場合が多い。
【0003】
送風機のファンを駆動するモータ(ファンモータ)の1つとして、駆動回路を内蔵したブラシレスDCモータが知られている(例えば、特許文献2)。
【0004】
工作機械(CNC)のモータ制御に関する技術であるが、減速停止動作中にモータに異常が検出された場合にモータへの電力供給を強制的に遮断する制御装置が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−302735号公報
【特許文献2】特開2003−189666号公報
【特許文献3】特許第4137854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した全空気方式の空調設備では、予め設定温度を設定し、その設定温度に基づいて温度制御するのが一般的である。例えば、暖房が行われる場合には、空調装置の起動により、熱気が作られ、送風機によってその熱気が空調室に供給される。そして、空調室の温度が設定温度に至ると、送風機を含む空調装置が停止され、熱気の供給が中断される。このような起動と停止とを繰り返し制御することで空調室は一定の温度に保持される。
【0007】
しかしながら、そのような方式の場合、熱気や冷気はダクトを通じて供給されるため、空調装置が停止した時にはダクト内に熱気等が残る。ダクト内に残る熱気等はそのまま放熱あるいは吸熱して常温に戻るため、せっかく熱交換器でエネルギーを費やして形成された熱気等の一部は有効利用されずに無駄になってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、このようなエネルギーの損失を軽減することができ、省エネに役立つファンモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、空調装置が停止する際、ファンモータによってダクト内に残る熱気等を押し出せるようにした。
【0010】
具体的には、本発明のファンモータは、送風機のファンに接続されるシャフトと、前記シャフトを回転駆動するモータ本体と、前記シャフトの回転を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、外部からの指示に基づいて前記シャフトの回転を停止させる停止制御手段を有している。前記停止制御手段は、前記モータ本体への電流の供給を遮断して前記シャフトの回転を停止させる完全停止手段と、前記シャフトの回転を減速させながら所定期間が経過した後に、前記モータ本体への電流の供給を遮断して前記シャフトの回転を停止させる減速停止手段とを含む。
【0011】
そして、前記完全停止手段は、急停止指示を受けた場合にのみ作動し、それ以外の場合は前記減速停止手段が作動するように構成されている。
【0012】
このような構成のファンモータによれば、急停止指示を受けたとき以外は減速停止手段が作動する。減速停止手段が作動すると、電流の供給は直ちに遮断されずに減速しながらシャフトは回転駆動される。そして、所定期間が経過した後に電流の供給が遮断され、完全にシャフトの回転が停止される。
【0013】
すなわち、このファンモータは、急停止指示を受けない限り直ぐには停止せず、徐々に回転数を落としながら停止するようになっているので、停止後も所定量の空気を送風する。従って、従来、停止後にダクトに残っていた熱気等もダクトから押し出して空調室に供給することができるので、エネルギーの損失を軽減することができる。
【0014】
更に、徐々に回転を減速しながら停止するので、急停止した場合に生じる不快な音の変化を少なくすることができ、快適性も向上させることができる。
【0015】
その一方で、急停止指示を行えば、モータ本体への電流の供給を遮断してシャフトの回転を停止させる完全停止手段も作動させることができる。従って、空調装置に異常が発生した場合などには直ちに停止させることができるので、安全性も確保されている。
【0016】
ファンモータにこれら停止制御手段が備えられているので、送風機にこのファンモータを組み込むだけで省エネ等の効果を得ることができる。既存の送風機に対してもファンモータを交換するだけでよく、利便性にも優れる。
【0017】
より具体的には、前記送風機が、ダクトを通じて空気調和機から室内に冷気又は熱気を供給する全空気方式の空気調和設備に備えられている場合に好適である。
【0018】
全空気方式の空気調和設備の場合、一般にダクトの容積が大きいため、送風機の停止によってダクトに残る熱気等の量も多くなり易い。従って、ダクトに残る熱気等を押し出すことで、エネルギーの損失をより効果的に軽減できる。
【0019】
特にこの場合、前記所定期間はタイマーによって設定するのが好ましい。
【0020】
そうすれば、ダクトの容量等、個々の空気調和設備に応じて所定時間が容易に設定できるので、汎用性に優れる。
【0021】
また、前記所定期間中、前記シャフトの回転は予め設定された所定の比率で減速するように設定するのが好ましい。
【0022】
そうすれば、ダクト内を流れる温風等の流速をダクトの配置や構造等の条件に応じて適切に下げることができるので、流れが乱れ難く、安定して熱気等を押し出すことができる。停止時に加わるファンモータへの機械的負荷も軽減できる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のファンモータによれば、従来、停止後に無駄に消費されていた熱気等のエネルギーの損失を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態のファンモータを適用した全空気方式の空気調和設備の概略図である。
【図2】ファンモータの構成を示す概略図である。
【図3】停止制御プログラムを示すブロック図である。
【図4】完全停止プログラムの作動時におけるシャフトの回転速度と経過時間との関係を示す図である。
【図5】減速停止プログラムの作動時におけるシャフトの回転速度と経過時間との関係を示す図である。
【図6】停止制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0026】
図1に、本実施形態のファンモータ1を適用した全空気方式の空気調和設備(空調設備2)の一例を示す。この空調設備2は、空調室6を空調するための設備であり、給気ダクト3や排気ダクト4、空気調和機(空調機5)などを備えている。
【0027】
給気ダクト3及び排気ダクト4は、空調室6にそれぞれの一端が接続され、空調機5にそれぞれの他端が接続されている。そうして空調機5で作られる冷気あるいは熱気を給気ダクト3を通じて空調室6内に供給し、排気ダクト4を通じて空調室6内の空気を空調機5に戻す空気の循環経路が形成されている。
【0028】
空調機5には、この種の従来機種と同様に、送風機11や熱交換器12、統括制御装置13などが備えられている。空調室6の室内には、空調機5と通信可能な操作端末5aが設置されている。この操作端末5aには、図示はしないが、空調機5を操作するための各種機能が備わっており、この操作端末5aを通じて空調機5の起動や停止、冷暖房の選択、空調室6の室内の温度設定などができる。
【0029】
例えば、空調室6の室内を冷房する場合であれば、操作端末5aを操作して空調機5を起動させ、冷房を選択して所望する温度を設定すれば、空調機5によって断続的に冷風が空調室6に供給され、空調室6の室内はその温度に保たれる。統括制御装置13は、そのような操作端末5aからの各種信号を受信して送風機11や熱交換器12等を統括的に制御している。
【0030】
具体的には、所定の設定温度(上限値)より室温が高い時には、統括制御装置13は、熱交換器12及び送風機11を起動させ、冷気を作って空調室6に送風する。室温が所定の設定温度(下限値)よりも低くなると、熱交換器12及び送風機11を停止して冷気の供給を中断する。そして、再度、室温が設定温度(上限値)より高くなると、熱交換器12及び送風機11を再起動する。これを繰り返すことにより、空調室6の室内は一定温度に保たれる。
【0031】
すなわち、この空調機5では、設定温度に基づいて送風機11及び熱交換器12の起動、停止が断続的に繰り返し行われる(オンオフ制御)。なお、暖房の場合も冷房の場合と停止制御の実体は同様であるため、以下の説明では冷房を例に説明する。
【0032】
図2に、送風機11を駆動するファンモータ1の概略を示す。このファンモータ1は、駆動回路内蔵型のブラシレスDCモータであり、シャフト21やモータ本体22、駆動回路23(制御装置)などを備えている。このシャフト21の先端に直接的あるいは間接的にファン11aが接続され、シャフト21の回転に連動してファン11aが回転するように構成されている。
【0033】
モータ本体22はロータやステータなどを有し(図示せず)、モータ本体22への制御された電流の供給により、シャフト21が一定の速度で回転駆動する。その電流の制御は、主に駆動回路23によって実行されている。
【0034】
駆動回路23には、ICやメモリ等のハードウエア(図示せず)やこれらハードウエアに予め実装される各種ソフトウエアが備えられている。例えば、このファンモータ1の駆動回路23には、統括制御装置13からの指示に基づいてシャフト21の回転を停止させる停止制御プログラム31(停止制御手段)が設けられていて、特に、そこには完全停止プログラム32(完全停止手段)と、減速停止プログラム33(減速停止手段)とが含まれている(図3参照)。また、駆動回路23にはプログラムの作動時間を任意に設定できるタイマー23aが設けられている。
【0035】
図4に、完全停止プログラム32が作動する際のシャフト21の回転速度と経過時間との関係を示す。同図に示すように、完全停止プログラム32では、シャフト21が一定の速度で回転している状態の下で、統括制御装置13から所定の指示を受けると(矢印で示す時点)、直ちにモータ本体22への電流の供給が遮断され、シャフト21の回転が停止する。そのため、送風機11の送風も短時間で停止する。
【0036】
このように、送風機11の送風が短時間で停止してしまうと、給気ダクト3内には冷気が残る。給気ダクト3内に残される冷気は吸熱して常温に戻ってしまうため、せっかくエネルギーを費やして空調機5で作られた冷気が無駄になる。
【0037】
そこで、このファンモータ1では、減速停止プログラム33により、直ぐに停止せずに徐々に停止するようになっている。具体的には、減速停止プログラム33が作動すると、図5に示すように、シャフト21の回転を減速させながら所定期間(停止付加期間)が経過した後に、モータ本体22への電流の供給が遮断され、シャフト21の回転が停止される。
【0038】
すなわち、空調機5が停止されて冷気が作られなくなった後も、しばらくの間はファン11aが回転して送風されるようになっている。従って、給気ダクト3に残る冷気は空調室6に押し出されるため、冷気が無駄にならずエネルギーの損失を軽減することができる。
【0039】
停止付加期間中、シャフト21の回転は徐々に減速するので、急停止した場合に生じる不快な音の変化を少なくすることができ、快適性も向上させることができる。
【0040】
特に、停止付加期間はタイマー11aによって設定するのが好ましい。そうすれば、給気ダクト3の長さや容量に応じて停止付加時間を自在に設定できるので、汎用性に優れる。
【0041】
また、停止付加期間中、シャフト21の回転は予め設定された所定の比率で減速するように設定するのが好ましい。そうすれば、給気ダクト3を流れる冷風等の流速をダクトの配置や構造等の条件に応じて下げることができるので、流れを乱さず安定して冷気等を押し出すことができる。停止時に加わるファンモータ1への機械的負荷も軽減できるので、耐久性も向上する。例えば、シャフト21の回転は、一定の比率で直線的に減速させてもよいし、フィードバック制御等を用い、例えば比率が次第に大きくなるように制御するなど、比率を可変させて曲線的に減速させてもよい。
【0042】
次に図6を参照しながら、駆動回路23の停止制御の流れについて説明する。まず、空調機5が起動されている状態の下では、駆動回路23は、統括制御装置13によって制御されており、モータ本体22へ所定の状態に制御された電流を連続して供給する(ステップS1でNo)。そして、統括制御装置13から停止信号を受信すると(ステップS1でYes)、駆動回路23はその停止信号が急停止信号であるか否かを判断する(ステップS2)。
【0043】
そして、その停止信号が急停止信号である場合(ステップS2でYes)、駆動回路23は、完全停止プログラム32を作動し、直ちにモータ本体22への電流の供給を遮断してシャフト21の回転を停止させる(ステップS3)。急停止信号は、例えば、空調機5に異常が検出された場合や何らかの事情によって空調機5を強制的に停止する場合など、急を要する場合に発せられる。従って、急停止信号の場合には空調機5の全体が停止する。
【0044】
停止信号が急停止信号でない場合(ステップS2でNo)、つまり、室温を一定に保つために冷気の供給を中断する通常の停止信号の場合には、減速停止プログラム33が作動する(ステップS4)。そして、駆動回路23は、徐々にシャフト21の回転を減速させ、停止付加期間が経過した後にモータ本体22への電流の供給を遮断してシャフト21の回転を完全に停止させる。
【0045】
すなわち、急停止信号でなければ空調機5が停止してもファンモータ1だけは遅れて停止する。空調機5の停止と同時に熱交換器12も停止するため、停止付加期間中は冷気が新たに作られることはない。従って、給気ダクト3に残された冷気だけが空調室6に押し出される。
【符号の説明】
【0046】
1 ファンモータ
11 送風機
11a ファン
21 シャフト
22 モータ本体
23 駆動回路(制御装置)
31 停止制御プログラム(停止制御手段)
32 完全停止プログラム(完全停止手段)
33 減速停止プログラム(減速停止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機のファンに接続されるシャフトと、
前記シャフトを回転駆動するモータ本体と、
前記シャフトの回転を制御する制御装置と、
を備えるファンモータであって、
前記制御装置は、外部からの指示に基づいて前記シャフトの回転を停止させる停止制御手段を有し、
前記停止制御手段は、
前記モータ本体への電流の供給を遮断して前記シャフトの回転を停止させる完全停止手段と、
前記シャフトの回転を減速させながら所定期間が経過した後に、前記モータ本体への電流の供給を遮断して前記シャフトの回転を停止させる減速停止手段と、
を含み、
前記完全停止手段は、急停止指示を受けた場合にのみ作動し、それ以外の場合は前記減速停止手段が作動するファンモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のファンモータにおいて、
前記送風機が、ダクトを通じて空気調和機から室内に冷気又は熱気を供給する全空気方式の空気調和設備に備えられているファンモータ。
【請求項3】
請求項2に記載のファンモータにおいて、
前記所定期間がタイマーによって設定されているファンモータ。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のファンモータにおいて、
前記所定期間中、前記シャフトの回転が予め設定された所定の比率で減速するように設定されているファンモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−41905(P2012−41905A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186002(P2010−186002)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(398061810)日本電産テクノモータホールディングス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】