説明

フェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体とロジウム系ナノ微粒子並びにその触媒

【課題】フェニルアゾメチンデンドリマーの精密金属集積能に注目した、新しいロジウムナノ微粒子とデンドリマー内包ロジウムナノ微粒子を用いた触媒を提供する。
【解決手段】次式(I)


で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体と、これを還元することにより得られるロジウム系ナノ微粒子並びにロジウム系ナノ微粒子からなる触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品、電子機能材料、環境適合材料などを合成するための種々の化学反応では、温和な条件下での反応の進行や、反応効率の向上、反応時間の短縮などを可能とする適応範囲の広い触媒や、燃料電池のカソードとなる酸素還元電極における酸素還元触媒、排ガスの無害化に効果のある気体改質触媒として、少ない触媒量で高い活性を示す触媒材料の開発が、今もなお重大な課題の1つとなっている。
【0003】
10nm以下の微粒子では、量子効果に基づいてバンドギャップが大きくかつ離散的となることや微粒子化することで活性表面積が増加する。触媒として用いることで多くの原子が反応に関与することができ、バルクよりも高活性となることが期待できる。しかしながら、金属を微粒子化することは、粒子同士による凝集により著しくその機能を低下させる。さらに、単分散な微粒子の形成は大変困難であり、高活性かつ高い耐久性を両立することが課題とされる。また、微粒子化することで構成原子数が減少していくことになるが、原子1つで触媒作用を発現することはなく、どの程度の粒子サイズから触媒作用の発現が見られるのかは未知であり、単分散な1nm程度の粒子の詳細な検討はほとんど行われていなかった。
【0004】
ナノ微粒子の製造方法として、デンドリマーを鋳型として用いる方法が知られている(たとえば特許文献1)。不対電子対を有する窒素などを骨格に持つデンドリマーでは、ルイス酸との錯形成が可能となり内側にさまざまな分子を取り込むことができる。さらに、デンドリマーの構造は中心部が疎、外側が密であるといった特徴を有していることから金属や有機分子などを内包することができる。
【0005】
近年発明者らにより開発され、その検討が続けられているフェニルアゾメチンデンドリマーは、骨格に高い配位性を示すイミン部位を多数有していることからルイス酸と錯形成が可能である。フェニルアゾメチンデンドリマーは、イミンからの電子供与が末端から中心に向けて増加することで、末端のイミンから中心に向かってイミンの電子密度が増加するという電子勾配を有している。このような電子勾配は自然の光合成を模した機構であり、フェニルアゾメチンデンドリマー独自のユニークな特徴である。電子勾配によりルイス酸と錯形成させた場合、デンドリマーの内側から順に錯形成させることが可能となる。デンドリマー各層に対応した金属と錯形成させることで、金属錯体の数と位置を正確に制御することが可能となり、また、デンドリマー金属錯体を還元することで、粒径の分布が極めて小さい精密に制御されたナノクラスターの形成が可能となる(たとえば特許文献2−4)。
【0006】
さらに、フェニルアゾメチンデンドリマーは、π共役による剛直な構造であるため、薄膜とした際、構造が変形することなく緻密に並んだ状態が観測されている。従来のデンドリマーでは、構造が溶媒などの周辺環境により変化し、内包された微粒子がデンドリマーの外へ排出されやすい。しかし、フェニルアゾメチンデンドリマーでは、剛直な骨格に内包されることでデンドリマーのシェル効果が向上する。これにより、内包された微粒子同士の凝集を抑制し、微粒子の触媒活性の安定性、耐久性を期待することができる。
【0007】
発明者らによる以上のような検討の過程から得られた知見ではあるが、フェニルアゾメチンデンドリマーと金属との錯体については大きな可能性が見込まれているものの、その詳細についての検証は依然として多くの未踏の議題として残されていた。
【0008】
このような状況において発明者らは、有機合成における基本的な反応触媒として有用なフェニルアゾメチンデンドリマーと金属との錯体からの微粒子に注目し、その探索を鋭意努めてきた。その際に重視した観点は、微粒子同士の凝集を効果的に抑制してデンドリマー金属錯体の還元によるクラスター化を図る方法と、これにより生成される高活性、高耐久性を兼ね備えた金属触媒の実現であった。
【0009】
たとえば、従来、水素化反応に用いられる触媒に、ニッケル、コバルト、鉄、白金、パラジウム、ロジウムなどが知られており、最も代表的な触媒の1つとしてロジウムを用いたWilkinson錯体(RhCl(PPh3)3)が用いられている。水素化反応は、不飽和結合に分子状水素を付加させることにより飽和化合物を、もしくは三重結合を有する化合物から二重結合を有する化合物を合成する方法として有機反応において一般的かつ重要な反応である。水素化反応は副生成物ができにくく、原料から定量的に合成できることからクリーンな反応として注目されている。Wilkinson錯体は、カルボニル、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、クロロなどといった多くの官能基と反応しにくいことから、広範囲で用いることができる。しかしながら、従来のWilkinson錯体では、基質制限が存在することから4置換のアルケンなどでは効果を示さない。より高活性で基質制限のない汎用性の高いロジウム触媒が強く望まれている。
【0010】
なかでも、ロジウム微粒子は、水素化反応において有用な触媒であるが、1nm程度の精密に制御された単分散な微粒子は開発されていなかった。
【0011】
また、フェニルアゾメチンデンドリマーを微粒子の担体としたときの触媒反応における機能についての知見はなかった。
【0012】
一方、ニトロ基のアミノ基への還元反応も、有機反応において一般的かつ重要な反応であるが、触媒が等量必要な反応であることや副生成物が多いという問題を抱えている。
【特許文献1】特表2001-508484公報
【特許文献2】特開2003-221442公報
【特許文献3】特開2004-076531公報
【特許文献4】特開2006-76965公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、フェニルアゾメチンデンドリマーを鋳型とする新しいロジウム系錯体と、これを利用することで微粒子同士の凝集を抑制し、水素化反応触媒等として高活性とシェル効果による高い耐久性を同時に満たすことができるロジウム系ナノ微粒子、そしてロジウム系ナノ微粒子を利用した触媒と有機化合物の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この出願の発明は、前記の課題を解決するものとして、第1には、次式(I)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中のRは有機分子基を示し、Rは1以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す。Mはそれぞれ独立にロジウム錯体または鉄錯体を示し、その少なくとも一部はロジウム錯体である。mはデンドリマーの世代数を表す1以上の整数を示し、nは前記Rに対するデンドロン部位の結合数を示す。)で表されることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供する。
【0017】
第2には、上記第1のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体において、デンドリマーの全てのイミン部位にロジウム錯体が配位していることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供する。
【0018】
第3には、上記第1のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体において、デンドリマーにおける一部のイミン部位にロジウム錯体が配位しており、他のイミン部位に鉄錯体が配位していることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供する。
【0019】
第4には、上記第3のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体において、デンドリマーの第1世代から第m世代未満までのイミン部位に鉄錯体が配位しており、その外側のイミン部位にロジウム錯体が配位していることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供する。
【0020】
第5には、上記第1から第4のいずれかのフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体において、Rの有機分子基は、単環または多環の芳香族基、ポルフィリン基、フタロシアニン基、サイクロン基またはこれらの誘導基であることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供する。
【0021】
第6には、上記第2のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とするロジウムナノ微粒子を提供する。
【0022】
第7には、上記第3または第4のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とするロジウム系ナノ微粒子を提供する。
【0023】
第8には、上記第1から第5のうちのいずれかのフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体の少くとも一種からなることを特徴とする触媒を提供する。
【0024】
第9には、上記第6または第7のロジウムナノ微粒子およびロジウム系ナノ微粒子のうち少くとも一種からなることを特徴とする触媒を提供する。
【0025】
第10には、上記第8または第9の触媒において、水素化反応に用いることを特徴とする触媒を提供する。
【0026】
第11には、上記第8または第9の触媒において、ニトロ基のアミノ基への還元反応に用いることを特徴とする触媒を提供する。
【0027】
第12には、上記第10の触媒の存在下に、少くともその一部に不飽和結合を有する有機化合物を分子状水素の付加により還元させて飽和有機化合物を合成することを特徴とする飽和有機化合物の製造方法を提供する。
【0028】
第13には、上記第11の触媒の存在下に、ニトロ基を有する有機化合物と分子状水素とを反応させてニトロ基をアミノ基に還元することを特徴とするアミノ基を含有する有機化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0029】
この出願の発明によって、フェニルアゾメチンデンドリマーの高い金属との錯形成能を用いたロジウム系ナノ微粒子の製造と水素化反応等への触媒応用が可能とされる。個数の制御されたロジウム系ナノ微粒子は、水素化反応触媒等として有用な高活性な触媒として効果があり高い耐久性も兼ね備えていることから、環境面や経済面において産業上有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この出願の発明において、前記の式(I)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体は環境ナノ触媒や高分子材料として有用な材料として前駆体となる。前記式(I)における符号Rについては、各種の1価または多価の有機分子基であってよく、置換基を有していてもよい炭化水素基あるいは複素環基等のうちの各種のものが対象とされる。例えば、単環または多環の芳香族基、ポルフィリン基、フタロシアニン基、サイクロン基またはこれらの誘導基であることが例示される。
【0031】
そして、符号Rは全てが同一のものであっても異なっていてもよく、置換基を1つ以上有していてもよいフェニル基である。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。このようなRとしては、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、アミノ基、シアノ基またはジメチルアミノ基等の置換基がo位、m位、p位のいずれか1ヶ所または2ヶ所以上に置換した置換フェニル基が挙げられる。
【0032】
このようなフェニルアゾメチンデンドリマーの合成方法に関しては特に限定しない。デンドリマーの中心から外に向かって合成するDivergent法やデンドリマー末端から中心に向かって合成するConvergent法などが適用でき、さらにこれらの合成法を組み合わせてもよい。
【0033】
符号Mは、それぞれ独立に、1価から多価のロジウム錯体または1価から多価の鉄錯体を示し、その少なくとも一部はロジウム錯体である。
【0034】
ロジウム錯体は、イミン部位に対して錯形成することができればよく、配位子の具体例としてはハロゲン、アセチルアセトン、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。特に、3価の塩化ロジウムを用いることが好ましい。
【0035】
鉄錯体は、イミン部位に対して錯形成することができればよく、化合物の具体例としてはハロゲン化鉄(III)(FeX3)、テトラフルオロホウ酸鉄(II)(Fe(BF4)2)、トリス(2,5-ぺンタジオナト)鉄(III)(Fe(acac)3)などが挙げられる。特に、3価の塩化鉄を用いることが好ましい。
【0036】
前記式(I)における符号mはデンドリマーの世代数を表し、1以上の整数であり、1〜6の範囲の整数とすることが好適である。nは前記Rに対するデンドロン部位の結合数を示すものである。また、Rに複数のデンドロンが結合する場合、各デンドロンの世代は同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
デンドリマーの全てのイミン部位にロジウム錯体を配位させたデンドリマー錯体は、イミン部位を有するフェニルアゾメチンデンドリマーにロジウム錯体を滴下することで錯形成させることにより得ることができ、滴下させる当量は任意とする。特徴的なこととして、ロジウム錯体がデンドリマー構造において内側から外側へと段階的に規則正しく錯形成により集積されていく。これは、フェニルアゾメチンデンドリマー固有の電子勾配に基づくものと考えられ、中心や末端の部分構造(置換基)を変えることで簡単に変化させることができる。微粒子の精密制御の観点からは、ロジウム錯体を錯形成させる量は、内側から各層までのイミン部位の当量にすることが望ましい。
【0038】
デンドリマーにおける一部のイミン部位にロジウム錯体が配位しており、他のイミン部位に鉄錯体が配位しているデンドリマー錯体は、たとえば、最初にイミン部位を有するフェニルアゾメチンデンドリマーに鉄錯体を滴下することで錯形成させ、次いでロジウム錯体を滴下することで錯形成させることにより得ることができる。
【0039】
この際、滴下した錯体は、内側から外側へと段階的に規則正しく錯形成により集積されていく。上記のように鉄錯体を滴下させ次いでロジウム錯体を滴下させた場合には、最初に滴下した鉄錯体はデンドリマーの第1世代のイミン部位から外側に世代順に配位し、次いで滴下したロジウム錯体は、鉄錯体が配位したイミン部位からさらに外側に世代順に配位する。
【0040】
鉄錯体とロジウム錯体は、滴下量等により当量を制御することで、意図した数をデンドリマーの内部に集積させることができ、一分子内に鉄とロジウムの両方を精密に制御して錯形成させることができる。これは、上記したように、フェニルアゾメチンデンドリマーが分子構造内に電子密度勾配を有しているためと考えられる。
【0041】
ロジウム錯体のみを配位したロジウムナノ微粒子、および鉄錯体とロジウム錯体を配位したロジウム系ナノ微粒子は、デンドリマー錯体を還元することで製造することができる。還元方法として、水素化ホウ素ナトリウムや、クエン酸、ポリオール等を用いた化学還元、熱による熱還元、電気化学による電解還元、光照射による光還元などがあり、そのいずれを用いてもよい。なかでも、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化物を用いる還元方法は、容易であって効率的であるので好適なものとして考慮される。水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合、その使用量は1.5〜5.5当量の範囲とすることが望ましい。
【0042】
このようにしてデンドリマー錯体を還元することで、配位させた金属錯体の数に相当する大きさのナノ微粒子を、デンドリマーに内包されたものとして調製することができる。
【0043】
このようにして得られるロジウムナノ微粒子およびロジウム系ナノ微粒子は、反応触媒として利用することができる。これらは、特に水素化反応に好適に用いることができ、基質には、アルケンやアルキンなどの不飽和結合を含む有機化合物を用いることができる。
【0044】
これらのナノ微粒子を水素化反応の触媒とする場合、基質に対する割合は特に限定されないが、一般的により少ない使用量でよいという特徴を有している。通常は0.01〜1mol%、さらには0.1〜0.5mol%程度が好適である。
【0045】
また、これらのロジウムナノ微粒子およびロジウム系ナノ微粒子は、ニトロ基のアミノ基への還元反応の触媒としても好適に用いることができ、基質には、ニトロ基を含む有機化合物、特にニトロベンゼンなどの、他の置換基を有していてもよい芳香族化合物を用いることができる。
【0046】
これらのナノ微粒子をニトロ基のアミノ基への還元反応の触媒とする場合、基質に対する割合は特に限定されないが、一般的により少ない使用量でよいという特徴を有している。通常は0.01〜1mol%、さらには0.1〜0.5mol%程度が好適である。
【0047】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例示によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
次式(II)
【0049】
【化3】

【0050】
で表される化合物(モデル体)と塩化ロジウム(III)を同じ濃度に調製し、比率を変えながらUV-visスペクトルを観察した。錯形成に由来する吸収は、モデル体と塩化ロジウム(III)が1:1の時最大となったことから1:1で錯形成することが示された。錯形成定数は、Benesi-Hildebrand法により1.9×103[M-1]と求められた。
【0051】
ポルフィリンをコアに持つ第4世代のフェニルアゾメチンデンドリマーのトルエン溶液に、メタノールに溶かした塩化ロジウム(III)をデンドリマーに対して1当量ずつ加えた際の吸光度の変化をUV-visスペクトル(添加した塩化ロジウム溶液3mM、フェニルアゾメチンデンドリマー3μM)により観察した。60当量にて錯形成由来の吸収の増加が収束したことからデンドリマー内に存在するイミン部位すべてが塩化ロジウム(III)と錯形成していることが示された。
【0052】
ポルフィリンをコアに持つ第4世代のフェニルアゾメチンデンドリマーに室温で塩化ロジウムを60当量添加することでデンドリマーと錯形成させた。次に、水素化ホウ素ナトリウムをロジウムに対して過剰量(5当量)加えることで金属を還元させた。ロジウム原子の還元状態はXPSを用いて観察した。得られた値からロジウムの3d5/2に由来するbinding Energyより0価まで還元されていることが示された。還元されたロジウムナノ微粒子は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察、1.2nmの粒径の均一な粒子を得た(図1、図2)。また、MALDI-TOF-MSスペクトルより、還元されたロジウムナノ微粒子はデンドリマー内部に安定化されていることが示された(図3)。
<実施例2>
0.3atom%のロジウムナノ微粒子を用いて、常温常圧、メタノール中にてstyreneを基質に水素化反応を行った。反応状態の解析はGC-MSを用いて行った。フェニルアゾメチンデンドリマーから得たロジウム微粒子を用いると2時間程度で原料が消失したが、Wilkinson錯体や末端水酸基である第4世代のポリアミドアミンデンドリマーで同様に作成したロジウム粒子は40時間以上を要した(図4)。フェニルアゾメチンデンドリマー(TPP−DPA G4)から得たロジウム微粒子は他と比べ反応速度が速く20倍程度の触媒活性が確認された。
【0053】
同様の測定条件において1-decene、6-Ph-1-hexene、butyl acrylate、1,5-cyclooctadieneの水素化反応を実施したところ、表1に示すように(触媒回転数:TOF(h-1))、Wilkinson錯体やポリアミドアミンデンドリマーで作成したロジウムナノ粒子と比べ、10-20倍速く水素化されることが確認された。
【0054】
【表1】

【0055】
水素化された生成量は反応時間に増大することからロジウムナノ微粒子が触媒として機能していることが示され、従来知られる触媒よりも反応時間の短縮が確認された。
<実施例3>
ポルフィリンをコアに持つ第4世代のフェニルアゾメチンデンドリマーのトルエン溶液に、室温で塩化鉄のメタノール溶液(28当量)を添加し、次いで塩化ロジウムのメタノール溶液(32当量)を添加することでデンドリマーと錯形成させた(図5)。次に、水素化ホウ素ナトリウムをロジウムと鉄に対して過剰量(5当量)加えることで金属を還元させた。還元されたロジウム−鉄ナノ微粒子は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察、1.2±0.2nmの粒径の均一な粒子を得た(図6、図7)。これは、ロジウムおよび鉄原子約60個に相当する。
<実施例4>
0.3atom%のロジウム−鉄ナノ微粒子を用いて、常温常圧、メタノール中にてbutyl acrylateを基質に水素化反応を行った。反応状態の解析はGC-MSを用いて行った。フェニルアゾメチンデンドリマーから得たロジウム−鉄ナノ微粒子は、実施例1のロジウムナノ微粒子と比較してもさらに高い触媒活性が確認された(図8)。
<実施例5>
0.3atom%の実施例1のロジウムナノ微粒子、0.3atom%の実施例3のロジウム−鉄ナノ微粒子、および0.3atom%のWilkinson錯体を用いて、常温常圧、メタノール中にて水素ガスの存在下にニトロベンゼンのアミノ化反応を行った。反応状態の解析はGC-MSを用いて行った。フェニルアゾメチンデンドリマーから得たロジウムナノ微粒子およびロジウム−鉄ナノ微粒子は、触媒活性が確認され(図9)、特にロジウム−鉄ナノ微粒子を用いると50時間未満で原料が消失した。
<実施例6>
0.3atom%の実施例1のロジウムナノ微粒子、0.3atom%の実施例3のロジウム−鉄ナノ微粒子、および0.3atom%のWilkinson錯体を用いて、常温常圧、メタノール中にて水素ガスの存在下にp−ニトロ安息香酸メチルのアミノ化反応を行った。反応状態の解析はGC-MSを用いて行った。フェニルアゾメチンデンドリマーから得たロジウムナノ微粒子およびロジウム−鉄ナノ微粒子は、触媒活性が確認され(図10)、共に30時間未満で原料が消失した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】TPP-DPAに塩化ロジウムを60当量内包したデンドリマー金属錯体を化学還元したロジウムナノ微粒子のTEM像である。
【図2】TPP-DPAに塩化ロジウムを60当量内包したデンドリマー金属錯体を化学還元したロジウムナノ微粒子のヒストグラムである。
【図3】TPP-DPAに塩化ロジウムを60当量内包したデンドリマー金属錯体のMALDI-TOF-MASSスペクトルである。
【図4】各種ロジウム錯体を用いstyreneを基質とした水素化反応の結果を例示したグラフである。
【図5】フェニルアゾメチンデンドリマーに塩化鉄を錯形成させ、次いで塩化ロジウムを錯形成させ、還元により微粒子化する工程を説明する図である。
【図6】TPP-DPAに塩化鉄および塩化ロジウムを計60当量内包したデンドリマー金属錯体を化学還元したロジウム系ナノ微粒子のTEM像である。
【図7】TPP-DPAに塩化鉄および塩化ロジウムを計60当量内包したデンドリマー金属錯体を化学還元したロジウム系ナノ微粒子のヒストグラムである。
【図8】各種ロジウム錯体を用いbutyl acrylateを基質とした水素化反応の結果を例示したグラフである。
【図9】各種ロジウム錯体を用いニトロベンゼンを基質とした還元反応の結果を例示したグラフである。
【図10】各種ロジウム錯体を用いp−ニトロ安息香酸メチルを基質とした還元反応の結果を例示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)
【化1】

(式中のRは有機分子基を示し、Rは1以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す。Mはそれぞれ独立にロジウム錯体または鉄錯体を示し、その少なくとも一部はロジウム錯体である。mはデンドリマーの世代数を表す1以上の整数を示し、nは前記Rに対するデンドロン部位の結合数を示す。)で表されることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項2】
デンドリマーの全てのイミン部位にロジウム錯体が配位していることを特徴とする請求項1のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項3】
デンドリマーにおける一部のイミン部位にロジウム錯体が配位しており、他のイミン部位に鉄錯体が配位していることを特徴とする請求項1のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項4】
デンドリマーの第1世代から第m世代未満までのイミン部位に鉄錯体が配位しており、その外側のイミン部位にロジウム錯体が配位していることを特徴とする請求項3のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項5】
の有機分子基は、単環または多環の芳香族基、ポルフィリン基、フタロシアニン基、サイクロン基またはこれらの誘導基であることを特徴とする請求項1から4のいずれかのフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項6】
請求項2のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とするロジウムナノ微粒子。
【請求項7】
請求項3または4のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とするロジウム系ナノ微粒子。
【請求項8】
請求項1から5のうちのいずれかのフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体の少くとも一種からなることを特徴とする触媒。
【請求項9】
請求項6または7のロジウムナノ微粒子およびロジウム系ナノ微粒子のうち少くとも一種からなることを特徴とする触媒。
【請求項10】
水素化反応に用いることを特徴とする請求項8または9の触媒。
【請求項11】
ニトロ基のアミノ基への還元反応に用いることを特徴とする請求項8または9の触媒。
【請求項12】
請求項10の触媒の存在下に、少くともその一部に不飽和結合を含む有機化合物を分子状水素の付加により還元させて飽和有機化合物を合成することを特徴とする飽和有機化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項11の触媒の存在下に、ニトロ基を含む有機化合物と分子状水素とを反応させてニトロ基をアミノ基に還元することを特徴とするアミノ基を含む有機化合物の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−100987(P2008−100987A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235937(P2007−235937)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会(2006)講演予稿集CD−ROM」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18、19年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製」産業再生法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】