フォトダイオード及びそれを含む撮像素子
【課題】リーク電流が低減された高効率及び高速な光電変換を実現しつつ、製造工程も簡素化すること。
【解決手段】このフォトダイオード1は、半導体又は金属から成る基板2と、基板2上に形成された埋め込み絶縁層3と、埋め込み絶縁層3上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層6及びn型半導体層7を含む半導体層5,6,7と、半導体層5,6,7上に形成されたゲート絶縁層8と、ゲート絶縁層8上に配置され、平面状の金属膜9aに直線状の貫通溝9bが等間隔に形成された回折格子部9と、を備える。
【解決手段】このフォトダイオード1は、半導体又は金属から成る基板2と、基板2上に形成された埋め込み絶縁層3と、埋め込み絶縁層3上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層6及びn型半導体層7を含む半導体層5,6,7と、半導体層5,6,7上に形成されたゲート絶縁層8と、ゲート絶縁層8上に配置され、平面状の金属膜9aに直線状の貫通溝9bが等間隔に形成された回折格子部9と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光を検出するフォトダイオード及びそれを含む撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光検出技術の分野において、半導体による光電変換現象を利用したフォトダイオードは、量産性に優れ、1次元及び2次元のアレー状に配列した撮像素子等に広く用いられている。一般に、フォトダイオードの性能は、(1)量子効率又は受光感度、(2)動作速度、(3)暗電流によって議論することができる。
【0003】
上記(2)の動作速度を決定するのは、フォトダイオード内の接合容量Cと接続外部回路の負荷抵抗Rとの積で決まる時定数CRと、キャリア走行時間である。この接合容量Cは接合面積を小さくすることによって減らすことができるため、最終的にはキャリア走行時間が動作速度を制限することになる。ところが、キャリア走行時間を短くしようとして空乏層幅を小さくすると、光吸収によって発生したキャリアを十分に収集できなくなって量子効率(受光感度)が低下してしまう。すなわち、上記(1)の量子効率(受光感度)と(2)の動作速度はトレードオフの関係にあって両立が難しい。
【0004】
このような問題に対処するためのフォトダイオードの構造としては、下記特許文献1のものが知られている。このフォトダイオードは、SOI(Silicon On Insulator)上に形成されたn+半導体層及びn−半導体層と、n−半導体層に接して設けられた金属周期構造体とを有し、この金属周期構造体に入射光が入射することにより表面プラズモンを励起し、周期構造によって入射光と表面プラズモンとの共鳴状態を作る。このような従来のフォトダイオードによれば、上記トレードオフの問題を緩和する効果をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2005/098966号
【特許文献2】特開2009−238940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のフォトダイオードの構造では、表面プラズモンから生じる近接場を有効に半導体層に吸収させるために金属周期構造体と半導体層とを接触もしくは極めて近い距離に配置する必要があった。このため、金属と半導体との接合部でのリーク電流が増加したり、金属周期構造体の下地である付着力強化層の影響で効率が大幅に低下したりと、性能の低下したフォトダイオードしか得られない傾向にあった。また、表面プラズモンを励起するためには金属周期構造体を凹凸を有する連続体とする必要があり、金属周期構造体は少なくとも2種類以上の肉厚を有する金属に加工する必要があって、作成方法が複雑で加工自体も困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、リーク電流が低減された高効率及び高速な光電変換を実現しつつ、製造工程も簡素化することが可能なフォトダイオード及びそれを含む撮像素子提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のフォトダイオードは、半導体又は金属から成る基板と、基板上に形成された埋め込み絶縁層と、埋め込み絶縁層上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層及びn型半導体層を含む半導体層と、半導体層上に形成されたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層上に配置され、平面状の導電部材に直線状の貫通溝が等間隔に形成された回折格子部と、を備える。或いは、本発明の撮像素子は、上記のフォトダイオードを有することを特徴とする。
【0009】
このようなフォトダイオード、或いはそれを備える撮像素子によれば、回折格子部に入射する入射光が回折格子部によって回折されてから半導体層に入射し、その入射光のうちの特定波長及び特定偏光の入射光は、導波路モードとして半導体層内に閉じ込められる。これにより、半導体層における空乏層厚さが薄い場合でも入射光の光電変換における量子効率が向上するので、量子効率の向上と動作速度の向上とを両立させることができる。ここで、回折格子部と半導体層とがゲート絶縁層を挟んで離れていても、回折光を半導体層内に閉じ込めることで光電変換効率を高く維持することができる。また、回折格子部が連続体でないので回折格子部の下地である付着力強化層の入射光に対する影響も少ない。その結果、リーク電流の発生を低減しつつ、量子効率をさらに向上させることができる。さらに、回折格子部の構造が単純にされているので、フォトダイオードの製造工程も簡素化することができる。
【0010】
ここで、ゲート絶縁層は、その膜厚tが、下記式(1);
n×t/λ <0.7 …(1)
(但し、上記式中、nはゲート絶縁層を構成する絶縁体の屈折率、λは、入射光の真空中の波長を表す)
を満たすように設定されている、ことが好ましい。この場合、入射光の半導体層での吸収効果を高めて量子効率を十分に維持することができる。
【0011】
また、回折格子部は、貫通溝の配列周期をp、隣接する貫通溝に挟まれた回折格子の幅をwとしたときに、下記式(2);
0.1<w/p<0.9 …(2)
を満たすように設定されている、ことも好ましい。この場合、広い波長範囲で量子効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるフォトダイオード及びそれを含む撮像素子によれば、リーク電流が低減された高効率及び高速な光電変換を実現しつつ、製造工程も簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態にかかるフォトダイオード1を示す斜視図である。
【図2】図1のフォトダイオードのII−II線に沿った断面図である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図4】本発明の変形例である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図5】本発明の別の変形例である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図6】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGと基板電圧VSUBを共にゼロとした場合の空乏層の形成の様子を示す側面図である。
【図7】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGを負の値に基板電圧VSUBを正の値に設定した場合の空乏層の形成の様子を示す側面図である。
【図8】図1のフォトダイオードにおける動作速度と量子効率との関係を示すグラフである。
【図9】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGを様々な値に固定し、基板電圧VSUBを変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の変化の実測結果を示すグラフである。
【図10】図1の回折格子部のピッチpを様々変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の波長特性の実測結果を示すグラフである。
【図11】図1の回折格子部のピッチpを様々変化させた場合のTE偏光の光に対する量子効率の波長特性の実測結果を示すグラフである。
【図12】図1のフォトダイオードにおける様々な偏光角の光に対する量子効率の変化の実測結果を示すグラフである。
【図13】図1のフォトダイオードの半導体層内に形成される導波路モードと量子効率のピーク波長との対応を示すグラフである。
【図14】図1のフォトダイオードにおける量子効率の回折格子の線幅Wに対する依存性に関する有限差分時間領域法によるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図15】図1のフォトダイオードにおける量子効率の回折格子の膜厚tAuに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【図16】図1のフォトダイオードにおける量子効率のゲート絶縁層8の膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【図17】図1のフォトダイオードにおける量子効率の正規化された膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明にフォトダイオード及び撮像素子の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の好適な一実施形態にかかるフォトダイオード1の斜視図、図2は、図1のフォトダイオード1のII−II線に沿った一部断面図である。同図に示すフォトダイオード1は、入射光強度に応じた出力信号を生成するための半導体受光素子であり、撮像素子の一部を構成する素子である。なお、以下の説明においては、図1及び図2に示すように、フォトダイオード1を構成する各層の積層方向をZ軸方向とし、後述する回折格子構造の格子の配列方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向に垂直な方向、すなわち、格子に沿った方向をX軸方向とする。
【0016】
図1及び図2に示すように、フォトダイオード1は、シリコン基板2上に酸化シリコン等の埋め込み絶縁層3と半導体層5,6,7が積層されたSOI(Silicon On Insulator)構造4を有している。具体的には、この埋め込み絶縁層3上の矩形状の所定領域において、X軸方向に沿って、3つの半導体層6,5,7がこの順で隣接して設けられている。
【0017】
3つの半導体層5,6,7のうちの半導体層5は、深さ方向の大部分が空乏化して光吸収層として機能するように、シリコン等の半導体に低濃度でボロンやリン等のp型不純物又はn型不純物が添加されて構成されている。また、半導体層6,7は、それぞれ、埋め込み絶縁層3上において半導体層5をX軸に沿った方向から挟むように、半導体層5とほぼ同一の膜厚でp+型半導体層及びn+型半導体層として形成されている。このp+型半導体層6及びn+型半導体層7は、それぞれ、シリコン等の半導体に高濃度(1019cm−3以上)でボロン等のp型不純物及びリン等のn型不純物が添加されて構成されており、半導体層5に並んで設けられることでアノード電極及びカソード電極として機能する。
【0018】
これらの半導体層5,6,7上には、半導体層5,6,7を覆うように酸化シリコン等から成るゲート絶縁層8が形成され、このゲート絶縁層8上の少なくとも半導体層5を覆う領域には回折格子部9が配置されている。すなわち、回折格子部9は、ゲート絶縁層8を介して半導体層5を覆っており、半導体層5,6,7から絶縁されている。
【0019】
回折格子部9は、平面状の導電部材である金属膜9aに、半導体層5を覆う領域に亘ってX軸方向に沿ってゲート絶縁層8の表面まで貫通する複数の直線状の貫通溝9bが、Y軸方向に等間隔に並ぶように形成された構造を有している。すなわち、回折格子部9は、Y軸方向に沿った隣接する貫通溝9bの間の回折格子9cの配列周期がpとなり、回折格子9cのY軸方向に沿った線幅がWになるように形成されることにより、線状の複数の回折格子9cが貫通溝9bを挟んでY軸方向に並んだ構成を有している。このような回折格子部9の材料としては、例えば、チタン(Ti)の付着力強化層上に形成した金(Au)等の導電性金属が用いられる。この回折格子部9は、MOS構造横型pn接合ダイオードのゲート電極としての役割を有する。
【0020】
次に、本実施形態のフォトダイオード1を含む撮像素子における画素ユニットの構成について説明する。
【0021】
図3(a)は、撮像素子における各画素を構成する画素ユニット101の平面図、図3(b)は、画素ユニット101の回路図である。この画素ユニット101では、フォトダイオード1のカソード電極が浮遊電極として働き、そのカソード電極は初期化用トランジスタ102を介して初期化電位VDDに設定される。そして、フォトダイオード1のカソード電極には、バッファトランジスタ104のゲート電極が接続され、バッファトランジスタ104には、画素選択用トランジスタ103が直列に接続されている。浮遊電極の電圧信号は、画素選択用トランジスタ103を導通させることにより、バッファトランジスタ104を介して読み出される。このような画素ユニット101を1次元あるいは2次元のアレー状に配列することにより撮像素子を構成することができる。なお、初期化用トランジスタ102、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0022】
また、図4(a)は、本実施形態の変形例である画素ユニット201の平面図、図4(b)は、画素ユニット201の回路図である。この画素ユニット201では、フォトダイオード1のアノード電極に正の初期化電圧を印加してフォトダイオード1を導通状態にすることにより浮遊電極の電圧を初期化する。このような構成により、初期化用トランジスタを省略することができ、浮遊電極の周りの寄生容量を低減させて単位電荷あたりの出力信号を大きくし画素面積に占める受光面積の割合を増加させて入射光を有効利用することができる。また、絶縁層3上に形成されたフォトダイオード1を用いることでアノード電極の電圧を独立に設定するための構造が簡略化される。なお、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0023】
また、図5(a)は、本実施形態の別の変形例である画素ユニット301の平面図、図5(b)は、画素ユニット301の回路図である。この画素ユニット301では、フォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極として用いて、バッファトランジスタ104のゲートが、MOS容量105を介して浮遊電極に静電的に結合されている。ここで、ゲート電極303下の半導体層を反転させるために、バッファトランジスタ104側はnチャネルに、浮遊電極側はpチャネルとなっている。この画素ユニット301を受光動作させる際にはカソード電極に正電圧が印加され、初期化の際にはカソード電極に負電圧が印加される。このようにバッファトランジスタ104のゲートがMOS容量105のゲート絶縁層を介して浮遊電極に静電的に結合されるような構成を採ることにより、浮遊電極に生じる寄生容量をさらに低減し、単位電荷あたりの出力信号を大きくすることができる。なお、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のカソード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0024】
以上説明したフォトダイオード1及びそれを含む撮像素子によれば、回折格子部9に入射する入射光Lが回折格子部9によって回折されてから半導体層5に入射し、その入射光のうちの特定波長及び特定偏光の入射光は、導波路モードとして半導体層5内に閉じ込められる(図2)。これにより、半導体層5における空乏層幅が小さい場合でも入射光Lの光電変換における量子効率が向上するので、量子効率の向上と動作速度の向上とを両立させることができる。ここで、回折格子部9と半導体層5とがゲート絶縁層8を挟んで離れていても、回折光を半導体層5内に閉じ込めることで光電変換効率を高く維持することができる。また、回折格子部9が連続体でないので回折格子部9の下地である付着力強化層の入射光Lに対する影響も少ない。その結果、半導体層5でのリーク電流の発生を低減しつつ、量子効率をさらに向上させることができる。さらに、回折格子部9の構造が平面状の導電部材に溝を設けたような簡単な構造であり、導電部材に凹凸を設ける構造の場合のように厚さを複数種類に加工する必要がないので、フォトダイオード1の製造工程も簡素化することができる。
【0025】
さらに、フォトダイオード1は、回折格子部9によって入射光を導波路モードで閉じ込めることにより、特定波長・特定偏光の入射光の量子効率を選択的に向上させる。また、SOI構造4を採用することで、半導体が誘電率の低い材料で挟まれた導波路を形成することができるという効果が得られるとともに、半導体の周りの寄生容量を減らして動作速度をさらに向上させるという副次的効果も得られる。このような特定波長や特定偏光の光に関して量子効率が向上するという効果は、波長フィルタ機能付きフォトダイオードや偏光フィルタ機能付きフォトダイオードの新たな作製方法を生むという利点をもたらす。すなわち、材料や作製工程を変えることなく、レイアウトや寸法の変更のみによって多種類のフィルタ機能付きフォトダイオードを同時に作製(ワンチップに集積化)することが可能になる。また、SOIが使用される微細シリコン集積回路へのフォトダイオード1の組み込みも容易である。加えて、MOS構造横型pn接合の接合形式を採用しているので、MSM型フォトダイオードより暗電流を少なくできる。
【0026】
図6及び図7は、フォトダイオード1において回折格子部9に印加するゲート電圧VGとシリコン基板2に印加する基板電圧VSUBを変化させた場合の空乏層の形成の様子を示している。この場合、アノード電極である半導体層6を接地し、カソード電極である半導体層7に印加するカソード電圧VCを正電圧に設定することで逆バイアスを印加している。ここで、図6に示すように、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBを0Vに設定した場合には、空乏層の領域ADが小さく、キャリア収集効率が低くなり、その結果量子効率が低くなる。これに比較して、図7に示すように、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBを適切な電圧に設定した場合には、空乏層の領域ADが大きく拡がり、キャリア収集効率が高くなり、その結果量子効率が高くなる。なお、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBに印加する電圧の極性によって、半導体/絶縁体界面に誘起されるキャリアの極性が異なってくる。すなわち、VG>0かつVSUB<0とすることで、図7とは逆極性のキャリアを半導体層の表面と裏面に誘起し領域ADを大きく拡げることができる。
【0027】
以下、本実施形態のフォトダイオード1の特性に関する実測結果及びシミュレーション結果について示す。なお、それぞれの結果において、特に明記しない限り、回折格子部9の厚さは、材料として金を用いた場合は80nmと、その下地にある付着力強化層のチタンの5nmとの計85nmであり、ゲート絶縁層8は厚さ100nmの酸化シリコン(SiO2)層であり、半導体層5,6,7は厚さ95nmのシリコン層であり、埋め込み絶縁層3は厚さ400nmの酸化シリコン(SiO2)層である。
【0028】
最初に、図8には、フォトダイオード1に波長700nmの光を入射させた場合の動作速度と量子効率との関係を示す。波長700nmの光に対してシリコンフォトダイオードで40GHzの動作速度を実現しようとすると空乏層の厚さは100nmまで薄くする必要があるが、その場合は従来のシリコンフォトダイオードでは、1.9%にまで低下してしまう。これに比較して、本実施形態のフォトダイオード1では同じ速度で60%もの量子効率を実現でき、従来のシリコンフォトダイオードに比較してシミュレーション結果で30倍の性能が達成される。
【0029】
図9には、カソード電圧VC=0.2Vに設定し、ゲート電圧VGを様々な値に固定し、基板電圧VSUBを変化させた場合に、波長680nmのTM偏光の光に対する量子効率の変化を示している。このときの入射光の条件は、回折格子部9のピッチp=300nmの際に量子効率がピークとなる波長である680nmとしている。ここで言うTM偏光とは、入射面を回折格子部9の回折格子9cの周期配列方向に平行であって、かつ、回折格子部9の表面に垂直な面、すなわち、YZ平面に平行な面と定義した場合の、磁界の方向がその入射面と垂直な偏光状態を指し、このTM偏光の偏光角は0度とする。この結果から、VG=VSUB=0Vの時、空乏層の領域が小さく量子効率は低いが、電圧VG,VSUBに適切な電圧を印加した時、空乏層の領域が大きく、量子効率は高くなることがわかる。以降に示す結果では、VG=-15V、VSUB=10Vと設定している。
【0030】
また、図10には、回折格子部9のピッチpを様々変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の波長特性を示している。この結果から、回折格子部9のピッチpを大きくするに従って、量子効率のピーク波長も大きくなることがわかった。また、ピッチp=300nmの場合、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して、ピーク波長の680nmの光に関する量子効率は8.2倍程度向上する。さらに、図11には、回折格子部9のピッチpを様々変化させた場合のTE偏光の光に対する量子効率の波長特性を示している。ここで言うTE偏光とは、電界の方向が入射面と垂直な偏光状態を指し、このTE偏光の偏光角は90度とする。この結果から、回折格子部9のピッチpを大きくするに従って、量子効率のピーク波長も大きくなり、TM偏光に比較してピーク波長は小さくなることがわかった。また、ピッチp=340nmの場合、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して、ピーク波長の595nmの光に関する量子効率は3.5倍程度向上する。
【0031】
図12には、波長680nmの様々な偏光角の光に対する量子効率の変化を示している。このときの入射光の条件は、回折格子部9のピッチp=300nmの際に量子効率がピークとなるTM偏光の波長である680nmとしている。これにより、TM偏光とTE偏光の弁別比は46倍であり、フォトダイオード1がフィルタ機能を発揮していることがわかる。ここで、ランダム偏光の光に対する量子効率は、この偏光角依存の平均を取ることによって見積もることができる。例えば、図12の場合は平均量子効率が0.13で、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して4.0倍程度向上する。
【0032】
図10及び図11に示した外部量子効率のピーク波長は、フォトダイオード1で形成される各導波路モードの伝搬波長と回折格子部9の周期pが一致する波長となる。図13には、フォトダイオード1で形成される導波路モードと量子効率のピーク波長との対応を示すグラフである。このグラフにおける実測結果及びシミュレーション結果は回折格子部9のピッチpに対するピーク波長を示している。また、このグラフには、厚さ95nmのシリコン層が厚さ無限大の酸化シリコン層に挟まれて構成される導波路を想定した場合の伝搬波長λgの計算結果もあわせて示す。すなわち、シリコン導波路モードの伝搬波長λgは下記式(3);
【数1】
によって計算される(λ:真空中の波長、ns:半導体であるシリコンの屈折率、ni:絶縁体である酸化シリコンの屈折率、ts:半導体層であるシリコン層の膜厚)。この結果より、ピーク波長は、伝搬波長λgとピッチpが一致する波長であることがわかり、シリコン層の膜厚と回折格子部9のピッチpでほぼ決定される。
【0033】
また、図14には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率の回折格子9cの線幅Wに対する依存性に関する有限差分時間領域法によるシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、ピッチp=300nm、ゲート絶縁層8の厚さ100nm、半導体層5,6,7の膜厚100nmと想定した。この結果が示すように、線幅Wとピッチpとの比W/p=0.7の場合に外部量子効率が最大となる。線幅Wが変化した際のピーク波長のずれは10nm未満と小さく、回折格子9cの線幅は外部量子効率の値にのみ影響を与える。本実施形態のフォトダイオード1では、外部量子効率の向上が図られる範囲である下記式;
0.1<W/p<0.9
を満たすように設定されていることが好適である。
【0034】
さらに、図15には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率の回折格子9cの膜厚tAuに対する依存性に関するシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、回折格子9cの材料を金(Au)とし、ピッチp=300nm、線幅W=150nm、半導体層5,6,7の膜厚100nmとし、回折格子部9の下地である付着力強化層がない場合を想定した。この結果が示すように、膜厚tAuには最適値が存在し、120nmで外部量子効率が最大となっている。また、膜厚tAuが変化した際のピーク波長のずれは数nmと小さくなっている。
【0035】
図16には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率のゲート絶縁層8の膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、ピッチp=300nm、線幅W=210nm、半導体層5,6,7の膜厚100nm、回折格子9cの膜厚tAu=100nmとした。この結果が示すように、膜厚tOXにも最適値が存在し、100nmで外部量子効率が最大となっている。また、膜厚tOXが80nm以上でピーク波長はほぼ固定される。さらに、図17には、入射するTM偏光の波長を705nmで固定した場合の、フォトダイオード1における量子効率の正規化された膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果も示す。このグラフにはフォトダイオード1によって反射された反射光の強度のシミュレーション結果もあわせて示している。このシミュレーション結果を見ると、膜厚tOXをゲート絶縁層8を構成する絶縁体である酸化シリコンの屈折率nOX、及び入射光の真空中の波長λで正規化した値nOXtOX/λ=0.207(tOX=100nm)で外部量子効率が最大であることが分かった。また、本実施形態のフォトダイオード1では、外部量子効率の向上が図られる範囲である下記式;
nOXtOX/λ<0.7
を満たすように設定されていることが好適であり、
さらには、外部量子効率が顕著に向上する範囲である下記式;
0.07<nOXtOX/λ<0.35
を満たすように設定されていることがより好適である。
【0036】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、シリコン基板2の代わりにステンレスやアルミニウム等の金属から成る基板を用いてもよい。また、半導体層5の材料としては不純物を添加しない半導体を用いてもよい。
【0037】
回折格子9cの材料としては、金に限らず、銀、銅、アルミニウム等の金属や、その他の導電性材料、例えばリン、ボロン、砒素等の不純物を添加した多結晶シリコンなどを用いてもよい。それらの金属や導電性材料の下に付着力強化層として、チタン、クロム、パラジウム、酸化タンタル、窒化シリコンなどの薄い層を挿入してもよい。
【0038】
また、回折格子9cの向きは、検出したい偏光の向きに応じて、図1のXY平面内で任意の向きに回転させてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…フォトダイオード、2…シリコン基板、3…埋め込み絶縁層、4…SOI構造、5…半導体層、6…p型半導体層、7…n型半導体層、8…ゲート絶縁層、9…回折格子部、9a…金属膜(導電部材)9b…貫通溝、9c…回折格子、101,201,301…画素ユニット(撮像素子)、L…入射光、p…ピッチ、W…線幅、AD…空乏層の領域、102…初期化用トランジスタ、103…画素選択用トランジスタ、104…バッファトランジスタ、105…MOS容量。
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光を検出するフォトダイオード及びそれを含む撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光検出技術の分野において、半導体による光電変換現象を利用したフォトダイオードは、量産性に優れ、1次元及び2次元のアレー状に配列した撮像素子等に広く用いられている。一般に、フォトダイオードの性能は、(1)量子効率又は受光感度、(2)動作速度、(3)暗電流によって議論することができる。
【0003】
上記(2)の動作速度を決定するのは、フォトダイオード内の接合容量Cと接続外部回路の負荷抵抗Rとの積で決まる時定数CRと、キャリア走行時間である。この接合容量Cは接合面積を小さくすることによって減らすことができるため、最終的にはキャリア走行時間が動作速度を制限することになる。ところが、キャリア走行時間を短くしようとして空乏層幅を小さくすると、光吸収によって発生したキャリアを十分に収集できなくなって量子効率(受光感度)が低下してしまう。すなわち、上記(1)の量子効率(受光感度)と(2)の動作速度はトレードオフの関係にあって両立が難しい。
【0004】
このような問題に対処するためのフォトダイオードの構造としては、下記特許文献1のものが知られている。このフォトダイオードは、SOI(Silicon On Insulator)上に形成されたn+半導体層及びn−半導体層と、n−半導体層に接して設けられた金属周期構造体とを有し、この金属周期構造体に入射光が入射することにより表面プラズモンを励起し、周期構造によって入射光と表面プラズモンとの共鳴状態を作る。このような従来のフォトダイオードによれば、上記トレードオフの問題を緩和する効果をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2005/098966号
【特許文献2】特開2009−238940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のフォトダイオードの構造では、表面プラズモンから生じる近接場を有効に半導体層に吸収させるために金属周期構造体と半導体層とを接触もしくは極めて近い距離に配置する必要があった。このため、金属と半導体との接合部でのリーク電流が増加したり、金属周期構造体の下地である付着力強化層の影響で効率が大幅に低下したりと、性能の低下したフォトダイオードしか得られない傾向にあった。また、表面プラズモンを励起するためには金属周期構造体を凹凸を有する連続体とする必要があり、金属周期構造体は少なくとも2種類以上の肉厚を有する金属に加工する必要があって、作成方法が複雑で加工自体も困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、リーク電流が低減された高効率及び高速な光電変換を実現しつつ、製造工程も簡素化することが可能なフォトダイオード及びそれを含む撮像素子提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のフォトダイオードは、半導体又は金属から成る基板と、基板上に形成された埋め込み絶縁層と、埋め込み絶縁層上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層及びn型半導体層を含む半導体層と、半導体層上に形成されたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層上に配置され、平面状の導電部材に直線状の貫通溝が等間隔に形成された回折格子部と、を備える。或いは、本発明の撮像素子は、上記のフォトダイオードを有することを特徴とする。
【0009】
このようなフォトダイオード、或いはそれを備える撮像素子によれば、回折格子部に入射する入射光が回折格子部によって回折されてから半導体層に入射し、その入射光のうちの特定波長及び特定偏光の入射光は、導波路モードとして半導体層内に閉じ込められる。これにより、半導体層における空乏層厚さが薄い場合でも入射光の光電変換における量子効率が向上するので、量子効率の向上と動作速度の向上とを両立させることができる。ここで、回折格子部と半導体層とがゲート絶縁層を挟んで離れていても、回折光を半導体層内に閉じ込めることで光電変換効率を高く維持することができる。また、回折格子部が連続体でないので回折格子部の下地である付着力強化層の入射光に対する影響も少ない。その結果、リーク電流の発生を低減しつつ、量子効率をさらに向上させることができる。さらに、回折格子部の構造が単純にされているので、フォトダイオードの製造工程も簡素化することができる。
【0010】
ここで、ゲート絶縁層は、その膜厚tが、下記式(1);
n×t/λ <0.7 …(1)
(但し、上記式中、nはゲート絶縁層を構成する絶縁体の屈折率、λは、入射光の真空中の波長を表す)
を満たすように設定されている、ことが好ましい。この場合、入射光の半導体層での吸収効果を高めて量子効率を十分に維持することができる。
【0011】
また、回折格子部は、貫通溝の配列周期をp、隣接する貫通溝に挟まれた回折格子の幅をwとしたときに、下記式(2);
0.1<w/p<0.9 …(2)
を満たすように設定されている、ことも好ましい。この場合、広い波長範囲で量子効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるフォトダイオード及びそれを含む撮像素子によれば、リーク電流が低減された高効率及び高速な光電変換を実現しつつ、製造工程も簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態にかかるフォトダイオード1を示す斜視図である。
【図2】図1のフォトダイオードのII−II線に沿った断面図である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図4】本発明の変形例である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図5】本発明の別の変形例である画素ユニットの平面図であり、(b)は、(a)の画素ユニットの回路図である。
【図6】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGと基板電圧VSUBを共にゼロとした場合の空乏層の形成の様子を示す側面図である。
【図7】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGを負の値に基板電圧VSUBを正の値に設定した場合の空乏層の形成の様子を示す側面図である。
【図8】図1のフォトダイオードにおける動作速度と量子効率との関係を示すグラフである。
【図9】図1のフォトダイオードにおいてゲート電圧VGを様々な値に固定し、基板電圧VSUBを変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の変化の実測結果を示すグラフである。
【図10】図1の回折格子部のピッチpを様々変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の波長特性の実測結果を示すグラフである。
【図11】図1の回折格子部のピッチpを様々変化させた場合のTE偏光の光に対する量子効率の波長特性の実測結果を示すグラフである。
【図12】図1のフォトダイオードにおける様々な偏光角の光に対する量子効率の変化の実測結果を示すグラフである。
【図13】図1のフォトダイオードの半導体層内に形成される導波路モードと量子効率のピーク波長との対応を示すグラフである。
【図14】図1のフォトダイオードにおける量子効率の回折格子の線幅Wに対する依存性に関する有限差分時間領域法によるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図15】図1のフォトダイオードにおける量子効率の回折格子の膜厚tAuに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【図16】図1のフォトダイオードにおける量子効率のゲート絶縁層8の膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【図17】図1のフォトダイオードにおける量子効率の正規化された膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明にフォトダイオード及び撮像素子の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の好適な一実施形態にかかるフォトダイオード1の斜視図、図2は、図1のフォトダイオード1のII−II線に沿った一部断面図である。同図に示すフォトダイオード1は、入射光強度に応じた出力信号を生成するための半導体受光素子であり、撮像素子の一部を構成する素子である。なお、以下の説明においては、図1及び図2に示すように、フォトダイオード1を構成する各層の積層方向をZ軸方向とし、後述する回折格子構造の格子の配列方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向に垂直な方向、すなわち、格子に沿った方向をX軸方向とする。
【0016】
図1及び図2に示すように、フォトダイオード1は、シリコン基板2上に酸化シリコン等の埋め込み絶縁層3と半導体層5,6,7が積層されたSOI(Silicon On Insulator)構造4を有している。具体的には、この埋め込み絶縁層3上の矩形状の所定領域において、X軸方向に沿って、3つの半導体層6,5,7がこの順で隣接して設けられている。
【0017】
3つの半導体層5,6,7のうちの半導体層5は、深さ方向の大部分が空乏化して光吸収層として機能するように、シリコン等の半導体に低濃度でボロンやリン等のp型不純物又はn型不純物が添加されて構成されている。また、半導体層6,7は、それぞれ、埋め込み絶縁層3上において半導体層5をX軸に沿った方向から挟むように、半導体層5とほぼ同一の膜厚でp+型半導体層及びn+型半導体層として形成されている。このp+型半導体層6及びn+型半導体層7は、それぞれ、シリコン等の半導体に高濃度(1019cm−3以上)でボロン等のp型不純物及びリン等のn型不純物が添加されて構成されており、半導体層5に並んで設けられることでアノード電極及びカソード電極として機能する。
【0018】
これらの半導体層5,6,7上には、半導体層5,6,7を覆うように酸化シリコン等から成るゲート絶縁層8が形成され、このゲート絶縁層8上の少なくとも半導体層5を覆う領域には回折格子部9が配置されている。すなわち、回折格子部9は、ゲート絶縁層8を介して半導体層5を覆っており、半導体層5,6,7から絶縁されている。
【0019】
回折格子部9は、平面状の導電部材である金属膜9aに、半導体層5を覆う領域に亘ってX軸方向に沿ってゲート絶縁層8の表面まで貫通する複数の直線状の貫通溝9bが、Y軸方向に等間隔に並ぶように形成された構造を有している。すなわち、回折格子部9は、Y軸方向に沿った隣接する貫通溝9bの間の回折格子9cの配列周期がpとなり、回折格子9cのY軸方向に沿った線幅がWになるように形成されることにより、線状の複数の回折格子9cが貫通溝9bを挟んでY軸方向に並んだ構成を有している。このような回折格子部9の材料としては、例えば、チタン(Ti)の付着力強化層上に形成した金(Au)等の導電性金属が用いられる。この回折格子部9は、MOS構造横型pn接合ダイオードのゲート電極としての役割を有する。
【0020】
次に、本実施形態のフォトダイオード1を含む撮像素子における画素ユニットの構成について説明する。
【0021】
図3(a)は、撮像素子における各画素を構成する画素ユニット101の平面図、図3(b)は、画素ユニット101の回路図である。この画素ユニット101では、フォトダイオード1のカソード電極が浮遊電極として働き、そのカソード電極は初期化用トランジスタ102を介して初期化電位VDDに設定される。そして、フォトダイオード1のカソード電極には、バッファトランジスタ104のゲート電極が接続され、バッファトランジスタ104には、画素選択用トランジスタ103が直列に接続されている。浮遊電極の電圧信号は、画素選択用トランジスタ103を導通させることにより、バッファトランジスタ104を介して読み出される。このような画素ユニット101を1次元あるいは2次元のアレー状に配列することにより撮像素子を構成することができる。なお、初期化用トランジスタ102、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0022】
また、図4(a)は、本実施形態の変形例である画素ユニット201の平面図、図4(b)は、画素ユニット201の回路図である。この画素ユニット201では、フォトダイオード1のアノード電極に正の初期化電圧を印加してフォトダイオード1を導通状態にすることにより浮遊電極の電圧を初期化する。このような構成により、初期化用トランジスタを省略することができ、浮遊電極の周りの寄生容量を低減させて単位電荷あたりの出力信号を大きくし画素面積に占める受光面積の割合を増加させて入射光を有効利用することができる。また、絶縁層3上に形成されたフォトダイオード1を用いることでアノード電極の電圧を独立に設定するための構造が簡略化される。なお、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0023】
また、図5(a)は、本実施形態の別の変形例である画素ユニット301の平面図、図5(b)は、画素ユニット301の回路図である。この画素ユニット301では、フォトダイオード1のアノード電極を浮遊電極として用いて、バッファトランジスタ104のゲートが、MOS容量105を介して浮遊電極に静電的に結合されている。ここで、ゲート電極303下の半導体層を反転させるために、バッファトランジスタ104側はnチャネルに、浮遊電極側はpチャネルとなっている。この画素ユニット301を受光動作させる際にはカソード電極に正電圧が印加され、初期化の際にはカソード電極に負電圧が印加される。このようにバッファトランジスタ104のゲートがMOS容量105のゲート絶縁層を介して浮遊電極に静電的に結合されるような構成を採ることにより、浮遊電極に生じる寄生容量をさらに低減し、単位電荷あたりの出力信号を大きくすることができる。なお、バッファトランジスタ104、及び画素選択用トランジスタ103としては、nチャネルMOSFETを用いているが、pチャネルMOSFETを使用してフォトダイオード1のカソード電極を浮遊電極に設定してもよい。
【0024】
以上説明したフォトダイオード1及びそれを含む撮像素子によれば、回折格子部9に入射する入射光Lが回折格子部9によって回折されてから半導体層5に入射し、その入射光のうちの特定波長及び特定偏光の入射光は、導波路モードとして半導体層5内に閉じ込められる(図2)。これにより、半導体層5における空乏層幅が小さい場合でも入射光Lの光電変換における量子効率が向上するので、量子効率の向上と動作速度の向上とを両立させることができる。ここで、回折格子部9と半導体層5とがゲート絶縁層8を挟んで離れていても、回折光を半導体層5内に閉じ込めることで光電変換効率を高く維持することができる。また、回折格子部9が連続体でないので回折格子部9の下地である付着力強化層の入射光Lに対する影響も少ない。その結果、半導体層5でのリーク電流の発生を低減しつつ、量子効率をさらに向上させることができる。さらに、回折格子部9の構造が平面状の導電部材に溝を設けたような簡単な構造であり、導電部材に凹凸を設ける構造の場合のように厚さを複数種類に加工する必要がないので、フォトダイオード1の製造工程も簡素化することができる。
【0025】
さらに、フォトダイオード1は、回折格子部9によって入射光を導波路モードで閉じ込めることにより、特定波長・特定偏光の入射光の量子効率を選択的に向上させる。また、SOI構造4を採用することで、半導体が誘電率の低い材料で挟まれた導波路を形成することができるという効果が得られるとともに、半導体の周りの寄生容量を減らして動作速度をさらに向上させるという副次的効果も得られる。このような特定波長や特定偏光の光に関して量子効率が向上するという効果は、波長フィルタ機能付きフォトダイオードや偏光フィルタ機能付きフォトダイオードの新たな作製方法を生むという利点をもたらす。すなわち、材料や作製工程を変えることなく、レイアウトや寸法の変更のみによって多種類のフィルタ機能付きフォトダイオードを同時に作製(ワンチップに集積化)することが可能になる。また、SOIが使用される微細シリコン集積回路へのフォトダイオード1の組み込みも容易である。加えて、MOS構造横型pn接合の接合形式を採用しているので、MSM型フォトダイオードより暗電流を少なくできる。
【0026】
図6及び図7は、フォトダイオード1において回折格子部9に印加するゲート電圧VGとシリコン基板2に印加する基板電圧VSUBを変化させた場合の空乏層の形成の様子を示している。この場合、アノード電極である半導体層6を接地し、カソード電極である半導体層7に印加するカソード電圧VCを正電圧に設定することで逆バイアスを印加している。ここで、図6に示すように、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBを0Vに設定した場合には、空乏層の領域ADが小さく、キャリア収集効率が低くなり、その結果量子効率が低くなる。これに比較して、図7に示すように、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBを適切な電圧に設定した場合には、空乏層の領域ADが大きく拡がり、キャリア収集効率が高くなり、その結果量子効率が高くなる。なお、ゲート電圧VG及び基板電圧VSUBに印加する電圧の極性によって、半導体/絶縁体界面に誘起されるキャリアの極性が異なってくる。すなわち、VG>0かつVSUB<0とすることで、図7とは逆極性のキャリアを半導体層の表面と裏面に誘起し領域ADを大きく拡げることができる。
【0027】
以下、本実施形態のフォトダイオード1の特性に関する実測結果及びシミュレーション結果について示す。なお、それぞれの結果において、特に明記しない限り、回折格子部9の厚さは、材料として金を用いた場合は80nmと、その下地にある付着力強化層のチタンの5nmとの計85nmであり、ゲート絶縁層8は厚さ100nmの酸化シリコン(SiO2)層であり、半導体層5,6,7は厚さ95nmのシリコン層であり、埋め込み絶縁層3は厚さ400nmの酸化シリコン(SiO2)層である。
【0028】
最初に、図8には、フォトダイオード1に波長700nmの光を入射させた場合の動作速度と量子効率との関係を示す。波長700nmの光に対してシリコンフォトダイオードで40GHzの動作速度を実現しようとすると空乏層の厚さは100nmまで薄くする必要があるが、その場合は従来のシリコンフォトダイオードでは、1.9%にまで低下してしまう。これに比較して、本実施形態のフォトダイオード1では同じ速度で60%もの量子効率を実現でき、従来のシリコンフォトダイオードに比較してシミュレーション結果で30倍の性能が達成される。
【0029】
図9には、カソード電圧VC=0.2Vに設定し、ゲート電圧VGを様々な値に固定し、基板電圧VSUBを変化させた場合に、波長680nmのTM偏光の光に対する量子効率の変化を示している。このときの入射光の条件は、回折格子部9のピッチp=300nmの際に量子効率がピークとなる波長である680nmとしている。ここで言うTM偏光とは、入射面を回折格子部9の回折格子9cの周期配列方向に平行であって、かつ、回折格子部9の表面に垂直な面、すなわち、YZ平面に平行な面と定義した場合の、磁界の方向がその入射面と垂直な偏光状態を指し、このTM偏光の偏光角は0度とする。この結果から、VG=VSUB=0Vの時、空乏層の領域が小さく量子効率は低いが、電圧VG,VSUBに適切な電圧を印加した時、空乏層の領域が大きく、量子効率は高くなることがわかる。以降に示す結果では、VG=-15V、VSUB=10Vと設定している。
【0030】
また、図10には、回折格子部9のピッチpを様々変化させた場合のTM偏光の光に対する量子効率の波長特性を示している。この結果から、回折格子部9のピッチpを大きくするに従って、量子効率のピーク波長も大きくなることがわかった。また、ピッチp=300nmの場合、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して、ピーク波長の680nmの光に関する量子効率は8.2倍程度向上する。さらに、図11には、回折格子部9のピッチpを様々変化させた場合のTE偏光の光に対する量子効率の波長特性を示している。ここで言うTE偏光とは、電界の方向が入射面と垂直な偏光状態を指し、このTE偏光の偏光角は90度とする。この結果から、回折格子部9のピッチpを大きくするに従って、量子効率のピーク波長も大きくなり、TM偏光に比較してピーク波長は小さくなることがわかった。また、ピッチp=340nmの場合、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して、ピーク波長の595nmの光に関する量子効率は3.5倍程度向上する。
【0031】
図12には、波長680nmの様々な偏光角の光に対する量子効率の変化を示している。このときの入射光の条件は、回折格子部9のピッチp=300nmの際に量子効率がピークとなるTM偏光の波長である680nmとしている。これにより、TM偏光とTE偏光の弁別比は46倍であり、フォトダイオード1がフィルタ機能を発揮していることがわかる。ここで、ランダム偏光の光に対する量子効率は、この偏光角依存の平均を取ることによって見積もることができる。例えば、図12の場合は平均量子効率が0.13で、回折格子が形成されていない比較例のフォトダイオードに比較して4.0倍程度向上する。
【0032】
図10及び図11に示した外部量子効率のピーク波長は、フォトダイオード1で形成される各導波路モードの伝搬波長と回折格子部9の周期pが一致する波長となる。図13には、フォトダイオード1で形成される導波路モードと量子効率のピーク波長との対応を示すグラフである。このグラフにおける実測結果及びシミュレーション結果は回折格子部9のピッチpに対するピーク波長を示している。また、このグラフには、厚さ95nmのシリコン層が厚さ無限大の酸化シリコン層に挟まれて構成される導波路を想定した場合の伝搬波長λgの計算結果もあわせて示す。すなわち、シリコン導波路モードの伝搬波長λgは下記式(3);
【数1】
によって計算される(λ:真空中の波長、ns:半導体であるシリコンの屈折率、ni:絶縁体である酸化シリコンの屈折率、ts:半導体層であるシリコン層の膜厚)。この結果より、ピーク波長は、伝搬波長λgとピッチpが一致する波長であることがわかり、シリコン層の膜厚と回折格子部9のピッチpでほぼ決定される。
【0033】
また、図14には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率の回折格子9cの線幅Wに対する依存性に関する有限差分時間領域法によるシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、ピッチp=300nm、ゲート絶縁層8の厚さ100nm、半導体層5,6,7の膜厚100nmと想定した。この結果が示すように、線幅Wとピッチpとの比W/p=0.7の場合に外部量子効率が最大となる。線幅Wが変化した際のピーク波長のずれは10nm未満と小さく、回折格子9cの線幅は外部量子効率の値にのみ影響を与える。本実施形態のフォトダイオード1では、外部量子効率の向上が図られる範囲である下記式;
0.1<W/p<0.9
を満たすように設定されていることが好適である。
【0034】
さらに、図15には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率の回折格子9cの膜厚tAuに対する依存性に関するシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、回折格子9cの材料を金(Au)とし、ピッチp=300nm、線幅W=150nm、半導体層5,6,7の膜厚100nmとし、回折格子部9の下地である付着力強化層がない場合を想定した。この結果が示すように、膜厚tAuには最適値が存在し、120nmで外部量子効率が最大となっている。また、膜厚tAuが変化した際のピーク波長のずれは数nmと小さくなっている。
【0035】
図16には、フォトダイオード1におけるTM偏光に関する量子効率のゲート絶縁層8の膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果を示す。なお、シミュレーションにおいては、ピッチp=300nm、線幅W=210nm、半導体層5,6,7の膜厚100nm、回折格子9cの膜厚tAu=100nmとした。この結果が示すように、膜厚tOXにも最適値が存在し、100nmで外部量子効率が最大となっている。また、膜厚tOXが80nm以上でピーク波長はほぼ固定される。さらに、図17には、入射するTM偏光の波長を705nmで固定した場合の、フォトダイオード1における量子効率の正規化された膜厚tOXに対する依存性に関するシミュレーション結果も示す。このグラフにはフォトダイオード1によって反射された反射光の強度のシミュレーション結果もあわせて示している。このシミュレーション結果を見ると、膜厚tOXをゲート絶縁層8を構成する絶縁体である酸化シリコンの屈折率nOX、及び入射光の真空中の波長λで正規化した値nOXtOX/λ=0.207(tOX=100nm)で外部量子効率が最大であることが分かった。また、本実施形態のフォトダイオード1では、外部量子効率の向上が図られる範囲である下記式;
nOXtOX/λ<0.7
を満たすように設定されていることが好適であり、
さらには、外部量子効率が顕著に向上する範囲である下記式;
0.07<nOXtOX/λ<0.35
を満たすように設定されていることがより好適である。
【0036】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、シリコン基板2の代わりにステンレスやアルミニウム等の金属から成る基板を用いてもよい。また、半導体層5の材料としては不純物を添加しない半導体を用いてもよい。
【0037】
回折格子9cの材料としては、金に限らず、銀、銅、アルミニウム等の金属や、その他の導電性材料、例えばリン、ボロン、砒素等の不純物を添加した多結晶シリコンなどを用いてもよい。それらの金属や導電性材料の下に付着力強化層として、チタン、クロム、パラジウム、酸化タンタル、窒化シリコンなどの薄い層を挿入してもよい。
【0038】
また、回折格子9cの向きは、検出したい偏光の向きに応じて、図1のXY平面内で任意の向きに回転させてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…フォトダイオード、2…シリコン基板、3…埋め込み絶縁層、4…SOI構造、5…半導体層、6…p型半導体層、7…n型半導体層、8…ゲート絶縁層、9…回折格子部、9a…金属膜(導電部材)9b…貫通溝、9c…回折格子、101,201,301…画素ユニット(撮像素子)、L…入射光、p…ピッチ、W…線幅、AD…空乏層の領域、102…初期化用トランジスタ、103…画素選択用トランジスタ、104…バッファトランジスタ、105…MOS容量。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体又は金属から成る基板と、
前記基板上に形成された埋め込み絶縁層と、
前記埋め込み絶縁層上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層及びn型半導体層を含む半導体層と、
前記半導体層上に形成されたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上に配置され、平面状の導電部材に直線状の貫通溝が等間隔に形成された回折格子部と、
を備えることを特徴とするフォトダイオード。
【請求項2】
前記ゲート絶縁層は、その膜厚tが、下記式(1);
n×t/λ <0.7 …(1)
(但し、上記式中、nはゲート絶縁層を構成する絶縁体の屈折率、λは、入射光の真空中の波長を表す)
を満たすように設定されている、
ことを特徴とする請求項1記載のフォトダイオード。
【請求項3】
前記回折格子部は、前記貫通溝の配列周期をp、隣接する貫通溝に挟まれた回折格子の幅をwとしたときに、下記式(2);
0.1<w/p<0.9 …(2)
を満たすように設定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のフォトダイオード。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトダイオードを有することを特徴とする撮像素子。
【請求項1】
半導体又は金属から成る基板と、
前記基板上に形成された埋め込み絶縁層と、
前記埋め込み絶縁層上の所定領域に沿って並んで形成されたp型半導体層及びn型半導体層を含む半導体層と、
前記半導体層上に形成されたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上に配置され、平面状の導電部材に直線状の貫通溝が等間隔に形成された回折格子部と、
を備えることを特徴とするフォトダイオード。
【請求項2】
前記ゲート絶縁層は、その膜厚tが、下記式(1);
n×t/λ <0.7 …(1)
(但し、上記式中、nはゲート絶縁層を構成する絶縁体の屈折率、λは、入射光の真空中の波長を表す)
を満たすように設定されている、
ことを特徴とする請求項1記載のフォトダイオード。
【請求項3】
前記回折格子部は、前記貫通溝の配列周期をp、隣接する貫通溝に挟まれた回折格子の幅をwとしたときに、下記式(2);
0.1<w/p<0.9 …(2)
を満たすように設定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のフォトダイオード。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトダイオードを有することを特徴とする撮像素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−190848(P2012−190848A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50690(P2011−50690)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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