説明

フッ化物単結晶、シンチレーター及びフッ化物単結晶の製造方法

【課題】 本発明は、硬X線やγ線等の高エネルギーの光子を高感度で検出することができるシンチレーターを提供することを目的とする。
【解決手段】 Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化ルテチウムからなることを特徴とするフッ化物単結晶、該フッ化物単結晶からなることを特徴とするシンチレーターであって、該フッ化物単結晶は、例えば、少なくともフッ化ルテチウムとアルカリ金属フッ化物とを混合してなる原料混合物にNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物を添加し、溶融して原料融液とし、該原料融液より引上げ法を用いてフッ化物単結晶を成長せしめる際に、成長速度を下式で表わされるvmax以下として得る。
max=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のフッ化物単結晶及び当該フッ化物単結晶からなる新規なシンチレーターに関する。該シンチレーターは、放射線検出器の放射線検出素子として用いることができ、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
【0003】
放射線検出器は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、或いは計数率特性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線検出器の低コスト化、及び有感領域の大面積化も求められている。
【0004】
かかる放射線検出器に対する要求に応えるべく、本発明者らは既に、高エネルギーの光子に対する阻止能が大きいシンチレーターと、高エネルギーの光子に対する検出感度が乏しいが位置分解能に優れ、小型化や低コスト化が容易であるガス増幅型検出器とを組み合わせた新規な放射線検出器を提案している(特許文献1参照)。
【0005】
該放射線検出器は、ネオジムを含有せしめたフッ化ランタン或いはネオジムを含有せしめたフッ化リチウムバリウムをシンチレーターとして用いた放射線検出器であり、入射した放射線を波長の短い真空紫外線に変換できるためガスの電離を効率よく行うことができる。しかし、該放射線検出器の検出感度等の性能をさらに向上させるためには、シンチレーターの発光強度及び高エネルギーの光子に対する阻止能を改善する必要があった。
【0006】
高エネルギーの光子に対する阻止能が大きいシンチレーターとして、セリウムを含有せしめたフッ化ルテチウム結晶が開示されている(非特許文献1参照)。しかしながら、当該セリウムを含有せしめたフッ化ルテチウム結晶の発光波長は長く、特許文献1に記載のガス増幅型検出器と組み合わせた上記放射線検出器に用いることは困難であった。
【0007】
一方、上記放射線検出器に用いるシンチレーターとして有用な、波長が200nm以下の真空紫外領域で発光するシンチレーターは検討された例が少なく、発光強度に優れたシンチレーターを見出すことは極めて困難であった。
【0008】
本発明のフッ化物単結晶に類似した、Nd、ErまたはTmを含有するフッ化ルテチウムについて、低エネルギーの光子を照射した際の発光特性については報告がなされているものの(非特許文献2参照)、高エネルギーの光子を照射した際の発光特性については報告例が無く、したがってシンチレーターとしての有用性は未知であった。また、当該非特許文献2に記載されているフッ化ルテチウムは粉末であって、シンチレーターとして使用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−202977号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】B. Moine, et al., ”Spectroscopic and Scintillation Properties of Cerium−Doped LuF3 Single Crystal”, Materials Science Forum, 239−241, 245−248(1997).
【非特許文献2】K. H. Yang, et al., ”Vacuum−ultraviolet excitation studies of 5d14fn−1 to 4fn and 4fn to 4fn transitions of Nd3+−, Er3+−, and Tm3+−doped trifluorides”, Physical Review B, 17,4246−4255(1978).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、硬X線、γ線等の高エネルギーの光子を高感度で検出することができるシンチレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、高エネルギーの光子に対する阻止能が高いフッ化ルテチウムに着目し、当該フッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶の製造方法について種々検討した。その結果、特定の条件の下で、原料融液から単結晶を成長せしめることによって、大型で且つクラックや白濁の無い高品質な単結晶を効率よく製造できることを見出した。
【0013】
本発明者等はさらに、シンチレーターとガス増幅型検出器とを組み合わせてなる前記放射線検出器に有用な、波長が200nm以下の真空紫外領域で発光するシンチレーターについて種々検討を重ねた。その結果、前記フッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶にNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有せしめることによって、真空紫外領域において優れた発光強度を有するシンチレーターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶、及び当該フッ化物単結晶からなるシンチレーターである。さらに本発明は、少なくともフッ化ルテチウムとアルカリ金属フッ化物とを混合してなる原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液より引上げ法を用いてフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法であって、フッ化物単結晶の成長速度を下式で表わされるvmax以下とすることを特徴とするフッ化物単結晶の製造方法である。
max=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硬X線、γ線等の高エネルギーの光子を高感度で検出することができるシンチレーターが提供される。また、大型で且つ高品質なフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶を得ることができる。
【0016】
本発明のフッ化物単結晶からなるシンチレーターは高エネルギーの光子に対する検出効率が高く、且つ、優れた発光強度を有する。また、発光波長が約160〜190nmであるため、ガス増幅型検出器においてガスの電離が効率よく行われるので、該シンチレーターとガス増幅型検出器とを組み合わせた放射線検出器は、検出感度等の性能が向上し、医療、工業、及び保安等の分野において好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】引上げ法による製造装置の概略図である。
【図2】マイクロ引き下げ法による製造装置の概略図である。
【図3】R1/2/d1/3と結晶成長速度との関係を示す図である。
【図4】本発明のシンチレーターの発光特性を表わす発光スペクトルである。
【図5】本発明のシンチレーターの発光の減衰曲線である。
【図6】本発明のシンチレーターによるアルファ線照射時の波高分布スペクトルである。
【図7】本発明のシンチレーターの発光特性を表わす発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のフッ化物単結晶は、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化ルテチウム(以下、RE:LuFともいう。また、当該RE:LuFからなるフッ化物単結晶をRE:LuF単結晶ともいう。)からなることを特徴とする。
【0019】
RE:LuFにおいて、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、発光中心元素という)は、フッ化ルテチウム中のルテチウム元素の一部と置換することによって、フッ化ルテチウムに含有されている。
【0020】
なお、前記発光中心元素の中でも、Ndは発光寿命が短く、高速応答性を有するため、時間分解能や高計数率が要求される用途において特に好ましく使用できる。一方、前記発光中心元素の中でも、Er及びTmは特に発光波長が短く、前記ガス増幅型検出器におけるガスの電離効率を向上せしめることができ、好ましい。
【0021】
RE:LuFに発光中心元素を含有せしめる際の発光中心元素の含有量は、特に制限されないが、フッ化ルテチウムに対して、0.01〜20mol%の範囲とすることが好ましく、0.02〜10mol%の範囲とすることが特に好ましい。発光中心元素の含有量を0.01mol%以上、より好ましくは0.02mol%以上とすることによって、発光中心元素であるネオジムを介する発光の確率が高まり、したがって高い発光強度を得ることができる。また、発光中心元素の含有量を20mol%以下、より好ましくは10mol%以下とすることによって、濃度消光による発光の減退を避けることができる。
【0022】
RE:LuF単結晶からなるシンチレーターは、放射線の入射により、発光中心元素の5d−4f遷移に基づく発光を呈するため、かかる発光を後段の光検出器で検出することにより、放射線を検出することが可能となる。
【0023】
当該シンチレーターは、発光波長が約160〜190nmであり、ガス増幅型検出器において、ガスの電離が効率よく行われるので、前記したようなガス増幅型検出器と組み合わせて放射線検出器をなすことができる。また、ネオジムを含有するフッ化ランタンからなるシンチレーター等の従来知られている発光波長が200nm以下の真空紫外領域で発光するシンチレーターに比較して、発光強度が極めて高い。
【0024】
また、RE:LuF単結晶からなる本発明のシンチレーターは、有効原子番号が65〜66であり、且つ、密度が約8.3g/mlであって、共に極めて高い。このため、高エネルギーの光子に対する阻止能が優れており、高エネルギーの光子を効率よく検出することができる。なお、本発明において、有効原子番号とは、下式で定義される指標である。
【0025】
有効原子番号=(ΣW1/4
式中、Wi及びZiは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちのi番目の元素の質量分率及び原子番号である。
【0026】
本発明のRE:LuF単結晶は、RE:LuFの多結晶粉末あるいは多結晶焼結体に比較して、粒界における光の散逸や非輻射遷移による損失を抑制することができ、したがって高い発光強度を得ることができる。
【0027】
当該RE:LuF単結晶は、空間群Pnmaに属する斜方晶であって、粉末X線回折等の手法によって容易に同定することができる。
【0028】
本発明のRE:LuF単結晶は、無色ないしはわずかに着色した透明な固体であり、良好な化学的安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。更に、機械的強度及び加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることが容易である。
【0029】
本発明において、シンチレーターの形状は特に限定されないが、一般には円柱状、或いは角柱状の形状で使用される。なお、シンチレーターは、放射線検出器における後段のガス増幅型検出器等の光検出器に対向する紫外線出射面(以下、単に紫外線出射面ともいう)を有し、該紫外線出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる紫外線出射面を有することによって、シンチレーターで生じた紫外線を効率よく後段の光検出器に入射できる。この紫外線出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm〜数百mm角の四角形、或いは直径が数mm〜数百mmの円など、用途に応じた形状を適宜選択して用いることができる。
【0030】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さは、検出対象とする放射線の種類及びエネルギーによって異なるが、一般に数百μm〜数百mmである。
【0031】
シンチレーターの光検出器に対向しない面に、アルミニウム、硫酸バリウム或いはテフロン(登録商標)等からなる紫外線反射膜を施すことは、シンチレーターで生じた紫外線の散逸を防止することができるため、好ましい態様である。また、かかる紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列して用いることにより、放射線検出器の位置分解能を特に高めることができる。
【0032】
本発明のシンチレーターは、検出対象とする放射線に制限は無く、X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の放射線の検出に用いることができるが、前記したように高い有効原子番号と密度を有するため、放射線の中でも、硬X線、γ線等の高エネルギーの光子の検出において、最大の効果を発揮する。
【0033】
以下、本発明のフッ化物単結晶の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の製造方法においては、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液よりフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶(以下、LuF単結晶という)を成長せしめるにあたり、前記原料混合物にアルカリ金属フッ化物を添加する。
【0035】
ここで、フッ化ルテチウムは、その凝固点が約1180℃であって、該凝固点より低温の約950℃に相転移点を有する。したがって、フッ化ルテチウムのみからなる原料融液よりLuF単結晶を成長せしめた場合、フッ化ルテチウムが原料融液から結晶化した後、室温まで冷却する過程において六方晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造へ相変態を起こし、結晶に無数のクラックが生じる。かかるクラックは結晶の透明性を著しく悪化させるため、シンチレーターをはじめとする多くの用途において、使用が困難となる。
【0036】
前記アルカリ金属フッ化物は、原料融液の凝固点を前記フッ化ルテチウムの相転移点以下に低下せしめるために添加されるものであって、かかるアルカリ金属フッ化物の添加によって、斜方晶型結晶構造のLuF単結晶を原料融液から直接成長せしめることができ、したがって相変態に起因するクラックの発生を回避することができる。
【0037】
なお、本発明において、前記アルカリ金属フッ化物の種類は特に限定されないが、フッ化リチウム(LiF)が最も好ましい。LiFは、原料融液の凝固点を低下せしめる効果が高く、また、LuF単結晶へ混入し難いため、本発明において好適に使用できる。
【0038】
また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量は特に限定されないが、フッ化ルテチウムに対して25〜75mol%とすることが好ましく、30〜60mol%とすることが特に好ましい。前記アルカリ金属フッ化物の添加量を25mol%以上、より好ましくは30mol%以上とすることによって、原料融液の凝固点をフッ化ルテチウムの相転移点よりも充分に低温とすることができ、LuF単結晶のクラックを回避することができる。また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量を75mol%以下、より好ましくは60mol%以下とすることによって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0039】
本発明の第一の製造方法は、前記LuF単結晶を引上げ法によって成長せしめ、当該LuF単結晶を成長せしめる際の単結晶の成長速度を下式で表わされるvmax以下とすることを特徴とする。
max=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)
前記式中、αは経験的に求められた定数であって、mm4/3・min−1/2の次元を有する。
【0040】
なお、前記式より、vmaxは1分間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/min)として得られるが、以下の説明では、当業者らにおいて一般的に用いられる結晶成長速度の単位である1時間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/hr)に換算した値を用いる。
【0041】
当該引上げ法によれば、直径が数10mmの大型のLuF単結晶を安価に製造することが可能となる。
【0042】
前記引上げ法を用いた製造方法において、単結晶の成長速度が速い場合には、アルカリ金属フッ化物がLuF単結晶へ混入し、LuF単結晶が白濁するおそれがあるが、単結晶の成長速度を前記vmax以下とすることによって、かかるアルカリ金属フッ化物の混入によるLuF単結晶の白濁を回避することができる。なお、単結晶の成長速度の下限は特に制限されないが、製造の効率に鑑みて、0.1mm/hr以上とすることが好ましい。
【0043】
なお、前記したようにvmaxを定義する式は、本発明者らの検討によって経験的に求められた式であって、下記のように説明される。
【0044】
前記式中、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、LuF単結晶と原料融液の界面(以下、固液界面という)の近傍における原料融液の撹拌効果の指標である。固液界面の近傍では、LuF単結晶の成長に伴って余剰となったアルカリ金属フッ化物が原料融液中に濃縮されるが、当該Rを高めることによって、余剰となったアルカリ金属フッ化物を速やかに拡散することができ、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0045】
なお、前記説明したようにRを高めるほどアルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができるが、当該Rを過剰に高めると、LuF単結晶の形状に歪みが生じ、当該歪みに起因するLuF単結晶の割れが生じるおそれがあるため、Rは20rpm以下とすることが好ましい。また、前記過剰なRに起因する単結晶の歪みは、単結晶の直径が大きいほど顕著となる傾向があるため、単結晶の直径が30mm以上の場合には、Rは15rpm以下とすることが好ましい。
【0046】
また、前記式中、dはLuF単結晶の平均直径(mm)を表わす。当該dが大きいほど、単結晶が単位長さ成長した際に余剰となって原料融液中に濃縮されるアルカリ金属フッ化物の量が増大する。したがって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制するためには、dの増大に伴って単結晶の成長速度を減ずる必要がある。
【0047】
なお、本発明において、当該dは特に制限されないが、dが大きいほど単位時間当たりに製造される単結晶の体積が増加し、製造の効率が向上するため、10mm以上とすることが好ましい。
【0048】
以下、引上げ法によってLuF単結晶を製造する際の一般的な方法について、図1を用いて具体的に説明する。
【0049】
まず、所定量のフッ化ルテチウム及びアルカリ金属フッ化物を混合してなる混合原料を、坩堝1に充填する。本発明において、原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。かかる原料を用いることにより、LuF単結晶の純度を高めることができ、シンチレーターの発光強度等の特性が向上する。かかる原料は、粉末状あるいは粒状の原料を用いても良く、あらかじめ焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0050】
次いで、上記原料を充填した坩堝1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4を図1に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー5の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。このガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来するLuF単結晶の特性の低下を妨げることができる。
【0051】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性の高いスカベンジャーを用いて、水分を除去することが好ましい。かかるスカベンジャーとしては、四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを好適に用いることができる。なお、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0052】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル6、及びヒーター2で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッド7の先端に設置した種結晶を接触せしめる。
【0053】
なお、本発明において、加熱方法は特に限定されず、例えば上記高周波コイルとヒーターによる誘導加熱方式に替えて、抵抗加熱方式のカーボンヒーター等を適宜用いることができる。
【0054】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始する。単結晶育成の開始直後は、一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所望の直径に調整する。
【0055】
なお、単結晶の直径を拡大するにあたり、単結晶の転位密度の減少を目的として、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施すことが好ましい。
【0056】
単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続ける。前記原料融液に接触せしめて単結晶の育成を開始し、単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後の連続的に引き上げを続ける一連の操作において、原料融液に対する単結晶の回転数及び単結晶の平均直径が、それぞれ前記式中のR及びdであり、原料融液に対する単結晶の引上げ速度が結晶成長速度に相当する。本発明において、当該結晶成長速度を前記式で定義されるvmax以下とすることが肝要である。
【0057】
なお、かかる一連の操作においては、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いることが好ましい。該結晶径制御装置によれば、所望の形状の単結晶を安定に製造することが容易となる。
【0058】
所定の長さまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって結晶を得ることができる。
【0059】
本発明の第二の製造方法は、フッ化ルテチウムとアルカリ金属フッ化物とを混合し、溶融してなる原料融液よりLuF単結晶を成長せしめるにあたり、マイクロ引下げ法を用いることを特徴とする。
【0060】
本発明者らが検討した結果、マイクロ引下げ法によれば、前記引上げ法の項で説明したような単結晶の回転による固液界面での撹拌を行わずとも、アルカリ金属フッ化物がLuF単結晶へ混入せず、良質なLuF単結晶が得られることが明らかとなった。さらに、かかるマイクロ引下げ法によれば、所望の形状のLuF単結晶を直接、しかも短時間で製造することができるため、LuF単結晶の製造方法として極めて好適である。
【0061】
以下、マイクロ引き下げ法によってLuF単結晶を製造する際の、一般的な方法について、図2を用いて具体的に説明する。
【0062】
まず、所定量の原料を、底部に孔を設けた坩堝8に充填する。坩堝底部に設ける孔の形状は、特に限定されないが、直径が0.5〜5mm、長さが0〜2mmの円柱状とすることが好ましい。
【0063】
なお、使用する原料並びにその調整の方法は、引上げ法の項で述べた原料及び方法がそのまま採用される。
【0064】
次いで、上記原料を充填した坩堝8、アフターヒーター9、ヒーター10、断熱材11、及びステージ12を、図2に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー13の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。このガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来するLuF単結晶の特性の低下を妨げることができる。
【0065】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性の高いスカベンジャーを用いて、水分を除去することが好ましい。かかるスカベンジャーとしては、四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを好適に用いることができる。なお、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0066】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル14、及びヒーター10によって原料を加熱して溶融せしめる。加熱方法は特に限定されず、例えば上記高周波コイルとヒーターによる誘導加熱方式に替えて、抵抗加熱方式のカーボンヒーター等を適宜用いることができる。
【0067】
次いで、溶融した原料融液を、引き下げロッド15を用いて坩堝底部の孔から引き出し、LuF単結晶の製造を開始する。なお、原料融液を坩堝底部の孔から円滑に引き出す目的で、前記引下げロッドの先端に金属ワイヤーを設けることが好ましい。当該金属ワイヤーとしては、例えば、PtあるいはW−Re合金からなる外径約0.5mmのワイヤー等が好適に使用できる。
【0068】
LuF単結晶の製造を開始した後、高周波コイルの出力を適宜調整しながら一定の速度で連続的に引き下げることにより、所期のLuF単結晶を得ることができる。
【0069】
かかる連続的に引き下げる際の速度が結晶成長速度に相当する。当該結晶成長速度は、特に限定されないが、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制するため、1mm/hr以下とすることが好ましい。また、製造の効率に鑑みて、当該結晶成長速度を0.1mm/hr以上とすることが好ましい。
【0070】
所定の長さまで引き下げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって結晶を得ることができる。
【0071】
前記引上げ法あるいはマイクロ引下げ法を用いたLuF単結晶の製造方法において、原料混合物に、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物(以下、発光中心元素のフッ化物という)を添加することによって、本発明のRE:LuF単結晶を好適に製造することができる。
【0072】
なお、前記RE:LuF単結晶中の発光中心元素の含有量は、原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の値に調整することができる。RE:LuF単結晶の製造の過程において、偏析が起こる場合があるが、かかる偏析が起こる場合においても、予め偏析係数を求めておき、当該偏析係数を加味して原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の量の発光中心元素を含有するRE:LuF単結晶を得ることができる。
【0073】
本発明において、前記引上げ法あるいはマイクロ引下げ法を用いたLuF単結晶及びRE:LuF単結晶の製造に際して、フッ素原子の欠損あるいは熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0074】
得られたLuF単結晶及びRE:LuF単結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0075】
RE:LuF単結晶からなるシンチレーターは、ガス増幅型検出器と組み合わせて放射線検出器とすることができる。このガス増幅型検出器は、特許文献1に記載のマイクロストリップガスチャンバー(MSGC)に加えて、P. Schotanus, et al., ” Detection of LaF:Nd3+ Scintillation Light in a Photosensitive Multiwire Chamber”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A272,913−916(1988).等に記載のマルチワイヤー比例計数管(Multiwire proportional counter;MWPC)等の従来公知のガス増幅型検出器を用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0077】
実施例1〜5及び比較例1〜6
〔引上げ法によるRE:LuF単結晶の製造〕
まず、フッ化ルテチウム 2850g、フッ化リチウム 143g及びフッ化ネオジウム 12.3gを混合してなる混合原料を、坩堝1に充填した。すなわち、本実施例および比較例では、アルカリ金属フッ化物としてLiFを45mol%添加し、発光中心元素としてNdを含有せしめた。なお、上記各原料の純度は99.99%以上の原料を用いた
次いで、上記原料を充填した坩堝1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4を図1に示すようにセットした。なお、坩堝1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4は、高純度カーボン製のものを使用した。
【0078】
真空排気装置を用いて、チャンバー5の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0079】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル6、及びヒーター2で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッド7の先端に設置した種結晶を接触せしめた。
【0080】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始した。単結晶育成の開始直後に、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施し、その後一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所定の直径に調整した。単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続けた。
【0081】
なお、実施例1〜5及び比較例1〜6において、原料融液に対する単結晶の回転数(R)、単結晶の平均直径(d)及び結晶成長速度は、それぞれ表1に示す通りとした。
【0082】
なお、かかる一連の操作は、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いて行った。
【0083】
所定の直径の単結晶を長さ 40mmまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって単結晶を得た。
【0084】
得られた結晶の状態を表1に示す。表1に示すように、結晶成長速度をvmax以下とした実施例1〜5では白濁やクラックの無い透明なLuF単結晶が得られたのに対し、結晶成長速度をvmax以上とした比較例1〜6では結晶に白濁が生じた。さらに、Rが30rpmと大きい比較例6では、結晶に歪みが生じることが分かる。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1〜5及び比較例1〜6について、R1/2/d1/3と結晶成長速度との関係を示す図を図3に示す。なお、図3中の直線は、本発明で定義されるvmaxを表わす。図3より、本発明で定義されるvmaxがLuF単結晶の製造の可否を明確に示すことが分かる。
〔RE:LuF単結晶の同定〕
実施例1〜5によって得られたRE:LuF単結晶の一部を粉砕して粉末にし、粉末X線回折測定に供した。粉末X線回折法によって得られた回折パターンを解析した結果から、本実施例のRE:LuF単結晶はいずれもフッ化ルテチウム型の結晶のみからなることが分かった。
【0087】
また、前記RE:LuF単結晶の一部を用いてアルカリ溶融法によって溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析法を用いてNdの含有量を測定した結果、本実施例のRE:LuF単結晶のNdの含有量はいずれもフッ化ルテチウムに対して0.05mol%であった。
〔シンチレーターの作製と発光特性の評価〕
前記実施例1で製造された単結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって切断した後、研削し、10x10x5mmの直方体に加工した。かかる直方体の10x10mmの面を紫外線出射面とし、当該紫外線出射面に光学研磨を施して、シンチレーターを得た。
【0088】
このシンチレーターについて、硬X線を入射した際の発光特性を以下の方法によって測定した。なお、測定を実施する際には、発光スペクトルの測定装置内部を窒素で置換した。
【0089】
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、硬X線をシンチレーターに照射した。封入式X線管球より硬X線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器(分光計器製、KV201型極紫外分光器)にて単色化し、120〜260nmの範囲の各波長における発光の強度を記録してシンチレーターより生じた発光のスペクトルを得た。得られた発光のスペクトルを図4に示す。
【0090】
上記測定の結果、本実施例のシンチレーターは、硬X線の入射によって、波長178nmにおいて極めて強く発光することが確認された。
【0091】
次に前記シンチレーターのα線に対する応答特性を以下の方法によって評価した。
【0092】
まず、前記シンチレーターの紫外線出射面を光電子増倍管(浜松ホトニクス社製 R8778)の光電面にオプティカルグリースで接着した後、1kBqの放射能を有する241Am密封線源を該シンチレーターの光電面と接着している面と逆の面に近接して設置し、シンチレーターにα線を照射した状態とし、外部からの光が入らないように遮光シートで遮光した。
【0093】
次いで、該シンチレーターより発せられた発光を計測するため、1200Vの高電圧を印加した光電子増倍管を介して、シンチレーターからの発光を電気信号に変換した。
【0094】
ここで、光電子増倍管より出力される電気信号は、シンチレーターの発光を反映したパルス状の信号であり、波高が発光の強度を表し、また、波形は発光寿命に基づいた減衰曲線を呈する。
【0095】
光電子増倍管より出力された電気信号を、オシロスコープを用いて読み取った結果を図5に示す。当該電気信号のパルス波形を解析し、シンチレーターの発光寿命を求めたところ、10nsと極めて短く、本発明のシンチレーターは時間分解能や高計数率を必要とされるシンチレーターとして好適に使用できることが分かった。
【0096】
次いで、光電子増倍管より出力された電気信号を整形増幅器で整形、増幅した後、多重波高分析器に入力して解析し、波高分布スペクトルを作成した。
【0097】
作成した波高分布スペクトルを図6に示す。該波高分布スペクトルの横軸は、電気信号の波高値すなわちシンチレーターの発光の強度を表している。また、縦軸は各波高値を示した電気信号の頻度を表している。
【0098】
当該波高分布スペクトルにおいて、波高値が約600チャンネルの領域において、α線のエネルギーを反映した明瞭なピークが見られ、波高値が約300チャンネル以下の領域にあるバックグラウンドノイズと分離できていることから、本発明の結晶が充分な発光強度を有するシンチレーターであることがわかる。
【0099】
比較例7及び比較例8
本比較例7及び比較例8では、混合原料にアルカリ金属フッ化物を添加しない場合について示す。比較例7及び比較例8のそれぞれについて、混合原料にフッ化リチウムを添加しない以外は、実施例4及び比較例4と同様にして引上げ法による製造を行った。
【0100】
その結果、比較例7及び比較例8共に、六方晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造への相変態に起因する無数のクラックが生じた多結晶体が得られた。当該多結晶体は、わずかな衝撃で破壊し、また、光の透過性も著しく劣悪であり、シンチレーターとして適用することは困難であった。
【0101】
実施例6〜8〜及び比較例9
〔マイクロ引下げ法によるRE:LuF単結晶の製造〕
図2に示すマイクロ引下げ法による結晶製造装置を用いて、実施例6〜8及び比較例9の単結晶を製造した。実施例6〜8については、表2に示す通りの原料を用いてRE:LuF単結晶を製造した。比較例9については、フッ化ランタン 1.8g及びフッ化ネオジウム 0.20gを原料に用いて、特許文献1及び非特許文献3に記載のネオジウムを含有するフッ化ランタン単結晶を作製した。
【0102】
なお、原料としては、いずれも純度が99.99%以上のものを用いた。また、アフターヒーター9、ヒーター10、断熱材11、ステージ12、及び坩堝8は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.2mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0103】
まず、前記各原料をそれぞれ秤量し、よく混合し、得られた混合原料を坩堝8に充填した。
【0104】
原料を充填した坩堝8を、アフターヒーター9の上部にセットし、その周囲にヒーター10、及び断熱材11を順次セットした。次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー13内を5.0×10−4Paまで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー13内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0105】
高周波コイル14に高周波電流を印加し、誘導加熱によって原料を加熱して溶融せしめ、引き下げロッド15の先端に設けたW−Reワイヤーを、坩堝8底部の孔上記孔に挿入し、原料の融液を上記孔より引き下げ、結晶化を開始した。高周波の出力を調整しながら、0.75mm/hrの速度で連続的に引き下げ、結晶を得た。該結晶は直径が2.2mm、長さが約40mmであり、白濁やクラックの無い良質な単結晶であった。
〔RE:LuF単結晶の同定〕
実施例6〜8によって得られたRE:LuF単結晶の一部を粉砕して粉末にし、粉末X線回折測定に供した。粉末X線回折法によって得られた回折パターンを解析した結果から、本実施例のRE:LuF単結晶はいずれもフッ化ルテチウム型の結晶のみからなることが分かった。
【0106】
また、前記RE:LuF単結晶の一部を用いてアルカリ溶融法によって溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて発光中心元素の含有量を測定した。その結果、得られた発光中心元素の含有量を表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
〔シンチレーターの作製と発光特性の評価〕
前記製造によって得られた単結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって15mmの長さに切断した後、研削し、長さ15mm、幅2mm、厚さ1mmの直方体に加工した。かかる直方体の長さ15mm、幅2mmの面を紫外線出射面とし、当該紫外線出射面に光学研磨を施して、シンチレーターを得た。
【0109】
このシンチレーターについて、硬X線を入射した際の発光特性を以下の方法によって測定した。なお、測定を実施する際には、発光スペクトルの測定装置内部を窒素で置換した。
【0110】
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、硬X線をシンチレーターに照射した。封入式X線管球より硬X線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器(分光計器製、KV201型極紫外分光器)にて単色化し、120〜260nmの範囲の各波長における発光の強度を記録してシンチレーターより生じた発光のスペクトルを得た。得られた発光のスペクトルを図7に示す。なお、当該図7では、比較例9の発光強度を4倍に拡大して表示した。
【0111】
上記測定の結果、本実施例のシンチレーターは、硬X線の入射によって、波長160〜190nmにおいて極めて強く発光することが確認された。
【0112】
また、本実施例と比較例9との比較から、本発明のシンチレーターは従来公知のシンチレーターに比較して格段に発光強度が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0113】
1 坩堝
2 ヒーター
3 断熱材
4 ステージ
5 チャンバー
6 高周波コイル
7 引上げロッド
8 坩堝
9 アフターヒーター
10 ヒーター
11 断熱材
12 ステージ
13 チャンバー
14 高周波コイル
15 引き下げロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化ルテチウムからなることを特徴とするフッ化物単結晶。
【請求項2】
Ndを含有することを特徴とする請求項1に記載のフッ化物単結晶。
【請求項3】
請求項1に記載のフッ化物単結晶からなることを特徴とするシンチレーター。
【請求項4】
シンチレーターが、高エネルギー光子用のシンチレーターであることを特徴とする請求項3に記載のシンチレーター。
【請求項5】
少なくともフッ化ルテチウムとアルカリ金属フッ化物とを混合してなる原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液より引上げ法を用いてフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法であって、フッ化物単結晶の成長速度を下式で表わされるvmax以下とすることを特徴とするフッ化物単結晶の製造方法。
max=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)
【請求項6】
少なくともフッ化ルテチウムとアルカリ金属フッ化物とを混合してなる原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液よりフッ化ルテチウムからなるフッ化物単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法であって、マイクロ引下げ法を用いることを特徴とするフッ化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
原料混合物に、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物を添加することを特徴とする請求項5または6に記載のフッ化物単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62218(P2012−62218A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207696(P2010−207696)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】