説明

フッ化物単結晶、真空紫外発光素子、シンチレーター及びフッ化物単結晶の製造方法

【課題】 KLu単結晶、及び当該単結晶のLu元素の一部をCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素で置換した単結晶を融液成長法によって効率よく製造する方法、および、当該製造方法によって製造される単斜晶型フッ化物単結晶を提供することを目的とする。
【解決手段】 化学式K(MLu1−x(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.2の範囲である)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有することを特徴とするフッ化物単結晶、該単結晶からなる真空紫外発光素子、該単結晶からなるシンチレーター、及び該単結晶の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフッ化物単結晶、及び当該フッ化物単結晶からなる真空紫外発光素子ならびにシンチレーターに関する。当該真空紫外発光素子はフォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に用いられる真空紫外発光素子として好適に使用できる。また、本発明のシンチレーターは、PETによる癌診断やX線CTに用いられる放射線検出器用シンチレーターとして好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
高輝度紫外発光素子は、半導体分野、情報分野、医療分野等における先端技術を支える材料であり、近年では、記録媒体への記録密度の向上を始めとする多くの需要に応えるべく、より短波長で発光する紫外発光素子の開発が進められている。短波長で発光する紫外発光素子としては、GaN等の紫外発光材料による発光波長約360nmのLEDが市販されている。
【0003】
より短波長の発光波長200nm以下の真空紫外発光材料は、真空紫外発光素子として、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌等にも好適に使用できるため、開発が望まれているが、かかる真空紫外発光素子を得ることは容易ではなく、わずかな例しか知られていないのが現状である。
【0004】
真空紫外発光材料の開発が困難である要因としては、真空紫外線は多くの物質に吸収されてしまうため、自己吸収を起こさない物質が限られる点が挙げられる。
【0005】
さらに、真空紫外領域における発光特性は、材料中の不純物の影響を受けやすく、また、たとえ真空紫外領域に発光のエネルギー準位を有する材料であっても、より低いエネルギー準位に基づく長波長の発光が支配的であったり、非輻射遷移による損失が甚大であったりする等の理由により、所望の真空紫外発光を得られない場合が多い。
【0006】
したがって、真空紫外領域における発光特性を予め予測することは極めて困難であり、このことが真空紫外発光素子の開発における大きな障壁となっている。
【0007】
一方、放射線の照射によって発光する単結晶はシンチレーターとして用いることができる。
【0008】
PETによる癌診断やX線CTに用いられる放射線検出器は、シンチレーターという放射線が照射された際に発光する材料と、光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器を組み合わせて構成される。
【0009】
当該シンチレーターとしては、有効原子番号及び密度が高いものがγ線やX線に対する検出感度が高く、好適であり、かかる要件を満たすシンチレーターとして、非特許文献1に開示されているKLuが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. F. BUZULUTSKOV, et al., “INVESTIGATION OF THE CRYSTAL SCINTILLATIONS IN THE VUV REGION”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A288, 659−661(1990).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記KLuは水熱合成法によって作製されているが、その大きさは数mmであり、かかる水熱合成法では大型の単結晶を効率よく製造することが困難であった。
【0012】
大型の単結晶を効率よく製造する方法としては、融液成長法が挙げられるが、本発明者らの検討において、KLuを従来公知の融液成長法で製造した場合には、KLuは融液から結晶化した後、室温まで冷却する過程において単斜晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造へ相変態を起こすため、結晶にクラックが生じるという問題が生じることが分かった。
【0013】
かかる相変態を起こす結晶の製造においては、相変態が生じる温度、すなわち相転移点以下で結晶化させる方法を適用することが一般的であり、例えば、非特許文献1のように、水熱合成法を適用し、相転移点以下で原料溶液から結晶化させること等が一般的であった。なお、本発明者らがKLuを水熱合成法により作成したところ、相転移点以下で安定な斜方晶型結晶構造を有するKLuが得られた。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、KLu単結晶、及び当該単結晶のLu元素の一部をCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素で置換した単結晶を大型の単結晶を得ることができる融液成長法によってクラックを発生することなく効率よく製造する方法、および、当該製造方法によって製造されるクラックのない単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、融液成長法によってKLu単結晶を製造するにあたって、単斜晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造への相変態を起こすことなく、クラックのない単斜晶型結晶構造を有するKLu単結晶を得る方法について種々検討した。その結果、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液から単結晶を成長せしめる際に、700〜1050℃の温度範囲で単結晶を成長せしめた後、該成長せしめた単結晶を5〜200℃/minの冷却速度で冷却することにより、KLuの相変態を回避することができ、したがってクラックの無い単斜晶型KLu単結晶が大型の単結晶を得ることができる融液成長法によって得られることを見出した。
【0016】
また、かかる単斜晶型結晶構造を有するKLu単結晶、及び当該単結晶のLu元素の一部をCe等の元素で置換した単結晶は真空紫外発光素子ならびシンチレーターとして好適に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、化学式K(MLu1−x(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.2の範囲である)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有することを特徴とするフッ化物単結晶、該単結晶からなる真空紫外発光素子、該単結晶からなるシンチレーター、及び該単結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフッ化物単結晶によれば、真空紫外領域における高輝度な発光を得ることができ、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用することができる。また、本発明のフッ化物単結晶は放射線に対しても良好な応答性を有するため、シンチレーターとして好適に使用できる。
【0019】
また、本発明の製造方法によれば、大型の単結晶を得ることができる融液成長法によって、本発明のフッ化物単結晶をクラックなく効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本図は、マイクロ引き下げ法による結晶製造装置の概略図である。
【図2】本図は、実施例1の粉末X線回折パターンである。
【図3】本図は、X線励起発光スペクトルの測定装置の概略図である。
【図4】本図は、実施例1〜3のX線励起発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の化学式K(MLu1−x(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、xは0〜0.2の範囲である)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有するフッ化物単結晶(以下、m−KLFともいう)について説明する。
【0022】
m−KLFは、空間群P2/mに属する結晶であって、その密度は約5.4g/cm−3と大きい。また、後述する融液成長法によって大型の単結晶を効率よく製造することが可能である。
【0023】
当該m−KLFは、KLuを基本構造とし、かかるKLuのLu元素をCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素で置換したものである。また、前記化学式中のxはLu元素を置換する際の置換比率を表わし、かかるxが0の場合には、置換しないことを表わす。前記KLuはバンドギャップが大きく、真空紫外線を吸収しないため、真空紫外発光素子として好適に使用できる。なお、本発明において真空紫外とは200nm以下の波長領域のことを言う。
【0024】
KLuは、価電子帯とカリウムの内核準位との間での電子遷移に基づくcore−valence発光(以下、CVLともいう)を示し、当該CVLの発光波長は140〜200nmと極めて短いため、真空紫外発光素子として好適に用いることができる。なお、CVLの発光強度を高めるためには、xを小さくすることが好ましく、0とすることが最も好ましい。
【0025】
また、上記化学式中Mで表される元素MがNd、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素であるm−KLFは、前記元素Mの作用によって真空紫外領域で発光するため、真空紫外発光素子として使用できる。
【0026】
また、m−KLFは、前述したように密度が大きく、さらにLuを多く含有しており、有効原子番号も大きいため、シンチレーターとして有用である。
【0027】
前記、密度および有効原子番号の特性に加えて、真空紫外領域で発光する点も併せて考慮すると、例えば特開2008−202977号公報に記載されている放射線検出器のような、シンチレーターとガスカウンターとを組み合わせた放射線検出器において特に好適に適用できる。
【0028】
m−KLFにおいて、xが0より大きい場合、すなわち、Lu元素の一部がCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されている場合には、KLu自体の真空紫外の発光に加え、当該元素に基づく発光を得ることができるので、シンチレーターとして使用できる。かかるシンチレーターの発光波長は、元素に応じて真空紫外から赤外領域まで多岐にわたるため、放射線検出器を構成する際に用いる光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器の波長感度特性に合わせて、元素を適宜選択して用いることができる。
【0029】
前記元素に基づく発光強度を高めるためには、元素によって異なるが、xを0.0001以上とすることが好ましい。一方、xの上限値は0.2である。xを0.2以下とすることによって、異種の結晶相の析出による結晶の白濁を避けることができる。なお、濃度消光による発光強度の減弱を回避するためには、xを0.1以下とすることが好ましい。
【0030】
なお、前記元素がCe、Pr、Nd、及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素であるm−KLFからなるシンチレーターは、蛍光寿命が短いため、時間分解能や高計数率特性を要求される放射線検出器において好適に使用できる。
【0031】
m−KLFは無色ないしはわずかに着色した透明な固体であり、良好な化学的安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。更に、機械的強度及び加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることが容易である。
【0032】
本発明のフッ化物単結晶の製造方法は、m−KLFを特定条件の下で融液成長法によって製造することを最大の特徴とする。すなわち、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液から単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法であって、700〜1050℃の温度範囲で単結晶を成長せしめた後、成長せしめた単結晶を5〜200℃/minの冷却速度で冷却することを特徴とする製造方法である。
【0033】
本発明の製造方法における、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液から単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法(以下、融液成長法ともいう)は、特に限定されず、マイクロ引き下げ法、引き下げ法、ブリッジマン法、チョクラルスキー法などの公知の融液成長法でよい。
【0034】
以下、融液成長法としてマイクロ引き下げ法を採用した際の本発明のm−KLFの製造方法について説明する。
【0035】
マイクロ引き下げ法とは、図1に示すような装置を用いて、坩堝5の底部に設けた孔より原料融液を引き出して結晶を製造する方法である。
【0036】
まず、所定量の原料を、底部に孔を設けた坩堝5に充填する。坩堝底部に設ける孔の形状は、特に限定されないが、直径が0.5〜4mm、長さが0〜2mmの円柱状とすることが好ましい。
【0037】
本発明において原料は特に限定されないが、一般にはKF、LuFの粉末原料を混合した混合原料を用いる。m−KLFにおいて、xが0では無い場合、すなわちCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素を含める場合には、当該元素のフッ化物の粉末原料を前記混合原料に混合する。各粉末原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。かかる純度の粉末原料を用いることにより、結晶の純度を高めることができ、発光強度等の特性が向上する。混合原料は、混合後に焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0038】
次いで、上記原料を充填した坩堝5、アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4を図1に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー6内を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。
【0039】
該ガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。上記ガス置換操作によっても除去できない水分による影響を避けるため、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー或いは四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを用いることが好ましい。固体スカベンジャーを用いる場合には原料中に予め混合しておく方法が好適であり、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0040】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル7で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料融液を坩堝底部の孔から引き出して、結晶の製造を開始する。
【0041】
ここで、金属ワイヤーを引き下げロッドの先端に設け、該金属ワイヤーを坩堝底部の孔から坩堝内部に挿入し、該金属ワイヤーに原料融液を付着せしめた後、原料融液を金属ワイヤーと共に引き下げることによって結晶を製造することが好ましい。
【0042】
即ち、高周波の出力を調整し、原料の温度を徐々に上げながら、該金属ワイヤーを坩堝底部の孔に挿入し、引き出しを行う。この操作を、原料融液が金属ワイヤーと共に引き出されるまで繰り返して、結晶の製造を開始する。該金属ワイヤーの材質は、原料融液と実質的に反応しない材質であれば制限無く使用できるが、Pt或いはW−Re合金等の高温における耐食性に優れた材質が好適である。
【0043】
上記金属ワイヤーによる原料融液の引き出しを行った後、一定の引き下げ速度で引き下げることにより、融液を連続的に結晶化させて単結晶を成長させる。
【0044】
該引き下げ速度は、特に限定されないが、速過ぎると単結晶の結晶性が悪くなりやすく、遅過ぎると、結晶性は良くなるものの、製造に必要な時間が膨大になってしまうため、0.5〜50mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0045】
本発明において、700〜1050℃の温度範囲で単結晶を成長せしめた後、該成長せしめた単結晶を5〜200℃/minの冷却速度で冷却することが肝要である。700℃以上、より好ましくは800℃以上の温度範囲で単斜晶型結晶構造を有する単結晶を成長せしめることにより、結晶を成長せしめる間、結晶全体を700〜1050℃に保っておき、さらに次いで該成長せしめた単結晶を5〜200℃/minの冷却速度で冷却することによって単斜晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造への相変態を回避し、クラックのない単斜晶型結晶構造を有する単結晶を製造することができる。前記温度範囲の上限値である1050℃は、融液から当該単結晶を成長せしめる際の凝固点を意味する。
【0046】
前記単結晶を成長せしめる温度範囲を調整する方法は特に制限されないが、アフターヒーター1の長さによって調整する方法が好適である。すなわち、図1に示す結晶製造装置においては、坩堝5が最も高温となっており、装置内の下部にいくほど温度が低下し、ステージ4の近傍及びこれより下部では急激に温度が低下し、単結晶の冷却速度は200℃/min超となっている。したがって、アフターヒーター1の長さを所望の単結晶の長さと同等以上に調整し、坩堝底部に設けた孔の直下の温度が単結晶の凝固点となるように高周波の出力を調整すれば、坩堝底部からステージ4の間の空間の温度範囲を700〜1050℃の温度範囲として単結晶を成長せしめることができる。
【0047】
700〜1050℃の温度範囲で所望の長さに成長せしめた単結晶は、5〜200℃/minの冷却速度で冷却する。冷却速度を5℃/min以上とすることにより、単斜晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造への相変態を回避し、クラックのない単斜晶型結晶構造を有する単結晶を製造することができ、また、200℃/min以下とすることにより、熱衝撃による結晶の割れを回避することができる。
【0048】
なお、m−KLFの製造において、熱歪に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。ただし、当該アニール操作を行う際には相変態が生じる温度以上に加熱してはならない。
【0049】
本発明のm−KLFを所望の形状に加工して使用できる。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0050】
本発明のm−KLFからなる真空紫外発光素子は、電子線或いはFレーザー等の適当な励起源と組み合わせることにより、真空紫外光発生装置とすることができる。かかる真空紫外光発生装置は、フォトリソグラフィー、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等の分野において、好適に使用される。
【0051】
また、本発明のm−KLFからなるシンチレーターは、光電子増倍管や半導体受光素子などの微弱光検出器と組み合わせて、放射線検出器として好適に使用できる。
【0052】
本発明のm−KLFからなるシンチレーターは、検出対象とする放射線に制限は無く、X線、α線、β線、或いはγ線等の放射線の検出に用いることができるが、有効原子番号及び密度がそれぞれ大きいため、放射線の中でも、硬X線或いはγ線等の高エネルギーの光子の検出において、最大の効果を発揮する。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0054】
実施例1
(結晶の製造)
図1に示す結晶製造装置を用いて、実施例1のKLu単結晶を製造した。
【0055】
原料としては、純度が99.99%のKF及びLuFを用いた。アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、ステージ4、及び坩堝5は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0056】
まず、各原料を表1に示すとおりそれぞれ秤量し、よく混合して混合原料を調製し、当該混合原料を坩堝5に充填した。
【0057】
【表1】

【0058】
原料を充填した坩堝5を、高さが30mmのアフターヒーター1の上部にセットし、その周囲にヒーター2、及び断熱材3を順次セットした。次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー6内を9.0×10−4Paまで真空排気した後、アルゴン90%−四フッ化メタン10%混合ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行った。
【0059】
ガス置換後のチャンバー6内の圧力は大気圧とした後、高周波コイル7に印加する高周波の出力を調整して原料融液の温度を徐々に上げながら、引き下げロッド8の先端に設けたPtワイヤーを、上記孔に挿入し、引き下げる操作を繰り返したところ、原料の融液を上記孔より引き出すことができた。
【0060】
この時点の温度が保たれるように高周波の出力を固定し、原料の融液を引き下げ、結晶化を開始した。6mm/hrの速度で連続的に5時間引き下げ、最終的に直径2mm、長さ約30mmの単結晶を得た。
【0061】
このときの単結晶が成長した範囲の温度を、熱電対を用いて測定した結果、最上部が1050℃であり、最下部が750℃であった。したがって、前記単結晶は750〜1050℃の温度範囲で成長したものである。
【0062】
前記単結晶を成長した後、高周波の出力を低下させ、50℃/minの冷却速度で単結晶を室温まで冷却した。
【0063】
その結果、クラックや白濁の無い良質な結晶が得られた。
【0064】
(結晶相の同定)
前記結晶の製造によって得られた結晶の同定を下記の方法で行った。
【0065】
得られた結晶の一部を粉砕して粉末にして、粉末X線回折測定を行った。測定装置にはBruker AXS社製、D8 DISCOVERを用いた。粉末X線回折法による回折パターンを図2に示す。粉末X線回折法によって得られた回折パターンを解析した結果から、実施例1の結晶は、単斜晶型結晶構造を有することが分かった。
【0066】
(発光特性の評価)
得られた実施例1の結晶を、ワイヤーソーによって約10mmの長さに切断し、側面を研削して長さ10mm、幅約2mm、厚さ1mmの形状に加工した後、長さ10mm、幅約2mmの面を両面とも鏡面研磨した。
【0067】
本発明のフッ化物単結晶について、X線励起下での真空紫外発光特性を、図3に示す装置を用いて評価した。装置内の所定の位置に本発明のフッ化物単結晶9をセットし、装置内部全体を窒素ガスで置換した。X線管10(リガク製 タングステンターゲット、管電圧 60kV、管電流 35mA)からのX線をフッ化物単結晶9に照射した。フッ化物単結晶9からの発光を発光分光器11(分光計器製、KV201型極紫外分光器)で分光し、各波長における発光強度をCCD検出器12で記録して、X線励起発光スペクトルを得た。
【0068】
得られたX線励起発光スペクトルを図4に示す。図4より、本発明のフッ化物単結晶は、波長が200nm以下の真空紫外領域の波長において、高輝度で発光することが確認され、真空紫外発光素子として有用であることが分かった。
【0069】
また、X線の入射によって高輝度で発光することから、シンチレーターとしても有用であることが分かった。
【0070】
実施例2〜3
原料として、KF、LuF、CeF及びTmFを用い、各原料の混合量を表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして結晶の製造を行った。なお、前記原料はいずれも純度が99.99%のものを用いた。
【0071】
得られた結晶はいずれもクラックや白濁の無い良質な結晶であった。
【0072】
実施例1と同様にして結晶相の同定を行った結果、実施例2〜3の結晶は、いずれも単斜晶型結晶構造を有することが分かった。
【0073】
実施例1と同様にして発光特性の評価を行った結果を図4に示す。図4より、実施例3のフッ化物単結晶は、波長が200nm以下の真空紫外領域の波長において、高輝度で発光することが確認され、真空紫外発光素子として有用であることが分かった。
【0074】
また、実施例2及び実施例3のフッ化物単結晶は、X線の入射によって高輝度で発光することから、シンチレーターとして有用であることが分かった。
【0075】
比較例1
結晶を製造する際の温度範囲を300〜1050℃とする以外は、実施例1と同様にしてフッ化物結晶を製造した。その結果、クラックが無数に生じた結晶が得られ、真空紫外発光素子やシンチレーターとしての使用に堪えないものであった。当該フッ化物結晶について、実施例1と同様にして結晶相の同定を行った結果、斜方晶型結晶構造を有するKLuと単斜晶型結晶構造を有するKLuが混在しており、したがって本比較例においては相変態が生じていることが分かった。
【符号の説明】
【0076】
1 アフターヒーター
2 ヒーター
3 断熱材
4 ステージ
5 坩堝
6 チャンバー
7 高周波コイル
8 引き下げロッド
9 フッ化物単結晶
10 X線管
11 発光分光器
12 CCD検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式K(MLu1−x(ただし、MはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0〜0.2の範囲である)で表わされ、単斜晶型結晶構造を有することを特徴とするフッ化物単結晶。
【請求項2】
MがNd、Er、Tm及びYbから選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1記載のフッ化物単結晶。
【請求項3】
請求項2記載のフッ化物単結晶からなることを特徴とする真空紫外発光素子。
【請求項4】
請求項1又は2記載のフッ化物単結晶からなることを特徴とするシンチレーター。
【請求項5】
原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液から単結晶を成長せしめる単結晶の製造方法であって、700〜1050℃の温度範囲で単結晶を成長せしめた後、該成長せしめた単結晶を5〜200℃/minの冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1〜3記載のフッ化物単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36066(P2012−36066A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180615(P2010−180615)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】