説明

フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法

【課題】極めて短時間の熱処理によって、基材上に直接若しくはゴム層を介して熱融着したフッ素樹脂被覆層を形成することができ、フッ素樹脂被覆層に欠陥の発生が少なく、下層に存在するゴム層の熱劣化が抑制されたフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを提供すること。
【解決手段】基材若しくは該基材の外周面上に少なくともゴム層を形成したゴム被覆基材を熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内に挿入する工程;必要に応じて予備収縮工程;並びに、該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる加圧融着工程;必要に応じて再加熱工程及び急冷工程;を含むフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、円柱状、円筒状、管状またはエンドレスベルト状の基材の外周面に、直接またはゴム層を介して、フッ素樹脂層が配置された層構成を有するフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式(静電記録方式を含む)の複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタなどの画像形成装置において、一般に、感光体の表面を一様かつ均一に帯電する帯電工程;像露光を行って、感光体上に静電潜像を形成する工程;静電潜像にトナー(現像剤)を付着させて、トナー像を形成する現像工程;感光体上のトナー像を、紙やOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)シートなどの記録媒体上に転写する転写工程;及び記録媒体上の未定着トナー像を定着する定着工程;を含む一連の工程によって、画像を形成している。
【0003】
定着工程では、一般に、記録媒体上の未定着トナー像を加熱・加圧して、該記録媒体上に定着させている。定着工程では、通常、電熱ヒーターなどの加熱手段を内蔵する定着ローラと、該定着ローラに対向して配置された加圧ローラとからなるローラ対を備えた定着ユニット(「定着装置」と呼ぶことがある)を使用している。両ローラを圧接して形成したニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を通過させて、加圧下に加熱し、未定着トナー像を記録媒体上に定着させている。定着ユニットでは、定着ローラと加圧ローラとからなるローラ対を、それぞれ回転自在に支持し、同期して回転させている。
【0004】
近年、薄肉の管状(チューブ状)またはエンドレスベルト状の定着ベルトを加圧ローラ若しくはベルトに対向して配置し、そして、該定着ベルト内に配置したヒーターにより実質上直接的に記録媒体上の未定着トナー像を加圧下に加熱する定着法が開発されている。この定着法によれば、電源を入れた後の待ち時間を著しく短縮することができる上、画像形成装置の軽量化や小型化に寄与することができる。
【0005】
画像形成装置では、定着工程以外の工程においても、例えば、帯電ローラ、帯電ベルト、転写ローラ、転写ベルトなど各種ローラまたはベルト部材が用いられている。画像形成装置で用いられる各種ローラまたはベルト部材には、それぞれの用途に適した機能(例えば、帯電ローラでは、帯電性)を有することが求められている。
【0006】
これらの中でも共通する機能または特性として、トナー離型性に優れており、表面にトナーが付着したり、トナーフィルミングを形成したりしないことが求められている。特に定着ローラまたはベルトは、記録媒体上の未定着トナー像と加圧加熱下に密着するため、その表面のトナー離型性に優れることが強く求められている。定着ローラまたはベルトの表面に残留トナーやトナーフィルミングが存在すると、高品質の画像を形成することができない。
【0007】
加えて、これらのローラまたはベルト部材には、表面に適度の弾力性のあることが求められる場合がある。例えば、定着ローラまたはベルトには、記録媒体上の未定着トナー像を包み込むようにして、加圧加熱できることが求められることが多い。定着ローラまたはベルトに対向して配置される加圧ローラまたはベルトにも、表面に弾力性のあることが要求される。
【0008】
画像形成装置の各種ローラまたはベルト部材は、一般に、円柱状、円筒状、管状またはエンドレスベルト状の基材を主たる構成部品として含んでいる。該ローラまたはベルト部材の表面にトナー離型性を付与するには、一般に、基材の最外層としてフッ素樹脂層を配置する方法が採用されている。該ローラまたはベルト部材の表面に弾力性を付与するには、一般に、フッ素ゴム及び/またはシリコーンゴムなどの耐熱性ゴム材料を用いて、基材上にゴム層を形成する方法が採用されている。
【0009】
このため、該ローラまたはベルト部材としては、基材上に直接若しくはゴム層を介してフッ素樹脂層を配置した構造のフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトが用いられている。フッ素樹脂層は、一般に、非粘着性、耐摩耗性、及び耐熱性に優れている。しかし、基材上に直接若しくはゴム層を介してフッ素樹脂層を形成するには、高温で長時間の焼成が必要であったり、フッ素樹脂層の熱融着に高温で長時間の加熱が必要であったりする。このため、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトは、生産性の更なる向上が困難である上、フッ素樹脂層の形成時に下層のゴム層が熱劣化を受けて、耐久性が低下するという問題があった。従来、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトについて、様々な製造方法が提案されているが、上記の欠点を十分に克服することが困難であった。
【0010】
従来、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法のひとつとして、基材または基材上に形成したゴム層の上にフッ素樹脂塗料の塗膜を形成し、該塗膜を高温で焼成する方法が知られている。フッ素樹脂塗膜の焼成によって、平滑な表面を有する均質なフッ素樹脂層を形成することができる。
【0011】
例えば、特許第3584682号公報(特許文献1)には、担体上に、フッ素樹脂とシリコーン変性ポリイミドとを含有する接着層と、フッ素樹脂からなる最外層とを設けた定着用部材が開示されている。特許文献1の実施例には、接着層上に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の粉体塗料を静電塗装し、次いで、375℃で30分間の焼成条件で硬化処理と製膜処理を行い、フッ素樹脂層を形成した実験例が示されている。
【0012】
特開平10−198201号公報(特許文献2)には、薄肉のチューブ状基体の外周面に耐熱性エラストマー層を設け、その上にフッ素樹脂層を設けた層構成を有する定着用ベルトが開示されている。特許文献2の実施例には、ポリイミドチューブの外周面に、プレス成形によりシリコーンゴム層を設け、その上にフッ素樹脂塗料を塗布し焼結して、フッ素樹脂層を形成した実験例が示されている。
【0013】
特許文献1及び2に開示されている焼成法によれば、フッ素樹脂層を形成するために、フッ素樹脂の融点以上の高温の乾熱雰囲気中で長時間にわたる焼成を行う必要がある。フッ素樹脂層の下層にゴム層が存在する場合には、ゴム層の耐熱温度がフッ素樹脂層の焼成温度より低いため、フッ素樹脂層の焼成時にゴム層の熱劣化が進行する。特に、フッ素樹脂層とゴム層との界面でのゴム層表面の熱劣化が生じ易く、その結果、層間密着性が低下し、層間剥離が生じることもある。このため、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの耐久性が低下する。
【0014】
フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの他の製造方法のひとつとして、円筒状金型の内面にフッ素樹脂層を形成した後、該円筒状金型の軸心にローラ状基体を挿入し、該フッ素樹脂層とローラ状基体との間の間隙にゴム材料を注入し、加硫する方法が知られている。加硫後に、「フッ素樹脂層/ゴム層/基材」の層構成を有するフッ素樹脂被覆ローラを円筒状金型から脱型する。
【0015】
例えば、特開平11−336742号公報(特許文献3)及び特開2001−295830号公報(特許文献4)には、円筒状金型の内面にフッ素樹脂塗料またはフッ素樹脂粉体塗料を塗布して、塗膜を形成し、次いで、該塗膜を焼成してフッ素樹脂膜を形成する工程1;円筒状金型の軸心にローラ状基体を挿入する工程2;該フッ素樹脂塗膜とローラ状基体との間の隙間にゴム材料を注入し、加硫する工程3;及び円筒状金型を脱型する工程4;を含むフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法が開示されている。
【0016】
特許文献3及び4に開示されている注型法によれば、最外層を形成するフッ素樹脂層の焼成を最初の工程で実施し、その後にゴム層の加硫を行うため、フッ素樹脂層の焼成に起因するゴム層の熱劣化を防ぐことができる。しかし、特許文献3及び4に開示されている注型法では、精密な円筒状金型が必要である上、ローラ状基体の軸心を円筒状金型の軸心と正確に一致させることが困難である。しかも、該注型法では、薄いゴム層を形成することが困難である;ゴム層に偏肉が生じる;脱型時にフッ素樹脂膜が破損する;などの問題が生じ易い。
【0017】
フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの他の製造方法のひとつとして、熱収縮性を有しないフッ素樹脂チューブの開口部を拡径しながら、ゴム被覆ローラ基材を該フッ素樹脂チューブ内に挿入する工程を含む方法が知られている。
【0018】
例えば、特開2004−276290号公報(特許文献5)及び特開2008−257098号公報(特許文献6)には、ゴム被覆ローラ基材の外周面に低粘度の接着剤を塗布し、該ゴム被覆ローラ基材の外径より小さな内径を有するフッ素樹脂チューブの一端部を拡径しながら、該フッ素樹脂チューブをゴム被覆ローラ基材に被覆する工程を含むフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法が開示されている。被覆工程後に、接着剤層の加熱硬化工程が配置される。
【0019】
特許文献5及び6に開示されているフッ素樹脂チューブ被覆法は、該フッ素樹脂チューブの内径の拡張のために複雑で高価な装置を必要とする;ゴム被覆ローラ基材のゴム層表面に低粘度の接着剤を塗布して、フッ素樹脂チューブの被覆時に潤滑性を付与する必要がある;接着剤層の厚みにバラツキが生じ易い;空気を巻き込んで、フッ素樹脂チューブと下層との間に気泡が発生し易い;接着剤の硬化に高温で長時間の加熱を必要とする;フッ素樹脂チューブがゴム層に熱融着していないため、耐久性が不十分となる場合がある;などの問題がある。
【0020】
フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの他の製造方法のひとつとして、基材または基材上に形成したゴム層の上に熱収縮性フッ素樹脂チューブを被覆し、加熱して熱収縮させ、さらに高温で長時間にわたって加熱して熱融着させる工程を含む方法が知られている。
【0021】
例えば、特開昭64−1534号公報(特許文献7)には、プライマー処理した円柱状物品に、熱収縮性PFAチューブを被せ、80〜250℃の範囲内の温度に加熱して収縮固定した後、330〜400℃の範囲内の温度で焼成して熱融着させるフッ素樹脂被覆円柱状物品の製造方法が開示されている。
【0022】
特許第3112335号公報(特許文献8)には、ポリイミドチューブの外周面に熱収縮性PFAチューブを被覆し、280〜400℃の温度で30〜60分間(実施例1では、350℃で40分間)加熱して焼成することにより、熱収縮性PFAチューブを熱融着させるチューブ状複合フィルムの製造方法が開示されている。
【0023】
国際公開第2008/126915号(特許文献9)には、ステンレス製円筒などの基材上に弾性層を形成し、さらに該弾性層上に熱収縮性PFAチューブを被覆し、290〜300℃の雰囲気下で熱収縮させて該弾性層に密着させ、次いで、PFAの融点以上の温度に加熱して熱融着させる定着ローラまたはベルトの製造方法が開示されている。
【0024】
特許文献7乃至9に開示されている熱収縮性フッ素樹脂チューブの被覆法は、基材またはゴム層と熱収縮性フッ素樹脂チューブとの間に気泡が発生し易い;熱収縮時に熱収縮性フッ素樹脂チューブに弛みや皺が生じ易い;熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着時に高温の乾熱雰囲気中で長時間にわたる加熱処理が必要となる;熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着時に下層のゴム層が熱劣化を受け易い;などの問題を抱えている。
【0025】
特許文献7乃至9の中には、比較的短時間の加熱によって、熱収縮性フッ素樹脂チューブを基材またはゴム層の外周面に熱融着することができると述べているものがある。しかし、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着を行うには、実際には、高温の乾熱雰囲気中で長時間にわたって加熱する必要がある。加熱温度が低すぎたり、加熱時間が短すぎると、基材またはゴム層の外周面への熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着が不十分となり、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの耐久性が損なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特許第3584682号公報
【特許文献2】特開平10−198201号公報
【特許文献3】特開平11−336742号公報
【特許文献4】特開2001−295830号公報
【特許文献5】特開2004−276290号公報
【特許文献6】特開2008−257098号公報
【特許文献7】特開昭64−1534号公報
【特許文献8】特許第3112335号公報
【特許文献9】国際公開第2008/126915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の課題は、熱収縮性フッ素樹脂チューブの被覆法により、比較的短時間の加熱によって、基材上に直接若しくはゴム層を介して熱融着したフッ素樹脂被覆層を形成することができ、基材またはゴム層と熱収縮性フッ素樹脂チューブとの間に気泡が発生したり、熱収縮性フッ素樹脂チューブに弛みや皺が生じたりすることがない、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法を提供することにある。
【0028】
さらに、本発明の課題は、基材の外周面にゴム層を形成したゴム被覆基材を用いた場合であっても、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着に必要とされる高温での加熱時間を著しく短縮して、ゴム層の熱劣化を顕著に抑制したフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法を提供することにある。
【0029】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、外周面上に熱収縮性フッ素樹脂チューブを配置した基材若しくはゴム被覆基材を、所定温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面上に熱融着させる方法に想到した。
【0030】
本発明の方法によれば、例えば、熱収縮性フッ素樹脂チューブの加熱による予備的な収縮時に、基材またはゴム層と熱収縮性フッ素樹脂チューブとの間に気泡が発生したり、熱収縮性フッ素樹脂チューブに弛みや皺が生じたりしても、ホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させる工程によって、気泡や弛み、皺などを解消させることができる。また、本発明の方法によれば、耐久性と表面の平滑性に優れたフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを製造することができる。
【0031】
外周面上に熱収縮性フッ素樹脂チューブを配置した基材若しくはゴム被覆基材を、所定温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させる方法を採用すると、ホットプレート面からの熱伝導性が極めて良好であるため、短時間で熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材または該ゴム被覆基材の外周面上に熱融着させることができる。その結果、下層のゴム層の熱劣化を顕著に抑制することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明によれば、長手方向に沿って延びる中心軸に垂直な断面が円形の外周面を有する基材、及び該基材上に直接若しくはゴム層を介して配置されたフッ素樹脂層を有するフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法において、
(1)該基材若しくは該基材の外周面上に少なくともゴム層を形成したゴム被覆基材を、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外径より大きな内径を有する熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内に挿入する工程;及び
(2)該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる加圧融着工程;
好ましくは更に、該加圧融着工程の後に、該フッ素樹脂層を、該フッ素樹脂を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する再加熱工程;を含むことを特徴とするフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、比較的短時間の加熱によって、基材上に直接若しくはゴム層を介して熱融着したフッ素樹脂被覆層を形成することができる。本発明の製造方法によれば、基材またはゴム被覆基材のゴム層と熱収縮性フッ素樹脂チューブとの間に気泡が発生したり、熱収縮性フッ素樹脂チューブに弛みや皺が生じたりすることがない。本発明の製造方法によれば、基材の外周面上にゴム層を形成したゴム被覆基材を用いた場合であっても、該ゴム層の熱劣化を大幅に抑制することができる。本発明の製造方法では、複雑かつ高価な装置を必要とせず、各工程での操作も比較的簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、外周面に熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた基材若しくはゴム被覆基材を、ホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させる製造工程の一例を示す断面略図である。
【図2】図2は、図1に示す製造工程の一例の側面図である。
【図3】図3は、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、長手方向に沿って延びる中心軸に垂直な断面が円形の外周面を有する基材、及び該基材上に直接若しくはゴム層を介して配置されたフッ素樹脂層を有するフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法に関する。
【0036】
本発明で使用する基材は、基材の長手方向に沿って延びる中心軸に垂直な断面が円形の外周面を有するものである。このような構造を有する基材としては、円柱状、円筒状、管状、及びエンドレスベルト状の基材がある。円柱状基材とは、一般に、全体が中実の成形体であり、加圧ローラなどの内部に発熱体を配置する必要のないローラ部材の基材として適している。
【0037】
円筒状基材とは、一般に、ある程度の厚みのある成形体を指す。フッ素樹脂を被覆した円筒状基材は、フッ素樹脂被覆ローラと呼ばれている。他方、管状基材とは、一般に、金属薄膜や合成樹脂フィルムで形成されたチューブ状成形体である。しかし、両者は、中空基材である点で共通しているため、その境界は、必ずしも明確ではない。エンドレスベルト状基材は、断面の直径がある程度大きなものを意味することが多いが、管状基材(「チューブ状基材」ともいう)との境界は、必ずしも明確ではない。このため、当該技術分野では、例えば、フッ素樹脂被覆管状基材を、フッ素樹脂被覆ベルトまたはフッ素樹脂被覆ローラ若しくはフッ素樹脂被覆チューブと呼ぶことがある。
【0038】
基材は、300〜400℃で60分間以上の加熱処理に耐える材質から形成された成形体であることが望ましい。円柱状または円筒状の基材は、一般に、熱伝導性の良好なアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレスなどの金属;アルミナ、炭化ケイ素などのセラミックス;などから形成された円柱状若しくは円筒状の成形体である。円柱状または円筒状の基材は、両端に軸受け部を有するシャフト形状であってもよい。円柱状または円筒状の基材が金属製である場合、一般に芯金と呼ばれている。
【0039】
管状基材は、金属薄膜や合成樹脂フィルムから形成された金属チューブまたは耐熱性樹脂チューブと呼ばれる成形体であり、エンドレスベルトと呼ばれることもある。金属チューブの材質としては、例えば、鉄、ニッケル、これらの合金などが挙げられる。定着ベルトの加熱に電磁誘導加熱方式を採用する場合には、金属チューブの材質として、鉄、ニッケル、これらの合金、及びフェライト系ステンレスが好ましい。定着ベルトのように、ベルト部材全体を効率よく加熱する必要がある場合には、金属チューブとして、熱容量が小さく、電磁誘導加熱により更にヒートアップが早いニッケルベルトやステンレスベルトを用いることが好ましい。
【0040】
合成樹脂チューブの材質としては、耐熱性に優れ、熱容量が小さく、使用時にヒーターの加熱により急速に昇温するものが好ましく、一般に、融点、熱変形温度、熱分解温度などの耐熱温度が250℃以上の耐熱性樹脂が使用される。耐熱性樹脂の具体例としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性と耐久性の観点から、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾールが好ましく、ポリイミドがより好ましく、熱硬化型ポリイミドが特に好ましい。
【0041】
エンドレスベルト状基材は、その断面の直径の大きさに応じて、直径が小さな管状成形体(チューブ状成形体)から直径が大きいエンドレスベルト(シームレスベルト)までを意味する。断面の直径が大きなエンドレスベルト状基材を用いたフッ素樹脂被覆ベルトは、その内側に複数のローラを配置して、転写ベルトとして用いられるものを含む。エンドレスベルト状基材としては、前記の金属薄膜や合成樹脂フィルムから形成されたものを用いることができる。
【0042】
基材の厚み、径、及び長さは、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを画像形成装置の定着部材として用いる場合、基材の長さは、転写紙などの記録媒体の幅に応じて定められる。基材の直径は、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの用途や画像形成装置の機種などによって適宜定めることができるが、定着部材として用いられる場合には、通常10〜150mmφ、好ましくは13〜100mmφ、より好ましくは15〜40mmφの範囲から選ばれることが多い。基材の厚みは、定着ベルトの場合、通常20〜100μm、好ましくは25〜80μmの範囲から選ばれる。基材の形状は、長さ方向に径が均一なもの以外に、クラウン状、逆クラウン状、テーパー状などであってもよい。
【0043】
管状基材またはエンドレスベルト状基材が熱硬化型ポリイミドなどの耐熱性樹脂から形成された成形体である場合、熱伝導性を高めるために、無機フィラーを含有させることができる。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、チタンカーバイド、タングステンカーバイド、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、タルクが挙げられる。これらの中でも、高熱伝導率を有する点で、アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、及び窒化ホウ素が好ましい。
【0044】
基材を形成する合成樹脂に無機フィラーを含有させる場合、通常50容量%以下、多くの場合40容量%以下の割合で使用する。その下限値は、多くの場合5容量%である。無機フィラーを含有する熱硬化型ポリイミドチューブまたはエンドレスベルトを作製するには、無機フィラーを分散させたポリイミド前駆体ワニスを用いて、円柱状または円筒状金型の外周面若しくは内周面に塗膜を形成し、加熱してイミド化する方法を採用することができる。
【0045】
ゴム層は、基材上に形成される。ゴム層の形成に用いるゴムの材質としては、耐熱性ゴムが好ましい。耐熱性ゴムとは、ゴム層を配置したフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着ユニットに配置した場合、定着温度での連続使用に耐え得るだけの耐熱性を有するものをいう。耐熱性ゴムとしては、シリコーンゴム及びフッ素ゴムが好ましい。これらの耐熱性ゴムは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ゴム層は、シリコーンゴム層やフッ素ゴム層の各単層だけではなく、例えば、シリコーンゴム層とフッ素ゴム層とを積層した多層であってもよい。
【0046】
耐熱性ゴムとしては、耐熱性が特に優れている点で、ミラブル状または液状のシリコーンゴム、フッ素ゴム、またはこれらの混合物が好ましい。より具体的には、耐熱性ゴムとして、ジメチルシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴムなどのシリコーンゴム;フッ化ビニリデンゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合ゴム、ホスファゼン系フッ素ゴム、フルオロポリエーテルなどのフッ素ゴム;を挙げることができる。これらの耐熱性ゴムは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。シリコーンゴムとフッ素ゴムとをブレンドして用いてもよい。
【0047】
液状のシリコーンゴム及びフッ素ゴムは、熱伝導性フィラーを高充填して、熱伝導率が高いゴム層を形成するのが容易である。液状シリコーンゴムとしては、縮合型液状シリコーンゴム及び付加型液状シリコーンゴムがある。これらの中でも、付加型液状シリコーンゴムが好ましい。
【0048】
付加型液状シリコーンゴムは、ビニル基を有するポリシロキサンとSi−H結合を持つポリシロキサンとを、白金触媒を用いて付加反応させることにより、シロキサン鎖を架橋させる機構を用いたものである。白金触媒の種類や量を変えたり、反応抑制剤(遅延剤)を使用したりすることにより、硬化速度を自由に変えることができる。2成分型で室温での速いものが室温硬化型であり、白金触媒量を調整したり、反応抑制剤を使用したりして、100〜200℃の温度で加熱硬化させるようにしたものが加熱硬化型であり、さらにそれらの抑制作用を強くして、1成分に混合しておいても低温で保管している限り液状を保っており、使用時に加熱して硬化させるとゴム状になるものが1成分加熱型である。これらの付加型液状シリコーンゴムの中でも、熱伝導性フィラーとの混合作業やゴム層形成作業の容易さ、層間接着性などの観点から、加熱硬化型の付加型液状シリコーンゴムが好ましい。
【0049】
ゴム層には、熱伝導性フィラーを含有させて熱伝導率を高めることができる。フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着ユニットに配置する定着部材として使用する場合、ゴム層の熱伝導率を、好ましくは0.2〜4.0W/(m・K)、より好ましくは0.6〜3.0W/(m・K)、特に好ましくは1.0〜2.5W/(m・K)とすることが望ましい。特に高熱伝導率のゴム層が必要とされる場合には、ゴム層の熱伝導率を、好ましくは1.1W/(m・K)以上、より好ましくは1.2W/(m・K)以上とすることが望ましい。
【0050】
ゴム層の熱伝導率を高くするには、シリコーンゴム及びフッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種の耐熱性ゴムに熱伝導性フィラーを配合したゴム組成物を用いて、ゴム層を形成する方法を採用することが好ましい。ゴム層の熱伝導率が低すぎると、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着部材として使用したときに、加熱効率が低下して、高速印字やフルカラー印字における定着性を十分に向上させることが困難になる。他方、ゴム層の熱伝導率が高すぎると、熱伝導性フィラーの配合割合が高くなりすぎて、ゴム層の機械的強度や弾力性が低下するおそれがある。
【0051】
熱伝導性フィラーとしては、例えば、炭化ケイ素、ボロンナイトライド、アルミナ、窒化アルミニウム、チタン酸カリウム、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウムなどの無機フィラーが好ましい。熱伝導性フィラーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、炭化ケイ素、ボロンナイトライド、アルミナ、及び窒化アルミニウムが好ましい。
【0052】
熱伝導性フィラーの平均粒径は、通常0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmである。平均粒径は、島津製作所製「島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−3000」を用いて測定することができる。熱伝導性フィラーの平均粒径が小さすぎると、熱伝導性の向上効果が不十分となり易い。熱伝導性フィラーの平均粒径が大きすぎると、ゴム層の表面に凹凸が生じて、その上のフッ素樹脂層の表面平滑性が低下することがある。
【0053】
ゴム組成物中の熱伝導性フィラーの配合割合は、組成物全量基準で、通常5〜60容量%、好ましくは10〜50容量%、より好ましくは15〜45容量%である。熱伝導性フィラーの配合量が少なすぎると、ゴム層の熱伝導率を十分に高くすることが困難になる。熱伝導性フィラーの配合量が多すぎると、ゴム層の機械的強度や弾力性が低下傾向を示す。
【0054】
ゴム層の厚みは、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの用途や形状に応じて適宜定めることができるが、通常10μm以上5mm以下、好ましくは50μm以上3mm以下である。フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトが、金属チューブまたは耐熱性樹脂チューブを基材とするベルト部材である場合には、基材自体の弾力を考慮すると、ゴム層の厚みは、好ましくは10μm以上1mm以下、より好ましくは50〜900μm、特に好ましくは100〜800μmであり、多くの場合200〜350μmで満足できる結果が得られる。フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトが、円柱状若しくは円筒状の成形体を基材とするローラ部材である場合には、基材が硬いため、ゴム層の厚みは、好ましくは50μm以上5mm以下、より好ましくは500μm以上3mm以下とすることが望ましい。
【0055】
フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着部材として使用する場合、弾力性を付与するために、ゴム層の硬度は、低いことが望ましい。このゴム層に使用するゴム材料硬度は、例えば、日本工業規格のJIS K 6301に規定するスプリング硬さ試験A形により測定することができる。この方法により測定したゴム硬度(「JIS−A硬度」という)は、好ましくは100未満、より好ましくは15〜90、さらに好ましくは15〜70、特に好ましくは15〜60である。また、ゴム材料の180℃で22時間25%圧縮での圧縮永久歪みは、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。圧縮永久歪みが大きくなりすぎると、ゴム層の復元性が低下し、耐久性が低下する傾向にある。
【0056】
ゴム層の厚みが薄すぎたり硬度が高すぎたりすると、定着ローラまたはベルトが未定着トナー像を包み込むようにして溶融することができなくなり、定着性が低下する。特に、カラートナーを用いた場合に、定着不良を起こしやすくなる。ゴム層の厚みが厚すぎたり、硬度が低すぎたりすると、熱伝導性や耐久性が低下する傾向にある。
【0057】
図3に断面図を示すように、本発明のフッ素樹脂被覆ローラまたはベルト31の代表的なものは、基材32上にゴム層33が形成され、その最外層に熱収縮性フッ素樹脂チューブから形成されたフッ素樹脂層34が形成された層構成を有するものである。基材32とゴム層33との間の密着性を高めるために、基材32の外周面にプライマー層または接着剤層を形成してもよい。ゴム層33とフッ素樹脂層34との間の密着性を高めるために、これらの層間にプライマー層または接着剤層を設けることができる。
【0058】
フッ素樹脂層を最外層に配置することにより、トナー離型性、耐熱性、及び耐摩耗性を向上させることができる。フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着部材として用いる場合、フッ素樹脂層を最外層に配置することにより、シリコーンオイルなどの離型オイルを塗布する必要がないか、あるいは少量の離型オイルの塗布でも十分なトナー離型性を得ることができる。
【0059】
本発明で用いる熱収縮性フッ素樹脂チューブは、一般に、押出成形と延伸成形により製造することができる。熱収縮性フッ素樹脂チューブの材質としては、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。これらのフッ素樹脂の中でも、押出成形性、延伸成形性、耐熱性、トナー離型性などの点で、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が好ましい。すなわち、本発明では、熱収縮性フッ素樹脂チューブとして熱収縮性PFAチューブを用いることが好ましい。
【0060】
熱収縮性フッ素樹脂チューブは、フッ素樹脂を環状ダイから、360〜440℃の範囲内の温度でチューブ状に溶融押出し、次いで、一軸延伸または二軸延伸を行う方法により作製されたものである。熱収縮性フッ素樹脂チューブの平均厚みは、通常10〜100μm、好ましくは12〜70μmの範囲内である。熱収縮性フッ素樹脂チューブの厚みが薄すぎると、製造時の押出成形性に劣ることに加えて、耐久性やトナー離型性が不十分となり易い。熱収縮性フッ素樹脂チューブの厚みが厚すぎると、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着部材として用いた場合、熱伝導性が不十分となり、高速印字やフルカラー印刷での定着性が低下する傾向にある。
【0061】
熱収縮性フッ素樹脂チューブは、例えば、290℃の乾熱雰囲気中で4分間保持する条件で測定したとき、軸方向に好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上の熱収縮率を示し、周方向(径方向)に好ましくは3〜15%、より好ましくは5〜13%の熱収縮率を示すものであることが望ましい。ただし、本発明の製造方法によれば、熱収縮性フッ素樹脂チューブを基材またはゴム層の外周面に強固に熱融着させることができるので、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮率は、上記範囲に限定されるものではない。熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮性は、フッ素樹脂の種類によっても異なる。
【0062】
本発明で使用する熱収縮性フッ素樹脂チューブは、基材若しくは該基材の外周面にゴム層を形成したゴム被覆基材を被覆するため、該基材若しくは該ゴム層の外径より大きな内径を有することが必要である。熱収縮性フッ素樹脂チューブの内径の大きさは、基材またはゴム層の外径、該熱収縮性フッ素樹脂チューブの周方向の熱収縮率などに応じて、好適な範囲を選択することができる。熱収縮性フッ素樹脂チューブの内周面には、常法に従って、プラズマ処理や化学エッチング処理などの表面処理を施すことができる。
【0063】
本発明の製造方法は、長手方向に沿って延びる中心軸に垂直な断面が円形の外周面を有する基材、及び該基材上に直接若しくはゴム層を介して配置されたフッ素樹脂層を有するフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法であり、具体的には、下記2段階の工程を含む製造方法である。
【0064】
(1)該基材若しくは該基材の外周面上に少なくともゴム層を形成したゴム被覆基材を、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外径より大きな内径を有する熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内に挿入する工程;及び
(2)該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる加圧融着工程。
【0065】
該ゴム被覆基材の外径とは、その最外層の外径を意味する。本発明の好ましい実施態様は、下記の工程1〜3を含む製造方法である。
【0066】
(I)該基材若しくは該基材の外周面上に少なくともゴム層を形成したゴム被覆基材を、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外径より大きな内径を有する熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内に挿入する工程1;
(II)中空内に該基材若しくは該ゴム被覆基材を挿入した状態の該熱収縮性フッ素樹脂チューブを、80℃から該熱収縮性フッ素樹脂チューブを形成するフッ素樹脂の融点未満までの範囲内の温度に制御して、熱収縮させることにより、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に密着させる工程2;及び
(III)外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた該基材若しくは該ゴム被覆基材を、280〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる加圧融着工程3。
【0067】
熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内への挿入工程1では、基材またはゴム被覆基材の外周面にプライマー層や接着剤層を設けることが好ましい。工程2は、熱収縮性フッ素樹脂チューブを予備的に熱収縮させて、該基材または該ゴム被覆基材の外周面に密着させる工程である。この工程2では、次の加圧融着工程3での処理を容易に行うために、熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材または該ゴム被覆基材の外周面に密着(「収縮固定」ともいう)させるだけでよく、熱融着が生じるほどの高温で長時間の加熱処理を行う必要はない。このため、工程2を予備収縮工程と呼ぶことがある。
【0068】
予備収縮工程2では、中空内に該基材または該ゴム被覆基材を挿入した状態の該熱収縮性フッ素樹脂チューブを、80℃から該熱収縮性フッ素樹脂チューブを形成するフッ素樹脂の融点未満までの範囲内の温度に制御した乾熱雰囲気と接触させて、熱収縮させることが好ましい。この工程2は、通常は、80℃以上フッ素樹脂の融点未満の範囲内の温度に制御した炉内の乾熱雰囲気中で行う。この方法に代えて、ホットスプレーガンにより、加熱した空気を噴射する方法など、他の方法により行ってもよい。加熱した空気は、乾熱雰囲気の一種である。
【0069】
予備収縮工程2での乾熱雰囲気の温度は、熱収縮性フッ素樹脂チューブを形成するフッ素樹脂の種類にもよるが、熱収縮性PFAチューブを用いる場合には、好ましくは90〜290℃、好ましくは130〜290℃、より好ましくは150〜290℃、特に好ましくは180〜290℃の範囲内である。工程2での処理時間は、熱収縮性フッ素樹脂チューブが熱収縮して基材またはゴム被覆基材の外周面に密着するに足る時間である。この時間は、乾熱雰囲気の温度や熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮性などによって異なるが、通常1〜40分間、好ましくは1〜30分間、より好ましくは1〜20分間、特に好ましくは1〜15分間の範囲内である。
【0070】
加圧融着工程3では、外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた基材またはゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材または該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる。
【0071】
従来、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱融着は、バッチ式で、加熱炉内の高温の乾熱雰囲気中で長時間にわたって加熱する方法により行っていた。この従来法では、十分な熱融着を行うために、長時間をかけて熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮を十分に進行させ、さらに高温での熱融着にも長時間をかけていたのが実情である。具体的に、熱収縮性PFAチューブを用いた場合、例えば、220℃から約300℃まで段階的に炉内の温度を変化させて熱収縮と熱融着を行っており、その後の冷却時間を含めると、合計で150分間前後の処理時間を必要としていた。従来法によれば、表面の平滑性に優れるフッ素樹脂層が形成されると共に、フッ素樹脂層の基材またはゴム層に対する熱融着を十分に進行させることができる。反面、従来法では、高温で長時間の処理が必要となるため、生産性に難がある上、ゴム層が存在する場合、熱融着工程で該ゴム層の熱劣化が進むという欠点を有している。
【0072】
本発明では、熱融着工程を乾熱雰囲気中で実施するのではなく、ホットプレート面との加圧下での接触によって行う。このような加圧下での接触による熱融着法によれば、ホットプレートの熱が直接的に熱収縮性フッ素樹脂チューブに伝達され、かつ、熱収縮性フッ素樹脂チューブが基材またはゴム被覆基材の外周面に強く押し付けられるため、熱融着を短時間で達成することができる。したがって、本発明の方法では、熱融着工程を極めて短時間で実施することができる上、ゴム層の熱劣化を著しく抑制することができる。
【0073】
熱収縮性フッ素樹脂チューブは、表面の非粘着性と耐熱性に優れているため、工程2の予備収縮後に高温のホットプレート面と加圧下に接触させても、該ホットプレート面に融着することがない。このような熱収縮性フッ素樹脂チューブの特性によって、本発明の工程3を含む製造方法が可能となる。
【0074】
ホットプレートとは、ヒーターにより加熱することができる表面が平坦なプレートである。ヒーターは、ホットプレートの下側やホットプレートの内部に配置することができる。ホットプレートの材質は、例えば、ステンレスなどの金属または金属合金であって、加圧融着工程での押圧力に耐えるだけの強度及び/または厚みを有するものであることが好ましい。ホットプレートは、セラミックスなど他の材質から形成されたものであってもよい。また、金属または金属合金の板状体の表面に、ポリイミドやフッ素樹脂等の耐熱性樹脂、または、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性ゴムからなるシートや塗膜を形成したものでもよい。
【0075】
ホットプレートの表面は、傷や凹凸のない平坦なものであることが好ましい。ホットプレートの表面に存在する傷などの欠陥は、加圧融着工程でフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトのフッ素樹脂層の表面に転写される。ただし、基材の形状がクラウン状、逆クラウン状、テーパー状などである場合、ホットプレートの表面を基材の形状に合わせた形状にすることができる。
【0076】
日本工業規格のJIS B 0601に従って測定したホットプレートの算術平均表面粗さRaは、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、特に好ましくは2μm以下である。ホットプレート表面の表面粗さが大きすぎると、フッ素樹脂層の表面の平坦性が損なわれて、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを定着部材として用いた場合に、画像の品質が低下する。
【0077】
ホットプレートの表面温度は、250〜400℃、好ましくは260〜320℃、より好ましくは270〜310℃の範囲内である。ホットプレートの好ましい表面温度の範囲は、熱収縮性フッ素樹脂チューブを構成するフッ素樹脂の種類によって異なるため、必ずしも上記範囲内に限定されない。
【0078】
前記工程2では、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮によって基材またはゴム層の外周面上に密着したフッ素樹脂層には、空気を巻き込んだ泡や、フッ素樹脂層自体の弛みや皺などが存在していることがある。本発明の工程3では、外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた該基材若しくは該ゴム被覆基材をホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを熱融着させるため、泡、弛み、皺などの欠陥が解消される。本発明の製造方法によれば、エアー溜まりができない。本発明の製造方法では、熱収縮性フッ素樹脂チューブを加圧下に接触させて加熱するため、熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮率の影響を受けることがない。この工程2での熱収縮性フッ素樹脂チューブの熱収縮が不十分であっても、工程3で熱収縮を完了させることができる。
【0079】
外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた該基材若しくは該ゴム被覆基材をホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させるには、基材が円柱状または円筒状であって、その両端に軸受け部を有するものである場合には、両端に軸受け部に押圧力をかけながら回転させる方法を採用することができる。
【0080】
基材が、円筒状または管状若しくはエンドレスベルト状の中空基材であって、軸受け部がなく、かつ、可撓性のものである場合には、補助部材としてローラ状押圧部材を使用することが好ましい。ローラ状押圧部材は、該中空基材の内径より小さな外径を有するローラ状の成形体である。ローラ状押圧部材は、断面が円形であって、円滑に回動させ得るものであることが好ましい。
【0081】
ローラ状押圧部材を用いる場合には、加圧融着工程(工程3)において、
a)該中空基材の中空内に、該中空基材の内径より小さな外径を有するローラ状押圧部材を挿入し、
b)該中空基材の両端部から突出した該ローラ状押圧部材の両軸部に上方からの押圧力をかけながら、該ローラ状押圧部材を該ホットプレート面に沿って移動させ、それによって、外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させ、
その際、該ローラ状押圧部材と該ホットプレート面との間のニップ部で、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを加圧下に加熱して、該基材若しくは該ゴム層の外周面に熱融着させる。
【0082】
図1は、外周面に熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた基材若しくはゴム被覆基材を、ホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させる製造工程の一例を示す断面略図である。図2は、その側面図である。
【0083】
外周面に熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた基材若しくはゴム被覆基材1を構成する中空基材内に、ローラ状押圧部材2を挿入する。これを、ホットプレート4の表面に配置する。中空基材の両端部から突出したローラ状押圧部材2の両軸部3,3(軸部の両端部)に、上方からの押圧力をかけながら、ローラ状押圧部材をホットプレート面に沿って移動させる。このローラ状押圧部材2の移動は、ホットプレート面に平行な摺動による移動であってもよく、あるいはローラ状押圧部材の回転による移動であってもよい。これにより、熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた基材またはゴム被覆基材を、加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させることができる。
【0084】
ローラ状押圧部材の両軸部3,3の押圧と移動は、搬送ユニット5を用いて行う。このような搬送ユニット5は、ローラ状押圧部材の両軸部3,3に押圧力を負荷し、かつ、ホットプレート4の表面に沿って移動することができる機構を備えたものであればよい。押圧力の負荷に必要な荷重は、通常10〜50kg、好ましくは15〜30kgの範囲内であるが、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの大きさやフッ素樹脂層の種類によっても変動するため、これらの範囲に限定されない。押圧力が弱すぎると、十分な熱融着が困難となるか、熱融着時間が長くなる。押圧力が強すぎると、基材の折れなどの不都合が生じ易い。
【0085】
ローラ状押圧部材2とホットプレート4面との間のニップ部6で、熱収縮性フッ素樹脂チューブを加圧下に加熱すると、基材またはゴム層の外周面に熱収縮性フッ素樹脂チューブを熱融着させることができる。ニップ部6での熱融着は、ニップ部6の幅が2〜10mmの場合、10〜30秒間程度で行うことができる。このニップ部6での熱融着を全周面にわたって実施することにより、泡や弛み、皺などの発生がなく、かつ、表面の平坦性と平滑性に優れたフッ素樹脂層を基材またはゴム層の外周面に強固に熱融着させることができる。ニップ部6での熱融着を効率的に実施するには、ローラ状押圧部材2をホットプレート4の表面に沿ってピッチ送りまたは連続で移動させることが望ましい。ピッチ送りは、前述の10〜30秒間の間隔で実施することが好ましいが、これに限定されない。フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの大きさやフッ素樹脂層の種類によって、適切なピッチ送りの間隔を選択することができる。
【0086】
加圧融着工程(工程3)での合計処理時間は、好ましくは30分間以下、より好ましくは25分間以下、特に好ましくは20分間以下である。多くの場合、15分間以下であっても良好な結果を得ることができる。合計処理時間の下限は、10分間程度である。ただし、工程3での処理時間は、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの大きさや熱処理温度などの諸条件に応じて変動する。
【0087】
加圧融着工程の後に、前記基材若しくはゴム被覆基材の外周面に熱融着した熱収縮性フッ素樹脂チューブにより形成されたフッ素樹脂層(以下、単に「フッ素樹脂層」ということがある。)を、該フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する再加熱工程をさらに含むことが好ましい。再加熱を行うことにより、フッ素樹脂層が、軟化または部分的に溶融し、前記加圧融着工程により形成されたフッ素樹脂層内に残存している内部応力の解放が行われる。この結果、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトを長期間にわたって使用しても、接着強度が保持され、表層であるフッ素樹脂層と前記基材またはゴム被覆基材との剥離や気泡の発生を抑制することができる。
【0088】
再加熱工程は、フッ素樹脂層の表面温度を融点以上とすることができる限り、加熱方法は特に限定されない。再加熱工程では、複数のキセノンフラッシュランプを備え、該ランプを点滅発光させるような再加熱部材を用いることもできるが、通例、フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度に設定したオーブン中に、加圧融着工程で形成されたフッ素樹脂で被覆されたローラまたはベルトを配置して行う。加圧融着工程において、ローラ状押圧部材を使用していた場合は、通例、該ローラ状押圧部材を取り出してから再加熱工程を行うが、ローラまたはベルトの変形を防止するために、ローラ状押圧部材を装着したまま、再加熱工程を行ってもよい。再加熱工程を行う温度は、フッ素樹脂層の表面温度が、通例該フッ素樹脂の融点以上で、該フッ素樹脂の融点+35℃以下の温度範囲となるように、好ましくは該フッ素樹脂の融点を超え、該フッ素樹脂の融点+25℃以下の温度範囲、より好ましくは該フッ素樹脂の融点を超え、該フッ素樹脂の融点+15℃以下の温度範囲、特に好ましくは該フッ素樹脂の融点を超え、該フッ素樹脂の融点+10℃以下の温度範囲となるように選択すればよい。フッ素樹脂層の表面温度が、該フッ素樹脂の融点より40℃以上高くなる温度環境で再加熱工程を行うと、配置時間の長さにも依存するが、フッ素樹脂層が溶融して流動してしまうことがあるので好ましくない。また、再加熱工程を実施する時間は、温度環境にも依存するが、該フッ素樹脂層が軟化または部分的な溶融状態になることができるとともに、該フッ素樹脂層が溶融して流動してしまうことを避けるために、通例1秒〜30分間、好ましくは1秒〜20分間、より好ましくは1秒〜15分間、特に好ましくは1秒〜10分間程度とするとよい。
【0089】
再加熱工程が終了したフッ素樹脂層で被覆されたローラまたはベルトは、オーブンから取り出して、そのまま20〜40℃の温度または常温まで冷却させてもよいが、再加熱工程の後に、該フッ素樹脂層を、200℃/分以上、好ましくは220℃/分以上、より好ましくは240℃/分以上の速度で、20〜40℃の温度または常温まで冷却する急冷工程を設けることによって、再加熱工程において、内部応力が解放されたフッ素樹脂層の表面及び内部の状態が保持される結果、フッ素樹脂層の表面の平滑性を、さらに高めることができる。また、再加熱工程において、フッ素樹脂層の内部応力が解放され、フッ素樹脂層の均一性が向上するとともに、その内部のゴム層の内部応力も解放される結果、フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの硬度が小さくなる。
【0090】
急冷工程を実施する方法は、フッ素樹脂層の表面温度を200℃/分以上の速度で冷却することができる限り、特に限定されるものではなく、フッ素樹脂層を低温雰囲気に曝すことができればよい。例えば、冷蔵室や冷凍室に置く、低温の溶剤に浸漬する、冷風を吹き付けるなどの方法がある。特に好ましい方法としては、フッ素樹脂層に、1〜25℃、好ましくは3〜20℃、より好ましくは5〜15℃の冷風を、15〜100秒間、好ましくは20〜90秒間、より好ましくは30〜80秒間吹き付ける方法がある。
【0091】
冷却速度が200℃/分未満であると、ゴム層の劣化が進みやすく、硬度が上昇したり、強度が低下したりする懸念がある。なお、冷却速度が800℃/分を超えるような急激な冷却を行うと、フッ素樹脂層の表面の冷却が部分的に不均一となったり、クラックが生じたりすることがあるので、800℃/分以下、好ましくは700℃/分以下、より好ましくは600℃/分以下の冷却速度で急冷工程を実施することが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種物性及び特性の測定法と評価法は、下記のとおりである。
【0093】
(1)被覆性
ゴム層を形成した管状基材に熱収縮性PFAチューブを被覆し、熱収縮と熱融着を行い、その際、以下の基準で被覆性を評価した。試料の測定個数は、100個とした(n=100)。
A:泡や弛み、皺のない均一な厚みの被覆層を形成することができ、かつ、目視による観察によって、微細な泡、弛み、皺、またはこれらの組み合わせの欠陥が認められる試料の個数が3個以下である。
B:泡や弛み、皺のない均一な厚みの被覆層を形成することができるが、目視による観察によって、微細な泡、弛み、皺、またはこれらの組み合わせの欠陥が認められる試料の個数が4〜10個である。
C:被覆層の外観が悪く、多数の試料に、泡、弛み、皺、またはこれらの組み合わせの欠陥が認められる。
【0094】
(2)硬度(表面硬さ)
マイクロゴム硬度計(高分子計器株式会社製、MD−1)を用いて、JIS K 6301に規定されているスプリング式硬さ試験A形に準拠して測定した。
【0095】
(3)定着性
実施例及び比較例で作製したフッ素樹脂被覆ベルトを、定着ベルトとして市販の電子写真複写機の定着ユニットに組み込んだ。この定着ユニットを用いて画像を形成した。定着した画像を擦り、以下の基準で定着性を評価した。
A:画像の擦り取られた部分がまったくない。
B:画像の擦り取られた部分が僅かにあるが、実用上問題がない程度である。
C:画像の擦り取られた部分が認められる。
【0096】
(4)10万時間通紙後の耐久性
実施例及び比較例で作製したフッ素樹脂被覆ベルトを、定着ベルトとして市販の電子写真複写機の定着ユニットに組み込んだ。4色のカラートナー(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色のトナー)を用いて未定着画像が形成された複写紙を定着ユニットに通し、ニップ幅3mmで加圧して10万枚連続定着した後に、フッ素樹脂被覆ベルトの表面状態を目視で観察し、亀裂やクラック(亀裂より長いものをいう。)の有無により、10万時間通紙後の耐久性を評価した。
【0097】
[実施例1及び2]
厚みが30μm、長さが279.5mm、内径が24mmのステンレスチューブを準備した。このステンレスチューブの外周面上に、信越化学工業株式会社製の接着剤(X−33−173)を薄膜状に塗布した後、乾燥させて、厚み3μmの接着剤層を形成した。他方、シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製X−34−2008)にアルミナ粉を混合して、熱伝導率が1.1W/m・Kのゴム組成物を調製した。
【0098】
ステンレスチューブ外周面の接着剤層上に、該ゴム組成物をディスペンサにより塗布し、加熱処理して、厚み275μmのゴム層を形成した。該ゴム層上に、PFAを含有する接着剤(三井・デュポンフロロケミカル社製PR−990CL)を塗布して、厚み3μmの接着剤層を形成した。このようにして、ゴム被覆基材を作製した。
【0099】
熱収縮性フッ素樹脂チューブとして、内径が25mmの熱収縮性PFAチューブ(グンゼ株式会社製、商品名「SMT」)を準備した。前記ゴム被覆基材を熱収縮性PFAチューブの中空内に挿入した(工程1)。この状態で、200℃の乾熱雰囲気中に4分間放置して、熱収縮性PFAチューブを熱収縮させ、ゴム被覆基材のゴム層の外周面上に密着させた(工程2)。
【0100】
外周面に熱収縮性PFAチューブを予備収縮させて密着させたゴム被覆基材の中空内に、ローラ状押圧部材(外径20mmのステンレス製ローラ状成形体)を挿入した。これを、300℃の表面温度に制御したホットプレート(算術平均表面粗さRa=2μm以下)面に載置し、搬送ユニットを用いて、ローラ状押圧部材の両軸部に押圧荷重20kg(片側10kg)をかけながら、幅が約8mmのニップ部で20秒間の各処理時間となるように、ピッチ送りで移動させた(工程3)。
【0101】
このようにして、フッ素樹脂被覆ベルトを作成した。工程3での処理時間の合計は、15分間であった。全体の設備の長さは、約1.5mであり、同時または順次に多数のフッ素樹脂被覆ベルト(試料)を作製することができた。工程3での処理時間の合計を20分とした実施例2とともに、結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
実施例1で得たフッ素樹脂被覆ベルトを、ローラ状押圧部材の両軸部を把持したまま、320℃の温度に保持してある電熱オーブンに投入し、4分間保持して再加熱した。
【0103】
電熱オーブンから取り出したフッ素樹脂被覆ベルトを、ローラ状押圧部材の両軸部を把持したまま、ブロアから、10℃の冷風をベルトの軸方向に70秒間吹き付けて急冷した。冷却したフッ素樹脂被覆ベルトを直ちに取り出した。定着ベルトの表面温度は、25℃であった(冷却速度253℃/分)。急冷工程を行った後に、ローラ状押圧部材を抜き出して、測定を行った結果を表1に示す。
【0104】
[実施例4]
実施例1と同様にゴム被覆基材を作製した。次いで、熱収縮性フッ素樹脂チューブとして、実施例1で使用した内径が25mmの熱収縮性PFAチューブ(グンゼ株式会社製、商品名「SMT」)に代えて、内径が25mmの熱収縮性PFAチューブ(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名「950HP−PLUS」)を準備した。前記ゴム被覆基材を熱収縮性PFAチューブの中空内に挿入した(工程1)。この状態で、150℃の乾熱雰囲気中に30分間放置して、熱収縮性PFAチューブを熱収縮させ、ゴム被覆基材のゴム層の外周面上に密着させた(工程2)。
【0105】
外周面に熱収縮性PFAチューブを予備収縮させて密着させたゴム被覆基材の中空内に、ローラ状押圧部材(外径20mmのステンレス製ローラ状成形体)を挿入した。これを、300℃の表面温度に制御したホットプレート(算術平均表面粗さRa=2μm以下)面に載置し、搬送ユニットを用いて、ローラ状押圧部材の両軸部に押圧荷重20kg(片側10kg)をかけて、幅が約8mmのニップ部を維持しながら周速度2mm/秒で移動させた(工程3)。
【0106】
得られたフッ素樹脂被覆ベルトを、ローラ状押圧部材の両軸部を把持したまま、315℃の温度に保持してある電熱オーブンに投入し、5分間保持して再加熱した。
【0107】
電熱オーブンから取り出したフッ素樹脂被覆ベルトを、ローラ状押圧部材の両軸部を把持したまま、ブロアから、10℃の冷風をベルトの軸方向に70秒間吹き付けて急冷した。冷却したフッ素樹脂被覆ベルトを直ちに取り出した。定着ベルトの表面温度は、25℃であった(冷却速度249℃/分)。急冷工程を行った後に、ローラ状押圧部材を抜き出して、測定を行った結果を表1に示す。
【0108】
[比較例1]
実施例1における工程2と同じ処理を行って、外周面に熱収縮性PFAチューブを予備収縮させて密着させたゴム被覆基材を得た。このゴム被覆基材を加熱炉内に入れて、220℃で50分間、次いで、300℃で80分間の熱処理を行った。その後、20分間をかけて、フッ素樹脂被覆ベルト全体の徐冷を行った。合計の熱処理時間は、150分間であった。この高温での乾熱雰囲気中での熱処理は、バッチ式であり、同時に多数の試料を作製することができた。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
表1の結果から明らかなように、本発明の製造方法によれば、短時間で高性能かつ高品質のフッ素樹脂被覆ベルトを得ることができる(実施例1)。さらに10万枚通紙後の耐久性も加熱処理時間を調整することによって得られる(実施例2)。さらに再加熱工程を行うことによって、表面硬度をほとんど上げることなく、フッ素樹脂層の内部応力が十分解放され、10万枚通紙後も耐久性にも何ら問題のないフッ素樹脂被覆ベルトを得るのが容易になる(実施例3及び4)。これに対して、高温の雰囲気中で長時間にわたって熱処理を行う従来法では、加熱処理時間が長いことからゴムの劣化が進み、硬度が高く(ゴムが硬く)なっていることに加えて、芯金(ステンレスチューブ)やゴム層に熱を奪われたり、炉内に温度分布が存在したりすることにより、フッ素樹脂層が均一にフッ素樹脂の融点以上加熱されない結果、内部応力の解放が十分でないため、泡、皺などの欠陥率が高く、長期の通紙により屈曲疲労が起こり、フッ素樹脂層にクラックが発生する(比較例1)。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の製造方法により得られたフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトは、電子写真方式の画像形成装置における各種部材として利用することができる。より具体的に、該フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトは、定着ローラ、定着ベルト、加圧ローラ、加圧ベルト、帯電ローラ、帯電ベルト、転写ローラ、転写ベルトなどの各種部材として利用することができる。
【0112】
本発明の製造方法により得られたフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトは、画像形成装置の各種部材としてだけではなく、非粘着性、耐熱性、耐摩耗性などの表面特性が求められる広範な技術分野において、各種部材として利用することもできる。このように、本発明の製造方法は、広範な技術分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させたゴム被覆基材
2 ローラ状押圧部材
3 ローラ状押圧部材の両軸部
4 ホットプレート
5 搬送ユニット
6 ニップ部
31 フッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの一例の断面図
32 中空基材
33 ゴム層
34 フッ素樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延びる中心軸に垂直な断面が円形の外周面を有する基材、及び該基材上に直接若しくはゴム層を介して配置されたフッ素樹脂層を有するフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法において、
(1)該基材若しくは該基材の外周面上に少なくともゴム層を形成したゴム被覆基材を、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外径より大きな内径を有する熱収縮性フッ素樹脂チューブの中空内に挿入する工程;及び
(2)該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる加圧融着工程;
を含むことを特徴とするフッ素樹脂被覆ローラまたはベルトの製造方法。
【請求項2】
中空内に該基材若しくは該ゴム被覆基材を挿入した状態の該熱収縮性フッ素樹脂チューブを、80℃から該熱収縮性フッ素樹脂チューブを形成するフッ素樹脂の融点未満までの範囲内の温度に制御して、熱収縮させることにより、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に密着させる予備収縮工程をさらに含み、
前記加圧融着工程において、外周面に該熱収縮性フッ素樹脂チューブを密着させた該基材若しくは該ゴム被覆基材を該ホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させて、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記加圧融着工程の後に、前記基材若しくは前記ゴム被覆基材の外周面に熱融着した前記熱収縮性フッ素樹脂チューブにより形成されたフッ素樹脂層を、該フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する再加熱工程をさらに含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記再加熱工程の後に、前記フッ素樹脂層を、200℃/分以上の速度で冷却する急冷工程をさらに含む請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
該基材が、円筒状または管状若しくはエンドレスベルト状の中空基材である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
該加圧融着工程において、
a)該中空基材の中空内に、該中空基材の内径より小さな外径を有するローラ状押圧部材を挿入し、
b)該中空基材の両端部から突出した該ローラ状押圧部材の両軸部に上方からの押圧力をかけながら、該ローラ状押圧部材を該ホットプレート面に沿って移動させ、それによって、該基材若しくは該ゴム被覆基材を、250〜400℃の範囲内の温度に加熱したホットプレート面に加圧下に接触させながら回転させ、
その際、該ローラ状押圧部材と該ホットプレート面との間のニップ部で、該熱収縮性フッ素樹脂チューブを加圧下に加熱して、該基材若しくは該ゴム被覆基材の外周面に熱融着させる
請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
該ローラ状押圧部材を該ホットプレート面に沿ってピッチ送りまたは連続で移動させる請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
該熱収縮性フッ素樹脂チューブが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から形成された熱収縮性PFAチューブである請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−123466(P2011−123466A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97974(P2010−97974)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】