説明

フルオロアルコール官能性を有するポリアミド膜

重合体膜は、支持体上の活性層を含んでいる。前記活性層は、骨格を有する重合体を含んでいて、該骨格は、それに結合した少なくとも1つのフルオロアルコール部位を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1つの特徴において、本発明はフルオロアルコール官能性を有するポリアミド膜に関する。前記膜は、例えば、水の浄化、脱塩、ガス分離プロセスにおいて使用できる。
【背景技術】
【0002】
極薄活性層(ultra-thin active layers)と多孔質支持体を含む、薄フィルム複合(TFC)膜は、脱塩のための逆浸透 (RO)又はナノ濾過 (NF) において広く使用されてきた。TFC膜において、活性層は分離特性を制御し、一方、支持層は機械的強度を高める。m−フェニレンジアミン(MPD)と塩化トリメソイル(TMC)の界面重合によって製造された架橋芳香族ポリアミドは、成功してきた商品である。しかしながら、活性層を作り上げている芳香族ポリアミドは塩素等の化学的消毒薬に対して弱く、消毒薬による化学的攻撃は最終的に膜の破壊をもたらし、塩と水の両方の通過の増加として計測される。
【0003】
塩素は、川上で、細菌及びその他の生物を殺すために、脱塩プロセス(RO/NF)から通常使われる。芳香族ポリアミド活性層を有する現在の脱塩膜は塩素に曝されると劣化するので、現在の設備にはROの前に塩素を除去するための余分なプロセス工程が必要である。市町村のシステムにとっては、浄化した水をその後再び塩素で処理しなければならない。これらの余分な工程は、もし仮に活性層が塩素に対してさらに耐性を有するなら、省くことができるであろう。
【0004】
耐塩素性を高めるために、芳香族ポリアミド上に追加の被覆層を形成すること及び/又は芳香族ポリアミドを化学的に改変することが行われてきた。加えて、塩素に弱い反応部位を持たない新たな重合体(例えば、スルホン化されたポリ((アリーレンエーテルスルホン)重合体)が提案されてきて、これらのシステムは塩素剤の存在下での安定性を向上させてきた。しかしながら、これらの重合体物質から製造された膜は、従来の芳香族ポリアミドと比べて、限られた性能しか有していない。加えて、前記システムのいくつかでは、困難な合成作業が必要であったり、あるいは製造するのが困難であった。そのことが膜の製造コストを上げることになる。
【発明の概要】
【0005】
好適な実施例は、高い耐塩素性、高い透過流束と除去性能を示し、さらに、妥当な費用で現在利用可能な製造方法によって容易に合成され得る膜材料に関するものである。
【0006】
好適な実施例は、フルオロアルコール官能性を有する活性層を有するポリアミド複合膜に関するものである。前記膜は、経済的な膜製造方法であると示されてきた界面重合によって容易に合成され得る。
【0007】
親水性と疎水性との優れたバランスを有する、ここに開示されたフルオロアルコール官能性ポリアミドは、RO/NFプロセスにおいて、多くの利点を有する。膜の性能(透過流束と除去率)は、重合体骨格上のフルオロアルコール基のイオン化の度合いを調節することによって制御できる。加えて、フルオロアルコール官能性によって与えられる電子吸引性効果及び立体効果は、重合体骨格中のアミド基にある芳香環に対して塩素が求電子攻撃(この求電子攻撃は、現在の芳香族ポリアミド膜の性能低下を引き起こす大きな問題である)する機会を少なくすることもある。このように、フルオロアルコール置換ポリアミドからできた膜は、高い化学的安定性、特に、酸化剤による攻撃に対する化学的安定性を提供する。さらに、膜性能を向上させるために、例えば、グラフト重合による「ファウリング防止被膜」を加えることによって、フルオロアルコール部位を官能性単量体で容易に修飾することができる。加えて、フッ素の非粘着性がフルオロアルコール置換ポリアミドの耐ファウリング性を高めることもある。
【0008】
1つの特徴において、本発明は、支持体上にある活性層を含む重合体膜に関するものであって、その場合、該活性層は骨格を有する重合体を含み、該骨格は少なくとも1つのフルオロアルコール部位をそれに結合させたものである。
【0009】
もう1つの特徴において、本発明は、式1
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R0は脂肪族基、脂環基、芳香族基、複素環基及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機基を表し、mは2又はそれ以上の整数を表し、nは1又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される、1つ又はそれ以上のヘキサフルオロアルコール基を有する単量体ポリアミン反応物を含む塩基水溶液の中に支持膜を入れることと、
式2
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1は脂肪族基、脂環基、芳香族基、複素環基及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機基を表し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素からなる群から選択され、pは2又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物を含む有機溶液の中に、前記支持膜(その上に前記塩基水溶液を有している支持膜)を入れること、
を含む、膜の製造方法に関するものである。
【0014】
本発明の1つ又はそれ以上の実施例の詳細は、添付の図面と以下の説明に示されている。本発明のその他の特徴、目的、利点は前記説明と図面、さらに請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】界面重合を用いて、ポリスルホン(PSF)支持体上に、ヘキサフルオロアルコールで置換されたポリアミド複合膜を形成するための方法の1つの実施例の概略図である。
【図2A】活性層のないポリスルホン支持膜の走査型電子顕微鏡(SEM)による断面画像である。
【図2B】実施例1に従って製造されたHFA−MDAポリアミド複合膜の断面SEM画像である。
【図3A】実施例1に記述されているとおり、HFA−MDAポリアミド複合膜(四角)と、フルオロアルコールで置換されていない参考ポリアミド膜(丸)に関する、供給水のpHに対する水の透過流束を示すグラフである。
【図3B】実施例1に記述されているとおり、HFA−MDAポリアミド複合膜(四角)と、フルオロアルコールで置換されていない参考ポリアミド膜(丸)に関する、供給水のpHに対する塩除去率を示すグラフである。
【図4】実施例3に記述されているとおり、塩素処理の前(上のスペクトル)と後(下のスペクトル)で得られた、フルオロアルコールで置換されていない参考ポリアミドのNMRスペクトルである。
【図5】実施例3に記述されているとおり、塩素処理の前(上のスペクトル)と後(下のスペクトル)で得られたHFA−MDAポリアミドのNMRスペクトルである。[詳細な説明] 1つの特徴において、本発明は、支持体上にある活性層を含む薄フィルム複合(TFC)膜構造に関するものである。前記活性層は、重合体骨格に結合した少なくとも1つのフルオロアルコール部位を有する重合体を含んでいる。重合体骨格に結合したフルオロアルコール部位は、中性又はイオン化された形のどちらであってもよい。骨格上のフルオロアルコール基の化学組成は、膜の対象とする用途によって、大きく変化し得るが、親水性と疎水性とのバランスからヘキサフルオロアルコール(HFA)部位が好適である。活性層を作り上げている重合体は任意に架橋されていてもよい。
【0016】
1つの実施例において、TFC膜の活性層を作り上げている重合体は、ポリアミド骨格と、少なくとも1つのフルオロアルコール部位(好適には、骨格に結合した少なくとも1つのヘキサフルオロアルコール(HFA)部位)を含んでいる。重合体骨格に結合したフルオロアルコール部位は中性又はイオン化された形のどちらでもよい。
【0017】
TFC膜の支持層は、活性層に隣接していて、対象とする用途によって、大きく変化し得る。どのような限外濾過膜であっても、界面重合によってRO/NF膜を製造するための支持層として使用でき、ポリエーテルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリルは、ここに記述したフルオロアルコール官能性重合体への使用に適しているであろう。
【0018】
最適な透過流束と除去性能を提供するには、TFC膜の活性層が比較的薄い必要があり、該活性層は一般的には約50から約800nm、又は約100から約400nmの厚みを有するものである。
【0019】
ここに記述したTFC膜の活性層は、界面重合法を使用して、容易に製造される。この使用において、界面重合という用語は、2つの混ざり合わない溶液の境界面において、又は、その近傍において起きる重合反応を指すものである。
【0020】
1つの実施例において、TFC膜の活性層は、以下の2つの間の界面重合反応により得られるものであって、
式1
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R0は脂肪族、脂環、芳香族、複素環基及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、nは1又はそれ以上、1から20、又は1から8の整数を表し、mは2又はそれ以上、2から20、又は2から8の整数を表す。)
によって表される、1つ又はそれ以上のヘキサフルオロアルコール基を有する単量体ポリアミン反応物を含む、水性の塩基化学混合物(A)と、
式2
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R1は脂肪族、脂環、芳香族、複素環基及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択され、pは2又はそれ以上、2から20、又は2から8の整数を表す。)
によって表される、単量体多官能性ハロゲン化アシルを含む有機化学混合物(B)とを反応させるものである。
【0025】
前記水性の塩基化学混合物(A)と前記有機化学混合物(B)は互いに混ざり合わないものである。(A)と(B)を接触させた時に、混ざり合わないとは(A)と(B)との間に界面があることを意味する。前記化学混合物(A)と(B)は、独立して、溶液、分散系、又はそれらの組み合わせであってもよい。好適には、(A)と(B)の両方が溶液であって、以下の論述において溶液を指すものとする。
【0026】
何かの理論によって束縛されるのを望まないが、現時点で得られる証拠は、前記塩基性水溶液(A)が、前記界面重合プロセスの間ずっと、望ましくない副反応(例えば、エステル化)を実質的に低下させつつ、又は、除きつつ、前記ポリアミン単量体反応物を可溶化することを示している。
【0027】
いくつかの実施例において、式1の単量体ポリアミン反応物におけるR0は、2〜30個の炭素原子、又は2〜20個の炭素原子、又は6〜20個の炭素原子を有する有機基を表す。例えば、R0は、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環、アダマンタン環、ノルボルナン環、及びそれらの組み合わせから選択される芳香族有機基を含むことができる。
【0028】
1つの実施例において、式1の単量体ポリアミン反応物では、R0は式3:
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、YはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、rは0又は1の整数を表す。)
によって表される有機基である。式3において、1価のアミノ(NH2)と1価のヘキサフルオロアルキル[C(CF32OH]基は各々ベンゼン環に化学的に結合している。
【0031】
もう1つの実施例において、式1の単量体ポリアミン反応物では、R0は式4:
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、1価のアミノ(NH2)と1価のヘキサフルオロアルキル[C(CF32OH]基は各々ナフタレン環に化学的に結合している。)
によって表される有機基である。
【0034】
もう1つの実施例において、単量体ポリアミン反応物(A)は、式6によって表される4価の有機化合物、又は、式7
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は各々独立にNH2とC(CF32OHから選択され、YはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、rは0又は1の整数を表す。)
によって表される3価の有機化合物から選択される化合物の少なくとも1つを含んでいる。
【0037】
もう1つの実施例において、水溶液(A)中の単量体ポリアミン反応物は、式8によって表される4価の有機化合物、又は、式9
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は各々独立にNH2とC(CF32OHから選択される。)
によって表される3価の有機化合物から選択される化合物の少なくとも1つを含んでいる。
【0040】
もう1つの実施例において、水溶液(A)中の単量体ポリアミン反応物は、式10によって表される3価の有機化合物、又は、式11
【0041】
【化9】

【0042】
(式中、R16、R17、R18、R19、R20、R21及びR22は各々独立にNH2とC(CF32OHから選択される。)
によって表される4価の有機化合物から選択される化合物の少なくとも1つを含んでいる。
【0043】
その他の実施例において、水溶液(A)中の単量体ポリアミン反応物は、式15から36、又は、それらの組み合わせのいずれかによって表される。
【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
水溶液(A)中に使用される塩基は、大きく異なるものであってもよく、有機塩基、無機塩基、及びそれらの組み合わせを含み得る。例えば、溶液(A)中の塩基は、無機水酸化物、有機水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、スルフィド、アミン、及びそれらの組み合わせを含み得る。好適な塩基は、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Na2CO3、K2CO3、CaCO3、NaHCO3、KHCO3、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びそれらの組み合わせを含むが、これらには限定されない。
【0047】
いくつかの実施例において、式2の多官能性ハロゲン化アシル反応物中のR1は、1〜30個の炭素原子、又は1〜20個の炭素原子、又は1〜15個の炭素原子を有する有機基を表す。いくつかの実施例において、式2の多官能性ハロゲン化アシル反応物では、R1は、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロヘキサン環、アダマンタン環、ノルボルナン環、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を含むことができる。
【0048】
いくつかの実施例において、式2の多官能性ハロゲン化アシル反応物中のR1は、式12によって表される有機基を表す。
【0049】
【化12】

【0050】
(式中、WはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、sは0又は1の整数を表し、1価のCOXはベンゼン環に化学的に結合し、Xは独立にフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択される。)
いくつかの実施例において、溶液(B)中の単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物は、式10によって表される2価の有機化合物、又は、式11によって表される3価の有機化合物の少なくとも1つを含んでいる。
【0051】
【化13】

【0052】
(式中、R23、R24、R25、R26、及びR27は各々独立に1価のCOXから選択され、Xは独立にフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から選択される。)
その他の実施例において、溶液(B)中の単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物は、式13によって表される3価の有機化合物、又は、式14によって表される2価の有機化合物の少なくとも1つを含んでいる。
【0053】
【化14】

【0054】
(式中、R28、R29、R30、R31、及びR32は各々独立に1価のCOXから選択され、Xは独立にフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から選択され、WはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、sは0又は1の整数を表す。)
その他の実施例において、溶液(B)中の1価の多官能性ハロゲン化アシル反応物は、式37から61までの化合物及びそれらの組み合わせのいずれかから選択される化合物を含んでいる。
【0055】
【化15】

【0056】
【化16】

【0057】
有機溶液(B)において使用される有機溶媒は、大きく異なるものであってもよく、1〜20個の炭素原子、又は1〜16個の炭素原子、又は1〜12個の炭素原子を有する有機化合物を含み得る。好適な有機溶媒は、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼン、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。
【0058】
反応性を高めるために、又は、膜性能を向上させるために、任意に、相間移動触媒、又は界面活性剤、又は他の添加物を添加することができる。
【0059】
水溶液(A)中の単量体ポリアミン反応物又は有機溶液(B)中のハロゲン化アシル反応物の濃度は大きく変化し得る。例えば、水溶液(A)中の単量体ポリアミン反応物の濃度は、0.01%(w/v)から20%(w/v)、又は0.5%から10%(w/v)、又は1%から5%の範囲を取り得る。同様に、有機溶液(B)中のハロゲン化アシル反応物の濃度は、0.01%(w/v)から10%(w/v)、又は0.05%から5%(w/v)、又は0.1%から2%の範囲を取り得る。
【0060】
架橋された重合体の反応生成物を提供するのに、任意に、単量体反応物上の官能基を選択できる。例えば、ジアミン単量体を塩化トリメソイル(TMC)と反応させることによって、常に、架橋されたポリアミドができる。界面重合及び架橋した芳香族ポリアミドを形成した後で、その架橋密度を、メタンスルホニルハロゲン化物、エピハロヒドリン、トリメチルアミン硫黄トリオキシド錯体、ホルムアルデヒド、グリオキサール等の架橋又は分子量増加剤との重合後の反応によって、さらに増加させることができる。
【0061】
TFC膜の活性層を作るのに特に良く適合する1つの実施例において、塩基性水溶液及び有機溶媒にそれぞれ溶解された、ヘキサフルオロアルコール置換芳香族ジアミン(例えば、HFA−MDAとHFA−ODA)と、塩化トリメソイル(TMC)などの芳香族酸クロリドを使用して、支持膜(例えば、ポリスルホン限外濾過膜)上での界面重合によって、芳香族ポリアミド膜を合成してもよい(以下の反応1参照)。
【0062】
【化17】

【0063】
図1は、TFC複合膜を作るための界面重合法の好適な実施例を示す概略図である。図1のとおり、前処理した支持膜10を、ヘキサフルオロアルコール置換芳香族ジアミンの塩基性水溶液20中に、数分間、典型的には約1分から約5分、入れておく。
【0064】
支持膜の浸漬被覆した表面から、余分な溶液を排出させ(又は、ラバーローラーを回転させることによって余分な溶液を除き)、被覆した支持膜を空気中、室温にて約1分から約10分、任意に、乾燥させる。
【0065】
ヘキサフルオロアルコール置換ジアミンで飽和された膜を、例えば、ヘキサン等の有機溶媒中にある芳香族酸クロリドの溶液30に浸漬させる。数十秒、好適には約10秒から約120秒の後、得られた膜40(支持膜上の活性HFAポリアミド層を含んでいる)を前記有機溶媒から取り除き、乾燥させる。活性層を、任意に、約5分間、例えば、0.2%(w/w)炭酸ナトリウム溶液ですすぎ、膜試験の前に水中に保管してもよい。
【0066】
乾燥条件を大きく変動させることができるが、いくつかの実施例においては、膜を、空気中、室温にて、約1分から約5分、乾燥させるか、又は、任意に、約30から約70℃の温度に保った乾燥器中で約1分から約5分、乾燥させる。
【0067】
支持膜10をジアミン水溶液20に導入する前に、支持膜10の表面の親水性を高めるために、化学的又は物理的処理(プラズマ又はUV−オゾン)を任意に使用することができる。何かの理論によって束縛されるのを望まないが、現時点で得られる証拠は、ポリスルホン支持体のプラズマ及び/又はUV−オゾン処理が、より親水性の表面(水による完全な濡れ)を生成し、それが支持層上でのイオン化されたHFA−ジアミン単量体の被覆の密度を高めることを示している。
【0068】
もし求められるなら、本質的に繊維状であり得る、好適には、「可撓性、多孔質、有機重合体材料」である、第2支持フィルム又は層に、ポリアミド/ポリスルホン複合物を積層することによって、複合膜に追加の構造的完全性を提供できる。繊維状の裏打ち又は支持材料の例は、マイクロメータ範囲の直径を有する、スパンボンド(spun−bonded)重合体(例:ポリエチレン)繊維の紙の様な織布である。
【0069】
ここで記述されている複合膜を使用している、平板タイプ(例えば、螺旋状に巻いたタイプ)の水浄化又は選択的透過性のモジュールは、例えば、海水の淡水化、半塩水の脱塩、乳清の濃縮、電気メッキの化学的回収、地方自治体又は家庭での使用のための硬水の軟水化、ボイラー供給水処理、及び、溶質又は汚染物質の除去を伴うその他の水処理等の用途に有用である。
【0070】
本発明のさまざまな実施例を記述してきた。これら及びその他の実施例は、以下の特許請求の範囲に入るものである。
実施例
実施例1:HFA−MDAポリアミドの製造及び性能
膜の調製:HFA−MDAポリアミド複合膜を、前もって作られたポリスルホン(PSF)限外濾過膜上に、界面合成した。塩基性水溶液中に溶解した「イオン化したHFA−ジアミン単量体」の被覆を増加させるために、界面重合の前に、前記PSF支持膜に40秒間、UV−オゾン処理を行った。上記のとおりに前処理したPSF膜を、5分間、2%(w/v)HFA−MDAジアミン(上記の反応1中の単量体1)塩基性水溶液中に入れ、それから、余分な溶液を除くために、HFA−MDAに浸漬した支持膜上でゴムローラーを回転させた。
【0071】
次に、HFA−MDAで飽和した膜を、0.5%(w/v)塩化トリメソイル(TMC)のヘキサン溶液に浸漬した。30秒反応させた後、得られた膜を、0.2%(w/v)炭酸ナトリウム水溶液ですすぎ、純水中で保管した。
【0072】
断面SEM画像(厚み:約400nm、図2B)によって、薄く高密度なHFA−MDAポリアミドの形成が確認された。
【0073】
比較のために、前もって作られたPSF限外濾過膜上に、フルオロアルコールで置換されていない参考ポリアミド複合膜も、界面合成した。前記PSF膜を、2%(w/v)フェニレンジアミン水溶液に2分間入れ、それから、余分な溶液を除くために、該膜上でゴムローラーを回転させた。次に、フェニレンジアミンで飽和した膜を、0.1%(w/v)塩化トリメソイル(TMS)のヘキサン溶液に浸漬した。1分反応させた後、得られた膜を、0.2%(w/v)炭酸ナトリウム水溶液ですすぎ、純水中で保管した。
【0074】
膜の特性評価:クロスフローろ過システムを使用して、膜の性能を評価した。前記膜を1平方インチあたり400ポンド(psi)で5時間圧縮した後、室温で純水の透過流束を測定した。それから、同じ圧力で、2000ppmNaCl水溶液を用いて、塩除去テストを行った。希釈したHCl及びNaOH水溶液を使用することによって、供給水のpHを4から10までに制御した。HFA−MDAポリアミド膜を使用して求められた水の透過流束と塩除去率の値は、pH8で、それぞれ80LMHと95.3%であった。HFA官能基がpH10でイオン化された時、水の透過流束は87LMHに増加した。
【0075】
図3Aのグラフは、供給水pHに対する水の透過流束を示し、図3Bのグラフは、供給水pHに対する塩除去率を示している。青と黒の曲線は、それぞれ、HFA−MDAと参考ポリアミドのデータを示している。HFA−MDAポリアミド膜は、高いpHでの高い性能を有する、強くpHに依存するRO(逆浸透)作用を示している。高いpH(pH8よりも上)において、HFA−MDAポリアミドの水透過流束は参考ポリアミドよりもずっと高く、一方、図3A〜3Bに示されるとおり、HFA−MDAポリアミド膜の塩除去率の値は参考ポリアミドの値にほぼ匹敵する。
実施例2:HFA−ODAポリアミドの製造及び性能
実施例1で記述された条件と同じ条件の下で、2%(w/v)HFA−ODAジアミン(反応1における単量体2)とTMCから、HFA−ODAポリアミド複合膜を調製した。
【0076】
膜の性能に関しても、実施例1と同じ方法で評価した。HFA−ODAポリアミド膜で測定した水の透過流束と塩除去率の値は、それぞれ、pH8において60LMHと96.5%であった。HFA官能性がpH10でイオン化された時、水の透過流束は71LMHに増加した。
実施例3:モデルポリアミド重合体を使用した耐塩素性テスト
モデル重合体、HFA−MDAポリアミドの合成:窒素の導入及び排出管を付けた100ml三つ口フラスコに、HFA−MDAジアミン(1.50g)とDMAc(8ml)を加えた。溶液にした後、フラスコをドライアイス/アセトン浴に浸けた。溶液を凍結させた後、塩化イソフタロイル(0.57g)とDMAc(2ml)を加え、それから、機械式攪拌機を使って、窒素を通しながら氷/水浴中で3時間、さらに、窒素を通しながら室温で20時間、混合物を攪拌した。メタノール中での析出後、ろ過及び60℃での減圧乾燥によって重合体(1.87g、Mw(Mw/Mn)=118,000(1.67))を得た。
【0077】
モデル重合体、フルオロアルコールで置換されていない参考ポリアミドの合成:HFA−MDAポリアミドを製造するのに使用した条件と同じ条件の下で、フェニレンジアミンとDMAcから参考ポリアミドを合成した。
【0078】
モデル重合体の耐塩素性:NMR分光分析によって、HFA−MDAポリアミドの耐塩素性を参考ポリアミドと比較した。
【0079】
両方のモデル重合体を500ppmHOCl(pH5〜6)水溶液中に浸け、攪拌した。17時間後、置換されていない参考ポリアミドは塩素によってひどく侵された(図4、50%を超える塩素化)が、HFA−MDAポリアミドは10%未満の塩素化を示した(図5)。このNMRの結果は、参考ポリアミドは含塩素試薬によってずっと侵されやすく、HFAを含むポリアミドはずっと不活性であることを示唆している。
【0080】
本発明のさまざまな実施例を記述してきた。これら及びその他の実施例は、以下の特許請求の範囲に入るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にある活性層を含む重合体膜であって、該活性層が骨格を有する重合体を含み、該骨格は少なくとも1つのフルオロアルコール部位をそれに結合させたものであることを特徴とする重合体膜。
【請求項2】
前記重合体上のフルオロアルコール部位は、中性の形、イオンの形、又は、それらの組み合わせになっていることを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記フルオロアルコール部位がヘキサフルオロアルコール部位であることを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記活性層中の重合体の骨格がポリアミドを含むことを特徴とする、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記活性層が架橋されていることを特徴とする、請求項3に記載の膜。
【請求項6】
前記支持体がポリスルホンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項7】
前記活性層中の重合体が化学混合物(A)と化学混合物(B)との反応によって得られるものであって、(A)と(B)は互いに混ざり合わないものであって、
(A)が式1
【化18】

(式中、R0は脂肪族、脂環、芳香族、複素環基及びそれらの組み合わせから成る群から選択される有機基を表し、mは2又はそれ以上の整数を表し、nは1又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される、1つ又はそれ以上のヘキサフルオロアルコール基を有する単量体ポリアミン反応物を含む、水性の塩基であって、
(B)が有機物であって、さらに、式2
【化19】

(式中、R1は脂肪族、脂環、芳香族、複素環基及びそれらの組み合わせから成る群から選択される有機基を表し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から成る群から選択され、pは2又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される、単量体多官能性ハロゲン化アシルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項8】
0が2〜30個の炭素原子を有する有機基であることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項9】
1が1〜30個の炭素原子を有する有機基であることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項10】
0が、ベンゼン、ナフタレン、シクロヘキサン、アダマンタン、ノルボルナン、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される有機基であることを特徴とする、請求項8に記載の膜。
【請求項11】
1が、ベンゼン、ナフタレン、シクロヘキサン、アダマンタン、ノルボルナン、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される有機基であることを特徴とする、請求項9に記載の膜。
【請求項12】
溶液(A)中の塩基が、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Na2CO3、K2CO3、CaCO3、NaHCO3、KHCO3、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項13】
前記有機溶媒が、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼン、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項14】
0が式3:
【化20】

(式中、YはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから成る群から選択され、rは0又は1の整数である。)
によって表される有機基であって、
式3における各ベンゼン環は1価のNH2と1価のC(CF32OHに化学的に結合していることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項15】
0が式4:
【化21】

によって表される有機基であって、
式4におけるナフタレン環が1価のNH2と1価のC(CF32OHに化学的に結合していることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項16】
(A)における単量体ポリアミン反応物が、式6の4価の有機化合物、又は、式7
【化22】

(式中、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は各々独立にNH2とC(CF32OHから成る群から選択され、YはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから成る群から選択され、rは0又は1の整数を表す。)
の3価の有機化合物から選択される化合物を含んでいることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項17】
単量体ポリアミン反応物が、式8によって表される4価の有機化合物、又は、式9
【化23】

(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は各々独立にNH2とC(CF32OHから成る群から選択される。)
によって表される3価の有機化合物から選択される化合物を含んでいることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項18】
単量体ポリアミン反応物が、式10によって表される3価の有機化合物、又は、式11
【化24】

(式中、R16、R17、R18、R19、R20、R21及びR22は各々独立にNH2とC(CF32OHから選択される。)
によって表される4価の有機化合物から選択される化合物を含んでいることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項19】
単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物は、式10によって表される2価の有機化合物、又は、式11
【化25】

(式中、R23、R24、R25、R26、及びR27は各々独立に1価のCOXから成る群から選択され、Xはフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から成る群から選択される。)
によって表される3価の有機化合物を含んでいることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項20】
1が、式12
【化26】

(式中、WはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、sは0又は1の整数を表す。)
によって表される有機基を表し、
1価のCOXが式12のベンゼン環に化学的に結合していることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項21】
単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物が、式13によって表される3価の有機化合物、又は、式14
【化27】

(式中、R28、R29、R30、R31、及びR32は各々独立に1価のCOXから成る群から選択され、Xはフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から成る群から選択され、WはCH2、O、S、C=O、SO2、C(CH32、C(CF32、及びそれらの組み合わせから選択される有機基を表し、sは0又は1の整数を表す。)
によって表される2価の有機化合物から選択される化合物を含んでいることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項22】
単量体ポリアミン反応物が式15から36までのいずれかによって表されることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【化28】

【化29】

【請求項23】
単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物が、式37から61までのいずれかによって表されることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【化30】

【化31】

【請求項24】
化学混合物(A)と(B)が、各々独立に溶液、分散系、及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項25】
化学混合物(A)と(B)が各々溶液であることを特徴とする、請求項7に記載の膜。
【請求項26】
式1
【化32】

(式中、R0は脂肪族基、脂環基、芳香族基、複素環基及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機基を表し、mは2又はそれ以上の整数を表し、nは1又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される、1つ又はそれ以上のヘキサフルオロアルコール基を有する単量体ポリアミン反応物を含む、塩基水溶液の中に支持膜を入れることと、
式2
【化33】

(式中、R1は脂肪族基、脂環基、芳香族基、複素環基及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機基を表し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素からなる群から選択されるものであり、pは2又はそれ以上の整数を表す。)
によって表される単量体多官能性ハロゲン化アシル反応物を含む有機溶液の中に、前記支持膜(その上に前記塩基水溶液を有している支持膜)を入れること、
を含む、膜の製造方法。
【請求項27】
活性層を有する複合膜を形成するのに、前記支持膜を乾燥させることを含み、さらに、該活性層がヘキサフルオロアルコールで置換された重合体を含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記有機溶液に入れる前に、前記支持膜を乾燥させることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記水溶液に入れる前に、親水性を高めるために、前記支持膜の表面を処理することを含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
支持膜の表面をプラズマとUV−オゾンの少なくとも1つで処理することを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記支持膜がポリスルホンを含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記活性層が約100から約500nmの厚みを有することを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
請求項1の膜を使用して、水を浄化することを含む方法。
【請求項34】
請求項1の膜を使用して、水の脱塩を行うことを含む方法。

【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2012−516788(P2012−516788A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548435(P2011−548435)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/024593
【国際公開番号】WO2010/096563
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】