フレキシブルなプラズマポリマー生成物、相当する物品およびその使用
本発明は、炭素、ケイ素、酸素および水素からなるプラズマポリマー生成物を有し、あるいはそれからなる物品に関するものであり、プラズマポリマー生成物のESCAスペクトル内で、脂肪族部分のC1sピークを285.00eVに較正する場合に、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mLの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.44eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつO1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.50eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマポリマー生成物からなり、あるいはこの種のプラズマポリマー生成物を有する物品に関する;本発明は、さらに、相当する(発明に基づく)プラズマポリマー生成物の使用、相当するプラズマポリマー生成物を製造する方法および、本発明に基づく方法によって製造可能なプラズマポリマー生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはその構成部品として)は、炭素、ケイ素、酸素および水素と場合によっては通常の不純物からなる。
【0003】
「プラズマポリマー生成物」とは、プラズマ重合によって製造可能な生成物である。プラズマ重合とは、プラズマによって刺激された、ガス状の先駆物質(モノマーと称されることも多い)が、自由に選択可能な基板上に高架橋化された層として析出(沈殿、堆積あるいは被覆)される、方法である。プラズマ重合のための条件は、作業ガス内に炭素とケイ素のような鎖を形成する原子が存在することである。刺激により、電子および/またはエネルギーに富んだイオンの照射によって、ガス状の物質がフラグメント化される。この時、高励起されたラジカルな、あるいはイオンの分子フラグメントが生じ、それがガス空間内で互いに反応してコーティングすべき表面上に析出される。この析出された層上に、プラズマの電気的放電とその集中的なイオンおよび電子の照射が持続的に作用するので、析出された層内で他の反応が誘引されて、析出された分子の高度な結合を得ることができる。
【0004】
本明細書において、「プラズマポリマー生成物」という概念は、プラズマ支援されたCVD(PE−CVD)(プラズマ化学気相成長法)で形成される、ないしは形成された生成物も含んでいる。反応を行うために、基板が付加的に加熱される。それによって、たとえばシランと酸素からなるSiO2コーティングが形成される。さらに明確に述べると、本発明に基づく生成物を製造するために、現在では低圧プラズマ重合方法が好ましいが、大気圧プラズマ方法も使用することができる。
【0005】
プラズマポリマーコーティングを有する物品は、すでにずっと以前から知られている。特にここでは、特に除去が容易なプラズマポリマーコーティング(Easy-to-clean-コーティング)を有する物品に関する、DE10131156A1(Fraunhofer-Gesellschaft)を挙げる。
【0006】
従来技術に基づく他の文献は以下のとおりである:US5230929A;WO99/22878;EP960958A2;DE10056564A1;EP1123991A2;EP1260606A2;DE10047124A1およびDE10131156A1内で挙げられた他の文献。
【0007】
DE10131156A1に示すプラズマポリマーコーティングは、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングとして極めて適している。しかし従来知られている他のプラズマポリマーコーティングと同様に、極めてわずかな弾性と柔軟性しか持たない。従って、機械的な負荷(特に曲げまたは伸張)において、プラズマポリマーコーティング内に望ましくない亀裂がもたらされ、それが、プラズマポリマーコーティングの機械的特性と特にその使用特性に全体として悪い影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、プラズマ重合され、三次元的に架橋された生成物を有する、あるいはそれからなる物品を提供することであって、プラズマ重合された生成物は、炭素、ケイ素、酸素および水素からなる、これまで知られているプラズマポリマー生成物に比較して、特に高い柔軟性と弾性的伸張性を有している。、課題の主旨における使用可能性を達成し、かつ表面、特にプラズマポリマー表面への有意義な結合を保証するために、文献においてしばしば記載されるような、いわゆるオリゴマー生成物(粘性、油性の特徴を有する層)の形成を回避するべきである。
【0009】
好ましくは、提供すべきプラズマポリマーコーティングは、これまで知られているプラズマポリマーコーティングと同じ適用分野においても使用できなければならず、そのため、引っ掻きに強いコーティングとして、腐食防止コーティングとして、付着防止する汚れを弾くコーティングとして、あるいはバリアコーティングとして、使用することができなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、炭素、ケイ素、酸素および水素と場合によっては通常の不純物からなるプラズマポリマー生成物を有し、あるいはそれからなる物品によって解決され、プラズマポリマー生成物のESCA−スペクトル(ESCA=Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;しばしばXPS検査法とも称される、XPS=Xray Photoelectron Spectroscopy)内で、脂肪族部分のC1sピークのを285.00eVに較正する場合に、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃における0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、Si2Pピークは、最大で0.44eV(好ましくは最大で0.40eV、特に好ましくは最大で0.30eV)だけ、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、従ってたとえば、102.69eVのPDMSのSi2pピークにおいては、102.23から103.13の領域内にある結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークは、最大で0.50eV(好ましくは最大で0.40、特に好ましくは0.30)だけ、より高い、あるいはより低い結合エネルギー(好ましくは高い結合エネルギー)へシフトされた、結合エネルギー値を有し、従ってたとえば、532.46eVのPDMSのO1sピークにおいては、531.96から532.96eVの領域内にある、結合エネルギー値を有する。
【0011】
25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.970g/mlの濃度とを有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、Gelest社の製品DMS−T23Eである。
【0012】
測定器具の較正は、すでに述べたように、C1sピークの脂肪族部分のC1sピークが285.00eVであるように行われた。チャージング効果に基づいて、通常、エネルギー軸をそれ以上の修正なしでこの固定値にシフトさせることが、必要である。
【0013】
ESCA調査を実施するための、本発明に基づく好ましい方法については、後述の例4を参照。
【0014】
結合エネルギー位置についての記載の値を有するプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、正確に2つの酸素原子と結合されている、ケイ素原子の特に高い割合を特徴としている。同時に、3つあるいは4つの酸素原子と結合されているケイ素原子の割合は、特に少ない。3つないし4つの隣接する酸素原子を有するケイ素原子("tertiaeres"ないし"quartaeres" Silicium)に比較して、2つの隣接する酸素原子を有するケイ素原子("sekundaeres Silicium")の特に高い割合は、従来のプラズマポリマー生成物に比較して、本発明に基づくプラズマポリマー生成物(生成物として、あるいは本発明に基づく物品の構成要素として)内の三次元の架橋化の割合が、存在はしているが、減少されていることを、意味している。同時に、枝分かれしていない鎖(−部分)の割合が、増大している。恐らくこのことが、本発明に基づくプラズマポリマー生成物の弾性と柔軟性の増大の原因と思われる。
【0015】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、通常、以下の特性を有している:
固有熱伝導性:約0.2W/°Km
0−150℃領域における線形の熱膨張係数:約2.5×10-4m/mK
25℃における屈折率:250nmにおける約1.5から895nmにおける1.425
動的接触角度(空気における23℃において、Siウェファ上で滴が成長する場合に測定)
水について 約102°
ヨードメタンについて 約86°
エチレングリコールについて 約80.5°
固有熱容量:約1.55J/gK
絶縁破壊強さ:約23kV/mm
固有絶縁抵抗:>23℃において1014Ωcm
誘電定数:23℃において、約3εr、50Hz
誘電損失ファクター:約50×10-4tanδ
濃度:0.9から1.15g/cm3
【0016】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品ないしこの種の物品の構成要素として)の分光学的データ(特にESCA分析に基づく結合エネルギー位置とFTIRスペクトルの詳細評価−FTIRスペクトルの比較は、本発明に基づく生成物について、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングに比較して削減された割合のCH2振動バンドを示す)も、機械的特性も、DE10131156A1に基づくコーティングのそれとは、はっきりと区別される。ESCAデータについての比較は、後掲の表一覧(表1)も参照。
【0017】
特に好ましい本発明に基づくプラズマポリマー生成物について、結合エネルギー位置が、下で表に示されている(表1を参照)。
【0018】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物について記載された結合エネルギー位置(ないし結合エネルギーシフト)は、プラズマポリマー生成物内の物質量比および使用される元素の割合と関連している。
【0019】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品あるいはこの種の物品の構成要素として)内の物質量比について、一般に、以下のことが言える:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
【0020】
しかし、好ましくは、プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
【0021】
特に、プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.05 <n(O):n(Si)< 1.23
2.10 <n(C):n(Si)< 2.23
1.70 <n(C):n(O) < 2.00
2.60 <n(H):n(C) < 3.00
【0022】
ここで、水素なしのすべての原子ペアリングの物質量比は、ここでも標準として使用される、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)について、n(O):n(Si)=1.02、n(C):n(Si)=2.35およびn(C):n(O)=2.29の物質量比を生じる調節におけるESCA測定に関する。水素と炭素の間の比は、古典的な化学的元素分析の結果に関する。
【0023】
元素であるケイ素、酸素および炭素の物質量比に関して、一般に言えることであるが、プラズマポリマー生成物は、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して次のものを有する:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
【0024】
しかし、プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、について、次のものを有していると、効果的である:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
【0025】
原子%記載は、ここでも標準として使用される、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)について、ケイ素について22.9原子%、酸素について23.4原子%および炭素について53.75原子%を生じる調節におけるESCA測定に関する;許容誤差に関しては、下の表1を参照。
【0026】
好ましい重量割合と物質量比を考慮して、本発明に基づく物品は、特に効果的であり、プラズマポリマー生成物は、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して以下のものを有している:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、その場合にプラズマポリマー生成物のESCAスペクトル内内で、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)に比較して、
Si2pピークは、最大で0.44eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークは、最大で0.50eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有している。
【0027】
この場合に、ESCA測定条件および選択された標準に関して、上述したことが同様に当てはまる。
【0028】
そして、特に好ましい本発明に基づく物品内で、プラズマポリマー生成物は元素であるケイ素、酸素および炭素の合計100原子%に対して以下のものを有しいる:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、ここで、Si2pピークは、最大で0.40eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、
O1sピークは、最大で0.40eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有する。
【0029】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、特にその好ましい形態において、加水分解に耐え、弾性的であり、従って亀裂がなく、>50%(好ましい形態においては>100%)の伸張まで伸張可能である。本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素を構成するプラズマポリマー生成物は、フレキシブルな移動バリアを形成する。さらに、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、付着防止特性と、多数のエラストマーに比較して改良された滑り能力を有する(この限りにおいて、登録商標Viton、シリコンゴム、ゴムなどのようなフルオルエラストマーの滑り特性を参照)。なぜなら、この種のエラストマーが通常有する表面接着性(Tack)が欠けており、ないしは著しく低下しているからである。
【0030】
好ましくは、本発明に基づく物品は、特に上で好ましいとされた形態において、効果的であって、その場合に(i)物品は、プラズマポリマー生成物からなり、かつコーティング(基板上)またはコーティングの一部あるいは、好ましくはわずかな層厚を備えた箔(ここでは、支持が無く(unsupported)、また基板と結合されていないフィルムないし箔を特に意味する)であり、あるいは(ii)基板および基板から破壊なしで剥がすことができ、あるいは破壊なしでは剥がすことができないプラズマポリマー生成物の形式のコーティングを有する複合体であって、その場合に(i)箔は、好ましくは20から2000nmの領域の厚みを有し、(ii)コーティングは、好ましくは1から2000nmの厚みを有する。
【0031】
本発明に基づく(支持のない)箔(プラズマポリマー生成物からなる、本発明に基づく物品の例として)は、DE102004026479とは異なり、支持体(たとえば、シリコンウェファあるいはアルミニウム箔などのような極めて滑らかな支持体あるいはトポグラフィック構造の支持体)が、水溶性の物質(たとえば砂糖、塩、水溶性のラッカーなど)によってコーティングされ、あるいはそれ自体水溶性であることにより、形成される。場合によっては水溶性の物質からなるコーティングを有する支持体上に、その後、本発明に基づくプラズマポリマー生成物の上述した特性を有する、プラズマポリマーコーティングが析出される。その後、プラズマポリマーコーティングは、水槽内で、損傷されることなく、支持体から剥がすことができる。剥がされたプラズマポリマーコーティング(プラズマポリマー箔)は、通常、20から2000nmの範囲の厚みを有している。それを、以下でナノ箔と称する。
【0032】
プラズマ重合テクノロジーの大きな利点は、たとえば1から2000nmまでの薄い厚みを有し、それにもかかわらず、特に弾性と柔軟性に関して所望の特性を有する、箔ないしコーティングを形成できることである。さらに、表面上のコーティングを活性化することができるので、剥離後に、一方の側に非粘着性の表面特性を有し、他方の側に粘着性の表面特性を有するナノ箔が生じることが、可能である。
【0033】
特に、基板と1から2000nmの領域の厚みを備えたコーティングとを有する複合体である、本発明に基づく物品が効果的であって、その場合にコーティング自体は、ここでも基板から破壊なしで剥がすことができ、あるいは破壊なしで剥がすことができない生成物からなり、かつその場合にコーティングは、100g/molあるいはそれより多い、好ましくは50g/molまたはそれより多いモル質量のモル質量を有する分子を通過させない。従って、この種の複合体は、100g/mol(ないし50g/mol)またはそれより多いモル質量を有する分子のための(プラズマポリマー)透過バリアを有する。発明者独自の研究において、本発明に基づくプラズマポリマー箔またはコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)は、部分的に1000nmよりもずっと薄い、極めて少ない厚みにおいてすでに、100g/mol(好ましくは50g/mol)のモル質量を有する分子の通過を完全に阻止することが、明らかにされた。ここで、箔またはコーティングは、柔軟かつ弾性的であるので、駆動においても、上述した分子のコーティングの通過を可能にする、望ましくない亀裂形成をもたらすことはない。
【0034】
特に、本発明に基づく物品が、上述した種類の複合体である場合に、物品が、基板としてエラストマーと付加的にその上に配置されている、1から2000nmの領域の厚みを備えたコーティングとを有していると、効果的であって、その場合にコーティングは、基板から破壊なしで剥がすことができる、あるいは破壊なしでは剥がすことができない(本発明に基づく)プラズマポリマー生成物からなる。しかし、この種の物品の利点は、いかなる場合でも透過バリアとしてのその特性にあるわけではない。他の場合においては、エラストマー基板とその上に配置されているコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)とを有する物品の利点は、コーティングが、処理されない基板と比較して物品の滑り特性を著しく増大させることにある。というのは、粘着度(Tack)が最小限に抑えられるからである。
【0035】
本発明に基づく物品において、基板自体も(本発明に基づく、あるいは本発明に基づかない)プラズマポリマー生成物であることができ、その上にその後、記載のESCAデータによって定義される構造と組成を有する、剥離可能または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物が配置される。ここで、基板として使用されるプラズマポリマー生成物は、通常、ベース基板上に、たとえばこの種のベース基板上にプラズマポリマー層の形式で、取り付けられている。代替的に、基板が、PVD、CVD、プラズマ支援されるCVD(PE−CVD)により、電気化学的に、あるいはゾル−ゲル−技術を用いてベース基板上に塗布された層であることができる。
【0036】
特に、本発明に基づく物品は、以下のものからなるグループから選択することができる:
−移動ブロック(移動バリア)あるいは移動ブロックの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、100g/molあるはそれより多い、好ましくは50g/molまたはそれより多いモル質量を有する分子に対する移動ブロック(移動バリア)を有する物品、
−シールまたはシール構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、シールを備えた物品、
−コーティング材料としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングを備えた光学素子、
−腐食に敏感な基板と、その上に配置された、腐食防止コーティングまたは腐食防止コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、腐食防止コーティングとを有する物品、
−特に接着剤処理の領域における適用のために、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板(特にまた(技術的)テキスタイル)を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げあるいは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げを備えた基板(特にまたメンブレン)を有する物品、
−(非細胞毒の)抗菌コーティングまたは抗菌コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、特にDE10353756に基づく、あるいはそれと同様の、抗菌コーティングを備えた基板を有する物品、
−(非細胞毒の)抗菌コーティングまたは抗菌コーティングの一部としての上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、特にPCT/EP2004/013035に基づく、あるいはそれと同様の、抗菌コーティングを有する包装を製造するための基板を有する物品、
−基板、特に熱交換器または熱交換器の一部とその上に配置された、熱伝導性を好ましくは測定できるほど変化させない、疎水性の、加水分解安定の表面特性を有する、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングとを有する、物品、
−分離層または分離層の一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、プラズマポリマー分離層を備えた基板を有する物品、
−エラストマー生成物とエラストマー生成物上の、コーティングまたはコーティングの構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフシステムの光学コンポーネントとその上に配置されている、保護箔または保護箔の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、残渣なしで取り外し可能、好ましくは残渣なしで引き外し可能な保護箔とを有する物品、
−基板、特にリソグラフシステムの光学コンポーネントとその上に配置されている、加水分解に耐える、著しく疎水性かつほぼUV透過性の保護層としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有するコーティングとを有する物品、
−欠陥を有する好ましくはプラズマポリマーコーティングと欠陥を補修するための、補修箔または補修箔の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、補修箔とを有する物品、
−好ましくはバリア特性を備えた、少なくとも2つのより硬い層または基板と、より硬い層または基板の間の、スペーサ層またはスペーサ層の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー層を有する、少なくとも1つの柔らかいスペーサ層とを有する物品、
−カバー層またはカバー層の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、疎水性のカバー層を備えた、ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板を有する物品、
−好ましくは電気的な構成部品と、絶縁箔または絶縁コーティングあるいはこの種の箔またはコーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、電気的に絶縁する箔またはコーティングとを有する物品、
−上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学品を有する物品。好ましくは、コーティングは、その非粘着性の表面特性に基づいて、バクテリア、卵白および他の身体固有の物質(場合によっては医薬品によって改質された)の付着を減少させる。
−コーティングとして上に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能なシリコン物品。好ましくは、コーティングは、その非粘着性および/または伸張可能な表面特性に基づいて、身体融和性の向上を許す(その限りにおいて、本発明に基づくコーティングは、特に適している。というのは、低分子の反応生成物が存在しないからである)。
【0037】
本発明は、また、上のように定義されるプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品ないし本発明に基づく物品の構成要素として)の、以下のものとしての使用に関する:
−100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動ブロック(移動バリア)
−ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板上のカバー層、
−特に最大で1000nmの厚みを有するシールのための、シール材料、
−フレキシブルな包装材料のフレキシブルなコーティング、
−光学素子をコーティングするためのフレキシブルなコーティング、
−加水分解に耐えるコーティング、
−疎水性のコーティング、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒の抗菌コーティング、
−腐食防止コーティング、
−除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、
−エラストマー生成物上の滑り特性を向上させるコーティング、
−特に、リソグラフィックシステムの光学素子のため、さらに好ましくは液浸リソグラフィックシステムの光学素子のための、保護−および/またはUV透過する、加水分解安定の箔、
−分離層または分離層の一部、
−特に除去容易な(Easy−to−clean)適用または分離層適用または光学的適用のための、補修箔、
−非粘着性および粘着性の表面特性を有する箔またはコーティング、
−ローカルな親水性ないし疎水性の領域を形成するために、特に親水性基板をコーティングするための、孔および/または細片パターンを有する箔、
−互いに分離すべき、より硬い層または基板の間の柔らかいスペーサ層、特にバリア層、
−特に極性分子の吸着を阻止するため、あるいは、水蒸気、二酸化炭素または酸素のようなガスまたは蒸気に対するバリアコーティングないしウルトラバリアコーティングのバリア特性を改良するための、著しく疎水性のカバー層、
−特に電気的な構成部材内の、絶縁箔または絶縁コーティング、
−ダイアモンド状のコーティング、特に基板上に化学的に結合された薄いコーティング上の、分離層ないし著しく疎水性の層。
【0038】
本発明は、さらに、本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品または本発明に基づく物品の構成要素としての)を製造する方法に関するものであって、同方法は以下のように実施される:
【0039】
低圧プラズマ重合方法による製造が、最も容易に成功する。そのために、真空反応容器が使用され、その真空反応容器が真空ポンプによって、少なくとも、特にプラズマが点火された場合に、選択された作業ガス量において所望の作業圧力が維持できる程度に、排気される。当業者は、さらに、ガス雰囲気が、反応容器壁またはその上にあるコーティングに付着する(内漏れ)残留水(湿気)によって、できるだけわずかしか妨害されないように、注意するであろう。さらに、使用されるチャンバの全外漏れ率が、プロセスへ供給すべき酸素量の1%よりも少ないことが、保証される。安定した、低い漏れ率は、たとえば漏れテスターまたは質量スペクトロメータを用いて証明し、かつ発見することができる。内漏れは、十分に長い排気時間(少なくとも1/2時間)によって、あるいはチャンバの加熱によって最小限に抑えられ、場合によっては質量スペクトロメータによって証明される。ここに記載される、時間およびコストのかかる、厳しいやり方は、通常の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを製造するためには、必要ではない。というのは、ここでは所定の帯域幅内で比較的大量の酸素の組込みが受け容れられるからである。
【0040】
適切な基板表面は、直接、すなわち前処理なしで、コーティングすることができるが、たとえば清掃、活性化またはプラズマ重合のための前処理ステップないし前コーティングステップも、可能である。支持のないフィルム(ナノ箔)を製造しようとする場合には、簡単な剥離を可能にする基板が選択される。そのための可能性は、液体内に容易に溶ける固体のコーティングないし、選択された作業圧のずっと下にある蒸気圧を有するこの種の液体のコーティングである。コーティングすべき(固体)物質として、たとえば、水溶性の物質または有機溶剤に溶けることができる物質が、提供される。さらに、コーティングは、極めてわずかな付着しか予想されない表面上で、たとえばフルオロポリマー上または分離手段上でも、行うことができる。後者は、さらに、基板上かつコーティングの下にある分離手段を有機溶剤内に溶かす選択肢を開く。
【0041】
本発明に基づく物質を製造するための作業ガスとして、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、オクタメチルトリシロキサン、テトラメチルシラン(TMS)またはビニルトリメチルシラン(VTMS)のような、ケイ素有機先駆物質が使用される。特に、HMDSOが、効果的である。というのは、それはその中にすでに、すでにメチル基で飽和された、第1のSi−O−Si単位を有しており、かつ比較的高い蒸発圧を有するからである。好ましくはこの先駆物質は、酸素と共に処理される。付加的な作業ガスとしての酸素は、所望の酸素割合の添加を可能にするだけでなく、HMDSOから分離された有機の断片のプラズマ化学的「燃焼」も可能にする。
【0042】
プラズマは、原則的に種々の周波数で点火することができるが、もちろん好ましくは、いわゆる構造を保持するプラズマが選択される。これは、供給された先駆物質、たとえばHMDSOがプラズマ内で完全に断片化されず、たとえば先駆物質分子当たり1つのメチル基のみが分離される程度の、マイルドなプラズマプロセスパラメータが選択されることを、意味している。
【0043】
それによって、メチルに富んだSi−O−ネットワークが生じる。この種の材料は、高いイオン衝撃によって著しく損傷または破壊されることがあり得るので、HF−周波数(13.56MHz)が好ましく、かつ基板は、好ましくは電極上に固定されない。GHz−周波数を使用する場合には、発生されたプラズマ内でのフラグメント化が高いことを考慮しなければならず、従って特別な注意が必要である。
【0044】
供給されるガス量に関する出力は、好ましくは、先駆物質過剰において実施できるように、実用的な範囲が選択される。従って、供給されるプラズマ出力によって処理できるよりも、多くの作業ガスが提供される。例えば当業者は、供給される出力の増大が堆積あるいは被覆率の著しい上昇をもたらすことを認識する。たとえば酸素に対するHMDSOのガス量比を調節するために、以下の例が補助として考察される:作業規定は、そのために調節できない。というのは、プラズマ重合においては、プロセスパラメータの調節は、特に、使用されるプラズマ設備に常に著しく依存するからである。しかし、当業者は、常にHMDSOの過剰を選択するであろう。出力は、それぞれの全ガス量を考慮しながら調節される。その場合に、予備実験において、極めて滑らかで平らなコーティングされた試料ボディ、たとえばシリコンウェファ上の水エッジ角度を測定することが有益である。100°の範囲の測定値は、通常、好ましい実用範囲であることを示す。しかし、ラスター電子顕微鏡あるいはAFM測定により、製造された物質が基層上にほんのわずかな粗度の上昇をもたらさないこと(Ra<1nm)が、保証されなければならない。この前提が満たされた場合に、XPS測定を用いて詳細に特徴づけ、かつ最適化することができる、実用的範囲が見いだされる。
【0045】
コーティング時間は、所望の層厚が得られるように、調節される。
【0046】
好ましくは、分離するために、大容量の設備が利用される。というのは、それによって、構造を保持するプラズマ重合条件並びに正しいガス比、必要な出力および漏れ率に対する供給されるガス量の比を調節することが、ずっと容易になるからである。
【0047】
本発明に基づく方法は、選択的に、低圧プラズマ重合または大気圧プラズマ重合を用いて実施することができる。大気圧プラズマ重合が適用される場合には、空気または空気水分のような異ガスの影響が、できる限り完全に除去される。
【0048】
そして、本発明は、本発明に基づく方法によって製造することができる、プラズマポリマー生成物にも関する。この種のプラズマポリマー生成物は、その特性において、一般に、本発明に基づく物品またはこの種の本発明に基づく物品の構成要素として上述したような、プラズマポリマー生成物に相当する。方法パラメータであるガスフロー、ガス組成、漏れ率、プラズマ内へ結合される出力、圧力および電極への間隔を調節することによって、好ましいプラズマポリマー生成物ないし好ましい本発明に基づく物品が、その構造とその特性において所望に調節される。
【0049】
本発明を、以下の説明(特に適用分野と実施例)を用いて、かつ添付の特許請求項によって、詳細に説明する。
【0050】
適用分野:
以下で、本発明に基づく物品(たとえば、本発明に基づくプラズマポリマー生成物)のための好ましい適用分野を、それによって適用可能性の制限を意図することなく、紹介する。当業者は、本発明に基づく物品の特性の知識において、多数の他の適用領域を認識するであろう。
【0051】
適用分野:移動バリア
本発明に基づく物品は、50g/mol以上、好ましくは100g/mol以上のモル質量を有する分子に対するプラズマポリマー移動バリアを有することができ、あるいは移動バリアそのものであることができる。その場合に特に重要なのは、有機分子に対するバリア作用である。移動バリアとしての適用の具体的な例は、たとえばプラスチック物質からの添加剤(たとえば軟化剤)に対するバリアのような、基板から望ましくない物質が流出することを防止するための移動バリアである(この適用は、食品包装にとって特に重要である)。従って本発明に基づく物品は、食品包装であり、あるいはそれを含むことができ、その食品包装の、食品へ向いた側に、それ自体本発明に基づくプラズマポリマー生成物である、プラズマポリマーコーティングが設けられている。食品包装自体は、この種の物品において、基板として用いられる;本発明に基づくプラズマポリマーコーティングによって食品に対して密閉することができる、食品包装材料の例は、たとえば、ソフトPVC、ポリウレタン泡などである。これらの具体的な例において、プラズマポリマーコーティングは、基板から望ましくない物質が食品内へ流出することを阻止するために、用いられる。しかし、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングは、移動バリアとして、もちろん望ましくない物質の基板内への侵入も、同様に良好に阻止する。
【0052】
望ましくない物質の基板内への侵入を阻止する、この種(本発明に基づく、プラズマポリマー)の移動バリアの具体的な例は、プラスチック基板上に配置されて、液体から基板内へ、プラスチック基板の寿命を短縮し、基板の望ましくない汚染をもたらし、ないしは基板を着色する可能性がある、溶剤、毒素または色素が侵入することを阻止する、移動バリアである。
【0053】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品または本発明に基づく物品の構成要素として)の使用は、移動バリアに加えて、1つまたは複数の以下に挙げる技術的要請が存在する場合に、特に効果的である:透明性;たとえば0.5μmより薄い、コーティング厚み;高いUV安定性。
【0054】
そこで移動バリアとして機能するために、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることができる、典型的な基板は、箔、シール材料(たとえば、特に食品領域における、ねじ蓋内のPVCシール)、ゴムシール、包装(食品、薬品、化粧品、医療技術など)、テキスタイル、UV硬化のための露光母型など。移動バリアは、生理学的に問題がなく、極めて良好なエコバランスを有している。
【0055】
適用分野「移動バリア」に関連して、今日、透明なバリアコーティングとして、たとえばSiOxまたはAlOxのような、無機の層が多様に使用されることに、注意しなければならない。これらのコーティングは、種々の真空方法によって、たとえばPVD、CVDまたはプラズマ支援されるCVD(PE−CVD)によって、製造することができる。上述したコーティングによって、適切な基板表面上で20nmのコーティング厚みから良好なバリア特性を達成することができるが、上述したコーティングにおいて、約500nmの厚みからは、亀裂が生じ、それがコーティングを再び透過性にする。これは、従来一般的な構造のプラズマポリマーバリア層についても、当てはまる。さらに、上述したコーティングは、脆く、従って破断に敏感である。従って、既知のコーティング方法に基づく極めて良好なバリアのためには、ほぼ空格子点のない無機のコーティングが必要である。
【0056】
既知の無機のコーティングの他の欠点は、それが比較的柔軟ではないことにある。しかし、多数の適用において、基板の変形がもたらされ、その変形は、上述した従来のコーティングを使用する場合に、亀裂形成とそれに伴ってバリア特性の損失をもたらす。たとえばSiOxベースの、これまで知られている無機の移動バリアとは異なり、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、よりソフトで、より柔軟である。
【0057】
従って、本発明は、適切な移動バリアを表す、改良された薄層コーティングシステムを提供する課題も、解決する。
【0058】
わずかな分子重量を有するガスと蒸気についても、特に良好なバリアコーティングシステム、たとえばいわゆるウルトラバリアを提供するために、本発明に基づくコーティングは、薄層の複合体内の中間層(スペーサ層)として使用することができる。たとえば、それは、PVD、CVDまたはプラズマ支援されるCVD(PE−CVD)によって設けられる(上述した著しく無機のSiOxコーティングないしAlOxコーティングのように)薄層と組み合わせて使用することができる。ここでは、本発明に基づく中間層は、比較的厚い「全層厚」において内部の(機械的)応力に基づく亀裂を形成する傾向を減少させることができる。さらに、この種の層複合体の柔軟性は、本発明に基づく中間層なしのバリア層に比較して、増大される。
【0059】
わずかな分子重量を有するガスと蒸気のためのバリア層ないしウルトラバリア層のさらなる改良は、本発明に基づくコーティングをカバー層として使用することによって行うことができる。そのカバー層は、その著しく疎水性の表面に基づいて、しばしば移動の速度に決定的に影響する、たとえば水のような極性の分子の吸着を減少させる。
【0060】
適用分野:加水分解耐性
加水分解に耐えるコーティングは、種々の分野で必要とされる。
【0061】
たとえば、熱伝導を妨げない、加水分解に耐える、疎水性の薄層コーティングは、熱交換器の領域で必要とされる。熱交換器においては、圧力が増大された場合に、しばしば飽和された水蒸気雰囲気が発生する。それに対して熱交換器表面は、比較的冷たいので、水分が凝縮される。熱交換器表面上に水フィルムが形成されないようにするために、この表面を疎水性にして、それによって、付加的に冷却されることになり、熱伝導を妨げることになる水フィルムの形成が阻止されると、効果的である。その熱交換器表面に本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)を有し、そのESCAデータが本発明に基づく物品との関連において示されたESCAデータに相当する、熱交換器が、本発明に基づく好ましい物品の例である。
【0062】
加水分解に耐えるコーティングのための他の適用分野は、製紙の領域にある。製紙の領域では、いわゆる粘着物(Stickies)の付着を防止するために、付着防止特性を有する、加水分解に耐えるコーティングが必要である。製紙設備の該当する部分に、そのESCAデータが本発明に基づくプラズマポリマー生成物のための上述したESCAデータに相当する、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることによって、粘着物の付着が完全に、あるいは少なくとも極めて大幅に、防止されることが、明らかにされた。
【0063】
同様に、本発明に基づくコーティングは、それ自体たとえばPVD、CVD、プラズマ支援されるCVD(PE−CVD)、プラズマ重合、電気化学的またはゾル−ゲル−プロセスによって設けられた、他の薄層システム上に、加水分解保護層として設けることができる。特に、SiOxコーティングおよびAlOxコーティングのような無機のコーティングは、その良好な腐食保護特性にもかかわらず、たとえば陽極処理されたアルミニウム基板上で比較的低い加水分解耐性を示すため、本発明に基づくコーティングを設けることが好ましい。
【0064】
適用分野:付着防止特性/除去容易な(Easy−to−clean)特性
【0065】
多数の工具と機械において、付着防止特性および/または除去容易な(Easy−to−clean)特性が望ましい。特に、これに関連して、接着剤(たとえばホットメルト、溶剤または冷間接着膠ありおよびなしの1成分接着剤および2成分接着剤)と接触する、工具と機械(製本機械、接着剤塗布装置、シール設備、印刷装置、装丁機のような)が挙げられる;例として、貯蔵容器、ポンプ、センサ、ミキサー、パイプ導管、塗布ヘッドなどが挙げられる。特にセンサの領域において、センサ全体を覆い、かつセンサ特性を損なわない、付着防止コーティングないし除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの特別な需要がある。ここでは特に、本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(上でプラズマポリマー生成物について記載したESCAデータを有する)の適用が、特に効果的である。というのは、それが、センサ特性を損なうことなしに、センサ全体をコーティングすることを許すからである。さらに、本発明に基づくコーティングの表面エネルギーは、一般に、アセトンのような、幾つかの一般に用いられている溶剤がすでに、表面上でもはや広がらないように、小さい;−コーティングの表面エネルギーは、溶剤の表面エネルギーの下にある。それによって、溶剤を含む接着剤の流出挙動および清掃挙動も改良される。
【0066】
本発明に基づく物品は、恒久的な離型層を有する型部品工具であることができ、その場合に恒久的な離型層自体が、本発明に基づくプラズマポリマー生成物であって、そのESCAデータは、上に記載されている。恒久的な離型層を有する型部品工具およびそれを製造する方法は、EP1301286B1に開示されており、前記文献において、プラズマ重合の間に重合条件を時間的に変化させることによって、離型層内に勾配層構造を形成することが重要であることが確認されている。離型層として本発明に基づくプラズマポリマー生成物を有する、本発明に基づく物品の内部でも、プラズマポリマー生成物は勾配層構造を有することができる;しかし、プラズマポリマー生成物の(表面の)ESCA調査が、上述した結果をもたらすことのみが必要である。さらに、型部品工具上に勾配層構造を有する恒久的な離型層に加えて、ESCA調査において上述した結合エネルギー値を示す、本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物)を設けることが、効果的である可能性がある。本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づくプラズマポリマーコーティング)は、このような場合において、それ自体分離する特性を有する、恒久的な離型層上で、滑り特性を支援する、フレキシブルなカバー層の機能も有している。簡略化された実施形態は、離型層内の勾配層構造を省く。
【0067】
本発明に基づく生成物が伸張可能であることよって、箔(特に伸張可能な箔)のような、フレキシブルな生成物に、然るべき付着防止表面ないし除去容易な(Easy−to−clean)表面を設けることが、可能である。
【0068】
適用分野:改良された滑り特性
本発明のこのアスペクトは、特に、エラストマー生成物と、エラストマー生成物上に、コーティングまたはコーティングの構成要素として、上述したように定義されたプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する、本発明に基づく物品に関する。
【0069】
多くのエラストマー生成物、たとえば、Oリングまたはシールは、(エラストマー生成物の)基板の弾性的特性が要請された場合に、コーティングが裂けることなしに、コーティングまたはコーティングの構成要素として、本発明に基づくプラズマポリマー生成物を設けることができる。
【0070】
現在使用されている多数のエラストマーは、劣った滑り特性を有するので、該当するエラストマー生成物は、自動的な装着自動機において良好に処理することはできない。エラストマー生成物は、煩わしい表面接着性(Tack)を有している。たとえば、弁の技術的分野においては、わずかな離脱力しか期待されない場合に、この種のTackは、否定的に認められかねない。さらに、この適用領域にとって悪いことに、タックをもたらす物質が、弁座へ転送されて、長い間には弁の非密閉性をもたらしかねない。従って、使用されるエラストマーに、上述したような、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることが、効果的である。というのは、それによって特に、高い伸張性において、滑り特性と分離特性も与えられるからである。その場合に、エラストマーとプラズマポリマーコーティング(プラズマポリマー生成物)は、一緒になって本発明に基づく物品を形成する。
【0071】
他の特殊な適用分野は、シリコンゴムの滑り特性の改良であって、それが、工業技術的領域においても、たとえば医療技術の領域においても、一連の好ましい物品をもたらす。ここで、該当する、本発明に基づく物品は、シリコンゴム生成物と本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(上述したような)を有している。
【0072】
上述した2つの適用分野について、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングは、付加的に、これらの生成物から加硫化残留生成物、軟化剤あるいは他の、たとえば50g/molより大きいモル質量を有する混和剤が拡散しないことを、もたらす。従って、食品加工、薬局および医療技術の領域において改良された適性が得られる。
【0073】
適用分野:抗菌コーティング
DE10353756に基づく非細胞毒の、抗菌コーティングは、好ましくはSiOx類似のコーティングを用いて形成される。これまで知られているSiOx類似のコーティングは、約30−60nmの好ましい層厚においては柔軟で、箔上に適用することができるが、この種のコーティングは、たとえば深絞りプロセスによって、あるいは折り曲げ、あるいは変形あるいは射出成形あるいは型内成形またはラミネートの際に生じるような負荷を解決できない。さらに、対応する表面は、所定の付着特性(バクテリア、菌類、身体固有の物質などのための)を定める。SiOx類似のコーティングとして、あるいはSiOxコーティングに加えて、本発明に基づくプラズマポリマー物品を使用することは、両方の視点において、使用可能性を拡張する。特に、本発明に基づく物品の高い柔軟性と伸張性は、深絞り、フランジ形成、刻印などのような、基板を変形させる、さらなる加工技術を可能にする。すなわち、たとえば、特にチューブまたは発泡箔を装備することができる。
さらに、この種の生成物は、然るべきラミネート箔上で、あるいは直接取り付けても、食品包装に適している。特に、複合箔セクタにおける使用も、興味深い。というのは、それによってたとえば、遮断層特性を抗菌特性と組み合わせることができるからである。
【0074】
更なる適用分野:
【0075】
多数の他の(本発明に基づく)物品内に、本発明に基づくプラズマポリマー生成物を、効果的に使用することができる。特に挙げると:サブ−マイクロメートル領域内のシール(プラズマポリマー生成物として);金属の構成部品または半製品のコーティング(プラズマポリマー生成物として)、特にこの種の金属の構成部品または半製品、特にさらなる加工または実用において変形にされる構成部品または半製品の上の腐食防止コーティングおよび/または疎水性コーティング;他のプラズマポリマーコーティングと組み合わせた(多層ないし勾配層内への組込み)コーティング(プラズマポリマー生成物として);プラズマ支援で前処理された基板表面に付着し、その基板と共に本発明に基づく物品を形成する、コーティング(プラズマポリマー生成物として)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
以下、例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0077】
例1:本発明に基づく生成物の製造
【0078】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物Aを製造するために、以下のプロセスパラメータが使用された:
ガスフロー O2: 12Sccm
ガスフロー HMDSO: 50Sccm
出力(W): 450
時間(sec): 2700
圧力(mbar): 0.02
【0079】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物Bを製造するために、以下のプロセスパラメータが使用された:
ガスフロー O2: 12Sccm
ガスフロー HMDSO: 50Sccm
出力(W): 450
時間(sec): 3000
圧力(mbar): 0.02
【0080】
実施する前に、利用される真空チャンバの漏れ率(外漏れ)が、2×10-3mbar L/secよりずっと小さいことを確認した。さらに、質量スペクトルメータを用いて、内漏れが検査された。その場合に、スペクトロメータの高い感度において、質量18(水)のための測定値が著しく低下して、その後一定になった場合に初めて、プロセスが始動されるように注意した。
【0081】
クォーツガラスからなるオブジェクト支持体上にコーティングが形成され、かつプラズマがオフにされた後に、ガス雰囲気が可及的速やかに水素によって置換されて、その後吸引出力が減少されたので、約0.2mbarへの著しい圧力上昇が観察された。場合によっては存在するラジカルを水素によって飽和することを可能にするために、この状態が、一定の水素フローにおいて5分間より多く維持された。
【0082】
添付の図1から6は、次のことを示している:
図1:波長の関数としての屈折率の推移
図2:波長領域190から250nmにおける、コーティングされないクォーツガラスおよびPDMSオイル(ここでは約200nm AK50、Wacker Chemie)でコーティングされたクォーツガラスと比較した、本発明に基づく物品(PP−PDMS)でコーティングされたクォーツガラスの透過推移
図3:本発明に基づく層のFTIRスペクトル
図4:本発明に基づく層のFTIRスペクトル(詳細)
図5:除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル
図6:除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル(詳細)
【実施例2】
【0083】
例2:本発明に基づくプラズマポリマー生成物の製造
【0084】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物を製造するための第2の可能性が、以下のプロセスパラメータによって与えられている:
ガスフロー O2: 36Sccm
ガスフロー HMDSO: 170Sccm
出力(W): 1600
時間(sec): 600
圧力(mbar): 0.025
【0085】
ここでも、実施の前に、利用される真空チャンバの漏れ率(外漏れ)が、2×10-3mbar L/secよりずっと小さいことを確認した。さらに、質量スペクトロメータを用いて、内部の漏れ率が検査された。その場合に、スペクトロメータの高い感度において、質量18(水)のための測定値が、著しく低下して、その後一定である場合に初めてプロセスが開始されるように注意した。
【0086】
水素後処理は、行われなかった。
【実施例3】
【0087】
例3:本発明に基づく支持のない箔を製造する方法
【0088】
極めて滑らかなシリコンウェファが、水溶性の物質(砂糖)によってコーティングされた。
【0089】
水内の0.4g/mlの精製糖からなる砂糖溶液が、シリコンウェファ上に塗布された。水の蒸発後に、ウェファの砂糖コーティング上に、例1で説明された方法を用いて、(本発明に基づく)プラズマポリマー層が塗布された。
【0090】
塗布された層が、水槽内で基板から剥がされ、前記水槽は、中間に位置する砂糖層を溶解した。好ましくは、前記層は、ウェファ端縁においてナイフによって分離された。プラズマポリマー層は、支持のない箔(プラズマポリマー生成物からなる、本発明に基づく物品の例として)として、水槽から取り出すことができた。これは、支持のない箔が水の表面上に浮遊していることによって、容易になった。従って、その密度は、1g/cm3よりも小さかった。
【0091】
プラズマポリマー箔は、約500nmの厚みを有していた。
【実施例4】
【0092】
例4:ESCS測定
【0093】
例1に従って製造された、本発明に基づくプラズマポリマー生成物「A」と「B」および基準材料と比較生成物から、ESCAスペクトルが記録されて、評価された。結果が、以下の表1に、信号の結合エネルギー位置と個々のピークの半値幅(FWHM=Full width at half maximum)に関して、記載されている。比較生成物として、DE10131156A1に記載のプラズマポリマー除去容易な(Easy−to−clean)コーティングが選択された。
【0094】
ESCA調査は、Kratos Analytical社のスペクトロメータKRATOS AXIS Ultraを用いて、実施された。分析チャンバには、単色にされたAlKα放射のためのX線源、ニュートラリゼータとしての電子源および四重極質量スペクトロメータが搭載されていた。さらに、設備は、光電子を進入スロットを介して半球分析器内へ合焦する、磁気レンズを有していた。較正によって、C1sピークの脂肪族割合が、285.0eVにセットされた。測定の間、表面法線は、半球分析器の進入スロットを指していた。
【0095】
パスエネルギーは、物質量比を定める場合に、それぞれ160eVであり、該当するスペクトルが、ジェネラルスペクトルと称される。ピークパラメータを定める場合に、パスエネルギーは、それぞれ20eVであった。
【0096】
上述した測定条件は、スペクトロメータタイプにほとんど依存しないことを可能にし、かつ本発明に基づくプラズマポリマー生成物を識別するために、効果的である。
【0097】
基準材料として、Gelest Inc.社(Morrisville, USA)のポリジメチルシロキサン シリコンオイルDMS−T23Eが使用された。このトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−シリコンオイルは、350mm2/s(±10%)の動粘性と、25℃において0.970g/molの濃度および約13650g/molの平均分子重量を有している。選択された材料は、蒸発可能な構成要素の極めてわずかな割合を特徴としている:125℃および10-5Torr真空において24時間後に、0.01%より少ない揮発成分が証明された(ASTM−E595−85およびNASA SP−R0022Aによる)。スピン−コーティングプロセスを用いて、40ないし50nm厚みの層が、シリコンウェファ上に塗布された:ここで溶剤として、ヘキサメチルジシロキサンが使用された。
【0098】
測定されたスペクトルが−ジェネラルスペクトルのためにサンプルとしてそれぞれ1つ−、図7から10(ジェネラルスペクトル)および11から22(詳細スペクトル)として添付されている。 図7:DMS−T23EのXPSジェネラルスペクトル
図8:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのXPSジェネラルスペクトル
図9:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのXPSジェネラルスペクトル
図10:DE10131156A1に基づく除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのXPSジェネラルスペクトル(比較)
図11:DMS−T23EのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図12:DMS−T23EのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図13:DMS−T23EのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図14:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図15:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図16:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図17:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図18:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図19:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図20:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのO1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
図21:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのC1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
図22:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのSi2pピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【0099】
ジェネラルスペクトルのために、試料上の異なる位置において4から6の測定が実施された。表1内には、実施された測定の平均値からの±最大の偏差を有する物質量比について、記載されている
表1:ESCA測定の結果
【0100】
ESCA調査を受けた、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、DE10131156A1に記載の典型的な除去容易な(Easy−to−clean)コーティングと比較して、より低いエネルギーへ約0.37から0.53eVだけシフトされた、Si2pピークの結合エネルギー位置を有している。この観察は、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングに比較して、第2ケイ素原子の割合(すなわち、正確に2つの隣接するO原子を有するケイ素原子の割合)の増大に相当する。
【0101】
多分、第2ケイ素原子の割合の増大は、第3ケイ素原子のより強い優勢が存在する、DE10131156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングと比較して、本発明に基づくコーティングの弾性と柔軟性が高い理由と思われる。
【0102】
本発明に基づくコーティングと除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのESCAスペクトルの比較から、機械的な特性である弾性と柔軟性は、それぞれのプラズマポリマーの構造と直接結合されていることが、明らかにされた。
【0103】
本発明に基づくコーティングは、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングよりも炭素に富んでおり、かつ酸素が少ない。従って、必然的に少ない架橋化生成物しか生じない。組成は、シリコンオイルの組成に近づくが、それに比較しても、古典的なシリコンエラストマーに比較しても、強く架橋化されている(多くの酸素、少ない炭素)。従って、エラストマープラズマポリマー構造(高い水素含有量において)を、前提とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】波長の関数としての屈折率の推移
【図2】波長領域190から250nmにおける、コーティングされないクォーツガラスおよびPDMSオイル(ここでは約200nm AK50、Wacker Chemie)でコーティングされたクォーツガラスと比較した、本発明に基づく物品(PP−PDMS)でコーティングされたクォーツガラスの透過推移
【図3】本発明に基づく層のFTIRスペクトル
【図4】本発明に基づく層のFTIRスペクトル(詳細)
【図5】除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル
【図6】除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル(詳細)
【図7】DMS−T23EのXPSジェネラルスペクトル
【図8】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのXPSジェネラルスペクトル
【図9】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのXPSジェネラルスペクトル
【図10】DE10131156A1に基づく除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのXPSジェネラルスペクトル(比較)
【図11】DMS−T23EのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図12】DMS−T23EのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図13】DMS−T23EのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図14】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図15】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図16】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図17】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図18】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図19】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図20】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのO1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【図21】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのC1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【図22】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのSi2pピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマポリマー生成物からなり、あるいはこの種のプラズマポリマー生成物を有する物品に関する;本発明は、さらに、相当する(発明に基づく)プラズマポリマー生成物の使用、相当するプラズマポリマー生成物を製造する方法および、本発明に基づく方法によって製造可能なプラズマポリマー生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはその構成部品として)は、炭素、ケイ素、酸素および水素と場合によっては通常の不純物からなる。
【0003】
「プラズマポリマー生成物」とは、プラズマ重合によって製造可能な生成物である。プラズマ重合とは、プラズマによって刺激された、ガス状の先駆物質(モノマーと称されることも多い)が、自由に選択可能な基板上に高架橋化された層として析出(沈殿、堆積あるいは被覆)される、方法である。プラズマ重合のための条件は、作業ガス内に炭素とケイ素のような鎖を形成する原子が存在することである。刺激により、電子および/またはエネルギーに富んだイオンの照射によって、ガス状の物質がフラグメント化される。この時、高励起されたラジカルな、あるいはイオンの分子フラグメントが生じ、それがガス空間内で互いに反応してコーティングすべき表面上に析出される。この析出された層上に、プラズマの電気的放電とその集中的なイオンおよび電子の照射が持続的に作用するので、析出された層内で他の反応が誘引されて、析出された分子の高度な結合を得ることができる。
【0004】
本明細書において、「プラズマポリマー生成物」という概念は、プラズマ支援されたCVD(PE−CVD)(プラズマ化学気相成長法)で形成される、ないしは形成された生成物も含んでいる。反応を行うために、基板が付加的に加熱される。それによって、たとえばシランと酸素からなるSiO2コーティングが形成される。さらに明確に述べると、本発明に基づく生成物を製造するために、現在では低圧プラズマ重合方法が好ましいが、大気圧プラズマ方法も使用することができる。
【0005】
プラズマポリマーコーティングを有する物品は、すでにずっと以前から知られている。特にここでは、特に除去が容易なプラズマポリマーコーティング(Easy-to-clean-コーティング)を有する物品に関する、DE10131156A1(Fraunhofer-Gesellschaft)を挙げる。
【0006】
従来技術に基づく他の文献は以下のとおりである:US5230929A;WO99/22878;EP960958A2;DE10056564A1;EP1123991A2;EP1260606A2;DE10047124A1およびDE10131156A1内で挙げられた他の文献。
【0007】
DE10131156A1に示すプラズマポリマーコーティングは、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングとして極めて適している。しかし従来知られている他のプラズマポリマーコーティングと同様に、極めてわずかな弾性と柔軟性しか持たない。従って、機械的な負荷(特に曲げまたは伸張)において、プラズマポリマーコーティング内に望ましくない亀裂がもたらされ、それが、プラズマポリマーコーティングの機械的特性と特にその使用特性に全体として悪い影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、プラズマ重合され、三次元的に架橋された生成物を有する、あるいはそれからなる物品を提供することであって、プラズマ重合された生成物は、炭素、ケイ素、酸素および水素からなる、これまで知られているプラズマポリマー生成物に比較して、特に高い柔軟性と弾性的伸張性を有している。、課題の主旨における使用可能性を達成し、かつ表面、特にプラズマポリマー表面への有意義な結合を保証するために、文献においてしばしば記載されるような、いわゆるオリゴマー生成物(粘性、油性の特徴を有する層)の形成を回避するべきである。
【0009】
好ましくは、提供すべきプラズマポリマーコーティングは、これまで知られているプラズマポリマーコーティングと同じ適用分野においても使用できなければならず、そのため、引っ掻きに強いコーティングとして、腐食防止コーティングとして、付着防止する汚れを弾くコーティングとして、あるいはバリアコーティングとして、使用することができなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、炭素、ケイ素、酸素および水素と場合によっては通常の不純物からなるプラズマポリマー生成物を有し、あるいはそれからなる物品によって解決され、プラズマポリマー生成物のESCA−スペクトル(ESCA=Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;しばしばXPS検査法とも称される、XPS=Xray Photoelectron Spectroscopy)内で、脂肪族部分のC1sピークのを285.00eVに較正する場合に、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃における0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、Si2Pピークは、最大で0.44eV(好ましくは最大で0.40eV、特に好ましくは最大で0.30eV)だけ、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、従ってたとえば、102.69eVのPDMSのSi2pピークにおいては、102.23から103.13の領域内にある結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークは、最大で0.50eV(好ましくは最大で0.40、特に好ましくは0.30)だけ、より高い、あるいはより低い結合エネルギー(好ましくは高い結合エネルギー)へシフトされた、結合エネルギー値を有し、従ってたとえば、532.46eVのPDMSのO1sピークにおいては、531.96から532.96eVの領域内にある、結合エネルギー値を有する。
【0011】
25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.970g/mlの濃度とを有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、Gelest社の製品DMS−T23Eである。
【0012】
測定器具の較正は、すでに述べたように、C1sピークの脂肪族部分のC1sピークが285.00eVであるように行われた。チャージング効果に基づいて、通常、エネルギー軸をそれ以上の修正なしでこの固定値にシフトさせることが、必要である。
【0013】
ESCA調査を実施するための、本発明に基づく好ましい方法については、後述の例4を参照。
【0014】
結合エネルギー位置についての記載の値を有するプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、正確に2つの酸素原子と結合されている、ケイ素原子の特に高い割合を特徴としている。同時に、3つあるいは4つの酸素原子と結合されているケイ素原子の割合は、特に少ない。3つないし4つの隣接する酸素原子を有するケイ素原子("tertiaeres"ないし"quartaeres" Silicium)に比較して、2つの隣接する酸素原子を有するケイ素原子("sekundaeres Silicium")の特に高い割合は、従来のプラズマポリマー生成物に比較して、本発明に基づくプラズマポリマー生成物(生成物として、あるいは本発明に基づく物品の構成要素として)内の三次元の架橋化の割合が、存在はしているが、減少されていることを、意味している。同時に、枝分かれしていない鎖(−部分)の割合が、増大している。恐らくこのことが、本発明に基づくプラズマポリマー生成物の弾性と柔軟性の増大の原因と思われる。
【0015】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、通常、以下の特性を有している:
固有熱伝導性:約0.2W/°Km
0−150℃領域における線形の熱膨張係数:約2.5×10-4m/mK
25℃における屈折率:250nmにおける約1.5から895nmにおける1.425
動的接触角度(空気における23℃において、Siウェファ上で滴が成長する場合に測定)
水について 約102°
ヨードメタンについて 約86°
エチレングリコールについて 約80.5°
固有熱容量:約1.55J/gK
絶縁破壊強さ:約23kV/mm
固有絶縁抵抗:>23℃において1014Ωcm
誘電定数:23℃において、約3εr、50Hz
誘電損失ファクター:約50×10-4tanδ
濃度:0.9から1.15g/cm3
【0016】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品ないしこの種の物品の構成要素として)の分光学的データ(特にESCA分析に基づく結合エネルギー位置とFTIRスペクトルの詳細評価−FTIRスペクトルの比較は、本発明に基づく生成物について、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングに比較して削減された割合のCH2振動バンドを示す)も、機械的特性も、DE10131156A1に基づくコーティングのそれとは、はっきりと区別される。ESCAデータについての比較は、後掲の表一覧(表1)も参照。
【0017】
特に好ましい本発明に基づくプラズマポリマー生成物について、結合エネルギー位置が、下で表に示されている(表1を参照)。
【0018】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物について記載された結合エネルギー位置(ないし結合エネルギーシフト)は、プラズマポリマー生成物内の物質量比および使用される元素の割合と関連している。
【0019】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品あるいはこの種の物品の構成要素として)内の物質量比について、一般に、以下のことが言える:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
【0020】
しかし、好ましくは、プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
【0021】
特に、プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.05 <n(O):n(Si)< 1.23
2.10 <n(C):n(Si)< 2.23
1.70 <n(C):n(O) < 2.00
2.60 <n(H):n(C) < 3.00
【0022】
ここで、水素なしのすべての原子ペアリングの物質量比は、ここでも標準として使用される、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)について、n(O):n(Si)=1.02、n(C):n(Si)=2.35およびn(C):n(O)=2.29の物質量比を生じる調節におけるESCA測定に関する。水素と炭素の間の比は、古典的な化学的元素分析の結果に関する。
【0023】
元素であるケイ素、酸素および炭素の物質量比に関して、一般に言えることであるが、プラズマポリマー生成物は、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して次のものを有する:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
【0024】
しかし、プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、について、次のものを有していると、効果的である:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
【0025】
原子%記載は、ここでも標準として使用される、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)について、ケイ素について22.9原子%、酸素について23.4原子%および炭素について53.75原子%を生じる調節におけるESCA測定に関する;許容誤差に関しては、下の表1を参照。
【0026】
好ましい重量割合と物質量比を考慮して、本発明に基づく物品は、特に効果的であり、プラズマポリマー生成物は、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して以下のものを有している:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、その場合にプラズマポリマー生成物のESCAスペクトル内内で、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mlの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド ポリジメチルシロキサン(PDMS)に比較して、
Si2pピークは、最大で0.44eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークは、最大で0.50eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有している。
【0027】
この場合に、ESCA測定条件および選択された標準に関して、上述したことが同様に当てはまる。
【0028】
そして、特に好ましい本発明に基づく物品内で、プラズマポリマー生成物は元素であるケイ素、酸素および炭素の合計100原子%に対して以下のものを有しいる:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比について、次のことが言える:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、ここで、Si2pピークは、最大で0.40eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有し、
O1sピークは、最大で0.40eVだけ、より高い、またはより低い結合エネルギーへシフトされた、結合エネルギー値を有する。
【0029】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素として)は、特にその好ましい形態において、加水分解に耐え、弾性的であり、従って亀裂がなく、>50%(好ましい形態においては>100%)の伸張まで伸張可能である。本発明に基づく物品またはこの種の物品の構成要素を構成するプラズマポリマー生成物は、フレキシブルな移動バリアを形成する。さらに、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、付着防止特性と、多数のエラストマーに比較して改良された滑り能力を有する(この限りにおいて、登録商標Viton、シリコンゴム、ゴムなどのようなフルオルエラストマーの滑り特性を参照)。なぜなら、この種のエラストマーが通常有する表面接着性(Tack)が欠けており、ないしは著しく低下しているからである。
【0030】
好ましくは、本発明に基づく物品は、特に上で好ましいとされた形態において、効果的であって、その場合に(i)物品は、プラズマポリマー生成物からなり、かつコーティング(基板上)またはコーティングの一部あるいは、好ましくはわずかな層厚を備えた箔(ここでは、支持が無く(unsupported)、また基板と結合されていないフィルムないし箔を特に意味する)であり、あるいは(ii)基板および基板から破壊なしで剥がすことができ、あるいは破壊なしでは剥がすことができないプラズマポリマー生成物の形式のコーティングを有する複合体であって、その場合に(i)箔は、好ましくは20から2000nmの領域の厚みを有し、(ii)コーティングは、好ましくは1から2000nmの厚みを有する。
【0031】
本発明に基づく(支持のない)箔(プラズマポリマー生成物からなる、本発明に基づく物品の例として)は、DE102004026479とは異なり、支持体(たとえば、シリコンウェファあるいはアルミニウム箔などのような極めて滑らかな支持体あるいはトポグラフィック構造の支持体)が、水溶性の物質(たとえば砂糖、塩、水溶性のラッカーなど)によってコーティングされ、あるいはそれ自体水溶性であることにより、形成される。場合によっては水溶性の物質からなるコーティングを有する支持体上に、その後、本発明に基づくプラズマポリマー生成物の上述した特性を有する、プラズマポリマーコーティングが析出される。その後、プラズマポリマーコーティングは、水槽内で、損傷されることなく、支持体から剥がすことができる。剥がされたプラズマポリマーコーティング(プラズマポリマー箔)は、通常、20から2000nmの範囲の厚みを有している。それを、以下でナノ箔と称する。
【0032】
プラズマ重合テクノロジーの大きな利点は、たとえば1から2000nmまでの薄い厚みを有し、それにもかかわらず、特に弾性と柔軟性に関して所望の特性を有する、箔ないしコーティングを形成できることである。さらに、表面上のコーティングを活性化することができるので、剥離後に、一方の側に非粘着性の表面特性を有し、他方の側に粘着性の表面特性を有するナノ箔が生じることが、可能である。
【0033】
特に、基板と1から2000nmの領域の厚みを備えたコーティングとを有する複合体である、本発明に基づく物品が効果的であって、その場合にコーティング自体は、ここでも基板から破壊なしで剥がすことができ、あるいは破壊なしで剥がすことができない生成物からなり、かつその場合にコーティングは、100g/molあるいはそれより多い、好ましくは50g/molまたはそれより多いモル質量のモル質量を有する分子を通過させない。従って、この種の複合体は、100g/mol(ないし50g/mol)またはそれより多いモル質量を有する分子のための(プラズマポリマー)透過バリアを有する。発明者独自の研究において、本発明に基づくプラズマポリマー箔またはコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)は、部分的に1000nmよりもずっと薄い、極めて少ない厚みにおいてすでに、100g/mol(好ましくは50g/mol)のモル質量を有する分子の通過を完全に阻止することが、明らかにされた。ここで、箔またはコーティングは、柔軟かつ弾性的であるので、駆動においても、上述した分子のコーティングの通過を可能にする、望ましくない亀裂形成をもたらすことはない。
【0034】
特に、本発明に基づく物品が、上述した種類の複合体である場合に、物品が、基板としてエラストマーと付加的にその上に配置されている、1から2000nmの領域の厚みを備えたコーティングとを有していると、効果的であって、その場合にコーティングは、基板から破壊なしで剥がすことができる、あるいは破壊なしでは剥がすことができない(本発明に基づく)プラズマポリマー生成物からなる。しかし、この種の物品の利点は、いかなる場合でも透過バリアとしてのその特性にあるわけではない。他の場合においては、エラストマー基板とその上に配置されているコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)とを有する物品の利点は、コーティングが、処理されない基板と比較して物品の滑り特性を著しく増大させることにある。というのは、粘着度(Tack)が最小限に抑えられるからである。
【0035】
本発明に基づく物品において、基板自体も(本発明に基づく、あるいは本発明に基づかない)プラズマポリマー生成物であることができ、その上にその後、記載のESCAデータによって定義される構造と組成を有する、剥離可能または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物が配置される。ここで、基板として使用されるプラズマポリマー生成物は、通常、ベース基板上に、たとえばこの種のベース基板上にプラズマポリマー層の形式で、取り付けられている。代替的に、基板が、PVD、CVD、プラズマ支援されるCVD(PE−CVD)により、電気化学的に、あるいはゾル−ゲル−技術を用いてベース基板上に塗布された層であることができる。
【0036】
特に、本発明に基づく物品は、以下のものからなるグループから選択することができる:
−移動ブロック(移動バリア)あるいは移動ブロックの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、100g/molあるはそれより多い、好ましくは50g/molまたはそれより多いモル質量を有する分子に対する移動ブロック(移動バリア)を有する物品、
−シールまたはシール構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、シールを備えた物品、
−コーティング材料としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングを備えた光学素子、
−腐食に敏感な基板と、その上に配置された、腐食防止コーティングまたは腐食防止コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、腐食防止コーティングとを有する物品、
−特に接着剤処理の領域における適用のために、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板(特にまた(技術的)テキスタイル)を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げあるいは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げを備えた基板(特にまたメンブレン)を有する物品、
−(非細胞毒の)抗菌コーティングまたは抗菌コーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、特にDE10353756に基づく、あるいはそれと同様の、抗菌コーティングを備えた基板を有する物品、
−(非細胞毒の)抗菌コーティングまたは抗菌コーティングの一部としての上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、特にPCT/EP2004/013035に基づく、あるいはそれと同様の、抗菌コーティングを有する包装を製造するための基板を有する物品、
−基板、特に熱交換器または熱交換器の一部とその上に配置された、熱伝導性を好ましくは測定できるほど変化させない、疎水性の、加水分解安定の表面特性を有する、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングとを有する、物品、
−分離層または分離層の一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、プラズマポリマー分離層を備えた基板を有する物品、
−エラストマー生成物とエラストマー生成物上の、コーティングまたはコーティングの構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフシステムの光学コンポーネントとその上に配置されている、保護箔または保護箔の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、残渣なしで取り外し可能、好ましくは残渣なしで引き外し可能な保護箔とを有する物品、
−基板、特にリソグラフシステムの光学コンポーネントとその上に配置されている、加水分解に耐える、著しく疎水性かつほぼUV透過性の保護層としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有するコーティングとを有する物品、
−欠陥を有する好ましくはプラズマポリマーコーティングと欠陥を補修するための、補修箔または補修箔の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、補修箔とを有する物品、
−好ましくはバリア特性を備えた、少なくとも2つのより硬い層または基板と、より硬い層または基板の間の、スペーサ層またはスペーサ層の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー層を有する、少なくとも1つの柔らかいスペーサ層とを有する物品、
−カバー層またはカバー層の構成要素としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、疎水性のカバー層を備えた、ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板を有する物品、
−好ましくは電気的な構成部品と、絶縁箔または絶縁コーティングあるいはこの種の箔またはコーティングの一部としての、上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、電気的に絶縁する箔またはコーティングとを有する物品、
−上のように定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学品を有する物品。好ましくは、コーティングは、その非粘着性の表面特性に基づいて、バクテリア、卵白および他の身体固有の物質(場合によっては医薬品によって改質された)の付着を減少させる。
−コーティングとして上に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能なシリコン物品。好ましくは、コーティングは、その非粘着性および/または伸張可能な表面特性に基づいて、身体融和性の向上を許す(その限りにおいて、本発明に基づくコーティングは、特に適している。というのは、低分子の反応生成物が存在しないからである)。
【0037】
本発明は、また、上のように定義されるプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品ないし本発明に基づく物品の構成要素として)の、以下のものとしての使用に関する:
−100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動ブロック(移動バリア)
−ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板上のカバー層、
−特に最大で1000nmの厚みを有するシールのための、シール材料、
−フレキシブルな包装材料のフレキシブルなコーティング、
−光学素子をコーティングするためのフレキシブルなコーティング、
−加水分解に耐えるコーティング、
−疎水性のコーティング、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒の抗菌コーティング、
−腐食防止コーティング、
−除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、
−エラストマー生成物上の滑り特性を向上させるコーティング、
−特に、リソグラフィックシステムの光学素子のため、さらに好ましくは液浸リソグラフィックシステムの光学素子のための、保護−および/またはUV透過する、加水分解安定の箔、
−分離層または分離層の一部、
−特に除去容易な(Easy−to−clean)適用または分離層適用または光学的適用のための、補修箔、
−非粘着性および粘着性の表面特性を有する箔またはコーティング、
−ローカルな親水性ないし疎水性の領域を形成するために、特に親水性基板をコーティングするための、孔および/または細片パターンを有する箔、
−互いに分離すべき、より硬い層または基板の間の柔らかいスペーサ層、特にバリア層、
−特に極性分子の吸着を阻止するため、あるいは、水蒸気、二酸化炭素または酸素のようなガスまたは蒸気に対するバリアコーティングないしウルトラバリアコーティングのバリア特性を改良するための、著しく疎水性のカバー層、
−特に電気的な構成部材内の、絶縁箔または絶縁コーティング、
−ダイアモンド状のコーティング、特に基板上に化学的に結合された薄いコーティング上の、分離層ないし著しく疎水性の層。
【0038】
本発明は、さらに、本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品または本発明に基づく物品の構成要素としての)を製造する方法に関するものであって、同方法は以下のように実施される:
【0039】
低圧プラズマ重合方法による製造が、最も容易に成功する。そのために、真空反応容器が使用され、その真空反応容器が真空ポンプによって、少なくとも、特にプラズマが点火された場合に、選択された作業ガス量において所望の作業圧力が維持できる程度に、排気される。当業者は、さらに、ガス雰囲気が、反応容器壁またはその上にあるコーティングに付着する(内漏れ)残留水(湿気)によって、できるだけわずかしか妨害されないように、注意するであろう。さらに、使用されるチャンバの全外漏れ率が、プロセスへ供給すべき酸素量の1%よりも少ないことが、保証される。安定した、低い漏れ率は、たとえば漏れテスターまたは質量スペクトロメータを用いて証明し、かつ発見することができる。内漏れは、十分に長い排気時間(少なくとも1/2時間)によって、あるいはチャンバの加熱によって最小限に抑えられ、場合によっては質量スペクトロメータによって証明される。ここに記載される、時間およびコストのかかる、厳しいやり方は、通常の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを製造するためには、必要ではない。というのは、ここでは所定の帯域幅内で比較的大量の酸素の組込みが受け容れられるからである。
【0040】
適切な基板表面は、直接、すなわち前処理なしで、コーティングすることができるが、たとえば清掃、活性化またはプラズマ重合のための前処理ステップないし前コーティングステップも、可能である。支持のないフィルム(ナノ箔)を製造しようとする場合には、簡単な剥離を可能にする基板が選択される。そのための可能性は、液体内に容易に溶ける固体のコーティングないし、選択された作業圧のずっと下にある蒸気圧を有するこの種の液体のコーティングである。コーティングすべき(固体)物質として、たとえば、水溶性の物質または有機溶剤に溶けることができる物質が、提供される。さらに、コーティングは、極めてわずかな付着しか予想されない表面上で、たとえばフルオロポリマー上または分離手段上でも、行うことができる。後者は、さらに、基板上かつコーティングの下にある分離手段を有機溶剤内に溶かす選択肢を開く。
【0041】
本発明に基づく物質を製造するための作業ガスとして、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、オクタメチルトリシロキサン、テトラメチルシラン(TMS)またはビニルトリメチルシラン(VTMS)のような、ケイ素有機先駆物質が使用される。特に、HMDSOが、効果的である。というのは、それはその中にすでに、すでにメチル基で飽和された、第1のSi−O−Si単位を有しており、かつ比較的高い蒸発圧を有するからである。好ましくはこの先駆物質は、酸素と共に処理される。付加的な作業ガスとしての酸素は、所望の酸素割合の添加を可能にするだけでなく、HMDSOから分離された有機の断片のプラズマ化学的「燃焼」も可能にする。
【0042】
プラズマは、原則的に種々の周波数で点火することができるが、もちろん好ましくは、いわゆる構造を保持するプラズマが選択される。これは、供給された先駆物質、たとえばHMDSOがプラズマ内で完全に断片化されず、たとえば先駆物質分子当たり1つのメチル基のみが分離される程度の、マイルドなプラズマプロセスパラメータが選択されることを、意味している。
【0043】
それによって、メチルに富んだSi−O−ネットワークが生じる。この種の材料は、高いイオン衝撃によって著しく損傷または破壊されることがあり得るので、HF−周波数(13.56MHz)が好ましく、かつ基板は、好ましくは電極上に固定されない。GHz−周波数を使用する場合には、発生されたプラズマ内でのフラグメント化が高いことを考慮しなければならず、従って特別な注意が必要である。
【0044】
供給されるガス量に関する出力は、好ましくは、先駆物質過剰において実施できるように、実用的な範囲が選択される。従って、供給されるプラズマ出力によって処理できるよりも、多くの作業ガスが提供される。例えば当業者は、供給される出力の増大が堆積あるいは被覆率の著しい上昇をもたらすことを認識する。たとえば酸素に対するHMDSOのガス量比を調節するために、以下の例が補助として考察される:作業規定は、そのために調節できない。というのは、プラズマ重合においては、プロセスパラメータの調節は、特に、使用されるプラズマ設備に常に著しく依存するからである。しかし、当業者は、常にHMDSOの過剰を選択するであろう。出力は、それぞれの全ガス量を考慮しながら調節される。その場合に、予備実験において、極めて滑らかで平らなコーティングされた試料ボディ、たとえばシリコンウェファ上の水エッジ角度を測定することが有益である。100°の範囲の測定値は、通常、好ましい実用範囲であることを示す。しかし、ラスター電子顕微鏡あるいはAFM測定により、製造された物質が基層上にほんのわずかな粗度の上昇をもたらさないこと(Ra<1nm)が、保証されなければならない。この前提が満たされた場合に、XPS測定を用いて詳細に特徴づけ、かつ最適化することができる、実用的範囲が見いだされる。
【0045】
コーティング時間は、所望の層厚が得られるように、調節される。
【0046】
好ましくは、分離するために、大容量の設備が利用される。というのは、それによって、構造を保持するプラズマ重合条件並びに正しいガス比、必要な出力および漏れ率に対する供給されるガス量の比を調節することが、ずっと容易になるからである。
【0047】
本発明に基づく方法は、選択的に、低圧プラズマ重合または大気圧プラズマ重合を用いて実施することができる。大気圧プラズマ重合が適用される場合には、空気または空気水分のような異ガスの影響が、できる限り完全に除去される。
【0048】
そして、本発明は、本発明に基づく方法によって製造することができる、プラズマポリマー生成物にも関する。この種のプラズマポリマー生成物は、その特性において、一般に、本発明に基づく物品またはこの種の本発明に基づく物品の構成要素として上述したような、プラズマポリマー生成物に相当する。方法パラメータであるガスフロー、ガス組成、漏れ率、プラズマ内へ結合される出力、圧力および電極への間隔を調節することによって、好ましいプラズマポリマー生成物ないし好ましい本発明に基づく物品が、その構造とその特性において所望に調節される。
【0049】
本発明を、以下の説明(特に適用分野と実施例)を用いて、かつ添付の特許請求項によって、詳細に説明する。
【0050】
適用分野:
以下で、本発明に基づく物品(たとえば、本発明に基づくプラズマポリマー生成物)のための好ましい適用分野を、それによって適用可能性の制限を意図することなく、紹介する。当業者は、本発明に基づく物品の特性の知識において、多数の他の適用領域を認識するであろう。
【0051】
適用分野:移動バリア
本発明に基づく物品は、50g/mol以上、好ましくは100g/mol以上のモル質量を有する分子に対するプラズマポリマー移動バリアを有することができ、あるいは移動バリアそのものであることができる。その場合に特に重要なのは、有機分子に対するバリア作用である。移動バリアとしての適用の具体的な例は、たとえばプラスチック物質からの添加剤(たとえば軟化剤)に対するバリアのような、基板から望ましくない物質が流出することを防止するための移動バリアである(この適用は、食品包装にとって特に重要である)。従って本発明に基づく物品は、食品包装であり、あるいはそれを含むことができ、その食品包装の、食品へ向いた側に、それ自体本発明に基づくプラズマポリマー生成物である、プラズマポリマーコーティングが設けられている。食品包装自体は、この種の物品において、基板として用いられる;本発明に基づくプラズマポリマーコーティングによって食品に対して密閉することができる、食品包装材料の例は、たとえば、ソフトPVC、ポリウレタン泡などである。これらの具体的な例において、プラズマポリマーコーティングは、基板から望ましくない物質が食品内へ流出することを阻止するために、用いられる。しかし、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングは、移動バリアとして、もちろん望ましくない物質の基板内への侵入も、同様に良好に阻止する。
【0052】
望ましくない物質の基板内への侵入を阻止する、この種(本発明に基づく、プラズマポリマー)の移動バリアの具体的な例は、プラスチック基板上に配置されて、液体から基板内へ、プラスチック基板の寿命を短縮し、基板の望ましくない汚染をもたらし、ないしは基板を着色する可能性がある、溶剤、毒素または色素が侵入することを阻止する、移動バリアである。
【0053】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づく物品または本発明に基づく物品の構成要素として)の使用は、移動バリアに加えて、1つまたは複数の以下に挙げる技術的要請が存在する場合に、特に効果的である:透明性;たとえば0.5μmより薄い、コーティング厚み;高いUV安定性。
【0054】
そこで移動バリアとして機能するために、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることができる、典型的な基板は、箔、シール材料(たとえば、特に食品領域における、ねじ蓋内のPVCシール)、ゴムシール、包装(食品、薬品、化粧品、医療技術など)、テキスタイル、UV硬化のための露光母型など。移動バリアは、生理学的に問題がなく、極めて良好なエコバランスを有している。
【0055】
適用分野「移動バリア」に関連して、今日、透明なバリアコーティングとして、たとえばSiOxまたはAlOxのような、無機の層が多様に使用されることに、注意しなければならない。これらのコーティングは、種々の真空方法によって、たとえばPVD、CVDまたはプラズマ支援されるCVD(PE−CVD)によって、製造することができる。上述したコーティングによって、適切な基板表面上で20nmのコーティング厚みから良好なバリア特性を達成することができるが、上述したコーティングにおいて、約500nmの厚みからは、亀裂が生じ、それがコーティングを再び透過性にする。これは、従来一般的な構造のプラズマポリマーバリア層についても、当てはまる。さらに、上述したコーティングは、脆く、従って破断に敏感である。従って、既知のコーティング方法に基づく極めて良好なバリアのためには、ほぼ空格子点のない無機のコーティングが必要である。
【0056】
既知の無機のコーティングの他の欠点は、それが比較的柔軟ではないことにある。しかし、多数の適用において、基板の変形がもたらされ、その変形は、上述した従来のコーティングを使用する場合に、亀裂形成とそれに伴ってバリア特性の損失をもたらす。たとえばSiOxベースの、これまで知られている無機の移動バリアとは異なり、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、よりソフトで、より柔軟である。
【0057】
従って、本発明は、適切な移動バリアを表す、改良された薄層コーティングシステムを提供する課題も、解決する。
【0058】
わずかな分子重量を有するガスと蒸気についても、特に良好なバリアコーティングシステム、たとえばいわゆるウルトラバリアを提供するために、本発明に基づくコーティングは、薄層の複合体内の中間層(スペーサ層)として使用することができる。たとえば、それは、PVD、CVDまたはプラズマ支援されるCVD(PE−CVD)によって設けられる(上述した著しく無機のSiOxコーティングないしAlOxコーティングのように)薄層と組み合わせて使用することができる。ここでは、本発明に基づく中間層は、比較的厚い「全層厚」において内部の(機械的)応力に基づく亀裂を形成する傾向を減少させることができる。さらに、この種の層複合体の柔軟性は、本発明に基づく中間層なしのバリア層に比較して、増大される。
【0059】
わずかな分子重量を有するガスと蒸気のためのバリア層ないしウルトラバリア層のさらなる改良は、本発明に基づくコーティングをカバー層として使用することによって行うことができる。そのカバー層は、その著しく疎水性の表面に基づいて、しばしば移動の速度に決定的に影響する、たとえば水のような極性の分子の吸着を減少させる。
【0060】
適用分野:加水分解耐性
加水分解に耐えるコーティングは、種々の分野で必要とされる。
【0061】
たとえば、熱伝導を妨げない、加水分解に耐える、疎水性の薄層コーティングは、熱交換器の領域で必要とされる。熱交換器においては、圧力が増大された場合に、しばしば飽和された水蒸気雰囲気が発生する。それに対して熱交換器表面は、比較的冷たいので、水分が凝縮される。熱交換器表面上に水フィルムが形成されないようにするために、この表面を疎水性にして、それによって、付加的に冷却されることになり、熱伝導を妨げることになる水フィルムの形成が阻止されると、効果的である。その熱交換器表面に本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物の例として)を有し、そのESCAデータが本発明に基づく物品との関連において示されたESCAデータに相当する、熱交換器が、本発明に基づく好ましい物品の例である。
【0062】
加水分解に耐えるコーティングのための他の適用分野は、製紙の領域にある。製紙の領域では、いわゆる粘着物(Stickies)の付着を防止するために、付着防止特性を有する、加水分解に耐えるコーティングが必要である。製紙設備の該当する部分に、そのESCAデータが本発明に基づくプラズマポリマー生成物のための上述したESCAデータに相当する、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることによって、粘着物の付着が完全に、あるいは少なくとも極めて大幅に、防止されることが、明らかにされた。
【0063】
同様に、本発明に基づくコーティングは、それ自体たとえばPVD、CVD、プラズマ支援されるCVD(PE−CVD)、プラズマ重合、電気化学的またはゾル−ゲル−プロセスによって設けられた、他の薄層システム上に、加水分解保護層として設けることができる。特に、SiOxコーティングおよびAlOxコーティングのような無機のコーティングは、その良好な腐食保護特性にもかかわらず、たとえば陽極処理されたアルミニウム基板上で比較的低い加水分解耐性を示すため、本発明に基づくコーティングを設けることが好ましい。
【0064】
適用分野:付着防止特性/除去容易な(Easy−to−clean)特性
【0065】
多数の工具と機械において、付着防止特性および/または除去容易な(Easy−to−clean)特性が望ましい。特に、これに関連して、接着剤(たとえばホットメルト、溶剤または冷間接着膠ありおよびなしの1成分接着剤および2成分接着剤)と接触する、工具と機械(製本機械、接着剤塗布装置、シール設備、印刷装置、装丁機のような)が挙げられる;例として、貯蔵容器、ポンプ、センサ、ミキサー、パイプ導管、塗布ヘッドなどが挙げられる。特にセンサの領域において、センサ全体を覆い、かつセンサ特性を損なわない、付着防止コーティングないし除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの特別な需要がある。ここでは特に、本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(上でプラズマポリマー生成物について記載したESCAデータを有する)の適用が、特に効果的である。というのは、それが、センサ特性を損なうことなしに、センサ全体をコーティングすることを許すからである。さらに、本発明に基づくコーティングの表面エネルギーは、一般に、アセトンのような、幾つかの一般に用いられている溶剤がすでに、表面上でもはや広がらないように、小さい;−コーティングの表面エネルギーは、溶剤の表面エネルギーの下にある。それによって、溶剤を含む接着剤の流出挙動および清掃挙動も改良される。
【0066】
本発明に基づく物品は、恒久的な離型層を有する型部品工具であることができ、その場合に恒久的な離型層自体が、本発明に基づくプラズマポリマー生成物であって、そのESCAデータは、上に記載されている。恒久的な離型層を有する型部品工具およびそれを製造する方法は、EP1301286B1に開示されており、前記文献において、プラズマ重合の間に重合条件を時間的に変化させることによって、離型層内に勾配層構造を形成することが重要であることが確認されている。離型層として本発明に基づくプラズマポリマー生成物を有する、本発明に基づく物品の内部でも、プラズマポリマー生成物は勾配層構造を有することができる;しかし、プラズマポリマー生成物の(表面の)ESCA調査が、上述した結果をもたらすことのみが必要である。さらに、型部品工具上に勾配層構造を有する恒久的な離型層に加えて、ESCA調査において上述した結合エネルギー値を示す、本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(本発明に基づくプラズマポリマー生成物)を設けることが、効果的である可能性がある。本発明に基づくプラズマポリマー生成物(本発明に基づくプラズマポリマーコーティング)は、このような場合において、それ自体分離する特性を有する、恒久的な離型層上で、滑り特性を支援する、フレキシブルなカバー層の機能も有している。簡略化された実施形態は、離型層内の勾配層構造を省く。
【0067】
本発明に基づく生成物が伸張可能であることよって、箔(特に伸張可能な箔)のような、フレキシブルな生成物に、然るべき付着防止表面ないし除去容易な(Easy−to−clean)表面を設けることが、可能である。
【0068】
適用分野:改良された滑り特性
本発明のこのアスペクトは、特に、エラストマー生成物と、エラストマー生成物上に、コーティングまたはコーティングの構成要素として、上述したように定義されたプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する、本発明に基づく物品に関する。
【0069】
多くのエラストマー生成物、たとえば、Oリングまたはシールは、(エラストマー生成物の)基板の弾性的特性が要請された場合に、コーティングが裂けることなしに、コーティングまたはコーティングの構成要素として、本発明に基づくプラズマポリマー生成物を設けることができる。
【0070】
現在使用されている多数のエラストマーは、劣った滑り特性を有するので、該当するエラストマー生成物は、自動的な装着自動機において良好に処理することはできない。エラストマー生成物は、煩わしい表面接着性(Tack)を有している。たとえば、弁の技術的分野においては、わずかな離脱力しか期待されない場合に、この種のTackは、否定的に認められかねない。さらに、この適用領域にとって悪いことに、タックをもたらす物質が、弁座へ転送されて、長い間には弁の非密閉性をもたらしかねない。従って、使用されるエラストマーに、上述したような、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングを設けることが、効果的である。というのは、それによって特に、高い伸張性において、滑り特性と分離特性も与えられるからである。その場合に、エラストマーとプラズマポリマーコーティング(プラズマポリマー生成物)は、一緒になって本発明に基づく物品を形成する。
【0071】
他の特殊な適用分野は、シリコンゴムの滑り特性の改良であって、それが、工業技術的領域においても、たとえば医療技術の領域においても、一連の好ましい物品をもたらす。ここで、該当する、本発明に基づく物品は、シリコンゴム生成物と本発明に基づくプラズマポリマーコーティング(上述したような)を有している。
【0072】
上述した2つの適用分野について、本発明に基づくプラズマポリマーコーティングは、付加的に、これらの生成物から加硫化残留生成物、軟化剤あるいは他の、たとえば50g/molより大きいモル質量を有する混和剤が拡散しないことを、もたらす。従って、食品加工、薬局および医療技術の領域において改良された適性が得られる。
【0073】
適用分野:抗菌コーティング
DE10353756に基づく非細胞毒の、抗菌コーティングは、好ましくはSiOx類似のコーティングを用いて形成される。これまで知られているSiOx類似のコーティングは、約30−60nmの好ましい層厚においては柔軟で、箔上に適用することができるが、この種のコーティングは、たとえば深絞りプロセスによって、あるいは折り曲げ、あるいは変形あるいは射出成形あるいは型内成形またはラミネートの際に生じるような負荷を解決できない。さらに、対応する表面は、所定の付着特性(バクテリア、菌類、身体固有の物質などのための)を定める。SiOx類似のコーティングとして、あるいはSiOxコーティングに加えて、本発明に基づくプラズマポリマー物品を使用することは、両方の視点において、使用可能性を拡張する。特に、本発明に基づく物品の高い柔軟性と伸張性は、深絞り、フランジ形成、刻印などのような、基板を変形させる、さらなる加工技術を可能にする。すなわち、たとえば、特にチューブまたは発泡箔を装備することができる。
さらに、この種の生成物は、然るべきラミネート箔上で、あるいは直接取り付けても、食品包装に適している。特に、複合箔セクタにおける使用も、興味深い。というのは、それによってたとえば、遮断層特性を抗菌特性と組み合わせることができるからである。
【0074】
更なる適用分野:
【0075】
多数の他の(本発明に基づく)物品内に、本発明に基づくプラズマポリマー生成物を、効果的に使用することができる。特に挙げると:サブ−マイクロメートル領域内のシール(プラズマポリマー生成物として);金属の構成部品または半製品のコーティング(プラズマポリマー生成物として)、特にこの種の金属の構成部品または半製品、特にさらなる加工または実用において変形にされる構成部品または半製品の上の腐食防止コーティングおよび/または疎水性コーティング;他のプラズマポリマーコーティングと組み合わせた(多層ないし勾配層内への組込み)コーティング(プラズマポリマー生成物として);プラズマ支援で前処理された基板表面に付着し、その基板と共に本発明に基づく物品を形成する、コーティング(プラズマポリマー生成物として)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
以下、例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0077】
例1:本発明に基づく生成物の製造
【0078】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物Aを製造するために、以下のプロセスパラメータが使用された:
ガスフロー O2: 12Sccm
ガスフロー HMDSO: 50Sccm
出力(W): 450
時間(sec): 2700
圧力(mbar): 0.02
【0079】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物Bを製造するために、以下のプロセスパラメータが使用された:
ガスフロー O2: 12Sccm
ガスフロー HMDSO: 50Sccm
出力(W): 450
時間(sec): 3000
圧力(mbar): 0.02
【0080】
実施する前に、利用される真空チャンバの漏れ率(外漏れ)が、2×10-3mbar L/secよりずっと小さいことを確認した。さらに、質量スペクトルメータを用いて、内漏れが検査された。その場合に、スペクトロメータの高い感度において、質量18(水)のための測定値が著しく低下して、その後一定になった場合に初めて、プロセスが始動されるように注意した。
【0081】
クォーツガラスからなるオブジェクト支持体上にコーティングが形成され、かつプラズマがオフにされた後に、ガス雰囲気が可及的速やかに水素によって置換されて、その後吸引出力が減少されたので、約0.2mbarへの著しい圧力上昇が観察された。場合によっては存在するラジカルを水素によって飽和することを可能にするために、この状態が、一定の水素フローにおいて5分間より多く維持された。
【0082】
添付の図1から6は、次のことを示している:
図1:波長の関数としての屈折率の推移
図2:波長領域190から250nmにおける、コーティングされないクォーツガラスおよびPDMSオイル(ここでは約200nm AK50、Wacker Chemie)でコーティングされたクォーツガラスと比較した、本発明に基づく物品(PP−PDMS)でコーティングされたクォーツガラスの透過推移
図3:本発明に基づく層のFTIRスペクトル
図4:本発明に基づく層のFTIRスペクトル(詳細)
図5:除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル
図6:除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル(詳細)
【実施例2】
【0083】
例2:本発明に基づくプラズマポリマー生成物の製造
【0084】
本発明に基づくプラズマポリマー生成物を製造するための第2の可能性が、以下のプロセスパラメータによって与えられている:
ガスフロー O2: 36Sccm
ガスフロー HMDSO: 170Sccm
出力(W): 1600
時間(sec): 600
圧力(mbar): 0.025
【0085】
ここでも、実施の前に、利用される真空チャンバの漏れ率(外漏れ)が、2×10-3mbar L/secよりずっと小さいことを確認した。さらに、質量スペクトロメータを用いて、内部の漏れ率が検査された。その場合に、スペクトロメータの高い感度において、質量18(水)のための測定値が、著しく低下して、その後一定である場合に初めてプロセスが開始されるように注意した。
【0086】
水素後処理は、行われなかった。
【実施例3】
【0087】
例3:本発明に基づく支持のない箔を製造する方法
【0088】
極めて滑らかなシリコンウェファが、水溶性の物質(砂糖)によってコーティングされた。
【0089】
水内の0.4g/mlの精製糖からなる砂糖溶液が、シリコンウェファ上に塗布された。水の蒸発後に、ウェファの砂糖コーティング上に、例1で説明された方法を用いて、(本発明に基づく)プラズマポリマー層が塗布された。
【0090】
塗布された層が、水槽内で基板から剥がされ、前記水槽は、中間に位置する砂糖層を溶解した。好ましくは、前記層は、ウェファ端縁においてナイフによって分離された。プラズマポリマー層は、支持のない箔(プラズマポリマー生成物からなる、本発明に基づく物品の例として)として、水槽から取り出すことができた。これは、支持のない箔が水の表面上に浮遊していることによって、容易になった。従って、その密度は、1g/cm3よりも小さかった。
【0091】
プラズマポリマー箔は、約500nmの厚みを有していた。
【実施例4】
【0092】
例4:ESCS測定
【0093】
例1に従って製造された、本発明に基づくプラズマポリマー生成物「A」と「B」および基準材料と比較生成物から、ESCAスペクトルが記録されて、評価された。結果が、以下の表1に、信号の結合エネルギー位置と個々のピークの半値幅(FWHM=Full width at half maximum)に関して、記載されている。比較生成物として、DE10131156A1に記載のプラズマポリマー除去容易な(Easy−to−clean)コーティングが選択された。
【0094】
ESCA調査は、Kratos Analytical社のスペクトロメータKRATOS AXIS Ultraを用いて、実施された。分析チャンバには、単色にされたAlKα放射のためのX線源、ニュートラリゼータとしての電子源および四重極質量スペクトロメータが搭載されていた。さらに、設備は、光電子を進入スロットを介して半球分析器内へ合焦する、磁気レンズを有していた。較正によって、C1sピークの脂肪族割合が、285.0eVにセットされた。測定の間、表面法線は、半球分析器の進入スロットを指していた。
【0095】
パスエネルギーは、物質量比を定める場合に、それぞれ160eVであり、該当するスペクトルが、ジェネラルスペクトルと称される。ピークパラメータを定める場合に、パスエネルギーは、それぞれ20eVであった。
【0096】
上述した測定条件は、スペクトロメータタイプにほとんど依存しないことを可能にし、かつ本発明に基づくプラズマポリマー生成物を識別するために、効果的である。
【0097】
基準材料として、Gelest Inc.社(Morrisville, USA)のポリジメチルシロキサン シリコンオイルDMS−T23Eが使用された。このトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−シリコンオイルは、350mm2/s(±10%)の動粘性と、25℃において0.970g/molの濃度および約13650g/molの平均分子重量を有している。選択された材料は、蒸発可能な構成要素の極めてわずかな割合を特徴としている:125℃および10-5Torr真空において24時間後に、0.01%より少ない揮発成分が証明された(ASTM−E595−85およびNASA SP−R0022Aによる)。スピン−コーティングプロセスを用いて、40ないし50nm厚みの層が、シリコンウェファ上に塗布された:ここで溶剤として、ヘキサメチルジシロキサンが使用された。
【0098】
測定されたスペクトルが−ジェネラルスペクトルのためにサンプルとしてそれぞれ1つ−、図7から10(ジェネラルスペクトル)および11から22(詳細スペクトル)として添付されている。 図7:DMS−T23EのXPSジェネラルスペクトル
図8:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのXPSジェネラルスペクトル
図9:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのXPSジェネラルスペクトル
図10:DE10131156A1に基づく除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのXPSジェネラルスペクトル(比較)
図11:DMS−T23EのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図12:DMS−T23EのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図13:DMS−T23EのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図14:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図15:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図16:本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図17:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのO1sピークのXPS詳細スペクトル
図18:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのC1sピークのXPS詳細スペクトル
図19:本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
図20:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのO1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
図21:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのC1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
図22:DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのSi2pピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【0099】
ジェネラルスペクトルのために、試料上の異なる位置において4から6の測定が実施された。表1内には、実施された測定の平均値からの±最大の偏差を有する物質量比について、記載されている
表1:ESCA測定の結果
【0100】
ESCA調査を受けた、本発明に基づくプラズマポリマー生成物は、DE10131156A1に記載の典型的な除去容易な(Easy−to−clean)コーティングと比較して、より低いエネルギーへ約0.37から0.53eVだけシフトされた、Si2pピークの結合エネルギー位置を有している。この観察は、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングに比較して、第2ケイ素原子の割合(すなわち、正確に2つの隣接するO原子を有するケイ素原子の割合)の増大に相当する。
【0101】
多分、第2ケイ素原子の割合の増大は、第3ケイ素原子のより強い優勢が存在する、DE10131156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングと比較して、本発明に基づくコーティングの弾性と柔軟性が高い理由と思われる。
【0102】
本発明に基づくコーティングと除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのESCAスペクトルの比較から、機械的な特性である弾性と柔軟性は、それぞれのプラズマポリマーの構造と直接結合されていることが、明らかにされた。
【0103】
本発明に基づくコーティングは、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングよりも炭素に富んでおり、かつ酸素が少ない。従って、必然的に少ない架橋化生成物しか生じない。組成は、シリコンオイルの組成に近づくが、それに比較しても、古典的なシリコンエラストマーに比較しても、強く架橋化されている(多くの酸素、少ない炭素)。従って、エラストマープラズマポリマー構造(高い水素含有量において)を、前提とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】波長の関数としての屈折率の推移
【図2】波長領域190から250nmにおける、コーティングされないクォーツガラスおよびPDMSオイル(ここでは約200nm AK50、Wacker Chemie)でコーティングされたクォーツガラスと比較した、本発明に基づく物品(PP−PDMS)でコーティングされたクォーツガラスの透過推移
【図3】本発明に基づく層のFTIRスペクトル
【図4】本発明に基づく層のFTIRスペクトル(詳細)
【図5】除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル
【図6】除去容易な(Easy−to−clean)層のFTIR比較スペクトル(詳細)
【図7】DMS−T23EのXPSジェネラルスペクトル
【図8】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのXPSジェネラルスペクトル
【図9】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのXPSジェネラルスペクトル
【図10】DE10131156A1に基づく除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのXPSジェネラルスペクトル(比較)
【図11】DMS−T23EのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図12】DMS−T23EのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図13】DMS−T23EのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図14】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図15】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図16】本発明に基づくプラズマポリマー生成物AのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図17】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのO1sピークのXPS詳細スペクトル
【図18】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのC1sピークのXPS詳細スペクトル
【図19】本発明に基づくプラズマポリマー生成物BのSi2pピークのXPS詳細スペクトル
【図20】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのO1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【図21】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのC1sピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【図22】DE10130156A1に記載の除去容易な(Easy−to−clean)コーティングのSi2pピークのXPS詳細スペクトル(比較)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、ケイ素、酸素および水素と、場合によっては通常の不純物とからなるプラズマポリマー生成物を有し、あるいはそれからなる物品であって、前記プラズマポリマー生成物のESCAスペクトルにおいて、脂肪族部分のC1sピークを285.00eVに較正する場合に、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mLの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.44eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.50eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
上記物品。
【請求項2】
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
請求項1に記載の物品。
【請求項3】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が以下を満たす:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
請求項1または2のいずれか1項に記載の物品。
【請求項4】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が以下を満たす:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
請求項3に記載の物品。
【請求項5】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下を満たす:
1.05 <n(O):n(Si)< 1.23
2.10 <n(C):n(Si)< 2.23
1.70 <n(C):n(O) < 2.00
2.60 <n(H):n(C) < 3.00
請求項4に記載の物品。
【請求項6】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有する:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
請求項1から5のいずれか1項に記載の物品。
【請求項7】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有する:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
請求項1から6のいずれか1項に記載の物品。
【請求項8】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有し:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下の式を満たし:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、プラズマポリマー生成物のESCAスペクトルにおいて、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mLの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.44eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.50eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の物品。
【請求項9】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有し:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下の式を満たし:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、Si2pピークが、より高い、またはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有している、請求項1から8のいずれか1項に記載の物品。
【請求項10】
(i)物品が、プラズマポリマー生成物からなり、かつコーティングまたはコーティングの一部または箔であり、あるいは(ii)、基板と、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物の形式のコーティングとを有する複合体であって、(i)前記箔が、好ましくは20から2000nmの領域の厚みを有し、かつ(ii)前記コーティングが、好ましくは1から2000nmの領域の厚みを有している、請求項1から9のいずれか1項に記載の物品。
【請求項11】
物品が、基板と、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物からなる、1から2000nmの領域内の厚みを備えたコーティングとを有する複合体であって、前記コーティングが、100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子を通過させない、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
物品が、基板とその上に配置された、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物からなる、1から2000nmの領域内の厚みを備えたコーティングとを有する複合体であって、前記基板がエラストマーである、請求項1から11のいずれか1項に記載の物品。
【請求項13】
基板自体が、
−プラズマポリマー生成物、特にベース基板上のプラズマポリマー層であって、
−前記層が、PVD、CVD、プラズマ支援されたCVD(PE−CVD)、電気化学的またはゾル−ゲル−技術を用いてベース基板上に塗布された層である、
請求項10から12のいずれか1項に記載の物品。
【請求項14】
物品が、以下のものからなる群から選択される、請求項1から13のいずれか1項に記載の物品:
−移動バリアまたは移動バリアの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動バリアを備えた物品、
−シールまたはシール構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、シールを備えた物品、
−コーティング材料として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングを備えた光学素子、
−腐食に敏感な基板と、腐食防止コーティングまたは腐食防止コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、前記基板上に配置された腐食防止コーティングとを有する物品、
−特に接着剤加工の領域に適用するための、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板(特にまた(技術的)テキスタイル)を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、または(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部または疎水仕上げとして請求項1から13のいずれか1項に定義されているような、プラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げを備えた基板(特にまたメンブレン)を有する物品、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒性抗菌コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、抗菌コーティングを備えた基板を有する物品、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒の抗菌コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、抗菌コーティングを備えた包装を形成するための基板を有する物品、
−分離層または分離層の一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、プラズマポリマー分離層を備えた基板を有する物品、
−エラストマー生成物と、エラストマー生成物上の、コーティングまたはコーティングの構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフィックシステムとその上に配置されている、保護箔または保護箔の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、残渣なしで除去可能、好ましくは残渣なしで引き剥がし可能な保護箔とを有する物品、
−基板、特に熱交換器または熱交換器の部分と、その上に配置されている、著しく疎水性の、加水分解安定の表面特性を備えた、熱伝導性をほとんど変化させない、請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有するコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフィックシステムの光学コンポーネントと、その上に配置されている、加水分解に耐える、著しく疎水性でかつほぼUV透過性の保護層として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングとを有する物品、
−欠陥を有する好ましくはプラズマポリマーコーティングと、欠陥を補修するための、補修箔または補修箔の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、補修箔とを有する物品、
−好ましくはバリア特性を有する、少なくとも2つの、より固い層または基板と、より固い層または基板の間の、スペーサ層またはスペーサ層の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、少なくとも1つのソフトなスペーサ層とを有する物品、
−カバー層またはカバー層の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、疎水性のカバー層を備えた、ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリア層または基板を有する物品、
−好ましくは電気的な構成部材と、絶縁する箔または絶縁するコーティングあるいはこの種の箔またはコーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、電気的に絶縁する箔または絶縁するコーティングを有する物品、
−請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学用品を有する物品、
−コーティングとして請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学用シリコン物品。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物の、以下のものとしての使用:
−100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動バリア、
−ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板上のカバー層、
−特に最大1000nmの厚みを有するシールのための、シール材料、
−フレキシブルな包装材料のフレキシブルなコーティング、
−光学素子をコーティングするためのコーティング、
−加水分解に耐えるコーティング、
−疎水コーティング、
−腐食防止コーティング、
−除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、
−エラストマー生成物上の、滑り特性を増大させるコーティング、
−特にリソグラフィックシステムの光学素子のため、さらに好ましくは浸漬リソグラフィックシステムの光学素子のための、保護箔、UV透過箔および/または加水分解に安定な箔、
−分離箔または分離箔の一部、
−特に除去容易な(Easy−to−clean)または分離層適用のための、補修箔、
−反付着性と付着性の表面特性を有する箔またはコーティング、
−特に、局所的な親水領域ないし疎水領域を形成するために、親水性の基板をコーティングするための、孔パターンおよび/または細片パターンを有する箔、
−互いに分離すべき、より固い層の間のソフトなスペーサ層、特にバリア層、
−特に極性分子の吸着を阻止するため、あるいは水素、炭素または酸素のようなガスと蒸気に対するバリアコーティングないしウルトラバリアコーティングのバリア特性を改良するための、著しく疎水性のカバー層、
−ダイアモンド状のコーティング、特に薄い、化学的に結合されたコーティング上の分離層ないし著しく疎水性の層、
−特に電気的な構成部材内の、絶縁箔または絶縁コーティング。
【請求項1】
炭素、ケイ素、酸素および水素と、場合によっては通常の不純物とからなるプラズマポリマー生成物を有し、あるいはそれからなる物品であって、前記プラズマポリマー生成物のESCAスペクトルにおいて、脂肪族部分のC1sピークを285.00eVに較正する場合に、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mLの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.44eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.50eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
上記物品。
【請求項2】
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
請求項1に記載の物品。
【請求項3】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が以下を満たす:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
請求項1または2のいずれか1項に記載の物品。
【請求項4】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が以下を満たす:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
請求項3に記載の物品。
【請求項5】
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下を満たす:
1.05 <n(O):n(Si)< 1.23
2.10 <n(C):n(Si)< 2.23
1.70 <n(C):n(O) < 2.00
2.60 <n(H):n(C) < 3.00
請求項4に記載の物品。
【請求項6】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有する:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
請求項1から5のいずれか1項に記載の物品。
【請求項7】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有する:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
請求項1から6のいずれか1項に記載の物品。
【請求項8】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有し:
ケイ素 22から28原子%
酸素 22から30原子%
炭素 42から55原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下の式を満たし:
0.75 <n(O):n(Si)< 1.25
1.50 <n(C):n(Si)< 2.50
1.50 <n(C):n(O) < 2.50
2.25 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、プラズマポリマー生成物のESCAスペクトルにおいて、25℃において350mm2/sの動粘性と25℃において0.97g/mLの濃度を有するトリメチルシロキシ−ターミネーテッド−ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較して、
Si2pピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.44eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.50eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の物品。
【請求項9】
プラズマポリマー生成物が、元素であるケイ素、酸素および炭素の合計の100原子%に対して、以下を有し:
ケイ素 22から26原子%
酸素 24から29原子%
炭素 47から51原子%
プラズマポリマー生成物内の物質量比が、以下の式を満たし:
1.00 <n(O):n(Si)< 1.25
2.00 <n(C):n(Si)< 2.50
1.60 <n(C):n(O) < 2.30
2.40 <n(H):n(C) < 3.00
かつ、Si2pピークが、より高い、またはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有し、かつ
O1sピークが、より高い、あるいはより低い結合エネルギーへ最大で0.40eVだけシフトされた、結合エネルギー値を有している、請求項1から8のいずれか1項に記載の物品。
【請求項10】
(i)物品が、プラズマポリマー生成物からなり、かつコーティングまたはコーティングの一部または箔であり、あるいは(ii)、基板と、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物の形式のコーティングとを有する複合体であって、(i)前記箔が、好ましくは20から2000nmの領域の厚みを有し、かつ(ii)前記コーティングが、好ましくは1から2000nmの領域の厚みを有している、請求項1から9のいずれか1項に記載の物品。
【請求項11】
物品が、基板と、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物からなる、1から2000nmの領域内の厚みを備えたコーティングとを有する複合体であって、前記コーティングが、100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子を通過させない、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
物品が、基板とその上に配置された、基板から破壊なしで剥離可能な、または破壊なしで剥離できないプラズマポリマー生成物からなる、1から2000nmの領域内の厚みを備えたコーティングとを有する複合体であって、前記基板がエラストマーである、請求項1から11のいずれか1項に記載の物品。
【請求項13】
基板自体が、
−プラズマポリマー生成物、特にベース基板上のプラズマポリマー層であって、
−前記層が、PVD、CVD、プラズマ支援されたCVD(PE−CVD)、電気化学的またはゾル−ゲル−技術を用いてベース基板上に塗布された層である、
請求項10から12のいずれか1項に記載の物品。
【請求項14】
物品が、以下のものからなる群から選択される、請求項1から13のいずれか1項に記載の物品:
−移動バリアまたは移動バリアの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動バリアを備えた物品、
−シールまたはシール構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、シールを備えた物品、
−コーティング材料として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングを備えた光学素子、
−腐食に敏感な基板と、腐食防止コーティングまたは腐食防止コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、前記基板上に配置された腐食防止コーティングとを有する物品、
−特に接着剤加工の領域に適用するための、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングまたは(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングを備えた基板(特にまた(技術的)テキスタイル)を有する物品、
−(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、または(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングの一部または疎水仕上げとして請求項1から13のいずれか1項に定義されているような、プラズマポリマー生成物を有する、(加水分解に耐える)除去容易な(Easy−to−clean)コーティングないし疎水仕上げを備えた基板(特にまたメンブレン)を有する物品、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒性抗菌コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、抗菌コーティングを備えた基板を有する物品、
−抗菌コーティング、特に非細胞毒の抗菌コーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、抗菌コーティングを備えた包装を形成するための基板を有する物品、
−分離層または分離層の一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、プラズマポリマー分離層を備えた基板を有する物品、
−エラストマー生成物と、エラストマー生成物上の、コーティングまたはコーティングの構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、滑り特性を増大させるコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフィックシステムとその上に配置されている、保護箔または保護箔の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、残渣なしで除去可能、好ましくは残渣なしで引き剥がし可能な保護箔とを有する物品、
−基板、特に熱交換器または熱交換器の部分と、その上に配置されている、著しく疎水性の、加水分解安定の表面特性を備えた、熱伝導性をほとんど変化させない、請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有するコーティングとを有する物品、
−基板、特にリソグラフィックシステムの光学コンポーネントと、その上に配置されている、加水分解に耐える、著しく疎水性でかつほぼUV透過性の保護層として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、コーティングとを有する物品、
−欠陥を有する好ましくはプラズマポリマーコーティングと、欠陥を補修するための、補修箔または補修箔の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、補修箔とを有する物品、
−好ましくはバリア特性を有する、少なくとも2つの、より固い層または基板と、より固い層または基板の間の、スペーサ層またはスペーサ層の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、少なくとも1つのソフトなスペーサ層とを有する物品、
−カバー層またはカバー層の構成要素として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、疎水性のカバー層を備えた、ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリア層または基板を有する物品、
−好ましくは電気的な構成部材と、絶縁する箔または絶縁するコーティングあるいはこの種の箔またはコーティングの一部として請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、電気的に絶縁する箔または絶縁するコーティングを有する物品、
−請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学用品を有する物品、
−コーティングとして請求項1から13のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物を有する、好ましくは移植可能な医用工学用シリコン物品。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に定義されるプラズマポリマー生成物の、以下のものとしての使用:
−100g/mol以上、好ましくは50g/mol以上のモル質量を有する分子に対する移動バリア、
−ガスと蒸気、特に水蒸気、二酸化炭素または酸素の移動を減少させるためのバリアコーティングまたは基板上のカバー層、
−特に最大1000nmの厚みを有するシールのための、シール材料、
−フレキシブルな包装材料のフレキシブルなコーティング、
−光学素子をコーティングするためのコーティング、
−加水分解に耐えるコーティング、
−疎水コーティング、
−腐食防止コーティング、
−除去容易な(Easy−to−clean)コーティング、
−エラストマー生成物上の、滑り特性を増大させるコーティング、
−特にリソグラフィックシステムの光学素子のため、さらに好ましくは浸漬リソグラフィックシステムの光学素子のための、保護箔、UV透過箔および/または加水分解に安定な箔、
−分離箔または分離箔の一部、
−特に除去容易な(Easy−to−clean)または分離層適用のための、補修箔、
−反付着性と付着性の表面特性を有する箔またはコーティング、
−特に、局所的な親水領域ないし疎水領域を形成するために、親水性の基板をコーティングするための、孔パターンおよび/または細片パターンを有する箔、
−互いに分離すべき、より固い層の間のソフトなスペーサ層、特にバリア層、
−特に極性分子の吸着を阻止するため、あるいは水素、炭素または酸素のようなガスと蒸気に対するバリアコーティングないしウルトラバリアコーティングのバリア特性を改良するための、著しく疎水性のカバー層、
−ダイアモンド状のコーティング、特に薄い、化学的に結合されたコーティング上の分離層ないし著しく疎水性の層、
−特に電気的な構成部材内の、絶縁箔または絶縁コーティング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【公表番号】特表2009−534494(P2009−534494A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505899(P2009−505899)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053859
【国際公開番号】WO2007/118905
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505201168)フラウンホファー ゲゼルシャフト ツール フェルドルンク デル アンゲヴァントテン フォルシュンク エー ファウ (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053859
【国際公開番号】WO2007/118905
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505201168)フラウンホファー ゲゼルシャフト ツール フェルドルンク デル アンゲヴァントテン フォルシュンク エー ファウ (10)
【Fターム(参考)】
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