説明

フレキシブルフィルムとそれを有する金属箔及びそれを用いたプリント配線基板

【課題】 低応力かつ高接着力であるだけでなく、耐熱性、耐湿性等の耐環境性にも優れ、車載用途等に用いられる高密度基板の材料として好適に用いられる樹脂付金属箔を提供する。
【解決手段】 金属箔の少なくとも一方の面に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を備えた構造を有する樹脂付金属箔であって、
該樹脂組成物は、下記平均組成式(1):
XaYbZcSiOd (1)
(式中、Xは、同一若しくは異なって、イミド結合を含む有機骨格を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表し、Zは、同一若しくは異なって、イミド結合を含まない有機基を表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。a、b及びcは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表されるシラン化合物を含むことを特徴とする樹脂付金属箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂付金属箔に関する。より詳しくは、携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー等の小型電子機器に用いられる高密度配線基板におけるビルドアップ配線層等の材料として好適に用いられる樹脂付金属箔に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂付金属箔は、プリント配線基板のビルドアップ配線層の材料として用いられるものであり、高密度配線基板を形成する重要な材料である。近年は、携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー等の小型で高機能の電子機器が数多く生産されており、その性能も年々向上している。このような小型かつ高性能な電子機器を可能とするため、プリント配線基板にも高密度化が求められており、これに伴い、高密度配線基板の材料として用いられる樹脂付金属箔の需要も年々高まっている。
このような樹脂付金属箔としては、一般にエポキシ樹脂に可撓性を付与するためのポリマー成分を混合したものからなる樹脂層を金属箔上に形成したものが用いられており、例えば、銅箔の片面に樹脂層を備え、樹脂層を構成する樹脂組成がエポキシ樹脂と分子中に架橋可能な官能基を有する高分子ポリマーおよびその架橋剤と、更に、特定の構造を有する芳香族ポリマーとを特定の割合で配合したものである樹脂銅箔が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4240448号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、このような高密度配線基板が用いられるのは、携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー等の小型電子機器のように、製品寿命が比較的短い製品であったため、樹脂付金属箔には長期間の使用に耐える耐環境性があまり重要視されてこなかったのが現状である。しかしながら、近年のカーエレクトロニクス需要の高まりを受け、自動車においても情報処理量の大きなICチップが多数用いられるようになってきており、車載用途の分野においても高密度配線基板のニーズが高まっている。車載用途の分野においては、これまでの小型電子機器と異なって製品寿命が長く、また、長時間にわたって高温や多湿の環境にさらされることも予想されることから、従来の用途よりも苛酷な環境下でも長期間にわたって高い信頼性が保証されることが必要となる。このため、このような要求に応える樹脂付金属箔の開発が求められている。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低応力かつ高接着力であるだけでなく、耐熱性、耐湿性等の耐環境性にも優れ、車載用途等に用いられる高密度基板の材料として好適に用いられる樹脂付金属箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、耐環境性に優れ、車載用途等の苛酷な環境下で用いられる用途に求められる性能を発揮する樹脂付金属箔について種々検討したところ、樹脂としてエポキシ樹脂に特定の構造のシラン化合物を含ませたものを用い、この樹脂からなる層を金属箔上に形成した樹脂付金属箔とすると、樹脂付金属箔が、応力の発生が少なく、かつ、高い接着力を発揮するものとなるだけでなく耐熱性、耐圧性、耐湿性にも優れ、高温、高圧や多湿の環境下におかれた場合でも樹脂層の変形による応力の発生や接着力の低下が充分に抑制されたものとなることを見出した。このようにして得られた樹脂付金属箔は、低応力、高接着力という樹脂付金属箔に要求される基本性能に優れるだけでなく、耐環境性が高く、苛酷な環境下で用いられる場合においても、このような基本性能を充分に発揮するものであることから、車載用途等に用いられる高密度基板の材料としても好適に用いられることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、金属箔の少なくとも一方の面に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を備えた構造を有する樹脂付金属箔であって、上記樹脂組成物は、下記平均組成式(1):
XaYbZcSiOd (1)
(式中、Xは、同一若しくは異なって、イミド結合を含む有機骨格を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表し、Zは、同一若しくは異なって、イミド結合を含まない有機基を表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。a、b及びcは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表されるシラン化合物を含むことを特徴とする樹脂付金属箔である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の樹脂付金属箔は、金属箔の少なくとも一方の面に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を備えた構造を有するものであるが、金属箔の一方の面のみに樹脂層を備えていてもよく、両方の面に備えていてもよい。また、両方の面に備える場合、それぞれの樹脂層を形成する樹脂組成物は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0009】
上記樹脂組成物が含むエポキシ樹脂としては、以下のような化合物等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール・クレゾール・キシレノール・ナフトール・レゾルシン・カテコール・ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒド・アセトアルテヒド・プロピオンアルデヒド・ベンズアルデヒド・ヒドロキシベンズアルデヒド・サリチルアルデヒド・ジシクロペンタジエン・テルペン・クマリン・パラキシリレングリコールジメチルエーテル・ジクロロパラキシリレン・ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び、更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・テトラエチレングリコール・PEG600・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・テトラプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・PPG・グリセロール・ジグリセロール・テトラグリセロール・ポリグリセロール・トリメチロールプロパン及びその多量体・ペンタエリスリトール及びその多量体・グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3′,4′−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸・ヘキサヒドロフタル酸・安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂。
これらの中でも、ビフェノール、ナフトール骨格を含有するエポキシ樹脂、キシリレン骨格あるいはビフェニレン骨格により架橋されたノボラック型エポキシ樹脂が、架橋密度が少ないながらも骨格に起因する長期耐熱寿命と可撓性とを兼ね備える点で好ましい。より好ましくは、ビフェノール、ナフトール骨格を含有するエポキシ樹脂、キシリレン骨格あるいはビフェニレン骨格により架橋されたノボラック型エポキシ樹脂であってエポキシ当量が220g/mol以上400g/mol以下であるものである。
【0010】
上記樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び平均組成式(1)で表されるシラン化合物を含むものであるが、樹脂組成物100質量%中、エポキシ樹脂の割合が2〜50質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂の割合が2質量%より少ないと、金属箔上に形成した樹脂層が充分な接着力を発揮しないおそれがある。より好ましくは、5〜25質量%である。
【0011】
本発明における樹脂組成物は、下記平均組成式(1):
XaYbZcSiOd (1)
(式中、Xは、同一若しくは異なって、イミド結合を含む有機骨格を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表し、Zは、同一若しくは異なって、イミド結合を含まない有機基を表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。a、b及びcは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表されるシラン化合物を含むものである。
このようなシラン化合物を含むことで、樹脂組成物の耐熱性、耐圧性、耐湿性や機械的・化学的安定性が向上し、このような樹脂組成物を用いた樹脂付金属箔を高温、高圧等の環境下においても、変形や接着力の低下が抑制された耐環境性に優れたものとすることができる。
また、シラン化合物は、構造中にシロキサン結合(シロキサン骨格)を有するものを含むことが好ましい。シラン化合物がシロキサン結合を有するものを含むと、シラン化合物がこれらの各種特性により優れたものとなるため、樹脂付金属箔をより耐環境性に優れたものとすることができる。
【0012】
上記シロキサン結合を有する化合物の中でも、T型シロキサン構造体やQ型シロキサン構造体が好ましい。T型シロキサン構造体とは、R−SiO(RはSiとの間にOを含まない有機基)原子団にSiが結合した構造を有する構造体であり、Q型シロキサン構造体とは、SiO原子団にSiが結合した構造を有する構造体である。T型シロキサン構造体の構造中においてRで表される有機基は、樹脂組成物中でシラン化合物の分散性を高める作用を発揮し、これにより、樹脂組成物の応力緩和効果、高い接着力、耐熱性、耐湿性、耐圧性などを飛躍的に向上させる。
【0013】
上記Q型シロキサン構造体においては、SiO原子団にSiが4つ又は3つ結合した構造を有するものが好ましい。SiO原子団にSiが4つ結合した構造のQ型シロキサン構造体は、主に、4官能の加水分解性シラン化合物が加水分解縮合を起こすことにより得られる。4官能の加水分解性シラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;テトラアセチルオキシシラン、テトラプロピオニルオキシシラン等のテトラアシルオキシシラン類;およびこれらの加水分解部分縮合による多量体が挙げられる。これらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。
【0014】
上記T型シロキサン構造体においては、R−SiO(RはSiとの間にOを含まない有機基)原子団にSiが3つ又は2つ結合した構造を有する構造体が好ましい。
T型シロキサン構造体における有機基Rとしては、メチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等のアルキル基;3−フルオロプロピル基、等のフッ化アルキル基;2−メルカプトプロピル基等のメルカプト基含有アルキル基;2−アミノエチル基、2−ジメチルアミノメチル基、3−アミノプロピル基、3−ジメチルアミノプロピル基等のアミノ基含有アルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等のエポキシ基含有有機基;ビニル基、3−(メタ)アクリルオキシプロピル基等の不飽和基含有有機基等が挙げられる。これらの中でも、アミノ基含有アルキル基、アリール基、アラルキル基、エポキシ基含有有機基が好ましい。また、これらの構造の他、有機基Rとしては、後述する式(3)〜(7)で表される構造も好ましい。
【0015】
上記R−SiO(RはSiとの間にOを含まない有機基)原子団にSiが3つ又は2つ結合した構造を有するT型シロキサン構造体は、有機基Rを有する3官能性及び/又は2官能性の加水分解性シラン化合物を、上記4官能の加水分解性シラン化合物と加水分解し、重縮合させることにより得ることができる。加水分解・重縮合は、後述する製造方法(III)における工程(II−1)と同様の条件により行うことができる。
有機基Rを有する加水分解性シラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;メチルトリアセチルオキシシラン、エチルトリアセチルオキシシラン等のトリアシルオキシシラン類;ジメチルジアセチルオキシシラン、ジエチルジアセチルオキシシラン等のジアシルオキシシラン類が挙げられ、これらのう1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン等の芳香環を備えるアルコキシシラン化合物は、多価フェノールとの親和性が高く、シラン化合物を樹脂組成物中で微分散させるのに効果的であり、好ましい。また、3−アミノプロピルトリメトキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等、多価フェノール中のヒドロキシル基との反応性を有する官能基を持つアルコキシシラン化合物も好ましい。また、これらの他、有機基Rとして、後述する式(3)〜(7)で表される構造を有する加水分解性シラン化合物も好ましい。
【0016】
本発明におけるシラン化合物は、T型シロキサン構造体、Q型シロキサン構造体の少なくとも1つを含み、T型構造体とQ型構造体とのモル比率が100/0〜30/70であることが好ましい。シラン化合物がT型構造体とQ型構造体とをこのようなモル比率で含むと、樹脂組成物が耐熱性、耐圧性、耐湿性や機械的・化学的安定性により優れたものとなる。
このように、シラン化合物が、T型シロキサン構造体、Q型シロキサン構造体の少なくとも1つを含み、T型構造体とQ型構造体とのモル比率が100/0〜30/70であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
T型構造体とQ型構造体とのモル比率は、より好ましくは、100/0〜35/65であり、更に好ましくは、100/0〜40/60である。
【0017】
本発明におけるシラン化合物がT型構造体のみで構成される場合、その化合物をシルセスキオキサンと呼び、シルセスキオキサンを含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。シラン化合物がシルセスキオキサンを含むものであると、樹脂組成物が耐熱性、耐圧性、耐湿性や機械的・化学的安定性により優れたものとなる。
【0018】
上記平均組成式(1)において、aは0でない3以下の数であることが好ましい。すなわち、本発明における樹脂組成物が含むシラン化合物は、イミド結合を含む有機骨格を有するものであることが好ましい。シラン化合物がイミド結合を含む有機骨格を有するものであると、シラン化合物が耐熱性、耐圧性や機械的・化学的安定性により優れたものとなり、優れた耐環境性が要求される樹脂付金属箔に用いられるシラン化合物としてより適したものとなる。
シラン化合物において、「イミド結合を有する有機骨格」とは、イミド結合を必須とするものであれば特に限定されないが、(1)イミド構造と炭素数1〜6のアルキレン基とを含む構造、(2)イミド構造と2級アミノ基とを含む構造、(3)イミド構造と3級アミノ基とを含む構造等が好ましい。中でも(1)イミド構造と炭素数1〜6のアルキレン基とを含む構造が熱的安定性が高いシラン化合物になる点でより好ましい。
【0019】
上記シラン化合物がイミド結合を含む有機骨格を有するものである場合、シラン化合物において、上記イミド結合を有する有機骨格が占める割合としては、シラン化合物に含まれるケイ素原子100モルに対して、100〜20モルであることが好ましい。より好ましくは、100〜30モルであり、更に好ましくは、100〜50モルである。これによれば、耐熱性、耐加水分解性等を向上させながら有機樹脂への応力緩和機能を付与することが可能となるとともに、有機樹脂への溶解性を向上させたシラン化合物とすることができる。
【0020】
本発明におけるシラン化合物は、構造中にシロキサン結合を有し、更にイミド結合を含む有機骨格を有するものであることがより好ましい。このような構造を有するシラン化合物は、耐熱性、耐圧性や機械的・化学的安定性等の特性に更に優れたものとなり、このようなシラン化合物とエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物を用いることで、得られる樹脂付金属箔が高温、高圧、多湿等の苛酷な環境下でも、変形や接着力の低下が充分に抑制されたものとなり、耐環境性に更に優れたものとなる。
以下においては、構造中にシロキサン結合を有し、更にイミド結合を含む有機骨格を有するシラン化合物をシラン化合物(i)と記載する。
【0021】
上記シラン化合物(i)は、シロキサン骨格(主鎖骨格とも言う。)を有するものである。このようなシロキサン骨格としては、シロキサン結合を必須とするものであればよく、該シロキサン骨格の構造としては、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、ラダー状、かご状、キュービック状等の構造のポリシルセスキオキサンであることが好適である。上記シラン化合物(i)において、シロキサン骨格の占める割合としては、シラン化合物(i)100質量%中、80〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、70〜15質量%であり、更に好ましくは、50〜20質量%である。
【0022】
上記シラン化合物(i)において、ケイ素原子に対するイミド結合を有する有機骨格の割合を多くすることによって、該シラン化合物(i)の有機樹脂への溶解性を向上させることができる。有機樹脂への溶解性の観点からは、上記平均組成式(1)におけるXの係数aが、0.2≦aを満たすことが好ましい。イミド結合を有する有機骨格であるXの係数aが、0.2未満である場合、有機樹脂への溶解性が低くなり、上記シラン化合物(i)を有機樹脂に溶解させた樹脂組成物を形成した場合、シラン化合物(i)の特性を充分に発揮することができなくなるおそれがある。Xの係数aとして、より好ましくは、0.3≦aであり、更に好ましくは、0.4≦aであり、特に好ましくは、0.5≦aである。
上記シラン化合物(i)の耐熱性の観点からは、a≦1.0であることが好ましい。1.0<aである場合、Xとは異なる他の官能基がSiと結合することとなり、耐熱性が劣化するおそれがある。上述したことから、より優れた耐熱性を得るとともに、有機樹脂への溶解性を向上させ、かつ耐加水分解性に優れる観点から、Xの係数aとしては、0.2≦a≦1.0を満たすことが好ましい。より好ましくは、0.3≦a≦1.0であり、更に好ましくは、0.4≦a≦1.0であり、特に好ましくは、0.5≦a≦1.0である。また、上記平均組成式において、a+b+cが0.5以上であることが好ましく、より好ましくは、0.7以上であり、更に好ましくは、0.7以上1.0以下であり、特に好ましくは、1である。また、酸素の係数であるdは1.5以上であり1.9以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5以上1.8であり、更に好ましくは、1.5以上1.75以下であることが特に好適である。
【0023】
上記シラン化合物(i)は、下記計算式(α)で求められるシラノール基量が、0.1以下であることが好ましい。
[Si−OH結合モル数]/[Si−O結合モル数] (α)
これによれば、上記シラン化合物(i)を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が耐吸湿性に極めて優れたものとすることができる。上記計算式(α)で求められるシラノール基量として、より好ましくは、0.05以下であり、更に好ましくは、0.01以下である。特に好ましくは、上記シラン化合物(i)が、残存シラノール基を有さないものである。残存シラノール量は、被検体をテトラメチルジシラザン等のシリル化剤をもちいてシリル化した後にH−NMR又は13C−NMRで積分値を求めて算出する、あるいは無水酢酸などのアセチル化剤をもちいてアセチル化した後にH−NMRまたは13C−NMRで積分値を求めて算出することにより算出できる。ここで、[Si−OH結合モル数]とは、SiとOHとの結合数をモル数で表すものである。例えば、1モルのSi原子のそれぞれに2つのOH基が結合している場合には、[Si−OH結合モル数]は2モルとなる。Si−O結合モル数についても同様に数えるものとする。
【0024】
上記平均組成式(1)において、Yとしては、水酸基、OR基であることが好ましい。より好ましくは、OR基であり、更に好ましくは、Rが炭素数1〜8のアルキル基であるOR基である。また、Zとしては、アルキル基、アリール基、アラルキル基などの芳香族残基、不飽和脂肪族残基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらは置換基があってもよい。より好ましくは、置換基があってもよい、炭素数1〜8のアルキル基、又は、アリール基、アラルキル基などの芳香族残基である。
【0025】
上記シラン化合物(i)は、例えば、
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、X、Y及びZは、同一若しくは異なって、上述と同様である。m及びmは、同一若しくは異なって、ケイ素原子1つ当たりに結合した酸素原子の数を示し、0〜2未満の数である。n及びnは、重合度を示し、nは、0でない正の整数であり、nは、0又は正の整数である。)で示される。なお、Y/Z−は、Y又はZが結合していることを表し、X1〜2−は、Xが1又は2個結合していることを表し、(Z/Y)1〜2−は、Z又はYが1個結合するか、Z又はYが2個結合するか、Z及びYが1個ずつ、合計2個結合することを表す。Si−(X/Y/Z)は、X、Y及びZから選ばれる任意の3種がケイ素原子に結合していることを示す。上記式において、Si−OmとSi−Omは、Si−OmとSi−Omの結合順序を規定するものではなく、例えば、Si−OmとSi−Omが交互又はランダムに共縮合している形態、Si−OmからなるポリシロキサンとSi−Omのポリシロキサンが結合している形態等が好適であり、縮合構造は任意である。
【0028】
上記シラン化合物(i)としては、上記平均組成式(1)で表すことができるが、該シラン化合物のシロキサン骨格(シロキサン結合を必須とする主鎖骨格)は、(SiOと表すこともできる。(SiO以外の構造は、イミド結合を有する有機骨格(イミド結合を必須とする構造)X、水素原子、水酸基等のY、イミド結合を含まない有機基Zであり、これらは主鎖骨格のケイ素原子に結合することとなる。X、Y及びZは、「鎖」の形態となった繰り返し単位に含まれてもよく、含まれていなくてもよい。例えば、Xは、側鎖として1分子に1つ以上含まれていればよい。上記(SiOにおいて、nは、重合度を表すが、該重合度は、主鎖骨格の重合度を表し、イミド結合を有する有機骨格は、必ずしもn個存在していなくてもよい。言い換えれば、(SiOの1つの単位に必ず1つのイミド結合を有する有機骨格が存在していなくてもよい。また、イミド結合を有する有機骨格は、1分子中に1つ以上含まれていればよいが、複数含まれる場合、上述したように、1つのケイ素原子に2以上のイミド結合を有する有機骨格が結合していてもよい。
【0029】
上記主鎖骨格(SiOにおいて、mは、ケイ素原子1つ当たりに結合した酸素原子の数を表すが、1.0以上2.0未満の数であることが好ましい。より好ましくは、m=1.5〜1.9である。特に好ましくは、m=1.5〜1.8である。また、上記主鎖骨格(SiOm1n1及び(SiOm2n2において、(n+1)/(n+n+1)の範囲が、上記平均組成式:XaYbZcSiOdにおけるaの好ましい範囲に同様であることが好ましい。更に、上記式中の(X/Y/Z)に結合しているSi原子、及び、(SiOm1)中のSi原子に結合するXの個数は1個であることが好ましい。
【0030】
上記nは、重合度を表し、1〜5000であることが好ましい。より好ましくは、1〜2000であり、更に好ましくは、1〜1000であり、特に好ましくは、n=1〜200である。
【0031】
上記nが2である場合のシラン化合物としては、ケイ素原子にイミド結合を有する有機骨格が少なくとも1個結合してなる構成単位(構成単位(I))が2つ含まれる形態と、該構成単位(I)が1つしか含まれない形態が挙げられる。具体的には、
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、AはY又はZであり、X、Y及びZは、上述と同様である。)等が好適であり、同一の構成単位(I)2つを含むホモポリマーの形態と、異なる構成単位(I)2つを含むホモポリマーの形態と、構成単位(I)を1つしか含まないコポリマーの形態(共縮合構造の形態)がある。
【0034】
上記シラン化合物(i)において、平均組成式(1)におけるXで表されるイミド結合を含む有機骨格としては、下記式(2):
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Rは、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表される構造であることが好ましい。以下においては、このような構造のシラン化合物をシラン化合物(2)とも表記する。
【0037】
上記平均組成式(1)におけるXで表されるイミド結合を含む有機骨格が上記式(2)で表される構造である場合、これらの中でも、下記式(3)〜(7)で表される構造のいずれかであることが好ましい。以下においては、このような構造のシラン化合物をそれぞれシラン化合物(3)〜(7)とも表記する。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、R〜Rは、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)
上記R〜Rとしては、全てが水素原子である形態が好ましい。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、R〜R及びR6´〜R9´は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)
上記R〜R及びR6´〜R9´としては、R若しくはRがメチル基で残りの全てが水素原子である形態、又は、R〜R及びR6´〜R9´全てが水素原子である形態、又は、R〜R及びR6´〜R9´全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、R又はRがメチル基で残りの全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0042】
【化6】

【0043】
(式中、R10〜R15は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)
上記R10〜R15としては、全てが水素原子である形態、又は、全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、R16〜R21は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)
上記R16〜R21としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、R22〜R25、R22´及びR25´は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)
上記R22〜R25、R22´及びR25´としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0048】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)、シラン化合物(2)〜(7))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(8):
【0049】
【化9】

【0050】
(式中、R26は、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。)で表される構造であることが好ましい。
上記R26は、上記シラン化合物(2)において説明したRと同様であることが好ましい。
【0051】
上記シラン化合物(i)の特に好ましい形態としては、R26がフェニレン基であるポリ(γ−フタロイミドプロピルシルセスキオキサン)またはγ−フタロイミドプロピルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの加水分解重縮合体、R26がメチルシクロヘキシレン基であるポリ{γ−(へキサヒドロ−4−メチルフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}またはγ−(へキサヒドロ−4−メチルフタルイミド)プロピルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの加水分解重縮合体、R26がナフチリデン基であるポリ{γ−(1,8−ナフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}またはγ−(1,8−ナフタルイミド)プロピルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの加水分解重縮合体、R26がノルボルネンの2価基であるポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}またはγ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの加水分解重縮合体、R26がシクロヘキセニル基であるポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕または(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの加水分解重縮合体である。
これらの化合物の構造は、H−NMR、13C−NMRを測定して同定可能であり、特にシルセスキオキサンについてはMALDI−TOF−MSを測定して同定することもできる。
【0052】
上記平均組成式(1)におけるXが結合したケイ素原子は、酸素原子との結合数が3であることが好ましい。これによれば、Xが結合したケイ素原子が、他の官能基と結合していないため、耐熱性、耐湿性、耐加水分解性に優れたシラン化合物とすることができる。例えば、Xが結合したケイ素原子が一つの酸素と結合し、他の官能基を有する場合、官能基の種類によって、耐熱性、耐湿性、耐加水分解性が低下するおそれがある。また、上記シロキサン結合を構成するケイ素原子は、酸素原子との結合数が3であることが好ましい。これによれば、シロキサン結合を構成するケイ素原子が、Xで表される有機基以外の官能基と結合していないため、より耐熱性、加水分解性に優れたシラン化合物とすることができる。
【0053】
上記シラン化合物の分子構造としては、例えば、鎖状構造(直鎖状、分岐状)、ラダー状構造、網状、環状、ラダー状からなる環状構造、かご状等が例示されるが、中でも、上記シラン化合物の添加量が少量であっても効果が発揮されやすいため、ラダー状、網状、かご状であることが好ましい。より好ましい分子構造は求める効果によって異なり、例えば、かご状分子構造とすることによって、シラン化合物含有組成物の粘度がより低下するとともに、その硬化物の低吸湿化を顕著に実現することが可能となり、すなわち、粘度低下と顕著な低吸湿化を実現するためには、かご状の分子構造が好適であり、このように、上記シラン化合物がかご状の分子構造を持つ形態もまた、本発明の好適な形態の一つである。かご状の分子構造を持つことにより、上記シラン化合物を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が低吸湿性に極めて優れたものとなるとともに、硬化物の機械的強度や耐熱性を更に向上させることができるため、高密度基板の材料となる樹脂付金属箔に用いられる樹脂組成物が含むシラン化合物として更に好適なものとすることが可能となる。更に、ラダー状構造とした場合には、シラン化合物含有組成物の粘度がより低下するとともに、その硬化物の低吸湿化はそれほど顕著ではないが耐熱性を著しく向上することが可能となる。すなわち、上記シラン化合物がラダー状の分子構造を持つ形態もまた、本発明の好適な形態の一つである。
【0054】
上記かご状の分子構造を持つシラン化合物としてはまた、上記平均組成式におけるXが、環構造を有する形態であることが好ましく、中でも、該Xが上記式(2)で表される形態、すなわちかご状の分子構造を持つ上記シラン化合物(2)であることが好適である。より好ましくは、上記式(2)中のRが、芳香環、飽和脂肪族環状炭化水素及び不飽和脂肪族環状炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種の構造である形態である。これらの形態にすることによって、上記シラン化合物を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が低吸湿性に極めて優れたものとなるという上記作用効果を更に充分に発揮させることが可能となる。なお、芳香環としては、例えば、ベンゼン、ビフェニレン、ターフェニレン、ナフタレン、アントラセン、ペニレン等が挙げられ、飽和脂肪族環状炭化水素としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ノルボルナン、デカヒドロナフタレン等が挙げられ、不飽和脂肪族環状炭化水素としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0055】
上記かご状の分子構造を持つシラン化合物として更に好ましくは、上記式(2)で表されるXが、上記式(3)〜(7)で表される構造である形態、すなわち上記シラン化合物(3)〜(7)であることであり、特に好ましくは、上記式(2)中のRが、ベンゼン環又はノルボルネン構造のいずれかである形態である。
【0056】
上記かご状の分子構造を持つシラン化合物である場合には、下記式(α)で求められるシラノール基量の割合が、0.1以下であることがより好ましい。
[Si−OHモル数]/[Si−O結合モル数] (α)
これにより、上記シラン化合物を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が耐吸湿性に極めて優れたものとなるという上記作用効果を更に充分に発揮させることが可能となる。更に好ましくは、0.05以下であり、特に好ましくは、0.01以下である。最も好ましくは、上記シラン化合物が、残存シラノール基を有さないものである。
この場合、上記平均組成式において、a+b+cが0.3以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5以上であり、更に好ましくは、0.7以上1.0以下であり、特に好ましくは、1である。また、酸素の係数であるdは1.5以上であり1.9以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5以上1.8であり、更に好ましくは、1.5以上1.75以下であることが特に好適である。
【0057】
上記樹脂組成物におけるシラン化合物の含有量としては、樹脂組成物中の固形分総重量100質量%に対して、5〜40質量%であることが好ましい。このような範囲とすることにより、樹脂組成物が優れた耐熱性を有するものとなり、樹脂付金属箔に用いられる樹脂組成物として好適な特性を発揮するものとなる。より好ましくは、7〜35質量%であり、更に好ましくは、10〜30質量%である。
【0058】
上記シラン化合物は、平均粒子径が0.5〜30nmであることが好ましい。平均粒子径がこのような範囲にあると、樹脂組成物から形成される樹脂層に発生する応力を緩和させることができ、樹脂層の接着力を向上させることができる。より好ましくは、平均粒子径が1〜25nmであることであり、更に好ましくは、2〜20nmである。
シラン化合物の平均粒子径は、粒度分布測定装置(装置名:LB−500、堀場製作所社製)を用いて測定することができる。
【0059】
上記シラン化合物(i)の製造方法としては、下記平均組成式(9):
X´aYbZcSiOd (9)
(式中、X´は、同一若しくは異なって、アミド結合を含む有機骨格を表し、Zは、同一若しくは異なって、アミド結合を含まない有機基を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。aは、0でない3以下の数であり、bは、0又は3未満の数であり、cは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)におけるX´が、下記式(10):
【0060】
【化10】

【0061】
(式中、R27は、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物からなる中間体をイミド化する工程を含む製造方法がある。なお、X´が上記「式(10)で表されるシラン化合物からなる中間体」とは、中間体としてX´が式(10)で表されるシラン化合物を用いることをいう。また、上記Y、Z、a、b、c及びdは、上記平均組成式において説明したものとそれぞれ同様であることが好ましく、上記R27、x、y及びzは、上記シラン化合物(2)において説明したR、x、y及びzとそれぞれ同様であることが好ましい。
【0062】
上記製造方法(製造方法(I)ともいう。)においては、上記式(10)で表される中間体(以下、中間体(10)ともいう)をイミド化する工程(イミド化工程(I)ともいう。)を含むものであれば特に限定されない。イミド化工程(I)は、アミック酸の脱水閉環によりイミド化する工程であり、反応条件を下記に示す。
【0063】
上記イミド化工程(I)の反応温度としては、80〜300℃であることが好ましい。より好ましくは、100〜200℃であり、更に好ましくは、副生物として水が生じるので、水、溶媒の共沸温度以上で保持することである。反応圧力としては、常温であっても加圧下であっても減圧下であってもかまわないが、副生水を効率よく反応系外へ留去することで反応が進行しやすいので、常圧以下である方が好ましい。具体的には、0.01〜0.5MPa等が好適である。
【0064】
また反応触媒としては、閉環触媒としてピリジン、トリエチルアミン、イミダゾール、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の公知公用のアミン、又は、トルエン、キシレンなどの水と共沸する溶剤を添加することが望ましい。
反応時間としては、反応温度、反応組成によって変わるが、2〜48時間程度が好適である。
【0065】
上記製造方法(製造方法(I))は、下記式(11):
【0066】
【化11】

【0067】
(式中、R28は、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。R29は、同一若しくは異なって、有機基を表し、R30は、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR30´基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表す。ここでR30´は、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、置換基があってもよい。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1であり、pは、0以上2以下の整数である。)で表されるシラン化合物からなる中間体を加水分解し、重縮合する工程を含むことが好ましい。
すなわち、このような製造方法(製造方法(II)ともいう。)は、イミド化工程(I)に加えて、上記式(11)で表される中間体(中間体(11)ともいう)から中間体(10)を得る工程(工程(II−1)ともいう)を含むこととなる。なお、上記R28、x、y及びzは、上記シラン化合物(2)において説明したR、x、y及びzとそれぞれ同様であることが好ましい。また、R29及びR30は、上記R29及びR30と同様であることが好ましい。pは0又は1が好適である。
【0068】
上記工程(II−1)としては、中間体(11)のアルコキシシリル基の加水分解・重縮合反応によりポリシロキサン骨格を形成して中間体(10)を得る工程である。
上記工程(II−1)を含むと、中間体(10)の前駆体として親水性の高い中間体(11)を経るため、アルコキシシリル基の加水分解・重縮合反応の反応効率が高くなり、ポリシロキサン骨格の重合度を上げやすいという利点がある。
上記工程(II−1)においては、中間体(11)を水又は水を有する有機溶媒と混合させて中間体(11)を加水分解・縮合することになる。
このような加水分解・縮合反応により、加水分解・縮合物であるポリシロキサン骨格を形成することができることになる。加水分解・縮合物とは、加水分解反応により得られたものを更に縮合反応することによって得られる化合物をいう。
以下に、中間体(11)の加水分解反応及び縮合反応を示す。
【0069】
SiR29(OR30´3−p+(3−p)HO(加水分解)→SiR29(OH)3−p+(3−p)R30´OH
SiR29(OH)3−p→SiR29(OH)→SiR292/u(縮合物)
(式中、R29、R30´及びpは、上述したとおりである。e及びuは任意の数値である。)
このように中間体(11)を加水分解・縮合することにより、ポリシロキサン骨格の重合度が高い中間体(10)を得ることができることとなる。
【0070】
上記加水分解・縮合反応においては、水を用いることになり、中間体(11)100質量%に対して、10〜50質量%の水を添加して反応させることが好適である。好ましくは、20〜40質量%である。
【0071】
上記加水分解・縮合反応に用いる水は、イオン交換水、pH調整水等のいずれを用いてもよいが、pH7前後の水を用いることが好ましい。このような水を用いることにより、組成物中のイオン性不純物量を低減させることが可能となり、低吸湿性又は高絶縁性の樹脂組成物とすることが可能となる。なお、水の純度としては、pH7である方が好ましいが、塩化水素、シュウ酸、又は、ピリジン、トリエチルアミンなどは高温で反応系外へ揮散するので微量添加してpHを2〜12の範囲で調整してもよい。
上記水の使用形態としては、中間体(11)に滴下する形態でもよいし、一括投入する形態でもよい。
【0072】
上記アルコキシシリル基の加水分解・重縮合反応における反応温度としては、室温〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、室温〜100℃であり、最も好ましくは、副生物としてアルコールが生じるのでアルコール、水、溶媒の共沸還流下で保持することである。上記反応における圧力としては、常温であっても加圧下であっても減圧下であってもよいが、副生アルコールを効率よく反応系外へ留去することで反応が進行しやすいので、常圧以下である方が好ましい。また反応時間としては、反応温度、反応組成によって変わるが、2〜48時間であることが好適である。
【0073】
上記中間体(11)の製造方法としては特に限定されないが、下記式(12)で表される化合物(化合物(12)という。)から得ることが好ましい。すなわち、上記製造方法(製造方法(II))は、下記式(12):
【0074】
【化12】

【0075】
(式中、R36は、同一若しくは異なって、有機基を表し、R37は、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR37´基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表す。ここでR37´は、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、置換基があってもよい。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1であり、vは、0以上2以下の整数である。)で表される化合物に酸無水物を開環付加して式(11)で表されるシラン化合物からなる中間体を得る工程(工程(III−1)とも言う。)を含むことが好ましい。
【0076】
すなわち、このような製造方法(製造方法(III)ともいう。)は、イミド化工程(I)に加えて、加水分解・重縮合工程(II−1)を含み、更に、化合物(12)から中間体(11)を得る工程(工程(III−1))を含むこととなる。このような工程を含むことにより、安価な製造原料を使用できるという利点がある。なお、上記x、y及びzは、上記シラン化合物(2)において説明したx、y及びzとそれぞれ同様であることが好ましい。また、R36、R37及びvとしては、上記式(11)で説明したR29、R30及びpと同様であることが好ましい。
【0077】
上記工程(III−1)としては、化合物(12)から中間体(11)を得る酸無水物の開環付加工程であり、この反応条件を下記に示す。
上記工程(III−1)における水分濃度としては、酸無水物の有水化により目的化合物の収率が低下するため、溶剤及び反応装置はよく乾燥しておき、反応中は乾燥窒素ガスを流通させる方が好ましい。溶剤の乾燥はモレキュラーシーブ、無水硫酸マグネシウム、無水塩化カルシウムなど公知公用の脱水剤を用いてもよいし、反応前に蒸留をかけるなどしてもよい。
【0078】
上記工程の反応温度としては、室温〜100℃であることが好ましい。より好ましくは、40〜90℃である。室温付近でも十分反応は進行するが、反応生成物によっては反応中に析出して反応系の撹拌が不可能になる場合があるため、室温よりも高めで反応する方が好ましい。上記工程の圧力としては、常温であっても加圧下であっても減圧下であってもかまわない。反応時間としては、反応温度、反応組成によって変わるが、2〜48時間程度が好適である。
【0079】
上記製造工程(II−1)において、上記式(11)で示されるシラン化合物と、他のアミド結合を含まないシラン化合物モノマーとを共加水分解・縮合させることにより、種々の構成単位の組み合わせからなる式(10)で表されるシラン化合物からなる中間体(10)が得られ、更に、これをイミド化することにより、シラン化合物(i)が得られる。
【0080】
上記式(11)で示されるシラン化合物と、他のアミド結合を含まないシラン化合物モノマーとを共加水分解・縮合させる場合、上記式(11)で示されるシラン化合物1モルに対して、他のアミド結合を含まないシラン化合物モノマーを20〜80モル用いることが好ましい。より好ましくは、25〜75モルであり、更に好ましくは、30〜70モルである。
【0081】
上記他のアミド結合を含まないシラン化合物モノマーとしては、以下のような化合物好適である。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;テトラアセチルオキシシラン、テトラプロピオニルオキシシラン等のテトラアシルオキシシラン類;メチルトリアセチルオキシシラン、エチルトリアセチルオキシシラン等のトリアシルオキシシラン類;ジメチルジアセチルオキシシラン、ジエチルジアセチルオキシシラン等のジアシルオキシシラン類等。
これらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。このようにシリコンアルコキシドを含有してなることが好ましい。また、トリアルコキシシラン類であることがより好ましい。
【0082】
上記樹脂組成物は、エポキシ樹脂、平均組成式(1)で表されるシラン化合物以外のその他の成分として、エポキシ樹脂以外のポリマー成分を含んでいてもよい。
エポキシ樹脂以外のポリマー成分としては、(変性)ポリエチレン系樹脂、(変性)ポリプロピレン系樹脂、ABS系樹脂、AES系樹脂、AAS樹脂、メタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂(熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含む)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含む)、ポリアセタール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む)、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等の熱可塑性樹脂;メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、キシレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ビニルエーテル樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ポリアニリン樹脂などの熱硬化性樹脂が好適であり、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂などは有機樹脂の金属箔への塗布性を保ちつつ硬化樹脂層の耐熱性を向上させることからより好適である。これらの樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0083】
上記エポキシ樹脂以外のポリマー成分の含有量としては、樹脂組成物中の固形分総重量100質量%中、2〜30質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂以外のポリマー成分の割合が2質量%より少ないと、金属箔への塗布性が悪くなり、乾燥後の塗膜面の平滑性が損なわれたり空気層を巻き込んで不均一になるため、成型後の樹脂層の耐熱性や接着性が発現しない可能性がある。また、30質量%より多いと、樹脂組成物の粘度が高すぎて金属箔への塗布が困難になったり、乾燥後の塗膜が硬化作業中に流動せずに硬化物層が不均一となるため金属箔上に形成した樹脂層の接着力や耐熱性が充分なものとならないおそれがある。より好ましくは、5〜25質量%である。
【0084】
本発明における樹脂組成物は、その他の成分としてマレイミド化合物を含むことが好ましい。マレイミド化合物を含むものとすることで、樹脂組成物を硬化性に優れたものとすることができる。
マレイミド化合物としては、ビスマレイミド、例えば、N,N´−エチレンビスマレイミド、N,N´−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N´−m−フェニレンビスマレイミド、N,N´−p−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N´−p,p´−ジフェニルジメチルシリルビスマレイミド、N,N´−4,4´−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N´−メチレンビス(3−クロロ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N´−4,4´−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N´−4,4´−ジシクロヘキシルメタンビスマレイミド、N,N´−ジメチレンシクロヘキサンビスマレイミド、N,N´−m−キシレンビスマレイミド、N,N´−4,4´−ジフェニルシクロヘキサンビスマレイミド、N−フェニルマレイミドとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシフェニルアルデヒドなどのアルデヒド化合物との共縮合物が好適である。
【0085】
また、マレイミド化合物としては、下記式:
【0086】
【化13】

【0087】
(式中、R38は、
【0088】
【化14】

【0089】
よりなる2価の基を表す。Qは、2つの芳香環に直結する基であり、炭素数1〜10の2価の炭化水素基、6フッ素化されたイソプロピリデン基、カルボニル基、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基及びオキシド基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表す。)で表されるビスマレイミド化合物が好適である。具体的には、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エーテル、下記式:
【0090】
【化15】

【0091】
(式中、Qは、置換基があってもよい芳香環からなる2価の基を表す。nは、繰り返し数を表し、平均で0〜10の数である。)で表される化合物等が好適である。上記Qとしては、具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の2価の基(フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチリデン基等)が好ましい。これらは1種用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0092】
上記マレイミド化合物の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、2〜35質量%であることが好ましい。これらの成分の割合が2質量%より少ないと、硬化性改善効果が小さくなる。また、35質量%より多いと、硬化物中のエポキシ樹脂架橋密度が極端に低くなるため耐熱性が発現しない。より好ましくは、5〜20質量%である。
【0093】
上記樹脂組成物は、更に溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、エーテル結合、エステル結合、ケトン結合及び窒素原子からなる群より選ばれた少なくとも一つ以上の構造を有する化合物を含有するものが好ましく、含浸や塗布工程の最適粘度となるよう、あるいは乾燥工程条件により、単独あるいは2種類以上の混合物と用いることができる。
【0094】
上記のエーテル結合を有する化合物としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ペラトロール、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、ジオキサン、トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シオネール、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、グリセリンエーテル、クラウンエーテル、メチラール、アセタール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等が好適である。
【0095】
上記のエステル結合を有する化合物としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、酪酸エステル類、イソ酪酸エステル類、イソ吉草酸エステル類、ステアリン酸エステル類、安息香酸エステル類、ケイ皮酸エステル類、アビチエン酸エステル類、アジピン酸エステル類、γ−ブチロラクトン類、シュウ酸エステル類、マロン酸エステル類、マレイン酸エステル類、酒石酸エステル類、クエン酸エステル類、セバシン酸エステル類、フタル酸エステル類、二酢酸エチレン類等が好適である。
【0096】
上記のケトン結合を有する化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン等が好適である。
【0097】
上記の窒素原子を含有する化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、α−トルニトリル、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が好適である。
【0098】
本発明の樹脂組成物が含む溶剤としては、これらの中でも、沸点が65℃以上170℃以下の溶剤であれば塗膜乾燥工程により塗膜から容易に除去できるので好ましい。沸点が65℃より低い溶剤の場合、塗布前の保存時に大気中へ揮発していくことがあり、樹脂組成物中の不揮発分濃度の管理が難しいため好ましくなく、沸点が170℃を超えると塗膜乾燥時に高熱を掛けないと乾燥しなくなり、乾燥塗膜の樹脂成分自体がゲル化している恐れがある。
溶剤の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、25〜60質量%であることが好ましい。すなわち、樹脂組成物100質量%中、不揮発分濃度が75〜40質量%であることが好ましい。溶剤の割合が25質量%より少ないと、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて塗布できない可能性がある。また、60質量%より多いと、乾燥後の塗膜厚さが極端に薄くなり好ましくない。より好ましくは、30〜55質量%である。
【0099】
上記樹脂組成物は、更に硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水ナジック酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の多価フェノール化合物等のフェノール系硬化剤;BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類;トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2´−ビス−(アミノフェニル)プロパン、ジアミノジフェニルスルホン、トルエンジアミン、1,3−ジアミノ−2,4−ジエチルトルエン、ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)メタン並びにこれらの誘導体等のアミン系硬化剤、及び、これらにポリエーテル構造を導入したもの等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
硬化剤の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、1〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは、2〜25質量%である。
【0100】
本発明における樹脂組成物は、更に樹脂の硬化性を向上させるため、硬化促進剤を含んでいてもよい。硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジルフェニル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物;ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N´−ジメチルピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物等の1種又は2種以上を用いることができる。
硬化促進剤の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜8質量%である。
【0101】
また、本発明における樹脂組成物は、更に、樹脂層と金属箔との密着性を向上させるための消泡剤、レベリング剤、カップリング剤等を含んでいてもよい。
これらの成分の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、0.05〜2質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜1.5質量%である。
【0102】
また、本発明における樹脂組成物は、25℃における粘度が100〜4200mPa・sであることが好ましい。より好ましくは、150〜4000mPa・sであり、更に好ましくは、180〜3800mPa・sである。
樹脂組成物の粘度は、B型粘度計((株)東京計器製)により測定することができる。
【0103】
本発明の樹脂付金属箔に用いる金属箔は、銅箔であることが好ましい。銅は、プリント配線板等の回路基板の材料として用いられる金属であり、銅箔上に樹脂層を形成した樹脂付金属箔とすることで高密度基板等のビルドアップ配線層を形成する材料としてより好適なものとなる。
【0104】
上記樹脂付金属箔における樹脂層の厚みは、乾燥後の膜厚が10〜150μmであることが好ましい。樹脂層は実使用時においては接着剤としてだけではなく電子回路基板の絶縁層としても機能するため乾燥後の膜厚が10μm未満であると、充分な絶縁性能を発揮できず配線を短絡させてしまう恐れがある。また、150μmより大きいと、絶縁層厚さが大きくなるため成型体の大きさが大きくなりすぎる可能性がある。より好ましくは、15〜130μmである。
【0105】
また、樹脂付金属箔における金属箔の厚みは、1〜200μmであることが好ましい。金属箔は実使用時においてはエッチングによって電子回路配線となることから、その厚みが1μm未満であると、薄すぎてエッチングの際に回路部も切断されてしまう可能性がある。また、200μmより大きいと、配線層厚さが大きくなるため成型体の大きさが大きくなりすぎる可能性がある。より好ましくは、5〜120μmである。
【0106】
本発明の樹脂付金属箔において、金属箔に樹脂組成物からなる樹脂層を積層する方法は、樹脂組成物を金属箔上に塗布した後、乾燥させて形成する方法が好ましい。
樹脂組成物を金属箔上に塗布する方法は、特に制限されず、公知公用の塗工機やバーコーター、アプリケーター、などの手塗り器具等を用いることができる。
【0107】
上記樹脂層を乾燥させる温度は、60〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、60〜160℃である。
また、乾燥時間は、1〜20分であることが好ましい。より好ましくは、3〜15分である。
【0108】
本発明の樹脂付金属箔を加熱硬化させて樹脂硬化膜を形成する場合、硬化温度としては、70〜300℃が好ましい。より好ましくは、80〜250℃である。また硬化時間としては、1〜15時間が好ましい。より好ましくは、5〜10時間である。
【0109】
本発明の樹脂付金属箔は、耐熱性、耐圧性、耐湿性及び接着性に優れたものである。これらの特性を有するものであることにより、高温、高圧や多湿等の苛酷な環境下で用いられる基板の材料として好適に用いることができる。このような、本発明の樹脂付金属箔を用いてなることを特徴とするプリント配線基板もまた、本発明の1つである。
【0110】
本発明における樹脂組成物は、金属箔上に樹脂層を形成するだけでなく、離型フィルム等の汎用のフィルム基材上に樹脂層を形成し、接着フィルムとしても用いることができる。このような接着フィルムは、通常の環境下だけでなく、高温、高圧や高湿度等の環境下においても優れた接着力を発揮する接着フィルムであり、様々な用途において好適に用いることができる。このような、フィルム基材上に樹脂層を形成して得られる接着フィルムもまた、本発明の1つである。
【0111】
上記接着フィルムに用いられるフィルム基材としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、PETやPENなどのポリエステルフィルム、PVDFやPTFEなどのフッ素樹脂フィルム、これらの樹脂材料をガラスクロス、ガラス不織布、セルロース織布、セルロール不織布、炭素繊維織布などに含浸させた複合フィルム、アルミホイルや銅ホイルの表面に剥離剤を塗布した金属フィルム等が挙げられる。これらは接着フィルムの塗布条件や使用条件などにより取捨選択される。
【0112】
上記フィルム基材上に樹脂層を形成する方法としては、上述した金属箔上に樹脂層を形成する方法と同様の方法を用いることができる。
また、フィルム基材上に樹脂層を形成する場合の樹脂層の好ましい厚みは、金属箔上に樹脂層を形成する場合と同様であり、樹脂フィルムの好ましい厚みも、上記金属箔の厚みと同様である。
【0113】
本発明の樹脂付金属箔は、上記の耐熱性、耐湿性及び接着性の各特性について、それぞれ以下のような特性を満たすことが好ましい。このような特性を満たすものであると、樹脂付金属箔に要求される低応力かつ高接着力である特性に加え、高温や多湿等の苛酷な環境下においても使用可能な耐環境性にも優れ、車載用途等に用いられる高密度基板の材料として好適なものとなる。
本発明の接着フィルムもまた、以下のような特性を満たすことが好ましい。このような特性を満たすものであると、高温や多湿等の苛酷な環境下においても優れた接着力を発揮する接着フィルムとなる。
このような特性を満たす樹脂付金属箔、接着フィルムは、上述した樹脂組成物を構成する各成分についての好ましい形態を適宜組み合わせて得られた樹脂組成物からなる樹脂層を備えたものとすることによって得ることができる。より具体的には、エポキシ樹脂と、シラン化合物として構造中にシロキサン結合を有し、イミド結合を含む有機骨格を有するものを上述した好ましい配合割合で含み、更に必要に応じて、上述したポリマー成分やマレイミド化合物等のその他の成分として好ましいものを適宜配合した樹脂組成物からなる樹脂層を備えたものとすることにより得ることができる。
本発明の樹脂付金属箔を硬化させて形成される樹脂硬化膜は、ガラス転移温度が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは、130℃である。
ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置により測定することができる。
また、本発明の樹脂付金属箔を硬化させて形成される樹脂硬化膜は、JIS R3251に準じて測定した厚さ方向の線膨張係数がTg以下の温度領域で100ppmより小さい値であり、Tgより高い温度領域で200ppmより小さい値であることが好ましい。より好ましくはTg以下の温度領域で80ppmより小さい値である。
厚さ方向の線膨張係数は、レーザー熱膨張計(品番:LIX−1、アルバック理工社製)を用いて測定することができる。
更に、本発明の樹脂付金属箔を硬化させて形成される樹脂硬化膜は、JIS C6481に準じて測定したピール強度が2.0N/mm以上であることが好ましい。より好ましくは、2.2N/mm以上であり、更に好ましくは、2.5N/mm以上である。
【発明の効果】
【0114】
本発明の樹脂付金属箔は、上述の構成よりなり、低応力かつ高接着力であって、樹脂付金属箔に要求される基本性能に優れるだけでなく、耐熱性、耐湿性等の耐環境性にも優れ、高温、多湿等の苛酷な環境下においても、樹脂付金属箔の基本性能を充分に発揮し、車載用途等に用いられる高密度基板の材料として好適に用いることができる樹脂付金属箔である。
【発明を実施するための形態】
【0115】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0116】
合成例1〜3において合成した化合物の構造特定は、以下の装置により行った。
H−NMR、13C−NMR:400MHZ、バリアンインスツルメンツ社製
MALDI−TOF−MS:KRATOS AXIMA−CFR(島津製作所社製)
【0117】
合成例1
ポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた500mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム103.7gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン177.6gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に80℃に反応液温度を維持しながらcis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物150.7gを30分かけて4分割投入した。投入終了後3時間でcis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
反応生成物をサンプリングしてH−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定し、化学式(13)の化合物を含有することを確認した。
【0118】
【化16】

【0119】
H−NMR:0.72(t、2H)、1.81(m、2H)、2.23(dd、4H)、2.74(m、1H)、2.91(dd、1H)、3.48(dd、2H)、3.72(s、9H)、5.74(m、2H)、11.0(bs、1H)
13C−NMR:9.1、22.2、25.5、26.8、40.6、42.3、43.1、44.7、131.7、168.8、172.7
MALDI−TOF−MS:338(M+Li)
【0120】
続いて脱イオン水53.4gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、6時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン7.9gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
反応生成物は不揮発分74.3%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量測定したところ数平均分子量2041、重量平均分子量2838であった。H−NMR、13C−NMRを測定し、化学式(14)の化合物を含有することを確認した。
H−NMR:0.25−0.55(bs、2H)、1.3−1.5(bs、2H)、2.0−2.5(dd、4H)、2.9−3.1(bs、2H)、3.2―3.35(bs、2H)、5.65−5.8(bs、2H)
13C−NMR:10.0、21.0、23.8、39.0、41.1、127.8、180.5
【0121】
【化17】

【0122】
合成例2
ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン} の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた300mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム35.1gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン30.8gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物28.2gを30分かけて4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
反応生成物をサンプリングしてH−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定し、化学式(15)の化合物を含有することを確認した。
【0123】
【化18】

【0124】
H−NMR:0.40(t、2H)、1.35(m、2H)、1.46(dd、2H)、3.08−3.17(m、1H)、3.20(dd、2H)、3.28−3.37(m、1H)、3.40(s、9H)、3.42(m、1H)、3.48(m、1H)、5.91(s、2H)、6.22(bs、1H)、11.0(bs、1H)
13C−NMR:8.1、21.2、40.6、44.9、45.8、50.3、50.6、52.3、134.5、177.8、178.1
MALDI−TOF−MS:350(M+Li)
【0125】
続いて脱イオン水9.3gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン1.4gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
反応生成物は不揮発分58.2%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量測定したところ数平均分子量2340、重量平均分子量2570であった。H−NMR、13C−NMRを測定し、化学式(16)の化合物を含有することを確認した。
【0126】
【化19】

【0127】
H−NMR:0.25−0.45(bs、2H)、1.2−1.45(bs、2H)、1.47(dd、2H)、3.0−3.2(bs、4H)、3.4―3.6(bs、2H)、5.8−6.0(bs、2H)
13C−NMR:9.7、21.5、40.4、44.9、45.7、50.1、134.2、178.0
【0128】
合成例3
γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルトリメトキシシランとテトラメトキシシランの加水分解共縮合体の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた300mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したN,N´−ジメチルホルムアミド98gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン58.0gとテトラメトキシシラン49.2gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物53.6gを30分かけて4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。続いて脱イオン水40.8gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン1.4gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
反応生成物は不揮発分60.3%で濃褐色高粘度液体であり、H−NMR、13C−NMRを測定したところ、以下のピークが確認されたことから生成物はγ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピル基を含有することを確認した。
H−NMR:0.25−0.45(bs、2H)、1.2−1.45(bs、2H)、1.47(dd、2H)、3.0−3.2(bs、4H)、3.4―3.6(bs、2H)、5.8−6.0(bs、2H)
13C−NMR:9.7、21.5、40.4、44.9、45.7、50.1、134.2、178.0
さらに粒度分布測定装置(装置名:LB−500、堀場製作所社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径が8nmのナノ粒子となっていることを確認した。
【0129】
フィルムの調製
合成例1〜3で得られた化合物を用いて表1〜3に記載のワニスを調製したのち、アプリケーターを用いて厚さ12μmのロープロファイル電解銅箔(福田金属箔粉工業社製、品番「CF−T9D−SV」、Rz:1.1μm)上に塗布した後に、160℃に調温した循環熱風オーブン中で3分間放置して乾燥することにより、樹脂付銅箔を得た。樹脂層の乾燥後の厚さは60μmとなるように塗布厚を調整した。塗布後、樹脂付銅箔から樹脂層のみを剥離して取り出し、窒素雰囲気下200℃×1時間放置による樹脂層の重量変化を測定することにより樹脂層中に揮発分含有率を確認したところ、いずれも1%以下であることが確認できた。
【0130】
硬化物の調製と特性評価
上記により得られた樹脂付銅箔の樹脂面を張り合わせて真空プレス機を用いて30Torr以下の減圧下で200℃、2時間、1.5MPaの条件で処理して樹脂硬化膜を得た。
樹脂硬化膜のガラス転移温度測定は、動的粘弾性測定により行った。
樹脂硬化膜の熱的特性については、10mm×10mmに切り出した硬化片を60℃に調温された25%塩化鉄(II)水溶液中に浸漬して銅箔をエッチングし、60℃の乾燥機中に1時間放置して樹脂硬化膜のみとしたのち、厚さ方向の線膨張特性を調べた。測定装置としてはレーザー熱膨張計(アルバック理工社製、品番「LIX−1」)を用い、測定条件はJIS R3251に準じた。表1中、α1は、Tg以下の温度領域での線膨張係数であり、α2は、Tgより高い温度領域での線膨張係数である。
銅箔の接着性については長さ100mm×幅10mmに調整し、銅箔の一端をはがして引っ張り試験機に固定してピール強度を測定することにより評価した。測定条件はJIS C6481に準じた。
吸湿特性についてはプレッシャークッカーを用いて121℃×2時間×0.2MPaの飽和水蒸気雰囲気中に放置した後、処理前後での重量変化を調べて吸湿率を算出することにより評価した。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
上記表1、2中、各成分は、それぞれ以下のものを表す。
ポリマー成分1:ジャパンエポキシレジン社製エポキシ樹脂、商品名「jer YX8100BH30」、Tg150℃、重量平均分子量38,000、NV30% (*NVは、不揮発分濃度を意味する。以下においても同様である。)
ポリマー成分2:東都化成社製フェノキシ樹脂、商品名「フェノトートFX−293」、Tg163℃、重量平均分子量44,000、NV100%
ポリマー成分3:東洋紡績社製ポリアミドイミド樹脂、商品名「バイロマックスHR−15ET」、Tg260℃、重量平均分子量69,000、NV25%
ポリマー成分4:東都化成社製フェノキシ樹脂、商品名「フェノトートYP−50S」、Tg90℃、重量平均分子量41,000、NV100%
エポキシ樹脂1:日本化薬社製、商品名「NC−3000H」
エポキシ樹脂2:DIC社製、商品名「EXA−9900」
エポキシ樹脂3:ジャパンエポキシレジン社製、商品名「jer YX4000H」、
エポキシ硬化剤1:日本化薬社製フェノール系硬化剤、商品名「GPH−103」
エポキシ硬化剤2:4,4´−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化社製、商品名「セイカキュア−S」
ビスマレイミド:大和化成工業社製、商品名「BMI−2300」
硬化促進剤:2−エチル−4−メチルイミダゾール
ナノ成分1:合成例1記載の生成物
ナノ成分2:合成例2記載の生成物
ナノ成分3:合成例3記載の生成物
【0134】
評価結果と考察
実施例と比較例を比べると、本発明の化合物を含有する樹脂組成物を用いることで硬化物の線膨張係数が低下し特にTg以上の温度領域での低下が顕著であった。ナノ成分が含有されることで膨張収縮により発生する内部応力が緩和されるためであると推察され、これによる効果として銅箔に対する接着強度の向上も確認できた。
なお、上記実施例、比較例においては、ポリマー成分、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、ナノ成分、ビスマレイミド、及び、硬化促進剤の各構成成分について、それぞれ1〜4種類を用いて組成物を製造した例が示されているが、これらの組成物中における基本的な作用機構は、すべて同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の少なくとも一方の面に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を備えた構造を有する樹脂付金属箔であって、
該樹脂組成物は、下記平均組成式(1):
XaYbZcSiOd (1)
(式中、Xは、同一若しくは異なって、イミド結合を含む有機骨格を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表し、Zは、同一若しくは異なって、イミド結合を含まない有機基を表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。a、b及びcは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表されるシラン化合物を含むことを特徴とする樹脂付金属箔。
【請求項2】
前記シラン化合物は、T型シロキサン構造体、Q型シロキサン構造体の少なくとも1つを含み、T型構造体とQ型構造体とのモル比率が100/0〜30/70であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂付金属箔。
【請求項3】
前記シラン化合物は、シルセスキオキサンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂付金属箔。
【請求項4】
前記金属箔は、銅箔であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂付金属箔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂付金属箔を用いてなることを特徴とするプリント配線基板。

【公開番号】特開2011−230372(P2011−230372A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102648(P2010−102648)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】