説明

フレキソ印刷原版及びフレキソ印刷版の製造方法

【課題】優れた弾性を有し、レーザー彫刻後に水洗により残渣を容易に除去することが可能なフレキソ印刷原版を提供すること。
【解決手段】(A)支持体層、(B)エラストマー性バインダー、及びこのエラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤を含有するエラストマー性組成物から形成される樹脂層、並びに(C)親水性樹脂層、を積層してなることを特徴とするフレキソ印刷原版。このフレキソ印刷原版によれば、樹脂層を露光、又は加熱処理して硬化させ、レーザー彫刻を行っても、硬化後の樹脂層の残渣を容易に除去することができる。また、レーザー彫刻後のフレキソ印刷版の上部において、エッジ部が丸みを帯びることなく、印刷によるドットゲインが大きくならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版の製造に用いるフレキソ印刷原版、及びフレキソ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷においては、水性インキ、UVインキ、及び溶剤インキ等、様々なインキを用いた印刷を行うことができるが、近年、環境安全の観点から、水性インキを用いたフレキソ印刷が注目を集めている。フレキソ印刷用のレリーフ版を得るための前駆体的材料となるフレキソ印刷用原版としては、感光性樹脂組成物層を備えたフレキソ印刷用原版が広く知られている。フレキソ印刷版の作製に関しては、フレキソ印刷用原版において感光性樹脂組成物層を、リソグラフィー技術を用いて現像する方法や、硬化したフレキソ印刷用原版を、直接、レーザーによって彫刻する方法等が開発されている。レーザー彫刻を用いたフレキソ印刷用原版の作成方法においては、デジタル化された画像データをコンピューター上で修正するだけで対応できるため、時間の節約、労力の削減を図ることができる。
【0003】
このうち、レーザー彫刻によりフレキソ印刷版を製造する方法としては、特許文献1に、(a)可撓性支持体の頂部にあるエラストマー層を、機械的方法、光学的方法、及び熱化学的方法等により強化して、必要に応じてこのエラストマー層の頂部上に除去可能なカバーシートを有する、レーザーで彫刻可能なフレキソ印刷用エレメントを作成し、(b)カバーシートを除去した後、工程(a)のレーザーで彫刻可能なフレキソ印刷用エレメントを予め選定した少なくとも一つのパターンに従ってレーザー彫刻してレーザー彫刻されたフレキソグラフ印刷版を作成する、単層フレキソグラフ印刷版を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、構成単位としてヒドロキシエチレンを含む親水性ポリマー(A1)、(A1)以外の親水性ポリマー(A2)、エチレン性不飽和モノマー(B)、重合開始剤(C)及び可塑剤(D)を含有することを特徴とするレーザー彫刻用架橋性樹脂組成物が開示されている。特許文献2に記載の発明によれば、樹脂凸版印刷及びフレキソ印刷の双方に適性を有するレリーフ印刷版を容易に提供することができるとされている。
【特許文献1】特表平7−506780号公報
【特許文献2】特開2006−002061
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の単層フレキソグラフ印刷版を製造する方法に見られるように、フレキソ印刷版の頂部には、一般にエラストマー層が設けられており、レーザー彫刻においては、このエラストマー層にレーザーを当てて、エラストマー材料を局部的に溶融させて除去している。この場合、レーザー照射部位には、多量の残渣が残り、これを除去する必要があった。ここで、エラストマー材料は一般に水に不溶であるため、レーザー照射後の残渣の除去にあたっては、洗剤に漬け込んだ後、高圧洗浄する等、多くのコストと手間を要するものであった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の発明のように、親水性ポリマーから製造される水により洗浄可能なレーザー彫刻用途の印刷版も開発されてはいたが、そのような印刷版は親水性ポリマー層の硬度が高すぎるため、実際のフレキソ印刷には適さないものであった。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、優れた弾性を有し、レーザー彫刻後に水洗により残渣を容易に除去することが可能なフレキソ印刷原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、支持体層、樹脂層、及び親水性樹脂層を積層してなるフレキソ印刷原版において、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第一の態様は、(A)支持体層、(B)エラストマー性バインダー、及びこのエラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤を含有するエラストマー性組成物から形成される樹脂層、並びに(C)親水性樹脂層、を積層してなることを特徴とするフレキソ印刷原版である。
【0011】
また、本発明の第二の態様は、上記第一の態様のフレキソ印刷原版に活性光線を照射して、又は加熱処理を施して前記樹脂層を硬化させる工程と、硬化した樹脂層を、前記親水性樹脂層側からのレーザー照射によりレーザー彫刻する工程と、レーザー彫刻により生じた残渣及び前記親水性樹脂層を、水洗浄により除去する工程と、を有することを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂層がエラストマー性バインダーを含有するため、樹脂層が優れた弾性を示す。また、樹脂層に親水性樹脂層を積層させたので、樹脂層を露光処理、又は加熱処理して硬化させ、レーザー彫刻を行っても、硬化後の脂層の残渣を容易に除去することができる。更に、レーザー彫刻後のフレキソ印刷版の上部において、エッジ部が丸みを帯びることなく、印刷によるドットゲインが大きくならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<フレキソ印刷原版>
本実施形態に係るフレキソ印刷原版は、(A)支持体層、(B)エラストマー性バインダー、及びこのエラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤を含有するエラストマー性組成物から形成される樹脂層、並びに(C)親水性樹脂層、を積層してなる。
【0015】
[(A)支持体層]
本実施形態に係るフレキソ印刷原版に用いられる支持体層は、従来、フレキソ印刷版用の支持体として用いられているものであって、様々な印刷条件に適した機械強度、物理的性質を満たす材料、例えば金属シート、プラスチックフィルム、紙及びこれらの複合体等の中から任意に選んで形成させることができる。このような材料の例としては、付加重合ポリマー及び線状縮合ポリマーにより形成されるポリマー性フィルム;発泡体;例えばガラス繊維織物のような織物、及び不織布;並びに、鋼、及びアルミニウムのような金属を挙げることができる。このような支持体としては、ポリエチレン又はポリエステルフィルムを挙げることができ、特に好ましいものはポリエチレンテレフタレートフィルムである。支持体層は、通常50μmから300μm、好ましくは75μmから200μmの厚みのフィルム又はシート状に形成される。
【0016】
支持体層はまた、必要に応じて、樹脂層との間に薄い粘着促進層を有していてもよい。この粘着促進層としては、例えばアクリル樹脂とポリイソシアネートとの混合物からなる層を挙げることができる。
【0017】
[(B)樹脂層]
樹脂層は、エラストマー性バインダー、及びこのエラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤を含有するエラストマー性組成物から形成される。
【0018】
(エラストマー性バインダー)
エラストマー性バインダーとしては、例えば、スチレン/ブタジエン樹脂;スチレン/イソプレン樹脂;ポリブタジエン、ポリイソプレンのようなポリジオレフィン;ビニル芳香族化合物/ジオレフィンのランダム共重合体及びブロック共重合体;ジオレフィン/アクリロニトリル共重合体;エチレン/プロピレン共重合体;エチレン/プロピレン/ジオレフィン共重合体;エチレン/アクリル酸共重合体;ジオレフィン/アクリル酸共重合体;ジオレフィン/アクリル酸エステル/アクリル酸共重合体;エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体;ポリアミド;ポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールとのグラフト共重合体;両性インターポリマー;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びニトロセルロース等のセルロース類;エチレンとビニルアセテートとの共重合体;セルロースアセテートブチレート;ポリブチラール;環状ゴム;スチレンとアクリル酸の共重合体;ポリビニルピロリドン;並びに、ポリビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体等を挙げることができる。これらのエラストマー性バインダーは単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
(エラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤)
前記エラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤としては、フレキソ印刷版を製造するための感光性物質として公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第4323636号明細書、同第4753865号明細書、同第4726877号明細書、及び同第4894315号明細書に開示された架橋剤を挙げることができ、これらの中から任意に選んで用いることができる。
【0020】
このような架橋剤の例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、へキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリトリトールジアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーのようなアクリル酸エステル、及びこれに対応するメタクリル酸エステル;エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリトリトールジイタコネート、及びソルビトールテトライタコネートのようなイタコン酸エステル;エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリトリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリトリトールジイソクロトネート、及びソルビトールテトライソクロトネートのようなクロトン酸エステル;エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリトリトールジマレート、及びソルビトールテトラマレートのようなマレイン酸エステル;並びにメチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−へキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、及びキシリレンビスメタクリルアミドのような不飽和カルボン酸アミド等を挙げることができる。
【0021】
このような架橋剤の配合量は、前記エラストマー性バインダー100質量部に対し、5質量部以上100質量部以下、好ましくは10質量部以上80質量部以下の割合で用いられる。架橋剤の配合量を上記範囲とすることにより、樹脂層の皮膜性が劣化することがなく、且つ支持体層や後述する親水性樹脂層との密着性を高く保つことができる。
【0022】
更に、樹脂層を形成するためのエラストマー性組成物には、光開始剤及び/又は熱重合開始剤を配合することが好ましい。このような光開始剤としては、ベンゾフェノンのような芳香族ケトン類;ベンゾインメチルセルロース、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、α−メチロールベンゾインメチルエーテル、α−メトキシベンゾインメチルエーテル、2,2−ジエトキシフェニルアセトフェノン等のベンゾインエーテル類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。そのほか、例えば米国特許第4460675号明細書、及び同第4894315号明細書に開示されている置換及び非置換の多核キノンを用いることもできる。
【0023】
また、熱重合開始剤としては、有機過酸化物、ハイドロぺルオキサイド、及びアゾ化合物等を挙げることができる。具体的には、過オクタン酸t−ブチル、過オクタン酸t−アミル、ペルオキシイソ酪酸t−ブチル、ペルオキシマレイン酸t−ブチル、過安息香酸t−アミル、ジペルオキシフタル酸ジ−t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル、及び2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン等のペルオキシエステル類;1,1−ジ(t−アミルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、及びエチル−3,3−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブチレート等のジペルオキシケタール類;ジラウロイルペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、及び2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン等のアルキルペルオキシド類;ベンゾイルペルオキサイド、ジベンゾイルペルオキシド、及びジアセチルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類;t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、及びクミルヒドロペルオキシド等のt−アルキルヒドロペルオキシド類;並びに1−(t−ブチルアゾ)ホルムアミド、2−(t−ブチルアゾ)イソブチロニトリル、1−(t−ブチルアゾ)シクロヘキサンカルボニトリル、2−(t−ブチルアゾ)−2−メチルブタンニトリル、2,2’−アゾビス(2−アセトキシプロパン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、及び2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。中でも、ジラウロイルペルオキサイドが特に好ましい。
【0024】
このような光開始剤及び/又は熱重合開始剤は、樹脂層を構成する各組成の全質量に対して、0.5質量%以上50質量%以下、好ましくは3質量%以上35質量%以下の範囲で、適宜配合されることができる。
【0025】
更に、樹脂層を形成するためのエラストマー性組成物には、可塑剤を配合することが好ましい。このような可塑剤としては、オレフィン系、パラフィン系、ナフテン系、又は芳香族系鉱油等が挙げられる。中でも、1,2−ブタジエン、1,4−ブタジエン、及びイソプレン等のオレフィン系の可塑剤が好ましい。
【0026】
このような可塑剤は、樹脂層を構成する各組成の全質量に対して、0.5質量%以上50質量%以下、好ましくは3質量%以上35質量%以下の範囲で、適宜配合されることができる。
【0027】
(その他の成分)
本実施形態において、エラストマー性組成物には、必要に応じて、ヒドロキノン、及びヒドロキノンモノエチルエーテル等の重合禁止剤;シリコーン系消泡剤、及びフッ素系消泡剤等の消泡剤;アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤等の界面活性剤;シリカ等のマット剤;増感剤;着色剤;並びに、赤外線吸収剤等、樹脂層に慣用される添加剤を含有させることができる。また、樹脂層をエラストマー性組成物から成膜する場合には、エラストマー性組成物に溶剤を含有させることができる。
【0028】
(赤外線吸収剤)
赤外線吸収剤は、レーザー彫刻の際に照射される赤外線を吸収して発熱し、樹脂層を融解除去する役割を果たすものである。樹脂層に含まれるエラストマー性バインダーは、元来、赤外線を吸収するものであるため、樹脂層に添加される赤外線吸収剤は任意の添加成分であり、添加しなくてもよい。赤外線吸収剤としては、赤外線レーザー光を吸収するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、及びシアニンブラック等の黒色顔料;フタロシアニン系顔料、及びナフタロシアニン系顔料等の緑色顔料;グラファイト、鉄粉、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、及び硫化クロム;ケイ酸塩化物、酸化クロム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化タングステン等の金属酸化物、並びにこれら金属の水酸化物、及び硫酸塩;並びに、ビスマス、鉄、マグネシウム、及びアルミニウム等の金属粉等が用いられる。これらの中でも、光熱変換効率、経済性、及び取り扱い性の面からカーボンブラックが好ましい。
【0029】
(溶剤)
溶剤は、エラストマー性バインダーを含む樹脂層に含まれる成分を溶解して、支持体層上に均一に塗布する際に用いられる。樹脂層に含まれる成分を溶解させる溶剤としては、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、及びケトン系溶剤を好ましく用いることができる。具体的には、ジブチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−ポロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテート、クロロホルム、テトラクロロエチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、及びシクロヘキサノン等が好ましい。
【0030】
[(C)親水性樹脂層]
本実施形態に係るフレキソ印刷原版は、樹脂層の上層に、架橋されていない親水性樹脂を主成分とする親水性樹脂層を有する。親水性樹脂を含む親水性樹脂層を樹脂層に積層させることによって、架橋後の樹脂層をレーザー彫刻した際に、水による洗浄のみで残渣を容易に洗い流すことができる。
【0031】
(親水性樹脂)
親水性樹脂層に含有させることができる親水性樹脂としては、特に限定されないが、ビニル系ポリマー、及びアミド系ポリマーを挙げることができる。この中でもビニル系ポリマーを好ましく用いることができる。親水性樹脂層に含まれる親水性樹脂は、その融点と熱分解開始温度との差が1℃以上200℃以下であることが好ましい。この範囲内であれば、レーザー彫刻においてエッジ部分が多量に溶融されることがなく、樹脂層のエッジ部が丸みを帯びることがない。
【0032】
本明細書において、ビニル系ポリマーとはビニル系化合物から得られる重合体を指し、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルブチラール等を挙げることができる。これらの中でも、親水性の度合いが高いという点から、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0033】
親水性樹脂として、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるポリビニルアルコールを用いる場合には、ポリ酢酸ビニルのけん化度は50モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることが更に好ましい。けん化度が50モル%以上であることにより、親水性樹脂層に十分な親水性を付与することができる。
【0034】
また、親水性樹脂層を親水性樹脂組成物から成膜する場合には、溶剤を含有させることができる。このような、親水性樹脂層に添加することができる溶剤としては、水単独又は水とアルコール系溶剤との混合溶剤を用いることができる。このようなアルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール等を挙げることができる。これらのアルコール系溶剤は、水に対して50質量%を上限として混合して用いられる。
【0035】
<フレキソ印刷版の製造方法>
本実施形態に係るフレキソ印刷版の製造方法は、(A)支持体層、(B)樹脂層、及び(C)親水性樹脂層を順次積層してフレキソ印刷原版を作製し、このフレキソ印刷原版に活性線を照射して、又は加熱処理を施して樹脂層を硬化させると共に、硬化した樹脂層を、親水性樹脂層側からのレーザー照射によりレーザー彫刻し、更に、レーザー彫刻により生じた残渣及び親水性樹脂層を水洗浄により除去することにより、製造されるものである。
【0036】
[フレキソ印刷原版の作製]
フレキソ印刷原版は、支持体層に樹脂層、及び親水性樹脂層を順次積層することにより作製される。支持体層に樹脂層、及び親水性樹脂層を積層する方法としては特に制限は無く、支持体上に樹脂層を積層する際に慣用されている方法の中から任意の方法を選択することができる。このような方法としては、例えば、樹脂層、又は親水性樹脂層の各成分を所定割合で混合し、適当な溶媒に溶解させ、型枠の中に流延して溶媒を蒸発させ、そのまま層を形成する方法や、溶媒を用いず、ニーダー又はロールミルで各成分を混練し、押出機、射出形成機、プレス等により所定の厚さに形成する方法等を挙げることができる。樹脂層の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上2.0mm以下であることが更に好ましい。親水性樹脂層の厚さは、3μm以上10μm以下であることが好ましく、4μm以上8μm以下であることが更に好ましい。
【0037】
[フレキソ印刷原版への活性線の照射、又は加熱処理]
フレキソ印刷原版を製造した後は、フレキソ印刷原版の前面に活性線を照射し、又は加熱処理を施し、樹脂層に含まれるエラストマー性バインダーを架橋剤によって架橋する。これにより、樹脂層が硬化し、フレキソ印刷に十分に耐えうるだけの強度を持ち合わせた樹脂層が形成される。前記樹脂層に照射する活性線としては、例えば、波長150nm以上600nm以下の活性線を好ましく用いることができる。上記波長は、300nm以上400nm以下であることが更に好ましい。このような活性線の光源としては、高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等を用いることができる。樹脂層を十分に硬化させるために、フレキソ印刷原版の親水性樹脂層側、及び支持体層側の両方から活性線を照射してもよい。また、前記加熱処理としては、高温オーブン中での加熱処理や、高温プレス法等が挙げられる。
【0038】
[レーザー彫刻]
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタルデータとしてコンピューターに入力し、コンピューターからレーザー装置を制御して、親水性樹脂層側からレーザー光を照射することによって所望のパターンのフレキソ印刷版を得る。レーザー彫刻に用いるレーザーとしては、架橋された樹脂層により吸収される波長を含むレーザーであればどのようなものを用いてもよいが、一般には、波長が830μm以上20,000μm以下の赤外線レーザーを用いることができる。このようなレーザーの例としては、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、及び半導体レーザー等を挙げることができるが、波長が106,000μmの炭酸ガスレーザーが特に好ましい。
【0039】
[残渣及び親水性樹脂層の水洗浄]
本実施形態に係るフレキソ印刷版の製造方法においては、レーザー彫刻の後に、フレキソ印刷版を洗浄する。これにより、樹脂層を彫刻する際に発生する残渣を、樹脂層の上層に積層された親水性樹脂層と共に除去することができる。フレキソ印刷版の洗浄は、溶剤や界面活性剤を含有する水溶液により洗浄することが可能であるが、本実施形態に係るフレキソ印刷用原版を用いてフレキソ印刷版を製造した場合、水のみによって十分な洗浄を行うことが可能である。フレキソ印刷版を洗浄する洗浄液が水であることにより、洗浄後の廃液の処理が容易となり、廃液処理に要するコストを抑えることができると共に、環境への負荷も低く抑えることが可能である。フレキソ印刷版の洗浄方法としては、高圧スプレー洗浄、及びブラシ洗浄等を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
<樹脂層1の形成>
熱可塑性エラストマー性バインダーとしてスチレンブタジエン共重合体(商品名:D−1155、JSRクレイトンエラストマー株式会社製)100質量部と、液状ポリブタジェン(商品名:ニッソーPB−2000、日本曹達株式会社製)40質量部と、トリメチロールプロパントリアクリレート10質量部と、メトキシフェニルアセトフェノン3質量部と、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン0.05質量部と、オイルブルー#503(オリエント化学社製)0.002質量部とを、テトラヒドロフラン0.2質量部からなる溶剤に溶解して、エラストマー性組成物1を調製した。このエラストマー性組成物1を、高粘度用ポンプにて押出機内で混練しながら、ポリエチレンテレフタレートシートからなる支持体上に塗布されている接着層上に、1.7mm厚に押し出して、樹脂層1を得た。
【0041】
<樹脂層2の形成>
熱可塑性エラストマー性バインダーとしてスチレンブタジエン共重合体(商品名:D−1155、JSRクレイトンエラストマー株式会社製)100質量部と、液状ポリブタジエン(商品名:ニッソーPB−2000、日本曹達株式会社製)40質量部と、トリメチロールプロパントリアクリレート10質量部と、ジ−t−ブチルパーオキサイドを2質量部と、オイルブルー#503(オリエント化学社製)0.002質量部とを、トルエン/MEK(2:1)150質量部からなる溶剤に溶解して、エラストマー性組成物2を調製した。このエラストマー性組成物2を、高粘度用ポンプにて押出機内で混練しながら、ポリエチレンテレフタレートシートからなる支持体上に塗布されている接着層上に、1.7mm厚に押し出して、樹脂層2を得た。
【0042】
<実施例1>
「PVA505C」(商品名、ポリビニルアルコール、けん化度73mol%、クラレ社製)20質量部を水/メタノール混合溶剤(質量混合比=水:メタノール=3:1)100質量部に溶解して、前記樹脂層1上に塗布した。これを65℃のオーブンで加熱し、溶媒を除去して、厚さ4μmの親水性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を得た。
【0043】
上記フレキソ印刷原版に対して、10分間全面露光処理を行い、樹脂層1を硬化処理し、続いて「ZED MINI(装置名)」(炭酸ガスレーザー装置、ルーシャ社製)を用いて、出力250ワットでレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻後のフレキソ印刷原版を、水を用いて洗浄し、フレキソ印刷版を形成した。
【0044】
<実施例2>
樹脂層1を樹脂層2とした以外は、前記実施例1と全く同様の手法にて、フレキソ印刷原版を得た。
【0045】
上記フレキソ印刷原版に対して、150℃のオーブン中で、20分間加熱処理を行い、樹脂層2を硬化処理し、続いて「ZED MINI(装置名)」(炭酸ガスレーザー装置、ルーシャ社製)を用い、出力250ワットでレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻後のフレキソ印刷原版を、水を用いて洗浄し、フレキソ印刷版を形成した。
【0046】
<比較例1>
前記樹脂層1を有する積層体(水溶性樹脂層形成前)を、そのままフレキソ印刷原版とし、10分間全面露光処理を行い、樹脂層1を硬化処理し、続いて「ZED MINI(装置名)」(炭酸ガスレーザー装置、ルーシャ社製)を用い、出力250ワットでレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻後のフレキソ印刷原版を、水を用いて洗浄し、フレキソ印刷版を形成した。
【0047】
<比較例2>
非水溶性樹脂であるダイヤナールBR102(三菱レイヨン社製アクリル樹脂)30質量部をトルエン100質量部に溶解して前記樹脂層2上に塗布した。これを65℃のオーブンで乾燥処理することにより、溶媒を除去して、厚さ4μmの親水性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を得た。このフレキソ印刷原版に対して、10分間の全面露光処理を行い、樹脂層2を硬化処理し、続いて「ZED MINI(装置名)」(炭酸ガスレーザー装置、ルーシャ社製)を用い、出力250ワットでレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻後のフレキソ印刷原版を、水を用いて洗浄し、フレキソ印刷版を形成した。
【0048】
<評価>
[残渣除去性]
実施例1から2、比較例1から2で得たフレキソ印刷版について、それぞれ以下の基準により残渣除去性を評価した。
◎;洗浄で残渣が容易に除去された。
○;洗浄で残渣が除去された。
△;洗浄後も残渣が若干残る。
×;残渣がほとんど除去されず。
【0049】
[熱溶融]
更に、実施例1から2、比較例1から2で得たフレキソ印刷版について、それぞれエッジ部の熱溶融の度合いを評価した。
【0050】
以上の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0051】
表1に示されるように、ポリビニルアルコールを含む親水性樹脂層を形成させたフレキソ印刷原版においては、熱溶融もわずかで、残渣除去性も良好であることが分かる。これに対して、親水性樹脂層を形成させていないフレキソ印刷原版においては、熱溶融はわずかであるものの、残渣除去性が悪いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)支持体層、(B)エラストマー性バインダー、及びこのエラストマー性バインダーを架橋可能な架橋剤を含有するエラストマー性組成物から形成される樹脂層、並びに(C)親水性樹脂層、を積層してなることを特徴とするフレキソ印刷原版。
【請求項2】
前記エラストマー性組成物が、更に可塑剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項3】
前記親水性樹脂層が、熱分解開始温度と融点との差が1℃〜200℃の範囲内にある親水性樹脂を主成分とする材料から形成される層であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項4】
前記親水性樹脂が、ビニル系ポリマーであることを特徴とする請求項3に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項5】
前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項3又は4に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項6】
前記親水性樹脂が、けん化度が50モル%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項7】
前記親水性樹脂層の膜厚が、3μm〜10μmであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項8】
前記エラストマー性組成物が、更に光開始剤を含有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項9】
前記エラストマー性組成物が、更に熱重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項10】
請求項8に記載のフレキソ印刷原版に活性光線を照射して前記樹脂層を硬化させる工程と、
硬化した樹脂層を、前記親水性樹脂層側からのレーザー照射によりレーザー彫刻する工程と、
レーザー彫刻により生じた残渣及び前記親水性樹脂層を、水洗浄により除去する工程と、を有することを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のフレキソ印刷原版を加熱処理して前記樹脂層を硬化させる工程と、
硬化した樹脂層を、前記親水性樹脂層側からのレーザー照射によりレーザー彫刻する工程と、
レーザー彫刻により生じた残渣及び前記親水性樹脂層を、水洗浄により除去する工程と、を有することを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2008−229875(P2008−229875A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68423(P2007−68423)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】