説明

フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法及び装置

【課題】フローティングクレーンに備えられているシーケンス制御装置を用いて簡略な装置構成によって共吊り制御を行えるようにする。
【解決手段】一方のフローティングクレーン1に備えられている一方のシーケンス制御装置Sと、他方のフローティングクレーン2に備えられている他方のシーケンス制御装置Sとを通信ケーブル16により接続して、一方のシーケンス制御装置Sを主PLC17とすると共に、他方のシーケンス制御装置Sを副PLC18とし、主PLC17に、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボード23と、夫々のフローティングクレーン1,2の運転状況を表示するディスプレイ13’と、演算装置24とを設け、主PLC17に設けた運転操作ボード23を一人の操作員がディスプレイ13’の表示を見ながら操作することで2隻のフローティングクレーン1,2による重量構造物の共吊りを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量構造物を2隻のフローティングクレーンにより共吊りして運搬する際に、簡単な装置構成によって容易に共吊り制御できるようにしたフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋体を3隻のフローティングクレーンで共吊りして架設する場合における荷重管理を行うための荷重管理システムが特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1では、3隻のフローティングクレーンの各クレーンで検出したフック荷重をロードセルにより検出し、データロガーによりパソコンを介して出力したデータを無線モデムにより送信し、作業指揮所側の無線モデムにより受信し、受信データを1つのパソコンで演算処理し、その出力データをプリンタで記録すると共にモニタのCRTで表示しリアルタイムで集中管理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−096887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋体等の重量構造物を複数のフローティングクレーンを用いて運搬するような場合には、前記特許文献1に示すように、複数のフローティングクレーンを同期させて制御するためのパソコン等のコンピュータ制御機器による制御システムを構築するようにしており、この場合には、コンピュータ制御機器等を設置する他に新たに専用に開発したソフトが必要となり、そのために制御装置全体が非常に高価になるという問題がある。更に、上記したように、1隻のフローティングクレーンでは搬送できない重量構造物を、複数隻のフローティングクレーンにより共吊りして搬送する必要があるような作業は非常に希なケースであり、このような希なケースのために、前記したような高価な制御システムを装備することは非常に不経済であった。
【0006】
更に、海上等で使用されるフローティングクレーンに前記コンピュータ制御機器を設置した場合には、コンピュータ制御機器が潮風の影響や温度の変化といった厳しい環境で使用されることになるために性能上の不安があり、よって制御に不具合を生じたり、寿命が短縮されるといった問題を有する。
【0007】
一方、フローティングクレーンには、クレーンによる吊上げ、吊り下げの指示に応じて、吊上げ速度、吊下げ速度、吊フックの高さ、吊り荷重等を制御するために、制御内容を予めプログラムによって表現し、これを逐次実行することによりシーケンス制御を行うようにしたシーケンス制御装置(PLC:Programmable Logic Controller)が用いられている。シーケンス制御装置(PLC)は、一般産業機器等で一般に用いられている技術的に確立された汎用装置であり、従って、フローティングクレーンのような厳しい環境においても安定した制御を行うことができると共に、装置が安価であるため従来から一般的に用いられいてる。
【0008】
本発明は、フローティングクレーンに備えられているシーケンス制御装置を用いて簡略な装置構成によって共吊り制御を行えるようにしたフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2隻のフローティングクレーンを用い、各フローティングクレーンに備えた複数の吊りフックにより重量構造物を共吊りする際のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法であって、
一方のフローティングクレーンに備えられている一方のシーケンス制御装置と、他方のフローティングクレーンに備えられている他方のシーケンス制御装置とを通信ケーブルにより接続して、一方のシーケンス制御装置を主PLCとすると共に、他方のシーケンス制御装置を副PLCとし、
前記主PLCに、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボードと、夫々のフローティングクレーンの運転状況を表示するディスプレイと、演算装置とを設け、
巻上運転時には、ディスプレイに表示される各フックに掛る荷重と各フックの高さに基づいて、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンの各フックに掛る荷重が均等になるように巻上げを調節した後、
前記運転操作ボードにより全てのフックを同時に巻上げるシンクロ運転指令を主PLCに出力すると共に通信ケーブルを介して副PLCに出力して、重量構造物の地切りを行うと同時に夫々のフローティングクレーンにおける各フックの揃位置制御を行い、
この時、前記演算装置により、夫々のフローティングクレーンの全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差演算と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差演算とを行い、
荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されているときには前記運転操作ボードにより主PLC及び副PLCにシンクロ運転指令を出力して夫々のフローティングクレーンによる同時巻上げを行い、
前記荷重偏差と高さ偏差の少なくとも一方が所定値内から外れた時には警報を発して、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンによる巻上げを停止し、
又、巻下運転時には、運転操作ボードにより全てのフックを同時に巻下げるシンクロ運転指令を主PLCに出力すると共に、通信ケーブルを介して副PLCに出力し、
この時、夫々のフローティングクレーンの全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差演算と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差演算とを行い、
荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されたときには運転操作ボードにより主PLCと副PLCにシンクロ運転指令を出力して夫々のフローティングクレーンによる同時巻下げを行い、
前記荷重偏差と高さ偏差が所定値内から外れた時には警報を発し、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンの巻下げを停止する
ことを特徴とするフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法、に係るものである。
【0010】
上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記2隻のフローティングクレーンが相互間に設けた拘束部材により一体に固定されていることは好ましい。
【0011】
又、上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記2隻のフローティングクレーンは、主PLCと副PLCに備えたバラスト制御器によって姿勢制御されていることが好ましい。
【0012】
本発明は、2隻のフローティングクレーンを用い、各フローティングクレーンに備えた複数の吊りフックにより重量構造物を共吊りする際のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置であって、
一方のフローティングクレーンに備えられている一方のシーケンス制御装置と、他方のフローティングクレーンに備えられている他方のシーケンス制御装置とを通信ケーブルにより接続して、一方のシーケンス制御装置を主PLCとすると共に、他方のシーケンス制御装置を副PLCとし、
前記主PLCには、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボードと、夫々のフローティングクレーンの運転状況を表示するディスプレイと、演算装置とが設けられ、
前記運転操作ボードは、ノーマル制御とシンクロ制御とを切り替えるキースイッチと、キースイッチがノーマル制御に切替られたときに指示操作が可能なノーマル指示ボタンと、、主クレーン指示ボタンと、副クレーン指示ボタンとを有するノーマル制御指示部と、キースイッチがシンクロ制御に切替られたときに指示操作が可能なシンクロ指示ボタンと、一方のフローティングクレーンと他方のフローティングクレーンの全フックを同時に作動させる全フック指示ボタンと、全フックにおける前側のフックと後側のフックの何れかを作動させる前・後フック指示ボタンとを有するシンクロ制御指示部と、
夫々のフローティングクレーンの各フックの巻上・巻下を単独で指令することができ、更に、全フックによる巻上・巻下を同時に指令する作動と、全フックにおける前側のフックによる巻上・巻下を同時に指令する作動と、全フックにおける後側のフックによる巻上・巻下を同時に指令する作動とを行い得る操作レバーとを有し、
前記ディスプレイは、夫々のフローティングクレーンにおける全てのフックに掛る荷重と全てのフックの高さを少なくとも表示し、
前記演算装置は、夫々のフローティングクレーンにおける全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差とを演算し、演算した荷重偏差と高さ偏差が所定値内から外れた時に警報を発するようにしている
ことを特徴とするフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置、に係るものである。
【0013】
上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記2隻のフローティングクレーンが相互間に設けた拘束部材により一体に固定されていることは好ましい。
【0014】
又、上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記主PLC及び副PLCに、リールとコンセントを有するケーブル接続部が備えられていることは好ましい。
【0015】
又、上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記フローティングクレーンに対して他のフローティングクレーンが左右の何れ側に配置されても接続できるように接続部が主PLC及び副PLCの左右両側に備えられていることは好ましい。
【0016】
又、上記フローティングクレーンによる共吊り運転制御方法において、前記主PLC及び副PLCに、夫々のフローティングクレーンの姿勢を独自に制御するためのバラスト制御器を備えていることは好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法及び装置によれば、一方のフローティングクレーンに備えられている一方のシーケンス制御装置と、他方のフローティングクレーンに備えられている他方のシーケンス制御装置とを通信ケーブルにより接続して、一方のシーケンス制御装置を主PLCとすると共に、他方のシーケンス制御装置を副PLCとし、更に、前記主PLCに、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボードと、夫々のフローティングクレーンの運転状況を表示するディスプレイと、演算装置とを設け、前記主PLCに設けた運転操作ボードを一人の操作員がディスプレイの表示を見ながら操作することで2隻のフローティングクレーンによる重量構造物の共吊りを可能にしたので、通常のフローティングクレーンに安価な装置を設置するだけで、少ない作業人員により重量構造物の共吊りを容易に行うことができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】2隻のフローティングクレーンによって重量構造物を共吊りする際の制御装置の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用する2隻のフローティングクレーンにより重量構造物を共吊りする状態を示す側面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見た背面図である。
【図4】本発明に備えた運転操作ボードの一例を示す正面図である。
【図5】本発明に備えた補助ボードの一例を示す正面図である。
【図6】ディスプレイによる運転状態の表示例である。
【図7】本発明の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0020】
図2、図3は、発明を適用する2隻のフローティングクレーンにより重量構造物を共吊りする状態を示しており、図中1は、一方(主)のフローティングクレーン、2は他方(副)のフローティングクレーンであり、夫々のフローティングクレーン1,2は、バラストの注排によって姿勢制御を行えるようにしたバージ3上に、複数のジプを備えている。 即ち、図3に示す主のフローティングクレーン1のバージ3上の右側には重量構造物Wの前側(バージから遠い側)をフック5で吊上げる前側のジブ6aが設けられ、該ジブ6aに隣接した位置には重量構造物Wの後側(バージに近い側)をフック5で吊上げる後側のジブ6bが備えられ、又、バージ3上の左側には重量構造物Wの前側(バージ3から遠い側)をフック5で吊上げる前側のジブ7aが設けられ、該ジブ7aに隣接した位置には重量構造物Wの後側(バージ3に近い側)をフック5で吊上げる後側のジブ7bが備えられている。
【0021】
又、図3に示す副のフローティングクレーン2のバージ3上にも、前記主のフローティングクレーン1の場合と同様に配置されたジブ6a,6b、7a,7bが設けられている。
【0022】
更に、上記主のフローティングクレーン1のバージ3と、副のフローティングクレーン2のバージ3との相互間には、拘束部材4が配置されて、主のフローティングクレーン1と副のフローティングクレーン2は互いに固定されるようになっている。
【0023】
そして、夫々のフローティングクレーン1,2に備えたジブ6a,6b、7a,7bの計8個のフック5によって、岸壁8等に載置された重量構造物Wの長手方向の前後複数箇所を同時に吊上げて共吊りを行うになっている。
【0024】
図1は、上記2隻のフローティングクレーン1,2によって重量構造物Wを共吊りする際の制御装置の一例を示すブロック図である。
【0025】
本発明で用いられる従来から使用されている夫々のフローティングクレーン1,2にはシーケンス制御装置Sが備えられている。
【0026】
上記従来のシーケンス制御装置Sには、ロードセル等によって検出された各フック5に作用する荷重9と、ワイヤの巻取り長さ等で検出されるフック5の高さ10と、ジブ6a,6b、7a,7bの起伏角11と、バージ3の傾き角12等の運転状況が入力されており、それらの運転状況は夫々のシーケンス制御装置Sに備えたディスプレイ13に表示されるようになっており、更に、シーケンス制御装置Sは前記フック5の荷重9とフック5の高さ10等に基づいて、前記各ジブ6a,6b、7a,7bによる巻上げを作動させるインバータユニット14を制御して、フック5の揃位置制御(高さ位置を揃える制御)を行うようになっている。
【0027】
又、シーケンス制御装置Sは、前記バージ3の傾き角度に応じてバージ3に対するバラストの注排を行うことにより夫々のフローティングクレーン1,2の姿勢制御を行うようにしたバラスト制御器15を有している。
【0028】
本発明は、上記従来のフローティングクレーン1,2に備えられているシーケンス制御装置Sを最大限に利用し、簡略な構成によって、重量構造物Wの共吊りを容易に行えるようにしたものであり、このため、前記主のフローティングクレーン1に備えられているシーケンス制御装置Sと、副のフローティングクレーン2に備えられているシーケンス制御装置Sとの間を通信ケーブル16により接続し、一方のシーケンス制御装置Sを主PLC17とすると共に、他方のシーケンス制御装置Sを副PLC18とする。
【0029】
この時、前記主PLC17及び副PLC18には、リール19とコンセント20を有するケーブル接続部21を設けておき、前記通信ケーブル16の両端に備えたプラグ22を前記ケーブル接続部21のコンセント20に差込むことにより、主PLC17と副PLC18を容易に接続できるようにしている。又、主のフローティングクレーン1に対して副のフローティングクレーン2が左右の何れ側に配置されても容易に接続できるように、ケーブル接続部21を図1に示すように主PLC17及び副PLC18の左右両側に備えておくことは好ましい。
【0030】
更に、前記主PLC17には、重量構造物Wの巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボード23と、演算装置24とが設けてあり、更に、主PLC17には、主のフローティングクレーン1の運転状況と通信ケーブル16を介して送られてくる副のフローティングクレーン2の運転状況とを図6のように表示するようにしたディスプレイ13’を設けている。
【0031】
図4は前記運転操作ボード23の一例を示したものであり、該運転操作ボード23には、ノーマル制御とシンクロ制御とを切り替えるキースイッチ25と、キースイッチ25が切替られた側が点灯するノーマル表示ランプ26及びシンクロ表示ランプ27が設けてあり、更に、ノーマル表示ランプ26が点灯したときに指示操作を可能にするノーマル指示ボタン28と、主クレーン指示ボタン29と、副クレーン指示ボタン30とを有するノーマル制御指示部31と、シンクロ表示ランプ27が点灯したときに指示操作を可能にするシンクロ指示ボタン32と、主のフローティングクレーン1と副のフローティングクレーン2の全フック5を同時に作動させる8フック指示ボタン33(全フック指示ボタン)と、全フック5における前側のフック5(ジブ6a,6aに対応)と、後側のフック5(ジブ6b,7bに対応)の何れかを作動させる4フック指示ボタン34(前・後フック指示ボタン)とを有するシンクロ制御指示部35が設けられている。36は、前後のジブ6a,6b、7a,7bを独自に起伏する際に指示するためのジブ起伏指示ボタンである。
【0032】
又、前記運転操作ボード23には、4本の操作レバー37,38,39,40が設けられている。この操作レバー37,38,39,40は、前記ノーマル制御指示部31によるノーマル制御に基づいて、主のフローティングクレーン1の各フック5の巻上・巻下、又は副のフローティングクレーン2の各フック5の巻上・巻下を単独で指令できるように、ジブ6a,6b、7a,7bに割り付けられており、更に、前記シンクロ制御指示部35によるシンクロ制御に基づいて、操作レバー37は8フックによる巻上・巻下を同時に指令するように割り付けられ、操作レバー38は8フックにおける前側の4フックによる巻上・巻下を同時に指令するように割り付けられ、操作レバー39は8フックにおける後側の4フックによる巻上・巻下を同時に指令するように割り付けられている。
【0033】
即ち、図4に示すように、キースイッチ25を右周りに回転して切り替えると、ノーマル表示ランプ26がハッチングで示すように点灯してノーマル制御に切り替えられたことが表示される。これにより、ノーマル制御指示部31による指示が可能になるので、ノーマル指示ボタン28を押してこれを点灯させ、更に、例えば主クレーン指示ボタン29を押して点灯させると、操作レバー37,38,39,40によって主のフローティングクレーン1の各ジブ6a,6b、7a,7bによるフック5の巻上・巻下を単独で制御できるようになる。又、副クレーン指示ボタン30を押して点灯させると、操作レバー37,38,39,40によって副のフローティングクレーン2の各ジブ6a,6b、7a,7bによるフック5の巻上・巻下を単独に制御できるようになる。
【0034】
又、前記キースイッチ25を左周りに回転して切り換えると、シンクロ表示ランプ27が点灯し、シンクロ制御指示部35による指示が可能になるので、シンクロ指示ボタン32を押してこれを点灯させ、更に、例えば8フック指示ボタン33を押して点灯させると、操作レバー37によって全てのフック5(8フック)を同時に巻上・巻下するシンクロ制御が可能になる。
【0035】
また、4フック指示ボタン34を押して点灯させると、操作レバー38を操作して前側のジブ6a,7aによる4フックの巻上・巻下と、操作レバー39を操作して後側のジブ6b,7bによる4フックの巻上・巻下げを行えるようになる。
【0036】
前記演算装置24は、主PLC17による主のフローティングクレーン1の運転状況と通信ケーブル16を介して送られてくる副PLC18からの副のフローティングクレーン2の運転状況とに基づいて、全てのフック5に掛る荷重9に基づく荷重偏差と、全てのフックの高さ10に基づく高さ偏差とを演算しており、演算した荷重偏差と高さ偏差が所定値内から外れた時には、運転操作ボード23に設けたブザー等の警報装置41から警報を発するようになっている。
【0037】
又、前記副PLC18には、図5に示すように、ノーマル制御とシンクロ制御とを切り替えるキースイッチ42と、前記警報装置41と連動して警報を発するブザー等の警報装置43を備えた補助ボード44が備えられている。補助ボード44のキースイッチ42をノーマル側に切り替えた状態で、前記運転操作ボード23のキースイッチ25をノーマル側に切り替えてノーマル指示ボタン28を押してこれを点灯させ、更に、副クレーン指示ボタン30を押して点灯させると、操作レバー37,38,39,40の操作により副のフローティングクレーン2の各ジブ6a,6b、7a,7bによるフック5の巻上・巻下を単独で行えるようになっている。又、補助ボード44のキースイッチ42をシンクロ側に切り替えた状態で、前記運転操作ボード23のキースイッチ25をシンクロ側に切り替えてシンクロ指示ボタン32を押してこれを点灯させ、更に、例えば8フック指示ボタン33を押して点灯させると、操作レバー37の操作により夫々のフローティングクレーン1,2の全てのフック5の巻上・巻下を同時に行うシンクロ制御が行えるようになっている。
【0038】
次に、上記形態例の作動を、前記図1〜図6及び制御のフローチャートを示す図7を参照して説明する。
【0039】
図2、図3に示すフローティングクレーン1,2は相互間に設けた拘束部材により一体に固定されており、フローティングクレーン1,2は、図示しないタグボート等により重量構造物Wが載置された岸壁8に近い吊上げ位置に曳航して位置決めし、続いて、各ジブ6a,6b、7a,7bに吊り下げられたフック5を重量構造物Wの長手方向複数箇所における前後に掛けることにより重量構造物Wを吊上げできる状態にする。
【0040】
更に、前記主PLC17と副PLC18に備えたケーブル接続部21のコンセント20に、通信ケーブル16の両端のプラグ22を差込むことにより、前記主PLC17と副PLC18を通信可能な状態に接続する。
【0041】
重量構造物Wの吊上運転時は、前記副PLC18に備えた図5に示す補助ボード44のキースイッチ42を右回りに回転させてノーマル側に切り替え、又、図4に示す運転操作ボード23のキースイッチ25を右回りに回転させてノーマル側に切り替え、ノーマル指示ボタン28を押すことにより点灯させる。
【0042】
これにより、主クレーン指示ボタン29を押して点灯させた場合は、操作レバー37,38,39,40を例えば前側(図4の上側)に倒す操作を行うことにより、主のフローティングクレーン1の各ジブ6a,6b、7a,7bによるフック5の巻上げが行われ、又、副クレーン指示ボタン30を押して点灯させた場合には、操作レバー37,38,39,40の操作により、副のフローティングクレーン2の各ジブ6a,6b、7a,7bによるフック5の巻上げが行われるので、これにより、夫々のフローティングクレーン1,2により所定の荷重での初期巻上げを行う。即ち、重量構造物Wの全重量に対して例えば80%の重量が全フック5によって分担されるように、図6に示すディスプレイ13'に表示された荷重を見ながら巻上げを調整する。図6は3600トンの重さを有する舶用エンジンである重量構造物Wを吊上げた時の運転状態の一例を示したものであり、8フック5が均等に荷重を分担した場合には夫々のフック5の荷重は略450トンとなる。従って、上記初期巻上時には、450トンの80%である360トンが夫々のフック5の荷重になるよう操作レバー37,38,39,40を操作して各フック5の吊上げ荷重を調整する。これにより、各ジブ6a,6b、7a,7bの吊上げワイヤは、重量構造物Wの吊上げが可能な状態に緊張し、図7に示す共吊運転条件が成立した状態となる。
【0043】
続いて、前記副PLC18に備えた図5に示す補助ボード44のキースイッチ42を左回りに回転させてシンクロ側に切り替え、又、図4に示す運転操作ボード23のキースイッチ25を左回りに回転させてシンクロ側に切り替え、シンクロ指示ボタン32を押して点灯させ、更に、8フック指示ボタン33を押して点灯させると、操作レバー37による操作が可能になるので、操作レバー37を例えば前側(図4の上側)に倒す操作を行うことにより、夫々のフローティングクレーン1,2の全てのフック5による巻上げを同時に行わせるシンクロ運転指令が主PLC17に出力されると共に、通信ケーブル16を介して副PLC18に出力される。
【0044】
これにより、主PLC17と副PLC18は、図7に示すように、夫々の巻上げインバータユニット14に運転指令及び速度指令を発して全てのフック5を同時に吊上げることにより重量構造物Wを岸壁8から切離す地切りを行い、更にこの時、各フック5に掛る荷重が略均等で且つ各フック5の高さが略揃った状態になるように、主PLC17及び副PLC18は夫々のフローティングクレーン1,2におけるフック5の揃位置制御を別個に行う。
【0045】
この時、主PLC17に設けた演算装置24は、夫々のフローティングクレーン1,2の全てのフック5に掛る荷重9に基づく荷重偏差演算と、全てのフック5の高さ10に基づく高さ偏差演算とを行っており、荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されているときには、前記運転操作ボード23の操作レバー37により8フックを同時巻上げるシンクロ運転によって、夫々のフローティングクレーン1,2は重量構造物Wを共吊りの状態で巻上げることができる。
【0046】
一方、前記荷重偏差と高さ偏差の一方又は両方が所定値内から外れた時には、演算装置24は警報装置41を介して警報を発生させる。この時、ブザーによる警報装置41によって警報が発せられる以外に、図6のディスプレイ13,13’の表示がカラー表示の状態から白黒表示に変化することによって警報を知らせるようにしてもよい。警報が発せられると、運転操作ボード23の操作レバー37を操作し夫々のフローティングクレーン1,2による巻上げを停止する。
【0047】
このように、警報が発せられて巻上げを停止した時には、図6に表示される運転状態からフック5の荷重やフック高さが好ましくない状態になった原因を見つけ出すことができるので、各フック5の荷重の差が大きい場合には、前記各キースイッチ25,42をノーマル側に切り替えて、ノーマル指示ボタン28を押して点灯させ、更に主クレーン指示ボタン29又は副クレーン指示ボタン30を押して点灯させた後、操作レバー37,38,39,40を操作することにより各フック5の荷重が略均等になるように調節する調整操作を行い、又、前側のジブ6a,7aによるフック5の荷重と後側のジブ6b,7bによるフック5の荷重が大きく異なっている場合には、前記キースイッチ25,42をシンクロ側に切り替えて、シンクロ指示ボタン32を押して点灯させ、更に4フック指示ボタン34を押して点灯させた後、操作レバー38により前側の4フック5を昇降させるか、操作レバー39により後側の4フック5を昇降させる調整操作を行う。又、上記フック5の荷重が前側と後側とで大きく異なる原因がバージ3の傾きである場合には、主PLC17及び副PLC18はバラスト制御器15にバラストの給排指令を行って、バージ3の傾き調整も同時に行うようにする。この時、バラストの注排によるバージ3の傾きの調整は応答が遅く時間がかかるため、重量構造物Wを吊上げることによって生じるバージ3の傾きが事前に分かっている場合には、バラスト注排によるバージ3の傾き調整を先行して行うようにしてもよい。
【0048】
又、重量構造物Wを吊上げた状態のフローティングクレーン1,2を移動させ、例えば重量構造物Wを船等に搭載するために巻下げを行う巻下運転時には、前記運転操作ボード23と補助ボード44のキースイッチ25,42がシンクロ側に切り替えられ、更に、シンクロ指示ボタン32が押された状態で8フック指示ボタン33を押すと、操作レバー37による操作が可能になるので、操作レバー37を例えば後側(図4の下側)に倒す操作を行うことにより、夫々のフローティングクレーン1,2の全てのフック5による巻下げを同時に行う巻下運転指令が、主PLC17に出力されると共に、通信ケーブル16を介して副PLC18に出力される。
【0049】
これにより、主PLC17と副PLC18は、夫々の巻上げインバータユニット14に運転指令及び速度指令を発して全てのフック5を同時に巻下げるシンクロ運転により重量構造物Wを巻下げることができる。
【0050】
この時、主PLC17に設けた演算装置24は、夫々のフローティングクレーン1,2の全てのフック5に掛る荷重9に基づく荷重偏差演算と、全てのフック5の高さ10に基づく高さ偏差演算とを行っており、荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されているときには、前記操作レバー37の操作により8フック5の巻下げ速度を調節しながらシンクロ運転により重量構造物Wを巻下げて船等に対して据え付けることができる。
【0051】
前記演算装置24で演算した荷重偏差と高さ偏差の一方或いは両方が所定値内から外れた時には、警報装置41、43によって警報が発せられせるので、運転操作ボード23の操作レバー37により夫々のフローティングクレーンの巻下げを停止する。そして、前記と同様に各フック5の調整操作を行って荷重偏差と高さ偏差が所定値内に保持されるようにする。
【0052】
上記したように、一方(主)のフローティングクレーン1に備えられている一方のシーケンス制御装置Sと、他方(副)のフローティングクレーン2に備えられている他方のシーケンス制御装置Sとを通信ケーブル16により接続して、一方のシーケンス制御装置Sを主PLC17とすると共に、他方のシーケンス制御装置Sを副PLC18とし、更に、前記主PLC17に、重量構造物Wの巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボード23と、夫々のフローティングクレーン1,2の運転状況を表示するディスプレイ13’と、演算装置24とを設け、前記主PLC17に設けた運転操作ボード23を一人の操作員がディスプレイ13’の表示を見ながら操作することで2隻のフローティングクレーン1,2による重量構造物Wの共吊りを可能にしたので、通常のフローティングクレーンに安価な装置を設置するだけで、少ない作業人員により重量構造物の共吊りを容易に行うことができる。
【0053】
尚、本発明のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法及び装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 一方(主)のフローティングクレーン
2 他方(副)のフローティングクレーン
3 バージ
4 拘束部材
5 フック
9 荷重
10 高さ
13 ディスプレイ
13’ ディスプレイ
15 バラスト制御器
16 通信ケーブル
17 主PLC
18 副PLC
19 リール
20 コンセント
21 ケーブル接続部
23 運転操作ボード
24 演算装置
25 キースイッチ
28 ノーマル指示ボタン
29 主クレーン指示ボタン
30 副クレーン指示ボタン
31 ノーマル制御指示部
32 シンクロ指示ボタン
33 8フック指示ボタン(全フック指示ボタン)
34 4フック指示ボタン(前・後フック指示ボタン)
35 シンクロ制御指示部
37,38,39,40 操作レバー
41 警報装置
S シーケンス制御装置
W 重量構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2隻のフローティングクレーンを用い、各フローティングクレーンに備えた複数の吊りフックにより重量構造物を共吊りする際のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法であって、
一方のフローティングクレーンに備えられている一方のシーケンス制御装置と、他方のフローティングクレーンに備えられている他方のシーケンス制御装置とを通信ケーブルにより接続して、一方のシーケンス制御装置を主PLCとすると共に、他方のシーケンス制御装置を副PLCとし、
前記主PLCに、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボードと、夫々のフローティングクレーンの運転状況を表示するディスプレイと、演算装置とを設け、
巻上運転時には、ディスプレイに表示される各フックに掛る荷重と各フックの高さに基づいて、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンの各フックに掛る荷重が均等になるように巻上げを調節した後、
前記運転操作ボードにより全てのフックを同時に巻上げるシンクロ運転指令を主PLCに出力すると共に通信ケーブルを介して副PLCに出力して、重量構造物の地切りを行うと同時に夫々のフローティングクレーンにおける各フックの揃位置制御を行い、
この時、前記演算装置により、夫々のフローティングクレーンの全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差演算と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差演算とを行い、
荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されているときには前記運転操作ボードにより主PLC及び副PLCにシンクロ運転指令を出力して夫々のフローティングクレーンによる同時巻上げを行い、
前記荷重偏差と高さ偏差の少なくとも一方が所定値内から外れた時には警報を発して、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンによる巻上げを停止し、
又、巻下運転時には、運転操作ボードにより全てのフックを同時に巻下げるシンクロ運転指令を主PLCに出力すると共に、通信ケーブルを介して副PLCに出力し、
この時、夫々のフローティングクレーンの全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差演算と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差演算とを行い、
荷重偏差と高さ偏差が設定値内に保持されたときには運転操作ボードにより主PLCと副PLCにシンクロ運転指令を出力して夫々のフローティングクレーンによる同時巻下げを行い、
前記荷重偏差と高さ偏差が所定値内から外れた時には警報を発し、運転操作ボードにより夫々のフローティングクレーンの巻下げを停止する
ことを特徴とするフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法。
【請求項2】
前記2隻のフローティングクレーンは相互間に設けた拘束部材により一体に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法。
【請求項3】
前記2隻のフローティングクレーンは、主PLCと副PLCに備えたバラスト制御器によって姿勢制御されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御方法。
【請求項4】
2隻のフローティングクレーンを用い、各フローティングクレーンに備えた複数の吊りフックにより重量構造物を共吊りする際のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置であって、
一方のフローティングクレーンに備えられている一方のシーケンス制御装置と、他方のフローティングクレーンに備えられている他方のシーケンス制御装置とを通信ケーブルにより接続して、一方のシーケンス制御装置を主PLCとすると共に、他方のシーケンス制御装置を副PLCとし、
前記主PLCには、重量構造物の巻上・巻下運転指令を発する運転操作ボードと、夫々のフローティングクレーンの運転状況を表示するディスプレイと、演算装置とが設けられ、
前記運転操作ボードは、ノーマル制御とシンクロ制御とを切り替えるキースイッチと、キースイッチがノーマル制御に切替られたときに指示操作が可能なノーマル指示ボタンと、主クレーン指示ボタンと、副クレーン指示ボタンとを有するノーマル制御指示部と、キースイッチがシンクロ制御に切替られたときに指示操作が可能なシンクロ指示ボタンと、一方のフローティングクレーンと他方のフローティングクレーンの全フックを同時に作動させる全フック指示ボタンと、全フックにおける前側のフックと後側のフックの何れかを作動させる前・後フック指示ボタンとを有するシンクロ制御指示部と、
夫々のフローティングクレーンの各フックの巻上・巻下を単独で指令することができ、更に、全フックによる巻上・巻下を同時に指令する作動と、全フックにおける前側のフックによる巻上・巻下を同時に指令する作動と、全フックにおける後側のフックによる巻上・巻下を同時に指令する作動とを行い得る操作レバーとを有し、
前記ディスプレイは、夫々のフローティングクレーンにおける全てのフックに掛る荷重と全てのフックの高さを少なくとも表示し、
前記演算装置は、夫々のフローティングクレーンにおける全てのフックに掛る荷重に基づく荷重偏差と、全てのフックの高さに基づく高さ偏差とを演算し、演算した荷重偏差と高さ偏差が所定値内から外れた時に警報を発するようにしている
ことを特徴とするフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置。
【請求項5】
前記2隻のフローティングクレーンは相互間に設けた拘束部材により一体に固定されていることを特徴とする請求項4に記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置。
【請求項6】
前記主PLC及び副PLCには、リールとコンセントを有するケーブル接続部が備えられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置。
【請求項7】
前記フローティングクレーンに対して他のフローティングクレーンが左右の何れ側に配置されても接続できるように接続部が主PLC及び副PLCの左右両側に備えられていることを特徴とする請求項6に記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置。
【請求項8】
前記主PLC及び副PLCには、夫々のフローティングクレーンの姿勢を独自に制御するためのバラスト制御器を備えていることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1つに記載のフローティングクレーンによる共吊り運転制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−215334(P2010−215334A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62778(P2009−62778)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】