説明

フード構造

【課題】車体軽量化のためにフード部材を樹脂で構成された自動車が提案されている。樹脂製の部材は、従来の金属製の部材と比較して熱膨張率が大きいのが特徴である。従ってフード部材の最大膨張時にフェンダー等の林接部材との割線幅を設計値として決めると、低温時の最大収縮時には、割線幅が大きくなりすぎ、外観が悪くなるという課題があった。
【解決手段】フード部材の端部に垂下したフランジ部を形成する一方、フェンダー等のフード部材に隣接する隣接部材に、上部にガイド形状を有するスペーサを配設し、フランジ部の端部はスペーサ部材の上部より車内側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体前部で主としてエンジンカバーとなるフード部材とその隣接部材との関係からなるフード構造に関する。より詳しくは、一般的に膨張係数が金属よりも大きい樹脂製のフード部材とフェンダーとの割線幅が温度によって広くなりすぎたり、フード部材が長くなりすぎで、フードが閉じなくなることを防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前方部分には、通常エンジンルームが形成される場合が多く、車体完成後に様々な調整などを行うために、開閉可能なフードで覆われる。エンジンが車体後部に配置される場合であっても、荷物入れのスペースとして利用するために、やはり開閉可能なフードで覆われる。従って、フードは、表面的には、左右のフェンダーとフロントグリル及びフロントウインドの取付枠に囲まれる。
【0003】
フロントグリルからフードとフェンダーにかかる部分は車体の顔であると共に、車体の空気力学的特性を決める上でも重要な部分である。従って、これらの部分は望ましくはできるだけ一体に近い仕上がりにするのが望ましい。つまり、フードとフェンダーの間の割線部分についても、できるだけ狭い幅で仕上げる事が望まれる。
【0004】
特許文献1には、フードとフェンダーの取り付け位置関係を所定の関係にするためのブラケットについて開示されている。ここでは、フードリッジに取り付けるブラケットに、予め割線幅に相当する厚みを有する当接片が切り離し可能に形成されている。フードはこの当接片に当接する位置で車体に枢着され、その後当接片を切り離して、ブラケットにフェンダーを取り付ける。
【0005】
このようにすることで、フードとフェンダーは必ず当接片の厚みに応じた割線幅を有して組み上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−7991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、省エネを配慮した自動車が環境問題の点から注目されている。車体の軽量化は、燃費の向上の点で有力な方法である。樹脂は金属よりも軽量で安価であるので、フード部材に樹脂を用いることが望ましい。しかし、自動車は熱帯地域から寒冷地域まで大きな温度差の中で利用される。樹脂は金属よりも熱膨張係数が大きいため、最大熱膨張時の寸法と、最大熱収縮時の寸法の差が大きいという特徴を有する。
【0008】
最大熱膨張時に所定の割線幅を有するようにフードとフェンダーの位置を合わせると、最大熱収縮時には割線幅が大きくなりすぎ、外観が悪くなる。一方、最大熱収縮時に割線幅を決めると、最大熱膨張時にはフードがフェンダーに当接して、閉まらなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決する目的で想到されたフード構造である。より具体的には、本発明は、
車体前方に開閉可能に枢着され前記枢着箇所以外の少なくとも1つの端部に下向きに延設されたフランジ部を有する樹脂製のフード部材と、
前記フード部材に隣接する隣接部材の内、少なくとも1つの隣接部材の縦壁に沿って配設され、上部がガイド形状に形成されたスペーサ部材とを有し、
前記フランジ部は前記スペーサの上部より車体内側に位置されたフード構造を提供する。
【0010】
また、本発明のフード構造は、前記スペーサの上部は、前記フード部材が閉じた位置の時に、前記フード部材の表面より下側に配置されている。
【0011】
また、本発明のフード構造は、前記スペーサ部材の上部の外端位置は、最大膨張時の前記フランジ端部位置よりも、車内側に位置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、端部に垂下したフランジ部を有するフード部材と、フードに隣接する隣接部材にガイド形状を形成したスペーサ部材を配置したので、フード部材のフランジ部がスペーサ部材のガイド形状によって車体内部に導かれるため、最大熱膨張時であっても、樹脂製のフードを閉じることができる。つまり、最大熱収縮時に所定の割線幅になるように取り付けてあれば、最大熱膨張時にフードが閉まらないという問題が発生しないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自動車の全体を示す図である。
【図2】本発明のフード構造を示す図である。
【図3】本発明のフード構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明のフード構造を有する自動車1の前方部を示す。車体前方にはエンジンルームが配置されており、エンジンルームを覆うようにフード部材2が配置される。フード部材は、フロントウインド7の下側の両端部の車体部材9に枢着されており、前端部から上に向かって開くことができる。フード部材の両側面にはフェンダー3が配置されている。
【0015】
フェンダー3の前方部にはライト6が配置されている。フード部材2の前端部の下方にはフロントバンパー5が配置されている。フロントバンパーは、車体の最前部で車幅方向に延設されている。フロントバンパーの中央部は空気取り入れ口として開口しており、その内部にフロントグリル4が配置されている。
【0016】
ここで、フェンダー3とフード部材2との隙間を割線50と呼び、この幅を割線幅と呼ぶ。
【0017】
図1(b)は、図1(a)の符号12の部分の拡大図である。ここでA−Aの断面図を図2に示す。本発明のフード構造では、フード部材2は樹脂製である。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、外装用として使われるため、耐候グレードのABS樹脂、PP材、およびエンジニアプラスチック等が好適に利用できる。また、これらの材料の表面に平滑性を高めるためコーディング処理を行ってもよい。
【0018】
フード部材2のフェンダー側の端部には端部から垂下して延設されているフランジ部21を有する。フランジ21は、熱によって膨張したフード部材を後述するスペーサ部材40のガイド形状に沿わせるので、一定の長さが必要である。短すぎるとスペーサ部材の上部のガイド形状に沿わないし、長すぎるとフード部材が閉まりにくくなるからである。
【0019】
フランジ部21は、フード部材2とフェンダー3が対向している長さだけ延設されていてもよい。また、フード部材2とフェンダー3が対向している部分(すなわち、割線部分)の一部だけに配置されていてもよい。
【0020】
フェンダー3は車体の前方側面を覆っている部材であり、その上端からは車体内側方向に垂下する縦壁31が形成されている。縦壁31には、後述するスペーサ部材40を係止するための係止孔33が形成されている。また、縦壁31には、車体外側方向から車体内側方向へ伸びる横壁32が形成されていてもよい。また、横壁32には、スペーサ部材40を係止する貫通孔34が形成されていてもよい。
【0021】
スペーサ部材40は、少なくともスペーサ本体41とスペース本体の一方の面に形成された鍵状係止部44を有し、スペーサ本体41の上部45にはガイド形状を有する。また、横壁32に沿ったスペーサフランジ部42を有していてもよい。またスペーサフランジ部には突起部の先に返しのついた突起状係止部43を形成してもよい。
【0022】
スペーサ部材40の材質は、特に限定されるものではない。金属製であっても樹脂製であってもよい。しかし、外装の表面には現れないが、風雨にさらされる部分であるので、金属の場合は、錆びにくい金属であることが好ましい。同様に樹脂製の場合は耐候性を有することが望ましい。
【0023】
スペーサ部材40は、フェンダー3の縦壁31の係止孔33に鍵状係止部44を係合させることで係止される。また、縦壁31に横壁32が形成されている場合は、スペーサ部材40にスペーサフランジ部42を有していてもよく、スペーサフランジ部の下側に形成された鍵状係止部43を、横壁32の貫通孔34に係合させて、スペーサ部材をより強固に固定することができる。
【0024】
スペーサ部材40の上部45はフード部材2が閉まった時の表面の位置より下側に配置される。フード部材2が閉まった時にスペーサ部材が見えてしまうのは外観が悪くなってしまうからである。
【0025】
スペーサ本体41の上部45に形成されるガイド形状は、フード部材のフランジ部21を車体内側方向に誘導する形状であれば、特に限定されるものではない。例えば、車体外側方向から車体内側方向へ傾斜面を有する傾斜形状や、スペーサ本体よりも車体外側方向に中心を持つ円弧形状が好ましい。
【0026】
なお、ここでは、スペーサ部材40は、フェンダーの縦壁31に係止されるように説明したが、スペーサ部材40はフード部材2に隣接する部材であれば、フェンダーに限定されることはない。例えば、特許文献1のようにフェンダーがフードリッジに固定される場合であれば、スペーサ部材はフードリッジに固定されてもよい。
【0027】
また、スペーサ部材は、車体の側面側だけでなく、フロントグリルとフードの間に設けてもよい。デザインとして、フード部材の最前端がフロントグリルより後方に位置する場合もあるからである。従って、スペーサ部材40は、フード部材の隣接部材に固定されればよい。
【0028】
フード部材2は、樹脂製であるので、熱によって寸法が変わる。特に樹脂は金属と比べ、1桁以上熱膨張率が異なる。従って、寒暖の差が大きいとフェンダーとフード部材の位置関係に大きな差が出てくる。フード部材は熱によって膨張し図2中の符号14方向に変位する。逆に温度が下がることによって符号15の方向に変位する。
【0029】
ここで、通常自動車のフード部材が曝される温度のうち最も高い温度における場合を「最大膨張時」とよび、最も温度が低い場合を「最大収縮時」と呼ぶ。
【0030】
フード部材が最大膨張時に、フェンダー3と面一に閉まる時には、フード部材3のフランジ部21がスペーサ部材40の上部45に当接し、さらに下向きの力が加わった際に、スペーサ本体41の上部45に形成されたガイド形状に沿って下側に変位し嵌合する。従って、フランジ部21の先端22は、フード部材の最大膨張時には、スペーサ本体41の先端45より車体内側方向になるように位置させる。
【0031】
この時フード部材2は、スペーサ本体21の厚み分がフェンダー3との隙間を形成するので、割線50の幅はスペーサ本体21の厚み分だけは確実に確保できる。また、フード部材は、無理やりスペーサ本体にはめ込むことになるので、歪が発生する。この歪は、フード部材が車体の高さ方向に盛り上がることで吸収されている。フード部材2は広い面積を有しており、フード部材2の高さ方向の盛り上がりは目立つことはない。
【0032】
図3には最大収縮時のフード部材2とフェンダー3の位置関係を示す。フード部材2のフランジ部21は、フェンダーから離れる方向(符号15)に収縮する。そのため、フランジ部21はスペーサ本体41に沿って、下方向に変位させることができる。
【0033】
この場合も、フード部材2とフェンダー3の割線50の幅は、スペーサ本体41の厚みを確保することができる。
【0034】
以上のように本発明のフード構造では、樹脂製のフード部材2が、端部に垂下方向に延設されたフランジ部21を有し、フード部材2に隣接する隣接部材に、上部にガイド形状を有するスペーサ部材40を配設したので、フード部材2の最大膨張時には、ガイド形状に沿ってフード部材のフランジが車体内部方向に誘導されるので、フード部材2とフェンダー3の隙間はスペーサ本体41の厚み分が確保される。
【0035】
また、最大収縮時には、フード部材のフランジがスペーサ本体に沿って下がるので、やはりフード部材2とフランジの間はスペーサ本体41の厚み分が確保される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、自動車のフロント側のフード構造だけでなく、リア側のフード構造としても利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 自動車
2 フード部材
3 フェンダー
4 フロントグリル
5 フロント版バー
6 ライト
7 フロントウインド
9 車体部材
21 フランジ部
22 フランジ部の先端
30
31 フェンダーの縦壁
32 フェンダーの横壁
33 係止孔
34 貫通孔
40 スペーサ部材
41 スペーサ本体
42 スペーサフランジ部
43 突起状係止部
44 鍵状係止部
45 スペーサ部の上部
50 割線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前方に開閉可能に枢着され前記枢着箇所以外の少なくとも1つの端部に下向きに延設されたフランジ部を有する樹脂製のフード部材と、
前記フード部材に隣接する隣接部材の内、少なくとも1つの隣接部材の縦壁に沿って配設され、上部がガイド形状に形成されたスペーサ部材とを有し、
前記フランジ部は前記スペーサの上部より車体内側に位置されたフード構造。
【請求項2】
前記スペーサの上部は、前記フード部材が閉じた位置の時に、前記フード部材の表面より下側である請求項1に記載されたフード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−214983(P2010−214983A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60570(P2009−60570)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】