説明

ブラダー

【課題】耐久性が向上した寿命の長いタイヤ加硫用ブラダーを提供する。
【解決手段】外層がシリコーンゴム組成物、内層が末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物からなるブラダーである。シリコーンゴム組成物はミラブル型であることが好ましく、また、1分子中に2個以上のアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン;100質量部、平均組成式(RSiO(4−x−y)/2(Rは、脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基であり、x、yはそれぞれ、1≦x≦2.2、0.002≦y≦1、かつ、1.002≦x+y≦3を満足する正数である)で表され、1分子中に2個以上の水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン;0.01〜10質量部、比表面積100m/g以上の乾式シリカ;20〜80質量部、および、加硫剤を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラダーに関し、詳しくは、耐久性が向上した寿命の長いタイヤ加硫用ブラダー(以下、単に「ブラダー」とも称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤの製造工程においては、タイヤの各構成部材を組み立てて生タイヤ(未加硫タイヤ)を成型する際に用いるタイヤ成型用ブラダーと、加硫時に最終的な製品タイヤ形状を付与するために用いるタイヤ加硫用ブラダーとの、大きく分けて2種類のブラダーが使用されている。
【0003】
このうちタイヤ成型用ブラダーとしては、従来、天然ゴム配合物を用いて形成され、加硫された円筒状部材の表面に接着溶剤を塗布し、さらに硬化性シリコーンオイルを塗布したものが用いられている。また、タイヤ加硫用ブラダーには、従来、耐熱性および伸びを確保するためにブチルゴム配合物が用いられているが、ブラダーと加硫前の生タイヤとの密着を防止するために、ブラダー外表面および生タイヤ内面(インナーライナー)の双方に離型剤を塗布することが必須となっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、離型剤の使用を必須とすることから、工程増となるとともに加硫時にタイヤ品質に悪影響を及ぼす場合があり、離型剤なしで使用可能なブラダーの実現が求められていた。かかる問題の解決手段として、特許文献2に記載されているブラダーの外層をシリコーンゴム、内層をブチルゴムとする方法、また、特許文献3に記載されているブラダーの外層をシリコーンゴム、内層にフッ素ゴムとする方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−339927号公報
【特許文献2】特開昭57−181842号公報
【特許文献3】特開平5−31724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2、3によれば、シリコーンゴムを外層とすることで、離型剤を塗布することなく離型性能を高めることができる。また、シリコーンゴムはスチームと接触すると加水分解してしまうが、内層にブチルゴムやフッ素ゴムを配置することで、シリコーンゴムに直接スチームが接触することを防止し、シリコーンゴムの耐久性を高めている。しかしながら、特許文献2、3に開示されているブラダーは、内層と外層との接着力が弱く、ブラダーの耐久性の面からも内層と外層との接着力が強い、タイヤ加硫用ブラダーが求められていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、耐久性が向上した寿命の長いタイヤ加硫用ブラダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題を解消するため鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のブラダーは、2層からなるブラダーにおいて、外層がシリコーンゴム組成物、内層が末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記シリコーンゴム組成物がミラブル型シリコーンゴム組成物であることが好ましく、また、前記シリコーンゴム組成物が、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン;100質量部、
(B)平均組成式(RSiO(4−x−y)/2(但し、Rは、脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基であり、xおよびyはそれぞれ、1≦x≦2.2、0.002≦y≦1、かつ、1.002≦x+y≦3を満足する正数である)で表され、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン;0.01〜10質量部、
(C)比表面積100m/g以上の乾式シリカ;20〜80質量部、および、
(D)加硫剤、
を含有するシリコーンゴム組成物であることが好ましく、さらに、前記加硫剤が、白金族金属系触媒またはパーオキサイド架橋剤であることが好ましく、さらにまた、前記末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物が、
(E)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが1,000,000以下の末端シロキサン変性フッ素ゴムであって、該末端シロキサン変性フッ素ゴム中のSiH基の式量の合計が前記重量平均分子量Mwの2.0%以下であり、付加反応架橋をすることができる末端シロキサン変性フッ素ゴム;100質量部、
(F)乾式シリカ;50質量部以下、
を含有する末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物であることが好ましく、さらにまた、前記外層のゲージnと前記内層のゲージmとが、下記式、
0.10≦n/(n+m)≦0.99
で表される関係を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、耐久性が向上した寿命の長いタイヤ加硫用ブラダーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のブラダーは、外層および内層の2層からなり、外層がシリコーンゴム組成物、内層が末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物で構成されている。外層をシリコーンゴム組成物とすることで、シリコーンゴムの有する離型機能により内面液塗布が不要になる。また、内層を末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物とすることで、スチームの水が遮断され、外層のシリコーンゴムの加水分解を防ぐことができ、従来のブチルゴムを用いたブラダーと同等の耐久性が得られる。また、フッ素ゴムの末端がシロキサン変性されているため、外層のシリコーンゴムと化学結合が生じ、ブラダーの内層と外層の接着力が増し、ブラダーの耐久性を向上させることができる。
【0013】
シリコーンゴムとしては、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが、300,000〜1,200,000であることが好ましく、600,000〜1,200,000であることがより好ましい。また、BET吸着法による比表面積が、好ましくは100m/g以上、より好ましくは200〜600m/gである乾式シリカを20〜80質量部含有していることが好ましく、40〜60質量部含有していることがより好ましい。これにより、シリコーンゴム組成物の強度が向上し、摩耗に強く、より耐久性が向上したブラダーを得ることができる。また、シリコーンゴム組成物は、成型加工の観点からミラブル型であることが好ましい。
【0014】
本発明に好適に用いられるシリコーンゴム組成物は、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン;100質量部、
(B)平均組成式(RSiO(4−x−y)/2(但し、Rは、脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基であり、xおよびyはそれぞれ、1≦x≦2.2、0.002≦y≦1、かつ、1.002≦x+y≦3を満足する正数である)で表され、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン;0.01〜10質量部、
(C)比表面積100m/g以上の乾式シリカ;20〜80質量部、および、
(D)加硫剤を含有するものである。
【0015】
(A)成分のベースポリマーとして使用する、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、通常の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物に主原料(ベースポリマー)として使用されている公知のオルガノポリシロキサンである。
【0016】
このようなオルガノポリシロキサンは、一般に平均組成式(RSiO(4−a)/2(但し、Rは、通常炭素数1〜10、特には炭素数1〜6の置換または非置換の1価炭化水素基を表し、これは分子中のシロキサン構造を形成するケイ素原子に結合するものであり、また、aは1.9〜2.4、特には1.95〜2.05の数である)で示され、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個含有し、また、GPC分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが、好ましくは300,000〜1,200,000、より好ましくは500,000〜1,000,000程度の、基本的に直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0017】
前記組成式において、Rはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル等のアラルキル基;およびクロロメチル、ブロモエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、シアノエチル等のハロゲン置換またはシアノ基置換炭化水素基から選ばれ、各置換または非置換の1価炭化水素基は、異なっていても同一であってもよい。ここでアルケニル基としては、ビニル基が好ましく、また、その他の炭化水素基としては、メチル基、フェニル基およびトリフルオロプロピル基が好ましく、特にアルケニル基以外の置換または非置換の1価炭化水素基のうち95〜100mol%がメチル基であることが好ましい。アルケニル基の含有量は、全有機基(すなわち、上記の置換または非置換1価炭化水素基)R中、通常0.0001〜20mol%、好ましくは0.001〜10mol%、特には0.01〜5mol%とする。なお、1分子中に2個以上含有されるアルケニル基は、分子鎖両末端のケイ素原子または分子鎖途中のケイ素原子のいずれかに結合したものであっても、双方に結合したものであってもよいが、シリコーンゴム硬化物の物性等の点から、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものであることが好ましい。
【0018】
上記オルガノポリシロキサンは、主鎖がジオルガノシロキサン単位(RSiO2/2単位)の繰り返しからなる直鎖状のジオルガノシロキサンであり、主鎖の一部に若干のRSiO3/2単位および/またはSiO4/2単位を含む分岐状構造を許容するものであるが、通常は、主鎖がジオルガノシロキサン単位(RSiO2/2単位)のみの繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(RSiO1/2単位)で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましく、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体などが挙げられる。
【0019】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、これらの分子構造を有する単一の重合体、またはこれらの重合体の混合物である。(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、重量平均分子量の異なる2種以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン成分を併用する場合には、これらの2種以上の成分を併用、混合した混合物全体としての重量平均分子量の値が、前記範囲内となることが好ましい。
【0020】
(A)成分の好適例としては、

等が挙げられる。ここでRは、上記の置換または非置換の1価炭化水素基と同じであり、またp、qは、個々の単一の分子については、それぞれ上記の重量平均分子量を与える正の整数であり、重合度に分布を持った混合物としての均一成分については、平均値として上記の重量平均分子量を与える範囲の正数である。
【0021】
(B)成分として使用するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤として作用するものである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、平均組成式(RSiO(4−x−y)/2(但し、Rは、脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基であり、xおよびyはそれぞれ、1≦x≦2.2、0.002≦y≦1、かつ、1.002≦x+y≦3を満足する正数である)で表され、25℃における粘度が0.5〜1000cP、特には1〜500cP程度のものが挙げられ、一分子中のケイ素原子の数(または重合度)は2〜300、特には3〜200程度のものを使用することができる。その分子構造には特に制限はなく、従来の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物に通常使用されるものと同様、例えば、直鎖状、環状、分岐状および三次元網状(レジン状)構造等各種のものが使用可能であるが、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中に2個以上(通常、2〜200個程度)、好ましくは3個以上(例えば、3〜100個程度)含む必要がある。また、この化合物の水素原子以外のケイ素原子に結合する1価の有機基(例えば、上記平均組成式におけるR基)としては、(A)成分のオルガノポリシロキサンにおける置換または非置換の1価炭化水素基と同様のものが挙げられるが、特にアルケニル基等の脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基、特にはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0022】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられるが、特に、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンなどの両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好適である。
【0023】
この(B)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対し、0.01〜10質量部、好適には0.1〜5.0質量部である。この添加量が少なすぎると、架橋密度が低くなりすぎ、その結果、硬化したシリコーンゴムの耐熱性に悪影響を与えることがあり、また強度も低下する。一方、多すぎると、表面が鏡面状にならなかったり、少なすぎる場合と同様に耐熱性に悪影響を与えるおそれがある。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0024】
(C)成分の乾式シリカ(ヒュームドシリカ)は、強度を確保するために添加して強度調整を行うためのものであり、シリコーンゴムの熱による加水分解を抑制するために、乾式シリカを用いている。かかる乾式シリカとしては、シリコーンゴムの補強性充填剤として従来から周知とされているものが使用可能であるが、この目的のためにはBET吸着法による比表面積が100m/g以上であることが必要であり、好ましくは200〜600m/gである。また、これらシリカの表面に多数存在するシラノール基をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理してシリカ微粉末の表面をエーテル結合したアルキル基等の有機基で被覆した疎水性シリカがより好ましい。この疎水化処理は、未処理の(C)成分をシリコーンゴム組成物の他の成分の一種以上と配合する前にあらかじめ上記処理剤と加熱下に混合することで行ってもよく、また、組成物を調製する際に未処理の(C)成分を他の成分および上記処理剤とともに加熱下に混合することによって、シリコーンゴム組成物の調製と同時に行ってもよい。これらのシリカは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。疎水性シリカとしては、具体的には、Aerosil R−812、R−812S、R−972、R−974(Degussa社製)、Rheorosil MT−10(徳山曹達社製)、Nipsil SSシリーズ(日本シリカ(株)製)などを挙げることができる。
【0025】
この(C)成分のシリカの添加量は、(A)成分100質量部に対し20〜80質量部、好適には40〜60質量部である。この添加量が少なすぎると、十分な強度および硬度が得られず、また、耐クリープ性の改善効果も不十分となる。一方、多すぎると、ゴム組成物の粘度が高くなりすぎ、注型を行うことが困難となる。
【0026】
(D)成分の加硫剤としては、特に限定されないが、好ましくは、白金族金属系触媒またはパーオキサイド架橋剤である。白金族金属系触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒である。かかる白金族金属系触媒は、ラジカルを発生することなく、熱エネルギーのみで上記(A)および(B)成分を架橋させることができ、タイヤ加硫用ブラダーのように高温耐久性が要求される場合でもポリマー切断がなく、耐熱性を確保するために使用される。また、白金族金属系触媒で加硫されたゴムは、ゴム網目がポリマー末端でのみ結合生成される。この白金族金属系触媒としては、白金ブラック;塩化白金酸;塩化白金酸のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサンまたはアセチレンアルコール類等との錯体等の白金化合物;およびロジウム、パラジウム等の白金族金属を含有する化合物等を挙げることができる。特に好ましくは、(A)成分と(B)成分との相溶性の点から、塩化白金酸(HPtCl/nHO)のビニルシロキサン錯体等のシラン、シロキサン変性物である。なお、この場合、白金族金属と錯体を形成している配位子としてのビニルシロキサンは白金族金属系触媒の一構成要素であり、前記(A)成分には該当しない。この白金族金属系触媒の添加量は、白金族金属の質量換算で(A)および(B)成分の合計質量に対して0.1〜1000ppm、好ましくは1〜200ppmである。この添加量が少なすぎると、架橋開始温度が高くなりすぎ、終了時間の遅延につながる。一方、多すぎると、注型が完全に終わる前に架橋が開始されるおそれがある。
【0027】
パーオキサイド架橋剤は、熱エネルギーでパーオキサイドを活性化させ、ラジカルを生成し、ラジカルによって上記(A)および(B)成分を架橋させることができる。また、パーオキサイド架橋剤で加硫されたゴムは、ゴム網目がポリマー末端のみならず、ポリマー中間に有するビニル基を介してポリマー中間部にも結合生成される。そのため、タイヤ加硫用ブラダーのように高温耐久性が要求される場合でも、ゴム網目を十分に維持でき、高い耐久性が得られる。このパーオキサイド架橋剤としては、例えば、2,5ジメチル2,5ビス(ターシャルブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。さらに、このパーオキサイド架橋剤の添加量は、上記(A)成分100質量部に対し、好適には0.2〜1.0質量部である。この添加量が少なすぎると、架橋開始温度が高くなりすぎ、終了時間の遅延につながるおそれがある。一方、多すぎると、注型が完全に終わる前に架橋が開始されるおそれがある。
【0028】
上記シリコーンゴム組成物には、所望に応じ金属粉体を配合することができる。かかる金属粉体としては、ゴム配合組成物中の熱伝導率を高めることのできる金属の粉体であれば特に制限されるものではなく、アルミニウム、金、銀、銅等の純粋金属粉体を好適に使用することができる。かかる金属粉体は、好ましくは10〜500μm、より好ましくは100〜200μmの粒径を有する球状物とする。金属粉体が針状や板状の場合には、得られる架橋物の物性に異方性が現れ、好ましくない。この金属粉体の添加量は、(A)成分100質量部に対して、通常10質量部以下(即ち、0〜10質量部)、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。この添加量が少なすぎると、ゴム配合組成物中の熱伝導率を十分に高めることができず、架橋反応の進行が表面と内部とで異なることになるおそれがある。一方、多すぎると、組成物の粘度が高くなりすぎて、成型時に細部への組成物の充填が困難となるおそれがある。また、注型時間が延びて作業性が悪化する。
【0029】
また、上記シリコーンゴム組成物には、所望に応じ無機粉体を配合することもできる。無機粉体は、前記(C)シリカおよび金属粉体以外のものであり、上記シリコーンゴム組成物の熱収縮率を調整する作用を有する。無機粉体の種類は特に制限されることはなく、例えば、マイカ、滑石、石こう、方解石、ホタル石、リン灰石、長石等の鉱物性粉体や、カオリン等の粘土、ゼオライト、ガラス粉体等を使用することができる。この無機粉体の添加量は、(A)成分100質量部に対し、通常5質量部以下(即ち、0〜5質量部)、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは1〜2質量部である。この添加量が少なすぎると、組成物に対する調整効果が不十分となるおそれがあり、一方、多すぎると、組成物の粘度が高くなりすぎて、所期の効果を奏し得なくなるおそれがある。
【0030】
その他、上記組成物には、必要に応じて、従来よりシリコーンゴム組成物に使用されている各種の添加剤を適宜添加することができる。例えば、常温での可使時間を延長させるなど、硬化時間の調整を行うための制御剤や、シランカップリング剤等を必要に応じて添加することができる。
【0031】
また、本発明に好適に用いられるゴム組成物の調製は、(A)〜(D)成分および必要に応じて加えられる1種または2種以上の任意成分をプラネタリーミキサー、品川ミキサー等の公知の混合手段を用いて、任意の混合順序で混合することにより行うことができる。
【0032】
本発明に好適に用いられるシリコーンゴム組成物の架橋反応は、120〜200℃、好ましくは140〜180℃、より好ましくは160〜170℃の温度で、10〜60分、好ましくは15〜30分にて好適に行うことができる。
【0033】
本発明に好適に用いられるシリコーンゴム組成物は、加硫後において以下のような物性を示すものである。すなわち、JIS A硬度が40以上、好適には50〜60であり、引き裂き強度が30kN/m以上、好適には40〜55kN/mであり、引張り強度が7MPa以上、好適には9〜12MPaであり、破断伸びが600%以上、好適には600〜900%であって、さらに、300%伸長時の引張り弾性率が2.0MPa以上、好適には3.0〜5.0MPaである。このように、本発明に好適に用いられるシリコーンゴム組成物は、高硬度であって引き裂き強度や引張り強度、破断伸び等に優れることに加えて引張り弾性率が高いものであることから、この組成物よりなるタイヤ加硫用ブラダーは、耐久性に優れるとともに屈曲性能にも優れるものとなる。
【0034】
次に、末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物について説明する。
本発明に好適に用られる末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物は、
(E)GPC分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが1,000,000以下の末端シロキサン変性フッ素ゴムであって、末端シロキサン変性フッ素ゴム中のSiH基の式量の合計が重量平均分子量Mwの2.0%以下であり、付加反応架橋をすることができる末端シロキサン変性フッ素ゴム;100質量部、
(F)乾式シリカ;50質量部以下、
を含有する末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物である。
【0035】
末端シロキサン変性フッ素ゴムの分子量Mwが1,000,000を超えると、ゴム組成物の粘度が高くなりすぎ、注型を行うことが困難となる。また、シリコーンゴム組成物の場合と同様に、ブラダー内層の強度調整のために乾式シリカを添加するが、50質量部を超えると、やはり、ゴム組成物の粘度が高くなりすぎ、注型を行うことが困難となる。ここで、乾式シリカは、先に述べた乾式シリカ(ヒュームドシリカ)を好適に用いることができる。
【0036】
(E)成分の末端シロキサン変性フッ素ゴムとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素ポリマーの末端にシロキサン変性処理を施したものを好適に用いることができる。末端シロキサン変性フッ素ゴムとしては、具体的には、信越化学工業社製のSifelを挙げることができる。
【0037】
また、SiH基の式量の合計を末端シロキサン変性フッ素ゴムの分子量の2.0%以下とすることで、過度の付加反応架橋を起こすことなく、ブラダーの内層を形成することができる。
【0038】
さらにまた、本発明においては、ブラダーの外層のゲージnと内層のゲージmとが、下記式、
0.10≦n/(n+m)≦0.99
で表される関係を満足することが好ましい。上記関係を満足することにより、本発明の効果を良好に得ることができる。なお、シリコーンゴムの有する離型性を効果的に発揮させるためには、シリコーンゴム組成物からなるブラダー外層のゲージは1.0〜3.0mmであることが好ましい。また、タイヤ加硫時のスチームの水を十分に遮断するために、末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物からなる内層のゲージは2.0mm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
(実施例)
ブラダーの外層のシリコーンゴム組成物としてミラブル型高強度シリコーンゴム組成物(信越化学工業社製:KE561U)を、内層には末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物(信越化学工業社製:Sifel)を用いて、2層構造を有するタイヤ加硫用ブラダーを作製した。なお、外層のゲージは2.0mm、内層のゲージは3.0mmとした。
【0040】
得られたブラダーを用いて、タイヤサイズPSR215/60R15.5のタイヤの加硫を、加硫時間15分(1.3MPaスチーム圧で圧入時間5分、その後、内圧2.1MPaで10分)でブラダーがパンクするまで実施し、タイヤ加硫耐久限界(加硫回数)につき評価した。得られた結果を、下記表1に示す。
【0041】
(比較例1)
ブラダーの外層のシリコーンゴム組成物として室温硬化型(RTV型)シリコーンゴム組成物(信越化学工業社製:KE1310)を、内層にはブチルゴム組成物(日本ブチル社製:268)を用いて、2層構造を有するタイヤ加硫用ブラダーを作製した。なお、外層のゲージは0.2mm、内層のゲージは4.8mmとした。
【0042】
(比較例2)
ブラダーの外層のシリコーンゴム組成物としてミラブル型高強度シリコーンゴム組成物(信越化学工業社製:KE561U)を、内層にはフッ素ゴム(デュポン社製:GLT600S)を用いて、2層構造を有するタイヤ加硫用ブラダーを作製した。なお、外層のゲージは2.0mm、内層のゲージは3.0mmとした。
【0043】
得られた各ブラダーについて、実施例と同様の試験をおこなった。結果を下記表1に併せて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、本発明のブラダーは、比較例1、2のブラダーと比較して、タイヤ加硫耐久限界が大きく向上しており、寿命の長いタイヤ加硫用ブラダーを得ることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層からなるブラダーにおいて、外層がシリコーンゴム組成物、内層が末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物からなることを特徴とするブラダー。
【請求項2】
前記シリコーンゴム組成物がミラブル型シリコーンゴム組成物である請求項1記載のブラダー。
【請求項3】
前記シリコーンゴム組成物が、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン;100質量部、
(B)平均組成式(RSiO(4−x−y)/2(但し、Rは、脂肪族不飽和基を除く置換または非置換の1価炭化水素基であり、xおよびyはそれぞれ、1≦x≦2.2、0.002≦y≦1、かつ、1.002≦x+y≦3を満足する正数である)で表され、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン;0.01〜10質量部、
(C)比表面積100m/g以上の乾式シリカ;20〜80質量部、および、
(D)加硫剤、
を含有するシリコーンゴム組成物である請求項1または2記載のブラダー。
【請求項4】
前記加硫剤が、白金族金属系触媒またはパーオキサイド架橋剤である請求項3記載のブラダー。
【請求項5】
前記末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物が、
(E)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが1,000,000以下の末端シロキサン変性フッ素ゴムであって、該末端シロキサン変性フッ素ゴム中のSiH基の式量の合計が前記重量平均分子量Mwの2.0%以下であり、付加反応架橋をすることができる末端シロキサン変性フッ素ゴム;100質量部、
(F)乾式シリカ;50質量部以下、
を含有する末端シロキサン変性フッ素ゴム組成物である請求項1〜4のうちいずれか一項記載のブラダー。
【請求項6】
前記外層のゲージnと前記内層のゲージmとが、下記式、
0.10≦n/(n+m)≦0.99
で表される関係を満足する請求項1〜5のうちいずれか一項記載のブラダー。

【公開番号】特開2010−228102(P2010−228102A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74974(P2009−74974)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】