説明

ブレーキ制御装置

【課題】低温時における精度の高い制動力を実現し得るブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ制御装置10は、マスタシリンダ14と、動力液圧源と、マスタシリンダ14および前記動力液圧源の少なくとも一方からのブレーキフルードの供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダ20と、マスタシリンダ14または動力液圧源とホイールシリンダ20とを連通する経路に設けられ、マスタシリンダ14または動力液圧源からホイールシリンダ20へ供給するブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、電磁制御弁に流す電流を制御するECU200と、ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段54と、を備える。ECU200は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与させる制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両における制動装置として、車両の走行状況に応じて最適な制動力を車両に与えるよう各車輪の制動力を制御する電子制御ブレーキシステムが多く採用されている。このような電子制御ブレーキシステムでは、圧力センサによって各車輪のホイールシリンダ圧を監視し、ホイールシリンダ圧が運転者のブレーキペダル操作量に基づいて演算される目標油圧になるように、電磁流量制御弁を制御している。
【0003】
一般的に、ブレーキシステムで用いられるブレーキフルードは、温度が低いほど粘度が高くなる。そのため、低温時においては、ブレーキフルードの粘度が高く、ブレーキシステムの制動性能に影響を与える可能性がある。
【0004】
そこで、このような低温時における制動制御の精度を向上するために、特許文献1には、例えばトラクション制御時にポンプから吐出されるブレーキ油の量を温度に応じて変化させることで、ブレーキ油の粘性の増大に伴う制動圧力の応答特性の変化を抑制する、とされる車両用ブレーキ圧力制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−58553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、低温時にポンプから吐出されるブレーキ油を低温時に増大させるために、より大きな負荷に耐えうるポンプを用いる必要があり、ポンプ自体の大型化やコスト上昇の要因となる。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低温時における精度の高い制動力を実現し得るブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、ブレーキフルードを運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いてブレーキフルードによる蓄圧を行う動力液圧源と、前記マニュアル液圧源および前記動力液圧源の少なくとも一方からのブレーキフルードの供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを連通する経路に設けられ、前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへ供給するブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、前記電磁制御弁に流す電流を制御する制御手段と、前記ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段と、を備える。前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で前記電磁制御弁へ通電する。
【0009】
低温時のようにブレーキフルードの粘性が高く、そのままでは常温時とブレーキフィーリングが変わってしまうような状況では、例えば、動力液圧源の駆動力を高めてブレーキフルードをより大きな力で吐出させることが考えられる。しかしながら、このようなブレーキフルードの吐出力の増加は動力液圧源に過大な負荷を与えてしまう。そこで、この態様によると、制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電することで、電磁制御弁自体が発熱し、電磁制御弁の近傍のブレーキフルードや電磁制御弁を通過するブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、動力液圧源に大きな負荷をかけることなく通常と同様にブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができる。つまり、違和感のない、換言すれば低温時における精度の高い制動力を得ることができる。
【0010】
ここで、「制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電する」とは、例えば、電磁制御弁への通電の有無によって制動力に変化がない、あるいは制動力に変化があっても実質的に運転操作に影響を与えない程度の電流を電磁制御弁へ加える、と捉えることができる。また、温度推定手段は、ブレーキフルードの直接的な温度を検出するものであってもよい。あるいは、温度推定手段は、ブレーキフルードの直接的な温度ではなく、例えば外気温や室温等、ブレーキフルードの温度や状態と何らかの相関関係を有する情報を検出し間接的にブレーキフルードの温度や状態を推定するものであってもよい。
【0011】
前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度が所定値を下回っている場合、前記電磁制御弁が作動しない範囲で該電磁制御弁へ通電してもよい。これにより、例えば、制動制御を行わないような状況であっても、電磁制御弁が通電されることで発熱し、ブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、動力液圧源に大きな負荷をかけることなく通常と同様にブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができる。ここで、「電磁制御弁が作動しない範囲で該電磁制御弁に通電する」とは、例えば、弁体に電磁力がかかる状態であるものの、弁体と弁座とが相対的に動かない程度の電流を電磁制御弁に通電する、と捉えることができる。
【0012】
前記制御手段は、作動時に制動力の増減に寄与しない電磁制御弁に通電してもよい。これにより、電磁制御弁の開閉度を考慮せずに通電することが可能となり、より大きな熱を電磁制御弁で発生させることができる。作動時に制動力の増減に寄与しない電磁制御弁とは、換言すれば、非作動時に弁体の上流と下流との間に差圧が発生していない電磁制御弁である、と捉えることもできる。
【0013】
前記電磁制御弁は、前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへのブレーキフルードの供給を制御する増圧弁と、前記ホイールシリンダからリザーバへのブレーキフルードの排出を制御する減圧弁と、を含んでもよい。前記制御手段は、前記減圧弁を開弁するように該減圧弁に通電するとともに、前記ホイールシリンダで制動力が発生しない程度に前記増圧弁を開弁するように該増圧弁に通電してもよい。これにより、減圧弁は最大限に開いても制動力が発生することはないため、開閉度を考慮せずに通電することが可能となり、より大きな熱を減圧弁にて発生させるさせることができる。また、減圧弁が少しでも開いていれば制動力が発生しない程度に増圧弁を開弁することも可能となるため、制動力が発生しない程度の開度となるように増圧弁に通電することで、増圧弁においても発熱が可能となる。加えて、増圧弁と減圧弁とを共に開くことでブレーキフルードを循環させることが可能になるため、経路にあるブレーキフルードが増圧弁や減圧弁を通過することで全体的に加熱されることになる。
【0014】
前記電磁制御弁は、前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへのブレーキフルードの供給を制御する増圧弁と、前記ホイールシリンダからリザーバへのブレーキフルードの排出を制御する減圧弁と、を含んでもよい。前記制御手段は、車両停止中の制動時において、制動力が低下しない範囲で前記減圧弁および前記増圧弁を開弁するように該減圧弁および該増圧弁に通電してもよい。これにより、車両停止中の制動時において、制動力が低下しないように増圧弁と減圧弁に通電しながらブレーキフルードを循環させることが可能になるため、経路にあるブレーキフルードが増圧弁や減圧弁を通過することで全体的に加熱されることになる。
【0015】
本発明の別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、ブレーキフルードの液圧によりホイールシリンダで発生させる制動力を制御するブレーキ制御装置であって、ブレーキフルードを運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、前記マニュアル液圧源と前記ホイールシリンダとを連通する液圧回路と、前記液圧回路に設けられ、ブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、前記電磁制御弁に流す電流を制御する制御手段と、前記ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段と、を備える。前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で前記電磁制御弁へ通電する。
【0016】
この態様によると、制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電することで、電磁制御弁自体が発熱し、電磁制御弁の近傍のブレーキフルードや電磁制御弁を通過するブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、通常と同様のブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができ、違和感のない、換言すれば低温時における精度の高い制動力を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成で低温時における精度の高い制動力を実現し得るブレーキ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本実施の形態に係る電磁制御弁への通電制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0020】
(第1の実施の形態)
[ブレーキ制御装置の概略構成]
図1は、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。図1に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12の操作に応じて車両の4輪のブレーキを最適に設定する。つまり、ブレーキ制御装置10は、車両に設けられた車輪に付与させる制動力を制御することができる。
【0021】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動流体(作動液)としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0022】
マスタシリンダ14の一方の出力ポート14aには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。
【0023】
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを収容するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、リザーバタンク26内のブレーキフルードの液面レベルを検出する液面レベル検出装置が設けられている。マスタシリンダ14は、収容されたブレーキフルードを運転者によるブレーキペダル12の操作量に応じて加圧することができるマニュアル液圧源として機能する。
【0024】
マスタシリンダ14の一方の出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されている。ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポート14bには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、マスタカット弁としての右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、同じくマスタカット弁としての左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、いずれも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。また、これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、通常は運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に閉状態に切り換えられる。
【0025】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
【0026】
一方、リザーバタンク26の下部には、吸入ホース28の一端が接続されており、この吸入ホース28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。また、リザーバタンク26の上部には、各ホイールシリンダから排出されたブレーキフルードを回収できるように構成された回収経路としてのリターンホース29が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施の形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
【0027】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、吸入ホース28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードはリターンホース29へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0028】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、いずれも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキ35FR,35FL,35RR,35RL(以下、適宜、ディスクブレーキ35FR〜35RLを総称して「ディスクブレーキ35」という。)が設けられており、ディスクブレーキ35は、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
【0029】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介してリターンホース29に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介してリターンホース29に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0030】
また、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10は、図1に示すように、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近に、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。ホイールシリンダ圧センサ44は、ホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力を検出する圧力検出手段として機能する。
【0031】
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ80を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ80は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。
【0032】
ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
【0033】
ECU200には、上述の電磁開閉弁22FR,22FL、シミュレータカット弁23、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等の油圧アクチュエータ80を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
【0034】
また、ECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU200には、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLから、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力される。
【0035】
また、ECU200には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が入力され、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が入力される。
【0036】
さらに、図示しないが、ECU200には、車輪ごとに設置された車輪速センサから各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、操舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力されたりしている。
【0037】
このように構成されるブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれると、ECU200により、ブレーキペダル12の踏み込み量を表すペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度が算出され、算出された目標減速度に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標油圧が求められる。そして、ECU200により増圧弁40、減圧弁42が制御され、各車輪のホイールシリンダ圧が目標油圧になるよう制御される。
【0038】
一方、このとき電磁開閉弁22FRおよび22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁23は開状態とされる。よって、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、シミュレータカット弁23を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
【0039】
また、アキュムレータ圧が予め設定された制御範囲の下限値未満であるときには、ECU200によりオイルポンプ34が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧され、アキュムレータ圧がその制御範囲に入ればオイルポンプ34の駆動が停止される。
【0040】
上述のようにブレーキ制御装置10は、運転者のブレーキ操作から独立したオイルポンプ34を用いてブレーキフルードによる蓄圧が可能なアキュムレータ50を含む動力液圧源と、マスタシリンダ14および動力液圧源の少なくとも一方からのブレーキフルードの供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダ20と、マスタシリンダ14または動力液圧源とホイールシリンダ20とを連通する経路に設けられ、マスタシリンダ14または動力液圧源からホイールシリンダ20へ供給するブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、電磁制御弁に流す電流を制御するECU200と、ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段54と、を備える。
【0041】
ここで、経路とは、例えば、ブレーキ油圧制御管16,18、リターンホース29、高圧管30をいう。また、電磁制御弁とは、例えば、右電磁開閉弁22FR、左電磁開閉弁22FL、増圧弁40、減圧弁42をいう。また、温度推定手段54としては、前述の経路近傍に設けられ、ブレーキフルードの直接的な温度を検出する温度センサであってもよい。あるいは、ブレーキフルードの直接的な温度ではなく、例えば外気温センサや室温センサ等、ブレーキフルードの温度と何らかの相関関係を有する情報を検出し間接的にブレーキフルードの温度や状態を推定するものであってもよい。
【0042】
[電磁制御弁への通電制御]
図2は、本実施の形態に係る電磁制御弁への通電制御を示すフローチャートである。ここで示す制御は、例えば、車両のイグニッションがONになった状態で実行される。低温時のように油圧アクチュエータ80を流れるブレーキフルードの粘性が高く、そのままでは常温時とブレーキフィーリングが変わってしまうような状況では、動力液圧源のオイルポンプ34の駆動力を高めてブレーキフルードをより大きな力で吐出させることが考えられる。しかしながら、このようなブレーキフルードの吐出力の増加はオイルポンプ34に過大な負荷を与えてしまう。そこで、本実施の形態では、低温時においてブレーキフルードを加熱することで常温時と同様の負荷で精度の高い制動が実現される。
【0043】
図2に示す制御が開始すると、不図示の温度センサなどにより油圧アクチュエータ80の温度が推定される(S10)。ECU200は、ステップS10で推定された推定温度Tと所定の値T1とを比較する(S12)。ここで、所定の値T1とは、ブレーキフルードの粘度が増加し、制動制御の応答遅れや制動操作に対する制動力の圧力損失が看過し得ない程度の粘性となる温度を基準に実験や演算により設定するとよい。
【0044】
ECU200は、推定温度Tが所定の値T1以上の場合(S12のNo)、ブレーキフルードの粘性はそれほど上昇していないことが予測されるため、特段の制御をせずに一度処理を終了する。一方、推定温度Tが所定の値T1未満の場合(S12のYes)、バッテリなどの電源電圧Vが所定の値V1よりも大きいか否かが判定される(S14)。電源電圧Vが所定の値V1以下の場合(S14のNo)、後述する電磁制御弁への通電によりバッテリが更に消耗し車両全体の動作に影響を与える可能性があるため、バッテリ保護制御が実行される(S16)。つまり、ブレーキフルードが低温であると推定される状況であっても、バッテリの保護を優先し後述する電磁制御弁への通電は行わない。
【0045】
電源電圧Vが所定の値V1より大きい場合(S14のYes)、ECU200は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で各電磁制御弁へ通電する(S18)。この際、各電磁制御弁が設けられている場所に応じて、また、常開弁か常閉弁かによって通電量を適宜調整してもよい。
【0046】
ブレーキ制御装置10は、制動制御に影響を与えない範囲で各電磁制御弁へ通電することで、各電磁制御弁自体が発熱し、電磁制御弁の近傍のブレーキフルードや電磁制御弁を通過するブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、動力液圧源に大きな負荷をかけることなく通常と同様にブレーキフルードをホイールシリンダ20へ供給することができる。つまり、常温時と比較しても違和感のない、換言すれば低温時においても精度の高い制動力を得ることができる。
【0047】
なお、制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電する場合の一例として、電磁制御弁が作動しない範囲の電流を印加することが考えられる。電磁制御弁は、通常、弁体を非作動位置に静止させるための付勢手段(例えばバネ)を備えているため、この付勢力に抗して弁体の移動を開始させるにはある程度の電流が必要となる。換言すれば、ある程度の電流が流れても弁体が移動しないため、電磁制御弁を作動させずに通電することが可能となる。そこで、電磁制御弁が作動しない電流値を予め実験や演算により算出しておき、低温時にその電流値で通電を行えばよい。
【0048】
本実施の形態に係るECU200は、推定されたブレーキフルードの推定温度Tが所定の値T1を下回っている場合、電磁制御弁が作動しない範囲で電磁制御弁へ通電している。これにより、例えば、制動制御を行わないような状況であっても、電磁制御弁が通電されることで発熱し、ブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、動力液圧源に大きな負荷をかけることなく通常と同様にブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができる。
【0049】
電磁制御弁へ通電された後、推定温度Tが所定の値T2未満か否かが判定される(S20)。ここで所定の値T2は、電磁制御弁への通電により温度が上昇しすぎないように設定されている値であり、推定温度Tが所定の値T2以上の場合(S20のNo)、電磁制御弁の保護の観点から通電が中止される(S22)。一方、推定温度Tが所定の値T2未満の場合(S20のYes)、ブレーキフルードの温度の更なる上昇が求められている。そこで、ECU200は、エンジン始動要求信号を送出し(S24)、エンジンが始動する。そして、エンジンの熱により油圧アクチュエータ80やマスタシリンダ14、リザーバタンク26が加熱され、ひいてはそれぞれに収容されているブレーキフルードが加熱され昇温する。これにより、低温時であってもより迅速にブレーキフルードの温度を上げることでブレーキフルードの粘性を低下させることができ、常温時と同様の粘性のブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができる。つまり、常温時と比較しても違和感のない、換言すれば低温時においても精度の高い制動力を得ることができる。
【0050】
(第2の実施の形態)
上述の第1の実施の形態では、図2に示すステップS18における電磁制御弁への通電は、電磁制御弁が作動しない範囲で行っている。しかしながら、油圧アクチュエータ80が備える電磁制御弁の中には、仮に作動しても制動力の増減に寄与しないものもある。そこで、本実施の形態では、ECU200は、図2に示すステップS18において、作動時に制動力の増減に寄与しない電磁制御弁に通電する。ここで、本実施の形態に係る油圧アクチュエータ80において作動時に制動力の増減に寄与しない電磁制御弁は、常開弁である、右電磁開閉弁22FR、左電磁開閉弁22FL、減圧弁42RL,42RRである。
【0051】
このような常開弁が作動して閉弁しても制動力に影響を与えないため、電磁制御弁の開閉度を考慮せずに通電することが可能となり、電磁制御弁が作動しない程度の通電と比較してより大きな熱を電磁制御弁で発生させることができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
上述の各実施の形態では、図2に示すステップS18における電磁制御弁への通電によりブレーキフルードが循環することはない。そこで、第3の実施の形態では、ステップS18においてブレーキフルードが循環するように各電磁制御弁を制御する場合について説明する。
【0053】
本実施の形態に係る油圧アクチュエータ80は、マスタシリンダ14または動力液圧源からホイールシリンダ20へのブレーキフルードの供給を制御する増圧弁40や右電磁開閉弁22FR、左電磁開閉弁22FLと、ホイールシリンダ20からリザーバタンク26へのブレーキフルードの排出を制御する減圧弁42と、を含んでいる。そこで、ステップ18において、本実施の形態に係るECU200は、減圧弁42を開弁するように減圧弁に通電するとともに、ホイールシリンダ20で制動力が発生しない程度に増圧弁40を開弁するように増圧弁40に通電する。
【0054】
これにより、減圧弁42は最大限に開いても制動力が発生することはないため、開閉度を考慮せずに通電することが可能となり、より大きな熱を減圧弁42にて発生させるさせることができる。また、減圧弁42が少しでも開いていれば制動力が発生しない程度に増圧弁40を開弁することも可能となるため、制動力が発生しない程度の開度となるように増圧弁40に通電することで、増圧弁40においても発熱が可能となる。加えて、増圧弁40と減圧弁42とを共に開くことでブレーキフルードを循環させることが可能になるため、吸入ホース28、リターンホース29、高圧管30等にあるブレーキフルードが増圧弁40や減圧弁42を通過することで全体的に加熱されることになる。
【0055】
(第4の実施の形態)
第3の実施の形態では、制動力が実質的に働かないように各電磁制御弁に通電しながらブレーキフルードを循環させる制御について説明したが、第4の実施の形態では、制動力が働いている状態でブレーキフルードを循環させる制御について説明する。
【0056】
本実施の形態に係る油圧アクチュエータ80は、第3の実施の形態と同様に増圧弁40や右電磁開閉弁22FR、左電磁開閉弁22FL、減圧弁42を含んでいる。そこで、ステップS18において、本実施の形態に係るECU200は、車両停止中の制動時において、制動力が低下しない範囲で減圧弁42および増圧弁40を開弁するように減圧弁42および増圧弁40に通電する。これにより、車両停止中の制動時において、制動力が低下しないように増圧弁40と減圧弁42に通電しながらブレーキフルードを循環させることが可能になるため、高圧管30にあるブレーキフルードが増圧弁40や減圧弁42を通過することで全体的に加熱されることになる。
【0057】
このように、電磁制御弁への通電の有無によって制動力に変化がない、あるいは制動力に変化があっても実質的に運転操作に影響を与えない程度の電流を電磁制御弁へ加えることで、電磁制御弁でブレーキフルードを加熱しながら循環させることもできる。その結果、低温時においてもより迅速にブレーキフルードを昇温することができる。
【0058】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における処理の組合せや順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0059】
上述の各実施の形態では、マスタシリンダ14と別に動力液圧源が設けられているブレーキ制御装置10について説明したが、制動制御を主としてマスタシリンダにより行うブレーキ制御装置にも本願発明を適用できる。
【0060】
例えば、ブレーキ制御装置は、ブレーキフルードを運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマスタシリンダ14と、マスタシリンダとホイールシリンダとを連通する液圧回路(油圧アクチュエータ)と、液圧回路に設けられ、ブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁(増圧弁および減圧弁)と、電磁制御弁に流す電流を制御する制御手段と、ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段と、を備えるものであってもよい。制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で前記電磁制御弁へ通電する。
【0061】
この態様によると、制動制御に影響を与えない範囲で電磁制御弁へ通電することで、電磁制御弁自体が発熱し、電磁制御弁の近傍のブレーキフルードや電磁制御弁を通過するブレーキフルードが加熱される。その結果、ブレーキフルードの粘性が低下し、通常と同様のブレーキフルードをホイールシリンダへ供給することができ、違和感のない、換言すれば低温時における精度の高い制動力を得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 ブレーキ制御装置、 14 マスタシリンダ、 16,18 ブレーキ油圧制御管、 20 ホイールシリンダ、 22FL 左電磁開閉弁、 22FR 右電磁開閉弁、 26 リザーバタンク、 28 吸入ホース、 29 リターンホース、 30 高圧管、 32 モータ、 34 オイルポンプ、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 ホイールシリンダ圧センサ、 48 マスタシリンダ圧センサ、 50 アキュムレータ、 51 アキュムレータ圧センサ、 54 温度推定手段、 80 油圧アクチュエータ、 200 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキフルードを運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、
運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いてブレーキフルードによる蓄圧を行う動力液圧源と、
前記マニュアル液圧源および前記動力液圧源の少なくとも一方からのブレーキフルードの供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを連通する経路に設けられ、前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへ供給するブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、
前記電磁制御弁に流す電流を制御する制御手段と、
前記ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段と、を備え、
前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で前記電磁制御弁へ通電することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度が所定値を下回っている場合、前記電磁制御弁が作動しない範囲で該電磁制御弁へ通電することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、作動時に制動力の増減に寄与しない電磁制御弁に通電することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記電磁制御弁は、
前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへのブレーキフルードの供給を制御する増圧弁と、
前記ホイールシリンダからリザーバへのブレーキフルードの排出を制御する減圧弁と、 を含み、
前記制御手段は、前記減圧弁を開弁するように該減圧弁に通電するとともに、前記ホイールシリンダで制動力が発生しない程度に前記増圧弁を開弁するように該増圧弁に通電することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記電磁制御弁は、
前記マニュアル液圧源または前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへのブレーキフルードの供給を制御する増圧弁と、
前記ホイールシリンダからリザーバへのブレーキフルードの排出を制御する減圧弁と、 を含み、
前記制御手段は、車両停止中の制動時において、制動力が低下しない範囲で前記減圧弁および前記増圧弁を開弁するように該減圧弁および該増圧弁に通電することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
ブレーキフルードの液圧によりホイールシリンダで発生させる制動力を制御するブレーキ制御装置であって、
ブレーキフルードを運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、
前記マニュアル液圧源と前記ホイールシリンダとを連通する液圧回路と、
前記液圧回路に設けられ、ブレーキフルードの流量を制御する電磁制御弁と、
前記電磁制御弁に流す電流を制御する制御手段と、
前記ブレーキフルードの温度を推定する温度推定手段と、を備え、
前記制御手段は、推定されたブレーキフルードの温度に応じて制動制御に影響を与えない範囲で前記電磁制御弁へ通電することを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−247615(P2010−247615A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98105(P2009−98105)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】