説明

プラスチックレンズ成型用粘着テープおよびこれを用いたプラスチックレンズ成型方法

【課題】成型後の厚さ方向の変動を抑えることができる新規なプラスチックレンズ成型用粘着テープおよびこれを用いたプラスチックレンズ成型方法の提供。
【解決手段】一対のモールド30,30を所定の間隔を隔てて位置させてその間隔を保持しつつ前記モールド30,30間を、本発明に係る粘着テープ100でその周方向に沿って連続的に封止してキャビティCを区画形成した後、当該キャビティCに重合性モノマーを充填し、その後前記一対のモールド30,30をその距離が変動しないように固定した状態で前記キャビティC内の重合性モノマーを重合反応させる。これによって成型後の厚さ方向の変動を抑えたプラスチックレンズが確実に得られ、また気泡の発生やレンズの欠けなども抑制した良品のプラスチックレンズを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率のプラスチック製メガネレンズや光学用レンズなどのプラスチックレンズを製造する際に用いるプラスチックレンズ成型用粘着テープおよびこれを用いたプラスチックレンズ成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスチックレンズは、例えば以下の特許文献1や2などに示すように一対のガラスモールド(型)と封止用の粘着テープを用いた注型重合法によって成型されている。
【0003】
すなわち、従来のプラスチックレンズは、先ず一対のガラスモールドを所定間隔で配置し、封止用の粘着テープによってそのガラスモールド間をその周方向に沿って連続的に封止する。次に、その粘着テープに樹脂注入用のノズルを差し込み、その一対のガラスモールドと封止用の粘着テープによって形成された空間内に樹脂(重合性モノマー)を注入して充填した後、その樹脂を加熱ないし光照射などによって重合硬化することによって製造される。
【0004】
このような従来のプラスチックレンズの製造方法にあっては、一対のガラスモールド内に注入された樹脂が重合硬化するに際して体積が縮小(収縮)する。そのため、樹脂注入時に比べてガラスモールド間隔が狭まって粘着テープが幅方向(レンズの厚み方向)に押し潰されてしまったり、あるいは粘着テープがガラスモールドの中心方向に引っ張られたりして、粘着テープにシワが発生し、その結果、成型品の周面に粘着テープのシワの跡(レンズシワ)が残ってしまうといった問題がある。
【0005】
そのため、レンズメーカーなどでは、成型後のレンズ周面にこのようなレンズシワが発生することを見越して予め目標とするレンズの外径よりも大きなレンズを成型しておき、成型後にレンズ側面を研磨してそのレンズシワを除去している。このため、従来のメガネレンズの製造に際しては、面倒な研磨作業が必要となる上に材料が無駄になるといった問題がある。
【0006】
そこで、例えば以下の特許文献3では、モノマー重合収縮が最も大きいときの温度下で5mm引張ったときの荷重が3kg以下である粘着テープを用いる方法が提案されている。また、以下の特許文献4では、モールドの周面を封止する粘着テープとして基材厚さが125〜200μmの強度の高いものを用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−257016号公報
【特許文献2】特開2003−193004号公報
【特許文献3】特開2004−202995号公報
【特許文献4】特開2006−240210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前述したような製法によって得られるプラスチックレンズ(成型品)は、いわゆるセミレンズと呼ばれ、成型後に径方向のみならず厚さ方向へも切削されて所望のレンズ形状に加工される。
【0009】
そのため、そのレンズ加工作業には多くの手間がかかる。特にレンズの厚さ方向(CT厚)の切削加工には多大な手間を要するため、できるだけ切削作業を少なくしたいとの要求がある。
【0010】
しかしながら、前述したような従来のプラスチックレンズの製造方法にあっては、樹脂の重合硬化反応に際して成型品が径方向のみならず厚さ方向にも大きく収縮するため、最終的な厚さ(CT厚)よりもある程度厚く成型せざるを得なかった。
【0011】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、成型後の厚さ方向の変動を抑えることができる新規なプラスチックレンズ成型用粘着テープおよびこれを用いたプラスチックレンズ成型方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために第1の発明は、
重合性モノマーが充填される一対のモールド間をその周方向に沿って連続的に封止するためのプラスチックレンズ成型用粘着テープであって、伸張性を有するテープ基材に、これを前記モールド側に粘着させるための粘着層を有すると共に、前記粘着層が、前記モールド間に充填された重合性モノマーが重合反応を開始する温度以上で凝集力が低下する粘着剤からなることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープである。
【0013】
また、第2の発明は、
第1の発明において、前記基材が、厚さ20〜50μmのポリエチレンテレフタレートを主成分とする材料からなることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープである。
【0014】
また、第3の発明は、
第1または第2の発明において、前記粘着剤が、付加反応型のシリコーン粘着剤95〜65質量部と、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤5〜35質量部と、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤とを主成分とすることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープである。
【0015】
また、第4の発明は、
第1乃至第3のいずれかの発明において、前記粘着層が、前記基材の前記各モールドを粘着する領域にのみ設けられていることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープである。
【0016】
また、第5の発明は、
一対のモールドを所定の間隔を隔てて位置させた後、その間隔を保持しつつ前記モールド間を、前記第1〜第4の発明のいずれか1つのプラスチックレンズ成型用粘着テープでその周方向に沿って連続的に封止してキャビティを区画形成する工程と、前記キャビティに重合性モノマーを充填する工程と、前記一対のモールドをその距離が変動しないように固定した状態で前記キャビティ内の重合性モノマーを重合反応させる工程と、を含むことを特徴とするプラスチックレンズ成型方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂(重合性モノマー)注入時には粘着層は十分な粘着力および凝集力と伸縮性を発揮するため、樹脂の体積膨張があってもそれを許容しつつキャビティに樹脂を確実に封止できる。
【0018】
また、重合反応に伴う樹脂の体積縮小時には、粘着層の凝集力が低下してテープ基材が樹脂の収縮に追従してモールド表面をスライドするようにずれるため、モールド間の距離を保持したまま重合反応処理を行えば、レンズ成型後の厚さ方向の変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るプラスチックレンズ成型用粘着テープ100の実施の一形態を示す拡大断面図である。
【図2】本発明のプラスチックレンズ成型用粘着テープの使用方法を示す概念図である。
【図3】本発明のプラスチックレンズ成型方法を示す断面図である。
【図4】樹脂温度と樹脂体積および樹脂温度と凝集力との関係を示すグラフ図である。
【図5】重合反応に伴う樹脂の体積変化および粘着テープの動きを示す概念図である。
【図6】本発明に係るプラスチックレンズ成型用粘着テープ100の他の実施形態を示す拡大断面図である。
【図7】プラスチックレンズの変厚を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の一形態を、添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るプラスチックレンズ成型用粘着テープ100の実施の一形態を示す拡大断面図、図2は、その使用方法を示す説明図である。
【0022】
図示するようにこのプラスチックレンズ成型用粘着テープ100は、テープ状の基材(テープ基材)10に、これをモールド30,30側に粘着させるための粘着層20を有する構造となっている。
【0023】
基材10は、少なくとも幅方向へ伸縮性を有する材料から構成されている。具体的には、厚さ20〜50μm程度のポリエチレンテレフタレートを主成分とする材料が最適であるが、その幅方向へ伸縮性を有する材料であれば、他の材料を用いることもできる。例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、二軸延伸ポリプロピレン、ポリイミド、アラミド、シクロオレフィン、フッ素系樹脂などの樹脂フィルムや、アルミニウム箔と樹脂フィルムをラミネートした複合フィルムや、アルミナや二酸化ケイ素等の金属酸化物薄膜を樹脂フィルム表面に形成したフィルムと樹脂フィルムをラミネートした複合フィルムや、軟質アルミニウム箔などを用いることもできる。
【0024】
ここで、テープ基材10としてポリエチレンテレフタレートを用いた場合にその厚さを20〜50μmの範囲に限定したのは、20μm未満では、強度が低すぎて後述するように樹脂(重合性モノマー)の膨張・収縮する力に抗しきれずに割れや切断などを招き空気が進入する恐れがあるからである。また、50μmを超えると、テープの剛性が高くなって伸縮性が低下してしまうおそれがあるからである。
【0025】
一方、粘着層20は、この粘着テープ100とモールド30,30とで区画形成された空間(キャビティ)に樹脂(重合性モノマー)を注入したときにその樹脂が漏れないようにその隙間を確実に封止できる粘着力を有すると共に、キャビティに充填された樹脂(重合性モノマー)が重合収縮する温度域になるとその凝集力が低下する性質の粘着剤から構成されている。
【0026】
なお、本発明で言う粘着剤の凝集力の指標としては、一般的に、貯蔵弾性率、せん断力、保持力などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、所定の周波数の条件下で温度を連続的に変化させながら測定、評価する。せん断力は、例えば、幅35mm、長さ35mmの粘着テープの基材側を両面テープを用いてステンレス鋼板に固定した試料を2つ用意し、露出した粘着剤層面同士を重ね合わせ、19.6Nローラーを押し付けて5往復して貼付し、各温度条件下に所定時間放置後、引張り試験機を用いて、JIS
Z 0237に準拠し、ステンレス鋼板の一方を固定し、他方を所定の速度で引張ることにより、測定、評価する。保持力は、JIS
Z 0237に準拠し、50mm×100mmのステンレス鋼板に、幅25mm、長さ25mmの粘着テープを貼り付け、19.6Nローラーを押し付けて1往復して貼付し、9.8Nの荷重を付加して24時間放置後のズレ量または落下時間を測定、評価する。
【0027】
具体的には、この粘着層20を構成する粘着剤は、付加反応型のシリコーン粘着剤95〜65質量部と、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤5〜35質量部と、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤0.1〜0.2質量部とを主成分とする材料からなっている。
【0028】
そして、このような成分からなる粘着層20は、後述するように常温付近では十分な粘着力を発揮してモールド30,30内に樹脂を確実に封止しつつ、重合反応に伴う高温時には、凝集力が弱まってテープ基材10の幅方向に作用する力が減少するといった特性を有している。
【0029】
ここで、付加反応型のシリコーン粘着剤としては、例えば、信越化学工業株式会社製のKR3700、KR3701、X−40−3237−1、X−40−3240、X−40−3291−1、X−40−3229、X−40−3270、X−40−3306や、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSR1512、TSR1516、XR37−B9204や、東レ・ダウコーニング株式会社製のSD4584、SD4585、SD4560、SD4570、SD4600PFC、SD4593などがあげられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0030】
この付加反応型のシリコーン粘着剤の配合量を95〜65質量部に限定したのは、65質量部未満では、重合中に重合性モノマーの液漏れが発生しプラスチックレンズが欠けるという不都合があるからである。反対に、95質量部を超えると、重合中に重合性モノマーの収縮に追従できずレンズに気泡が混入するという不都合があるからである。
【0031】
また、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤としては、例えば、信越化学工業株式会社製のKR100、KR101−10や、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のYR3340、YR3286、PSA610−SM、XR37−B6722や、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH4280などがあげられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0032】
この過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤の配合量を5〜35質量部に限定したのは、5質量部未満では、重合中に重合性モノマーの収縮に追従できずレンズに気泡が混入するという不都合があるからである。反対に、35質量部を超えると、重合中に重合性モノマーの液漏れが発生しプラスチックレンズが欠けるという不都合があるからである。
【0033】
また、付加反応型のシリコーン粘着剤の架橋剤としては、例えば、信越化学工業株式会社製のX−92−122、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のCR50、東レ・ダウコーニング株式会社製のBY24−741などがあげられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0034】
この架橋剤の配合量を0.1〜0.2質量部に限定したのは、0.1質量部未満では、重合中に50℃以下での保持性が低下し、膨張による液漏れが発生しプラスチックレンズが欠けるという不都合があるからである。反対に、0.2質量部を超えると、重合中に重合性モノマーの収縮に追従できずレンズの中央の厚さ(CT)と端の厚さ(ET)に偏りが出て目標のレンズ厚みにならないという不都合があるからである。
【0035】
粘着テープの製造方法としては、付加反応型のシリコーン粘着剤および過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤をトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解した粘着剤溶液に、付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤を添加し、この溶液を基材フィルムに乾燥後の厚さが均一になるように、コンマコーターやリップコーター等で塗工した後、所定温度で乾燥・硬化させる方法が挙げられる。ただし、特にこのような方法に限定されるものではなく、シリコーン系粘着剤層を基材フィルムに形成するために採用されている通常の製造方法はいずれも採用することができる。
【0036】
なお、モールド30,30は、その形状・材質などは特に限定されるものでないが、一般的には円板状をしたガラス(二酸化ケイ素)製のものや金属製のものが多用される。
【0037】
また、プラスチックレンズの原料となる樹脂モノマーも特に限定されるものではなく、メガネレンズの場合では、従来公知の材料、例えば超高屈折率(1.65≦Ne)のメガネレンズの場合には、エピスルフィド系樹脂(三井化学株式会社製MR−174、三菱瓦斯化学株式会社製IU−20)やチオウレタン系樹脂(三井化学株式会社製MR−7)のモノマーなどが用いられる。また、高屈折率(1.58≦Ne<1.65)のメガネレンズの場合は、チオウレタン系樹脂(三井化学株式会社製MR−6、三井化学株式会社製MR−8)やポリエステルメタクリレート(株式会社トクヤマ製TS−26)、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製Panlite)のモノマーなどが用いられる。また、中屈折率(1.55≦Ne<1.58)のメガネレンズの場合は、ウレタンメタクリレート(株式会社クレハ製K−23)やエポシキメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製MCR−50)、ジアリルカーボネート(PPGインダストリーズ社製HIRI)、ジアリルフタレート系樹脂(日油株式会社製NK−55)などのモノマーが用いられる。さらに、低屈折率(Ne<1.55)のメガネレンズの場合は、ウレタン系樹脂(PPGインダストリーズ社製TRIVEX)やウレタンメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製MCR−10)、メタクリレート(株式会社クレハ製K−55)、アリルジグリコールカーボネート(PPGインダストリーズ社製CR−39)、ジアリルカーボネート(PPGインダストリーズ社製CR−607)、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリ酸メチル)などのモノマーを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、図3に示すように、このモールド30,30の周面部には、ピン孔31が複数穿孔されており、コ字形をした固定治具40のピン41,41がそれぞれ挿入されるようになっている。また、前述した粘着テープ100のこのピン孔31に位置する部分には、幅方向に伸びる切れ込みまたは長孔11が形成されている。
【0039】
次に、このような構成をした本発明のプラスチックレンズ成型用粘着テープ100を用いたプラスチックレンズの成型方法およびその作用・効果を説明する。
【0040】
先ず、図2に示すように円板状をした一対のモールド30,30を所定の間隔を隔てて位置させた後、本発明の粘着テープ100によってその間隔を保持しつつモールド30,30間をその周方向に沿って連続的に封止する。これによって、図示するようにモールド30,30同士がほぼ平行に連結されると共に、その間に平板状または円筒状の空間(キャビティ)Cが区画形成される。
【0041】
そして、このようなキャビティCが形成されたなら、図示するようにこの粘着テープ100の一端を剥がして隙間を開け、その隙間からキャビティCにノズル(図示せず)を差し込み、そのノズルからキャビティC内に樹脂を注入して充填した後、再びその隙間を粘着テープ100で塞ぐ。
【0042】
さらに、その後、図3に示すように固定治具40をセットしてモールド30,30をその距離が変動しないように固定した状態でキャビティC内の樹脂(重合性モノマー)を加熱ないし光照射することによって重合反応させる。
【0043】
図4は、この重合反応時の樹脂温度と樹脂体積および樹脂温度と粘着テープ100の凝集力との関係を示したものである。
【0044】
図中曲線で示すように、重合反応前の樹脂温度は室温(25℃)程度であるが、加熱ないし光照射などによって樹脂温度が高まると、まず、一旦樹脂が膨張してその体積が増える。
【0045】
この加熱ないし光照射などによって重合反応が開始すると、その反応熱によって樹脂の温度はさらに上昇すると共に、その体積が徐々に収縮し始める。
【0046】
そして、温度が60℃〜70℃を超えたあたりから、樹脂の体積が最初の時よりも小さくなり、さらに重合反応が終了した時(ポリマー)に最も低くなる。なお、この重合反応による樹脂の体積収縮率は、樹脂の種類などによって異なるが、一般にはモノマー状態の体積の90〜98%程度となるものが多い。
【0047】
一方、本発明の粘着テープ100は、この樹脂の体積が収縮し始める温度(約60℃〜70℃)あたりまでは強固な粘着力を発揮するが、これを超えるとその凝集力が徐々に低下するといった特性を有している。
【0048】
図5は、重合反応に伴う樹脂の体積変化および粘着テープの動きを示したものである。
【0049】
まず同図(a)に示すように、キャビティC内に適量の樹脂を充填した直後は、粘着テープ100はほぼ平坦状態となっているが、加熱ないし光照射などによって樹脂が熱膨張すると、同図(b)に示すようにキャビティCの内圧が高まって樹脂がモールド30,30からはみ出すように径方向に膨張する。
【0050】
すると、この樹脂の膨張によって粘着テープ100がモールド30,30の径方向に膨らむように押し出されることになるが、前述したようにこの粘着テープ100は所定温度までは強固な粘着力を発揮しているため、これがモールド30,30から簡単に剥がれたりすることはない。これによって、樹脂の体積膨張を許容しつつ樹脂をキャビティC内に確実に封止できる。
【0051】
なお、モールド30,30は前述したように固定治具40によって固定されているため、キャビティCの内圧が変化してもその距離は何ら変わることはなく、常に一定の距離が維持されることになる。
【0052】
次に、このようにして重合反応が始まって暫く経つと、同図(c)に示すように熱膨張していた樹脂が反対に収縮方向に転じてキャビティC内に収まるように変形してくる。
【0053】
すると、粘着テープ100がこの動きに追従してキャビティC内に撓むように変形してくるが、やがてその収縮量(反応温度)がある一定量を超えると凝集力が一気に低下してその粘着テープ100がキャビティC内に落ち込むようにその粘着面がスライド移動する。これによって、テープ基材10やモールド30,30に無理な力が掛からなくなるため、テープ基材10の割れなどによる空気の進入を確実に防止でき、プラスチックレンズの気泡発生を抑制することができる。
【0054】
このように本発明の粘着テープ100を用いたプラスチックレンズの成型方法によれば、体積膨張時にはテープ基材10がそれに伴って伸張すると共に、重合反応に伴う樹脂の体積縮小時には、凝集力が弱まってテープ基材が樹脂に追従してモールド表面をスライドするように動くことになる。
【0055】
これによって、モールド間の距離を保持したまま重合反応処理を行うことにより、図7に示すようなレンズ成型後の厚さ方向の変動を抑えることができる。これによって、レンズ成型後の厚さ方向の切削加工などが殆ど不要となり、その後のレンズ加工作業を大幅に簡略化することができる。
【0056】
なお、本実施の形態では、テープ基材10の片面(粘着面)全体に粘着層20を設けた構成としたが、図6に示すようにテープ基材10の各モールド30,30を粘着する領域(両サイド)にのみこの粘着層20を設けるようにしても良い。
【0057】
このような構成にすれば、粘着層20を構成する粘着剤の使用量を減らせると共に、粘着剤の一部が成型品に付着するといった不都合も回避することができる。
【実施例】
【0058】
本発明のプラスチックレンズ成型用粘着テープの構成について、実施例によって具体的に説明する。但し、本発明の粘着テープはこれに限定されるものではない。
【0059】
〔試験例1〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製X−40−3240)95質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製PSA610−SM)5質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(信越化学工業株式会社製X−92−122)0.10質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように東レ株式会社製ポリエステル(PET)フィルム基材(厚さ50μm)に塗工・乾燥し、総厚70μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープ(以降は、粘着テープと記すこともある)を得た。
【0060】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、変厚、気泡混入、および、液漏れが生じておらず、レンズ側面の研磨やレンズ表面の切削が不要の良品レンズであった。よって、この粘着テープは、レンズ成型に必要な特性を有していると言える。
【0061】
なお、変厚とは、重合反応に伴う樹脂の厚さ方向の収縮により、本来得られるべきプラスチックレンズよりも厚さの薄いものが得られることである。図7に、本来得られるべきプラスチックレンズの成形品形状を破線で示し、変厚したプラスチックレンズの形状(変厚形状)を実線で示す。また、気泡混入とは、作製したプラスチックレンズの周縁部等に、重合時に発生した気泡が混入することである。さらに、液漏れとは、レンズ成型時に液状の樹脂(重合性モノマー)がキャビティから漏洩することである。
【0062】
〔試験例2〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSR1512)70質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR100)30質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.15質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように帝人デュポン株式会社製PETフィルム基材(厚さ24μm)に塗工・乾燥し、総厚44μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0063】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、変厚、気泡混入、および、液漏れが生じておらず、レンズ側面の研磨やレンズ表面の切削が不要の良品レンズであった。よって、この粘着テープは、レンズ成型に必要な特性を有していると言える。
【0064】
〔試験例3〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(東レ・ダウコーニング株式会社製SD4560)65質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR101−10)35質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.20質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるようにアジヤアルミ社製アルミニウム/ポリエステルフィルム複合基材(厚さ20μm)に塗工・乾燥し、総厚40μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0065】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、変厚、気泡混入、および、液漏れが生じておらず、レンズ側面の研磨やレンズ表面の切削が不要の良品レンズであった。よって、この粘着テープは、レンズ成型に必要な特性を有していると言える。
【0066】
〔試験例4〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(東レ・ダウコーニング株式会社製SD4560)96質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR101−10)4質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(信越化学工業株式会社製のX−92−122)0.10質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように東洋紡績株式会社製PET基材(厚さ25μm)に塗工・乾燥し、総厚45μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0067】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型において気泡混入を抑制できなかったが、変厚および液漏れは生じず、レンズ側面の研磨を施すことにより使用可能なレベルのレンズを得ることができた。
【0068】
〔試験例5〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(東レ・ダウコーニング株式会社製SD4560)64質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR101−10)36質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(信越化学工業株式会社製のX−92−122)0.10質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように東洋紡績製PET基材(厚さ25μm)に塗工・乾燥し、総厚45μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0069】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型時に液漏れが発生してプラスチックレンズの一部が欠けた上、気泡が混入したが、変厚は生じず、レンズ側面の研磨を施すことにより使用可能なレベルのレンズを得ることができた。
【0070】
〔試験例6〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSR1512)70質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR100)30質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.15質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように三菱樹脂株式会社製PET/PET複合基材(厚さ51μm)に塗工・乾燥し、総厚71μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0071】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型において気泡混入を完全には抑制できなかったが、変厚および液漏れは生じなかった。得られたレンズの品質は試験例1〜3よりも若干低かったが、レンズ側面の研磨を施すことにより良品レンズを得ることができた。
【0072】
〔試験例7〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSR1512)70質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR100)30質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.15質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように帝人デュポン株式会社製PETフィルム基材(厚さ19μm)に塗工・乾燥し、総厚39μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0073】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型時に一部液漏れが発生するとともに気泡混入を完全には抑制できなかったが、変厚は生じなかった。得られたレンズの品質は試験例1〜3よりも若干低かったが、レンズ側面の研磨を施すことにより良品レンズを得ることができた。
【0074】
〔試験例8〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSR1512)70質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR100)30質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.21質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように東レ製PET/PET複合基材(厚さ23μm)に塗工・乾燥し、総厚43μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0075】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型において若干変厚が発生するとともに気泡混入を完全には抑制できなかったが、液漏れは生じなかった。得られたレンズの品質は試験例1〜3よりも若干低かったが、レンズ表面の切削およびレンズ側面の研磨を施すことにより良品レンズを得ることができた。
【0076】
〔試験例9〕
付加反応型のシリコーン粘着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSR1512)70質量部、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製KR100)30質量部、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤(東レ・ダウコーニング株式会社製BY24−741)0.09質量部をトルエン中にて均一攪拌混合して粘着剤溶液を作製した。この粘着剤溶液を、粘着層厚が20μmになるように東レ株式会社製PETフィルム基材(厚さ23μm)に塗工・乾燥し、総厚43μmのプラスチックレンズ成型用粘着テープを得た。
【0077】
この粘着テープを使用し作製したプラスチックレンズは、表1に示すとおり、レンズ成型時に一部液漏れが発生するとともに気泡混入を完全には抑制できなかったが、変厚は生じなかった。得られたレンズの品質は試験例1〜3よりも若干低かったが、レンズ側面の研磨を施すことにより良品レンズを得ることができた。
【0078】
【表1】

【符号の説明】
【0079】
100…プラスチックレンズ成型用粘着テープ
10…テープ基材
11…切れ込みまたは長孔
20…粘着層
30…モールド
31…固定孔
40…固定治具
41…固定ピン
C…キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーが充填される一対のモールド間をその周方向に沿って連続的に封止するためのプラスチックレンズ成型用粘着テープであって、
伸張性を有するテープ基材に、これを前記モールド側に粘着させるための粘着層を有すると共に、
前記粘着層が、前記モールド間に充填された重合性モノマーが重合反応を開始する温度以上で凝集力が低下する粘着剤からなることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープ。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズ成型用粘着テープにおいて、
前記テープ基材が、厚さ20〜50μmのポリエチレンテレフタレートを主成分とする材料からなることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスチックレンズ成型用粘着テープにおいて、
前記粘着剤が、付加反応型のシリコーン粘着剤95〜65質量部と、過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤5〜35質量部と、前記付加反応型のシリコーン粘着剤に有効な架橋剤とを主成分とすることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプラスチックレンズ成型用粘着テープにおいて、
前記粘着層が、前記テープ基材の前記各モールドを粘着する領域にのみ設けられていることを特徴とするプラスチックレンズ成型用粘着テープ。
【請求項5】
一対のモールドを所定の間隔を隔てて位置させた後、その間隔を保持しつつ前記モールド間を、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチックレンズ成型用粘着テープでその周方向に沿って連続的に封止してキャビティを区画形成する工程と、
前記キャビティに重合性モノマーを充填する工程と、
前記一対のモールドをその距離が変動しないように固定した状態で前記キャビティ内の重合性モノマーを重合反応させる工程と、を含むことを特徴とするプラスチックレンズ成型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−915(P2012−915A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139652(P2010−139652)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000194332)マクセルスリオンテック株式会社 (46)
【Fターム(参考)】