説明

プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法

【課題】ウエハ上のイオンエネルギーを所望の範囲の値に調節して、高精度な加工または長期間安定して処理を行うことのできるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】真空容器内に配置され内部でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置されその上部の載置面に処理対象のウエハが載せられるステージと、このステージ内部に配置された電極にバイアス電位を形成するための高周波電力を供給する電源とを備え、前記電源から前記高周波電力を供給しつつ前記プラズマを用いて前記ウエハを処理するプラズマ処理装置であって、前記ステージの前記載置面の外周側に配置されその上方に形成される前記バイアスの電圧の値から最大値及び最小値との差の成分Vppと直流の成分Vdcとを検出する検出器と、この検出器からの出力に基づいて前記処理中Vpp/2+|Vdc|の値を一定になるように高周波バイアス電力の出力を調節する制御器とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内の処理室内に形成したプラズマを用いて当該処理室内に配置された半導体ウエハ等の基板状の試料を処理するプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関し、特に、処理中に処理室内の試料台の載置面に載せられた試料上に高周波電力によるバイアス電位を形成して試料を処理するプラズマ処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの量産工程において、プラズマエッチング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマアッシング等のプラズマ処理が広く用いられている。プラズマ処理は、減圧した状態の処理用ガスに高周波電力やマイクロ波電力を投入することでプラズマを発生させ、イオンやラジカルをウエハに照射することで行われる。特にプラズマエッチングでは、ウエハに数100kHzから数10MHzの高周波バイアスを印加し、プラズマ中のイオンをウエハに積極的に引き込むことで、異方性の高い加工を行っている。
【0003】
また半導体デバイスの微細化は今後も進み、国際半導体技術ロードマップ(International Technologiy Roadmap for Semiconductors;ITRS)によれば、2014年から2016年の間には22nmノードの量産が立ち上がると予想されている。この際のトランジスタ構造は、現在の主流であるプレーナ型(平面型)から、ダブルゲート型、トライゲート型等の3D構造を有したFinFET型が主流になるものと予想される。これら将来の半導体デバイスの製造に用いられるプラズマ処理装置、特に微細化の要であるプラズマエッチング装置には極限の微細加工性能や制御性、安定性が求められている。
【0004】
一般的にプラズマエッチング装置は、エッチング形状やエッチング速度、マスク選択比、下地選択比等に関して所望の性能を得るために、プラズマ生成用のソース電力、バイアス電力、各種ガス流量、ガス圧力等のパラメータ(外部パラメータ)を所期の値の範囲に調節して処理を行っていた。一方、エッチング性能に直接かかわるプラズマの密度やラジカル密度の値やその分布、ウエハに入射するイオンエネルギー等のパラメータ(内部パラメータ)を検出してこれを所望の値の範囲に調節して処理を行う工夫は十分に検討されていなかった。
【0005】
従来の技術の例として、特開2000−269195号公報(特許文献1)には、ウエハバイアス用の整合器の出口とウエハを保持する電極との間に、バイアス電圧のPeak to Peak値Vpp,自己バイアス電圧Vdc,装置系のインピーダンスZの少なくとも1つを測定し、その測定値に基づきバイアス電源の出力を制御する技術が開示されている。特許文献1は、外部パラメータであるバイアス電力を一定に制御せず、バイアス電圧のVpp,Vdc等が一定になるようにバイアス電力をフィードバック制御して、エッチング装置の長期間にわたる安定な稼動、即ち、長期間運用した際のエッチング特性の経時変化を抑制することができ、さらにはプラズマ処理チャンバの適切な洗浄時期を判定するものである。
【0006】
また、特開2005−277270号公報(特許文献2)には、プラズマ処理中のウエハバイアスVppを測定する工程と、ウエハ保持電極と高周波バイアス電源との間の静電容量を調節する工程により、ウエハバイアスVppを所望の一定値に保持する技術が開示されている。本従来技術は、このような構成により、ウエハ毎にプラズマの状態の変化を低減して均一化し、処理の不均一さを低減するものである。
【0007】
さらには、特開2008−244429号公報(特許文献3)は、FinFETのような段差を有する膜構造を高精度にエッチングする方法として、複数の周波数のバイアス電力をウエハに供給することで、ウエハに入射するイオンの平均エネルギーと、エネルギー分布(Ion Energy Distribution Function;IEDF)を独立に制御する技術が開示されている。また、特開平10−74481号公報(特許文献4)には、高周波電力が印加されている測定対象物上のイオンエネルギーを測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−269195号公報
【特許文献2】特開2005−277270号公報
【特許文献3】特開2008−244429号公報
【特許文献4】特開平10−74481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今後のデバイスの微細化に対応していくためには、各エッチング条件にて、要求される加工スペックにあったイオンエネルギー分布制御が必要不可欠となる。このような課題に対して、上記従来の技術では以下の点について検討が不十分であったため問題が生じていた。
【0010】
例えば、特許文献3に開示の技術では、実際のエッチング中はエッチングチャンバの壁の状態や気相の雰囲気が時々刻々と変化してしまい、これに応じてイオンエネルギー分布も時間的に変化してしまうため、このような変化に適合させた複数の周波数のバイアス電力をウエハまたは試料台内の電極に供給することが困難となっていた点については、考慮されていなかった。また、特許文献4の技術を用いて、イオンのエネルギー分布を検出してこれに基づきウエハバイアス電源の出力を調節しようとしても、イオンエネルギー分布のモニタの構造が原理的に複雑になり非常に大きなコストが掛かり、産業用の半導体デバイス製造用の装置としては提供することは困難となっていた。
【0011】
また、特許文献1、2に開示のものでは、ウエハを保持する電極でのバイアス電圧、即ち、バイアスVppやVdcを測定し、これらが一定になるようにバイアス電源出力や静電容量を制御している。しかしながら、発明者らの検討によれば、Vpp、もしくはVdcを一定となるように調節するもののみではウエハ上面でのイオンエネルギーの分布が必ずしも一定にならないという知見が得られた。
【0012】
図5を用いて、ウエハ上のバイアス電圧波形とIEDFの関係を模式的に示す。本図は、任意の形状のウエハの表面におけるバイアス電圧の波形とイオンエネルギー分布関数(Ion Energy Distribution Functtion)を模式的に示すグラフである。
【0013】
図5(a)に示したように、通常、試料台内の電極に供給される高周波電力によるバイアス電圧の波形は概ね正弦波の形をしている。また、正イオンに比べ電子の移動度が圧倒的に大きいため、マイナスの自己バイアス電圧Vdcが発生する。
【0014】
一方、このような波形を有するバイアス電圧により加速されてウエハに入射するプラズマ中のイオンのエネルギー分布は、一般的に、IEDFとして図5(b)に示したように複数(本例では2つ)の形状となる。エッチング処理の場合、パターンの垂直性や、下地との選択比等の特性に最も影響が大きいものは、本図に示すIEDFの高エネルギーピークであることが発明者らの検討の結果知見が得られた。
【0015】
また、本図からわかるように、高エネルギーピークの値とこれに対応するイオンエネルギーの値はVpp/2+|Vdc|の値により左右されるため、上記従来技術ではイオンエネルギーを調節して十分に高い処理、加工の精度を得ることは困難であった。特に、実際のエッチング中は、エッチングチャンバの壁の状態や気相の雰囲気が時々刻々と変化するため、処理中に常にVppとVdcの間に一定の相関があるとは限らず、VppもしくはVdcを一定にするのみの調節では所望のイオンエネルギーの分布を得ることが困難であった点について、これら従来技術では考慮されていなかった。
【0016】
また、従来の技術ではウエハ上のVppは計測がなされてきたが、ウエハ上のVdcを実際に計測するのは非常に困難であった。なぜなら、現在のエッチング処理装置やプラズマ処理装置は、ウエハを電極上に保持するために静電気により吸着する静電チャックを用いているものが一般的であり、このような静電チャックを備えた装置では、ウエハ上に発生した自己バイアス電圧Vdcは静電チャック上の絶縁膜により遮断されてしまうため、特許文献1に記載のように、バイアス用の整合器の出口とウエハを保持する電極との間にVdcの測定手段を設けたとしてもVdcを測定することは困難であった。
【0017】
本発明の目的は、このような課題を解決して、ウエハ上のイオンエネルギーを所望の範囲の値に調節して、高精度な加工または長期間安定して処理を行うことのできるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、処理室内においてウエハ上に発生するVdcを簡便に検出できる手段を有し、Vpp/2+|Vdc|の値を所定の範囲内となるように調節することで、IEDFのエネルギーピークの変動を低減することにより達成される。より詳細には、真空排気手段により排気された真空処理室と、真空処理室にガスを供給するためのガス供給手段と、前記ガスをプラズマ化するためのソース電源と、ウエハを載置するための基板ステージと、前記基板ステージを介してウエハに高周波バイアス電力を印加するための高周波バイアス電源と、を備えたプラズマ処理装置において、前記した基板ステージの基材部から容量的に結合し、プラズマに直接接触するような導電体部材を備え、前記した導電体部材の表面はウエハと略同一高さでウエハの最外周部より外側にあり、前記した導電対部材に発生するバイアス電圧波形のPeak to Peak成分VppとDC成分Vdcとを検出する手段を具備し、プラズマ処理中にVpp/2+|Vdc|の値が一定になるように高周波バイアス電力の出力をフィードバック制御することを特徴としたプラズマ処理装置により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す実施例に係る電圧検出ヘッドの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す電圧検出部の構成の概略を模式的に示す斜視図である。
【図4】図2に示す電圧検出ヘッドがサセプタ内部に配置されている状態を上から見た平面図である。
【図5】任意の形状のウエハの表面におけるバイアス電圧の波形とイオンエネルギー分布関数(Ion Energy Distribution Functtion)を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明に係るプラズマ処理装置の実施の形態を説明する。
【0021】
〔実施例〕
本発明の実施例を図1乃至図4を用いて説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を示す縦断面図である。本実施例のプラズマ処理装置は、真空容器を備えて構成されており、真空容器の上方には真空容器内に配置された真空処理室1内にプラズマを形成するための電界または磁界を供給する電磁界供給手段が配置され、下方には真空処理室1内を排気するための排気手段が配置されている。また、真空容器内の真空処理室1は略円筒形を有しその下方の真空容器内には、ウエハ4がその上面の載置面に載置されて保持される基板ステージ5が備えられている。
【0023】
排気手段は真空処理室1下方に配置された排気口に連結され、真空処理室とターボ分子ポンプ19等の真空ポンプの入口とが通路により連通している。真空ポンプと排気口との間には、回転して排気の通路内の流路の断面積を可変に調節するコンダクタンス調節バルブ18が配置され、排気ポンプの動作とコンダクタンス調節バルブ18による流路の断面積の調節とにより、真空処理室1内の排気の量、速度が調節される。
【0024】
真空処理室1の基板ステージ5の上方にはプラズマ形成のための空間が配置され、その天井面は円板形状を有した石英等の誘電体製のマイクロ波透過窓6が備えられている。マイクロ波透過窓6の上方には円筒空洞7が備えられて、マイクロ波透過窓6の上面が円筒空洞7の底面を構成している。円筒空洞7は、上方からプラズマを形成するための電界(本実施例ではマイクロ波の電界)が供給され、円筒空洞7の高さは、円筒空洞中で円形TE01モードのマイクロ波が共振するように調整されている。
【0025】
マイクロ波透過窓6の下方であってこれとすき間を開けて基板ステージ5と対向する位置にシャワープレート8が備えられている。マイクロ波透過窓6との間のすき間は、真空処理室1外部のガス源と連結された図示しないガス供給経路と連結され、ガス源からのガスがすき間に導入されてすき間内に拡散した後、シャワープレート8の中央部でキバンステージ5と対向する領域に配置された貫通孔を通して真空処理室1内に処理用のガスを分散して導入される。
【0026】
円筒空洞7の上部に配置されたリング状の板を備えた天井面は円形導波管11が連結され、円形導波管11内を伝播してきたマイクロ波が円筒空洞7内に導入される。本実施例では、マイクロ波の周波数として、例えば、工業周波数である2.45GHzを用いている。円形導波管11を通り伝播してきたマイクロ波の電界は、円筒空洞7内で所定のモードに共振された電界は、マイクロ波透過窓6及び下方のシャワープレート8を透過して下方の真空処理室1内に供給される。
【0027】
さらに真空処理室1の外部であって、円筒空洞7の上方および真空処理室1または円筒空洞7の側方外周を囲んで1系統ないし3系統のソレノイドコイル2と、ヨーク3とを有した磁界形成手段が備えられている。ソレノイドコイル2にはウエハ4の処理中に直流電力が供給されて生起された磁界が真空処理室1内に供給される。
【0028】
ウエハ4の処理に際して、真空容器に配置された開口を有したゲート内を通して実質的に円板形状を有したウエハ4が真空処理室1内に搬送され、基板ステージ5に受け渡されてその円形を有する基板の載置面に載せられて静電気により吸着、保持される。この状態で、排気口から真空ポンプ及びコンダクタンス調節バルブ18の動作による排気がされつつ真空処理室1にシャワープレート8を介して処理用のガスが導入され、排気とシャワープレート8を介した処理用のガスの導入の流量速度のバランスにより所望の値に真空処理室1内の圧力が調整される。本実施例ではウエハ4の処理の条件に応じて0.05Paから10aの間の圧力に調節可能に構成されている。
【0029】
マイクロ波透過窓6及びシャワープレート8と透過させてマイクロ波の電界が真空処理室1内に供給され、また磁界供給手段から磁界が供給される。これらの電界、磁界の相互作用の結果処理用ガスが励起されてプラズマ化される。この際、ソレノイドコイル2により真空処理室1内部にECR共鳴を引き起こす強度である875ガウスの磁界が供給されており、0.05Paから5Pa程度の圧力の範囲で安定したプラズマを生成することができる。
【0030】
基板ステージ5内には金属製の電極が配置されて、この電極に高周波バイアス電力が印加されて基板ステージ5の上面に載せられたウエハ4の上方に高周波バイアス電位を形成する手段が備えられている。この高周波バイアス電位とプラズマとの電位差によりプラズマ中のイオンをウエハに引き込みエッチング処理を促進させる。本実施例では、さらに、基板ステージ5には、高周波バイアス電圧の波形を正確に検出するための電圧検出ヘッド30が分圧器31と接続されて備えられている。
【0031】
真空処理室1を構成する真空容器はアルミニウム等の金属製であり電気的には接地されている。また、真空処理室1の内壁を構成する部分には、耐プラズマ性があり、かつデバイスに金属汚染を与えにくい絶縁材料、即ち、イットリア(Y23)、アルミナ(Al23)、フッ化イットリウム(Y23)、フッ化アルミニウム(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、石英(SiO2)等のセラミクスまたはこれらの化合物の材料による皮膜が50μmないし500μm程度の厚さで被覆されている。
【0032】
また、真空処理室1の温度を調節できる構造とすることで、量産時の処理安定性を向上させることができる。真空処理室1の温度の調節は、真空処理室1の側壁の内部に液体が流れる流路を形成しておき、チラー等で温調された液体を該流路に流すことで実現できる。もしくは、真空処理室1の大気側にヒーターを具備しても構わない。これらの温調手段により真空処理室は30℃から100℃の間の所望の温度で温調される。また、真空処理室1の金属壁部分に白金温度計等の温度モニタ手段を埋め込み、真空処理室の温度をフィードバック制御することで、さらなる処理の安定化が期待できる。
【0033】
円板形状を有したマイクロ波透過窓6の直径は前記真空処理室1の内径よりも若干大きくなっており、外周部をOリング等でシールすることにより真空処理室1内と外部の大気圧の外気との間を気密に封止している。マイクロ波透過窓6の材質としては、マイクロ波の損失が小さく、汚染を引き起こさない材質、即ち、石英、アルミナ、イットリア等の材質が望ましい。
【0034】
マイクロ波透過窓6の下方に配置された略円板状の誘電体製のシャワープレート8の材質は、マイクロ波透過窓6の材質と同様に、マイクロ波の損失が小さく、汚染を引き起こさない材質、即ち、石英、アルミナ、イットリア等の材質が望ましい。シャワープレート8には直径0.1mmないし0.8mm程度の貫通孔が、5mmピッチないし20mmピッチ程度の間隔で開けられており、また、その厚さは5mmないし15mmの間で適宜設定される。
【0035】
シャワープレート8とマイクロ波透過窓6の間には、0.1mmないし1mm程度の隙間であるすき間が形成され処理用のガスが供給されて拡散するガスバッファ室となっており、このガスバッファ室の外周部から導入した処理用のガスは拡散した結果貫通孔から真空処理室1内へ流入する流量の不均一が抑制される。また、ガスバッファ室とシャワープレート8とを内周部と外周部の2つの領域に分け、それぞれに別系統のガス供給系(図示せず)を連結し、内周部と外周部に流す処理用のガスの種類、組成、流量を適宜調節することで、ウエハに到達するラジカル種の分布を制御することが可能になる。
【0036】
これにより、より高いウエハ面内の処理均一性を達成することができる。また、処理用のガスとしては、Cl2,HBr,HCl,CF4,CHF3,SF6,BCl3,O2,CH4等の反応性ガスの中から1種類ないしは4種類程度を、被エッチング膜の種類に応じて適切に選び、それぞれの流量や混合比を適切に調節する。また、これらの混合した反応性ガスに、ArやXe等の希釈ガスを適切な流量で加えても構わない。
【0037】
円筒空洞部7の底面はマイクロ波透過窓6の上面が構成しており、天井面はリング状の金属製円板が構成する。その中央部には円形導波管11が連結されており、マイクロ波供給経路を構成する。マイクロ波供給経路は、導波管と導波管軸方向の経路上に経路の下端から上端に向かって、上下方向に軸を有する円形導波管11、円偏波発生器12、矩形円形導波管変換部13、水平方向に軸を有する矩形導波管14、マイクロ波用自動整合器15、アイソレータ16、マグネトロン17が配置されている。
【0038】
マグネトロン17より発振された所定の周波数のマイクロ波による電界は、マイクロ波用自動整合器15を介して矩形TE10モードで矩形導波管を伝播し、矩形円形導波管変換部13で円形TE11モードに変換されて円偏波発生器12を介して円筒空洞7に導入される。円偏波発生器12で円形TE11モードの偏波面を回転させ、右回り円偏波を発生させることにより、周方向での電界分布を均一化することができる。また、マイクロ波用自動整合器15で負荷とのマッチングを取ることにより、マイクロ波電力をプラズマ負荷に効率よく投入し、反射電力を抑えることができる。さらに、アイソレータ16は、マイクロ波用自動整合器15で取りきれなかった反射波がマグネトロンに戻ることを防いでいる。
【0039】
真空処理室1の外部には、1系統ないし3系統のソレノイドコイル2と、ヨーク3とが備えられている。本実施例では、図示していないが、ソレノイドコイル2に流れる直流の電流を適宜調節することで、ECR面(875ガウスの等磁場面)の高さや、ECR面の形状、磁力線の発散度合い等を調節できる構成を備えている。また、ECR共鳴を用いることにより、微細加工に有利な0.05Paから5Pa程度の低圧力領域にて安定したプラズマを生成することができ、ECR高さやECR面の形状、磁力線の発散度合いが制御されて、プラズマの密度の分布が所望のものに調節される。
【0040】
真空処理室1の下方には、ウエハ4を載置するための基板ステージ5が備えられている。基板ステージ5の基材はアルミニウムやチタン等の金属製であり、真空容器の底部を構成する下部部材との間は絶縁材29によって絶縁されている。
【0041】
基板ステージ5内には、整合器22を介して高周波バイアス電源23と電気的に接続された電極が配置されており、本実施例では基材が想到する。基材の上面には、厚さ200μmから2000μm程度の絶縁膜層26が配置されており、ウエハ4が基材の上面の円形の載置面上に載せられた状態で高周波電力が供給されウエハ4に高周波バイアス電位が形成される。高周波バイアス電源23の電力の周波数は200kHzないし13.56MHzの間から適切に選択される。
【0042】
また、基板ステージ5の載置面の外周側は、載置面の絶縁膜層26の上面の高さより低くされたリング状の段差部が配置されており、この段差部の絶縁膜層26に覆われた部分の上方には、セラミクス等誘電体製の略円環状の部材であるサセプタ27が配置され、真空処理室1内に形成されるプラズマに対して基板ステージ5を覆っている。また、基板ステージ5の側壁部は略円筒形をした誘電体製の電極カバー28で覆われている。なお、サセプタ27、電極カバー28の材質は、耐プラズマ性が高く汚染を引き起こしにくい材質、即ち、石英、高純度アルミナ、イットリア等が望ましい。
【0043】
前記した絶縁膜層26の材質はAl23,Y23,AlN、もしくはAl23にTi23を10%前後含有したものであり、溶射もしくは焼結体を基材の上面に接着させることによって形成される。また、絶縁膜層26の内部には複数の膜状の電極が配置され、直流の圧源が電気的に接続されている。ウエハ4が載置面の絶縁膜層26上面に載せられた状態で、電極に数百Vから数kVの直流電力を印加することで、絶縁膜層26の上部に静電気力でウエハ4が吸着される。
【0044】
また、基板ステージ5の円板または円筒形状を有する基材の内部には基材の温度を調節するための冷媒が通流する、ら旋状または同心で異なる半径位置に複数の円弧状に配置された冷媒通路25が配置されている。冷媒通路25は真空処理室1外部に配置されたチラー等の温度調節器20と管路により連結され、温度調節器20内で所定の温度に調節された冷媒が冷媒通路25を通り循環される。この冷媒の通流により基板ステージ5の温度が処理に適切な所望の値の範囲に維持される。
【0045】
さらに、ウエハ4が載置面の絶縁膜層26に載せられて保持された状態で、その上面に配置された開口と連通された流路に伝熱ガス源21からHe等の伝熱ガスが絶縁層26の上面とウエハ4の裏面との間のすき間に導入される。この伝熱ガスによりウエハ4と温度調節された基板ステージ5または基材との間の温度の伝達が促進され、ウエハ4の温度を処理に適した所望の値の範囲内に維持される。
【0046】
本実施例では、基板ステージ5の載置面の外周に配置された段差部に載せられたサセプタ27内部に、高周波バイアスを印加した際にサセプタ27またはウエハ4の上方に生じるバイアス電圧のピークツーピーク(Peak to Peak、最大値および最小値の差)の値Vpp及び自己バイアス電圧Vdcの値を検出する電圧検出ヘッド30が配置されている。電圧検出ヘッド30はサセプタ27の上面に配置され上方の真空処理室1内に形成されるプラズマに面する開口の内部に配置され、その上面はサセプタ27の上面と同じ位置に保持されており、また基板ステージ5の載置面上の絶縁膜層26の上面またはこれに載せられた状態のウエハ4の上面と実質的に同じ高さとなるように配置されている。
【0047】
本実施例の電圧検出ヘッド30は、電極である基材の載置面の外周側部分であるリング状の段差部の上方に配置されており、ウエハ4と同様に基材に供給された高周波電力によるバイアス電位が上方に形成される。さらに、電圧検出ヘッド30は真空処理室1の外側で基板ステージ5の直下に備えられた分圧器31の入力側に電気的に接続されている。電圧検出ヘッド30に発生する高周波バイアスの電圧の波形および直流の電圧を乱さず計測するためには、分圧器31の入力インピーダンスは1MΩ以上、入力容量は50pF以下が望ましい。
【0048】
電圧検出ヘッド30上に発生したバイアスの電圧の波形は分圧器31に入力され、1/100程度に減衰されたのち、真空処理室1外部に配置された制御PC101の入出力インターフェースの一つであるADボードに出力される。制御PCは内部の演算器により入力された信号から電圧の波形を演算することにより電圧の波形のVpp成分及びVdc成分を抽出する。
【0049】
さらに、制御PCは、内部または通信手段により通信可能な記憶装置に格納されたソフトウエハやデータに基づいて、エッチング中にVpp/2+|Vdc|の値が一定となるような高周波バイアス電源23の出力値を演算器により検出し、その値が出力されるように高周波バイアス電源23に指令を発信する。制御PCは本実施例の制御部であって、図示していないが本実施例のプラズマ処理装置の電磁界供給手段、排気手段、基板ステージ5、温度調節器20、分圧器31等の各動作部位やセンサ等検知手段と通信手段を介して通信可能に接続され、受診した検知手段からの信号から演算器により検出されたプラズマ処理装置の動作の状態に基づいて各動作部位に適宜の動作の指令を発信して、プラズマ処理装置の動作を調節する。
【0050】
先述したように、ウエハに入射するイオンエネルギー分布IEDFの高エネルギーピーク成分はVpp/2+|Vdc|で見積もることができるため、エッチングが進行し、チャンバの壁の状態や雰囲気が変化しても、前記した制御を行うことでIEDFの高エネルギーピーク成分は変化しない。これにより、IEDFの高エネルギーピークを時間的に一定に制御し、次世代の微細化に対応した高精度加工と長期安定性を実現できる。
【0051】
次に、図2乃至図4を用いて電圧検出ヘッド30の構造を詳細に説明する。図2は、図1に示す実施例に係る電圧検出ヘッド30が基板ステージ5に実装されている状態を示す断面図である。特に、図1に破線の部分で示すサセプタ27とその周辺部分を拡大して示す図である。図3は、図2に示す電圧検出ヘッド30の構成の概略を模式的に示す斜視図である。図4は、電圧検出ヘッド30がサセプタ27内部に配置されている状態を上から見た平面図である。
【0052】
図2,図3に示す通り、電圧検出ヘッド30は分割されて交換可能な上部ピース32と、下部ピース33を備えて構成されている。基板ステージ5の載置面の外周部に配置されている段差部には、直径5mmないし10mmの貫通孔が配置されて、この貫通孔の内部には絶縁パイプ34が挿入され、内外を電気的に絶縁している。下部ピース33は金属製の径の大きな円板を有し、絶縁パイプ34の上端部の開口内に下部ピース33下部が挿入されて保持される構成を備えている。
【0053】
下部ピース33は、直径10mm乃至50mm、厚さ1mm乃至5mm程度の略円板状の金属板を有し、その下面にリング状または円筒状のソケット35が接合された構造となっている。また、ソケット35内部にはプラグ36が貫入されて保持されて金属板と電気的に接続されている。プラグ36は下端部が信号線37の先端と接続され信号線37の他端部は分圧器31の入力側に接続されている。
【0054】
下部ピース33の上部には、着脱可能な上部ピース32が備えられている。上部ピース32は、下部ピースの円板部とほぼ同じ直径の円板の上に、それよりも小さい径の円柱を同心に重ねた形状で一体形成されている。上部ピース32の円柱部分の上面の直径は4mm乃至40mmである。
【0055】
上部ピース32にはウエハ4と同様に高周波電力が印加されて上方にバイアス電位が形成されるため、長期間使用すると荷電粒子との衝突により消耗する。このため、上部ピース32は着脱、交換が容易な構造としている。また、本実施例の上部ピースの材質はウエハに金属汚染を起こしにくく、かつ導電率の高い材質、即ち、ボロンもしくはリンをドープした、抵抗率が1Ωcm以下のシリコンが用いられる。
【0056】
また、上部ピース32の大径の円板部の下面に、アルミニウムをスパッタ蒸着し熱処理を施すことで、下部ピース33と接触させた場合の直流の電気接触がより確実になる。また、サセプタ27は、上部ピース32、下部ピース33が接触させた状態の形状に合わせて段付きの貫通孔が配置されており、上部ピース32を下部ピース33に重ねた状態で、サセプタ27の貫通孔に嵌合して保持される。この状態で、上部ピース32の上部の円柱部の上面はサセプタ27の上面と同じ高さにされている。
【0057】
図4に示すように、上部ピース32はウエハ4の外周縁に対し適切な位置に配置する必要があるが、上部ピース32がウエハ4の外縁(エッジ)に近すぎると、上部ピース32の影響でウエハ4のエッジ部近傍のエッチングの特性(速度、垂直性等)が悪化する可能性がある。また、上部ピース32がウエハ4のエッジから遠すぎると、ウエハ4上のプラズマの状態と電圧検出ヘッド30の上部ピース32上のプラズマの状態の違いが大きくなり、Vpp,Vdcを高精度に計測することが困難になる。
【0058】
本実施例では、上部ピース32は以下の関係を満たす位置に配置される。
【0059】
0.5×B<A<3.0×B
ここでAは、ウエハ4のエッジから電圧検出ヘッド30の上部ピース32の上部の円柱部の上端までの距離であり、本実施例ではサセプタ27の貫通孔と連通した上面の開口との距離である。またBは、電圧検出ヘッド30の上部ピース32の上部の円柱部の直径であり、本実施例では上記開口の直径と同等である。つまり、上記の条件は、ウエハ4またはプラズマに面する電圧検出ヘッド30の上端とウエハ4との水平方向の距離は電圧検出ヘッド30の上端部の径の1/2から3倍の範囲内にされる。
【0060】
このような電圧検出ヘッド30を用いて高周波バイアスのVppとVdcを精密に測定するためにはウエハ4直上方のプラズマの密度と電圧検出ヘッド30直上方のプラズマ密度とが大きく違わないことに加え、電圧検出ヘッド30に印加されるバイアスがウエハ4と同等になるようにする必要がある。
【0061】
ウエハ4は基板ステージ5の基材とは絶縁層26を介して容量的にカップリングしている。本実施例では、この静電容量をC1(pF)とし、また、ウエハ4の面積をS1(cm2)、電圧検出ヘッドの上面の面積をS2(cm2)とすると、電圧検出ヘッド30またはその導電性部材の部分が基板ステージ5または電極である基材とカップリングする静電容量C2を、C2=S2×C1/S1にする。もし、C2がこの値よりも十分に小さい場合には電圧検出ヘッド30には高周波のバイアスは殆ど印加されなくなってしまう。逆にC2がこの値より十分に大きいと、ウエハ4に印加されるバイアス電圧以上の電圧が、検出ヘッド30に印加されることになってしまう。
【0062】
上記実施例によれば、電圧検出ヘッド30により検出した結果を用いてウエハ4上に発生するバイアス電圧の波形を高精度に予測することができる。つまり、ウエハ4上に発生するVdcを簡便にIn−situで検出することができる。この検出した結果を用いて、Vpp/2+|Vdc|を一定となるように調節し、IEDFの高エネルギーピークに対応するイオンエネルギーを一定に制御することで、次世代の微細化に対応した高精度の加工と長期の安定性とを兼ね備えたプラズマエッチング装置を提供できる。
【0063】
なお、これまでの説明は、プラズマ源として有磁場マイクロ波ECR装置を例に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。ウエハにバイアスを印加するタイプであれば、他のプラズマソース、即ち、平行平板型、誘導結合型であっても、本発明の効果は何ら変わらない。
【符号の説明】
【0064】
1 真空処理室
2 ソレノイドコイル
3 ヨーク
4 ウエハ
5 基板ステージ
6 マイクロ波透過窓
7 円筒空洞
8 シャワープレート
11 円形導波管
12 円偏波発生器
13 矩形円形導波管変換部
14 矩形導波管
15 マイクロ波用自動整合器
16 アイソレータ
17 マグネトロン
18 コンダクタンス調節バルブ
19 ターボ分子ポンプ
20 温度調節器
21 伝熱ガス源
22 整合器
23 高周波バイアス電源
25 冷媒通路
26 絶縁膜層
27 サセプタ
28 電極カバー
29 絶縁材
30 電圧検出ヘッド
31 分圧器
32 上部ピース
33 下部ピース
34 絶縁パイプ
35 ソケット
36 プラグ
37 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に配置され内部でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置されその上部の載置面に処理対象のウエハが載せられるステージと、このステージ内部に配置された電極にバイアス電位を形成するための高周波電力を供給する電源とを備え、前記電源から前記高周波電力を供給しつつ前記プラズマを用いて前記ウエハを処理するプラズマ処理装置であって、
前記ステージの前記載置面の外周側に配置されその上方に形成される前記バイアスの電圧の値から最大値及び最小値との差の成分Vppと直流の成分Vdcとを検出する検出器と、この検出器からの出力に基づいて前記処理中Vpp/2+|Vdc|の値を一定になるように高周波バイアス電力の出力を調節する制御器とを備えたプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、前記検出器は、その上端は前記載置面の上面またはこれに載せられた状態で前記ウエハ上面と実質的に同じ高さにされて前記プラズマに面し、前記ステージと前記検出器との単位面積あたりの静電結合容量を前記ステージと前記ウエハとの単位面積あたりの静電結合容量に等しくされたプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラズマ処理装置であって、前記検出器の前記プラズマに面する部分は前記ウエハが前記載置面に載せられて保持された状態でこのウエハの外周縁との距離が前記プラズマに面する部分の1/2から3倍の範囲内にされたプラズマ処理装置。
【請求項4】
真空容器内の処理室に配置されたステージの上部の載置面上に処理対象のウエハを載せ、前記処理室内部でプラズマを形成して、前記ステージ内部に配置された電極と電気的に接続された電源からバイアス電位を形成するための高周波電力を供給して前記プラズマを用いて前記ウエハを処理するプラズマ処理方法であって、
前記ステージの前記載置面の外周側に配置されその上方に形成される前記バイアスの電圧の値から最大値及び最小値との差の成分Vppと直流の成分Vdcとを検出する検出器からの出力に基づいて前記処理中Vpp/2+|Vdc|の値を一定になるように高周波バイアス電力の出力を調節するプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ処理方法であって、前記検出器は、その上端は前記載置面の上面またはこれに載せられた状態で前記ウエハ上面と実質的に同じ高さにされて前記プラズマに面し、前記ステージと前記検出器との単位面積あたりの静電結合容量を前記ステージと前記ウエハとの単位面積あたりの静電結合容量に等しくされたプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のプラズマ処理方法であって、前記検出器の前記プラズマに面する部分は前記ウエハが前記載置面に載せられて保持された状態でこのウエハの外周縁との距離が前記プラズマに面する部分の1/2から3倍の範囲内にされたプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−41953(P2013−41953A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177387(P2011−177387)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】