説明

プラズマ処理装置

【課題】ICPプラズマ処理装置における誘導磁場分布を調整し試料上でのプラズマ分布を補正して、試料に対して均一なプラズマ処理を行う。
【解決手段】ICPプラズマ処理装置において、誘導コイル4と誘電体窓1aの間に、誘導コイルに沿って少なくとも誘導コイルの周方向の一部に併設された導体12を設け、誘導コイルから導体の表面までの最短距離をLrとし、誘導コイルから誘電体窓直下のプラズマまでの最短距離をLpとし、誘導コイルからの誘導磁場強度を弱めたい箇所で、Lp≧Lrの関係を満たす位置に導体を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理装置に係り、特に誘導結合型プラズマ源を用いた装置に好適なプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造分野においては、試料のエッチングや表面処理に誘導結合型(Inductively Coupled Plasma:ICP)のプラズマ装置も利用されている。従来のICPプラズマ処理装置としては、特許文献1に記載のような、真空処理室の一部を構成するとともに処理ガスの吹き出し口を備えたガスリングと、ガスリングの上部を被って真空処理室を形成するベルジャと、ベルジャ上部に配置され、真空処理室内に高周波電界を供給してプラズマを生成するアンテナと、真空処理室内にウエハを載置する載置台と、アンテナとベルジャ間に配置されるとともに高周波バイアス電圧が付与されるファラデーシールドとを備えるICPプラズマ処理装置が知られている。
【0003】
このようなICPプラズマ処理装置では、特許文献2に記載のように、外部磁場の影響によるプラズマの不均一に対して、プラズマ処理室全体を磁性体で囲み、磁場の遮蔽を行うことによってプラズマの均一性を向上させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−158373号公報
【特許文献2】特開2004−22988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ICPプラズマ源を用いたプラズマ処理装置では、誘導コイルの電流分布が不均一になることは避けられず、誘導コイルの周方向に沿ってプラズマが不均一になることが知られている。これにより、ウエハ上に拡散したプラズマの中心軸が誘導コイルの中心軸とずれるというプラズマの偏芯を生じる。また、誘導コイルの給電部においても、誘導コイルの周方向のプラズマ分布が不均一になる。ウエハ上でのプラズマの偏芯は、プラズマ処理室内の排気偏芯によっても発生し得る。
【0006】
また、発明者らも、ウエハ上に拡散したプラズマの分布に偏芯が発生することを実験的に確認した。実験では、磁場による偏芯を模擬し、プラズマ処理室の外側に約0.4mTの磁石を設置してプラズマ処理を行った。この結果、磁石が持つ0.4mTの微小な磁場によって、ウエハ上に拡散したプラズマの分布が大きく変動することが判明した。このことから、プラズマは、地磁気程度の微小な磁場であっても影響を受ける可能性があることがわかる。さらに、装置に搭載される真空圧力計やモーターの磁場によっても同様の現象が起きる可能性がある。上述のウエハ上に拡散したプラズマの偏芯は、プラズマ処理室内であって誘導コイル近傍に発生したプラズマがプラズマ処理室内下方に拡散する際に、微小な磁場の作用によって斜めに拡散し、ウエハ上でプラズマを偏芯させることがわかった。ウエハ上でプラズマが偏芯したままエッチングを行うと、エッチング処理の均一性やエッチング形状の垂直性等が悪化する。このため、現在、エッチング処理の高精度化や高速化の要求が高まっている中、安定したエッチング処理を行うには、磁場の影響は無視できないものとなってきた。
【0007】
なお、上記特許文献2には磁場の影響を解決する手段を開示しているが、実用性の点で十分に配慮されているとは言えず、以下、三つの問題がある。一つは、性能上の問題である。プラズマ処理室には、被処理物の搬送口や処理ガスの排気口などの開口が必要であり、実質的に磁場を遮蔽することは不可能である。また、磁性体で囲うことによって、誘導コイルから発生する誘導磁場が磁性体内部で誘導損失を起こし、プラズマ生成能力が低下する。二つ目は、実装上の問題である。磁性体で覆うための大幅な設計変更が必要であり、組立時も重量物を扱う機会が増えるため、作業の危険度も増す。三つ目は、コスト上の問題である。プラズマ処理室全体を覆う磁性体が必要となり、莫大なコストがかかる。これら三つの問題は、量産装置にとって非常に深刻な問題となってしまう。
【0008】
本発明の目的は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、誘導磁場分布を調整し試料上でのプラズマ分布を補正して、試料に対して均一なプラズマ処理を行うことのできるプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、試料をプラズマ処理する真空処理室と、真空処理室の上面を形成する誘電体窓と、真空処理室内にガスを導入するガス導入手段と、真空処理室内に配置され前記試料を載置する試料台と、誘電体窓の上方に設けられた誘導コイルと、誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、誘導コイルと前記誘電体窓との間に設置され、誘導電流を形成可能に電気的に一周つながるとともに誘導コイルに沿って少なくとも誘導コイルの円周方向の一部に併設された導体を有し、誘導コイルから導体の表面までの最短距離をLrとし、誘導コイルから誘電体窓直下のプラズマまでの最短距離をLpとし、誘導コイルからの誘導磁場強度を弱めたい箇所で、Lp≧Lrの関係を満たす位置に導体を設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘導コイルによる誘導磁場分布を調整することができるので、試料上のプラズマ分布を補正することができ、所望の処理性能を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例であるプラズマ処理装置を示す縦断面図である。
【図2】図1をAから見た平面図である。
【図3】図1をBから見た誘導コイルの詳細を示す矢視図である。
【図4】図1のC部の詳細を示す縦断面図である。
【図5】導体リングの位置による誘導磁場分布を示すシミュレーション図である。
【図6】無磁場状態でのプラズマの拡散を示す図である。
【図7】誘導磁場以外の磁場がある場合のプラズマの拡散を示す図である。
【図8】図7に示す装置に導体リングを適用した場合のプラズマの拡散を示す図である。
【図9】エッチングレートの試料面内分布を示す図である。
【図10】本発明のプラズマ処理装置における導体リングの取付け位置の他の実施例を示す断面図である。
【図11】本発明のプラズマ処理装置における導体リングの形状の他の実施例を示す図である。
【図12】本発明のプラズマ処理装置におけるファラデーシールドの形状の他に実施例を示す図である。
【図13】本発明のプラズマ処理装置における誘導コイルとファラデーシールドとの組み合わせ例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のプラズマ処理装置の一実施例を図1ないし図9により説明する。
【0013】
図1は誘導結合タイプのプラズマ処理装置の縦断面図を示す。円筒状の処理容器1bの上部開口部には内部を気密に保持可能な天板である誘電体窓1aが取付けられ、真空処理室1を構成する。誘電体窓1aは、電磁波を透過可能な絶縁材料、例えば、アルミナ(Al23)セラミック等の非導電性材料から成る。真空処理室1の外側上面となる誘電体窓1aの上方には誘導アンテナが配置されている。この場合、誘導アンテナは、図2に示すように内径の異なる1ターンから成る誘導コイル4aないし4dが同芯上に配置されてなる。誘導コイル4aないし4dはそれぞれに両端に給電端(電源が交流のため両側が給電端となる)を有し、一方の給電端を始点として1周より長く巻回され一部が重なりを有して他端に給電端を設けた形状となっている。これは、円周上にコイルの不連続部ができ誘導磁場が弱まるのを防止するためである。後ほど詳述するが、弱い誘導磁場は強くできないが、強い誘導磁場は干渉部材を設けることで調整可能なので、一部重なり部を設け誘導磁場が弱まるのを防いでいる。誘導コイル4は、重なり部での接触を防ぐために、図3に示すように給電端部の立ち上がりも含め絶縁材で被覆してある。誘導コイル4は整合器7を介して第一の高周波電源8に接続されている。第一の高周波電源8は、例えば、13.56MHz又は27.12MHzの高周波電力を発生させる。
【0014】
誘導コイル4と誘電体窓1aとの間にはファラデーシールド6が配置される。この場合、ファラデーシールド6は誘電体窓1aの上面に取付けてある。ファラデーシールド6は金属導体から成り、図2に示すように中央部と外周部とにおいてそれぞれに円周方向に繋がり、中央部と外周部との間の領域に放射状のスリットを有して形成されている。誘電体窓1aとファラデーシールド6と誘導コイル4とは同芯上で且つ所定の間隔で平行に取付けられている。また、この場合、ファラデーシールド6の誘電体窓1a側の反対側であるファラデーシールド6の上面には、ファラデーシールド6の中心と位置をずらし偏芯させて、すなわち、誘導コイル4の中心に対し偏芯させた板状の導体リング12が取付けてある。後述するが、導体リング12は誘導コイル4に対し偏芯することで効果がある。
【0015】
導体リング12は、図2に示すリング状の形状で、例えば、アルミニウム,ステンレスのような導体から製作されている。この場合、導体リング12の幅と厚さは、幅10mm,厚さ5mmであるが、本発明の効果は、この寸法に限定されるものではない。導体リング12は、図4に示すようにファラデーシールド6と電気的に導通するように接触させて設けられ、誘導コイル4から所定の間隔(Lr)を取って配置される。
【0016】
誘電体窓1aの真空処理室内側には図示を省略した処理ガスの供給路が形成されており、ガス供給装置9が接続してある。真空処理室1内には、試料台3が図示を省略した支持部材により処理容器1bに支持されて設置されている。試料台3の上面には試料載置面が形成され、図示を省略した搬送装置により試料2が配置され、試料2を静電吸着等により保持可能となっている。試料台3上面に配置された試料2には、試料の処理中にバイアス電圧を印加可能に第二の高周波電源11が接続されている。第二の高周波電源11は、例えば、800KHz又は4MHzの第一の高周波電源の周波数よりも低い周波数の高周波電力を発生させる。処理容器1bの下面には真空処理室1内を減圧排気する排気装置10が取付けられている。
【0017】
上述のように構成されたプラズマ処理装置では、まず排気装置10によって真空処理室1内を減圧排気するとともにガス供給装置9によって流量制御された処理ガスを誘電体窓1aを介して真空処理室1内に供給し、真空処理室1内を所定の圧力にする。次に第一の高周波電源8によって整合器7を介して誘導コイル4aないし4dに高周波電力を供給する。
【0018】
これにより、真空処理室1内に処理ガスのプラズマが生成される。誘導コイル4aないし4dには図示を省略された制御装置により真空処理室1内のプラズマ分布に基づいてそれぞれに供給される電力を調整可能となっている。
【0019】
誘導コイル4から放射される誘導磁場は、導体リング12およびファラデーシールド6の作用を受け誘電体窓1aを透過して真空処理室1内に伝播される。ファラデーシールド6が誘導コイル4による静電容量成分をカットすることは知られるところであるが、導体リング12と電気的に接触させて構成することにより、プラズマの生成密度分布を調整することが可能となる。
【0020】
すなわち、リング状の電気伝導体である導体リング12が、誘導コイル4とファラデーシールド6との間にあるため、図2に示すように導体リング12の円周上に、導体リング12に沿って誘導コイル4から発生した誘導磁場を打ち消す方向の誘導電流13aが流れる。さらに、導体リング12はファラデーシールド6と導通しているため、誘導電流13aと同様の誘導電流13bがファラデーシールド6の各スリットの周りに流れる。このため、誘導コイル4から放射される誘導磁場を弱めたい位置に、誘導電流13aおよび誘導電流13bが流れるように導体リング12を配置することによりプラズマの発生密度分布を調整することができる。
【0021】
ここで、図3および図5により導体リング12が及ぼす作用について説明する。導体リング12は前述のようにファラデーシールド6上に設けられ、誘導コイル4から導体リング12の表面までの最短距離をLrとし、誘導コイル4から誘電体窓1aの直下に生成されるプラズマ5までの最短距離をLpとすると、誘導磁場強度を弱めたい箇所では、Lp≧Lrを満たす位置に導体リング12を設置する。導体リング12の位置を誘導コイル4に対してLp≧Lrを満たす位置にすることにより、誘導コイル4とプラズマ間の相互インダクタンスを局所的に変化させることができる。
【0022】
距離Lp,Lrの関係を以下、シミュレーション結果を用いて導体リング12の設置位置と誘導磁場強度分布とによって説明する。図5は、誘導コイル4に10A/mの電流を一定に流したときに誘導コイル4から発生する誘導磁場分布を等高線で示した図である。図5の等高線は、色が薄い部分ほど誘導磁場強度が弱く(最も誘導磁場強度の弱い部分は、ハッチング表示)、逆に色が濃い部分ほど誘導磁場強度が強いことを示す。通常、誘導コイル4から発生した誘導磁場は、誘導コイル4から同心円状に広がりながら、誘電体窓1aを透過し、真空処理室1内に到達する。ほぼ図5(c)に示した誘導磁場強度の等高線に似た分布となる。
【0023】
図5(a)に、導体リング12がLp>Lrを満たす位置に設置された場合のシミュレーション結果を示す。導体リング12が設置された位置では、誘導コイル4から発生した誘導磁場が導体リング12によって遮蔽され、導体リング12の内側、すなわち、誘導コイル4が存在する側の誘導磁場だけが誘電体窓1a側に達する。これは、前述したとおり、導体リング12がプラズマ生成面までの距離Lpよりも誘導コイル4に近い距離Lrで配置されているため、プラズマ生成に用いられる誘導磁場を、導体リング12に発生する誘導電流の作用によって、導体リング12近傍の領域の誘導磁場を弱めてしまうことによるものである。
【0024】
図5(b)に導体リング12をLp=Lrを満たす位置に設置した場合のシミュレーション結果を示す。また、図5(c)に導体リング12をLp<Lrを満たす位置に設置した場合のシミュレーション結果を示す。図5(b),図5(c)においても、導体リング12が設置された位置では、図5(a)と同様に誘導磁場を遮蔽するための誘導電流は発生する。しかしながら、図5(b),図5(c)に示すように誘導コイル4から導体リング12を遠ざけるに従い、真空処理室1内に到達する誘導磁場の領域が広がっていることがわかる。
【0025】
このことより、導体リング12の取付け位置によって真空処理室1内に形成されるプラズマの生成密度分布が変化することがわかる。言い換えると、導体リング12の位置を調整することによりプラズマの生成密度分布を調整することができる。また、導体リング12の位置がLp<Lrの関係にある場合は、誘導コイル4の最も外側の誘導コイル4dの位置にもよるが、本実施例のようにほぼ外側まである場合(処理室内径(直径D)−誘導コイル径(直径d)の値が約2Lp以内の場合)には有効に作用しない。このため、誘導コイル4の位置はLp≧Lrを満たす位置に設置することが効果的であり、誘電体窓1a直下に生成されるプラズマの生成密度分布を調整可能となるので、このため、導体リング12は、Lp≧Lrを満たす位置に設置することが望ましい。
【0026】
次に、上述の導体リング12の作用を用いた本実施例のプラズマ偏芯位置補正について図6ないし図8により説明する。
【0027】
図6は、誘導コイル4より発生する誘導磁場以外に他の磁場による影響がない場合のプラズマの拡散を示す。この場合は、誘電体窓1a直下に生成されたプラズマ5aは、試料台3の下方にある同心の排気装置による流れに基づいて、真っ直ぐに試料2上に拡散し、プラズマの偏芯は見られない。これに対し、図7に示すように誘導コイル4による誘導磁場以外に外部磁場(ここでは、紙面に対して左から右方向の水平磁場B(以下、「外部DC磁場」という))がある場合には、その外部DC磁場の影響を受ける。
【0028】
図7はこの場合のプラズマの拡散を示す。真空処理室1内の水平磁場Bが作用する領域の荷電粒子は、ローレンツ力により、水平磁場に対して螺旋運動を行う。このため、誘電体窓1a直下に生成されたプラズマ5aは、水平磁場Bにより斜め方向(図面上、右下方向)に拡散する。そのため、試料2上に拡散したプラズマは試料2の中心から偏芯する。
【0029】
図8は、図7に示す誘導コイル4の誘導磁場以外の外部DC磁場が作用する状態であって、本実施例の導体リング12を有する場合のプラズマの拡散を示す。導体リング12がない図7の場合には、水平磁場Bにより、試料2上に拡散したプラズマは、図面右側に偏芯をしている。これに対し、図8に示すように導体リング12を図面中心軸より左側にずらして設置することによって、誘導コイル4の誘導磁場に対し導体リング12に発生する周回電流(誘導電流13a)の作用により、図面右側の誘導コイル4から発生する誘導磁場、すなわち、導体リング12に近い領域での誘導コイル4からの誘導磁場が弱められる。このため、誘電体窓1a直下の図面右側には密度の小さいプラズマしか発生せず、実質的に誘電体窓1aの中心に対して図面左側に偏芯した密度の高いプラズマが生成される。水平磁場Bの影響がある場合、誘電体窓1a直下のこの図面右側の密度が小さいプラズマの拡散は、密度が小さいプラズマの領域を徐々に図面右側に移動しながら試料2上まで拡散していく。これにより、試料2上では水平磁場が作用した場合でも、密度の高いプラズマの偏芯を相殺できる。
【0030】
このように、誘導コイル4からの誘導磁場に対向して誘導電流が流れる手段(誘導磁場減衰手段)を設けることにより、誘導コイル4からの誘導磁場の強度を減衰させることができ、誘電体窓1aに透過される誘導磁場の分布を調整することができる。誘導磁場減衰手段の設置は、誘電体窓1a上部に限られるものではなく、誘電体窓1a内に形成されても良く、誘電体窓1a下面に設けても良い。すなわち、誘導コイル4とプラズマ生成面までの間に配置されれば良い。
【0031】
上述した図6ないし図8における作用をエッチングレートにより確認した結果を図9により説明する。エッチングレートの測定は、プラズマの偏芯が見られたφ200mm用誘導結合プラズマエッチング装置を用い、アルミナ(Al23)の薄膜試料を塩素系ガス(Cl2ガスとBCl3ガスの混合ガス)でエッチングし測定した。図9はそのときのエッチングレートの試料面内分布を示す。なお、エッチングレートの試料面内分布は、試料上の指定されたポイントを膜厚測定機を用いて処理前後で測定し、エッチングレートの試料面内分布を等高線で示したものである。この等高線は、色が薄い部分ほどエッチングレートが速く、逆に濃い部分はエッチングレートが遅いことを示す。また、本実施例による効果は、エッチングレートの試料面内各点の平均値,エッチングレートの試料面内均一性,偏芯率をそれぞれ算出して確認した。なお、偏芯率は、試料2上に拡散したプラズマの偏芯の度合いを表す指標であり、偏芯率が小さい値であるほど、偏芯していないことを示す。
【0032】
まず、導体リング12は適用せず、強制外部DC磁場も設けていないプラズマ処理装置では、図9(a)に示すように、エッチングレートの試料面内分布は図右下のレート速度が速い。これは、誘導磁場以外の何らかのDC磁場(例えば、地磁気)の影響により、プラズマが右下に偏芯したためであると考えられる。次に、導体リング12は適用せず、プラズマ処理装置の外周に磁石を設置した場合のエッチングレートの試料面内分布を図9(b)に示す。図の左上および右下の箇所にそれぞれS極とN極の磁石(0.4mT)を設置して、エッチングレート測定を実施した結果、エッチングレートの速い箇所は右上に移動した。強制的に磁石を設置することにより、プラズマ中にDC磁場が加えられたためである。また、上述した通り、あらゆる箇所に誘導磁場以外のDC磁場が発生した場合でも、エッチングレートの試料面内分布の結果から試料2上に拡散したプラズマの偏芯位置を推定できる。
【0033】
この結果から上記図9(a)の偏芯位置の推定結果を基に導体リング12を設置することで、試料2上に拡散したプラズマの偏芯を改善可能である。次に、本実施例の導体リング12を適用した場合のエッチングレートの試料面内分布の結果は、図9(c)に示す。これによれば、試料2の全面でほぼ均等なエッチングレートの面内分布となり、偏芯率が図9(a)の8.6%から2.7%に改善された。この改善に伴ってエッチングレートの試料面内均一性も図9(a)の8.3%から5.8%へと改善することができた。
【0034】
以上、本実施例によれば、導体リングを誘導コイルに対して、誘導コイルとプラズマ生成面までの距離より短い距離にある所定の位置にずらして設けることにより、誘電体窓1a直下の誘導磁場分布を調整して試料2上面での拡散プラズマの偏芯を補正し所望のエッチング性能を得ることができるという効果がある。すなわち、本実施例のプラズマ処理装置は、試料2上に拡散したプラズマの偏芯を補正するプラズマ5bを発生させることができるため、試料2上に拡散したプラズマの偏芯を改善できる(なお、上記の試料2上に拡散したプラズマの偏芯を補正したプラズマとは、斜めに拡散したときに試料2上のプラズマが偏芯しないように、予め上記偏芯分を補正できるようなプラズマのことである。)。
【0035】
なお、上述の実施例では導体リング12を誘導コイル4とファラデーシールド6の間のファラデーシールド6上に配置したが、必ずしも導体リング12は誘導コイル4とファラデーシールド6の間に設置されている必要はなく、図10(a)に示すように導体リング12がファラデーシールド6と誘電体窓1aの間に設置されても良い。また、本実施例では、導体リング12をファラデーシールド6と導通させているが、通常、電流は閉回路に流れるため、誘導電流が流れるための閉回路を形成できるものと導通していれば良い。このため、例えば、処理容器1b,整合器7のカバー等と導通させても良い。また、導体リング12だけで閉回路を形成できれば、上述したものと導通させることは必須ではない。
【0036】
さらに、ファラデーシールド6の作用を必要としない場合には、図10(b)に示すようにファラデーシールドをなくし、誘電体窓1aの上面に導体リング12を設置するだけでも良い。つまり、導体リング12は、誘導コイル4と誘電体窓1aの間に設置されていれば、誘導コイル4から発生する誘導磁場の分布を補正することができる。ここで、導体リング12は誘導電流が流れるための閉回路を形成できれば、必ずしも接地された装置本体、例えば、処理容器1bと電気的に接続する必要はない。すなわち、電気的に浮遊状態でも良い。
【0037】
また、導体リング12の形状は、図2(図11(a))に示した形状に限定されるものではなく、例えば、図11(b)に示すような櫛歯形状の導体リングでも良いし、楕円形のリング、円周上で幅の異なるリングでも良く、すなわち、所望の誘導磁場分布が得られる形状に変形させれば良い。また、本実施例の導体リング12は、ファラデーシールド6と導通させているため、必ずしもリング状の形状でなくても良い。つまり、本発明の特徴は、誘導コイル4から発生する誘導磁場分布を、局所的に発生させる周回電流によって、局所的に補正することである。よって、ファラデーシールド6に接触させて設けるのであれば、図11(c)に示すようなリング状の導体リングを、例えば、4分の1に分割した円弧状の導体板であっても良い。
【0038】
また、複数あるいは複種類の導体リングを同時に使用してもよい。また、導体リング12は、プラズマ分布のあらゆる偏芯位置に対応できるように独立で配置できる。これにより、導体リングのみの設置が容易となり、プラズマ処理装置間の機差に応じた調整が可能となる。
【0039】
さらに、本実施例ではファラデーシールド6と導体リング12とを別々に設けているが、ファラデーシールドと導体リングの機能を合わせた一体のものとしても良い。例えば、図12(e)に示す放射状のスリットを有するファラデーシールドを図12(a)ないし(d)のように半径方向の長さを変えた変形スリットを形成し導体部の形状を変えたものでも良い。
【0040】
図12(a)は少なくとも一つのスリットを半径方向で分割し中間領域を導体としたファラデーシールド。図12(b)は任意の箇所に少なくとも一つのスリットを設けない形状のファラデーシールド。図12(c)は少なくとも一つのスリットの半径方向の長さを変え、中心側を短くして中心側の導体の領域を広げたファラデーシールド。図12(d)は図12(c)の逆で外側の導体の領域を広げたファラデーシールド。これら径方向の長さを変えた、言い換えると、スリットの任意の領域を塞いだファラデーシールドを誘導磁場分布に応じて適宜選択して用いることにより、複数のスリットと交わる方向に、導体板を配置したものと同等になり、誘導磁場分布を補正することができる。
【0041】
図13に、本実施例の誘導コイル4の給電端における誘導磁場分布の補正を可能とする一体型ファラデーシールドの取付け例を説明する。本実施例での誘導コイル4の給電端部は一部重なっているので、円周方向で最も誘導磁場の強度が強い箇所となる。ここで、弱い誘導磁場を強くすることはできないが、強い磁場強度を弱くすることは本実施例で述べた局所的な周回電流を形成させることにより可能となる。図13に示すように誘導コイルの給電部に対向する箇所のスリットを塞ぐことにより、給電部の強い磁場強度を遮断し、誘導コイルの周方向のプラズマ不均一性を改善することができる。なお、本実施例では1周巻の誘導コイルを用いたが、複数巻の誘導コイルであっても良い。
【0042】
以上、上述した通り、本実施例によれば、誘導コイルより発生する誘導磁場分布を補正することができるので、試料上面の拡散したプラズマの不均一、すなわち、誘導磁場以外のDC磁場の影響またはプラズマ処理室内の排気偏芯による試料上に拡散したプラズマの偏芯、または誘導コイル給電部起因の誘導コイル周方向のプラズマ不均一等を改善できる。
【符号の説明】
【0043】
1 真空処理室
1a 誘電体窓
1b 処理容器
2 試料
3 試料台
4,4a,4b,4c,4d 誘導コイル
5 プラズマ
6 ファラデーシールド
7 整合器
8 第一の高周波電源
9 ガス供給装置
10 排気装置
11 第二の高周波電源
12 導体リング
13a,13b 誘導電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をプラズマ処理する真空処理室と、前記真空処理室の上面を形成する誘電体窓と、前記真空処理室内にガスを導入するガス導入手段と、前記真空処理室内に配置され前記試料を載置する試料台と、前記誘電体窓の上方に設けられた誘導コイルと、前記誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、
前記誘導コイルと前記誘電体窓との間に設置され、誘導電流を形成可能に電気的に一周つながるとともに前記誘導コイルに沿って少なくとも前記誘導コイルの円周方向の一部に併設された導体を有し、前記誘導コイルから前記導体の表面までの最短距離をLrとし、前記誘導コイルから前記誘電体窓直下のプラズマまでの最短距離をLpとし、前記誘導コイルからの誘導磁場強度を弱めたい箇所で、Lp≧Lrの関係を満たす位置に前記導体を設置したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記導体はリング状であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2記載のプラズマ処理装置において、前記リング状の導体は誘導コイルの中心に対して偏芯させて設けることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記導体はファラデーシールドに電気的に接続されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記導体は放射状のスリットを有するファラデーシールドの一部のスリットの形状を変えて形成したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記誘導コイルは、1周巻回されたコイルであり給電端が重なりを有する円形コイルであって、前記導体が前記誘導コイルの給電端の下方に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
電磁波を透過可能な絶縁材でなる天板を有する真空容器と、前記天板に対向して配置された誘導アンテナとを有し、前記誘導アンテナからの誘導磁場を用いて前記真空容器内にプラズマが生成されるプラズマ処理装置において、前記天板の投下面内の任意の位置に配置され、前記誘導アンテナと前記天板直下のプラズマ面までの間に誘導磁場の一部を打ち消す誘導磁場減衰手段を設けたことを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−227398(P2012−227398A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94601(P2011−94601)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】