説明

プラズマCVD装置及び薄膜形成方法

【課題】本発明は、簡単な構成で小型かつ安価に作製することができ、基板の有効な表面にわたって膜厚が均一な薄膜を高速で堆積することができるプラズマCVD装置及び薄膜形成方法を提供することを目的とする
【解決手段】真空室内に、平板状放電電極と基板とを互いに対向して設置し、真空室内に導入した反応性ガスをプラズマ発生手段によりプラズマ化し、基板上に薄膜を形成するプラズマCVD装置であって、前記基板と前記平板状放電電極との間の空間に、基板表面近傍に高密度プラズマ領域を形成するための磁界を発生させる閉ループ型磁界発生機構を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置及び薄膜形成方法に係り、特に磁気ディスク、半導体集積回路、液晶表示装置等に用いられるアモルファスシリコン、窒化シリコン、ダイヤモンドライクカーボン等の種々の薄膜を形成するのに好適なプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマCVD(PCVD)装置には、平行平板型、電子サイクロン共鳴(ECR)型等、様々な装置構成のものが種々の薄膜形成に用いられ、特に、平行平板型PCVD装置は、簡単な装置構成で安定した成膜が行えることから、半導体集積回路、液晶表示装置、電子部品、磁気ディスク装置等の薄膜形成に広く実用化されている。これらの回路や装置等は、近年の急速な小型化、微細化、高集積化の展開に伴い、これらに用いられる薄膜もより一層の膜厚均一性が求められるともに、量産性の観点から、高速成膜の要求が強まっている。
【0003】
このようなPCVD装置の現状をハードディスク(HD)の保護膜形成用装置を例に挙げて説明する。ハードディスクのような磁気記録媒体は、中心に孔があいた円板状のアルミニウム製又はガラス製基板を基板ホルダーに装着して、基板の両面からCr等の金属下地膜、CoCrTa等の磁性記録膜及び保護膜を、スパッタ法、PCVD法により順次成膜処理して作製する。ここで、保護膜は、固定磁気ディスク装置(HDD)の起動・停止時にヘッドとの接触・揺動による損傷や大気との接触による腐食から前記磁気記録膜を保護するために設けられるものであり、信頼性のある書き込み、読み出しを長期にわたり維持する上で極めて重要な構成要素である。この保護膜の中でも、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、耐摩耗性、耐食性に優れていることから、ハードディスク保護膜として特に注目をあびている。DLC膜形成用のプラズマCVD装置は、真空室内の2つの平板状電極の間にディスク基板を配置し、メタン(CH)やトルエン(CCH)等の炭化水素系の反応ガスを導入した後、RF電力を2つの平板状電極にそれぞれ供給してプラズマを発生させる。反応性ガスはプラズマにより活性化され、生成した活性種が基板上に堆積してカーボン膜が基板両面に同時に形成される。
【0004】
しかし、従来の平行平板型放電方式では、プラズマは基板と電極間の空間全体に広がっているために、カーボン膜は基板だけでなく、プラズマと接触している電極部分にも堆積する。すなわち、プラズマが真空室全体に広がり基板周辺の密度が薄くなるため、基板上への堆積速度は遅いという問題があった。その結果、保護膜形成プロセスは、スパッタ法による磁気情報記録層形成からプラズマCVDによるカーボン保護膜形成までの一連のハードディスク製造プロセスの律速となっていた。従って、システムの高スループット化を図り、量産性の優れたシステムを構築するには、カーボン膜の高速成膜が可能なプラズマCVD装置が必須となる。
【0005】
以上のPCVD装置であっても、投入電力やガス流量、反応ガス濃度を増加させることにより堆積速度はある程度改善されるが、上記高スループットを得るには十分でなく、また、重合による膜質の低下、装置の排気システムの大型化、材料コストの面等の制約から、堆積速度はせいぜい1nm/sec程度に止まっているのが現状である。さらに、従来のPCVD装置は、ハードディスク基板面の膜厚均一性が低いという問題があった。
【0006】
そこで、堆積速度を向上させる目的で、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法(例えば、特許文献1参照)やマグネトロンプラズマCVD法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−225672号公報
【特許文献2】特開平3−247770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のECRプラズマCVD装置は、プラズマ発生手段が大きく、装置全体が複雑、かつ高価なものになるという問題がある上に、ディスク中心孔部やディスク外周部分において膜厚が厚くなり、基板表面の広範囲で均一膜厚のDLC膜を得ることは困難という問題があった。これに対して、特開平11−246972号公報に開示されるように、ディスクの中心孔にダミーのリングを取り付けて成膜することにより、ディスク基板面の膜厚均一性を高める試みがなされているが、リングの取り付け、取り外し等の工数が増え、かえって生産性が低下してしまうと問題があった。
【0009】
一方、マグネトロンプラズマCVD法は、放電電極内に磁石を配置し、その磁界により電極周辺のプラズマ密度を増加させて堆積速度を向上させようとするものであるが、通常の平行平板型に比べて堆積速度は改善されるものの未だ十分とは言えず、さらに膜厚均一性が低いというの問題があった。特開平3−247770号公報に記載された方法では、基板を移動させることにより膜厚均一性の改善を図っているが、基板を移動させる機構が必要となり、装置全体が大型化するとともに、移動に伴って放電の安定性が低下し、またゴミが発生し易くなるという問題がある。
【0010】
以上はハードディスク基板の両面同時成膜を行うPCVD装置について述べたものであるが、Siウエハやガラス基板の片面にアモルファスシリコン、窒化シリコン等を成膜する場合についても、アモルファスシリコン製造の場合は原料ガスにシランやジシラン等のガスを使用し、半導体や電子部品の保護膜や絶縁膜に有効な窒化シリコンにはシラン・アンモニア・窒素等の反応ガスを使用する以外は、事情は同様であり、これらの薄膜についてもより高速の成膜が望まれている。
【0011】
本発明は、上記の各問題に鑑み、簡単な構成で小型かつ安価に作製することができ、基板の有効な表面にわたって膜厚が均一な薄膜を高速で堆積することができるプラズマCVD装置を提供することを目的とする。さらに、種々の薄膜を、高速かつ均一厚に堆積可能な薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来のPCVD装置にかかる問題点を解決し、上記目的を達成すべく、高速成膜に有効な高密度のプラズマとその効果的な閉じこめ方法を鋭意検討した結果して、完成するに至ったものである。すなわち、本発明のプラズマCVD装置は、真空室内に、平板状放電電極と基板とを互いに対向して設置し、真空室内に導入した反応性ガスをプラズマ発生手段によりプラズマ化し、基板上に薄膜を形成するプラズマCVD装置であって、前記基板と前記平板状放電電極との間の空間に、前記基板の中心軸と同軸に配置された環状の第1の外周磁石と第2の外周磁石とからなる閉ループ型磁界発生機構を設け、更に、前記第1の外周磁石と第2の外周磁石を基板の両側に配置し、前記両外周磁石の着磁方向を基板面に垂直又は平行とし、かつ互いに反発するように配置し、前記プラズマ発生手段により発生したプラズマを、前記閉ループ型磁界発生機構により、前記基板上の前記第1の外周磁石と前記第2の外周磁石との間に閉じ込め、前記両外周磁石は移動可能に配置し、前記両外周磁石は、リング状の樋状部材の中に収納され、外周磁石固定板にネジ止め金具を介して固定され、該外周磁石固定板は、前記真空室の壁に移動可能に取り付けられていることを特徴とする。このように、真空室内の基板の近くに閉ループ型磁界発生機構を設けることにより、基板面に平行な磁界が発生し、これにより基板近傍に高密度のプラズマを閉じこめることができるようになる。その結果、薄膜の堆積に有効な活性種が基板近傍に多量に生成して基板上に拡散するため、高い堆積速度で薄膜を形成することが可能となる。そして、反応性ガス種を選択することにより、アモルファスシリコン、窒化シリコン、DLC膜等の種々の薄膜を高速成膜することが可能となる。前記閉ループ型磁界発生機構は、前記基板の中心軸と同軸に配置され、該軸方向又は径方向に着磁された中心磁石と、その外周に軸対称に配置され、前記中心磁石と逆方向に着磁された外周磁石と、から構成するのが好ましい。永久磁石を用い基板面と平行な磁場を形成することにより、プラズマは効果的に閉じこめられて基板近傍に高密度プラズマ領域を形成することが可能となり、その結果、高速で膜厚均一性に優れた成膜を行うことができる。また、永久磁石を用いているため、その形状、磁気特性等を適宜選択することにより、様々な形状、大きさの基板についても、それぞれに好適な磁場を容易に形成することができ、高速で、かつ均一に薄膜を形成することが可能となる。また、本発明においては、前記閉ループ型磁界発生機構を、前記基板の両側に2つの環状の外周磁石を配置し、該2つの外周磁石の着磁方向を基板面に垂直又は平行とし、かつ互いに反発するように配置する構成としてもよい。このように、中心磁石を省略した場合であっても、2つの外周磁石の相互作用により、水平磁界領域が中心方向に向かって形成されるため、中心磁石を配置した場合と同様に、プラズマの閉じこめ効果が得られ、高速成膜、均一膜厚成膜を実現することができる。
【0013】
また、本発明において、前記基板の前記平板状放電電極と反対側に、第2の平板状放電電極を設け、さらには第2の閉ループ型磁界発生機構を設けることもできる。かかる構成とすることにより、基板両面の高速同時成膜が可能となり、特に、ハードディスク、コンパクトディスク、光ディスク等の生産性をより向上させることができる。また、本発明の閉ループ型磁界発生機構により、ハードディスク等の孔あき基板で従来問題となった中心孔周辺の厚膜化が防止でき、どのような形状であっても優れた均一膜を得ることができる。
【0014】
前記中心磁石と外周磁石はそれぞれ移動可能とするのが好ましい。磁石と基板との距離を調整することにより、磁界形状、強度を最適化でき、膜厚均一性を一層向上させることができ、ディスク基板、ウエハ、ガラス基板等、様々な形状、大きさの基板であっても、高い膜厚均一性をもって高速に薄膜を形成することが可能となる。
【0015】
本発明のプラズマCVD装置においては、前記磁石に冷却機構を設けるのが好ましい。磁石の温度上昇を抑制して磁界強度の変動を防止できる結果、大きなRFパワーで成膜する場合でも、安定した成膜を行うことができる。さらに、前記基板にバイアスを印加する手段を設けるのが好ましい。バイアス印加手段を設けることにより、基板に流れ込むイオンの量、エネルギーを制御するとともに、プラズマの閉じこめ効果を一層高めることが可能となる。この結果、高密度のプラズマの作用及び基板バイアスの作用の相乗効果により、より高特性の薄膜を形成することができる。例えば、極めて高い硬度のダイアモンドライクカーボン膜を得ることが可能となり、今後ハードディスクがさらに高密度化される場合に要求される保護膜の薄層化にも対応する保護膜を提供することが可能となる。
【0016】
本発明の薄膜形成方法は、上記本発明のプラズマCVD装置に所定の反応性ガスを導入し、前記放電電極に電力を印加して前記基板近傍に高密度プラズマを発生させ、前記反応ガスの構成元素を少なくとも1つ含む薄膜を前記基板上に堆積することを特徴とする。基板近傍に高密度プラズマを形成し、高密度プラズマの作用、さらには制御されたイオンのエネルギー及び量を利用することにより、薄膜の一層の高特性化が可能となるとともに、かかる高特性薄膜を高速かつ均一厚に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、ハードディスク情報記録媒体である磁気ディスクのカーボン保護膜やアモルファスシリコン等の非晶質半導体あるいは窒化シリコン等の集積回路における絶縁膜等を、巨大な装置構成を必要とせず、簡単な構成で小型かつ安価に製造することができ、基板の有効表面にわたって均一な膜厚の高特性薄膜を高速で堆積することができるPCVD装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のPCVD装置の一構成例を示す概略断面図である。
【図2】閉ループ型磁界発生機構の一例を示す概略図である。
【図3】中心及び外周磁石の取り付け方法を示す概略図である。
【図4】本発明の閉ループ型磁界発生機構の他の例を示す概略図である。
【図5】中心及び外周磁石と基板との配置をを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明のPCVD装置の一構成例を図1〜3に示す。図1は、ハードディスク基板の両面に同時に保護膜を形成するためのPCVD装置の全体構成を示す概略断面図、図2及び3は、閉ループ型磁界発生機構及びその取り付け方法を示す概略図である。
【0020】
PCVD装置は、図1に示すように、排気口2及びガス導入管3を有する真空室1の内部に、ガス導入管3と接続され、多数のガス噴出口を有する平板状電極4と、基板の膜堆積部の上部のプラズマ密度を高めるための閉ループ型磁界発生機構10,11と、がハードディスク基板を保持する基板ホルダー22の両側に2組配置され、2枚のハードディスク基板の両面に同時に薄膜を形成することが可能な装置構成となっている。
【0021】
図1において、高周波電源(不図示)に連結される電極4は、多数の噴出口を有する電極プレート5からガスが一様に基板側に噴出されるように、内部にシャワープレート6が設けられている。この電極4は、絶縁リング8を介して接地電位にある電極ブロック7により支持され、該電極ブロック7には、電極プレート5と真空室1の壁との放電を防止するために電極シールド9が設けられている。なお、ガス導入管3の電極4側の一部は絶縁材で構成され、ガス導入管3を接地電位に保っている。また、排気口2は、不図示のメインバルブを介して排気装置に接続されている
【0022】
閉ループ型磁界発生機構10、11は、図2(a)、(b)に示すように、基板面に垂直方向で、互いに逆方向に着磁された中心磁石11及び外周磁石10とからなり、それぞれケース13,12に収納されている。中心磁石と外周磁石とで形成される基板面に平行な磁場により、プラズマは基板上の中心磁石と外周磁石との間に閉じこめられて、基板近傍に高密度のプラズマ領域が生成する。図2(b)の例では、中心磁石11には4分割されたブロック磁石、外周磁石には12分割されたブロック磁石が用いられているが、一体型の磁石を用いてもよい。なお、取り扱い性、コスト及び作り易さの観点から、通常、外周磁石には10〜15分割、中心磁石には1〜4分割したブロック磁石が好適に用いられる。
【0023】
中心磁石11は、図3(b)に示す円筒部材17と蓋材18とからなるケース13内に納められ、ネジが形成された支柱14に両端からナット16により締め付け固定されており、ナット位置を移動させることにより、基板と磁石との距離を自由に調節することができる。支柱14の一端部には鍔20が形成されており(図2(a))、この鍔20を電極プレート5とシャワープレート6とで挟持することにより、中心磁石が支持されている。一方、外周磁石10は、図3(a)に示すように、リング状の樋状部材19の中に収納され、蓋の役割をも果たす外周磁石固定板15にネジ止め金具20を介して固定され、この固定板15は、真空室1の壁に移動可能に取り付けられる。
【0024】
ここで、中心磁石及び外周磁石のケース13,12にはステンレス材を用いることができるが、中心磁石ケース13は高周波電力が加わりケース材料がスパッタされる可能性があるため、スパッタ率の低いセラミック(アルミナ等)材や堆積しようとする薄膜と同じ材料のケースを用いるのが好ましい。さらに、中心磁石ケースの支柱、ナット等についてもステンレス材を用いることができるが、ケースと同様にセラミック材等を用いることができる。また、永久磁石としては、SmCo等の希土類金属系磁石が好適に用いられ、基板の大きさ、形状等に応じて、その形状、磁気特性等が定められる。また、アルニコ等他の材質の磁石を用いてもよい。
【0025】
図2(c)は、磁石、基板21及び外周磁石固定板15の位置関係を示す平面概略図であり、固定板15の縁は真空室の壁に移動可能に取り付けられる。このように構成することにより、電極プレート5から噴出されるガスはすべて高密度プラズマ空間を通って基板21上に流れるため、反応ガスの利用効率を向上させることができる。なお、固定板の形状はこれに限らず、例えば図5に示すようのものであってもよい。
【0026】
基板ホルダー22は、ハードディスク基板を2枚搭載可能なホルダーであり、ディスク基板の外周側面を3〜4本程度のツメで支持し、基板ホルダー全体を支持具23により保持する構成となっている。また、基板ホルダー22には、バイアス電圧印加手段(不図示)が接続され、基板に入射するイオンの量、エネルギーを制御することができる。ここで、バイアス印加手段としては、基板材質等により、高周波、パルスまたは直流電源を用いることができる。
【0027】
以上のように、本発明は、薄膜を形成しようとする基板近傍に、基板表面に平行な磁界を形成する永久磁石からなる閉ループ型磁界発生機構を配置し、薄膜形成面上の領域のプラズマ密度を大きくすることにより、従来のPCVD装置と比べて、成膜速度を大幅に向上させることが可能となる。また、中心磁石上の水平磁界は弱くプラズマ密度も小さくなるため、すなわち、薄膜形成面上の空間のプラズマ密度だけを大きくすることができるため、従来問題となっていた基板中心孔近傍の厚膜化を抑制し、薄膜形成面全体で均一な膜厚の薄膜を形成することが可能となる。
【0028】
本発明の閉ループ型磁界発生機構は、磁石の着磁方向を基板に垂直に配置する場合に限らず、図4(a)、(b)に示すように、着磁方向を基板表面と平行にしてもよい。この場合も、基板表面の薄膜形成面上の中心磁石と外周磁石の間の空間に水平磁場が形成されるため、この空間にプラズマを閉じこめることができ、同様に高速でかつ均一膜厚の成膜が可能となる。なお、径方向の着磁の困難さ及びコスト面から一体型の磁石を製造するのは難しく、中心磁石は3〜5分割、外周磁石は10〜15分割したブロック磁石が好適に用いられる。
【0029】
さらに、図1の構成のPCVD装置の閉ループ型磁界発生機構においては、中心磁石を省略し、外周磁石だけを用いた場合であっても本発明の効果を奏することができる。これは、基板の両側に配置した2つの外周磁石間の相互作用により、単独では外周磁石の近傍に局在する磁力線が他方の外周磁石の磁力線により中心方向に押し出され、水平磁場成分が中心方向に伸びるためと考えられる。この場合、着磁方向は軸方向、径方向のいずれでもよいが、2つの外周磁石が互いに反発するように配置する。さらに、中心磁石及び外周磁石の配置・構成は、上記のものに限ることはなく、例えば、外周磁石を複数個同心円状に配置する構成としてもよい。この場合、隣り合う外周磁石は磁石間の水平磁場成分が大きくなるように配置される。また、中心磁石及び外周磁石の取り付け方法も図3に示した方法には限られず、例えば、中心磁石の支柱を用いる代わりに、中心磁石ケースと外周磁石ケースとを橋かけして連結固定する方法等が用いられる。
【0030】
以上は、ハードディスク基板の両面同時成膜装置について説明したが、電極4を1つとし、ディスク基板の片面側にのみ閉ループ型磁界発生機構を設けて、片面成膜の装置構成としてもよい。また、本発明のPCVD装置は、ハードディスク以外のコンパクトディスクや光ディスクについても同様に適用できることは勿論のこと、矩形状の基板、Siウエハ等の薄膜形成装置として用いることができる。例えば、太陽電池や液晶表示装置の薄膜トランジスタ(TFT)基板に用いられるアモルファスシリコンや集積回路の絶縁膜等に用いられる窒化シリコン膜の形成装置として好適に用いることができる。これらの場合も、上記した構造の閉ループ型磁界発生機構を用いて、同様に高速成膜を行うことができる。なお、膜厚均一性を一層高めるために、基板の大きさ、形状に応じて、磁石の形状、特性や基板と中心磁石及び外周磁石との距離等を最適化すればよい。また、中心磁石を配置せず、外周磁石のみを基板の表裏両側に配置することにより、均一性を高めることも可能である。また、例えば、フェライト、アルニコ、NdFeB系等、磁石の材質を使い分けることで強度を調節することができる。
【0031】
また、TFT基板のような矩形状基板の場合には、中心磁石及び外周磁石とも矩形とし、外周磁石を環状として中心磁石を囲むようにすればよい。また、外周磁石を前述したように複数個配置しても、さらには中心磁石を除いた構成としてもよい。なお、本発明において、環状とは、囲むようなの形状のものをいい、円であるか矩形であるかは問わない意味である。また、環状磁石を用いず、基板の一辺よりも長い棒状磁石を複数個並べて磁石間に水平磁界を形成する構成としてもよい。
【0032】
また、RFパワーが大きいときは、磁石が加熱されるので、磁石を水冷や空冷等しても良い。特に、キューリー点が低い磁石を用いる場合は、このような冷却機構を設けるのが好ましく、例えば、磁石ケースを冷却用容器に収納し、容器内部に水、空気等の冷媒を通して冷却すればよい。具体的には、外周磁石の場合、磁石ケースの樋状部材19を樋状の容器に収納し、この容器を固定板15にo−リング等のシールを介して取り付けるか、直接溶接して固定すればよい。一方、中心磁石を冷却する場合は、内部に中心磁石ケース13を収納できる空間を有する円柱状の容器に空洞の支柱をo−リング等のシールを介し、あるいは直接溶接により取り付け、この支柱を電極4,電極ブロック7を貫通させ、真空室壁1に移動可能に固定して外部から容器内部に冷媒を供給できる構成とすればよい。なお、冷媒に水を用いる場合は、磁石の腐食を防止するため、磁石を樹脂コートして保護するが好ましい。あるいは、磁石ケースを溶接、シール等により磁石を密封してもよい。また、冷却用の容器を別途用いず、磁石ケース12,13そのものを以上の容器の構造として、冷媒がケース内部を循環できる構成としても良いことは言うまでもない。
【0033】
さらに、本発明においては、基板回転又は移動手段や磁石の往復運動手段等を用いて、膜厚均一性をより一層向上させるようにしてもよい。なお、磁石ケース等に付着した膜は、メンテナンスの際に、酸素プラズマ(カーボン膜の場合)、NF3プラズマ(a−Si等)によりクリーニング処理を行うことにより、長期間安定した成膜を維持することができる。
【0034】
(実施例)図1の装置を用いて、3.5あるいは2.5インチ径のAl製ハードディスク基板(中心部の孔径は1インチ)の表裏面に、ダイヤモンドライクカーボン膜の保護膜を形成した。閉ループ型磁界発生機構及び外周磁石固定板15は、図2に示す構造のものを用いた。ここで、外周径130mm、内周径110mmのSUS製ケース(1mm厚)に10mm厚、径方向幅8mmのSmCo磁石を12個収納した外周磁石を図2(c)に示す固定板に取り付け、さらに真空室の壁に基板との距離が10mmとなるように取り付けた。中心磁石については、外周径22mmのアルミナ製ケース(1mm厚)に10mm厚、径方向幅8mmのSmCo磁石を4個収納したものを外周磁石と着磁方向が逆になるように配置し、SUS製の支柱(3mm径)とナットを用いて、基板との距離が10mmとなるように取り付けた。この場合、基板表面での磁界強度は0.03Tであった。なお、電極プレートの面積は230x370mmである。
【0035】
以上の構成の真空室1内に、トルエン/Hの混合ガスを、ガス導入管3、電極4を介してに導入し、メインバルブ(不図示)を調節して内部を4Paに保った。電極4にRF電力を750〜800W供給してプラズマを発生させ、この状態を所定時間保持して、基板の両表面にカーボン膜を堆積させた。ここで、基板には−250Vのパルス電圧(200kHz、パルス幅500nsec)を印加した。また、磁石配置と堆積速度及び膜厚均一性との関係を調べるために、中心磁石と基板との距離をプラスマイナス5mm程度移動させて同様に薄膜を形成した。さらに、比較のため、閉ループ型磁界発生機構を除いた以外は、同様にして、カーボン膜を基板上に堆積させた(比較例)。
【0036】
成膜中に放電状況を外部から観察したところ、比較例の装置では、プラズマは真空室全体にわたりぼんやりと広がっていたのに対し、本実施例の装置では、図1に示すように、基板上に特に明るい部分が局在化していることが観察された。また、成膜中に基板側に流れる電流を測定したところ、比較例の場合は0.67Aであったのに対し、本実施例では2.5Aと大きな値を示した。これは、本実施例では、閉ループ型磁界発生機構によりプラズマが基板近傍の空間に閉じこめられ、高密度のプラズマ領域が形成されているのを裏付けるものと考えられる。
【0037】
成膜終了後、基板を取り出し、膜厚及び膜硬度を測定したところ、比較例の場合、成膜レートは約1nm/secであったの対し、本実施例では5〜10nm/secとなり、従来の5〜10倍もの高速成膜が可能となることが分かった。さらに、膜厚分布は、基板表裏面の15〜45mm径の範囲でプラスマイナス1〜3%と極めて均一性の高い薄膜が得られ、比較例のプラスマイナス30%に比べて、本実施例のPCVD装置が膜厚均一性の高い成膜を実現できることが分かった。基板両面から堆積する場合、前述のようにプラズマ30が基板と電極間の空間全体に広がるため、中央に孔を有するハードディスクの中央部のプラズマが基板の両面から漏れ出て、プラズマ密度に偏りを生じる。このため、ディスク中央部の膜が厚くなるという問題があったが、本実施例では、閉ループ型の磁界を形成しているため、中央部分のプラズマ密度は薄く、基板有効面の上だけが高密度領域となるため、膜厚均一性が向上したものと考えられる。また、本実施例の形状の閉ループ型磁界発生機構を用いた場合、中心磁石を外周磁石よりも基板から若干離した方が、膜厚均一性は向上する傾向にあることが分かった。
【0038】
さらに、本実施例で得られた膜の硬度は30GPaと比較例の1.5倍もの高い値となり、高密度のプラズマを基板近傍に形成することにより、成膜速度を向上させるだけでなく、膜特性を改善できることが判明した。これは、バイアス印加によるイオン引き込みと高密度プラズマとが相乗的に作用し、多量のイオン衝撃を受けて、カーボン膜はダイヤモンド構造をより多く含むダイヤモンドライクカーボン膜となったものと考えられる。
【0039】
以上のように、原料ガスにCHやCCH等の炭化水素を使用した場合には、DLC膜が形成されるが、例えば、原料ガスとしてシランガスを使用した場合には、アモルファスシリコンを成膜することができる。この方法によれば、従来のプラズマ内に高密度領域を形成することになるので、放電電力増加による堆積速度を向上させる場合と異なり、膜中に欠陥を生じさせることなく、良質な膜質及び均一な膜厚分布のアモルファスシリコンを大面積の基板に高速成膜することができる。この場合、基板は大型のガラス基板であるので、前述したように、矩形形状の閉ループ型発生機構等を採用すれば良い。なお、アモルファスシリコン形成の場合は、イオン種による衝撃により欠陥を生じるため、負の基板バイアスは印加しない方がよい。同様に、原料ガスにシラン・アンモニア・窒素等の反応ガスを使用した場合には、半導体や電子部品の保護膜や絶縁膜に有効である良質な膜質及び均一な膜厚分布の窒化シリコンを高速で形成することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 真空室、
2 排気口、
3 ガス導入管、
4 平板状電極、
5 電極プレート、
6 シャワープレート、
7 電極ブロック、
8 絶縁リング、
9 電極シールド、
10,11 閉ループ型磁界発生機構(プラズマ高密度化機構)、
12,13 磁石ケース、
14 支柱、
15 外周磁石ケース固定板、
21 基板、
22 基板ホルダー、
30 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室内に、平板状放電電極と基板とを互いに対向して設置し、真空室内に導入した反応性ガスをプラズマ発生手段によりプラズマ化し、基板上に薄膜を形成するプラズマCVD装置であって、前記基板と前記平板状放電電極との間の空間に、前記基板の中心軸と同軸に配置された環状の第1の外周磁石と第2の外周磁石とからなる閉ループ型磁界発生機構を設け、更に、前記第1の外周磁石と第2の外周磁石を基板の両側に配置し、前記両外周磁石の着磁方向を基板面に垂直又は平行とし、かつ互いに反発するように配置し、前記プラズマ発生手段により発生したプラズマを、前記閉ループ型磁界発生機構により、前記基板上の前記第1の外周磁石と前記第2の外周磁石との間に閉じ込め、前記両外周磁石は移動可能に配置し、前記両外周磁石は、リング状の樋状部材の中に収納され、外周磁石固定板にネジ止め金具を介して固定され、該外周磁石固定板は、前記真空室の壁に移動可能に取り付けられていることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記基板の前記平板状放電電極と反対側に、第2の平板状放電電極を設けたことを特徴とする請求項1記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記磁石に冷却機構を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記基板にバイアスを印加する手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記基板は、中心孔を有する基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記平板状放電電極は高周波電源に接続され、該平板状放電電極には、多数の吹き出し口を有する電極プレートからガスが基板側に噴出されるように、内部にシャワープレートが設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載されたプラズマCVD装置に所定の反応性ガスを導入し、前記放電電極に電力を印加して前記基板近傍に高密度プラズマを発生させ、前記反応ガスの構成元素を少なくとも1つ含む薄膜を前記基板上に堆積することを特徴とする薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−31374(P2010−31374A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210164(P2009−210164)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【分割の表示】特願2000−29235(P2000−29235)の分割
【原出願日】平成12年2月7日(2000.2.7)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】