説明

プラズマCVD装置

【課題】 プラズマCVD装置において、品質に優れたCVD皮膜を生産性良く成膜する。
【解決手段】本発明のプラズマCVD装置1は、真空チャンバ4と、この真空チャンバ4内に一対配備されると共にそれぞれが交流電源6のいずれかの極に接続された成膜ロール2とを備え、前記一対の成膜ロール2、2に巻き掛けられた基材Wの表面にプラズマを発生させて成膜を行うプラズマCVD装置1であって、一対の成膜ロール2、2の間に在する対向空間3に形成される第1成膜エリア19と、対向空間3以外の成膜ロール2の表面に形成される第2成膜エリア20と、の双方で成膜が行われることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムやプラスチックシートなどの基材にCVD皮膜を形成するプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの中でもディスプレイ基板に用いられるものに対しては、水蒸気や酸素を通さない特性(バリア性)や耐擦傷性が高く要求される。このような高バリア性や高耐擦傷性をプラスチックフィルムに付与するためには、フィルムの表面に透明性のあるSiOxやAl23などの皮膜をコーティングする必要がある。このようなSiOx皮膜などのコーティング技術としては従来より真空蒸着法、スパッタ法などの物理蒸着法(PVD法)が知られている。
【0003】
例えば、真空蒸着法は、PVD法の中でも高い生産性を備えた成膜方法として食品包装用フィルムの分野でよく用いられる方法である。この真空蒸着法は、高い生産性を実現可能である反面、成膜された皮膜のバリア性は良くない。具体的な数値を挙げれば、真空蒸着法で成膜された皮膜の水蒸気透過率は1g/m2day、酸素透過率は1cc/m2atm・day程度であり、ディスプレイ基板に要求される水準を到底満足できるものではない。
【0004】
一方、PVD法として真空蒸着法と並んで多用されるスパッタ法で形成される皮膜は、表面状態の良い基板の場合であれば、50〜100nmの厚みに成膜されたSiOx皮膜やSiON皮膜でモコン法の検出限界の水蒸気透過率0.02gm2day、酸素透過率0.02cc/m2atm・day以下の水準を達成可能である。それゆえ、スパッタ法で成膜される皮膜のバリア性は、真空蒸着法で成膜されたものよりはるかに優れている。しかし、その反面、スパッタ法の成膜速度は真空蒸着法より低く、十分な生産性を得ることができない。
【0005】
さらに、PVD法で形成された皮膜は、真空蒸着法で成膜された皮膜であっても、スパッタ法で成膜された皮膜であっても、無機質で脆いという欠点を備えている。例えば、PVD法で膜厚100nmを越える成膜を行うと、皮膜の内部応力、皮膜と基板との間での熱膨張係数の相違、さらにはフィルムの変形に皮膜が追従できないことによる皮膜欠陥や剥離の問題が生じる虞がある。それゆえ、PVD法は、薄膜には向いていても、厚膜を成膜するには適していない。
【0006】
これに対してプラズマCVD法は、真空蒸着には及ばないものの、スパッタ法に対して1桁以上は成膜速度が大きいとされている。また、プラズマCVD法で成膜される皮膜は高いバリア性だけでなく、ある程度の柔軟性をも備えており、厚膜の成膜にも適している。特にPE−CVD法(Plasma Enhanced-Chemical Vapor Deposition)は、数百nm〜数μmというPVD法では達成不可能な厚い皮膜を形成できるという特長を備えており、これらの特徴を生かした新しい成膜プロセスとして期待されている。
【0007】
ところで、このようなPE−CVD法を行う装置としては、例えば特許文献1に知られたものがある。
特許文献1に開示されたCVD装置は、真空に排気された真空チャンバ内にフィルムを巻き出す巻出ロールと巻き取る巻取ロールとを備えており、巻出ロールから巻き出されたフィルムに連続的に成膜を行った後、成膜済みのフィルムを巻取ロールで巻き取る機構となっている。この真空チャンバ内には、フィルムが巻きかけられた成膜ロールが一対配置されており、成膜ロール間には交流電源の両極が接続されている。また、特許文献1のCVD装置は、成膜ロール内に複数の磁石からなる磁場発生手段を備えており、この磁場発生手段は成膜ロールの表面に対する接線方向に沿って磁場を発生可能となっている。一方、交流電源を用いると、成膜ロールの外周面に対して法線方向に沿って電場が形成される。
【0008】
つまり、特許文献1のCVD装置は、成膜ロール間の空間における、接線方向に形成される磁場と法線方向に形成される電場とが相互に作用する領域に、マグネトロン放電を局部的に生起し、マグネトロン放電で電離したプラズマを利用してCVD皮膜の成膜を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−196001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1のCVD装置は、プラズマが発生する領域が成膜ロール間の空間(対向空間)の一部に限定されており、一旦フィルムがこの空間から出てしまうと成膜が行われることはない。つまり、特許文献1のCVD装置は、プラズマが発生する領域、言い換えれば成膜エリアが非常に限定されたものであるため、余計な皮膜が堆積してフレークが発生する心配がない。しかし、その反面、このように限定された成膜エリアのまま成膜を行っても、成膜速度を大きくすることはできないし、成膜の生産性も良くないという問題点を有している。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決する目的でなされたものであり、品質に優れたCVD皮膜を高い生産性で成膜することができるプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のプラズマCVD装置は、真空チャンバと、この真空チャンバ内に一対配備されると共にそれぞれが交流電源のいずれかの極に接続された成膜ロールとを備え、前記一対の成膜ロールに巻き掛けられた基材の表面にプラズマを発生させて成膜を行うプラズマCVD装置であって、前記一対の成膜ロールの間に在する対向空間に形成される第1成膜エリアと、当該対向空間以外の成膜ロールの表面に形成される第2成膜エリアと、の双方で成膜が行われることを特徴とするものである。
【0013】
本発明者は、成膜ロールの間の対向空間だけでなく、対向空間以外のエリアでもプラズマを発生できれば、プラズマが発生する領域が広範囲に広がり、成膜速度を大きくすることができるのではないかと考えた。そして、一対の成膜ロールの間の対向空間に形成される第1成膜エリアだけでなく、対向空間以外の成膜ロールの表面に形成される第2成膜エリアにも適切な磁場発生手段を追加等することによって、成膜エリアが広がって成膜速度が実際に向上できることを見出して本発明を完成させたのである。
【0014】
なお、前記一対の成膜ロールが互いの軸芯が水平方向に距離をあけて平行となるように配備されている場合にあっては、前記第2成膜エリアは前記成膜ロールの下側の空間に成膜ロールの表面に沿うようにして形成されているのが好ましい。
また、このような配置を採用する場合、前記成膜に用いられる原料ガスを対向空間の上方から真空チャンバ内に供給するガス供給部と、前記第1成膜エリアから第2成膜エリアを通って導かれた原料ガスをそれぞれの成膜ロールの下側から真空チャンバ外に排気するガス排気部とを設けると良い。
【0015】
このような配置であれば、対向空間の上方から原料ガス(成膜ガス)を供給するだけで、原料ガスが第1成膜エリアから第2成膜エリアに自然に導かれ、原料ガスを第1成膜エリアと第2成膜エリアとの双方に導いて両エリアで確実にプラズマを発生させることが可能となるからである。
なお、前記第1成膜エリアにプラズマを生起させる第1磁場発生手段と、前記第2成膜エリアにプラズマを生起させる第2磁場発生手段とは、いずれも成膜ロールの内部に設けることもできる。成膜ロールの内部に第1磁場発生手段と第2磁場発生手段を設けることによって、装置全体をコンパクトに構成することができる。また、成膜エリアを成膜ロール表面近傍に発生させることができる。
また、前記第1磁場発生手段を成膜ロールの内部に設け、前記第2磁場発生手段を成膜ロールの外部であって成膜ロールの下方に設けることもできる。このようにすることによって、前記第2磁場発生手段として通常使用されている平板状の磁場発生手段を使用することができる。
【0016】
さらに、前記第1磁場発生手段及び第2磁場発生手段は、成膜ロールの周方向に互いに別の部材として配備されると共にそれぞれの磁場発生手段の互いに隣り合う磁石の磁極が同極になるように取り付けられていても良い。この場合、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段の中間部でプラズマが不均一になることを防止することができ、皮膜形成が安定する。
また、前記第1磁場発生手段及び第2磁場発生手段は、成膜ロールの周方向に連続した1つの部材として配備されているのが好ましい。このようにすることで省スペース的を図ることができ、装置をコンパクトに構成することができる。
さらに、当該1つの部材は、中央磁極とレーストラック状の周囲磁極で構成したマグネトロン磁場発生機構を複数並置すると共に、隣り合うマグネトロン磁場発生機構間でレーストラック状の周囲磁極を共通化したものを備えていても良い。このように隣り合うマグネトロン磁場発生機構で磁極を共有化することで、磁場発生機構を小型化可能で狭い成膜ロール内に配置が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプラズマCVD装置を用いることで、品質に優れたCVD皮膜を高い生産性で成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のプラズマCVD装置の正面図である。
【図2】第1実施形態のプラズマCVD装置の成膜部分の拡大図である。
【図3】プラズマ電源から成膜ロールに印加される交流波形を示す図である。
【図4】磁場発生手段の拡大図である。
【図5】第2実施形態のプラズマCVDを示す図である。
【図6】第3実施形態のプラズマCVDを示す図である。
【図7】第3実施形態の変形例を示す図である。
【図8】第4実施形態のプラズマCVD装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明に係るプラズマCVD装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD装置1の全体構成を示している。
本実施形態のプラズマCVD装置1は、減圧下において、互いに対向して配置した一対の成膜ロール2、2に交流あるいは極性反転を伴うパルス電圧を印加し、成膜ロール2、2の間の対向空間3にグロー放電を発生させ、グロー放電で電離した原料ガス(成膜ガス)のプラズマを用いて基材WにプラズマCVDによる成膜を行うものである。
【0020】
このプラズマCVD装置1は、内部が空洞とされた筺状の真空チャンバ4を備えていて、真空チャンバ4の内部は真空排気手段(真空ポンプ5)によって真空排気可能となっている。この真空チャンバ4内には、成膜ロール2がその軸心を水平方向(図1では紙面貫通方向)に向けるようにして且つ互いに水平方向に平行に並ぶように一対配備されている。一対の成膜ロール2、2のそれぞれには、プラズマ電源6(交流電源)の両極がそれぞれ接続されていて、また成膜対象であるシート状の基材Wが巻き架けられている。そして、このプラズマCVD装置1は、真空チャンバ4内に原料ガスを供給するガス供給部7を備えており、それぞれの成膜ロール2の内部には、対向する成膜ロール2との間にプラズマを生成する磁場発生手段(第1磁場発生手段8)が設けられている。
【0021】
以下、プラズマCVD装置1の詳細を説明するが、その説明において、図1の紙面における上下をプラズマCVD装置1を説明する際の上下とし、図1の左右をプラズマCVD装置1を説明する際の左右とする。
まず、真空チャンバ4は、上下左右前後が隔壁で囲まれており、外部に対して内部を気密的に保持できるようになっている。真空チャンバ4の下側の隔壁に形成された排気口9には、真空チャンバ4の内部を真空状態または真空に準じた低圧状態まで排気する真空ポンプ5が設けられている。真空ポンプ5により真空(低圧)とされた真空チャンバ4内部に対してはガス供給部7から成膜ガスが供給され、真空ポンプ5からの排気とガス供給部7からの給気とのバランスを取ることで真空チャンバ4の内部を適切な圧力に制御できるようになっている。
【0022】
一対の成膜ロール2、2は、互いに同径の同長のステンレス材料等で形成された円筒体であり、その回転中心が真空チャンバ4の底面(下側の隔壁の上面)から略同じ高さになるように設置されている。一対の成膜ロール2、2は互いの軸心が平行となるように水平に距離をあけて配備されており、成膜ロール2、2の間にはロールの外周面同士が対向し合う対向空間3が形成されている。
【0023】
成膜ロール2は、さまざまな寸法幅の基材Wを巻き掛けられるように、巻き掛け可能な基材Wのうちでも最も幅が大きなものより広幅に形成されている。また、成膜ロール2の内部には、温度調整された水などの媒体が流通されていて、ロール表面の温度に調整できるようになっている。成膜ロール2の表面には、傷が付きにくいようにクロムメッキや超硬合金などのコーティングが好ましくは行われている。
【0024】
一対の成膜ロール2、2は、いずれも真空チャンバ4から電気的に絶縁されており、また上述したように対向空間3を介してロール同士も互いに電気的に絶縁されて配備されている。そして、一対の成膜ロール2、2の一方にはプラズマ電源6の一方の極が、また他方にもう一方の極が接続されていて、一対の成膜ロール2、2が互いに異なる極性の電位が与えられ、これが交流の周波数で反転する。成膜を行う基材Wは後述するように非導電性の材料であるため、成膜ロール2、2間に直流の電圧を印加しても電流を流すことが出来ないが、およそ1kHz以上、好ましくは10kHz以上の交流の電圧であれば基材Wを通して電流を流すことができ、数百V〜2千V程度の交流電圧を加えればグロー放電を発生させることも可能となる。なお、周波数の上限は特にないが、数10MHz以上になると定在波を形成するので好ましくはない。
【0025】
なお、一対の成膜ロール2、2に巻き付けられる基材W(CVD皮膜の成膜対象)としては、プラスチックのフィルムやシート、紙など、ロール状に巻き取り可能な絶縁性の材料が考えられる。これらの基材Wはコイル状に巻き取られて真空チャンバ4内に配備された巻出ロール10に取り付けられている。基材Wとして用いられるプラスチックフィルムやシートとしては、PET、PEN、PES、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド等があり、基材Wの厚みとしては真空中での搬送が可能な5μm 〜0.5mmが好ましい。これらの基材Wは、CVD皮膜を成膜した後、真空チャンバ4内の巻取ロール11でコイル状に巻き取られる。
【0026】
上述した巻出ロール10は、真空チャンバ4の内部における、左側の成膜ロール2のさらに左上方に配備されたロールである。また、巻取ロール11は、真空チャンバ4の内部における、右側の成膜ロール2のさらに右上方に配備されたロールである。これらの巻出ロール10と巻取ロール11との間には、一対の成膜ロール2、2と複数のガイドロール12とが配備されている。
【0027】
一対の成膜ロール2、2に給電を行うプラズマ電源6は、図3(a)に示すような正弦波形を持つ交流電圧、または、図3(b)に示すような両極の極性が反転可能なパルス状の電圧が発生可能なものである。
このプラズマ電源6の両極は、いずれも真空チャンバ4から絶縁されたフローティング電位とされていて、一対の成膜ロール2、2のそれぞれに接続されて成膜ロール2、2間に放電を生起可能な電位を付与する構成とされている。なお、プラズマ電源6から供給されるパルス状の電圧としては、図3(c)に示すような短い同じ極性のパルスが一定回数だけ連続して発信された後、極性を変えて短いパルスが同じ回数だけ発信され、以降はその繰り返しが行われるようなものを採用することもできる。
【0028】
一方、本発明のプラズマCVD装置1には、成膜ガスを供給するガス供給部7が、一対の成膜ロール2、2同士が対向し合う対向空間3の上方に設けられると共に、それぞれの成膜ロール2の下側から真空チャンバ4外に成膜ガスを排気するガス排気部が設けられている。
ガス供給部7は、左側の成膜ロール2から見て右上方、右側の成膜ロール2から見て左上方の真空チャンバ4内に配備された管状の部材であり、成膜ロール2と平行な方向を向くように取り付けられている。ガス供給部7は、空洞とされた管の内部を通じて、後述する成膜ガスを真空チャンバ4の外部から内部に案内可能となっている。ガス供給部7の下側には、成膜ガスを下方に向かって噴出させる細孔13が多数設けられており、細孔13から噴出された成膜ガスは成膜ロール2、2間の対向空間3に供給される。
【0029】
ガス排気部は、真空チャンバ4の下側の排気口9に設けられた真空ポンプ5から構成されている。例えば、図1のプラズマCVD装置1では排気口9は対向空間3の下方に1箇所だけであり、この1箇所の排気口9に真空ポンプ5が設けられている。そして、排気口9とこの排気口9のさらに上方にある対向空間3との間には、対向空間3から流れ下ってきた成膜ガスを左右に分流する平板状のガス分流板14が設けられている。このガス分流板14は真空ポンプ5に皮膜の断片等の異物が混入するのも防止することができる。なお、図1の例は分流板を用いて対向空間3から流れ下ってきた成膜ガスを分流しているが、それぞれの成膜ロール2の下方に排気口9を設け、それぞれの排気口9に真空ポンプ5を設けておけば、ガス分流板14を用いずに成膜ガスを分流することもできる。それゆえ、図2〜図8では、成膜ロール2の下方にそれぞれ排気の矢印を設けて、詳細な図示は省略している。
【0030】
ガス供給部7から供給される成膜ガスは、原料ガス、反応ガス、補助ガスを混合したものであり、上述したガス供給部7から混合状態で真空チャンバ4内に供給される。原料ガスは皮膜の主成分となる材料を供給する成分であり、SiOx皮膜を形成する場合であれば主成分のSiを含有するHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、TEOS(テトラエトキシシラン)、シラン等が選択される。反応ガスは、それ自身は皮膜を形成しないが原料ガスと反応して皮膜に取り込まれる成分であり、SiOx皮膜を形成する場合であればSiと反応してSiOx皮膜を形成する酸素(O2)が選択される。補助ガスは、原則として皮膜の組成とは関係がない成分から構成されており、放電の安定性を向上させたり、膜質を向上させたり、あるいは原料ガスの流れを補助したりする目的で供給される。SiOx皮膜を形成する場合であれば、Ar、He等がこの補助ガスに該当する。
【0031】
加えて、図2に示すように、本実施形態のプラズマCVD装置1は、プラズマを所定のエリアに発生させるための磁場発生手段を有している。
磁場発生手段として、真空チャンバ4内での設置場所を変えて、第1磁場発生手段8と第2磁場発生手段15との2つ(複数)が設けられている。
図2に示すように、第1磁場発生手段8は、成膜ロール2の内部であって且つもう一方の成膜ロール2との間に形成される対向空間3に近い側に配備されている。すなわち、第1磁場発生手段8は、成膜ロール2間の対向空間3に磁場を形成可能なように、成膜ロール2の周壁内面の中でも対向空間3に面する部分に沿って配備されている。図例では、第1磁場発生手段8は、左側の成膜ロール2の場合であれば、内周面に沿って時計盤の2時から4時の位置、右側の成膜ロール2の場合であれば、内周面に沿って時計盤の8時から10時の位置に配備されている。第1の磁場発生手段8は、例えば、図4に開示されたようなプレーナーマグネトロンスパッタカソードに用いられる磁場発生手段と同様な構造を備えたものが採用されている。
【0032】
詳しくは、図4に示すように、第1磁場発生手段8及び第2磁場発生手段15は、中央磁石16と、この中央磁石16の周囲を囲むように配備される中央磁石とは逆極性のレーストラック状の周囲磁石17とを備えている。これらの中央の磁石16とレーストラック状の周囲の磁石17とは、いずれもロール幅方向に沿って長尺に形成されており、固定部材18を用いて固定されている。この固定部材18は、磁性体を用いており磁場形成を助ける磁気回路の役割ももつと共に、成膜ロール2が回転しても磁場の形成方向が変わらないよう構成されている。
【0033】
このような磁場発生機構を組み込んだ状態で、成膜ロール2,2に交流電圧を印加すると、負の電圧が印加された側のロールの磁場発生機構に近接したロールの表面上に選択的に、ロールの軸方向に均一なレーストラック状のマグネトロンプラズマが生成される。交流電圧の周波数は1kHz以上の高周波であるため、見かけ上両方の成膜ロール2,2には、常にプラズマが発生しているように見える。そして、成膜ロール2、2同士が対向し合う対向空間3に形成された成膜領域を第1成膜エリア19と呼ぶ。
しかし、このような第1成膜エリア19だけでは成膜エリアは十分に広いとは言えず、成膜速度を高くすることはできない。そこで、本発明のプラズマCVD装置1では、別の成膜領域(第2成膜エリア20)を設けて、この第2成膜エリア20でも成膜を行うことにより成膜速度を大きくしているのである。
【0034】
この第2成膜エリア20は、対向空間3の第1成膜エリア19とは別に設けられた成膜領域であり、本実施形態では成膜ロール2の下側の空間に成膜ロール2の表面に沿うようにして形成されている。具体的には、この第2成膜エリア20は、第1磁場発生手段8とは別の第2磁場発生手段15を第1磁場発生手段8とは別の位置に設けることで形成されている。第2磁場発生手段15は、第1磁場発生手段8と構造は略同じであり、例えば、図4に開示されたようなプレーナーマグネトロンスパッタカソードに用いられる磁場発生手段と同様な構造を備えたものが採用されている。

図2に示すように、本実施形態の第2磁場発生手段15は、成膜ロール2の内部であって且つロール内周壁の中でも下側の部分に沿って配備されている。このロール内周壁の中でも下側の部分と第2磁場発生手段15とは互いに近接した位置関係とされている。図例では、第2磁場発生手段15は、例えば時計盤の5時から7時の周方向位置に配備されている。
【0035】
このような第2磁場発生手段15を組み込んだ状態で、成膜ロール2,2に交流電圧を印加すると、負の電圧が印加された側のロールの第2磁場発生機構に近接したロールの表面上、すなわちロールの下部に選択的に、ロールの軸方向に均一なレーストラック状のマグネトロンプラズマが生成される。交流電圧の周波数は1kHz以上の高周波であるため、見かけ上両方の成膜ロール2,2には、常にプラズマが発生しているように見える。
【0036】
結果として、本実施形態では、成膜ロール2、2同士が対向し合う対向空間3が第1成膜エリア19となり、成膜ロール2の下側の外周面からさらに下方に離れた領域が第2成膜エリア20となって、2つの成膜エリアで成膜が進行する。
以上述べた第1実施形態のプラズマCVD装置1を用いて、基材Wに成膜を行う際の手順について述べる。
【0037】
真空チャンバ4内の巻出ロール10に、コイル状に巻き回された基材Wを取り付ける。そして、巻出ロール10から巻出された基材Wを一対の成膜ロール2、2及び複数のガイドロール12を経由して巻取ロール11に通板し、成膜ロール2、2間の対向空間3の上方に配備されたガス供給部7から成膜ガスを真空チャンバ4内に供給する。
そうすると、ガス供給部7の下面に形成された細孔13から成膜ガスが対向空間3に噴出し、対向空間3が成膜ガスで充満される。この状態で、プラズマ電源6から第1磁場発生手段8及び第2磁場発生手段15が配備された、成膜ロール2、2間に交流電圧を印加すると、第1磁場発生手段8により成膜ロール2、2間の対向空間3の第1成膜エリア19、成膜ロール2の下方が第2成膜エリア20となってこれらの成膜エリアにマグネトロン放電が起こる。
【0038】
その結果、ガス供給部7から供給された成膜ガスが第1成膜エリア19と第2成膜エリア20との2箇所で電離されてプラズマとなり、第1成膜エリア19と第2成膜エリア20との双方の領域において成膜が複数回に亘って行われ、成膜回数が増加した分だけ成膜速度を向上させることが可能となるのである。
[第2実施形態]
次に、本発明に係るプラズマCVD装置1の第2実施形態を説明する。
【0039】
図5に示すように、第2実施形態のプラズマCVD装置1は、第1実施形態と同様に第2磁場発生手段15を第1磁場発生手段8とは別の手段として成膜ロール2の内部に新たに配備したものであるが、第2実施形態とは異なり第2磁場発生手段15が周方向に2箇所(複数)設けられている。
つまり、第2実施形態の第2磁場発生手段15は、左側の成膜ロール2の場合であれば、例えば時計盤における短針の4時から5時の周方向位置と、5時から7時の周方向位置との2箇所に配備されている。また、右側の成膜ロール2の場合であれば、例えば時計盤における短針の7時から8時の周方向位置と、8時から10時の周方向位置との2箇所に配備されている。
【0040】
このように第2磁場発生手段15を周方向に複数個設ければ、第2磁場発生手段15の数が増えた分、第2成膜エリア20がさらに広範囲に亘るようになり、成膜エリアが広がった分だけ成膜速度をさらに向上させることが可能となる。
[第3実施形態]
次に、本発明に係るプラズマCVD装置1の第3実施形態を説明する。
【0041】
図6及び図7に示すように、第3実施形態のプラズマCVD装置1は、中央磁極とレーストラック状の周囲磁極で構成した磁場発生機構を複数並置すると共に、隣り合うレーストラック状の周囲磁極を共通化して、一つの磁場発生手段で第1成膜エリア19と第2成膜エリア20との双方に磁場を形成できるようにしたものである。言い換えれば、第3実施形態のプラズマCVD装置1は、第1磁場発生手段8と第2磁場発生手段15とを成膜ロール2の周方向に連続した1つの部材として形成したものということもできる。
【0042】
例えば、図6の例では、左側の成膜ロール2に設けられた磁場発生手段の場合であれば、成膜ロール2の軸心を中心として時計盤における短針の3時、5時の位置に中央磁石16が配備されており、それぞれの周囲のレーストラック状の周囲磁石17が配置されるが、時計盤における短針の4時の位置の磁石を、2つのレーストラック状の周囲磁石17が共用することで、磁場発生機構を狭い成膜ロール2の内部に効果的に配置し、成膜ロール2の表面近傍に周方向に広い範囲(120°の範囲)に亘って磁場を形成可能となっている。
【0043】
また、図7の例では、左側の成膜ロール2に設けられた磁場発生手段の場合であれば、成膜ロール2の軸心を中心として時計盤における短針の3時、5時、7時の位置に3つの中央磁石16が配置され、その周囲にレーストラック状の周囲磁石17とが配備されているが、時計盤における短針の4時、6時の位置の磁石が、2つのレーストラック状周囲磁石17で共用されることで、磁場発生機構を狭い成膜ロール2の内部に効果的に配置し、成膜ロール2の表面近傍に周方向に広い範囲(160°の範囲)に亘って磁場を形成可能となっている。
【0044】
これらのような磁場発生手段を用いた場合には、磁場発生手段のうち対向空間3に対する部分で第1成膜エリア19にプラズマを生起し、対向空間3以外に対する部分で第2成膜エリア20にプラズマを生起して、成膜速度をより向上させることが可能となる。
[第4実施形態]
次に、本発明に係るプラズマCVD装置1の第4実施形態のプラズマCVD装置1を説明する。
【0045】
図8に示すように、第4実施形態のプラズマCVD装置1は、第1成膜エリア19にプラズマを生起させる第1磁場発生手段8が成膜ロール2の内部に設けられている点においては第1実施形態と同様であるが、第2成膜エリア20にプラズマを生起させる第2磁場発生手段15が成膜ロール2の内部ではなく、成膜ロール2の外部であって成膜ロール2の下方に設けられている点を特徴としている。
【0046】
つまり、第4実施形態のプラズマCVD装置1では、第2磁場発生手段15は成膜ロール2の外部であってその下方に、第1実施形態と同様な第2磁場発生手段15を配備したものである。この第2磁場発生手段15と成膜ロール2の最も下側の外周面との間には、上下方向にプラズマを発生させるに十分な間隔があけられている。この間隔は、第1成膜エリア19において成膜ロール2、2間に形成される水平方向の間隔と略等しいものとされていて、プラズマを生起するに十分な間隔とされている。このように第2磁場発生手段15を成膜ロール2の外側に配備しても、成膜ロール2の下方に設けられた第2成膜エリア20に磁場を形成することが可能となる。
【0047】
なお、第4実施形態のように、成膜ロール2の外側に配備される第2磁場発生手段15には、第1実施形態と同様に中央の磁石16とレーストラック状の周囲磁石17とを筺状のケース21で覆っても良い。また、その際には、第1実施形態とは異なり中央の磁石16とレーストラック状の周囲磁石17とが上下方向に同じ高さとなるように配備することもできる。
【0048】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
なお、成膜ロール2は、同径、同長である方が好ましいが、必ずしも同径、同長でなくても良い。また、成膜ロール2同士の軸心は互いに水平に配備されているのが好ましいが、必ずしも水平でなくても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 プラズマCVD装置
2 成膜ロール
3 対向空間
4 真空チャンバ
5 真空ポンプ
6 プラズマ電源
7 ガス供給部
8 磁場発生手段
9 排気口
10 巻出ロール
11 巻取ロール
12 ガイドロール
13 細孔
14 ガス分流板
15 第1磁場発生手段
16 中央の磁石
17 レーストラック状の周囲磁石
18 固定部材
19 第1成膜エリア
20 第2成膜エリア
21 ケース
W 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、この真空チャンバ内に一対配備されると共にそれぞれが交流電源のいずれかの極に接続された成膜ロールとを備え、前記一対の成膜ロールに巻き掛けられた基材の表面にプラズマを発生させて成膜を行うプラズマCVD装置であって、
前記一対の成膜ロールの間に在する対向空間に形成される第1成膜エリアと、当該対向空間以外の成膜ロールの表面に形成される第2成膜エリアと、の双方で成膜が行われることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記一対の成膜ロールは、互いの軸芯が水平方向に距離をあけて平行となるように配備されており、
前記第2成膜エリアは、前記成膜ロールの下側の空間に、成膜ロールの表面に沿うようにして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記成膜に用いられる原料ガスを対向空間の上方から真空チャンバ内に供給するガス供給部と、前記第1成膜エリアから第2成膜エリアを通って導かれた原料ガスをそれぞれの成膜ロールの下側から真空チャンバ外に排気するガス排気部とが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記第1成膜エリアにプラズマを生起させる第1磁場発生手段と、前記第2成膜エリアにプラズマを生起させる第2磁場発生手段とが、いずれも成膜ロールの内部に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記第1成膜エリアにプラズマを生起させる第1磁場発生手段が成膜ロールの内部に設けられていて、前記第2成膜エリアにプラズマを生起させる第2磁場発生手段が成膜ロールの外部であって成膜ロールの下方に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記第1磁場発生手段及び第2磁場発生手段は、成膜ロールの周方向に互いに別の部材として配備されると共に、それぞれの磁場発生手段の互いに隣り合う磁石の磁極が同極になるように取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のプラズマCVD装置。
【請求項7】
前記第1磁場発生手段及び第2磁場発生手段は、成膜ロールの周方向に連続した1つの部材として配備されており、第1の磁場発生手段と第2の磁場発生手段で一部の磁極を共有していることを特徴とする請求項6に記載のプラズマCVD装置。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−126969(P2012−126969A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280489(P2010−280489)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】