説明

プラズマCVD装置

【課題】長時間に亘って使用しても清掃などの手間をかけることなく安定した成膜条件を維持しつつ一度に多数の成膜を行う、簡単な構造のプラズマCVD装置を提供する。
【解決手段】プラズマCVD装置1は、真空チャンバ2内を真空排気する真空排気手段3と、成膜対象である基材を自転状態で保持する複数の自転保持部4と、複数の自転保持部4を自転保持部4の回転軸と軸心平行な公転軸Q回りに公転させる公転機構と、真空チャンバ2内に原料ガスを供給するガス供給部9と、真空チャンバ2内にプラズマを発生させるプラズマ発生電源10とを備える。公転テーブル5は、プラズマ発生電源10の一方極に接続された公転テーブル5Aと、プラズマ発生電源10の他方極に接続される公転テーブル5Bとであって、互いに異なる極性とされた公転テーブル5A上の基材と、公転テーブル5B上の基材との間にプラズマが発生可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にCVD皮膜を形成するプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングのような自動車のエンジン部品などには、良好な耐摩耗性、耐熱性、耐焼付き性等が求められる。そのため、これら機械部品には、DLC(Diamond-Like-Carbon)のような耐摩耗性コーティングがプラズマCVD法を用いて施される。
ところで、上述した基材にプラズマCVD法を施す際は、生産性を考えて真空チャンバ内に多数の基材を収容して一度に処理を行うのが好ましい。このように多数の基材を一度に処理する場合には、それぞれの基材に形成される皮膜の厚さや膜質を基材同士で均一にしなくてはならないので、従来のプラズマCVD装置では、基材をテーブル上に並べて自公転させた状態で成膜処理する方法が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、成膜対象となる基材を配置する真空チャンバ内にプラズマを発生するプラズマ発生手段と、プラズマ発生手段によって発生させたプラズマを基材の周辺の閉込め空間に閉じ込めるマルチカスプ磁界を形成するマルチカスプ磁界発生手段と、基材を保持すると共に閉込め空間の中心近傍を中心軸として回転する保持回転手段とを有する成膜装置を開示している。この特許文献1の成膜装置では、すべての基材はこれらを載置するテーブルごと電源の一方の極に接続されていてバイアス電圧を付加されており、電源の他方の極が接続された接地電位にある真空チャンバを対極としてグロー放電を発生させプラズマを生成する。そして、このプラズマにより原料ガスを分解して基材表面上に皮膜を形成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−308758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラズマCVD法による皮膜がDLCのような絶縁性の皮膜である場合は、成膜が進んで膜厚が大きくなれば、基材の表面に堆積した皮膜により基材表面の導電性は次第に失われる。ただ、成膜処理が終了すれば基材は導電性の表面を持つ新たなものと交換されるので、皮膜が堆積し続けて基材表面の導電性が完全に失われることはない。
しかしながら、例えば特許文献1の場合を考えると、皮膜は成膜対象の基材以外の部分、例えば真空チャンバ内壁にも付着する。真空チャンバの内壁は基材のように毎回交換されるものではないので、真空チャンバ側に堆積する絶縁皮膜は、成膜を何回も継続すればするほど厚く堆積する。そして、この堆積した皮膜の膜厚が増加するに連れて、チャンバ内壁の電気的な抵抗が増大し、内壁を一方の電極として発生するプラズマの生成が不安定になったり、操業条件が最適な条件からズレたりする可能性が生じる。
【0006】
このような課題を解決する目的で、発明者らは、自公転する基材(成膜対象物及び成膜対象物を支持するホルダ等も含めた総称)上に、プラズマCVD法により皮膜を形成するプラズマCVD装置であって、自公転テーブルの複数の自転軸を2つの群に分け、それぞれの群の中の各軸は電気的に接続されると共に、他の群とチャンバからは絶縁を取り、各群をプラズマ発生電源の両極に接続して電力を印加すると共に、真空チャンバ内にはプラズマ生成用ガスを供給し、各基材群の間に放電プラズマを発生させ基材上に皮膜形成を行う装置を提案した。
【0007】
この装置では、2つの群のほぼ同一搭載量の基板群を、交流電源の両極としてプラズマを発生し、プラズマCVD法による皮膜形成を行うことができる。基材は自公転テーブルに搭載されるので、均一性の高い処理が可能である。プラズマ発生の電力供給に関係するのは基材およびそのホルダであり、チャンバ等の他の部位への皮膜堆積があって絶縁性の表面が形成されても、プラズマの生成状態には影響が発生しない。このため長時間の安定的な皮膜形成が可能であり、また継続的な処理を行なう場合のチャンバの清掃等のメンテナンスを低減可能である。
【0008】
しかしながら、この装置では、ひとつの自公転テーブルに電位の異なる自転軸を設ける必要があり、自公転テーブルの構造が複雑になる問題があった。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、多数の基材に対して一度に且つ均一に成膜を行うものでありながら、長時間に亘って使用しても安定した成膜条件を維持しつつ成膜を行うことができると共に、基材以外の部分にCVD皮膜が堆積しにくく、頻繁な清掃が不要となって良好な利便性を発揮することのできる、複雑な構造を必要としない、プラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のプラズマCVD装置は、真空チャンバと、前記真空チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、成膜対象である基材を自転する状態で保持する複数の自転保持部と、前記複数の自転保持部を前記自転保持部の回転軸と軸心平行な公転軸回りに公転させる複数の公転機構と、前記真空チャンバ内に原料ガスを供給するガス供給部と、前記真空チャンバ内に供給された原料ガスにプラズマを発生させるプラズマ発生電源とを備えていて、前記自転保持部に保持された基材に皮膜を形成するプラズマCVD装置であって、前記複数の公転機構の各々は、前記プラズマ発生電源の一方極に接続された第1の群と、前記プラズマ発生電源の他方極に接続される第2の群とのいずれかに分けられることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記公転機構は、前記公転軸回りに公転可能とされた公転テーブルを有しており、前記複数の自転保持部の各々は、前記公転テーブルの公転軸から等しい半径で且つ公転軸回りに等間隔となるように配備されていると良い。
好ましくは、前記第1の群に属する1個の公転機構と第2の群に属する1個の公転機構とは、前記真空チャンバ内の中心線に対して対称に配備され、前記真空排気手段及び前記ガス供給部は、前記中心線に対して対称に配備されていると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプラズマCVD装置を用いることで、多数の基材に対して一度に成膜を行うものでありながら、絶縁膜の堆積に伴う動作の不安定をきたさず、長時間に亘って使用しても安定した成膜を行うことができる。また、プラズマ発生は基材を電極として行なわれるため、成膜領域は基材周辺に集まり、結果としてチャンバ等の不必要な部位での皮膜形成が低減でき、メンテナンス頻度を低減可能である。さらに、公転テーブル毎に電位を変更しているに過ぎないので、ひとつの自公転テーブルに電位の異なる自転軸を設ける場合に比べて複雑な構造を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD装置の平面図である。
【図3】自転保持部への基材の設置例を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るプラズマCVD装置の斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るプラズマCVD装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るプラズマCVD装置の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下の説明では、異なる実施の形態であっても同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
<第1実施形態>
図1は、本発明のプラズマCVD装置1の全体構成を示している。
【0014】
このプラズマCVD装置1は、真空チャンバ2と、真空チャンバ2内を真空排気する真空排気手段3と、成膜対象である基材Wを自転する状態で保持する複数(ここでは4個)の自転保持部4と、を有している。これら複数の自転保持部4は公転テーブル5に配備されており、このプラズマCVD装置1には複数の自転保持部4が設けられた公転テーブル5を自転保持部4の回転軸(自転軸P)と軸心平行な公転軸Q回りに公転させる公転機構8が設けられている。そして、このプラズマCVD装置1は、複数(ここでは2個)の公転テーブル5が、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称に配置されている。また、真空排気手段3は、この中心線上に設けられている。ここで、公転テーブル5の数は、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように配置されていれば、特に限定されるものではない。1個の公転テーブル5あたりに配備される自転保持部4の数は、特に限定されるものではないが、異なる公転テーブル5であっても同じ数になるように配置されていることが望ましい。さらに、複数の自転保持部4の各々は、公転テーブル5の公転軸から等しい半径で且つ公転軸回りに等間隔となるように配備されている。
【0015】
なお、本発明において「基材Wが自転する」とは、基材Wを貫通する軸P回りに基材Wが回転する(スピンする)ことをいう。また、「基材Wが公転する」とは、基材Wが自分自身から離れた軸Q回りに回転すること、言い換えれば基材Wが軸Qの周りを周回することをいう。また、基材Wの自転方向及び公転方向は、図1及び図2に示す通りであって、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように設定されている。ただし、これは一例であって、図示した自転方向及び公転方向に限定されるものではない。
【0016】
また、図2に示すように、上述したプラズマCVD装置1は、真空チャンバ2内に原料ガスを供給するガス供給部9と、真空チャンバ2内に供給されたプロセスガスにプラズマを発生させるプラズマ発生電源10とを備えていて、自転保持部4に保持された基材WにプラズマCVD法を用いて皮膜を形成する構成となっている。
上述したプラズマCVD装置1の構成をさらに詳しく説明する。
【0017】
真空チャンバ2は、その内部が外部に対して気密可能とされた筺体である。真空チャンバ2の側方にはこの真空チャンバ2内にある気体を外部に排気して真空チャンバ2内を低圧状態(真空状態)にする真空ポンプ3(真空排気手段)が設けられていて、この真空ポンプ3により真空チャンバ2内は真空状態まで減圧可能である。そして、この真空チャンバ2の内部には、複数の基材Wが後述する自転保持部4にそれぞれ保持された状態で収容されている。
【0018】
第1実施形態のプラズマCVD装置1で成膜される基材Wは、均一な成膜を可能とするため上下に長尺な円柱状空間内に配備するとよい。
例えば、基材Wが図3(a)に示すようなピストンリングである場合は、そのままでは不均一に成膜される可能性がある。図3(a)のように、積み重ねても周方向の一部が欠落して完全な円筒にならない場合は、必要に応じてカバー11で開口部分に蓋をすることにより、均一な成膜が可能となる。
【0019】
また、成膜しようとする基材Wが図3(b)に示すような小型部材(例えば小さなピストンピン)の場合は、円板12が上下方向に多段に積み重ねられた設置ジグ13を用意し、それぞれの円板12に基材Wを配備するとよい。そして、この設置ジグ13を、円柱状空間内に収まるようにすればよい。
さらに、基材Wが前記以外の形状物である場合であっても、適宜固定用のジグを製作し、ジグと基材Wが円柱状空間内に収まるようにすればよい。
【0020】
自転保持部4は、例えばその上面が水平となっている円形の載置台である。自転保持部4は、上下方向を向く回転軸回りに回転自在となっており、上面乃至は上方に配備された基材Wを回転軸回りに自転させつつ保持できるようになっている。自転保持部4へは給電可能な状態となっており、供給された電圧は基材Wにも印加される。ここで、1個の公転テーブル5上に配備された4個の自転保持部4へは同じ電圧が供給される。
【0021】
図1に示すプラズマCVD装置1の場合、自転保持部4は1個の公転テーブル5あたり全部で4個配備されている。これら4個の自転保持部4は、平面視で一つの円の上に並ぶように公転テーブル5の上面に起立状態で配備されている。
公転テーブル5の中心軸(公転軸Q)は上下方向を向き、この軸回りに公転テーブル5は回転する。公転テーブル5の上面には上述したように複数(4個)の自転保持部4が、公転テーブル5の公転軸Qから等しい距離(半径)となるように且つ公転軸Q回り(周方向)に等間隔を開けて配備されている。この公転テーブル5の下側には、公転テーブル5を公転軸Q回りに回転させる公転機構8が設けられている。
【0022】
公転機構8は、公転テーブル5の下面から公転軸Qに沿って下方に向かって伸びる軸部14と、この軸部14を駆動回転させる回転駆動部15とを有している。このように公転機構8を用いて公転軸Q回りに公転テーブル5を回転させれば、基材Wが保持された自転保持部4が公転軸Q回りに公転する。それと同時に、自転保持部4がその軸心回りに回転する構成とされている故、自転保持部4に保持された基材Wが自転するようになる。本実施形態においては、2個の公転テーブル5が配備されており、公転機構8も2つ配備されている。
【0023】
係る機構により、基材Wを真空チャンバ2内で各自転保持部4を自転させつつ、全体を公転させながら(自公転させながら)成膜させることが可能となる。
なお、隣り合う基材Wは、回転位相を考慮したり隣接する基材Wのサイズの調整などで、自公転時に相互に機械干渉しないように適切に設置する。さらに、公転テーブル5A及び公転テーブル5Bについても、公転時に相互に機械干渉しないように適切に設置する。
【0024】
一方、図2に示すように、真空チャンバ2内には、真空チャンバ2内に原料ガスを含むプロセスガスを供給するガス供給部9が設けられている。このガス供給部9は、CVD皮膜の形成に必要な原料ガスや、成膜をアシストするアシストガスを、ボンベ16から所定量だけ真空チャンバ2内に供給する構成とされている。なお、このガス供給部9は、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように配置される。すなわち、1台であればガス供給部9の中心が中心線と合致するように、ガス供給部9が2台であれば、ガス供給部9の間の中心が中心線と合致するように、配備される。このようにすることにより、2個の公転テーブル5上に配備された基材Wに対して、できるだけ均一にガスを放出することができる。
【0025】
プロセスガスとしては、具体的には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン、非晶質カーボン膜)などのカーボン系のCVD皮膜を成膜する場合には、炭化水素(アセチレン、エチレン、メタン、エタン、ベンゼン、トルエンなど)を含む原料ガスに、不活性ガス(アルゴン、ヘリウムなど)の不活性ガスをアシストガスとして加えたものが用いられる。また、シリコン化合物のCVD皮膜(SiOx膜、SiOC膜、SiNx膜、SiCN膜)を成膜する場合には、シリコン系有機化合物(モノシラン、TMS、TEOS、HMDSOなど)やシランなどシリコン含む原料ガスに、酸素などの反応ガスを加え、さらにアルゴンなどの不活性ガスをアシストガスとして加えたものを用いることができる。なお、CVD皮膜としては、上述したもの以外にも、TiOx膜、AlOx膜、AlN膜などを成膜することができる。
【0026】
また、主たる原料ガスに少量の添加原料ガスを混合させることもある。例えば、DLC皮膜の形成の際に、炭化水素を主たる原料ガスとして、シリコン系有機化合物ガスを少量添加することにより、DLC中にSiを含む皮膜を形成することができる。あるいは、DLC皮膜の形成の際に、炭化水素を主たる原料ガスとして、金属を含有する原料ガス(例として、TiPP(チタニウムイソプロポキサイド)やTDMAT(テトラジメチルアミノチタン))を少量添加することで、DLC中に金属(例ではチタン)を含む皮膜を形成することができる。
【0027】
なお、これらの原料ガス、反応ガス及びアシストガスは、使用するガスの種類を適宜組みあわせて用いることができる。
また、真空チャンバ2内に別の皮膜供給源(スパッタ源、AIP蒸発源など)を設けるようにしても良い。この場合において、皮膜供給源は、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように配置される。すなわち、1台であれば皮膜供給源の中心が中心線と合致するように、皮膜供給源が2台であれば、皮膜供給源の間の中心が中心線と合致するように、配備される。このようにすることにより、2個の公転テーブル5上に配備された基材Wに対して、できるだけ均一に皮膜を形成することができる。
【0028】
一方、本発明のプラズマCVD装置1に備えられたプラズマ発生電源10は、真空チャンバ2内に供給したプロセスガスにグロー放電を発生させて、プラズマを発生させるために用いるもので、交流の電力を供給する。このプラズマ発生電源10が供給する交流の電力としては、正弦波の波形に従って電流や電圧が正負に変化する交流だけでなく、パルス状の波形に従って正負に入れ替わる矩形波の交流を用いても良い。また、この交流には、連続した同一極性のパルス群が交互に現れるものや、正弦波の交流に矩形波を重畳したものを用いることもできる。なお、実際のプラズマ発生中の電圧波形は、プラズマ生成の影響によって歪む場合がある。また、プラズマが発生すると交流電圧のゼロレベルがシフトし、各電極の電位を接地電位に対して測定すると、マイナス側電極に印加電圧の80−95%が、プラス側電極に印加電圧の5−20%が加わるのが多く観察される。プラズマ発生電源は上述の通り、1台の交流電源で構成されるのが良いが、これと同等の電位変動を2台の電源により実現することも可能であり、本発明の範囲に含まれる。
【0029】
プラズマ発生電源10から供給される交流は、その周波数が1kHz〜1MHz、好ましい。周波数が1kHz未満では皮膜のチャージアップが起り易く、1MHzを超える周波数の電力を自転公転する基材Wに伝達する機構が難しいからである。さらに電源の入手性等を考慮すると、10kHz〜400kHzの範囲とするのがなお好ましい。また、プラズマ発生電源10から供給される交流の電圧は、波高値でグロー放電の維持に必要な300〜3000Vが好ましい。さらに、プラズマ発生電源10から供給される交流の電力は、基材Wの表面積によって変動するが、単位面積あたりの電力で0.05〜5W/cm程度の電力密度であるのが好ましい。
【0030】
このような周波数、電圧、電力(電力密度)の交流電流を真空チャンバ2内に配備された一対の電極間に作用させれば、グロー放電が電極間に発生し、発生したグロー放電で真空チャンバ2内に供給されたプロセスガスが分解されてプラズマが発生する。そして、プラズマにより分解されたこれらのガス成分が電極表面に堆積することで、CVD皮膜の成膜が行われる。つまり、一対の電極のいずれかに基材Wを用いれば、基材Wの表面にCVD皮膜を成膜することが可能となる。
【0031】
なお、真空チャンバ2内には、基材Wの温度を制御して膜質を調整する加熱ヒータが適宜配備されていても良い。この場合において、加熱ヒータは、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように配備される。すなわち、1台であれば加熱ヒータの発熱中心が中心線と合致するように、加熱ヒータが2台であれば、加熱ヒータの間の中心が中心線と合致するように、配備される。このようにすることにより、2個の公転テーブル5上に配備された基材Wに対して、できるだけ均一に皮膜を形成することができる。
【0032】
ところで、図2に示すように、本発明のプラズマCVD装置1においては、公転テーブル5(図に示す5A)がプラズマ発生電源10の一方極に接続された第1の群とされている。併せて、他方の公転テーブル5(図に示す5B)が、プラズマ発生電源10の他方極に接続された第2の群とされている。互いに異なる極性とされた第1の群である公転テーブル5に配備された自転保持部4に保持された基材Wと、第2の群である公転テーブル5の自転保持部4に保持された基材Wとの間にプラズマが発生できる。なお、群と記載するのは、本実施形態においては第1の群及び第2の群に属する公転テーブル5は各1個に過ぎないが、2個以上の公転テーブル5がそれぞれの群に属しても構わないためである。ただし、上述したように複数の公転テーブル5がプラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように配置される必要があるので、第1の群に属する公転テーブル5の数と第2の群に属する公転テーブル5の数とは、同じである。当然ながら、公転テーブル5の総数は偶数になる。
【0033】
そして、第1の群に属する公転テーブル5A上に配備された4個の自転保持部4はいずれも、プラズマ発生電源10の一方の電極に接続されている。また第2の群に属する公転テーブル5B上に配備された4個の自転保持部4はいずれもプラズマ発生電源10の他方の電極に接続されている。つまり、電圧印加中は、第1の群に属する公転テーブル5A上の自転保持部4と、第2の群に属する公転テーブル5B上の自転保持部4とは、常に逆の極性となっている。
【0034】
なお、各自転保持部4を上記した極性とするためには、公転軸Qにそれぞれブラシ機構(図示略)を設け、このブラシ機構を通じてそれぞれの極性の電圧を印加するとよい。公転軸Q及び自転軸Pはベアリング機構を介して回転時自在に保持されているが、公転軸Qに設けられたベアリング機構を通じて電圧を印加するようにしてもよい。
次ぎに、以上述べた構成を有するプラズマCVD装置1を用いたCVD皮膜方法について説明する。
【0035】
まず、図1、図2に示す如く、真空チャンバ2内に配置した公転テーブル5上に自転保持部4が公転軸Qを中心として90°ごとに4軸配備されたプラズマCVD装置1を用いて、CVD皮膜を実際に成膜する場合を考える。
まず、基材Wを自転保持部4に設置する。基材Wは自転保持部4の上に載置して固定してもよいし、設置ジグ13を用いて基材Wを自転保持部4の上に載置してもよい。なお、このとき、プラズマCVD装置1に左右対称に設けられた、公転テーブル5A用の扉2A及び公転テーブル5B用の扉2Bを開いて真空チャンバ2内へ基材Wを載置するとよい。
【0036】
このようにして基材Wが用意されたら、真空ポンプ3(真空排気手段3)を用いて真空チャンバ2内を高真空状態まで排気する。
次に、必要に応じて、Ar等の不活性ガスやHやOなどのガスをガス供給部9を用いて真空チャンバ2内に供給し、プラズマ発生電源10から電力を供給して基材W間に表面清化のためのグロー放電を発生させても良い(イオンボンバード処理)。また、上述した加熱ヒータを用いて、自公転する基材Wに対して予備加熱を行っても良い。また、真空チャンバ2内に別の皮膜供給源(スパッタ源、AIP蒸発源など)を設けた場合には、これらの皮膜供給源を利用して、プラズマCVDによる皮膜と基材Wの間に挿入する中間層を形成してもよい。
【0037】
この後、ガス供給部9を用いてプロセスガスを真空チャンバ2内に供給し、真空チャンバ2内は成膜に適した0.1〜1000Paの圧力に保持する。
成膜にあたっては、プラズマ発生電源10から交流の電力を供給して、公転テーブル5A上に配備された自転保持部4の基材Wと公転テーブル5B上に配備された自転保持部4の基材Wとの間にグロー放電を発生させ、基材W間に成膜に必要なプラズマを発生させる。
【0038】
成膜時の圧力は成膜しようとするCVD皮膜(プロセスガスや反応性ガス)の種類によって好適な値は異なるが、0.1Pa〜1000Pa程度の圧力が好ましい。上述したように0.1Pa〜1000Pa程度の圧力にすることで、安定したグロー放電を発生させることが可能となり、良好な成膜速度で成膜を行うことが可能となる。なお、気体中での反応に伴うパウダー生成を抑制する観点では成膜時の圧力はさらに100Pa以下の圧力が好ましい。
【0039】
また、プラズマ発生電源10から供給される交流の電圧は、グロー放電の維持に必要な300V〜3000Vの間(両極間の電圧の波高値)となる。さらに、プラズマ発生電源10から供給される交流の出力電力は、単位面積あたりの電力に換算すると0.05〜5W/cm程度が好ましい。
このようにプラズマ発生電源10から供給される交流の電圧及び電力を調整した上で、基材Wを自転保持部4ごと自公転させれば、異なる公転テーブル5に配備されてた基材W間にグロー放電が発生し、基材Wの表面に膜厚が均一なCVD皮膜を形成することが可能となる。
【0040】
成膜処理が終わったら、プラズマ発生電源10の出力、プロセスガスの導入を停止し、成膜を終了する。基板温度が高い場合には、必要に応じて温度低下を待ち、真空チャンバ2内を大気に開放し、基材Wを取外す。このようにすれば、表面にCVD皮膜が形成された基材Wを得ることが可能となる。
上述したように、互いが逆極性とされた、公転テーブル5A上に配備された自転保持部4と公転テーブル5B上に配備された自転保持部4とを有するため、隣り合う公転テーブル5上に配備された自転保持部4に保持される基材W間に必ず電位差が生じて、両者の間に確実にグロー放電が発生する。そして、プラズマ発生電源10の正負が入れ替われば、公転テーブル5毎に自転保持部4の極性も入れ替わり、引き続き両者間にグロー放電が発生する。それ故、多数の基材Wに対して一度に且つ均一に成膜を行うことが可能となる。
【0041】
すなわち、公転テーブル5A上に配備された自転保持部4の基材Wが作用極として働いてこの基材W側にCVD皮膜が成膜されているときには、公転テーブル5B上に配備された自転保持部4の基材Wが対極(反対極)となる。そして、プラズマ発生電源10の正負が入れ替われば、公転テーブル5B上に配備された自転保持部4の基材Wが作用極となり、公転テーブル5A上に配備された自転保持部4の基材Wが対極となる。
【0042】
つまり、上述の構成であれば、基材Wは対極となっても、公転テーブル5や真空チャンバ2の筐体が対極になることはない。それ故、これらの部材はプラズマ生成のためのグロー放電発生用電極としては作用せず、仮に絶縁皮膜が長時間の運転で厚く堆積したとしても、プラズマの不安定化が発生せず、膜質や厚みにバラツキのないCVD皮膜を安定的に生産することも可能となる。また、これらの部材は放電発生電極として作用していないため、原料ガスを分解するプラズマに直接的にはさらされず、このため、従来技術に比べてこれらの部材には皮膜が堆積しにくい。このため、皮膜の厚い堆積が原因となるフレークの飛散も起りにくく、皮膜欠陥も発生しにくい。なお、金属含有のDLCに代表される皮膜は皮膜自身がやや導電性を示すが、この場合もチャンバ2の筐体等に皮膜が堆積しにくく、フレークの飛散が起こりにくく、皮膜欠陥が発生しにくいとの効果は残る。加えて、金属含有DLCのような一定の導電性の皮膜を基材Wに形成する場合であっても、プラズマが弱いチャンバ部には膜質の悪い絶縁性を帯びた皮膜が形成される場合があり、このような場合にはプラズマの不安定化防止の効果も現れる。
【0043】
ところで、上述した例は、1台のプラズマCVD装置1に、2個の公転テーブルを配置したものであった。しかしながら、プラズマCVD装置1における公転テーブル5の総数は、2個に限定されるものではない。例えば、公転テーブル5の総数が2個ではなく、4個とされた場合や、6個とされた場合や、8個とされる場合も考えられなくもない。いずれの場合であっても、真空チャンバ2内の中心線に対して対称に配備されるために、公転テーブル5の総数は、偶数に限定される。
【0044】
その場合であっても、1台の公転テーブル上に配備される自転保持部4の数を同じにして、公転テーブル5を、プラズマ発生電源10の一方極に接続された第1の群に属するものと、プラズマ発生電源10の他方極に接続された第2の群に属するものとに分ける。第1群の公転テーブル5と第2群の公転テーブル5とを1つおきに(交番に)、プラズマCVD装置1の中心線に対して対称になるように並べれば、隣り合う公転テーブル5上に配備された基材W間にプラズマを発生させて、自転保持部4に保持された基材Wに安定した条件でCVD皮膜を成膜することが可能となる。
【0045】
1台のプラズマCVD装置1に配備される公転テーブル5の総数がいくつであっても、1個の公転テーブル5上の基材Wには同じ電位の電圧が供給されるに過ぎない。このため、例えば、1個の公転テーブル5上の基材Wに異なる電位の電圧が供給される場合に比べて、プラズマCVD装置1の構造(電圧供給構造)を簡略化することができる。
<第2実施形態>
図4、図5は、本発明のプラズマCVD装置100の第2実施形態を示している。
【0046】
このプラズマCVD装置100は、以下の点で上述した第1実施形態のプラズマCVD装置1と異なる。このプラズマCVD装置100においては、真空チャンバ2内を真空排気する2つの真空排気手段3が、公転テーブル5A及び公転テーブル5Bにそれぞれ対応するように設けられている。すなわち、公転テーブル5Aに対応する真空排気手段(真空ポンプ)3Aと、公転テーブル5Bに対応する真空排気手段(真空ポンプ)3Bとが、チャンバ2の後方側壁に配備されている。
【0047】
そして、上述した第1実施形態と同様に、公転テーブル5Aと公転テーブル5Bとの間にガス供給部9が配備されている。なお、ガス供給部9も、公転テーブル5A及び公転テーブル5Bにそれぞれ対応するように2台設けるのであれば、2台のガス供給部9の間の中心がチャンバ2の中心線と合致するように配備すればよいのは、上述の第1実施形態と同じである。
【0048】
これらの2台の真空排気手段3(3A、3B)および1台のガス供給部9は、プラズマCVD装置100の中心線に対して対称になるように配置される。すなわち、2台の真空排気手段3(3A、3B)は、2台の真空排気手段3Aおよび真空排気手段3Bの中心が中心線と合致するように、1台のガス供給部9は、その中心が中心線と合致するように、配備される。このようにすることにより、2個の公転テーブル5上に配備された基材Wに対して、できるだけ均一な処理を行うことができる。
【0049】
ところで、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0050】
1、100 プラズマCVD装置
2 真空チャンバ
3 真空排気手段(真空ポンプ)
4 自転保持部
5 公転テーブル
8 公転機構
9 ガス供給部
10 プラズマ発生電源
11 カバー部材
12 円板
13 設置ジグ
14 軸部
15 回転駆動部
16 ボンベ
P 自転軸
Q 公転軸
W 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、成膜対象である基材を自転する状態で保持する複数の自転保持部と、前記複数の自転保持部を前記自転保持部の回転軸と軸心平行な公転軸回りに公転させる複数の公転機構と、前記真空チャンバ内に原料ガスを供給するガス供給部と、前記真空チャンバ内に供給された原料ガスにプラズマを発生させるプラズマ発生電源とを備えていて、前記自転保持部に保持された基材に皮膜を形成するプラズマCVD装置であって、
前記複数の公転機構の各々は、前記プラズマ発生電源の一方極に接続された第1の群と、前記プラズマ発生電源の他方極に接続される第2の群とのいずれかに分けられることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記公転機構は、前記公転軸回りに公転可能とされた公転テーブルを有しており、
前記複数の自転保持部の各々は、前記公転テーブルの公転軸から等しい半径で且つ公転軸回りに等間隔となるように配備されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記第1の群に属する1個の公転機構と第2の群に属する1個の公転機構とは、前記真空チャンバ内の中心線に対して対称に配備され、
前記真空排気手段及び前記ガス供給部は、前記中心線に対して対称に配備されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−28851(P2013−28851A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166919(P2011−166919)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】