プレストレストコンクリート版の製造方法
【課題】
滑走路の路盤や埠頭の路盤として使用でき、それ自体の重量が軽く、従来製品に比べて極めて大きい荷重に耐えることができ、しかも低コストで製造できるプレストレストコンクリート版造方法の提供。
【解決手段】
方形状をしたプレキャストコンクリート版本体Aの両対角間に、剛性が対角線の中央部において最も大きく両端に至るに従って徐々に小さくした対角方向高剛性部3を連続した配置に設け、その対角方向高剛性部3内にPC緊張材6a,6bを挿通して両対角線方向にプレストレスを付与するものであって、対角方向高剛性部を構成する高剛性部構成部材Bを予め形成し、これにプレストレスを付与した後、残りの本体部のコンクリート打設成形を行う。
滑走路の路盤や埠頭の路盤として使用でき、それ自体の重量が軽く、従来製品に比べて極めて大きい荷重に耐えることができ、しかも低コストで製造できるプレストレストコンクリート版造方法の提供。
【解決手段】
方形状をしたプレキャストコンクリート版本体Aの両対角間に、剛性が対角線の中央部において最も大きく両端に至るに従って徐々に小さくした対角方向高剛性部3を連続した配置に設け、その対角方向高剛性部3内にPC緊張材6a,6bを挿通して両対角線方向にプレストレスを付与するものであって、対角方向高剛性部を構成する高剛性部構成部材Bを予め形成し、これにプレストレスを付与した後、残りの本体部のコンクリート打設成形を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空港における大型の航空機の滑走路や通路、埠頭における荷揚げ用ガントリークレーンが走行する通路等、局部的に大荷重を受ける部分の床板として使用できるプレストレストコンクリート版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート版(以下PCaC版と記す)が、ビルディングや高架道路、桟橋などの床板として使用されている。これらのPCaC版には、方形状のプレストレストコンクリート版(以下PC版と記す)が使用されている。
【0003】
この種の従来のPC版は、構造的には、発生する断面力(主として曲げモーメント)は4辺支持、即ち表面に下向きに掛かる荷重をPC版の4辺で支持させる場合が最も小さくなる。この場合PC版には上面に下向き荷重が作用した時には、XY両方向、即ち方形状の互いに平行な2辺に直行する向きの2方向に対して同じ断面力が生じる。このため従来は、PC版の2つの並行する2辺間方向にそれぞれプレストレスを付与した構造としている(例えば特許文献1及び2)。
【0004】
また、このようなPC版は、表面に下向きの荷重が作用した際に生じる曲げモーメントは中央部分が最も大きく、周辺部に至るに従って小さくなるが、PC版の特性として、平面的に配置したPC緊張材の緊張力を部分的に大きくしたとしても、これが全体に影響する為、部分的に大きなプレストレスを導入することができなかった。このため、従来は中央部分に生じる最も大きな曲げモーメントに合わせて全域において均等にプレストレスを導入させていた。
【特許文献1】特開昭64−4307号公報
【特許文献2】特開昭63−107638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如き従来のPC版において、例えば空港の滑走路や航空機通路、更には埠頭におけるガントリークレーンの通路等、局部的に600tもの超大荷重がかかるような場所に使用するような場合に、十分な耐荷重を得ようとすると、全体の板厚を大きくし、しかも平面全域に亘って大きなプレストレスを導入しなければならず、PC版自体の重量が極めて大きなものとなって取り扱いに困難が生じ、また製造に高度の技術とPC緊張材やコンクリート等の多くの資材及びプレストレス導入の為の高度の設備を必要とし、高コストとならざるを得ないという問題があり、例えば10m四方のPC版であって500t〜800tもの大荷重に耐えるようにしたものは、従来では例をみることがなかった。
【0006】
また、局部的に大荷重かかかる場所に、広面積のPCaC版を使用した場合、局部的荷重が中央より偏った部分に作用すると板自体に反りが発生し、隅部が浮き上がる状況が生じ、航空機やクレーンが通過する度に隅部が浮き上がって振動し、隣り合う板との間に段差が生じる事となる為、これを防止する為にPCaC版の4隅とその下の下部支持構造との連結を強固なものとする必要があり、そのためには高度の技術と高価な資材が必要になるという問題がある。
【0007】
本発明は上述の如き従来の問題に鑑み、海上において水底に支持させた杭等の下部支持構造の上に載置して滑走路の路盤や埠頭の路盤として使用でき、それ自体の重量が小さく、従来製品に比べて極めて大きい荷重に耐えることができ、しかも低コストで製造できるPC床版を構築するに好適なPCaC版製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材を、前記プレキャストコンクリート版本体の形成に先立って成形し、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法にある。
【0009】
請求項2に記載の発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材の成形の際に、該対角方向高剛性部構成部材の間に位置したプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。請求項1に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【0010】
請求項3に記載の発明の特徴は、前記請求項1又は2の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する成形することにある。
【0011】
請求項4に記載の発明の特徴は、方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部と、該プレキャストコンクリート版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とを一体に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材と前記周方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる周方向高剛性部構成部材とを一体化させた状態に成形し、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法にある。
【0012】
請求項5に記載の発明の特徴は、前記請求項4の構成に加え、前記周方向高剛性部構成部材は、隣り合う対角方向高剛性部構成部材の端部間において、一部に縁切り部を形成しておき、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させることにある。
【0013】
請求項6に記載の発明の特徴は、前記請求項4又は5の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、両部材に囲まれた部分にプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。
【0014】
請求項7に記載の発明の特徴は、前記請求項4,5又は6の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してプレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、方形状をしたPCaC版本体の両対角間に、剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与することにより、このPC版の4辺を支持させて床板を構成させることにより発生する曲げモーメントの分布、即ち曲げモーメントは中央部が最も大きく、周辺部に至るに従って小さくなるという特性に応じた、中央部分の耐荷重の大きいPCaC版を構成することができ、全体の重量が小さく、導入するプレストレスのための緊張力も小さくてよくなる。
【0016】
また、上記対角方向高剛性部と、該PCaC版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とをともに備えることにより、PC版の表面の一部に局部荷重が作用した場合であっても反りが生じ難い特性を持ったPC版を構成できる。
【0017】
更に、製造に際し、対角方向高剛性部構成部材、又は対角方向高剛性部構成部材と周方向高剛性部構成部材とを、予め形成しておき、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、PCaC版本体の残りの部分を成形することにより、対角方向高剛性部のみに、又は主として対角方向高剛性部にプレストレスを付与することができ、プレキャスト版に対して対角線方向のプレストレスを効果的に導入することができる。
【0018】
更に、対角方向高剛性部構成部材の成形、又は対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、PCaC版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記PCaC版本体の残りの部分を成形することにより、対角方向高剛性部構成部材プレストレスを導入する際に、上下方向の歪の発生を少ないものとすることができる。
【0019】
更に、対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してPCaC版本体の残りの部分を該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて成形することにより、PCaC版本体部のコンクリート成形によって歪が矯正された状態が維持され、予め対角方向高剛性部構成部材を製造し、プレストレスを導入させた後、全体のコンクリート成形を行う場合にあっても、平面度の高いPC版の製造が可能となる。
【0020】
更に、周方向高剛性部構成部材の一部に縁切り部を形成しておき、対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させることにより、周方向高剛性部構成部材の形成後であっても対角方向高剛性部構成部材のみにプレストレスを導入させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態を図面に示した実施例に基づいて説明する。図1〜図4は本発明方法によって製造されるPC版の一例を示しており、図中符号Aは平板状をしたPCaC版本体である。このPCaC版本体Aは4辺2,2……が略等しい正方形であって、その四隅部が面取り状に切り欠かれた形状をしている。尚、図には示されてないが内部に必要な配筋が施されている。
【0022】
PCaC版本体Aの底面には両対角線に沿って連続した配置に対角方向高剛性部3,3が一体に成形されている。対角方向高剛性部3,3は、PCaC版本体Aの裏面を局部的に肉盛りすることによってその部分の剛性を高めているものであり、両対角線位置に連続して一体成形した対角方向突条3a,3aを一体に形成することによって構成させている。両突条3a,3aは、その中央部分をPCaC版本体Aの中央部分に位置させて互いに交差させ、その交差部分、即ち突条3aの中央部であってPCaC版本体A中央部分における高さが最も高く、各対角部に至るに従って低く形成されている。これにより突条3a,3aが一体成形された部分の剛性は中央部分が最も高く、周辺部に至るに従って小さくなる。
【0023】
PCaC版本体Aの周囲の4辺部には、周方向高剛性部5が設けられている。この各周方向高剛性部5は、PCaC版本体Aの周辺底面に一体に周方向突条5a,5a……を一体に備えることによって構成されているものであり、PCaC版本体Aの周辺部に肉盛りを施すことによって断面の剛性を部分的に増強している。4辺の各突条5aは、前述した対角方向突条3a,3aの端部を介して互いに連続した配置に成形されている。
【0024】
また、両対角方向高剛性部3,3内にはPC緊張材6a,6bが挿通され、各対角部を面取り状に切り欠いて形成した定着面7,7に両端が定着されてプレストレスが導入されている。尚、各緊張材6a,6bは、対角方向高剛性部3の底面に沿った位置と、PCaC版本体Aの表面に沿った位置とに配置されている。
【0025】
このように方形状のPCaC版本体Aに対して対角方向高剛性部3,3を一体に設け、その部分に対角線方向に向けたPC緊張材6a,6bを同等に緊張することによってプレストレスを導入することにより、方形状のいずれの幅方向の向きにおいても導入されたプレストレス力は中央部分で大きく、両側に行くに従って小さい応力分布を有するPCaC版が形成される。
【0026】
次に、このように構成されるPCaC版の製造に関する第一実施例を図5〜図13について説明する。
【0027】
先ず、図5、図6に示すように、対角方向突条3a,3aとその上側のPCaC版本体部分とからなる両対角方向剛性部3,3を構成させる十字状をした対角方向高剛性部構成部材10,10と、周方向突条5a,5a……とその上側PCaC版本体部とからなる周方向高剛性部5,5……を構成させるための周方向高剛性部構成部材11,11……とを一体化させた高剛性部構成部材Bを成形する。
【0028】
この高剛性部構成部材Bのうちの対角方向高剛性部構成部材10,10内にPC緊張材6a,6bを挿通する。このPC緊張材の挿通は、アンボンドPC緊張材を予め埋め込んでおくことによってもよく、また、PC緊張材挿通用のシースを予め埋め込んで高剛性部構成部材Bをコンクリート打設成形し、しかる後PC鋼棒又はPCストランド等のPC緊張材6a,6bをシース内に挿通させてもよい。
【0029】
このようにしてPC緊張材6a,6bを挿通し、図7に示すようにその一端を各対角方向高剛性部構成部材10の一端に定着させ、他端を油圧ジャッキ15によって引張し、緊張状態で対角方向高剛性部構成部材10の他端に定着させることによってプレストレスを導入する。図において16は支圧板であり、17は定着具である。この定着具17はPC鋼棒の外周にナットを螺合させ、これを支圧板16に支持させる所謂ナット定着方式、或いはテーパー筒を半割り状にした楔によってPC緊張材を掴ませるようにした楔定着方式等、各種の定着方式の定着具を使用できる。
【0030】
尚、このプレストレスの導入は、挿通させたPC緊張材の一部を緊張することによって行い、残りのPC緊張材の緊張は、本発明方法によって製造されたPCaC版を水平方向に並べて設置した際に、各PCaC版間を連結させると共に対角方向にプレストレスを導入するために使用する。
【0031】
このようにして予め形成した高剛性部構成部材Bにプレストレスを導入させた後、これと一体に図4に示すように、対角方向高剛性部構成部材10と周方向高剛性部構成部材11とに囲まれた部分の略上半部内に、PCaC版本体Aの残りの平板部を構成させるコンクリートaを打設し、後打ちのコンクリートaと高剛性部構成部材Bとが一体となった方形状のPCaC版となす。
【0032】
尚、図には示してないが、上記コンクリートaは、高剛性部構成部材Bに囲まれた部分内と一体に、その上側に重ねた配置にPCaC版本体Aの上面を構成させる部分のコンクリートを打設してもよい。また、後打ちのコンクリートa及び高剛性部構成部材Bには共に、内部に必要な配筋を施すとともに両者を一体化させるために、両者間に連続させた所望の配筋が施されている。
【0033】
このようにして、高剛性部構成部材Bを予め成形し、プレストレスを導入することにより、対角線方向のプレストレスが強く好適に導入され、中央部分の耐荷重を周辺部より大きいPC版の製造が容易となり、また、必要とするPC緊張材の緊張力が小さい場合でも効果的に所望のプレストレスの導入がなされる。
【0034】
この実施例において、高剛性部構成部材Bに対してプレストレスを導入したとき、PC緊張材に対する緊張力の誤差や、高剛性部構成部材Bの強度の誤差によって、高剛性部構成部材Bに上下方向の捩れ現象が生じる場合がある。この場合には図8に示すように、後打ちのコンクリートaの打設に先立って、高剛性部構成部材B上に反力受け20を設置し、これに支持させて油圧ジャッキ等の加圧機21,21をもって高剛性部構成部材Bの四隅部上面を下向きに加圧し、所定の平面度に矯正する。
【0035】
この状態で図11、図12に示すように、PCaC版本体Aの平板部の残りの部分の後打ちのコンクリートaを打設して高剛性部構成部材Bと一体化させる。このコンクリートaが固化し、所定の強度が発現されることによって高剛性部構成部材Bの捩れが矯正された状態に保持され、加圧機21による矯正力を解いた後も、PC版の平面度が維持される。
【0036】
尚、この加圧機21を使用した高剛性部構成部材Bに対する平面度の強制は、製造されるPC版の大きさや、導入するプレストレスの大きさによって捩れなどの歪が生じないか、或いは生じてもその程度が小さい場合には必ずしも必要ではない。
【0037】
また、上述の第一実施例では、高剛性部構成部材Bの全周に連続した配置に周方向高剛性部構成部材11,11……を一体成形しているが、この他、図10に示すように、各周方向高剛性部構成部材11の中央部分に連続状態を解いた縁切り部11aを設けた状態で高剛性部構成部材Bを製造しておき、これに対して前述と同様に対角方向高剛性部構成部材10にプレストレスを導入した後、PCaC版本体Aの平板部を構成させる残りのコンクリートaの打設と同時、又はこれに先立って縁切り部11a内にコンクリートを打設して連続した周方向高剛性部構成部材11を成形させるようにしてもよい。その他の高剛性部構成部材Bに対するプレストレス導入、その後の平面度の矯正及びPCaC版本体Aの一体成形は上述した実施例と同様であり、同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する(以下同じ)。
【0038】
このように構成することにより、プレストレスの導入に際して、周方向高剛性部構成部材11による拘束力がなくなるため、対角方向高剛性部構成部材10に対するプレストレスの導入が、容易かつ好適になされることとなる。
【0039】
更に、上述した各実施例では、高剛性部構成部材BとPCaC版本体Aの残りの平板部との成形を完全に分けて行っているが、高剛性部構成部材Bの成形に際し、図11に示すように、平板部の下側を構成する平板部bを一体成形してもよい。
【0040】
そして、前述の実施例と同様に、対角方向高剛性部構成部材10に対するプレストレス導入、その後の必要な平面度の矯正を行った後、図12に示すようにPCaC版本体Aの残りの部分のコンクリートaを打設する。
【0041】
また、上述した各実施例では、周方向高剛性部5を構成させるための周方向高剛性部構成部材11を有している場合について説明したが、この他、周方向高剛性部を有しないPC版であってもよく、この場合には、図13に示すように平板状をしたPCaC版本体Aの底面に対角方向突条3a,3aを互いに交差する配置に突設させる。この場合においてもこの各突条3a,3aは中央部分を最も高く両対角部に至るに従って徐々に低くし、両端がPCaC版本体Aの底面と同じ高さになるように形成している。そして、両対角線方向にそれぞれPC緊張材6a,6bを挿通し、これを緊張してプレストレスを導入している。
【0042】
このPC版の製造に際しては、図14に示すように、対角方向突条3a,3aとその上のPCaC版本体の一部とからなる一対の対角方向高剛性部構成部材10,10を十字状配置に一体成形した高剛性部構成部材Cを予め成形し、これに前述と同様にしてプレストレスを導入し、必要な平面度の矯正を行った後、図15に示すようにPCaC版本体Aの平板部の残りの部分のコンクリートaを打設し、方形状のPCaC版を成形する。
【0043】
尚、この実施例においても、図11に示した場合と同様に高剛性部構成部材Cの成形時にPCaC版本体Aの平板部の一部bを一体に成形しておき、対角方向高剛性部構成部材10,10にプレストレスを導入し、必要に応じて平面度の矯正を行った後、図12に示した場合と同様に残りの平板部を構成するコンクリートa打設成形を行うようにしてもよい。
【0044】
尚、対角方向高剛性部は中央部分の合成を大きくしたものの他、両端に至る剛性を均一にしたものであってもよい。更に、PC版は正方形の他、長方形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明方法によって製造するPC版の一例を示す正面図である。
【図2】同上の底面図である。
【図3】図2中のE−E線断面図である。
【図4】同F−F線断面図である。
【図5】本発明方法において形成する高剛性部構成部材を示す斜視図である。
【図6】図5中のG−G線断面図である。
【図7】図5に示す高剛性部構成部材に対するプレストレス導入作業状態を示す一部を省略した断面図である。
【図8】図5に示す高剛性部構成部材の歪矯作業状態を示す説明図である。
【図9】同上の歪矯正後のPCaC版本体部成形状態を示す説明図である。
【図10】本発明方法における高剛性部構成部材の他の例を示す斜視図である。
【図11】本発明方法における高剛性部構成部材と一体に平板部を一体に成形した状態を示す断面図である。
【図12】同上の高剛性部構成部材と一体にPCaC版本体の他のコンクリートを打設した状態を示す断面図である。
【図13】本発明方法によって製造するPC版の他の例を示す斜視図である。
【図14】図14に示すPC版製造に使用する高剛性部構成部材の斜視図である。
【図15】同上の高剛性部構成部材と一体にPCaC版本体部を成形した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
A プレキャストコンクリート版本体(PCaC版本体)
B 高剛性部構成部材
C 高剛性部構成部材
2 辺
3 対角方向高剛性部
3a 対角方向突条
5 周方向高剛性部
5a 周方向突条
6a,6b PC緊張材
10 対角方向高剛性部構成部材
11 周方向高剛性部構成部材
11a 縁切り部
15 油圧ジャッキ
16 支圧板
17 定着具
20 反力受け
21 加圧機
【技術分野】
【0001】
本発明は、空港における大型の航空機の滑走路や通路、埠頭における荷揚げ用ガントリークレーンが走行する通路等、局部的に大荷重を受ける部分の床板として使用できるプレストレストコンクリート版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート版(以下PCaC版と記す)が、ビルディングや高架道路、桟橋などの床板として使用されている。これらのPCaC版には、方形状のプレストレストコンクリート版(以下PC版と記す)が使用されている。
【0003】
この種の従来のPC版は、構造的には、発生する断面力(主として曲げモーメント)は4辺支持、即ち表面に下向きに掛かる荷重をPC版の4辺で支持させる場合が最も小さくなる。この場合PC版には上面に下向き荷重が作用した時には、XY両方向、即ち方形状の互いに平行な2辺に直行する向きの2方向に対して同じ断面力が生じる。このため従来は、PC版の2つの並行する2辺間方向にそれぞれプレストレスを付与した構造としている(例えば特許文献1及び2)。
【0004】
また、このようなPC版は、表面に下向きの荷重が作用した際に生じる曲げモーメントは中央部分が最も大きく、周辺部に至るに従って小さくなるが、PC版の特性として、平面的に配置したPC緊張材の緊張力を部分的に大きくしたとしても、これが全体に影響する為、部分的に大きなプレストレスを導入することができなかった。このため、従来は中央部分に生じる最も大きな曲げモーメントに合わせて全域において均等にプレストレスを導入させていた。
【特許文献1】特開昭64−4307号公報
【特許文献2】特開昭63−107638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如き従来のPC版において、例えば空港の滑走路や航空機通路、更には埠頭におけるガントリークレーンの通路等、局部的に600tもの超大荷重がかかるような場所に使用するような場合に、十分な耐荷重を得ようとすると、全体の板厚を大きくし、しかも平面全域に亘って大きなプレストレスを導入しなければならず、PC版自体の重量が極めて大きなものとなって取り扱いに困難が生じ、また製造に高度の技術とPC緊張材やコンクリート等の多くの資材及びプレストレス導入の為の高度の設備を必要とし、高コストとならざるを得ないという問題があり、例えば10m四方のPC版であって500t〜800tもの大荷重に耐えるようにしたものは、従来では例をみることがなかった。
【0006】
また、局部的に大荷重かかかる場所に、広面積のPCaC版を使用した場合、局部的荷重が中央より偏った部分に作用すると板自体に反りが発生し、隅部が浮き上がる状況が生じ、航空機やクレーンが通過する度に隅部が浮き上がって振動し、隣り合う板との間に段差が生じる事となる為、これを防止する為にPCaC版の4隅とその下の下部支持構造との連結を強固なものとする必要があり、そのためには高度の技術と高価な資材が必要になるという問題がある。
【0007】
本発明は上述の如き従来の問題に鑑み、海上において水底に支持させた杭等の下部支持構造の上に載置して滑走路の路盤や埠頭の路盤として使用でき、それ自体の重量が小さく、従来製品に比べて極めて大きい荷重に耐えることができ、しかも低コストで製造できるPC床版を構築するに好適なPCaC版製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材を、前記プレキャストコンクリート版本体の形成に先立って成形し、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法にある。
【0009】
請求項2に記載の発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材の成形の際に、該対角方向高剛性部構成部材の間に位置したプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。請求項1に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【0010】
請求項3に記載の発明の特徴は、前記請求項1又は2の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する成形することにある。
【0011】
請求項4に記載の発明の特徴は、方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部と、該プレキャストコンクリート版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とを一体に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材と前記周方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる周方向高剛性部構成部材とを一体化させた状態に成形し、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法にある。
【0012】
請求項5に記載の発明の特徴は、前記請求項4の構成に加え、前記周方向高剛性部構成部材は、隣り合う対角方向高剛性部構成部材の端部間において、一部に縁切り部を形成しておき、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させることにある。
【0013】
請求項6に記載の発明の特徴は、前記請求項4又は5の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、両部材に囲まれた部分にプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。
【0014】
請求項7に記載の発明の特徴は、前記請求項4,5又は6の構成に加え、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してプレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、方形状をしたPCaC版本体の両対角間に、剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与することにより、このPC版の4辺を支持させて床板を構成させることにより発生する曲げモーメントの分布、即ち曲げモーメントは中央部が最も大きく、周辺部に至るに従って小さくなるという特性に応じた、中央部分の耐荷重の大きいPCaC版を構成することができ、全体の重量が小さく、導入するプレストレスのための緊張力も小さくてよくなる。
【0016】
また、上記対角方向高剛性部と、該PCaC版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とをともに備えることにより、PC版の表面の一部に局部荷重が作用した場合であっても反りが生じ難い特性を持ったPC版を構成できる。
【0017】
更に、製造に際し、対角方向高剛性部構成部材、又は対角方向高剛性部構成部材と周方向高剛性部構成部材とを、予め形成しておき、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、PCaC版本体の残りの部分を成形することにより、対角方向高剛性部のみに、又は主として対角方向高剛性部にプレストレスを付与することができ、プレキャスト版に対して対角線方向のプレストレスを効果的に導入することができる。
【0018】
更に、対角方向高剛性部構成部材の成形、又は対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、PCaC版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記PCaC版本体の残りの部分を成形することにより、対角方向高剛性部構成部材プレストレスを導入する際に、上下方向の歪の発生を少ないものとすることができる。
【0019】
更に、対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してPCaC版本体の残りの部分を該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて成形することにより、PCaC版本体部のコンクリート成形によって歪が矯正された状態が維持され、予め対角方向高剛性部構成部材を製造し、プレストレスを導入させた後、全体のコンクリート成形を行う場合にあっても、平面度の高いPC版の製造が可能となる。
【0020】
更に、周方向高剛性部構成部材の一部に縁切り部を形成しておき、対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させることにより、周方向高剛性部構成部材の形成後であっても対角方向高剛性部構成部材のみにプレストレスを導入させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態を図面に示した実施例に基づいて説明する。図1〜図4は本発明方法によって製造されるPC版の一例を示しており、図中符号Aは平板状をしたPCaC版本体である。このPCaC版本体Aは4辺2,2……が略等しい正方形であって、その四隅部が面取り状に切り欠かれた形状をしている。尚、図には示されてないが内部に必要な配筋が施されている。
【0022】
PCaC版本体Aの底面には両対角線に沿って連続した配置に対角方向高剛性部3,3が一体に成形されている。対角方向高剛性部3,3は、PCaC版本体Aの裏面を局部的に肉盛りすることによってその部分の剛性を高めているものであり、両対角線位置に連続して一体成形した対角方向突条3a,3aを一体に形成することによって構成させている。両突条3a,3aは、その中央部分をPCaC版本体Aの中央部分に位置させて互いに交差させ、その交差部分、即ち突条3aの中央部であってPCaC版本体A中央部分における高さが最も高く、各対角部に至るに従って低く形成されている。これにより突条3a,3aが一体成形された部分の剛性は中央部分が最も高く、周辺部に至るに従って小さくなる。
【0023】
PCaC版本体Aの周囲の4辺部には、周方向高剛性部5が設けられている。この各周方向高剛性部5は、PCaC版本体Aの周辺底面に一体に周方向突条5a,5a……を一体に備えることによって構成されているものであり、PCaC版本体Aの周辺部に肉盛りを施すことによって断面の剛性を部分的に増強している。4辺の各突条5aは、前述した対角方向突条3a,3aの端部を介して互いに連続した配置に成形されている。
【0024】
また、両対角方向高剛性部3,3内にはPC緊張材6a,6bが挿通され、各対角部を面取り状に切り欠いて形成した定着面7,7に両端が定着されてプレストレスが導入されている。尚、各緊張材6a,6bは、対角方向高剛性部3の底面に沿った位置と、PCaC版本体Aの表面に沿った位置とに配置されている。
【0025】
このように方形状のPCaC版本体Aに対して対角方向高剛性部3,3を一体に設け、その部分に対角線方向に向けたPC緊張材6a,6bを同等に緊張することによってプレストレスを導入することにより、方形状のいずれの幅方向の向きにおいても導入されたプレストレス力は中央部分で大きく、両側に行くに従って小さい応力分布を有するPCaC版が形成される。
【0026】
次に、このように構成されるPCaC版の製造に関する第一実施例を図5〜図13について説明する。
【0027】
先ず、図5、図6に示すように、対角方向突条3a,3aとその上側のPCaC版本体部分とからなる両対角方向剛性部3,3を構成させる十字状をした対角方向高剛性部構成部材10,10と、周方向突条5a,5a……とその上側PCaC版本体部とからなる周方向高剛性部5,5……を構成させるための周方向高剛性部構成部材11,11……とを一体化させた高剛性部構成部材Bを成形する。
【0028】
この高剛性部構成部材Bのうちの対角方向高剛性部構成部材10,10内にPC緊張材6a,6bを挿通する。このPC緊張材の挿通は、アンボンドPC緊張材を予め埋め込んでおくことによってもよく、また、PC緊張材挿通用のシースを予め埋め込んで高剛性部構成部材Bをコンクリート打設成形し、しかる後PC鋼棒又はPCストランド等のPC緊張材6a,6bをシース内に挿通させてもよい。
【0029】
このようにしてPC緊張材6a,6bを挿通し、図7に示すようにその一端を各対角方向高剛性部構成部材10の一端に定着させ、他端を油圧ジャッキ15によって引張し、緊張状態で対角方向高剛性部構成部材10の他端に定着させることによってプレストレスを導入する。図において16は支圧板であり、17は定着具である。この定着具17はPC鋼棒の外周にナットを螺合させ、これを支圧板16に支持させる所謂ナット定着方式、或いはテーパー筒を半割り状にした楔によってPC緊張材を掴ませるようにした楔定着方式等、各種の定着方式の定着具を使用できる。
【0030】
尚、このプレストレスの導入は、挿通させたPC緊張材の一部を緊張することによって行い、残りのPC緊張材の緊張は、本発明方法によって製造されたPCaC版を水平方向に並べて設置した際に、各PCaC版間を連結させると共に対角方向にプレストレスを導入するために使用する。
【0031】
このようにして予め形成した高剛性部構成部材Bにプレストレスを導入させた後、これと一体に図4に示すように、対角方向高剛性部構成部材10と周方向高剛性部構成部材11とに囲まれた部分の略上半部内に、PCaC版本体Aの残りの平板部を構成させるコンクリートaを打設し、後打ちのコンクリートaと高剛性部構成部材Bとが一体となった方形状のPCaC版となす。
【0032】
尚、図には示してないが、上記コンクリートaは、高剛性部構成部材Bに囲まれた部分内と一体に、その上側に重ねた配置にPCaC版本体Aの上面を構成させる部分のコンクリートを打設してもよい。また、後打ちのコンクリートa及び高剛性部構成部材Bには共に、内部に必要な配筋を施すとともに両者を一体化させるために、両者間に連続させた所望の配筋が施されている。
【0033】
このようにして、高剛性部構成部材Bを予め成形し、プレストレスを導入することにより、対角線方向のプレストレスが強く好適に導入され、中央部分の耐荷重を周辺部より大きいPC版の製造が容易となり、また、必要とするPC緊張材の緊張力が小さい場合でも効果的に所望のプレストレスの導入がなされる。
【0034】
この実施例において、高剛性部構成部材Bに対してプレストレスを導入したとき、PC緊張材に対する緊張力の誤差や、高剛性部構成部材Bの強度の誤差によって、高剛性部構成部材Bに上下方向の捩れ現象が生じる場合がある。この場合には図8に示すように、後打ちのコンクリートaの打設に先立って、高剛性部構成部材B上に反力受け20を設置し、これに支持させて油圧ジャッキ等の加圧機21,21をもって高剛性部構成部材Bの四隅部上面を下向きに加圧し、所定の平面度に矯正する。
【0035】
この状態で図11、図12に示すように、PCaC版本体Aの平板部の残りの部分の後打ちのコンクリートaを打設して高剛性部構成部材Bと一体化させる。このコンクリートaが固化し、所定の強度が発現されることによって高剛性部構成部材Bの捩れが矯正された状態に保持され、加圧機21による矯正力を解いた後も、PC版の平面度が維持される。
【0036】
尚、この加圧機21を使用した高剛性部構成部材Bに対する平面度の強制は、製造されるPC版の大きさや、導入するプレストレスの大きさによって捩れなどの歪が生じないか、或いは生じてもその程度が小さい場合には必ずしも必要ではない。
【0037】
また、上述の第一実施例では、高剛性部構成部材Bの全周に連続した配置に周方向高剛性部構成部材11,11……を一体成形しているが、この他、図10に示すように、各周方向高剛性部構成部材11の中央部分に連続状態を解いた縁切り部11aを設けた状態で高剛性部構成部材Bを製造しておき、これに対して前述と同様に対角方向高剛性部構成部材10にプレストレスを導入した後、PCaC版本体Aの平板部を構成させる残りのコンクリートaの打設と同時、又はこれに先立って縁切り部11a内にコンクリートを打設して連続した周方向高剛性部構成部材11を成形させるようにしてもよい。その他の高剛性部構成部材Bに対するプレストレス導入、その後の平面度の矯正及びPCaC版本体Aの一体成形は上述した実施例と同様であり、同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する(以下同じ)。
【0038】
このように構成することにより、プレストレスの導入に際して、周方向高剛性部構成部材11による拘束力がなくなるため、対角方向高剛性部構成部材10に対するプレストレスの導入が、容易かつ好適になされることとなる。
【0039】
更に、上述した各実施例では、高剛性部構成部材BとPCaC版本体Aの残りの平板部との成形を完全に分けて行っているが、高剛性部構成部材Bの成形に際し、図11に示すように、平板部の下側を構成する平板部bを一体成形してもよい。
【0040】
そして、前述の実施例と同様に、対角方向高剛性部構成部材10に対するプレストレス導入、その後の必要な平面度の矯正を行った後、図12に示すようにPCaC版本体Aの残りの部分のコンクリートaを打設する。
【0041】
また、上述した各実施例では、周方向高剛性部5を構成させるための周方向高剛性部構成部材11を有している場合について説明したが、この他、周方向高剛性部を有しないPC版であってもよく、この場合には、図13に示すように平板状をしたPCaC版本体Aの底面に対角方向突条3a,3aを互いに交差する配置に突設させる。この場合においてもこの各突条3a,3aは中央部分を最も高く両対角部に至るに従って徐々に低くし、両端がPCaC版本体Aの底面と同じ高さになるように形成している。そして、両対角線方向にそれぞれPC緊張材6a,6bを挿通し、これを緊張してプレストレスを導入している。
【0042】
このPC版の製造に際しては、図14に示すように、対角方向突条3a,3aとその上のPCaC版本体の一部とからなる一対の対角方向高剛性部構成部材10,10を十字状配置に一体成形した高剛性部構成部材Cを予め成形し、これに前述と同様にしてプレストレスを導入し、必要な平面度の矯正を行った後、図15に示すようにPCaC版本体Aの平板部の残りの部分のコンクリートaを打設し、方形状のPCaC版を成形する。
【0043】
尚、この実施例においても、図11に示した場合と同様に高剛性部構成部材Cの成形時にPCaC版本体Aの平板部の一部bを一体に成形しておき、対角方向高剛性部構成部材10,10にプレストレスを導入し、必要に応じて平面度の矯正を行った後、図12に示した場合と同様に残りの平板部を構成するコンクリートa打設成形を行うようにしてもよい。
【0044】
尚、対角方向高剛性部は中央部分の合成を大きくしたものの他、両端に至る剛性を均一にしたものであってもよい。更に、PC版は正方形の他、長方形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明方法によって製造するPC版の一例を示す正面図である。
【図2】同上の底面図である。
【図3】図2中のE−E線断面図である。
【図4】同F−F線断面図である。
【図5】本発明方法において形成する高剛性部構成部材を示す斜視図である。
【図6】図5中のG−G線断面図である。
【図7】図5に示す高剛性部構成部材に対するプレストレス導入作業状態を示す一部を省略した断面図である。
【図8】図5に示す高剛性部構成部材の歪矯作業状態を示す説明図である。
【図9】同上の歪矯正後のPCaC版本体部成形状態を示す説明図である。
【図10】本発明方法における高剛性部構成部材の他の例を示す斜視図である。
【図11】本発明方法における高剛性部構成部材と一体に平板部を一体に成形した状態を示す断面図である。
【図12】同上の高剛性部構成部材と一体にPCaC版本体の他のコンクリートを打設した状態を示す断面図である。
【図13】本発明方法によって製造するPC版の他の例を示す斜視図である。
【図14】図14に示すPC版製造に使用する高剛性部構成部材の斜視図である。
【図15】同上の高剛性部構成部材と一体にPCaC版本体部を成形した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
A プレキャストコンクリート版本体(PCaC版本体)
B 高剛性部構成部材
C 高剛性部構成部材
2 辺
3 対角方向高剛性部
3a 対角方向突条
5 周方向高剛性部
5a 周方向突条
6a,6b PC緊張材
10 対角方向高剛性部構成部材
11 周方向高剛性部構成部材
11a 縁切り部
15 油圧ジャッキ
16 支圧板
17 定着具
20 反力受け
21 加圧機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、
前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材を、前記プレキャストコンクリート版本体の形成に先立って成形し、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項2】
前記対角方向高剛性部構成部材の成形の際に、該対角方向高剛性部構成部材の間に位置したプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項1に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項3】
前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する成形する請求項1又は2に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項4】
方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部と、該プレキャストコンクリート版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とを一体に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、
前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材と前記周方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる周方向高剛性部構成部材とを一体化させた状態に成形し、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項5】
前記周方向高剛性部構成部材は、隣り合う対角方向高剛性部構成部材の端部間において、一部に縁切り部を形成しておき、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させる請求項4に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項6】
前記対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、両部材に囲まれた部分にプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項4又は5に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項7】
前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してプレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項4,5又は6に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項1】
方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部を連続した配置に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、
前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材を、前記プレキャストコンクリート版本体の形成に先立って成形し、該対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項2】
前記対角方向高剛性部構成部材の成形の際に、該対角方向高剛性部構成部材の間に位置したプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項1に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項3】
前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する成形する請求項1又は2に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項4】
方形状の平板状をしたプレキャストコンクリート版本体に、その底面に対角線方向に連続させて盛り上がらせた対角方向突条を一体に備えることによって剛性が周囲より大きい対角方向高剛性部と、該プレキャストコンクリート版本体底面の周囲の4辺に、周囲4辺に沿ってその底面を盛り上がらせた周方向突条を一体に備えることによって該4辺の剛性を大きくした周方向高剛性部とを一体に設け、該対角方向高剛性部内にPC緊張材を挿通して両対角線方向にプレストレスを付与したプレストレストコンクリート版の製造方法であって、
前記対角方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる対角方向高剛性部構成部材と前記周方向突条及びその上側のプレキャストコンクリート版本体部分からなる周方向高剛性部構成部材とを一体化させた状態に成形し、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、該対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材と一体化させて前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形することを特徴としてなるプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項5】
前記周方向高剛性部構成部材は、隣り合う対角方向高剛性部構成部材の端部間において、一部に縁切り部を形成しておき、前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入した後、前記縁切り部を連続させる請求項4に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項6】
前記対角方向高剛性部構成部材及び周方向高剛性部構成部材の成形の際に、両部材に囲まれた部分にプレキャストコンクリート版本体の一部を一体に形成し、プレストレス導入後に、前記プレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項4又は5に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【請求項7】
前記対角方向高剛性部構成部材にプレストレスを導入させた後、該プレストレスの導入によって生じた平面度の歪を加圧することによって矯正した後、コンクリートを打設してプレキャストコンクリート版本体の残りの部分を成形する請求項4,5又は6に記載のプレストレストコンクリート版の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−63670(P2006−63670A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248391(P2004−248391)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】
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