説明

プロスタグランジンFシンターゼ及び/又はカルボニルリダクターゼ−1を指標とした育毛剤のスクリーニング方法

【課題】 皮膚の発毛メカニズムを解明し、従来にない全く新規、且つ効果的な育毛剤及びそれを含有する育毛料の提供。
【解決手段】 育毛剤のスクリーニング方法であって、候補薬剤を細胞に適用し、当該毛乳頭細胞のプロスタグランジンFシンターゼ及びカルボニルリダクターゼ−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする方法を提供する。更に、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを含有する育毛料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンFシンターゼ(PGFS)及び/又はカルボニルリダクターゼ−1(CBR−1)を指標とした育毛剤のスクリーニング方法、並びにそのような方法によりスクリーニングされた育毛剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は美的外観上極めて重要視される。従って、先天的又は後天的要因による脱毛は多くの人々、特に男性にとって深刻な悩みである。特に高齢化社会、ストレス社会といわれる現代社会では、頭部毛髪が様々な後天的な原因により、脱毛の危機にさらされる機会がますます多くなってきている。これに対応して、発毛や毛髪の太毛化の促進を含む育毛効果を発揮するより優れた育毛剤を提供すべく、様々な試みがなされている。育毛については、毛包に関する研究をはじめ、様々な試みがなされている。しかしながら、発毛のメカニズムについては生化学・分子生物学レベルにおいて未だ解明に至っておらず、その結果、発毛活性の維持・促進に有効な薬剤を含有する発毛料・育毛料の研究・開発も模索段階にあるといえよう。発毛のメカニズムが十分に解明できれば、既存の発毛料・育毛料に比べ一層顕著な効果を奏するものの提供が可能となり得る。
【0003】
生体内においては、アラキドン酸を中心に、いく筋もの滝が流れるように生理活性物質が作られるアラキドン酸カスケードと呼ばれる反応系が存在する。このカスケードにおいて、高度不飽和脂肪酸の一つであるアラキンドン酸を前駆体として、プロスタグランジンをはじめ、トロンボキサチン、ロイコトリエン、リポキシンなどのオキエイコサノイドといった種々の生理活性物質が生合成される。生理活性物質であるプロスタグランジン(PGF)にはAからJの10種類の存在が知られおり、そのうちのPGF2αには育毛効果があることで知られる(特表2001-51155号公報)。PGF2αはアラキドン酸カスケードにおいてPGE2、PGD2、PGH2など、様々な前駆体から生合成されることができ、PGD2から合成される場合、その合成はプロスタグランジンFシンターゼ(PGFS)により触媒され、PGE2から合成される場合、その合成はカルボニルリダクターゼ−1(CBR−1)により触媒されることまでは知られている。しかしながら、PGFSやCBR−1が発毛メカニズムに関与しているかどうかまでは全く解明されていない。
【0004】
【特許文献1】特表2001-51155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、皮膚の発毛メカニズムを解明し、従来にない全く新規、且つ効果的な育毛剤及びそれを含有する育毛料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アラキドン酸カスケードに包含されるプロスタグランジン合成酵素であるPGFS及びCBR−1について、新規の育毛剤のスクリーニングのための指標となるかどうかを検討した。本発明者は、毛乳頭細胞においてPGFS及びCBR−1の発現をin vitroで亢進させることのできた薬剤について、育毛効果の有無を実際にin vivoで調べたところ、そのような薬剤が育毛効果を有することを見出した。
【0007】
従って、第一の観点において、本発明は育毛剤のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法は、候補薬剤を細胞に適用し、当該細胞のPGFS及びCBR−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする。好ましくは、前記細胞は毛乳頭細胞、特に好ましくは不死化毛乳頭細胞である。
【0008】
好適な態様において、前記細胞の前記生理活性物質の発現の亢進は、細胞から抽出されたPGFS及び/又はCBR−1をコードするmRNAの量を、例えばPCR法、特に好ましくはリアルタイムPCR法により測定され、判定される。
【0009】
第二の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはN−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを含有する育毛料を提供する。
【0010】
第三の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはN−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドにより細胞におけるPGFS及びCBR−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる方法を提供する。
【0011】
第四の観点において、本発明は上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはN−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを頭皮に塗布することによりPGFS及びCBR−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させることを特徴とする育毛方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、新規の育毛剤のスクリーニングが可能となり、従来技術に比べ、顕著に有利な育毛料の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
PGFS
プロスタグランジンFシンターゼ(PGFS;別名「PGD11−ケトリダクターゼ」)は322個のアミノ酸より成る分子量36,517の単純タンパク質であり、広い基質特異性を示し、種々のカルボニル化合物を還元する能力を有する。PGH2からはPGFを合成することができ、PGD2からはPGFの立体異性体(9α、11β−PGF2)を生成することができる。尚、PGH2よりPGFを生成する活性部位と、PGD2より9α、11β−PGF2を生成する活性部位は異なる。PGFSはヒト肝臓アルデヒド還元酵素及びラットレンズアルドース還元酵素と65%の相同性を示す。カルボニル還元酵素の一種であり、アルド−ケト還元酵素群の活性部位との類似性が示唆されている。ヨーロッパ赤ガエルの眼(レンズ)の主要構造タンパク質rho−クリスタリンと77%の相同性も示す。
【0014】
CBR−1
カルボニルリダクターゼ−1(CBR−1;別名「PGE9−ケトリダクターゼ」)はアルド−ケト還元酵素群に分類される分子量約36,000を有する還元酵素であり、PGFSと同様に広い基質特異性を示し、種々のカルボニル化合物を還元する能力を有する。CBR−1はPGE2からPGFを合成することができる。胎盤や脳の細胞質に多く存在し、NADやNADP存在下で15−ヒドロキシデヒドロゲナーゼ活性を示す。
【0015】
育毛剤のスクリーニング方法
本発明は育毛剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、候補薬剤をPGFS及びCBR−1の発現及び/又は活性を亢進する能力について評価し、当該能力を有する候補薬剤を育毛剤として選定することを特徴とする。
【0016】
詳しくは、このスクリーニング方法は、候補薬剤を細胞に適用し、当該細胞のPGFS及びCBR−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする。好ましくは、当該細胞は毛乳頭細胞、特に好ましくは不死化毛乳頭細胞である。細胞はヒト由来でも、非ヒト由来、例えばラット、マウス、ウサギなどの様々な哺乳動物に由来するものであってもよい。
【0017】
皮膚中の上記生理活性物質の発現は、例えば皮膚細胞からRNAを抽出し、当該生理活性物質をコードするmRNAの量を測定することにより決定することもできる。mRNAの抽出、その量の測定も当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により行われる。また、ヒトPGFS(GENBANK/AB032154)及びヒトCBR−1(NCBI/CD580553)をコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報に基づき、当業者であればそれぞれの遺伝子の増幅に適当であるプライマーを適宜選定することができるであろう。本明細書実施例において、ヒトPGFS及びヒトCBR−1それぞれのリアルタイムPCR増幅のために適当なプライマーを使用しているが、増幅プライマーはそれらに限定されるものではない。
【0018】
他に、上記生理活性物質の発現は、細胞中の当該生理活性物質の量を直接測定することにより決定することができる。例えば、この測定は生理活性物質に特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素などを利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法など、様々な方法により実施できる。
【0019】
上記育毛効果について確認する工程は、この候補薬剤をモデル動物に適用して実施することができる。動物としてはマウス、ラット、ウサギなど様々な動物が利用できる。好適な態様においては、この薬剤の溶液、例えば水溶液を調製してからモデル動物の皮膚に繰り返し塗布し、発毛状態を評価することで、育毛効果の有無を判定することができる。
【0020】
本発明は更に、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的には、下記の化学構造式で表されるN−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを含有する育毛料を提供する。
【化1】

【0021】
上記化合物は、例えばZagorevskii, V. A., Zykov, D. A., Vinokurov, V. G.、Zhurnal Obshchei Khimii (1959), 29, 2302-6に記載の方法により製造することができる。
【0022】
本発明の育毛料は、例えば水溶液、油液、その他の溶液、乳液、クリーム、ゲル、懸濁液、マイクロカプセル、粉末、顆粒、カプセル、固形剤などの形態で適用される。従来から公知の方法でこれらの形態に調製したうえで、ローション製剤、乳液製剤、クリーム製剤、軟膏製剤、硬膏製剤、ハップ製剤、エアゾール製剤、水−油2層系、水−油−粉末3層系、注射製剤などとして、身体に塗布、貼付、噴霧、注射、挿入することができる。当該育毛料は上記薬剤を、特に限定することなく、育毛料全量に基づき例えば0.001mM〜1M、好ましくは0.01〜100mM、より好ましくは0.1〜10mM程度含有するであろう。
【0023】
これらの剤型の中でも、ローション製剤、乳液剤、クリーム製剤、軟膏製剤、硬膏製剤、ハップ製剤、エアゾール製剤などの皮膚外用剤が、本発明の目的に適する剤型である。なお、ここで記す皮膚外用剤には、医薬品、医薬部外品(軟膏剤など)、化粧料が含まれる。
【0024】
本発明の育毛料においては、所望する剤型に応じて従来公知の賦形剤や香料などをはじめ、油脂類、界面活性剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、顔料などの粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、酸化防止剤、pH調整剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤などが適宜配合される。さらにこの他の薬効成分を本発明の育毛料に配合することは、その配合により所期の効果を損なわない範囲内で可能である。
【0025】
本発明は更に、上記スクリーニング方法により選定された薬剤、具体的にはN−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドにより細胞におけるPGFS及びCBR−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる方法を提供する。特に好ましい態様は、N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを、例えば上記育毛料の剤型において頭皮に塗布することにより、当該生理活性物質の少なくとも1種の発現を亢進させる育毛方法である。対象となる皮膚細胞は、好ましくは頭皮における毛乳頭細胞など、発毛の所望される部位に位置する細胞であってよい。
【0026】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
定量PCR実験によるPGFS及びCBR−1の発現亢進の検討
実験1 不死化細胞を用いる発現亢進の検討
1)細胞の培養
ヒト不死化毛乳頭細胞は、特開平11-895656号公報の記載に従い、SV large T抗原遺伝子によるヒト毛乳頭細胞(dermal papilae cell; DPC)の形質転換により得た。ヒト毛乳頭細胞は、整形手術の副産物として生じた頭皮より単離・培養後凍結保存しておいた34歳女性由来のDPCを用いた。細胞密度が1.0〜1.5×104個/cm2になるように播種し、MEM(GIBCO)+10%FBS中、37℃、5%CO2の条件下で培養した。2回/週の割合で培地交換を行い、細胞が集密に達したときは(播種から10日〜20日後)0.25%トリプシンで細胞をディッシュから剥がして回収し、再び1.0〜1.5×104個/cm2の密度で播種した。
【0028】
2)培養細胞の薬剤処理
解凍後1〜3回継代・培養したDPCを24ウェルプレ−トに4.0×104個/ウェルの密度で播種し、4日後、亜集密の細胞に、育毛効果を有することが周知の各薬剤の溶解されたMEM(血清無添加)に交換した。尚、育毛効果を有する薬剤としてアデノシン、ミコフェノール酸、ピペロキサンを用い、コントロールとしてDMSOを用いた。
3)RT−PCR
各薬剤の添加の24時間後、MagNAPureLC(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)で培養細胞から抽出し、逆転写酵素SuperScript II(Invitrogen)のキットを用いてcDNAを合成した。cDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)で二重鎖DNAの副溝に結合する蛍光色素CyberGreen Iを用いたリアルタイムPCRにより発現量の比較を行った。詳しくは、LightCycler−FastStart DNAマスタ−SYBR Green Iキット(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い、添付のマニュアルに従って全量20μlの反応液(MgCl2 2mM、下記のフォワード及びリバースプライマー各0.25μM)を調製し、LightCyclerでPCR反応(酵素活性化95℃/10分、熱変性95℃/15秒、アニーリング58℃/5秒、伸長反応72℃/10秒、熱変性〜伸長反応サイクルを40回)を行い、各サイクルの伸長反応終了時の蛍光強度をモニタリングした。この蛍光強度はその時点におけるPCR産物量を反映している。遺伝子の発現量は、PCR産物の指数関数的増幅期において初期鋳型量AのPCR産物YがPCTのサイクル数Xに対してY=A×2Xを満たしながら増幅されるものとして仮定して、一定量のPCR産物が得られるまでのサイクル数から相対値を算出し、G3PDH(グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドログナーゼ)の発現量で補正した。
【0029】
PGFSのプライマー
フォワードプライマー:5'-CCGTATTTCAACCGGAT-3' (配列番号1)
リバースプライマー: 5'-CAGAGGACATGAAAGCCAT-3' (配列番号2)
CBR−1のプライマー
フォワードプライマー:5'-GTCCAAAGGGCATTTACAA-3' (配列番号3)
リバースプライマー :5'-AGCAACCTACGCACTCATG-3' (配列番号4)
G3PDHのプライマー
フォワードプライマー:5'-GAGTCAACGGATTTGGTCGT-3'
リバースプライマー :5'-TGGGATTTCCATTGATGACA-3'
【0030】
その結果を図1に示す。その結果から、ミコフェノール酸(特開平7−112923号公報)、ピペロキサン(特開平6−056633号公報)などの周知の育毛剤の作用により、不死化毛乳頭細胞においてPGFS及びCBR−1の発現が亢進されることが示唆された。従って、PGFS及び及び/又はCBR−1の発現の亢進を指標として、新規の育毛剤をスクリーニングできることが予想された。
【0031】
実験2 ヒト毛乳頭細胞を用いる発現亢進の検討
実験1と同様に、但し13歳男性由来の毛乳頭細胞を用い、RT−PCR実験を行った。
【0032】
その結果を図2に示す。不死化毛乳頭細胞により得られた結果と同様、アデノシン、ミコフェノール酸、ピペロキサンなどの周知の育毛剤の作用により、ヒト毛乳頭細胞においてPGFS及びCBR−1の発現が亢進されることが示唆された。従って、この実験からも、PGFS及び/又はCBR−1の発現の亢進を指標として、新規の育毛剤をスクリーニングできることが予想された。
【0033】
実験3
RT−定量PCR実験によるPGFS及びCBR−1の発現亢進効果を有する薬剤のスクリーニング
次に、育毛効果の有無の全く知られていない薬剤を上記と同様にして不死化毛乳頭細胞及びヒト毛乳頭細胞に24時間作用させ、PGFS及びCBR−1の発現をRT−PCR法により調べた。その結果、N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミド(化合物A)が、不死化毛乳頭細胞及びヒト毛乳頭細胞のいずれにおいても、PGFS及びCBR−1の発現を亢進させる効果を有することが示された。図3(a)は、化合物Aが不死化毛乳頭細胞のPGFS発現を有意に亢進させる結果を示している。図3(b)は、化合物Aがヒト毛乳頭細胞のCBR−1発現を有意に亢進させる結果を示している。
【0034】
実験4
化合物Aの育毛効果の検討
雄のC3Hマウス(生後60日)を用い、小川らの方法(Normal and Abnormal Epidermal Differentiation M. Seiji and I.A. Bernstein 編集、東大出版会)に従い、実験を行った。マウスの背部を約2×4cmの大きさに剃り、翌日より1日1回ずつ連日サンプル塗布を行い、毛再生が始まった部分の面積の変化を求め、毛再生の早さの比較を行った。試験には対照として75%エタノールを用いた。各試料ともマウス3匹ずつを用いた。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、化合物Aの濃度を高めることで発毛が促進されることがわかり、化合物Aは濃度依存式に育毛効果を発揮することが明らかとなった。化合物Aが実際に育毛効果を発揮することから、PGFS及び/又はCBR−1の発現を指標とする本発明の方法により、育毛効果を真に発揮する薬剤をスクリーニングできることが実証された。
【0037】
実験4
他の育毛剤スクリーニング方法による化合物Aの育毛効果の検討(1)
化合物Aが公知の他の育毛剤スクリーニング方法(特開2000-89号公報に記載の不死化外毛根鞘細胞増殖試験)により育毛剤としてスクリーニングされるかどうかを検討した。
96ウェルプレート(Falcon)に細胞を播種し(5,000細胞)、K−GM(Colonetics)にて24時間、前培養した。次に、PBS(−)で1回ウェルを洗った後、化合物Aを含むK−BM(Colonetics)に培地交換した。なお、ネガティブコントロールとしての培地はK−BM、ポジティブコントロールとしての培地はK−GMを用いている。48時間培養した後に、培地の1/10量のアラマーブルー(BioSource International)を各ウェルに加え、37℃、6時間反応させた後に、マイクロプレートリーダー(SJ eiaオートリーダーII;三光純薬)にて570nm、600nmの吸光度の値をもとに、アラマーブルーの還元率を求め、これを相対的な生細胞数の値とした。
【0038】
その結果を図4に示す。図4から、特開2000-89号公報に記載の不死化外毛根鞘細胞増殖試験では化合物Aが育毛剤としてスクリーニングされないことが明らかとなった。
【0039】
実験5
他の育毛剤スクリーニング方法による化合物Aの育毛効果の検討(2)
化合物Aが公知の他の育毛剤スクリーニング方法(特開2000-258408号公報に記載のカスパーゼ3活性阻害実験)により育毛剤としてスクリーニングされるかどうかを検討した。
カセパーゼ−3の活性測定を、合成の蛍光基質アセチル−Leu−Glu−His−Asp−メチルクマリンアミド(Ac−LEHD−MCA)を用いて行った。10mMのAc−LEHD−MCA 10μl、100mMのジチオスレイトール1μl、1MのTris−HCl(pH7.5)5μl、蒸留水75μlを含む緩衝液に4μlのリコンビナントカスパーゼ−3および化合物A 5μlを加えて、37℃で30分間インキュベートした。
【0040】
反応は、0.1Mクロロ酢酸2mlを添加して停止させ、遊離したアミノメチルクマリンの460nmの蛍光強度(励起波長380nm)をフルオロメーターで測定した。サンプルのカスパーゼ−3阻害活性は、溶媒コントロールに対する値として示す。
その結果を図5に示す。図5から、特開2000-258408号公報に記載のカスパーゼ3活性阻害実験では化合物Aが育毛剤としてスクリーニングされないことが明らかとなった。
【0041】
従って、本発明に係る方法により、従来技術では見落とされていた、実際に育毛活性を有する薬剤のスクリーニングが可能となる。
【0042】
処方例1
育毛料(剤型:透明液状)
本発明に係る育毛効果を発揮する育毛料の処方例を示す。
配合成分 %
化合物A 0.5
エタノール 60
ジプロピレングリコール 2
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
乳酸 適量
乳酸ナトリウム液 適量
グリチルリチン酸モノアンモニウム 0.1
ニコチン酸アミド 0.1
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
L−メントール 0.2
色素 適量
精製水 残余
香料 適量
計 100
【0043】
処方例2
育毛料(剤型:透明液状)
本発明に係る育毛効果を発揮する育毛料の処方例を示す。
配合成分 %
化合物A 0.5
エタノール 80
イソステアリルアルコール 2
1,3−ブチレングリコール 3
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1
ラウリル硫酸ナトリウム 0.3
DL−リンゴ酸 適量
β−グリチルレチン酸 0.2
パントテニルエチルエーテル 0.1
ニコチン酸ベンジル 0.1
ニコチン酸アミド 0.1
酢酸DL−α−トコフェロール 0.5
デシルテトラデシルジメチルアミンオキシド液(20%) 5
L−メントール 1
計 100
【0044】
処方例3
育毛料(剤型:透明液状)
本発明に係る育毛効果を発揮する育毛料の処方例を示す。
配合成分 %
化合物A 0.5
エタノール 70
イソステアリルアルコール 1
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 1
乳酸 適量
乳酸ナトリウム液 適量
センブリ抽出ペースト 0.2
β−グリチルレチン酸 0.5
パントテニルエチルエーテル 0.5
ニコチン酸ベンジル 0.02
ニコチン酸アミド 0.1
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
L−メントール 0.5
サンショウエキス 10
精製水 残余
香料 適量
計 100
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】不死化毛乳頭細胞に各種薬剤を添加して24時間経過した後のPGFS(a)及びCBR−1(b)発現相対量を示す。
【図2】男性由来毛乳頭細胞に各種薬剤を添加して24時間経過した後のPGFS(a)及びCBR−1(b)発現相対量を示す。
【図3】毛乳頭細胞に化合物Aを添加して24時間経過した後のPGFS(a)及びCBR−1(b)発現相対量を示す。
【図4】化合物Aについての不死化外毛根鞘細胞増殖試験結果を示す。
【図5】化合物Aについてのカスパーゼ3活性化阻害試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育毛剤のスクリーニング方法であって、候補薬剤を細胞に適用し、当該細胞のプロスタグランジンFシンターゼ及びカルボニルリダクターゼ−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる薬剤を選定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞が毛乳頭細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記細胞の前記生理活性物質の発現の亢進が、当該細胞から抽出されたプロスタグランジンFシンターゼ及び/又はカルボニルリダクターゼ−1をコードするmRNAの量を測定することにより決定される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを含有する育毛料。
【請求項5】
N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドにより細胞におけるプロスタグランジンFシンターゼ及びカルボニルリダクターゼ−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させる方法。
【請求項6】
N−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−4−オキソ−4H−クロメン−2−カルボキサミドを頭皮に塗布することによりプロスタグランジンFシンターゼ及びカルボニルリダクターゼ−1から成る群から選ばれる少なくとも1種の生理活性物質の発現を亢進させることを特徴とする、育毛方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−223144(P2006−223144A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38958(P2005−38958)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】