説明

ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】車両安全を確保するヘッドアップディスプレイ装置を提供すること。
【解決手段】表示器12を制御する制御回路38は、運転席3上からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害のある衝突対象6として視認障害衝突対象6aが検出された場合に、当該視認障害衝突対象6aの車両との衝突回避を喚起する喚起画像50の表示器12における表示を開始し(c,e)、運転席3上からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった視認障害衝突対象6aが検出された場合に、喚起画像50の表示器12における表示を終了する(f)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表示装置としてのヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において表示器に表示した画像を車両のフロントウインドシールドへ投射することにより、当該画像の虚像を車両内の運転席側へ向かって表示するHUD装置が知られている。こうしたHUD装置の一種として特許文献1には、車両との衝突が予測される衝突対象を検出した場合に、衝突対象の自車両との衝突回避を喚起する喚起画像の虚像を運転席側へ向かって表示して車両安全の確保を促す装置が、開示されている。ここで特に、特許文献1のHUD装置では、車両の外界領域のうち運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能な領域において、運転席上からの死角に存在する衝突対象を検出した場合に、衝突対象の画像が喚起画像として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−280026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1のHUD装置では、衝突対象がカメラにより撮影されて存在位置に関する情報が取得される間は、喚起画像の表示が行われるようになっている。それ故、衝突対象が運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能となっても、喚起画像の表示が継続されてしまうため、それら衝突対象と喚起画像とが運転席上の乗員に同時に視認されて混乱を与えるおそれがあった。尚、こうした混乱は、車両安全を確保するための緊急の衝突回避操作が迫られる状況下においては、特に好ましくない。
【0005】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両安全を確保するHUD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、車両において表示器に表示した画像を車両のフロントウインドシールドへ投射することにより、当該画像の虚像を車両内の運転席側へ向かって表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、車両との衝突が予測される衝突対象を検出する衝突対象検出部、並びに表示器における画像の表示を制御する表示制御部を備え、表示制御部は、運転席上からのフロントウインドシールドを通した視認に障害のある衝突対象として視認障害衝突対象を衝突対象検出部が検出した場合に、当該視認障害衝突対象の車両との衝突回避を喚起する画像として喚起画像の表示を開始する表示開始手段と、運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能となった視認障害衝突対象を衝突対象検出部が検出した場合に、喚起画像の表示を終了する表示終了手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明では、運転席上からのフロントウインドシールドを通した視認に障害のある衝突対象として視認障害衝突対象が検出されると、視認障害衝突対象の自車両との衝突回避を喚起する画像として喚起画像の表示が、表示器において開始される。これにより、表示器に表示の喚起画像がフロントウインドシールドへ投射されて運転席側へ向かって虚像表示されることになるので、運転席上の乗員からの視認に障害のある視認障害衝突対象であっても自車両との衝突回避を喚起して、車両安全の確保を促すことができる。
【0008】
しかも、この発明では、運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能となった視認障害衝突対象が検出されると、表示器における喚起画像の表示、ひいては当該喚起画像の虚像の表示が終了する。これによれば、視認障害衝突対象と喚起画像の虚像とが運転席上の乗員に同時に視認されることが生じなくなるので、車両安全を確保するために緊急の衝突回避操作が迫られる状況下において、乗員の混乱を招く事態を抑制し得るのである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、路車間通信、車車間通信、衛星通信及び携帯通信のうち少なくとも一つにより衝突対象に関連する情報を取得する通信部を備え、衝突対象検出部は、通信部により取得される当該情報に基づき衝突対象を検出する。この発明では、路車間通信、車車間通信、衛星通信及び携帯通信のうち少なくとも一つにより取得される衝突対象の関連情報に基づき、衝突対象としての視認障害衝突対象が検出されることになる。これによれば、運転席上の乗員からの視認に障害のある視認障害衝突対象であっても自車両との衝突回避を前もって喚起して、車両安全の確保を促すことができるのである。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、表示開始手段は、車両の外界領域のうち運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域の外側に存在する視認障害衝突対象、又は当該可視領域において運転席上からの死角に存在する視認障害衝突対象を、衝突対象検出部が検出した場合に、喚起画像の表示を開始する。この発明では、自車両の外界領域のうち運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域の外側に存在することにより、運転席上の乗員からの視認に障害が生じる視認障害衝突対象に関し、その検出に応じて喚起画像の虚像表示が開始されることになる。また、自車両の外界領域のうち可視領域において運転席上からの死角に存在することにより、運転席上の乗員からの視認に障害が生じる視認障害衝突対象に関し、その検出に応じて喚起画像の虚像表示が開始されることになる。これらによれば、可視領域の外側又は可視領域の死角に存在する視認障害衝突対象であっても自車両との衝突回避を喚起して、車両安全の確保を促すことができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、表示終了手段は、車両の外界領域のうち運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域に運転席上からの死角を外れて存在する視認障害衝突対象を、衝突対象検出部が検出した場合に、喚起画像の表示を終了する。この発明では、自車両の外界領域のうち運転席上からフロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域に死角を外れて存在することにより、運転席上の乗員による視認が確実となった視認障害衝突対象に関し、その検出に応じて喚起画像の虚像表示が終了することになる。これによれば、可視領域に死角を外れて存在する視認障害衝突対象と、喚起画像の虚像とを運転席上の乗員に同時に視認させることなく、車両安全の確保を阻害する混乱の発生を抑制することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、運転席上の乗員の眼球状態に関連する眼球情報を取得する眼球情報取得部を備え、表示制御部は、眼球情報取得部により取得された眼球情報に基づき可視領域を推定する領域推定手段を有する。この発明では、喚起画像表示の開始又は終了のトリガとして検出される視認障害衝突対象の存在箇所に関し、運転席上の乗員の眼球情報に基づき推定される可視領域を基準として正確な判断が可能となる。故に、その場合には、視認障害衝突対象の存在箇所を喚起画像表示の開始又は終了に適正に反映させて、車両安全の確保効果を高めることができる。
【0013】
請求項6に記載の発明によると、表示開始手段は、視認障害衝突対象の車両との衝突確率が所定の初期設定確率以上となった場合に、視認障害衝突対象の車両に対する相対運動状態を報知するように喚起画像を表示する状態報知制御を開始し、当該衝突確率が初期設定確率よりも高い重大設定確率以上となった場合に、車両において視認障害衝突対象の衝突を回避する操作内容を指示するように喚起画像を表示する操作指示制御を開始する。この発明では、視認障害衝突対象の自車両との衝突確率が初期設定確率以上であれば、状態報知制御の開始によって、視認障害衝突対象の自車両に対する相対運動状態を報知するように喚起画像の虚像が表示されることになる。故に乗員は、運転席上からの視認に障害のある視認障害衝突対象であっても自車両に対する相対運動状態を喚起画像の虚像表示により認識して、車両安全を確保するための衝突回避操作に繋げることが可能となる。さらに、視認障害衝突対象について相対運動状態の報知に拘らず衝突確率が初期設定確率よりも高い重大設定確率以上になったとしても、操作指示制御の開始によって衝突回避の操作内容を指示するように喚起画像の虚像表示がなされるので、指示に従う乗員によれば、車両安全を確実に確保することができるのである。
【0014】
請求項7に記載の発明によると、表示制御部は、表示開始手段により開始された状態報知制御において衝突確率に応じて喚起画像の表示形態を変化させる表示変化手段を、有する。この発明では、衝突確率に応じて喚起画像の表示形態が変化する状態報知制御により乗員は、視認障害衝突対象の接近等による衝突確率の上昇を視覚的に認識して車両安全の確保に繋げることが可能となる。
【0015】
請求項8に記載の発明によると、表示制御部は、喚起画像に関する虚像の結像位置を調整して当該虚像を運転席上の乗員の中心視野に重畳させる結像位置調整手段を、有する。この発明では、運転席上の乗員は、結像位置の調整により中心視野に重畳される喚起画像の虚像を自車両の運転中に確実に視認し得る。したがって、運転席上の乗員からは視認に障害のある視認障害衝突対象であっても自車両との衝突回避の喚起を確固たるものとして、車両安全の確保効果を高めることができる。
【0016】
請求項9に記載の発明によると、結像位置調整手段は、運転席上の乗員の眼球位置から8m以上の設定距離をもって離間した位置に、虚像の結像位置を調整する。この発明では、運転席上の乗員の眼球位置に対して調整される喚起画像の虚像の結像位置は、当該乗員に関して眼球輻輳角が小さくなることにより焦点調節が実質的に不要となる8m以上の設定距離をもって、離間した位置となる。これにより乗員は、自車両の運転中の中心視野において喚起画像の虚像と前方の実景とを眼球の焦点調節なく視認し得るので、視認障害衝突対象と自車両との衝突回避の喚起に遅れを生じ難くして、車両安全の確保のための迅速な衝突回避操作に繋げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態によるHUD装置の概略的構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態によるHUD装置が喚起画像の虚像を前方に表示した状態のフロントウインドシールドを示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態によるHUD装置の表示器に表示される喚起画像を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態によるHUD装置において制御回路が実施する制御フローを示すフローチャートである。
【図5】図4に示す制御フローについて説明するための模式図である。
【図6】図4に示す制御フローについて説明するための模式図である。
【図7】図4に示す制御フローについて説明するための模式図である。
【図8】図4に示す制御フローについて説明するための特性図である。
【図9】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例1について説明するための模式図である。
【図10】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例2について説明するための模式図である。
【図11】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例3について説明するための模式図である。
【図12】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例4について説明するための模式図である。
【図13】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例5について説明するための模式図である。
【図14】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例6について説明するための模式図である。
【図15】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例7について説明するための模式図である。
【図16】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例8について説明するための模式図である。
【図17】図4に示す制御フローにより表示される虚像の表示例9について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態によるHUD装置1の概略的構成を示している。HUD装置1は表示ユニット10及び制御ユニット30等から構成されて、自動車である車両に搭載されている。ここで、車両のインストルメントパネル5内に設置される表示ユニット10は、表示器12、光学系14及び駆動部16を備えている。
【0020】
表示器12は例えば液晶モニタ等からなり、画像を表示する画面120を有している。光学系14は、例えばミラー及びレンズ等を組み合わせてなり、表示器12の画面120に表示された画像を光学像として車両のフロントウインドシールド2へと投射する。かかる投射により表示器12の表示画像は、フロントウインドシールド2の前方にて結像されることで、虚像として車両内の運転席3側へ向かって表示される。したがって、運転席3上の乗員4は、前方に表示された虚像を視認することで、表示器12の表示画像が表す情報を伝達されることになる。
【0021】
駆動部16は、表示器12及び光学系14を収容するハウジング160と、当該ハウジング160の配置位置や配置角度等の配置状態を調整するアクチュエータ162とを有している。アクチュエータ162は、例えば電動モータ及び運動変換機構等からなり、ハウジング160を任意の位置や角度等に駆動可能となっている。かかる駆動によりハウジング160の配置状態が調整されることで、表示器12の表示画像に関する虚像を光学系14により結像させる位置(以下、単に「結像位置」という)が調整される。
【0022】
制御ユニット30は、眼球情報取得部32、通信部34、撮像部36及び制御回路38を備えている。
【0023】
眼球情報取得部32は、眼球センサ320及び解析処理回路322を有している。眼球センサ320は、例えばCCD等の撮像素子を複数組み合わせてなり、インストルメントパネル5の上面又はステアリングコラムの上面等に設置されている。眼球センサ320は運転席3上における乗員4の少なくとも顔面を撮影して、当該乗員4の眼球状態を検出する。
【0024】
解析処理回路322は、例えば画像処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて眼球センサ320と電気接続されている。解析処理回路322は、眼球センサ320による眼球状態の検出結果を表す画像信号を所定のフレームレートで連続処理することにより、当該眼球状態に関連する眼球情報を取得する。ここで眼球情報については、運転席3上における乗員4の眼球位置及び視線方向を少なくとも含むように設定される。また特に本実施形態では、眼球情報としての眼球位置及び視線方向についてそれぞれ、設定時間内(例えば1秒間)に眼球状態を設定回数(例えば30回)にて検出した結果の平均位置及び平均方向が採用される。
【0025】
通信部34は、車載通信機340及び情報処理回路342を備えている。車載通信機340は、例えば通信種類に応じた無線機器を複数組み合わせてなり、車両において外部と通信可能に設置されている。ここで通信種類としては、DSRCビーコンやETCビーコン、路肩カメラ等の交通インフラを利用する路車間通信、他車両の車載通信機を利用する車車間通信、GPSや衛星カメラ等を利用する衛星通信、並びに携帯電話等の携帯端末を利用する携帯通信のうち少なくとも一つが、採用される。車載通信機340は、自車両外部の交通情報を表す無線信号を随時受信して、当該無線信号の増幅処理並びに復調処理を行う。
【0026】
情報処理回路342は、例えば通信処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて車載通信機340と電気接続されている。情報処理回路342は、車載通信機340から出力の無線信号を所定のサンプリングで連続処理することにより取得される交通情報から、自車両との衝突が予測される衝突対象6(例えば図2を参照)を検出して衝突予測情報を生成する。ここで衝突対象6には、例えば自車両外部の人間や動物、他車両等が含まれる。また、衝突対象6の衝突予測情報については、取得の交通情報のうち検出された衝突対象6に関連する情報として、衝突対象6の種類、存在位置、移動方向、移動速度及び周囲状況を少なくとも含むように生成される。
【0027】
さらに本実施形態の情報処理回路342は、車載通信機340からの無線信号の連続処理により取得される交通情報から、前進走行する自車両の予定の進行方向に関する進行方向情報を生成する。ここで、予定の進行方向とは例えば、自車両が走行している道路の走行先におけるカーブ方向や、自車両に搭載されたナビゲーションシステム(図示しない)により指定された目的地へと向かうための走行方向等である。
【0028】
撮像部36は、外界カメラ360及び画像処理回路362を備えている。外界カメラ360は、例えばCCD等の撮像素子を主体に構成されて車両のフロントバンパー又はバックミラー近傍等に設置されており、自車両の前方に広がる外界領域を随時撮影する。
【0029】
画像処理回路362は、例えば画像処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて外界カメラ360と電気接続されている。画像処理回路362は、外界カメラ360による外界領域の撮影結果を表す画像信号を所定のフレームレートで連続処理することにより、上述の情報処理回路342に準じた衝突対象6の検出並びに衝突予測情報の生成を行う。
【0030】
制御回路38は、例えばメモリ380を有するマイクロコンピュータを主体に構成されており、車両の表示ユニット10近傍に設置されて表示器12、駆動部16のアクチュエータ162及び回路322,342,362と電気接続されている。制御回路38は、メモリ380に記憶の制御プログラムを実行することで、表示器12と駆動部16のアクチュエータ162とを各回路322,342,362からの出力情報に基づき制御する。
【0031】
ここで、特に本実施形態の制御回路38は、運転席3上の乗員4からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害がある衝突対象6を検出した場合に、衝突対象6の自車両との衝突回避を喚起する喚起画像50(例えば図3を参照)を虚像52(例えば図2を参照)として表示するように、制御を行う。以下、かかる制御のフローを、図4に示すフローチャートに従って説明する。尚、この制御フローは、車両のイグニッションスイッチのオンに応じて開始し、当該スイッチのオフに応じて終了するようにプログラムされている。
【0032】
まず、制御フローのステップS100では、自車両の前進走行中に衝突対象6が情報処理回路342及び画像処理回路362の少なくとも一方により検出されることで、当該対象6の衝突予測情報を生成したか否かを判定する。
【0033】
ステップS100により否定判定がなされている間は、ステップS100が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS101へ移行する。このステップS101では、自車両の予定の進行方向に関する進行方向情報を情報処理回路342により生成する。
【0034】
続いてステップS102では、ステップS101により生成の進行方向情報に加えて、ステップS100により生成の衝突予測情報に基づくことで、衝突対象6の自車両との衝突確率が所定の初期設定確率Pi以上になったか否かを判定する。ここで衝突確率とは、存在位置からの移動方向及び移動速度が衝突予測情報により表される衝突対象6に対して、予定の進行方向へ前進走行中の自車両が、走行先の交差点やカーブ、運転席3上からの死角等に起因して衝突する確率である。かかる衝突確率については、例えば制御プログラム上において実行されるシミュレータにより算出される。また、衝突確率についてステップS102での判定基準となる初期設定確率Piは、車両の安全確保上において注意喚起が必要な衝突確率のうち最も安全側の確率に設定され、例えば30%程度に設定される。
【0035】
ステップS102により否定判定がなされている間は、ステップS100へと戻って当該S100及び後続ステップS101,S102が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS103へ移行する。このステップS103では、運転席3上の乗員4の眼球状態を眼球センサ320により検出することで、当該眼球状態に関連する眼球情報を解析処理回路322により取得する。このとき、上述の如く本実施形態では、眼球位置の平均位置及び視線方向の平均方向を含む眼球情報が取得されることとなる。
【0036】
続いてステップS104では、ステップS103により取得の眼球情報に基づくことで、運転席3上における乗員4の中心視野を推定する。ここで図2に示すように中心視野とは、眼球位置の平均位置を基点とした視線方向の平均方向に存在する視点中央60aの周囲において、当該平均方向に対して所定角度(一般に約20度)内の範囲60とされる。
【0037】
さらに続くステップS105では、ステップS103により取得の眼球情報に基づき、ステップS104により推定の中心視野60に喚起画像50の虚像52が重畳するように(例えば図2を参照)、駆動部16のアクチュエータ162を制御して当該虚像52の結像位置を調整する。具体的にステップS105では、図5,6に示すように、乗員4の眼球位置の平均位置Aから車両水平方向Hへ設定距離Dをもって離間し且つ当該平均位置Aに対して俯角及び水平角がそれぞれ設定角度θ,ωとなる位置に、結像位置が調整されることになる。尚、車両水平方向Hとは、水平面上における自車両の当該水平面に沿った方向をいう。
【0038】
ここで、図5に示す設定距離Dについては、自車両の運転席3上における乗員4の眼球の輻輳角φ(図7を参照)が図8(a)の如く実質的に0度となることで、当該眼球の焦点調節量が図8(b)の如く実質的に0となるように、8m以上の距離とされる。さらに、設定距離Dについて好ましくは、表示ユニット10の特に光学系14の体格を各種車両に搭載可能な程度に小さくしてHUD装置1の設置自由度を高め得るように、15m以下の距離とされる。
【0039】
図5に示す俯角の設定角度θについては、自車両の運転席3上の乗員4が中心視野60において視認する前方実景への虚像52の影響を最低限に抑えつつ、虚像52を当該中心視野60に適正に重畳させるために、1度以上5度以下の範囲内、さらに好ましくは3度程度とされる。また、図6に示す水平角の設定角度ωについては、車両水平方向Hのうち視線方向の平均方向を0度として、当該0度から運転席3の隣の助手席側(即ち、右ハンドル車両の場合は図6の如き左側、左ハンドル車両の場合は右側)へ5度の範囲内とされる。
【0040】
こうした結像位置調整後のステップS106においては、運転席3上の乗員4に関する可視領域の外側又は当該可視領域における死角に、衝突対象6が存在しているか否かを判定する。ここで図2に示すように可視領域とは、自車両の外界領域のうち、乗員4が運転席3上からフロントウインドシールド2を通して視認可能な領域70である。そこで本実施形態では、乗員4の眼球位置の平均位置Aを基点に、略矩形状を呈するフロントウインドシールド2の外周辺部2a,2b,2c,2dを通って自車両の前方へ拡がる四つの仮想面を想定することで、それら仮想面に囲まれる外界領域部分が可視領域70として正確に推定される。また、可視領域70における死角とは、例えば図13〜15に示すように、道路や自車両前方の他車両の他、建造物等に遮られることによって、運転席3上の乗員4からは視認不能となる外界領域部分72である。そこで本実施形態では、衝突対象6の周囲状況及び自車両の予定の進行方向を鑑みて、乗員4の平均位置Aにある眼球の可視領域70における死角72が推定されることとなる。
【0041】
以上より、ステップS106において具体的には、まず、ステップS103により取得の眼球情報に基づき可視領域70を推定する。それと共にステップS106では、ステップS100により生成の衝突予測情報と、ステップS101により生成の進行方向情報と、ステップS103により取得の眼球情報とに基づくことで、可視領域70における死角72を推定する。そして、さらにステップS106では、ステップS100により生成の衝突予測情報が表す衝突対象6の存在位置について、可視領域70の外側又は死角72にあるか否かを判定するのである。
【0042】
ステップS106により否定判定がなされている間は、ステップS100へと戻って当該S100及び後続ステップS101〜S106が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS107へ移行する。このステップS107では、可視領域70の外側又は死角72に存在することによりフロントウインドシールド2を通した視認に障害のある衝突対象6が検出されたと判断し、当該衝突対象6を視認障害衝突対象6a(例えば図9(b)参照)に設定する。
【0043】
続いてステップS108では、ステップS107により設定の視認障害衝突対象6aについて、自車両に対する相対運動状態を報知する喚起画像50(以下、かかる状態報知用の喚起画像50を特に、「状態報知画像50a」という)を、表示器12の制御により画面120に表示する。具体的にステップS108では、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報に基づくことで視認障害衝突対象6aの種類を判別し、当該種類を識別可能な形状にて状態報知画像50a(その虚像52の表示については、例えば図9(c),(d)を参照)を表示する。また、本実施形態のステップS108では、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報と、当該衝突予測情報等からステップS102に準じて算出の衝突確率に基づくことで、所定の状態報知画像50aの表示形態を視認障害衝突対象6aの移動方向や衝突確率に応じて変化させる。ここで、視認障害衝突対象6aの移動方向に応じた状態報知画像50aの表示形態変化は、その虚像52の表示を例えば図9(c),(d)の如く、衝突予測情報が表す移動方向へ表示位置を変化させることや、当該表示位置変化と共に表示形状を変化させること等により実現される。また、視認障害衝突対象6aの衝突確率に応じた状態報知画像50aの表示形態変化は、例えば衝突確率と共に警告性が高くなるように、表示の点滅速度を上昇変化させることの他、表示サイズを拡大変化させることや、表示色を黄色から赤色へ変化させること等により実現される。
【0044】
尚、ステップS108では、状態報知画像50aの表示と連動して、視認障害衝突対象6aの存在を報知する音声出力を、車両の音響装置(図示しない)によって行ってもよい。また、状態報知画像50aについては、画像データとして予めメモリ380に予め記憶されたものが必要時に読み出されて、表示に供されることになる。
【0045】
こうしたステップS108により表示が開始される状態報知画像50aの虚像52は、乗員4の眼球位置の平均位置Aから設定距離Dをもって離間し且つ俯角及び水平角が設定角度θ,ωとなる位置に結像されて、例えば図2の如く乗員4の中心視野60に重畳される。これにより乗員4は、状態報知画像50aの虚像52と前方の実景とを、眼球の焦点調節なくそれぞれ確実に視認することができるのである。
【0046】
この後のステップS109では、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報等に基づくことでステップS102に準じて衝突確率を算出し、当該衝突確率が初期設定確率Pi未満になったか否かを判定する。ここで初期設定確率Piについては、ステップS102において判定基準とされる値と同一値である。
【0047】
また、ステップS109により否定判定がなされた場合に移行するステップS110では、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報等に基づくことでステップS102に準じて衝突確率を算出し、当該衝突確率が重大設定確率Ps以上になったか否かを判定する。ここで重大設定確率Psについては、車両の安全確保上の注意喚起が必要な衝突確率のうち緊急の衝突回避操作が求められる確率として、初期設定確率Piよりも高い確率に設定され、例えば70%程度に設定される。
【0048】
衝突確率が重大設定確率Ps未満であるのに応じてステップS110により否定判定がなされている間は、ステップS108へと戻って当該S108及び後続ステップS109,S110が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS111へ移行する。このステップS111では、ステップS107により設定の視認障害衝突対象6aについて、自車両との衝突を回避する操作内容を指示する喚起画像50(以下、かかる操作指示用の喚起画像50を特に、「操作指示画像50b」という)を、表示器12の制御により画面120に表示する。ここで操作指示画像50bとしては、例えばその虚像52の表示を図9(e)に示すように、「スピード ダウン」等といった衝突回避の操作内容を文字にて指示するものが採用される。
【0049】
尚、ステップS111では、操作指示画像50bの表示と連動して、視認障害衝突対象6aに対する衝突回避の操作内容を指示する音声出力を、車両の音響装置によって行ってもよい。また、操作指示画像50bについては、画像データとして予めメモリ380に予め記憶されたものが必要時に読み出されて、表示に供されることになる。
【0050】
こうしたステップS111により表示が開始される操作指示画像50bの虚像52は、状態報知画像50aの虚像52の場合と同様に、乗員4の中心視野60に重畳される。これにより乗員4は、操作指示画像50bの虚像52と前方の実景とを、眼球の焦点調節なくそれぞれ確実に視認することができるのである。
【0051】
以上の後のステップS112では、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報等に基づくことでステップS102に準じて衝突確率を算出し、当該衝突確率が初期設定確率Pi未満になったか否かを判定する。ここで初期設定確率Piについては、ステップS102,S109において判定基準とされる値と同一値である。
【0052】
ステップS112により否定判定がなされた場合に移行するステップS113では、運転席3上の乗員4に関する可視領域70において、ステップS107により設定の視認障害衝突対象6aが死角72を外れて存在するか否かを判定する。このとき、可視領域70及び死角72の推定と視認障害衝突対象6aの存在位置判定は、ステップS103により取得の眼球情報と、ステップS100に準じて生成の衝突予測情報と、ステップS101により生成の進行方向情報とに基づくことで、ステップS106に準じて行われる。
【0053】
ステップS113により否定判定がなされている間は、ステップS111へと戻って当該S111及び後続ステップS112,S113が繰り返し実行される。これに対し、ステップS113により肯定判定がなされた場合には、可視領域70に死角72を外れて存在することにより運転席3上からフロントウインドシールド2を通して視認可能な視認障害衝突対象6aが検出されたと判断し、ステップS114へ移行する。また、ステップS112,S109により肯定判定がなされた場合には、衝突確率が初期設定確率Pi未満となって衝突回避操作が不要になったと判断して、ステップS114へ移行する。
【0054】
こうしてステップS113,S112,S109から移行するステップS114では、表示器12の画面120における喚起画像50(ステップS113,S112から移行の場合は操作指示画像50b、ステップS109からの移行の場合は状態報知画像50a)の表示を停止して当該画像50の虚像52の表示を終了させた後、ステップS100へ戻ることとなる。
【0055】
尚、ここまでの説明から、制御フローのステップS100,S106,S107,S113を実行する制御回路38並びに通信部34及び撮像部36が共同して特許請求の範囲に記載の「衝突対象検出部」を構成し、制御回路38が及び駆動部16が共同して特許請求の範囲に記載の「表示制御部」に相当している。また、制御フローのステップS106〜S113を実行する制御回路38が特許請求の範囲に記載の「表示開始手段」に相当し、制御フローのステップS108,S110の処理内容が特許請求の範囲に記載の「状態報知制御」に相当し、制御フローのステップS110,S111の処理内容が特許請求の範囲に記載の「操作指示制御」に相当している。さらに、制御フローのステップS113,S114を実行する制御回路38が特許請求の範囲に記載の「表示終了手段」に相当し、制御フローのステップS108を実行する制御回路38が特許請求の範囲に記載の「表示変化手段」に相当している。またさらに、制御フローのステップS106,S113を実行する制御回路38が特許請求の範囲に記載の「領域推定手段」に相当し、制御フローのステップS105,S108,S111を実行する制御回路38及び駆動部16が共同して特許請求の範囲に記載の「結像位置調整手段」に相当している。
【0056】
以上説明した制御フローにより表示される喚起画像50(状態報知画像50a・操作指示画像50b)の虚像52について、その表示例を以下に説明する。
【0057】
(表示例1)
図9(a)に示すように表示例1は、自車両7が前進走行する道路と交差する道路上を、衝突対象6としての自動車である他車両が自車両7の走行先となる交差点へ向かって前進走行している場合の例である。
【0058】
図9(b)に示すように可視領域70の外側に存在する衝突対象6としての他車両につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該他車両が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図9(c),(d)に示すように他車両のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、喚起画像50の虚像52として表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、他車両の移動方向に応じて表示位置及び表示形状が図9(c),(d)の如く変化すると共に、他車両の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、喚起画像50の虚像52うち、図9(e)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0059】
そして、図9(f)に示すように視認障害衝突対象6aとしての他車両が可視領域70に死角を外れて進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、運転席3上の乗員4が状態報知画像50aの虚像52又は操作指示画像50bの虚像52の表示を受けて衝突回避のための操作を行うこと等によって、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、当該虚像表示が終了することになる。
【0060】
(表示例2)
図10(a)に示すように表示例2は、自車両7が前進走行する道路と交差する道路上を、衝突対象6としての自転車が自車両7の走行先となる交差点へ向かって前進走行している場合の例である。
【0061】
図10(b)に示すように可視領域70の外側に存在する衝突対象6としての自転車につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該自転車が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図10(c),(d)に示すように自転車のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、自転車の移動方向に応じて表示位置及び表示形状が図10(c),(d)の如く変化すると共に、自転車の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図10(e)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0062】
そして、図10(f)に示すように視認障害衝突対象6aとしての自転車が可視領域70に死角を外れて進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0063】
(表示例3)
図11(a)に示すように表示例3は、自車両7が前進走行する道路上において走行先となるカーブ部分に、衝突対象6としての自動車である他車両が渋滞している場合の例である。
【0064】
図11(b)に示すように可視領域70の外側に存在する衝突対象6としての他車両につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該他車両が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図11(c)に示すようにカーブ上における他車両のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、他車両の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図11(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0065】
そして、図11(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての他車両が可視領域70に死角を外れて進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0066】
(表示例4)
図12(a)に示すように表示例4は、自車両7が前進走行する道路上において走行先となるカーブ部分を、衝突対象6としての人間が横断している場合の例である。
【0067】
図12(b)に示すように可視領域70の外側に存在する衝突対象6としての人間につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該人間が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図12(c)に示すようにカーブ上における人間の斜視形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、人間の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図12(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0068】
そして、図12(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての人間が可視領域70に死角を外れて進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0069】
(表示例5)
図13(a)に示すように表示例5は、自車両7が前進走行により登坂する道路上において走行先となる下り坂部分に、衝突対象6としての自動車である他車両が信号停止又は渋滞している場合の例である。
【0070】
図13(b)に示すように、自車両7の走行先にあるクレスト部8(図13(a)を参照)に遮られることで可視領域70に生じた死角72に存在する衝突対象6としての他車両につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該他車両が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図13(c)に示すように他車両のテール形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、他車両の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図13(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0071】
そして、図13(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての他車両が可視領域70の死角72から外れることにより、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0072】
(表示例6)
図14(a)に示すように表示例6は、自車両7が前進走行する道路上の前方において縦列駐車又は渋滞停車している複数の他車両9間を、衝突対象6としての人間が通り抜けようとしている場合の例である。
【0073】
図14(b)に示すように、自車両7前方の他車両9に遮られることで可視領域70に生じた死角72に存在する衝突対象6としての人間につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該人間が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図14(c)に示すように人間のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、人間の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図14(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0074】
そして、図14(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての人間が可視領域70の死角72から外れることにより、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0075】
(表示例7)
図15(a)に示すように表示例7は、自車両7が右折直前において前進走行する道路の前方において対向車両9の後方に、衝突対象6としての自転車又はバイクが走行している場合の例である。
【0076】
図15(b)に示すように、自車両7前方の対向車両9に遮られることで可視領域70に生じた死角72に存在する衝突対象6としての自転車又はバイクにつき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該自転車又はバイクが視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図15(c)に示すように自転車又はバイクのサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、自転車又はバイクの衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図15(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0077】
そして、図15(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての自転車又はバイクが可視領域70の死角72から外れることにより、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0078】
(表示例8)
図16(a)に示すように表示例8は、自車両7が右折により前進走行する予定の道路上を、衝突対象6としての人間が横断している場合の例である。
【0079】
図16(b)に示すように、可視領域70の外側に存在すると共に自車両7のピラー7aに遮られた衝突対象6としての人間につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該人間が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図16(c)に示すように人間のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、人間の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図16(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0080】
そして、図16(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての人間が、ピラー7aに遮られることなく可視領域70に死角を外れて進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0081】
(表示例9)
図17(a)に示すように表示例9は、車両が前進走行する道路上において走行先となるカーブ部分での停止車両9の後方に、衝突対象6としての自動車である対向車両が前進走行している場合の例である。
【0082】
図17(b)に示すように、可視領域70の外側に存在すると共に自車両7前方の停止車両9に遮られた衝突対象6としての対向車両につき、運転席3からのフロントウインドシールド2を通した視認に障害が生じている場合、当該他車両が視認障害衝突対象6aとして検出される。その結果、衝突確率が初期設定確率Pi以上且つ重大設定確率Ps未満である間は、図17(c)に示すように対向車両のカーブ上における他車両のサイド形状を模した状態報知画像50aの虚像52が、表示される。このとき、状態報知画像50aの虚像52の表示形態については、他車両の衝突確率に応じて表示の点滅速度が変化する。また、衝突確率が重大設定確率Ps以上となった場合には、図17(d)に示すように操作内容としての「スピード ダウン」を文字にて指示する操作指示画像50bの虚像52が、表示されることになる。
【0083】
そして、図17(e)に示すように視認障害衝突対象6aとしての他車両が、停止車両9により形成された死角72を外れて可視領域70に進入し、運転席3からフロントウインドシールド2を通して視認可能となった場合には、操作指示画像50bの虚像52の表示が終了する。また図示はしないが、衝突確率が初期設定確率Pi未満になった場合にも、虚像表示が終了することになる。
【0084】
以上説明したようにHUD装置1では、運転席3上からの可視領域70の外側又は死角72に存在する視認障害衝突対象6aが検出されると、まず、喚起画像50として状態報知画像50aの虚像表示が開始されることにより、当該対象6の相対運動状態が報知される。また特に、状態報知画像50aの虚像表示についてHUD装置1では、視認障害衝突対象6aの移動方向や衝突確率に応じて表示形態が変化することになる。これらにより運転席3上の乗員4は、フロントウインドシールド2を通した視認に障害のある視認障害衝突対象6aであっても、その相対運動状態を画像50aの虚像表示により視覚的に且つ実際の視認前に認識して、車両安全を確保するための衝突回避操作に繋げることができる。
【0085】
さらにHUD装置1では、検出された視認障害衝突対象6aの自車両7の衝突確率について、緊急の衝突回避操作が求められる重大設定確率Psになると、喚起画像50として操作指示画像50bの虚像表示が開始されることにより、当該操作の指示が確実に行われる。これにより運転席3上の乗員4は、状態報知画像50aの虚像表示の見落とし等により視認障害衝突対象6aの存在に気がつかなかったとしても、操作指示画像50bの虚像表示を受けてその指示内容に従うことで車両安全を確実に確保することができる。
【0086】
しかもHUD装置1では、運転席3上からの可視領域70において死角72から外れて視認可能となった視認障害衝突対象6aが検出されると、喚起画像50としての操作指示画像50bの虚像表示が終了する。これにより運転席3上の乗員4は、視認障害衝突対象6aと操作指示画像50bの虚像52とを同時に視認しなくても済む。故に、可視領域70において視認障害衝突対象6aが直接に視認可能となることによって、緊急の衝突回避操作が迫られている乗員4に対し、混乱を招くことなく車両安全の確保を促すことが可能となるのである。
【0087】
加えてHUD装置1では、喚起画像50としての画像50a,50bの虚像52につき、運転席3上の乗員4の眼球情報に基づいて正確に推定される中心視野60に、重畳表示させている。これにより運転席3上の乗員4は、画像50a,50bの虚像52と前方の実景とを眼球の焦点調節なく確実に視認し得るので、衝突回避の喚起に遅れを生じ難くして車両安全の迅速な確保に貢献することができるのである。
【0088】
(他の実施形態)
ここまで、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明は説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0089】
具体的に制御フローにおいては、ステップS110〜S112を省略し且つステップS113の否定判定時にステップS108へと戻るように変更することで、喚起画像50としての操作指示画像50bの表示を行わないようにしてもよい。
【0090】
また、制御フローにおいては、ステップS106により可視領域70の外側又は死角72に衝突対象6の存在が確認された場合に、例えば車両のブレーキを制御して走行速度を自動的に低下させるようにしてもよいのである。
【符号の説明】
【0091】
1 HUD装置、2 フロントウインドシールド、2a,2b,2c,2d 外周辺部、3 運転席、4 乗員、6 衝突対象、6a 視認障害衝突対象、7 自車両、7a ピラー、8 クレスト部、9 他車両・対向車両・停止車両、10 表示ユニット、12 表示器、120 画面、16 駆動部、162 アクチュエータ、30 制御ユニット、32 眼球情報取得部、320 眼球センサ、322 解析処理回路、34 通信部、340 車載通信機、342 情報処理回路、36 撮像部、360 外界カメラ、362 画像処理回路、38 制御回路、380 メモリ、50 喚起画像、50a 状態報知画像、50b 操作指示画像、52 虚像、60 中心視野、60a 視点中央、70 可視領域、72 死角、Pi 初期設定確率、Ps 重大設定確率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において表示器に表示した画像を前記車両のフロントウインドシールドへ投射することにより、当該画像の虚像を前記車両内の運転席側へ向かって表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記車両との衝突が予測される衝突対象を検出する衝突対象検出部、並びに前記表示器における前記画像の表示を制御する表示制御部を備え、
前記表示制御部は、
前記運転席上からの前記フロントウインドシールドを通した視認に障害のある前記衝突対象として視認障害衝突対象を前記衝突対象検出部が検出した場合に、当該視認障害衝突対象の前記車両との衝突回避を喚起する前記画像として喚起画像の表示を開始する表示開始手段と、
前記運転席上から前記フロントウインドシールドを通して視認可能となった前記視認障害衝突対象を前記衝突対象検出部が検出した場合に、前記喚起画像の表示を終了する表示終了手段と、
を有することを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
路車間通信、車車間通信、衛星通信及び携帯通信のうち少なくとも一つにより前記衝突対象に関連する情報を取得する通信部を備え、
前記衝突対象検出部は、前記通信部により取得される情報に基づき前記衝突対象を検出することを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記表示開始手段は、前記車両の外界領域のうち前記運転席上から前記フロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域の外側に存在する前記視認障害衝突対象、又は当該可視領域において前記運転席上からの死角に存在する前記視認障害衝突対象を、前記衝突対象検出部が検出した場合に、前記喚起画像の表示を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記表示終了手段は、前記車両の外界領域のうち前記運転席上から前記フロントウインドシールドを通して視認可能な可視領域に前記運転席上からの死角を外れて存在する前記視認障害衝突対象を、前記衝突対象検出部が検出した場合に、前記喚起画像の表示を終了することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記運転席上の乗員の眼球状態に関連する眼球情報を取得する眼球情報取得部を備え、
前記表示制御部は、前記眼球情報取得部により取得された前記眼球情報に基づき前記可視領域を推定する領域推定手段を有することを特徴とする請求項3又は4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記表示開始手段は、
前記視認障害衝突対象の前記車両との衝突確率が所定の初期設定確率以上となった場合に、前記視認障害衝突対象の前記車両に対する相対運動状態を報知するように前記喚起画像を表示する状態報知制御を開始し、
前記衝突確率が前記初期設定確率よりも高い重大設定確率以上となった場合に、前記車両において前記視認障害衝突対象の衝突を回避する操作内容を指示するように前記喚起画像を表示する操作指示制御を開始することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記表示開始手段により開始された前記状態報知制御において前記衝突確率に応じて前記喚起画像の表示形態を変化させる表示変化手段を、有することを特徴とする請求項6に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記表示制御部は、前記喚起画像に関する前記虚像の結像位置を調整して当該虚像を前記運転席上の乗員の中心視野に重畳させる結像位置調整手段を、有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記結像位置調整手段は、前記運転席上の乗員の眼球位置から8m以上の設定距離をもって離間した位置に、前記虚像の結像位置を調整することを特徴とする請求項8に記載のヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−173619(P2010−173619A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21867(P2009−21867)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】