説明

ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】車両の加速要求を満たすことができ、かつ、エンジンの燃料消費量を相対的に少なくすることの可能な、ベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】ベルト式無段変速機の変速比を変更する要求があるか否かを判断する変速要求判断手段(ステップS1,S2)と、変速比を変更する要求がある場合に、変速比を変更するときのエンジンの燃料消費量を求める第1算出手段(ステップS3)と、変速比を変更する要求がある場合に、変速比を一定に保持するときのエンジンの燃料消費量を求める第2算出手段(ステップS4)と、第2算出手段(ステップS4)で求めた燃料消費量が第1算出手段(ステップS3)で求めた燃料消費量より少ない場合は、変速比を一定に保持する制御を続行する第1変速比制御手段(ステップS6)と、第1算出手段(ステップS3)で求めた燃料消費量が第2算出手段(ステップS4)で求めた燃料消費量より少ない場合は、変速比を変更する第2変速比制御手段(ステップS7)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの動力がプーリに伝達される構成のベルト式無段変速機に関し、特に、変速比を制御する油圧室に圧油を閉じこめることの可能なベルト式無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンから車輪に至る動力伝達経路に無段変速機を設け、無段変速機の変速比を無段階に変速することにより、エンジンの効率を最適化することが知られている。この無段変速機としては、ベルト式無段変速機およびトロイダル式無段変速機が知られており、そのベルト式無段変速機の一例が下記の特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたベルト式無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリと、このプライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられたベルトとを有している。また、プライマリプーリは可動シーブおよび固定シーブを有しており、可動シーブを固定シーブ側に押圧するプライマリ油圧室が設けられている。また、このプライマリ油圧室に圧油を供給する油路には、供給側制御弁が設けられている。さらに、プライマリ油圧室から圧油を排出する油路には、排出側制御弁が設けられている。一方、セカンダリプーリからベルトに与えられる挟圧力を制御するセカンダリ油圧室が設けられている。また、エンジンの動力により駆動されるオイルポンプが設けられており、このオイルポンプから吐出された圧油がプライマリ油圧室およびセカンダリ油圧室に供給される構成である。
【0003】
そして、プライマリ油圧室に供給される圧油の流量が制御されて、プライマリプーリにおけるベルトの巻き掛け半径が調整されて、ベルト式無段変速機の変速比が制御される。また、セカンダリ油圧室の油圧が制御されて、セカンダリプーリからベルトに加えられる挟圧力が制御されて、ベルト式無段変速機のトルク容量が制御される。さらに、排出側制御弁を閉じると、プライマリ油圧室に圧油が閉じ込められて、変速比が一定に制御される。これにより、変速比を一定に維持する場合において、プライマリ油圧室に外部から圧油を供給しなくてもよいため、オイルポンプの動力損失の増加を抑制できるとされている。なお、車両用のベルト式無段変速機の制御装置は、特許文献2および特許文献3および特許文献4にも記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−300270号公報
【特許文献2】特開2008−101716号公報
【特許文献3】特開2008−14362号公報
【特許文献4】特開2001−324007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された発明において、排出側制御弁を閉じてベルト式無段変速機の変速比を一定にする制御をおこなっているときに、車両の加速要求により変速比を変更する条件が成立したと仮定する。このとき、排出側制御弁を開放してベルト式無段変速機の変速比を変更する制御と並行して、加速要求を満たすためにエンジン出力を変更する制御がおこなわれる。また、エンジンからベルト式無段変速機に伝達されるトルクが増加するため、ベルト式無段変速機のトルク容量を高める必要があり、セカンダリ油圧室に圧油を供給するオイルポンプの負荷が高くなる。すると、ベルト式無段変速機の変速比を固定している場合よりも、変速比を変更する場合の方が、エンジンの燃料消費量が多くなる問題があった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車両の加速要求を満たすことができ、かつ、エンジンの燃料消費量を相対的に少なくすることの可能な、ベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、燃料の燃焼によって動力を発生するエンジンと、このエンジンから出力された動力が伝達され、かつ、第1プーリおよび第2プーリにベルトが巻き掛けられ、かつ、前記第1プーリと前記第2プーリとの間の変速比を無段階に変更可能に構成されており、前記第1プーリにおける前記ベルトの巻き掛け半径を制御するために圧油の供給量が制御される第1油圧室と、前記第2プーリから前記ベルトに加える挟圧力を制御するために圧油が供給され、かつ、前記第1プーリと前記第2プーリとの間で伝達されるトルクを制御する第2油圧室と、前記エンジンの動力で駆動され、かつ、前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給される圧油を吐出するオイルポンプと、前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持することにより、前記変速比を一定に保持する流量制御装置とを有する、ベルト式無段変速機の制御装置において、前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持して前記変速比を一定に保持する制御がおこなわれているときに、車両の加速要求が増加して前記変速比を変更する条件が成立したか否かを判断する変速要求判断手段と、この変速要求判断手段により、前記変速比を変更する条件が成立したと判断された場合に、前記加速要求に基づいて前記エンジンの出力を制御し、かつ、前記変速比を変更するときの前記エンジンの燃料消費量を推定する第1算出手段と、前記変速要求判断手段により、前記変速比を変更する条件が成立したと判断された場合に、前記加速要求に基づいて前記エンジン出力を制御し、かつ、前記変速比を一定に保持する制御を継続したときの前記エンジンの燃料消費量を推定する第2算出手段と、前記第2算出手段により推定される燃料消費量と、前記第1算出手段により推定される燃料消費量とを比較する比較手段と、前記第2算出手段により推定される燃料消費量の方が、前記第1算出手段により推定される燃料消費量よりも少ないと推定された場合は、前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持して前記変速比を一定に保持する制御を続行する第1変速比制御手段と、前記第1算出手段により推定される燃料消費量の方が、前記第2算出手段により推定される燃料消費量よりも少ないと推定された場合は、前記変速比を変更する第2変速比制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持して(圧油を閉じ込めて)、ベルト式無段変速機の変速比を一定に保持する制御がおこなわれているときに、その変速比を変更する要求が発生した場合は、加速要求に基づいてエンジン出力を制御し、かつ、変速比を変更したときのエンジンの燃料消費量を推定する。また、加速要求に基づいてエンジン出力を制御し、かつ、変速比を一定に保持する制御を継続したときのエンジンの燃料消費量を推定する。そして、推定された燃料消費量同士を比較し、変速比を一定に保持する制御を継続した方が、変速比を変更するよりもエンジンの燃料消費量が少ないと推定された場合は、変速比を一定に保持する制御を続行する。これに対して、変速比を変更する方が、変速比を一定に保持するよりもエンジンの燃料消費量が少ないと推定された場合は、変速比を変更する。したがって、車両の加速要求に基づく駆動力を確保でき、かつ、エンジンの燃料消費量を相対的に少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、この発明を図に示す具体例に基づいて説明する。図2は、この発明のベルト式無段変速機100を有する車両101のパワートレーンを示す概念図、図3はベルト式無段変速機100の構成を示す部分的な断面図、図4は、ベルト式無段変速機100の構成および油圧回路を示す図である。図2において、車両101の駆動力源としてエンジン5が搭載されている。このエンジン5は燃料を燃焼させて、車輪に伝達する動力を発生する内燃機関であり、このエンジン5としては、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンを用いることができる。このエンジン5は、電子スロットルバルブの開度を制御することにより、そのエンジントルクを制御可能である。
【0010】
また、エンジン5から車輪に至る動力伝達経路には、伝動装置4およびベルト式無段変速機100が設けられている。より具体的には、エンジン5とベルト式無段変速機100との間に伝動装置4が配置されている。この伝動装置4は、流体伝動装置(図示せず)および前後進切換装置(図示せず)を有している。流体伝動装置は、流体の運動エネルギにより動力伝達をおこなう装置であり、ポンプインペラおよびタービンランナなどを有しており、エンジントルクがポンプインペラからタービンランナに伝達される構成である。また、前後進切換装置は、タービンランナの回転方向に対して、インプットシャフト(図示せず)の回転方向を正逆に切り替える装置である。この前後進切換装置は、遊星歯車機構および摩擦係合装置を用いて構成可能である。
【0011】
前記ベルト式無段変速機100は、図4に示すようにケーシング8内に配置されており、ベルト式無段変速機100はプライマリシャフト15およびセカンダリシャフト50を有している。プライマリシャフト15が前記インプットシャフトと動力伝達可能に接続されている。プライマリシャフト15にはプライマリプーリ(駆動プーリ)1が設けられており、セカンダリシャフト50にはセカンダリプーリ(従動プーリ)2が設けられている。プライマリシャフト15は軸線を中心として回転可能に支持され、セカンダリシャフト50は軸線を中心として回転可能に支持されている。プライマリシャフト15の回転中心となる軸線と、セカンダリシャフト50の回転中心となる軸線とは平行である。プライマリプーリ1は、プライマリシャフト15の軸線に沿った方向には移動しない固定シーブ1aと、その固定シーブ1aに対して接近および離隔するようにプライマリシャフト15に取り付けられた可動シーブ1bとを備えている。また、可動シープ1bを軸線に沿った方向に移動させるための油圧アクチュエータ12が設けられている。この油圧アクチュエータ12は、可動シーブ1bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、油圧室1cに圧油が供給されて、その油圧により可動シーブ1bを固定シーブ1a側に向けて押圧する推力が発生する構成である。
【0012】
一方、セカンダリプーリ2は、セカンダリシャフト50の軸線に沿った方向には移動しない固定シーブ2aと、その固定シーブ2aに対して接近および離隔するようにセカンダリシャフト50に取り付けられた可動シーブ2bとを備えている。また、可動シープ2bを軸線に沿った方向に移動させるための油圧アクチュエータ21が設けられている。この油圧アクチュエータ21は、可動シーブ2bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、油圧室2cに圧油が供給されて、その油圧により可動シーブ2bを固定シーブ2a側に向けて押圧する推力が発生する構成である。
【0013】
つぎに、ベルト式無段変速機100の油圧室1cおよび油圧室2cの油圧を制御する油圧制御装置102の構成を、図4に基づいて説明する。まず、エンジン5の動力によって駆動されるオイルポンプ18が設けられている。このオイルポンプ18は、例えば、ポンプインペラと動力伝達可能に接続されており、オイルポンプ18が駆動されると、オイルパン27に溜められているオイルが吸入され、かつ、オイルポンプ18からそのオイルが吐出される構成である。このオイルポンプ18から、油路R1に吐出されたオイルの油圧(ライン圧PL)を制御するライン圧制御弁(プライマリレギュレータバルブ)19が設けられている。ここで、ライン圧制御弁19はソレノイドバルブにより構成されている。このソレノイドバルブは、オイルポンプ18の出力油圧を、車速およびアクセル開度などで表わされる要求駆動力に応じたライン圧PLとなるように調圧できるように構成されている。ソレノイドバルブは、電流のオンとオフとを繰り返すデューティ制御により油路R1の油圧を調圧する構成である。
【0014】
また、油路R1の圧油の一部を、油圧室2cに供給する油路R2が設けられており、その油圧室2cの油圧を制御するセカンダリ圧制御装置(セカンダリレギュレータバルブ)20が設けられている。このセカンダリ圧制御装置20は、ソレノイド弁などを有しており、電流のオンとオフとを繰り返すデューティ制御により、油圧室2cの油圧を調圧できる構成である。
【0015】
また、油路R1には、一定圧制御装置22を介在させて油路R3が接続されている。この一定圧制御装置22により、油路R3の油圧が一定に調圧される。さらに、この油路R3は、増速用電磁弁23および減速用電磁弁24に接続されている。増速用電磁弁23および減速用電磁弁24は、ベルト式無段変速機1の変速比を制御するためのバルブである。この増速用電磁弁23は、ソレノイドバルブにより構成され、かつ、ポート(入力ポート)23aおよびポート(出力ポート)23bを有しており、ポート23aが油路R3に接続されている。そして、増速用電磁弁23が電通(オン)となった場合に、ポート23bから出力される信号圧が高圧となり、増速用電磁弁23が非通電(オフ)となった場合に、ポート23bから出力される信号圧が低圧となる構成である。
【0016】
一方、減速用電磁弁24は、ソレノイドバルブにより構成され、かつ、ポート(入力ポート)24aおよびポート(出力ポート)24bを有しており、ポート24aが油路R3に接続されている。そして、減速用電磁弁24が電通(オン)となった場合に、ポート24bから出力される信号圧が高圧となり、減速用電磁弁24が非通電(オフ)となった場合に、ポート24bから出力される信号圧が低圧となる構成である。
【0017】
前記ベルト式無段変速機100の変速比を制御するために、増速用流量制御弁25および減速用流量制御弁26が設けられている。増速用流量制御弁25は、ポート25a,25b,25c,25dおよびスプール25sを有している。ポート25aが出力ポート23bに接続され、ポート25cが油路R1に接続され、ポート25bが、ポート24bに接続され、ポート25dが油路R4に接続されている。この増速用流量制御弁25では、ポート25aに入力される信号圧が高圧になり、ポート25bに入力される信号圧が低圧になると、スプール25sが図4で上側に向けて動作し、ポート25cとポート25dとが連通される。つまり、油路R1の圧油を油路R4に供給することが可能である。これに対して、増速用流量制御弁25では、ポート25aに入力される信号圧が低圧になり、かつ、ポート25bに入力される信号圧が高圧になると、スプール25sが図4で下側に向けて動作し、ポート25dが遮断される。
【0018】
前記減速用流量制御弁26は、ポート26a,26b,26c,26dおよびスプール26sを有している。ポート26aが出力ポート24bに接続され、ポート26cが油路R4に接続され、ポート26dがオイルパン27に接続され、ポート26bが出力ポート23bに接続されている。この減速用流量制御弁26では、ポート26aに入力される信号圧が高圧になり、かつ、ポート26bに入力される信号圧が低圧になると、スプール26sが図4で上側に向けて動作し、ポート26cとポート26dとが連通される。つまり、油路R4の圧油がオイルパン27に排出される。これに対して、減速用流量制御弁26では、ポート26aに入力される信号圧が低圧になり、かつ、ポート26bに入力される信号圧が高圧になると、スプール26sが図4で下側に向けて動作し、ポート26dが遮断される。
【0019】
つぎに、油圧室1cと油路R4との間に設けられた油路および機構の構成を、図3および図4に基づいて説明する。可動シーブ1bには、油圧室1cに接続された油路13が形成されており、プライマリシャフト15には軸線に沿った方向に孔70が形成され、その孔70に円筒部材71が取り付けられている。この円筒部材71には油路7が形成されている。この油路7が油路13と接続されている。一方、ケーシング8の開口部を塞ぐエンドカバー9が固定されており、そのエンドカバー9には油路51が形成されている。この油路51は油路R4と接続されている。前記プライマリシャフト15の孔70内に、チェックバルブ6が設けられている。このチェックバルブ6は、孔70内に動作可能に配置されたピストン14と、このピストン14に爪52を介在させて接続された弁体6aと、ピストン14を所定方向に押圧する力を発生させる油圧室16と、ピストン16を油圧室16の力とは逆向きに押す力を発生するリターンスプリング53と、孔70に挿入された円筒部材71と、この円筒部材71の軸線に沿った方向の端部に形成された弁座7aとを有している。また、ピストン14には油路54が形成されており、油路7と油路51とを接続および遮断可能である。前記油圧室16の油圧により、ピストン14が押されて弁体6aが弁座7aに押し付けられる向きの力が生じる構成である。これに対して、リターンスプリング53の弾性力により、弁体6aを弁座7aから離す向きの力が生じる構成である。
【0020】
前記油圧室16は、油路17を経由して油路R3に接続されており、その油圧室16の油圧を制御する圧力制御弁28が設けられている。そして、油圧室16の油圧が上昇すると、ピストン14に加えられる力が上昇し、油圧室16の油圧が低下すると、ピストン14に加えられる力が低下する。このピストン14および弁体6aは一体的に動作する構成であり、油圧室16の油圧が上昇して、図4でピストン14が左側に向けて動作し、弁体6aが弁座7aに押し付けられると、チェックバルブ6が閉じられる。つまり、油路7と油路R4とが遮断され、油圧室1cに圧油が閉じ込められる。これに対して、油圧室16の油圧が低下すると、油圧室1cの油圧およびリターンスプリング54の力で弁体6aが押され、図4でピストン14が左側に向けて動作し、弁体6aが弁座7aから離れる。このようにして、チェックバルブ6が開放されると、油路7と油路R4とが接続されるため、油圧室1cに圧油を供給すること、または油圧室1cから圧油を排出することが可能である。上記のチェックバルブ6は、プライマリシャフト15に設けられており、圧油の供給および排出経路としては、増速用流量制御弁25および減速用流量制御弁26から、油圧室1cまでの長さよりも、チェックバルブ6から油圧室1cまでの長さの方が短い。
【0021】
つぎに車両101を制御する制御系統を、図2に基づいて説明する。車両101には電子制御装置103が設けられており、その電子制御装置103には、エンジン回転数、車速、加速要求(アクセルペダルの操作状態)、制動要求(ブレーキペダルの操作状態)、ベルト式無段変速機100の入力回転数および出力回転数、シフトポジションなどを検出するセンサおよびスイッチの信号が入力される。この電子制御装置103では、入力される信号、および予め記憶されているデータおよびマップなどに基づいて、エンジン5の出力を制御する信号、伝動装置4を制御する信号、ベルト式無段変速機100の変速比およびトルク容量を制御する信号が出力される。
【0022】
上記の車両101では、エンジントルクが伝動装置4およびベルト式無段変速機100を経由して車輪に伝達され、駆動力が発生する。車両101の制御について説明すると、まず、車速およびアクセルペダルの操作状態(アクセル開度)に基づいて、車両101の要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて、エンジン5で負担するべき要求パワーが求められる。この要求パワーに基づいて、エンジン出力を制御するにあたり、エンジン出力を最適燃費線に沿ったものとなるように、目標エンジン回転数および目標エンジントルクを定めたマップが電子制御装置103に記憶されている。そして、ベルト式無段変速機1の変速比を制御することにより、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づける制御がおこなわれる。これと並行して、電子スロットルバルブの開度を制御することにより、実エンジントルクを目標エンジントルクに近づける制御がおこなわれる。
【0023】
このベルト式無段変速機1の変速比の制御例を説明する。まず、アクセルペダル踏み込み量が減少して、ベルト式無段変速機1の変速比を小さくする条件が成立した場合について説明する。この場合は、前記増速用電磁弁23および減速用電磁弁24から出力される信号圧を制御することにより、増速用流量制御弁25のポート25cとポート25dとが連通され、かつ、減速用流量制御弁26のポート26dが遮断される。この制御により、オイルポンプ18から吐出された圧油が、油路R1を経由して油路R4に供給される。また、油圧室16の油圧が低下されて弁体6aが弁座7aから離れ、チェックバルブ6が開放される。このようにして、チェックバルブ6が開放されると、油路R4の圧油が油路51および油路7および油路13を経由して油圧室1cに供給され、油圧室1cの油圧により可動シーブ1bを固定シーブ1aに向けて押圧する推力が増加する。このため、プライマリプーリ1におけるベルト3の巻き掛け半径が大きくなる変速、つまり、アップシフトがおこなわれる。
【0024】
これに対して、アクセルペダル踏み込み量が増加して、ベルト式無段変速機1の変速比を大きくする条件が成立した場合について説明する。この場合は、前記増速用電磁弁23および減速用電磁弁24から出力される信号圧を制御することにより、増速用流量制御弁25のポート25dが遮断され、かつ、減速用流量制御弁26のポート26dとポート26cとが連通される。また、アップシフトの場合と同様に、チェックバルブ6が解放される。すると、ベルト3の張力により、可動シーブ1bを固定シーブ1aから離す向きの推力が発生し、油圧室1cの油圧が上昇する。このため、油圧室1cの圧油が、油路13および油路7および油路R4および減速用流量制御弁26を経由してオイルパン27に排出される。その結果、プライマリプーリ1におけるベルト3の巻き掛け半径が小さくなる変速、つまりダウンシフトがおこなわれる。
【0025】
つぎに、アクセルペダルの踏み込み量が一定に維持されており、ベルト式無段変速機1の変速比を一定に保持する条件が成立した場合を説明する。この場合は、前記油圧室16の油圧を上昇させてチェックバルブ6を閉じると、油圧室1cの圧油が油路R4へは排出されなくなり、かつ、油路1cに圧油が供給されることもない。このようにして、油圧室1cの圧油量が一定に保持されると、プライマリプーリ1におけるベルト3の巻き掛け半径が一定に維持されて、ベルト式無段変速機100の変速比が一定に維持される。なお、ベルト式無段変速機1の変速比を一定に保持するにあたり、チェックバルブ6を開放させ、かつ、ポート25dおよびポート26cを閉じることにより、油圧室1cの圧油量を一定にすることも可能であるが、チェックバルブ6の方が、増速用流量制御弁25および減速用流量制御弁26よりも油圧室1cに近いため、チェックバルブ6を閉じた方が圧油の漏れ量が少なくなり、変速比の制御精度が高いという利点がある。なお、上記のようなベルト式無段変速機100の変速比の制御、およびエンジントルクの制御と並行して、ベルト式無段変速機100のトルク容量が制御される。これは、油圧室2cの油圧を制御することによりおこなわれ、エンジントルクが相対的に高くなるほど、またはベルト式無段変速機100の変速比が相対的に大きくなるほど、油圧室2cの油圧が上昇される。これにより、ベルト3の張力が増加してトルク容量が増加する。
【0026】
上記のようなベルト式無段変速機100の変速比の制御は基本的なものであるが、アクセルペダルの踏み込み量の変化が一時的なものである場合には、基本的な制御とは異なる制御を実行可能であり、その制御例を図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、微小変速要求があるか否かが判断される(ステップS1)。例えば、アクセルペダルの踏み込み量が一時的に所定量増加した場合は、ステップS1で肯定的に判断される。
【0027】
このステップS1で否定的に判断された場合は図1のルーチンを終了し、ステップS1で肯定的に判断された場合は、閉じ込み制御の実行中であるか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2は、「チェックバルブ6を閉じて油圧室1cに圧油を閉じこめ、ベルト式無段変速機100の変速比を固定する制御」を実行中であるか否かを判断している。このステップS2で否定的に判断された場合は、図1のルーチンを終了し、ステップS2で肯定的に判断された場合は、現在おこなっている閉じ込み制御を継続するか、または、現在おこなっている閉じ込み制御を解除して、ベルト式無段変速機100でダウンシフト制御をおこなうかを決定する前に、ステップS3およびステップS4の処理をおこなう。
【0028】
このステップS3では、ベルト式無段変速機100でダウンシフトを行うことを想定して、その場合におけるエンジン5の燃料消費量FUELを算出(推定)する。また、ステップS4では、閉じ込み制御を継続する場合におけるエンジン5の燃料消費量FUELを算出(推定)する。ここで、ステップS3の処理およびステップS4の処理を同時におこなってもよいし、いずれか一方の処理を先におこない、他方の処理を後におこなってもよい。このステップS3およびステップS4の具体的な処理については後述する。
【0029】
このステップS3およびステップS4の処理の後に、燃料消費量FUELと燃料消費量FUELとを比較し、燃料消費量FUELが燃料消費量FUEL未満であるか否かが判断される(ステップS5)。このステップS5で肯定的に判断された場合は、現在おこなっている閉じ込み制御を継続し(ステップS6)、図1のルーチンを終了する。これに対して、ステップS5で否定的に判断された場合は、現在おこなっている閉じ込み制御を解除してベルト式無段変速機1でダウンシフト制御をおこない(ステップS7)、図1のルーチンを終了する。
【0030】
ここで、前記ステップS3およびステップS4の処理、およびその処理の技術的意味を説明する。まず、ベルト式無段変速機100で閉じ込み制御をおこなっている場合におけるエンジン回転数をNE1とし、エンジントルクをTE1とする。ここで、加速要求に基づいて、ベルト式無段変速機100でダウンシフトをおこなう場合のエンジン回転数は、NE1+NE2となり、エンジントルクはTE1+TE2となる。ここで、NE2は、ダウンシフトによるエンジン回転数の上昇分であり、TE2は、加速要求を満たすためのエンジントルクの増加分である。一方、閉じ込み制御を継続する場合のエンジン回転数は、NE1であり、エンジントルクはTE1+TE3となる。閉じ込み制御を継続する場合、変速比が固定されたままでありエンジン回転数が変化せず、加速要求を満たすためにエンジントルクがTE3分増加される。
【0031】
また、加速要求が発生したときに、閉じ込み制御を継続した場合と、ベルト式無段変速機100でダウンシフトをおこなう場合とで、エンジンのパワーを等パワーにするためには、
(NE1+NE2)×(TE1+TE2)=NE1×(TE1+TE3)
が成立する必要がある。この関係から、エンジントルクの増加分であるTE3は、
TE3=(NE1+NE2)×(TE1+TE2)/NE1−TE1
で求めることができる。
【0032】
一方、エンジントルクの増加時に生じるイナーシャトルクは、例えば、次式により求めることができる。
イナーシャトルク=I×NE2
ここで、Iは、エンジン5および流体伝動装置およびプライマリシャフトの慣性モーメントの合計であり、NE2は、単位時間あたり(微小変速の実行による)のエンジン回転数の上昇分である。
【0033】
さらに、オイルポンプ18はエンジン5の動力で駆動されているため、この実施例では、ベルト式無段変速機1の変速比の制御により生じる燃料消費量を算出するにあたり、オイルポンプ18の駆動負荷をも考慮する。まず、油圧室1cの油圧で決まるオイルポンプ18の駆動損失トルクをTop_pin とし、油圧室2cの油圧で決まるオイルポンプ18の駆動損失をTop_pdとすると、閉じ込み制御を継続する場合に増加する駆動損失トルクは、
Top_pin −Top_pd
で求められる。そして、最終的に閉じ込み制御を継続する場合に必要なエンジントルクは、
TE3−I×NE2(Top_pin −Top_pd)
で求められる。ここで、エンジントルクの増加分TE3からイナーシャトルクを除算している理由は、イナーシャトルク分は、燃料を必要としないからである。
【0034】
上記したデータの算出結果から、
燃料消費量FUEL=f(NE1+NE2、TE1+TE2)
を求め、
燃料消費量FUEL=f(NE1、TE3−I×NE2(Top_pin −Top_pd))
を求めることができる。このようにして求めた燃料消費量FUELと燃料消費量FUELとを、ステップS5で比較している。
【0035】
つぎに、図1のフローチャートに対応するタイムチャートの一例を、図5に基づいて説明する。時刻t1以前においては、閉じ込み制御がおこなわれており、変速比が一定である。前記のステップS5で肯定的に判断された場合は、時刻t1以降も破線で示すように閉じ込み制御が継続される。これに対して、ステップS5で否定的に判断された場合は、時刻t1で閉じ込み制御が解除され、かつ、実線で示すようにダウンシフト制御がおこなわれている。その後、変速比を小さくするアップシフト制御がおこなわれ、時刻t2以降は閉じ込み制御がおこなわれている。
【0036】
上記のように、この実施例では、閉じ込み制御を実行中に、アクセルペダルの踏み込み量が一時的に増加して再度元に戻された場合は、エンジントルクを増加して閉じ込み制御を継続すること、またはベルト式無段変速機1の変速比を変更しかつ、元に戻すことのうち、エンジン5における燃料消費量が少ない方を選択する。したがって、加速要求を満たし、かつ、エンジン5の燃費が向上する。また、閉じ込み制御を継続すれば、ベルト式無段変速機100の変速比が頻繁に切り替わること(ビジーシフト)を回避でき、加速フィーリングが向上する。
【0037】
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1およびステップS2が、この発明の変速要求判断手段に相当し、ステップS3が、この発明の第1算出手段に相当し、ステップS4が、この発明の第2算出手段に相当し、ステップS5が、この発明の比較手段に相当し、ステップS6が、この発明の第1変速比制御手段に相当し、ステップS7が、この発明の第2変速比制御手段に相当する。
【0038】
また、実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、エンジン5が、この発明のエンジンに相当し、プライマリプーリ1が、この発明の第1プーリに相当し、セカンダリプーリ2が、この発明の第2プーリに相当し、ベルト3が、この発明のベルトに相当し、ベルト式無段変速機100が、この発明のベルト式無段変速機に相当し、油圧室1cが、この発明の第1油圧室に相当し、油圧室2cが、この発明の第2油圧室に相当し、オイルポンプ18がこの発明のオイルポンプに相当し、チェックバルブ6および電子制御装置103が、この発明の流量制御装置に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明のベルト式無段変速機の制御装置の一例を示すフローチャートである。
【図2】この発明のベルト式無段変速機を有する車両の模式図である。
【図3】図2に示されたベルト式無段変速機のプライマリプーリの構成を示す断面図である。
【図4】図2に示されたベルト式無段変速機のプライマリプーリおよび油圧回路の構成を示す模式図である。
【図5】図1のフローチャートに対応するタイムチャートの一例である。
【符号の説明】
【0040】
5…エンジン、1…プライマリプーリ、2…セカンダリプーリ、3…ベルト、100…ベルト式無段変速機、1c…油圧室、2c…油圧室、18…オイルポンプ、6…チェックバルブ、103…電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって動力を発生するエンジンと、このエンジンから出力された動力が伝達され、かつ、第1プーリおよび第2プーリにベルトが巻き掛けられ、かつ、前記第1プーリと前記第2プーリとの間の変速比を無段階に変更可能に構成されており、前記第1プーリにおける前記ベルトの巻き掛け半径を制御するために圧油の供給量が制御される第1油圧室と、前記第2プーリから前記ベルトに加える挟圧力を制御するために圧油が供給され、かつ、前記第1プーリと前記第2プーリとの間で伝達されるトルクを制御する第2油圧室と、前記エンジンの動力で駆動され、かつ、前記第1油圧室および前記第2油圧室に供給される圧油を吐出するオイルポンプと、前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持することにより、前記変速比を一定に保持する流量制御装置とを有する、ベルト式無段変速機の制御装置において、
前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持して前記変速比を一定に保持する制御がおこなわれているときに、車両の加速要求が増加して前記変速比を変更する条件が成立したか否かを判断する変速要求判断手段と、
この変速要求判断手段により、前記変速比を変更する条件が成立したと判断された場合に、前記加速要求に基づいて前記エンジンの出力を制御し、かつ、前記変速比を変更するときの前記エンジンの燃料消費量を推定する第1算出手段と、
前記変速要求判断手段により、前記変速比を変更する条件が成立したと判断された場合に、前記加速要求に基づいて前記エンジン出力を制御し、かつ、前記変速比を一定に保持する制御を継続したときの前記エンジンの燃料消費量を推定する第2算出手段と、
前記第2算出手段により推定される燃料消費量と、前記第1算出手段により推定される燃料消費量とを比較する比較手段と、
前記第2算出手段により推定される燃料消費量の方が、前記第1算出手段により推定される燃料消費量よりも少ないと推定された場合は、前記第1油圧室に保持される圧油量を一定に維持して前記変速比を一定に保持する制御を続行する第1変速比制御手段と、
前記第1算出手段により推定される燃料消費量の方が、前記第2算出手段により推定される燃料消費量よりも少ないと推定された場合は、前記変速比を変更する第2変速比制御手段と
を備えていることを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−91018(P2010−91018A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262224(P2008−262224)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】