説明

ベルト式無段変速機用制御装置

【課題】駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期において、エンジン補機による負荷が加わる場合に、ベルトに対して作用する挟圧が過剰に大きくならないように制御し、車両の燃費向上に資することが可能なベルト式無段変速機用制御装置の提供を目的とした。
【解決手段】制御装置Cは、車両が被駆動状態である場合に、入力推定トルクをオイルポンプの駆動トルクと、少なくともオルタネータ62を含む補機60の駆動トルクとを含めたものとして導出し、入力推定トルクに基づいて目標挟圧を設定し、目標挟圧になるようにベルト挟圧を調圧制御可能とされている。駆動状態から被駆動状態に移行する段階であって、フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングαより後のタイミングβにおいてオルタネータ62の作動指令が出力される場合に、タイミングα以後、タイミングβまでの所定のタイミングγにおいて挟圧制御手段74によってベルト挟圧の調圧指令が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の駆動制御を行うためのベルト式無段変速機用制御装置であり、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期における制御方法に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているような制御装置が、ベルト式無段変速機の制御に用いられている。この制御装置においては、動力源側から駆動する駆動状態と、動力源側が駆動される被駆動状態とを区別し、安全率を考慮しつつ両状態におけるベルト挟圧力を最適化している。また、この制御装置においては、オイルポンプ、エアコン、及びオルタネータからなるエンジン補機の駆動トルクを考慮したうえで被駆動状態におけるベルト挟圧を算出することとしている。従って、この制御装置によれば、駆動状態及び被駆動状態のいずれにおいても区別なく高いベルト挟圧を作用させている場合に比べて過剰に大きなベルト挟圧を作用させる必要がなくなり、その分だけ燃費性能を改善することができる。
【0003】
また、下記特許文献2に開示されている車両用ベルト式無段変速機の制御装置は、駆動状態から切り替え状態に状態が切り替わる際の安全率を向上させるために提供されたものである。この制御装置においては、動作状態が駆動状態と被駆動状態との間で切り替えられる際にベルト挟圧を一時的に上昇させる制御を行うことにより、プーリ部の回転方向へのガタによる衝撃を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−330126号公報
【特許文献2】特開2007−285333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来技術においては、駆動状態と被駆動状態とに区別してベルト挟圧の制御を行うことにより燃費向上を図る方策が採られている。ここで、ベルト滑りを防止しつつ更なる燃費向上を図るためには、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期においてもベルト式無段変速機においてベルトに作用させる挟圧が過剰に大きくならないように制御することが望ましい。しかしながら、上記特許文献1に開示されている従来技術においては、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期において、エンジン補機類の負荷が加わる条件下においてベルト挟圧を適正化し、燃費向上を図るという技術的思想について何ら言及がなされていない。
【0006】
また、上記特許文献2に開示されている従来技術においては、駆動状態から被駆動状態への切り替え時においてプーリ部の回転方向へのガタによる衝撃の低減を図るべく、ベルト挟圧を上昇させる点について言及がなされている。しかしながら、この従来技術においてなされるベルト挟圧の制御は、プーリの固定側と可動側の案内構造に起因するガタ衝撃を問題としており、エンジン補機類の動作に伴う駆動トルク(負荷)が加わることによるベルト滑りを課題とするものではない。そのため、従来技術においては、エンジン補機による負荷が加わる条件下で、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期におけるベルト挟圧を適正化することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期において、エンジン補機による負荷が加わる場合に、ベルト滑りの発生を防止しつつベルトに対して作用する挟圧が過剰に大きくならないように制御し、車両の燃費向上に資することが可能なベルト式無段変速機用制御装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく提供される本発明のベルト式無段変速機用制御装置は、エンジンを駆動源とし、ベルト式無段変速機を介して動力を入出力可能な駆動伝達装置を備えると共に、前記エンジンによって駆動されるオイルポンプと、補機として少なくとも前記エンジンによって駆動されるオルタネータとを備え、減速走行を行っている状態においてエンジンに対する燃料供給を停止するフューエルカット動作を実施可能とされた車両において、前記ベルト式無段変速機に作用させるベルト挟圧を調圧制御するために用いられるものである。本発明のベルト式無段変速機用制御装置は、前記ベルト式無段変速機が備える無段変速機構部に対して入力されるトルクの推定値を入力推定トルクとして導出する入力推定トルク導出手段と、前記入力推定トルク導出手段によって導出された入力推定トルクに基づき、前記ベルト式無段変速機においてベルトに作用させるべきベルト挟圧を目標挟圧として設定する目標挟圧設定手段と、前記目標挟圧設定手段により設定された目標挟圧に基づいて前記ベルト式無段変速機において発生させるベルト挟圧を調圧制御可能な挟圧制御手段と、前記ベルト式無段変速機が動力源側から伝達された動力により駆動する駆動状態であるか、動力源側が駆動される被駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、前記フューエルカット動作の可否を判定するフューエルカット許否判定手段と、前記補機に対して作動指令を出力可能な補機作動指令手段とを備えている。本発明のベルト式無段変速機用制御装置は、前記駆動状態判定手段により前記被駆動状態であると判定された場合に、少なくとも前記オイルポンプの駆動トルクと、前記補機の駆動トルクとを含めたものとして前記入力推定トルクを導出し、当該入力推定トルクに基づいて目標挟圧を設定し、当該目標挟圧になるようにベルト挟圧を調圧制御可能することが可能である。本発明のベルト式無段変速機用制御装置は、前記駆動状態から前記被駆動状態に移行する段階であって、前記フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングαから所定時間後のタイミングβに前記オルタネータの作動指令が出力される場合において、前記タイミングαから前記タイミングβの間であって、前記タイミングβよりも所定時間前のタイミングγにおいて前記挟圧制御手段により前記ベルト挟圧の調圧指令が出力されることを特徴としている。
【0009】
本発明のベルト式無段変速機用制御装置においては、エンジンを駆動源とするオイルポンプ、及び少なくともオルタネータを含む補機の駆動トルクを加味して被駆動状態における入力推定トルクが導出され、この結果に基づいてベルト挟圧の調圧制御が行われる。そのため、本発明のベルト式無段変速機用制御装置によれば、ベルト挟圧の過剰な設定を排除し、燃費低減効果を発揮すると共に、駆動状態から被駆動状態への移行に際してベルト滑りが発生することを防止できる。
【0010】
また、本発明のベルト式無段変速機用制御装置においては、駆動状態から被駆動状態に移行する過渡期において補機の作動開始要求が出された場合に、ベルト挟圧の応答遅れが生じることを考慮し、フューエルカット動作の許可判定がなされてから実際にオルタネータの作動指令が出力されるタイミングβまでの期間内にベルト挟圧の調圧指令を出力することとしている。すなわち、フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングα以後、タイミングβまでの間であって、タイミングβよりも所定時間前のタイミングγにおいてベルト挟圧の調圧指令を出力することとしている。これにより、被駆動状態への移行過渡期において過剰に大きなベルト挟圧を作用させることなく、油圧の応答遅れに起因するベルト滑りを防止することができる。従って、本発明によれば、燃費低減効果を得つつ、ベルト滑りを確実に防止可能なベルト式無段変速機用制御装置を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期において、エンジン補機による負荷が加わる場合に、ベルトに対して作用する挟圧が過剰に大きくならないように制御し、車両の燃費向上に資することが可能なベルト式無段変速機用制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機用制御装置を搭載した車両において採用されているトランスミッションシステムを示すスケルトン図、及びベルト式無段変速機用制御装置の構成を示した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機用制御装置により実施される動作制御を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機用制御装置により動作制御を実行した状態を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機用制御装置C(以下、単に「制御装置C」とも称す)について、これを搭載した車両Aを例に挙げ、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明においては、本発明の特徴的構成である制御装置Cの説明に先立って、車両Aの構成について概略を説明する。
【0014】
本実施形態の車両Aは、図1に示すようにトランスミッションシステムT、エンジンE、及び制御装置C等を備えている。トランスミッションシステムTは、FF横置き式の自動車用変速機であり、エンジン出力軸1によりトルクコンバータ2を介して駆動される入力軸3、入力軸3の回転を正逆切り替えて駆動軸10に伝達する前後進切替装置4、駆動プーリ11と従動プーリ21と両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15とからなる無段変速装置7、従動軸20の動力を出力軸32に伝達するデファレンシャル装置30などによって構成されている。入力軸3と駆動軸10とは同一軸線上に配置され、従動軸20とデファレンシャル装置30の出力軸32とが入力軸3に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、このトランスミッションシステムTは、全体として3軸構成とされている。
【0015】
本実施形態において採用されているVベルト15は、一対の無端状張力帯と、これら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0016】
トランスミッションシステムTを構成する各部品は、変速機ケース5の中に収容されている。トルクコンバータ2と前後進切替装置4との間には、オイルポンプ6が配置されている。このオイルポンプ6は、図1では示さないが、変速機ケース5に固定されたオイルポンプボデーと、オイルポンプボデーに対して固定されたオイルポンプカバーと、オイルポンプボデーとオイルポンプカバーとの間に収容されたポンプギヤとで構成されている。そして、ポンプギヤはトルクコンバータ2のポンプインペラ2aにより駆動される。なお、トルクコンバータ2のタービンランナ2bは入力軸3に連結され、ステータ2cはワンウエイクラッチ2dを介して変速機ケース5により支持されている。
【0017】
トルクコンバータ2には、その入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ2eが設けられている。ロックアップクラッチ2eは、係合側油室2f内の油圧と解放側油室2g内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)ΔPに基づいて摩擦係合される油圧式摩擦クラッチであって、上記差圧ΔPを制御することにより係合状態または解放状態とされる。
【0018】
オイルポンプ6は、エンジンEから入力される動力により作動するものである。従って、オイルポンプ6の動作は、エンジンEと連動する。すなわち、エンジンEの作動中はオイルポンプ6も作動するが、エンジンEが停止するとオイルポンプ6も停止する。また、オイルポンプ6を作動させることにより、後に詳述する前後進切替装置4やCVT7などの各油圧作動装置に向けてオイルを圧送し、ライン圧(油圧)を作用させることができる。従って、エンジンEの停止中は、前後進切替装置4やCVT7に対して油圧を作用させることができない。
【0019】
前後進切替装置4は、遊星歯車機構40と、逆転ブレーキ50と、直結クラッチ51とで構成されている。遊星歯車機構40は、いわゆるシングルピニオン方式のものであり、サンギヤ41が入力回転部材である入力軸3に連結され、リングギヤ42が出力回転部材である駆動軸10に連結された構成とされている。逆転ブレーキ50は、本発明における前進時の発進クラッチに相当するものであり、ピニオンギヤ43を支えるキャリア44と変速機ケース5との間に設けられている。また、直結クラッチ51は、キャリア44とサンギヤ41との間に設けられている。直結クラッチ51を解放して逆転ブレーキ50を締結すると、入力軸3の回転が逆転され、かつ減速されて駆動軸10へ伝えられる。逆に、逆転ブレーキ50を解放して直結クラッチ51を締結すると、遊星歯車機構40のキャリア44とサンギヤ41とが一体に回転するので、入力軸3と駆動軸10とが直結される。
【0020】
無段変速装置7の駆動プーリ11は、固定シーブ11aと、可動シーブ11bと、油圧サーボ12とを備えている。固定シーブ11aは、駆動軸(プーリ軸)10の軸上に一体的に形成されている。可動シーブ11bは、駆動軸10上にローラスプライン部を介して軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持されている。油圧サーボ12は、可動シーブ11bの背後に設けられている。可動シーブ11bの外周部には、背面側へ延びるピストン部が一体に形成され(図示せず)、このピストン部の外周部が駆動軸10に固定されたシリンダ(図示せず)の内周部に摺接している。可動シーブ11bとシリンダとの間に油圧サーボ12の作動油室12aが形成され、この作動油室12aへの流量を制御することにより、変速制御が実施される。
【0021】
従動プーリ21は、固定シーブ21aと、可動シーブ21bと、油圧サーボ22とを備えている。固定シーブ21aは、従動軸(プーリ軸)20上に一体的に形成されている。可動シーブ21bは、従動軸20上にローラスプライン部(図示せず)を介して軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持されている。油圧サーボ22は、可動シーブ21bの背後に設けられている。可動シーブ21bの外周部には、背面側へ延びるシリンダ部(図示せず)が一体に形成され、シリンダ部の内周部に従動軸20に固定されたピストン(図示せず)が摺接している。可動シーブ21bとピストンとの間に油圧サーボ22の作動油室22aが形成され、この作動油室22aの油圧を制御することによりVベルト15に作用する挟圧が調整され、トルク伝達に必要なベルト推力が与えられる。なお、作動油室22aには初期推力を与えるスプリング24が配置されている。Vベルト15に作用する挟圧の大きさは、後に詳述する制御装置Pの制御の下、適宜適切な値に調整することができる。
【0022】
従動軸20の一端部は、エンジンE側に向かって延びており、この一端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びる出力軸32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0023】
エンジンEは、内燃機関によって構成されるものであり、開度(出力)を調節し得る電子制御式のスロットルを備えている。エンジンEは、出力軸1を介して上述したトランスミッションシステムTに接続されており、動力をトルクコンバータ2やオイルポンプ6に対して入力可能とされている。エンジンEは、上述したCVT7と連携作動するように動作制御されている。
【0024】
車両Aは、上述したトランスミッションシステムTやエンジンEの他に、エンジンEの動力により動作する補機60を備えている。補機60は、エンジンEの動力を受けて作動するものである。車両Aにおいては、補機60として、オルタネータ62、エアコン駆動部64等が搭載されている。
【0025】
制御装置Cは、エンジンEにおける発生トルクや補機60の作動状態等の情報を得てCVT7においてVベルト15に作用する挟圧を調整するためのものである。図1に示すように、本実施形態の制御装置Cは、入力推定トルク導出手段70、挟圧導出手段72、挟圧制御手段74、駆動状態判定手段76、フューエルカット許否判定手段77、補機作動要求判定手段78、補機作動指令手段80、及びディレイフラグ出力手段82等を備えている。
【0026】
フューエルカット許否判定手段77は、車両Aが減速走行を行っている状態において、エンジンEに対する燃料供給を停止する動作(フューエルカット動作)の可否を判定するものである。
【0027】
また、ディレイフラグ出力手段82は、上述したフューエルカット判定手段77によりフューエルカット動作を許可する旨の判定(フューエルカット許可判定)がなされた場合に、フューエルカット許可判定がなされたタイミングαにおいてディレイフラグをオン状態とするものである。図3(a)あるいは同(b)に示すように、ディレイフラグは、オン状態となった後、所定時間ΔTが経過した時点でオフ状態となる。この所定時間ΔTについては、適宜設定することが可能であるが、本実施形態においてはフューエルカット許可判定がなされたタイミングαから、オルタネータ62が作動するまでに要すると想定される時間に設定されている。従って、ディレイフラグは、タイミングαから所定時間ΔTだけ後のタイミングβにおいてオフ状態となる。
【0028】
入力推定トルク導出手段70は、CVT7に対して入力されるトルクの推定値を入力推定トルクTcvtとして導出するためのものである。ここで、本実施形態においては、エンジンEに対し、オイルポンプ6に加えて、補機60として機能するオルタネータ62、及びエアコン駆動部64が接続されている。ここで、ロックアップ状態で減速している際に車両Aが駆動状態から被駆動状態になると、ロックアップ状態が維持されつつオルタネータ62を用いた回生制御が開始される。そのため、駆動状態から被駆動状態に切り替わる際には、エンジンE側と入力軸3側のトルクが直接伝達される。
【0029】
オイルポンプ6及びこれらの補機60は、いずれもエンジンEによって駆動されるものである。そのため、CVT7がエンジンE側から伝達された動力により駆動する駆動状態においては、エンジンEのトルク(以下、「エンジントルクTe」とも称す)から、オイルポンプ6の駆動トルク(以下、「ポンプトルクTp」とも称す)、及び各補機60の駆動トルク(以下、「補機駆動トルクTa」とも称す)を差し引いたトルクが入力軸3に伝達される。従って、入力軸3に伝達されるトルク(以下、「入力軸伝達トルクTi」とも称す)については、Ti=Te−Tp−Taの関係が成立する。従って、駆動状態において、入力推定トルク導出手段70は、前述した数式に基づいて導出される入力軸伝達トルクTi及びベルト比を考慮して入力推定トルクTcvtを導出する。
【0030】
また、上述した駆動状態とは逆に、CVT7を介して伝達された逆トルクによりエンジンEが駆動される被駆動状態においては、オイルポンプ6、及び補機60についてもその逆トルクにより駆動される。この際、その反力である回転抵抗がCVT7に対して負荷として作用する。このため、エンジントルクTeに対してポンプトルクTp及び補気駆動トルクTaを加算したトルクが、CVT7に対して入力される。従って、被駆動状態において、入力推定トルク導出手段70は、Ti=Te+Tp+Taの関係に基づいて導出される入力軸伝達トルクTi及びベルト比を考慮して入力推定トルクTcvtを導出することができる。
【0031】
挟圧導出手段72は、上述した入力推定トルク導出手段70によって導出された入力推定トルクTcvtに基づき、ベルト式無段変速機においてVベルト15に作用させるべきベルト挟圧を目標挟圧Ptを導出して設定することができる。また、挟圧制御手段74は、挟圧導出手段72により出力された目標挟圧Ptに基づき、図示しない油圧回路に設けられた弁の動作制御等に対して挟圧指令信号(調圧指令)を出力することにより調圧制御し、CVT7においてVベルト15に実際に作用させるベルト挟圧を制御することができる。
【0032】
挟圧制御手段74は、上述したフューエルカット許否判定手段77によりフューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングα以後、オルタネータ62の作動指令が出力されるタイミングβまでの間であって、タイミングβよりも所定時間Δtだけ前のタイミングγにおいて挟圧指令信号を出力する。図3(a),(b)に示すように、本実施形態においては、所定時間Δtが、タイミングαとタイミングβの期間に相当する所定時間ΔTと同一とされている。そのため、タイミングαとタイミングγは同一とされている。従って、挟圧制御手段74は、フューエルカット動作の許可判定がなされるのと同時に挟圧指令信号を出力する。なお、所定時間ΔTは、フューエルカット動作の許可判定後、実際にフューエルカット状態になるまでに要する時間とすることが望ましい。オルタネータ62の作動遅れを防止し、回生動作の機会を確保するためである。
【0033】
駆動状態判定手段76は、CVT7がエンジンEから伝達された動力により駆動する駆動状態であるのか、エンジンE側が駆動される被駆動状態であるのかを判定するために設けられたものである。駆動状態判定手段76は、アクセル開度や車速に基づいて駆動状態であるのか被駆動状態であるのかを判断することができる。
【0034】
補機作動要求判定手段78は、エンジンEの補機60として車両Aに搭載されているオルタネータ62の作動要求の有無を判定するために設けられたものである。ここで、オルタネータ62は、車両Aが減速走行を行っている状態において、エンジンEに対する燃料供給を停止する動作(フューエルカット動作)を行う際に、回生によるバッテリー充電を行うことができる。そのため、補機作動要求判定手段78は、アクセル開度、エンジン回転数、車速、及びバッテリー電圧等に基づき、フューエルカット動作の可否を判断し、フューエルカット動作の実施条件が揃った場合にオルタネータ62の作動要求があったものと判断する。
【0035】
補機作動指令手段80は、補機作動要求判定手段78によりオルタネータ62の作動要求が存在すると判定された場合に、補機60の作動を指令する信号(オルタネータ作動指令信号)を出力するためのものである。補機作動指令手段80は、上述したタイミングβにおいてオルタネータ作動指令信号を出力する。
【0036】
続いて、上述した制御装置Cにより実施されるベルト挟圧制御、及びこの制御の過程において行われる入力軸3への入力軸伝達トルクTiの導出方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。制御装置Cによるベルト挟圧制御は、図2に示すフローチャートに則って実施される。また、図2に示す制御フローの実行と並行して、上述したディレイフラグ、オルタネータ作動指令信号の検出、及び駆動状態あるいは被駆動状態のいずれであるのかの判断を常時実行している。
【0037】
図2に示す制御フローについて説明すると、先ずステップ1においてディレイフラグがオン状態であるか否かが確認される。ここで、ディレイフラグがオン状態である場合には、制御フローが制御フローがステップ1からステップ2に至り、入力軸3への入力軸伝達トルクTiがTi=Te+Ta+Tp(数式1)に則って導出される。ここで、(数式1)においては、オルタネータ62が低回転時であるほどトルクが大きくなる特性を有することを加味し、補機駆動トルクTaが最大値に設定される。その後、制御フローがステップ3に進められ、先に導出された入力軸伝達トルクTiに基づき、入力推定トルクTcvtが算出され、挟圧導出手段72によって目標挟圧Ptが設定される。その後、ステップ4において、挟圧導出手段72によって導出された目標挟圧Ptに相当する挟圧がVベルト15に対して作用するように、挟圧制御手段74による調圧制御がなされる。これにより、一連の制御フローが完了する。
【0038】
また、上述したステップ1においてディレイフラグがオフ状態であると判断された場合には、制御フローがステップ5に進められオルタネータ作動指令信号がオン状態であるか否かが確認される。ここで、オルタネータ作動指令信号がオン状態である場合には、制御フローがステップ6に進められる。ステップ6においては、入力軸伝達トルクTiがTi=Te+Ta+Tp(数式2)に基づいて導出される。その後、制御フローはステップ3及びステップ4に進められる。ステップ3及びステップ4においては、上述した場合と同様にして、ステップ6において導出された入力軸伝達トルクTiに基づいて入力推定トルクTcvtの算出及び目標挟圧Ptの設定がなされ、挟圧制御手段74により出力された挟圧指令信号に基づく調圧制御がなされる。
【0039】
上述したステップ5においてオルタネータ作動指令信号がオフ状態であると判断された場合には、制御フローがステップ7に進められ、車両Aが駆動状態あるいは被駆動状態のいずれであるかが判断される。ステップ7において車両Aが駆動状態であると判断された場合には、制御フローがステップ8に進められ、入力軸3への入力軸伝達トルクTiがTi=Te−Ta−Tp(数式3)に則って導出される。その後、制御フローがステップ3及びステップ4の順で進められ、入力軸伝達トルクTiに基づいて入力推定トルクTcvtが算出される。また、この入力推定トルクTcvtに対して適正な値となるように目標挟圧Ptが設定され、挟圧指令信号の出力がなされる。
【0040】
一方、ステップ7において被駆動状態であると判断された場合には、制御フローがステップ9に進められる。ステップ9においては、入力軸伝達トルクTiが、Ti=Te+Ta+Tp(数式4)に則って導出される。その後、制御フローがステップ3に進められ、ステップ7において導出した入力軸伝達トルクTiに基づいて入力推定トルクTcvtが算出される。ステップ3においては、この入力推定トルクTcvtに見合った目標挟圧Ptが挟圧導出手段72によって導出され、設定される。また、ステップ4において、挟圧制御手段74により挟圧指令信号が出力され、挟圧制御がなされる。
【0041】
上述したように、本実施形態の制御装置Cにおいては、エンジンEを駆動源とするオイルポンプ6、及び補機60の駆動トルクを加味して被駆動状態における入力軸伝達トルクTiが導出され、この結果に基づいて設定された目標挟圧Ptに基づいてベルト挟圧の調圧制御が行われる。そのため、制御装置Cによれば、ベルト挟圧を過剰に大きく設定することなくVベルト15の滑りを防止することが可能となり、燃費低減効果を発揮することができる。
【0042】
また、制御装置Cにおいては、フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングα以後、タイミングβまでの間であって、タイミングβよりも所定時間前のタイミングγにおいてベルト挟圧の調圧指令を出力することとしている。これにより、車両Aが駆動状態から被駆動状態への移行過渡期において、Vベルト15に対して過剰に大きなベルト挟圧を作用させなくても、油圧の応答遅れに起因するベルト滑りを防止することができる。従って、本発明によれば、燃費低減効果を得つつ、ベルト滑りを確実に防止可能なベルト式無段変速機用制御装置を提供できる。
【0043】
本実施形態においては、所定時間ΔT,Δtを同一とし、フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングαと挟圧指令信号が出力されるタイミングγを同一とした例を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所定時間ΔT,Δtを相違させ、タイミングα以後、タイミングβまでの間の適切なタイミングにタイミングγを設定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のベルト式無段変速機用制御装置は、ベルト式無段変速機を搭載し、駆動状態から被駆動状態に切り替わる過渡期において補機類の作動が想定される車両において好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0045】
7 ベルト式無段変速装置(CVT)
15 Vベルト
60 補機
62 オルタネータ
64 エアコン駆動部
70 入力推定トルク導出手段
72 挟圧導出手段
74 挟圧制御手段
76 駆動状態判定手段
77 フューエルカット許否判定手段
78 補機作動要求判定手段
80 補機作動指令手段
82 ディレイフラグ出力手段
E エンジン
C ベルト式無段変速機用制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを駆動源とし、ベルト式無段変速機を介して動力を入出力可能な駆動伝達装置を備えると共に、前記エンジンによって駆動されるオイルポンプと、補機として少なくとも前記エンジンによって駆動されるオルタネータとを備え、減速走行を行っている状態においてエンジンに対する燃料供給を停止するフューエルカット動作を実施可能とされた車両において、前記ベルト式無段変速機に作用させるベルト挟圧を調圧制御するために用いられるベルト式無段変速機用制御装置であって、
前記ベルト式無段変速機が備える無段変速機構部に対して入力されるトルクの推定値を入力推定トルクとして導出する入力推定トルク導出手段と、
前記入力推定トルク導出手段によって導出された入力推定トルクに基づき、前記ベルト式無段変速機においてベルトに作用させるべきベルト挟圧を目標挟圧として設定する目標挟圧設定手段と、
前記目標挟圧設定手段により設定された目標挟圧に基づいて前記ベルト式無段変速機において発生させるベルト挟圧を調圧制御可能な挟圧制御手段と、
前記ベルト式無段変速機が動力源側から伝達された動力により駆動する駆動状態であるか、動力源側が駆動される被駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、
前記フューエルカット動作の可否を判定するフューエルカット許否判定手段と、
前記補機に対して作動指令を出力可能な補機作動指令手段とを備えており、
前記駆動状態判定手段により前記被駆動状態であると判定された場合には、前記入力推定トルクを、少なくとも前記オイルポンプの駆動トルクと、前記補機の駆動トルクとを含めたものとして導出し、当該入力推定トルクに基づいて目標挟圧を設定し、当該目標挟圧になるようにベルト挟圧を調圧制御可能であり、
前記駆動状態から前記被駆動状態に移行する段階であって、前記フューエルカット動作の許可判定がなされるタイミングαから所定時間後のタイミングβに前記オルタネータの作動指令が出力される場合において、前記タイミングα以後、前記タイミングβまでの間であって、前記タイミングβよりも所定時間前のタイミングγにおいて前記挟圧制御手段により前記ベルト挟圧の調圧指令が出力されることを特徴とするベルト式無段変速機用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24378(P2013−24378A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162344(P2011−162344)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】