説明

ペロブスカイト型複合酸化物薄膜

【課題】従来よりも高いプロトン伝導性を示すペロブスカイト型複合酸化物薄膜を提供すること。
【解決手段】一般式:A(B1-YY)O3-Zで表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むペロブスカイト型複合酸化物薄膜。但し、Aは、アルカリ土類金属元素から選ばれる2種以上の元素。Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。0<Y<0.2、0<Z。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型複合酸化物薄膜に関し、さらに詳しくは、400℃以上の温度においてプロトン伝導体として使用することが可能なペロブスカイト型複合酸化物薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式:ABO3で表されるある種のペロブスカイト型複合酸化物に適切なドーパントを添加すると、水素又は水蒸気の存在する雰囲気下、数百℃の高温でプロトン伝導性を示すことが知られている。この種のペロブスカイト型複合酸化物がプロトン伝導性を示すのは、プロトンが酸素イオンとOH結合を作りながら、酸素イオン間をホッピングするためと考えられている。
代表的なプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物としては、BaCe0.80.23-α、BaCe0.9Nd0.13-α、SrCe0.95Yb0.053-α、SrZr0.950.053-α、CaZr0.9In0.13-αなどが知られている。これらの複合酸化物は、固体酸化物型燃料電池や水素センサーなどへの応用が期待されている。
【0003】
例えば、この種の複合酸化物を水素センサとして用いる場合、通常、これらは、焼結体の状態で使用される。しかしながら、ペロブスカイト型複合酸化物は、一般に焼結温度が高いので、緻密な焼結体を得るためには、1500℃以上の高温が必要になるという問題がある。
また、この種の複合酸化物を固体酸化物型燃料電池用のプロトン伝導膜として用いるためには、複合酸化物を薄膜化するのが望ましい。しかしながら、焼結法で薄膜を作製するのは困難である。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、SrZr0.9Yb0.13-a又はCaZr0.9In0.13-aにFe34、Co34、又はNiOを添加し、1250℃で4時間焼成することにより得られるペロブスカイト型複合酸化物焼結体が開示されている。
同文献には、所定の組成を有するペロブスカイト型複合酸化物を焼結する場合において、Fe34等を焼結助剤として添加すると、1250℃の焼結温度で相対密度98%以上が得られる点が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、パルスレーザーデポジション(PLD)法を用いてPd膜(厚さ40μm)表面にBaCe0.80.23膜(厚さ約0.7μm)を形成し、その上にペロブスカイトカソードペーストをスクリーン印刷し、乾燥させることにより得られる燃料電池が開示されている。
同文献には、このようにして得られた燃料電池の分極は、バルクの電解質を用いた固体酸化物型燃料電池で報告された値よりずっと小さくなる点が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平09−052764号公報
【非特許文献1】Journal of Power Sources, 152(2005), 200-203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を固体酸化物型燃料電池のプロトン伝導膜として使用する場合において、プロトン伝導性を向上させるためには、複合酸化物を薄膜化するのが望ましい。しかしながら、PLD法などの物理蒸着法を用いて複合酸化物を薄膜化すると、プロトン伝導度は、焼結体に比べて数桁低くなるという問題がある。
一方、焼結体を製造する場合において、焼結温度の低下を目的に種々の添加物を加えることも行われている。しかしながら、従来の複合酸化物は、いずれもBサイトに添加物を加えた組成になっている。ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトは、プロトン伝導を支配するサイトであるため、Bサイトに添加剤を加える方法では、プロトン伝導度の改善に限界がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来よりも高いプロトン伝導性を示すペロブスカイト型複合酸化物薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物薄膜は、(1)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むことを要旨とする。
A(B1-YY)O3-Z ・・・(1)
但し、
Aは、アルカリ土類金属元素から選ばれる2種以上の元素。
Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。
Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。
0<Y<0.2、0<Z。
【発明の効果】
【0010】
ペロブスカイト型複合酸化物からなる薄膜をPLD法などの物理蒸着法を用いて成膜する場合において、Aサイトに2種以上のアルカリ土類金属元素を添加すると、高いプロトン伝導性を示す薄膜が得られる。
これは、プロトン伝導にほとんど寄与しないAサイト元素の一部を同族元素で置換することによって、複合酸化物の融点が下がり、薄膜の結晶性が向上したためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の一実施の形態につて詳細に説明する。
[1. ペロブスカイ型複合酸化物薄膜]
[1.1 組成]
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物薄膜は、(1)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含む。
A(B1-YY)O3-Z ・・・(1)
但し、
Aは、アルカリ土類金属元素から選ばれる2種以上の元素。
Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。
Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。
0<Y<0.2、0<Z。
【0012】
(1)式において、「A」は、Aサイトを占める元素を表す。本発明において、Aは、アルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)から選ばれる2種以上の元素からなる。Aサイト元素は、特に、Mg、Ca、Sr、又は、Baが好ましい。
Aサイト元素の組み合わせとしては、具体的には、(Ba、Sr)、(Ba、Ca)、(Ba、Mg)、(Ca、Sr)、(Sr、Mg)、(Ca、Mg)などがある。これらの中でも、(Ba、Sr)の組み合わせは、高いプロトン伝導度が得られるので、Aサイト元素の組み合わせとして特に好適である。
Aサイトを占める各元素の比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な比率を選択することができる。
【0013】
(1)式において、「B」は、Bサイトを占める元素を表す。Bは、Zr又はCeのいずれか一方であっても良く、あるいは、双方であっても良い。BがZr及びCeの双方からなる場合、各元素の比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な比率を選択することができる。
【0014】
(1)式において、「M」は、Bサイト元素の一部を置換するドーパントを表す。本発明において、Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd又はYbからなる。Mは、これらのいずれか1種の元素であっても良く、あるいは、2種以上であっても良い。また、Mが2種以上の元素からなる場合、各元素の比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な比率を選択することができる。
【0015】
(1)式において、「Y」は、MによるBサイト元素の置換量を表す。Bサイト元素が4価のZr及び/又はCeである場合において、Bサイト元素の一部を、Bサイト元素とイオン半径のほぼ等しいSc等の3価のカチオンで置換すると、複合酸化物はプロトン伝導性を示すようになる。そのため、置換量Yは、Y>0である必要がある。置換量Yは、さらに好ましくは、Y≧0.05である。
一方、Bサイト元素の置換量が過剰になると、逆にプロトン伝導性が低下する。従って、置換量Yは、Y<0.2である必要がある。置換量Yは、さらに好ましくは、Y≦0.15である。
【0016】
(1)式において、「Z」は、単位式量当たりの酸素欠損量を表す。酸素欠損量の値は、ドーパント量、雰囲気及び温度によって変化する。
【0017】
Aサイト元素がBa及びSrからなる場合、ペロブスカイト型複合酸化物薄膜は、(2)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むものが好ましい。
(BaXSr1-X)(B1-YY)O3-Z ・・・(2)
但し、
Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。
Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。
0.05<X<0.75、0<Y<0.2、0<Z。
【0018】
(2)式において、「X」は、Aサイトを占めるSrの原子比を表す。置換量Xが少なすぎると、結晶性の高い薄膜が得られない。従って、置換量Xは、X>0.05が好ましい。置換量Xは、さらに好ましくは、X>0.10、さらに好ましくは、X>0.20である。
一方、置換量Xが多くなるほど、薄膜の結晶性は向上するが、置換量Xが過剰になると、逆に薄膜の結晶性は低下する。従って、置換量Xは、X<0.75が好ましい。置換量Xは、さらに好ましくは、X<0.70、さらに好ましくは、X<0.60である。
【0019】
さらに、Aサイト元素がBa及びSrからなり、Bサイト元素がZr及びYbからなる場合、ペロブスカイト型複合酸化物薄膜は、(3)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物含むものが好ましい。
(BaXSr1-X)(Zr1-YYbY)O3-Z ・・・(3)
但し、 0.05<X<0.75、0.05≦Y≦0.15、0<Z。
(3)式中、置換量X及び置換量Yの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
なお、(1)〜(3)式のいずれの場合においても、薄膜は、プロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物のみからなるものが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。但し、高いプロトン伝導性を得るためには、不可避的不純物は少ないほど良い。
【0020】
[1.2 結晶粒サイズ]
上述した組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物をPLD法などの物理蒸着法を用いて成膜すると、従来の組成物に比べて、結晶粒サイズの大きい薄膜が得られる。高いプロトン伝導性を得るためには、結晶粒サイズは、0.03μm以上が好ましい。結晶粒サイズは、さらに好ましくは、0.1μm以上である。
【0021】
[2. ペロブスカイト型複合酸化物薄膜の製造方法]
上述した組成を有するペロブスカイト型複合酸化物からなる薄膜を製造する方法としては、PLD法、スパッタ法、プラズマCVD法、MOCVD法などがある。これらの中でも、PLD法は、結晶性が高く、組成ズレの少ない薄膜が得られるので、薄膜製造法として特に好適である。
【0022】
PLD法を用いた薄膜の製造は、一般に、
(1) 作製しようとする薄膜と同一組成を有するターゲットを作製し、
(2) ターゲット及び基板を容器内の所定の位置に配置し、
(3) 容器内の酸素分圧を所定の値に維持しながら、基板を所定の温度に加熱し、
(4) ターゲットにレーザーを照射する、
ことにより行われる。
この場合、基板の種類は、特に限定されるものではなく、ガラス基板、金属基板、多孔体基板などの各種の基板を用いることができる。
【0023】
PLD法を用いて本発明に係る薄膜を製造する場合において、製膜温度が低すぎると、薄膜の結晶性が低下する。従って、製膜温度は、600℃以上が好ましい。製膜温度は、さらに好ましくは、700℃以上、さらに好ましくは、800℃以上である。
製膜時の酸素分圧が低すぎると、酸素欠損が多くなり、結晶構造や組成を保てなくなるので好ましくない。従って、酸素分圧は、0.1Pa以上が好ましい。
一方、酸素分圧が高すぎると、製膜レートが極端に落ち、十分な結晶粒成長がおきない。また、膜密度の低下が起きるおそれがあるので好ましくない。従って、酸素分圧は、10Pa以下が好ましい。
【0024】
レーザーの波長は、紫外線域であることが好ましい。これは、上述した組成を有するペロブスカイト型複合酸化物のバンドギャップが広く(E>3eV以上)、紫外線域の光しか効率よく吸収できないためである。
さらに、レーザー出力が低すぎると、構成元素によってスパッタレートが異なるために、組成のズレが大きくなるので好ましくない。従って、レーザー出力は、1Jcm-2pls-1以上が好ましい。
一方、レーザー出力が高すぎると、構成元素によってスパッタレートが異なるために、組成ズレが大きくなる。また、基板に対して膜結晶粒が異方成長するおそれがあるので好ましくない。従って、レーザー出力は、2Jcm-2pls-1以下が好ましい。
【0025】
[3. ペロブスカイト型複合酸化物薄膜の作用]
プロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を固体酸化物型燃料電池の電解質材料や水素センサーとして応用する場合において、プロトン伝導効率を向上させるためには、複合酸化物を薄膜化することが好ましい。しかしながら、物理蒸着技術(例えば、PLD法)で作製した従来の材料からなる薄膜のプロトン伝導度は、バルクセラミックスに比べて数桁低いという問題がある。
【0026】
薄膜にすることでプロトン伝導性が下がる原因については、以下のようなことが一般に言われている。
すなわち、例えば、酸化物薄膜をPLD法で製膜する際には、通常、目的物質の融点の6割程度の基板温度が必要とされる。しかし、プロトン伝導性を示すペロブスカイト型複合酸化物の融点は、非常に高い。例えば、AZrO3の融点は、MgZrO3:約2150℃、CaZrO3:約2250℃、SrZrO3:約2400℃、BaZrO3:約2600℃である。そのため、一般的な製膜装置では、基板温度が不足し、薄膜の結晶性が低い。その結果、薄膜のプロトン伝導度は、バルクセラミックスに比べて低くなる。
従って、薄膜でバルクセラミックスと同等のプロトン伝導性を得るためには、薄膜の結晶性を上げる必要がある。
【0027】
この問題を解決するために、Bサイト元素の一部を他の元素で置換することも考えられる。Bサイト元素の一部を適切な元素で置換すると、材料の融点が低下し、薄膜の結晶性を高めることができる場合がある。しかしながら、Bサイトは、プロトン伝導度への寄与が大きい。そのため、この方法では、薄膜の結晶性を高めることはできるが、プロトン伝導度の向上には限界がある。
【0028】
これに対し、ペロブスカイト型複合酸化物からなる薄膜をPLD法などの物理蒸着法を用いて成膜する場合において、Aサイトに2種以上のアルカリ土類金属元素を添加すると、高いプロトン伝導性を示す薄膜が得られる。
例えば、AZrO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の中でも、SrZrO3とBaZrO3の組み合わせは、最も融点が高いものの組み合わせである。しかしながら、AサイトにSr及びBaの双方を添加すると、結晶性の高い薄膜が得られる。このような系においても結晶性の高い薄膜が得られるのは、Aサイト元素の一部を同族元素で置換することによって、複合酸化物の融点が下がったためと考えられる。しかも、Aサイトは、プロトン伝導にほとんど寄与しないので、Aサイト元素の一部を置換しても、プロトン伝導度を低下させることがない。
この点は、他の組み合わせも同様であり、Aサイトに2種以上のアルカリ土類金属元素を添加することによって、プロトン伝導度を低下させることなく、複合酸化物の融点を低下させること(すなわち、薄膜の結晶性を向上させること)ができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
[1.1 焼結体の作製]
(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)となるように、SrCO3、BaCO3、ZrO2、及び、Yb23を秤量した。これらにエタノールを加え、ボールミルで混合した。スラリーを取り出し、エタノールを揮発させた後、脱炭酸のために原料混合物を1000℃で10時間仮焼した。得られた仮焼粉をボールミルで粉砕(エタノール中)した後、粉末を成形した。さらに、成形体を大気中において1600℃で焼結した。
【0030】
[1.2 薄膜の作製]
[1.1]と同様にして作製した焼結体をターゲットに用いて、PLD法により薄膜を作製した。基板には、ガラス基板を用いた。レーザーには紫外線レーザーを用い、出力は約1Jcm-2pls-1とした。製膜室内の酸素分圧は、0.1〜10Paとした。さらに、製膜温度は、室温〜800℃とした。
【0031】
[2. 評価]
[2.1 X線回折]
作製したターゲット及び薄膜について、X線回折を行った。
[2.2 プロトン伝導度]
二端子法(雰囲気:20%O2+N2、28.1hPaH2O)法を用いて、焼結体及び薄膜(面内方向)のプロトン伝導度を測定した。測定温度は、500℃とした。
[2.3 結晶粒サイズ]
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、薄膜の結晶粒サイズを測定した。
【0032】
[3. 結果]
[3.1 X線回折]
図1に、(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)焼結体のX線回折パターンを示す。また、図2に、(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)焼結体のBa量(X)とd(200)×2((200)面間隔を2倍した値)との関係を示す。図1より、焼結体は、全組成域でペロブスカイト構造のみであることがわかる。また、図2より、焼結体中において、SrとBaは全置換していることがわかる。
さらに、図3に、製膜温度の異なる(Sr0.5Ba0.5)(Zr0.9Yb0.1)O3-α薄膜のX線回折パターンを示す。図3より、製膜温度が600℃以上の時、薄膜は結晶性となることがわかる。
【0033】
[3.2 プロトン伝導度]
図4に、薄膜(製膜温度:800℃)及び焼結体のBa量とプロトン伝導度(500℃)との関係を示す。焼結体の場合、AサイトにBaとSrの双方を添加してもプロトン伝導度は向上しなかった。これに対し、薄膜の場合、AサイトにBaとSrの双方を添加することによって、プロトン伝導度が向上した。図4より、Ba量が0.05〜0.75の時に、500℃におけるプロトン伝導度が3×10-5S/cm以上になることがわかる。
【0034】
[3.3 AFM像]
図5に、(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(X=0、0.5、1.0)薄膜(製膜温度:800℃)のAFM像を示す。図5より、X=0.5の薄膜の結晶粒は、X=0又は1.0の薄膜の結晶粒より大きいことがわかる。AサイトにBaとSrの双方を添加することによってプロトン伝導度が向上したのは、酸化物の融点が下がり、結晶粒サイズが大きくなったため(すなわち、薄膜の結晶性が向上したため)と考えられる。
【0035】
(比較例1)
[1. 試料の作製]
実施例1と同様の手順に従い、Sr(Zr0.90.1)O3−α(M=Yb又はIn)組成を有する薄膜を作製した。製膜温度は、800℃とした。
[2. 評価]
実施例1と同様の手順に従い、プロトン伝導度及び結晶粒サイズの評価を行った。
[3. 結果]
図6に、M=Yb(左図)又はIn(右図)である薄膜のAFM像を示す。図6より、ドーパントの種類によって、結晶粒サイズが異なることがわかる。しかしながら、Ybをドープした薄膜のプロトン伝導度は、2×10-5S/cmであり、プロトン伝導性の向上は見られなかった。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物薄膜は、固体酸化物型燃料電池や水素センサーの電解質材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)焼結体のX線回折パターンである。
【図2】(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)焼結体のBa量(X)とd(200)×2との関係を示す図である。
【図3】製膜温度の異なる(Sr0.5Ba0.5)(Zr0.9Yb0.1)O3-α薄膜のX線回折パターンである。
【図4】(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(0≦X≦1)組成を有する薄膜及び焼結体のBa量とプロトン伝導度(500℃)との関係を示す図である。
【図5】(Sr1-XBaX)(Zr0.9Yb0.1)O3-α(X=0、0.5、1.0)薄膜のAFM像である。
【図6】Sr(Zr0.90.1)O3−α(M=Yb(左図)又はIn(右図))組成を有する薄膜のAFM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むペロブスカイト型複合酸化物薄膜。
A(B1-YY)O3-Z ・・・(1)
但し、
Aは、アルカリ土類金属元素から選ばれる2種以上の元素。
Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。
Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。
0<Y<0.2、0<Z。
【請求項2】
(2)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むペロブスカイト型複合酸化物薄膜。
(BaXSr1-X)(B1-YY)O3-Z ・・・(2)
但し、
Bは、Zr及びCeから選ばれる1種以上の元素。
Mは、Sc、Y、In、Nd、Sm、Gd、及び、Ybから選ばれる1種以上の元素。
0.05<X<0.75、0<Y<0.2、0<Z。
【請求項3】
(3)式で表される組成を有するプロトン伝導性ペロブスカイト型複合酸化物を含むペロブスカイト型複合酸化物薄膜。
(BaXSr1-X)(Zr1-YYbY)O3-Z ・・・(3)
但し、 0.05<X<0.75、0.05≦Y≦0.15、0<Z。
【請求項4】
パルスレーザーデポジション法を用いて、600℃以上の温度で製膜することにより得られる請求項1から3までのいずれかに記載のペロブスカイト型複合酸化物薄膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−231075(P2009−231075A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75663(P2008−75663)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】