説明

ホウ酸選択的結合物質およびホウ酸の除去又は回収方法

【課題】ホウ酸含有溶液からホウ酸を効率よく除去又は回収する。
【解決手段】シロ−イノシトールが官能基として導入された高分子、樹脂、またはゲル状物質などの担体にホウ酸を含有する溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させ、結合したホウ酸を遊離させることにより、ホウ酸含有溶液からホウ酸を除去して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ酸結合能力を有するイノシトール固定化用の誘導体、およびその誘導体を原料に製造される、シロ−イノシトールを官能基として導入された高分子、樹脂、またはゲル状物質などの担体に関する。
また、本発明は、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を用いて、ホウ酸含有溶液を処理する方法に関する。また、海水中からホウ素をホウ酸として結合できることから、海水からホウ酸を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロ−イノシトールは次の立体構造式(A)
【化1】

で表される既知の化合物である。
【0003】
シロ−イノシトールはミオ−イノシトールの立体異生体の一つで動物・植物中に広く見出される物質である。また、シロ−イノシトール自体は、ホウ酸と結合する能力を有し、シロ−イノシトールホウ酸複合体を形成すること(非特許文献1参照)が知られている。
このシロ−イノシトールホウ酸複合体(例として、Na塩を示す)は以下の立体構造式(B)で表される物質である。
【化2】

【0004】
一方、ホウ素は天然にホウ酸として存在し、海水中にホウ素換算で4〜5ppm存在する物質である。ホウ酸は高濃度(数十〜数百mM)で殺生物活性を示す物質で、環境中への排水規準が厳しく制限されている。
しかしながら、化学産業、メッキ産業、ガラス・ホウロウ産業では、ホウ酸を含有する排水が生じるため、これらの産業にはホウ酸の処理が重大な課題となっている。
古くからの処理法方法として、消石灰と硫酸アルミニウムにより不溶性沈殿物として除去する方法が知られているが、汚泥発生量が多くなるという問題があった。
【0005】
また、ホウ酸選択的結合樹脂が開発されており、N-メチルグルカミンを官能基とした樹脂、レアメタル焼結固定化担体などが利用されている。しかしながら、他の陰イオンが混入すると、ホウ酸の選択性は低下し、目的の能力を発揮できないといった問題点、再生する時に生じる排水量が多くなるといった問題点、およびホウ酸の吸着容量が低く再生処理回数が増加するといった問題点を有する。
【非特許文献1】「ジャーナルオブオーガニックケミストリー(Journal of Organic Chemistry)」、アメリカ、23巻、p.329〜330(1958年)(全文:シロ−イノソースのNaBH4還元、及び、シロ−イノシトールホウ酸複合体の構造決定)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中、本発明者らは、シロ−イノシトールと、ホウ酸が選択的な複合体を形成することに着目し、シロ−イノシトールを官能基として導入された高分子が、ホウ酸を結合できると考えた。したがって、本発明はそのような能力を有する高分子などの担体を提供することを課題とする。
さらに、本発明は当該担体を利用した海水などからのホウ酸の回収方法の確立を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シロ−イノシトールを官能基として導入された高分子を製造するために必要な、シロ−イノシトール固定化用の誘導体の製造を検討し、原料としてシロ−イノソースを用い、シロ−イノソースの5つの水酸基を保護し、これにリンカー分子となる置換基をケトン部分に導入し、保護基を外して、目的のシロ−イノシトール固定化用の誘導体を製造することに成功した。そして、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を、重合反応により高分子化して作製することに成功した。
また、当該高分子が、ホウ酸含有水に対し、ホウ酸結合能力、および遊離能力を有することを確認し、この能力を海水に対しても発揮できることを確認した。
以上によって、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ホウ酸結合能力を有するシロ−イノシトールが官能基として導入された高分子、樹脂、またはゲル状物質。
(2)シロ−イノシトールの炭素骨格に結合する少なくとも1つの水素が、シロ−イノシトールを固定化用担体に結合させるためのリンカー分子に置換されたシロ−イノシトール誘導体。
(3)次の一般式(I)で表される(2)のシロ−イノシトール誘導体。
【化3】

(4)(2)または(3)のシロ−イノシトール誘導体を、担体となる物質に共有結合させるか、あるいは該誘導体を高分子重合用モノマー分子と重合させることによって得られる、シロ−イノシトール基を有する、ホウ酸選択的結合担体。
(5)担体が高分子、樹脂、またはゲル状物質である、(4)のホウ酸選択的結合担体。
(6)(4)または(5)のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させて除去する工程を含む、ホウ酸含有溶液の処理方法。
(7)(4)または(5)のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させ、結合したホウ酸を回収する工程を含む、ホウ酸の回収方法。
(8)ホウ酸含有溶液が海水であることを特徴とする、(7)のホウ酸の回収方法。
(9)(4)または(5)のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させ、結合したホウ酸を回収する工程を含む、ホウ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホウ酸結合能力を有するシロ−イノシトールを官能基として導入された高分子、樹脂、またはゲル状物質などの担体は、ホウ酸を含有する溶液からホウ酸を選択的に除去する能力を有することから、新しいホウ酸廃水処理基材として有用である。
また、無尽蔵な資源である海水からのホウ酸の製造にも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明のシロ−イノシトール誘導体は、シロ−イノシトールを担体に固定化するためのシロ−イノシトール誘導体(「シロ−イノシトール固定化用の誘導体」ともいう)であり、好ましくはシロ−イノシトールの炭素骨格に結合する少なくとも1つの水素が、シロ−イノシトールを固定化用担体に結合させるためのリンカー分子に置換されたシロ−イノシトール誘導体である。
【0011】
本発明の誘導体の種類は、シロ−イノシトールにリンカー分子が導入されたものであれば特に制限されないが、好ましくはアルケニル又はアルキニル基を有するリンカー分子が導入されたものが好ましく、次の一般式(I)で表されるシロ−イノシトール誘導体が特に好ましい。
【0012】
【化4】

式(I)中、nは0〜20の整数を示し、R1はC2〜C10アルケニル基、C2〜C10アルキニル基、あるいは、下記一般式(II)で表されるフェニル基を示し、R2は水素、トリアルキルシリル基を示す。
【0013】
【化5】

式(II)中R3、R4、R5は水素、C1〜C10アルキル基を示し、これらの基が同一または、異なってもよい。R6は水素、C1〜C10アルキル基、アルコキシ基を示す。
【0014】
本発明のシロ−イノシトールとして特に好ましくは、1−C−アリル−シロ−イノシトール(式III)、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトール(式V)、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール(式VI)などが挙げられる。
【0015】
【化6】

【0016】
このような構造を有する誘導体の製造方法としては、例えばシロ−イノソースを原料にした以下の例が例示される。概略として、シロ−イノソースを原料にした場合、5つの水酸基を一般式(I)に示されるR2に相当するトリアルキルシリル基で保護して、合成されたシロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を精製し、これを原料に、グリニア反応で一般式(I)に示される−(CH2n−R1に相当するリンカー分子をカップリングさせ、酸により、水酸基の保護基であるトリアルキルシリル基を外して、精製し、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を製造できる。
【0017】
原料となるシロ−イノソースは、ミオ−イノシトールから微生物醗酵で製造されたシロ−イノソース(特開2003-102492号公報など)を使用することができる他、ミオ−イノシトールを酸化白金で酸化したシロ−イノソースであることができる。水酸基の保護を目的とした反応にはシロ−イノソースの乾燥物が必要であるが、好ましくはスプレードライ、凍結乾燥などの処理により乾燥されたものであるのが望ましい。
【0018】
水酸基の保護は、シロ−イノソースの5つの水酸基を保護するため5モル当量以上必要とされる。保護反応は、トリアルキルシリルクロライドを使用し、アルキル部分がメチル、エチル、プロピル、イソプロピルの試薬が好ましくは用いられる。反応溶媒は、3級アミン、またはピリジンを5モル当量以上加えればよく、追加溶媒として酢酸エチルや、THFを添加することができる。反応温度は、50〜80℃、好ましくは70℃で、反応時間は1〜5時間、好ましくは2時間反応させればよい。攪拌は反応初期のシロ−イノソースが溶解しないため必要である。精製は少量の水を加えて反応停止後、ヘキサンやトルエンなどの非極性溶媒を加えて、生成するピリジン塩酸塩を沈殿させ、これをろ過し、ろ液の有機溶媒を水または炭酸水素ナトリウム水で洗浄し、塩やピリジンを除去する。有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムなどで脱水させた後、溶媒を留去・濃縮し、水酸基を保護されたシロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を単離できる。アルキル基がメチルの物質(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体:Resistry No. 676655-71-3)の製造方法は、特開2004-107287公報(シロ−イノシトールの製造方法)にも記載されている物質であり、上記と同様の製造方法が示されている。
【0019】
次に、シロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を脱水したTHFに溶解し、攪拌下で、これに一般式(I)に示される−(CH2n−R1に相当するリンカー分子のグリニア試薬を、1モル当量以上滴下する。このグリニア試薬の例としては、アルケニルマグネシウムクロライド、アルキニルマグネシウムクロライド、あるいは、C2〜C10アルケニル基、またはC2〜C10アルキニル基で置換されたフェニルマグネシウムクロライド、アルケニルマグネシウムブロマイド、アルキニルマグネシウムブロマイド、あるいは、C2〜C10アルケニル基、またはC2〜C10アルキニル基で置換されたフェニルマグネシウムブロマイド、より具体的には、ビニルマグネシウムクロライド、ビニルマグネシウムブロマイド、アリルマグネシウムクロライド、アリルマグネシウムブロマイド、p−ビニルベンジルマグネシウムクロライド、p−ビニルベンジルマグネシウムブロマイド、p−ビニルフェニルマグネシウムクロライド、p−ビニルフェニルマグネシウムブロマイドが例示される。反応温度は−5〜40℃、好ましくは20℃で、反応時間は30分〜5時間、好ましくは1時間反応させればよい。攪拌は反応液を均一にするため必要である。
【0020】
精製は、少量の水を加えて反応停止後、ヘキサンやトルエンなどの非極性溶媒を加えて、生成するハロゲン化マグネシウム塩を沈殿させ、これをろ過し、ろ液の有機溶媒を水で洗浄し、残存する塩を除去する。この段階で濃縮し、保護基の付いた状態で単離することもでき、有機溶媒系の重合反応に使用される。水溶系または極性溶媒系の重合反応に使用する場合は、有機溶媒層に少量の酸と、水又はメタノールやエタノールのような低級アルコールをシロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体に対して、5モル当量以上添加して攪拌すると、保護基が外れて、シロ−イノシトール固定化用の誘導体が析出し始める。
脱保護基の反応温度は−5〜40℃、好ましくは20℃で、反応時間は30分〜5時間、好ましくは1時間反応させればよい。攪拌は反応液を均一にするため必要である。精製は析出した物質をろ過し、乾燥後、シロ−イノシトール固定化用の誘導体粉末を得ることができる。
【0021】
本発明のシロ−イノシトール固定化用の誘導体を高分子、樹脂、ゲル状物質などの担体に導入することにより、ホウ酸を選択的に結合する担体(ホウ酸選択的結合担体)を得ることができる。
以下、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を、担体となる物質に共有結合させるか、あるいは高分子重合用モノマー分子とともに重合させて、ホウ酸選択的結合担体を得る方法について説明する。
担体となる物質は、既に整形された担体、例えば、ポリスチレン、シリカゲル、シリコンなどの担体表面にシロ−イノシトール固定化用誘導体が共有結合できる官能基が導入されたものであれば、特に限定されない。シロ−イノシトール固定化用誘導体が共有結合できる官能基としては、アミノ基、グリシジル基、カルボニル基などが例示される。
【0022】
シロ−イノシトール固定化用誘導体とともに共重合させて高分子化するための共重合用モノマー分子は、エチレン、プロピレン、アクリルアミド、スチレン、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルニトリル、テレフタル酸、プロピレンオキサイド、フェニレンジアミン、ホルムアルデヒドなどが例示される。これらの高分子化するための共重合用モノマー分子の単独、または混合物の重合条件下に、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を共存させることによって、重合物中に取りこませることができる(共重合)。また、必要ならば架橋剤、例えばN,N−メチレン−ビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等に例示される物質の添加をして重合物中に取りこませることができる。この際の組合せとしては、保護基のついたシロ−イノシトール固定化誘導体は有機溶媒系のモノマー分子と、保護基を外したシロ−イノシトール固定化誘導体は水溶系のモノマー分子と反応させるのが好ましい。重合反応は、ラジカル重合やカチオン重合など、既存の重合反応を利用することができるが、好ましくはラジカル重合が望ましい。その際使用される重合開始剤や、重合促進剤は、AIBN(2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))、TEMED(N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン)、または過硫酸塩などが例示される。さらに、溶媒は、上記の溶質が溶解すれば良く、水、アルコール類、グリコール類、アセトニトリル、酢酸エチルなどのエステル類、THFなどのエーテル類、トルエンやヘキサンなどの非極性有機溶媒が例示される。また、すべての溶質を混合したときに、溶媒がなくても均一な液状になるのであれば、溶媒は必要としない。
【0023】
また、保護基のついたシロ−イノシトール固定化誘導体との重合反応後には、水又はメタノールやエタノールのような低級アルコール中で、少量の酸触媒で洗浄することによって、保護基をはずすことができる。さらに、重合時に、oil in water、または、water in
oilの懸濁重合反応系を選択することで、高分子、樹脂、またはゲル状物質の整形を行なうことができる。
【0024】
このようにして製造されたホウ酸選択的結合高分子、ホウ酸選択的結合樹脂、またはホウ酸選択的結合ゲル状物質を用いることにより、ホウ酸含有溶液、好ましくはホウ酸含有水のホウ酸除去処理、又はホウ酸の回収を行うことができる。このようなホウ酸含有溶液の処理方法、およびホウ酸の回収方法は以下の図のようにして行うことができる。
【0025】
【化7】

【0026】
始めに、ホウ酸結合原理を説明する。固定化されたシロ−イノシトール基は、通常状態では6つの水酸基は全て、エカトリアル方向に配位している。ここに、水酸化された軽金属例えば、NaOHまたはKOHなどで、pH5.5以上、好ましくはpH8〜10に調整されたホウ酸を含有する溶液を作用させると、6つの水酸基をアキシャル方向に配位し、2分子のホウ酸と結合する。結合後のシロ−イノシトール基は、ホウ酸に由来する2価の陰イオンになり、酸性度は強くなり、陽イオンを結合することができる。また、この反応は吸熱反応であり、ホウ酸結合時の温度は高い方が良く、20〜120℃、好ましくは50〜70℃が望ましい。さらに、Na+などのカウンター陽イオンを含むことにより、より結合し易くなる。その際に使用されるカウンター陽イオン源としては、好ましくはNaCl、KCl、MgCl2、CaCl2などが例示されるが、特にこれらの金属イオンを含む塩の組み合わせに限定されない。濃度は0.01〜2000mM、好ましくは10〜600mMが望ましい。
【0027】
次に遊離原理について説明する。遊離は、溶液のpHを酸で酸性にすることにより、速やかにホウ酸が放出される。使用する酸は、好ましくは塩酸や、硫酸などの鉱酸が望ましい。この時、2分子のホウ酸と結合していた6つの水酸基(アキシャル方向に配位)は、エカトリアル方向に配位する。
【0028】
以上より、ホウ酸含有水の前処理として、少なくとも、pH5.5以上、好ましくはpH8〜10に調整する必要がある。
このように調整されたホウ酸含有水から、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を用いて、ホウ酸を結合、遊離させる方法は、バッチ式、カラム式の2種類が考えられる。
【0029】
バッチ式は、ホウ酸含有水と、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を混合し、必要ならば加熱し、ホウ酸を結合させ、ろ過により、ホウ酸が除去された水を得る方法である。さらに、遊離させる方法は、ろ過により得られたホウ酸を結合した当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を、酸性溶液と混合し、溶液中にホウ酸を遊離・溶解し、ろ過することによりなされる。これにより、ホウ酸が遊離した当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を得ることができる。この方法は結合時の液のpHが結合と共に酸性度が増加することを防ぐための、アルカリの添加が調整し易いため、高濃度のホウ酸を処理するのに有効である。
【0030】
カラム式は、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を詰めた中に、必要ならば加熱したホウ酸含有水を通過させ、通過溶出するホウ酸が除去された水を得る方法である。さらに、遊離させる方法は、ホウ酸を結合した当該高分子、樹脂、またはゲル状物質が詰まったカラムに、酸性溶液を通過させ、溶液中にホウ酸を遊離させ、通過溶出することによりなされる。これにより、ホウ酸が遊離した当該高分子、樹脂、またはゲル粒子を得ることができる。この方法は、溶液を通過させるだけの方法であるため、結合時のpHの変化が低い低濃度のホウ酸を処理するのに有効である。
【0031】
さらに、ホウ酸を含有する溶液として、海水を用いると、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を利用して、ホウ酸を海水から製造することが可能である。海水のホウ酸濃度は
0.4〜0.5mM、pH7.5〜8.5、NaCl濃度が約580mMであり、前述したホウ酸含有水としての条件を満たしており、前処理することなく、ホウ酸含有水として使用できる。海水から、当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を用いて、ホウ酸を結合、遊離させる方法は、前述したバッチ式、カラム式の2種類考えられ、いずれの方法もホウ酸の回収について有効であるが、樹脂の再生や取り扱いにおいて、カラム式の方が優れている。
【0032】
あらかじめ、微粒子を除去した海水を20〜120℃、好ましくは50〜70℃に加温し、これを当該高分子、樹脂、またはゲル状物質を充填した同温のカラムに通過させ、ホウ酸を結合させる。結合後、酸性溶液、好ましくは塩酸や、硫酸などの鉱酸水溶液を通過させて、ホウ酸を溶出させる。溶出液を濃縮し、ホウ酸を結晶の形で単離できる。
【0033】
[実施例]
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0034】
シロ−イノシトール固定化用の誘導体である1−C−アリル−シロ−イノシトールの製造方法
スプレードライで乾燥されたシロ−イノソース20g(0.112mol)を1000ml容三つ口フラスコに入れ、ピリジン63ml、酢酸エチル70mlからなる混合溶媒を加えて、攪拌・懸濁し、70℃まで加温した。この溶液にトリメチルシリルクロライド86mlを滴下した。滴下終了後、攪拌下、2時間70℃に保温して反応させた。反応終了後、ヘキサン300mlを加えて、攪拌し、析出する塩をろ過した。ろ液を分液漏斗にいれ、まず5%重曹水200ml、次いで水200mlのそれぞれでヘキサン層を洗浄した。ヘキサン層を取りだし、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濃縮後、粗シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体55.0g(0.102mol)を得た(収率91%)。
【0035】
このようにして得た粗シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体30g(55.5mmol)を1000ml容三つ口フラスコに入れ、脱水THF 180mlを加えて溶解した。この溶液に2Mのアリルマグネシウムクロライド/THF溶液57mlを滴下した。滴下終了後、攪拌下、2時間室温で反応させた。反応終了後、水12mlを滴下し、過剰のアリルマグネシウムクロライドを分解した。反応液を濃縮後、次にヘキサン300mlを加えて、攪拌し、析出する塩をろ過した。ろ液を分液漏斗にいれ、まず5%重曹水100ml、次いで水100mlのそれぞれでヘキサン層を洗浄した。ヘキサン層を取りだし、1000ml容ナスフラスコに入れ、濃塩酸1ml、メタノール15mlを加えて、室温で攪拌すると、白色の1−C−アリル−シロ−イノシトールと、2−C−アリル−ミオ−イノシトールの混合物が析出した。この懸濁液をろ過し、固体をエタノールで洗浄後、乾燥し、1−C−アリル−シロ−イノシトールと、2−C−アリル−ミオ−イノシトールの混合物10.2g(46.4mmol)を得た(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体からの収率83%)。
HPLC分析から、得られた1−C−アリル−シロ−イノシトールと、2−C−アリル−ミオ−イノシトールの混合比率は52:48であることが判った。
HPLC分析条件は、カラム:Wakosil NH2カラムφ4.6×250mm、カラム温度:20℃、移動層:80%アセトニトリル、流速:2ml/min、検出:RI検出器で行なった。この条件で、2−C−アリル−ミオ−イノシトールは10.2minに、1−C−アリル−シロ−イノシトールは10.6minに検出される。
【0036】
次に、混合物9g(40.9mmol)を300ml容ナスフラスコに入れ、水100mlを加えて溶解し、これにホウ酸5.6g(90.3mmol)を、5規定NaOHでpH9.5に合せながら溶解させた。この溶液を70℃30min加熱し、室温まで冷却後、強塩基性イオン交換樹脂200mlカラムを通過させた。この通過液には2−C−アリル−ミオ−イノシトールが含まれる。次に、カラムに、1規定塩酸溶液250mlを通過させ、1−C−アリル−シロ−イノシトールホウ酸複合体を溶出させた。溶出溶液を濃縮し、濃縮物にメタノールを加えてさらに濃縮する操作を3回行って、酸性で遊離するホウ酸をメタノールで共沸させて除去した。最後に濃縮物に水100mlを加えて溶解し、この溶液を、強酸性イオン交換樹脂200mlカラム、強塩基性イオン交換樹脂400mlカラムを通過させ、NaClを除去した。通過液を20mlまで濃縮し、これにエタノールを100ml加えて、1−C−アリル−シロ−イノシトールを結晶析出させた。得られた1−C−アリル−シロ−イノシトールは4.01g(18.2mmol)であった(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体からの収率37%)。また、2−C−アリル−ミオ−イノシトールは同様に強酸性イオン交換樹脂カラム、強塩基性イオン交換樹脂カラムを通過させ、ホウ酸、ナトリウムイオンを除去した後、濃縮し、エタノールから結晶析出させ、2−C−アリル−ミオ−イノシトール4.2g(19.1mmol)を得た(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体からの収率39%)。
【0037】
1−C−アリル−シロ−イノシトール(式III)
外観:白色粉末
溶解性:水に可溶
分子量:EI-MS m/z 220 (M+
1H−NMR(D2O):δ5.99ppm(1H)、5.01ppm(2H)、3.37ppm(2H)、3.31ppm(2H)、3.22ppm(1H)、2.29ppm(2H)
【0038】
【化8】

【0039】
2−C−アリル−ミオ−イノシトール(式IV)
外観:白色粉末
溶解性:水に可溶
分子量:EI-MS m/z 220(M+
1H−NMR(D2O):δ5.69ppm(1H)、5.09ppm(2H)、3.43ppm(2H)、3.18ppm(2H)、3.07ppm(1H)、2.39ppm(2H)
【0040】
【化9】

【実施例2】
【0041】
1−C−アリル−シロ−イノシトールを用いたホウ酸選択的結合ゲル粒子の製造方法
プラスチック容器中で、1−C−アリル−シロ−イノシトール4g(18.2mmol)、アクリルアミド4g(56.3mmol)、N,N−メチレン−ビスアクリルアミド240mg(1.6mmol)、過硫酸アンモニウム400mgを水に溶解し、溶液量18mlになるように調製した溶液に、TEMED(N,N,
N',N'−テトラメチルエチレンジアミン)40μlを加えてすばやく混合すると、直ちに発熱してゲル状に重合した。このゲル状物質を取りだし、0.5mmステンレスメッシュ上で押し出し、約0.2〜0.5mmのゲル粒子を得た。このゲル粒子を水で洗浄、透析し、シロ−イノシトールを官能基として導入されたゲル粒子を調整した。
HPLC分析から、洗浄、透析溶液中に含まれる1−C−アリル−シロ−イノシトールは、2.72gであることから、ゲル粒子18ml中には、1.28gの1−C−アリル−シロ−イノシトールが取りこまれたことが判った。HPLC条件は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0042】
シロ−イノシトール固定化用の誘導体である1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールの製造方法
実施例1と同様の方法で得た粗シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体30g(55.5mmol)を1000ml容三つ口フラスコに入れ、脱水THF 180mlを加えて溶解した。この溶液に1.3Mのp−ビニルベンジルマグネシウムクロライド/ジエチルエーテル溶液62mlを滴下した。滴下終了後、攪拌下、2時間室温で反応させた。反応終了後、水12mlを滴下し、過剰のp−ビニルベンジルマグネシウムクロライドを分解した。反応液を濃縮後、次にヘキサン300mlを加えて、攪拌し、析出する塩をろ過した。ろ液を分液漏斗にいれ、まず5%重曹水100ml、次いで水100mlのそれぞれでヘキサン層を洗浄した。ヘキサン層を取りだし、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濃縮後、液状の1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物39.0gを得た。
得られた1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物は、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体と、2−C−p−ビニルベンジル−ミオ−イノシトールペンタトリメチルシリル体が生成すると考えられるが、NMR分析の結果、立体選択的に1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体が生成していた。
液状の1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物39.0gをヘキサン300mlに溶解し、1000ml容ナスフラスコに入れ、濃塩酸1ml、エタノール15mlを加えて、室温で攪拌すると、白色の1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールが析出した。この懸濁液をろ過し、固体をエタノール・ヘキサン(1:1)混合液で洗浄後、乾燥し、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトール13.1g(44.2mmol)を得た(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体からの収率79.4%)。
【0043】
1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトール(式V)
外観:白色粉末
溶解性:水に難溶、DMSO、エチレングリコールに可溶
分子量:EI-MS m/z 296 (M+
1H−NMR(D2O):δ7.29ppm(4H)、6.64ppm(1H)、5.70ppm(1H)、5.15ppm(1H)、3.44ppm(2H)、3.30ppm(2H)、3.22ppm(1H)、2.94ppm(2H)
【0044】
【化10】

【実施例4】
【0045】
1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールを用いたホウ酸選択的結合ゲル粒子の製造方法
プラスチック容器中で、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトール5.4g(18.2mmol)、アクリルアミド4g(56.3mmol)、N,N−メチレン−ビスアクリルアミド240mg(1.6mmol)に、液量が16mlになるようにエチレングリコールを加えて50℃で溶解し、これに5%になるようにAIBN(2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))を溶解させたエチレングリコール2mlを混合し、直ぐに、この溶液を90℃に加熱し、ゲル状に重合させた。このゲル状物質を取りだし、0.5mmステンレスメッシュ上で押し出し、約0.2〜0.5mmのゲル粒子を得た。このゲル粒子を水で洗浄、透析し、シロ−イノシトールを官能基として導入されたゲル粒子を調整した。
洗浄溶液中に含まれる1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールは、洗浄溶液のTLC分析結果から、ゲル粒子18ml中に、定量的に1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールが取りこまれたことが判った。
TLC分析は、シリカゲルTLCプレート(蛍光剤入り)を用い、クロロホルム:メタノール:水=5:5:1の展開溶媒で展開し、乾燥後、紫外線照射(254nm)における、Rf値0.72のスポットの大きさを比較した。
【実施例5】
【0046】
シロ−イノシトール固定化用の誘導体である1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールの製造方法
実施例1と同様の方法で得た粗シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体30g(55.5mmol)を1000ml容三つ口フラスコに入れ、脱水THF 180mlを加えて溶解した。この溶液に1.5Mのp−ビニルフェニルマグネシウムクロライド/THF・トルエン(1:1)混合溶液48mlを滴下した。滴下終了後、攪拌下、2時間室温で反応させた。反応終了後、水12mlを滴下し、過剰のp−ビニルフェニルマグネシウムクロライドを分解した。反応液を濃縮後、次にヘキサン300mlを加えて、攪拌し、析出する塩をろ過した。ろ液を分液漏斗にいれ、まず5%重曹水100ml、次いで水100mlのそれぞれでヘキサン層を洗浄した。ヘキサン層を取りだし、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濃縮後、液状の1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物37.5gを得た。
得られた1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物は、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体と、2−C−p−ビニルフェニル−ミオ−イノシトールペンタトリメチルシリル体が生成すると考えられるが、NMR分析の結果、立体選択的に1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体が生成していた。
液状の1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールペンタトリメチルシリル体の粗精製物37.5gをヘキサン300mlに溶解し、1000ml容ナスフラスコに入れ、濃塩酸1ml、エタノール15mlを加えて、室温で攪拌すると、白色の1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールが析出した。この懸濁液をろ過し、固体をエタノール・ヘキサン(1:1)混合液で洗浄後、乾燥し、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール12.5g(44.3mmol)を得た(シロ−イノソースペンタトリメチルシリル体からの収率79.5%)。
【0047】
1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール(式VI)
外観:白色粉末
溶解性:水に難溶、DMSO、DMF、エチレングリコールに可溶
分子量:EI-MS m/z 282 (M+
1H−NMR(D2O):δ7.39ppm(4H)、6.67ppm(1H)、5.75ppm(1H)、5.20ppm(1H)、3.67ppm(2H)、3.58ppm(2H)、3.37ppm(1H)
【0048】
【化11】

【実施例6】
【0049】
1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールを用いたホウ酸選択的結合ゲル粒子の製造方法
プラスチック容器中で、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール5.1g(18.2mmol)、アクリルアミド4g(56.3mmol)、N,N−メチレン−ビスアクリルアミド240mg(1.6mmol)に、液量が16mlになるようにエチレングリコールを加えて50℃で溶解し、これに5%になるようにAIBN(2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))を溶解させたエチレングリコール2mlを混合し、直ぐに、この溶液を90℃に加熱し、ゲル状に重合させた。このゲル状物質を取りだし、0.5mmステンレスメッシュ上で押し出し、約0.2〜0.5mmのゲル粒子を得た。このゲル粒子を水で洗浄、透析し、シロ−イノシトールを官能基として導入されたゲル粒子を調整した。
洗浄溶液中に含まれる1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールは、TLC分析結果から、ゲル粒子18ml中に、定量的に1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールが取りこまれたことが判った。
TLC分析は、シリカゲルTLCプレート(蛍光剤入り)を用い、クロロホルム:メタノール:水=5:5:1の展開溶媒で展開し、乾燥後、紫外線照射(254nm)における、Rf値0.66のスポットの大きさを比較した。
【実施例7】
【0050】
シロ−イノシトールを官能基として導入されたゲル粒子によるホウ酸の結合と遊離
実施例2、実施例4および実施例6で製造されたゲル粒子を用いてのホウ酸の結合は以下の様に行なった。
シロ−イノシトールを官能基として導入された3種類のゲル粒子(1−C−アリル−シロ−イノシトールを用いて製造したゲル粒子を“SI-Alゲル”、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールを用いて製造したゲル粒子を“SI-Blゲル”、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールを用いて製造したゲル粒子を“SI-Plゲル”と略す。)をシロ−イノシトール換算で5.8mmol含む様に、100mlビーカーに入れた。各ゲル粒子の嵩は、SI-Alゲル粒子は37ml、SI-Blゲル粒子は13ml、SI-Plゲル粒子は33mlであった。
次に、これらのビーカーに50mlのホウ酸含有水を入れた。この「ホウ酸含有水」はホウ酸200mM(10mmolホウ酸を含有する)、NaCl 300mM、pH9.5(5規定NaOHで調整)の組成を有する。この溶液をメカニカルスターラーでゆっくりと加温しながら攪拌し、70℃で2時間結合させた。その後、室温まで戻し、ろ過を行ない、ろ液をpH9.5に5規定NaOHで調整し、この溶液を「処理水」とした。残ったゲル粒子は、それぞれ、水で洗浄した。洗浄後、ゲル粒子を、それぞれ、ビーカーに入れて、これに50mlホウ酸溶離液(0.2規定塩酸)を入れた。この溶液をメカニカルスターラーでゆっくりと室温で攪拌し、30min間遊離させた。その後、ろ過を行ない、ろ液をpH9.5に5規定NaOHで調整した溶液を「ホウ酸回収
水」とした。
【0051】
このようにして調整された溶液のホウ酸濃度を、JIS規格のホウ素測定方法である、アゾメチンH吸光度測定方法にて定量した。
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

結果として、供試したゲル粒子のいずれもが、ホウ酸を結合し、検出限界である0.01mM(ホウ素として0.11ppm)までホウ酸濃度を低下させることができることが判る。また、酸によりホウ酸を遊離することが可能であることが判る。
【実施例8】
【0053】
シロ−イノシトールを官能基として導入されたゲル粒子による海水からのホウ酸の回収
実施例6と同様の方法で、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールを用いて製造したゲル粒子92ml(シロ−イノシトール換算で16mmol:“SI-Plゲル”と略す。)を、直径4cm、長さ25cmのカラムに入れて、これに0.45μmのファイルターを通した50Lの海水をカラム温度70℃にて、流速0.5ml/minにて通過させた。使用した「海水」はホウ酸0.42mM(21mmolホウ酸を含有する)、NaCl 475mM、pH8.7の組成を有した。70hr後、通過した溶液を室温まで冷却し「処理水」とした。次にカラム中のゲル粒子を300mlの水でで洗浄した(室温、0.5ml/min)。洗浄後、カラム中のゲル粒子に、100mlホウ酸溶離液(0.2規定硫酸)を通過させた(室温、0.5ml/min)。その後、通過した溶液を一部取り、pH8.7に5規定NaOHで調整した溶液を「ホウ酸回収水」とした。
【0054】
このようにして調整された溶液のホウ酸濃度を、JIS規格のホウ素測定方法である、アゾメチンH吸光度測定方法にて定量した。
結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

結果としてゲル粒子が、ホウ酸を結合し、酸によりホウ酸を遊離していることが判る。
次に、ホウ酸を回収した水溶液を15mlまで濃縮し、20℃に置くと、ホウ酸が析出した。析出したホウ酸をろ過し、乾燥後、781mgのホウ酸を得た。このように、海水50Lから781mgのホウ酸を得ることができることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸結合能力を有するシロ−イノシトールが官能基として導入された高分子、樹脂、またはゲル状物質。
【請求項2】
シロ−イノシトールの炭素骨格に結合する少なくとも1つの水素が、シロ−イノシトールを固定化用担体に結合させるためのリンカー分子に置換されたシロ−イノシトール誘導体。
【請求項3】
次の一般式(I)で表される請求項2記載のシロ−イノシトール誘導体。
【化1】

【請求項4】
請求項2または3記載のシロ−イノシトール誘導体を、担体となる物質に共有結合させるか、あるいは該誘導体を高分子重合用モノマー分子と重合させることによって得られる、シロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体。
【請求項5】
担体が高分子、樹脂、またはゲル状物質である、請求項4に記載のホウ酸選択的結合担体。
【請求項6】
請求項4または5記載のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させて除去する工程を含む、ホウ酸含有溶液の処理方法。
【請求項7】
請求項4または5記載のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させ、結合したホウ酸を回収する工程を含む、ホウ酸の回収方法。
【請求項8】
ホウ酸含有溶液が海水であることを特徴とする、請求項7記載のホウ酸の回収方法。
【請求項9】
請求項4または5記載のシロ−イノシトール基を有するホウ酸選択的結合担体に、ホウ酸含有溶液を通過させるか、または、バッチ式で接触させることにより、ホウ酸を選択的に結合させ、結合したホウ酸を回収する工程を含む、ホウ酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−169384(P2006−169384A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364203(P2004−364203)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】