説明

ボールボンディング用金被覆銅ワイヤ

【課題】パラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおいて、連続伸線時のPd粉の堆積を低減してとダイヤモンドダイスの磨耗を抑制すると共に、軸上偏芯を低減し、安定した溶融ボール形成を可能とする。
【解決手段】高純度銅又は銅合金からなる芯材に純度99質量%以上のパラジウムからなる中間層及びその上層に純度99.9質量%以上であって、該中間層のパラジウムよりも硬度及び融点の低い、金、銀、銅又はこれらの合金からなる、膜厚1〜9nmの超極薄表面層を形成した、線径10〜25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤ。表面層によりパラジウムを被覆して潤滑性を向上して図3のパラジウム粉の堆積による伸線加工時の断線を防止し、かつ、軸上偏芯を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と回路配線基板の配線とをボールボンディングで接続するために用いられる被覆銅ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部端子との間をボールボンディングで接合するボンディングワイヤとして、線径15〜30μm程度の金線が主に使用されている。しかしながら、近年の金地金価格の高騰によってこれまでの高純度4N系(純度が99.99質量%以上)の金線に替わり、10〜25μm程度の銅線の利用が注目されており、特に、高密度実装上の要請から、より小径の10〜20μm程度の銅(Cu)ワイヤが求められ始めている。
【0003】
この銅線も金線と同様の利用分野が考えられており、例えば、実装構造では、現行のリードフレームを使用したQFP(Quad Flat Packaging)に加え、基板、ポリイミドテープ等を使用するBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Scale Packaging )等の新しい形態への応用が検討され、ループ性、接合性、量産使用性等をより向上したボールボンディングで接合するボンディングワイヤが求められている。
【0004】
他方、銅線ボンディングワイヤの接合相手となる電極などの材質も金線の場合と同様であって、シリコン基板上の配線、電極材料としては、従来のアルミニウム(Al)に加えて、より微細配線に好適な高純度の銅(Cu)が実用化されている。また、リードフレーム上には銀(Ag)メッキ、金(Au)メッキ、ニッケル(Ni)メッキ上のパラジウム(Pd)メッキ等が施されており、また、樹脂基板、テープ等の上には、銅(Cu)配線が施され、その上に金(Au)等の貴金属元素及びその合金の皮膜が施されている場合が多い。こうした種々の接合相手に応じて、銅(Cu)ワイヤの接合性、接合信頼性を向上することが求められる。
【0005】
当初の銅(Cu)ワイヤは、高純度3N〜6N系(純度が99.9質量%以上〜純度99.9999質量%以上。)の銅(Cu)線の使用が考えられた、しかし、銅線は酸化され易い欠点がある。このため、CuやCu-Sn等の芯材の外周に0.002〜0.5μmのPd、Pd-Ni、Pd-Co等の被覆層を設けて、耐食性並びに硬度を改良する提案がなされている(特許文献1)。
また、銅ボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ方法として、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、クロム、チタンなどの貴金属や耐食性金属で銅を被覆したボンディングワイヤが提案されている(特許文献2、特許文献3参照。)。
【0006】
このうち、パラジウム(Pd)を被覆した銅(Cu)ワイヤは、還元性の窒素雰囲気中で溶融ボールを形成すると安定した真球ボールを形成するが、ダイス寿命が短いので、表層に0.02μm(20nm:特許文献3の段落0020〜0021参照。)の金(Au)メッキをして用いている。
他方、セカンドボンドを接合して引きちぎった後のボールアップに際して、銅(Cu)又は銅合金の芯材の酸化による不都合を回避するため、銅(Cu)にリン(P)を添加し、表層に0.015μm(15nm:特許文献4、段落0026、表1の実施例8参照。)の金(Au)メッキをすることで、良好な真球状のボールを形成できる被覆ワイヤも開発されている。しかし、これらのワイヤは、後記するように「軸上偏芯」が発生するという新たな問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭60−160554号公報
【特許文献2】特開昭62−97360号公報
【特許文献3】特開2005−167020号公報
【特許文献4】特許第4203459号公報
【特許文献5】特許第4349641号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】改森信吾ほか、「ハイブリッドボンディングワイヤーの開発」“SEIテクニカルレビュー”第169号−47,2006年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来(2007年当時)のワイヤボンディングにおける銅(Cu)ワイヤや銅(Cu)芯材にパラジウム(Pd)を被覆したワイヤの線径は30μmオーダーのものが主体であって、ボンディングパッド間のピッチはそれに応じて広いものであった。しかし、近年は高密度実装の進展に伴ってボンディングワイヤの細線化と共に微細なパッドとパッド間のファインピッチ化が進められ、ボンディングワイヤに形成される溶融ボールが真球であること、及び溶融ボールがパッドに対して圧着した形状が真円であることが強く求められるようになっている。
これらの条件が満たされないと、接合された溶融ボールが微細化されたパッド上に収まらず、また接合信頼性が確保されないからであるが、ここでこれらの材質のボンディングワイヤにおいて、溶融ボールの「軸上偏芯」という新たな問題が取り上げられるようになってきた。
「軸上偏芯」は、ボンディングワイヤ先端に形成される溶融ボールの形状が真球か否かというボール形状ではなく、形成された溶融ボールがボンディングワイヤの中心線上からずれる現象をいい、その形状が真球であるか、否かによらず発生し、著しい不具合の原因となる。
すなわち、「軸上偏芯」が発生すると接合されるパッドに対して接合する位置がずれて定まらず、設定されたファインピッチに収まらないのみか、接合の信頼性も得られない。また、「軸上偏芯」の程度の大小のみでなく、その大きさにバラツキがあれば、そのバラツキの幅、程度に応じてパッドの接合面積やピッチを定めなければならない。
無論、この「軸上偏芯」の発生したボンディングワイヤを用いて溶融ボールをパッドに対してボンディングして接合すること自体が困難であり、このため、本発明は「軸上偏芯」の抑制及びそのバラツキの低減を本発明の課題とする。
また、これらのパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤにおいて、その伸線加工に伴って、ワイヤ表面にパラジウム(Pd)粉が堆積し、ワイヤ断線が発生すると共にダイヤモンドダイスの磨耗が著しく進行して、銅(Cu)のみの無被覆ワイヤの場合の5分の一以下のダイス寿命となることが新たな問題となり、本発明はこれらワイヤの伸線加工時のパラジウム(Pd)粉の発生、堆積の解消とダイス磨耗を低減する被覆銅ワイヤの提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した、銅(Cu)ワイヤの「軸上偏芯」の抑制、バラツキ低減とワイヤ伸線時のパラジウム(Pd)粉の堆積及びダイス磨耗の低減という、本発明の課題はそれぞれワイヤの構成上相互に関連する。
溶融ボールの真球性の不良は、溶融ボールが形成される段階で酸化することに起因すると考えられる。事実、線径25μmのパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤの表面層として20nm厚さの金(Au)層を形成したワイヤに大気中で溶融ボールを形成すると、即座に溶融ボールが槍状となるが、不活性ガスや不活性ガスと還元性ガスの混合ガス中で溶融ボールを形成する場合には真球性の高い溶融ボールが形成される。
一方、軸上偏芯は、同じく径25μmのパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤの表面層として20nm厚さの金(Au)層を形成したワイヤは、還元性雰囲気中でも溶融ボールを形成すると軸上偏芯が発生するが、表面層の金(Au)被覆がない場合には、不活性ガスや不活性ガスと還元性ガスの混合ガス中で軸上偏芯は発生しない。
このことから、溶融ボールの真球性と軸上偏芯の発生とは其のメカニズムが異なると考えられる。
詳しいメカニズムは判明していないが、軸上偏芯については、表面層の金(Au)は展延性が高いため、第2ボンディング(2nd接合)後にワイヤを引きちぎる際にワイヤ切断部の金(Au)表面層のみが大きく延伸し、中間層のパラジウム(Pd)や芯材の銅(Cu)はこの伸びに追従できないため、金(Au)表面層とパラジウム(Pd)中間層の境界面で金(Au)表面層の不均一な突出構造が出現する。そして、次の溶融ボール形成時にこの構造のために溶融時の温度の伝わり方の不均一さ、不均一な溶融の進行を伴ってその結果軸上偏芯が発生すると考えている。また、一方で溶融ボールの形状自体は酸化されない雰囲気下では溶融状態の表面張力の作用が働くため、真球状の溶融ボールが形成されると考えられる。
この課題について、本発明者らが研究した結果、パラジウム(Pd)被覆銅ワイヤにおいて、パラジウム(Pd)被覆層の上に金(Au)等のパラジウム(Pd)よりも展延性があり、かつ低融点の金属からなる9nm以下の極く薄い表面被覆層を設けることによって「軸上偏芯」が発生しなくなることを見出した。
【0011】
本発明者らは、次に伸線加工中のパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤの断線とダイスの異常磨耗を抑制することについて、パラジウムを被覆した銅ワイヤにおいては伸線加工中にパラジウム粉がワイヤに堆積することに伴って特徴的な断線が発生することに気が付き、このパラジウム粉の発生を制御することによってダイス磨耗を抑制できると考えた。
一般的な銅(Cu)ワイヤの伸線加工に伴う破断モードは、図1(かぶり)に示すように線材表面にかぶりの打痕点ないし薄片が連続した後で破断したり、酸化物やカーボンなどの異物が線材中に混入して図2(異物)に示すように伸線中にそのカッピー(cuppy)欠陥箇所から破断する。これに対して、パラジウム(Pd)被覆銅ワイヤは、伸線加工中にダイヤモンドダイスの案内口でパラジウム(Pd)が削り取られてワイヤに堆積していくという現象を伴う。
そして、このパラジウム(Pd)堆積量がある程度の量まで蓄積されると、伸線加工中ワイヤの引き抜き力が増大するため、銅(Cu)ワイヤが摩擦抵抗力に耐えられなくなって、図3(堆積)に示すように引きちぎられるような態様で断線する。また、この断線モードは、一般的な銅(Cu)ボンディングワイヤではほとんど確認されたことがない。パラジウム粉は、数μm以下の細かい粒子からなっており、また、パラジウムは硬いことから、伸線加工中に研磨剤のような作用をし、ダイヤモンドダイスを磨耗させる要因となっていると考えられる。このことから、パラジウム粉の堆積が伸線加工中の断線を引き起こしている主原因であり、結果的にダイヤモンドダイスの異常磨耗の原因にもなっていると考えられる。
【0012】
本発明者らの研究によればパラジウム被覆銅ワイヤの表面にさらに金(Au)被覆を形成したボンディングワイヤの場合には、このような伸線加工中のパラジウム粉の堆積現象や断線は起こらないばかりか、ダイヤモンドダイスの異常な磨耗も生じていない。
このことは、パラジウム(Pd)は、金(Au)と比較して潤滑液の濡れ性が悪いのに対して、その上に表面層として金層を形成することによって、パラジウムよりも潤滑液との濡れ性が改善されることによると考えられる。また、金(Au)自体がパラジウム(Pd)中間層全体を覆っているため、展延性のよい金層が介在することにより加工性を向上しているとも考えられるが、後述するように、金層の厚さは極めて薄く(1〜9nm)てよいことから、潤滑性などの表面の改質効果が大きいとも考えられる。
このような伸線加工中の破断モードは、連続伸線工程において最終のボンディングワイヤ径が細くなればなるほど多く発生し、また、伸線工程の断面減少率を大きくすればするほど多く発生する。さらに、最終伸線速度が600m/分以下であれば伸線加工中にワイヤの振動が生じにくいので断線頻度は少なくなる。
【0013】
ところで、前記の課題はそれぞれ相互に関連し、「軸上偏芯」の抑制という面からは前記したようにパラジウム被覆銅ワイヤにおいて、金(Au)層を表面層として形成することは「軸上偏芯」発生の原因ともなっているのであり、一方、伸線加工工程におけるパラジウム粉発生を伴う断線やダイス磨耗の抑制という面から、このパラジウム(Pd)中間層の表面に金(Au)被覆層が必要となることがわかった。
そもそもパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤにおいて最上層に金(Au)被覆を行うことは、前述の先行技術文献5(特許第4349641号公報)にもあるようにワイヤボンディングの第二ボンディング(2nd接合)後の切断されたワイヤ端面を被覆して酸化を防止するものであった。
このため、銅、パラジウムよりもいち早く溶融して、被覆効果を発揮する厚さとして、0.005〜0.1μm(5〜100nm)とし、これと合金化するパラジウム中間層の厚さを0.005〜0.2μmとし、表皮層の厚さが中間層の厚さよりも薄い、としている。
また、前述の特許文献3(特開2005−167020号公報)によれば、銅ワイヤにパラジウム層を形成することによって伸線性を向上し、ダイス磨耗を低減できること、さらにパラジウム層の上に金表皮層を被覆層よりも薄く形成することによってこれらの効果が向上することが記載されている。
該金表皮層の膜厚については、その実験例4で0.02μm(20nm)であるが、ワイヤ径の0.002倍以下、より好ましくは0.001倍以下の厚さであって、使用ワイヤ径が15〜40μmであるから、15〜40nmとなるが、段落0021に、溶融ボールの真球性との関係でその厚さが厚いと溶融ボールが槍状になり、良好なボールが形成されないことが挙げられており、上記の厚さが上限となるが、一方、「伸線性」からは下限が想定されるもののその記載はなく、また、本発明の課題とする「軸上偏芯」に関して言及はない。
【0014】
本発明においては、これらの課題を両立して達成することが求められる。
前記したように「軸上偏芯」に関して、金表面層の厚さは、線径25μmのパラジウム(Pd)被覆銅ワイヤに対して金表面層厚さ20nmでは解決せず、後述するように9nm以下の厚さとして始めて達成できた。
また、Pd粉発生を伴う、伸線加工時の断線、ダイヤモンドダイスの磨耗低減の課題は、金表面層の厚さが、1nm以上あれば達成できる。
すなわち、本発明は、パラジウム被覆銅ワイヤにおいて、最上層として厚さの範囲が1〜9nmの金層を形成することによって上記課題を達成する。
さらにこれらのメカニズムから、最表面の金(Au)の働きは、その展延性がパラジウムよりも高いこと、及びパラジウムよりも融点が低いという性質によって達成できたものであり、同様の性質を備えた金属が適用可能であることが解る。具体的には、このような金属として、銀(Ag)や銅(Cu)の単体金属や金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、あるいはパラジウム(Pd)と組み合わせてこれらの性質を持たせた合金が考えられる。
【0015】
本発明のボールボンディング用被覆銅ワイヤの具体的構成は、次のとおりである。
(1) 銅(Cu)又は銅合金からなる芯材、パラジウム(Pd)からなる中間被覆層(以下、中間層という。)、及び表面被覆層(以下、表面層という。)からなる、連続伸線加工されたワイヤ径10〜25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤであって、
該パラジウム(Pd)中間層の膜厚がワイヤ径の0.001〜0.02倍であり、
該表面層が中間層のパラジウム(Pd)の融点よりも低融点であって、かつ硬さの低い、金(Au)、銀(Ag)又は銅(Cu)からなる膜厚1〜9nmの被覆層であるボールボンディング用銅被覆ワイヤである。
(2) さらに、上記表面層の膜厚が上記中間層の1/8以下であり、
(3) 上記ワイヤ径が10〜20μmであって、表面層の膜厚が2〜7nmであり、
(4) 上記パラジウム(Pd)中間層が湿式メッキにより形成されたものであり、
(5) 上記表面層が室温下のスパッタリング法により形成されたものであり、
(6) 上記中間層が純度99質量%以上のパラジウム(Pd)であり、
(7) 上記表面層が純度99.99質量%以上の金(Au)、純度99.99以上の銀(Ag)、又は純度99.99質量%以上の銅(Cu)であり、
(8) 上記芯材が純度99.9質量%以上の銅(Cu)であり、
(9) 上記芯材が0.5〜99質量ppmのジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、チタン(Ti)の少なくとも一種を含み、残部が純度99.99質量%以上の銅(Cu)からなり、
(10)芯材が0.5〜99質量ppmのジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、チタン(Ti)の少なくとも一種を含み、1〜500質量ppmのリン(P)と残部が純度99.99質量%以上の銅(Cu)からなり、
(11)芯材が1〜80質量ppmのリン(P)と残部が純度99.99質量%以上の銅(Cu)からなる、ことを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ワイヤ径10〜25μmに対して金(Au)などからなる表面層の膜厚が1〜9nmと極めて薄いため、溶融ボールの真球性に影響を与えることがなく、パラジウム(Pd)被覆銅ワイヤと同様に扱うことができると共に、軸上偏芯を抑制し、さらにパラジウム(Pd)粉の堆積を伴う、伸線加工時の断線やダイヤモンドダイスの異常磨耗を大幅(1/5以下)に抑制することができた。
また、軸上偏芯は抑制され、そのバラツキも小さいため、ファインピッチのボンディングパッドに対応することが可能であり、更にボンディングの接合信頼性が著しく向上し、
今後の電子デバイスにおける微細化に伴う要請に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、銅ボンディングワイヤの代表的な欠陥例であるかぶり欠陥により破断した状態を示す。
【図2】図2は、銅ボンディングワイヤの代表的な欠陥例である異物欠陥により破断した状態を示す。
【図3】図3は、銅ボンディングワイヤに対するPd粉の堆積により破断した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の被覆銅ワイヤで、表面層の理論的な膜厚の上限は9nmであり、より好ましくは7nm以下である。ここで、「理論的な膜厚」とは、これらの極めて薄い被覆層を全表面にわたって直接測定することは極めて困難であるため、連続伸線前の湿式めっきやスパッタリングによって形成した被覆層の膜厚から、伸線加工後の値を比例計算して求めたものを明細書において「理論的な」膜厚と表現した。この「理論的な膜厚」を求める比例定数は、ボンディングワイヤとしての連続伸線加工の終了後の線径を連続伸線加工開始前の線径で除した値である。
表面層の膜厚は薄ければ薄いほど、表面層の膜厚に起因した軸上偏芯とそのバラツキを低く抑えることができるが、ダイヤモンドダイスに対する潤滑作用など、前記のダイスの異常磨耗に対する効果がなくなるため、1nmを下限とする。
好ましくは、この値は2nm以上であり、より好ましくは4nmである。
ダイヤモンドダイスの伸線磨耗や異常磨耗を避けるため、連続伸線は水溶液中で冷却し、かつ、一定速度(連続伸線の最終伸線速度が30〜600m/分)で行うことが好ましい。伸線速度がこの範囲を超えて速すぎると、伸線加工中のワイヤに振動が発生し、断線しやすくなる。なお、ダイヤモンドダイスと金(Au)との摩擦抵抗を下げるため、市販の界面活性剤を添加した金属潤滑液を水やアルコール等の希釈液で希釈して使用するほか、エチルアルコール、メチルアルコール又はイソプロピルアルコールだけを含有した水溶液なども用いることができる。
【0019】
表面層は、断面方向の付きまわり性の均一性からは湿式めっきが最もよいが、めっき析出物中に不純物を取り込みやすいので、これを回避するため乾式めっきを採用してもよい。
めっき層中に不純物を取り込むと、溶融ボール形成のスパーク放電時に溶融ボールの形状に影響を及ぼす。乾式めっきは付きまわり性及び中間層との接合性の観点から、真空蒸着よりもスパッタリング法によるコーティングがよい。スパッタリング法によりコーティングされた金(Au)等の被覆層は、一旦イオン化されているため、純度99.9質量%以上であっても硬質となり、付きまわり性がよい。
金(Au)などの表面層は、冷間の連続伸線加工で相対的に更に硬質となるパラジウム(Pd)析出物の微細な接合界面内部まで入り込み、冷間伸線加工中にしっかり接合される。
なお、スパッタリング法によりコーティングされた本発明の極めて薄い金(Au)などの表面層は、断面方向から観察すると方向によって厚みが最大6倍程度の差が生じる場合もあるが、溶融ボールに軸上偏芯やそのバラツキは見られない。これは、本発明における金(Au)などの表面層の平均的な膜厚が9nm以下と薄い場合には、第二ボンド後の切断部における金(Au)表面層の異常な伸びが発生しにくいため、スパーク放電時の不均一な溶融が生じないためと思われる。また、これら表面層の膜厚が極めて薄いことから、このような幾何学的な不均一さがあっても、溶融ボール形成時の表面張力が勝って真球状の溶融ボールとなるものとも考えられる。
【0020】
本発明の表面層の金(Au)、銀(Ag)、又は銅(Cu)の純度は99.9質量%以上あれば十分であるが、99.99質量%以上あればより好ましい。あるいは、これらの純金属やこれらの純度の金属からなる合金(Au-Ag、Ag-Cu、Au-Cu)に微量添加元素(例えば、Mg、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、希土類元素)を意図的に添加、含有させることができる。
【0021】
本発明の銅(Cu)芯材は、還元性窒素雰囲気中で真球状の溶融ボールが形成可能な銅(Cu)又は銅合金からなる。銅合金としては、例えば、P、Au、Pd、Ptなどを含有させたものが考えられる。
他方、銅(Cu)の純度が99質量%以下になると、不純物が含有して連続伸線加工中に断線しやすくなるために、99.999質量%オーダーのものが好適である。ここで、「銅(Cu)の純度00.999質量%以上」とは、銅(Cu)以外の金属の不純物元素が0.001質量%未満であることをいい、銅(Cu)中に存在する酸素、窒素や炭素などのガス状元素を除いたものをいう。
【0022】
なお、本発明の銅(Cu)芯材は、リン(P)が存在することが好ましい。リン(P)は微量でも銅ワイヤの再結晶温度を上昇させ、ワイヤ自体の強度を向上する効果があるからである。また、芯材に所定量のリン(P)が含まれると、第一ボンディングにおいて溶融した銅ボールが凝固していく過程で、銅(Cu)ボールの脱酸作用をする。銅(Cu)の純度99.999質量%以上であれば、リン(P)は1質量ppm以上の範囲で脱酸作用をし、500質量ppm以下の範囲であれば、溶融ボールが圧着時に加工硬化してAlパッドを破壊する不良は発生しづらい。このようにリン(P)の脱酸効果により、銅(Cu)の酸化が防止できる。
【0023】
本発明の中間層は、パラジウム(Pd)から構成される。パラジウム(Pd)の融点(1,554℃)は、芯材の銅(Cu)の融点(1,085℃)よりも高い。このため、芯材の銅(Cu)や銅合金が球状の溶融ボールを形成していく最初の溶融段階でパラジウム(Pd)が薄皮となって溶融ボールの側面からの酸化を防止すると考えられる。
本発明の中間層の金属の純度は、第二ボンドの接合強度を確保するため、純度99質量以上のパラジウム(Pd)が必要である。中間層が厚いと銅ボールが合金化して硬くなり、このためチップ割れが起きやすくなる傾向にあるので、芯材を被覆する膜厚を線径の0.01倍を上限とした。逆に、中間層の膜厚が薄いと、第二ボンドの接合強度が低下するので芯材の線径の0.001倍を下限とした。
また、高温放置試験による信頼性の評価結果から、パラジウム(Pd)の中間層はある程度の厚さが必要である。これらのことから、銅(Cu)等の芯材を被覆するパラジウム(Pd)からなる中間層の理論的な最終膜厚を線径の0.001〜0.02倍とした。好ましくは、線径の0.002〜0.01倍の範囲である。
【0024】
パラジウム(Pd)中間層の形成方法には、乾式めっきや湿式めっきを採用することができる、乾式めっきとして、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着などいずれでもよい。不純物の混入を避けるためには乾式めっきが好ましいが、断面が均一な円環形状を得るには付きまわりのよい、湿式めっきがよい。不純物が混入していても中間層は溶融ボール形成時のスパーク放電の影響を受けないので、溶融ボールの軸上偏芯には影響を与えない。
【0025】
湿式めっきによりパラジウム(Pd)中間層を形成する前処理としてエッチングを行う場合、芯材の銅(Cu)又は銅合金は純度が高いので、塩素や臭素等のハロゲンイオン、あるいはイオウの混入を防ぐため、エッチングは燐酸浴や硝酸浴が好ましい。電解エッチング浴としては、0.1規定の硝酸と2規定の硝酸アンモニウム又は硝酸カリウム溶液、60%燐酸水溶液などがあり、化学エッチング浴としては、燐酸45、氷酢酸45及び硝酸10のエッチング浴、燐酸10及び硝酸1のエッチング浴などがある。一方、乾式エッチングとしては、真空中におけるアルゴンイオンやヘリウムイオンなどの希ガスによるマグネトロンスパッタリングがある。パラジウム(Pd)中間層をマグネトロンスパッタする場合は、芯材との拡散を防ぐため室温で行うのがよい。
【0026】
本発明で使用する銅(Cu)は純度が高いので、パラジウム(Pd)の電解めっき浴もハロゲンイオンや硫酸イオンを含まないアンモニア性水溶液やシアン系水溶液のものが好ましい。また、高分子化合物や金属塩の光沢剤は溶融ボールの真球性に悪影響を与えるので、膜成分としては含まないことが好ましい。銅(Cu)等の芯材に電解めっきされた膜は、その後の連続伸線によって強圧縮加工されるので、膜性状は膜成分ほど重要ではない。膜成分にイオウ(S)が存在すると、溶融ボール形成時に銅(Cu)に混入して溶融ボールを硬化させるおそれがあるからである。パラジウム(Pd)電解めっき浴としては、パラジウムp−ソルト(Pd(NH32(NO2))、亜硝酸アンモニウム及び硝酸カリウム、又はパラジウムp−ソルト(Pd(NH32(NO2)、硝酸アンモニウム及びアンモニア水の弱アルカリ性アンモニア性水溶液、Pd(NH3(COO)2及び(NH2HPO4の中性アンモニア性水溶液などが採用できる。パラジウムp−ソルトを用いた浴では、PHが高いほど、析出物の粒径が大きくなる傾向にある。
パラジウム(Pd)を乾式めっきする場合、スパッタ膜等の異常析出を防ぐため、銅(Cu)の純度は99.99質量%よりも99.999質量%程度のものが好ましい。
【0027】
なお、溶融ボールの形成時に金(Au)表面被覆層が銅(Cu)芯材に溶け込むタイミングを調整するため、パラジウム(Pd)めっきをする前にパラジウム(Pd)や金(Au)やニッケル(Ni)等の市販のストライクめっき(極薄めっき)を施すことができる。
【0028】
アーク放電による溶融ボールの形成において、各被覆層中の金属の融点は非常に重要である。ボンディングワイヤの大部分は、高純度の銅(Cu)又は銅合金の芯材が占めるので、銅(Cu)の融点(約1,085℃)や銅合金の融点が基準になる。芯材の高純度の銅(Cu)や銅合金は、還元性雰囲気中のアーク放電によって完全な真球形状となることが知られている。また、パラジウム(Pd)で被覆した高純度銅(Cu)の芯材も非酸化性雰囲気中でアーク放電によって真球形状となることが知られている。パラジウム(Pd)の融点(約1,555℃)は銅(Cu)の融点(約1,085℃)よりも高いので、非酸化性雰囲気中で銅(Cu)が真球形状となるのに引きずられて真球形状となるものと考えられる。
しかし、不安定なアーク放電によって最初に溶融するのは表面層なので、溶融ボールの形成には表面被覆層の影響が最も重要となる。高純度の金(Au)や銀(Ag)のボンディングワイヤは雰囲気を問わずアーク放電により溶融ボールを形成すると真球状の溶融ボールが得られるにもかかわらず、高純度の金(Au)や銀(Ag)を高純度銅(Cu)の芯材に直接被覆したボンディングワイヤは、槍状になってしまい、真球形状のボールが得られない。金(Au)の融点(約1,064℃)や銀(Ag)の融点(約962℃)は、芯材の銅(Cu)の融点(約1,085度)よりも低いので、銅(Cu)が球状の溶融ボールを形成していく段階で、低融点の金(Au)表面被覆層が芯材の銅(Cu)よりも早く早期に融解してワイヤ端面をすばやく包むが、芯材の銅(Cu)中への拡散も生じて銅(Cu)の融解を不均一に促進するものと考えられる。
【0029】
ボンディングワイヤの軸上偏芯量は、前記したように金(Au)等の表面層の膜厚が厚いほど大きく起こりやすい。また、金(Au)等の純度はできるだけ高いことが展延性の良い超極薄膜で芯材を全面被覆する上から望ましい。湿式めっきの場合には金(Au)の析出と同時にカリウム(K)やナトリウム(Na)塩などの不純物が巻き込まれやすいので、99.9質量%以上の純度の高いものが望ましい。光沢剤等の他の金属成分や高分子成分がメッキ液中に混入していると、1nm未満の膜厚まで連続伸線したときに全面被覆することが難しくなり、超極薄膜が破れやすくなる。超極薄の表面層は、いずれの場合も完全な円輪形状でないが、表面層の厚みが1nm以上あれば十分である。
【0030】
パラジウム(Pd)中間層の湿式メッキは、レべリング剤や光沢剤などが含まれていないことが好ましいが、レべリング剤等が含まれていない場合は不規則な粒状に析出する傾向にある。また、パラジウム(Pd)の乾式メッキは高純度の銅(Cu)の芯材の結晶面に沿って層状に析出する傾向にある。しかし、本発明においては、ダイヤモンドダイスは、パラジウム(Pd)中間層と直接接触することはなく金(Au)等の表面層と接触して伸線加工されているので、連続伸線加工中にパラジウム(Pd)粉がダイヤモンドダイスの入り口に堆積することがなく、ワイヤが断線することはない。このため15μmの線径のパラジウム(Pd)を被覆した細い銅(Cu)ワイヤであっても、金(Au)表面層を形成しないボンディングワイヤと比較して、5倍以上のダイヤモンドダイスのダイス寿命がある。本発明の表面層は極めて薄いが全面被覆されており、1nm以上の厚みであれば連続伸線途中で破れることがないからである。
【0031】
高純度の金(Au)等の表面層を乾式メッキによって形成する場合、付きまわりを改善するため、乾式メッキ中にワイヤを軸中心に回転させながら移動したり、乾式メッキ中にワイヤを往復させて移動したり、ワイヤの両側から乾式メッキしたりして、高純度の金(Au)を中間被覆層上により均一な膜厚で析出させることができる。高純度の金(Au)等の表面層は、展延性が良いので、ダイヤモンドダイスのダイス穴形状にしたがって最終線径まで連続伸線加工することができ、パラジウム(Pd)中間層がダイヤモンドダイスと直接接触することはない。ワイヤの表面は金(Au)等が全面的に被覆されているので、連続伸線加工中に金(Au)等の表面層と中間層との界面の隙間は埋められ、パラジウム(Pd)中間層の湿式メッキに異常析出等があっても表面層を突き破って析出するようなことはない。
【実施例】
【0032】
以下、具体的に実施例について説明する。始めに、各実施例の共通項目を説明する。
中間層とは芯材の銅(Cu)と金(Au)や銀(Ag)などの最表面層と芯材との間に形成された被覆層である。また、表面層は、前記の中間層の外側に形成された最表面層である。
芯材の銅(Cu)は、以下のA〜Fの6種類の純度の成分組成を原材料として用いた。
なお、原材料には不純物としてケイ素(Si)、鉄(Fe)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、硫黄(S)、鉛(Pb)などが含有していることが考えられる。
A:99.9質量%銅(Cu)
B:99.95質量%銅(Cu)
C:99.99質量%銅(Cu)
D:99.999質量%銅(Cu)
E: 50質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)からなる合金
F:450質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)からなる合金
上記原材料は、溶解、鋳造し、圧延、伸線して線径500μmまで加工し、線径500μmで芯材の銅(Cu)にPd中間層の被覆を施し、その後、Auなどの表面層を形成した。
次に各層の形成方法について説明する。
Pd中間層の形成方法が湿式メッキと記載あるものは、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社(略称「EEJA」という。)製のパラジウムメッキ液ADP−700(公称純度99.9%)を使用して、湿式の電解メッキにより被覆した。
Pd中間層の形成方法が乾式メッキと記載あるものは、田中貴金属工業株式会社製の純度99.9質量%のパラジウム(Pd)金属ターゲットを用いて、真空度7.0×10−1Pa,スパッタ電力300〜1000Wで、マグネトロンスパッタ法により被覆した。
Au表面層の形成方法が湿式メッキと記載あるものは、EEJA製シアン系金メッキ液テンヘ゜レックス204Aを用い、めっき温度:50℃で、湿式の電解メッキにより被覆した。
Au表面層の形成方法が乾式メッキと記載あるものは、田中貴金属工業株式会社製の純度99.9質量%の金(Au)金属ターゲットを用いて、真空度7.0×10−1Pa,スパッタ電力200〜500Wで、マグネトロンスパッタ法により被覆した。
また、表面層の組成がAu以外のものは、各合金組成の金属ターゲットを作製して、真空度7.0×10−1Pa,スパッタ電力500Wで、マグネトロンスパッタ法により被覆した。
〔実施例1〕
【0033】
実験番号No.4は、Pd中間層によるPd被覆を行なわず、実験番号1、2、5および7は湿式メッキでPd中間層の被覆を行なった。また、実験番号3、6および8は乾式メッキで中間Pd被覆を行なった。その直後、実験番号No1〜8の表面層としてAu極薄層を形成した。その後は連続伸線加工を行い、表1に記載する線径13〜25μmまで連続伸線加工を行い、その後に窒素ガス不活性雰囲気で伸び率が4〜10%となる条件で熱処理し、製品スプールに巻き取った。Pd中間層およびAu表面層の最終的な膜厚は表1に記載するとおりである。
【0034】
次に、実験番号1〜8の8種類のワイヤを用いてワイヤボンディングした。ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダ((株)K&S社製の超音波熱圧着ワイヤボンダ「MAXum Ultra(商品名)」を使用し、ボール/ステッチ接合を行った。溶融ボールはMAXum plus Copper Kit(商品名)を用いて、流量0.5(l/min)で4体積%水素と残部窒素からなる混合ガスを使用して、ガス雰囲気中でアーク放電によりワイヤ先端にボールを形成した。
以上のボンディングワイヤをシリコン基板上の0.8μmアルミニウム(Al−0.5%Cu)電極膜に接合し、ワイヤ他端を4μmの銀(Ag)メッキした200℃のリードフレーム(材質は42アロイ、板厚は150μm))上にステッチ接合した。キャピラリーはSPT社製を使用し、溶融ボールに関するワイヤボンダの設定値は、EFO Fire ModeをBall Sizeとし、FAB Sizeは実際の溶融ボール径がワイヤ径の2倍となるように調整した。
アルミニウム(Al−0.5%Cu)電極膜のダメージは、ボールボンディング直後に割れが発生していないかを、196個の電極膜で確認した。ボールボンディングされた状態でアルミニウム(Al)電極膜を上部から観察し、圧着されたボール周辺の電極膜に割れや盛り上がりのダメージが入っている個数を数え、0〜5個を○、6〜10個を△、11個以上を×とした。
第二ボンディング性は、上記のアルミニウム(Al−0.5%Cu)電極膜は使用せずに、ワイヤ両端を4μmの銀(Ag)メッキした200℃のリードフレーム(材質は42アロイ、板厚は150μm))上にボール/ステッチ接合した。3,920本のワイヤをボンディングし、不圧着回数が0〜3本を○、4〜20本を△、21以上を×とした。
軸上偏芯の観察は、2009年頃からワイヤボンディングマシンを使い、連続的に溶融ボールを圧着せずに、裏返した状態で形成する方法が一般的となり、軸上偏芯は容易に観察することが可能になった。例えば、(株)K&S社製の超音波熱圧着ワイヤボンダ「MAXum Ultra(商品名)」を使用した場合、ループパラメータをFABモードとすることで実施することが可能となったため、今回はこの方法を用いて、4μmの銀(Ag)メッキした200℃のリードフレーム上へ連続ボンディングし、アルミニウム(Al−0.5%Cu)電極膜は使用しなかった。なお、その他のワイヤボンディングに関する設定値は、上記のアルミニウム(Al−0.5%Cu)電極膜のダメージ評価と同様に行なった。判定は、接合前の溶融ボール形状を100個観察して、軸上偏芯と寸法精度が良好であるか等を判定した。ワイヤに対するボール位置の芯ずれが5μm以上ある個数を測定し、10個以上である場合に×印、5〜9個である場合に△印、2〜4個であれば実用上の大きな問題はないと判断して○印、芯ずれが1個以下である場合は、ボール形成は良好であるため◎印で表記した。
その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなとおり、銅(Cu)からなる芯材にパラジウム(Pd)中間層を形成し、Au表面層が被覆されたボンディングワイヤは、実験番号1,2,5,6,7,8のようにパラジウム(Pd)中間層の膜厚がワイヤ径の0.001倍以上であれば第二ボンディング性が良好であり、実験番号3〜8のようにパラジウム(Pd)中間層の膜厚がワイヤ径の0.02倍未満であればAl電極膜のダメージは良好であった。
上記より、銅(Cu)からなる芯材に、ワイヤ径の0.001以上〜0.02倍未満の厚みでパラジウム(Pd)中間層を形成し、さらにAu表面層が形成されたボンディングワイヤはボンディングワイヤとして実用に耐えることが確認された。
なお後記するが、実験番号5〜8はダイスライフの評価も行い問題ないことが確認された。
〔実施例2〕
【0037】
実験番号No.9〜38および比較例1〜6を、表2−1および表2−2に示す。
所定の銅(Cu)を用い、溶解、鋳造し、圧延、伸線して線径500μmまで加工し、線径500μmで芯材の銅(Cu)にPd中間層を施し、Au表面層を形成した。Pd中間層およびAu表面層の形成方法および最終的な厚みは表2−1および表2−2に記載した。その後、連続伸線加工を行い、表に掲げた最終線径とした。その後、窒素ガス不活性雰囲気で伸び率が4〜10%となる条件で熱処理し、製品スプールに巻き取り、各種の評価を行った。評価は、実施例1と同様に、Al電極膜ダメージ、第二ボンディング性、軸上偏芯について行った。次に、ダイスライフ評価について説明する。
【0038】
【表2−1】

【0039】
【表2−2】

【0040】
前記したように、伸線加工中に発生するPd粉の堆積が、断線を引き起こしている主原因であり、結果的にダイス磨耗の原因にもなっていると考えられる。発明者らは、Pd粉の堆積が増えると、断線頻度が増えると共にダイス磨耗も早くなり、逆にPd粉の堆積が減ると、断線が減少し、ダイス磨耗が遅くなることを見出した。このように断線とダイス磨耗に一定の関係が認められたが、断線は製造ロット間の差が大きくなり、評価方法としてばらつきも多いため、ダイス磨耗を評価することで、Pd粉の堆積の良し悪しを判定することにした。
ダイス磨耗はダイスライフという評価方法で行った。ダイスライフ評価は、伸線用ダイスを用いて、最終伸線で実施した。使用したダイスは、一般的な天然ダイヤモンド製で、伸線加工の最終リダクションは7%を用い、評価は最終線径で実施した。また、伸線速度は300m/分で行い、伸線加工中はダイスに一般的なCu線加工用の界面活性剤が添加された潤滑液を用いて、伸線用キャプスタンおよび伸線用ダイスに常温の潤滑液をシャワー方式で濡らしながら行った。
具体的には、伸線加工開始時に線径を測定し、次に、伸線1万m毎に線径測定し、伸線加工時の線径と比較して線径が初めて0.08μm増加した時点までの伸線加工長さをダイスライフと定義し、ダイスライフが4万m未満を×、4万m以上〜8万m未満を△、8万m以上〜15万m未満○、15万m以上を◎とした。
なお、本評価方法による、線径18μmで芯材の銅(Cu)に0.1μmの湿式めっきでPd中間層を施し、Au表面層を形成しなかったワイヤについて評価した結果、ダイスライフは3万mであり、×と判定されたが、実験番号5〜8のダイスライフはいずれも15万m以上となり◎であった。
【0041】
始めに表2−1および表2−2のサンプルについて、実施例1と同様にAl電極膜ダメージと第二ボンディング性について評価を行ったが、いずれも○であり良好な結果が得られた。
次に、表2−1の実施例のサンプル作製条件と評価結果について説明する。表2−1より、銅(Cu)または銅(Cu)とリン(P)の合金からなる芯材に、パラジウム(Pd)を中間層とし、さらにAu表面層が1.2nm〜8.7nm被覆されたボンディングワイヤは、ボンディングワイヤの生産および機能において実用に耐えることが確認された。
最後に、表2−2に比較例のサンプル作製条件と評価結果を記す。比較例1および2のように、Au表面層が0.6nmと非常に薄いものは、ダイスライフが悪く、ボンディングワイヤの生産において実用に耐えない結果であった。一方、比較例3〜6のように、Au表面層が13nm〜20nmと厚いものは、溶融ボールが軸上偏芯するため、ボンディングワイヤの機能において実用に耐えない結果であった。
〔実施例3〕
【0042】
実験番号No.39〜43は、表3に示すに示す所定の銅(Cu)を用い、溶解、鋳造し、圧延、伸線して線径500μmまで加工し、線径500μmで芯材の銅(Cu)にPd中間層を施し、各種組成の表面層を形成した。Pd中間層および表面層の形成方法および最終的な厚みを表3に挙げる。その後、連続伸線加工を行い、窒素ガス不活性雰囲気で伸び率が4〜10%となる条件で熱処理し、製品スプールに巻き取り、実施例2と同様な方法で評価を実施した。
なお、表面層は、99.99質量%以上の金(Au)および99.99質量%以上の銀(Ag)および99.99質量%のPd(パラジウム)および99.99質量%のCu(銅)を、原材料として調合して溶解してターゲットを作製して乾式メッキにより形成した。
【0043】
【表3】

【0044】
実験番号N0.39〜43について、実施例1と同様にAl電極膜ダメージと第二ボンディング性について評価を行ったが、いずれも○であり良好な結果が得られた。つまり、再表面層が銀(Ag)や銅(Cu)であっても、実施例程度の厚みであれば良好に使用できることが確認できた。
また、実験番号No.39〜43について、実施例2と同様に溶融ボールの軸上偏芯、ダイスライフの評価を行ったが、いずれも○以上の判定となり、良好な結果が確認された。
従って、表面層は金(Au)だけでなく、金(Au)と銀(Ag)とパラジウム(Pd)と銅(Cu)を単体または組み合わせてできる加工性の良い合金組成であれば、良好に使用できることが確認できた。


〔実施例4〕
【0045】
実験番号No.44〜55は、下記および表4に示すに示す所定の銅(Cu)を用い、溶解、鋳造し、圧延、伸線して線径500μmまで加工し、線径500μmで芯材の銅(Cu)にPd中間層を施し、Au表面層を形成した。実施例2と同様な方法で評価を実施した。
D1:20質量ppmジルコニウム(Zr)が添加された、残部がDの銅(Cu)合金
E2:10質量ppmバナジウム(V)と20質量ppmジルコニウム(Zr)が添加された、残部がEの銅(Cu)合金
D3:20質量ppmジルコニウム(Zr)が添加された、残部がDの銅(Cu)合金
D4:40質量ppmスズ(Sn)が添加された、残部がDの銅(Cu)合金
D5:30質量ppmホウ素(B)が添加された、残部がDの銅(Cu)合金
D6:10質量ppmチタン(Ti)が添加された、残部がDの銅(Cu)合金
【0046】
【表4】

【0047】
実験番号No44〜55について、実施例1と同様にAl電極膜ダメージと第二ボンディング性について評価を行ったが、いずれも○であり問題は無かった。また、実験番号No.44〜47について、実施例2と同様に溶融ボールの軸上偏芯、ダイスライフの評価を行ったが、いずれも○であり良好な結果が得られた。
従って、芯材の銅(Cu)に数十ppmの範囲で、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、スズ(Sn)、ホウ素(B)、チタン(Ti)の元素を添加したボンディングワイヤは、生産および機能として良好に使用できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)または銅合金からなる芯材、パラジウム(Pd)からなる中間層および表面層が被覆された線径が10〜25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて、
前記中間層は、ワイヤ径の0.001〜0.02倍の膜厚のパラジウム(Pd)被覆層であり、
前記表面層は、中間層のパラジウム(Pd)よりも低融点で、かつ展延性の金属又は合金からなり、ダイヤモンドダイスにより最終膜厚が1〜9nmまで連続伸線された、最上層の被覆層であることを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項2】
上記表面層の厚さが1〜8nmであることを特徴とする請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項3】
上記表面層の厚さが2〜7nmであることを特徴とする請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項4】
前記表面層が99.99質量%以上の金(Au)、純度99.9質量%以上のパラジウム(Pd)を1〜30質量%及び残部が純度99.99質量%以上の金(Au)からなるAu-Pd合金、純度99.99質量%以上の銀(Ag)を1〜40質量%以上及び残部純度99.99質量%以上の金(Au)からなるAu-Ag合金又は純度99.99質量%以上の銀(Ag)を1〜30質量%、純度99.9質量%以上のパラジウム(Pd)を1〜15質量%及び残部純度99.99質量%以上の金(Au)からなるAu-Ag-Pd合金である請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項5】
前記表面層が純度99.999質量%以上の銅(Cu)又は1〜500質量ppmリン(P)及び残部が純度99.999質量%以上の銅(Cu)からなるCu-P合金である請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項6】
前記表面層が室温でマグネトロンスパッタリングにより形成されたものである、請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項7】
前記中間層が湿式メッキにより形成されたパラジウム(Pd)である請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。
【請求項8】
前記連続伸線の最終伸線速度が30m/分〜600m/分であることを特徴とする請求項1記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−36490(P2012−36490A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180617(P2010−180617)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】