説明

ポリアミド樹脂組成物、摺動部品、および、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【課題】摺動特性、特に、すべり摩耗およびざらつき摩耗ともに良好で、良外観の成形品を得られ、さらに、成形条件として適用できる範囲の広い、摺動部品に用いることができるポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】融点が265℃以下の脂肪族ポリアミド樹脂(A)85〜95重量%と、粘度平均分子量130万以上のポリエチレン樹脂粉末(B)5〜15重量%の合計100重量部に対して、平均繊維長が0.5〜200μm、かつ、平均繊維径が0.1〜20μmである繊維状無機充填剤(C)を10〜90重量部を含んでなるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属や他の樹脂などと摺動する部分の部品(以下、摺動部品という)および、これに用いるポリアミド樹脂組成物、ならびに、該ポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。より具体的には、摺動の際に摩耗量が著しく小さく、摺動音の発生が殆どないポリアミド樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ギア、カム軸受、ベアリングリテーナーまたはドアチェック用品などの摺動部品に使用されるプラスチック材料は、すべり摩擦係数が低いこと、すべり摩耗量およびざらつき摩耗量が両方とも少ないこと、機械特性に優れたものであること、軟化温度が高いこと、ならびに、成形が容易であることを満たすことが必要とされる。さらに、寸法精度および安定性が優れ、相手材に摩耗等の損傷を負わせないことも重要であるとされている。加えて、摺動面に外観不良などの不均一箇所があれば、そこを起点として摩耗が発生しやすいので、摺動面が極めて均一であること、少なくとも外観不良が発生しにくいことが求められている。
【0003】
かかる状況の下、摺動部品の材料として、機械特性および耐摩耗性に優れているポリアミド樹脂を用いることが検討されている。ここで、ポリアミド樹脂としては、芳香族ポリアミド樹脂または脂肪族ポリアミド樹脂を用いることが考えられるが、脂肪族ポリアミド樹脂は、吸水性が高いため寸法精度および安定性に欠けるという欠点がある。そこで、吸水性が著しく改善された有用なエンジニアリングプラスチックスとして、芳香族ポリアミド樹脂が注目されている。さらに、芳香族ポリアミド樹脂は、耐熱性、引張強度および曲げ強度などの機械的特性、ならびに、流動特性等にも優れている。しかしながら、芳香族ポリアミド樹脂は、摺動部品に使用した場合、ポリアミド6やポリアミド66に代表される脂肪族ポリアミド樹脂に比べると摺動時の摩耗が激しく、実際には、低負荷の摺動部品への利用に限定されている。
【0004】
一方、脂肪族ポリアミド樹脂の上記欠点は、無機充填剤を配合することにより改良されてきている。しかし、無機充填剤を配合した場合、軟質相手材のすべり摩耗を顕著に引き起こすとともに、配合された無機充填剤が摺動表面から剥離し、その剥離した無機充填剤が砥粒となって自材および相手材にざらつき摩耗を引き起こすという問題がある。
従って、無機充填剤を配合したポリアミド樹脂組成物の摺動特性を改良するには、すべり摩耗およびざらつき摩耗の両方を考慮する必要がある。つまり、より広い負荷範囲の摺動条件においても安定した摺動特性が得られ、かつ、寸法精度および安定性に優れ、さらに、相手材を摩耗させない摺動材料が求められる。
【0005】
ところで、従来から、耐摩耗特性を改善するために、ポリアミド樹脂にポリエチレン系樹脂を配合することが行われている。
例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂、無機充填剤および分子量5〜40万の高密度ポリエチレンを含むレバー用樹脂組成物が示されている。そして、特許文献1では、の無機充填剤としてマイカ等が使用されている。しかしながら、特許文献1で用いられているような分子量がそれ程大きくないポリエチレンは、成形品の表層から剥離しやすく、結果として、外観が良好な成形品を得るための成形条件が狭くなるため、実際の成形において多大な困難を伴う場合がある。
また、特許文献1の比較例3(特許文献1の段落番号0017)には、無機充填剤としてマイカを使用し、分子量が約100万のポリエチレンを配合したポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかし、該樹脂組成物は、摺動特性(すべり摩耗量)は最高レベルであるものの成形品の外観は不良であるとされており、レバー材料としては不適であることが示唆されている(特許文献1の段落番号0018)。
【0006】
一方、特許文献2には、ポリアミド樹脂、ワラストナイト、変性スチレン共重合および分子量5〜40万の変性高密度ポリエチレンからなる組成物が摺動部品用として有用であると記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の組成物は、変性スチレン系共重合体および変性高密度ポリエチレンを大量に配合しているため、流動性および熱安定性が悪化するという欠点がある。
さらに、特許文献2の比較例2には、分子量が100万の変性ポリエチレンを配合した組成物が示されている(特許文献2の段落番号0024)。しかしながら、比較例2に記載の組成物は、摺動特性(摩擦係数およびざらつき摩耗量)は実施例と同等であるにもかかわらず、フローマークが発生している。
【0007】
さらに、特許文献3には、融点が300℃を超える芳香族ポリアミド、ケイ酸塩粉末状無機充填剤および超高分子量ポリエチレン粉末からなるポリアミド樹脂組成物が、軟質な相手材に対して適切な摺動材であると記載されている。さらに、特許文献3の実施例1および2において、焼成カオリン35〜50重量%および約200万の超高分子量ポリエチレン配合した組成物が優れた低攻撃性の摺動材(摩擦係数およびすべり摩耗量)であることが示されている(特許文献3の段落番号0049)。
しかし、芳香族ポリアミド樹脂は、高価であるため実際に使用しにくく、また、ガラス転移点が高いため、組成物の成形温度が300℃以上という非常に高い温度に限定され成形条件が狭いという問題がある。
【0008】
一方、特許文献4には、ナイロン46樹脂(ナイロン:登録商標)と、チタン酸カリウムウィスカーと、ポリエチレン粉末を含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかしながら、該組成物ではポリエチレン粉末の滞留劣化が生じる可能性があり、また、適切な成形条件の範囲が極めて限定されているという問題が残こる。
【0009】
【特許文献1】特開平5−263560号公報
【特許文献2】特開平6−345961号公報
【特許文献3】特開平9−286913号公報
【特許文献4】特開平9−137058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、従来のポリアミド樹脂組成物は、何らかの問題を有していたり、成形する際の成形条件が厳しいものであった。本発明は上述の事情を背景としてなされたものであり、その課題は、摺動特性、特に、すべり摩耗およびざらつき摩耗ともに良好で、良外観の成形品を得られ、さらに、成形条件として適用できる範囲の広い、摺動部品に用いることができるポリアミド樹脂組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究検討した結果、特定の大きさ・形状の無機充填材を使用し、かつ分子量が特定以上のポリエチレンを含有し、さらに、特定温度以下の融点のポリアミド樹脂を用いることにより、所望のポリアミド樹脂組成物が得られることを見出し本発明に至った。
【0012】
(1)融点が265℃以下の脂肪族ポリアミド樹脂(A)85〜95重量%と、粘度平均分子量130万以上のポリエチレン樹脂粉末(B)5〜15重量%の合計100重量部に対して、平均繊維長が0.5〜200μm、かつ、平均繊維径が0.1〜20μmである繊維状無機充填剤(C)を10〜90重量部を含んでなるポリアミド樹脂組成物。
(2)前記脂肪族ポリアミド樹脂(A)が、1分子を構成する繰り返し単位のうち85%以上が、カプロラクタム由来の繰り返し単位および/またはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸由来の繰り返し単位であるポリアミド樹脂である、(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)前記ポリエチレン樹脂粉末(B)の粘度平均分子量が700万以下である、(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)前記繊維状無機充填剤(C)の平均繊維長/平均繊維径(アスペクト比)が6〜30である、(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【0013】
(5)前記繊維状無機充填剤(C)がワラストナイトである、(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる摺動部品。
(7)ギア、カム軸受、ベアリングリテーナー、または、ドアチェック用品に用いる、(6)に記載の摺動部品。
(8)前記脂肪族ポリアミド樹脂(A)と前記ポリエチレン樹脂粉末(B)とを含む組成物の溶融混練中に、押出機バレルの途中から前記繊維状無機充填剤(C)を添加することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、すべり摩擦係数が低く、すべり摩擦量およびざらつき摩耗量が少なく、繰り返し疲労による性能低下が少ない極めて優れた摺動特性を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができた。このような組成物は、ギア、カム、軸受、ベアリングリテーナー、ドアチェック用品などの動的用途を目的とする摺動部品として非常に有用である。
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂として、ポリアミド6やポりアミド66等の安価な脂肪族ポリアミド樹脂を用いることができるので、経済面からも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0016】
(A)脂肪族ポリアミド樹脂
本発明における脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、融点が265℃以下であれば、その種類は特に定めるものではない。融点が265℃より高いと、310℃〜320℃程度の樹脂温度で溶融混練することが必要となり、配合するポリエチレン樹脂粉末(B)が熱によって劣化してしまい、結果として後述するとおり良好な外観が得られなくなってしまう。
さらに、好ましい脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、または、二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミド樹脂である。具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドン等の重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸等の脂肪族ジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体を用いるとよい。
よりさらに好ましい脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、好ましくはその分子の構成成分のうち85%以上、より好ましくはその90%以上が、カプロラクタム由来の繰り返し単位および/またはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸由来の繰り返し単位であるポリアミド樹脂である。
【0017】
本発明の脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、具体的には、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/6、ナイロン6/12が好ましく、ナイロン6、ナイロン6/66またはナイロン66/6、およびナイロン66がより好ましい。
一方、ナイロン46樹脂のように、融点が290℃と高温のものは、310℃〜320℃程度の樹脂温度で溶融混練しなければならず、配合する摺動性改良材であるポリエチレン粉末が熱によって劣化されたりして充分な効果が得られないため好ましくない。
さらにまた、本発明の脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、特定の範囲内の重合度、すなわち特定の粘度数を有するものが好ましい。ここで、粘度数は、96%硫酸中濃度1%、温度23℃で測定した値で5〜30が好ましく、7〜20がより好ましい。粘度数を5以上とすることにより、溶融粘度が小さいために起こりうる成形上の問題点をより効果的に防止し、機械的強度も向上する傾向にある。また、30以下とすることにより、溶融流動性が損なわれるのをより効果的に防止する。
尚、本発明の脂肪族ポリアミド樹脂(A)は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合使用してもよいことは言うまでもない。
【0018】
(B)ポリエチレン樹脂粉末
本発明で用いるポリエチレン樹脂粉末(B)は、エチレンの単独重合体若しくはエチレンと少量の他のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどとの共重合体であって、ASTM D4020規定の溶液粘度法による粘度平均分子量が130万以上のものである。
本発明で用いるポリエチレン粉末(B)の粘度平均分子量は、好ましくは700万以下であり、より好ましくは180万〜600万である。粘度平均分子量が130万以下では、成形品(例えば、摺動部品)としたときにポリエチレンの表面剥離が起こりやすく、耐摩耗性の改良効果が発揮されない。また、700万以下とすることにより、成形時の流動性の悪化を防ぎ、より広い成形条件で良好な外観の成形品が得られる。
例えば、ポリアミド6またはポリアミド66の一般的な成形加工温度は300℃以下であるが、この温度範囲では、粘度平均分子量40万以下のポリエチレン成分は成形品の表面に薄い膜状で存在し、表面剥離を起こしやすい。これに対し、本発明で使用する分子量130万以上のポリエチレン樹脂粉末(B)は、金型内に充填された溶融樹脂組成物中で、半溶融状態で存在するため、モデル的には楕円粒子状であり、表面剥離を起こし難く、また流動性を悪化させる程度が極めて低い。
【0019】
本発明に用いるポリエチレン粉末(B)の平均粒子径は、好ましくは1〜80μmであり、さらに好ましくは3〜60μmの範囲である。平均粒径を80μm以下とすることにより、分散性をより良好に保つことができ、結果として、成形品外観の良好性につながり、摺動性をより改善できる。一方、平均粒子径が1μm以上とすることにより、粉末の取り扱いが容易となり、ポリアミド樹脂と均一に混合しやすくなる。
【0020】
尚、従来、ポリアミド樹脂にポリエチレン樹脂粉末を混合する場合、ポリエチレンに酸、エステル、アミド、酸無水物、およびエポキシド基などの極性基を導入し、変性したものを使用する場合が多かった。これは、変性ポリエチレン樹脂を用いることにより、ポリアミド樹脂との親和性や、機械的特性が改善されることによるものである。しかしながら、組成物の粘度が向上して流動性が低下し、成形性は劣る傾向がある。本発明によると、ポリエチレン樹脂粉末(B)におけるポリエチレンを変性しなくても、成形性の低下を招くことなく、脂肪族ポリアミド樹脂(A)との充分な親和性を確保し、良好な機械的特性を得ることができる。かかる観点からも、本発明は極めて有用である。
【0021】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物におけるポリエチレン樹脂粉末(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)とポリエチレン樹脂粉末(B)との合計量に対し、5〜15重量%であり、より好ましくは6〜12重量%である。この配合量が5重量%未満のものは耐摩耗性の改良が十分でなく、15重量%を越えるものは溶融流動性が低下し、射出成形が困難となり、ポリアミド樹脂組成物の本来の特性を大きく損なうことによる。
【0022】
(C)繊維状無機充填剤
本発明における繊維状無機充填剤(C)は、平均繊維長が0.5〜200μm、かつ、平均繊維径が0.1〜20μmの繊維状のものである。
本発明の繊維状無機充填剤(C)の形状は、無機充填剤の形状を球状、板状、および、繊維状(円柱状)の3つに分類したとき、繊維状に分類されるものを言う。ここで、球状充填剤の代表的なものは、ガラスビーズ、カオリンであり、板状充填剤の代表的なものはマイカ、タルクであり、繊維状充填剤の代表的なものはガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウイスカー、ミルドファイバーなどである。この中でも、本発明の繊維状充填剤として、より好ましくは、炭素繊維、ワラストナイトおよび/またはミルドファイバーである。
本発明の繊維状無機充填材(C)の平均繊維長は、0.5〜200μm、好ましくは1〜150μmであり、平均繊維径は、0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは2.5〜15μmである。尚、本発明における繊維状無機充填剤(C)の平均繊維長および平均繊維系は、顕微鏡による拡大下で100個以上の粒子の繊維長および繊維径を測定した平均値である。
より優れた低摩耗性および良外観の成形品を得るためには、上記条件に加えて、平均繊維長/平均繊維径(アスペクト比)が6〜30であることが好ましく、7〜20であることがより好ましい。
平均繊維長および/または平均繊維径が上記範囲より小さいと嵩密度が小さくなり、組成物の製造時の取り扱いが困難になり、上記範囲より大きいと、樹脂組成物中に均一に分散させることが困難となるとともに、成型品の表面外観が悪くなり、その結果摺動特性も悪化する。
一方、アスペクト比を6以上とすることにより、充填剤の比表面積が充分に保たれ、樹脂との密着強度がより高くなり、摺動中に充填剤が成形品表面から離脱しやすくなるのをより効果的に防ぐことができ、結果として、摩耗量がより小さくなる傾向にある。加えて、成形品の剛性がより改善され、耐熱性も向上する傾向にある。また、アスペクト比を30以下とすることにより、充填剤の配向による寸法異方性の発生を防止し、そりが発生するなど寸法精度が低下を防止することができる。
【0023】
繊維状無機充填剤の平均繊維長、平均繊維径、およびアスペクト比のすべてが本発明において特定した範囲内であれば、特に優れた強度および摺動性を有し、低そり性である成形品を提供することができる。このような条件を満足する代表的な繊維状無機充填剤はワラストナイトであり、本発明の繊維状無機充填材(C)として、特に好ましい充填剤である。
ワラストナイトは、化学名がメタケイ酸カルシウムであり、白色針状結晶の鉱物である。通常、SiO2を40〜60wt%、CaOを40〜55wt%含有し、その他にFe23、Al23、MgO、Na2O、K2O等の成分を含有するものである。本発明で用いられるワラストナイトは、吸油量20〜50cm3/100g、嵩比重が0.1〜1.0であるものが好ましい。
尚、これらのワラストナイトは、天然に存在するものを粉砕、場合によっては分級したものや、合成品等を使用できる。また、ハンター白色度が60以上で、高純水へ10%スラリーとした際のスラリーのpH値が6〜8のものがより好ましい。pH値をこのような範囲内とすると、ポリアミドの耐候性の悪化をより効果的に防ぐことができる。
【0024】
さらに、本発明における繊維状無機充填剤(C)は、ポリアミド樹脂との接着性を向上させる目的で公知の表面処理剤を用いて処理してもよい。表面処理剤の種類としてはアミノ基やエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等を例示できる。このような表面処理剤は、予め無機充填剤の表面に処理してもよいし、ポリアミド樹脂と無機充填剤を混合する際に添加して処理してもよい。
【0025】
本発明の繊維状無機充填剤(C)(好ましくは、ワラスナイト)は、脂肪族ポリアミド樹脂(A)とポリエチレン樹脂粉末(B)との合計100重量部に対して、10〜90重量部の範囲内で、好ましくは15〜60重量部の範囲内で配合される。含有量が10重量部未満では剛性改良効果が小さく、また、吸水寸法変化が大きくなってしまい、一方、配合量が90重量部を超えると、成形品外観が悪化してしまったり、摺動性が大きく低下してしまったりすることによる。
さらに、本発明の繊維状無機充填剤(C)(好ましくは、ワラスナイト)の配合量は、摺動特性に大きく影響するので、ポリエチレン樹脂粉末(B)との配合量比(繊維状充填剤(C)の配合量/ポリエチレン樹脂粉末(B)の配合量)が2.5〜10の範囲に設定するのが好ましく、3.0〜8.0の範囲に設定するのがより好ましく、3.0〜6.0の範囲とするのが最も好ましい。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で、成形品とした場合の摺動特性、すなわち摩擦・摩耗特性のより一層の改良のために、上記成分の他に炭素繊維、フッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン、ガラスビーズ等の添加剤を含有してもよい。また、成形品の力学的性質、電気的性質等の改良のために、炭素カルシウム、硫酸バリウム等の充填材、カーボンブラック、金属粉末等の導電性改良充填材を樹脂成形品の摺動特性を損なわない範囲内において含有してもよい。さらに、酸素、熱、紫外線等に対する劣化防止剤や、安定剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、離型剤等を樹脂成形品の摺動特性を損なわない範囲内において含有してもよい。
【0027】
さらにまた、その特性を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレンおよびその共重合体、アクリル樹脂およびアクリル系共重合体、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーや、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を配合してもよい。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得るには公知の配合方法を採用することができる。通常これらの配合成分はより均一に分散させることが好ましく、その全部若しくは一部を同時にあるいは別々に例えばブレンダー、ニーダー、ロール、押出機等の混合機で混合し均質化させる方法や、混合部分の一部を、同時にまたは別々に、例えばブレンダー、ニーダー、ロールまたは押出機等で混合し、さらに残りの成分をこれらの混合機あるいは押出機で混合し均質化させる方法を採用できる。さらに予めドライブレンドされた組成物を加熱した押出機で溶融混練して均質化した後に紐状に押出し、次いで所望の長さに切断して粒状化する方法も採用できる。この中でも、工業的生産性の点から、押出機で溶融混練する方法が好ましい。その際、繊維状無機充填剤(C)を押出機バレルの途中から加える溶融混練法が、充填剤の折損をより効果的に防止できるのでさらに好ましい。
【0029】
このようにして造られたポリアミド樹脂組成物は、通常十分乾燥された状態に保たれて、成形機ホッパー内に投入され射出成形等の成形に供される。なお、本発明のポリアミド樹脂組成物の構成原料をドライブレンドして、直接成形機ホッパー内に投入し成形機中で溶融混練することも可能である。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、後述する測定条件において、動摩擦係数が0.14未満(より好ましくは、0.12以下)で、往復摺動磨耗の深さがピンについては0.20以下(より好ましくは0.15以下)、平板については、0.1以下(より好ましくは0.1未満)であり、さらに、テーバー摩耗量が140mg以下(より好ましくは、130mg以下)であるものが好ましい。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ISO 1874−2準拠のISO試験片形成条件において30〜60MPaの粘度であることが好ましい。これは、上述したとおり、良好な機械的特性が保てること等によるものである。
【0031】
本発明の摺動部品用ポリアミド樹脂組成物を用いてなる成形品(例えば、摺動部品)は、すべり摩擦係数が低く、すべり摩擦量およびざらつき摩耗量が少なく、繰り返し疲労による性能低下が少ない。従って、ギア、カム、軸受、ベアリングリテーナー、ドアチェック用品などの動的用途を目的とする成形品(摺動部品)として非常に有用である。本発明のポリアミド樹脂組成物を用いてなる成形品は、射出成形法、押出成形法など、種々の成形方法にて得ることができるが、生産性の点から射出成形法にて製造することが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0033】
実施例および比較例では、下記の原料を採用した。
(A)ポリアミド樹脂
(A−1)ポリアミド6(PA6):融点222℃(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバミッド 1013)
(A−2)ポリアミド66(PA66): 融点262℃(東レ社製、アミラン、CM3001−N)
(A−3)芳香族ポリアミド:融点243℃、相対粘度2.12(三菱瓦斯化学社製:ポリアミドMXD6 6000)
【0034】
(B)ポリエチレン樹脂粉末
(B−1)超高分子量ポリエチレン(PE200万):分子量200万(三井化学社製、ハイゼックスミリオン 240S)
(B−2)超高分子量ポリエチレン(PE590万):分子量590万(三井化学社製、ハイゼックスミリオン 630M)
(B−3)高密度ポリエチレン(PE14万):分子量14万(三井化学社製、ハイゼックス6200)
(B−4)変性高密度ポリエチレン(変性PE14万):分子量14万、上記ハイゼックス6200に、無水マレイン酸0.5重量%および過酸化物を加えて変性したものを採用した。
【0035】
(C)繊維状無機充填剤
(C−1)繊維状無機充填剤(ワラストナイト−1):ナイコ社製、ナイグロス 8−10013(平均繊維長=136μm,平均繊維径(直径)=8μm,アスペクト比=17)
(C−2)繊維状無機充填剤(ワラストナイト−2):ナイコ社製、NYAD-G(平均繊維長=600μm、平均繊維径(直径)=40μm,アスペクト比=15)
(C−3)球状無機充填剤(カオリン):東新化成社製、カオリン5M(平均粒子径:約5μm)
(C−4)板状無機充填剤(マイカ):山口雲母工業所社製、A−11(平均粒子径:5.2μm)
【0036】
実施例および比較例では、下記試験方法により各種評価を行った。
(1)動摩擦係数
スラスト摩擦摩耗試験機(エーアンドディー製)を用いて同じ樹脂製摩耗リングを上下にセットし、面圧0.3MPa、線速度7.2cm/secで摩擦力を測定し、動摩擦係数を求めた。
(2)摺動時の異音
上記(1)において、異音の発生の有無をチェックし、通常の聴力を有する人間の耳で聞き取れるかを基準にして、「あり」または「なし」で評価した。
(3)往復摺動磨耗の深さ(すべり磨耗量)
上記スラスト摩擦摩耗試験より、より明確に摩耗量を測定する方法として、図1に示すピン−平板往復摺動試験法にて評価を実施した。この方法では、ポリアミド樹脂製平板(PA製平板)1に先端の直径が4Rの半球形状の未強化ポリアセタール樹脂製のピン(POM樹脂製ピン)2(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユピタール LO−21A)を2Kgの錘3で押し付け、1Hzのサイクルで5000回、矢印の方向に往復摺動させた(摺動速度:200(mm/sec)、摺動距離:約100(mm))。そして、このときのピンおよび平板の摩耗深さ(mm)を測定した。尚、PA製平板に関しては、試験開始時は絶乾状態のものを使用した。また、各試験片は、摺動表面をアセトンにて脱脂洗浄した後に評価した。さらに、試験雰囲気は、23±1(℃),50±10(%Rh)で行った。
【0037】
(4)テーバー摩耗量(ざらつき摩耗量)
ざらつき摩耗の代表的な測定法であるテーバー摩耗試験機による測定法にて測定した。摩耗輪としてはH−18を用い、1000回転後の樹脂成形品の摩耗量(単位mg)を求めた。
(5)成形品外観
成形表面が鏡面であるピン−平板往復摺動試験片金型を用いて射出成形し、成形品を観察して、材料からのガスの発生による曇りまたはポリオレフィンなどの遊離剥離があるか調べた。全く認められないものを○、10%ほどの成型品に認められるものを△、20%以上の成形品に認められるものを×と表記した。
【0038】
表1または表2に示す、実施例1〜3および比較例1〜7のサンプルは以下の手法により作製した。
表1または表2に示すいずれかのポリアミドに、各種組成を表1または表2に示すとおりポリエチレン樹脂を配合し、同方向回転2軸押出機(スクリュー径φ30mm、L/D=28)を用いて、バレル設定温度260℃、回転数200rpmで混練した。無機充填剤は、溶融混練の際、押出機の途中から供給することにより、破損しないように工夫して行った。得られたペレットを用いてスクリューインライン射出成形機にてシリンダー温度270℃、金型温度100℃で摩擦係数測定用試験片(外径直径25mm、内径直径20mm、高さ15mm)、ピン−平板往復摺動試験片およびテーバー摩耗試験片を成形した。また、ピン−平板往復摺動試験片の成形外観テストを行った。評価結果を表1および表2に示す。
また実施例4は、組成物の溶融混練の際、無機充填材を押出機の始めから(ポリアミド樹脂およびポリエチレン樹脂と同時に)配合した点以外は、実施例1と同様に摩擦係数測定用試験片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
さらに、実施例1および4にて得られた試験片について、ISO 178準拠の3点支持曲げ法(支点間距離:64mm、試験速度:2mm/分、試験片厚み:4mm、試験片幅:10mm、試験雰囲気:23℃、50%Rh、絶乾状態)にて、曲げ弾性率を測定した。結果、実施例1にて得られた試験片の曲げ弾性率は6100MPa、実施例4は4100MPaであり、押出機の途中で配合した場合の方が、得られる成形品の剛性が高いことが分かる。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、本発明の組成とすることにより、優れた摺動特性を備え、かつ、成形品の外観も良好なものが得られた。また、本発明で用いたポリエチレンは、成形品の表面から剥離することもなくなった。さらに、成形温度も、300℃以上といった高温にする必要がなくなり、成形しやすいものとなった。従来から、種々のポリアミド樹脂組成物が知られているにもかかわらず、本発明のように上記すべての条件を満たす組成物は知られておらず、かかる観点からも本発明が極めて優れたものであることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、すべり摩擦係数が低く、すべりおよびざらつき摩耗量が少なく、繰り返し疲労による性能低下が少ないので、ギア、カム、軸受などの動的用途を目的とする成形用材料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本願の実施例および比較例で採用するピン−平板往復摺動試験法の概略図を示す。
【符号の説明】
【0045】
1 PA樹脂製平板
2 POM樹脂製ピン
3 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が265℃以下の脂肪族ポリアミド樹脂(A)85〜95重量%と、粘度平均分子量130万以上のポリエチレン樹脂粉末(B)5〜15重量%の合計100重量部に対して、平均繊維長が0.5〜200μm、かつ、平均繊維径が0.1〜20μmである繊維状無機充填剤(C)を10〜90重量部を含んでなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリアミド樹脂(A)が、1分子を構成する繰り返し単位のうち85%以上が、カプロラクタム由来の繰り返し単位および/またはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸由来の繰り返し単位であるポリアミド樹脂である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレン樹脂粉末(B)の粘度平均分子量が700万以下である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維状無機充填剤(C)の平均繊維長/平均繊維径(アスペクト比)が6〜30である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維状無機充填剤(C)がワラストナイトである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる摺動部品。
【請求項7】
ギア、カム軸受、ベアリングリテーナー、または、ドアチェック用品に用いる、請求項6に記載の摺動部品。
【請求項8】
前記脂肪族ポリアミド樹脂(A)と前記ポリエチレン樹脂粉末(B)とを含む組成物の溶融混練中に、押出機バレルの途中から前記繊維状無機充填剤(C)を添加することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−28231(P2006−28231A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205385(P2004−205385)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】