説明

ポリイミドシームレス環状ベルトおよびその製造方法

【課題】膜厚、導電性および表面粗さなどの物性が十分に均一で、生産性に優れたポリイミドシームレス環状ベルトを製造する方法を提供すること。
【解決手段】ポリイミド前駆体を押出成形法によりシームレス環形状に成形した後、イミド化反応を行うことを特徴とするポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドシームレス環状ベルトおよびその製造方法に関する。本発明は特に、転写ベルトおよび定着ベルトなどのような電子写真用ベルトとして有用なポリイミドシームレス環状ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリイミドは、耐熱性、耐帯電性および機械的特性等に卓越していることから、種々の分野で使用されている。例えば、レーザープリンターや電子写真複写機などのような電子写真式画像形成装置において、トナー画像を被写体(紙、厚紙、OHPシート等)へ転写させるための転写ベルト、あるいはトナー画像を被写体へ定着させるための定着ベルトとしてポリイミドベルトは使用されている。
【0003】
ポリイミドベルトは主に環状ベルトの形態で供給される。ポリイミド環状ベルトの製造方法は、画質の品質に影響を与えるベルトの物性を均一にする必要から、溶媒を用いるキャスト法を応用したいわゆる遠心成形法が一般的である。例えば特許文献1では、中間転写ベルトの抵抗均一性を達成するために遠心成形法を用いたシームレスベルトを提案している。電子写真用ポリイミド環状ベルトに関しては、この遠心成形法以外に十分な改良がなされていない。円筒状の金型を回転させる遠心成形法を採用しなければならないのは、溶媒が乾燥するまで、金型に塗布した膜が柔らかいので、塗膜にダレが生じて、乾燥膜厚が不均一になるのを防ぐためである。周方向の膜厚が不均一になると、帯電ムラが生じ画像品質に影響がでる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−77252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャスト法で平板やフィルムを成形する場合には問題とならなかった重力や雰囲気温度の影響で生じる不均一性が、遠心成形法を採用した場合には問題となるので、溶媒が乾燥し、膜が変形しなくなるまで金型を回転しなければならず、生産性が悪いという問題があった。しかも、円筒状の金型へ塗布したときのわずかな塗膜ダレや金型の回転中に発生するわずかな振動は不可避であるので、膜厚や表面粗さなどが不均一になるという問題を十分に防止できなかった。
【0006】
本発明は、膜厚や表面粗さなどが十分に均一で、生産性に優れたポリイミド環状ベルトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリイミド前駆体を押出成形法によりシームレス環形状に成形した後、イミド化反応を行うことを特徴とするポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法および該方法によって製造されたポリイミドシームレス環状ベルトに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜厚や表面粗さなどが十分に均一なポリイミド環状ベルトを生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法で使用できる成形機の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の方法でイミド化反応に使用できる加圧式オーブンの一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法は、縮合型ポリイミドを含有するシームレス環状ベルトの製造方法であって、ポリイミドの中間体であるポリイミド前駆体を押出成形法によりシームレス環形状に成形した後、イミド化反応を行うものである。シームレス環状ベルトとは、環の周方向に継ぎ目がない環状ベルトという意味である。
【0011】
[ポリイミド前駆体]
ポリイミド前駆体は、ポリイミドの中間体である、いわゆるポリアミック酸またはポリアミド酸と呼ばれる熱可塑性重合体である。
【0012】
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合によって得られるポリイミド前駆体であり、好ましくは芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との重合によって得られる芳香族ポリイミド前駆体である。
【0013】
芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸、その酸無水物、塩およびエステル化物、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。特に芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物を用いることが好ましい。芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸などのビフェニルテトラカルボン酸化合物;3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸などのベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物;ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンなどのジフェニルアルカンテトラカルボン酸化合物;ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)チオエーテルなどのジフェニルエーテルテトラカルボン酸化合物;ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホンなどのジフェニルスルホンテトラカルボン酸化合物;2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸などのナフタレンテトラカルボン酸化合物;ピロメリット酸などのテトラカルボキシベンゼン化合物などを挙げることができる。
【0014】
芳香族テトラカルボン酸と塩を形成する成分として、例えば、アンモニア、有機物モノアミン、有機物ジアミン、有機物トリアミン、有機物テトラミンがあり、特に好ましくは下記に記載する芳香族ジアミンなどが挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸とエステル化物を形成する成分として、例えば、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコールなどが挙げられる。
【0015】
上記芳香族テトラカルボン酸成分のうち、好ましい成分として、ビフェニルテトラカルボン酸化合物およびテトラカルボキシベンゼン化合物の酸二無水物およびエステル化物、特にテトラカルボキシベンゼン化合物の酸二無水物が挙げられる。
【0016】
芳香族テトラカルボン酸成分とともに他のテトラカルボン酸成分が含有されてもよい。
他のテトラカルボン酸成分の含有量は通常、芳香族テトラカルボン酸成分に対して80モル%以下である。
【0017】
芳香族ジアミン成分としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DADEと略記することもある)などのジアミノジフェニルエーテル化合物;4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパンなどのジアミノジフェニルアルカン化合物;ベンチジン、3,3’−ジメチルベンチジンなどのベンチジン化合物;4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィドなどのジアミノジフェニルスルフィド化合物;4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン化合物;メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン(PPD)などのジアミノベンゼン化合物などを挙げることができる。
【0018】
上記芳香族ジアミン成分のうち、好ましい成分として、ジアミノジフェニルエーテル化合物、ジアミノジフェニルアルカン化合物が挙げられる。
【0019】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は通常、1000以上、特に2000〜200000であり、好ましくは2000〜10000である。分子量が小さすぎると、成形時においてシームレス環形状への成形が困難になる。
【0020】
本明細書中、数平均分子量はGPC(東洋ソーダ社製)によって測定された値を用いている。
【0021】
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して製造できる。
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合はポリイミド前駆体の良溶媒中で行うことができる。ポリイミド前駆体の良溶媒とは、上記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから形成されるポリイミド前駆体を、25℃において20重量%以上の濃度で均一に溶解することができる溶媒である。このような良溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルスルホルアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルスルホン、ジエチルスルホンなどのスルホン類から選ばれる有機極性溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、混合して用いても良い。好ましくはアミド類、特にN−メチルピロリドンを用いる。
【0022】
良溶媒中におけるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分の量は、重合後に得られるポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の溶解量(固形分濃度)が後述の範囲内になるような量であればよい。
【0023】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とをポリイミド前駆体の良溶媒中で重合させる方法は、公知の方法により行えばよい。詳しくは、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とをほぼ等モルで用い、前記の良溶媒中、100℃以下、好ましくは0〜80℃の温度範囲にて0.1〜60時間重合すると、該良溶媒にポリイミド前駆体が2〜50重量%の範囲で均一に溶解しているポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0024】
[シームレス環形状への成形]
ポリイミド前駆体を押出成形法によりシームレス環形状に成形する。本発明においてポリイミド前駆体はゲルの状態で押出成形法に使用される。詳しくは、例えば、上記重合により得られたポリイミド前駆体溶液を使用する場合など、ポリイミド前駆体が溶液の状態で使用される場合、当該ポリイミド前駆体溶液は通常、固形分濃度が低すぎて形状付与が困難なため、当該ポリイミド前駆体溶液を乾燥してゲル化し(乾燥工程A)、得られたポリイミド前駆体ゲルを押出成形法によりシームレス環形状に成形する(成形工程)。なお、重合によって得られたポリイミド前駆体溶液が既に、後述するゲルの溶媒含有量を有し、ゲル状態にあるときは、乾燥工程Aは行う必要はない。また例えば、ポリイミド前駆体が固体の状態で使用される場合は、当該ポリイミド前駆体を前記した良溶媒に溶解してポリイミド前駆体溶液を得た後、当該ポリイミド前駆体溶液を乾燥してゲル化し(乾燥工程A)、得られたポリイミド前駆体ゲルを押出成形法によりシームレス環形状に成形する(成形工程)。
【0025】
(乾燥工程A)
乾燥工程Aはゲル化のために行うものであり、ポリイミド前駆体溶液から溶媒を蒸発することによって行われる。乾燥方法としては、後述するゲルの溶媒含有量が達成される限り特に制限されず、例えば、加熱した金属製ドラムにポリイミド前駆体溶液を流延・塗布して乾燥する方法、およびポリイミド前駆体溶液を金属製の容器に入れて水浴または油浴中で加熱して乾燥する方法が挙げられる。いずれの方法を採用する場合においても、加熱温度(乾燥温度)は、後述するイミド化開始温度より低い温度であって、溶媒が蒸発し得る温度であれば特に制限されず、例えば、40℃以上280℃未満、特に80〜260℃であり、好ましくは120〜240℃、より好ましくは120〜220℃、最も好ましくは120〜190℃である。
【0026】
ゲル化のための乾燥は、乾燥後のゲルの溶媒含有量が後述の範囲内になるまで行われればよい。
【0027】
ポリイミド前駆体ゲルの溶媒含有量はゲル全量に対して8.0〜20重量%であり、好ましくは5.0〜15重量%である。ゲルの溶媒含有量が多すぎると、成形工程において形状付与が困難なため、ベルトを製造できない。ゲルの溶媒含有量が少なすぎると、流動性が悪くなり押出成形ができない。
【0028】
ゲルの溶媒含有量は以下の方法によって測定された値を用いている。まず、ゲルからサンプルを取り出し、その重量(x;mg)を秤量する。次いで、サンプルを260℃のオーブン中、5時間保持して、十分に乾燥させる。その後、放置冷却し、サンプルの重量(y;mg)を秤量し、以下の式に従って溶媒含有量を算出する。
溶媒含有量(重量%)={(x−y)/x}×100
【0029】
上記した溶媒含有量を満たすゲルは、粘度が1〜10000Pa・sであり、好ましくは1〜1000Pa・sである。
【0030】
ゲルの粘度はMARS(ハーケー社製)によって測定された値を用いている。
【0031】
ポリイミド前駆体溶液は、賦形性と流動性の両立の観点から、ゲル化に先立って貧溶媒を添加して用いることが好ましい。貧溶媒とは、ポリイミド前駆体を、25℃において2重量%以上、特に1重量%以上の濃度で溶解することができない溶媒である。このような貧溶媒として、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、キノリン、イソキノリン、0号ソルベント、1−デカノール等を挙げることができる。0号ソルベントは灯油留分を精製して得られるn−パラフィン系の無臭溶剤である。これらの貧溶媒は、単独で用いても良く、混合して用いても良い。好適にはポリイミド前駆体の良溶媒と相溶する貧溶媒が好ましい。より好ましくはポリイミド前駆体の良溶媒よりも高い沸点を有する貧溶媒を用いる。具体的には、沸点あるいは熱分解点が150〜500℃の貧溶媒、さらに好ましくは沸点あるいは熱分解点が170〜300℃の貧溶媒である。
貧溶媒の添加量は、ポリイミド前駆体溶液中の良溶媒に対して1〜30重量%、特に1〜10重量%が好ましい。
【0032】
ポリイミド前駆体溶液には、ゲル化に先立って、導電剤、界面活性剤、粘度調整剤などの添加剤が含有されてよい。
【0033】
導電剤はポリイミド前駆体溶液に溶解可能な物質であっても、または溶解することなく当該溶液中に分散する物質であってもよいが、溶解せずに微粒子や繊維の形態で分散する物質であることが好ましい。溶液中で分散する導電剤として、例えば、カーボンブラックの粉体や短繊維、チタン酸塩の短繊維、Sbドープの酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物紛体などが挙げられる。カーボンブラックの具体例として、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、酸性カーボンなどが挙げられる。
導電剤、特にカーボンブラックの含有量はポリイミド前駆体に対して1〜55重量%、好ましくは1〜35重量%である。
【0034】
界面活性剤および粘度調整剤としては、最新ポリイミド−基礎と応用―(日本ポリイミド研究会編、NTS出版)、および最新ポリイミド材料と応用技術(監修;柿本雅明、CMC出版)に記載の物質が使用できる。
【0035】
ポリイミド前駆体溶液に溶解しない添加剤を含有させる場合には、ポリイミド前駆体溶液に対して、均一な分散を達成する手段を用いることが好ましい。例えば、撹拌羽根による混合、スタチックミキサーによる混合、1軸混練機や2軸混練機による混合、ホモジナイザーによる混合、超音波分散機による混合など、公知の混合機を用いて混合・分散するとよい。
【0036】
(成形工程)
ポリイミド前駆体ゲルを押出成形法によりシームレス環形状に成形する。詳しくは、ポリイミド前駆体ゲルを丸ダイより押し出してシームレス環形状に成形する。
【0037】
具体的には、例えば、図1に示すように、吐出口に、いわゆる丸ダイ2を取り付けた市販の1軸または2軸の押出機1を用いて成形を行い、シームレス環状成形体3を得る。
【0038】
押出成形時の成形温度は後述するイミド化開始温度より低い温度であれば特に制限されず、製造コストの観点から50〜260℃、特にゲルの流動性の観点から100〜250℃が好ましい。
【0039】
(乾燥工程B)
成形工程において得られたシームレス環状成形体は通常、自立できず、取扱いが困難なため、成形工程後において乾燥を行うことが好ましい(乾燥工程B)。好ましくは乾燥工程Bは成形工程直後において行う。
【0040】
乾燥工程Bは成形体を自立可能にするために行うものであり、シームレス環状成形体から溶媒を蒸発することによって行われる。乾燥方法としては、例えば、当該成形体に対して熱風を吹き付けて乾燥する方法が挙げられる。熱風温度は、後述するイミド化開始温度より低い温度であって、溶媒が蒸発し得る温度であれば特に制限されず、例えば、乾燥工程Aにおける乾燥温度と同様の範囲内であってよい。
【0041】
具体的には、例えば、図1に示すように、丸ダイ2を脱気系5に連結させ、かつ丸ダイ2から押し出された成形体3の内側に熱風6を吹き付けるための治具を装備しておき、当該丸ダイ2よりシームレス環状成形体3を押し出した直後において、脱気系5により脱気しながら、熱風6により成形体の乾燥を行う。図1に示す成形機10は、押出成形と同時に加熱乾燥ができる構造を有しているので好適である。
【0042】
乾燥工程Bにおける乾燥は、乾燥後の成形体の溶媒含有量が後述の範囲内になるまで行われればよい。
【0043】
乾燥工程Bの後、成形体の溶媒含有量は成形体全量に対して0〜10重量%であり、好ましくは2〜7.5重量%である。当該成形体の溶媒含有量が多すぎると、自立困難であり、イミド化反応工程において環状ベルトの形状を維持できないため、ベルトを製造できない。
【0044】
乾燥工程Bの後における成形体の溶媒含有量は、サンプルとして、当該成形体の一部を用いること以外、ゲルの溶媒含有量と同様の方法によって測定された値を用いている。
【0045】
[イミド化反応]
シームレス環形状を有する成形体を得た後は、イミド化反応を行う。イミド化によって成形体を構成するポリアミック酸がポリイミドとなり、環状ベルトにおいて、膜厚、導電性および表面粗さなどの物性について十分な均一性を達成しながらも、ポリイミドが本来的に有する耐熱性、剛性が有効に発揮される。
【0046】
イミド化反応は、成形体を加熱し、当該加熱温度で所定時間保持することによって達成される。加熱温度はイミド化開始温度以上の温度であって、通常は280℃以上、特に280〜400℃であり、好ましくは300〜380℃、より好ましくは330〜380℃である。当該温度での保持時間(反応時間)は通常、30分間以上であり、好ましくは60〜240分間である。
【0047】
上記温度で保持するに先立って、100〜240℃、特に100〜200℃で1〜20分間、特に1〜10分間保持することが好ましい。
【0048】
イミド化反応は、例えば図2に示すように、シームレス環状成形体4を円筒状ドラム11の内側に貼り付けた状態で加熱することによって達成することが好ましい。ドラム内周面の形状を、成形体の外周面に転写できるためである。このとき、ベルトのイミド化による収縮を防止する観点から、加熱は加圧下で行うことが好ましい。加圧下での加熱は、図2に示すように、圧力調整弁12を備えた加圧式オーブン20中で行うことができる。圧力は1気圧以上、特に1〜20気圧が好ましい。加圧方法については、1度に高圧をかけると、まれにしわの発生があるので段階的に加圧するか、あるいは一度加圧後常圧に戻し、その後再度加圧する方法をとっても良い。
【0049】
イミド化反応工程の後、成形体の溶媒含有量は成形体全量に対して通常、2重量%以下であり、好ましくは0〜0.5重量%である。
【0050】
イミド化反応工程後における成形体の溶媒含有量は、サンプルとして、当該成形体の一部を用いること以外、ゲルの溶媒含有量と同様の方法によって測定された値を用いている。
【0051】
以上の方法で製造されたポリイミドシームレス環状ベルトは、特に転写ベルトまたは定着ベルトなどのような電子写真用ベルトとして有用である。
例えば、ポリイミドシームレス環状ベルトを転写ベルトとして使用する場合、ポリイミド前駆体溶液には通常、導電剤、特にカーボンブラックが含有され、結果としてベルト中においてカーボンブラックが分散される。そのような環状ベルトの表面抵抗値は通常、10〜1013Ω/□、好ましくは10〜1012Ω/□であり、周方向の抵抗ばらつきは1〜8、好ましくは1〜5である。抵抗ばらつきは表面抵抗の測定値について最大値/最小値を算出した値である。
また例えば、ポリイミドシームレス環状ベルトを定着ベルトとして使用する場合、ポリイミド前駆体溶液には導電剤は含有されない。
【0052】
本発明のポリイミドシームレス環状ベルトの厚み、幅および周長等の寸法は特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜設定されてよいが、電子写真用ベルトとして使用される場合、特に厚みは、40〜100μm、特に40〜80μmが好ましい。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
ピロメリット酸二無水物と4,4´−ジアミノジフェニルエーテルとの当量をN−メチルピロリドン(NMP)中、常温(20℃)で縮重合反応し、ポリアミック酸溶液(A)(固形分濃度18重量%)を得た。ポリアミック酸の数平均分子量は8000であった。溶液(A)の20kgを採取し、これに0.2kgの0号ソルベント(新日本石油社製)を加えて十分混合した。得られた混合物を乾燥して、ポリアミック酸ゲルを得た(乾燥工程A)。すなわち120℃に加熱した幅440mm、直径400mmの金属製ドラムに押出コーターで上記混合物を流延・塗布し、溶媒が蒸発して高粘度化したポリアミック酸ゲルを回収した。回収されたポリアミック酸ゲルの溶媒含有量は15重量%、粘度は300Pa・sであった。
【0054】
次いで、ポリアミック酸ゲルを用いて、図1に示す1軸押出機1および丸ダイ2からなる成形機10によりシームレス環状成形体3を得た(成形工程)。1軸押出機1の成形温度は200℃であった。シームレス環状成形体3を得た直後は、詳しくは、脱気系5により脱気しながら、220℃の空気からなる熱風6を成形体3の内側から吹き付けて、成形体の乾燥を行った(乾燥工程B)。乾燥した成形体を所定の長さでカットし、シームレス環形状の成形体4を得た。当該成形体は自立可能な状態であった。当該成形体の溶媒含有量は5重量%であった。
【0055】
次いで、図2に示す加圧式オーブン20を用いてイミド化反応を行った(イミド化工程)。詳しくは、シームレス環状成形体4を幅400mm、内径307mmのアルミニウム金属ドラム11の内側に貼り付けた。当該金属ドラム11の内周面の表面粗さRzは180nmであった。成形体4を貼り付けた金属ドラム11を加圧可能なオーブン20に入れ、内部圧力を5気圧に加圧した後、室温から5℃/分の速度で140℃まで加熱し、1時間保持した。その後、圧力調整弁12をあけて圧力を1.2気圧に戻し、350℃まで昇温後、1時間保持した。ドラムをオーブンから取り出し、放置冷却した後、成形体をドラムから取り外し、シームレス環状ベルトを得た。ベルトの幅は389mm、周長は964mm、膜厚は94μmであった。ベルトの溶媒含有量は0重量%であった。
【0056】
<実施例2>
以下の方法で得られたポリアミック酸ゲルを用いたこと、および乾燥工程Bの空気温度を調整して表1に記載の溶媒含有量(乾燥工程B後の成形体)を達成したこと以外、実施例1と同様の方法により、環状ベルトを製造した。
【0057】
カーボン(プリンテックスU)50重量部を450重量部のMNPと、ホモジナイザーを用いて分散後、さらに超音波分散を行い、カーボン分散液を調製した。実施例1と同様のポリアミック酸溶液(A)(固形分濃度18重量%)20kgに、カーボン分散液4kgを添加し、ホモジナイザーで15分間混合した。得られた混合液に、0号ソルベント(新日本石油社製)240gを添加し、ホモジナイザーで10分間混合した。得られた混合物を、実施例1と同様の方法により乾燥して(乾燥工程A)、ポリアミック酸ゲルを得た。ポリアミック酸ゲルの溶媒含有量は5.2重量%、粘度は60000Pa・sであった。
【0058】
<実施例3〜4>
乾燥工程Aのドラムの加熱温度および乾燥時間を調整して表1に記載の溶媒含有量(ゲル)を達成したこと、および乾燥工程Bの空気温度を調整して表1に記載の溶媒含有量(乾燥工程B後の成形体)を達成したこと以外、実施例1と同様の方法により、環状ベルトを製造した。
【0059】
<比較例1>
ピロメリット酸二無水物と4,4´−ジアミノジフェニルエーテルとの当量をN−メチルピロリドン(NMP)中、常温(20℃)で縮重合反応し、ポリアミック酸溶液(A)(固形分濃度18重量%)を得た。ポリアミック酸の数平均分子量は10000であった。溶液(A)の200gを採取し、ステンレススチール製シート上に厚さ200μmで均一に流延し、120℃の雰囲気で120分間乾燥させた後、段階的にイミド化を行った。詳しくは、150℃で30分間、200℃で30分間、250℃で60分間、350℃で30分間、420℃で30分間、段階的に昇温して、95μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを長さ530mm、幅320mmにカットした。その後、フィルムの一端部20mmに一液性弾性接着剤である特殊変性シリコーン(サイレックス100;コニシ(株)製)を塗布し、両端部を重ね合わせた。次いで、接合部上に1kgの錘を置いて常温で1時間硬化させて、環状ベルトを得た。
【0060】
<比較例2>
樹脂成分100重量部に対して18重量部のカーボン(プリンテックスU)を、ポリイミドワニス(ユーピレックスS;宇部興産社製)を樹脂成分としてN−メチルピロリドンを溶媒とする耐熱皮膜用ポリイミドワニス;Uワニス−S:宇部興産(株)製)に添加し、ミキサーで充分に混合した。得られた製膜原液を直径168mm,高さ500mmのステンレススチール製円筒金型に注入し、120℃の熱風で120分間乾燥させながら遠心成形した。次いで、半硬化状態で脱型した円筒状フィルムを鉄芯に被せ、30分かけて120℃から350℃に昇温して溶媒を蒸発させた後、更に450℃で20分間加熱して、ポリアミック酸を脱水縮合させる本硬化を行った。得られた80μm厚のカーボンブラック分散ポリイミドフィルムを320mm幅に切削して、シームレス環状ベルトを得た。
【0061】
<評価>
(膜厚およびその偏差)
環状ベルトの厚みを周方向の全周において10mm間隔にて、HS3412((株)小野測器社製)をセンサー部に用いた自動膜厚計により測定し、平均値および周方向の膜厚偏差を求めた。周方向の膜厚偏差とは、周方向の厚みばらつきを意味し、測定値について最大値/最小値を算出した値である。)
【0062】
(導電性およびその偏差)
環状ベルトの表面抵抗を周方向の全周において10mm間隔にて、抵抗計(ハイレスタ;三菱油化電子社製)により測定し、平均値および周方向の抵抗偏差を求めた。周方向の抵抗偏差とは、周方向の抵抗ばらつきを意味し、測定値について最大値/最小値を算出した値である。表面抵抗の測定電圧は500V、測定時間は10秒間であった。
【0063】
(表面粗さおよびその偏差)
環状ベルトの表面粗さを周方向の全周において10mm間隔にて、表面粗さ計(東京精密社製)により10点平均粗さ(Rz)で測定し、平均値および周方向の粗さ偏差を求めた。周方向の粗さ偏差とは、周方向の粗さばらつきを意味し、測定値について最大値/最小値を算出した値である。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1,2の環状ベルトを、比較例1,2の環状ベルトと比較すると、本発明の製造方法によれば膜厚、導電性および表面粗さの均一性が比較的高いシームレス環状ベルトを製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0066】
1:押出機
2:丸ダイ
3:シームレス環状成形体
4:シームレス環状成形体(乾燥後)
5:脱気系
6:熱風
10:成形機
11:ドラム
12:圧力調整弁
20:加圧式オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体を押出成形法によりシームレス環形状に成形した後、イミド化反応を行うことを特徴とするポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項2】
ポリイミド前駆体としてポリイミド前駆体ゲルを用いる請求項1に記載のポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項3】
ポリイミド前駆体ゲルの溶媒含有量がゲル全量に対して8.0〜20重量%である請求項2に記載のポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項4】
ポリイミド前駆体がカーボンブラックを含有し、該カーボンブラックの含有量がポリイミド前駆体に対して1〜35重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項5】
イミド化反応を1気圧以上の圧力下で行う請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項6】
ポリイミドシームレス環状ベルトが転写ベルトまたは定着ベルトとして使用される請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドシームレス環状ベルトの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造されたポリイミドシームレス環状ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−161725(P2011−161725A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25534(P2010−25534)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】