説明

ポリイミドフィルム及びそれを用いた積層体、並びにフレキシブル薄膜系太陽電池

【課題】
平均線膨張係数が比較的小さく、高温の熱処理に耐えられる、無機金属や半導体との積層に特に好適なポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる自己支持性フィルムを延伸し、イミド化してなるポリイミドフィルムであって、50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が正の値であり、かつ350℃〜450℃における平均線膨張係数(α2)との比α2/α1の値が1.4以下の値を示すポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の熱処理に耐えられ、さらに無機金属や半導体との積層に好適なポリイミドフィルム及びその製造方法に関する。また、本発明は前記ポリイミドフィルムを用いた積層体および高い変換効率を有するフレキシブル薄膜系太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、機械的、電気的、熱的、化学的特性において、高度に調和のとれた材料であり、高機能性高分子材料として主に電気・電子産業や航空宇宙分野において利用されている。近年銅配線だけでなくその他の無機金属や半導体をポリイミドフィルム上に積層し、アモルファスシリコン系やCIS系等の化合物半導体系のフレキシブル薄膜系太陽電池や、フレキシブルTFT基板等への応用も進んでいる(特許文献1、2)。
【0003】
ところで、一般的にポリマーの線膨張係数(以下「CTE」という)は温度依存性を有し、温度が上昇するにつれて増加する。特に、ガラス転移温度を超えると分子の運動性が増加し、CTEは大きく上昇するのが一般的である。ポリイミドフィルムにおいても、例えば50℃〜200℃における平均線膨張係数をα1、350℃〜450℃における平均線膨張係数をα2と定義すると、α2/α1の値は2前後である事が一般的であった。これに対して、ポリイミド上に積層される無機金属や半導体のCTEは概ね4〜16ppm程度であり、室温から500℃程度の温度域では温度依存性は殆どない。すなわち、無機金属や半導体のα2/α1の値はおおむね1である。このため、室温から200℃付近におけるポリイミドのCTEを無機金属又は半導体のそれと同じにしても、高温域でCTEのミスマッチが生じ、熱応力によるクラックや反り等の問題が生じる事があった。
【0004】
特許文献3には、350℃以下のCTEの変化を低減したポリイミドが提案されている。しかし、このポリイミドフィルムも350℃を超える高温域ではCTEは大きく上昇し、さらなる高温域での使用には不十分であった。
【0005】
また、特許文献4には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(以下「s−BPDA」という)、ピロメリット酸二無水物(以下「PMDA」という)、パラフェニレンジアミン(以下「PPD」という)の3成分系からなり、膜厚が9〜11μmのコーティング膜が提案されている。しかし、このコーティング膜は11μm以下の薄膜の場合であり、またPMDAの割合が50mol%以下では、さらに温度を上げるとCTEが大きく上昇することから、高温域での使用には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−179238号公報
【特許文献2】特開2007−317834号公報
【特許文献3】特開2006−199740号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Part B: Polymer Physics, Vol. 39, 796−810(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温の熱処理に耐えられる、無機金属や半導体との積層に特に好適なポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することである。また、上記ポリイミドフィルムを用いた積層体および高い変換効率を有するフレキシブル薄膜系太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化学組成や製造方法の条件、ポリイミドフィルムの物性等を鋭意研究し発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の事項に関する。
(1)芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる自己支持性フィルムを延伸し、イミド化してなるポリイミドフィルムであって、50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が正の値であり、かつ350℃〜450℃における平均線膨張係数(α2)との比α2/α1の値が1.4以下の値を示すポリイミドフィルム。
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物として少なくともPMDAを含み、かつs−BPDAとPMDAとを合わせて85mol%以上を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとしてPPDを85mol%以上含む芳香族ジアミンとを混合しポリイミド前駆体とし、前記ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより自己支持性フィルムとし、前記自己支持性フィルムを1.05倍以上、2倍以下に延伸し、前記延伸物をイミド化し、前記イミド化後のフィルムをアニール処理する前記(1)記載のポリイミドフィルムの製造方法。
(3)前記(1)のポリイミドフィルム上に導電層を形成してなる積層体。
(4)前記(3)の積層体を用いたフレキシブル薄膜系太陽電池。
(5)前記(3)の積層体上にカルコパイライト系化合物半導体層が形成されたCIS系太陽電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリイミドフィルムの高温域と低温域の平均線膨張係数の比(α2/α1)の値を従来に比べて小さくする事が可能であり、無機金属や半導体の線膨張係数に近い値を示す事から、無機金属や半導体との積層時及びその後の熱処理工程における反りやクラックを抑制することが可能となる。このため、本発明で得ることができるポリイミドフィルムは、その製造工程上、高温の処理が必要となるフレキシブル薄膜系太陽電池、特にCIS系太陽電池やフレキシブルTFT基板用基材として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリイミドフィルムは、次のように作製することができる。まず、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を合成する。次に、このポリイミド前駆体の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する。次に、この自己支持性フィルムを延伸し加熱、イミド化する。
【0011】
[ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)]
ポリイミド前駆体としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから製造されるものが好ましい。本発明において用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物として、少なくともPMDAを含む。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、PMDAとs−BPDAを主成分とすることが好ましい。具体的には,芳香族酸二無水物としてs−BPDAとPMDAを合わせて85mol%以上含むことが好ましく、特にPMDAを5mol%以上50mol%以下、s−BPDAを50mol%以上95mol%以下含むことが高温域のCTEの低減及び高温での熱分解の抑制の点からより好ましい。さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、他の芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を併用することもできる。
【0012】
本発明において上記s−BPDA及びPMDAと併用が可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物成分としては、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。
【0013】
芳香族ジアミンとしては、PPDを主成分して含有することが好ましい。より具体的には、芳香族ジアミンとしてPPDを85mol%以上含むことが好ましく95mol%以上含むことがより好ましい。さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、他のジアミンを併用することもできる。PPDと併用可能な芳香族ジアミン成分としてはメタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリイミド前駆体の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。この際、前述したとおり、芳香族テトラカルボン酸二無水物として少なくともPMDAを含み、かつs−BPDAとPMDAとを合わせて85mol%以上を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとしてPPDを85mol%以上含む芳香族ジアミンとを混合しポリイミド前駆体とすることが好ましい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば有機溶媒を除去または、新たに有機溶媒を加えて、次の自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0015】
ランダム重合またはブロック重合の有機溶媒と、前記新たに加える有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、自己支持性フィルムの延伸が容易なる場合や、加熱イミド化時の結晶化によるフィルムの白化抑制に効果がある場合がある。また、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0017】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0018】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0019】
[自己支持性フィルム]
上記で得られたポリイミド前駆体を部分イミド化することにより、自己支持性フィルムを製造する方法について説明する。部分イミド化は、熱によるイミド化(熱イミド化)、化学的にイミド化(化学イミド化)、または熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法のいずれで行ってもよい。
【0020】
まず、熱イミド化による自己支持性フィルムの製造方法について説明する。ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度に加熱して部分イミド化することにより製造される。ここで、自己支持性となる程度とは、支持体から剥離可能な状態をいう。
ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体を10〜30質量%程度含むものが好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液としては、イミド化後のポリイミドの濃度が8〜25質量%程度であるものが好ましい。加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、例えば、温度100〜180℃で3〜60分間程度加熱すればよい。
【0021】
支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルト、ガラス板などが使用される。自己支持性フィルムは、その加熱減量が20〜50質量%の範囲にあること、さらに加熱減量が20〜50質量%の範囲で且つイミド化率が8〜55%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10〜50%の範囲にあることが自己支持性フィルムの力学的性質が十分であり、延伸を行う観点から好ましい。
【0022】
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた値である。
加熱減量(%)=(W1−W2)/W1×100
また、上記の部分イミド化された自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。
【0023】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、必要に応じて、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。特に表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いる場合に優れた効果が得られる。
【0024】
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。また、チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0025】
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にγ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランカップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0026】
カップリング剤やキレート剤など、表面処理剤の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液の前記有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒と同じものが好ましい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の有機溶媒溶液は、表面処理剤の含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは3〜60質量%、さらに好ましくは5〜55質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。表面処理剤の有機溶媒溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は0.8〜50000センチポイズであることが好ましい。
【0028】
表面処理剤の有機溶媒溶液としては、特に、表面処理剤が0.5質量%以上、特に好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは3〜55質量%の濃度でアミド系溶媒に均一に溶解している、低粘度(特に、回転粘度0.8〜5000センチポイズ)のものが好ましい。
【0029】
表面処理剤溶液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、1〜50g/mが好ましく、2〜30g/mがさらに好ましく、3〜20g/mが特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
表面処理剤溶液の塗布は、公知の方法を用いることができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0031】
次に、化学イミド化による自己支持性フィルムの製造方法について説明する。化学イミド化は公知の方法に従って行えばよい。例えば、熱イミド化の場合と同様にしてポリイミド前駆体を合成して、ポリイミド前駆体溶液であるポリアミック酸溶液を調製する。これに脱水剤および触媒を加える。必要に応じて、熱イミド化で記載したような無機微粒子などをポリアミック酸溶液に加えてもよい。そして、この溶液を適当な支持体(例えば、金属ベルトなど)上に流延塗布して膜状物に形成し、この膜状物を熱風、赤外線等の熱源を利用して、200℃以下の温度、好ましくは40〜200℃の温度で自己支持性となる程度にまで加熱することによって自己支持性フィルムを製造する。
【0032】
脱水剤としては、有機酸無水物、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、脂環式酸無水物、複素環式酸無水物、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機酸無水物の具体例としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、ギ酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、無水ピコリン酸等が挙げられ、無水酢酸が好ましい。脱水剤の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.5モル以上であることが好ましい。
【0033】
触媒としては、有機第三級アミン、例えば、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機第三級アミンの具体例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、β−ピコリン、イソキノリン、キノリン等が挙げられ、イソキノリンが好ましい。触媒の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.1モル以上であることが好ましい。化学イミド化の場合も、熱イミド化の場合と同様に、必要に応じて、イミド化する前に自己支持性フィルムの片面または両面に、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
【0034】
[自己支持性フィルムの延伸]
次いで自己支持性フィルムを延伸する。延伸倍率は、1.05〜2倍、好ましくは1.05倍から1.2倍、より好ましくは1.1倍から1.2倍である。ここで延伸倍率とは、フィルムを延伸する倍率をいい、1倍とは積極的な延伸を行っていないことをいう。延伸は、高温域と低温域の平均線膨張係数の比(α2/α1)の値を従来に比べて小さくする事ができ、実用上の観点から決定される。具体的な延伸方法としては、自己支持性フィルムの少なくとも一方の端をピンテンタ、クリップなどで固定後、加熱炉中に導入し、一軸方向又は二軸方向に1.05〜2倍の範囲で延伸する。延伸は逐次的であっても同時であっても構わない。延伸温度は100℃〜280℃、より好ましくは130℃〜250℃であることが延伸のし易さ、延伸効率の点から好ましい。
【0035】
[ポリイミドフィルム]
上記で得られた延伸物を加熱することによりイミド化しポリイミドフィルムを得る。加熱処理は、約100〜550℃の温度においてポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.05〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理し、さらに400〜550℃の高い温度で第四次高温加熱処理することが好ましい。
【0036】
ポリイミドフィルムの製造は、バッチ法でも連続法でも行うことができる。連続法によって製造する場合、延伸は延伸専用の加熱炉又は加熱・イミド化用の加熱炉の前半工程の両方を用いる事が可能である。イミド化用の加熱炉を用いる場合は、ピンテンタ、クリップ等で少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定して延伸を行う。延伸は必要に応じて一軸延伸、逐次二軸延伸または同時二軸延伸のいずれの方法を用いても良い。
【0037】
[アニール処理]
得られたポリイミドフィルムをアニール処理する。ここで、アニール処理とは、高温でフィルムを加熱することをいう。具体的なアニール処理の方法としては、ポリイミドフィルムを実質的に応力が殆どかからない状態で、500℃以上で加熱処理することが好ましい。
【0038】
実質的に応力がかからない状態とは、外力(張力)が加えられていない状態をいう。例えば、ポリイミドフィルムの両端が固定されていない状態である。フィルムの寸法変化に応じて固定端を適宜拡縮する方法を用いてもよい。この熱処理は、上で説明したイミド化のための第四次加熱処理に続けて行ってもよいし、第四次加熱処理の段階で実質的に応力がかからない状態にして加熱処理を行っても良い。イミド化後に得られたポリイミドフィルムを冷却した後、再度加熱してもよい。なお、熱処理後の冷却も、実質的に応力がかからない状態で行うことが好ましい。この熱処理は、500℃以上550℃以下、より好ましくは500℃以上520℃以下で30秒〜10分間、より好ましくは1分〜5分間行うことが好ましい。残留応力によるガラス転移温度以上の高温域での熱収縮を低減し、実質的に450℃までの昇温過程及び降温過程において可逆的に膨張、収縮するポリイミドフィルムを得る事が可能となる。これにより、例えば500℃以上の高温の熱処理における寸法変化率、特に降温時のフィルムの収縮が小さいポリイミドフィルムを得ることができる。
【0039】
連続法でポリイミドフィルムを製造する場合、実際に両端が固定されていない状態でフィルムを500℃以上で搬送することは、フィルムの安定生産の面で障害となるおそれがある。この場合、両端を固定しているピンテンタやクリップの幅をフィルムの収縮に合わせて縮めることで実質的に殆ど応力がかからない状態を作ることができる。
【0040】
このようにして得られたポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる自己支持性フィルムを延伸し、イミド化してなるポリイミドフィルムであって、50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が正の値であり、かつ350℃〜450℃における平均線膨張係数(α2)との比α2/α1の値が1.4以下の値を示す。また、500℃で20分間熱処理後の重量減少率が1質量%以下である。これにより、高温場においても使用することができる。
また、大気中における5%熱重量減少温度が600℃以上である。さらに、50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が0より大きく16ppm/℃以下である。また、500℃で20分間熱処理後の収縮率が熱処理前の寸法を基準にして、0.3%以下である。さらに、ポリイミドフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、12〜250μm程度、好ましくは12〜150μm程度、より好ましくは12〜125μm程度、さらに好ましくは12〜100μm程度である。また、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、少なくともPMDAを含み、かつs−BPDAおよびPMDAを合わせて85mol%以上含み、前記芳香族ジアミンは、PPDを85mol%以上含むことが好ましい。
【0041】
本発明において得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度を超える温度域で、CTEが殆ど上昇しない。また、延伸倍率上げることで高温域のCTEを低温域のCTEよりも小さくする事も可能であり、さらに、延伸倍率を上げることで高温域において負のCTEを発現するポリイミドを得る事も可能である。このことから、ポリイミドフィルムの高温域と低温域の平均線膨張係数の比(α2/α1)の値を従来に比べて比較的小さくする事が可能であり、無機金属や半導体の線膨張係数に比較的近い値を示す事から、無機金属や半導体との積層時及びその後の熱処理工程における反りやクラックを抑制することが可能となる。また、場合によっては高温域のCTEを低温域のCTEよりも小さくする事で、高温域までのトータルの寸法変化率を小さくする事が可能となり、積層体の高温処理工程におけるトータルの熱応力を低減させる事が可能となる。
本発明で得られたポリイミドフィルム上に導電層を形成してなる積層体も得ることができる。ここでいう導電層とは、電流を伝導する層を指し、具体的には金属、金属酸化物、有機導電体等である。導電層はモリブデン層であることが耐熱性、耐薬品性、熱伝導性、加工性、経済性等の観点から好ましい。
本発明で得られたポリイミドフィルム及び積層体は、500℃での重量減少率も小さく、より高い温度域での使用が可能であるため、製造工程上、高温での熱処理が必要な積層体及びそれを用いたフレキシブルTFT基板やフレキシブル太陽電池に好適に用いることができる。特に、積層体上にカルコパイライト系化合物半導体層が形成されたCIS系太陽電池にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
ポリイミドフィルムの物性の評価方法は以下の通りである。
(1)自己支持性フィルムの加熱減量測定法
自己支持性フィルムを480℃で5分間、オーブンで加熱した。元の重量をW1、加熱後の重量をW2として、次式(1)に従って、加熱減量を算出した。
加熱減量(%)=(W1−W2)/W1×100 (1)
【0044】
(2)自己支持性フィルムのイミド化率測定方法
Jasco社製FT/IR−4100を使用して、ZnSeを用いてATR−IRを測定した。1772cm−1付近のピークの最大値をX1、1517cm−1付近のピークの最大値をX2としたときの自己支持性フィルムの面積比X1/X2と、完全にイミド化が進んだフィルムの面積比X1/X2とを用いて、次式(2)に従い、自己支持性フィルムのイミド化率を算出した。自己支持性フィルムの測定では、フィルムの両面を測定し、両面の平均をイミド化率とした。完全にイミド化が進んだフィルムは、480℃、5分間加熱したものを用いて測定した。フィルムは、流延した支持体側をA面、気体側をB面とする。
イミド化率(%)=(a1/a2+b1/b2)×50 (2)
但し式(2)において
1772cm−1付近のピークの最大値をX1、
1517cm−1付近のピークの最大値をX2、
自己支持性フィルムのA面側の面積比X1/X2をa1、
自己支持性フィルムのB面側の面積比X1/X2をb1、
完全にイミド化が進んだフィルムのA面側の面積比X1/X2をa2、
完全にイミド化が進んだフィルムのB面側の面積比X1/X2をb2とする。
【0045】
(3)ポリイミドフィルムの平均線膨張係数
測定対象のポリイミドフィルムについて、TMAにより、下記の条件でそれぞれ昇温過程における50℃〜200℃及び350℃〜450℃の寸法変化から、平均線膨張係数α1及びα2を求め、平均線膨張係数の比α2/α1の値を計算した。また、降温過程の寸法変化についても測定し、450℃以下では実質昇温過程の寸法変化と重なる事で残留応力が除去されている事を確認した。さらに25℃に冷却後の寸法を、初期の寸法と比較することで、500℃加熱後の熱収縮率を求めた。
測定装置:エスアイアイ・テクノロジー社製 TMA/SS6100
測定モード:引張モード、荷重2g、
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃、
降温終了温度:25℃、
昇温および降温速度:20℃/min、
測定雰囲気:窒素。
【0046】
(4)ポリイミドフィルムの500℃、20分間熱処理後の重量減少率
測定対象のポリイミドフィルムについて、室温から500℃まで50℃/分で昇温し、500℃になった時点でポリイミドフィルムの重量Wを測定した。そして、そのまま500℃で20分間保持した後にポリイミドフィルムの重量Wを測定して、次式から重量減少率を求めた。
重量減少率(%)=(W−W)/W×100
【0047】
(5)熱重量分析
島津製作所製TGA−50を用いて、フィルムを窒素雰囲気中、10℃/minで600度まで昇温した。得られた熱重量減少曲線から、5%重量減少温度(Td5)を求めた。なお、600℃における重量減少率が5%以下の場合はTd5>600℃と示した。
【0048】
〔参考例1〕
(ポリアミック酸溶液の調製)
500mlのセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアセトアミド273.3gを入れ、ここにp−フェニレンジアミン(PPD)16.532g(0.1529モル)を投入して撹拌した。さらにピロメリト酸二無水物(PMDA)4.335g(0.0199モル)を投入し、常温常圧中で1時間反応させた。次いで3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)39.133g(0.1330モル)を投入し、30℃で10時間重合反応させて、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。得られたポリアミック酸溶液の30℃での回転粘度は2500ポイズであった。重合で用いた各原料のモル比を表1に示した。
【0049】
〔実施例1〕
(ポリイミドフィルムの製造)
参考例1で得られたポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100質量部に対して0.25質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩を添加し、均一に混合してポリアミック酸溶液組成物を得た。このポリアミック酸溶液組成物をガラス上に流延し、80℃で2.5分、その後135℃で2.5分加熱した後、ガラスから剥がして部分イミド化ポリアミド酸自己支持性フィルム(生フィルム)を得た。得られた自己支持性フィルムのイミド化率は18.5%、加熱減量は37質量%であった。
次いで、この自己支持性フィルムを一方向の両端を把持し、雰囲気温度150℃のオーブン中で把持した方向に1.05倍に20秒間かけて延伸し、延伸終了後、フィルムの四方の端部をピンで把持して150℃〜480℃まで16分間で加熱、イミド化して約35μmのポリイミドフィルムを得た。続けて四方を把持していたピンをはずして実質的に応力がかからない状態で、500℃で2.5分間ポリイミドフィルムを加熱処理(アニール処理)した。得られたポリイミドフィルムについての測定結果を表2に示す。
【0050】
〔実施例2〜6〕
参考例1と同様の手順で芳香族酸二無水物及び芳香族ジアミンを表1に示す割合(モル%)で用いて得られたポリアミック酸溶液を用い、表1に示す延伸倍率で延伸した他は実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについての測定結果を表2に示す。
【0051】
〔実施例7〕
参考例1と同様の手順で芳香族酸二無水物及び芳香族ジアミンを表1に示す割合(モル比)で用いて得られたポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100質量部に対して0.24質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩を添加し、均一に混合してポリアミック酸溶液組成物を得た。得られたポリアミック酸溶液組成物をTダイ金型のスリットから連続的にキャスティング・乾燥炉の平滑なエンドレスベルト状のステンレス製の支持体上に流延した後、125℃(設定温度)、8分間乾燥し、長尺状の自己支持性フィルムを得た。イミド化率は14.2%、加熱減量は40.6質量%であった。
この自己支持性フィルムの走行方向(MD)に雰囲気温度135℃で1.1倍に延伸した。次いで幅方向の両端を把持して連続加熱炉(キュア炉)へ挿入し、さらに125℃〜270℃の範囲内でフィルムの幅方向(TD)に実質的に1.06倍に延伸し、最終的に480℃まで5分間加熱してポリイミドフィルムを得た。続けて、加熱炉内で、フィルムの幅方向の両端把持部に、実質的に応力がかからない状態(無応力状態)で、500℃で2.5分間、ポリイミドフィルムを加熱処理した。得られたポリイミドフィルムについての測定結果を表2に示す。
【0052】
〔比較例1〜7〕
参考例1と同様の手順で芳香族酸二無水物及び芳香族ジアミンを表1に示す割合(モル%)で用いて得られたポリアミック酸溶液を用い、表1に示す延伸倍率で延伸した他は実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを得た。比較例5から7については、延伸を行っていない(延伸倍率1)。得られたポリイミドフィルムについての測定結果を表1に示す。PMDAを含まない場合、自己支持性フィルムを延伸しても高温域のCTEは相対的に下がらず、α2/α1の値は1.4以上であった。また、PMDAを含む場合においても延伸を行わないと高温域のCTEは相対的に下がらず、α2/α1の値は1.4以上であった。
【0053】
〔比較例8および9〕
市販品のポリイミドフィルムの物性を測定した。ポリイミドフィルムとして、アピカル(登録商標)(株式会社カネカ製、NPI)とカプトン(登録商標)(東レ・デュポン株式会社製、EN−C)を用いた。その結果を表2に示す。α1とα2は、シート状のポリイミドフィルムの横方向と縦方向の数値の両方を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる自己支持性フィルムを延伸し、イミド化してなるポリイミドフィルムであって、50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が正の値であり、かつ350℃〜450℃における平均線膨張係数(α2)との比α2/α1の値が1.4以下の値を示すポリイミドフィルム。
【請求項2】
500℃で20分間熱処理後の重量減少率が1質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
大気中における5%熱重量減少温度が600℃以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
50℃〜200℃における平均線膨張係数(α1)が0より大きく16ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
500℃で20分間熱処理後の収縮率が熱処理前の寸法を基準にして、0.3%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
厚みが12〜100μmである請求項1から5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、少なくともピロメリット酸二無水物(PMDA)を含み、かつ3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(s−BPDA)およびPMDAを合わせて85mol%以上含み、前記芳香族ジアミンは、パラフェニレンジアミン(PPD)を85mol%以上含む請求項1から6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、少なくともPMDAを含み、かつs−BPDAとPMDAとを合わせて85mol%以上を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとしてPPDを85mol%以上含む芳香族ジアミンとを混合しポリイミド前駆体とし、
前記ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより自己支持性フィルムとし、
前記自己支持性フィルムを1.05倍以上、2倍以下に延伸し、
前記延伸物をイミド化し、
前記イミド化後のフィルムをアニール処理する
請求項1から7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がPMDAを5mol%以上50mol%以下、s−BPDAを50mol%以上95mol%以下含む請求項8記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記部分イミド化のイミド化率が10〜50%である請求項9記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記延伸する際の温度が100℃〜280℃の範囲内である請求項8から10のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記アニール処理は、イミド化後のポリイミドフィルムを実質的に応力が殆どかからない状態で、500℃以上で加熱処理する工程である請求項8から11のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1から7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム上に導電層を形成してなる積層体。
【請求項14】
前記導電層がモリブデン層である請求項13記載の積層体。
【請求項15】
請求項13または14に記載の積層体を用いたフレキシブル薄膜系太陽電池。
【請求項16】
請求項13または14に記載の積層体上にカルコパイライト系化合物半導体層が形成されたCIS系太陽電池。

【公開番号】特開2013−100379(P2013−100379A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46145(P2010−46145)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】