説明

ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法及び積層体

【課題】接着剤を使用することなく且つ積層させるポリイミド発泡体や熱可塑性樹脂シートの接合面に反応性基を導入することなく、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとが強固に接合され、しかも軽量、高強度で、断熱性及び耐熱性に優れた、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体が得られる、積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度以上に加熱した後、熱可塑性樹脂シートをポリイミド発泡体に接合し、融着することを特徴とするポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法。熱可塑性樹脂シートとして、ポリアミド樹脂シートを用いる場合は、上記接合面を、該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より60℃以上高い温度に加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を使用することなく且つ積層させるポリイミド発泡体や熱可塑性樹脂シートの接合面に反応性基を導入することなく、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとが強固に接合された積層体の製造方法、及び該方法により製造されたポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの様々な分野において、軽量、高強度で、断熱性及び耐熱性に優れた断熱材、防振材、吸音材などが嘱望されている。
このような材料として、樹脂発泡体の表面に繊維強化樹脂シートを貼り付けた積層体が知られている。例えば、特許文献1には、連続した強化繊維を一方向に整列させ熱可塑性樹脂を含浸した1枚以上のプリプレグと樹脂発泡体とを多層に重ね合わせて溶融一体化した積層体が記載されている。
また、特許文献2には、流動制御されたエポキシ樹脂を重量比で約45%程度含有した炭素繊維強化複合材料を面板とし、ポリエーテルイミド樹脂の発泡材をコアとした複合サンドイッチ構造体が記載されている。
また、特許文献3には、X線機器用部材として、表皮材が剛性の高い繊維強化樹脂で構成され、芯材が表皮材よりも見かけ密度の小さい樹脂で構成され、さらに全体厚みを小さくした、剛性を保持したままで軽量性及びX線透過性に優れた繊維強化樹脂製サンドイッチパネルが記載されている。
しかし、特許文献1〜3に記載されている積層体はいずれも十分な耐熱性を実現できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−178859号公報
【特許文献2】特開2002−225210号公報
【特許文献3】特開2005−313613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体は、従来知られていない。本発明者らは、耐熱性に優れたポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体を提供するため、射出成形機の射出装置から射出された溶融状態の熱可塑性樹脂を、ポリイミド発泡体と接合させたところ、ポリイミド発泡体が破壊されてしまい、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体が得られなかった。
ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体を得る方法としては、接着剤を使用して接合する方法又は積層させるポリイミド発泡体や熱可塑性樹脂シートの接合面に反応性基を導入して該反応性基により接合する方法が考えられるが、斯かる方法はいずれも工程が煩雑でコストが掛かるなどの問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、接着剤を使用することなく且つ積層させるポリイミド発泡体や熱可塑性樹脂シートの接合面に反応性基を導入することなく、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとが強固に接合され、しかも軽量、高強度で、断熱性及び耐熱性に優れた、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体が得られる、積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を、下記のポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シートとの積層体の製造方法又は下記のポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法を提供することにより達成したものである。
「ポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シートとの積層体の製造方法であって、ポリアミド樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より60℃以上高い温度に加熱した後、ポリアミド樹脂シートをポリイミド発泡体に接合し、融着することを特徴とするポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シートとの積層体の製造方法。」
「ポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法であって、熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度以上に加熱した後、熱可塑性樹脂シートをポリイミド発泡体に接合し、融着することを特徴とするポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法。」
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シート(以下、単に熱可塑性樹脂シートという場合は、ポリアミド樹脂シートとそれ以外の熱可塑性樹脂シートとを含む)との積層体の製造方法によれば、接着剤を使用することなく且つ積層させるポリイミド発泡体や熱可塑性樹脂シートの接合面に反応性基を導入することなく、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとが強固に接合され、しかも軽量、高強度で、断熱性及び耐熱性に優れたポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体が容易に得られる。そのため、本発明の製造方法により製造されたポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体は、断熱材、防振材、吸音材、遮音材、気柱共鳴防止材、衝撃吸収材などとして好適に用いることができ、特に、自動車エンジン回りの断熱材として好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
本発明で用いられるポリイミド発泡体としては、芳香族ポリイミドによって形成されたポリイミド発泡体であることが好ましい。
斯かる芳香族ポリイミドとしては、特に制限されるものではないが、テトラカルボン酸成分が芳香族テトラカルボン酸類、ジアミン成分が芳香族ジアミンからなり、ガラス転移温度が250℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは330℃以上、特に好ましくは350℃以上の実質的に芳香族ポリイミドによって形成されたものが好適である。ガラス転移温度が低いポリイミドを用いると、ポリイミド発泡体の密度が不均一になり、形状も歪んだものになるので好ましくない。
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン以外の少量成分を、例えば発泡成形時の可塑性を改良する目的で用いても構わないが、得られるポリイミドのガラス転移温度が前記値以下にならないようにすることが好ましい。前記少量成分を用いる場合、その使用量は、テトラカルボン酸成分及びジアミン成分中、それぞれ独立に、10モル%程度以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下である。
【0009】
前記テトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類などのビフェニルテトラカルボン酸類、ピロメリット酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類などのベンゾフェノンテトラカルボン酸類、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸類などのナフタレンテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル類などのビス(ジカルボキシフェニル)エーテル類、2,2−ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)プロパン類などのビス(ジカルボキシフェニル)プロパン類、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン類などのビス(ジカルボキシフェニル)エタン類、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン類などのビス(ジカルボキシフェニル)スルホン類などの芳香族テトラカルボン酸類を単独又は混合して好適に用いることができる。これらの中でも特にビフェニルテトラカルボン酸類が、発泡体を容易に得ることができ且つガラス転移温度が高いので、テトラカルボン酸成分の主成分(50モル%以上、好ましくは80モル%以上)として用いるのが好適である。
ここでテトラカルボン酸類とは、テトラカルボン酸、そのエステル化物、その無水化物などのポリイミドを形成し得るテトラカルボン酸及びその誘導体を意味する。
成形性などを考慮して用いられる少量成分としては、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン類などのビス(ジカルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサン類や、シクロペンタンテトラカルボン酸類、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2,4,5−テトラカルボン酸などのシクロヘキサンテトラカルボン酸類などの脂肪族テトラカルボン酸類が挙げられる。
【0010】
前記ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、3,5−ジアミノ安息香酸などのベンゼン核を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4' −ジアミノジフェニルスルホンなどのベンゼン核を2つ有する芳香族ジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンなどのベンゼン核を3つ有する芳香族ジアミン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、4,4' −ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4' −ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパンなどのベンゼン核を4つ有する芳香族ジアミン、ジアミノナフタレン等のナフタレン環を有する芳香族ジアミン、2,6−ジアミノピリジンなどの複素環を有する芳香族ジアミンなどを単独又は混合して好適に用いることができる。これらの中でも、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4' −ジアミノジフェニルスルホン、及び2,6−ジアミノピリジンからなる群から選択された少なくとも一つの芳香族ジアミンを主成分(50モル%以上、好ましくは80モル%以上)として用いることが好適である。
成形性などを考慮して用いられる少量成分としては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルシランのようなジアミノシロキサンや、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミンや、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミンを挙げることができる。
【0011】
また、前記ポリイミド発泡体を形成する好ましい芳香族ポリイミドとして、下記化学式(1)で示される反復単位からなる芳香族ポリイミドが挙げられる。
【0012】
【化1】

但し、化学式(1)中のAは、その0〜90モル%、好ましくは40〜90モル%、より好ましくは50〜90モル%、特に好ましくは50〜80モル%が下記化学式(2)で示されるビフェニルテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニットであり、その100〜10モル%、好ましくは60〜10モル%、より好ましくは50〜10モル%、特に好ましくは50〜20モル%が下記化学式(3)で示されるベンゾフェノンテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニット及び/又は下記化学式(4)で示されるビフェニルテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニットであり、化学式(1)中のBは、その50〜97モル%、好ましくは60〜97モル%、より好ましくは70〜97モル%、特に好ましくは80〜95モル%が下記化学式(5)で示されるメタフェニレン構造に基づく2価のユニットであり、その50〜3モル%、好ましくは40〜3モル%、より好ましくは30〜3モル%、特に好ましくは20〜5モル%が下記化学式(6)で示されるジフェニルメタン構造に基づく2価のユニットである。
【0013】
【化2】

【0014】
テトラカルボン酸成分中の前記化学式(2)で示されるビフェニルテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニットの割合が多いほど、耐熱性、耐加水分解性、耐アルカリ性、ガラス転移温度、機械的強度などに優れた特性を得ることができるので好ましいが、90モル%を越えると、ポリイミド発泡体を製造するためのテトラカルボン酸ジエステルとジアミンとからなるポリイミド前駆体が均一な溶液になり難いので好ましくない。
【0015】
ジアミン成分中の前記化学式(5)で示されるメタフェニレン構造に基づく2価のユニットが50モル%以上であると、ガラス転移温度が300℃以上で、且つ発泡体セルが均一で細かく、変形しても容易に亀裂が発生しない可撓性や優れたクッション性などの機械的特性を有したポリイミド発泡体を容易に得ることができるので好適である。前記化学式(5)で示されるメタフェニレン構造に基づく2価のユニットが50モル%未満では、前記の特性を得ることが難しくなる。前記化学式(5)で示されるメタフェニレン構造に基づく2価のユニットが97モル%を越えると、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとからなるポリイミド前駆体が均一な溶液になり難いので好ましくない。
【0016】
本発明で用いられるポリイミド発泡体は、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分とを略等モル、具体的にはモル比(テトラカルボン酸成分/ジアミン成分)が0.95〜1.05の範囲で用いることが好適である。
【0017】
前記の芳香族ポリイミドからなる本発明で用いられるポリイミド発泡体は、従来公知の方法で好適に製造することができる。例えば、低級アルコール溶媒中でテトラカルボン酸二無水物と前記低級アルコールとを反応させてテトラカルボン酸エステル化物の溶液とし、それにジアミンを加えて混合してポリイミド前駆体溶液組成物を得、次いでその溶液組成物のアルコール溶媒を低温で蒸発除去し、粉末のポリイミド前駆体組成物を得る。この粉末のポリイミド前駆体組成物を必要に応じて予備成形してグリーン体にした後で、マイクロ波加熱などによって加熱して発泡させることで好適に得ることができる。また、前記粉末のポリイミド前駆体組成物に再度低級アルコールを加えて溶液乃至サスペンジョンのポリイミド前駆体組成物とした後で、マイクロ波加熱などによって加熱して発泡させることで好適に得ることができる。
【0018】
ポリイミド前駆体溶液組成物の調製は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが略等モルになるような組成比で混合して行われるが、発泡を均一化するために、例えばジアミノジシロキサンがジアミン成分の少量成分として好適に用いられる。溶媒の低級アルコールとしてはメタノ−ル、エタノ−ル、プロパノールなどが用いられ、他の溶媒と混合されることもある。テトラカルボン酸エステル化物の溶液にジアミンを加えて混合してポリイミド前駆体溶液組成物を得る際には、各成分の濃度はジアミンの溶解度限界以下が好適であり、不揮発成分量は全量中の3〜50質量%程度になる。このポリイミド前駆体溶液組成物には、1,2−ジメチルイミダゾ−ル、ベンズイミダゾ−ル、イソキノリン、置換ピリジンなどのイミド化触媒、界面活性剤、或いは、他の公知の添加剤、例えば無機フィラ−、無機あるいは有機顔料などを加えてもよい。
【0019】
ポリイミド前駆体溶液組成物は、実験室的にはエバポレ−タ、工業的にはスプレ−ドライヤ−などを用いて、蒸発乾固して粉末化される。この時の温度は100℃以下特に80℃以下が好ましい。高温で蒸発乾固するとポリイミド前駆体組成物の発泡性が極端に低下する。蒸発乾固は、常圧でも、加圧下でも、あるいは減圧下で行ってもよい。
【0020】
グリ−ン体の作成は、例えば、粉末のポリイミド前駆体組成物を室温で圧縮成形する方法、スラリ−溶液として流延乾固する方法、テフロン(登録商標)製などのマイクロ波に不活性な容器へ充填する方法などによって行うことができる。概略均一な状態のグリ−ン体を得ることができれば、発泡時の均一化は達成できる。
【0021】
ポリイミド前駆体組成物の発泡は、好適にはマイクロ波加熱による加熱によって好適に行うことができる。この際に、一般的には2.45GHzで行う。これは日本の国内法(電波法)に基づく。粉末重量当たりのマイクロ波出力を目安とすることが好ましい。これは実験を重ねることによって定義すべきである。例えば、100g/1kW程度のマイクロ波を約1分照射すると発泡を開始し、2〜3分で発泡は収束する。
発泡した状態の発泡体は非常に脆いので、直ちにオーブンなどを用いて加熱するのが好適である。加熱は、200℃程度から徐々に昇温(一応の目安として、100℃/10分程度の昇温速度)して行うのが好適である。最終的にはポリイミドのガラス転移温度+α(10〜100℃位)の温度にて5〜60分間、好適には10分間程度加熱する。
【0022】
本発明で用いられるポリイミド発泡体は、発泡体セルが均一で細かなものが好ましく、断面積の80%以上、好ましくは90%以上の面積が、径が100〜1500μm、好ましくは100〜1000μmの範囲内の発泡体セルで構成されているものが好ましい。
【0023】
本発明で用いられるポリイミド発泡体は、その密度が、好ましくは1〜50kg/m3 、より好ましくは3〜20kg/m3 、特に好ましくは5〜15kg/m3 である。ポリイミド発泡体の密度が1kg/m3 未満であると、断熱性が著しく低下し、またポリイミド発泡体の密度が50kg/m3 超であると、断熱性が密度の上昇とともに低下する。
【0024】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6・66共重合、ポリアミド12などのポリアミド樹脂;ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエン、ポリウレタン、ABS樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド樹脂が好ましく、特にポリアミド6が好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、タルクなどの無機フィラーなどの強化材が配合された熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0025】
本発明の積層体は、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとをそれぞれ1層ずつ積層した2層構造でもよく、ポリイミド発泡体をコア層としてその両面に熱可塑性樹脂シートを積層した3層構造でもよい。2層構造の積層体の場合、ポリイミド発泡体の厚みは、好ましくは1〜300mm、より好ましくは2〜200mm、特に好ましくは5〜150mmであり、熱可塑性樹脂シートの厚みは、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは1〜5mm、特に好ましくは2〜4mmである。また、3層構造の積層体の場合、ポリイミド発泡体の厚みは、好ましくは1〜300mm、より好ましくは2〜100mm、特に好ましくは5〜50mmであり、熱可塑性樹脂シートの厚みは、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは1〜5mm、特に好ましくは2〜4mmであり、ポリイミド発泡体の両面の熱可塑性樹脂シートの厚みは、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0026】
而して、本発明のポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法を実施するには、まず、上述した熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を加熱する。ここで熱可塑性樹脂シートとして、ポリアミド樹脂シートを用いる場合と、それ以外の熱可塑性樹脂シートを用いる場合とでは、上記接合面の加熱温度が異なる。
ポリアミド樹脂シートを用いる場合は、上記接合面を、該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より60℃以上高い温度、好ましくは該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より60〜130℃高い温度、より好ましくは該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より80〜110℃高い温度に加熱する。
ポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートを用いる場合は、上記接合面を、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度以上、好ましくは該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より10℃以上高い温度、より好ましくは該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より10〜50℃高い温度に加熱する。
熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面の加熱温度が、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より低いと、熱可塑性樹脂シートをポリイミド発泡体に接合することができないか、接合することができても接合強度が低く好ましくない。また、熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面の加熱温度が高過ぎると、熱可塑性樹脂の熱劣化を促進し好ましくない。
【0027】
ポリイミド発泡体への接合面を前記温度に加熱した熱可塑性樹脂シートを、ポリイミド発泡体に接合し、融着することにより、本発明に係る積層体を製造することができる。
熱可塑性樹脂シートとポリイミド発泡体との接合、融着は、例えば、ポリイミド発泡体への接合面を前記温度に加熱した熱可塑性樹脂シートを、ポリイミド発泡体に重ね合わせ、空圧、油圧、水圧などを用いて、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜7MPaの圧力で加圧し、冷却することにより行うことができる。熱可塑性樹脂シートとポリイミド発泡体との接合、融着の際、ポリイミド発泡体は、加熱しておいてもよく、加熱しておかなくてもよいが、ポリイミド発泡体を加熱しておく場合は、熱可塑性樹脂シートの該熱可塑性樹脂の融点程度に加熱しておくのが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0029】
以下の例で記載したポリイミド発泡体、熱可塑性樹脂及び積層体の特性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
(ポリイミド発泡体の密度の測定)
ASTM D 3574 TEST Aに準拠して測定した。
(熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度の測定)
差動型示差熱天秤(TG−DTA)を用い、雰囲気:窒素、温度:常温〜300℃、昇温速度:20℃/分により測定した。
(積層体の接合状態の評価)
積層体を目視で観察して、ポリイミド発泡体の融着不良による著しい浮きがなく、融着部のポリイミド発泡体を手で軽く引っ張っても剥がれないものを○、融着部のポリイミド発泡体の一部が剥がれるものを△、融着部のポリイミド発泡体が容易に剥がれるものを×とした。
(積層体の接合強度の評価)
積層体を万能型引張試験機を用いて、ポリイミド発泡体及び熱可塑性樹脂シートの各両端を掴んで1mm/minの速度で引張り、融着部以外のポリイミド発泡体から破壊したものを○、融着部の一部を含むポリイミド発泡体から破壊したものを△、融着部から破壊したものを×とした。
(積層体の断熱性の評価)
卓上式熱板の温度設定を熱可塑性樹脂シートの該熱可塑性樹脂の融点温度に設定し、積層体を、ポリイミド発泡体側を熱板に向けて熱板に載せる。3分間放置後、熱板上で積層体の熱可塑性樹脂シートを触って、軟化や変化をしなかったものを○、軟化したものを△、変形したものを×とした。
(積層体の耐熱性の評価)
積層体を熱風式乾燥機に入れ、150℃の空気中に500時間暴露し、著しい変形や剥離がないかを調べた。剥離や変形がなかったものを○、部分的に変形や剥離したものを△、全体が変形や剥離したものを×とした。
【0030】
〔参考例〕ポリイミド発泡体の調製
1m3 のジャケット仕様の攪拌機付反応槽に、55.519kgの2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と15.201kgの3,3’,4,4' −ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と139.7kgのメタノールとを仕込み、反応槽内を窒素置換した後、ジャケット内を90℃の温水を循環させて加熱し、反応液が90℃になってから90分間還流してエステル化反応を行った。その後、反応液を30℃以下まで冷却した後、反応液に25.052kgのp−フェニレンジアミンと0.628kgの1,3−ビス(3- アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンとを添加した。更に2.892kgの1 ,2- ジメチルイミダゾールを添加し、撹拌して反応液を均一な溶液にした。次いで、スプレードライヤーを使用し、前記反応液を乾燥温度が50℃以下となるように噴霧量を調整しながら乾燥して、発泡ポリイミド前駆体の乾燥粉を得た。次いで、この発泡ポリイミド前駆体乾燥粉の2kgを280mmφ×100mmtの型枠に充填し、プレス機で加圧してグリーン体を圧縮成形した。得られたグリーン体は460mm×厚み25mmの寸法であった。このグリーン体をマイクロ波照射装置に入れ、出力15kwで7.5分間マイクロ波を照射し、発泡ポリイミド前駆体発泡物を得、これを200℃に昇温されたオーブン中に投入し380℃まで昇温した後、室温まで冷却し、これを100mm×100mm×厚み5mmの大きさに切り出し、ポリイミド発泡体を得た。得られたポリイミド発泡体は緻密で均一な発泡体であり、密度は7.5kg/m3 あった。
【0031】
〔実施例1〕
ポリイミド発泡体として、参考例で得られたポリイミド発泡体を用い、熱可塑性樹脂シートとして、100mm×100mm×厚み5mmのポリアミド6からなるシートを用いた。該ポリアミド6の示差熱分析の発熱ピーク温度は180℃であった。
ポリアミド6からなるシートのポリイミド発泡体への接合面を240℃に加熱し、これを、220℃に加熱しておいたポリイミド発泡体に重ね合わせ、0.5MPaの圧力で加圧し、冷却して、ポリイミド発泡体と熱可塑性樹脂シートとが融着した積層体を得た。
得られた積層体についての接合状態、接合強度、断熱性及び耐熱性の評価結果を下記表1に示す。
【0032】
〔実施例2〜6及び比較例1〕
実施例1において、熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂の種類及び該シートの接合面の温度を下記表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、積層体をそれぞれ得た。
得られた各積層体についての接合状態、接合強度、断熱性及び耐熱性の評価結果を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔比較例2〕
宇部興産機械(株)製型締め力350トンの射出成形機を用い、金型温度80℃設定で板状成形品の金型の中に参考例で得られたポリイミド発泡体を入れて、260℃で可塑化したポリアミド6(30%ガラス繊維強化品)を射出プレス法で射出成形した。ポリイミド発泡体とポリアミド6は一体に貼合せた状態になったが、ポリイミド発泡体が射出成形時の射出圧力で圧縮されて潰れてしまい、ポリイミド発泡体の断熱性が著しく損なわれた積層体しか得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シートとの積層体の製造方法であって、ポリアミド樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該ポリアミド樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より60℃以上高い温度に加熱した後、ポリアミド樹脂シートをポリイミド発泡体に接合し、融着することを特徴とするポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シートとの積層体の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド樹脂が、ポリアミド6又はポリアミド66である請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
ポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法であって、熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度以上に加熱した後、熱可塑性樹脂シートをポリイミド発泡体に接合し、融着することを特徴とするポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂シートのポリイミド発泡体への接合面を、該熱可塑性樹脂の示差熱分析の発熱ピーク温度より10℃以上高い温度に加熱する請求項3記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリアセタール又はポリフェニレンスルフィドである請求項3又は4記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
ポリイミド発泡体が、芳香族ポリイミドによって形成されたものである請求項1〜5の何れかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
芳香族ポリイミドが、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とするテトラカルボン酸成分と、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、及び2,6−ジアミノピリジンからなる群から選択された少なくとも一つの芳香族ジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるものである請求項6記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
芳香族ポリイミドが、下記化学式(1)で示される反復単位からなるものである請求項6記載の積層体の製造方法。
【化1】

但し、化学式(1)中のAは、その0〜90モル%が下記化学式(2)で示されるビフェニルテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニットであり、その100〜10モル%が下記化学式(3)で示されるベンゾフェノンテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニット及び/又は下記化学式(4)で示されるビフェニルテトラカルボン酸構造に基づく4価のユニットであり、化学式(1)中のBは、その50〜97モル%が下記化学式(5)で示されるメタフェニレン構造に基づく2価のユニットであり、その50〜3モル%が下記化学式(6)で示されるジフェニルメタン構造に基づく2価のユニットである。
【化2】

【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の積層体の製造方法により製造された、ポリイミド発泡体とポリアミド樹脂シート又はそれ以外の熱可塑性樹脂シートとの積層体。

【公開番号】特開2011−218779(P2011−218779A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277326(P2010−277326)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】