説明

ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類、ならびに熱可塑性プラスチック、成形用コンパウンドおよびコーティング材料用の添加剤としてのこれらの使用

【課題】 ポリエステルで修飾したポリシロキサン類が、これらを含有する最終生成物の潤滑性、耐引掻き性および撥水性を著しく向上する。
【解決手段】 一般式(I)で示される、ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類に関するものである。


(式中、Aは炭素数1から8のアルキル基であり、Zは炭素数1から14の脂肪族基であり、Rは少なくとも3個のエステル結合を含み、重量平均分子量200から4000g/モルを有し、ツェレビチノフ水素原子を有しない脂肪族および/または脂環式および/または芳香族ポリエステル基であり、Qはツェレビチノフ水素原子を有しない基であって反応性炭素−炭素多重結合を有しておらず、mは3から200であり、ならびにo+n=2(oおよびnはゼロ以外)である。) さらに、熱可塑性プラスチック、成形用コンパウンドおよびコーティング材料に本発明の化合物を使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類に関し、および熱可塑性プラスチック、コーティング材料および成形用コンパウンドにこれらを使用することに関する。その使用の結果として、耐引掻き性や潤滑性が著しく改善され、かつこれらの疎水性も著しく改善される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2から、コーティング材料の流動特性を改良したり、これらの耐引掻き性や潤滑性を向上したりするために、低分子量のジメチルポリシロキサン類およびメチルフェニルシロキサン類をコーティング材料に加えることが知られている。しかしながら、ポリジメチルシロキサン類の添加により着色していないコーティング材料に濁りが生じたり、流動特性が悪かったりする場合が多く、いわゆる「あばた傷」と称するものが目立つようになる。もし、純粋なポリジメチルシロキサン類の分子量が大き過ぎるものを選ぶとコーティング材料に重大な欠陥が生じ、クレータまたはいわゆるフィッシュアイとして認識されるようになる。
【0003】
一般に、ポリメチルフェニルシロキサん類はコーティング材料との相溶性が良好であり、これらが添加されたコーティング材料の流動特性も向上するが、耐引掻き性については不十分である。
シロキサン類を添加したコーティングシステムにおいて生じる非相溶性が、同様に、熱可塑性プラスチックでも生じることが観察されている。
【0004】
特許文献3には、ポリエステルで修飾されたシロキサン類が、コーティング材料や成形コンパウンドの耐引掻き性および潤滑性を向上させること、良好な相溶性および素晴らしい温度安定性をもたらすことが記述されている。それらシロキサン類は分岐したもので、その側鎖にポリエステル部分を有しているものである。
【0005】
特許文献4には、特許文献3で知られているものと類似の構造を有する化合物が記述されているが、側鎖の基を強制的に付したものではなく、さらに、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基またはビニル基のような反応性末端基を含むものである。
【0006】
【特許文献1】DE-C-1111320
【特許文献2】DE-C-1092585
【特許文献3】EP 0175 092 B1
【特許文献4】EP 0 217 364 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
驚くべきことに、先行技術の化合物類に比べて、ポリエステルで構成されるブロックXおよびポリシロキサン類のブロックYのXYブロック構造を有し、かつ、反応性基ではない末端基を有する、ポリエステルで修飾したポリシロキサン類が、これらを含有する最終生成物の潤滑性、耐引掻き性および撥水性を著しく向上することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は一般式(I)で表され、
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Aは炭素数1から8のアルキル基であり、Zは炭素数1から14の脂肪族基であり、Rは少なくとも3個の
【0011】
【化2】

【0012】
および/または
【0013】
【化3】

【0014】
基を含み、重量平均分子量200から4000g/モルを有し、ツェレビチノフ(Zerewitinoff)水素原子を有しない脂肪族および/または脂環式および/または芳香族のポリエステル基であり、Qはツェレビチノフ水素原子を有しない基であって反応性の炭素−炭素多重結合を有しておらず、mは3から200であり、ならびにo+n=2(oおよびnはゼロ以外)であるポリエステルで修飾したポリシロキサン類を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
ポリエステルで構成されるブロックXおよびポリシロキサン類のブロックYのXYブロック構造を有し、かつ、反応性基ではない末端基を有する、ポリエステルで修飾したポリシロキサン類が、これらを含有する最終生成物の潤滑性、耐引掻き性および撥水性を著しく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
グループAは一般的な制限を受けることは無く、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルのような直鎖または分岐のアルキル基である。特に好ましいものは炭素数1から4の直鎖アルキル基である。
【0017】
Zは炭素数1から14の脂肪族基、特に、炭素数1から14のアルキレン基、炭素数2から14のアルキレンエーテルもしくはアルキレンチオエーテル基、または炭素数2から14のアルキレンアミド基である。アルキレンエーテルまたはアルキレンチオエーテル基の酸素または硫黄は炭素数2から14を有する鎖のいずれの箇所に位置して良い。同じことがアルキレンアミドのアミド部分にも適用される(例えば、-(CH2)3-NHCO-)。Z基はポリシロキサン成分のシリコン原子がR基に結合するのに重要な役割を有す。好ましいZ基として、-(CH2)3-O(CH2)2-)もしくは-(CH2)2-O(CH2)4-)またはこれらに対応するチオエーテル類である。
【0018】
R基は少なくとも3個の
【0019】
【化4】

【0020】
および/または
【0021】
【化5】

【0022】
基を含み、重量平均分子量200から4000g/モルを有し、およびツェレビチノフ水素原子を有しない脂肪族および/または脂環式および/または芳香族ポリエステルの基から成る。好ましくは、少なくとも3個の
【0023】
【化6】

【0024】
および/または
【0025】
【化7】

【0026】
基が炭素数2から12、さらに好ましくは炭素数4から6を有す二価の炭化水素基によって相互に結合しているものである。この種の基は、例えばプロピオラクトン、カプロラクトン、バレロラクトンまたはドデカラクトンおよびこれらの誘導体のようなラクトン類を重合して得ることができる。特に好ましいものは炭素数5の飽和脂肪族炭化水素基である。 この種の基は好ましくはε−カプロラクトンの重合で合成することができる。
【0027】
適切な芳香族ポリエステル基の例として、無水フタル酸に基づくものを挙げることができ、特に、得られるポリエステルで修飾されたポリシロキサン類はフタル酸エステルベースのバインダーを含むコーティング材料に使用することができる。
【0028】
R基のための適切な構成成分(building blocks)を選択することにより、本発明の化合物と種々の異なるポリマーシステムとの幅広い相溶性を実現することができる。特に、R基の脂肪族、脂環式(例えばシクロヘキサンジイル(cyclohexanediylのような)および芳香族(例えばフェニレンのような)成分から可能な選択をした結果として、化合物の極性をコントロールすることができ、かつ、特定の最終用途向けに適合させることができる。かかるポリマーの合成は塗料やプラスチック工業分野の平均的当業者に十分知られている。
【0029】
Qはツェレビチノフ水素を有せず、かつ反応性の炭素−炭素多重結合も有しない基である。Qは、特に、-(O)-(CO)p-(NH)q-(CHR1)r-(CHR2)s-(O)t-CR3R4R5ラジカルである。ここで、p、q、r、sおよびtはそれぞれ独立して0または1であり、R1、R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素または炭素数1から18の直鎖または分岐のアルキルラジカル、またはR1およびR3(p=q=0の場合では)は一緒に二価のラジカル−CH2―CH2―を形成する。好ましくは、ラジカルR3、R4およびR5の二個が水素であるものである。
【0030】
p=q=r=s=t=0の場合のQはアルコキシ基である。p=1およびq=r=s=t=0の場合のQはカルボン酸エステル基である。p=q=1およびr=s=t=0の場合のQはウレタン基である。p=q=0およびr=s=t=1の場合のQはオキシアルキレンエーテル基であり、例えば、Rに末端として結合しているOH基のエノール末端封止により形成される。Rに末端として結合しているOH基との反応により、Qを作ることができるということが一般的である。従って、前述したカルボン酸エステル基はRに末端として結合しているOH基とカルボン酸、無水カルボン酸もしくは塩化カルボニルとの反応により、または他の活性化カルボン酸誘導体との反応により合成することができる。しかるに、イソシアネートとの反応ではウレタン基を合成することができる。
【0031】
本発明の意味合いから、必要によりRおよびQラジカルのポリエステルで修飾されたポリシロキサン類はツェレビチノフ水素原子を含まないということであるが、このことの必要性が本質的に合致しているという意味である。ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類中の少量のツェレビチノフ水素原子はどのような崩壊も生じさせない。通常、本発明のポリシロキサン類の合成はツェレビチノフ水素原子を有す化合物が出発物資であり、最終生成物への転化度が100%とは理想的なことであるので、未反応の前駆体が工業的に利用される最終生成物にある程度の量含まれる。しかしながら、中間体中のツェレビチノフ水素原子についての転化度は全ツェレビチノフ水素原子のできるだけ80%、より好ましくは90%および理想的には90から100%に達するべきである。
【0032】
oおよびnの値の合計は2になる。そして、oおよびnはそれぞれ数値1から好ましくは0.5以下だけ、より好ましくは0.25以下だけ外れていて、o=n=1が最も好ましいものである。o=n=1の場合に、好ましい純粋の直鎖状単官能性生成物は以下のようにして製造することができる。更なる製造可能性としては平衡(equilibration)によるものであり、これにより、非官能性生成物、単官能性生成物および二官能性生成物が得られる。平衡により得られた生成物が異なる量の非官能性および二官能性の副生成物を含む場合に限り、1から外れるoおよびnの値は算術的に得られる。nの値は次のように計算する:n=[(非官能性ポリシロキサン aモル%)×0+(単官能性ポリシロキサン bモル%)×1+(二官能性ポリシロキサン cモル%)×2]/100。例えば、非官能性ポリシロキサン14.06モル%、単官能性ポリシロキサン46.88モル%および二官能性ポリシロキサン39.06モル%の場合では、算術的に出るnの値は1.25である(すなわち、n=[14.06モル%×0+46.88モル%×1+39.06モル%×2]/100=1.25)。
値mは3および200の間であり、好ましくは10および100の間である。
【0033】
本発明の化合物は、例えば直鎖状の単官能性ポリシロキサン類から出発して合成することができる。この種のポリシロキサン類は、例えば環状ポリシロキサン類のリビングアニオン重合を経て製造することができる。このプロセスについては、とりわけ、T. Suzuki, Polymer 30 (1989) 333に記載されている。当該反応を反応スキーム 1に具体例として例示する。
反応スキーム 1
【0034】
【化8】

【0035】
反応スキーム 2に示した方法において、官能性クロロシラン類、例えばジメチルクロロシラン、を用いて、平均的当業者に知られた方法により末端基のSiH(CH3)官能性化が可能である。
反応スキーム 2
【0036】
【化9】

【0037】
直鎖状の単官能性ポリシロキサン類を製造するための他の可能性として、Noll (Chemie und Tecnologie der Silicone, Wiley/VCH, Weinheim, 1984)に記載されているように、環状および開鎖ポリジメチルシロキサン類と末端Si−H−二官能性ポリジメチルシロキサン類との平衡によるものがある。 統計上の理由のために、反応生成物は環状、二官能性、単官能性および非官能性シロキサン類の混合物で構成される。 蒸留で低環状物を除去することにより、反応混合物中の直鎖状シロキサン類の留分を増加することができる。直鎖状ポリシロキサン類の中で、平衡による反応生成物中のSiH(CH32−単官能性ポリシロキサン類の留分はできるだけ多くなければならない。 直鎖状ポリシロキサン類の混合物を使用する場合には、本発明の単官能性最終生成物の留分が多いほど当該活量(activity)が高いというのが、本発明のその後の生成物の活量のためのルールである。
【0038】
混合物を使用する場合に、本発明の単官能性最終生成物の留分が混合物中最大の留分であるべきことが好ましく、40重量%を超える量であるべきことが好ましい。環状不純物がほとんど無い典型的な平衡生成物は、好ましくは二官能性直鎖状ポリシロキサン類を40重量%未満、かつ非官能性直鎖状ポリシロキサン類を15%未満含むものであり、特に、後者が5重量%未満含まれるもの、および理想的には全く含まれないものである。
【0039】
本発明に従って使用されるポリエステルで修飾されたシロキサン類を製造するために、実施例4および5に記述したように、例えばPt触媒の存在下、SiH(CH32−官能性シロキサン類を末端不飽和ポリエステル類と反応させることが可能である。
【0040】
しかしながら、目的化合物を製造するためにポリシロキサン部分を結合させることは、例えばEP 0 175 092に記載されているように、所望の他の如何なるプロセスによっても可能である。従って、例えば、出発物質は市場で入手可能な化合物とすることができる。この化合物のポリシロキサン部分はZ−OH基を介してポリエステル部分と反応する。この事も例えば、実施例1または6に示す。
【0041】
さらに、本発明は、一般式(I)の、ポリエステルで修飾されたシロキサンの十分な量を熱可塑性プラスチック、コーティング材料および成型用コンパウンドに加えることを特徴として、熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料の耐引掻き性を向上させ、かつ潤滑性を向上させる方法も提供する。
【0042】
さらに、流動性が改良されかつ潤滑性が向上される量の本発明のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類を含む熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料も本発明により提供される。特に、成型用コンパウンドおよびコーティング材料の性質が著しく改善されるのに加えて、本発明のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類を含む熱可塑性プラスチックもこれらの活量のメリットがあり、驚くべきことである。
【0043】
本発明の目的のための熱可塑性プラスチックとして、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、スチレン系ポリマー(例えば、ABS, SEBS, SBS)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド類、熱可塑性ポリウレタン類(TPU)、ポリ塩化ビニル、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンがある。熱可塑性プラスチックは充填および/または着色したものを使用することもできる。また、本発明の目的のための熱可塑性プラスチックには異なる種類の熱可塑性プラスチックの混合物(ブレンド)も含まれる。さらに、例えば、熱可塑性プラスチックとして、平均的当業者に知れているポリエステル繊維またはポリアミド繊維のような、紡糸可能な熱可塑性プラスチック繊維も含まれる。特に好ましい熱可塑性プラスチックはポリメチルメタクリレート(PMMA)に基づくこれらである。
【0044】
本発明の目的のためのコーティング材料は多くの幅広い種類の製品のいずれでも良い。これらは透明ニス、着色塗料または染料で構成されるコーティング材料のようなものである。これらは物理的または化学的に硬化または乾燥するバインダーに基づく多くの幅広い種類のバインダーから構成される。物理的に乾燥するバインダーの例としては、ニトロセルロース、アクリレート−メタクリレート、塩素化ゴム、PVC共重合体類、ポリビニルエステル類、ポリスチレン、ポリスチレン共重合体類およびブタジエン共重合体類に基づくバインダー類である。化学的に硬化または化学的に乾燥するバインダー類として、空気乾燥アルキド樹脂類、アルキド−メラミン樹脂類、アクリレート−メラミン樹脂類、アクリレート−イソシアネート樹脂類(PU樹脂類)、エポキシ樹脂類、飽和および不飽和ポリエステル類、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂類、および尿素−アルキド樹脂類がある。
【0045】
これらのコーティング材料は、バインダー類の機能としてこの公知技術の分野で知られているような有機溶媒および/または水もしくは可塑剤を液相として含むことができる。また、この液相は他のバインダー成分と反応してコーティングを形成する単量体または低子量化合物の形であることができる。
【0046】
さらに、本発明のコーティング材料は「粉体コーティング材料」と呼ばれるものでもあり、液体を含ないコーティング材料であって、被覆する基板に粉状で塗布されて反応する。粉体コーティング材料は静電塗装技術を使用して塗装することが多い。
【0047】
従って、本発明のコーティング材料は、基本的に添加剤としてポリエステルで修飾されたポリシロキサン類を含有するコーティング材料と同じ組成である。また、これらは湿潤剤、分散剤、充填剤、触媒および/または硬化促進剤のように、その他の点では一般的であるコーティング添加剤を含有することができ、かつレオロジー的アクティビティ−を有す薬品も含有することができる。
【0048】
当業者に知られているように、当該コーティング材料はこれに含まれているバインダーによって硬化する。本発明に従って使用されるポリエステルで修飾されたポリシロキサン類は、その熱安定性が高いために、熱硬化可能なコーティング材料において特に好都合である。例えば250℃までの温度での焼成や350℃までの高温での短時間焼成が可能な熱安定性がある。
【0049】
成型用コンパウンドについては上記コーティング材料で記述したものと同じか必要に応じ適宜変更すれば良い。成型用コンパウンドとは成型物に加工することができる組成物を意味し、成型後および/または成型中に高温で硬化できるコンパウンドに反応性の樹脂および/またはバインダーが含まれている。例えば、本発明の目的のための成型用コンパウンドは不飽和ポリエステル樹脂やビニル樹脂に基づくものである。さらに、この成型用コンパウンドには、例えば収縮を抑える成分として、ポリスチレン、酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレートおよびスチレン−ブタジエン共重合体のような熱可塑性プラスチックを加えることができる。さらに、成型用コンパウンドは特にポリウレタンやポリアミドである。例えば、これらは、反応性射出成型加工に使用され得るものであり、離型が特に困難である。
【0050】
他の成型用コンパウンドとしてエポキシ樹脂に基づく構成とすることができる。これらのエポキシ樹脂は特にキャスト用コンパウンドや圧縮成型用コンパウンドの分野で使用される。さらに、例えば湿式圧縮成型方法、射出成型方法または引出成型方法で成型できる成型用コンパウンドはフェノール−ホルムアルデヒド縮合樹脂であり、「フェノール樹脂」して知られている。
【0051】
一般に、この成型用コンパウンドは前記のコーティング材料のところで述べたような公知技術で知られている添加剤または他の成分も同じように含有することができる。特に、ガラス繊維、炭素繊維およびポリアミド繊維のような補強充填剤、および/または、珪灰石、ケイ酸塩、無機炭酸塩、水酸化アルミニウム、硫酸バリウムおよびカオリンなどの非補強充填剤、ならびにアルミナおよびシリカベースのナノスケール充填剤を含むことができる。
【0052】
熱可塑性プラスチック、コーティング材料および成型用コンパウンドに加えるポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の量は、流動性の十分な促進、潤滑性の向上および耐引掻き性改善に所望の効果を得るために適切な量とすべきである。例えば、コーティング材料、成型用コンパウンドまたは熱可塑性プラスチックの全重量に基づき0.005重量%のように、ごく少量で著しい効果を得ることができる。通常、ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類は熱可塑性プラスチック、コーティング材料または成型用コンパウンドの全重量に基づき、0.01重量%より多く、好ましくは0.05重量%より多い。ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の添加量の上限は、これらが高価であり高付加価値なものであるので、所望の効果が十分に得られる範囲で最少の量とし、これによって高価となるような過剰の添加を避ける。この上限は熱可塑性プラスチック、コーティング材料または成型用コンパウンドの全重量に基づき、一般的に約5重量%、好ましくは約2重量%およびより好ましくは約1重量%である。
【0053】
固体のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類は標準の工場技術を使用することによって熱可塑性プラスチックに混合するので、ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の融点が40℃、好ましくは50℃を超えるものがプラスチック工業での使用にとってメリットがある。本発明のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の融点はDSC法(示差走査熱量測定法)(DIN 53765)で決定した温度である。温度に対して発熱量をプロットし、得られたプロットにおける最大のネガティブ勾配点を融点とする。固体のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類は、特に、粉状、ペレット状、フレーク状、顆粒状またはその他の形状で加工操作に供給することができるという利点がある。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の実施例で例示するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものでは無い。
実施例1
攪拌器と還流コンデンサーの付いた反応容器に、下記の平均式
【0055】
【化10】

【0056】
のポリシロキサン406.8g(0.25モル)とε−カプロラクトン742.0g(6.5モル)とを混合し、次いで、ジブチル錫ジラウレート100ppmを加え、この混合液を窒素雰囲気下で180℃に加熱した。6時間の反応後に、混合液を80℃まで冷却し、460.0gのShellsol Aを加えた。引続き、ステアリルイソシアネート73.9g(0.25モル)を加え、この混合液を80℃でさらに30分攪拌した。減圧下(40 mbar)で160℃に加熱して反応混合液から溶媒を除去した。得られた生成物の融点は53℃で、ワックス状固体であった。
【0057】
実施例2(進歩性無し)
攪拌器と還流コンデンサーの付いた反応容器に、下記の平均式
【0058】
【化11】

【0059】
のポリシロキサン507.5g(0.25モル)とε−カプロラクトン742.0g(6.5モル)とを混合し、次いで、ジブチル錫ジラウレート100ppmを加え、この混合液を窒素雰囲気下で180℃に加熱した。6時間の反応後に、混合液を80℃まで冷却し、460.0gのShellsol Aを加えた。引続き、ステアリルイソシアネート147.8g(0.5モル)を加え、この混合液を80℃でさらに30分攪拌した。減圧下(40 mbar)で160℃に加熱して反応混合液から溶媒を除去した。得られた生成物の融点は51℃で、ワックス状固体であった。
【0060】
応用例
実施例1で得られた生成物0.05gを10%ポリメチルメタアクリレートの酢酸エチル溶液100gに溶解した。100×250mm2のガラス板上に厚み200μmのフィルムを形成した。溶媒を除去し、厚み約20μmのフィルムのコーティングを得た。実施例2で得られた生成物を用いて同じように行った。比較用のサンプルとして、添加剤を使用しないでガラス上に同じ種類のコーティングとした。
進行速度を一定として電気的フィルム引抜機器(electrical film-drawing apparatus)を使用して、耐滑り特性を測定した。フィルム引抜きルーラーに取付けるために、引張−圧力応力(tensile-pressure force)トランスデューサを取り付けた。このトランデューサはコンピュータを介して滑り物体による各々の抵抗を記録する。滑り物体は測定されるその表面の上で引張り方向に動く。 使用した滑り物体は所定のフェルト下張り(a defined felt underlay)を有す500g重量ストーン(weight stone)であった。
コーティングの透明性/曇り特性を単純に目視で評価した。接触角はKruess社製接触角メーターで測定した。テスト物体上の水滴の前進接触角(advancing contact angle)は8から12μlの液滴量(drop volume)の間で測定した。耐引掻き性はDIN EN 13523-4に従って鉛筆硬度テスト方法により測定した。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例3
還流コンデンサー付の反応容器に、下記の平均式
【0063】
【化12】

【0064】
の不飽和ポリエステル507g(0.5モル)と窒素雰囲気下で、下記の平均式
【0065】
【化13】

【0066】
のポリシロキサン1798g(0.45モル)およびキシレン988gとを混合し、ついで混合液を100℃に加熱した。
次に、2−プロパノールに6%のヘキサクロロ白金酸の強化溶液1.4gを加えた。3時間の反応後に、減圧下(40 mbar、180℃)で溶媒を除去した。
【0067】
実施例4
還流コンデンサー付の反応容器に、下記の平均式
【0068】
【化14】

【0069】
の不飽和ポリエステル57.1g(0.1モル)を下記の平均式
【0070】
【化15】

【0071】
のシロキサン51.9g(0.1モル)およびキシレン25gと混合し、ついで混合液を不活性ガス雰囲気下で70℃に加熱した。2時間の反応後に、減圧下(20 mbar、130℃)で溶媒を除去した。
【0072】
実施例5
攪拌器と還流コンデンサーの付いた反応容器に、下記の平均式
【0073】
【化16】

【0074】
のポリシロキサン274.1g(0.25モル)をε−カプロラクトン131.3g(1.15モル)およびδ−バレロラクトン115.2g(1.15モル)の混合物と混合し、ついでジブチル錫ジラウレート100ppmを加え、この混合液を窒素雰囲気下で160℃に加熱した。6時間の反応後に、混合液を60℃まで冷却し、無水酢酸0.3モルと4−ジメチルアミノピリジン200 ppmを加え、この混合液を60℃でさらに30分攪拌した。続いて、生じた酢酸および残存の無水酢酸を減圧下(10 mbar)で反応混合液から除去した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される、ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類。
【化1】

(式中、Aは炭素数1から8のアルキル基であり、Zは炭素数1から14の脂肪族基であり、Rは少なくとも3個の
【化2】

および/または
【化3】

基を含み、重量平均分子量200から4000g/モルを有し、ツェレビチノフ水素原子を有しない脂肪族および/または脂環式および/または芳香族ポリエステル基であり、Qはツェレビチノフ水素原子を有しない基であって反応性炭素−炭素多重結合を有しておらず、mは3から200であり、ならびにo+n=2(oおよびnはゼロ以外)である。)
【請求項2】
Aは炭素数1から4の直鎖状アルキル基であり、Zは炭素数1から14のアルキレン基、炭素数2から14のアルキレンエーテルまたはアルキレンチオエーテル基および炭素数2から14のアルキレンアミド基からなるグループから選択され、
ラジカルR中の少なくとも3個の
【化2】

および/または
【化3】

基は炭素数2から12の二価の炭化水素基によって相互に結合しており、Qは-(O)-(CO)p-(NH)q-(CHR1)r-(CHR2)s-(O)t -CR3R4R5ラジカルである請求項1に記載のポリエステル修飾されたポリシロキサン類。
(Qの式中、p、q、r、sおよびtはそれぞれ独立して0または1であり、R1、R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素または炭素数1から18の直鎖または分岐のアルキルラジカル、またはp=q=0の場合にR1およびR3が一緒に二価のラジカル−CH2−CH2−を形成し、かつoおよびnはそれぞれ平均して数値1から0.5以下だけ外れる。)
【請求項3】
ラジカルR中の少なくとも3個の
【化2】

および/または
【化3】

基が炭素数4から6の二価の炭化水素基によって相互に結合している請求項1または2に記載のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類。
【請求項4】
Rがポリカプロラクトン基、ポリバレロラクトン基またはカプロラクトンおよびバレロラクトンの共重合体の基である請求項1、2および3のいずれか1項に記載のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類。
【請求項5】
q、r、sおよびt=0、p=1または0、R4およびR5が水素、およびR3が炭素数1から18の直鎖状アルキルラジカルである場合、p=q=0、r、sおよびt=1、R1およびR3で−CH2−CH2−ラジカルを形成し、R2、R4およびR5が水素である場合、またはp=q=0、r、sおよびt=1、R1、R2、R4およびR5が水素、およびR3が炭素数1から18の直鎖状アルキルラジカルである場合の請求項2、3および4のいずれか1項に記載のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類。
【請求項6】
少なくとも40℃の融点を有する請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類。
【請求項7】
熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料の添加剤としての、請求項1から6のいずれか1項に記載の、一以上の一般式(I)のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の使用。
【請求項8】
熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料に請求項1から6のいずれか1項に記載の一以上の一般式(I)のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の効果的に流動性が改善し、潤滑性が向上し、かつ耐引掻き性が向上する量を加えることを特徴とする、熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料の流動性を改善し、潤滑性と耐引掻き性を向上する方法。
【請求項9】
ポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の効果的な量が熱可塑性プラスチック、成型用コンパウンドおよびコーティング材料の全量に基づき0.005重量%から5重量%である請求項8の方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載の一般式(I)のポリエステルで修飾されたポリシロキサン類の一以上を含む熱可塑性プラスチック、コーティング材料および成型用コンパウンド。
【請求項11】
熱可塑性繊維状である請求項10に記載の熱可塑性プラスチック。

【公開番号】特開2006−45559(P2006−45559A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200539(P2005−200539)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(598067245)ベーイプシロンカー ヘミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング (30)
【Fターム(参考)】