説明

ポリエステルフィルム及びその製造方法

【課題】
デジタル記録方式のカセット式磁気テープのような磁気記録媒体のベースフィルムとして特に有用であるポリエステルフィルム、及びその製造方法である。
【解決手段】
未延伸段階又は延伸完了前段階のフィルムの表面に紫外光を照射し、該表面に微細突起を形成させることにより、ポリエステルフィルムを製造する。フィルム表面の微細突起は、その表面における十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20未満であること、表層部のカルボキシル基濃度と内部のカルボキシル基濃度との比、微細突起の個数により特定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な突起を形成させたポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、走行性、耐摩耗性に優れるのみでなく、生産性も極めて良好であり、磁気記録媒体用基材として用いた場合、特に強磁性金属薄膜層 を設けたときに出力特性に優れた磁気記録媒体とすることができるポリエステルフィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、他の樹脂素材からは得られないような大面積のフィルムを連続生産することが可能であり、強度、耐久性、透明性、柔軟性、表面特性等において優れた特性を付与することができるという優れた特長を活かして、磁気記録材用、工業材料用、包装材用、農業資材用、建築資材用などの大量に需要のある分野で用いられている。中でも、二軸配向ポリエステルフィルムは、その優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性、耐薬品性のために、さまざまな分野で利用されており、特に磁気テープ用ベースフィルムとしての有用性は、他のフィルムの追随を許さない状況にある。
【0003】
近年、ポリエステルフィルムの加工工程、磁気記録媒体製造時における磁性層の蒸着及び塗布の工程、もしくは感熱転写材製造時における感熱転写層塗布などの工程での加工速度をさらに増大させることが要求され、あるいは最終製品の品質をさらに高度化することが要求されてきており、これらの要求に伴い、ポリエステルフィルムには、一層良好な走行性、耐摩耗性の表面を具えることが求められてきている。
【0004】
上記の要求に応えるためには、ポリエステルフィルム表面に微細な突起を均一に形成させることが有効であることが知られている。例えば、フィルム表面に微細突起を形成させるために、コロイド状シリカに代表される実質的に球形のシリカ粒子を含有せしめたポリエステルフィルムが知られている(例えば、特許文献1)。また、表面突起形成のための微細粒子を含有する薄膜層を基層に積層したポリエステルフィルムも知られている(例えば、特許文献2、3、4)。
【0005】
また、磁気記録媒体は年々高密度化され記録波長が短くなってきており、記録方式もアナログ方式からデジタル方式へと移ってきている。ベースフィルムの片側表面に強磁性金属薄膜層を設けて磁気記録媒体とする場合は、超平坦なフィルム表面に強磁性金属薄膜層が設けられるが、強磁性薄膜層の厚さは通常0.02〜0.5μm程度と非常に薄いので、ベースフィルムの表面形状がそのまま強磁性薄膜の表面形状となる。そのため、ベースフィルムの表面の突起高さを低くし、平坦性と易滑性を得るために超微細な突起を高密度に形成させることが強く要求されてきており、これら要求を満足する表面を有するフィルムの開発が切望されてきている。
【0006】
しかし、超微細な粒子をフィルム表面に多量に含有させると、粒子の凝集による粗大突起の形成は避けられないので、粒子によって均一な微細突起を高密度に形成させることは困難である。粒子の添加は、フィルムに易滑性を付与し、フィルム製膜工程や加工工程における搬送ロールとの摩擦係数を小さくするためには効果的であるが、粗大突起が搬送ロール上に脱落しフィルムに傷を付けるという問題、さらにこのフィルムから製造される磁気テープの出力特性が低下するという問題がある。従って、粒子含有の方法を超微細突起を高密度に形成する手段として工業生産で採用することは非常に困難である。
【0007】
また、これら粒子含有の方法に頼ることなくポリエステルの結晶化を利用して表面に所望の微細突起を形成させる方法も知られている(例えば、特許文献5)。このポリエステルの結晶化を利用した方法によると粒子周りのボイド生成がないので、走行性、耐摩耗性が良好である。
【0008】
このポリエステルの結晶化を利用する技術としては、加熱ロールに巻き付けて熱処理する方法、赤外線ヒーターによる熱処理方法、ステンターを用いて加熱する方法が知られているが、生産性の点から、下記(1)、(2)の大きな問題があった。また、この従来の加熱方法は、フィルム全体を加熱する方法であるので、フィルムの弛みや粘着に起因するトラブルが頻繁に発生するという問題もあった。
(1) 製膜時の温度ムラ等、装置的な変動要因により微細突起の個数が変化するので、品質の揃った高品質なポリエステルフィルムを安定して得ることが難しい。
(2) ポリエステルの結晶化による微細突起形成にかなり長い時間が必要であるため、製膜速度を高めることができない。
【0009】
一方、フィルムへ紫外光照射することは、フィルム表面の化学的性状の改質やパターニングにおいて使用されてきている。例えば、紫外線硬化性樹脂等の化学物質をポリエステルフィルムの表面に塗布又は積層して、接着性、粘着性、帯電防止性、機械特性、光学特性等を改良する際に、又は、感光性樹脂を用いてパターニングする際に、紫外線照射が行われる(例えば、特許文献6)。また、粉粒体を含有している紫外線硬化性樹脂層をフィルム表面に形成しこの硬化性樹脂層に紫外線を照射させて表面に凹凸模様を形成する方法がある(例えば、特許文献7、8)。さらにまた、フィルム表面を化学的に改質する方法として、オゾン処理と紫外線処理を組合せて活性酸素を発生させてフィルム表面の接着性を向上させる方法もある(例えば、特許文献9、10)。
【0010】
このように、フィルムへの紫外線照射は、紫外線硬化性樹脂層の硬化のように、フィルム表面に塗布した化学物質を変性させるために、また、表面の接着性向上のようにフィルム表面の化学的性状を変性させるために用いられてきた。
【0011】
本発明は、表面の走行性、耐摩耗性に優れるばかりでなく、磁気記録媒体にしたときの出力特性に優れ、さらに生産性、工程簡略化、コストの点でも優れる高品質のポリエステルフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭59−171623号公報
【特許文献2】特開昭62−130848号公報
【特許文献3】特開平2−77431号公報
【特許文献4】特開平8−30958号公報
【特許文献5】特開平7−1575号公報
【特許文献6】特開平11−6513号公報
【特許文献7】特開平11−277451号公報
【特許文献8】特開平10−296944号公報
【特許文献9】特開平5−68934号公報
【特許文献10】特開平11−236460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、紫外光照射による電子遷移を利用した内部加熱方式によって表面突起を形成させる方法によると、照射表面に微細突起を安定的に形成することができ、熱風、加熱ロール又は赤外線ヒーター等からの伝熱又は輻射型の外部加熱により行われる従来の表面突起形成技術の場合よりもはるかに優れたポリエステルフィルム表面を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、フィルムの少なくとも一方側の表面に紫外光を照射し、該表面に微細突起を形成させることを特徴とするものである。
【0015】
そして本発明のポリエステルの製造方法には次のような好ましい実施態様を含んでいる。
(a)紫外光照射は、270〜300nmの波長を有する光の相対強度が10%以上で、かつ、250nm未満の波長を実質的に含まない光を照射する光源により行うこと。
(b)紫外光照射時のエネルギー密度が0.1〜10J/cm2 であり、照射時間が0.01〜100秒であること。
(c)フィルムの少なくとも一方側の表面に紫外光を照射した後、フィルムの長手方向及び/又は幅方向に延伸すること。
【0016】
そして、本発明法によって得られるフィルムは、(1)フィルムの少なくとも一方側の表面に微細突起が存在し、該表面における十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20未満であり、該表面を形成する薄層体の表層部のカルボキシル基の濃度が該薄層体の内部のカルボキシル基濃度よりも大きいこと、及び/又は、(2)高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分が全フィルム表面の5%以上を占め、かつ、該フィルム表面部分における突起高さ3nm以上、5nm未満の突起の個数が1×106個/mm2 以上、1×109個/mm2 未満であることで特徴づけられる。
【0017】
このポリエステルフィルムは次のような好ましい実施態様を含んでいる。
(a)微細突起が存在する表面を形成する薄層体の表層部と該薄層体の内部のカルボキシル基の濃度差が、0.001以上であること。
(b)高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分において、突起の高さしきい値が3nmのグレインサイズが1nm2以上、5000nm2未満であること。
(c)単分散粒子の粒子径及び/又は凝集粒子の一次粒子径が1nm以上、
300nm未満である粒子を0.01重量%以上1重量%未満含有すること。
(d)ポリエステルAを主成分とするA層をポリエステルBを主成分とするB層の少なくとも片面に積層した積層フィルムであること。
【発明の効果】
【0018】
このように紫外光の照射によると、フィルム表面をより選択的に加熱することができるので、ポリエステル表面の微細突起形成が極めて容易となり、紫外線照射によりポリエステル高次構造を形成させて微細突起を形成させることが安定的、効率的に行うことができ、耐摩耗性、走行性に優れ、磁気記録媒体用に好適な表面性状を安定して有するポリエステルフィルムを生産性良く製造することができる。
【0019】
従って、本発明によるフィルムをベースフィルムとして用いると、出力特性が優れた磁気記録媒体を安定生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明でいうポリエステルとは、ジオールとジカルボン酸とからの縮重合により得られるポリマーである。ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸などで代表されるものであり、また、ジオールは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどで代表されるものである。具体的に用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、テトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどが挙げられる。
【0022】
もちろん、これらのポリエステルは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分を用いることもできる。
【0023】
また、さらに上記のジカルボン酸成分やジオール成分以外に、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2、6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸及びp−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸などを本発明の効果が損なわれない程度の少量であれば、さらに共重合せしめることもできる。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムには、本発明の効果が損なわれない範囲内において、マトリックスとして使用するポリエステル以外の異種ポリマーをブレンドして用いることもできる。この異種ポリマーをブレンドする際のブレンドの比率は、ポリエステル100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましく、0.5〜15重量部がさらに好ましく、1〜10重量部が最も好ましい。異種ポリマーの好ましい例としては、ポリイミド、ポリエーテルイミド、主鎖にメソゲン基(液晶性の置換基)を有する共重合ポリエステル、ポリカーボネート、数平均分子量20000以下のスチレン系ポリマー等が挙げられる。
【0025】
また、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2,6−ナフタレートのブレンド等、前記ポリエステル同志を適宜ブレンドしたポリマーも用いることができる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムの固有粘度は0.55〜1.0が好ましい。より好ましい固有粘度の範囲は、0.60〜0.9であり、最も好ましくは0.65〜0.8である。フィルムの固有粘度が1.0を越えるとポリエステル表面に微細突起が形成されにくい場合があり、また、これとは逆にフィルムの固有粘度が0.55未満では、製膜時にフィルム破れが多発し易い場合があるからである。
【0027】
本発明でいう紫外光とは、波長400nm以下の光を含有する光であり、なかでも、270〜330nmの波長の光を選択的に照射することが好ましい。そのために使用する光源としては、270〜300nmの波長を有する光の相対強度が10%以上の光を照射する装置であることが好ましい。さらに、250nm未満の波長の光が実質的にカットされていて含まれないことが好ましく、即ち、250nm未満の波長の光の相対強度が1%未満である光を照射する光源を使用することが好ましい。270〜300nmの波長を有する光の相対強度が10%未満であると、照射時のエネルギー密度を高めないとフィルム表面に微細突起が形成されにくくなる場合があり、突起形成に長時間を要するので、コストの点でも不利である。また、250nm未満の波長の光がフィルムに照射されると、ポリエステルの光劣化が激しくなり、フィルム表面の耐摩耗性が悪化することが多いので注意すべきである。波長270〜300nmの光の相対強度は、25%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。
【0028】
本発明で用いる光源としては、具体的には、高圧水銀ランプやメタルハライド型ランプ等のランプや、レーザー光照射装置が好ましく使用できるが、特にメタルハライド型の光源が好ましい。
【0029】
ランプを光源として使用する場合、その様式は、集光型、平行型(半集光型)、拡散型のいずれでもよく、使用するポリマーの組成、製造条件、使用する設備の都合等により適宜に選択すればよい。
【0030】
光源としてレーザー光照射装置を使用する場合には、特に限定されるわけではないが、270〜330nmの波長のレーザーを照射する装置が特に有効である。
【0031】
また、本発明における紫外光照射では、270〜330nmの波長の光を選択的に使用することが好ましいので、各種の光学フィルターを光源に組み合わせて使用することも好適である。この光学フィルターとしては、光干渉フィルター、バンドパスフィルター、短波長カット用フィルター、長波長カット用フィルター、石英ガラス又は色ガラスなどの吸収材などが挙げられる。
【0032】
本発明では、微細突起を形成させようとするフィルム表面に、0.1〜10J/cm2 のエネルギー密度を有する紫外光を照射時間0.01〜100秒の範囲内で照射することが好ましい。本発明でいうエネルギー密度とは、300〜390nmの波長の光を検知するセンサーを有するUV強度計によって測定される積算値である。
【0033】
エネルギー密度が0.1J/cm2 未満であったり、照射時間が0.01秒未満では微細突起が形成されにくく、また、これとは逆に、エネルギー密度が10J/cm2 を越えたり、照射時間が100秒を越えると表面劣化が激しくなり、耐摩耗性が悪化する場合があるので注意すべきである。
【0034】
より好ましい照射条件は、0.2〜5J/cm2 のエネルギー密度、照射時間0.1〜20秒であり、さらに好ましい照射条件は、0.4〜3J/cm2 のエネルギー密度で照射時間0.2〜10秒である。
【0035】
また、本発明では、フィルムの表面に紫外光を照射した後、フィルムの長手方向及び/又は幅方向に延伸することが好ましく、二軸配向ポリエステルフィルムの長手方向及び/又は幅方向の延伸前に本発明法の紫外線照射を行うことが特に好ましい。本発明でいう二軸配向ポリエステルフィルムとは、フィルムの縦方向及び横方向に配向を与えたポリエステルフィルムである。ここで、フィルムの縦方向とは、フィルムの長手方向であり、横方向とはフィルムの幅方向である。
【0036】
本発明のポリエステルフィルムの表面の面配向度fnは0.08〜0.20、さらに、0.10〜0.19であることが耐傷つき性の点から好ましい。
【0037】
紫外光を照射する対象のフィルムは、押出・キャスト工程によって得られた未延伸フィルム、これをフィルムの縦方向及び/又は横方向に延伸を施したフィルムのいずれでもよいが、なかでも、未延伸フィルム、縦方向に微延伸を施した微配向フィルム、又は、縦方向に延伸した一軸延伸フィルムに紫外光を照射することが好ましく、未延伸フィルムに紫外光照射することが最も好ましい。
【0038】
上述した紫外線照射の方法によって得られる本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの少なくとも一方側における表面の十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20未満であり、この表面を形成する薄層体の表層部のカルボキシル基濃度が該薄層体のフィルム内部のカルボキシル基濃度よりも大きい。十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20以上では、フィルム表面突起の高さの均一性が不十分となるので、フィルム表面の耐摩耗性が不十分となり、磁気テープにした場合の出力特性も不満足となる。
【0039】
また、フィルム表面に微細突起を形成して耐摩耗性と、磁気テープにした場合の出力特性を向上させるためには、表面粗さのRz/Raの値は低い方が好ましいが、Rz/Raの値が2未満のフィルムは工業的製造が極めて困難であり、たとえ製造できたとしてもフィルムの生産性が悪い場合が多いので、下限値を2とすることが好ましい。フィルム表面の十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)は、15未満がより好ましく、10未満がさらに好ましい。
【0040】
また、この表面の中心線平均粗さRaは0.3〜200nmであることが好ましく、0.4〜100nmがより好ましく、0.5〜30nmがさらに好ましい。
【0041】
本発明のフィルムでは、微細突起のある表面を形成するフィルム薄層体の表層部のカルボキシル基濃度が該薄層体内部のカルボキシル基濃度より大きくすることが、本発明の目的とするフィルム特性を得るのに必要である。微細突起を形成する薄層体の表層部のカルボキシル基濃度と薄層体内部のカルボキシル基濃度の差(表層部のカルボキシル基濃度―内部のカルボキシル基濃度)は、0.001以上、0.020未満であることが好ましく、0.003以上、0.015未満であることが更に好ましい。前記表層部のカルボキシル基濃度と薄層体内部のカルボキシル基濃度の差が0.020以上の場合には、表面劣化により、耐摩耗性が悪化することがあるので注意すべきである。
【0042】
本発明のフィルムでは、高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分が全フィルム表面の5%以上、好ましくは10%以上であり、該表面部分における突起高さ3nm以上、5nm未満の表面突起の個数は1×106個/mm2 以上、1×109個/mm2 未満、好ましくは2×106個/mm2以上、5×108個/mm2 未満、より好ましくは5×106個/mm2以上、8×107個/mm2未満である。フィルム表面全体を高さ10nm未満の突起だけで形成することも工業的には可能ではあるが、高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面の比率の上限は95%以下であることが好ましい。上記範囲から外れるとフィルムの走行性が悪くなり、ハンドリング性や、フィルム製膜・加工工程においてスリキズ等のフィルム表面欠点が問題になり、また、工程汚れが問題になる場合がある。
【0043】
高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分(原子間力顕微鏡(AFM)で観察視野0.5μm×0.5μmで測定)において、突起の高さしきい値3nmにおけるグレインサイズは1nm2以上、5000nm2未満であることが好ましい。
【0044】
高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分における、高さ3nm以上、5nm未満の表面突起の個数が上記範囲を外れると優れた走行性、耐傷つき性が得られ難くなるので好ましくない。このような微細突起を多数形成することにより、フィルムとその接触相手との摩擦を低減することができ、それによって、耐傷つき性や磁気テープの出力特性が一層良くなるので望ましい。
【0045】
本発明のフィルムでは、上述したAFM測定法において観察視野を5μm×5μmと大きくしてAFM画像を取り出し、3nm以上の高さの突起の個数を測定した場合、その突起の個数が、2×103 〜1×108個/mm2 であることが好ましく、さらに2×104 〜5×107 個/mm2 であることが、走行性、耐傷つき性の点でより一層好ましい。
【0046】
本発明の紫外光照射によって形成されるフィルム表面の微細突起は、基本的に含有粒子を核とするものではないので、含有粒子による微細突起に比べて低い硬度を有する。本発明法で形成される微細突起が比較的柔らかいので、フィルムがプラスチック製ガイド上を走行する時でもガイドの削れが少なくなり、ガイド表面削れに起因する問題も解消される。また、突起が比較的柔らかく突起高さが均一であるので磁気記録媒体の用途における磁気抵抗効果を利用したMRヘッド(Magneto Resistance Head)の摩耗の問題も解消できる。
【0047】
紫外光照射によって形成される本発明のフィルム表面の突起が、含有粒子を核とするか否かは、次の方法で判定でき、含有粒子を核としない突起の割合が70%以上であることが好ましい。
【0048】
対象とする突起の下をフィルム厚さ方向に適切な溶媒によってエッチングしていき、その突起を形成する起因物が不溶物として残存する場合は、外部から添加した粒子あるいは内部析出した粒子を核とする突起(I)とする。不溶物として残存するものがなかった場合は粒子を核としない突起(II)とする。前記の溶媒としては、例えば、フェノール/四塩化炭素(重量比6:4)の混合溶媒などが好ましく用いられる。この方法で視野を約1mm2 として測定し、(I)の頻度と(II)の頻度を求め、(II)/[(I)+(II)]の値を、含有粒子を核としない突起の割合とする。
【0049】
また、表面の突起が含有粒子を核とするか否かを判定する方法としては、フィルム断面の超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、観測されるフィルム厚み方向の粒子の長さがフィルム表面突起の平均高さ以上である場合を粒子を核とする突起と判断する方法もある。なお、表面突起が含有粒子を核とするか否かの判定法については上記の方法に限定されるものではなく他の適切な方法によってもよい。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムでは、表面突起形成の観点からは粒子含有を必要としないが、本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、フィルム中に無機粒子や有機粒子、その他の各種添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤などを添加してもよい。
【0051】
無機粒子の具体例としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの酸化物、カオリン、タルク、モンモリロナイトなどの複合酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、チタン酸バリウム、チタン酸カリウムなどのチタン酸塩、リン酸第3カルシウム、リン酸第2カルシウム、リン酸第1カルシウムなどのリン酸塩などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは、目的に応じて2種以上を用いてもよい。
【0052】
有機粒子の具体例としては、ポリスチレンや架橋ポリスチレンの粒子、スチレン・アクリル系やアクリル系の架橋粒子、スチレン・メタクリル系やメタクリル系の架橋粒子などのビニル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンなどの粒子を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、粒子を構成する部分のうち、少なくとも一部がポリエステルに対して不溶の有機高分子微粒子であれば如何なる粒子でもよい。
【0053】
それら粒子を含有する場合、単分散粒子の粒子径及び/又は凝集粒子の一次粒子径を1nm以上、300nm未満、好ましくは5nm以上、200nm未満、より好ましくは10nm以上、100nm未満とする。粒子径が1nm未満であると粒子が凝集し易くなるので粗大突起が形成されることがある。300nm以上であると優れた耐削れ性や磁気テープの出力特性が得られにくくなる。また粒子の含有量は0.01重量%以上、1重量%未満、好ましくは0.05重量%以上、0.5重量%未満とする。粒子含有量が1重量%以上の場合は、本発明のフィルムが得られにくくなるばかりか、粒子の凝集により粗大突起となり易いので耐削れ性や磁気テープにした時の出力特性が得られにくくなる。
【0054】
単膜構成のポリエステルからなるフィルムの場合、本発明による紫外光照射をフィルムの極表層部分のみに作用させるようにして微細突起を形成させればよい。従って、本発明のフィルムは単膜でもよいが、微細突起を数多く形成させることや、フィルム表裏で異なる表面突起を形成させる等のためには、フィルムを積層構造とする方が好ましい。なおフィルム構成が積層構成の場合、表面の薄層体は、フィルム表層の積層部のことであり、フィルム構成が単層である場合の薄層体はフィルム全体を意味する。
【0055】
なおフィルム構成が積層構成の場合は、紫外光照射によって表面に微細突起が形成されるポリエステル層(A層)を、他のポリエステル層(B層)の少なくとも片面に積層させることが好ましい。積層構成がA/Bの2層構成の場合、B層は粒子含有でも粒子非含有でもよいが、粒子含有の方がフィルムの取扱い性や巻き特性の点から好ましい。A層にもB層にも粒子を含有させる場合にはA層含有粒子より大きな粒子をB層が含有していることが好ましい。
【0056】
本発明のフィルムを磁気記録媒体用のベースフィルムとして用いるときには、磁性層は、紫外光照射によって表面突起が形成される表面側に、前記積層構成の場合はA層側の表面に、設けることが望ましいが、特に限定されるものではない。
【0057】
また、本発明では、フィルムの少なくとも一方側の表面の表層部とフィルムの中央層とのラマン分光法による結晶性パラメータの差が1.0以下であることが好ましい。ラマン分光法による結晶性パラメータの差が1.0を越えると、ロール状態で高温・高湿下で保存した場合に生じるカール量が大きくなり易く、フィルムの平面性が損なわれ易いからである。磁気テープ用途では、フィルムの平面性悪化は、テープとヘッドの密着性不良を引き起こし、出力低下が生じる。
【0058】
本発明におけるフィルムの全体厚みは、フィルムの用途、使用目的に応じて適宜に定めればよい。磁気材料用途では通常1〜20μmが好ましく、中でも高密度磁気記録塗布型媒体用途では2〜9μm、高密度磁気記録蒸着型媒体用途では3〜9μmが好ましい。フロッピーディスク(登録商標)用途では、30〜100μmが好ましい。また、工業材料用途関係、例えば、熱転写リボン用途では、1〜6μm、コンデンサ用途では0.5〜10μm、感熱孔版原紙用途では0.5〜5μmであることが好ましい。
【0059】
次に、ポリエステルフィルムの製造方法をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の製造例の説明によって限定されるものでない。
【0060】
本発明で用いるポリエステルは通常の製造方法により得られるものを用いることができる。また、ポリエステルに粒子を含有せしめる場合、重合前、重合中、重合後のいずれの時期に粒子を添加してもよいが、粒子をジオール成分(エチレングリコール)のスラリーの状態にして、重合完了前のポリエステルに混合、分散せしめて、このエチレングリコールを所定のジカルボン酸成分と重合せしめることが好ましい。また粒子のエチレングリコールスラリーは150〜230℃、特に180℃〜210℃の温度で30分〜5時間、好ましくは、1〜3時間熱処理することが本発明の効果をより一層高めるために有効である。
【0061】
粒子の含有量を調節する方法としては、高濃度の粒子マスターペレットを製膜時に粒子を実質的に含有しないポリマーで希釈して含有量を調節する方法が有効である。
【0062】
以下では、ポリエステルAからなるA層とポリエステルBからなるB層とをA/Bの2層構成とした積層ポリエステルフィルムの場合を例にとって説明する。本発明で使用するポリエステルとしては、エチレンテレフタレートを主要構成成分とするポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。PETは、直重法及びDMT法のいずれによって製造されてもよいが、DMT法の場合はエステル交換触媒として酢酸カルシウムを用いることが好ましい。また重合段階では、特に限定されないが、ゲルマニウム化合物を重合触媒として用いることが好ましい。ゲルマニウム触媒としては、公知のとおり、(1)無定形酸化ゲルマニウム、(2)5μm以下の結晶性酸化ゲルマニウム、(3)酸化ゲルマニウムをアルカリ金属又はアルカリ土類金属もしくはそれらの化合物の存在下にグリコールに溶解した溶液、及び、(4)酸化ゲルマニウムを水に溶解し、これにグリコールを加え水を留去して調整した酸化ゲルマニウムのグリコール溶液等が用いられる。
【0063】
なお、ポリエステルの溶液ヘイズは5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下がよい。溶液ヘイズが5%よりも大きいと、ポリマー中の析出粒子又は添加粒子量が多いことになり、本発明で目的とする表面が得られず、また耐削れ性も悪化しやすいからである。
【0064】
ポリエステルAとポリエステルBの原料を、各々、180℃で3時間以上真空乾燥した後、固有粘度が低下しないように窒素気流下あるいは真空下で270〜310℃に加熱された単軸又は二軸押出機の2台の押出機に供給し、T型口金よりシート状に押し出す。ポリエステルAとポリエステルBは、ポリマー管あるいは口金の段階で積層する。
【0065】
続いて、この溶融された積層シートを、表面温度10〜40℃に冷却されたドラム上に静電気力で密着させて冷却固化し、実質的に非晶状態の未延伸積層フィルムを得る。この場合、ポリマ流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置し、ポリマ押出量を制御して、各層の積層厚みを調節する方法が本発明の効果を得るために有効である。
【0066】
次いで、ここで得られた未延伸フィルムに、0.1〜10J/cm2 のエネルギー密度を有する紫外光を照射時間0.01〜100秒の範囲内で照射する。上述したように、紫外光の照射は、未延伸フィルムを得た直後でも、微延伸を施した後でも、縦及び/又は横方向に延伸した後でもよいが、本発明では未延伸フィルムに照射することが好ましい。紫外光を照射する雰囲気は、室温条件下でも、あるいは50〜200℃の加温条件下等のいずれでもよいが、本発明では室温条件下で紫外光を照射することが、工程の簡略化等、生産性の観点で優れるので好ましい。
【0067】
その後、必要に応じて、未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向せしめる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法を用いることができる。最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法が、延伸破れなく本発明フィルムを得るのに有効である。長手方向の延伸は、通常ロールを用いて行われるが、延伸温度は80〜180℃、好ましくは90〜150℃である。長手方向の延伸は、ポリエステルAのガラス転移温度Tgより15℃以上高い温度で1段もしくは2段階以上の多段階で行い、2〜8倍、好ましくは2.5〜7倍の範囲で延伸することが本発明のフィルムが得られ易いので好ましい。
【0068】
幅方向の延伸は、公知のテンターを用いて、90〜160℃、好ましくは100〜150℃の延伸温度で2.5〜6倍、好ましくは3〜5倍、幅方向の延伸速度は3000〜30000%/分の範囲で行うことがよい。次にこの延伸フィルムを熱処理する。この場合の熱処理は温度180〜250℃、特に200〜240℃で1〜20秒間で行うことがよい。続いて、100〜180℃で中間冷却した後、フィルムを室温まで、必要なら縦及び横方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリエステルフィルムを得る。このとき、縦又は横方向にさらに強度を高めたい場合には、前記熱処理を行う前に、縦・横方向に再延伸することが好ましい。この場合の延伸条件は、延伸温度を110〜150℃、延伸倍率を1.1〜1.8にすることが好ましい。
【0069】
以上の製造例では、逐次二軸延伸機による製造例を示したが、同時二軸延伸装置でも製造することができ、この場合には、クリップの駆動方式がリニアモータ方式の延伸装置が好ましい。
【0070】
[物性値の評価法]
(1) 波長270〜300nmの光の相対強度(%)
25℃、60RH、1気圧の条件下、分光器を用いて、光源からの発光のスペクトル(波長(nm) vs. 発光強度(mJ))を測定する。ここで得られた発光スペクトルのデータを解析し、下記式から波長270〜300nmの光の相対強度を求めた。
【0071】
相対強度=[(発光スペクトルにおける270〜300nmの発光強度の積分値)/最大発光強度]x100 (%)
ここで、最大発光強度とは、発光スペクトルにおいて最大の強度を示す波長の発光強度であり、本発明において好ましく使用する紫外線ランプでは、365nm又は254nmの発光強度が最大発光強度である。
【0072】
(2) 紫外光のエネルギー密度(J/cm2
日本電池(株)製の紫外線強度計(UV350N型)を用い、積算値を測定した。
【0073】
(3) フィルムのカルボキシル基濃度
ESCAを使用し、中山らの文献(Y. Nakayama et al., "Surface and Interface analysis" vol 24, 711(1996). )に記載された方法にしたがって測定した。測定装置と条件は下記のとおりである。測定用サンプルは、トリフルオロエタノールによりカルボキシル基を気相ラベル化して使用した。結合エネルギーはC1sのピーク値が284.6eVになるように調整した。カルボキシル基濃度は、検出深さ中の炭素原子の数に対する比率で算出した。
【0074】
薄層体のフィルム内部のカルボキシル基濃度の測定では、スピンコーター上でフィルム表面にヘキサフルオロイソプロパノールを滴下し溶解するか、又はカミソリ刃で表層部を削り取って、薄層体を元の厚みの1/2の厚みにし、その後、前記カルボキシル基のラベル化を施して測定を行った。
【0075】
(測定装置)
装置本体 :SSX−100(米国SSI社製)
X線源 :Al−Kα(10kV、20mA)
(測定条件)
真空度 :5x10-7Pa
光電子脱出角度:35゜
(4)フィルムの表面粗さRa、Rz
小坂研究所製の高精度薄膜段差測定器ET−10を用いて中心線平均粗さRaと十点平均粗さRz(単位は両方ともnm)とを測定した。条件は下記のとおりであり、フィルム幅方向に走査して20回測定を行ない、その平均値をとった。
【0076】
(測定条件)
触針先端半径:0.5μm
触針荷重 :5mg
測定長 :0.5mm
カットオフ値:0.08mm
(5)フィルム全表面(フィルム片側の表面)に対する、高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分の比率の測定
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて以下の条件でフィルム表面を測定した。
【0077】
(測定条件)
装 置 :NanoScope III AFM (Digital Instruments社製)
カンチレバー:シリコン単結晶
走査モード :タッピングモード
走査範囲 :0.5μm×0.5μm
走査速度 :0.5Hz
0.5μm×0.5μmの視野のAFM画像をランダムに100回取り出し、そのうち10nm以上の突起が存在しない画像の回数の比率を、フィルム全表面に対する高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分の比率(%)とした。
【0078】
(6)突起高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分における、高さ3nm以上5nm未満の微細突起の個数
上記(5)の測定時のAFM画像のうち、突起高さ10nm以上の突起が存在しないAFM画像を用い、突起高さのしきい値を3nm、5nmとして、突起高さ3nm以上の突起個数と5nm以上の突起個数を0.5μm×0.5μmの視野内でカウントし、突起高さ3nm以上の突起個数から5nm以上の突起個数を差し引いた数値を求め、その平均値をとり、さらに1mm2当たりの突起個数に換算した。
【0079】
(7)突起高さのしきい値が3nmのグレインサイズ
上記(5)の測定時のAFM画像のうち、突起高さ10nm以上の突起が存在しないAFM画像を用い、突起高さのしきい値を3nmとして、その時のグレインサイズを求め、平均値をとった。
【0080】
(8)5μm×5μmの観察視野でAFM測定した場合の突起高さ3nm以上の突起個数
上記(5)の測定時のAFM測定条件における走査範囲を5μm×5μm(突起高さ10nm以上の突起を含む場合あり)に変更してAFM画像を同様に取り出し、3nm以上の高さの突起の個数を20回測定し、その平均値をとり、さらに1mm2当たりの突起個数に換算した。
【0081】
(9)結晶化パラメータ(ΔTcg)
パーキンエルマー社製のDSC(示差走査熱量計)II型を用いて測定した。DSCの測定条件は、次の通りである。すなわち、試料10mgをDSC装置にセットし、300℃の温度で5分間溶融した後、液体窒素中で急冷する。この急冷試料を10℃/分で昇温し、ガラス転移温度(Tg)を検知する。
【0082】
さらに昇温を続け、ガラス状態からの結晶化発熱ピーク温度、結晶融解に基づく吸熱ピーク温度、及び、降温時の結晶化発熱ピーク温度を測定し、それぞれを順次、冷結晶化温度(Tcc)、融解温度(Tm)、及び、降温結晶化温度(Tmc)とした。
【0083】
TccとTgの差(Tcc−Tg)を結晶化パラメータ(ΔTcg)と定義する。
【0084】
(10)フィルムの固有粘度
25℃で、オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で測定した値である。
単位は[dl/g]で示す。
【0085】
(11) ポリマーの溶液ヘイズ
ポリエステル2gをフェノール/四塩化炭素(重量比:6/4)の混合溶媒20mlに溶解し、ASTM−D−1003−52により、光路長20mmとして、溶液ヘイズを測定した。
【0086】
(12) ラマン分光法による結晶性パラメータ
フィルムの表層部分及び中央層部分について、レーザーラマンマイクロプローブを用いて結晶性の評価を行った。
【0087】
測定に用いた装置と測定条件は下記のとおりである。
【0088】
ここで、表層部分とは、フィルム表層から深さ1μmの部分であり、中央層とはフィルムの厚みの約1/2の深さから±0.5μmの部分である。
【0089】
測定用のフィルムサンプルはエポキシ樹脂に包埋した後、断面を研磨し、該試料の表層部分及び中央層部分について、ラマンスペクトルの測定を行った(n=5)。カルボキシルの伸縮振動である1730cm-1の半値幅をもって、結晶性パラメータとした。
【0090】
本パラメータの値が小さいほど、フィルムの結晶性は高いことを意味する。
【0091】
測定装置:Rmanor U−1000(Jovin−Yvon社製)
マイクロプローブ:Olympus BH−2型
対物レンズ:100倍
光源 :アルゴンイオンレーザー(5145A)
検出器 :PM:RCA31034/Photon Counting System
測定条件:SLIT 1000μm
LASER 100mW
GATE TIME 1.0秒
SCAN SPEED 12cm-1/分
SAMPLING INTERVAL 0.2cm-1
REPEAT TIME 6
(13)粒子の平均粒径
フィルムからポリエステルをプラズマ灰化処理法で除去し、粒子を露出させる。その処理条件は、ポリマは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択する。その粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、粒子画像をイメージアナライザーで処理する。SEMの倍率はおよそ2000〜30000倍、また1回の測定での視野は一辺がおよそ10〜50μmから適宜選択する。観察箇所を変えて粒子数5000個以上で、粒径とその体積分率から、粒子の体積平均径dを得る。
【0092】
粒子が有機粒子等で、プラズマ灰化処理法で大幅にダメージを受ける場合には、以下の方法を用いてもよい。
【0093】
フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、3000〜400000倍で観察する。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所を変えて500視野以上測定し、上記と同様にして、粒子の体積平均径dを求める。
【0094】
(14)粒子の含有量
顕微FT−IR法(フーリエ変換顕微赤外分光法)で組成分析を行い、ポリエステルのカルボニル基に起因するピークと、ポリエステル以外の物質に起因するピークの比から求めた。なお、ピーク高さ比を重量比に換算するために、あらかじめ重量比既知のサンプルで検量線を作成してポリエステルとそれ以外の物質の合計量に対するポリエステル比率を求めた。また、必要に応じてX線マイクロアナライザーを併用した。また、ポリエステルは溶解し粒子は溶解させない溶媒が選べる場合は、ポリエステルを溶解し、粒子をポリエステルから遠心分離し、粒子の重量百分率を求めた。
【0095】
(15)フィルムの積層厚み
透過型電子顕微鏡(日立製H−600型)を用いて、加速電圧100kVで、フィルム断面を、超薄切片法(RuO4染色)で観察し、その界面をとらえ、その積層厚さを求める。倍率は判定したい積層厚さによって選び、特に限定されないが1万〜10万倍が適当である。この方法で積層界面を認知しにくい場合には、2次イオン質量分析装置で無機イオンの深さ分布を測定する。表面を基準とし、深さ方向で極大値を得た後、その極大値の1/2となる深さを積層厚みと定義する。
【0096】
(16) 耐傷つき性
新東科学(株)製、連続荷重式引っ掻き強度試験機HEIDON−18を用い、下記条件で引っ掻きテストを行い、WYKO社製、非接触粗さ計TOPO−3Dで傷の深さを定量した。
【0097】
[評価条件]
引っ掻き針 : サファイア製
先端曲率半径200μm
荷重 : 50g
走行速度 : 10cm/分
傷の深さにより次の通りランク付けした。
【0098】
0. 5μm以下のもの : 優
0. 5〜2μmのもの : 良
2μm以上のもの : 不良
(17)表面突起形成の安定性
表面突起形成状態を、10cm間隔でフィルムの幅方向に10箇所、長手方向に30箇所について、前記(4)の測定法による表面粗さRa、及び前記(8)の測定法による表面突起の個数を測定し、その測定値のばらつきから下記の基準でランク付けした。
【0099】
○:表面粗さRaと表面突起個数が、いずれもほとんど変動せず、表面品質が安定している。
【0100】
△:表面粗さRaと表面突起個数の何れかが20〜40%程度変動する。
【0101】
×:表面粗さRaと表面突起個数の何れかが40%を越えて変動する。
【0102】
(18)MEテープの出力特性
MEテープについて、市販のHi8用VTR(SONY社製 EV-BS3000)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販のHi8用ビデオテープ(120分ME)と比較して、次の通りランク付けした。
【0103】
+3dB以上 :◎
+1以上、+3dB未満 :○
+1dB未満 :×
出力特性が市販のHi8用ビデオテープ(120分ME)と比較して、+1dB以上あれば、デジタル記録方式のVTRテープとして充分使用できるレベルである。
【0104】
(19)MPテープの出力特性
MPテープについて、市販のHi8用VTR(SONY社製 EV−BS3000)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販されているHi8用MPビデオテープと比較して、次の通りランク付けした。
【0105】
+3dB以上のもの :◎
+1dB以上、+3dB未満のもの :○
+1dB未満のもの :×
【実施例】
【0106】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。
【0107】
[実施例1]
次のポリエステルAとポリエステルBとからなるA/Bの2層構成の積層フィルムを製造した。
【0108】
ポリエステルA:
通常の方法で、酢酸マグネシウムを触媒として用いジメチルテレフタレートとエチレングリコールとからビスヒドロキシメチルテレフタレートを得た。得られたビスヒドロキシメチルテレフタレートを酸化ゲルマニウム触媒を用いて重合させ重合触媒残査等に基づき形成される微細粒子、即ち内部粒子をできる限り含まないポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.65、融点:258℃、ΔTcg:82℃、溶液ヘイズ:0.1%)のペレットを得た。
【0109】
ポリエステルB:
通常の方法により、平均径0.2μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.2重量%と平均径0.3μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.05重量%とが配合されたポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.62、融点:258℃、ΔTcg:80℃)のペレットを得た。
【0110】
それぞれのペレットを180℃で3時間真空乾燥した後、それぞれ2台の押出機に供給し、ポリエステルAを290℃、ポリエステルBを285℃で溶融し、通常の方法でそれぞれ濾過し、2層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)で、合流積層した。各層の厚みは、それぞれのラインに設置されたギヤポンプの回転数を調節して押出量を制御することによって調節した。その後、表面温度25℃のキャストドラム上に静電気により密着させて冷却固化させて未延伸フィルムを得た。
【0111】
次いで、この未延伸フィルムに、25℃、1気圧の雰囲気下で、0.7J/cm2 のエネルギー密度になるように照射距離を調節し、フィルムのA層側から1.5秒間紫外光を照射した。ここで、紫外光の光源としては、日本電池社製のメタルハライド型の紫外線ランプ(Aタイプ MAN500L、120W/cm、270〜300nmの相対強度38%(最大発光強度:365nm))を使用し、250nm未満の波長はカットした。
【0112】
その後、紫外線照射済みの未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸装置に導き、温度95℃にて、長手方向に2段階で3.4倍延伸した。次いで、フィルム端部をクリップで把持してステンターに導き、延伸速度2500%/分で、95℃で、幅方向に4.2倍の倍率で延伸した。この二軸延伸フィルムを再度長手方向に120℃で1.2倍延伸した。続いてこのフィルムを定長下で210℃にて5秒間熱処理を行い、A層厚さ6μm、全体厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。紫外線照射の条件を表1に示し、得られたフィルムの評価結果を表2、3に示した。
【0113】
さらに、得られたフィルムのA層側の表面上に連続真空蒸着装置を用いて、微量の酸素の存在下にコバルト・ニッケル合金(Ni20重量%)の蒸着層を厚み200nmで設けた。次に、蒸着層の表面にカーボン保護膜を通常の手段で形成させた後、8mm幅にスリットし、パンケーキを作成した。次いで、このパンケーキから長さ200m分をカセットに組み込み、強磁性金属薄膜層を有するカセットテープ(MEテープ)とした。その出力特性を評価した結果を表3に示した。
【0114】
これら表からわかるように、紫外線の照射による本発明法によると、微細突起を高速かつ安定に形成させることができ、品質の安定したポリエステルフィルムが得られた。
【0115】
[実施例2〜4]
紫外光の照射条件を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に製膜し、厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。実施例2では高圧水銀ランプを、実施例3では実施例1同様のメタルハライドランプの高出力タイプを、実施例4では低圧水銀ランプをそれぞれ使用した。なお、ここで用いた低圧水銀ランプの270〜300nmの光の相対強度は5%であり、250nm未満の波長の光を含んでいた。
【0116】
光源として高圧水銀ランプを使用した実施例2で得られたフィルムは表面突起個数が幾分減少したが、本発明のフィルム特性を有していた。
【0117】
また、実施例3に示すように、光源のエネルギー密度を高くすると、照射時間を実施例1と比較して1/3の短時間に設定しても表面微細突起を良好に形成させることができる。250nm未満の波長の光を有する低圧水銀ランプを使用した実施例4で得られたフィルムは、実施例1のフィルムと比較して、表面劣化が促進されて耐傷つき性が幾分悪化し、表面粗さ、突起個数も減少していた。
【0118】
さらに、得られたフィルムのA層側の表面上に、実施例1と同様にして強磁性金属薄膜層を形成し、カセットテープ(MEテープ)とした。
【0119】
[実施例5]
本実施例では、ポリエステルの単層からなるフィルムの例を示す。重合触媒として、酢酸マグネシウム0.10重量%、三酸化アンチモン0.03重量%、ジメチルフェニルホスフェート0.35重量%を用いて、常法により重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.62、融点:258℃、ΔTcg:51℃、溶液ヘイズ:0.7%)のペレットと、実施例1のポリエステルAのペレットとをそれぞれ乾燥し、3:7に混合し押出機に供給して280℃で押出し冷却して未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを集光型の紫外線照射装置に導き、フィルムの両面側から、紫外線を1.0秒間照射した。紫外線ランプ自体は、実施例1同様のものを使用した。その後、温度90℃にて、長手方向に3.5倍延伸し、次いで、延伸速度2000%/分、95℃で、幅方向に4.8倍の倍率で延伸し、続いてこのフィルムを定長下で220℃にて5秒間熱処理を行い、厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0120】
得られた単膜フィルムは、微細突起が安定に形成されていて、表面品質の安定したポリエステルフィルムであった。
【0121】
さらに、得られたフィルムのキャスティングドラムと接触していない表面上に、実施例1と同様にして強磁性金属薄膜層を形成し、カセットテープ(MEテープ)とした。
【0122】
[実施例6]
紫外線照射時に使用するランプのパワーを高めて照射時間を短時間化した以外は実施例5と同様に製膜し、厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。ランプのパワーを高めることにより、0.5秒という短時間照射でも数多くの表面微細突起を高速形成させることができ、この場合にも表面品質の安定したポリエステルフィルムを連続製膜することができた。
【0123】
さらに、実施例5と同様にして、強磁性金属薄膜層を有するカセットテープ(MEテープ)とした。
【0124】
[実施例7]
ポリエステルAとして実施例5のポリエステルを用い、ポリエステルBとして実施例1の粒子を含有しないポリエステルAを用いて、それぞれ2台の押出機に供給し、ポリエステルAは275℃で溶融し、ポリエステルBは280℃で溶融し、3層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)で、合流積層押出して表面温度20℃のキャストドラム上に静電気により密着させ、A/B/Aの3層構成の未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムに実施例3と同様の紫外光の光源をフィルム両面側から1.0秒間照射した。その後、実施例1と同様にして長手方向、幅方向さらに縦方向にと順次延伸し、定長下で温度220℃で10秒間熱処理後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、片側A層1.5μm厚さ、全体厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0125】
さらに、得られたフィルムのキャスティングドラムと接触していない表面上に、実施例1と同様にして強磁性金属薄膜層を形成し、カセットテープ(MEテープ)とした。
【0126】
[実施例8]
A/Bの2層構成の積層フィルムを製造した。A層側のポリマーとして、実施例1のポリエステルAに、平均径0.03μmの球状シリカ粒子0.3重量%配合したものを用いた。その他は実施例1と同様にし、0.7J/cm2 のエネルギー密度になるように照射距離を調節し、紫外光をA層側に2.0秒間照射した。A層厚さ6μ、全体厚さ7μmの二軸配向積層フィルムを得た。
【0127】
さらに、得られたフィルムのA層側の表面上に、実施例1と同様にして強磁性金属薄膜層を形成し、カセットテープ(MEテープ)とした。
【0128】
[実施例9]
ポリエステルAに含有する粒子を、一次粒子径0.02μmのアルミナ粒子に変え、紫外線照射条件を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例8と同様にして、二軸配向ポリエステルフィルムとカセットテープ(MEテープ)を得た。
【0129】
[比較例1、2]
ここでは、従来技術による熱処理により、フィルム表面に微細突起を形成させた例を示す。
【0130】
比較例1は実施例7と同様のA/B/A型の積層フィルムの例を示し、比較例2は実施例5と同様の単層型のフィルムの例である。未延伸フィルムに紫外線を照射せず、その代わりに熱処理を行うこと以外は、実施例7又は5と同様の方法で製膜し、厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムとカセットテープ(MEテープ)を得た。
【0131】
A/B/A型の積層フィルムである比較例1では、未延伸フィルムをラジエーションヒーターを用いて、フィルム表面が185℃となるように加熱し、この温度で4秒間熱処理した。
【0132】
また、単層フィルムの例である比較例2では、フィルム表面が150℃となるように加熱し、この温度で20秒間熱処理した。
【0133】
得られたフィルムの評価結果を表2、3に示す。この比較例の場合においても、フィルム表面には結晶化による表面突起は形成でき、耐傷つき性に優れた表面を得ることができた。しかし得られたフィルム表面の突起の大きさが不均一であり、また表面粗さRaと微細突起の個数は40%を越える変化があり、安定した品質のフィルムは製造できなかった。
【0134】
[比較例3、4]
ここでは、従来技術による粒子含有による薄膜層を施すことにより、フィルム表面に微細突起を形成させた例を示す。
【0135】
比較例3は、A/Bの2層構成の積層フィルムにおいて、A層側のポリマーに、平均径0.03μmの球状シリカ粒子1.0重量%(固有粘度:0.65、融点:259℃、ΔTcg:81℃)を配合した以外は実施例8と同様にして未延伸フィルムを作った。
【0136】
この未延伸フィルムに紫外線を照射せず、実施例1と同様に製膜した二軸延伸フィルムを得た。表2からわかる通り、微細突起を数多く形成させるために、粒子の添加量を多くしたので粒子凝集による粗大突起ができ、微細突起数は逆に減少し、耐削れ性と磁気テープの出力特性が劣るフィルムとなった。
【0137】
比較例4では、実施例1と同様にしてA/Bの2層構成の未延伸フィルムを得、次いで、長手方向に3.4倍一軸延伸したフィルムのA層側に水溶性高分子と粒子径20nmの微細粒子を含有する下記塗液を、固形分塗布濃度20mg/m2 となるようにコーティングした。
【0138】
[水溶性塗液]
メチルセルロース 0.10重量%
水溶性ポリエステル 0.3 重量%
アミノエチルシランカップリング剤 0.01重量%
平均粒径20nmの極微細シリカ 0.03重量%
その後、テンターを用いて110℃で幅方向に4.2倍延伸した。さらに長手方向に120℃で1.3倍延伸し、続いてこのフィルムを定長下で210℃にて5秒間熱処理を行い、B層厚さ1μm、全体厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムと、さらに、上記塗布層側の表面上に、実施例1と同様にして強磁性金属薄膜層を形成し、カセットテープ(MEテープ)を得た。
【0139】
この比較例の場合においても、フィルム表面に微細突起を有する表面を得ることができたが、上述のAFM評価(観察視野:0.5μm×0.5μm)において、突起高さ10nm以上の突起を含まない表面部分を取り出すことが全くできないフィルム表面であった。このようなコーティングにより形成された表面突起は塗剤中の粒子起因による突起が主であり、粒子がフィルム表面に剥き出しの状態であるために粒子が脱落し易い。そのため、製膜・スリット工程で削られキズが発生するというフィルム表面欠点の問題があり、また、得られたフィルムの耐傷つき性、MEテープの出力特性が劣るフィルムであった。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
[実施例10]
A/Bの2層構成の積層フィルムとした。
【0144】
ポリエステルAとして、重合触媒として、酢酸マグネシウム0.06重量%、三酸化アンチモン0.008重量%、トリメチルホスフェート0.02重量%を用いて常法により重合され、平均粒径0.3μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.1重量%と一次粒子径0.02μmのアルミナ粒子を0.1重量%と配合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.62、融点:259℃、ΔTcg:81℃)のペレットを用いた。
【0145】
ポリエステルBとして、通常の方法により、平均径0.3μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.5重量%と平均径0.6μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.07重量%配合したポリエチレンテレフタレートのペレットを用いた。
【0146】
それぞれのペレットを180℃で3時間真空乾燥した後、それぞれ2台の押出機に供給し、ポリエステルA、Bを285℃で溶融し、2層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)で合流積層し、表面温度25℃のキャストドラム上に静電気により密着させて冷却固化させて未延伸フィルムを得た。次いで、この未延伸フィルムに紫外光を、3.0J/cm2 のエネルギー密度になるように照射距離を調節し、フィルムのA層側から2.5秒間紫外光を照射した。その後、加熱された複数のロール群からなる縦延伸装置に導き、温度90℃にて、長手方向に3段階で3.4倍延伸した。次いで、延伸速度2000%/分で、100℃で、幅方向に3.8倍の倍率で延伸した。この二軸延伸フィルムを再度長手方向に
130℃で1.6倍延伸した。続いてこのフィルムを定長下で210℃にて5秒間熱処理を行い、A層厚さ6.6μm、全体厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。紫外線照射の条件を表4に示し、得られたフィルムの評価結果を表5,6に示した。
【0147】
さらに、フィルムのA層側の表面上に、下記組成の磁性塗料及び非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布(上層は磁性塗料で塗布厚み0.2μm、非磁性の下層の厚み1.8μm)し、磁気配向させ、乾燥させる。次いで反対面側に下記組成のバックコート層を通常の手段で形成させた後、小型テストカレンダー装置(スチールロール/スチールロール、5段)で温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理した後、60℃、48時間キュアリングする。上記テープ原反をスリットし、パンケーキを作成する。このパンケーキから、カセットに組み込みメタル塗布型磁性層を有するカセットテープとした。
【0148】
(磁性塗料の組成)
・強磁性金属粉末 100重量部
・スルホン酸Na変成塩化ビニル共重合体 10重量部
・スルホン酸Na変成ポリウレタ 10重量部
・ポリイソシアネート 5重量部
・ステアリン酸 1.5重量部
・オレイン酸 1重量部
・カーボンブラック 1重量部
・アルミナ 10重量部
・メチルエチルケトン 75重量部
・シクロヘキサノン 75重量部
・トルエン 75重量部
(非磁性下層の塗料の組成)
・酸化チタン 100重量部
・カーボンブラック 10重量部
・スルホン酸Na変成塩化ビニル共重合体 10重量部
・スルホン酸Na変成ポリウレタ 10重量部
・メチルエチルケトン 30重量部
・メチルイソブチルケトン 30重量部
・トルエン 30重量部
(バックコート層組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm) 5重量部
・αアルミナ 0.1重量部
・酸化亜鉛 0.3重量部
・スルホン酸Na変成塩化ビニル共重合体 30重量部
・スルホン酸Na変成ポリウレタ 20重量部
・メチルエチルケトン 300重量部
・シクロヘキサノン 200重量部
・トルエン 100重量部
これら表からわかるように、紫外線照射による本発明法によると、微細突起を高速かつ安定に形成させることができ、耐傷つき性に優れた優れた、ポリエステルフィルムが得られ、さらに、A層側にメタル塗布型磁性層をB層側にバックコート層を施して磁気テープ(MPテープ)とした場合、出力特性が優れたものであった。
【0149】
[実施例11]
A/B/Aの3層構成の積層フィルムとした。
【0150】
A層側のポリマー(ポリエステルA)として、常法により重合したポリエチレンテレフタレート(重合触媒:酢酸マグネシウム0.20重量%、三酸化アンチモン0.03重量%、リン化合物としてジメチルフェニルホスホネート0.20重量%を使用)を用いた(固有粘度:0.63、融点:258℃、ΔTcg:68℃、溶液ヘイズ:1.8%)。ポリエステルBとして粒子を含有しないポリエステルペレットを用いた。それぞれのペレットをそれぞれ乾燥した後、それぞれ2台の押出機に供給し、ポリエステルAは275℃で溶融し、ポリエステルBは285℃で溶融し、3層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)で合流積層し、キャストドラム上に密着させて冷却固化させてA/B/Aの3層構成の未延伸フィルムを得た。
【0151】
この未延伸フィルムの両面側から表4に示す条件で紫外光を照射した。その後、実施例10と同様にして延伸、熱処理を行い、片側A層厚さ1μm、全体厚さ7μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0152】
さらに、キャスティングドラムと接触していないフィルム表面上に実施例10と同様にして、磁性塗料及び非磁性塗料を重層塗布し、磁気配向させ、乾燥させる。次いで反対面側にバックコート層をで形成させ、カレンダー処理、キュアリングしてメタル塗布型磁性層を有するカセットテープ(MPテープ)を得た。表4に示す紫外光照射条件をとったことにより、紫外光照射により形成される表面突起の径が大きくなったが表面突起を高速形成させることができ、耐傷つき性、MPテープの出力特性の優れたポリエステルフィルムを連続製膜することができた。
【0153】
[比較例5]
未延伸フィルムに紫外光を照射しないこと以外は、実施例11と同じ二軸配向ポリエステルフィルムとメタル塗布型磁性層を有するカセットテープ(MPテープ)を得た。紫外光を照射しないため微細な突起が形成されず、製膜・スリット工程での接触ロールとの摩擦が大きくなりキズが発生するという問題があった。また、得られたフィルムの耐傷つき性が劣り、MPテープの出力特性も劣るものであった。
【0154】
【表4】

【0155】
【表5】

【0156】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法によると、ポリエステル表面の微細突起形成が極めて容易となり、耐摩耗性、走行性に優れ、また磁気テープのベースフィルムとして用いた場合に出力特性が優れたポリエステルフィルムを安定生産することができ、高速製膜の点でも有利であるので、本発明は工業的なポリエステルフィルム製造に極めて有用である。
【0158】
また、得られる本発明のポリエステルフィルムは、磁気記録用、特に強磁性金属薄膜層を設けてなる磁気記録媒体のベースフィルムとして極めて有用であり、その他に、感熱転写リボン用、感熱孔版印刷用、コンデンサー用などの各種フィルム用途においても広く活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの少なくとも一方側の表面に紫外光を照射し、該表面に微細突起を形成させることを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
紫外光照射は、270〜300nmの波長を有する光の相対強度が10%以上で、かつ、250nm未満の波長を実質的に含まない光を照射する光源により行うことを特徴とする請求項1記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
紫外光照射時のエネルギー密度が0.1J/cm2 以上、10J/cm2 以下であり、かつ、照射時間が0.01〜100秒であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
フィルムの少なくとも一方側の表面に紫外光を照射した後、フィルムの長手方向及び/又は幅方向に延伸することを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
フィルムの少なくとも一方側の表面に微細突起が存在し、該表面における十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20未満であり、かつ、該表面を形成する薄層体の表層部のカルボキシル基濃度が該薄層体の内部のカルボキシル基濃度よりも大きいことを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項6】
高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分が全フィルム表面の5%以上を占め、かつ、該フィルム表面部分における突起高さ3nm以上、5nm未満の突起の個数が1×106個/mm2 以上、1×109個/mm2 未満であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項7】
フィルムの少なくとも一方側の表面に微細突起が存在し、該表面における十点平均粗さRzと中心線平均粗さRaとの比(Rz/Ra)が20未満であり、該表面を形成する薄層体の表層部のカルボキシル基濃度が該薄層体の内部のカルボキシル基濃度よりも大きく、高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分が全フィルム表面の5%以上を占め、かつ、該フィルム表面部分における突起高さ3nm以上、5nm未満の突起の個数が1×106個/mm2 以上、1×109個/mm2 未満であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項8】
微細突起が存在する表面を形成する薄層体の表層部と該薄層体の内部のカルボキシル基の濃度差が、0.001以上であることを特徴とする請求項5又は7記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
高さ10nm以上の突起を含まないフィルム表面部分において、突起の高さしきい値が3nmのグレインサイズが1nm2以上、5000nm2未満であることを特徴とする請求項6又は7記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
単分散粒子の粒子径及び/又は凝集粒子の一次粒子径が1nm以上、300nm未満である粒子を0.01重量%以上1重量%未満含有することを特徴とする請求項5、6又は7記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
ポリエステルAを主成分とするA層を、ポリエステルBを主成分とするB層の少なくとも片面に積層した積層フィルムであることを特徴とする請求項5、6又は7記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
請求項5、6又は7記載のポリエステルフィルムの微細突起が存在する表面に磁性層を設けてなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項13】
デジタル記録方式のカセット式磁気テープであることを特徴とする請求項12記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
磁性層が強磁性金属薄膜層であることを特徴とする請求項12記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−280830(P2009−280830A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199555(P2009−199555)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【分割の表示】特願2001−565173(P2001−565173)の分割
【原出願日】平成12年3月7日(2000.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】