説明

ポリスチレン系樹脂発泡シート及び発泡ポリスチレン系樹脂積層シート、斯かる積層シートから形成された成形品、及びポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法

【課題】成型後の表面(曲面)への印刷性に優れ、外観の美麗な成形品を得ることができる発泡ポリスチレン系樹脂積層シート及び斯かる積層シートを用いて形成された成形品とその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10質量部以上50質量部以下含有されているポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されるポリスチレン系樹脂発泡シート12であって、長手方向に直交する巾方向全域の長さが650mm以上であり、巾方向全域における平均の厚みが1〜3mmで、巾方向の任意の位置における150mm巾での厚みの平均値と巾方向全域での厚みの平均値との比が0.90〜1.10の範囲にあり、且つ、全体の密度が0.2g/cm3以下で、少なくとも一方の表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器等に広く用いられる発泡ポリスチレン系樹脂積層シートに関し、特に発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを形成するためのポリスチレン系樹脂発泡シートと、発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを用いて形成した成形品と、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品容器や包装材として、発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを所定形状に成型したものが広く用いられている(下記特許文献1参照)。これら発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを成型してなる容器には、外観が美麗であることが強く要求されている。更に、インスタント食品用等の用途では、その表面(曲面)に直接インクを塗布して印刷できることが要求されるため、良好な印刷が可能で有ることも重要である。
【0003】
このため、良好な印刷性を有する容器を得るために、図5に示すように、押出発泡成形時において、ダイ1から押し出されたポリスチレン系樹脂発泡シート2の表面をノズル3から噴出させた冷却気体(空気)で冷却することによって、ポリスチレン系樹脂発泡シート2の表層部を高密度化し、更にその表面に非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムを積層した発泡ポリスチレン系樹脂積層シートが知られている。斯かる発泡ポリスチレン系樹脂積層シートは、ポリスチレン系樹脂発泡シートにおける非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとの境界側に長径50μm以下の微細な気泡が形成されているため、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム側の面の印刷性が良好な容器を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−154571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発泡シート2の密度と厚みの均一性との間には相関関係があるため、上記のようにして発泡シート2の表層部を高密度化する際にノズル3から噴出させる冷却気体の流量の変化によって表層部の密度が変化し、発泡シート2の厚みが不均一となる虞がある。このような厚みの不均一さは、後工程で非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムを積層させる際にトラブルを生じさせたり、成形品を成型する際に成形不良を引き起させたりする原因となる。また、得られた積層シートも厚みが不均一となるため、斯かる積層シートを用いて成型された成形品の強度を低下させる等の要因ともなる。
近年、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させてポリスチレン系樹脂発泡シートの耐熱性の向上を図ることが検討されているが、斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートや該ポリスチレン系樹脂発泡シートが用いられてなる積層シートに関しては、上記のような問題についての対策が殆どなされていない。
【0006】
そこで、本発明は、成型後の表面(曲面)への印刷性に優れ、外観の美麗な成形品を得ることができる発泡ポリスチレン系樹脂積層シート及び斯かる積層シートを用いて形成された成形品を提供すると共に、斯かる積層シートを形成するためのポリスチレン系樹脂発泡シート及びポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有し、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10質量部以上50質量部以下となる割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成される厚み1〜3mm、密度0.2g/cm3以下のポリスチレン系樹脂発泡シートについて、長手方向に直交する巾方向全域の厚みばらつきが一定値以下で、巾方向の任意の位置における150mm巾での厚みの平均値と巾方向全域での厚みの平均値との比が一定範囲内にあれば、後工程でのトラブルや成形不良を引き起こさないことを見出した。そこで、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの要旨とするところは、巾方向全域の長さが650mm以上であり、巾方向全域における平均の厚みが1〜3mmで、巾方向の任意の位置における150mm巾での厚みの平均値と巾方向全域での厚みの平均値との比が0.90〜1.10の範囲にあり、且つ、全体の密度が0.2g/cm3以下で、少なくとも一方の表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上であることにある。
【0008】
さらに、ポリスチレン系樹脂発泡シートの表面から厚み方向100μmの部分の密度が一定値以上である表面に所定のフィルムを積層すれば、良好な表面(曲面)印刷性を有する成形品が得られることを見出した。そこで、本発明に係る発泡ポリスチレン系樹脂積層シートの要旨とするところは、ポリスチレン系樹脂発泡シートの表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上である表面に、厚み50〜300μmの非発泡樹脂フィルムを積層してなることにある。
【0009】
また、上記ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造において、冷却気体の流れが発泡シートの厚みの均一性に大きな影響を与え、この冷却気体の流れが乱れたり、押出直後の軟化状態にある発泡シートへの冷却気体からの圧力が局所的に増加したりすることにより、厚みが不均一となることを見出した。更には、ポリスチレン系樹脂と発泡剤を押出機内で溶融混合した後、ダイから押出発泡シートを連続的に製造する方法において、一定の冷却気体を一定条件下で発泡シートに吹き付けることにより、冷却気体の流れを乱さず、軟化状態にある発泡シートへの圧力を低くしたままで、シート表面が冷却できることを見出した。その結果、発泡シートの厚みが均一で、表層部の密度が十分に高いポリスチレン系樹脂発泡シートが得られることを見出した。
【0010】
そこで、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法の要旨とするところは、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有し、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10質量部以上50質量部以下となる割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物と発泡剤を押出機内で溶融混練した後、ダイを用いて押出発泡シートを連続的に製造する方法において、押し出された発泡シートの表面に冷却気体を該発泡シートの表面に沿った流れを形成するように吹き付けて、発泡シートの表面を冷却することにある。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、成型後の表面(曲面)への印刷性に優れ、外観の美麗な成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る発泡ポリスチレン系樹脂積層シートの一つの構成を示す要部拡大断面図。
【図2】本発明に係る発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを用いて成形した成形品の一例を示す断面図。
【図3】本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの製造装置の一例を示す要部断面説明図。
【図4】本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの製造装置の更に他の例を示す要部断面説明図。
【図5】従来のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造装置の例を示す要部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シート並びに発泡ポリスチレン系樹脂積層シート、及びポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法、更に発泡ポリスチレン系樹脂積層シートから形成される成形品について図面に基づき説明する。図1に示すように、本発明に係る発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10は、ポリスチレン系樹脂発泡シート12の片面に非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14を熱融着により積層して構成されている。
【0014】
また、図2に示すように、本発明に係る成形品の一例である容器16は、上記の発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10を、例えば約130℃から160℃程度の温度で加熱処理することにより、2次発泡させるとともに可塑化させた後、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14が容器の外側となるように、プレス成形、または真空成形等の公知の方法によって成型することで得られる。
【0015】
ポリスチレン系樹脂発泡シート12は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有するポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成される。ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体等が用いられる。
【0016】
また、本発明におけるポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の付与に有効なものであり、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有される。
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、通常、次の一般式で表される。
【化1】

【0017】
ここでR1及びR2は、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは、重合度を表す正の整数である。
例示すれば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等が本実施形態において用いられ得る。
また、重合度nは、通常10〜5000の範囲内である。
【0018】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の向上に有効なものではあるが、ポリフェニレンエーテル系樹脂を、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有させることが好ましいのは、上記範囲未満では、ポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が十分に発揮されないおそれを有し、逆に上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させても、それ以上にポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が発揮されないおそれを有するためである。
また、一般的にはポリスチレン系樹脂に比べて高価であるために上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させると材料コストの観点においても問題を生じさせるおそれを有する。
【0019】
通常、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度(JIS K7206−1991、B法、50℃/h)は、102℃程度であるが、上記のようなポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることにより、ビカット軟化温度を110〜155℃の範囲に向上させることができ、該ポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリスチレン系樹脂組成物を使用することで、得られるポリスチレン系樹脂発泡シートや該ポリスチレン系樹脂発泡シートを2次加工した製品などの耐熱性向上を図り得る。
【0020】
一般にポリスチレン系樹脂組成物が用いられてなる製品に耐熱性が求められる場合には、スチレンホモポリマーよりもビカット軟化温度の高いスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ポリパラメチルスチレン樹脂などのコポリマーをその形成材料に採用することが行われている。
一方で、上記のようにポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドする方法は、単に製品に耐熱性を付与することができるばかりでなく、優れた靱性を付与することができる点においても優れている。
【0021】
したがって、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリスチレン系樹脂組成物を使用して発泡トレーなどを形成させた場合には、急激な変形が加えられても割れたりすることのない発泡トレーを形成させ得る。
【0022】
ただし、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、特有の臭いを有していることから、特に臭気を嫌う用途などにおいては消臭のための成分を含有させることが好ましい。
この消臭成分としては、ゼオライト系やリン酸ジルコニウム系の無機物粒子が挙げられる。
なかでも、消臭効果の点においては、リン酸ジルコニウム系の成分を採用することが好ましい。
【0023】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シート12は、長手方向に直交する巾方向全域(以下、全巾と記す)の長さが650mm以上であり、全巾における平均の厚みが1〜3mmで、巾方向の任意の位置の150mm巾における厚みの平均値と全巾での厚みの平均値との比が0.90〜1.10の範囲にあり、且つ全体の密度が0.2g/cm3以下で、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムと積層される表面から厚み方向100μmまでの部分(以下、表面部分とも記す)の密度が0.25g/cm3以上であるものが用いられる。そして更に、このポリスチレン系樹脂発泡シート12は、特に巾方向の厚みばらつきが0.35mm以下のものが用いられる。
【0024】
ここで、巾方向の厚みばらつき、及び150mm巾の厚みの平均値と全巾での厚みの平均値との比は、接触式厚み計などの一般に用いられる測定機を用い、巾方向に一定間隔(例えば2cm間隔)で測定した結果から求められる。全巾における厚みばらつきが0.35mmより大きい場合で、厚み平均値の比が1.10より大きいか、もしくは、0.90より小さい場合には後述する工程でのトラブルの原因となる。また、全巾における厚みばらつきが0.35mmより小さい場合で、厚み平均値の比が1.10より大きいか、もしくは、0.90より小さい場合も同様に後工程でのトラブルが生じ、安定的に製造することができない。厚みが不均一な発泡シート12に非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14を積層してなる積層シート10を容器16に成形した場合、成形不良を生じたり、厚みの薄い部分の強度が低下したりする等の問題が生じる。
【0025】
また、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14が積層される表面から厚み方向100μm部分の密度は、該当部分を切り出し、体積と重量とを測定して求められる。この密度が0.25g/cm3より小さい場合には、容器16を成形する段階で十分な量の微細気泡が生じないため、良好な印刷性を得ることができない。一方、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14の基材樹脂としては、ポリスチレン系樹脂発泡シート12と熱融着する樹脂であればよく、同様にポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体等が用いられる。
【0026】
次に、ポリスチレン系樹脂発泡シート及び発泡ポリスチレン系樹脂積層シートの製造方法について説明する。まず、ポリスチレン系樹脂発泡シート12は、前述のポリスチレン系樹脂組成物を押出機に供給し、押出機中で加熱,溶融,混練した後、発泡剤を注入して、図3に示すように、押出機の先端に取り付けたサーキュラーダイ18から環状に押出して、厚み1〜3mmの範囲で、密度0.2g/cm3以下の環状に成形される。
【0027】
押出発泡の条件は、押出機中でポリスチレン系樹脂組成物を170℃〜300℃の範囲に加熱することにより溶融させるとともに発泡剤を圧入し、次いで、それを冷却して70℃〜200℃の温度に調整しながら、圧力150〜400kg/cm2でサーキュラーダイ18に供給して押し出すことが望ましい。溶融させた樹脂の温度が200℃以上であれば、樹脂の粘度が低くなりすぎて、気泡が破壊されてしまい、70℃以下では充分な大きさの気泡が形成できない。つまり、溶融した樹脂の粘度を適正な範囲にしなければ、発泡させることができず、また発泡させた気泡を樹脂中に止めることができない。
【0028】
ここで用いる押出機は、当該分野で一般に使用されている装置をいずれも使用することができるが、タンデム押出機を用い、一段目でポリスチレン系樹脂組成物を溶融させると共に、発泡剤を圧入し、二段目で冷却を行うことが望ましい。押出機から押し出されたポリスチレン系樹脂発泡シート20の表面の冷却は、例えば前述の図3に示した装置で実現することができる。まず、サーキュラーダイ18から押し出された直後の充分に発泡していない、すなわち発泡が進行する途中である環状の発泡シート20には、環状のノズル22から冷却気体が発泡シート20の表面とほぼ平行に吹き付けられ、その片側表面が急冷される。この冷却気体は、給気パイプ24を通じてその先端部に設けられた供給孔26から供給され、サーキュラーダイ18の端面と円錐形状のフード28の端部との間に形成されたノズル22から吹き出される。ノズル22から吹き出された冷却気体は、発泡シート20の表面とほぼ平行に流れた後、サイジング装置30に配置された排気パイプ32から外部に排気される。一方、環状の発泡シート20は、下流に配置されたサイジング装置30により拡径された後、半円状に2分割されて図示しない巻取機でロール状に巻き取られる。
【0029】
この冷却工程により、発泡シート20の冷却された表面部分の発泡が抑制されて、当該部分の密度がほぼ一定乃至若干の低下にとどまることになる。また、発泡シート20の冷却されない反対面へいく程、発泡が促進して、密度は低下することになる。この冷却気体には通常加圧空気が使用される。冷却気体の温度は、押出し直後のシート表面の温度より低い温度であればよく、100℃以下の温度が好ましい。このような装置を用いて吹き付けられた冷却気体は、発泡シート20面に平行な流れを形成し、冷却気体の流れに乱れが生じず、また、発泡シート20が冷却気体によって局所的に圧力を受けることがないため、厚みの均一な発泡シート20を得ることができる。
【0030】
そして、巻取機によりロール状に巻き取られた発泡シート20を35℃以下の温度、好ましくは20〜30℃の温度条件で7〜60日間、好ましくは10〜45日間養生した後、押出ラミネーションにて厚み50〜300μmの非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14を積層することで、発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10が得られる。
【0031】
この養生工程をより詳しく説明すれば、養生工程により発泡シート20の内部の気泡への空気の侵入と、内部に残留する発泡剤ガスの散逸が行われる。すなわち、養生後の発泡シート20が2次発泡能を発現するのに必要な空気を気泡内に取り込むと共に、その発泡シート20に非発泡フィルム14を積層する工程、及び得られた積層シート10を成形する工程において、フィルムを積層する側の発泡層が破泡しない程度に、発泡シート20の表面に残留する発泡剤量を低下させることが必要であり、この条件を満たすように養生が実施される。
【0032】
この養生工程は発泡シート20をロ−ル状に巻き取った形で実施されるが、この際、押出発泡時の歪みの緩和や残留発泡剤の散逸により、発泡シート20は収縮する。その際、発泡シ−ト20の厚みが厚い部分はあまり収縮せず、薄い部分はよく収縮する。その結果、発泡シ−ト20の巾方向の厚みが不均一であると、厚みの厚い部分と薄い部分で、巾方向のシ−ト長さに差が生じる。このシ−ト長さの差が大きくなると、次の工程である積層工程において、発泡シ−ト20が蛇行してしまい、非発泡フィルム14が発泡シ−ト20からはみ出したり、ロ−ルから発泡シ−ト20の一部が浮き上がり積層できない部分が生じたりする場合があり、更にひどい場合には発泡シ−トがライン上で折れ曲がるなどのトラブルが発生する。
【0033】
この発泡シート20の厚みばらつきについて、さらに詳しく説明する。一般的なポリスチレン系樹脂発泡シ−ト20においては、数cm巾から数10cm巾の凹凸が、厚みパターンに存在する。この厚みパタ−ンにおける厚みばらつき(最大値と最小値の差)は、通常、0.35mmを超える値となっている。
【0034】
厚み分布において巾の短い凹凸が支配的である場合には、発泡シ−ト20が有する剛性によりその厚み差が緩和され、収縮不均一は小さくなる。しかし、巾の広い凹凸が支配的である場合には、その厚み差を緩和できず、収縮不均一が生じる。このことは、全巾での厚みの平均値と巾方向の任意の位置における150mm巾の厚みの平均値との比によって定量化できる。この全巾での厚みの平均値と巾方向の任意の150mm巾の厚みの平均値との比が1.10より大きいか、0.90より小さい場合、前述の発泡シ−ト20の収縮不均一に起因する発泡シ−ト20の長さの差は重大なものとなり、前述の工程トラブルの原因となる。
【0035】
また、全体の厚みばらつきが0.35mmより大きい場合、成形した成形体の強度が薄い部分で低くなる。したがって、成形品の強度を考慮すると、全体の厚みばらつきは0.35mm以下であることが必要である。以上、説明したように、この養生は、ポリスチレン系樹脂発泡シート20の二次発泡能を決定づける重要な工程であり、発泡シート20中のガスの散逸によりシートは収縮する。ポリスチレン系樹脂発泡シート20の厚みが不均一な場合、すなわち、厚みばらつきが0.35mmより大きい場合、あるいは厚み平均値の比が1.10より大きい場合、もしくは厚み平均値の比が0.90より小さい場合、ポリスチレン系樹脂発泡シート20の収縮が不均一となり、巾方向でのシート長さに差が生じる。このようにして、巾方向での発泡シート20の長さに差が生じた場合、押出ラミネーション工程でシートやフィルムにシワが発生し、良好な積層シート10を得ることができない。
【0036】
以上、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シート並びに発泡ポリスチレン系樹脂積層シート、発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを用いて形成された成形品、更にはポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。なお、上述の実施形態と同じ箇所は、図面に同じ符号を付して説明を省略する。例えば図4に示すように、必要に応じて、環状の発泡シート20内面を冷却すると同時に、外面を同様な方法により冷却気体を吹き付けて冷却するように構成してもよい。すなわち、サーキュラーダイ18の外周に沿って、円環状のノズル36を設けるのである。この構成により、サーキュラーダイ18から押し出された環状の発泡シート38は、内面だけでなく外面も発泡が抑制され、内外両表面部の密度が高く、内部の密度が低い構造になる。得られた発泡シ−ト38の一方の片面には、一定条件下で養生した後,非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム14がラミネ−トされる。
【0037】
ここで、発泡シ−ト20,38の少なくとも一方の表面に形成される密度の高い部分は、少なくとも表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上である必要があり、冷却気体の温度・流量で制御可能である。さらに、図3などに示すように、サーキュラーダイ18、それから押し出されたポリスチレン系樹脂発泡シート20、及びサイジング装置30によって囲まれた空間38は、密閉された空間をなしている。そこで、ノズル22から噴出される冷却空気量と、排気パイプ32から排出される空気量とを制御し、空間38の内圧を外気圧よりも高く設定して、ポリスチレン系樹脂発泡シート20に皺が生じないようにするのが好ましい。
【0038】
以上、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シート及び発泡ポリスチレン系樹脂積層シートと、それらの製造方法について説明したが、これらに限定されるものではない。また、発泡ポリスチレン系樹脂積層シートによって成形される成形品として、茶碗やどんぶり形状の器、皿などの容器に成形されるのが好ましい。その他、製造装置の押し出し方向を上下方向にするなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものであり、いずれも本発明の範囲に属するものである。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
ポリスチレン系樹脂(DIC社製GPPS(スチレンホモポリマー)、商品名「XC−515」)及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(サビック社製、商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)の合計100質量部に対して前記混合樹脂(ノリルEFN4230)が30質量部となる割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて270℃の温度で溶融した後、発泡剤を圧入し、二段目の押出機にて105℃まで冷却を行い、サーキュラーダイ18より押し出して発泡させ、巾方向全域における平均の厚み2.00mm、密度0.12g/cm3、発泡倍率8.8倍、全巾1045mm、長さ300mのポリスチレン系樹脂発泡シート20を得た。
この押出発泡成形は、図3に示す装置を用い、サーキュラーダイ18から押し出された発泡シート20の表面に30℃の温度の空気を1.7m3/minでほぼ平行に吹き付けて冷却し、発泡シート20の表面に高密度化された層(未発泡層)を形成した。そして、押出した発泡シート20を巻き取り、25℃の温度で20日間養生した後、その発泡シート12(20)の未発泡層側の面に押出しラミネーションにより厚み130μmの非発泡耐衝撃性ポリスチレン系樹脂フィルム14を積層し、発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10を得た。
【0040】
また、得られた発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10をフィルム14が容器の外側になるように成形し、図2に示す形状の容器を得た。
【0041】
なお、ポリスチレン系樹脂発泡シート12については、全巾の厚みばらつき、巾方向の任意の150mm巾の厚み平均値と全巾での厚み平均値との比、全体の密度、表面部分の密度(一方の表面から厚み方向100μmの部分の密度)について測定し、容器については、外側側面への印刷を実施した。それぞれの結果については表1に示すとおりである。
このとき、全巾の厚みばらつきについては、幅方向における任意の21箇所において発泡シート厚みをTeclock社製、『厚み測定機』(型式:SM−125)を用いて測定し相加平均によって平均厚みを求め、任意の150mm巾における平均厚みも同様に3箇所における厚み測定を行って算出した。
また、全体の密度については、JIS K 7222:2005「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の求め方」に基づいて測定し、表面部分の密度について、表面から0.1mm深さの位置で発泡シートをスライスして、そのスライス片の密度を全体の密度と同様にして求めた。
【0042】
<実施例2>
実施例1で示したポリスチレン系樹脂発泡シート20の製造方法において、サーキュラーダイ18から押し出された発泡シート20の表面に吹きつける冷却空気の風量を2.1m3/minに設定した以外は、同じ条件で発泡シート12(20)を製造した。そして更に、発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10及び容器を得た。
【0043】
なお、実施例1と同様に、ポリスチレン系樹脂発泡シート12については、全巾の厚みばらつき、巾方向の任意の150mm巾の厚み平均値と全巾での厚み平均値との比、表面部分の密度について測定し、容器については、外側側面への印刷を実施した。それぞれの結果については表1に示すとおりである。
【0044】
<比較例1>
図5に示す従来の装置を用いて表面冷却用の気体を風量1.0m3/minで吹き付けて製造した以外は、実施例1と同様の条件でポリスチレン系樹脂発泡シート12を製造した。そして、得られたポリスチレン系樹脂発泡シート12を用いて、実施例1と同様の条件で発泡ポリスチレン系樹脂積層シート、更には容器を得た。
【0045】
なお、実施例1と同様に、ポリスチレン系樹脂発泡シート12については、全巾の厚みばらつき、巾方向の任意の150mm巾の厚み平均値と全巾での厚み平均値との比、表面部分の密度について測定し、容器については、外側側面への印刷を実施した。それぞれの結果については表1に示すとおりである。この従来装置においては、冷却気体は押出直後の自己支持性に欠ける発泡シート2の面にほぼ垂直に吹き付けられ、しかもシート2に衝突した直後に冷却気体が大きく乱れ、且つ、冷却気体が衝突する部分で発泡シートが局所的に大きな圧力を受けるため、厚みが不均一となった。それ故、厚みが均一で表層部の密度が十分に高いシートを得ることができなかった。
【0046】
<比較例2>
図5に示す従来の装置を用いて表面冷却用の気体を風量1.7m3/minで吹き付けて製造した以外は、実施例1と同様の条件でポリスチレン系樹脂発泡シート12を製造した。そして、得られた発泡シート2を巻き取り、25℃の温度で20日間養生した後、その発泡シート2(12)の未発泡層側の面に押出しラミネーションにて130μmの非発泡耐衝撃性ポリスチレン系樹脂フィルム14を積層した。この際、シートにシワが発生し、良好な発泡ポリスチレン系樹脂積層シート10を得ることができなかった。
【0047】
なお、実施例1と同様に、ポリスチレン系樹脂発泡シート12については、全巾の厚みばらつき、巾方向の任意の150mm巾の厚み平均値と全巾での厚み平均値との比、表面部分の密度について測定し、容器については、外側側面への印刷を実施した。それぞれの結果については表1に示すとおりである。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートは、一定条件で構成されているため、その発泡シートの表面に非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムをラミネートする際に、上述したような工程トラブルが発生することがなく、また、容器を成型する際に成形不良を引き起こすこともないため、安定的な製造が可能となる。
【0050】
また、少なくとも一方の表面から厚み方向100μmの部分の密度が0.25g/cm3以上であるポリスチレン系樹脂発泡シートの表面に非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムを積層して発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを構成したため、斯かる積層シートを用いて成型した成形品に良好な表面(曲面)印刷性が得られた。
【0051】
更に、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法において、押し出された発泡シートの温度よりも低い温度の冷却気体を、その発泡シートの表面に沿った流れを形成するように吹き付けて、発泡シートの表面を冷却するようにしたため、冷却気体の流れを乱さず、軟化状態にある発泡シートへの圧力を低くしたままで、シート表面が冷却でき、発泡シートの厚みが均一で、表層部の密度が十分に高いポリスチレン系樹脂発泡シートを得ることができた。
【0052】
<参考例>
以下に、樹脂成分がスチレン系樹脂単体のポリスチレン系樹脂組成物で作製したポリスチレン系樹脂発泡シートと、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させたポリスチレン系樹脂組成物で作製したポリスチレン系樹脂発泡シートとにおいて割れ難さを評価した事例を示す。
【0053】
(シート1)
ポリスチレン系樹脂(DIC社製GPPS(スチレンホモポリマー)、商品名「XC−515」)70質量%、及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(サビック社製、商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)30質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、消臭成分として東亜合成社製のリン酸ジルコニウム系消臭剤(商品名「ケスモンNS−10」)を0.5質量部含有する樹脂組成物を押出し発泡して、厚み2.0mm、目付け(坪量)180g/m2の発泡シートを作製した。
【0054】
(シート2)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてアクリル系モノマーとスチレンモノマーとの共重合体を押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート2)を作製した。
【0055】
(シート3)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてGPPSのみを押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート3)を作製した。
【0056】
(耐熱性評価:示差走査熱量測定)
上記シートから6.5±0.5mgのサンプルを採取し、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定を実施した(使用装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、示差走査熱量計装置、型名「DSC6220」)。
その結果、シート1、シート2のサンプルにおいては、JIS K7121 9.3(1)に記載の「中間点ガラス転移温度(Tmg)」が120℃付近に観察され、シート3のサンプルでは、106℃に観察された。
【0057】
(靱性評価:ダイナタップ衝撃試験)
上記シート1〜3から、100×100mmのテストピースを採取して、該テストピースに対して、ASTM D3763に基づくダイナタップ衝撃試験を実施した(使用装置:General Research Corp.社製、ダイナタップ衝撃試験装置、型名「GRC8250」)。
その結果、シート2のテストピースについては、最大点変位3.2mm、最大荷重29Nという結果となり、シート3のテストピースについては、最大点変位4.0mm、最大荷重36Nという結果となった。
一方でシート1のテストピースについては、最大点変位4.4mm、最大荷重42Nという結果となった。
このことからもシート1は、PPE系樹脂が含有されることによって変位と荷重が大きな割れ難い状態となっていることがわかる。
【符号の説明】
【0058】
10…発泡ポリスチレン系樹脂積層シート、12,20…ポリスチレン系樹脂発泡シート、14…非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム、16…容器(成形品)、18…サーキュラーダイ、22,36…ノズル、24…給気パイプ、30…サイジング装置、32…排気パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有し、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10質量部以上50質量部以下となる割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されるポリスチレン系樹脂発泡シートであって、
長手方向に直交する巾方向全域の長さが650mm以上であり、巾方向全域における平均の厚みが1〜3mmで、巾方向の任意の位置における150mm巾での厚みの平均値と巾方向全域での厚みの平均値との比が0.90〜1.10の範囲にあり、且つ、全体の密度が0.2g/cm3以下で、少なくとも一方の表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
巾方向の厚みばらつきが0.35mm以下であることを特徴とする請求項1に記載するポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載するポリスチレン系樹脂発泡シートの表面から厚み方向100μmまでの部分の密度が0.25g/cm3以上である表面に、厚み50〜300μmの非発泡樹脂フィルムを積層してなることを特徴とする発泡ポリスチレン系樹脂積層シート。
【請求項4】
前記非発泡樹脂フィルムが、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムであることを特徴とする前記請求項3に記載する発泡ポリスチレン系樹脂積層シート。
【請求項5】
前記請求項3又は請求項4に記載する発泡ポリスチレン系樹脂積層シートを適宜形状に成形してなることを特徴とする成形品。
【請求項6】
ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有し、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10質量部以上50質量部以下となる割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物と発泡剤とを押出機内で溶融混練した後、ダイを用いて押出し発泡シートを連続的に製造する方法において、押し出された発泡シートの表面に冷却気体を該発泡シートの表面に沿った流れを形成するように吹き付けて、発泡シートの表面を冷却することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11639(P2012−11639A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149544(P2010−149544)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】