説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】優れた熱伝導性および機械的強度を達成し、放熱性と機械的強度が要求される電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気用途に有用な、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂25〜55重量%と(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.336nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛25〜60重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維15〜50重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性、熱伝導性、放熱性、機械的強度、寸法安定性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれから得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略す場合がある)は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などを有することから、エンジニアリングプラスチックスとして好適な性質を有しており、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、PPS樹脂は熱伝導性が金属などに比べ低いことから、例えば発熱を伴うような部品の機構部品に使用する場合や、摩擦熱が発生するような部品では、発生する熱を効率よく拡散することができず、熱膨張による寸法変化、樹脂成分の変形、熱源となる部品の性能低下、故障などの不具合が発生する可能性がある。
【0004】
PPS樹脂に黒鉛を配合した組成物については、これまでにもいくつか検討がなされており、ポリフェニレンスルフィド樹脂に固定炭素量、一定範囲の結晶化度の黒鉛を含有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリフェニレンスルフィド樹脂に一定範囲の黒鉛化度、黒鉛結晶子の大きさの黒鉛を含有する熱伝導性に優れる樹脂組成物が、特許文献3には、ポリアリーレンサルファイド樹脂に1W/m・K以上の熱伝導率を持つフィラーとして黒鉛を配合し、該樹脂組成物をシート状に加工する方法および放熱性樹脂成形品がそれぞれ記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1には耐摩耗性に優れているが、熱伝導性について記載はない。また、特許文献に2は、黒鉛結晶子の厚み方向の大きさが小さい方が熱伝導性率向上の点で好ましいと記載されているが、黒鉛結晶子の厚みは大きい程熱伝導率は向上する、さらに黒鉛の不純物成分については何ら記載されておらず、より高い熱伝導性を発揮するには不十分である。特許文献3は、1W/m・K以上の熱伝導性を有するフィラーを配合することで熱伝導性が向上することが記載されているが、黒鉛の結晶構造、不純物成分について何ら記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−11135号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開2003−41119号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2005−169830号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決と課題を解決し、流動性、熱伝導性、放熱性に優れ、かつ機械的強度、寸法安定性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
1.(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂25〜55重量%、(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であり、不純物成分Feが50ppm以下、不純物成分Siが100ppm以下である黒鉛25〜60重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維15〜50重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.前記(B)黒鉛のDBP吸油量(a1)とBET法による比表面積(a2)の比(a1/a2)が18〜40であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.前記(B)黒鉛の平均粒子径が25〜60μmであることを特徴とする1〜2いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.前記(A)、(B)および(C)の合計100重量部に対して、さらに(D)エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を0.1〜5重量部配合してなる1〜3いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.1〜4のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
6.成形品がLED用放熱部材である5記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、流動性、熱伝導性、機械的強度、寸法安定性に優れる。本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物によれば、射出成形機を用いて連続的に所望の形状に加工することが可能であり、優れた熱伝導性を得ることが可能である。
【0011】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、発生した熱を高効率に伝達させることから、電気・電子部品あるいは自動車電装部品などの電機部品用途に有用であり、特にLEDチップを搭載したLED用放熱部材に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】薄肉部強度評価用成形品概略図
【図2】放熱試験用成形品概略図
【図3】放熱試験装置と温度測定点概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いる(A)PPS樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられ、中でもポリフェニレンスルフィドが特に好ましく使用される。かかるポリフェニレンスルフィドは、下記構造式で示される繰り返し単位を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体であり、上記繰り返し単位が70モル%以上の場合には、耐熱性が優れる点で好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
また、かかるポリフェニレンスルフィド樹脂は、その繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0017】
【化2】

【0018】
かかるポリフェニレンスルフィド樹脂は、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0019】
本発明においては、上記のようにして得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
【0020】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用され、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率良く、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0021】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm−2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率良く、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0022】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合に、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0023】
かかる有機溶媒による洗浄の具体的方法としては、有機溶媒中にポリフェニレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリフェニレンスルフィド樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリフェニレンスルフィド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。
【0024】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を熱水で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリフェニレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリフェニレンスルフィド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリフェニレンスルフィド樹脂と水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリフェニレンスルフィド樹脂200g以下の浴比で使用される。
【0025】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリフェニレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが用いられる。これらの酸のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたポリフェニレンスルフィド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるポリフェニレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0026】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、成形時の成形品の歪みを低減し、かつ得られた樹脂組成物に組成ムラ(特性バラツキ)をなくすために300℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、50Pa・s以下がより好ましく、30Pa・s以下であることが更に好ましい。溶融粘度の下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリフェニレンスルフィド樹脂を併用して用いてもよい。
【0027】
なお、ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5〜1.0mmの条件により測定することができる。
【0028】
本発明に用いる(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、不純物成分Siが100ppm以下である黒鉛は、以下のような構造の指標を備えている。
【0029】
第1の指標として、X線回折装置を用い、日本学術振興会法に準拠して求められた黒鉛層間の面間隔(以下、層面間距離)d(002)が0.3360nm未満の範囲であり、より好ましくは0.3358以下である。層面間距離d(002)は、X線回折パターンの002回折から得られた層面間距離を示す。黒鉛は、常温、常圧下で安定した炭素の結晶であり、黒鉛結晶の理論層面間距離d(002)0.3354nmに近い程黒鉛化が発達している。つまり、層面間距離d(002)の測定値によって、黒鉛化の程度を推定することができる。d(002)が0.3360nm以上になると、黒鉛化が十分になっているとはいえない。
【0030】
第2の構造指標として、X線回折装置を用い、日本学術振興会法に準拠して求められた黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である。結晶子サイズLc(002)は、X線回折パターンの002回折線から得られた002方向、すなわち厚み方向の結晶子の大きさを示す。黒鉛結晶の結晶子サイズは、黒鉛化の発達に伴って大きくなる。つまり結晶子サイズの測定値によっても、黒鉛化の程度を推定することができる。すなわち、結晶子サイズLc(002)が100nm未満である場合、黒鉛化が十分になっているとはいえない。黒鉛結晶の厚み方向のサイズが大きくなることで、熱を伝える体積が増える。このように第1の構造指標の層面間距離d(002)が0.3360nm未満であり、かつ第2の構造指標である黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上であれば、黒鉛化が十分に進んでおり、熱伝導率の高い黒鉛であるといえる。
【0031】
さらに、黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下である。好ましくは、30ppm以下であり、Feが少なければ黒鉛純度が高くなり、熱伝導性が向上する。また、不純物Siが100ppm以下である。好ましくは、80ppm以下であり、Siが少なければ黒鉛純度が高くなるばかりか、Siは熱伝導率が黒鉛より低いことから、より熱伝導率が向上する。黒鉛の不純物分析方法は、誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP−AES)で測定することができる。
【0032】
本発明で用いられる(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の流動性を保持し、強度向上、黒鉛粒子が特異的に偏在することによる放熱性の向上の観点から、上記黒鉛のDBP吸油量(a1)とBET法による比表面積(a2)の比(a1/a2)が18〜40が好ましく、20〜35がより好ましく、22〜30がさらに好ましい。
【0033】
上記(a1/a2)が18未満の場合、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の流動性の低下による成形品末端部の充填性が低下し、強度が低下する傾向にある。また、成形品の放熱性も低下する傾向にある。さらに、成形品の寸法安定性も低下する傾向にある。
【0034】
(a1/a2)が40を越える場合、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の黒鉛が分散しすぎ、黒鉛粒子の接触が減ることにより伝導パス形成不足から放熱性が低下する傾向にある。さらに、寸法安定性も低下する傾向にある。
【0035】
ここで記載する黒鉛のDBP吸油量は、フタル酸ジブチル(dibutyl phtalate)を用いて、JIS K6221 ゴム用カーボンブラック試験方法(B法 へら練り法)に準じて測定される値である。
【0036】
また、ここに記載する黒鉛のBET法による比表面積は、島津製作所社製GEMINI2390により、窒素を吸着ガスとしてBET法により測定される値である。
【0037】
本発明で使用される黒鉛の平均粒子径が25〜60μmであることが、熱伝導性と成形加工性の観点から好適である。好ましくは、35〜50μmであり、平均粒子径が25μm以下であると成形加工時の流動性、熱伝導率が低下する傾向にある。また平均粒径が60μm以上であると、組成物中への黒鉛の分散性が低下し、機械的強度、熱伝導率にバラツキが生じる傾向にある。黒鉛の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定する。
【0038】
本発明で使用される黒鉛の形状は、粒状、繊維状、フレーク状、鱗片状いずれでもよいが分散性などの観点から粒子状、鱗片状が好適であり、組成物中で黒鉛同士が接触しやすく、高い熱伝導率向上効果が得られることから、鱗片状が最も好ましい。
【0039】
なお、本発明に使用する上記の黒鉛は、その表面を公知のカップリング剤、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどのビニルシラン化合物、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン化合物や、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸、ステアリルアルコールなどの長鎖脂肪酸または長鎖脂肪族アルコールで表面処理して使用することは好ましく、特にエポキシシラン化合物、アミノシラン化合物で表面処理した、上記黒鉛は、機械的強度の向上に有効である。
【0040】
本発明に用いる(C)繊維径4〜11μmのガラス繊維は、繊維径がSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したガラス繊維の断面の直径が11〜4μmの範囲であるガラス繊維が挙げられ、流動性、機械的強度の点から繊維径が上記範囲であることが好ましい。特に繊維径が5〜8μmの範囲のものが流動性、機械的強度を高位でバランス化できる点で好ましい。繊維径が4μm未満であると樹脂組成物の混練時にガラスが折損し、流動性が著しく低下する他、機械的強度も低下する。繊維径が11μmより大きくなると、組成物中のガラス繊維の本数が減少することになり、ガラス繊維による補強効果が得にくくなることから機械的強度が劣るようになる。
【0041】
ガラス繊維の形態としては、チョップドガラス繊維、ミルドガラス繊維等いずれのものでも使用することができるが、樹脂組成物の流動性、機械的強度の点からチョップドガラス繊維が好ましい。
【0042】
かかる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維の配合量は、(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂25〜55重量%と(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛25〜60重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維15〜50重量%の範囲、より好ましくは(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂30〜50重量%と(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛30〜55重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維20〜45重量%、さらに好ましくは(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂35〜45重量%と(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛35〜50重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維25〜40重量%の範囲である。ポリフェニレンスルフィド樹脂が25重量%より少ないと流動性が低下する。また、55重量%より多いと熱伝導率の向上効果が得られない。上記黒鉛が25重量%より少ないと、黒鉛の樹脂組成物中での分散不足、黒鉛粒子の接触不足などにより、熱伝導性が低下する。また、60重量%より多いと流動性低下や、樹脂組成物混練時の装置の負荷が増大し製造が困難になる。繊維径4〜11μmのガラス繊維が15重量%より少ないと機械的強度が低下する。また、50重量%より多いと熱伝導性が不足する他、流動性低下や樹脂組成物混練時の装置の負荷が増大し製造が困難になる。
【0043】
また、本発明では、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(A)、(B)、(C)各成分の親和性向上によるさらなる機械的強度向上の観点から、ポリフェニレン樹脂組成物に、さらに(D)エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を前記(A)、(B)および(C)の合計100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは、0.5〜4重量部、より好ましくは1〜3重量部である。
【0044】
本発明で用いる(D)エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造され、下記構造を示す。
【0045】
【化3】

【0046】
(nは、上記構造式を繰り返し単位を示す)
【0047】
エポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq)のことである。
【0048】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、1500以上5500以下、好ましくは、2200以上4500以下、より好ましくは2300以上3500である。上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量が1500以下であると、成形品表面にブリードして成形品外観を損なう傾向がある。また5500以上であると、1グラム当たりのエポキシ基の数が少なく、機械的強度向上効果が得られない。
【0049】
さらに、本発明で用いる樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、無機微粒子、有機リン化合物、金属酸化物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、モンタン酸ワックス類、モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素、ポリエチレンワックス、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン、ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤、耐候剤および紫外線防止剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、発泡剤、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック、メタリック顔料等)、染料(ニグロシン等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、陰イオン交換剤(ハイドロタルサイト等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの組み合わせ等)などの通常の添加剤や、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリエステル、ポリアミドエラストマ、ポリエステルエラストマ等の樹脂)や、オレフィンを(共)重合した重合体であるオレフィン系樹脂(例えば、オレフィン系(共)重合体、およびそれらにエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン系(共)重合体(変性オレフィン系(共)重合体)などを添加して、所定の特性を付与することができる。
【0050】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分中および、必要に応じて(D)成分などのその他の必要な添加剤を予備混合して、または予備混合することなく押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。具体的には原料の混合物を単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常公知の溶融混練機に供して260〜400℃の温度で混練する方法などを例として挙げることができる。また、原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を溶融混練する方法、あるいは一部の原料を単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。好ましくはポリフェニレンスルフィド樹脂、エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を溶融混練後、X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛、繊維径4〜11μmのガラス繊維を添加、溶融混練して製造する方法である。中でも二軸押出機を用いて、ポリフェニレンスルフィド樹脂、エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を供給、溶融混練後、サイドフィーダーを用いてX線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上である黒鉛であって、さらに黒鉛の不純物成分Feが50ppm以下、Siが100ppm以下である黒鉛、4〜11μmのガラス繊維を供給、混練した後、真空状態に曝して発生するガスを除去する方法を好ましく挙げることができる。このような押出工程でポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得ることにより各成分の分散状態が良好な材料を得ることができる。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0051】
本発明では、樹脂組成物を、通常の成形方法(射出成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により成形する。なかでも量産性の点から射出成形、インジェクションプレス成形により成形することが好ましい。
【0052】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、熱伝導性、機械的強度に優れていることから、モーター等の回転時の摩擦により発熱する周辺部材、熱媒または冷媒循環装置などの熱交換器周辺部材に有用である他、ハウジングなどの構造部品、電装部品ケースなどに適している。LED(発光ダイオード)を光源に使用している懐中電灯、乗用車用ランプ、電球型照明、スポットライト、ダウンライト、蛍光灯型照明、常夜灯、サイド照明、街路灯、道路照明灯等のLED照明部品、LED(発光ダイオード)を光源に使用している電光掲示板、信号機、大型ビジョン、看板などのバックライト、液晶ディスプレイのバックライト等、各種センサー、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、磁気ヘッドケース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサーなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、ライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される高額機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシャルメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、湯温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、デュストリビューター、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、モーター関連部品(ワイパー可動部、パワーウインドウ可動部、ラジエターモーター用ブラッシュホルダー、インシュレーター、ローター、モーターコア、バスリング)等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。なかでも、発生した熱を効率良く伝導して、素子の輝度低下抑制が必要な、LED(発光ダイオード)を光源に使用している懐中電灯、乗用車用ランプ、電球型照明、スポットライト、ダウンライト、蛍光灯型照明、常夜灯、サイド照明、街路灯、道路照明灯等のLED照明部品等、LEDチップを搭載する照明機器関連のLED放熱部材に適している。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
参考例1 ポリフェニレンスルフィド樹脂
PPSの調製
撹拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム831g(19.9モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、およびイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの硫化水素の飛散量は0.021モルであった。
【0055】
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2942g(20.0モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで274℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去し、ポリフェニレンスルフィド(PPS)と塩類を含む固形物を回収した。
【0056】
得られた固形物およびイオン交換水15120gを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0057】
得られたケークおよびイオン交換水11880gを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0058】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が20000であった。
【0059】
なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した。
【0060】
ポリマー5mg、1−クロロナフタレン 5gをサンプル瓶に計り取り、210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した後、高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置し、サンプル調整を行った。ついで以下の測定条件で重量平均分子量を測定した。
【0061】
・GPC測定条件
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン。
【0062】
上記PPSの溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5mm、300℃、剪断速度1000/秒の条件で測定し、5Pa・sであった。
【0063】
参考例2 黒鉛
B1:中越黒鉛社製“BF−30A”、層面間距離d(002)0.3355nm、結晶子サイズLc(002)100nm以上、不純物(Fe)30ppm、不純物(Si)50ppm、(a1)/(a2)=26、平均粒子径33μm
B2:中越黒鉛社製“STG−10ACL”、層面間距離d(002)0.3364nm、結晶子サイズLc(002)50nm、不純物(Fe)80ppm、不純物(Si)10ppm、(a1)/(a2)=9.2平均粒子径16μm
B3:中越黒鉛社製“BSP−20AS”、層面間距離d(002)0.3355nm、結晶子サイズLc(002)100nm以上、不純物(Fe)40ppm、不純物(Si)100ppm、(a1)/(a2)=10.3、平均粒子径20μm。
【0064】
なお、黒鉛の層面間距離と結晶子サイズは、黒鉛試料に対し20重量%の高純度シリコンを内部標準試料として混入したサンプルを作製し、該サンプルのX線回折を行い、得られたX線回折パターンを日本学術振興会法に準拠した解析ソフトを用いて、層面間距離d(002)と、結晶子サイズLc(002)を算出した。X線回折装置は、マックサイエンス社製(現:ブルカー・エイエックス社)MXP3(40kV、30mAのCuKα源)で測定した。
【0065】
黒鉛の不純物FeとSiは、ICP発光分析装置、島津製作所社製ICPS−7510で測定した。
【0066】
a1(DBP吸油量)は、DBP(フタル酸ジブチル)を用いて、JIS K6221 ゴム用カーボンブラック試験方法(B法 へら練り法)に準じて測定した。
【0067】
a2(BET比表面積)は、島津製作所社製マイクロメリティックス ジェミニ2375を用いてBET法にて測定した。
【0068】
平均粒子径は、島津製作所社製レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−3100を用いて測定した。
【0069】
参考例3 ガラス繊維
C1:日本電気硝子社製チョップドストランド“T−747H”繊維径10.5μm
C2:日本電気硝子社製チョップドストランド“T−790DE”繊維径6.5μm
C3:日本電気硝子社製チョップドストランド“T−717”、繊維径13μm
繊維径は、JIS“R−3420”(1978年4月1日制定、最新改正日2006年9月1日)に則って測定を行った。
【0070】
参考例4 ビスフェノールA型エポキシ樹脂
D1:三菱化学社製“jer1002”エポキシ当量600〜700
D2:三菱化学社製“jer1009”エポキシ当量2400〜3300
【0071】
実施例1〜10
スクリュー径44mmの同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−44)を用いて、表1に示す参考例1のポリフェニレンスルフィド樹脂および、参考例4のビスフェノールA型エポキシ樹脂を元込め部から添加し、参考例2の黒鉛および、参考例3のガラス繊維を中間添加口から投入し、樹脂温度300℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風乾燥機で5時間乾燥した後、後述する評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
比較例1〜5
スクリュー径44mmの同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−44)を用いて、表1に示す参考例1のポリフェニレンスルフィド樹脂および、参考例4のビスフェノールA型エポキシ樹脂を元込め部から添加し、参考例2の黒鉛および、参考例3のガラス繊維を中間添加口から投入し、樹脂温度300℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風乾燥機で5時間乾燥した後、後述する評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(1)流動性(流動長)
射出成形機プロマット(25t)(住友重機械工業社製)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の温度条件で、幅10mm、厚さ1.0mmの棒流動長測定金型で射出速度100mm/s、圧力98MPaで短冊状成形品を各20個作成した。次いで得られた成形品の流動末端までの長さを測定し、平均値を流動性とした。数値が大きいほど流動性に優れる。
【0074】
(2)熱伝導率
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の温度条件で、角形成形品(30mm×30mm×3mm厚み、フィルムゲート)を成形下限厚+5MPaで成形し、この成形品の中心部を18mm×18mmに切削して試験片としたものを用いて熱流計法熱伝導率測定装置(リガク社製GH−1S)により熱伝導率を測定した。この値が高いほど熱伝導性に優れる。
【0075】
(3)薄肉部強度(金型残り、成形品割れ数)
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の温度条件で、図1のフィン状突起物を10枚有する成形品を成形下限圧+5MPaで各10個成形し、成形品金型離型時にフィン状突起物部分が金型内に残ったフィン状突起物数、および成形品取得時に割れたフィン状突起物数の合計数を算出した。上記個数が少ないほど薄肉部強度に優れる。
【0076】
(4)放熱性(上昇温度差)
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の温度条件で、図2の円筒状成形品を成形下限圧+5MPaで成形し、図3に示すように、円筒状成形品のダイレクトゲート除いた後、該成形品の底部外側に定格出力10WのLEDチップを搭載した基板を設置する。基板と成形品の間を密着させるため、シリコーンオイルコンパウンド(商品名KS−609、信越シリコーン社製)を塗布した。さらに、その基板と成形品の間(A点)に熱電対を設置した。また、円筒状成形品のLED基板を設置した反対側の充填末端部(B点)に熱電対を設置し、放熱試験装置とした。この放熱試験装置を外部からの空気の流入に影響されないよう100cm四方のアクリルケース内に設置し、LEDを1時間点灯した。点灯前A点の温度(T1)と1時間後の温度(T2)の差を基板上昇温度(T3)、点灯前のB点の温度(M1)と1時間後の温度(M2)の差を充填末端上昇温度(M3)とし、基板上昇温度(T3)−充填末端上昇温度(M3)を上昇温度差(H1)として算出した。上昇温度差(H1)が0℃に近いほど、LEDチップから発生する熱を成形品充填末端まで伝えていることになり、放熱性に優れる。
【0077】
(5)寸法安定性(成形収縮率)
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度150℃の温度条件で、角形成形品(30mm×30mm×3mm厚み、フィルムゲート)を成形下限厚+5MPaで成形し、金型寸法と、得られた成形品の流れ方向(MD)と垂直方向(TD)の寸法の比を算出し、成形収縮率とした。0%に近いほど寸法安定性に優れる。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果からも明らかなように、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、優れた流動性、熱伝導性および機械的強度、寸法安定性を達成するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂25〜55重量%、(B)X線回折法による黒鉛層間の面間隔d(002)が0.3360nm未満であり、かつ黒鉛結晶の結晶子サイズLc(002)が100nm以上であり、不純物成分Feが50ppm以下、不純物成分Siが100ppm以下である黒鉛25〜60重量%および(C)繊維径が4〜11μmのガラス繊維15〜50重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)黒鉛のDBP吸油量(a1)とBET法による比表面積(a2)の比(a1/a2)が18〜40であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)黒鉛の平均粒子径が25〜60μmであることを特徴とする請求項1〜2いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)、(B)および(C)の合計100重量部に対して、さらに(D)エポキシ当量が1500以上5500以下の範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を0.1〜5重量部配合してなる請求項1〜3いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項6】
成形品がLED用放熱部材である請求項5記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−167139(P2012−167139A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26738(P2011−26738)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】