説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、成形品及びその製造方法

【課題】 耐熱性及び衝撃強度に優れた成形品が成形性良く得られるポリ乳酸系樹脂組成物、該ポリ乳酸系樹脂組成物からなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及び該耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸に、下記一般式(I)で表される二塩基酸ビス(安息香酸ヒドラジド)化合物を配合したポリ乳酸系樹脂組成物、及び該ポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、溶融した該ポリ乳酸系樹脂組成物を、結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の範囲に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法。


(式中、RはC1〜12のアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基、エーテル結合を有するアルキレン基を、R1、R2、R3及びR4は水素原子、ハロゲン原子、C1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基を表すか、R1とR2及び/又はR3とR4が結合して5〜8員環を形成する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた力学物性及び耐熱性を有する成形品が、成形性良く得られるポリ乳酸系樹脂組成物、該ポリ乳酸系樹脂組成物から得られる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及び該耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性ポリマー及び生分解性ポリマーから成形される成形品が求められており、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリマーの研究が活発に行われている。特に、乳酸系ポリマーは、融点が140〜180℃と十分に高く、しかも透明性に優れるため、包装材料や透明性を生かした成形品等として、大いに期待されている。
【0003】
しかしながら、乳酸系ポリマーの射出成形等により得られる容器は、力学特性には優れているが、耐熱性が低く、あるいは耐熱性と力学特性が共に低い場合もあり、例えば、包装容器とした場合には、熱湯や電子レンジを使用することができず、用途が限定されている。
【0004】
耐熱性を有する成形品を得るためには、成形加工時における金型冷却を長時間にするか、又は成形後に成形品をアニール処理して、樹脂を高度に結晶化させる必要があった。しかし、成形加工時における長時間の冷却工程は、実用的でなく且つ結晶化が不十分になり易く、また、成形後のアニール処理による結晶化は、成形品が結晶化する過程で変形しやすいという欠点がある。
【0005】
また、樹脂の結晶化速度を上げる方法として、例えば、下記特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を促進するため、結晶核剤として、テレフタル酸及びレゾルシンを主な構成単位とする全芳香族ポリエステル微粉末を添加することが記載されている。このように、樹脂の結晶化を促進させるために、結晶核剤を添加する方法が一般に知られている。
【0006】
一方、下記特許文献2〜10には、生分解性を有するポリマーに、結晶核剤等の添加剤を加えることが記載されている。
【0007】
下記特許文献2には、3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンあるいはポリ乳酸等の生分解性プラスチックに、平均粒径20μm以下の炭酸カルシウム又はタルクを重量比で10〜40%混合してなるプラスチック製容器の材料が開示されている。しかし、この技術は、多量の無機充填剤の添加により、廃棄後の生分解性プラスチックの分解を促進するものであり、生分解性ポリマーを結晶化させて成形品の耐熱性を向上させるものではない。
【0008】
下記特許文献3には、ラクチド熱可塑性プラスチックに、充填剤として、シリカ、カオリナイト等の無機化合物を添加することにより、硬度、強度、温度抵抗性の性質を変え得ることが記載されており、また、その実施例において、L、DL−ラクチド共重合体に、結晶核剤として乳酸カルシウム5重量%を添加し、170℃の加熱ロールで5分間ブレンドし、シートを得たところ、該シートは、剛性及び強度に優れ、且つ曇っていて、結晶化度が増加したことが記載されている。
【0009】
下記特許文献4には、乳酸又は乳酸オリゴマーが、ポリ乳酸の可塑剤として有用であり、ガラス転移温度を低下させ、柔軟性を付与できることが記載されている。
【0010】
下記特許文献5には、ポリ乳酸を含有する生分解性組成物に配合される結晶核剤として、乳酸塩及び安息香酸塩が記載されており、その実施例において、ポリラクチドコポリマーに1%の乳酸カルシウムを配合し、2分間の滞留時間で約85℃に保持した型で射出成形したが、結晶化度が不十分なため、更に型中において約110〜135℃でアニール処理したことが記載されている。
【0011】
しかし、下記特許文献6には、実際に、乳酸系ポリマーに、結晶核剤として、通常のタルク、シリカ、乳酸カルシウム等を添加し、射出成形を試みたところ、結晶化速度が遅く、また、成形物が脆いため、実用に耐えうる成形物を得ることができず、従って、乳酸系ポリマーは、通常のタルク、シリカ、乳酸カルシウム等を添加し、一般の射出成形、ブロー成形、圧縮成形等に使用しても、結晶化速度が遅く、且つ、得られる成形物の実用耐熱性が100℃以下と低く、耐衝撃性も強くないために、用途面に制約があると記載されている。
【0012】
また、下記特許文献7には、ポリL−ラクチド等に、結晶核剤として、ポリグリコール酸及び/又はその誘導体を加えて、結晶化速度を上昇させることにより、射出成形サイクル時間を短縮させることができ、且つ優れた力学的性質を有する成形品が得られることが記載されており、また、射出成形したところ、冷却時間60秒での結晶化度は、結晶核剤を添加しなかった場合は22.6%、結晶核剤を添加した場合は45.5%であったことが記載されている。しかし、下記特許文献6には、実際に乳酸系ポリマーに結晶核剤を入れないで射出成形を試みたところ、特許文献7に記載されているような、金型温度がガラス転移温度以上の条件では、成形することができなかったと記載されている。
【0013】
また、下記特許文献8には、ポリラクチド混合物にガラス転移温度以上での解重合反応率を低減するために有効な量の安定剤を添加することが提案され、安定剤としては酸化防止剤、脱水剤、乾燥剤、触媒脱活剤が記載され、触媒脱活剤として、アルキルヒドラジン、アリールヒドラジン、アミド、環状アミド、ヒドラゾン、カルボン酸ヒドラジト、ビスアシル化ヒドラジン誘導体、複素環が挙げられ、ビス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ヒドラジドが好ましい触媒脱活剤として記載され、溶融状態での解重合は抑制されているが、ビス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ヒドラジドを添加しても結晶性や透明性に優れた、汎用樹脂のような成形サイクルで加工できる樹脂組成物は得られなかった。すなわち、触媒を失活させても成形サイクルの向上には寄与しなかった。
【0014】
さらに、下記特許文献9〜11には、ポリ乳酸又は脂肪族ポリエステルに、芳香族又は脂肪族カルボン酸アミド化合物を混合することにより、結晶性、透明性及び耐熱性に優れた成形体が得られると記載されているが、実際に射出成形等を行うと、汎用樹脂並みの成形サイクルでは成形できず、実用化は困難である。
【0015】
【特許文献1】特開昭60−86156号公報
【特許文献2】特開平5−70696号公報
【特許文献3】特表平5−504731号公報(国際公開第90/001521号パンフレット)
【特許文献4】米国特許第5180765号明細書
【特許文献5】特表平6−504799号公報
【特許文献6】特開平8−193165号公報
【特許文献7】特開平4−220456号公報
【特許文献8】特表平7−504939号公報
【特許文献9】特開平9−278991号公報
【特許文献10】特開平10−87975号公報
【特許文献11】特開平11−5849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、耐熱性及び衝撃強度に優れた成形品が成形性良く得られるポリ乳酸系樹脂組成物、該ポリ乳酸系樹脂組成物からなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及び該耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ポリ乳酸に、下記一般式(I)で表される二塩基酸ビス(安息香酸ヒドラジド)化合物を配合したポリ乳酸系樹脂組成物、好ましくはポリ乳酸100重量部に、下記一般式(I)で表される化合物0.01〜10重量部を配合したポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0018】
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基、エーテル結合を有するアルキレン基、シクロアルキレン基で中断されたアルキレン基を、R1、R2、R3及びR4は水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基を表すか、R1とR2及び/又はR3とR4が結合して5〜8員環を形成する。)
【0019】
また、本発明は、一般式(I)におけるRが炭素原子数4〜10のアルキレン基である上記のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0020】
また、本発明は、一般式(I)におけるR1、R2、R3及びR4が水素原子である上記のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0021】
また、本発明は、一般式(I)におけるRが炭素原子数6〜10のアルキレン基で、R1、R2、R3及びR4が水素原子である上記のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0022】
また、本発明は、含水珪酸マグネシウム(タルク)0.01〜40重量部を配合した上記のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0023】
また、本発明は、上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径が、10μm以下である上記のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0024】
また、本発明は、上記のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0025】
また、本発明は、上記のポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、溶融した該ポリ乳酸系樹脂組成物を、走査型示差熱量計(DSC)における結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の範囲に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ポリ乳酸に、結晶核剤として特定のヒドラジド化合物を配合することにより、結晶化速度が速いポリ乳酸系樹脂組成物を提供することができ、該ポリ乳酸系樹脂組成物からは、優れた曲げ強度及び衝撃強度を有する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品を成形性良く得ることができる。また、本発明によれば、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を金型内にて結晶化させる、耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の簡便で生産効率の高い製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物について、以下に詳述する。
【0028】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において用いられる上記ポリ乳酸(乳酸系ポリマー)としては、例えば、ポリ乳酸ホモポリマー、ポリ乳酸コポリマー、ポリ乳酸ホモポリマーとポリ乳酸コポリマーとのブレンドポリマーが挙げられる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の特徴である結晶性を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸を主体とするブレンドポリマーであっても良い。
【0029】
上記ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析によるポリスチレン換算値で、通常5万〜50万、好ましくは10万〜25万である。重量平均分子量が5万未満では、実用上必要な物性が得られにくく、一方、重量平均分子量が50万を超えると、成形性が悪くなり易い。
【0030】
上記ポリ乳酸におけるL−乳酸単位及びD−乳酸単位の構成モル比(L/D)は、特に制限されるものではなく、100/0〜0/100の範囲から選択することができるが、高い融点を有するポリ乳酸系樹脂組成物を得るには、L−乳酸単位及びD−乳酸単位のいずれかを75モル%以上、更に高い融点を有するポリ乳酸系樹脂組成物を得るには、L−乳酸単位及びD−乳酸単位のいずれかを90モル%以上含むことが好ましい。
【0031】
また、上記ポリ乳酸コポリマーは、乳酸モノマー又はラクチドと、共重合可能な他の成分とが共重合されたものである。他の成分としては、エステル結合形成性の官能基を2個以上持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれらを構成成分としてなる各種のポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0032】
上記ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0033】
上記多価アルコールとしては、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加反応させたもの等の芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等の脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテルグリコール等が挙げられる。
【0034】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、特開平6−184417号公報に記載されているヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0035】
上記ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、ε−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0036】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に用いられる上記ポリ乳酸は、合成方法に特に制限はなく、従来公知の方法で合成することができ、例えば、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集第44巻、3198−3199頁等に記載されている乳酸モノマーからの直接脱水縮合、又は乳酸環状二量体ラクチドの開環重合によって合成することができる。
【0037】
直接脱水縮合を行う場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、及びこれらの混合物のいずれの乳酸を用いても良い。また、開環重合を行う場合は、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、meso−ラクチド、及びこれらの混合物のいずれかのラクチドを用いても良い。
【0038】
開環重合に用いるラクチドの合成、精製及び重合操作は、例えば、米国特許第4057537号明細書、欧州特許出願公開第261572号明細書、Polymer Bulletin,14,491−495(1985)、及びMacromol.Chem.、187、1611−1628(1986)等に記載されている。
【0039】
上記ポリ乳酸を得る際の重合反応に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、公知の乳酸重合用の触媒を用いることができる。該触媒としては、例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等のスズ系化合物、粉末スズ、酸化スズ、亜鉛末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物、酸化ビスマス(III)等のビスマス系化合物、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム系化合物等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、スズ又はスズ化合物からなる触媒が活性の点から特に好ましい。上記触媒の使用量は、例えば、開環重合を行う場合、ラクチドに対して0.001〜5重量%程度である。
【0041】
重合反応は、上記触媒の存在下で、触媒の種類によって異なるが、通常100〜220℃で行うことができる。また、例えば特開平7−247345号公報に記載されている2段階重合を行うことも好ましい。
【0042】
また、上記のポリ乳酸を主体としたブレンドポリマーは、例えば、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又はポリ乳酸コポリマーと、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)とを混合、溶融して得られた混合物である。上記脂肪族ポリエステルをブレンドすると、成形品に柔軟性及び耐衝撃性を付与することができるため好ましい。上記ブレンドポリマーにおける混合割合は、通常、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又はポリ乳酸コポリマー100重量部に対して、上記脂肪族ポリエステル10〜100重量部程度である。
【0043】
上記脂肪族ポリエステルは、1種のポリマーでも良く、又は2種以上のポリマーの複合でも良い。該ポリマーとしては、例えば、脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとからなるポリマーや、ε−カプロラクトン等の環状無水物を開環重合して得られた脂肪族ヒドロキシカルボン酸ポリマー等が挙げられる。これらのポリマーを得る方法としては、直接重合して高分子量物を得る直接重合法、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤等で高分子量物を得る間接重合法等が挙げられる。また、上記脂肪族ポリエステルは、上記脂肪族モノマー成分を主として構成されるポリマーであれば、共重合体であってもよく、あるいは他の樹脂との混合物であってもよい。
【0044】
上記脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリマーであることが好ましい。該脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、及びこれらの無水物や誘導体が挙げられ、該脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が挙げられる。上記脂肪族ジカルボン酸及び上記脂肪族ジオールは、いずれも、好ましくは炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基を持つモノマーである。これらの脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールそれぞれの中から選択されたモノマー成分の重縮合により、上記脂肪族ポリエステルが製造されるのが好ましい。上記脂肪族ジカルボン酸及び上記脂肪族ジオールのいずれも、2種以上を用いても構わない。
【0045】
また、溶融粘度の向上のために脂肪族ポリエステルとして用いる上記ポリマー中に分岐を設ける目的で、上記ポリマーを構成するモノマー成分として、3官能以上の多官能のカルボン酸、アルコールあるいはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。これらの多官能のモノマー成分は、多量に用いると得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性ではなくなる場合や熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造をもったミクロゲルを生じる場合がある。従って、これらの多官能のモノマー成分は、ポリマー中に含まれる割合が極僅かで、ポリマーの熱可塑性を損なったり、衝撃強度の極端な低下を招かない程度、化学的性質大きく左右しない程度で用いられる。多官能のモノマー成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、あるいはペンタエリスリット、トリメチロールプロパン等を用いることができる。
【0046】
上記脂肪族ポリエステルとして用いられるポリマーの製造方法のうち、上記直接重合法は、モノマー成分を選択し、該モノマー成分中に含まれる或いは重合中に発生する水分を除去しながら、高分子量物を得る方法である。また、上記間接重合法は、モノマー成分を選択し、オリゴマー程度に重合した後、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する方法である。これらの方法の他に、カーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得る方法等を用いてもよい。
【0047】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記ポリ乳酸は、衝撃強度の改善等のために、必要に応じて、ポリ乳酸以外の汎用の樹脂とブレンドしてもよい。汎用の樹脂としては、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等の弾性を有する樹脂が好ましい。
【0048】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、上述したポリ乳酸に、結晶核剤として、上記一般式(I)で表される化合物が配合される。上記一般式(I)で表される化合物は、二塩基酸とヒドラジンと芳香族酸の反応物の構造を有する化合物である。
【0049】
上記一般式(I)におけるRで表される炭素原子数1〜12のアルキレン基としてはメチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、2,2−ジメチルトリプロピレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デカメチレン、ドデカメチレンなどが挙げられる。シクロアルキレン基としては、1,4−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,2−シクロヘキシレン、1,1−シクロへキシリデンなどが挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。シクロアルキレン基で中断されたアルキレン基としては、メチルシクロヘキシルメチルなどが挙げられる。Rが炭素原子数4〜10のアルキレン基である化合物は、得られるポリ乳酸の結晶化熱量が大きく、結晶化温度が高いので好ましく、Rが炭素原子数6〜10のアルキレン基である化合物が特に好ましい。
【0050】
上記一般式(I)におけるR1、R2、R3及びR4で表される炭素原子数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。得られるポリ乳酸組成物の結晶化熱量が大きく、結晶化温度が高いのでR1、R2、R3及びR4は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0051】
上記一般式(I)におけるR1、R2、R3及びR4で表されるアリール基としては、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチルなどが挙げられる。アリールアルキル基としては、ベンジル、フェニルエチルなどが挙げられる。アルキルアリール基としては、メチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル、第三ブチルフェニルなどが挙げられる。
【0052】
上記一般式(I)におけるR1、R2、R3及びR4で表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
【0053】
上記式中(I)におけるR1とR2及び/又はR3とR4が結合して環構造を形成する場合、例えば、R1とR2またはR3とR4が結合しているベンゼン環と一緒になってナフタレン環などを形成する。
【0054】
上記一般式(I)で表される化合物としては、より具体的には、以下の化合物No.1〜12等が挙げられる。ただし、本発明は以下の化合物により何等制限されるものではない。
【0055】
【化2】

化合物No.1
【0056】
【化3】

化合物No.2
【0057】
【化4】

化合物No.3
【0058】
【化5】

化合物No.4
【0059】
【化6】

化合物No.5
【0060】
【化7】

化合物No.6
【0061】
【化8】

化合物No.7
【0062】
【化9】

化合物No.8
【0063】
【化10】

化合物No.9
【0064】
【化11】

化合物No.10
【0065】
【化12】

化合物No.11
【0066】
【化13】

化合物No.12
【0067】
上記化合物の合成方法は特に限定されず、ヒドラジン1モルと安息香酸クロライドなどの芳香族カルボン酸ハライド1モルを反応し、アジピン酸ジフェニルなどの二塩基酸フェニルエステルと脱フェノール反応するなどの方法により合成できる。
【0068】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記一般式(I)で表される化合物は、上記ポリ乳酸100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部配合される。0.01重量部より少ないと添加効果が不十分であり、10重量部より多いとポリ乳酸系樹脂組成物の表面に噴出する等の現象が発生するようになる。
【0069】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、さらに含水珪酸マグネシウム(タルク)を配合することが好ましい。該含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。平均粒子径が10μmを超える含水珪酸マグネシウム(タルク)を用いて
も効果はあるが、10μm以下の場合は、結晶核の形成促進効果がより高く、成形品の耐熱性をより向上させることができる。
【0070】
上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の配合量は、上記ポリ乳酸100重量部に対して、0.01〜40重量部とすることが好ましく、0.01〜30重量部とすることがより好ましい。0.01重量部未満の配合量では、添加の効果があまり得られず、40重量部を超えて配合するとポリ乳酸系樹脂組成物の比重が重くなるだけでなく、耐衝撃性も低下する惧れがある。
【0071】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、金属石鹸、ワックス、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤・抗カビ剤、上記一般式(I)で表される化合物以外の結晶化促進剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0072】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4−第二ブチル−6−第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレングリコールビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5−トリス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕などがあげられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜10重量部、より好ましくは、0.05〜5重量部が用いられる。
【0073】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフィト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイトなどがあげられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜10重量部、より好ましくは、0.05〜5重量部が用いられる。
【0074】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類およびペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)等のポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類があげられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜10重量部、より好ましくは、0.05〜5重量部が用いられる。
【0075】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−s−トリアジン等のトリアリールトリアジン類があげられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜10重量部、より好ましくは、0.05〜5重量部が用いられる。
【0076】
上記光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物があげられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜10重量部、より好ましくは、0.05〜5重量部が用いられる。
【0077】
上記難燃剤としては、リン酸トリフェニル、フェノール・レゾルシノール・オキシ塩化リン縮合物、フェノール・ビスフェノールA・オキシ塩化リン縮合物、2,6−キシレノール・レゾルシノール・オキシ塩化リン縮合物などのリン酸エステル;アニリン・オキシ塩化リン縮合物、フェノール・キシリレンジアミン・オキシ塩化リン縮合物などのリン酸アミド;ホスファゼン;デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールAなどのハロゲン系難燃剤;水酸化アルミ、水酸化マグネシウムなどの無機難燃剤;メラミンシアヌレートなどの窒素系難燃剤;リン酸メラミン、リン酸ピペラジン、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジンなどの含窒素有機化合物のリン酸塩;赤燐および表面処理やマイクロカプセル化された赤燐;酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛などの難燃助剤;ポリテトラフルオロエチレン、シリコン樹脂などのドリップ防止剤などが挙げられ、樹脂100重量部に対して、0.001〜30重量部、より好ましくは、0.05〜20重量部が用いられる。
【0078】
上記一般式(I)で表される化合物以外の結晶化促進剤としては、乳酸オリゴマーなどの脂肪族ポリエステルオリゴマー、芳香族リン酸エステルの金属塩やアンモニウム塩など公知の化合物を用いてもよい。
【0079】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記ポリ乳酸に、上記一般式(I)で表される化合物、上記含水珪酸マグネシウム(タルク)等の添加剤を配合する方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、ポリ乳酸粉末あるいはペレットと添加剤とをドライブレンドで混合してもよく、添加剤の一部をプリブレンドした後、残りの成分とドライブレンドしてもよい。ドライブレンドの後に、例えば、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を用いて混合し、単軸あるいは二軸押出機等を用いて混練してもよい。この混合混練は、通常150〜300℃程度の温度で行われる。また、ポリ乳酸の重合段階で、添加剤を添加する方法、添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを作製し、該マスターバッチをポリ乳酸に添加する方法等を用いることもできる。
【0080】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、主として、一般のプラスチックと同様に、各種成形品の成形材料として用いられる。
【0081】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及びその好ましい製造方法である本発明の製造方法について、以下に説明する。
【0082】
ポリ乳酸系樹脂組成物を結晶化させる方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂組成物で成形品を形成した後、ポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度で該成形品をアニール処理する方法が挙げられるが、この方法においては、アニール処理における結晶化過程で成形品が変形しやすいという欠点がある。この欠点を解消するため、本発明の製造方法においては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形するときに、成形機の金型を、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度に設定し、一定時間保持する。
【0083】
本発明の製造方法においては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、該ポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度、即ちDSCにおける結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の温度範囲に設定された成形機の金型に、溶融した上記ポリ乳酸系樹脂組成物を充填し、一定時間保持することにより、結晶化させながら成形する。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、上述したように、結晶核剤として上記一般式(I)で表される化合物を含んでいるので、本発明の製造方法によれば、金型内にて結晶化が完了し、耐熱性及び力学特性に優れたポリ乳酸系樹脂成形品を得ることができる。
【0084】
適切な金型温度は、成形に用いられる本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に含まれるポリ乳酸や添加剤の種類等により異なるので、予めDSC法によりポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化温度(結晶化ピーク温度、結晶化開始温度、ガラス転移温度)を測定し、結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の温度範囲から選択する。この温度範囲であれば、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は容易に結晶化し、さらには寸法精度のよい成形品を得ることができる。上記温度範囲を外れると、結晶化が遅くなり、成形時の固化時間も長くなるため、実用上適さない。尚、上記結晶化温度は、例えば、DSCにより、ペレットサンプル5mgを50℃/分で室温から210℃まで昇温し、5分間保持した後、20℃/分の降温速度で測定することができる。
【0085】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形するに際しては、一般のプラスチックと同様の押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の成形を行うことができ、シート、棒、ビン、容器等の各種成形品を容易に得ることができる。
【0086】
本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品は、優れた耐熱性を有する。耐熱性の指標としては、例えば、JIS K 7207A法における低荷重たわみ温度を用いることができる。低荷重たわみ温度とは、加熱浴槽中の試験片に0.45MPaの曲げ応力を加えながら、一定速度で伝熱媒体を昇温させ、試験片が規定のたわみ量に達した時の伝熱媒体の温度をいう。本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の低荷重たわみ温度は、該成形品の用途に応じて結晶核剤の添加量等によって適宜調整することができ、例えば、家電用品の比較的高温に晒されないような部品として用いる場合においても、実用上80℃以上とすることが好ましく、90℃以上とすることがさらに好ましく、100℃以上とすることが最も好ましい。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって制限されるものではない。
【0088】
[化合物No.3の合成]
安息香酸ヒドラジド27.2g(0.2モル)とオクタンジオイックアシッドジフェニル32.4g(0.1モル)とピリジン14.2g(0.2モル)をジオキサン50mlに溶解し、100℃で12時間反応させた後、室温でメタノール500mlを加え、析出した白色固体をろ取した。収率30%、DSC(窒素ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分)による融点225℃であった。得られた化合物の赤外吸収スペクトルは、3220cm−1、1600cm−1、1470cm−1にピークを示した。
【0089】
[化合物No.4およびNo.5の合成]
オクタンジオイックアシッドジフェニル32.4gをデカンジオイックアシッドジフェニル35.4gまたはドデカンジオイックアシッドジフェニル38.3gに変えた以外は、化合物No.3の合成と同様にして化合物No.4(収率31%、融点208℃)および化合物No.5(収率33%、融点185℃)を得た。得られた化合物は化合物No.3と同様の赤外吸収スペクトルを示した。
【0090】
[実施例1〜4及び比較例1〜3]
表1に示す配合成分をドライブレンドし、210℃の二軸混練押出機にて平均4分間溶融混合し、口金よりストランド状に押出し、水冷後、切断し、結晶核剤を含むポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
得られたペレットについて、結晶化開始温度(ピーク立ち上がり時の接線の交点)、結晶化ピーク温度、結晶化熱量、及びガラス転移温度を測定した。これらの測定は、DSC(パーキンエルマー社製、Diamond DSC)により、ペレットサンプル5mgを50℃/分で室温から210℃まで昇温し、5分間保持した後、20℃/分の降温速度で測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0092】
次いで、得られたペレットを80℃で真空乾燥して、絶乾状態にした後、金型温度を110℃、冷却時間を60秒に保ち、射出成形により、JIS K 7110(1号A試験片)の作製における離型時に、離型性及び変形の評価を行った。評価においては、試験片作製の離型時における金型への付着の有無及び程度並びに変形の有無及び程度を目視により確認した。評価基準は、金型付着がなく、変形のないものを◎、金型へやや貼りつき気味で、変形のないものを○、金型へ貼りつき気味で、明らかに変形しているものを△、金型へ貼りつき離型が困難で、大きく変形しているものを×とした。これらの評価結果を表1に示す。
【0093】
尚、表1における配合成分は、それぞれ以下の通りである。
ポリ乳酸:トヨタ自動車(株)製、商品名「#5400」、重量平均分子量160,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析によるポリスチレン換算値)
タルク:日本タルク(株)製、微粉末タルク、商品名「ミクロエースP−6」
比較化合物1:ビス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸〕ヒドラジド
比較化合物2:日本化成(株)製、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、商品名「スリパックスH」
【0094】
【表1】

【0095】
表1から明らかなように、結晶化促進剤を添加しなかった場合(比較例1)と比較して特定のヒドラジド化合物が配合された本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶化ピーク温度が120℃以上と高く、結晶化熱量も40J/g以上と大きく、結晶化速度が速い事が示唆される。また、実際に射出成形を行った所、成形性に優れ、離型時の変形もなかった(実施例1〜4)。これに対し、従来の触媒脱活剤であるヒドラジド化合物が配合されたポリ乳酸系樹脂組成物や公知のアミド化合物が配合されたポリ乳酸系樹脂組成物は、比較例1よりは優れるものの結晶化熱量が40J/g未満で、成形性が悪かった(比較例2および3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸に、下記一般式(I)で表される二塩基酸ビス(安息香酸ヒドラジド)化合物を配合したポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基、エーテル結合を有するアルキレン基、シクロアルキレン基で中断されたアルキレン基を、R1、R2、R3及びR4は水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基を表すか、R1とR2及び/又はR3とR4が結合して5〜8員環を形成する。)
【請求項2】
ポリ乳酸100重量部に、一般式(I)で表される二塩基酸ビス(安息香酸ヒドラジド)化合物0.01〜10重量部を配合した請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(I)におけるRが炭素原子数4〜10のアルキレン基である請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(I)におけるR1、R2、R3及びR4が水素原子である請求項1、2又は3記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
一般式(I)におけるRが炭素原子数6〜10のアルキレン基で、R1、R2、R3及びR4が水素原子である請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
含水珪酸マグネシウム(タルク)0.01〜40重量部を配合した請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径が、10μm以下である請求項6記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなるポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、溶融した該ポリ乳酸系樹脂組成物を、走査型示差熱量計(DSC)における結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の範囲に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法。

【公開番号】特開2007−332164(P2007−332164A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256508(P2004−256508)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】