説明

ポンプ部材の組付け方法およびピストンポンプ構造

【課題】基体にピストンポンプが組み付けられた状態でモータを組み付けることができるポンプ部材の組付け方法およびピストンポンプ構造を提供する。
【解決手段】治具500を液溜め部117のスペースを利用して軸受穴116に挿入して、軸受穴6内に突出する一対のピストンポンプ120,120のプランジャ123,123をそれぞれが離間する方向に押し広げるプランジャ押広げ工程と、プランジャ123,123が押し広げられた状態で偏心カム211の側面が各プランジャ123の先端面に当接する位置までモータ200を移動させた後に、治具500を軸受穴116から抜き出し、偏心カム211を軸受穴116に挿入するモータ挿入工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体に、モータ等のポンプ部材を組み付けるポンプ部材の組付け方法およびピストンポンプ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機(モータ)によりピストンを駆動するピストンポンプとして、例えば特許文献1に示すようなものがあった。特許文献1に示すピストンポンプは、モータの出力軸に設けられた偏心カムに対してばね付勢されたピストン(プランジャ)を備えており、偏心カムが回転することで、ピストンが往復移動するようになっている。
【0003】
このような構成のピストンポンプでは、ばね付勢によってピストンがモータの軸受穴内に突出するように構成されているため、ピストンポンプとモータとを、ブレーキ制御装置の基体等に組み付けるには、ピストンが軸受穴内に突出する前に偏心カムを軸受穴に挿入する工程をとるために、モータを組み付けた後にピストンポンプを組み付けることになる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−307688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ブレーキ制御装置の製品のメンテナンスの際や、モータのリサイクル等によって、モータの交換が必要となることがあるが、前記した従来のようなポンプ部材の組付け方法では、モータを取り外した場合には、ピストンが軸受穴内に突出するので、その状態でモータを組み付けようとすると、偏心カムを軸受穴に挿入するときにピストンと干渉することとなり、基体へのモータの再度の組付けが非常に困難であるといった問題があった。また、ピストンポンプは基体にかしめ固定されているので、ピストンポンプを一旦取り外してからモータを再度取り付けることも非常に困難である。
【0006】
そのため、ブレーキ制御装置の製品のメンテナンスの際にモータを交換する必要性が生じた場合や、モータをリサイクル等によって新しいモータに交換する場合には、モータを基体ごと交換しなければならなかった。
【0007】
このような観点から、本発明は、基体にピストンポンプが組み付けられた状態でモータを組み付けることができるポンプ部材の組付け方法およびピストンポンプ構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する請求項1に係る発明は、偏心カムが設けられたモータの出力軸が挿入される軸受穴と、この軸受穴の側面両側に互いに対向するように開口して形成され一対のピストンポンプがそれぞれ挿入される一対のポンプ穴と、前記軸受穴に設けられ前記ポンプ穴からかき出された前記ピストンポンプの作動液を貯溜する液溜め部とを備え、前記ピストンポンプのプランジャが前記軸受穴内にばね付勢により弾性的に突出するように前記一対のピストンポンプが前記一対のポンプ穴にそれぞれ組み付けられた基体に、前記モータを組み付けるポンプ部材の組付け方法であって、治具を前記液溜め部のスペースを利用して前記軸受穴に挿入して、前記軸受穴内に突出する前記一対のピストンポンプの前記プランジャをそれぞれが離間する方向に押し広げるプランジャ押広げ工程と、前記プランジャが押し広げられた状態で前記偏心カムの側面が前記各プランジャの先端面に当接する位置まで前記モータを移動させた後に、前記治具を前記軸受穴から抜き出し、前記偏心カムを前記軸受穴に挿入するモータ挿入工程と、を備えたことを特徴とするポンプ部材の組付け方法である。
【0009】
前記のような方法によれば、治具を用いてプランジャを押し広げた状態で偏心カムの側面がプランジャの先端面に当接する位置までモータを移動させるようにしているので、ピストンポンプが組み付けられた状態であっても、モータを容易に組み付けることができる。すなわち、製品のメンテナンスの際や、モータのリサイクル等によってモータ交換が必要となった場合にモータを取り外しても、基体へのモータの再度の組付けを行うことができるので、モータのみを交換することができ、基体およびピストンポンプを基体ごと交換する必要がなくなる。また、ピストンポンプが組み付けられた状態でモータを組み付けることができるので、ピストンポンプを組み付けた後にモータを組み付けることもでき、ピストンポンプの組付け時には被組付け部材は基体のみとすることができるので、作業効率を大きく向上させることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記治具は、先端部が拡幅するアームを備えており、前記軸受穴内で前記アームを拡幅することで、前記一対のピストンポンプの前記プランジャをそれぞれが離間する方向に押し広げることを特徴とする請求項1に記載のポンプ部材の組付け方法である。
【0011】
前記のような方法によれば、液溜め部のスペースに挿入可能な治具を用いて、容易な作業でプランジャを押し広げることができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、前記液溜め部が、前記軸受穴の径方向に沿って延出してその先端部は略円弧形状に形成されており、前記治具は、前記円弧形状部分より前記液溜め部および前記軸受穴に挿入されて前記プランジャを押し広げることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポンプ部材の組付け方法である。
【0013】
前記のような方法によれば、液溜め部に治具を出し入れしやすく、簡単な構成で容易にピストンポンプのプランジャを押し広げることができるので、作業効率をさらに向上させることができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明は、偏心カムが設けられたモータの出力軸が挿入される軸受穴と、この軸受穴の側面両側に互いに対向するように開口して形成された一対のポンプ穴と、前記軸受穴に設けられ前記ポンプ穴からかき出された前記ピストンポンプの作動液を貯溜する液溜め部とを備えた基体と、プランジャが前記軸受穴内にばね付勢により弾性的に突出するように前記一対のポンプ穴にそれぞれ組み付けられた前記一対のピストンポンプと、前記軸受穴に組み付けられたモータと、を備えて構成されるピストンポンプ構造であって、前記液溜め部は、前記軸受穴に挿入されて前記プランジャを押し広げる治具が通過するように先端部が略円弧形状に形成されたことを特徴とするピストンポンプ構造である。
【0015】
前記のような構成によれば、治具を用いてプランジャを押し広げた状態で偏心カムの側面がプランジャの先端面に当接する位置までモータを移動させることができるので、ピストンポンプが基体に組み付けられた状態であっても、モータを容易に組み付けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポンプ部材の組付け方法によると、基体にピストンポンプが組み付けられた状態であってもモータを容易に組み付けることができ、基体およびピストンポンプを基体ごと交換する必要がなくなるとともに、作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の各実施形態においては、本発明におけるピストンポンプ構造を備え、アンチロック制御やトラクション制御などを行うことが可能な四輪車両用のブレーキ制御装置を例示するが、本発明に係るポンプ部材の組付け方法を適用するブレーキ制御装置をこれに限定する趣旨ではない。
【0018】
図1に示すように、車両用のブレーキ制御装置Uは、基体(ポンプボディ)100と、基体100の後面102(図2参照)に組み付けられる電動のモータ200と、基体100の前面101に組み付けられるコントロールハウジング300と、コントロールハウジング300に収容される電子制御ユニット400とを備えて構成されている。
【0019】
基体100は、略直方体を呈するアルミニウム合金製の押出材または鋳造品からなり、その内部には流体であるブレーキ液の流路(油路)が形成されている。また、基体100の各面には、図示せぬマスタシリンダからの管材が接続される入口ポート110,110や図示せぬ車輪ブレーキに至る管材が接続される四つの出口ポート111,111,…のほか、電磁弁V,V,…や圧力センサSといった電子機器が装着される穴(孔)112,112,…や、ピストンポンプ120が装着されるポンプ穴113(片側のみ図示)や、リザーバ130が装着される穴(孔)114,114が形成されている。なお、各穴同士は、直接に、あるいは基体100の内部に形成された図示せぬ流路を介して互いに連通している。
【0020】
モータ200は、ピストンポンプ120の動力源となるものであり、基体100の後面102側に一体的に固着される。モータ200の出力軸210には、偏心軸部211aが設けられていて、この偏心軸部211aには、ボールベアリング211bが嵌め込まれている。これら偏心軸部211aとボールベアリング211bで、偏心カム211が構成されている。また、出力軸210の上方には、図示せぬロータに電力を供給するためのモータバスバー220が突設されている。モータバスバー220は、基体100の上部に形成された貫通孔115に挿入され、その先端部分がコントロールハウジング300の内部に設けられた接続端子331(図4参照)に接続される。
【0021】
コントロールハウジング300は、基体100の前面101に一体的に固着されるものである。コントロールハウジング300の内部には、図示は省略するが、電磁弁Vを駆動させるための電磁コイルや、モータバスバー220の接続端子などが設けられている。
【0022】
電子制御ユニット400は、電子回路がプリントされた基板に半導体チップ等が搭載されてなるものであり、圧力センサSや図示せぬ車輪速度センサといった各種センサから得られた情報や予め記憶させておいたプログラム等に基づいて、電磁弁Vの開閉やモータ200の作動を制御する。
【0023】
図2及び図3に示すように、ポンプ穴113は、ピストンポンプ120(図3参照)が装着される段付き円筒状の穴であり、基体100の側面103から軸受穴116に貫通するように形成されている。ポンプ穴113は、軸受穴116の側方両側に一対に形成されており、軸受穴116の側面両側に互いに対向するように開口して形成されている。ポンプ穴113は、その中心線が軸受穴116の中心を通るように形成されている。
【0024】
図3に示すように、ピストンポンプ120は、シリンダ121と、プランジャ122と、戻しばね123と、シールストッパー124と、吸入弁手段125と、キャップ126と、吐出弁手段127と、吐出側フィルタ(図示せず)とを備えて構成されている。
【0025】
シリンダ121は、内周面が円筒面状に成形された有底円筒状の金属製部材からなり、吸入弁手段125を収容する吸入弁室S1を形成する。シリンダ121には、ポンプ穴113と隙間をあけて対向する小径部121aと、ポンプ穴113に圧入(嵌入)される圧入部121bと、この圧入部121bよりも大径でポンプ穴113の段差部分に係止される係止部121cと、この係止部121cよりも小径でキャップ126の大径凹部126aに嵌め込まれる底部121d(以下、「シリンダ底部121d」という。)と、を備えて構成されている。なお、シリンダ底部121dの中央部には、吸入弁室S1に吸入したブレーキ液をキャップ126側に吐出させるための吐出路121eとなる貫通孔が形成されている。また、シリンダ121の下端部(小径部121aの先端部)の外周面には、後記するシールストッパー124を保持するための係止凹部121fが形成されている。
【0026】
プランジャ122は、モータ200の偏心軸部211a(図1参照)の回転運動に伴ってシリンダ121の内空部を往復運動するものであり、偏心軸部211a(図1参照)に装着されたボールベアリング211bに当接する接触部122aと、ブレーキ液の吸入口となる吸入部122bと、シリンダ121の内空部を摺動しつつ往復する摺動部122cと、後記する吸入弁手段125の弁座となる弁座部122dと、を備えている。また、プランジャ122の内部には、吸入路122eが形成されている。吸入路122eは、吸入部122bの周囲に形成された環状空間S2と吸入弁室S1とを連通するものであり、吸入部122bの外周面(プランジャ122の外周面)と弁座部122dの端面(プランジャ122の上端面)とに開口している。
【0027】
接触部122aは、ポンプ穴113に遊挿されており、かつ、その先端部がモータ200の軸受穴116に突出している。なお、接触部122aには、ポンプ穴113に当接する環状のシール部材122hとブッシュ122fとが摺動自在に装着されている。吸入部122bは、接触部122aと摺動部122cとの間に形成されていて、かつ、その少なくとも一部がシリンダ121の開口部から突出している。摺動部122cは、シリンダ121の小径部121aの内空部を摺動する部位であり、摺動部122cの外径は、これに隣接する吸入部122bおよび弁座部122dの外径よりも大きく、かつ、シリンダ121の小径部121aの内径よりも僅かに小さくなっている。弁座部122dは、摺動部122cよりも吸入弁室S1側に形成されており、その周囲には、環状のシールリング122gが環装されている。シールリング122gは、シリンダ121の内周部を摺動しながら吸入弁室S1内を液密にシールしている。
【0028】
戻しばね123は、吸入弁室S1に圧縮状態で配置され、その復元力によりプランジャ122を軸受穴116側に押圧する。本実施形態に係る戻しばね123は、シリンダ121のシリンダ底部121dとプランジャ122に環装されたシールリング122gとの間に配置されており、シールリング122gを介してプランジャ122を押圧している。
【0029】
シールストッパー124は、シール部材122hの抜け出しを防止するための枠状の部材であり、プランジャ122の吸入部122bを囲繞するように配置される枠体124aと、この枠体124aからシリンダ121側に向かって延出する係止片124bとを備えており、この係止片124bをシリンダ121の係止凹部121fに係止することで、シリンダ121に保持されている。
【0030】
吸入弁手段125は、吸入路122eを開閉するものであり、吸入弁室S1に収容されている。より詳細には、吸入弁手段125は、吸入路122eの開口部を塞ぐように配置された球状の吸入弁体125aと、この吸入弁体125aを覆うように配置されたリテーナ125bと、吸入弁体125aとリテーナ125bとの間に圧縮状態で配置された吸入弁ばね125cとを備えて構成されている。吸入弁体125aは、吸入弁ばね125cの復元力によって、プランジャ122側に付勢されている。なお、リテーナ125bは、その下端部がプランジャ122の弁座部122dに外嵌されており、かつ、戻しばね123の復元力によってシールリング122gに押え付けられている。
【0031】
キャップ126は、シリンダ121のシリンダ底部121dを外側から覆設するものであり、シリンダ121とは別体の有底円筒状の金属製部材からなる。キャップ126の内側には、シリンダ底部121dが圧入される大径凹部126aと、この大径凹部126aよりも小径の小径凹部126bとが形成されている。小径凹部126bは、シリンダ底部121dとともに、吐出弁手段127および吐出側フィルタ128を収容する吐出弁室S3を形成する。
【0032】
キャップ126の外周面には、その周方向に沿って、環状の係止溝126cが凹設されている。係止溝126cには、ポンプ穴113の穴壁に形成される塑性変形部113aが入り込む。本実施形態においては、係止溝126cの上側に隣接する上蓋部126eの外径が、係止溝126cの下側に隣接する下蓋部126dの外径よりも小さくなっている。下蓋部126dは、ポンプ穴113の入口部分の段差部より内側の内径と略同一であり、その部分に挿入される。上蓋部126eは、ポンプ穴113の入口部分の段差部の底面から突出しており、かつ、突出部分の周縁部126fが面取りされている。
【0033】
なお、キャップ126のうち、下蓋部126dのプランジャ122側に位置する流路構成部126gの外径は、下蓋部126dの外径よりも小さくなっていて、流路構成部126gの外周面とポンプ穴113とにより、流路113bと連通する環状空間S4が形成される。流路113bは、電磁弁V,V,…や圧力センサSといった電子機器が装着される穴(孔)に繋がる。なお、流路構成部126gには、吐出弁室S3と環状空間S4とを連通する出口孔126hが形成されている。出口孔126hは、プランジャ122の往復動に伴う脈動を緩和するオリフィスとして機能する。
【0034】
吐出弁手段127は、シリンダ121のシリンダ底部121dに形成された吐出路121eを開閉するものであり、吐出弁室S3に収容されている。より詳細に、吐出弁手段127は、シリンダ121の吐出路121eを塞ぐように配置された球状の吐出弁体127aと、吐出弁室S3に圧縮状態で配置された吐出弁ばね127bとを備えて構成されている。吐出弁体127aは、吐出弁ばね127bの復元力によって、吐出路121e側に付勢されている。
【0035】
吐出側フィルタ128は、吐出路121eから吐出されたブレーキ液を濾過するものであり、吐出弁室S3内において吐出弁手段127を取り囲むように配置されていて、かつ、その少なくとも一部が軸方向に圧縮された状態で、シリンダ121とキャップ126とに挟持されている。より詳細に、吐出側フィルタ128は、吐出路121eから吐出されたブレーキ液を濾過するフィルタ本体(図示せず)と、このフィルタ本体を保持する保持部材とを備えて構成されている。
【0036】
以上のような構成のピストンポンプ120によれば、図5の二点鎖線にて示すように、プランジャ122が戻しばね123のばね付勢により軸受穴116内に弾性的に突出することとなる。
【0037】
図4に示すように、モータ200は、基体100の後面102に形成された軸受穴116(図2参照)に出力軸210が挿入されて装着される。モータ200は、外殻を構成するヨーク201のフランジ部202に形成されたボルト用孔203を備えている。このボルト用孔203と、基体100の後面102に形成されたボルト穴118(図2参照)とにボルト119を挿通させることで、モータ200が基体100に固定される。
【0038】
図5に示すように、軸受穴116は、前面101側が縮径する段付き円筒状の穴であり、基体100の後面102から前面101方向に向かって有底状に形成されている。軸受穴116は、後面102から、出力軸210を軸支するボールベアリング213を覆う蓋部材214の立上り部214aを収容する第一収容部116aと、偏心カム211を構成する偏心軸部211aおよびこれに嵌め込まれるボールベアリング211bを収容する第二収容部116bと、偏心軸部211aの先端側で縮径された縮径軸部210aを軸支するボールベアリング215を収容する第三収容部116cと、縮径軸部210aの先端部を収容する第四収容部116dとが形成されている。第一収容部116aは、軸受穴116の中で最大径を有している。第二収容部116bは、第一収容部116aの次に大きい径であって、偏心回転するボールベアリング211bの外周軌道よりも僅かに大きい径を有している。この第二収容部116bの側面に、後期するポンプ穴113の一端が貫通して開口している。第三収容部116cは、第二収容部116bの次に大きい径であって、第三収容部116cには、軸受穴116の先端部を軸支するボールベアリング215が同軸で固定されている。第四収容部116dは、最小径を有しており、所定のクリアランスをあけて縮径軸部210aの先端部を収容する。
【0039】
図2および図4に示すように、軸受穴116の重力方向下側には、ポンプ穴113から微量にかき出されたピストンポンプ120の作動液を貯溜する液溜め部117が設けられている。液溜め部117は、ピストンポンプ120がポンプ穴113内を摺動することでポンプ穴113からかき出されて漏れる作動液を、モータ200内に浸入しないように貯溜する空間である。液溜め部117は、後方から見て、軸受穴116の径方向に沿って下側に延出しており、その先端部は軸受穴に挿入されて前記プランジャを押し広げる治具が通過するように略円弧形状に形成されている。詳しくは、液溜め部117の下端部の円弧形状部分117aは、断面略半円形状に形成されている。液溜め部117は、基体100の後面102に開口して、第一収容部116aおよび第二収容部116bに達する深さを備えており、第一収容部116aおよび第二収容部116bの下面に開口するように形成されている。液溜め部117の前端面(最深部)は、第二収容部116bの側面に開口するポンプ穴113よりも前方に位置しており、ポンプ穴113の開口部の下方に液溜め部117が配置されるようになっている。
【0040】
前記した基体100と、一対のピストンポンプ120,120と、モータ200と、を備えてピストンポンプ構造が構成されている。
【0041】
次に、前記構成の基体100のポンプ穴113にピストンポンプ120が装着された状態で、モータ200を組み付ける工程を説明する。
【0042】
なお、本実施の形態は、通常のブレーキ制御装置Uの製造工程では、基体100にモータ200を組み付けた後に、ピストンポンプ120を組み付けており、ブレーキ制御装置Uの製品のメンテナンスの際や、モータ200のリサイクル等によって、モータ200を交換する場合に、モータ200を交換する際の新たなモータ200が、ピストンポンプ120が組み付けられた状態の基体100に組み付けられることとなる。
【0043】
(プランジャ押広げ工程)
まず、ボルト119を取り外して、モータ200を基体100の後面102から取り外す。ここで、基体100の後面102の軸受穴116が開放される。
【0044】
そして、新たなモータ200を準備するとともに、図6および図7に示すように、先端部が拡幅する治具500のアーム501を液溜め部117のスペースを利用して軸受穴116に挿入して、アーム501の先端部を拡幅させて、軸受穴116内に突出する一対のピストンポンプ120のプランジャ122をそれぞれが離間する方向に押し広げる。
【0045】
治具500は、二股状に連結されたハンドル部材502,502が互いにピン結合されており、ピン503を中心に傾動可能に構成されている。ハンドル部材502,502は、ピン503よりも基端側となる把持部502aと、ピン503よりも先端側となるアーム固定部502bとをそれぞれ備えており、各ハンドル部材502,502の把持部502a,502aが互いに近接するように握ると、アーム固定部502b,502bが離反するように構成されている。
【0046】
アーム固定部502bの先端には、液溜め部117および軸受穴116に挿入されるアーム501の基端部が挿入されて固定されている。図6に示すように、アーム501の先端には、外側(他方のアーム501の逆側)に突出する押圧部501aが形成されている。この外側に突出した押圧部501aを設けたことによって、幅の狭い液溜め部117内でアーム501を開いた状態であっても、液溜め部117の幅よりも外側に位置するピストンポンプ120のプランジャ122を押圧することができる。また、図7に示すように、アーム501は、液溜め部117および軸受穴116に挿入されたときに、液溜め部117に位置する部分に基体100の前面101側に屈曲する第一屈曲部501bを備え、さらに、その先端側に、上方に屈曲する第二屈曲部501cを備えている。
【0047】
(モータ挿入工程)
次に、プランジャ122が治具500によって押し広げられたままの状態で、モータ200の偏心軸部211aに嵌め込まれたボールベアリング211bの側面(偏心カム211の側面)が、各プランジャ122,122の先端面に当接する位置まで、モータ200を移動させて、出力軸210を軸受穴116に挿入する(図7参照)。このとき、治具500のアーム501は第一屈曲部501bと第二屈曲部501cを備えているので、治具500でプランジャ122を押し広げたままで、モータ200を、その偏心カム211の側面が軸受穴116内でプランジャ122を押さえる位置まで、移動させることができる。
【0048】
その後、治具500のアーム501を液溜め部117のスペースを通過させて軸受穴116から抜き出し、偏心カム211を軸受穴116の所定の位置まで挿入する。治具500を抜き出す際には、各アーム501,501は、互いに閉じて幅を縮めておき、液溜め部117の円弧形状部分117aの下端部から抜き出す。このとき、液溜め部117には前記のように円弧形状部分117aが形成されていることによって、その下端部はスペースが広くなっているので、治具500の幅を閉じれば、液溜め部117の下端部から治具500のアーム501を非常に抜き出しやすくなる。
【0049】
治具500を液溜め部117から抜き出したなら、最後にボルト119によって、モータ200を基体100に固定する。以上でモータ200の基体100への組付け工程が終了する。
【0050】
本実施の形態によれば、簡単な構成の治具500を用いることで、基体100にピストンポンプ120が組み付けられた状態であっても、モータ200を容易に組み付けることができる。したがって、製品のメンテナンスの際や、モータ200のリサイクル等によって、モータ200の交換が必要となった場合にモータ200を取り外しても、基体100へのモータ200の再度の組付けを行うことができるので、モータ200のみを交換することができ、基体100とピストンポンプ120は交換する必要がない。したがって、作業工数を最小限に抑えることができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、通常のブレーキ制御装置Uの作業工程では、基体100にモータ200を組み付けた後に、ピストンポンプ120を組み付けるようになっているが、これに限られることはない。通常のブレーキ制御装置Uの製造工程でも、ピストンポンプ120を先に取り付けるようにしてもよい。
【0052】
この場合、前記した「プランジャ押広げ工程」および「モータ挿入工程」の前に、ピストンポンプ120のプランジャ122が軸受穴116内にばね付勢により弾性的に突出するように、一対のピストンポンプ120を基体100の一対のポンプ穴113にそれぞれ組み付ける「ピストンポンプ組付け工程」を行うようにすればよい。
【0053】
このような工程によれば、ピストンポンプ120の組付け時には被組付け部材は、モータ200が未装着の基体100のみとすることができるので、取り回しが容易となり、作業効率を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施の形態では、四輪車両用のブレーキ制御装置Uを例に挙げて説明したが、これに限られるものではなく、二輪車用のブレーキ制御装置にも適用可能であるのは勿論である。
【0055】
また、治具500の形状は、一例であって、本実施の形態の形状に限定されるものではない。例えば、本実施の形態では、アーム501に屈曲部501b,501cを形成しているが、湾曲させるようにしてもよい。また、アームの先端に膨張する袋体(図示せず)を設け、その膨張によって、プランジャ122を外側に押し出し、偏心カム211をプランジャ122間に挿入してから、袋体を収縮させて抜き出すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】車両用ブレーキ制御装置の分解斜視図である。
【図2】基体の後面を示した斜視図である。
【図3】ピストンポンプの基体への固定状態を示した断面図である。
【図4】車両用ブレーキ制御装置の断面図である。
【図5】組付け前のモータと基体を示した水平方向断面図である。
【図6】プランジャ押広げ工程の状態を示した基体の後面図である。
【図7】モータ挿入工程の状態を示した基体の鉛直方向断面図である。
【符号の説明】
【0057】
100 基体
113 ポンプ穴
116 軸受穴
117 液溜め部
117a 円弧形状部分
120 ピストンポンプ
122 プランジャ
200 モータ
210 出力軸
211 偏心カム
500 治具
501 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心カムが設けられたモータの出力軸が挿入される軸受穴と、この軸受穴の側面両側に互いに対向するように開口して形成され一対のピストンポンプがそれぞれ挿入される一対のポンプ穴と、前記軸受穴に設けられ前記ポンプ穴からかき出された前記ピストンポンプの作動液を貯溜する液溜め部とを備え、
前記ピストンポンプのプランジャが前記軸受穴内にばね付勢により弾性的に突出するように前記一対のピストンポンプが前記一対のポンプ穴にそれぞれ組み付けられた基体に、前記モータを組み付けるポンプ部材の組付け方法であって、
治具を前記液溜め部のスペースを利用して前記軸受穴に挿入して、前記軸受穴内に突出する前記一対のピストンポンプの前記プランジャをそれぞれが離間する方向に押し広げるプランジャ押広げ工程と、
前記プランジャが押し広げられた状態で前記偏心カムの側面が前記各プランジャの先端面に当接する位置まで前記モータを移動させた後に、前記治具を前記軸受穴から抜き出し、前記偏心カムを前記軸受穴に挿入するモータ挿入工程と、を備えた
ことを特徴とするポンプ部材の組付け方法。
【請求項2】
前記治具は、先端部が拡幅するアームを備えており、前記軸受穴内で前記アームを拡幅することで、前記一対のピストンポンプの前記プランジャをそれぞれが離間する方向に押し広げる
ことを特徴とする請求項1に記載のポンプ部材の組付け方法。
【請求項3】
前記液溜め部は、前記軸受穴の径方向に沿って延出してその先端部は略円弧形状に形成されており、
前記治具は、前記円弧形状部分より前記液溜め部および前記軸受穴に挿入されて前記プランジャを押し広げる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポンプ部材の組付け方法。
【請求項4】
偏心カムが設けられたモータの出力軸が挿入される軸受穴と、この軸受穴の側面両側に互いに対向するように開口して形成された一対のポンプ穴と、前記軸受穴に設けられ前記ポンプ穴からかき出された前記ピストンポンプの作動液を貯溜する液溜め部とを備えた基体と、
プランジャが前記軸受穴内にばね付勢により弾性的に突出するように前記一対のポンプ穴にそれぞれ組み付けられた前記一対のピストンポンプと、
前記軸受穴に組み付けられたモータと、を備えて構成されるピストンポンプ構造であって、
前記液溜め部は、前記軸受穴に挿入されて前記プランジャを押し広げる治具が通過するように先端部が略円弧形状に形成された
ことを特徴とするピストンポンプ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−248770(P2008−248770A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90473(P2007−90473)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】